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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1341381
審判番号 不服2016-5243  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-08 
確定日 2018-06-13 
事件の表示 特願2014-527110「相変化インクを用いたフレキシブルカラーフィルタ基板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 1月30日国際公開、WO2014/017857、平成26年11月13日国内公表、特表2014-529765〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 事案の概要
特願2014-527110号(以下「本件出願」という。)は、2013年7月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2012年7月25日、2013年7月24日 韓国(KR))を国際出願日とする特許出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。
平成27年 2月20日付け:拒絶理由通知書
平成27年 7月 3日提出:意見書
平成27年 7月 3日提出:手続補正書
平成27年11月27日付け:拒絶査定
平成28年 4月 8日提出:審判請求
平成28年 4月 8日提出:手続補正書
平成29年 5月22日付け:拒絶理由通知書
平成29年 8月23日提出:意見書
平成29年 8月23日提出:手続補正書

第2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明は、平成29年8月23日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「プラスチックのフレキシブル基板と、
前記フレキシブル基板上に形成されたR、G、Bパターンと、
を含み、
前記R、G、Bパターンは、
相変化インク組成物で形成され、
上部表面の算術平均粗さがパターンの高さの5%以下であり、
前記R、G、Bパターンの間にブラックマトリックスが形成されておらず、
前記R、G、Bパターンは、
30μm?200μmの幅と、1μm?10μmの高さとを有し、
パターンの高さ対幅の比が1:20?1:200であり、
断面形状が略長方形である、
フレキシブルカラーフィルタ基板。」

第3 当審の拒絶理由
平成29年5月22日付け拒絶理由通知書において、当審が通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、概略、以下のとおりである。

理由1)本件出願の請求項1に係る発明は、本件出願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2)本件出願の請求項1?12に係る発明は、優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用例1:特開平5-142407号公報
引用例2:特開平8-160219号公報
引用例3:特開平2-181705号公報
引用例4:特開2010-111802号公報
引用例5:特開2001-74929号公報
引用例6:特開2002-107528号公報
引用例7:特開2011-201261号公報
引用例8:特開2012-63598号公報
引用例9:特開2006-159030号公報
引用例10:特開2009-217169号公報
引用例11:特開平3-154003号公報
引用例12:特開平6-91223号公報

(1)引用例1を主引用例とした場合
理由1),理由2)
・請求項1
・引用例1

理由2)
・請求項2?3
・引用例1

・請求項4
・引用例1,2

・請求項5
・引用例1,2,7,8

・請求項6?7
・引用例1,2,9

・請求項8?10
・引用例1?3,10

・請求項11
・引用例1,2,11,12

・請求項12
・引用例1,2

(2)引用例2を主引用例とした場合
理由2)
・請求項1
・引用例1?6

・請求項2
・引用例1?6

・請求項3
・引用例1?6

・請求項4
・引用例1?6

・請求項5
・引用例1?8

・請求項6?7
・引用例1?6,9

・請求項8?10
・引用例1?6,10

・請求項11
・引用例1?6,11,12

・請求項12
・引用例1?6

第4 当合議体の判断
1 引用例の記載及び引用発明
(1) 引用例2
当審拒絶理由において引用された引用例2(特開平8-160219号公報)には、以下の記載がある。(下線は、後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 透明基体上に多色の集合からなる色素層を配置するに際して、色材と固体からなる熱溶融物質または色材と高粘度液体からなる熱溶融物質を含むインクを加熱溶融して低粘度液体とし、該低粘度液体をインク成分として使用するインクジェットを用いて透明基体表面に色素層のパターンを形成し、パターン形成工程中またはパターン形成後の透明基体を加熱処理する工程を含むことを特徴とするカラーフィルターの作製方法。
【請求項2】 透明基体上に多色の集合からなる色素層を配置するに際して、色材と固体からなる熱溶融物質または色材と高粘度液体からなる熱溶融物質を含むインクを加熱溶融して低粘度液体とし、該低粘度液体をインク成分として使用するインクジェットを用いて透明基体表面に色素層のパターンを形成し、パターン形成工程中またはパターン形成後の透明基体を加熱処理した後、さらにエネルギー線で処理する工程を含むことを特徴とするカラーフィルターの作製方法。
【請求項3】
・・・(略)・・・
【請求項4】 各色の目的とする領域外へ拡散を防止する拡散防止パターンとしてブラックマトリックス遮光層を利用することを特徴とする請求項1・・・(略)・・・に記載のカラーフィルターの作製方法。
【請求項5】
・・・(略)・・・
【請求項6】 色材と固体からなる熱溶融物質または色材と高粘度液体からなる熱溶融物質を含むインクを加熱溶融して低粘度液体とし、該低粘度液体をインク成分として使用するインクジェットを用いて透明基体表面に色素層のパターンを形成し、パターン形成工程中またはパターン形成後の透明基体を加熱処理して得られる多色の集合からなる色素層を配置したカラーフィルター。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は液晶カラーディスプレイーなどに使用するカラーフィルターに関するものである。
【0002】
【従来の技術】液晶用カラーフィルターは、ガラスなどの透明基板上に赤色、緑色および青色の3色をモザイク状またはストライプ状に配置し、それぞれの境界をブラックマトリックスで区分した構造である。従来、カラーフィルターの作製方法としては、ガラスなどの透明基板を支持体として用い、次のような方法を用いていた。
(1)染色法、(2)印刷法、(3)着色した感光性樹脂液の塗布、露光、現像の繰り返しによる方法、(4)仮支持体上に形成した画像を順次、透明基板上に転写する方法、(5)予め着色した感光性樹脂液を仮支持体上に塗布することにより着色層を形成し、順次直接、透明基板上にこの感光性着色層を転写し、露光、現像することを繰り返す方法、(6)電着法などにより多色画像を形成する方法が知られている。そのほかにも熱転写法、蒸着法などの方法も知られている。
【0003】また、カラーフィルターの物理的化学的保護と表面の平坦化を目的とするオーバーコート層をカラーフィルターの上に形成することがある。オーバーコート層としてはアクリル系、ウレタン系、シリコーン系などの樹脂皮膜や酸化ケイ素などの金属酸化物皮膜のような透明性の高い皮膜をスピンコート、ロールコート、印刷法などにより塗布し、必要に応じて水平放置、溶剤除去を行い、硬化させるといった方法が一般的に用いられている。
【0004】さらにオーバーコート層の上に、スパッタリング法や真空蒸着法を用いて、酸化インジウム錫(ITO)や酸化錫のような透明導電性の皮膜を成膜させた後、エッチング法などにより電極パターン加工を行い、透明電極層を形成する。透明電極層は、着色画像とブラックマトリックス層の下で、透明基板の上に形成することもある。
【0005】カラーフィルター製造に関する着色画像形成の上記した従来の主な方法には、それぞれ次のような改良すべき点がある。
(1)染色法では、フォトレジスト塗布と乾燥した透明な膜の部分的染色を繰り返すため、防染層の形成と除去の反復が必要であり、製造工程が煩雑であった。また、染料を用いるため耐光性、耐熱性、耐薬品性が低い欠点がある。
(2)印刷法では、ガラスへの印刷インキの転写性が劣るため、着色パターンの形状不良や濃度むらを生じやすく、さらに3色あるいは4色のパターンの位置合わせを行うことが難しく、この点でも不利である。
(3)着色感光性樹脂液の塗布、露光、現像を繰り返す方法では、着色層の濃度が着色層の厚みで決まるため、着色層の濃度を一定にするためには精密な塗布技術を必要とする。さらに第1色目を形成後、第2色目の着色層を塗布するのは第1の着色層に基づく表面の凹凸のため、実際には均一な塗布層を得るのが困難であった。
(4)仮支持体を利用して透明基板などに転写する方法では、透明基板へ着色画像を転写する時に、各色の画像を所望の位置に正しく配置することが困難であると言う問題点がある。
(5)仮支持体上に塗布した感光性樹脂液からなる着色層を透明基板上に転写し、露光、現像することを繰り返す方法では、着色画像の形成工程が簡略化されるが、第2色目以降の着色感光性樹脂層を熱と圧力によって転写形成する際に、既に形成した画素に基づく表面の凹凸上に転写するため、熱と圧力が不十分な時は現像時に画像の抜けを生じやすく、また強すぎると既形成画素上に転写された着色感光性樹脂層の現像性が悪くなるといった欠点がある。
(6)電着法では、露光工程数が電着用透明電極の1回ですむため、低コスト化に向くが、低抵抗の透明電極が必要であり、このような低抵抗の透明電極は透過率の小さいものが入手できなく、透過率をある程度犠牲にする必要がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記したカラーフィルター製造時の着色画像形成の従来法には一長一短があり、低コストで、しかも画素形成能が優れたカラーフィルターは得られていない。
【0007】本発明の目的は煩雑な工程、使用材料のロスからくるコスト高の低減、湿式処理が不要で、さらに平坦で画素形状の良いカラーフィルターおよびカラーフィルター用インクを得ることである。」

