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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B62B
管理番号 1341337
審判番号 無効2017-800002  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-01-12 
確定日 2018-05-15 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5410312号発明「折り畳み可能なベビーカー」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5410312号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5410312号(以下「本件特許」という。)についての特許出願は、平成22年1月22日になされ、平成25年11月15日にその特許権が設定登録された。
そして、本件無効審判請求に係る手続の経緯は、以下のとおりである。

平成29年 1月12日 本件無効審判請求
同年 4月 3日 被請求人より審判事件答弁書、訂正請求書の提出
同年 6月13日 請求人より審判事件弁駁書の提出
同年 7月18日 審理事項通知
同年 8月21日 被請求人より口頭審理陳述要領書の提出
同年 9月19日 請求人より口頭審理陳述要領書の提出
同年10月 3日 口頭審理

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
被請求人が平成29年4月3日に提出した訂正請求書により請求する訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし7に訂正しようとするものであって、その請求の内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所である。)。

特許請求の範囲の請求項1において、
「フレーム部材と、前記フレーム部材に回動可能に接続されたアームレストと、前記アームレストに回動可能に接続された前脚および後脚と、を有し、展開状態から折り畳み状態へ折り畳み可能なベビーカー本体と、
第1位置と第2位置との間を揺動可能に前記ベビーカー本体に接続されたハンドルと、
前記ハンドル上に設けられた摺動部材であって、前記ベビーカー本体に設けられた係合部と係合して前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を規制する係合位置と、前記係合部との係合が解除され前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を可能する解除位置と、の間を前記ハンドルに対して摺動可能な摺動部材と、
前記アームレストから突出した突出部材と、を備え、
前記突出部材は、前記ベビーカー本体が前記展開状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路外に配置され、当該摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を可能にし、
前記突出部材は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれ当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路内に配置され、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を規制する、
ことを特徴とする折り畳み可能なベビーカー。」
との記載を、
「フレーム部材と、前記フレーム部材に回動可能に接続されたアームレストと、前記アームレストに回動可能に接続された前脚および後脚と、を有し、展開状態から折り畳み状態へ折り畳み可能なベビーカー本体と、
第1位置と第2位置との間を揺動可能に前記ベビーカー本体に接続されたハンドルと、
前記ハンドル上に設けられた摺動部材であって、前記ベビーカー本体に設けられた係合部と係合して前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を規制する係合位置と、前記係合部との係合が解除され前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を可能する解除位置と、の間を前記ハンドルに対して摺動可能な摺動部材と、
前記係合部とは別個に前記アームレストに設けられ前記アームレストから突出した突出部材と、を備え、
前記突出部材は、前記ベビーカー本体が前記展開状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路外に配置され、当該摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を可能にし、
前記突出部材は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれ当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路内に配置され、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を規制する、
ことを特徴とする折り畳み可能なベビーカー。」
に訂正する。
(請求項1の記載を直接的ないし間接的に引用する請求項2?7も同様に訂正する。)

2 訂正の適否についての判断
本件訂正による訂正事項は、一群の請求項に対してなされたものであって(特許法第134条の2第3項)、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「前記アームレストから突出した突出部材」との発明特定事項を、本件明細書の段落【0026】、【0040】、【図3】、【図6】?【図8】の記載を根拠として「前記係合部とは別個に前記アームレストに設けられ前記アームレストから突出した突出部材」と訂正するものである。
これは、「アームレストから突出した突出部材」の構造及び配置箇所を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する(特許法第134条の2第1項ただし書き第1号)。
また、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない(特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項及び第6項)。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、同条第3項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)は、訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された以下のとおりのものである
「【請求項1】
フレーム部材と、前記フレーム部材に回動可能に接続されたアームレストと、前記アームレストに回動可能に接続された前脚および後脚と、を有し、展開状態から折り畳み状態へ折り畳み可能なベビーカー本体と、
第1位置と第2位置との間を揺動可能に前記ベビーカー本体に接続されたハンドルと、
前記ハンドル上に設けられた摺動部材であって、前記ベビーカー本体に設けられた係合部と係合して前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を規制する係合位置と、前記係合部との係合が解除され前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を可能する解除位置と、の間を前記ハンドルに対して摺動可能な摺動部材と、
前記係合部とは別個に前記アームレストに設けられ前記アームレストから突出した突出部材と、を備え、
前記突出部材は、前記ベビーカー本体が前記展開状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路外に配置され、当該摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を可能にし、
前記突出部材は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれ当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路内に配置され、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を規制する、
ことを特徴とする折り畳み可能なベビーカー。

【請求項2】
前記突出部材は、前記アームレストと前記フレーム部材との回動中心を挟み前記アームレストの長手方向において前記前脚および後脚が接続されている側とは反対の側における前記アームレスト上の位置に、設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の折り畳み可能なベビーカー。

【請求項3】
前記突出部材は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれて当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合に、前記係合位置に位置する前記摺動部材に対向する板状部と、前記板状部に接続されたリブ部と、を有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の折り畳み可能なベビーカー。

【請求項4】
前記板状部は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれて当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合における前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置へ向けた移動方向に略直交する方向に延び、
前記リブ部は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれて当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合における前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置へ向けた移動方向と略平行に延びる、
ことを特徴とする請求項3に記載の折り畳み可能なベビーカー。

【請求項5】
前記ハンドルが前記第2位置上に配置された状態で前記ハンドル上の前記摺動部材と係合する前記係合部は、前記ベビーカー本体の前記フレーム部材上に配置されており、
前記ベビーカー本体の折り畳み動作中、前記ハンドルの前記フレーム部材に対する相対位置が一定に保持されながら、前記フレーム部材に対して前記アームレストが回動する、
ことを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の折り畳み可能なベビーカー。

【請求項6】
前記ベビーカー本体は、前記後脚および前記フレーム部材のそれぞれに回動可能に接続され前記後脚および前記フレーム部材を連結する連結ブラケットと、をさらに有し、
前記ハンドルは、前記フレーム部材と前記連結ブラケットとの回動軸線と同一の軸線を中心として、前記ベビーカー本体に揺動可能となっている、
ことを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の折り畳み可能なベビーカー。

【請求項7】
前記ハンドルが前記第1位置に配置された状態で前記摺動部材と係合し得る更なる係合部が、さらに、前記ベビーカー本体に設けられ、
前記第1位置に配置された前記ハンドル上の前記摺動部材が前記更なる係合部と係合することにより、前記ハンドルの前記第1位置からの揺動が規制されるとともに、前記ベビーカー本体の折り畳み動作も規制される、
ことを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の折り畳み可能なベビーカー。」

第4 請求人の主張
請求人は、特許第5410312号の請求項1ないし7についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めており、審判請求書、審判事件弁駁書(以下「弁駁書」という。)及び口頭審理陳述要領書において主張する無効理由及び証拠方法は次のとおりである。

1 無効理由
本件特許発明1ないし7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
そして、その主張の概要は以下のとおりである。

(1)本件特許発明1ないし4及び7について
ア 甲第1号証に記載された発明に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 甲第1号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件特許発明5について
ア 甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 甲第1号証に記載された発明、甲第7号証に記載された技術的事項及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件特許発明6について
ア 甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 証拠方法
請求人は、審判請求書に添付して甲第1号証ないし甲第6号証を提出し、弁駁書に添付して甲第7号証を提出している。

甲第1号証:特開2002-264820号公報
甲第2号証:特開平9-263246号公報
甲第3号証:実願昭61-129022号(実開昭63-34766号)
のマイクロフィルム
甲第4号証:実願昭61-129023号(実開昭63-34767号)
のマイクロフィルム
甲第5号証:特開平1-262252号公報
甲第6号証:特開2005-96590号公報
甲第7号証:特開平8-169348号公報

第5 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求めており、審判事件答弁書、陳述要領書において概ね以下のとおり主張している。

1 訂正について
平成29年4月3日付け訂正請求による訂正は、全ての訂正要件に適合しており、訂正は認められるべきものである。

2 無効理由について
(1)本件特許発明1ないし4及び7は、甲第1号証に記載された発明に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第1号証に記載された発明、甲第7号証に記載された技術的事項及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された周知技術に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、甲第1号証に記載された発明、甲第6号証に記載された技術的事項及び甲第7号証に記載された技術的事項に基いて、本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第6 当審の判断
1 補正拒否の決定
請求人が提出した弁駁書による請求の理由の補正については、特許法第131条の2第2項の規定に基づき、第1回口頭審理調書に記載される下記のとおり決定した。

平成29年7月18日付け審理事項通知書の「第1 審判合議体の暫定的な見解」の「2 無効理由の確認」の「(1)請求の理由の補正許否」のア、イのとおり、平成29年6月13日付け審判事件弁駁書による請求の理由の補正を許可する。

