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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C03C
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C03C
管理番号 1341325
審判番号 訂正2018-390023  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-02-05 
確定日 2018-05-17 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6033486号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第6033486号の明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-18〕について訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第6033486号(以下、「本件特許」という。)は、平成23年10月 7日(優先権主張 平成22年10月 8日、平成23年 5月12日)に出願された特願2011-222417号の一部を平成28年 7月27日に新たな出願とした特願2016-147675号の請求項1?18に係る発明について、平成28年11月 4日に特許権の設定登録がされたものであって、平成29年 9月12日に本件特許の訂正を求める審判請求(以下、「先の審判請求」という。)がされ、平成29年11月30日に訂正拒絶理由が通知され、平成30年 1月 4日に、先の審判請求が取下げられたものである。
そして、本件審判は、本件特許の訂正を求め、平成30年 2月 5日に請求されたものである。

2.請求の要旨

本件審判の請求の要旨は、本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下、まとめて「本件特許明細書」という。)を、審判請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?10(注:下線部が訂正箇所)である。

ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、Nb_(2)O_(5)成分の含有量をさらに特定し、その含有量について「Nb_(2)O_(5)成分を0.1?14.674%含有し」に訂正する。

イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1について、SiO_(2)成分の含有量をさらに特定し、その含有量について「SiO_(2)成分の含有量が13.0%以下であり」に訂正する。

ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1について、屈折率(n_(d))及びアッベ数(ν_(d))をさらに特定し、その数値範囲について「1.80以上1.95以下の屈折率(n_(d))を有し、30以上45以下のアッベ数(ν_(d))を有し」に訂正する。

エ.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1について、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長λ_(70)(以下、単に「波長λ_(70)」という。)についてさらに特定し、その数値範囲について「厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長λ_(70)が401.5nm以下である」に訂正する。

オ.訂正事項5
特許請求の範囲の請求項2に「Nb_(2)O_(5)成分 0?10.0%」とあるのを、「Nb_(2)O_(5)成分 0.1?10.0%」に訂正する。

カ.訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7に「SiO_(2)成分の含有量が19.0%以下」とあるのを、「SiO_(2)成分の含有量が11.601%以下」に訂正する。

キ.訂正事項7
特許請求の範囲の請求項13に「1.75以上1.95以下の屈折率(n_(d))」とあるのを、「1.80以上1.92以下の屈折率(n_(d))」に訂正する。

ク.訂正事項8
特許請求の範囲の請求項13に「30以上50以下のアッベ数(ν_(d))を有する」とある記載を削除する。

ケ.訂正事項9
特許請求の範囲の請求項15に「1250℃以下の液相温度を有する」とあるのを、「1160℃以下の液相温度を有し、前記液相温度は、ガラス試料を完全に熔融状態にし、1180℃以下の10℃刻みの温度まで降温して12時間保持して冷却した後に、得られるガラス表面及びガラス中に結晶が認められない一番低い温度である、」に訂正する。

コ.訂正事項10
本件特許明細書の段落【0087】にある「なお、実施例(No.1?No.4)は第1の光学ガラスに関する実施例であり、実施例(No.5?No.64)は第2の光学ガラスに関する実施例である。また、」との記載を削除する。

3.当審の判断

(1)訂正の目的、新規事項の追加、及び、特許請求の範囲の拡張/変更の有無について
ア.訂正事項1
訂正事項1は、請求項1においてNb_(2)O_(5)成分の含有量についてさらに特定し、その含有量について「Nb_(2)O_(5)成分を0.1?14.674%含有し」と訂正し、減縮するものである。
したがって、当該訂正事項1は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項を限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0048】には、「従って、特に第1の光学ガラスにおける、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb_(2)O_(5)成分の含有量を、好ましくは0.1%を下限と・・・してもよい」及び「従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb_(2)O_(5)成分の含有量は・・・より好ましくは15.0%・・・を上限とする」と記載され、請求項1において「モル和(TiO_(2)+WO_(3)+Nb_(2)O_(5))」が「2.253?14.674%」と特定されていることから、Nb_(2)O_(5)成分の含有量の上限が実質的に14.674%に限定されることが自明な点に基づくものであるから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

イ.訂正事項2
訂正事項2は、請求項1においてSiO_(2)成分の含有量についてさらに特定し、その含有量について「SiO_(2)成分の含有量が13.0%以下であり」と訂正し、減縮するものである。
したがって、当該訂正事項2は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項を限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0058】には、「従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSiO_(2)成分の含有量は・・・も好ましくは13.0%を上限とする。」と記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

ウ.訂正事項3
訂正事項3は、請求項1において屈折率(n_(d))及びアッベ数(ν_(d))についてさらに特定し、その数値範囲について「1.80以上1.95以下の屈折率(n_(d))を有し、30以上45以下のアッベ数(ν_(d))を有し」と訂正し、減縮するものである。
したがって、当該訂正事項3は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項を限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0079】には、「特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n_(d))は・・・最も好ましくは1.80を下限とし、好ましくは1.95・・・を上限とする。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν_(d))は、好ましくは30・・・を下限とし、・・・より好ましくは45・・・を上限とする」と記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

エ.訂正事項4
訂正事項4は、請求項1において波長λ_(70)についてさらに特定し、その数値範囲について「厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長λ_(70)が401.5nm以下である」と訂正し、減縮するものである。
したがって、当該訂正事項4は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項を限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0080】には、「特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ_(70))が・・・最も好ましくは420nm以下である。」と記載され、実施例3には波長λ_(70)が401.5nmである光学ガラスが記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

オ.訂正事項5
訂正事項5は、請求項2の「Nb_(2)O_(5)成分 0?10.0%」を「Nb_(2)O_(5)成分 0.1?10.0%」と訂正し、減縮するものである。
したがって、当該訂正事項5は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項を限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0048】には、「従って、特に第1の光学ガラスにおける、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb_(2)O_(5)成分の含有量を、好ましくは0.1%を下限と・・・してもよい。」と記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

カ.訂正事項6
訂正事項6は、請求項7の「SiO_(2)成分の含有量が19.0%以下」を「SiO_(2)成分の含有量が11.601%以下」と訂正し、減縮するものである。
したがって、当該訂正事項6は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項を限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0093】の実施例3にはSiO_(2)成分の含有量が11.601%である光学ガラスが記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

キ.訂正事項7
訂正事項7は、請求項13の「1.75以上1.95以下の屈折率(n_(d))」を「1.80以上1.92以下の屈折率(n_(d))」と訂正し、減縮するものである。
したがって、当該訂正事項7は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項を限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0079】には、「特に、本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は・・・最も好ましくは1.80を下限とし、・・・より好ましくは1.92・・・を上限とする。」と記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

ク.訂正事項8
訂正事項8は、請求項13に「30以上50以下のアッベ数(ν_(d))を有する」とある記載を削除するものであり、これは、訂正後の請求項1では「30以上45以下のアッベ数(ν_(d))を有し」と特定されており、アッベ数(ν_(d))として30以上45以下の数値範囲しか取り得ないこととの整合を図るため、アッベ数(ν_(d))の数値範囲については訂正後の請求項1に記載される数値範囲によって自ずと定まることを明らかにするものである。
したがって、当該訂正事項8は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記のとおり、訂正後の請求項13におけるアッベ数(ν_(d))の数値範囲は実質的に30以上45以下に限定されており、これは上記ウ.で検討したとおり、本件特許明細書の段落【0079】に記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