ウ 「【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は次の構成によって達成される(第一発明)。すなわち、透明基体上に多色の集合からなる色素層を配置するに際して、色材と固体からなる熱溶融物質または色材と高粘度液体からなる熱溶融物質を含むインクを加熱溶融して低粘度液体とし、該低粘度液体をインク成分として使用するインクジェットを用いて透明基体表面に色素層のパターン形成し、パターン形成工程中またはパターン形成後の透明基体を加熱処理する工程を含むカラーフィルターの作製方法、または上記作製方法で得られたカラーフィルターである。
【0009】上記本発明の作製方法で用いるインクはインクジェット用熱溶融性インクとしての従来から使用されているホットメルト型インクなどを使用することができる。前記従来から使用されているホットメルト型インクの具体例は下記の(1)色材と(2)熱溶融性物質中のバインダーから選択される組成物である。
【0010】なお、上記カラーフィルターの作製方法はパターン形成後に加熱する工程が従来にない新規な点であり、この工程はパターン形成後に溶剤除去とインク表面の平滑化を行うものである。カラー液晶パネル製造工程には、液晶パネルの信頼性および品質的な面から高温処理が有利となる工程があることからカラーフィルターの耐熱性向上が重要な課題となる。従来のホットメルト型インクでも高温溶融物質で対応できるが下記の作製方法がより好ましい。
【0011】本発明の上記目的は次の構成によっても達成される(第二発明)。すなわち、透明基体上に多色の集合からなる色素層を配置するに際して、色材と固体からなる熱溶融物質または色材と高粘度液体からなる熱溶融物質を含むインクを加熱溶融して低粘度液体とし、該低粘度液体をインク成分として使用するインクジェットを用いて透明基体表面に色素層のパターンを形成し、パターン形成工程中またはパターン形成後の透明基体を加熱処理した後、さらにエネルギー線で処理する工程を含むカラーフィルターの作製方法、または上記作製方法で得られたカラーフィルターである。
【0012】本発明の上記カラーフィルターの作製方法において使用するインク材料は(1)色材と(2)エネルギー線により硬化する硬化性成分を含む固体または高粘度液体からなる熱溶融物質を含むものである。前記(2)エネルギー線により硬化する硬化性成分とは硬化性のモノマーまたはオリゴマーなどを言い、また、エネルギー線とは電子線、紫外線および熱線などを言う。
【0013】(1)インク材料の色材としては、カラーインデックスに記載されているような色材でカラーフィルターの構成色である赤色、緑色、青色、黒色のものはほとんど使用することができる。また、カラーインデックスに記載されていないものでも好適に使用できるものもある。一般に直接染料、酸性染料、反応性染料、分散染料、油溶性染料などが好ましく使用できる。具体例としてはパーマネントカーミン、フタロシアニングリーン、フタロシアニンブルー、カーボンブラックなどが挙げられる。これらの色材の含有量は記録媒体に要求される特性などに依存して決定され、特に制限されるものではないが、一般的には記録媒体中で約0.5?30重量%であることが好ましく、より好ましくは約2?25重量%である。
【0014】(2)前記色材とともに使用する固体または高粘度液体からなる熱溶融性物質としては、好適には35?180℃で容易に軟化または溶融する有機物質である。従来、インクジェット用インク材料の一種にホットメルト型インクが用いられているが、ホットメルト型インクにも熱溶融物質が用いられている。例えば天然ワックスを含有するインク(USP4390369号、特開昭58-108271号など)、高水酸基価を有する熱硬化性樹脂と高融点を有する固体有機溶媒を含有するインク(特開昭62-48774号)などが知られているが、これらのインクは本発明の第一発明のカラーフィルターの作製方法で使用することができる。・・・(略)・・・
【0015】本発明の熱溶融性物質(固体または高粘度液体)は次の構成からなる。
(1)(当合議体注:「丸」囲み数字の表記に替えて、「()」付き数字の表記を採用した。)バインダー
バインダー成分としては、従来、インクジェット用熱溶融性インクに用いられている公知のものを使用することができる。例えば、熱可塑性樹脂、天然樹脂、ワツクス、ゴム類、高級脂肪酸、脂肪族アルコール、高級脂肪酸エステルを含む脂肪酸エステル、アミド類、ラクトン類、ラクタム類、芳香族アルコール類、エーテル類などである。
【0016】より具体的には、例えば、鯨ロウ、カルナバワックス、キャンデリラワックス、木ロウ、ミツロウ、モンタンワックス、ラノリンなどの天然ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、エステルワックス、酸化ワックス、低分子量ポリエチレンワックス、塩化パラフィンなどの合成ワックス、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、フロメン酸、ベヘニン酸などの高級脂肪酸、ステアリルアルコール、ベヘニンアルコールなどの脂肪族アルコール類、ショ糖の脂肪酸エステル、スルビタンの脂肪酸エステルなどの脂肪酸エステル類、ステアリンアミド、オレインアミドなどのアミド類、ラクトン類、ラクタム類、芳香族アルコール類、エーテル類、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニルなどのビニル系樹脂、塩化ビニル-ポリ酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体エラストマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物などの共重合体、エチルセルロース、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、酸変性ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリビニールブチラール、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、ポリフェニレンオキシド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂、合成ゴム、塩化ゴム、天然ゴムなどのゴム類、その他、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、石油系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエチレン系ワックス、モンタン系ワックス、部分ケン化エステルワックス、フィシャトロプシュワックス、油類系ワックスなどがあり、これらの物質を適宜混合して用いてもよい。
【0017】
・・・(略)・・・
【0024】また、本発明のインクの熱溶融物質成分として、上記電子線または紫外線などのエネルギー線硬化材料、熱硬化性材料を併用しても良い。さらに、本発明の第一発明と第二発明のインクの(2)熱溶融物質の成分として、高粘度液体状態の熱溶融物質を用いても良い。本発明で熱溶融物質を高粘度液体状態で用いる理由は熱溶融物質の中には溶融温度近傍で分解が始まるものもあり、適当な温度範囲内で低粘度化するために有効だからである。しかし、溶剤量を増し、低粘度化したインクでは顔料および熱溶融物質の割合が少なくなり、カラーフィルターとしての必要な性能を所定量のインクで得ることは困難である。
【0025】この場合には、常温で液体の有機溶剤、例えば、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール等の多価アルコール類、その他グリコールエーテル類、ケトン類、ケトアルコール類、アミド類、エーテル類、エステル類などの物質を含有しても良い。ただし、熱溶融物質が高粘度液体状態を維持できるように前記有機溶剤の添加量は熱溶融物質に対して1?30重量%とすることが必要である。
【0026】また、本発明では得られた表面平滑性の向上と物理的化学的保護を目的としてカラーフィルター層上に透明保護層を設けることができる。透明保護層としては透明合成樹脂フィルムを熱融着または接着したり、透明合成樹脂塗料を塗工しても良い。用いる樹脂の種類は、要求される表面物性に応じて選定するが、特に耐摩耗性、耐汚染性を要する場合はウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート等からなる電離放射線硬化性樹脂、エポキシ、ポリウレタン、ポリシロキサン等の熱硬化性樹脂、ポリ四弗化エチレン、ポリ弗化ビニリデン等の弗素樹脂が、また、耐候性を要する場合はポリ四弗化エチレン、ポリ弗化ビニリデン等の弗素樹脂、ポリメタアクリル酸メチル等のアクリル樹脂、ポリシロキサン樹脂等が用いられる。また、透明保護層としては酸化珪素などの透明性の高い無機の酸化物を用いても良い。
【0027】
・・・(略)・・・
【0028】本発明によるカラーフィルターの作製方法は、ブラックマトリックス遮光層を各色の目的とする領域外へ拡散を防止する拡散防止パターンとして利用することが好ましい。ブラックマトリックス遮光層からなる拡散防止パターンの形成方法は、例えばガラスなどの基板上にスパッタリング、真空蒸着、無電解メッキなどの方法により金属薄膜としてのクロム層を形成し、フォトリソグラフィーによりモザイク状またはストライプ状にパターニングすることにより得られる。前記金属薄膜形成材料としてはクロム以外にもクロム/酸化クロム、ニッケル、銅など種々の材料を用いることが可能で、薄膜が黒色であること、さらに基板との密着性、膜の緻密性、光遮光性、表面反射率の低いものであれば良い。その他、拡散防止パターンは適当なバインダー中に黒色の顔料または各色の顔料を混合分散したものをフォトリソグラフィーまたは印刷などによりパターニングすることによっても得られる。また、拡散防止パターン表面をシリコーンまたはフッ素を含有する化合物、樹脂などで処理することで、はっ水・はっ油性を持たせることもできる。
【0029】本発明のインクジェット方式そのものについては特に制限はなく、荷電制御方式、電界制御方式、圧力パルス方式およびインクミスト方式など、適宜公知の方法を採用し得る。また各色単一のノズルだけでなくアレー状またはマトリックス状に配置されたマルチノズルも使用でき、ノズルは単色または複色構成どちらでもよい。各色画素はノズルから放出されるインク滴によって形成され、1画素当たりのインク量を制御する上で複数インク滴から形成されることが好ましく、個々のインク滴に量的な変動がある場合でも複数滴使用することによって量的変動を相殺することができる。
【0030】上述したような材料で作製したインクを用いてカラーフィルターを製造する方法を説明する。ブラックマトリックス遮光層を設けた基板上にインクジェット方式によりパターンを形成する。この際、予め基板にシランカップリング剤などの下塗りを施すと、インクと基板との密着力が向上するので好ましい。次に、インクジェット方式により形成された基板自身を加熱するか、基板を高温環境化に保持することにより、インクの再溶融を促し、インク自身のその温度での表面張力により表面の平坦化を図る。加熱工程はインクジェット方式によるパターン形成中でもよく、またパターン形成は3色同時でも単色でもよい。エネルギー線(電子線、紫外線、熱線など)による硬化工程が必要な場合は、加熱処理終了後に行う。
【0031】また、エネルギー線による硬化工程後、さらに加熱処理することが好ましい。この加熱処理はインク成分の平滑性には不要であるが、カラーフィルターの耐溶剤性向上、基板との接着力向上などの目的で行う。
【0032】
【作用】本発明とは別にインクジェットを用いて3色の色素を基板上に配置するカラーフィルターの製造方法が特許出願されている(特開昭59-75205号)。この方法は図3に示すように、基板11に対してぬれ性の良い材料からなる色素を用いる場合は該色素の拡散防止用の格子状パターン12を形成し、そのパターン12領域内にインクジェット方式により色素15?17を定着させる方法あるいは図4に示すように、基板11に対してぬれ性の悪い材料からなる色素を用いる場合はぬれ性改善材からなるパターン14を形成し、そのパターン14上にインクジェット方式により色素18?20を定着させる方法である。
【0033】上記特開昭59-75205号公報記載のインクジェット方式のカラーフィルターの製造方法は「基板に対してぬれ性の良い材料」としてどのような物質を用いるか、また、「色素の拡散防止用の格子状パターン」とはどのような物質であるのか、さらには「ぬれ性改善材」とはどのような物質であるのか具体例が全く開示されていない。また、上記特開昭59-75205号公報記載のインクジェット方式によるカラーフィルターの製造方法では、色素の拡散防止用の格子状パターンあるいはぬれ性改善材を使用するところから、用いる色素は通常インクジェット方式で用いられる用紙に吸着され易い溶液タイプの色素であると考えられる。したがって、上記特開昭59-75205号公報記載の発明は本発明のインクとは異なり、定着時に溶媒を飛散させる必要があり、その時に定着色素表面の平滑性が得られないおそれがある。カラーフィルター用の印刷は、基板として色素溶液を吸着し易い用紙を用いる典型的なインクジェット印刷と異なり、ガラス等の透明基板を用いるので、溶液タイプのインク(色素)は基板に吸収されないので、インクの表面の平滑性を確保することは難しい。また、溶液タイプではインク中の色素量が少なく、「色素の拡散防止用の格子状パターン」や「ぬれ性改善材」の機能範囲内では所定の性能が得られない恐れがある。」