2 甲各号証に記載された事項及び記載された発明等
(1)甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開2002-264820号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付加した。以下同様。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】使用可能な展開状態、或いは折り畳み状態とし得るようにしたベビーカー本体に、U字状の手押し杆を前後に揺動固定可能に装着したベビーカーにおいて、後方側に傾斜された手押し杆の係止部材が係合する、ベビーカー本体に設けられた係止突起及びその係止突起に係合する上記係止部材に、ベビーカー本体の折り畳み状態時に、上記係止部材と係止突起との係合による手押し杆のロックが解除されることを阻止するロック解除阻止機構を設けたことを特徴とする、ベビーカー。
【請求項2】ベビーカー本体の外側面の前後に、上記前後に揺動される手押し杆に設けられた係止部材を選択的に係合される係止突起を設けるとともに、後方側に傾斜された手押し杆が係合する後部側の係止突起の先端には、後方側に傾斜している手押し杆の軸線方向に長径を有する長円形部が形成され、上記後部側の係止突起に係合する係止用凹部の内面側には、ベビーカーの折り畳み時に手押し杆の軸線に対してほぼ直交方向に揺動された長円形部の長径側の先端部が係合し、上記係止部材の係止解除方向への移動を阻止する段部が形成されていることを特徴とする、請求項1記載のベビーカー。」

イ 「【0008】図1は本発明のベビーカーの概略構成を示す斜視図、図2はその側面図であって、前輪11を有する左右一対の前脚12、後輪13を有する左右一対の後脚14、ほぼU字状に屈曲された手押し杆15、左右一対のアームレスト16、およびそのアームレスト16の一端がそれぞれ枢着された、互いに平行に延びる左右2本のパイプ17を有している。
【0009】上記各アームレスト16の他端部には前脚12が枢着されており、その左右のアームレスト16の先端部間には弧状の屈曲可能なガードアーム18が着脱自在に掛け渡されている。また左右のアームレスト16には後脚14の上端が枢着されている。左右の前脚12は足乗せ板19を有する前側連結バー20によって連結されており、左右の後脚14は後側連結バー21によって連結されている。さらに各前脚12の中間部には連結バー22の前端がそれぞれ枢着され、その連結バー22の後端は、それぞれ前記パイプ17の下部に固着された後脚支持部材23に枢着されている。また左右の連結バー22は上側連結バー24によって連結されている。そして、これらの前脚12、後脚14、アームレスト16、パイプ17、およびそれらを連結する連結バーによってベビーカー本体が構成されている。
【0010】図3に特に拡大して示すように、後脚14にはL字状のブラケット25の下端部が枢着されており、その中間部が上記後脚支持部材23に枢着されている。そのブラケット25の自由端部には後脚14をパイプ17にロックするロック部材26の係止段部26aと係合する切り欠き段部25aが設けられている。上記ロック部材26は上記パイプ17に摺動可能に装着されており、後述する遠隔操作装置によってパイプ17に沿って上下摺動操作されるようにしてある。また、後脚支持部材23には後脚14と対向する面に展開時の後脚14に当接しその展開状態を保持する段部23aが形成されている
【0011】しかして、図3に示すように、ロック部材26がL字状のブラケット25の切り欠き段部25aに係合すると、そのブラケット25を介して後脚14とパイプ17とがロックされ、ベビーカー本体が使用可能な展開状態に保持される。一方、後述する遠隔操作装置によってロック部材26が一点鎖線で示すように引き上げられると、ロック部材26によるロックが解放され、アームレスト16、前脚12、後脚14が一点鎖線で示すように上方に揺動可能となり、携帯等に便利なように2つに折り畳むことができる。」

ウ 「【0012】ところで、図1および図4に示すように、前記左右のパイプ17の下部にそれぞれ固着された後脚支持部材23には、その外側面にU字状の手押し杆15の下端部が軸27を中心として前後に揺動可能に枢着されている。また、アームレスト16の外側面には、その前端部及び後端部に横方向に突出する係止突起28、29が固設されている。一方、手押し杆15には上記係止突起28或いは29に係合する係止部材30がその手押し杆15に沿って摺動可能に装着されており(図4、5)、その係止部材30はスプリングを介して下方に付勢されている。
【0013】上記アームレスト16の前端部側の係止突起28は円柱状であり、後端部の係止突起29の先端には、後方側に傾斜している手押し杆15の軸線方向に長径を有する長円形部29a(図6)が形成されている。一方、係止部材30には、図5に示すように、パイプ17と対向する面側に上下方向に延びるとともに下端部に後方向に開放する開放部31aを有するL字状の係止用の第1の凹部31が設けられており、またその第1の凹部31の下方には上下方向に延びるとともに前方及び下方に開放する第2の係止用凹部32が設けられている。第1の凹部31の上下方向に延びる部分の内面側には、図6に示すように、係止突起29の長円形部29aが回動し得るだけの溝31bが形成され、その溝31bには前壁側下端部に、段部31cが形成されている。
【0014】しかして、後述する遠隔操作装置によって係止部材30を上方に引き上げて手押し杆15を後方に揺動させると、第1の凹部31の後方への開方部31aを経て第1の凹部31内に係止突起29が挿入され、係止部材30の下方への移動によって上記係止突起29が第1の凹部31に係合される(図6)。これによって、図2の実線で示すように、手押し杆15が後方揺動位置、すなわち背面押し状態に固定される。一方、図5の鎖線に示すように、係止部材30を上方に引き上げて手押し杆15を前方に揺動させると、第2の係止用凹部32が係止突起28に係合し、係止部材30の下方への移動によって図2および図5の鎖線で示すように、手押し杆15が前方揺動位置、すなわち対面押し状態に固定される。
【0015】一方、前記ベビーカー本体の折り畳み時にアームレスト16が上方に揺動されたときには、図7に示すように、アームレスト16に固設された係止突起29の長円形部29aも回動し、その長円形部29aの先端部が前記溝31b内に位置している。したがって、このような折り畳み状態時に於いて遠隔操作装置の誤操作により手押し杆15切り替え用の係止部材30を引き上げようとした場合には、長円形部29aの先端部が段部31cに係合し、係止部材30の上方への移動が阻止される。そのため間違って係止部材30が上方に移動されて手押し杆のロックが解除され、ベビーカー本体が不用意に展開状態になることが防止される。」

エ 「【0024】すなわち、開閉操作レバー45aを作動するとワイヤーケーブル44aによって係止部材30がスプリングに抗して引き上げられ、手押し杆15のロックが開放される。したがって、手押し杆15を前後に揺動させ、対面押し状態、或いは背面押し状態にすることができる。また、手押し杆15を背面押しの状態にした後、他方の開閉操作レバー45bを作動させるとワイヤーケーブル44bによってロック解除部材33が引き上げられ、ロック解除杆35および作動板36を介してロック部材26が引き上げられ、ブラケット25とのロックが解除され、後脚14のロックが解除される。したがって、前述のように、アームレスト16、前脚12、および後脚14を、図10の鎖線で示すように、折り畳み状態に移動させることができる。」

オ 上記ウの段落【0014】の「係止部材30の下方への移動によって上記係止突起29が第1の凹部31に係合される」位置は、「係合部材30」と「係止突起29」との「係合位置」といえるものであり、「係止部材30を上方に引き上げ」た位置は、手押し杆15の後方揺動位置からの揺動を可能とするのは明らかであり、「解除位置」といえるものである。
また、上記エに手押し杆15が背面押しの状態すなわち「後方揺動位置」に配置されているとき、ベビーカー本体を折り畳み状態に移動させることができる旨記載されている。一方、手押し杆15が「前方揺動位置」に配置されているとき、手押し杆15はパイプ17から離れるので、手押し杆15のロック解除杆35がパイプ17の作動板36に作用できず、ベビーカー本体を折り畳み状態に移動させることができないことは明らかといえる。

カ 上記ア?エの記載事項、上記オの認定事項及び【図1】?【図10】の記載によれば、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。なお、符号の半角英文字は全角表記とした。

〔甲1発明〕
「パイプ17と、前記パイプ17に枢着されたアームレスト16と、前記アームレスト16に枢着された前脚12、後脚14、およびそれらを連結する連結バー22によって構成される使用可能な展開状態、或いは折り畳み状態とし得るようにしたベビーカー本体と、
前方揺動位置と後方揺動位置に揺動固定可能に前記ベビーカー本体に装着されたU字状の手押し杆15と、
前記手押し杆15に装着された係止部材30であって、前記係止部材30の下方への移動によって前記ベビーカー本体のアームレスト16の外側面の後端部に固設された係止突起29に係合して前記手押し杆15を前記後方揺動位置に固定する係止位置と、前記係止部材30を上方に引き上げて手押し杆15を後方揺動位置からの揺動を可能とする解除位置と、の間を前記手押し杆15に対して摺動可能な係止部材30と、
後方揺動位置に傾斜された前記手押し杆15が係合する前記係止突起29の先端には、後方揺動位置に傾斜している手押し杆15の軸線方向に長径を有する長円形部29aが形成され、前記係止部材30には、前記係止突起29に係合する係止用の第1の凹部31が設けられ、前記第1の凹部31の内面側には段部31cが形成され、前記段部31cは、ベビーカーの折り畳み時に前記手押し杆15の軸線に対してほぼ直交方向に揺動された前記長円形部29aの長径側の先端部が係合し、前記係止部材30の係止解除方向への移動を阻止する、
ベビーカー。」