ケ.訂正事項9
訂正事項9は、請求項15の「1250℃以下の液相温度を有する」を「1160℃以下の液相温度を有し、前記液相温度は、ガラス試料を完全に熔融状態にし、1180℃以下の10℃刻みの温度まで降温して12時間保持して冷却した後に、得られるガラス表面及びガラス中に結晶が認められない一番低い温度である」と訂正するものであり、要するに、液相温度について「1250℃以下」を「1160℃以下」に減縮し、また、訂正前の請求項15で特定されていない液相温度の定義についても、「1180℃以下の10℃刻みの温度まで降温して12時間保持して冷却した後に、得られるガラス表面及びガラス中に結晶が認められない一番低い温度である」に減縮するものである。
したがって、当該訂正事項9は、訂正前の請求項に記載された発明特定事項を限定するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落【0081】には、「より具体的には、本発明の光学ガラスの液相温度は・・・最も好ましくは1160℃を上限とする。」及び「なお、本明細書中における「液相温度」とは、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて1250℃で完全に熔融状態にし、所定の温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察し、結晶が認められない一番低い温度を表す」記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

コ.訂正事項10
訂正事項10は、本件特許明細書の段落【0087】にある「なお、実施例(No.1?No.4)は第1の光学ガラスに関する実施例であり、実施例(No.5?No.64)は第2の光学ガラスに関する実施例である」との記載を削除する削除するものであり、これは、実施例(No.1?No.64)のすべてが「第1の光学ガラス」である「少なくともTiO_(2)成分及び/又はNb_(2)O_(5)成分を含有するガラス」(段落【0040】)の例に属し、また、実施例(No.41?No.46)が「第2の光学ガラス」である「少なくともWO_(3)成分を含有するガラス」(段落【0040】)の例に属することが、本件特許明細書の記載から明らかであるため、実施例の番号について誤って記載していることが明らかな上記記載を削除することで、第1及び第2の光学ガラスに属する実施例を明確にし、それにより発明の詳細な説明の記載の整合を図るものである。
したがって、当該訂正事項10は、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
上記訂正事項10は、本件特許明細書の段落【0040】に記載される「TiO_(2)成分、WO_(3)成分及びNb_(2)O_(5)成分のうち、少なくともTiO_(2)成分及び/又はNb_(2)O_(5)成分を含有するガラス」を第1の光学ガラスの実施例であることとと、「TiO_(2)成分、WO_(3)成分及びNb_(2)O_(5)成分のうち、少なくともWO_(3)成分を含有するガラス」を第2の光学ガラスの実施例であることを明確にするものであり、新たな技術的事項を導入するものではなく、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項に適合するものである。
また、訂正事項10は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項に適合するものである。

(2)一群の請求項について
訂正前の請求項2?18は、訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1の記載をそれぞれ直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1?4によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、当該請求項1?18は、特許法126条第3項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項10は、この一群の請求項の全てについて明細書を訂正するものである。
したがって、本件訂正は、この一群の請求項について請求したものと認められ、特許法第126条第3項及び第4項に適合するものである。

(3)独立特許要件について
特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正後の請求項1に係る発明を含む一群の請求項〔1?18〕(以下、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明18」という。)は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。

ここで、訂正された「本件訂正発明1」は、
「酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
B_(2)O_(3)成分を20.0?46.0%
La_(2)O_(3)成分を13.639?25.0%
ZnO成分を5.0?27.228%
ZrO_(2)成分を1.0?15.0%
Nb_(2)O_(5)成分を0.1?14.674%
含有し、
Ta_(2)O_(5)成分の含有量が10.0%以下、
Li_(2)O成分の含有量が1.166%以下、
Gd_(2)O_(3)成分の含有量が4.153%以下、
WO_(3)成分の含有量が0.821%以下、
GeO_(2)成分の含有量が1.0%以下、
Ga_(2)O_(3)成分の含有量が0.010%以下、
SiO_(2)成分の含有量が13.0%以下
であり、
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル和(TiO_(2)+WO_(3)+Nb_(2)O_(5))が2.253?14.674%であり、
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLn_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)のモル和が17.130%以上30.0%以下であり、
前記Ln_(2)O_(3)成分のうち、2種以上の成分を含有し、
1.80以上1.95以下の屈折率(n_(d))を有し、30以上45以下のアッベ数(ν_(d))を有し、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長λ_(70)が401.5nm以下である光学ガラス。」である。

ア.特許法第36条第6項第1号(サポート要件)及び第36条第4項第1号(実施可能要件)について
先の審判請求において、ZnOの下限値及びLa_(2)O_(3)の上限値について、特許法第36条第6項第1号及び第4項第1号に規定する要件を満たしていないことを訂正拒絶理由として通知していたところ、請求人は本件審判の請求書において、これらの成分の数値範囲についても、上記要件を満たしている旨主張していることから、まず、この点について、本件訂正発明1がサポート要件及び実施可能要件を満たすものであるか検討する。
ここで、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0009】に記載されているとおり「屈折率(n_(d))及びアッベ数(ν_(d))が所望の範囲内にありながら、耐失透性が高いプリフォーム材を、より安価に得ること」と認められる。
一方、本件特許明細書には、光学ガラスに含まれる各成分の取り得る含有量と寄与する効果が段落【0042】?【0077】において記載されるとともに、本件訂正発明1で特定する組成要件及び物性要件を満たす光学ガラスの実施例が記載されており、段落【0066】には、ZnO成分について、「ガラス転移温度(Tg)を低くし、且つ化学的耐久性を改善する成分である」ことが記載されており、ZnO成分がガラス転移温度を低くし、且つ化学的耐久性を改善する成分であることが理解される。
しかしながら、本件訂正発明1は、精密プレス成形のようにガラス転移温度が低いことを必ずしも必要とするものではないし、化学的耐久性についても、プリフォームを作製することや、そのプリフォームからガラス成形体を得ることに対して、直接的な影響を及ぼさない物性であるから、仮に、実施例に記載されたガラス組成に基いて、ZnO成分の含有量を5.0%まで減少させた場合であっても、本件特許に係る発明の課題を解決できるガラスを得られることは、当業者にとって明らかである。
また、La_(2)O_(3)成分についてみると、段落【0044】には「La_(2)O_(3)成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高めることで失透を低減できる」と記載されていることから、La_(2)O_(3)成分の含有量が多いと、ガラスの安定性が低下し失透しやすくなることが理解される。
そして、La_(2)O_(3)成分と同様に含有量が多いとガラスの安定性を低下させる成分としては、段落【0066】にZnO成分等が開示されている。
してみれば、例えば、実施例3に記載されるLa_(2)O_(3)成分を14.617%含有し、ZnO成分を23.233%含有するガラス組成に基いて、La_(2)O_(3)成分を25.0%まで増加させた場合であっても、上記記載に基いて、ZnO成分の含有量を13%前後まで減少させれば、同様に安定なガラスを得られることは、当業者にとって明らかである。
さらに、ZnO成分及びLa_(2)O_(3)成分以外の各成分についても同様に、当業者であれば、実施例以外のガラス組成であっても、本件訂正発明1で特定されたガラス組成の範囲内において、実施例で開示された光学ガラス組成に基いて、発明の詳細な説明に記載された各成分の寄与する効果と本件特許に係る発明の課題を考慮して各成分の含有量を調整することにより、本件訂正発明1で特定される屈折率(n_(d))とアッベ数(ν_(d))の数値範囲を満たす安定な光学ガラスが得られるものと認識できるものである。
よって、本件訂正発明1は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、本件特許明細書は、当業者が本件訂正発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものといえる。
また、本件訂正発明1を直接的又は間接的に引用する本件訂正発明2?18についても同様である。

イ.独立特許要件についてのまとめ
訂正事項1?10によって訂正された訂正後の請求項1?18に係る発明は、上記で検討した以外の理由もないことから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