エ 「【0034】これに対して、本発明の場合は図1または図2に示すようなプロセスでカラーフィルターを作製する。ガラス等の透明基体1上にブラックマトリックス遮光層などの拡散防止パターン遮光層2を形成する(図1(a)、図2(a))。ここで、図1に示すカラーフィルターの製法では、拡散防止パターン遮光層2表面ははっ水・はっ油処理を施してないが、図2に示すプロセスでは、拡散防止パターン遮光層2表面にはっ水・はっ油処理を施してある。該拡散防止パターン遮光層2の間に各種の色材と固体からなる熱溶融物質または色材と高粘度液体からなる熱溶融物質を含むインクを加熱溶融して低粘度液体とし、該低粘度液体をインク成分として使用するインクジェットを用いてインク(色素)層3?5のパターンを形成する(図1(b)、図2(b))。そして、これを加熱処理と場合によってはエネルギー線による硬化処理を行う(図1(c)、図2(c))。加熱処理によりインク層3?5の表面は平滑となり、また、エネルギー線による硬化処理によってカラーフィルターの耐熱性の向上が図れる。さらに必要に応じて、表面平滑性の向上と物理的化学的保護を目的としてカラーフィルター層上に保護層6を設ける(図1(d)、図2(d))。
【0035】図2に示すプロセスでは、拡散防止パターン遮光層2表面をはっ水・はっ油表面としてあるので、拡散防止パターン遮光層2上にインク層3?5がはみ出しても、各インク層3?5の拡散防止パターン遮光層2表面との接触角は図2(d)に示すように鋭角となるので、熱溶融時のインク層3?5の拡散が防止され、混色による性能の劣化が防止できる。
【0036】上述のように、本発明は固体ないし高粘度液体を加熱溶融して低粘度液体とし、前記低粘度液体をインク(色素)成分として使用するインクジェット方式によりガラス等の基板上に定着させるものであるので、ガラス等の基板とインク成分とのぬれ性、吸収性が良くない場合でも支障はない。また、前記インク成分を使用する基板上に印刷した直後に基体を加熱処理することで溶液タイプのインク成分に比較して、インク成分の表面平滑性が容易に得られる。そして、必要ならば加熱処理の後にエネルギー線による硬化処理を行う。加熱処理によりインク層3?5の表面は平滑となり、また、エネルギー線による硬化処理によってカラーフィルターの耐熱性の向上が図れる。
【0037】また、前述したように、USP4390369号、特開昭58-108271号、特開昭62-48774号などに記載されているように固体または高粘度液体からなる熱溶融物質を含むホットメルト型インクがインクジェット用インク材料として用いられているが、パターン形成後に加熱する工程はない。すなわち、これらの公報に開示された発明は固化の速度によって種々の紙質に対する浸透が制限され、小さな円形のドットを与えることを目的としていることから、ドット径を大きくし、輪郭を曖昧にし、コントラストを低下させるなどの理由で、パターン形成後の加熱溶融工程が無い点が本発明とは異なる。
【0038】
【実施例】本発明の実施例を説明する。各実施例のインクの組成は以下の通りである。
【0039】実施例1
(硬化性のモノマーまたはオリゴマーを含まない例)
カルナバワックス 94重量%
ステアリン酸 3重量%
フタロシアニンブルー 3重量%
【0040】実施例2
(紫外線重合、固体)
ベンジルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(7/3) 30重量%
テトラメチロールメタンテトラアクリレート 30重量%
ビス(アクリロキシエチル)ビスフェノールA 20重量%
2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-
1,3,5-トリアジン 3.6重量%
p-メトキシフェノール 2重量%
フタロシアニンブルー 4.9重量%
【0041】実施例3
(電子線重合、固体)
メチルメタクリレート/メタクリル酸(9/1) 30重量%
メトキシポリエチレングリコールメタクリレート 50重量%
銅フタロシアニン 4.5重量%
【0042】実施例4
・・・(略)・・・
【0045】上記各実施例のパターン形成後の加熱処理は、50?300℃、好ましくは100?250℃の範囲で、処理時間は1?180分、好ましくは5?150分の範囲である。熱硬化系の場合、平滑化と硬化反応と同時に行うことができる。また、処理温度および時間は材料成分によって異なるが、処理温度が高すぎる場合や、時間が長すぎると顔料の色相変化、樹脂の着色などの問題が生ずる。また温度が低すぎる場合や、時間が短すぎると密着性、耐溶剤性までが不十分となる。
【0046】上記実施例では180℃以下、30分以内で処理は終了し、UV照射またはEB照射によりカラーフィルターを形成した。形成したカラーフィルターは平滑性がよく、必要な色相、濃度がありカラーフィルターとして適当であった。
【0047】比較例
溶液タイプのインクを使用し、加熱処理条件を上記実施例と同様にしてカラーフィルターを形成した。溶液タイプでは溶剤量が多く、必要な濃度が得られなかった。また、溶剤の蒸発による対流で生じた濃度むらが見られ、カラーフィルターとして不適当であった。
【0048】
【発明の効果】本発明によれば、ガラス等の基板とインク成分とのぬれ性、吸収性が良くない場合でも支障なくカラーフィルターが得られ、また、インク成分を使用する基板上に印刷した直後に基体を加熱処理することで溶液タイプのインク成分に比較して、インク成分の表面平滑性が容易に得られる。」