(2)甲第2号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平9-263246号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0024】 この折りたたみ式ベビーカーは、図1または2に示すように、前脚2と後脚3と肘掛部材4と押棒5と側棒6等を左右共通の側面部材として備える。」

イ 「【0027】一対の後支棒5-1の両外側には、押棒5が位置する。押棒5の下端は、前記後支棒5-1の下端とともに、枢支ピン32によってスライダ7に連結され、枢支ピン32の回りに回動可能となる。そして押棒5の長手方向途中には、チェンジフック5-2が設けられる。チェンジフック5-2には、押棒5の回動方向の両方に各フック5-21、5-22(図4?図6参照)が設けられ、それぞれ肘掛部材4の前方に設けられたフックピン5-21A,後支棒5-1の後端に設けられたフックピン5-22Aに係止する。フックピン5-21Aに係止すれば対面状態となり、フックピン5-22Aに係止すれば後押し状態となる。この様に択一的な係止がなされる。
【0028】チェンジフック5-2は、図示しないバネによって下向きに付勢されることで、下向きに開口している各フック5-21、5-22がフックピン5-21A,5-22Aに係止する形状となっている。また、このチェンジフック5-2は、押棒5に設けられた操作ボタン5-3を操作することで図示しないワイヤを介して持ち上げられ、前記係止が外れる構成になっている。また、各フック5-21、5-22は、押棒5の回動に伴って、フックピン5-21A,5-22Aに接触すると、その接触圧によって押し上げられる力を受ける傾斜面形状5-23、5-24を有する。フック5-21は、押棒5の長手方向に沿って形成される溝からなり、押棒5の枢支ピン32を中心とした回動を阻止する。フック5-22は、押棒5の上方側が閉じた湾曲形状を有し、押棒5の回動のみならず、下方への移動をも阻止する。」

(3)甲第3号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証(実願昭61-129022号(実開昭63-34766号)のマイクロフィルム)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「前記した手押し扞3は、それに昇降を自在とするようにして取付けられた係止鉤板3’が、肘掛け杆4の先端部側面及び支承扞31の上端側面に形成した係止突起32,32と選択的に係止することによって、第1図例示のように幼児と対面する側に起立させたり、あるいは背当て部5の側面側に位置させたりすることができるようになっている。」(明細書第7ページ第3?10行)

(4)甲第4号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証(実願昭61-129023号(実開昭63-34767号)のマイクロフィルム)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「これらの起立位置の変更は手押し扞3に昇降を自在とするようにして取付けられた係止鉤板3’が、肘掛け扞4の先端部側面及び支承扞31の先端側面に形成した係止突起32,32と選択的に係止することによって行うものである。」(明細書第8ページ第8?13行)

(5)甲第5号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証(特開平1-262252号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「この基柱9はほゞコの字形状の押棒8と連結固定されている。」(第2ページ右下欄第10?11行)

イ 「第7図は、基柱9内部に設けられワイヤーによって摺動可能に設けられたノッチ付きスライダの詳細構造を示す図面であって、」(第3ページ右上欄第3?5行)

ウ 「ロック部材30はそのガイドとして機能する支柱31に沿って摺動可能に構成されている。」(第4ページ左上欄第13?15行)

エ 「このときロック部材30のピンAは、第12図に示すようにスライダ19の細長い切込みを有するノッチN1の最上端に位置している。この初期位置において、乳母車が組立られた状態にある第12図の状態においては、組立状態がロックされている。」(第4ページ左下欄第6?11行)

オ 「この(第12図に示す)状態において基柱に内側に向けて植設された左右一対のピンC(第5図及び第6図)はひじ掛け5の後方端に設けられたピン受け35によってクリック固定されている。」(第4ページ右下欄第4?7行)

カ 「押棒8を第12図の実線で示す位置まで戻しその後つまみ23をP1の位置に戻すことによって前に述べた初期状態(組立時のロック状態)が形成される。」(第5ページ左上欄第6?9行)

(6)甲第6号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証(特開2005-96590号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明はベビーカーに係り、特に、使用可能な展開状態、或いは折り畳み状態とし得るようにするとともに、手押し杆を背面押し状態或いは対面押し状態に選択的に切換可能としたベビーカーに関する。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、上述のように手押し杆15に設けられた遠隔装置27により対面押し状態或いは背面押し状態に切り換え可能なベビーカーにおいて、ベビーカー本体を2つ折り状態に折り畳んだ状態で遠隔操作装置を誤操作して係止フックを解除した場合、2つ折り状態になっているベビーカー本体が手押し杆15に設けられた左右の係止フック30間を通り抜け、後方に倒れてしまうことがある等の問題がある。そこで、例えば手押し杆15に、後方に移動するベビーカー本体が当接してその後方への転倒を防止する転倒防止部材を設けたり、或いは係止フック30に係合するアームレスト16に設けられた係止突起16a、16bを左右方向に長くして、折り畳み時に上記係止突起が手押し杆15に当たり、上記ベビーカー本体が後方へ倒れることを防止することが行われている。しかしながら、前者においては傾倒防止用の特別の部材を設ける必要があり、後者においては外観が損なわれる等の問題がある。
【0012】
本発明は、このような点に鑑み、外観を犠牲にすることがなく、しかも特別の転倒防止用の部材を設ける必要もなく、上記切換誤操作を防止しできるようにしたベビーカーを得ることを目的とする。」

ウ 「【0020】
後脚14にはL字状のブラッケット25の下端部が枢着されており、そのブラッケット25の中間部が上記パイプ17の下端部に軸31により枢着され、さらに上記軸31に手押し杆15が前後に揺動可能に枢着されている。・・・」

(7)甲第7号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証(特開平8-169348号公報)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 操作ボタンを操作して手摺側部の前側,後側係止ピンにそれぞれ係止させることにより対面押し及び背面押しの前後方向二位置に切り換え可能な押棒の切換え時に乳母車を全開状態のままロックするための乳母車の全開ロック機構であって、
前記押棒上に第1のスライド部材をスライド自在に設け、前記各係止ピンに係止する下方の係止位置と該係止状態が解除される上方の係止解除位置とをとり得るように、該第1のスライド部材を前記操作ボタンの操作に連動させて上下動可能に構成するとともに、
前記押棒と対向するフレームに、当接部を有する第2のスライド部材をスライド自在に設け、前記操作ボタンの操作に連動して、前記第1のスライド部材の係止解除位置に対応する上方のロック位置をとり得るように上下動可能に構成し、
前記第2のスライド部材のロック位置において、前記当接部に側方から当接することにより前記フレームの折り畳み方向への移動を規制する折り畳み規制手段を設けた、
ことを特徴とする乳母車の全開ロック機構。」

イ 「【0002】
【従来の技術】
押棒を備えた開閉可能な乳母車において、特開平1-106772号公報に示すように、手元の操作ボタンの操作により、乳母車の全開状態のロック解除が行われたり、押棒が対面押し及び背面押しの二位置に切り換えられたりするものが提案されている。この種の乳母車では、手摺の側部には、押棒を前記各位置に係止するための係止ピンが設けられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
前記従来の乳母車では、押棒を切り換える際に、乳母車の胴ガードを持ち上げる等、操作者が誤って乳母車を操作した結果、乳母車の全開状態のロックが解除される場合がある。このとき、操作者は乳母車を再び全開状態に戻してロックする等の作業が必要になるため、操作が面倒である。
【0004】また前記従来の乳母車では、乳母車を全開状態から少し折り畳んだ状態で、あるいは完全に折り畳んだ状態で、操作者が操作ボタンを誤って操作した際に、押棒が一方の係止ピンから外れてフリーの状態になる場合がある。このとき、押棒は他方の係止ピンで止まるが、乳母車を再び全開状態にする際には押棒を元の位置に戻してやる必要が生じるため、操作が面倒である。」

ウ 「【0012】また乳母車を折り畳む際には、第1のスライド部材が係止ピンに係止した係止位置の状態で、操作ボタンを操作して、乳母車の全開状態のロックを解除することにより行う。この折り畳み時には、フレームに設けられた第2のスライド部材の当接部に、係止解除規制手段が上方から当接している。
【0013】したがって、この状態から操作者が誤って押棒を切り換えようとしても、第2のスライド部材の上方への移動が係止解除規制手段により規制される結果、第1のスライド部材の係止解除位置への移動が規制されるので、第1のスライド部材と係止ピンとの係止状態は維持される。これにより、乳母車の折り畳み状態で押棒がロックされることになる。」

エ 「【0018】手摺ガード4の両側方には左右一対の押棒10が設けられている。押棒10は、その下部がブラケット11にピン16で連結されて前後方向回動自在となっており、背面押しの位置(図1)と対面押しの位置(図2)との二位置をとり得るようになっている。また手摺5の側部には、押棒10を前記各位置に係止するための後側係止ピン7及び前側係止ピン8が取り付けられている。」