4 むすび

以上のとおり、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号及び第3号を目的とするものであって、同条第3?7項に規定する要件を満たすものであるから、本件訂正を認める。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
光学ガラス、プリフォーム材及び光学素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、プリフォーム材及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器や、プロジェクタやプロジェクションテレビ等の画像再生(投影)機器等の各種光学機器の分野では、光学系で用いられるレンズやプリズム等の光学素子の枚数を削減し、光学系全体を軽量化及び小型化する要求が強まっている。
【0003】
光学素子を作製する光学ガラスの中でも特に、光学系全体の軽量化及び小型化を図ることが可能な、1.75以上の屈折率(n_(d))を有し、30以上50以下のアッベ数(ν_(d))を有する精密モールドプレス成形可能な高屈折率低分散ガラスの需要が非常に高まっている。このような高屈折率低分散ガラスとして、特許文献1?2に代表されるようなガラス組成物が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-348244号公報
【特許文献2】特開2008-001551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学系で用いられるレンズには球面レンズと非球面レンズがあり、非球面レンズを利用すれば光学素子の枚数を削減することができる。また、レンズ以外の各種光学素子にも複雑な形状をした面を備えたものが知られている。しかしながら、従来の研削、研磨工程で非球面や複雑な形状をした面を得ようとすると、高コストで且つ複雑な作業工程が必要であった。そこで、ゴブ又はガラスブロックから得られたプリフォーム材を、超精密加工された金型で直接プレス成形して光学素子の形状を得る方法、すなわち精密モールドプレス成形する方法が現在主流である。
【0006】
また、プリフォーム材を精密モールドプレス成形する方法の他に、ガラス材料から形成されたゴブ又はガラスブロックを再加熱して成形(リヒートプレス成形)して得られたガラス成形体を研削及び研磨する方法も知られている。
【0007】
こうした精密モールドプレス成形やリヒートプレス成形に用いられるプリフォーム材の製造方法としては、滴下法によって熔融ガラスから直接製造する方法や、ガラスブロックをリヒートプレスし、或いはボール形状に研削加工して得られた加工品を研削研磨する方法がある。いずれの方法であっても、熔融ガラスを所望の形状に成形して光学素子を得るためには、形成されるガラスの失透を低減することが求められる。
【0008】
また、光学ガラスの材料コストを低減するために、光学ガラスを構成する諸成分の原料費は、なるべく安価であることが望まれる。また、光学ガラスの製造コストを低減するために、原料の熔解性が高いこと、すなわちより低い温度で熔解することが望まれる。ところが、特許文献1?2に記載されたガラス組成物は、これらの諸要求に十分応えるものとは言い難い。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率(n_(d))及びアッベ数(ν_(d))が所望の範囲内にありながら、耐失透性が高いプリフォーム材を、より安価に得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、B_(2)O_(3)成分及びLa_(2)O_(3)成分を含有するガラスにおいて、TiO_(2)成分、WO_(3)成分及びNb_(2)O_(5)成分のうち少なくともいずれかを必須成分として含有することにより、高価であり且つ溶融性の悪いTa_(2)O_(5)成分を低減しても所望の光学恒数が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0011】
(1) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でB_(2)O_(3)成分を10.0?50.0%及びLa_(2)O_(3)成分を5.0?30.0%含有し、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル和(TiO_(2)+WO_(3)+Nb_(2)O_(5))が0.1?30.0%である光学ガラス。
【0012】
(2) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でWO_(3)成分の含有量が20.0%以下である(1)記載の光学ガラス。
【0013】
(3) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でWO_(3)成分の含有量が7.0%未満である(1)記載の光学ガラス。
【0014】
(4) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
TiO_(2)成分 0?20.0%及び/又は
Nb_(2)O_(5)成分 0?20.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(5) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル和(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5))が2.0%以上30.0%以下である(4)記載の光学ガラス。
【0016】
(6) 酸化物換算組成のモル比WO_(3)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))が0.600以下である(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(7) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でLi_(2)O成分の含有量が20.0%以下である(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(8) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でLi_(2)O成分の含有量が0.1%以上である(7)記載の光学ガラス。
【0019】
(9) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
Gd_(2)O_(3)成分 0?30.0%及び/又は
Y_(2)O_(3)成分 0?10.0%及び/又は
Yb_(2)O_(3)成分 0?10.0%及び/又は
Lu_(2)O_(3)成分 0?10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0020】
(10) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLn_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)のモル和が10.0%以上40.0%以下である(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
【0021】
(11) 前記Ln_(2)O_(3)成分のうち、2種以上の成分を含有する(1)から(10)のいずれか記載の光学ガラス。
【0022】
(12) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でTa_(2)O_(5)成分の含有量が20.0%以下である(1)から(11)のいずれか記載の光学ガラス。
【0023】
(13) 酸化物換算組成のモル比Ta_(2)O_(5)/WO_(3)が1.0以上10.0以下である(12)記載の光学ガラス。
【0024】
(14) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO_(2)成分の含有量が25.0%以下である(1)から(13)のいずれか記載の光学ガラス。
【0025】
(15) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO_(2)成分の含有量が19.0%以下である(14)記載の光学ガラス。
【0026】
(16) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
Na_(2)O成分 0?15.0%及び/又は
K_(2)O成分 0?10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(15)いずれか記載の光学ガラス。
【0027】
(17) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRn_(2)O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)のモル和が20.0%以下である(16)記載の光学ガラス。
【0028】
(18) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
MgO成分 0?10.0%及び/又は
CaO成分 0?10.0%及び/又は
SrO成分 0?10.0%及び/又は
BaO成分 0?10.0%
の各成分をさらに含有する(1)から(17)のいずれか記載の光学ガラス。
【0029】
(19) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)のモル和が11.0%以下である(18)記載の光学ガラス。
【0030】
(20) 酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
GeO_(2)成分 0?10.0%及び/又は
P_(2)O_(5)成分 0?10.0%及び/又は
ZrO_(2)成分 0?15.0%及び/又は
ZnO成分 0?50.0%及び/又は
Bi_(2)O_(3)成分 0?15.0%及び/又は
TeO_(2)成分 0?15.0%及び/又は
Al_(2)O_(3)成分 0?15.0%及び/又は
Ga_(2)O_(3)成分 0?15.0%及び/又は
Sb_(2)O_(3)成分 0?1.0%
の各成分をさらに含有し、
上記各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての含有量が0?6.0%である(1)から(19)のいずれか記載の光学ガラス。
【0031】
(21) 1.75以上1.95以下の屈折率(n_(d))を有し、30以上50以下のアッベ数(ν_(d))を有する(1)から(20)のいずれか記載の光学ガラス。
【0032】
(22) 680℃以下のガラス転移点(Tg)を有する(1)から(21)のいずれか記載の光学ガラス。
【0033】
(23) 1250℃以下の液相温度を有する(1)から(22)のいずれか記載の光学ガラス。
【0034】
(24) (1)から(23)のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【0035】
(25) (24)記載のプリフォーム材をプレス成形して作製する光学素子。
【0036】
(26) (1)から(23)のいずれか記載の光学ガラスを母材とする光学素子。
【0037】
(27) (25)又は(26)のいずれか記載の光学素子を備える光学機器。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、B_(2)O_(3)成分及びLa_(2)O_(3)成分を含有するガラスに対して、TiO_(2)成分、WO_(3)成分及びNb_(2)O_(5)成分からなる群より選択される1種以上を含有することにより、より安価な成分で所望の光学恒数を得ることが可能になる。このため、屈折率(n_(d))及びアッベ数(ν_(d))が所望の範囲内にありながらも、耐失透性が高いプリフォーム材を得ることが可能な光学ガラスを安価に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の光学ガラスは、酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でB_(2)O_(3)成分を10.0?50.0%及びLa_(2)O_(3)成分を5.0?30.0%含有し、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル和(TiO_(2)+WO_(3)+Nb_(2)O_(5))が0.1?30.0%である。TiO_(2)成分、WO_(3)成分及びNb_(2)O_(5)成分からなる群より選択される1種以上を含有することにより、高価であり且つ溶融性の悪いTa_(2)O_(5)成分を低減しても所望の光学恒数が得られる。それとともに、B_(2)O_(3)成分及びLa_(2)O_(3)成分をベースとすることにより、1.75以上1.95以下の屈折率(n_(d))及び30以上50以下のアッベ数(ν_(d))を有しながらも、液相温度が低くなり易くなる。このため、屈折率(n_(d))及びアッベ数(ν_(d))が所望の範囲内にありながらも、耐失透性が高いプリフォーム材を得ることが可能な光学ガラスを安価に得ることができる。