オ 「【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のカラーフィルターの作製方法を説明する図。
・・・(略)・・・
【図4】 従来のカラーフィルターの作製方法を説明する図。
【符号の説明】
1…透明基体、2…拡散防止パターン遮光層、3?5…インク(色素)層、6…保護層」

カ 「【図1】



キ 「【図4】



ク 段落【0034】及び図1(a)?(c)によれば、引用例2には、引用例2における「本発明」である「カラーフィルターの作製方法」により形成した「カラーフィルター」として、以下のものが記載されている(以下、「引用発明」という。)。

「ガラス等の透明基体1上にブラックマトリックス遮光層などの拡散防止パターン遮光層2を形成し、
該拡散防止パターン遮光層2の間に各種の色材と固体からなる熱溶融物質を含むインクを加熱溶融して低粘度液体とし、該低粘度液体をインク成分として使用するインクジェットを用いてインク(色素)層3?5のパターンを形成し、
加熱処理によりインク層3?5の表面を平滑としたカラーフィルター。」

(2) 引用例1
当審拒絶理由において引用された引用例1(特開平5-142407号公報)には、以下の記載がある。(下線は、当合議体が付したものである。以下、同じ。)

ア 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は表示材料用のカラーフィルタの製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】従来知られているカラーフィルタの主要な製造法は、染色法、顔料分散法、電着法、印刷法であり、それぞれの方法で商業的な生産が実施されている。いずれの方法にも共通する欠点はカラーフィルター製造に必要とする製造工程数の多いことであり、これに起因する製造経費、製造ロスの累積によって製造コストが著しく高いことである。
【0003】上記の中で最も生産性が高いと言われている印刷法においてさえ、同時多色刷りの技術は確立されておらず、一色のパターンを形成する度に印刷、乾燥、硬化の工程を必要とする。これはカラーフィルタの印刷が通常の印刷と異なり精密でかつ色濃度の高い(そのため印刷膜厚の高い)印刷を必要とするためである。
【0004】本発明は上記事情に鑑み、製造工程を簡略化することができる表示材料用のカラーフィルタの製造法を提供することを目的とする。」

イ 「【0013】表示装置用のカラーフィルタでは着色ストライプだけを平行に並べた形状の物の他に、TFT用等で画素の区切りにいわゆるブラックマトリックスを持つ品種も用いられる。
【0014】本発明の方法はこの場合にも有用であり黒色のストライプス形成材料を流出させることでブラックストライプスを形成することが出来、直角方向に二回の操作を繰り返すことで格子状のブラックマトリックスを形成することが出来る。ブラックマトリックスに要求される寸法精度が著しく厳しい要求であったり、必要とするブラックマトリックスの形状が直交する二本のストライプでは形成できないような複雑な形状である場合には、透明基板上に事前にいわゆるフォトリソプロセスなどでブラックマトリックスを形成しておき、その上に画素形成材料を流出させる方法でブラックマトリックス付きのカラーストライプフィルタを製造することが出来る。
【0015】事前に形成するブラックマトリックスが画素ストライプスに平行するものである場合にはブラックマトリックスの厚さには特に制限がないが、ブラックマトリックスが画素ストライプスと直交する要素を持っている場合には、厚さの厚いブラックマトリックスの場合厚み段差のところで流下法ストライプパターンの形状に乱れが生ずることがある。この場合には金属蒸着膜エッチング法で作成した薄層のブラックマトリックスを使用することが望ましい。
【0016】微小ノズルの形状は円形、矩形など特に制限はないが一般に10?100マイクロメータの開口であり、その作成法には制限はないが、化学繊維の製造用のノズルと同様放電加工等の方法で精密に製作する事が出来る。
【0017】流出させる画素形成材料はカラーフィルタとして望ましいカラーストライプパターンを透明基板上に形成できるものである限り特に制限はないが、熱溶融性樹脂を加熱溶融させ染料または顔料を溶解または分散し熱溶融状態で流体とした物、あるいは熱硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂、その他の皮膜形成能力のある高分子材料を溶媒に溶解し染料または顔料を溶解または分散した流体であってよい。
【0018】これらの流体は透明基板上に付与された後、熱溶融性樹脂の場合は冷却処理、溶剤使用法の場合は乾燥、硬化(熱硬化、光などの放射線硬化)の工程を経てストライプス状の着色皮膜として安定化されカラーストライプフィルタの画素パターンを形成する。
【0019】カラーフィルタの表面の平坦性が必要とされる場合、加熱静置による自己レベリング処理、ローラー加圧による平坦化処理を施すことが可能である。
【0020】使用される染料、顔料はカラーフィルタとして必要な分光吸収特性、保存安定性を持つものでなくてはならないが、これまでに公知の数多くのカラーフィルタ関連の特許明細書に記載の染料、顔料が概ね使用できる。
【0021】透明基板はガラス板が適しているがプラスチックスの板、フィルムであっても差し支えなく、流下付与される画素形成材料との密着を良化するための処理を事前に施しておくことが有用な場合もある。」

ウ 「【0022】
【実施例】本発明の好適な一実施例の態様を概念図を用いて以下に説明するが、本発明の特許請求の範囲は本実施例の記載に限定されるものではない。図1,図2において11,12,13はそれぞれ緑、青、赤のストライプ形成材料を流出する微小ノズルを有する流下ヘッドを図示するものであり、それぞれ口径50マイクロメータ、ピッチ300マイクロメータの微小ノズルを120ケ開口している。また、図中14,15,16はガラス板上に付与されたカラーストライプ形成材料、17はガラス板を図示している。緑色のストライプス形成材料である流体は、フタロシアニングリーン、無水フタル酸アルキッド樹脂、アマニ油、ブチルセロソルブからなる着色液であり、青色、赤色のストライプス形成材料はフタロシアニングリーンの代わりにカーマインブルー、ブリリアントカーマインレッドを使用して作製された。
【0023】図3にカラーフィルタの断面形状を模式的に示した。本実施例の場合流下付与工程だけでもほぼ完全なストライプス形状がえられているが(図3(A)参照)、加圧ローラによる平坦化処理でより一層平坦性の良好な形状をうることができ(図3(B)参照)、引き継き熱硬化処理を行ってカラーフィルタを完成させた。
【0024】
【発明の効果】以上、実施例と共に述べたように、本発明に係るカラーフィルタの製造法は流体状の画素形成材料を流出する微小ノズルと透明基板との相対位置を連続的に変化させ、透明基板上にストライプス状の着色パターンを形成してなるので、製造が簡易となり、効率的に且つ安定してカラーフィルタを製造することができる。」

エ 「【図面の簡単な説明】
【図1】一実施例に係るカラーストライプ形成状態を示す概略図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】カラーフィルタの断面形状の模式図である。
【符号の説明】
11,12 13 流下ヘッド
14,15,16 カラーストライプ形成材料
17 ガラス板」

オ 「【図1】



カ 「【図2】



キ 「【図3】



(3) 引用例3
当審拒絶理由において引用された引用例3(特開平2-181705号公報)には、以下の記載がある。

ア 「[発明の目的]
(産業上の利用分野)
本発明は、例えばフルカラーもしくはマルチカラーの液晶表示ディスプレイ、又は液晶カラーテレビにおける液晶表示素子を製作する際に適用されるカラーフィルタの製造方法に関し、特にカラーフィルタパターンを印刷法により形成する技術の改良に関する。」(1頁左下欄下から4行?右下欄4行)

イ 「こうした本発明による製造方法において、透明基板としては、カラーフィルタの使用目的に応じて種々のものを使用することができ、特に限定されるものではない。具体的には、透明基板として、例えばガラス、光学用樹脂板、ポリメチルメタクリレート,ポリエステル,ポリアミド等の樹脂フィルタなどを挙げることができる。また、用途の面からみれば、透明基板として、液晶ディスプレイ面,ブラウン管表示面,撮像管の受光面などが挙げられる。」(2頁右下欄14行?3頁左上欄3行)

(4) 引用例4
当審拒絶理由において引用された引用例4(特開2010-111802号公報)には、以下の記載がある。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインキ、及びカラーフィルタ基板に関する。本発明のインクジェットインキは、例えば、液晶ディスプレイパネルのカラーフィルタ基板の製造に好適に用いることができる。」

イ 「【0250】
基板としては、ガラス板や、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂板を用いることができる。ブラックマトリックスは、例えば、ラジカル重合型のブラックレジストを塗布し、露光、そして現像してパターニングするフォトリソグラフィー法、黒色インキを印刷する印刷法、又は金属を蒸着したのちエッチングする蒸着法等により基板上に形成することができる。