オ 「【0024】スライドロック部材42の下部には、ブラケット11に形成された係合凹部11aに、乳母車1の全開状態において上方から係合し得る係合突起部(当接部)44が設けられている。係合突起部44が係合凹部11aに係合することにより(図5参照)、乳母車1が全開状態でロックされるようになっている。」

カ 「【0030】次に、押棒10を前後方向に回動させて、対面押しの位置(図2)におき、スライダ20の前側係止部22を前側係止ピン8に係合させる。これにより、押棒10の位置が切り換えられる。
【0031】この押棒10の切換え時において、押棒10を前後方向に回動させることなく、操作者が誤って胴ガード6を持ち上げた場合には、後部フレーム40とともにスライドロック部材42の係合突起部44が図7の右方(折り畳み方向)に移動しようとするが、このとき上述のように、係合突起部44にはブラケット11のストッパ部11cが当接しているので、係合突起部44がストッパ部11cに干渉して、係合突起部44の右方への移動が規制される。この結果、乳母車1は折り畳まれずに全開状態のままロックされることになる。
【0032】このように、押棒切換え時には、操作者の誤った操作で乳母車が折り畳まれることがなく、乳母車が全開状態のままロックされた状態に維持されるため、乳母車の操作性を向上できる。」

キ 「【0033】また、乳母車1を折り畳む際には、押棒10を後側係止ピン7に係止させた状態で、切換えスイッチ14を全開状態ロック解除側に切り換えて、操作ボタン13を押し込む。すると、同様にワイヤ27がスライドチューブ30を上方の中間位置(図4(b))に引き上げる。なおこのとき、スライドブロック31は移動しないため、スライダ20の後側係止部21と後側係止ピン7との係止状態は維持されたままである。
【0034】スライドチューブ30の移動とともに下端の係止ピン32も上方に移動する。これにより、図6に示すように、係止ピン32がガイド板部43を介してスライドロック部材42を上方の中間位置に押し上げる。この結果、スライドロック部材42の係合突起部44がブラケット11の係合凹部11aから外れて、該係合突起部44がブラケット11の溝11bの開口部と対向する位置に配置される。この状態から操作者が胴ガード6を持ち上げ、乳母車1の前後方向に力を加えれば、乳母車1が折り畳まれることになる(図3参照)。なお、このときブラケット11は下方に反転した状態になっている。
【0035】この乳母車1の折り畳み状態では、図6の二点鎖線に示すように、係合突起部44は溝11b内に挿入されており、係合突起部44には、溝11bの立壁部50が上方から当接している。なお、この図6の二点鎖線は、乳母車1を少し折り畳んだ状態におけるスライドロック部材42及び係合突起部44の位置を示している。また乳母車1を完全に折り畳んだ状態(全閉状態)にした場合においても、係合突起部44は同様に溝11b内に位置している。
【0036】この状態から操作者が誤って、切換えスイッチ14を押棒切換え側に切り換え、操作ボタン13を押し込んだとする。すると、ワイヤ27の作動によりスライドチューブ30とともに係止ピン32が上方へ移動しようとするが、このとき、係合突起部44が溝11bの外周の立壁部50に干渉して、スライドロック部材42は上方に移動することができない。このため、操作ボタン13を押し込んでも、係止ピン32がスライドロック部材42のガイド板部43に干渉して、スライドチューブ30およびスライダ20は上方に移動することができない。
【0037】これにより、押棒10が乳母車1の折り畳み状態でロックされ、スライダ20と後側係止ピン7との係止状態が維持されることになる。このように、乳母車1の折り畳み状態では、操作者の誤った操作により押棒10が後側係止ピン7から外れることがなく、押棒10が常時係止状態に維持されるので、乳母車1を再び開状態にする際に、その開状態への移行をスムーズに行うことができ、乳母車の操作性を向上できる。」

3 本件特許発明1
以下、請求人が主張する甲第1号証のみから容易想到との理由を「理由1-1」、甲第1号証及び甲第2号証ないし甲第5号証から容易想到との理由を「理由1-2」、甲第1号証及び甲第7号証から容易想到との理由を「理由1-3」とする。
(1)理由1-1について
ア 対比
(ア)本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、後者の「パイプ17」は前者の「フレーム部材」に相当し、以下同様に、「アームレスト16」は「アームレスト」に、「前脚12」は「前脚」に、「後脚14」は「後脚」に、「ベビーカー本体」は「ベビーカー本体」に、「手押し杆15」は「ハンドル」に、「前方揺動位置」は「第1位置」に、「後方揺動位置」は「第2位置」に、「係止突起29」は「係合部」にそれぞれ相当する。
また、後者の「係止部材30」は、「手押し杆15に摺動可能に装着され」るものであるから、前者の「摺動部材」に相当するといえる。

(イ)後者の「パイプ17と、前記パイプ17に枢着されたアームレスト16と、前記アームレスト16に枢着された前脚12、後脚14、およびそれらを連結する連結バーによって構成される使用可能な展開状態、或いは折り畳み状態とし得るようにしたベビーカー本体と」は、前者の「フレーム部材と、前記フレーム部材に回動可能に接続されたアームレストと、前記アームレストに回動可能に接続された前脚および後脚と、を有し、展開状態から折り畳み状態へ折り畳み可能なベビーカー本体と」に相当するといえる。

(ウ)後者の「前方揺動位置と後方揺動位置に揺動固定可能に前記ベビーカー本体に装着されたU字状の手押し杆15と」は、前者の「第1位置と第2位置との間を揺動可能に前記ベビーカー本体に接続されたハンドルと」に相当するといえる。

(エ)後者の「前記手押し杆15に装着された係止部材30であって、前記係止部材30の下方への移動によって前記ベビーカー本体のアームレスト16の外側面の後端部に固設された係止突起29に係合して前記手押し杆15を前記後方揺動位置に固定する係止位置と、前記係止部材30を上方に引き上げて手押し杆15を後方揺動位置からの揺動を可能とする解除位置と、の間を前記手押し杆15に対して摺動可能な係止部材30と」は、前者の「前記ハンドル上に設けられた摺動部材であって、前記ベビーカー本体に設けられた係合部と係合して前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を規制する係合位置と、前記係合部との係合が解除され前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を可能する解除位置と、の間を前記ハンドルに対して摺動可能な摺動部材と」に相当するといえる。

(オ)後者の「長円形部29a」は、ベビーカー本体が展開状態にある場合、「係止部材30」の係合位置から解除位置までの移動経路外に配置され、「係止部材30」の係合位置から解除位置までの移動を可能とすることは明らかであり、また、手押し杆15が後方揺動位置に配置された状態でベビーカー本体が折り畳まれ当該ベビーカー本体が折り畳み状態にある場合、「係止部材30」の係合位置から解除位置までの移動経路内に配置され、「係止部材30」の係合位置から解除位置までの移動を規制するものであることは明らかである。また、当該「長円形部29a」は、アームレスト16の外側面の後端部に固設された「係止突起29の先端」に形成されており、「係止突起29」及びその先端に形成される「長円形部29a」は、「アームレスト16」から突出していることは明らかであるから、「係止突起29」及びその先端に形成される「長円形部29a」は「突出部材」といえるものである。
そうすると、後者の「後方揺動位置に傾斜された前記手押し杆15が係合する前記係止突起29の先端には、後方揺動位置に傾斜している手押し杆15の軸線方向に長径を有する長円形部29aが形成され、前記係止部材30には、前記後端部の係止突起29に係合する係止用の第1の凹部31が設けられ、前記第1の凹部31の内面側には段部31cが形成され、前記段部31cは、ベビーカーの折り畳み時に前記手押し杆15の軸線に対してほぼ直交方向に揺動された前記長円形部29aの長径側の先端部が係合し、前記係止部材30の係止解除方向への移動を阻止し」と、前者の「前記係合部とは別個に前記アームレストに設けられ前記アームレストから突出した突出部材と、を備え、前記突出部材は、前記ベビーカー本体が前記展開状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路外に配置され、当該摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を可能にし、前記突出部材は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれ当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路内に配置され、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を規制する」とは、「前記アームレストから突出した突出部材と、を備え、前記突出部材は、前記ベビーカー本体が前記展開状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路外に配置され、当該摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を可能にし、前記突出部材は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれ当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路内に配置され、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を規制する」の限度で一致するといえる。

(カ)後者の「ベビーカー」は、「ベビーカー本体」が「展開状態、或いは折り畳み状態とし得るように」されているから、折り畳み可能なものであることは明らかである。
そうすると、後者の「ベビーカー」は、前者の「折り畳み可能なベビーカー」に相当するといえる。

(キ)以上のことより、本件特許発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点〕
「フレーム部材と、前記フレーム部材に回動可能に接続されたアームレストと、前記アームレストに回動可能に接続された前脚および後脚と、を有し、展開状態から折り畳み状態へ折り畳み可能なベビーカー本体と、
第1位置と第2位置との間を揺動可能に前記ベビーカー本体に接続されたハンドルと、
前記ハンドル上に設けられた摺動部材であって、前記ベビーカー本体に設けられた係合部と係合して前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を規制する係合位置と、前記係合部との係合が解除され前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を可能する解除位置と、の間を前記ハンドルに対して摺動可能な摺動部材と、
前記アームレストから突出した突出部材と、を備え、
前記突出部材は、前記ベビーカー本体が前記展開状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路外に配置され、当該摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を可能にし、
前記突出部材は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれ当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路内に配置され、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を規制する、
折り畳み可能なベビーカー。」