【0040】
本発明の光学ガラスは、TiO_(2)成分、WO_(3)成分及びNb_(2)O_(5)成分からなる群より選択される1種以上を必須成分として含有する。これらTiO_(2)成分、WO_(3)成分及びNb_(2)O_(5)成分のうち、少なくともTiO_(2)成分及び/又はNb_(2)O_(5)成分を含有するガラスを第1の光学ガラスとして説明する。また、TiO_(2)成分、WO_(3)成分及びNb_(2)O_(5)成分のうち、少なくともWO_(3)成分を含有するガラスを第2の光学ガラスとして説明する。なお、本発明の光学ガラスは、TiO_(2)成分及び/又はNb_(2)O_(5)成分と、WO_(3)成分の両方を含有するものであってもよい。
【0041】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所について、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0042】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中において、各成分の含有量は、特に断りがない場合、全て酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総物質量を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0043】
<必須成分、任意成分について>
B_(2)O_(3)成分は、希土類酸化物を多く含む本発明の光学ガラスでは、ガラス形成酸化物として必須の成分である。特に、B_(2)O_(3)成分の含有量を10.0%以上にすることで、ガラスの耐失透性を高め、且つガラスの分散を小さくすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するB_(2)O_(3)成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは20.0%を下限とする。一方、B_(2)O_(3)成分の含有量を50.0%以下にすることで、より大きな屈折率を得易くし、且つ化学的耐久性の悪化を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するB_(2)O_(3)成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは48.0%、最も好ましくは46.0%を上限とする。B_(2)O_(3)成分は、原料として例えばH_(3)BO_(3)、Na_(2)B_(4)O_(7)、Na_(2)B_(4)O_(7)・10H_(2)O、BPO_(4)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0044】
La_(2)O_(3)成分は、ガラスの屈折率を高め、且つガラスの分散を小さくしてガラスのアッベ数を大きくする成分である。特に、La_(2)O_(3)成分の含有量を5.0%以上にすることで、ガラスの屈折率を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLa_(2)O_(3)成分の含有量は、好ましくは5.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは10.0%を下限とする。一方、La_(2)O_(3)成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高めることで失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLa_(2)O_(3)成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは20.0%、最も好ましくは18.0%を上限とする。La_(2)O_(3)成分は、原料として例えばLa_(2)O_(3)、La(NO_(3))_(3)・XH_(2)O(Xは任意の整数)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0045】
本発明の光学ガラスは、TiO_(2)成分、WO_(3)成分及びNb_(2)O_(5)成分からなる群より選択される1種以上のモル和が0.1%以上30.0%以下であることが好ましい。特にこのモル和が0.1%以上であることにより、Ta_(2)O_(5)成分を低減しても所望の光学恒数が得られるため、所望の光学特性を有する光学ガラスをより安価に作製できる。一方で、このモル和が30.0%以下であることにより、これら成分の過剰な含有による液相温度の上昇が抑えられるため、光学ガラスをより安定的に作製できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するこれら成分のモル和は、好ましくは0.1%、より好ましくは1.0%、最も好ましくは1.5%を下限とする。一方で、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するこれら成分のモル和は、好ましくは30.0%、より好ましくは28.0%、さらに好ましくは26.0%を上限とし、最も好ましくは11.0%未満とする。特に第2の光学ガラスでは、屈折率と耐失透性をより高める観点から、これら成分のモル和を、好ましくは20.0%、より好ましくは18.0%、さらに好ましくは15.0%を上限としてもよい。
【0046】
WO_(3)成分は、ガラスの屈折率を高め、且つガラスの耐失透性を向上する成分である。一方で、WO_(3)成分の含有量を20.0%以下にすることで、高分散化を抑えつつ、高い屈折率と耐失透性を兼ね備えたガラスを形成できる。また、WO_(3)成分の含有量を20.0%以下にすることで、特に可視-短波長領域(500nm未満)における透過率を低下し難くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するWO_(3)成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%を上限し、最も好ましくは7.0%未満とする。特に第1の光学ガラスにおいては、ガラスの屈折率を高めることが難しい成分である観点から、WO_(3)成分の含有量を、好ましくは4.0%、より好ましくは3.0%を上限とし、最も好ましくは1.0%未満としてもよい。なお、本発明の光学ガラスは、WO_(3)成分を含有しなくとも所望の光学恒数及び耐失透性を有するガラスを得ることが可能であるが、WO_(3)成分を含有することで、高い屈折率を得ながらも、ガラス転移点をより低くすることができる。従って、特に第2の光学ガラスにおける、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するWO_(3)成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%、最も好ましくは1.5%を下限とする。WO_(3)成分は、原料として例えばWO_(3)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0047】
TiO_(2)成分は、ガラスの屈折率及びアッベ数を高く調整し、且つ耐失透性を改善する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。しかしながら、TiO_(2)が多すぎると逆に耐失透性が悪くなり、可視短波長(500nm以下)におけるガラスの透過率も悪化する。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTiO_(2)成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは12.0%を上限とする。なお、TiO_(2)成分を含有しなくとも所望の特性を有するガラスは得られるが、TiO_(2)成分を含有することで、ガラスの安定性を下げることなく、高い屈折率を得ることが可能になる。また、ガラスの液相温度を下げて安定性を高めることもできる。従って、特に第1の光学ガラスでは、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTiO_(2)成分の含有量を、好ましくは0.1%、より好ましくは3.0%、さらに好ましくは5.0%を下限とし、最も好ましくは8.0%より多くしてもよい。TiO_(2)成分は、原料として例えばTiO_(2)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0048】
Nb_(2)O_(5)成分は、ガラスの屈折率及び分散を高く調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Nb_(2)O_(5)成分の含有量を20.0%以下にすることで、Nb_(2)O_(5)成分の過剰な含有によるガラスの耐失透性の悪化を抑え、且つ、ガラスの可視光に対する透過率の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb_(2)O_(5)成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、最も好ましくは7.0%を上限とする。なお、Nb_(2)O_(5)成分を含有しなくとも所望の特性を有するガラスは得られるが、Nb_(2)O_(5)成分を含有することで、ガラスの安定性を下げることなく、高い屈折率を得ることが可能になる。また、ガラスの液相温度を下げて安定性を高めることもできる。従って、特に第1の光学ガラスにおける、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNb_(2)O_(5)成分の含有量を、好ましくは0.1%を下限とし、より好ましくは2.0%より多くし、さらに好ましくは5.0%を下限とし、最も好ましくは8.0%より多くしてもよい。Nb_(2)O_(5)成分は、原料として例えばNb_(2)O_(5)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0049】
本発明の第1の光学ガラスは、TiO_(2)成分及びNb_(2)O_(5)成分の含有量の和が2.0%以上30.0%以下であることが好ましい。特に、この和を2.0%以上にすることにより、ガラスの液相温度を低くしつつ、高い屈折率を得ることが可能になる。従って、第1の光学ガラスにおける、酸化物換算組成のモル和(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5))は、好ましくは2.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは8.0%を下限とする。一方、この和を30.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有によるガラスの耐失透性の悪化を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル和(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5))は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、最も好ましくは20.0%を上限とする。
【0050】