(5) 引用例5
当審拒絶理由において引用された引用例5(特開2001-74929号公報)には、以下の記載がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、画素部をインクジェット方式で着色することにより得られる、カラー液晶ディスプレイに好適なカラーフィルタおよびその製造法に関するものである。」

イ 「【0105】(画素部)本発明においては、図1および図2に示すように濡れ性可変層3、中でも上述した光触媒含有層上に画素部4が設けられたところに特徴を有するものである。本発明では、上記光触媒含有層において露光され、液体との接触角が低い親インク性領域に、インクジェット方式により複数色のインクにより所定のパターンで画素部が形成される。通常画素部は、赤(R)、緑(G)、および青(B)の3色で形成される。この画素部における着色パターン、着色面積は任意に設定することができる。本発明のカラーフィルタにおいては、画素部間に遮光部(ブラックマトリックス)が存在しない。したがって、この画素部間には間隙が存在する場合と画素部が連続して設けられる場合とが考えられるが、本実施態様においては、いずれのタイプでもよい。また、図2に示すように撥インク性凸部が設けられたものであってもよい。
【0106】このような画素部を形成するインクジェット方式のインクとしては、大きく水性、油性に分類されるが、本発明においてはいずれのインクであっても用いることができるが、表面張力の関係から水をベースとした水性のインクが好ましい。
【0107】本発明で用いられる水性インクには、溶媒として、水単独または水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒を用いることがきる。一方、油性インクにはへッドのつまり等を防ぐために高沸点の溶媒をベースとしたものが好ましく用いられる。このようなインクジェット方式のインクに用いられる着色剤は、公知の顔料、染料が広く用いられる。また、分散性、定着性向上のために溶媒に可溶・不溶の樹脂類を含有させることもできる。その他、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤などの界面活性剤;防腐剤;防黴剤;pH調整剤;消泡剤;紫外線吸収剤;粘度調整剤:表面張力調整剤などを必要に応じて添加しても良い。
【0108】また、通常のインクジェット用インクは適性粘度が低いためバインダ樹脂を多く含有できないが、インク中の着色剤粒子を樹脂で包むかたちで造粒させることで着色剤自身に定着能を持たせることができる。このようなインクも本発明においては用いることができる。さらに、所謂ホットメルトインクやUV硬化性インクを用いることもできる。」

ウ 「【0114】この透明基板としては、従来よりカラーフィルタに用いられているものであれば特に限定されるものではないが、例えば石英ガラス、パイレックスガラス、合成石英板等の可とう性のない透明なリジット材、あるいは透明樹脂フィルム、光学用樹脂板等の可とう性を有する透明なフレキシブル材を用いることができる。この中で特にコーニング社製7059ガラスは、熱膨脹率の小さい素材であり寸法安定性および高温加熱処理における作業性に優れ、また、ガラス中にアルカリ成分を含まない無アルカリガラスであるため、アクティブマトリックス方式によるカラー液晶表示装置用のカラーフィルタに適している。本発明において、透明基板は通常透明なものを用いるが、反射性の基板や白色に着色した基板でも用いることは可能である。また、透明基板は、必要に応じてアルカリ溶出防止用やガスバリア性付与その他の目的の表面処理を施したものを用いてもよい。」

エ 「【図1】



(6) 引用例6
当審拒絶理由において引用された引用例6(特開2002-107528号公報)には、以下の記載がある。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、画素部をインクジェット方式等の吐出法で形成した場合でも、平坦な画素部を得ることができる、カラー液晶表示装置に好適なカラーフィルタの製造方法に関するものである。」

イ 「【0099】(透明基板)本発明のカラーフィルタの製造方法に用いられる透明基板としては、従来よりカラーフィルタに用いられているものであれば特に限定されるものではないが、例えば石英ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、合成石英板等の可とう性のない透明なリジット材、あるいは透明樹脂フィルム、光学用樹脂板等の可とう性を有する透明なフレキシブル材を用いることができる。この中で特にコーニング社製7059ガラスは、熱膨脹率の小さい素材であり寸法安定性および高温加熱処理における作業性に優れ、また、ガラス中にアルカリ成分を含まない無アルカリガラスであるため、アクティブマトリックス方式によるカラー液晶表示装置用のカラーフィルタに適している。本発明において、透明基板は通常透明なものを用いるが、反射性の基板や白色に着色した基板でも用いることは可能である。また、透明基板は、必要に応じてアルカリ溶出防止用やガスバリア性付与その他の目的の表面処理を施したものを用いてもよい。」

(7) 引用例10
当審拒絶理由において引用された引用例10(特開2009-217169号公報)には、以下の記載がある。

ア 「【0046】
凹版の形成材料としては、例えば、ガラス、金属などが挙げられる。また、例えば、ガラスなどの基板に凹部を設け、その凹部の表面に金属被膜を電着法により形成したもの(いわゆる「電着凹版」)であってもよい。
上記インキの印刷に凹版オフセット印刷法を採用した場合には、透明基板上でのインキパターンの断面形状が、透明基板との接触面の反対側で丸くなる(例えば、透明基板上での断面形状がかまぼこ型になる)ため、インキパターンの平坦性を向上させるために、インキパターンの平坦化処理が必要となる。
【0047】
インキパターンを平坦化するための平坦化部材は、透明基板上に形成されたインキパターンの表面に押し当てて、このインキパターンの表面を平坦にするための部材であって、例えば、ローラが挙げられる。
インキパターンを平坦化するためのローラには、例えば、インキ離型性に優れた材料(インキ離型性材料)からなるシート部材(例えば、シリコーンゴムシートなど)を芯材に巻きつけてローラ状にしたもの、例えば、有底円筒状の容器の軸線に沿って上記底部を貫通して伸びる芯材を配置し、上記芯材の周囲にインキ離型性材料(例えば、液状シリコーンゴムなど)を直接注型し、硬化させて、上記インキ離型性材料をロール状にしたもの、などが挙げられる。
【0048】
・・・(略)・・・
平坦化部材としてローラを用いる場合において、このローラによるインキパターン表面の圧接条件としては、特に限定されないが、例えば、ローラとインキパターンとが接する部分における圧力(いわゆるニップ圧)が、好ましくは、1?50kg/cm^(2)、さらに好ましくは、2?20kg/cm^(2)であり、インキパターン上でローラを転がす速度は、好ましくは、5?100mm/分である。
【0049】
・・・(略)・・・
【0050】
・・・(略)・・・
なお、上記インキの印刷に反転印刷法を採用した場合には、透明基板上でのインキパターンの断面形状が矩形状となるため、インキパターンの平坦化処理は不要である。
【0051】
・・・(略)・・・
【0052】
また、本発明のカラーフィルタの製造方法によれば、例えば、インキの硬化処理後において、幅80?120μm程度、厚さ1.9?2.2μm程度の微細なストライプ状のインキパターンを、互いに色が異なる3種以上のインキで形成した場合において、互いに色が異なるインキパターン間での印刷線幅(インキ硬化前)の差(ばらつき)の最大値を、好ましくは、0.1μm以下となるように設定することができ、さらに好ましくは、0.05μm以下となるように設定できる。さらに、この場合においては、互いに色が異なるインキパターン間でのパターンの厚み(インキ硬化前)の差(ばらつき)の最大値を、好ましくは、0.15μm以下となるように設定することができ、さらに好ましくは、0.1μm以下となるように設定できる。」
【0053】
1(a)?図1(d)は、カラーフィルタの製造方法の一実施形態であって、凹版オフセット印刷法によって着色層を形成する場合を示す概略説明図である。
このカラーフィルタの製造方法では、まず、図1(a)に示すように、第1の凹版1の表面に沿って印刷用ブランケット2を転がすことにより、第1の凹版1の凹部3に充填された第1のインキ4を印刷用ブランケット2の表面へ転写する。さらに、第1のインキ4が転写された印刷用ブランケット2を、透明基板5の表面に沿って転がすことにより、第1のインキ4を印刷用ブランケット2の表面から透明基板5の表面へと転写し、1色目のインキパターン6を形成する(第1の印刷工程)。
【0054】
次に、図1(b)に示すように、第2の凹版7の表面に沿って印刷用ブランケット2を転がすことにより、第2の凹版7の凹部3に充填された第2のインキ8を印刷用ブランケット2の表面へ転写する。さらに、第2のインキ8が転写された印刷用ブランケット2を、透明基板5の表面に沿って転がすことにより、第2のインキ8を印刷用ブランケット2の表面から透明基板5の表面へと転写し、2色目のインキパターン9を形成する(第2の印刷工程)。
【0055】
さらに、図1(c)に示すように、第3の凹版10の表面に沿って印刷用ブランケット2を転がして、第3の凹版10の凹部3に充填された第3のインキ11を印刷用ブランケット2の表面へ転写する。さらに、第3のインキ11が転写された印刷用ブランケット2を、透明基板5の表面に沿って転がすことにより、第3のインキ11を印刷用ブランケッ
ト2の表面から透明基板5の表面へと転写し、3色目のインキパターン12を形成する(第3の印刷工程)。
【0056】
こうして、透明基板5の表面に、互いに色が異なる3色のインキパターン6,9,12を形成後、図1(d)に示すように、3色のインキパターン6,9,12の表面に沿って、ローラ13を押し当てながら転がすことにより、3色のインキパターン6,9,12を平坦化する(平坦化工程)。
その後、平坦化処理された3色のインキパターン6,9,12を焼成し、硬化させることにより、互いに色が異なる3色の着色層を備えるカラーフィルタが得られる。
【0057】
互いに色が異なる3色のインキとしては、通常、レッド、グリーンおよびブルーの3色のインキが用いられる。これら3色のインキの印刷順序は特に限定されないが、通常、インキの乾燥性などを勘案し、乾燥しにくいインキから順に印刷する。
また、着色層として、上記3色のインキパターンとともに、他の色のインキパターンを形成する場合には、上述の印刷工程に対し、さらに、他の色のインキパターン用の凹版から透明基板へのインキの転移を行う印刷工程を追加すればよい。」