〔相違点1〕
「突出部材」に関し、本件特許発明1は、「前記係合部とは別個に前記アームレストに設けられ」ているのに対し、甲1発明は、「アームレスト16の外側面の後端部に固設された係止突起29」及びその先端に形成される「長円形部29a」であり、本件特許発明1の「係合部」に相当する「係止突起29」と一体となっている点。

イ 判断
甲第1号証には、破損等を防ぐため「係止突起29」と、その先端に設けられる「長円形部29a」とを別体とすることの記載や示唆は何らなく、ベビーカーの技術分野において、係合とその他の機能を兼ね備えた一体化されている部品を破損等の防止の観点から別体化することを技術常識または設計事項とする証拠もなく、改良の契機となる記載や示唆が存在しない甲第1号証に記載されるところの甲1発明において、当該契機を示す証拠もなしに上記相違点1に係る本願特許発明1の事項を有するものとすることは、当業者であっても容易に想到し得たこととはいえない。
請求人は、弁駁書及び陳述要領書において、係止突起29の柱部は、アームレストが回動すると、係止部材30の内面と擦れることにより磨耗し、係止突起29という一つの部品に二つの負荷が加わることから、破損しやすく耐久性が低くなっていることが一見して明らかであるとして、引用発明において、係止部材30に係合する新たな係止突起を別個にベビーカー本体(例えばパイプ17)に設けて、上記相違点1に係る本願特許発明1の事項を有するものとすることが当業者にとり容易想到である旨主張している。
しかしながら、引用発明は係止突起29とその先端に形成された長円形部29aにより「折り畳み状態時に於いて遠隔操作装置の誤操作により手押し杆15切り替え用の係止部材30を引き上げようとした場合には、長円形部29aの先端部が段部31cに係合し、係止部材30の上方への移動が阻止される。そのため間違って係止部材30が上方に移動されて手押し杆のロックが解除され、ベビーカー本体が不用意に展開状態になることが防止される」(2(1)ウ段落【0015】)という作用効果を得ているものであるから、ある程度の荷重や摩擦が生じる構造であることは明らかであり、そのために係止突起29及び長円形部29aの材質やサイズ等を吟味し十分な強度や耐摩耗性をもって設計されるべきものであって、適正に設計されれば、破損防止や耐久性等の観点からも実用となるものが実現可能であることは十分に理解できるとことである。そうすると、両者の機能を分離しなくてはならないようなものとはいえないため、長円形部29aを設けた係止突起29とは別個に新たな係止突起を設けることは当業者であっても容易に想到し得たとまではいえない。
したがって、請求人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由1-1は理由がない。

(2)理由1-2について
ア 対比
甲1発明との対比については上記(1)アで述べたとおりである。

イ 判断
上記2(2)?(4)の記載事項からみて、甲第2号証ないし甲第4号証には、折り畳み可能なベビーカーにおいて、ハンドル(それぞれ「押棒5」、「手押し扞3」、「手押し扞3」が相当。)を第2位置に固定するために、ハンドル上に設けられた摺動部材(それぞれ「チェンジフック5-2」、「係止鉤板3’」、「係止鉤板3’」が相当。)と係合する係合部(それぞれ「フックピン5-22A」、「係止突起32」、「係止突起32」が相当。)をベビーカー本体のフレーム部材(それぞれ「後支棒5-1」、「支承扞31」、「支承扞31」が相当。)に設ける技術が記載されているといえ、当該技術は折り畳み可能なベビーカーの技術分野における周知技術といえるものである。
しかしながら、上記(1)イで述べたとおり、甲第1号証には、破損等を防ぐため「係止突起29」と、その先端に設けられる「長円形部29a」を別体とすることの記載や示唆は何らなく、ベビーカーの技術分野において、
係合とその他の機能を兼ね備えた一体化されている部品を破損等の防止の観点から別体化することを技術常識または設計事項とする証拠もない。そして、甲第2号証ないし甲第4号証に記載される技術の「係合部」に相当する部材は、もともと「摺動部材」に相当する部材との係合のみを行うために設けられたものであって、破損等が生じないようにすることを目的として、係合する機能と摺動部材の移動規制の機能を有する1つの部材を、係合部と摺動部材の移動規制の機能を有する部材に分離して設けるという技術思想はいずれの証拠にも開示されていないのであるから、上記周知技術の存在をもってしても、甲1発明において、長円形部29aを設けた係止突起29とは別個に新たな係止突起を設けることは当業者であっても容易に想到し得たとまではいえない。
したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件特許発明1の事項を有するものとすることは、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。
請求人は、弁駁書及び陳述要領書において、甲第1号証の係止突起29とその先端に形成された長円形部29aについて上記理由1-1と同様趣旨の主張をしているが、上述のとおりであるので、当該主張は採用できない。
また、上記周知技術を示す証拠として甲第5号証も挙げているが、上記2(5)から明らかなように、甲第5号証に記載されるものは、「押棒8」及び「基柱9」(ハンドルに相当)を第12図の実線の位置(第2位置に相当)に固定するために、「基柱9」内部に設けられた「スライダ19」(摺動部材に相当)と係合する「ロック部材30のピンA」(係合部に相当)が「支柱31」(フレームに相当)に対して摺動可能に設けられた「ロック部材30」に設けられるものであって、係合部に相当する部材がフレームに相当する部材に設けられているとはいえないし、摺動部材に相当する部材がハンドル上に設けられているともいえないものである。したがって、甲第2号証ないし甲第4号証に記載されるものとは技術内容を異にするものであり、上記周知技術の証拠としては採用できない。なお、甲1発明に甲第5号証に記載された技術的事項の適用を検討しても、上記と同様に係合する機能と摺動部材の移動規制の機能を有する1つの部材を、係合部と摺動部材の移動規制の機能を有する部材に分離して設けるという技術思想の開示はなく、長円形部29aを設けた係止突起29とは別個に新たな係止突起を設けることは当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。仮に適用したとしても「係合部」は「フレーム」に対して摺動可能な部材上に設けられ、「摺動部材」はハンドル内に設けられるというものになり、上記相違点1に係る本件特許発明1の事項を有するものとはならない。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由1-2は理由がない。

(3)理由1-3について
ア 対比
甲1発明との対比については上記(1)アで述べたとおりである。

イ 判断
上記2(7)の記載事項からみて、甲第7号証には次の技術的事項(以下「甲7技術」という。)が記載されているものと認める。
「操作ボタン13を操作して手摺5側部の前側,後側係止ピン8、7にそれぞれ係止させることにより対面押し及び背面押しの前後方向二位置に切り換え可能な押棒10の切換え時に乳母車を全開状態のままロックするための乳母車1の全開ロック機構であって、
前記押棒10は、その下部がブラケット11にピン16で連結されて前後方向回動自在となっており、
前記押棒10上にスライダ20をスライド自在に設け、前記各係止ピン7、8に係止する下方の係止位置と該係止状態が解除される上方の係止解除位置とをとり得るように、該第スライダ20を前記操作ボタン13の操作に連動させて上下動可能に構成するとともに、
前記押棒10と対向する後部フレーム40に、係合突起部44を有するスライドロック部材42をスライド自在に設け、前記操作ボタン13の操作に連動して、前記スライダ20の係止解除位置に対応する上方のロック位置をとり得るように上下動可能に構成し、
前記スライドロック部材42の下部には、ブラケット11に形成された係合凹部11aに乳母車1の全閉状態において上方から係合し得る係合突起部44が設けられ、
前記ブラケット11には、前記スライドロック部材42のロック位置において、前記係合突起部44に側方から当接することにより前記後部フレーム40の折り畳み方向への移動を規制するストッパ部11cを設けた、乳母車1の全開ロック機構。」

上記甲7技術より、「後側係止ピン7」が「手摺5」の側部後側に設けられ、「係合突起部44」が「スライドロック部材42」の下部に設けられることが把握でき、機能的にみて甲7技術の「後側係止ピン7」は本件特許発明1の「係合部」に相当するといえる。
しかしながら、甲第7号証には、「後側係止ピン7」の機能を有する部材と「係合突起部44」の機能を有する部材が元々一部材で構成され、それに破損等の防止の問題があるから分離して構成したということの記載はなく、上記2(7)イの【従来の技術】や【発明が解決しようとする課題】の記載からみて、「係合突起部44」や「係合凹部11a」を有する「ブラケット11」を、「後側係止ピン7」自体とは無関係に別途付加されたものと解するのが自然であって、上記(2)と同様に元々一体であった部材を係合部と別の機能を有する部材に分離して設けるという技術思想が開示されているといえるものではない。
したがって、甲1発明に甲7技術を適用する動機付けは見当たらないので、甲1発明において、長円形部29aを設けた係止突起29とは別個に新たな係止突起を設けることは、当業者であっても容易に想到し得たとはいえない。
また、仮に甲1発明に甲7技術を適用したとしても、甲7技術の「係合突起部44」は、「スライドロック部材42の下部」に設けられるものであり、「押棒10」の下部に連結される「ブラケット11」に形成された「係合凹部11a」に係合するものであるから、適用して得られるのはそのような事項を有するものになり、上記相違点1に係る本件特許発明1の事項を有するものとはならない。
したがって、甲1発明において、上記相違点1に係る本件特許発明1の事項を有するものとすることは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。
請求人は、弁駁書及び陳述要領書において、甲第1号証に記載された発明において甲第7号証を参酌のうえ係合突起29とは別個に、係止部材30と係合する係合突起をベビーカー本体に新たに設けることは容易想到である旨主張するが、上述のとおりであるので、当該主張は採用できない。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由1-3は理由がない。