また、本発明の第1の光学ガラスは、TiO_(2)成分、Nb_(2)O_(5)成分及びWO_(3)成分の和に対するWO_(3)成分の含有量の比率が0.600以下であることが好ましい。この比率を小さくすることにより、ガラスの所望のアッベ数が確保されつつ、屈折率が高められ易くなるため、所望の屈折率及びアッベ数を有するガラスを得易くできる。また、ガラスの屈折率と分散の双方を高める作用を有するTiO_(2)成分、Nb_(2)O_(5)成分及びWO_(3)成分の全体の所要量が低減されるため、これらの過剰な含有による液相温度の上昇、すなわち失透を低減できる。従って、第1の光学ガラスにおける、酸化物換算組成のモル比WO_(3)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))は、好ましくは0.600、より好ましくは0.500、最も好ましくは0.370を上限とする。一方、酸化物換算組成におけるモル比WO_(3)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))の下限は、0であってもよい。
【0051】
Li_(2)O成分は、ガラス転移点を下げる成分である。特に、Li_(2)O成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの液相温度を下げて失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLi_(2)O成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、Li_(2)O成分を含有しなくとも所望の特性を有するガラスは得られるが、Li_(2)O成分を含有することにより、ガラス転移点を下げる作用が大きくなるため、プレス成形を行い易い光学ガラスを得易くできる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLi_(2)O成分の含有量は、好ましくは0.1%、より好ましくは0.3%、最も好ましくは0.5%を下限とする。
【0052】
Gd_(2)O_(3)成分は、ガラスの屈折率を高め、且つアッベ数を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Gd_(2)O_(3)成分の含有量を30.0%以下にすることで、所望の光学恒数を有するガラスを得易くでき、Gd_(2)O_(3)成分の過剰な含有によるガラス転移点(Tg)の上昇を抑え、且つガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するGd_(2)O_(3)成分の含有量は、それぞれ好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。なお、Gd_(2)O_(3)成分を含有しなくとも技術的に不利益はないが、La_(2)O_(3)成分の一部をGd_(2)O_(3)成分に置き換えることで、Gd_(2)O_(3)成分を含有しない場合に比べてガラスの液相温度が低くなることがあり、耐失透性をより高められることがある。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するGd_(2)O_(3)成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは2.0%を下限とし、さらに好ましくは5.0%より多くする。Gd_(2)O_(3)成分は、原料として例えばGd_(2)O_(3)、GdF_(3)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0053】
Y_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分、及びLu_(2)O_(3)成分は、ガラスの屈折率を高め、且つ分散を小さくする成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Y_(2)O_(3)成分、Yb_(2)O_(3)成分及び/又はLu_(2)O_(3)成分の含有量をそれぞれ10.0%以下にすることで、ガラスの所望の光学恒数が得易くなり、且つガラスの耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するY_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)及びLu_(2)O_(3)の各成分の含有量は、それぞれ好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。特に、ガラス転移点(Tg)の低いガラスを得られる観点では、Y_(2)O_(3)の含有量を1.3%以下にしてもよい。Y_(2)O_(3)、Yb_(2)O_(3)及びLu_(2)O_(3)の各成分は、原料として例えばY_(2)O_(3)、YF_(3)、Yb_(2)O_(3)、Lu_(2)O_(3)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0054】
本発明の光学ガラスは、Ln_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)のモル和が10.0%以上40.0%以下であることが好ましい。特に、Ln_(2)O_(3)成分のモル和を10.0%以上にすることで、ガラスの屈折率及びアッベ数がいずれも高められるため、所望の屈折率及びアッベ数を有するガラスを得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLn_(2)O_(3)成分のモル和は、好ましくは10.0%、より好ましくは12.0%、最も好ましくは15.0%を下限とする。一方、Ln_(2)O_(3)成分のモル和を40.0%以下にすることで、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラスの失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLn_(2)O_(3)成分のモル和は、好ましくは40.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは30.0%、最も好ましくは27.0%を上限とする。
【0055】
本発明の光学ガラスは、上述のLn_(2)O_(3)成分のうち2種以上の成分を含有することが好ましい。これにより、ガラスの液相温度がより低くなるため、より耐失透性の高いガラスを形成できる。特に、Ln_(2)O_(3)成分として、La_(2)O_(3)成分とGd_(2)O_(3)成分を含む2種以上の成分を含有することが、ガラスの液相温度を低くし易くできる点で好ましい。
【0056】
Ta_(2)O_(5)成分は、ガラスの屈折率を高め、且つガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Ta_(2)O_(5)成分の含有量を20.0%以下にすることで、Ta_(2)O_(5)成分の過剰な含有による失透を低減できる。また、Ta_(2)O_(5)成分の含有量を少なくすることで、高価なTa_(2)O_(5)成分の含有が低減され、且つ原料を熔解する温度を下げることが可能になるため、光学ガラスの原料及び製造に掛かるコストを低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTa_(2)O_(5)成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは8.0%を上限とする。特に、第1の光学ガラスでは、Ta_(2)O_(5)成分の含有量が4.5%以下であってもよい。なお、Ta_(2)O_(5)成分を含有しなくとも所望の特性を有するガラスを得ることは可能であるが、特に第2の光学ガラスでは、Ta_(2)O_(5)成分を含有することで、ガラスの屈折率を高めながらも、ガラスの液相温度を下げることで耐失透性を高めることができる。従って、第2の光学ガラスにおける、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTa_(2)O_(5)成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは1.0%、最も好ましくは2.0%を下限とする。Ta_(2)O_(5)成分は、原料として例えばTa_(2)O_(5)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0057】
本発明の第2の光学ガラスは、WO_(3)成分の含有量に対するTa_(2)O_(5)成分の含有量の比率が1.0以上であることが好ましい。特に、この比率を1.0以上にすることで、ガラスの可視光透過性を維持し、且つ屈折率を高めながらも、ガラスの分散の上昇を抑えることができる。また、ガラスの液相温度が低くなることで、ガラスの耐失透性を向上できる。従って、第2の光学ガラスにおける、酸化物換算組成のモル比Ta_(2)O_(5)/WO_(3)は、好ましくは1.0、より好ましくは2.0、さらに好ましくは2.1、最も好ましくは2.5を下限とする。一方、この比率の上限は特に限定されず、無限大(すなわちWO_(3)成分を含有しない)であってもよい。しかしながら、この比率を10.0以下にすることで、高価なTa_(2)O_(5)成分の含有が低減されるため、光学ガラスの原料及び製造に掛かるコストを低減できる。従って、第2の光学ガラスにおける、酸化物換算組成のモル比Ta_(2)O_(5)/WO_(3)は、好ましくは10.0、より好ましくは7.0、最も好ましくは4.0を上限とする。
【0058】
SiO_(2)成分は、熔融ガラスの粘度を高め、且つ、安定なガラス形成を促すことで光学ガラスとして好ましくない失透(結晶物の発生)を低減する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、SiO_(2)成分の含有量を25.0%以下にすることで、ガラス転移点(Tg)の上昇を抑え、且つ、本発明が目的とする高屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSiO_(2)成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは19.0%、さらに好ましくは17.5%、最も好ましくは13.0%を上限とする。なお、SiO_(2)成分を含有しなくとも所望の特性を有するガラスを得ることは可能であるが、特に第2の光学ガラスでは、SiO_(2)成分を含有することで、ガラスの液相温度が低くなるため、ガラスの失透を低減できる。また、溶融ガラスの粘性を高めることで、ガラスの成形を行い易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSiO_(2)成分の含有量は、好ましくは0%より多くし、より好ましくは1.0%より多くし、最も好ましくは4.0%より多くする。SiO_(2)成分は、原料として例えばSiO_(2)、K_(2)SiF_(6)、Na_(2)SiF_(6)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0059】
Na_(2)O成分及びK_(2)O成分は、ガラスの熔融性を改善し、ガラス転移点を低くし、且つガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Na_(2)O成分の含有量を15.0%以下にし、及び/又は、K_(2)O成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、且つガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するNa_(2)O成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。また、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するK_(2)O成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Na_(2)O成分及びK_(2)O成分は、原料として例えばNa_(2)CO_(3)、NaNO_(3)、NaF、Na_(2)SiF_(6)、K_(2)CO_(3)、KNO_(3)、KF、KHF_(2)、K_(2)SiF_(6)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0060】
