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審決分類 審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 一部無効 2項進歩性  A61K
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1341438
審判番号 無効2017-800107  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-08-07 
確定日 2018-06-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第4659980号発明「二酸化炭素含有粘性組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4659980号の請求項1?13に係る発明は、1998年10月5日(優先権主張1997年11月7日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成23年1月7日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人は平成29年8月7日に本件特許に対して無効審判を請求し、被請求人は平成29年11月13日付けで審判事件答弁書を提出した。
そして、平成30年2月8日に第1回口頭審理が行われ、これに先立ち請求人は平成30年1月25日付けで口頭審理陳述要領書、平成30年2月5日付けで上申書、及び、平成30年2月6日付けで上申書を提出し、また被請求人も平成30年1月25日付けで口頭審理陳述要領書を提出した。
さらに、請求人は平成30年2月14日付けで上申書を提出した。


第2 本件発明
本件特許第4659980号(以下、単に「本件特許」という。)の請求項1?13に係る発明(以下「本件特許発明1」、「本件特許発明2」・・・とそれぞれいい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)は、特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のものである。
「【請求項1】
部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤の組み合わせ;又は
2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ
からなり、
含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、
含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。
【請求項2】
得られる二酸化炭素含有粘性組成物が、二酸化炭素を5?90容量%含有するものである、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
含水粘性組成物が、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき、2時間後において50以上の容量を保持できるものである、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである、請求項1乃至3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである、請求項1乃至4のいずれかに記載のキット。
【請求項6】
請求項1?5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を有効成分とする、水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物。
【請求項7】
請求項1?5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む部分肥満改善用化粧料。
【請求項8】
顔、脚、腕、腹部、脇腹、背中、首、又は顎の部分肥満改善用である、請求項7に記載の化粧料。
【請求項9】
部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法であって、
1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤;又は
2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物;
を用いて、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み、
含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものである、二酸化炭素含有粘性組成物の調製方法。
【請求項10】
調製される二酸化炭素含有粘性組成物が、二酸化炭素を5?90容量%含有するものである、請求項9に記載の調製方法。
【請求項11】
含水粘性組成物が、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき、2時間後において50以上の容量を保持できるものである、請求項9又は10に記載の調製方法。
【請求項12】
含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである、請求項9乃至11のいずれかに記載の調製方法。
【請求項13】
含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである、請求項9乃至12のいずれかに記載の調製方法。」

第3 請求人の主張
請求人は、「特許第4659980号の請求項1?5、7?13に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、本件特許が無効とされるべき理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として以下の書証を提出している。

[無効理由1](進歩性欠如)
本件特許発明1?5及び7?13は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第3?15号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1?5及び7?13に係る特許は、同法第123条第1項第2号により無効とされるべきものである。

[無効理由2](サポート要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであって、本件特許発明1?5、7?13に係る特許は、同法第123条第1項第4号により無効とされるべきものである。

[無効理由3](実施可能要件違反)
本件特許の発明の詳細な説明の記載は、平成14年4月17日法律第24号の附則第2条第1項において、なお従前の例によるとされる特許法第36条第4項(以下「特許法第36条第4項」という。)に規定する要件を満たしていないものであって、本件特許発明1?5、7?13に係る特許は、同法第123条第1項第4号により無効とされるべきものである。

[無効理由4](明確性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであって、本件特許発明1?5、7?13に係る特許は、同法第123条第1項第4号により無効とされるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証 特開平5-229933号公報
甲第2号証 特開平6-179614号公報
甲第3号証 特開平4-217609号公報
甲第4号証 生活の界面化学増補版、三共出版株式会社、昭和57 年2月1日、表紙、p.26?27、奥付
甲第5号証 特開昭63-310807号公報
甲第6号証 特開平9-194323号公報
甲第7号証 特開平11-89512号公報
甲第8号証 特開2001-340411号公報
甲第9号証 「日本女性の化粧の変遷100年」と題されたウェブ ページ(http://hma.shiseidog roup.jp/info/p20161222_5 392/)の印刷物(印刷日:平成29年7月17 日)
甲第10号証 特開2000-239139号
甲第11号証 特開2002-154931号公報
甲第12号証 特願2000-520135号の平成22年9月6日 付け意見書
甲第13号証 特願2000-520135号の平成16年4月26 日付け意見書
甲第14号証 特願2000-520135号の平成18年5月12 日付け意見書
甲第15号証 「化粧品と薬用化粧品」と題されたウェブページ(h ttp://www.jcia.org/n/pub /info/b/02-2/)の印刷物(印刷日:平 成29年8月4日)
(以上、審判請求書にいずれも写しを原本として添付)

甲第16号証 無効2017-800108号の平成29年12月2 7日付け審理事項通知書
甲第17号証 弁理士 柴大介作成の「甲第1、2、3及び5号証に 基づく容易想到例」と題された平成30年1月25日 付けの文書
甲第18号証の1 特願2000-520135号の平成18年3月3日 付け拒絶理由通知書
甲第18号証の2 特願2000-520135号の平成18年5月12 日付け手続補正書
甲第18号証の3 特願2000-520135号の平成18年11月2 8日付け拒絶査定
甲第18号証の4 特願2000-520135号の平成19年2月6日 付け手続補正書
甲第18号証の5 特願2000-520135号の平成19年8月22 日付け前置報告書
甲第18号証の6 不服2007-886号の特許審決公報
甲第19号証の1 米国特許3164523号明細書
甲第19号証の2 特開平7-173065号公報
甲第19号証の3 特開平8-53357号公報
甲第19号証の4 特開平8-92105号公報
甲第20号証の1 特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節13 ?14頁
甲第20号証の2 知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10069 号、平成17年(行ケ)第10087号判決
甲第21号証 特開平3-161415号公報
甲第22号証の1 株式会社トラストウイングス 代表取締役 石井純一 と弁護士 朴貴玲作成の平成30年1月25日付け実 験報告書
甲第22号証の2 ネオケミア株式会社代表取締役 田中雅也作成の平成 29日8月24日付け実験報告書
甲第22号証の3 株式会社カルゥ 中村亮作成の平成24年5月11日 付け実験成績証明書
(以上、甲第22号証の1ないし甲第22号証の2については平成30年2月8日の口頭審理にて原本を提出し、その他の証拠については平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書にいずれも写しを原本として添付。)


第4 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は理由がないと主張し、証拠方法として以下の書証を提出している。

<証拠方法>
乙第1号証 特願2000-520135号に対する平成16年2 月23日付けの拒絶理由通知書
乙第2号証の1 無効2013-800106号の審決
乙第2号証の2 無効2011-800244号の審決
乙第2号証の3 無効2012-800084号の審決
乙第2号証の4 無効2013-800042号の審決
乙第3号証 知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10215 号の判決正本
乙第4号証の1 大阪地方裁判所平成23年(ワ)第4836号の判決 正本
乙第4号証の2 知的財産高等裁判所平成25年(ネ)第10016号 の判決正本
乙第5号証の1 請求人 株式会社トラストウイングスのウェブページ (http://www.insquare-cos me.com/SHOP/i017.html)の画 面印刷物(印刷日:平成29年7月18日)
乙第5号証の2 ネオケミア株式会社のウェブページ(http:// www.neochemir.co.jp/%e7% 82%ad%e9%85%b8%e3%82%ac% e3%82%b9%e3%81%a7(以下不明)) の印刷物(印刷日:平成29年7月18日)
乙第5号証の3 田中雅也、二酸化炭素経皮吸収剤「エコツージェル」 -炭酸ガス療法の夜明け-、BIO INDUSTR Y、Vol.23、No.10、2006年発行、7 4-81頁
乙第6号証 機能性化粧品の開発II 普及版、鈴木正人監修、株 式会社 シーエムシー出版、2006年8月22日、 188?195頁
(以上、平成29年11月13日付け審判事件答弁書にいずれも写しを原本として添付。)

乙第7号証の1 大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号の原告 第3準備書面
乙第7号証の2 大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号の原告 第5準備書面
乙第7号証の3 大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号の原告 第6準備書面
乙第7号証の4 大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号の原告 第7準備書面
乙第7号証の5 大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号の原告 第8準備書面
乙第7号証の6 大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号の原告 第9準備書面
(以上、平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書にいずれも写しを原本として添付。)


第5 証拠に記載された事項
1.本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
・記載事項甲1-1
「【請求項1】炭酸水素ナトリウムを含む第1剤と、前記炭酸水素ナトリウムと水の存在下で混合したときに気泡を発生するクエン酸、酒石酸、乳酸及びアスコルビン酸のうちの1又は2以上の成分を含む第2剤と、前記第1剤と第2剤に夫々分散された異色のものからなり、混合により色調を変え、使用可能な状態になったことを知らせるための2色の着色剤A、Bと、前記第1剤又は第2剤の一方又は双方に含まれた、化粧料としての有効成分とからなることを特徴とする発泡性粉末化粧料。」

・記載事項甲1-2
「【0002】
【従来の技術】例えば美顔用のパックに使用される化粧料には練状物やクリーム乃至泡状のものがあり、これらは顔に塗布或いは付着させて成分の浸透を図り皮膚をととのえる目的で使用され、使用の際に洗顔とマッサージを行なうのが普通である。
(中略)
【0005】しかしながらマッサージなしで済まされるこの種の化粧料は現在のところ開示されていない。そこで本発明者は発泡作用によりマッサージ効果が得られる化粧料を開発し、既に出願した。その化粧料は予期した通りのマッサージ効果を発揮するが、反応が最適かどうかが分かりにくいという指摘があった。」

・記載事項甲1-3
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は前記の点に鑑みなされたもので、その課題とするところは発泡作用によりマッサージ効果を得る化粧料について、最高度に気泡が発生することを色によって判断できるようにすることである。またそれにより化粧料としての価値も高められる。」

・記載事項甲1-4
「【0007】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため本発明の発泡性化粧料は、炭酸水素ナトリウムを含む第1剤と、前記炭酸水素ナトリウムと水の存在下で混合したときに気泡を発生するクエン酸、酒石酸、乳酸及びアスコルビン酸のうちの1又は2以上の成分を含む第2剤と、前記第1剤と第2剤に夫々分散された異色のものからなり、混合により色調を変え、使用可能な状態になったことを知らせるための2色の着色剤A、Bと、前記第1剤又は第2剤の一方又は双方に含まれた、化粧料としての有効成分とからなる組成を有する。本発明に係る化粧料はその組成からも明らかなように常態では粉状である。
(中略)
【0010】本発明に係る化粧料では、2色の着色剤A、Bを第1剤、第2剤に夫々混合し、使用前、個有の色分けを行なうとともに使用時第1、第2両剤を混合し、一定の色調になったときに良く混合したことが判断できかつ、最適の反応が行なわれるようになる。」

・記載事項甲1-5
「【0013】さらに起泡助長剤を用い、気泡発生を助成することができる。この種の助長剤としては、脱脂粉乳、加水分解ゼラチン、アルギン酸ナトリウム等が用いられる。なお、粉末セッケンは、それ自体起泡剤としての効能をも有する。」

・記載事項甲1-6
「【0014】
【実施例】以下、表1、2を参照し、実施例について説明する。表1の実施例I、II、IIIはリンス又はパックとして使用される化粧料に関するもので次の組成を有する。
【0015】
【表1】