4 本件特許発明2
以下、請求人が主張する甲第1号証のみから容易想到との理由を「理由2-1」、甲第1号証及び甲第2号証ないし甲第5号証から容易想到との理由を「理由2-2」、甲第1号証及び甲第7号証から容易想到との理由を「理由2-3」とする。
(1)理由2-1について
ア 対比
本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、上記3(1)アで述べた相違点1に加えて、次の点で相違し、その余は一致するものと認める。
〔相違点2〕
本件特許発明2が「前記突出部材は、前記アームレストと前記フレーム部材との回動中心を挟み前記アームレストの長手方向において前記前脚および後脚が接続されている側とは反対の側における前記アームレスト上の位置に、設けられている」という事項を有するのに対し、甲1発明は当該事項の特定がない点。

イ 判断
相違点1については、上記3(1)イで述べたとおりである。
相違点2については、請求人は、審判請求書、弁駁書及び口頭審理陳述要領書において、係止突起29の位置を変更することは設計事項であり、本件特許発明2が容易想到である旨主張し、特に弁駁書において、第9ページに図を示し、その第8ページ第11?16行において、「但し、このままでは、アームレスト16の回動後に長円形部29aが係止部材30の上方への移動を阻止できないので、当業者は、アームレスト16が回動後に長円形部29aが係止部材30の上方への移動を阻止できるように、下記の図のように必然的に長円形部29aの形状を長くする。このように、係止突起29の配置位置に応じて、長円形部29aの形状の長さを適宜最適化することは、当業者が取り得る設計事項にすぎない。」と主張する。


しかしながら、一般に設計変更をする場合は、何らかの課題を解決するためになされるものであるが、甲第1号証に係止突起29と回動中心の位置を上記相違点2に係る本件特許発明2の事項のように変更する動機付けとなるような記載ないし示唆は見当たらず、甲第1号証に示されたそのままの状態で作動する長円形部29aを、請求人が示す図のように形状変更してまで回動中心との位置関係を変更することの合理的な理由は見当たらない。さらに付言すれば、請求人が示す図は「長円形部29a」と「回動中心」が重なっており、上記相違点2に係る本件特許発明2の事項を満たすものでもない。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由2-1は理由がない。

(2)理由2-2、2-3について
ア 対比
甲1発明との対比については上記(1)アで述べたとおりである。

イ 判断
相違点1については、それぞれ上記3(2)イ、3(3)イで述べたとおりであり、相違点2については上記(1)イで述べたとおりである。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由2-2、2-3は理由がない。

5 本件特許発明3
以下、請求人が主張する甲第1号証のみから容易想到との理由を「理由3-1」、甲第1号証及び甲第2号証ないし甲第5号証から容易想到との理由を「理由3-2」、甲第1号証及び甲第7号証から容易想到との理由を「理由3-3」とする。
(1)理由3-1について
ア 対比
本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、上記3(1)アで述べた相違点1に加えて、次の点で相違し、その余は一致するものと認める。
〔相違点3〕
本件特許発明3が「前記突出部材は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれて当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合に、前記係合位置に位置する前記摺動部材に対向する板状部と、前記板状部に接続されたリブ部と、を有する」というものであるのに対し、甲1発明は「長円形部29a」が「後方揺動位置に傾斜している手押し杆15の軸線方向に長径を有する」ものであって、「ベビーカーの折り畳み時に前記手押し杆15の軸線に対してほぼ直交方向に揺動され」て、「長径側の先端部が係合」するものであるが、「板状」となっていることの特定はなく、さらに、上記「リブ部」に係る事項を有していない点。

イ 判断
相違点1については、上記3(1)イで述べたとおりである。
相違点3については、請求人は、審判請求書、弁駁書及び口頭審理陳述要領書において、長円形部29aを板状にすることは、当業者が長円形部29aの形状を適宜最適化するものであり、設計事項にすぎない旨主張する。
ここで、本件特許発明3の「リブ部」について請求人の具体的な主張がないが、請求項3を引用する請求項4に係る本件特許発明4に対する「衝撃に対する係止突起29の強度を高めることを目的として、係止突起29の柱部の形状を変更して、係止部材30の係合位置から解除位置へ向けた移動方向(すなわち衝撃が作用する方向)と略平行に延びるようにすることは当業者にとって容易である。」(審判請求書第33ページ第13?16行)との主張からみて、甲1発明の「係止突起29」の柱部に相当する箇所を「リブ部」に相当すると判断していると解される。
しかしながら、機械分野における「リブ」とは、「板状または薄肉の部分を補強するために補う部材で,薄板に希望する形を保持させる役目をする.」(機械工学用語辞典第7刷 昭和40年1月30日発行 株式会社技報堂)ものを示す用語であるところ、「係止突起29」の柱部に相当する箇所は「係止部材30」に係止して「手押し杆15」を後方揺動位置に固定可能とし、さらに、「長円形部29a」を一体としているものであって、特段「長円形部29a」の補強を意図して設けられたものではないことは技術的に明らかであるから、その形状からみても機能からみても、「係止突起29」の柱部に相当する箇所が本件特許発明3の「リブ部」に相当するとはいえない。
〔下図は、上記機械工学用語辞典の「リブ」の項目の図面〕



したがって、仮に、請求人が主張するように、「甲1発明において、係止部材30の第1の凹部31として確保できる厚み(図7において紙面に対して垂直な方向の長さ)は限られているから、その中に配置される長円形部29aをコンパクト化するために板状に変更することは当業者にとって容易」(審判請求書第30ページ第9?12行)といえたとしても、上述したように甲1発明は「リブ部」に相当する事項を有しておらず、上記相違点3に係る本件特許発明3に係る事項を有するものには至らない。

なお、コンパクト化するために板状に変更した「長円形部29a」に対し、別途「リブ部」を上記の機械工学用語辞典の「リブ」の項目の図面のごとく「係止突起29」の柱部に相当する箇所に設ける場合について一応検討する。
まず、甲1発明は、甲第1号証の【図6】に示される状態及び【図7】に示される状態にする必要があるため、「係止突起29」と「係止部材30」は、少なくとも上記両状態の間で相対回転を可能とする必要がある。そうすると、「係止突起29」の柱部に相当する箇所に「長円形部29a」を補強するための「リブ部」を設けたとすると、「係止突起29」と「係止部材30」の上記相対回転を可能とするためには、当該「リブ部」は、「係止部材30」の「第1の凹部31」の厚み方向(【図6】、【図7】において紙面に対して垂直方向)の内部に位置させる必要がある。そうすると、コンパクト化するために「長円形部29a」を板状にしたとしても、「リブ部」が上記相対回転の支障とならないように、リブ部も含めて「第1の凹部31」の内部に位置させたのなら、「第1の凹部31」の内部の厚み方向長さは、少なくとも(「長円形部29a」の厚み方向の長さ)+(「リブ部」の厚み方向の長さ)が必要となるため、結局のところ全体として必ずしもコンパクトになるとはいえないことになる。
したがって、甲1発明において、「長円形部29a」を板状に変更し、かつ、「係止突起29」の柱部に相当する箇所に「長円形部29a」に接続されるよう「リブ部」を設けるよう変更する合理的な理由は見当たらない。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由3-1は理由がない。

(2)理由3-2、3-3について
ア 対比
甲1発明との対比については上記(1)アで述べたとおりである。

イ 判断
相違点1については、それぞれ上記3(2)イ、3(3)イで述べたとおりであり、相違点3については上記(1)イで述べたとおりである。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由3-2、3-3は理由がない。

6 本件特許発明4について
以下、請求人が主張する甲第1号証のみから容易想到との理由を「理由4-1」、甲第1号証及び甲第2号証ないし甲第5号証から容易想到との理由を「理由4-2」、甲第1号証及び甲第7号証から容易想到との理由を「理由4-3」とする。
(1)理由4-1について
ア 対比
請求項4は請求項3を引用するものであるから、本件特許発明4と甲1発明とを対比すると、上記3(1)アで述べた相違点1及び上記5(1)アで述べた相違点3に加えて、次の点で相違し、その余は一致するものと認める。
〔相違点4〕
本件特許発明4が「前記板状部は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれて当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合における前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置へ向けた移動方向に略直交する方向に延び、前記リブ部は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれて当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合における前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置へ向けた移動方向と略平行に延びる」という事項を有するのに対し、甲1発明は、当該事項を有していない点。