イ 「【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】(a)?(d)は、カラーフィルタの製造方法の一実施形態であって、凹版オフセット印刷法によって着色層を形成する場合を示す概略説明図である。」

ウ 「【図1】



2 対比及び判断
(1) 対比
本願発明と、引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
ア 「基板」
引用発明の「ガラス等の透明基体1」は、基板である。
そうすると、引用例1の「ガラス等の透明基体1」と、本願発明の「プラスチックのフレキシブル基板」は、「基板」である点で共通する。

イ 「R、G、Bパターン」
(ア) 引用発明は、「カラーフィルター」であるから、技術常識に照らし、「インク(色素)層3?5」は、「赤色(R)」、「緑色(G)」、「青色(B)」の3色の「インク(色素)層」からなる通常のカラーフィルターである。
そうすると、引用発明の「インク(色素)層3?5のパターン」は、「赤色(R)」、「緑色(G)」、「青色(B)」の3色の「インク(色素)層」の「パターン」であるから、本願発明の「R、G、Bパターン」に相当する。

(イ) 引用発明において、「インク(色素)層3?5のパターン」は、「該拡散防止パターン遮光層2の間に各種の色材と固体からなる熱溶融物質を含むインクを加熱溶融して低粘度液体とし、該低粘度液体をインク成分として使用するインクジェットを用いて」「形成し」たものである。
また、「ブラックマトリックス遮光層などの拡散防止パターン遮光層2」は、「ガラス等の透明基体1上に」「形成し」たものである。
そうすると、引用発明の「インク(色素)層3?5のパターン」は、「ガラス等の透明基体1上に」「形成し」たものである。
してみると、上記(ア)より、引用発明の「インク(色素)層3?5のパターン」と、本願発明の「R、G、Bパターン」は、「基板上に形成された」ものである点で共通している。

(ウ) 引用発明の「インク(色素)層3?5のパターン」は、「該拡散防止パターン遮光層2の間に」「インクジェットを用いて」「形成し」たものである。
そうすると、上記(ア)より、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の3色の「インク(色素)層」の各「パターン」の間に、「ブラックマトリックス遮光層などの拡散防止パターン遮光層2」を形成しているということができる。
引用発明の「ブラックマトリックス遮光層などの拡散防止パターン遮光層2」は、本願発明の「ブラックマトリックス」に相当する。
してみると、引用発明は、「インク(色素)層3?5のパターン」(R、G、Bパターン)の間に、「ブラックマトリックス遮光層などの拡散防止パターン遮光層2」(ブラックマトリックス)を形成している。

ウ 「相変化インク組成物」
引用発明の「インク(色素)層3?5のパターン」は、「各種の色材と固体からなる熱溶融物質を含むインクを加熱溶融して低粘度液体とし、該低粘度液体をインク成分として使用するインクジェットを用いて」「形成し」たものである。
そうすると、引用発明の「インク(色素)層3?5のパターン」は、「各種の色材と固体からなる熱溶融物質を含むインク」により形成されていることになる。

エ 「カラーフィルタ基板」
上記アとイより、引用発明の「カラーフィルター」は、「ガラス等の透明基体1」(基板)と、「ガラス等の透明基体1上に」「形成し」た「インク(色素)層3?5のパターン」(R、G、Bパターン)とからなるものである。
そうすると、引用発明の「カラーフィルター」と、本願発明の「フレキシブルカラーフィルタ基板」は、「カラーフィルタ基板」である点で共通する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
前記(1)の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「基板と、
前記基板上に形成されたR、G、Bパターンと、
を含む、
カラーフィルタ基板。」

イ 相違点
前記(1)の対比結果を踏まえると、本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(相違点1)
本願発明は、「基板」が「プラスチックのフレキシブル基板」である「フレキシブルカラーフィルタ基板」であるのに対して、
引用発明は、「基板」が「ガラス等の透明基体1」である点。

(相違点2)
本願発明は、「前記R、G、Bパターン」が、「相変化インク組成物で形成され」ているのに対して、
引用発明は、「インク(色素)層3?5のパターン」(R、G、Bパターン)が、「各種の色材と固体からなる熱溶融物質を含むインク」により形成されているものの、「相変化インク組成物で形成され」ているのか一応明らかでない点。

(相違点3)
本願発明は、「R、G、Bパターン」が、「上部表面の算術平均粗さがパターンの高さの5%以下であり」、「R、G、Bパターンの間にブラックマトリックスが形成されていない」のに対して、
引用発明は、「インク(色素)層3?5のパターン」(R、G、Bパターン)が、「加熱処理によりインク層3?5の表面を平滑」としているものの、「上部表面の算術平均粗さがパターンの高さの5%以下であ」るのかどうか明らかでなく、また、「インク(色素)層3?5のパターン」(R、G、Bパターン)の間に「ブラックマトリックス遮光層などの拡散防止パターン遮光層」(ブラックマトリックス)を形成している点。

(相違点4)
本願発明は、「R、G、Bパターン」が、「30μm?200μmの幅と、1μm?10μmの高さとを有し、パターンの高さ対幅の比が1:20?1:200であり、断面形状が略長方形である」のに対して、
引用発明は、「インク(色素)層3?5のパターン」(R、G、Bパターン)が、このような構成となっているのか明らかでない点。

(3) 相違点についての判断
ア (相違点1)について
上記(相違点1)について検討する。
カラーフィルタを形成する透明基板として、プラスチックのフレキシブル透明基板を用いることは、優先日前に周知の技術である(例えば、引用例1の段落【0021】、引用例3の2頁右下欄17行-20行、引用例4の段落【0250】、引用例5の段落【0114】、引用例6の段落【0099】等参照。)である。
そうすると、引用発明において、ガラス等の透明基体1として、プラスチックのフレキシブル透明基板を採用して、上記(相違点1)に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

イ (相違点2)について
上記(相違点2)について検討する。
(ア) 本件出願の明細書には、以下の記載がある(特に、下線部を参照。)。
「【0031】
相変化インクとは、常温では固体であるが、インクジェット装置の動作温度では液体に転換されて液相で噴射されて印刷媒体に付着され、付着された後には急速に凝固されてパターンを形成するインクのことである。このような相変化インクを用いる場合、噴射された後に急速に凝固されることから、インクの広がりが少ないため、ブラックマトリックスを形成しなくてもR、G、Bパターンの混色が起こらず、インクの凝固速度が温度によって制御されるため、基板の表面状態にかかわらず比較的一定のパターンを形成することができる。
【0032】
一方、本発明において使用可能な相変化インク組成物は、相変化物質と、着色剤と、を含む。
【0033】
上記相変化物質は、インクに相変化特性を付与するためのものであり、特に限定されず、常温で固体である脂肪酸、高級アルコール、各種ワックス類であれば良い。上記相変化物質の具体的な例としては、脂肪酸としてデカン酸、・・・、オクタデカン酸、・・・ヘキサトリアコンタノール;ワックス類として鉱物由来の、パラフィンワックス、・・・、植物由来のカルバナワックス、・・・等が挙げられるが、これに限定されるものではない。」

(イ) 上記(ア)の本件出願の明細書の記載によれば、「相変化インク」とは、常温では固体であるが、インクジェット装置の動作温度では液体に転換されて液相で噴射されて印刷媒体に付着され、付着された後には急速に凝固されてパターンを形成するインクであること、「相変化インク組成物」とは、相変化物質と、着色剤と、を含むものであること、「相変化物質」とは、インクに相変化特性を付与するためのものであることが理解できる。