Rn_(2)O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)は、ガラスの熔融性を改善するとともに、ガラスの失透を低減する成分である。ここで、Rn_(2)O成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの屈折率を低下し難くし、且つガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRn_(2)O成分のモル和は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、最も好ましくは10.0%を上限とする。
【0061】
MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分は、ガラスの屈折率や熔融性、失透性を調整する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分の各々の含有量を10.0%以下にすることで、所望の屈折率を得易くし、且つこれらの成分の過剰な含有によるガラスの失透の発生を低減することができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するMgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分の各々の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。MgO成分は、原料として例えばMgCO_(3)、MgF_(2)、CaCO_(3)、CaF_(2)、Sr(NO_(3))_(2)、SrF_(2)、BaCO_(3)、Ba(NO_(3))_(2)、BaF_(2)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0062】
本発明の光学ガラスは、RO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)の含有量の合計が11.0%以下であることが好ましい。これにより、所望の屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRO成分のモル和は、好ましくは11.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
【0063】
GeO_(2)成分は、ガラスの屈折率を高め、且つ耐失透性を向上させる効果を有する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。しかしながら、GeO_(2)は原料価格が高いため、その量が多いと生産コストが高くなることで、Ta_(2)O_(5)成分を低減することによる効果が減殺される。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するGeO_(2)成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは1.0%を上限とする。GeO_(2)成分は、原料として例えばGeO_(2)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0064】
P_(2)O_(5)成分は、ガラスの液相温度を下げて耐失透性を向上させる効果を有する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、P_(2)O_(5)成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの化学的耐久性、特に耐水性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するP_(2)O_(5)成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは8.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。P_(2)O_(5)成分は、原料として例えばAl(PO_(3))_(3)、Ca(PO_(3))_(2)、Ba(PO_(3))_(2)、BPO_(4)、H_(3)PO_(4)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0065】
ZrO_(2)成分は、ガラスの高屈折率及び低分散に寄与し、且つ耐失透性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。しかしながら、ZrO_(2)量が多すぎると、逆に耐失透性が悪化する。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZrO_(2)成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは12.0%、さらに好ましくは10.0%を上限とする。なお、ZrO_(2)成分を含有しなくても所望の特性を有するガラスを得ることは可能であるが、ZrO_(2)成分を含有することで、高屈折率低分散の性能を得易くでき、且つ耐失透性を高める効果を得易くできる。従って、特に第2の光学ガラスにおいては、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZrO_(2)成分の含有量を、好ましくは0%より多くし、より好ましくは1.0%、最も好ましくは3.0%を下限としてもよい。ZrO_(2)成分は、原料として例えばZrO_(2)、ZrF_(4)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0066】
ZnO成分は、ガラス転移温度(Tg)を低くし、且つ化学的耐久性を改善する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。しかしながら、ZnO成分を多く含有するとガラスの耐失透性を悪化し易い。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは45.0%、さらに好ましくは40.0%を上限とする。特に、ガラスの安定性を高めて液相温度を低くできる観点では、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZnO成分の含有量は、27.0%以下としてもよく、24.0%未満としてもよい。なお、ZnO成分を含有しなくても所望の特性を有するガラスを得ることは可能であるが、ZnO成分を含有することにより、ガラス転移点が低くなるため、よりプレス成形を行い易い光学ガラスを得易くできる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するZnO成分の含有量は、好ましくは0%より多く、より好ましくは5.0%、最も好ましくは10.0%を下限とする。ZnO成分は、原料として例えばZnO、ZnF_(2)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0067】
Bi_(2)O_(3)成分は、屈折率を高め、且つガラス転移点(Tg)を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Bi_(2)O_(3)成分の含有量を15.0%以下にすることで、液相温度の上昇が抑えられるため、ガラスの耐失透性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するBi_(2)O_(3)成分の含有量は、好ましくは15.0%を上限とし、より好ましくは10.0%未満とし、最も好ましくは5.0%未満とする。Bi_(2)O_(3)成分は、原料として例えばBi_(2)O_(3)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0068】
TeO_(2)成分は、屈折率を高め、且つガラス転移点(Tg)を下げる成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。しかしながら、TeO_(2)は白金製の坩堝や、熔融ガラスと接する部分が白金で形成されている熔融槽でガラス原料を熔融する際、白金と合金化しうる問題がある。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するTeO_(2)成分の含有量は、好ましくは15.0%を上限とし、より好ましくは10.0%未満とし、最も好ましくは5.0%未満とする。TeO_(2)成分は、原料として例えばTeO_(2)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0069】
Al_(2)O_(3)成分及びGa_(2)O_(3)成分は、ガラスの化学的耐久性を向上し、且つ熔融ガラスの耐失透性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。特に、Al_(2)O_(3)成分及びGa_(2)O_(3)成分の各々の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高めることでガラスの失透傾向を弱めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するAl_(2)O_(3)成分及びGa_(2)O_(3)成分の各々の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは5.0%を上限とする。Al_(2)O_(3)成分及びGa_(2)O_(3)成分は、原料として例えばAl_(2)O_(3)、Al(OH)_(3)、AlF_(3)、Ga_(2)O_(3)、Ga(OH)_(3)等を用いてガラス内に含有することができる。
【0070】
Sb_(2)O_(3)成分は、熔融ガラスを脱泡する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。Sb_(2)O_(3)量が多すぎると可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するSb_(2)O_(3)成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは0.7%、最も好ましくは0.5%を上限とする。Sb_(2)O_(3)成分は、原料として例えばSb_(2)O_(3)、Sb_(2)O_(5)、Na_(2)H_(2)Sb_(2)O_(7)・5H_(2)O等を用いてガラス内に含有することができる。
【0071】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb_(2)O_(3)成分に限定されるものではなく、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0072】
F成分は、ガラスの分散を低くしつつ、ガラス転移点(Tg)を低下させ、耐失透性を向上する成分であり、本発明の光学ガラス中の任意成分である。しかし、F成分の含有量、すなわち上述した各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての合計量が6.0%を超えると、F成分の揮発量が多くなるため、安定した光学恒数が得られ難くなり、均質なガラスが得られ難くなる。従って、酸化物換算組成のガラス全物質量に対するF成分の含有量は、好ましくは6.0%、より好ましくは5.0%、最も好ましくは3.0%を上限とする。F成分は、原料として例えばZrF_(4)、AlF_(3)、NaF、CaF_(2)等を用いることで、ガラス内に含有することができる。
【0073】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0074】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0075】
また、PbO等の鉛化合物及びAs_(2)O_(3)等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0076】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0077】
本発明のガラス組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たすガラス組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
B_(2)O_(3)成分 5.0?25.0質量%、及び
La_(2)O_(3)成分 10.0?55.0質量%、
WO_(3)成分 0?30.0質量%及び/又は