I.炭酸ガス発生剤である炭酸水素ナトリウム35重量部、起泡助長剤として脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、柔軟剤としてシリコン樹脂及びスクワラン、防腐剤としてメチルパラベンを混合し、それに着色剤としての黄酸化鉄を夫々適量混合して黄色の第1剤を調製する一方、第1剤との反応により炭酸ガスを発生させるために乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、起泡助長剤として加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部及び第1剤と同様に柔軟剤、防腐剤適量を混合し、さらにべんがらによって赤色に着色した第2剤を得て、パックとして使用される粉末状の化粧料を調製した。」

・記載事項甲1-7
「【0024】使用法
粉末パック場合
実施例Iのものを水に溶かして用いる。第1剤と第2剤が水の存在下で反応し、無数の炭酸ガス気泡を発生しつつ気泡が破裂することにより、皮膚に対しマッサージを行なうのと同等の作用を起こす。」

2.本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
・記載事項甲2-1
「【特許請求の範囲】
【請求項1】アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる第一剤と、前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤からなることを特徴とするパック化粧料。」

・記載事項甲2-2
「【0002】
【従来の技術およびその課題】従来からパック化粧料には使用後に洗いおとすタイプおよび剥がすタイプの二つがある。通常洗いおとすタイプの基剤は、クリーム状で、皮膚に塗布し放置後、水またはぬるま湯で洗い落とされるものである。剥がすタイプの基剤は、ゼリー状またはペースト状であって皮膚に塗布し乾燥させて皮膜を形成させ、その後、手で剥がされるものである。ところで、剥がすタイプに属するものの一つにアルギン酸塩類と該塩類と反応する二価以上の金属塩類とを配合した粉末を使用時に水と混合してペースト状とし、パック化粧料としたものが知られている(特開昭52-10426号公報、特開昭58-39608号公報)。このパック化粧料は、従来のように皮膚上での皮膜形成が、水分の蒸発・乾燥によるものとは異なり、配合物同士の反応によって水分を含んだまま行われるので肌に対する使用感が良く、従来のものより、乾燥時間が早いという特徴がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記のアルギン酸塩類を含む粉末状のパック化粧料は、次のような問題点があった。
(1)水を加えてかきまぜる際、ダマになりやすく、顔に塗布する際、均一な膜になりにくい。これは、アルギン酸水溶性塩類が一般に水に溶けにくいためである。
(2)顔に貼付し、その後剥がす際、きれいにはがれず、肌にパック残りが多い。
(3)冷たすぎるため、オールシーズンに対応しにくい。
(4)粉末状なので保湿剤の配合が困難であり、そのため皮膚にしっとり感が付与されにくい。
(5)反応タイプのため、保管時には水分透過の少ない外装とするなど、経時の保管に注意を必要とする。
本発明は、このような従来の課題を解決して、使用性が良好で、かつ経時的に安定な反応タイプのパック化粧料を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本願発明者は、水とまざりにくい原因として、アルギン酸水溶性塩類の溶解性が挙げられることから、アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分けることにより、使用性が良好で、経時で安定なパック化粧料が得られることを見い出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる第一剤と、前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤からなることを特徴とするパック化粧料である。
【0005】本発明のパック化粧料は、洗い落とす面倒のない、剥がすタイプのものでありながら、乾燥時間が短く、しかも皮膚に適度な緊張感があり、剥がすとき肌に残りにくく、とりやすい特色を有するほか、使用性が良好で、経時的にも安定であるという特徴がある。本発明のパック化粧料にあっては、使用直前にゲル状パーツと粉末パーツを混合する。この際、ゲル状パーツに含まれるアルギン酸水溶性塩類(例えばアルギン酸ナトリウム)と、粉末パーツに含まれる二価以上の金属塩(例えば硫酸カルシウム)とが水の存在下で化学式1に示すような硬化反応を起こして皮膚形成能のあるアルギン酸金属塩(例えばアルギン酸カルシウム)となり、この結果、弾力性のある凝固体が与えられる。その時、遅延剤(例えばリン酸三ナトリウム)の働きにより化学式2に示すような遅延反応も同時に起こって上記硬化反応の急激な進行が阻止される。」

3.「化粧品と薬用化粧品」と題されたウェブページを平成29年8月4日に印刷したものである甲第15号証には以下の記載がある。
・記載事項甲15
「「化粧品」は、使い方が同じでも「医薬品医療機器等法」によって「化粧品」と「薬用化粧品」に分類されます。「化粧品」は肌の保湿や、清浄など、製品全体としてその効果が期待されています。一方、「薬用化粧品」は化粧品としての期待効果に加えて、肌あれ・にきびを防ぐ、美白、デオドラントなどの効果を持つ「有効成分」が配合され、化粧品と医薬品の間に位置する「医薬部外品」に位置づけられています。」(本文1?8行)

4.株式会社トラストウイングス 代表取締役 石井純一と弁護士 朴貴玲が平成30年1月25日付けで作成し、「実験報告書 -特許4659980号無効審判追加比較試験-」と題された文章である甲第22号証の1には、以下の記載がある。
・記載事項甲22の1
「本実験報告書は、大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号特許権侵害差止請求事件において、被告(本件無効審判(無効2017-800107)請求人)の代理人弁護士 朴貴玲によって作成された乙E全第21号証(「実験結果報告書」)の内容を、実験データはそのまま使用して、本件無効審判のために再構成したものである。

《試験実施日》
被験者(37歳女性):平成28年9月20日
被験者(32歳女性):平成28年9月20日
被験者(31歳女性):平成28年10月3日

《試験内容》
(a)比較キット
商品名「Mediplorer CO_(2) GEL MASK Professional」(株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ製)の市販品である。
(a)比較キットの構成
下記の通り1剤と2剤とからなる本件特許発明に形式上該当するキットである。
1剤:炭酸水素Na及びアルギン酸Naを含む含水粘性組成物(約25g)
2剤:アスコルビン酸及びクエン酸を含む顆粒剤(約5g)
(b)比較パック化粧料
1剤と2剤を商品付属のカップに入れて、製品付属のスパチュラ(ヘラ)で全体的に満遍なく混ぜ合わせて、比較パック化粧料(二酸化炭素含有粘性組成物)約30gを得た。
(c)被験者:37歳女性、32歳女性、31歳女性の3名
(d)試験条件
(d-1)被験者のそれぞれの肘上11cmの二の腕の部分の周囲長(Lb)を巻尺で測定した。
(d-2)比較パック化粧料30gを被験者のそれぞれの肘上11cmの二の腕の部分に塗布し食品包装用フィルム(商品名「サランラップ」(旭化成社製))をその上からまいて6時間放置した。
(d-3)6時間放置後、比較パック試料をティシュペーパーでふき取り流水で洗い流した直後に、被験者のそれぞれの肘上11cmの二の腕の部分の周囲長(La)をメジャーで測定し、差(La-Lb)を算出した。
(e)結果



5.ネオケミア株式会社代表取締役 田中雅也が平成29年8月24日付けで作成し、「実験報告書 -特許4659980号無効審判 追加比較試験-」と題された文書である甲第22号証の2には、以下の記載がある。
・記載事項甲22の2-1
「4.【調製方法】
<試験処方A>
●粘性組成物:炭酸水素ナトリウム2.4%、アルギン酸ナトリウム3.0%、カルボキシメチルセルロースナトリウム2.0%、水92.6%を撹絆混合して、含水粘性組成物を調製した。
●酸を含む粉末剤:クエン酸(100%)をそのまま使用した。
●化粧料:調製した粘性組成物98.04%とクエン酸1.96%を30秒間混合して化粧料を得た。

<試験処方B>
●粉末組成物:いずれも粉体である炭酸水素ナトリウム32.4%、アルギン酸ナトリウム40.6%、カルボキシメチルセルロースナトリウム27.0%を混和して粉末組成物を調製した。
●酸を含有する粉末剤:クエン酸(100%)をそのまま使用した。
●化粧料:調製した粉末組成物7.25%とクエン酸1.96%を水90.79%に添加、30秒間混合して化粧料を得た。

5.【試験方法&試験結果】
特許4659980号に開示された試験例6、9、13の各試験を、上記、試験処方Aと試験処方Bを比較して追試験を行った。」(2頁)

・記載事項甲22の2-2
「<試験例9(肌質改善及び顔痩せ試験>
特許4659980号記載事項:37歳女性。ふっくらした頬と荒れ肌、肌のくすみに悩み種々の化粧品を試したが効果が得られなかった。実施例20の組成物50gを1日1回10分間顔全体に塗布したところ1回目の塗布で肌のくすみが消えて白くなり、きめ細かい肌になった。2週間後には3名の評価者全員により、顔が小さくなったと判断された。

<試験方法>
手順:顔の片側に試験処方A、もう片側に試験処方Bを25gずつ塗布、10分間放置後除去する処置を、1日1回14日間行った。
評価:肌質改善=1回処置後評価、顔痩せ=14日後(=14回処置後)評価
被験者:P(51歳女性、右側に試験処方A、左側に試験処方Bを塗布)
Q(45歳女性、左側に試験処方A、右側に試験処方Bを塗布)
R(44歳女性、右側に試験処方A、左側に試験処方Bを塗布)
S(43歳女性、左側に試験処方A、右側に試験処方Bを塗布)
(中略)
顔痩せ
(中略)
○被験者P、Q、R、Sで、顔痩せを認められたものはいなかった。全被験者において、右側左側(=試験処方A、試験処方B)の差は認められなかった。」(3?5頁)

・記載事項甲22の2-3
「<試験例13(腕の部分痩せ試験>
特許4659980号記載事項:36歳女性。二の腕の太さを気にしていたため、実施例18の組成物30gを左の二の腕に塗布し、食品包装用フィルム(商品名サランラップ、旭化成社製)をその上から巻いて6時間放置したところ、二の腕の周囲長が2cm減少した。

<試験方法>
手順:両方の二の腕のサイズを図1の要領で計測。片側の二の腕に試験処方A、もう片側に試験処方Bを30gずつ塗布、食品包装用フィルム(商品名サランラップ、旭化成社製)をその上から巻く(図2参照)。6時間放置後、試験処方を除去し、同様の要領でサイズを測定。処置前後の差を算出。
(中略)
被験者:P(51歳女性、右二の腕に試験処方A、左二の腕に試験処方Bを 塗布)
Q(45歳女性、左二の腕に試験処方A、右二の腕に試験処方Bを 塗布)
R(44歳女性、右二の腕に試験処方A、左二の腕に試験処方Bを 塗布)
S(43歳女性、左二の腕に試験処方A、右二の腕に試験処方Bを 塗布)

<試験結果>処置前後二の腕サイズ、およびその差を表5に示す。

○被験者Pの左腕試験処方Bで、0.60cmのサイズダウンが認められたが、右腕試験処方Aではサイズダウンはなかった。被験者Q、R、Sでは、サイズダウンは認められず、右側左側(=試験処方A、試験処方B)の差は認められなかった。」(6?7頁)