(ウ) ここで、引用発明の「インク(色素)層3?5のパターン」を形成する「各種の色材と固体からなる熱溶融物質を含むインク」は、「インク(色素)層3?5のパターンを形成する」時には、「加熱溶融して低粘度液体と」され、「該低粘度液体をインク成分として」「インクジェット」に「使用」されるものである。
そうすると、引用発明の「インク」は、常温では固体であって、加熱溶融によりインクがインクジェットに使用できる低粘度の液体となる特性を有するものである。
また、引用発明の「インク」は、常温では固体であるから、「加熱溶融して低粘度液体と」され「該低粘度液体をインク成分として」「インクジェット」に「使用」されて、「ガラス等の透明基体1上に」「インク(色素)層3?5のパターン」を「形成し」(上記(1)イ(イ)参照。)た後は、冷えることによって、固体に戻るものである。
そうすると、上記(イ)より、引用発明の「インク」は、「相変化インク」であるということができる。

(エ) そして、引用発明の「インク」に含まれる「固体からなる熱溶融物質」は、「インク」を、常温では固体であって、加熱溶融によりインクがインクジェットに使用できる低粘度の液体とすることができるものである。
そうすると、上記(イ)と(ウ)より、上記引用発明の「インク(色素)層3?5のパターン」を形成する「インク」に含まれる「固体からなる熱溶融物質」は、「相変化物質」であるということができる。

(オ) 上記(エ)より、引用発明の「インク(色素)層3?5のパターン」を形成する「インク」は、(色材である)着色剤と(固体からなる熱溶融物質である)相変化物質を含むということができる。
そうすると、上記(イ)より、引用発明の「インク(色素)層3?5のパターン」を形成する「インク」は、「相変化インク組成物」であるということができるから、結局、引用発明において、「インク(色素)層3?5のパターン」(R、G、Bパターン)は、「相変化インク組成物」で形成されているということができる。
してみると、上記(相違点2)は、実質的な相違点を構成しない。

(カ) なお、「相変化物質」が、常温で固体である脂肪酸、高級アルコール、各種ワックス類を意味し、上記(相違点2)が実質的な相違点を構成するとしても、引用例2には、実施例1(【0039】)の(硬化性のモノマーまたはオリゴマー含まない例)の「インクの組成」を、「カルナバワックス」「94重量%」、「ステアリン酸」「3重量%」、「フタロシアニンブルー」「3重量%」とすることが記載されている。
そして、「カルナバワックス」は、融点が80?86℃程度のワックスであって、常温で固体であること、また、「ステアリン酸」は、融点が62?71℃程度の脂肪酸であって、常温で固体であることは技術常識である。
そうすると、引用発明において、「インク(色素)層3?5のパターン」(R、G、Bパターン)を形成する「インク」に各種の色材とともに含まれる「固体からなる熱溶融物質」として、「カルナバワックス」及び「ステアリン酸」を用いて、上記(相違点2)に係る本願発明の構成とすることは、当業者であれば適宜なし得たことである。

ウ (相違点3)及び(相違点4)について
上記(相違点3)及び(相違点4)について検討する。
(ア) 引用例1(段落【0013】、【0017】?【0019】、【0021】、【0023】、図1-図3等)には、ブラックマトリクスが形成されていない基板の表面上に熱溶融性樹脂からなるホットメルトインクによりR、G、Bパターンを形成することや、間にブラックマトリクスが形成されていないR、G、Bパターンに対して加圧ローラにより平坦化処理を行うことが記載されている。
また、引用例5(段落【0108】、【0105】、図1等)にも、ホットメルトインクをインクジェット方式のインクとして用いて、ブラックマトリックスが存在しない基板の表面上にR、G、Bパターンを形成することが記載されている。

(イ) カラーフィルターの平坦さの程度を示す指標として算術平均粗さ(Ra)を用いることや、平坦化処理によりカラーフィルターのRaを0.1μm以下、20nm以下、あるいは10nm以下とすることは、優先日前に周知の事項である(例えば、(a)特開平5-281412号公報の段落【0015】(特に、【0015】の「加熱ローラ25には、同様に加熱ヒータが内蔵されており、昇降できるようになっている。この加熱ローラ25は、直径が12cmで、表面のJIS-A硬度が80、表面粗さRaが0.1μm以下のシリコンゴムである。なお、ロ-ラ表面の硬度は、着色インク被膜中の樹脂成分の硬度にもよるが、硬度40以上90以下が好ましい。硬度が40より低いと、インク被膜の表面粗さを0.1μm以下に平滑化することが困難となる。」)、(b)特開2008-281618号公報の段落【0064】,【0065】(特に、【0064】?【0065】の「そして、前記平坦化シートの表面であるローラの接触面を、前記透明樹脂層の表面に接触させた状態で、前記ローラを、前記表面上で転動させることによって、前記表面を平坦化した後、230℃×30分間の加熱をして、透明樹脂層を硬化させてカラーフィルタを製造した。・・・また、平坦化されたものについては、前記表面の、粗さ曲線の算術平均粗さRaを、段差・表面あらさ・微細形状測定装置・・・を用いて測定して、前記算術平均粗さRaが20nmを超えるものを、透明樹脂層に厚みのムラあり、20nm以下のものをムラなし、平滑性良好として評価した。」)、【0066】【表2】(特に、実施例1,2の「平滑性」「Ra(nm)」「3.5」)、【0067】【表3】(特に、実施例3の「平滑性」「Ra(nm)」「3.6」)、(c)特開2007-3945号公報の段落【0157】?【0159】(特に、【0159】の「カラーフィルターにおいては、前記画素の表面粗度(Ra)は、10nm以下であることが、更に7.5nm以下、特に5nm以下であることが、コントラストが向上する点から好ましい。」)等を参照。)。

(ウ) また、表示装置におけるカラーフィルター層の厚み(高さ)として1?10μmの範囲内のもの、カラーフィルター層のストライプ幅(線幅)として30?200μmの範囲内のもの、厚み(高さ)対ストライプ幅(線幅)の比が1:20?1:200の間のものは、優先日前に周知慣用の構成である(例えば、(a)引用例10の段落【0052】には、厚みを1.9?2.2μm、幅を80?120μm(厚み/幅を大体1:40?1:60)とすること、(b)特開平8-234013号公報の段落【0009】には、厚みを1?2μm、線幅を約100μm(厚み/線幅を大体1:50?1:100)とすること、(c)特開平8-75914号公報の段落【0020】、【0012】には、厚みを1?3μm、線幅を60?200μm(好ましくは90?130μm)(厚み/線幅を1:20?1:200(好ましくは1:30?1:130))とすること、(d)特開平3-274023号公報(2頁右上欄11?16行等)には、厚みを2μm、ストライプ幅を120μm(厚み/ストライプ幅を1:60)とすること、(e)特開平3-278003号公報の2頁右下欄下から11行?3頁左下欄10行)には、厚みを3.5μm程度、ストライプ幅を100μm(実施例1)、厚みを2.5μm程度、ストライプ幅を200μm(実施例2)(厚み/ストライプ幅を1:30程度(実施例1)、1:80程度(実施例2))とすることが記載されている。)。

(エ) さらに、上部表面の平坦化により断面形状を略長方形とされたR、G、Bパターンは、優先日前に周知の構成である(例えば、(a)引用例1の図3(B)(カラーストライプ形成材料14,15,16)、段落【0019】、【0023】、(b)引用例10の図1(d)(3色のインキパターン6,9,12、ローラ13)、段落【0056】、(c)特開平8-75914号公報の図2(a’)(透明着色樹脂層2”(R、G、B)、金属ロール5)、段落【0019】、【0020】、(d)特開平1-265204号公報の図3(青インキ被膜31、緑インキ被膜32、赤インキ被膜33、プレスローラー35、シリコンゴムシート36)、2頁右下欄18行?3頁左上欄4行、(e)特開2008-281618号公報の図2(透明樹脂層5、ストライプパターン2?4、平坦化シート6、ローラ7)、段落【0041】段落等参照。)。