イ 判断
相違点1については、上記3(1)イで述べたとおりであり、相違点3については、上記5(1)イで述べたとおりである。
相違点4については、引用発明において、相違点4の前提となる相違点3に係る本件特許発明3の事項を有するものとすることが既に容易になし得たとはいえないところ、さらに限定をするものであるから、同様の理由により、引用発明において、上記相違点4に係る本件特許発明4の事項を有するものとすることは当業者であっても容易になし得たとはいえない。
請求人は、審判請求書、弁駁書及び口頭審理陳述要領書において、衝撃に対する係止突起29の強度を高めることを目的として、係止突起29の柱部の形状を変更して、係止部材30の係合位置から解除位置へ向けた移動方向(すなわち衝撃が作用する方向)と略平行に延びるようにすることは当業者にとって容易である旨主張し、特に弁駁書において、第10ページに図を示し、同ページ第13?15行において、「係止突起29の柱部の断面を下記図の矢印A1の方向と略平行な長軸となる楕円で構成した場合、下記の図に示すように、展開状態において係止部材30の摺動を阻害することはない。」と主張している。

しかしながら、本件特許発明4は、その前提となる本件特許発明3の「突出部材」の構成をさらに限定するものであるところ、上記主張内容(特に、柱部の形状を変更して、移動方向と略平行に延びるようにする旨の記載。)からみて、請求人は「係止突起29」の柱部に相当する箇所が本件特許発明4の「リブ部」に相当すると判断していると解されるが、上記5(1)イで述べたように、当該「係止突起29」の柱部に相当する箇所は「リブ部」といえるものではない。
そして、当該箇所は、「手押し杆15」を後方揺動位置に固定するための「係止部材30」に係止するためのものであって、上記3(1)イで述べたように、甲1発明の「係止突起29」と「長円形部29a」を別の部材とすることが容易とはいえないところ、当該柱部に相当する箇所を請求人が示す図のように変更したならば、展開状態と折り畳み状態で、「係止部材30」に対して係止する長さが異なることになって、「係止部材30」の係止する箇所を展開状態で係止する長さに設定したのなら、折り畳み状態では隙間が生じるため完全には係止できないことになり、「長円形部29a」と「段部31a」の係合に支障を来すことになる。
したがって、当該柱部に相当する箇所を「リブ部」の構造に変更する合理的な理由は見当たらない。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由4-1は理由がない。

(2)理由4-2、4-3について
ア 対比
本件特許発明4と甲1発明との対比については上記(1)アで述べたとおりである。

イ 判断
相違点1については、それぞれ上記3(2)イ、3(3)イで述べたとおりであり、相違点4については上記(1)イで述べたとおりである。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由4-2、4-3は理由がない。

7 本件特許発明5
以下、請求人が主張する甲第1号証及び甲第2号証ないし甲第5号証から容易想到との理由を「理由5-1」、甲第1号証、甲第7号証及び甲第2号証ないし甲第5号証から容易想到との理由を「理由5-2」とする。
(1)理由5-1について
ア 対比
甲第1号証の【図3】の記載より、折り畳み時には、パイプ17に対してアームレスト28が回動することが理解できる。また、同【図4】の記載より、係止突起29が係止部材30と係合することにより、パイプ17と手押し杆15は相対的な位置関係が固定されており、折り畳み動作中においてパイプ17と手押し杆15の相対位置が固定されており、折り畳み動作中においてパイプ17と手押し杆15の相対位置が一定に維持されることも理解できる。
したがって、上記の認定事項に加え、上記2(1)ア?エの記載事項及び同オの認定事項並びに【図1】?【図10】の記載も併せると、甲第1号証には、甲1発明の発明特定事項に加え、さらに次の発明特定事項を有する発明(以下「甲1’発明」という。)が記載されているものと認める。
「手押し杆15が後方揺動位置に配置された状態で手押し杆15上の係止部材30と係合する係合突起29の柱部は、ベビーカー本体のアームレスト16上に配置されており、
ベビーカー本体の折り畳み動作中、手押し杆15のパイプ17に対する相対位置が一定に保持されながら、パイプ17に対してアームレスト16が回動する」

本件特許発明5と甲1’発明とを対比すると、上記3(1)アで述べた相違点1に加えて、次の点で相違し、その余は一致するものと認める。
〔相違点5〕
本件特許発明5が「前記係合部は、前記ベビーカー本体の前記フレーム部材上に配置されており」というものであるのに対し、甲1’発明は「係止突起29」が、「アームレスト16の外側面の後端部に固設され」ている点。

イ 判断
相違点1については、上記3(2)イで述べたとおりである。
相違点5については、実質的に上記相違点1の判断と同様に、長円形部29aを設けた係止突起29とは別個に新たな係止突起を設けることが容易想到であるかどうかということに帰着するものであって、甲第2号証ないし甲第4号証に記載される周知技術を参酌したとしても、それが容易想到といえないことは、上記3(2)イで述べたとおりである。
請求人は、審判請求書、弁駁書及び口頭審理陳述要領書において、上記周知技術を参酌して、係止突起29の破損の回避のために係合部材30に擦れないようにするために、係合部材30に係合する係合突起をパイプ17に新たに設けることは容易想到である旨主張するが、上記3(2)イと同様に上記主張は採用できない。また、甲第5号証については、上記3(2)イで述べたとおりである。
(合議体注:審判請求書第43ページの「ク 相違点の検討」において、甲第2号証について「チェンジフック5-2」が「係合部」に相当するかのように記載されているが、甲第2号証の記載内容からみて「チェンジフック5-2」は「摺動部材」に相当し、「フックピン5-22A」が「係合部」に相当することは明らかである。なお、審判請求書の第38ページ末行?第39ページ第3行において請求人が認定する「甲2発明」の「・・・押棒5上のチェンジフック5-2と係合するフックピン5-22Aは、・・・後支棒5-1上に配置されている。」という記載からみて、上記の相当関係の記載は誤記と考えられる。)

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由5-1は理由がない。

(2)理由5-2について
ア 対比
甲1’発明との対比については上記(1)アで述べたとおりである。

イ 判断
相違点1については、上記3(3)イで述べたとおりである。
相違点5については、実質的に上記相違点1の判断と同様に、長円形部29aを設けた係止突起29とは別個に新たな係止突起を設けることが容易想到であるかどうかということに帰着するものであって、甲第2号証ないし甲第4号証に記載される周知技術や甲第7号証に記載される技術的事項を参酌したとしても、それが容易想到といえないことは、上記3(2)イ、3(3)イで述べたとおりである。
請求人は、弁駁書及び陳述要領書において、甲第1号証に記載された発明において甲第7号証に記載される技術的事項を参酌のうえ係合突起部29に新たに設けるに際し、甲第2?5号証に記載の周知技術を参酌して、この新たな係合突起をフレーム部材に相当するパイプ17に設けることは容易想到である旨主張するが、上記3(2)イ、3(3)イと同様に上記主張は採用できない。また、甲第5号証については、上記3(2)イで述べたとおりである。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由5-2は理由がない。

8 本件特許発明6
以下、請求人が主張する甲第1号証及び甲第6号証から容易想到との理由を「理由6-1」、甲第1号証、甲第6号証及び甲第2号証ないし甲第5号証から容易想到との理由を「理由6-2」、甲第1号証、甲第6号証及び甲第7号証から容易想到との理由を「理由6-3」とする。
(1)理由6-1について
ア 対比
甲第1号証の【図3】及び当該図面に請求人が説明文を付加した審判請求書第46ページの下記図の記載より、アームレスト16が上方に揺動する場合、ブラケット25は、パイプ17の後脚支持部材23に対するブラケット25の回動軸を中心としてパイプ17に対して回動するとともに、後脚14に対するブラケット25の回転軸を中心として後脚に対して回動すること、及び、パイプ17に対するブラケット25の回動軸は、手押し杆15の揺動軸27とは異なっていることが理解できる。


したがって、上記の認定事項に加え、上記2(1)ア?エの記載事項及び同オの認定事項並びに【図1】?【図10】の記載も併せると、甲第1号証には、甲1発明の発明特定事項に加え、さらに次の発明特定事項を有する発明(以下「甲1’’発明」という。)が記載されているものと認める。
「ベビーカー本体は、後脚14およびパイプ17のそれぞれに回動可能に接続され後脚14およびパイプ17を連結するブラケット25と、をさらに有し、
手押し杆15は、パイプ17に対するブラケット25の回動軸線と異なる軸線を中心として、ベビーカー本体に揺動可能となっている」

本件特許発明6と甲1’’発明とを対比すると、後者の「ブラケット25」は前者の「連結ブラケット」に相当するので、上記3(1)アで述べた相違点1に加えて、次の点で相違し、その余は一致するものと認める。
〔相違点6〕
本件特許発明6が「前記ハンドルは、前記フレーム部材と前記連結ブラケットとの回動軸線と同一の軸線を中心として、前記ベビーカー本体に揺動可能となっている」のに対し、甲1’’発明は「手押し杆15は、パイプ17に対するブラケット25の回動軸線と異なる軸線を中心として、ベビーカー本体に揺動可能となっている」点。