6.株式会社カルゥ 中村亮が平成24年5月11日付けで作成し、「実験成績証明書」と題された文書である甲第22号証の3には、以下の記載がある。
・記載事項甲22の3-1
「1.概要
本件特許第4659980号明細書に記載の二酸化炭素含有粘性組成物(以下、ジェルという)に関する、本件試験例8、9、13の有効性の有無を検証するため実験を行なった。
なお、本実験は関西大学化学生命工学部 福永健治教授の監修下で行われた。
(中略)
2.実験手順
本件試験例8、9、13に相当する実験を以下の手順で行なった。なお、CT像は、X線CT撮像装置(GEヘルスケア社製、型式Light Speed 4)で撮像した。」(1?2頁)

・記載事項甲22の3-2
「(1)実験1(顔と腹部の部分痩せ試験の実験、本件試験例8に相当)
(a)本件特許明細書記載の実施例8の組成物(ジェル)を準備する。
実施例8の組成物
1剤(炭酸塩含有含水粘性組成物)
炭酸水素ナトリウム 2.4重量%
アルギン酸ナトリウム 3.0重量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 2.0重量%
精製水 92.8重量%
2剤(酸)
クエン酸 2.0重量%
(b)被験者(男性5名)の身長・体重、臍を通る腹部周囲長(立位、臥位)を計測する。
(c)被験者のOML「眼窩耳孔線」を基準とした頬を通る頭部横断面像(画像1a)、臍を通る腹部横断面像(画像1b)を撮像する。被験者の顔面を撮影する(画像1c)。
(d)1剤と2剤を混合したジェル100gを被験者の腹部に、ジェル30gを被験者の両頬にそれぞれ塗布し、15分放置した後ジェルを払拭する。
(e)被験者は、上記手順(d)を2か月繰り返す。
(f)2か月後、被験者の身長・体重、臍を通る腹部周囲長(立位、臥位)を計測する。被験者の頬を通る頭部横断面像(画像1d)、臍を通る腹部横断面像(画像1e)を撮像する。被験者の顔面を撮影する(画像1f)。
(g)画像評価
画像1a、1dより右頬部の皮下脂肪厚(表皮に対して直角な、真皮下から筋膜までの皮下脂肪組織の厚さ、以下同じ)、右頬部の脂肪面積を画像計測し、増減を評価する。画像1b、1eより右半身腹部の皮下脂肪厚、脂肪面積、腹部の臥位周囲長を画像計測し、増減を評価する。画像1c、1fを比較し、顔が小さくなったかを画像計測する。」(2?3頁)

・記載事項甲22の3-3
「(2)実験2(肌質改善及び顔痩せの実験、本件試験例9に相当)
(a)本件特許明細書記載の実施例20の組成物を準備した。
実施例20の組成物
1剤(炭酸塩含有含水粘性組成物)
炭酸水素ナトリウム 2.4重量%
アルギン酸ナトリウム 2.0重量%
カルボキシメチルスターチナトリウム 3.0重量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 3.0重量%
精製水 89.6重量%
2剤(酸)
クエン酸 2.0重量%
(b)被験者(女性5名)の身長・体重を計測する。
(c)被験者の頬を通る頭部横断面像(画像2a)を撮像する。また、被験者の顔面を撮影する(画像2b)。
(d)一方の頬にジェル25gを塗布し、10分放置した後ジェルを払拭する。
(e)被験者は、上記手順(d)を2週間繰り返す。
(f)2週間後、被験者の身長・体重を計測する。被験者の頬を通る頭部横断面像(画像2c)を撮像する。また、被験者の顔面を撮影する(画像2d)。
(g)画像評価
画像2a、2cより塗布した頬部の皮下脂肪厚、脂肪面積を画像計測し、増減を評価する。画像2 b、2 dを比較し、顔が小さくなったかを画像計測する。」(5?6頁)

・記載事項甲22の3-4
「(3)実験3(腕の部分痩せの実験、本件試験例13に相当)
(a) 本件特許明細書記載の実施例18の組成物を準備した。
実施例18の組成物
1剤(炭酸塩含有含水粘性組成物)
炭酸水素ナトリウム 2.4重量%
アルギン酸ナトリウム 2.0重量%
カルボキシメチルスターチナトリウム 2.0重量%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 2.0重量%
精製水 91.6重量%
2剤(酸)
クエン酸 2.0重量%
(b)被験者(女性5名)の身長・体重を計測する。
(c)被験者の右上腕部(二の腕)の周囲長を計測する計測箇所に油性ペンで印をつける。
(d)右上腕部の印をつけた箇所の横断面を撮像する(画像3a)。
(e)上記組成物の1剤と2剤を混合したジェル30gを被験者上腕部に塗布し、その上にラップを巻く。
(f)6時間経過後、ラップを外し、ジェルを払拭する。
(g)右上腕部の印をつけた箇所の周囲長を計測し、右上腕部の印をつけた箇所の横断面を撮像する(画像3b)。
(h)さらに3時間経過後、右上腕部の印をつけた箇所の周囲長を計測し、右上腕部の印をつけた箇所の横断面を撮像する(画像3c)。
(i)2週間後、被験者の身長・体重、右上腕部の周囲長を計測し、右上腕部の横断面を撮像する(画像3d)。
(j)画像評価
画像3a?3dより右上腕部(上腕三頭筋の溝の位置)の皮下脂肪厚、脂肪面積、外周長を画像計測し、増減を評価する。」(6?7頁)

・記載事項甲22の3-5
「3.実験結果
(1)実験1(顔と腹部の部分痩せ試験の実験)
実験前後の、被験者の身長、体重、右頬の皮下脂肪厚及び脂肪面積、腹部の立位・臥位周囲長、CT像による臥位周囲長、右半身腹部の皮下脂肪厚及び脂肪面積を、別紙表1-1に示す。これらの項目の変化を図1-1、1-2にグラフとして示す。
これらのクラフでは、値が増加している被験者、値が減少している被験者があり、部分痩せの効果があるか否かを判断できない。そこで、変化のなかった右頬の皮下脂肪厚を除いた項目について、t検定:一対の標本による平均の検定(危険率0.05)を行なった。検定結果を表1-2、1-3に示す。腹部の立位周囲長を除いた、いずれの項目についてもP(T≦t)両側の値が0.05を超えているのでこれらの項目の変化に有意差なく、顔と腹部の部分痩せの効果はない。なお、腹部の立位周囲長については有意に増加している。
顔の部分痩せについては、図1-3?1-7に示すように、両眼を基準に試験前後の顔写真を重ね合わせ、試験前の顔を青、試験後の顔をピンク、試験前後で共通する部分を灰色となるように画像処理を行なった。被験者M2を除いてピンクの部分が青の部分より多く見られ、顔の部分痩せの効果がないことが判る。被験者M2についても、ピンクの部分と青の部分が同程度であるから、顔の部分痩せの効果がないと判断できる。」(9頁)

・記載事項甲22の3-6
「(2)実験2(肌質改善及び顔痩せの実験)
実験前後の、被験者の身長、体重、塗布部の頬の皮下脂肪厚及び脂肪面積を、別紙表2-1に示し、これらの項目の変化を図1-1にグラフとして示す。同様に、t検定:一対の標本による平均の検定(危険率0.05)を行なった。検定結果を表2-2に示す。検定結果によれば、頬の皮下脂肪厚及び脂肪面積の変化に有意差なく、顔の部分痩せの効果はない。
さらに、顔の部分痩せについての画像評価は、図2-3?2-6に示す。被験者F1、F2、F5についてはピンクの部分が認められるので、顔の部分痩せの効果がない。被験者F3について、ジェルを塗布した左頬が痩せたように見えるが、右頬が同程度に増大しており、皮下脂肪厚が減少していないことから、試験前後の写真の位置合わせが不十分なことによると考えられる。被験者F4について、わずかに痩せたのは、ジェルを塗布していない左頬である。以上から、顔の部分痩せの効果がないと判断できる。」(9?10頁)

・記載事項甲22の3-7
「(3)実験3(腕の部分痩せの実験)
実験前後の、被験者の身長、体重、右上腕部の皮下脂肪厚及び脂肪面積、周囲長、CT像による周囲長を、別紙表3-1に示し、これらの項目の変化を図3-1、3-2にグラフとして示す。同様に、t検定:一対の標本による平均の検定(危険率0.05)を行なった。検定結果を表3-2、3-3に示す。検定結果によれば、9時間後及び2週間後の右上腕部の周囲長に有意な増加が認められたが、その他の項目では計測値の変化に有意差なく、上腕部の部分痩せの効果はない。」(10頁)

7.請求人 株式会社トラストウイングスのウェブページを平成29年7月18日に印刷したものである乙第5号証の1には、以下の記載がある。
・記載事項乙5の1
「炭酸ガスパック インスクエア ミキシングパック(5回分)
(中略)
<商品説明>
セット内容:A剤1.2g×5包 B剤25g×5包 フェイスシート5枚 スパチュラ1本
成分:A剤(顆粒):乳糖、リンゴ酸、バレイショデンプン、デキストリン
B剤(ジェル):水、グリセリン、ペンチレングリコール、BG、セルロースガム、アルギン酸Na、ホホバ油、スクワラン、炭酸水素Na、フェノキシエタノール、オレンジ油、ラベンダー油、ユーカリ油、チョウジ油、ウイキョウ油
(中略)
炭酸ガスパックの特徴
1.ボーア効果で肌・再生
(中略)
2.炭酸ガスの美容効果
・血管拡張 → くすみ改善
・脂肪の代謝促進 → たるみ、部分肥満改善
・タンパク質合成活性化 → シワ、たるみ改善
・老廃物の排泄促進 → シミ、そばかす、ニキビ跡、むくみ改善
3.高濃度の炭酸ガス
(中略)
4.炭酸ガスとジェル状パックの関係
炭酸ガスは、水に溶けた状態(分子状二酸化炭素)でないと皮膚か
らは吸収されません。
だから、水分を含んだジェルに顆粒を混ぜて、特別な技術(※)で
炭酸ガスを発生させています。
発生する炭酸ガスにも種類があって、たくさん泡が出たり、痛いくら
いプチプチ弾けるからといって効果が大きいという訳ではありませ
ん。
炭酸ガスパックにとって大切なことは、最適なpHに調節することで
より多くの炭酸ガスを皮膚に吸収させることです。
ミキシングパックは、15?30分程度の使用で、美肌効果が最大限
に引き出されるパックです。」

8.ネオケミア株式会社のウェブページを平成29年7月18日に印刷したものである乙第5号証の2には以下の記載がある。
・記載事項乙5の2
「炭酸ガスで部分痩せ
炭酸ガスパックで小顔効果が得られることは、開発当初から「感じて」いたことですが、科学的根拠はありませんでした。神戸大学医学部との共同研究が進んでいく中で、炭酸ガスによる筋力増強作用が、重力に逆らって頬などを引っ張り上げるため、小顔に見える効果があると考えていました。それでも、お腹まわりが引き締まり、ウェストサイズが数cmサイズダウンする現象の説明がつきませんでした。

そんな中で、炭酸ガスによる筋力増強作用の研究において、ミトコンドリアの増大や活性化が明らかになり、学術論文として発表しました。ミトコンドリアは細胞のエネルギー源であるATPを作る重要な働きを持っていますが、その原料の一つとして脂肪酸が使われるため、ミトコンドリアの活性化は脂肪代謝促進、すなわちダイエット効果につながると期待されます。そこで、筋力増強作用とともに、脂肪代謝に対する炭酸ガスの作用を、MRIを使って見たところ、皮膚から炭酸ガスを吸収させるだけで、部分痩せが可能になることが示されました(酒井良忠、健常ヒトボランティアにおける炭酸ガス経皮吸収による脂肪量,筋肉量の変化、デサントスポーツ科学第35巻;http://www.descente.co.jp/ishimoto/des35/index.html)。