(オ) ここで、引用例2の請求項1,2の記載においては、「ブラックマトリクス遮光層」を形成することが特定されていないことや、段落【0028】の「ブラックマトリックス遮光層を各色の目的とする領域外へ拡散を防止する拡散防止パターンとして利用することが好ましい。」という記載によれば、引用発明においては、「R、G、Bパターンの間にブラックマトリックスを形成する」ことは、必須の技術的事項ではないことが把握できる。また、引用例2(段落【0032】、図4)には、ブラックマトリックスを形成しないカラーフィルターの作製方法についても言及されている。
そして、引用発明は、平坦で画素形状の良いカラーフィルターを得ることを目的とするものであるところ、引用発明において、上記(ア)の引用例1や引用例5に記載された技術に基づき、「R、G、Bパターンの間にブラックマトリックスが形成されていない」構成とし、加熱処理により間にブラックマトリックスが形成されていないR、G、Bパターンの上部表面が平坦化された構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことであり、その際、「R、G、Bパターン」を、30μm?200μmの幅と、1μm?10μmの高さとを有し、パターンの高さ対幅の比が1:20?1:200である上記周知の構成とするとともに、加熱処理による平坦化により、「R、G、Bパターン」の上部表面の算術平均粗さ(Ra)を、例えば、上記の周知の0.1μm以下、20nm以下、あるいは10nm以下等の小さな値として、「R、G、Bパターン」の上部表面の算術平均粗さ(Ra)が、「R、G、Bパターン」の高さの5%以下である構成とすること、また、「R、G、Bパターン」の断面形状を上記周知の略長方形とすることは、上記(イ)ないし(エ)の知識を有し、平坦で画素形状が良いカラーフィルターを得ようと試みる当業者が適宜なし得たことである。

(カ) あるいは、引用発明において、引用例1や引用例5に記載された技術に基づき、「R、G、Bパターンの間にブラックマトリックスが形成されていない」構成とするとともに、加圧ローラによりR、G、Bパターンの上部表面が平坦化された構成とすることは、当業者であれば容易になし得たことであり、その際、「R、G、Bパターン」を、30μm?200μmの幅と、1μm?10μmの高さとを有し、パターンの高さ対幅の比が1:20?1:200である上記周知の構成とするとともに、加圧ローラによる平坦化により、「R、G、Bパターン」の上部表面の算術平均粗さ(Ra)を、例えば、上記の周知の0.1μm以下、あるいは20nm以下等の小さな値として、「R、G、Bパターン」の上部表面の算術平均粗さ(Ra)が、「R、G、Bパターン」の高さの5%以下である構成とすること、また、「R、G、Bパターン」の断面形状を上記周知の略長方形とすることは、上記(イ)ないし(エ)の知識を有し、平坦で画素形状が良いカラーフィルターを得ようと試みる当業者が適宜なし得たことである。

エ 請求人の主張について
(ア) 請求人は、平成29年8月23日提出の意見書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「(2)特許法第29条第2項の拒絶理由について」「(イ)請求項1及びその従属項について」において、「(a)構成上の相違」について、「いずれの引用文献にも、本願の請求項1に係る発明の、「プラスチックのフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板上に形成されたR、G、Bパターンとを含み」という特徴と、「前記R、G、Bパターンの間にブラックマトリックスが形成されておらず」という特徴と、「前記R、G、Bパターンの上部表面の算術平均粗さがパターンの高さの5%以下であり」という特徴と、「前記R、G、Bパターンは、30μm?200μmの幅と、1μm?10μmの高さとを有し、パターンの高さ対幅の比が1:20?1:200であり、断面形状が略長方形であり」という特徴と、をすべて備えた「フレキシブルカラーフィルタ基板」が記載も示唆もされていない。」旨主張している。

(イ) また、請求人は、同意見書において、「(b)本願発明の有利な効果」について、「かかる構成上の相違により、本願発明は引用文献に記載された発明と比較して有利な下記の効果を奏する。」、「通常、プラスチックのフレキシブル基板を用いてフレキシブルカラーフィルタ基板を作製する場合、プラスチックのフレキシブル基板の表面エネルギーが製作工程によって変化し、基板上の表面エネルギーが不均一となる。そのため、プラスチックのフレキシブル基板を用いてフレキシブルカラーフィルタ基板を作製する場合には、RGBパターンを形成する前に、基板上にブラックマトリックスパターンを形成しておかなければ、幅及び高さが均一なRGBパターンを形成することができない。」、「しかしながら、本願の請求項1に係る発明の一実施形態によれば、R、G、Bパターンの間にブラックマトリックスが形成されていないにも関わらず、(i)上部表面の算術平均粗さがパターンの高さの5%以下であり、(ii)30μm?200μmの幅と、1μm?10μmの高さとを有し、(iii)パターンの高さ対幅の比が1:20?1:200であり、(iv)断面形状が略長方形である、R、G、Bパターンが形成されたフレキシブルカラーフィルタ基板が提供される。」、「本願発明の一実施形態に係るフレキシブルカラーフィルタ基板には、ブラックマトリックスパターンが形成されておらず、また、精密で均一なパターンが形成されている。そのため、画素部内又はピクセルの間に段差が発生したり、画素部内に未充填領域が発生したりすることが抑制される。その結果、光漏れ現象が抑制され、優れた光学特性を示す。」、「ここで、本願発明の一実施形態に係るフレキシブルカラーフィルタ基板は、例えば、本願の請求項3に記載の製法を採用したことにより初めて得られたものであり、新規な構造を有するものである。」、「しかしながら、引用文献1?12には、本願の請求項3に記載の製法が記載も示唆もされていない。また、後述のとおり、引用文献1?12の記載に基づいて、本願の請求項3に記載された発明を想到することはできない。そのため、本願の出願時において、当業者は、R、G、Bパターンの間にブラックマトリックスが形成されていないにも関わらず、(i)上部表面の算術平均粗さがパターンの高さの5%以下であり、(ii)30μm?200μmの幅と、1μm?10μmの高さとを有し、(iii)パターンの高さ対幅の比が1:20?1:200であり、(iv)断面形状が略長方形である、R、G、Bパターンが形成されたフレキシブルカラーフィルタ基板が作製できるとは考えていない。加えて、上記のとおり、本願発明の一実施形態に係るフレキシブルカラーフィルタ基板は、光漏れ現象が抑制され、優れた光学特性を示す。」、「したがって、上記の(i)?(iv)に係る事項は単なる設計事項などではなく、引用文献1?12に接した当業者であっても、引用文献1又は2に記載された発明に基づいて、本願発明を想到することはできない。」旨主張している。

(ウ) しかしながら、上記(ア)の「(a)構成上の相違」について、「プラスチックのフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板上に形成されたR、G、Bパターンとを含み」という特徴と、「前記R、G、Bパターンの間にブラックマトリックスが形成されておらず」という特徴と、「前記R、G、Bパターンの上部表面の算術平均粗さがパターンの高さの5%以下であり」という特徴と、「前記R、G、Bパターンは、30μm?200μmの幅と、1μm?10μmの高さとを有し、パターンの高さ対幅の比が1:20?1:200であり、断面形状が略長方形であり」という特徴と、をすべて備えた「フレキシブルカラーフィルタ基板」の構成とすることが、当業者にとって容易になし得たことであることは、上記アないしウのとおりである。

(エ) そして、上記(イ)の請求人が主張する「(b)本願発明の有利な効果」についても、フレキシブルカラーフィルタ基板に、ブラックマトリックスパターンが形成されていなくても、精密で均一なパターンが形成できることや、(画素部の下端に位置していたブラックマトリックスがないことから、)画素部内又はピクセルの間に段差が発生したり、画素部内に未充填領域が発生したりすることが抑制され、その結果、光漏れ現象が抑制され、優れた光学特性を示すことは、引用例1?6に記載された各事項及びカラーフィルタの高さ、幅や断面形状に係る優先日前に周知の各事項に基づき本願発明の構成としたことに伴って当然に奏される作用・効果、あるいは、これら各事項に基づき、当業者にとって予測可能な作用・効果であって、格別のものではない。
また、引用例1には、ブラックマトリクスを形成せずに、ホットメルトインク(熱溶融インク)によりカラーフィルターを基板上に形成することや、加圧ローラによりカラーフィルター表面の平坦化処理を行うことや、カラーフィルターの断面形状を略長方形とすることについて記載・示唆されているから、「ここで、本願発明の一実施形態に係るフレキシブルカラーフィルタ基板は、例えば、本願の請求項3に記載の製法を採用したことにより初めて得られたものであり、新規な構造を有するものである。」、「しかしながら、引用文献1?12には、本願の請求項3に記載の製法が記載も示唆もされていない。」という請求人の主張を採用することはできない。

(オ) したがって、上記(ア)及び(イ)の意見書の請求人の主張を採用することはできない。

エ 小括
よって、本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、引用例2に記載された発明、引用例1、引用例5に記載された技術及び周知技術に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。

第5 まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本件出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-10 
結審通知日 2018-01-16 
審決日 2018-01-30 
出願番号 特願2014-527110(P2014-527110)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横川 美穂  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
鉄 豊郎
発明の名称 相変化インクを用いたフレキシブルカラーフィルタ基板及びその製造方法  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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