TiO_(2)成分 0?10.0質量%及び/又は
Nb_(2)O_(5)成分 0?35.0質量%及び/又は
Li_(2)O成分 0?5.0質量%及び/又は
Gd_(2)O_(3)成分 0?55.0質量%及び/又は
Y_(2)O_(3)成分 0?20.0質量%及び/又は
Yb_(2)O_(3)成分 0?25.0質量%及び/又は
Lu_(2)O_(3)成分 0?20.0質量%及び/又は
Ta_(2)O_(5)成分 0?30.0質量%及び/又は
SiO_(2)成分 0?10.0質量%及び/又は
Na_(2)O成分 0?8.0質量%及び/又は
K_(2)O成分 0?8.0質量%及び/又は
MgO成分 0?3.0質量%及び/又は
CaO成分 0?5.0質量%及び/又は
SrO成分 0?8.0質量%及び/又は
BaO成分 0?10.0質量%及び/又は
GeO_(2)成分 0?7.0質量%及び/又は
P_(2)O_(5)成分 0?10.0質量%及び/又は
ZrO_(2)成分 0?12.0質量%及び/又は
ZnO成分 0?30.0質量%及び/又は
Bi_(2)O_(3)成分 0?40.0質量%及び/又は
TeO_(2)成分 0?15.0質量%及び/又は
Al_(2)O_(3)成分 0?12.0質量%及び/又は
Ga_(2)O_(3)成分 0?20.0質量%及び/又は
Sb_(2)O_(3)成分 0?3.0質量%
並びに、上記各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての合計量 0?3.0質量%
【0078】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100?1500℃の温度範囲で2?5時間熔融して攪拌均質化した後、適当な温度に下げてから金型に鋳込み、徐冷することにより作製される。
【0079】
[物性]
本発明の光学ガラスは、高い屈折率(n_(d))及び低い分散を有する。特に、本発明の光学ガラスの屈折率(n_(d))は、好ましくは1.75、より好ましくは1.77、最も好ましくは1.80を下限とし、好ましくは1.95、より好ましくは1.92、最も好ましくは1.91を上限とする。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν_(d))は、好ましくは30、より好ましくは31、最も好ましくは32を下限とし、好ましくは50、より好ましくは45、最も好ましくは40を上限とする。これらにより、光学設計の自由度が広がり、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
【0080】
また、本発明の光学ガラスは、着色が少ないことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、ガラスの透過率で表すと、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長(λ_(70))が450nm以下であり、より好ましくは430nm以下であり、最も好ましくは420nm以下である。また、分光透過率5%を示す波長(λ_(5))が400nm以下であり、より好ましくは380nm以下であり、最も好ましくは370nm以下である。また、分光透過率80%を示す波長(λ_(80))が550nm以下であり、より好ましくは520nm以下であり、さらに好ましくは500nm以下であり、最も好ましくは480nm以下である。これにより、ガラスの吸収端が紫外領域の近傍に位置するようになり、可視域におけるガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスをレンズ等の光学素子の材料として好ましく用いることができる。
【0081】
また、本発明の光学ガラスは、耐失透性が高いことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスは、1200℃以下の低い液相温度を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの液相温度は、好ましくは1200℃、より好ましくは1180℃、最も好ましくは1160℃を上限とする。これにより、より低い温度で熔融ガラスを流出しても、作製されたガラスの結晶化が低減されるため、熔融状態からガラスを形成したときの耐失透性を高めることができ、ガラスを用いた光学素子の光学特性への影響を低減することができる。また、プリフォーム材を安定生産できる温度の範囲が広くなるため、ガラスの熔解温度を低くしてもプリフォーム材を形成でき、プリフォーム材の形成時に消費するエネルギーを抑えることができる。一方、本発明の光学ガラスの液相温度の下限は特に限定しないが、本発明によって得られるガラスの液相温度は、概ね500℃以上、具体的には550℃以上、さらに具体的には600℃以上であることが多い。なお、本明細書中における「液相温度」とは、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて1250℃で完全に熔融状態にし、所定の温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察し、結晶が認められない一番低い温度を表す。ここで所定の温度とは、1180℃?500℃まで10℃刻みで設定した温度を表わす。
【0082】
また、本発明の光学ガラスは、680℃以下のガラス転移点(Tg)を有する。これにより、ガラスがより低い温度で軟化するため、より低い温度でガラスをプレス成形し易くできる。また、プレス成形に用いる金型の酸化を低減して金型の長寿命化を図ることもできる。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)は、好ましくは680℃、より好ましくは650℃、最も好ましくは630℃を上限とする。なお、本発明の光学ガラスのガラス転移点(Tg)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスのガラス転移点(Tg)は、概ね100℃以上、具体的には150℃以上、さらに具体的には200℃以上であることが多い。
【0083】
また、本発明の光学ガラスは、720℃以下の屈伏点(At)を有することが好ましい。屈伏点(At)は、ガラス転移点(Tg)と同様にガラスの軟化性を示す指標の一つであり、プレス成形温度に近い温度を示す指標である。そのため、屈伏点(At)が720℃以下のガラスを用いることにより、より低い温度でのプレス成形が可能になるため、より容易にプレス成形を行うことができる。従って、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)は、好ましくは720℃、より好ましくは700℃、最も好ましくは680℃を上限とする。なお、本発明の光学ガラスの屈伏点(At)の下限は特に限定されないが、本発明によって得られるガラスの屈伏点(At)は、概ね150℃以上、具体的には200℃以上、さらに具体的には250℃以上であることが多い。
【0084】
また、本発明の光学ガラスは、低い部分分散比(θg,F)を有することが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、アッベ数(ν_(d))との間で、(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6571)≦(θg,F)≦(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6971)の関係を満たす。これにより、部分分散比(θg,F)の小さい光学ガラスが得られるため、この光学ガラスから形成される光学素子の色収差を低減できる。本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6571)、より好ましくは(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6591)、最も好ましくは(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6611)を下限とする。一方で、本発明の光学ガラスの部分分散比(θg,F)は、好ましくは(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6971)、より好ましくは(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6921)、最も好ましくは(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6871)を上限とする。
【0085】
[プリフォーム材及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0086】
このように、本発明の光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用である。その中でも特に、本発明の光学ガラスからプリフォーム材を形成し、このプリフォーム材を用いてリヒートプレス成形や精密プレス成形等を行い、レンズやプリズム等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、径の大きなプリフォーム材の形成が可能になるため、光学素子の大型化を図りながらも、カメラやプロジェクタ等の光学機器に用いたときに高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
【実施例】
【0087】
本発明の実施例(No.1?No.64)及び比較例(No.A)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n_(d))、アッベ数(ν_(d))、部分分散比(θg,F)、ガラス転移点(Tg)、屈伏点(At)、液相温度、分光透過率が5%、70%及び80%を示す波長(λ_(5)、λ_(70)及びλ_(80))の結果を表1?表10に示す。以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0088】
本発明の実施例(No.1?No.64)及び比較例(No.A)のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表1?表10に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1100?1500℃の温度範囲で2?5時間熔融した後、攪拌均質化してから金型等に鋳込み、徐冷して作製した。
【0089】
ここで、実施例(No.1?No.64)及び比較例(No.A)のガラスの、屈折率(n_(d))、アッベ数(ν_(d))及び部分分散比(θg,F)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01?2003に基づいて測定した。そして、求められたアッベ数(ν_(d))及び部分分散比(θg,F)の値について、関係式(θg,F)=-a×ν_(d)+bにおける、傾きaが0.0025のときの切片bを求めた。ここで、屈折率(n_(d))、アッベ数(ν_(d))、及び部分分散比(θg,F)は、徐冷降温速度を-25℃/hrにして得られたガラスについて測定を行うことで求めた。
【0090】
また、実施例(No.1?No.64)及び比較例(No.A)のガラスの、ガラス転移点(Tg)及び屈伏点(At)は、横型膨張測定器を用いた測定を行うことで求めた。ここで、測定を行う際のサンプルはφ4.8mm、長さ50?55mmのものを使用し、昇温速度を4℃/minとした。
【0091】
また、実施例(No.1?No.64)及び比較例(No.A)のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200?800nmの分光透過率を測定し、λ_(5)(透過率5%時の波長)、λ_(70)(透過率70%時の波長)及びλ_(80)(透過率80%時の波長)を求めた。
【0092】
また、実施例(No.1?No.64)及び比較例(No.A)のガラスの液相温度は、50mlの容量の白金製坩堝に30ccのカレット状のガラス試料を白金坩堝に入れて1250℃で完全に熔融状態にし、1180℃?1000℃まで10℃刻みで設定したいずれかの温度まで降温して12時間保持し、炉外に取り出して冷却した後直ちにガラス表面及びガラス中の結晶の有無を観察し、結晶が認められない一番低い温度を求めた。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
【表7】