本研究では、1週間に1回もしくは5回、1回10分間、1?3ヶ月間、片足全体の皮膚から炭酸ガスを吸収させ、もう片方の足と比較しました。測定結果は統計学的処理をしました。その結果、週1回で皮下脂肪が落ちやすいものの、週5回では効果が得にくいことが判明しました。

世の中には「食べながら痩せる」と称するダイエット食品や、「1日たったこれだけの運動」で痩せられる運動マシンなどがありますが、科学的根拠がないものや、実際の効果が確認されていないものもありあります。それに対し、炭酸ガスで部分痩せが可能なことは、今回の研究で示すことが出来ました。ただし、週1回で効果があるのに、週5回ではなぜ効果が出にくいのか、炭酸ガスの吸収は1回10分間で本当に十分なのかなど、まだまだ解明しなければならない問題がたくさんあります。

われわれの研究目的は、ダイエット法の開発ではないのですが、メタボリックシンドロームやロコモーティブシンドロームの解決に、炭酸ガス療法が、有効で安全な手段になり得ると信じて、日々実験に取り組んでいます。その研究成果は、安全で確実な、ダイエットにも役立つ方法となる可能性が高く、より豊かな人生を送るための技術となると確信しています。今後も、炭酸ガス療法の研究にご注目ください。」

9.平成18年に頒布された刊行物である乙第5号証の3には、以下の事項が記載されている。
・記載事項乙5の3
「水に溶解した二酸化炭素が経皮吸収されやすい性質を利用し,高粘度のゲル内でこれを発生させ,ゲルの水に溶解させて経皮吸収される二酸化炭素経皮吸収剤技術を開発した。二酸化炭素はヘモグロビンの酸素解離を促進し,組織細胞が利用可能な酸素量を増大させることにより,創傷治療や部分痩せ効果等を発揮すると考えられる。
(中略)
2.二酸化炭素経皮吸収剤の効果
2.1 美容効果
エコツージェルは二酸化炭素の血流増加作用により,肌荒れやくすみの改善,肌のきめが細かくなる効果(図2,41歳女性の例)等が期待通り得られる。
二酸化炭素経皮吸収剤の意外な効用として「部分痩せ・小顔効果」がある(写真2)。経皮吸収された二酸化炭素は,組織のアシドーシスを生じ,脂肪細胞の壊死を招くといわれる(美容外科等のHPに記述あり。情報源は不明)。ただし,エコツージェルの部分痩せ効果は,非常に短時間(15分程度)で発現する場合が多いため,脂肪細胞壊死との関連は不明である。
これらの効果はすべて1回15分間のパックで得られるが,連用により効果は増強される。
(中略)

にきび治療の目的で1日1回のエコツージェルパックを実施。1週間でにき
びがやや改善するとともに、頬のラインがシャープになる小顔効果が認めら
れた。51日後ににきびはほぼ消失した。
(中略)



10.2006年8月22日に頒布された刊行物である乙第6号証には、以下の記載がある。
・記載事項乙6
「第16章 ボディケア化粧品の機能と最新技術
(中略)
1 はじめに
(中略)
最近のボディケア化粧品の傾向を見てみると,効能効果を重視した機能性ボディケア化粧品が主流を占めるようになってきており,96年現在においては,以下の2つの機能が最も重要ではないかと考えている。第1は,「ビューティケアニーズ」に対応した「スリミング機能」であり,(中略)である。本稿においては,以上の2つの機能について概観し,最新技術の紹介を行っていきたい。

2 スリミング機能

スリミング化粧品は90年以降成長が顕著になってきた分野であり,95年4月に日本で発売されたクリスチャン・ディオール社のスヴェルトが,発売6ヶ月で100万個を売る爆発的なヒットとなったことで,一大市場を形成するに至った。
ここでスリミング機能をさらに分類して考えてみたい。肥満を大きく分けると,単純に脂肪が蓄積されたタイプと水太り・むくみ太りのタイプがあるが,前者は脂質分解促進により,後者は体液(血液・リンパ液)の循環の促進により解消される。これら以外にも,結果的にスリミングにつながる環境作りといったさまざまな機能もあるが,以下に順に述べていきたい。

2.1 脂質分解促進
(中略)
2.2 体液循環促進」(189頁?190頁)


第6 本件特許明細書の記載事項

本件特許明細書には、以下の事項が記載されている(付記した頁や行数は、特許公報のものである。)。

・記載事項本1
「本発明は、水虫、虫さされ、アトピー性皮膚炎、(中略)などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供することにある。
また本発明は、褥創、(中略)などの皮膚粘膜損傷;(中略)などの皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法を提供することを目的とする。」(3頁16?31行)

・記載事項本2
「本発明者らは鋭意研究を行った結果、二酸化炭素含有粘性組成物が、外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤、非ステロイド抗炎症剤、ステロイド剤などが無効な痒みにも有効であることを発見し、更に該組成物が抗炎症作用や創傷治癒促進作用、美肌作用、部分肥満解消作用、経皮吸収促進作用なども有することを発見して本発明を完成した。」(3頁33?36行)

・記載事項本3
「29. 顔、脚、腕、腹部、脇腹、背中、首、顎などの部分肥満を改善できる項27記載の痩身化粧料。」(5頁13?14行)

・記載事項本4
「気泡状の二酸化炭素を含む本発明の組成物は、これらキットの各成分を使用時に混合することにより製造できる。」(6頁38?39行)

・記載事項本5
「本発明に用いる炭酸塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸カリウム、セスキ炭酸カルシウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウムなどがあげられ、これらの1種または2種以上が用いられる。」(8頁2?5行)

・記載事項本6
「本発明に用いる酸としては、有機酸、無機酸のいずれでもよく、これらの1種または2種以上が用いられる。
有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の直鎖脂肪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、α-オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、サリチル酸、没食子酸、トロパ酸、アスコルビン酸、グルコン酸等のオキシ酸などがあげられる。」(8頁6?13行)

・記載事項本7
「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は、使用時に気泡状の二酸化炭素を1?99容量%程度、好ましくは5?90容量%程度、より好ましくは10?80容量%程度含む。」(11頁14?15行)

・記載事項本8
「発明を実施するための最良の形態
実施例を示して本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、表中の数字は特にことわらない限り重量部を表す。実施例1?84
炭酸塩含有含水粘性組成物と酸との組み合わせよりなる二酸化炭素含有粘性組成物を表1?表7に示す。
〔製造方法〕
増粘剤と精製水、炭酸塩を表1?表7のように組み合わせ、炭酸塩含有含水粘性組成物をあらかじめ調製する。酸は、固形の場合はそのまま、又は粉砕して、又は適当な溶媒に溶解又は分散させて、液体の場合はそのまま、又は適当な溶媒で希釈して用いる。炭酸塩含有含水粘性組成物と酸を混合し、二酸化炭素含有粘性組成物を得る。
<炭酸塩含有含水粘性組成物の製造>
ビーカー等の容器中で精製水に増粘剤を溶解又は膨潤させ、炭酸塩を溶解又は分散させる。このとき必要であれば精製水を加熱して増粘剤の溶解、膨潤を促進してもよいし、増粘剤を適当な溶媒に溶解又は分散させておいて用いてもよい。必要に応じてこれに適当な添加剤や薬効物質等を加えてもよい。」(11頁31?45行)

・記載事項本9
「炭酸塩含有含水粘性組成物50gと酸1gを直径5cm、高さ10cmのカップに入れ、その体積を測定する。これを10秒間に20回攪拌混合し二酸化炭素含有粘性組成物を得る。攪拌混合1分後の該組成物の体積を測定し、攪拌混合前の体積からの増加率をパーセントで求め、評価基準1に従い発泡性を評価する。」(11頁48行?12頁1行)

・記載事項本10


」(13?19頁)

・記載事項本11
「実施例109?144
炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒剤との組み合わせよりなる二酸化炭素含有粘性組成
物を表10?表12に示す。
〔製造方法〕
増粘剤と精製水、炭酸塩と酸(有機酸及び/又は無機酸)、マトリックス基剤を表10?表12のように組み合わせ、炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒剤をあらかじめ調製する。この顆粒剤は徐放性であってもよい。炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒剤を混合し、二酸化炭素含有粘性組成物を得る。本発明でいうマトリックス基剤とは、溶媒による溶解や膨潤、加熱による溶融などにより流動化し、他の化合物を包含した後、溶媒除去又は冷却等により固化し、粉砕等により顆粒を形成する化合物、もしくは他の化合物と混合、圧縮して固化し、粉砕等により顆粒を形成する化合物で水により溶解もしくは崩壊するものすべてをいう。マトリックス基剤としては、エチルセルロース、エリスリトール、カルボキシメチルスターチ及びその塩、カルボキシメチルセルロース及びその塩、含水二酸化ケイ素、キシリトール、クロスカルメロースナトリウム、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、ステアリルアルコール、セタノール、ソルビトール、デキストリン、澱粉、乳糖、白糖、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、プルラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、マンノース、メチルセルロースなどがあげられ、これらの1種又は2種以上が用いられる。
<炭酸塩含有含水粘性組成物の製造>
実施例1?84に記載の炭酸塩含有含水粘性組成物の製造方法に従い製造する。
<酸の顆粒剤の製造>
マトリックス基剤に低融点化合物を使用する場合は、ビーカー等の容器中で加熱により溶融させた低融点マトリックス基剤に酸を加えて十分攪拌、混合する。必要に応じてこれに適当な添加剤や薬効物質等を加えてもよい。これを室温で徐々に冷やしながら更に攪拌し、固まるまで放置する。ある程度固まってきたら冷蔵庫等で急速に冷却してもよい。マトリックス基剤に低融点化合物を用いない場合は、ビーカー等の容器中でマトリックス基剤を水又はエタノールのような適当な溶媒に溶解又は分散させ、これに酸を溶解又は分散させて十分混合した後にオーブン等で加熱して溶媒を除去し、乾燥させる。完全に固まったら粉砕し顆粒とする。このとき顆粒の大きさを揃えるために篩過してもよい。
なお、本発明において上記の酸の顆粒剤の製造方法は本実施例に限定されることはなく、乾式破砕造粒法や湿式破砕造粒法、流動層造粒法、高速攪拌造粒法、押し出し造粒法などの常法に従い製造できる。
(中略)

」(22頁49行?26頁42行)