イ 判断
上記2(6)の記載事項及び【図2】、【図3】の記載からみて、甲第6号証には次の技術的事項(以下「甲6技術」という。)が記載されているものと認める。
「ベビーカー本体は、後脚14およびパイプ17のそれぞれに回動可能に接続され後脚14およびパイプ17を連結するブラッケット25と、をさらに有し、
手押し杆15は、パイプ17に対するブラッケット25の中間部が枢着される軸31に枢着され、ベビーカー本体に揺動可能となっている折り畳み可能なベビーカー。」

上記甲6技術における「後脚14」は本件特許発明6の「後脚」に相当し、以下同様に、「パイプ17」は「フレーム部材」に、「ブラッケット25」は「ブラケット」に、「手押し杆15」は「ハンドル」にそれぞれ相当する。そして、甲6技術の「手押し杆15は、パイプ17に対するブラッケット25の中間部が枢着される軸31に枢着され、ベビーカー本体に揺動可能となっている」は、本件特許発明6の「手押し杆15は、パイプ17に対するブラケット25の回動軸線と異なる軸線を中心として、ベビーカー本体に揺動可能となっている」に相当するといえる。
本件特許発明6と甲6技術はいずれも折り畳み可能なベビーカーの技術分野に属し、本件特許発明6に甲6技術を適用することにより、上記相違点6に係る本件特許発明6の事項を有するものとすることは、当業者であれば一応容易に想到し得たことといえる。
しかしながら、相違点1については、上記3(1)イで述べたとおりであるから、甲1’’発明において上記相違点6に係る本願特許発明6の事項を有するものとすることが当業者にとって容易想到といえたとしても、本件特許発明6が甲1’’発明及び甲6技術から当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

以上のとおりであるから、請求人が主張する理由6-1は理由がない。

(2)理由6-2、6-3について
ア 対比
本件特許発明6と甲1’’発明との対比については上記(1)アで述べたとおりである。

イ 判断
相違点6については、上記(1)イで述べたとおりであったとしても、相違点1については、それぞれ上記3(2)イ、(3)イで述べたとおりであるから、請求人が主張する理由6-2、6-3は理由がない。

9 本件特許発明7
以下、請求人が主張する甲第1号証のみから容易想到との理由を「理由7-1」、甲第1号証及び甲第2号証ないし甲第5号証から容易想到との理由を「理由7-2」、甲第1号証及び甲第7号証から容易想到との理由を「理由7-3」とする。
(1)理由7-1について
ア 対比
上記2(1)ア?エの記載事項及び同オの認定事項並びに【図1】?【図10】の記載も併せると、甲第1号証には、甲1発明の発明特定事項に加え、さらに次の発明特定事項を有する発明(以下「甲1’’’発明」という。)が記載されているものと認める。
「前記手押し杆15が前記前方揺動位置に配置された状態で前記係止部材30に設けられた第2の係止用凹部32と係合する係止突起28が、前記ベビーカー本体のアームレスト16の前端部に固設され、
前記前方揺動位置に配置された前記手押し杆15に装着された前記係止部材30の第2の係止用凹部32が前記係止突起28に係合することにより、前記手押し杆15が前記前方揺動位置に固定されるとともに、前記ベビーカー本体を折り畳み状態に移動させることができない」

本件特許発明7と甲1’’’発明とを対比すると、後者の「係止突起28」が前者の「更なる係合部」に相当し、後者の「前記手押し杆15が前記前方揺動位置に配置された状態で前記係止部材30に設けられた第2の係止用凹部32と係合する係止突起28が、前記ベビーカー本体のアームレスト16の前端部に固設され、前記前方揺動位置に配置された前記手押し杆15に装着された前記係止部材30の第2の係止用凹部32が前記係止突起28に係合することにより、前記手押し杆15が前記前方揺動位置に固定されるとともに、前記ベビーカー本体を折り畳み状態に移動させることができない」は、前者の「前記ハンドルが前記第1位置に配置された状態で前記摺動部材と係合し得る更なる係合部が、さらに、前記ベビーカー本体に設けられ、前記第1位置に配置された前記ハンドル上の前記摺動部材が前記更なる係合部と係合することにより、前記ハンドルの前記第1位置からの揺動が規制されるとともに、前記ベビーカー本体の折り畳み動作も規制される」に相当するといえる。
そうすると、本件特許発明7と甲1’’’発明とは、上記3(1)アで述べた相違点1で相違し、その余は一致するものと認める。

イ 判断
相違点1については、上記3(1)イで述べたとおりであるから、請求人が主張する理由7-1は理由がない。

(2)理由7-2、7-3について
ア 対比
甲1’’’発明との対比については上記(1)アで述べたとおりである。

イ 判断
相違点1については、上記3(2)イ、3(3)イで述べたとおりであるから、請求人が主張する理由7-2、7-3は理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由及び証拠方法によっては、本件請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム部材と、前記フレーム部材に回動可能に接続されたアームレストと、前記アームレストに回動可能に接続された前脚および後脚と、を有し、展開状態から折り畳み状態へ折り畳み可能なベビーカー本体と、
第1位置と第2位置との間を揺動可能に前記ベビーカー本体に接続されたハンドルと、
前記ハンドル上に設けられた摺動部材であって、前記ベビーカー本体に設けられた係合部と係合して前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を規制する係合位置と、前記係合部との係合が解除され前記ハンドルの前記第2位置からの揺動を可能する解除位置と、の間を前記ハンドルに対して摺動可能な摺動部材と、
前記係合部とは別個に前記アームレストに設けられ前記アームレストから突出した突出部材と、を備え、
前記突出部材は、前記ベビーカー本体が前記展開状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路外に配置され、当該摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を可能にし、
前記突出部材は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれ当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動経路内に配置され、前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置までの移動を規制する、
ことを特徴とする折り畳み可能なベビーカー。
【請求項2】
前記突出部材は、前記アームレストと前記フレーム部材との回動中心を挟み前記アームレストの長手方向において前記前脚および後脚が接続されている側とは反対の側における前記アームレスト上の位置に、設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の折り畳み可能なベビーカー。
【請求項3】
前記突出部材は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれて当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合に、前記係合位置に位置する前記摺動部材に対向する板状部と、前記板状部に接続されたリブ部と、を有する、ことを特徴とする請求項1または2に記載の折り畳み可能なベビーカー。
【請求項4】
前記板状部は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれて当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合における前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置へ向けた移動方向に略直交する方向に延び、
前記リブ部は、前記ハンドルが前記第2位置に配置された状態で前記ベビーカー本体が折り畳まれて当該ベビーカー本体が前記折り畳み状態にある場合における前記摺動部材の前記係合位置から前記解除位置へ向けた移動方向と略平行に延びる、
ことを特徴とする請求項3に記載の折り畳み可能なベビーカー。
【請求項5】
前記ハンドルが前記第2位置上に配置された状態で前記ハンドル上の前記摺動部材と係合する前記係合部は、前記ベビーカー本体の前記フレーム部材上に配置されており、
前記ベビーカー本体の折り畳み動作中、前記ハンドルの前記フレーム部材に対する相対位置が一定に保持されながら、前記フレーム部材に対して前記アームレストが回動する、ことを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の折り畳み可能なベビーカー。
【請求項6】
前記ベビーカー本体は、前記後脚および前記フレーム部材のそれぞれに回動可能に接続され前記後脚および前記フレーム部材を連結する連結ブラケットと、をさらに有し、
前記ハンドルは、前記フレーム部材と前記連結ブラケットとの回動軸線と同一の軸線を中心として、前記ベビーカー本体に揺動可能となっている、
ことを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の折り畳み可能なベビーカー。
【請求項7】
前記ハンドルが前記第1位置に配置された状態で前記摺動部材と係合し得る更なる係合部が、さらに、前記ベビーカー本体に設けられ、
前記第1位置に配置された前記ハンドル上の前記摺動部材が前記更なる係合部と係合することにより、前記ハンドルの前記第1位置からの揺動が規制されるとともに、前記ベビーカー本体の折り畳み動作も規制される、
ことを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の折り畳み可能なベビーカー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-12-08 
結審通知日 2017-12-13 
審決日 2018-01-05 
出願番号 特願2010-12439(P2010-12439)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (B62B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷治 和文  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
島田 信一
登録日 2013-11-15 
登録番号 特許第5410312号(P5410312)
発明の名称 折り畳み可能なベビーカー  
代理人 朝倉 悟  
代理人 中村 行孝  
代理人 野本 裕史  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 朝倉 悟  
代理人 永井 浩之  
代理人 永井 浩之  
代理人 宮嶋 学  
代理人 大野 聖二  
代理人 宮嶋 学  
代理人 中村 行孝  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 酒谷 誠一  
代理人 堀田 幸裕  

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