【0100】
【表8】

【0101】
【表9】

【0102】
【表10】

【0103】
表1?表10に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも液相温度が1200℃以下、より詳細には1160℃以下であり、所望の範囲内であった。一方、比較例(No.A)のガラスは、液相温度が1200℃よりも高かった。このように液相温度が相違する理由として、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例(No.A)とは異なり、TiO_(2)成分、WO_(3)成分及びNb_(2)O_(5)成分のうち少なくともいずれかを含有している点が挙げられる。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例(No.A)よりも液相温度が低いことが明らかになった。
【0104】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ_(70)(透過率70%時の波長)がいずれも450nm以下、より詳細には413nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ_(5)(透過率5%時の波長)がいずれも400nm以下、より詳細には361nm以下であった。また、本発明の実施例の光学ガラスは、λ_(80)(透過率80%時の波長)がいずれも550nm以下、より詳細には530nm以下であった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、可視短波長における透過率が高く、着色し難いことが明らかになった。
【0105】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもガラス転移点(Tg)が680℃以下、より詳細には630℃以下であり、所望の範囲内であった。また、本発明の実施例(No.8)の光学ガラスは、屈伏点(At)が720℃以下、より詳細には680℃以下であり、所望の範囲内であった。
【0106】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n_(d))が1.75以上、より詳細には1.85以上であるとともに、この屈折率(n_(d))は1.95以下、より詳細には1.91以下であり、所望の範囲内であった。
【0107】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν_(d))が30以上、より詳細には31以上であるとともに、このアッベ数(ν_(d))は50以下、より詳細には41以下であり、所望の範囲内であった。
【0108】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも部分分散比(θg,F)が(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6571)以上、より詳細には(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6672)以上であった。その反面で、本発明の実施例の光学ガラスの部分分散比は、(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6971)以下、より詳細には(-2.50×10^(-3)×ν_(d)+0.6725)以下であった。そのため、これらの部分分散比(θg,F)が所望の範囲内にあることがわかった。
【0109】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、屈折率(n_(d))及びアッベ数(ν_(d))が所望の範囲内にありながらも、可視短波長における透過率が高く、耐失透性が高く、且つ、加熱軟化によるプレス成形を行い易いことが明らかになった。
【0110】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、リヒートプレス成形を行った後で研削及び研磨を行い、レンズ及びプリズムの形状に加工した。また、本発明の実施例の光学ガラスを用いて、精密プレス成形用プリフォームを形成し、精密プレス成形用プリフォームをレンズ及びプリズムの形状に精密プレス成形加工した。いずれの場合も、加熱軟化後のガラスには乳白化及び失透等の問題は生じず、安定に様々なレンズ及びプリズムの形状に加工することができた。
【0111】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
B_(2)O_(3)成分を20.0?46.0%
La_(2)O_(3)成分を13.639?25.0%
ZnO成分を5.0?27.228%
ZrO_(2)成分を1.0?15.0%
Nb_(2)O_(5)成分を0.1?14.674%
含有し、
Ta_(2)O_(5)成分の含有量が10.0%以下、
Li_(2)O成分の含有量が1.166%以下、
Gd_(2)O_(3)成分の含有量が4.153%以下、
WO_(3)成分の含有量が0.821%以下、
GeO_(2)成分の含有量が1.0%以下、
Ga_(2)O_(3)成分の含有量が0.010%以下、
SiO_(2)成分の含有量が13.0%以下
であり、
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル和(TiO_(2)+WO_(3)+Nb_(2)O_(5))が2.253?14.674%であり、
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するLn_(2)O_(3)成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Yb、Luからなる群より選択される1種以上)のモル和が17.130%以上30.0%以下であり、
前記Ln_(2)O_(3)成分のうち、2種以上の成分を含有し、
1.80以上1.95以下の屈折率(n_(d))を有し、30以上45以下のアッベ数(ν_(d))を有し、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す波長λ_(70)が401.5nm以下である光学ガラス。
【請求項2】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
TiO_(2)成分 0?12.0%及び
Nb_(2)O_(5)成分 0.1?10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル和(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5))が5.0%以上14.674%以下である請求項1又は2記載の光学ガラス。
【請求項4】
酸化物換算組成のモル比WO_(3)/(TiO_(2)+Nb_(2)O_(5)+WO_(3))が0.107以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項5】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
Y_(2)O_(3)成分 0?10.0%、
Yb_(2)O_(3)成分 0?10.0%及び
Lu_(2)O_(3)成分 0?10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から4のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
酸化物換算組成のモル比Ta_(2)O_(5)/WO_(3)が1.0以上10.0以下である請求項1から5のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項7】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%でSiO_(2)成分の含有量が11.601%以下である請求項1から6のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
Na_(2)O成分 0?10.0%及び
K_(2)O成分 0?10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から7いずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRn_(2)O成分(式中、RnはLi、Na、Kからなる群より選択される1種以上)のモル和が20.0%以下である請求項1から8のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
MgO成分 0?10.0%、
CaO成分 0?10.0%、
SrO成分 0?10.0%及び
BaO成分 0?10.0%
の各成分をさらに含有する請求項1から9のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項11】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対するRO成分(式中、RはMg、Ca、Sr、Baからなる群より選択される1種以上)のモル和が11.0%以下である請求項1から10のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項12】
酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
P_(2)O_(5)成分 0?10.0%、
Bi_(2)O_(3)成分 0?10.0%未満、
TeO_(2)成分 0?10.0%未満、
Al_(2)O_(3)成分 0?10.0%及び
Sb_(2)O_(3)成分 0?1.0%
の各成分をさらに含有し、
上記各金属元素の1種又は2種以上の酸化物の一部又は全部と置換した弗化物のFとしての含有量が0?6.0%である請求項1から11のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項13】
1.80以上1.92以下の屈折率(n_(d))を有する請求項1から12のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項14】
680℃以下のガラス転移点(Tg)を有する請求項1から13のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項15】
1160℃以下の液相温度を有し、
前記液相温度は、ガラス試料を完全に溶融状態にし、1180℃以下の10℃刻みの温度まで降温して12時間保持して冷却した後に、得られるガラス表面及びガラス中に結晶が認められない一番低い温度である、請求項1から14のいずれか記載の光学ガラス。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか記載の光学ガラスからなるプリフォーム材。
【請求項17】
請求項1から15のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項18】
請求項17記載の光学素子を備える光学機器。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-04-24 
結審通知日 2018-04-26 
審決日 2018-05-08 
出願番号 特願2016-147675(P2016-147675)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (C03C)
P 1 41・ 851- Y (C03C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉川 潤  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 山崎 直也
新居田 知生
登録日 2016-11-04 
登録番号 特許第6033486号(P6033486)
発明の名称 光学ガラス、プリフォーム材及び光学素子  
代理人 林 一好  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  
代理人 新山 雄一  
代理人 新山 雄一  
代理人 正林 真之  

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