・記載事項本12
「実施例227?249
炭酸塩と酸の複合顆粒剤と含水粘性組成物の組み合わせよりなる二酸化炭素含有粘性組成物を表20?表21に示す。
〔製造方法〕
増粘剤と精製水、炭酸塩と酸(有機酸及び/又は無機酸)、マトリックス基剤を表20?表21のように組み合わせ、炭酸塩と酸の複合顆粒剤と含水粘性組成物をあらかじめ調製する。炭酸塩と酸の複合顆粒剤と含水粘性組成物を混合し、二酸化炭素含有粘性組成物を得る。炭酸塩と酸の複合顆粒剤は炭酸塩と酸が徐放性であってもよい。
<炭酸塩と酸の複合顆粒剤の製造>
マトリックス基剤に低融点化合物を使用する場合は、ビーカー等の容器中で加熱により溶融させた低融点マトリックス基剤に炭酸塩と酸を加えて十分攪拌、混合する。必要に応じてこれに適当な添加剤や薬効物質等を加えてもよい。これを室温で徐々に冷やしながら更に攪拌し、固まるまで放置する。ある程度固まってきたら冷蔵庫等で急速に冷却してもよい。マトリックス基剤に低融点化合物を用いない場合はビーカー等の容器中でマトリックス基剤を無水エタノールのような適当な溶媒に溶解又は分散させ、炭酸塩と酸を溶解又は分散させ、十分混合した後にオーブン等で加熱して溶媒を除去し、乾燥させる。完全に固まったら粉砕し、顆粒とする。このとき顆粒の大きさを揃えるために篩過してもよい。
<含水粘性組成物の製造>
ビーカー等の容器中で増粘剤を精製水に溶解又は膨潤させる。このとき必要であれば精製水を加熱して増粘剤の溶解又は膨潤を促進してもよいし、増粘剤を適当な溶媒に溶解又は分散させておいて用いてもよい。必要に応じてこれに適当な添加剤や薬効物質等を加えてもよい。
なお、本発明において上記の炭酸塩と酸の複合顆粒の製造方法は本実施例に限定されることはなく、乾式破砕造粒法や流動層造粒法、高速攪拌造粒法、押し出し造粒法などの常法に従い製造できる。
(中略)

」(35頁40行?38頁45行)

・記載事項本13
「試験例8(顔と腹部の部分痩せ試験)
41歳男性。ふっくらした頬と太いウエストを痩せさせたいと希望し、実施例8の組成物を1日1回15分間右頬に30g、腹部に100g塗布した。2ヶ月後に右頬が5名の評価者全員により明らかに小さくなったと判断された。腹部はウエストが6cm減少した。」(46頁33?36行)

・記載事項本14
「試験例9(肌質改善及び顔痩せ試験)
37歳女性。ふっくらした頬と荒れ肌、肌のくすみに悩み、種々の化粧品を試したが効果が得られなかった。実施例20の組成物50gを1日1回10分間顔全体に塗布したところ、1回目の塗布で肌のくすみが消えて白くなり、きめ細かい肌になった。2週間後には3名の評価者全員により、顔が小さくなったと判断された。」(46頁37?41行)

・記載事項本15
「試験例13(腕の部分痩せ試験)
36歳女性。二の腕の太さを気にしていたため、実施例18の組成物30gを左の二の腕に塗布し、食品包装用フィルム(商品名サランラップ、旭化成社製)をその上からまいて6時間放置したところ、二の腕の周囲長が2cm減少した。」(47頁4?7行)


第7 当審の判断

事案に鑑み、無効理由4、無効理由2、無効理由3、無効理由1の順で判断を示す。

1.無効理由4について
(1)請求人の主張する無効理由4の論旨は以下のとおりである。
ア 無効理由4-1
「顔痩せ」とは顔の部分ではなく顔全体を対象とするいわゆる「小顔」効果であるところ、本件特許明細書には腕や腹の部分痩せがサイズの変化で定量的に評価される記載があるのに対して、当該「顔痩せ」については印象で評価される記載があること等を考慮すると、本件特許発明における「部分肥満改善」に「顔痩せ(小顔)」が含まれるのか否かが明確とはいえない。したがって、本件特許発明の「部分肥満改善用化粧料」の範囲が不明確で確定できないと解されるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことにより、特許法第123条第1項第4号に該当し、本件特許は無効とされるべきである。(審判請求書29頁18行?30頁8行、平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書35頁28行?39頁11行、同44頁24?32行、同47頁23行?48頁5行、)

イ 無効理由4-2
本件特許発明の「化粧料」は「化粧品」と同義であり、当業者は「化粧品」を薬事法に沿って概念するところ、薬事法において「部分肥満改善」用製剤が「化粧品」用途に属するとの記載はないから、当業者の認識では「部分肥満改善」という用途は「化粧料」の用途には属さないものとなるため、「部分肥満改善用化粧料」用途の範囲が不明確である。したがって、本件特許発明は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことにより、特許法第123条第1項第4号に該当し、本件特許は無効とされるべきである。(審判請求書30頁9行?33頁7行、平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書39頁12行?40頁19行、同44頁24?32行、同47頁23行?48頁5行)

ウ 無効理由4-3
本件特許発明2、10について、本件特許明細書には、「得られる二酸化炭素含有粘性組成物」や「調整される二酸化炭素含有粘性組成物」とはどのようにして得られ調整された二酸化炭素含有粘性組成物なのかということに関する情報、及び「二酸化炭素を5?90容量%含有する」とはどのような測定をして含有量を知ることができるのかということに関する情報について記載がない。また、本件特許明細書には「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は、使用時に気泡状の二酸化炭素を1?99容量%程度、好ましくは5?90容量%程度、より好ましくは10?80容量%程度含む。」との記載があり、「得られる二酸化炭素含有粘性組成物」「調整される二酸化炭素含有粘性組成物」とは「使用時」に得られる二酸化炭素含有粘性組成物と解されるが、本件特許明細書段落0061にも使用時にどのようにすれば「二酸化炭素を5?90容量%含有する」ことを知ることができるのかについて記載はない。そのため、本件特許発明2及び10の範囲を明確に定めることができない。したがって、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことにより、特許法第123条第1項第4号に該当し、本件特許は無効とされるべきである。(審判請求書33頁8行?34頁10行、平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書41頁6?9行、同45頁1?3行、同48頁12?16行、平成30年2月14日付け上申書7頁14行?9頁29行)

(2)判断
ア 無効理由4-1について
本件特許発明における「部分肥満改善用」の意味について検討するに、本件特許明細書には「顔、脚、腕、腹部、脇腹、背中、首、顎などの部分肥満を改善できる・・・痩身化粧料」との記載(記載事項本3)や、「部分痩せ試験」の結果として身体の部位の太さが減少した旨の記載(記載事項本13、15)があることを考慮すると、本件特許発明における「部分肥満改善」とは「部分痩せ」と同義であって、部分痩せを期待する部位は身体の任意の一部分であり、具体的には対象部位の物理的な縮小を意味すると理解できる。また、身体の一部分の物理的な縮小を把握するために適した手段は、当該一部分の形状等に依存して異なるから、本件特許明細書の試験例(記載事項本13?15)において、形状が複雑でない腕部や腹部の部分痩せの評価が周囲長の測定で行われている一方、形状が複雑である顔における部分痩せの評価が評価者による見た目の判断により行われていることは、上記理解に影響を与えるものとはいえない。
そうすると、本件特許発明の「部分肥満改善用」とは、「身体の任意の一部分を物理的に縮小するための使用を用途とする」という意味であって、その意味は明確であるから、請求人の主張する無効理由4-1は妥当性を欠くものであって、理由がない。

イ 無効理由4-2について
「部分肥満改善用化粧料」とは、一般的に「部分肥満改善」という使用を用途とする「化粧料」という意味であると解される。そして、アで説示したとおり、本件特許発明の「部分肥満改善用」とは、「身体の任意の一部分を物理的に縮小するための使用を用途とする」という意味である。
他方、請求人も審判請求書(31頁)において主張しているとおり、「化粧品」と「化粧料」とは同義であって、薬事法(現医薬品医療機器等法)の第2条第3項には「この法律で「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。ただし、・・・医薬部外品を除く」と記載されている。しかしながら、現在においても「薬事法上の化粧品」と「薬事法上の医薬部外品」がいずれも「化粧品」として取り扱われているような例(記載事項甲15)が存在するように、当業者が認識する「化粧品」の概念は薬事法上の「化粧品」の概念と必ず一致するわけではなく、乙第6号証には、スリミング機能を有する「化粧品」の分野の成長が1990年以降顕著となり、1995年においては一大市場が形成されており、当該スリミング機能の具体的な内容としては、脂肪分解促進や体液循環の促進があったこと(記載事項乙6)が示されていることも考慮すると、本件特許出願時においては、身体の任意の一部分を物理的に縮小させるものも「化粧品」として広く認識されていたといえる。
そうすると、本件特許発明の「部分肥満改善用」という用途は、本件特許出願時において当業者が認識していた「化粧料」の概念に包含されるものであるから、「部分肥満改善用化粧料」の意味は明確である。

したがって、請求人の主張する無効理由4-2は理由がない。

ウ 無効理由4-3について
(ア)本件特許発明2は「得られる二酸化炭素含有粘性組成物が、二酸化炭素を5?90容量%含有するものである、請求項1に記載のキット」であり、本件特許発明1は「・・・治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、・・・、含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット」であるから、本件特許発明2は、本件特許発明1について、「「含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより」「得られる」「気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物」」が「二酸化炭素を5?90容量%含有するものである」ことを特定したものである。
そして、本件特許明細書には「気泡状の二酸化炭素を含む本発明の組成物は、これらキットの各成分を使用時に混合することにより製造できる。」との記載(記載事項本4)があり、本件特許発明2において「含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより」「得られる」とは、「キットの各成分を混合することにより二酸化炭素含有粘性組成物が製造される」ことであるといえるから、本件特許発明2は、本件特許発明1について、「キットの各成分を混合することにより二酸化炭素含有粘性組成物が製造された時点」において、該「二酸化炭素含有粘性組成物」が「二酸化炭素を5?90容量%含有するものである」ことを特定したものであるといえる。
また、二酸化炭素含有粘性組成物中の気泡状の二酸化炭素の割合は、「製造された時点の体積」と「反応による発泡前の体積」との差から「気泡状の二酸化炭素の体積」を求め、当該「気泡状の二酸化炭素の体積」を「製造された時点の体積」で除することにより求められるところ、記載事項本9によれば、本件特許明細書には、各成分が混合されて反応が起こる前の体積と、「二酸化炭素含水粘性組成物」を製造した時点の体積を測定する方法が記載されている。
そうすると、本件特許発明2は、本件特許発明1について、「キットの各成分を混合することにより二酸化炭素含有粘性組成物が製造された時点」において、該「二酸化炭素含有含水粘性組成物」が「二酸化炭素を5?90容量%含有するものである」ことを特定したものであって、当業者は本件特許明細書の記載に基いて、製造された時点における「二酸化炭素含有粘性組成物」に含まれる気泡状の二酸化炭素の割合を把握できるといえるから、当業者は本件特許発明2を明確に把握できるといえる。

(イ)本件特許発明10は「調製される二酸化炭素含有粘性組成物が、二酸化炭素を5?90容量%含有するものである、請求項9に記載の調製方法」であり、本件特許発明9は「・・・治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法であって、・・・含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み、含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものである、二酸化炭素含有粘性組成物の調製方法。」であるから、本件特許発明10は、本件特許発明9について、「「含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより」「調製される」「気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物」」が「二酸化炭素を5?90容量%含有するものである」ことを特定したものである。
また、本件特許明細書には「気泡状の二酸化炭素を含む本発明の組成物は、これらキットの各成分を使用時に混合することにより製造できる。」との記載(記載事項本4)があり、本件特許発明10において「含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより」「得られる」とは、「含水粘性組成物と顆粒剤とを混合することにより二酸化炭素含有粘性組成物が製造される」ことであるといえるから、本件特許発明10は、本件特許発明9について、「含水粘性組成物と顆粒剤とを混合することにより二酸化炭素含有粘性組成物が製造された時点」において、該「二酸化炭素含有粘性組成物」が「二酸化炭素を5?90容量%含有するものである」ことを特定したものであるといえる。
そして、(ア)で説示したとおり、当業者は本件特許明細書の記載に基いて、製造された時点における「二酸化炭素含有粘性組成物」に含まれる気泡状の二酸化炭素の割合を把握できるといえるから、当業者は本件特許発明10を明確に把握できるといえる。

(ウ)したがって、請求人の主張する無効理由4-3は理由がない。

エ 小括
ア?ウで説示したとおりであるから、請求人の主張する無効理由4は理由がない。

2.無効理由2について
(1)請求人の主張する無効理由2の論旨は以下のとおりである。
ア 無効理由2-1
請求人による比較試験の結果等(甲第22号証の1?3)をふまえれば、本件特許明細書の実施例に極めて近い組成のものを用いても、本件特許明細書に記載された試験例8(実施例8の組成物を用いて顔と腹部の部分痩せ試験を行ったもの。)、試験例9(実施例20の組成物を用いて肌質改善及び顔痩せ試験を行ったもの。)、試験例13(実施例18の組成物を用いて腕の部分痩せ試験を行ったもの。)の結果を再現できないといえるから、実施例8、18及び20以外の部分肥満改善用化粧料を包含する本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化するための根拠が本件特許明細書に見いだせず、従って、本件特許発明について、その課題が解決できることを認識できるように発明の詳細な説明が記載されているとは認められない。
そうすると、本件特許発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことにより、特許法第123条第1項第4号に該当するため、本件特許は無効とされるべきである。(審判請求書27頁22行?29頁6行、平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書28頁10行?34頁17行、平成30年2月5日付け上申書1頁1行?4頁23行、平成30年2月14日付け上申書9頁30行?10頁22行、調書)

イ 無効理由2-2
本件特許発明2、10について、本件特許明細書には、「得られる二酸化炭素含有粘性組成物」や「調整される二酸化炭素含有粘性組成物」とはどのようにして得られ調整された二酸化炭素含有粘性組成物なのかということに関する情報、及び「二酸化炭素を5?90容量%含有する」とはどのような測定をして含有量を知ることができるのかということに関する情報について記載がない。また、本件特許明細書には「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は、使用時に気泡状の二酸化炭素を1?99容量%程度、好ましくは5?90容量%程度、より好ましくは10?80容量%程度含む。」との記載があり、「得られる二酸化炭素含有粘性組成物」「調整される二酸化炭素含有粘性組成物」とは「使用時」に得られる二酸化炭素含有粘性組成物と解されるが、本件特許明細書段落0061にも使用時にどのようにすれば「二酸化炭素を5?90容量%含有する」ことを知ることができるのかについて記載はない。そのため、本件特許発明2及び10の課題が解決できることを認識できるように発明の詳細な説明が記載されているとは認められないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことにより、特許法第123条第1項第4号に該当し、本件特許は無効とされるべきである。(審判請求書33頁8行?34頁10行、平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書41頁5?8行、同45頁1?3行、同48頁12?16行、平成30年2月14日付け上申書7頁13行?9頁29行)

(2)判断
ア 無効理由2-1について
(ア)特許請求の範囲が、特許法第36条第6項第1号の要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくても、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(イ)そこで、本件特許発明1の解決しようとする課題について検討するに、記載事項本1から本件特許発明1の解決しようとする課題は、「部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットを提供すること」であるといえる。

(ウ)他方、記載事項本13?15によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)には、本件特許発明1のうち、二酸化炭素含有粘性組成物の用途として「部分肥満改善用化粧料」を選択した場合について、以下のとおり、複数の具体的な例が記載されており、これら具体的な例は上記課題を解決できるものであるといえる。
・ふっくらした頬と太いウエストを有する41歳男性に対して、「実施例8の組成物」を1日1回15分間右頬に30g、腹部に100g塗布したところ、2ヶ月後に、右頬が5名の評価者全員により明らかに小さくなったと判断され、腹部もウエストが6cm減少した。
・ふっくらした頬の37歳女性に、「実施例20の組成物」を50g、1日1回10分間顔全体に塗布したところ、2週間後には3名の評価者全員により、顔が小さくなったと判断された。
・二の腕の太さを気にしていた36歳女性に、「実施例18の組成物」30gを左の二の腕に塗布し、食品包装用フィルム(商品名サランラップ、旭化成社製)をその上からまいて6時間放置したところ、二の腕の周囲長が2cm減少した。

(エ)そして、記載事項本2によれば、発明の詳細な説明には、二酸化炭素を含有する粘性組成物が部分肥満解消作用を有する旨の記載があり、当業者は部分肥満解消作用が粘性組成物に含まれる二酸化炭素によるものであると理解できるといえるから、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は「二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキット」である本件特許発明1の全体にわたって、上記具体的な例と同様に部分肥満改善効果が得られると理解できるといえる。
そうすると、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、上記課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものといえる。

(オ)ところで、無効理由2-1の論旨は(1)アに記載したとおりであって、甲第22号証の1?3に記載された事項を根拠とするものであるが、(ア)で説示したとおり、サポート要件は発明の詳細な説明の記載と、本件特許の出願時における技術常識とに基いて判断されるものであるところ、甲第22号証の1?3はいずれも本件特許の出願日よりも後に作成されたものであって、本件特許の出願時における技術常識を立証するものではないから、無効理由2-1は妥当性を欠くものである。

(カ)また、無効理由2-1が、本件特許の出願時においては何らかの技術常識が存在し、当該技術常識に照らすと、当業者は、本件特許明細書の実施例に極めて近い組成のものを用いても上記具体的な例の結果を再現できないと認識するという趣旨であり、上記何らかの技術常識が存在していたことの証拠として上記比較試験の結果等(甲第22号証の1?3)を提出したものであると解したとしても、以下のとおり、本件特許の出願時において「当業者に、本件特許明細書の実施例に極めて近い組成のものを用いても上記具体的な例の結果を再現できないことを認識させる技術常識」が存在していたとはいえないから、無効理由2-1は妥当性を欠くものである。

A 甲第22号証の1は、本件審判の請求人である株式会社トラストウイングスの代表取締役 石井純一と、同じく代理人である弁護士 朴貴玲が平成30年1月25日に作成したものであり、記載事項甲22の1によれば、同証には、炭酸水素ナトリウムとアルギン酸を含む含水粘性組成物(1剤)約25gと、アスコルビン酸及びクエン酸を含む顆粒剤(2剤)約5gとからなる市販のキット(株式会社メディオン・リサーチラボラトリーズ製の「Mediplorer CO_(2) GEL MASK Professional」)により得られた二酸化炭素含有粘性組成物を三人の女性の肘上11cmの二の腕の部分に塗布し、食品包装用フィルム(商品名「サランラップ」旭化成社製)をその上からまいて6時間放置した実験において、6時間後の二の腕の周囲長(La)が塗布前の二の腕の周囲長(Lb)に比べて0.2cm増加した者が1名、同じく0.1cm増加した者が1名、変化がなかった者が1名であったことが示されている。
甲第22号証の2は、本件特許の発明者であるネオケミア株式会社代表取締役 田中雅也が平成29年8月24日に作成したものである。そして、記載事項甲22の2-1と記載事項甲22の2-2によれば、同証には、炭酸水素ナトリウム2.35wt%、アルギン酸ナトリウム2.94wt%、カルボキシメチルセルロースナトリウム1.96wt%、水90.79wt%を含む粘性組成物98.04%と、クエン酸を含む粉末剤1.96%とを30秒間混合して得られた化粧料(以下「試験処方A」という。)を4名の女性の顔に25g塗布し、10分間放置する処理を1日1回14日間行った結果、いずれの女性にも顔痩せは認められなかったことが記載されている。また、記載事項甲22の2-1、3によれば、同号証には、試験処方Aを4名の女性の二の腕に30g塗布し、食品包装用フィルム(商品名「サランラップ」旭化成社製)をその上から巻き、6時間放置後、試験処方Aを除去した実験において、4名のうち3名で処置前に比べて処置後の二の腕のサイズ(周長)が0.1?0.25cm小さくなり(表5の試験処方Aの変化量欄でS(左)の値が+0.15となっているが、同じ者の処置前が23.5、同処置後が22.80であるから、当該記載は-0.25の誤記であると推察される。)、残り1名では0.15cm大きくなったことが記載されている。
甲第22号証の3は、株式会社カルゥ 中村亮が平成24年5月11日に作成したものである。そして、記載事項甲22の3-1、2、5によれば、同証には、炭酸水素ナトリウム2.4重量%、アルギン酸ナトリウム3.0重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム2.0重量、精製水92.8重量%からなる炭酸塩含有含水粘性組成物である1剤と、クエン酸2.0重量%からなる2剤を混合して得られたジェルを男性5名の腹部と頬に塗布し、15分放置した後に当該ジェルを払拭することを2ヶ月繰り返すことを行った結果、顔や腹部の脂肪の厚さや周囲長について統計的に有意な変化はなかったことが記載されている。また、記載事項甲22の3-1、3、7によれば、同証には、炭酸水素ナトリウム2.4重量%、アルギン酸ナトリウム2.0重量%、カルボキシメチルスターチナトリウム3.0重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム3.0重量、精製水89.6重量%からなる炭酸塩含有含水粘性組成物である1剤と、クエン酸2.0重量%からなる2剤を混合して得られたジェルを女性5名の頬に塗布し、10分放置した後に当該ジェルを払拭することを2週間繰り返すことを行った結果、頬の脂肪厚さについて統計的に有意な変化はなかったことが記載されている。また、記載事項22の3-1、4、7によれば、同証には、炭酸水素ナトリウム2.4重量%、アルギン酸ナトリウム2.0重量%、カルボキシメチルスターチナトリウム2.0重量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム2.0重量、精製水91.6重量%からなる炭酸塩含有含水粘性組成物である1剤と、クエン酸2.0重量%からなる2剤を混合して得られたジェルを女性5名の二の腕に塗布してその上にラップを巻き、6時間後にラップを外してジェルを払拭した結果、腕の太さや脂肪の厚さについて統計的に有意な変化はなかったことが記載されている。

B しかしながら、甲第22号証の1?3には、被験者全員が部分肥満の状態にあることが記載されていない上、化粧料の効果には個人差も存在するため、甲第22号証の1?3により、「当業者に、本件特許明細書の実施例に極めて近い組成のものを用いても上記具体的な例の結果を再現できないことを認識させる技術常識」の存在が立証されているとはいえない。

C むしろ、平成29年7月18日の時点において請求人のウェブページ等に炭酸ガスの美容効果として部分肥満改善が掲載されていること(記載事項乙5の1や記載事項乙5の2)や、平成18年10月に頒布された刊行物である乙第5号証の3に二酸化炭素を含有したジェルによる部分痩せ効果が記載されていること(記載事項乙5の3)も合わせて考慮すると、本件特許の出願時に「当業者に、本件特許明細書の実施例に極めて近い組成のものを用いても上記具体的な例の結果を再現できないことを認識させる技術常識」が存在したとは推認できない。

(キ)(イ)?(エ)で説示したとおり、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件特許発明1は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすといえる一方、(オ)及び(カ)で説示したとおり、請求人の主張する無効理由2-1は妥当性を欠くものである。
そして、本件特許発明2?5、7?13についても、本件特許発明1と同様であるから、請求人の主張する無効理由2-1は理由がない。

イ 無効理由2-2について
1.(2)ウで説示したとおり、発明の詳細な説明の記載から、当業者は本件特許発明2、10を把握できるといえる。そして、二酸化炭素含有粘性組成物中の二酸化炭素の量が反応により二酸化炭素を発生させる成分の量に依存することは技術常識であって、当業者は反応により二酸化炭素を発生させる成分の量等を調節することにより、得られる二酸化炭素含有粘性組成物の二酸化炭素の割合を任意の値に設定できるから、得られる二酸化炭素含有粘性組成物が二酸化炭素を5?90容量%含有する本件特許発明2、10は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、アで説示したとおり、本件特許発明2、10は課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。
したがって、本件特許発明2、10は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすから、請求人の主張する無効理由2-2は理由がない。

ウ 小括
ア、イで説示したとおりであるから、請求人の主張する無効理由2は理由がない。

3.無効理由3について
(1)請求人が主張する無効理由3の論旨
ア 無効理由3-1
本件特許明細書で好適と記載される本件特許発明の水分、炭酸塩及び酸の広範な組成の範囲では、ゲル状態や反応に利用できる水分量や水分の流動性が全く異なり、発泡性や気泡の持続性の振れが大きく、実施例8、18及び20以外の部分肥満改善用化粧料が、本件特許発明の課題を解決できるとは認められないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、本件特許発明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないことにより、特許法第123条第1項第4号に該当するため、本件特許は無効とされるべきである。(審判請求書29頁7?17行、平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書34頁19行?35頁27行、平成30年2月5日付け上申書1頁1行?4頁32行)

イ 無効理由3-2
本件特許発明2、10について、本件特許明細書には、「得られる二酸化炭素含有粘性組成物」や「調整される二酸化炭素含有粘性組成物」とはどのようにして得られ調整された二酸化炭素含有粘性組成物なのかということに関する情報、及び「二酸化炭素を5?90容量%含有する」とはどのような測定をして含有量を知ることができるのかということに関する情報について記載がない。また、本件特許明細書には「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は、使用時に気泡状の二酸化炭素を1?99容量%程度、好ましくは5?90容量%程度、より好ましくは10?80容量%程度含む。」との記載があり、「得られる二酸化炭素含有粘性組成物」「調整される二酸化炭素含有粘性組成物」とは「使用時」に得られる二酸化炭素含有粘性組成物と解されるが、本件特許明細書段落0061にも使用時にどのようにすれば「二酸化炭素を5?90容量%含有する」ことを知ることができるのかについて記載はない。そのため、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が本件特許発明2及び10を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないことにより、特許法第123条第1項第4号に該当し、本件特許は無効とされるべきである。(審判請求書33頁8行?34頁10行、平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書41頁5?8行、同45頁1?3行、同48頁12?18行、平成30年2月14日付け上申書7頁13行?9頁29行)

(2)判断
ア 無効理由3-1について
(ア)特許法第36条第4項は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ(実施可能要件)、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明に係る物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。

(イ)そこで、本件特許発明1について検討するに、記載事項本8、10?12によれば、発明の詳細な説明には本件特許発明1のキットの製造方法が記載されているといえるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産することができる程度のものであるといえる。また、2.(2)アで説示したとおり、当業者は、発明の詳細な説明の記載から実施例8、18及び20以外も含む本件特許発明1全体が部分肥満改善効果を有することを理解できるといえるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明を使用することができる程度のものであるといえる。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明は本件特許発明1について特許法第36条第4項に規定する要件を満たす。

(ウ)また、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許発明の詳細な説明は、本件特許発明2?5、7?13についても、特許法第36条第4項に規定する要件を満たす。
したがって、請求人の主張する無効理由3-1は理由がない。

イ 無効理由3-2について
1.(2)ウで説示したとおり、発明の詳細な説明の記載から、当業者は本件特許発明2、10を把握できるといえる。そして、二酸化炭素含有粘性組成物中の二酸化炭素の量が反応により二酸化炭素を発生させる成分の量に依存することは技術常識であって、これらの成分の量を調整することにより、二酸化炭素含有粘性組成物中の二酸化炭素の量を調製することは当業者が過度な試行錯誤を要することなく行うことができるといえるから、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明2、10について、当業者が当該発明に係る物を生産することができる程度のものであるといえる。
また、アで説示したとおり、発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明2、10について当業者が使用することができる程度のものであるといえる。
したがって、本件特許発明2、10は特許法第36条第4項に規定する要件を満たすから、請求人の主張する無効理由3-2は理由がない。

ウ 小括
ア、イで説示したとおりであるから、請求人の主張する無効理由3は理由がない。

4.無効理由1について
(1)本件特許発明1について

ア 請求人が主張する無効理由1のうち、本件特許発明1についての論旨は以下のとおりである。(審判請求書4頁24行?21頁14行、平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書2頁13行?34頁17行、同42頁4行?44頁10行、同45頁6行?46頁8行、同48頁14?18行、平成30年2月14日付け上申書1頁29行?6頁13行)

<甲第1号証に記載された発明>
甲第3号証の記載も考慮すれば、甲第1号証には、以下の発明(以下「請求人甲1発明」という)が記載されている。
「美容用化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、炭酸水素ナトリウム及びアルギン酸ナトリウムを含有する粉末組成物と、乳酸及びアスコルビン酸を含有する粉末剤の組み合わせ;からなり、粉末組成物中で炭酸水素ナトリウムと乳酸及びアスコルビン酸とを反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキットであって、色素を有しない態様」

<対比>
本件特許発明1と請求人甲1発明とを対比すると、両発明は「二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキット」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点A)本件特許発明1の用途は「部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用」であるのに対し、請求人甲1発明の用途は「美容用化粧料として使用」である点。
(相違点B)本件特許発明1は「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤の組み合わせ;又は2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせからなり、含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものである」のに対し、甲1発明は「炭酸水素ナトリウム及びアルギン酸ナトリウムを含有する粉末組成物(第1剤)と、乳酸及びアスコルビン酸を含有する粉末剤(第2剤)の組み合わせ;からな」る点。
(相違点C)本件特許発明1では「含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させる」のに対し、甲1発明では「粉末組成物中で炭酸塩と酸とを反応させる」点。

<相違点B、Cについて>
甲第2号証には、「アルギン酸水溶性塩類を含む、水の存在下で反応する粉末を、使用時に水と混合してペースト状のパック化粧料を得ようとすると、アルギン酸水溶性塩類が一般に水に溶けにくいため、水を加えてかきまぜる際、ダマになりやすく、顔に塗布する際、均一なパック化粧料になりにくい」という課題と、当該課題を解決する手段として「アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分ける」という技術思想が開示されている。そして、甲1発明と甲第2号証に開示された技術思想は、技術分野が同一である上、アルギン酸ナトリウムが水に溶けにくいという性状に由来する課題は、甲1発明では「均一なパック化粧料になりにくい」という態様で内在し、甲第2号証に開示された技術思想では「均一なパック化粧料になりにくい」と同趣旨の「膜の均一性を確保できない」という態様で明示されていることから、甲1発明に甲2号証に開示された技術思想を適用することには動機付けがあるといえるから、相違点B,Cは、甲1発明と甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

<相違点Aについて>
甲1発明は「美容用化粧料として使用される」ものであるところ、炭酸ガスは血行促進作用を有し新陳代謝が盛んになるため、皮下脂肪が燃焼される結果、痩身美容がもたらされるということは、当業者には広く知られた事実であって、脂質代謝促進成分を配合した製剤の1つとして炭酸ガス使用することは、当業者には設計事項であったことを考慮すると、甲1発明を本件特許出願前に化粧品消費者のトレンドであり既に化粧料としての市場が形成されていた「小顔メーク」用として用いることは当業者が容易に為し得たことであるから、相違点Aも当業者が容易に想到し得たものである。

<効果について>
本件特許明細書には、本件特許発明1の実施例(試験例8、9、13)についての試験結果が記載されているものの、従来の化粧料を使用した場合の比較試験例が示されておらず、本件特許出願が特許審決(平成22年11月19日)されるまでの間、比較試験例の追加提出もなされておらず、当業者が出願前の技術常識に基いて従来の化粧料において予測される効果の程度を知ることができないため、試験例8、9及び13に示された本件特許発明1の効果が、従来の化粧料において予測される効果の程度に対して格別顕著な効果を奏しているのか否かが理解できない。
さらに、本件明細書には、試験例8(顔の頬と腹部の部分痩せ)、同9(肌質改善及び顔痩せ)及び同13(二の腕の部分痩せ)で効果を確認した以外に、顔の頬以外の顔、脚、二の腕以外の腕、脇腹、背中、首及び顎の部分肥満に対しては本件特許発明1を使用した試験例がないから、本件特許明細書に接した当業者が試験例8、9及び13に基いて、これらの試験がなされていない部分肥満の改善に対しても従来の化粧料において予測される効果に対して格別顕著な効果であることを認識できるものでもない。
そして、実際に、本件特許発明1に形式的に属する化粧料を使用した下記の審判請求人による比較試験例等(甲第22号証の1?3)では、二の腕の部分痩せ効果を全く奏しないことが確認されており、本件特許発明1の効果は、本件特許明細書で効果を確認したはずの二の腕の部分痩せに対してさえ、格別顕著であるとは到底いうことができない。
そうすると、本件特許発明1が「美容ないし香粧的効果が、格別顕著に奏され」「本願明細書の試験例で実証されている効果は、・・・部分肥満、そばかす、肌質改善等に対する劇的な治療又は改善効果は期待できる」ということは到底言うことができない。

<結論>
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 判断
(ア)甲第1号証に記載された発明
記載事項甲1-6によれば、甲第1号証には実施例Iとして、以下の発明が記載されているといえる。
「パックとして使用される化粧料であって、
炭酸水素ナトリウム35重量部、脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、黄酸化鉄を含有する黄色の粉末状の第1剤と、
乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、べんがらを含有する赤色の粉末状の第2剤
の組合せ。」
また、記載事項甲1-1、1-7によれば、上記実施例Iは、使用時に第1剤と第2剤を混合して得られた組成物に水を加えることにより、炭酸水素ナトリウムと、乳酸及びアスコルビン酸が反応して炭酸ガスを発生させるものといえる。そして、記載事項甲1-5によれば、当該反応後の上記実施例Iでは気泡助長剤であるアルギン酸ナトリウム等の作用により、発生した炭酸ガスが気泡状となっているといえる。
そうすると、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「パックとして使用される化粧料であって、
炭酸水素ナトリウム35重量部、脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、黄酸化鉄を含有する黄色の粉末状の第1剤と、
乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、べんがらを含有する赤色の粉末状の第2剤
の組合せからなり、
前記第1剤と前記第2剤を混合して得られた組成物に水を加え、当該組成物中で、炭酸水素ナトリウムと、乳酸及びアスコルビン酸を反応させることにより、気泡状の二酸化炭素を含有する組成物を得ることができるもの。」

(イ)対比
記載事項本5によれば、引用発明1の「炭酸水素ナトリウム」は本件特許発明1の「炭酸塩」に相当する。また、記載事項本6によれば、引用発明1の「乳酸」及び「アスコルビン酸」はいずれも本件特許発明1の「酸」に相当する。
また、引用発明1は第1剤と第2剤を組み合わせたものであるから、本件特許発明1の「キット」であるといえる。そして、パックは化粧料であることや、引用発明1はアルギン酸ナトリウムを含み粘性があるといえることから、引用発明1と本件特許発明1は、いずれも「化粧料又は治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキット」であるといえる。

そうすると、本件特許発明1と引用発明1とは「化粧料又は治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって、炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット」という点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1では、化粧料又は治療用医薬組成物の用途が部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物であるのに対し、引用発明1では、化粧料又は治療用医薬組成物の用途がパックである点。
(相違点2)
本件特許発明1では、キットが、1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤の組み合わせ;又は2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせからなり、含水粘性組成物が、二酸化炭素を気泡状で保持できるものであって、含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるのに対し、引用発明1では、キットが、炭酸水素ナトリウム35重量部、脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、黄酸化鉄を含有する黄色の粉末状の第1剤と、乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、べんがらを含有する赤色の粉末状の第2剤の組合せからなり、前記第1剤と前記第2剤を混合して得られた組成物に水を加え、当該組成物中で、炭酸水素ナトリウムと、乳酸及びアスコルビン酸を反応させることにより、気泡状の二酸化炭素を含有する組成物を得ることができる点。

(ウ)相違点についての判断
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
A 記載事項甲1-3によれば、引用発明1が解決しようとする課題は「発泡作用によりマッサージ効果を得る化粧料について、最高度に気泡が発生することを色によって判断できるようにすること」である。そして、記載事項甲1-4によれば、引用発明1は当該課題を「炭酸水素ナトリウムを含む第1剤と、前記炭酸水素ナトリウムと水の存在下で混合したときに気泡を発生するクエン酸、酒石酸、乳酸及びアスコルビン酸のうちの1又は2以上の成分を含む第2剤と、前記第1剤と第2剤に夫々分散された異色のものからなり、混合により色調を変え、使用可能な状態になったことを知らせるための2色の着色剤A、Bと、前記第1剤又は第2剤の一方又は双方に含まれた、化粧料としての有効成分とからなる組成を有する」、「常態では粉状である」化粧料とし、「2色の着色剤A、Bを第1剤、第2剤に夫々混合し、使用前、個有の色分けを行なうとともに使用時第1、第2両剤を混合し、一定の色調になったときに良く混合したことが判断できかつ、最適の反応が行なわれるようになる」ようにすることで解決するものであるといえるところ、当該課題解決手段は、第1剤と第2剤がいずれも粉末であって、混合しても水を加えるまでは反応が発生しないことを前提とするものであるといえる。

B 他方、記載事項甲2-1によれば、甲第2号証には、「アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる第一剤と、前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤からなることを特徴とするパック化粧料。」(以下「甲2記載事項」という。)が記載されているといえる。そして、記載事項甲2-2によれば、甲2記載事項は「アルギン酸塩類と該塩類と反応する二価以上の金属塩類とを配合した粉末を使用時に水と混合してペースト状とし、パック化粧料としたもの」における「(1)水を加えてかきまぜる際、ダマになりやすく、顔に塗布する際、均一な膜になりにくい。(2)顔に貼付し、その後剥がす際、きれいにはがれず、肌にパック残りが多い。(3)冷たすぎるため、オールシーズンに対応しにくい。(4)粉末状なので保湿剤の配合が困難であり、そのため皮膚にしっとり感が付与されにくい。(5)反応タイプのため、保管時には水分透過の少ない外装とするなど、経時の保管に注意を必要とする。」という課題を「アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分ける」ことにより解決したものといえる。また、記載事項甲2-2によれば、甲2記載事項は、ゲル状の第一剤を第二剤とを混ぜ合わせた時点で両剤に含まれる成分間の反応が始まるものであるといえる。

C 引用発明1と甲2記載事項は、いずれもアルギン酸塩を含むものである。しかしながら、(ア)で説示したとおり引用発明1は、組成物中で、炭酸水素ナトリウムと乳酸及びアスコルビン酸を反応させることにより、気泡状の二酸化炭素を含有する組成物を得るものであって、「アルギン酸塩類と該塩類と反応する二価以上の金属塩類とを配合した粉末を使用時に水と混合してペースト状とし、パック化粧料としたもの」ではないから、引用発明1は甲2記載事項とは同じ技術分野に属するものでもなければ、Bで説示した甲2記載事項の課題と同様の課題を有するものとはいえず、引用発明1に甲2記載事項を組み合わせる動機付けはないといえる。また、第1剤と第2剤がいずれも粉体であって、混合しても水を加えるまでは反応が発生しないことを前提とする引用発明1の課題解決手段と、第一剤がゲル状であって、第二剤とを混ぜ合わせた時点で両剤に含まれる成分間の反応が始まってしまう甲2記載事項とが両立し得ないことは明らかであるから、引用発明1には甲2記載事項との組み合わせを阻害する事由が内在しているといえる。

D 仮に引用発明1に甲2記載事項を組み合わせることが可能であるとして検討するに、Bで説示したとおり、甲2記載事項は「アルギン酸塩類についてはあらかじめ水に溶解させてゲル状とさせ、また反応が進行しないように、ゲル状パーツと粉末パーツの2パーツに分ける」という手段によって課題を解決するものである一方、引用発明1は第1剤と第2剤の両方にアルギン酸塩を含むものであるから、引用発明1に甲2記載事項を組み合わせて得られるものは、第1剤と第2剤のいずれもがあらかじめ水に溶解させられてペースト状となったものであって、本件特許発明1の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤の組み合わせ;又は2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ」ではない。

E さらに、記載事項本8、10?12によれば、本件特許発明1は優れた発泡性と気泡の持続性を有するという効果を奏するものであるところ、当該効果については甲第1号証や甲第2号証に記載も示唆もされていない。

F したがって、相違点2は、引用発明1と甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、相違点1について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(エ)請求人の主張について
(1)アに示したとおり、請求人は、甲第3号証の記載も考慮すれば甲第1号証には色素を含まないものも含む請求人甲1発明が開示されていると主張している。
しかしながら、甲第1号証に記載された発明の課題とその解決手段は(ウ)で説示したとおりであって、色素を含まなくてもよいとの記載もない。また、記載事項甲1-2によれば、甲第1号証には、「本発明者は発泡によりマッサージ効果が得られる化粧料を開発し、既に出願した。」と記載されているが、甲第1号証には、当該記載が甲第3号証の出願に関するものであることは記載も示唆もされていない。
そうすると、上記請求人の主張は失当であって採用できず、無効理由1における相違点の認定や当該相違点に対する判断、効果についての主張も、その前提において間違っているから採用できない。

(2)本件特許発明2?5、7、8について
本件特許発明2?5、7、8は、いずれも本件特許発明1をさらに特定したものであるところ、(1)で説示したとおり、本件特許発明1は甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2?5、7、8も、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明9について
(1)イ(ア)で説示したとおり、甲第1号証には引用発明1が記載されているが、引用発明1は、パックとして使用される化粧料を調製するためのものであって、炭酸水素ナトリウム35重量部、脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、黄酸化鉄を含有する黄色の粉末状の第1剤と、乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、べんがらを含有する赤色の粉末状の第2剤とを混合して得られた組成物に水を加え、当該組成物中で、炭酸水素ナトリウムと、乳酸及びアスコルビン酸を反応させることにより、気泡状の二酸化炭素を含有する組成物を得るものであるから、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明2」という。)も記載されているといえる。
「パックとして使用される化粧料を調製するための方法であって、
炭酸水素ナトリウム35重量部、脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、黄酸化鉄を含有する黄色の粉末状の第1剤と、
乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、べんがらを含有する赤色の粉末状の第2剤とを用いて、
第1剤と第2剤とを混合して得られた組成物に水を加えて、水を加えられた前記組成物中で炭酸水素ナトリウムと、乳酸及びアスコルビン酸を反応させることにより、気泡状の二酸化炭素を含有する組成物を調製する工程を含むもの」

次に引用発明2と本件特許発明9とを対比するに、(1)イ(イ)で説示した事項を考慮すると、両発明は「化粧料又は治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製するための方法であって、炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点3)
本件特許発明9では、化粧料又は治療用医薬組成物の用途が部分肥満改善用化粧料、或いは水虫、アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物であるのに対し、引用発明2では、化粧料又は治療用医薬組成物の用途がパックである点。
(相違点4)
本件特許発明9は、1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤;又は2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物を用いて、含水組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製しているのに対し、引用発明2では、炭酸水素ナトリウム35重量部、脱脂粉乳5重量部、加水分解ゼラチン1重量部、アルギン酸ナトリウム1重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、黄酸化鉄を含有する黄色の粉末状の第1剤と、乳酸20重量部、アスコルビン酸5重量部、加水分解ゼラチン15重量部、アルギン酸ナトリウム5重量部、シリコン樹脂及びスクワラン、メチルパラベン、べんがらを含有する赤色の粉末状の第2剤とを混合して得られた組成物に水を加えて、水を加えられた前記組成物中で、炭酸水素ナトリウムと、乳酸及びアスコルビン酸を反応させることにより、気泡状の二酸化炭素を含有する組成物を調製している点。

そして、相違点4について検討するに、(1)イ(ウ)Bでの説示のとおり、甲第2号証には甲2記載事項が記載されているといえる。しかしながら、(1)イ(ウ)A?Cでの説示と同様に、引用発明2に甲2記載事項を組み合わせる動機付けがない上に、引用発明2には甲2記載事項との組み合わせを阻害する事由が内在しているといえることや、(1)イ(ウ)Dでの説示と同様に、仮に両者を組み合わせたとしても、本件特許発明9の「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と、酸を含む顆粒(細粒、粉末)剤;又は2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒、粉末)剤と、アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物を用い」たものとはならないこと、(1)イ(ウ)Eで説示と同様に、本件特許発明9は優れた発泡性と気泡の持続性を有するという効果を奏するものであるところ、当該効果については甲第1号証や甲第2号証に記載も示唆もされていないこと、をそれぞれ考慮すると、相違点4は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に想到し得たものではない。
そうすると、相違点3について判断するまでもなく、本件特許発明9は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明10?13について
本件特許発明10?13は、いずれも本件特許発明9をさらに特定したものであるところ、(3)で説示したとおり、本件特許発明9は甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明10?13も甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)小括
(1)?(4)で説示したとおりであるから、請求人の主張する無効理由1には理由がない。


第8 むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1?5、7?13に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-03-29 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-05-02 
出願番号 特願2000-520135(P2000-520135)
審決分類 P 1 123・ 536- Y (A61K)
P 1 123・ 537- Y (A61K)
P 1 123・ 121- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人守安 智  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 山本 吾一
穴吹 智子
登録日 2011-01-07 
登録番号 特許第4659980号(P4659980)
発明の名称 二酸化炭素含有粘性組成物  
代理人 柴田 和彦  
代理人 迫田 恭子  
代理人 水谷 馨也  
代理人 柴 大介  
代理人 山田 威一郎  
代理人 田中 順也  

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