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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G09G
管理番号 1341556
審判番号 不服2017-13105  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-05 
確定日 2018-07-17 
事件の表示 特願2014-163508「電気光学ディスプレイを駆動するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 1月29日出願公開、特開2015- 18255、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年4月11日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年4月9日、米国)を国際出願日とする特願2013-504016号の一部を平成26年8月11日に新たな特許出願としたものであって、平成27年7月29日付けで拒絶理由通知がされ、同年12月25日付けで手続補正がされ、平成28年5月27日付けで最後の拒絶理由通知がされ、同年11月17日付けで手続補正がされ、平成29年4月25日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年9月5日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされたものである。


第2 原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。
理由2:平成28年11月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1,4,6-7に係る発明は、頒布された以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

理由3:平成28年11月17日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に係る発明は、以下の引用文献1に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特表2008-508548号公報


第3 本願発明
本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、平成29年9月5日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は、以下のとおりの発明である。

「互いに異なる第1の駆動方式および第2の駆動方式、ならびに前記第1の駆動方式とも前記第2の駆動方式とも異なる少なくとも1つの遷移駆動方式を使用して電気光学ディスプレイを動作させる方法において、前記第1の駆動方式、前記第2の駆動方式、及び前記遷移駆動方式が、前記ディスプレイのグレーレベル間のあらゆる可能な遷移をもたらすのに十分な1組の波形であり、当該方法が、
前記第1の駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第1の駆動方式の第1の画像に駆動するステップであって、前記第1の画像が、複数のグレーレベルを有する、ステップと、
第1の遷移駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第1の画像とは異なる、前記第2の駆動方式の第2の画像に駆動し、前記第1の駆動方式から前記第2の駆動方式に遷移させるステップであって、前記第2の画像が、モノクローム画像である、ステップと、
前記第2の駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第2の画像とは異なる、前記第2の駆動方式の第3の画像に駆動するステップと、
第2の遷移駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第3の画像とは異なる、前記第1の駆動方式の第4の画像に駆動し、前記第2の駆動方式から前記第1の駆動方式に遷移させるステップと、
前記第1の駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第4の画像とは異なる、前記第1の駆動方式の第5の画像に駆動するステップと
をこの順序で含み、
前記第1の駆動方式から前記第2の駆動方式への遷移が、前記第2の駆動方式から前記第1の駆動方式への遷移と同じ場合、前記第1及び第2の遷移駆動方式が、同じ波形セットを有しており、
前記第1の駆動方式から前記第2の駆動方式への遷移が、前記第2の駆動方式から前記第1の駆動方式への遷移と異なる場合、前記第1及び第2の遷移駆動方式が、異なる波形を有することを特徴とする方法。」

なお、本願発明2-9は、本願発明1を減縮する発明である。


第4 引用文献、引用発明等
1 原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審による。)。

「【0003】
より詳細には、電気泳動型表示装置は、交差するデータ電極と選択電極との交点に関連付けられた画素の行列を具備するマトリックス型ディスプレーである。画素の階調、又はカラー化レベルは、ある特定のレベルの駆動電圧が画素に存在する時間に依存する。駆動電圧の極性に応じて、画素の光学状態がその時の光学状態から2つの極限状況(すなわち、極限光学状態)の一方に向かって連続的に変化する。例えば、帯電粒子の1つの型が画素の頂部又は底部に近付く。例えば白黒ディスプレーのグレイスケール等の中間光学状態は、電圧が画素に存在する時間を制御することによって得られる。」

「【0007】
この表示装置においては、中間光学状態はマイクロカプセル頂部の対極の方に移動する粒子の量を制御することによって作り出され得る。例えば、電界強度と印加時間との積として定められる正電界又は負電界のエネルギーが、マイクロカプセルの頂部に移動する粒子の量を制御する。例えば、黒色粒子及び白色粒子を用いる白黒ディスプレーにおいては、中間光学状態はしばしば“グレイ状態”又は“グレイスケール”と呼ばれている。簡単にするため、ここでは記載される実施形態に関して“グレイスケール”という用語を用いることにする。」

「【0014】
本発明は、表示された画像情報を読むための画質を低下させることなく、比較的高速なスクロール機能を備えた電気泳動型表示装置を提供することを目的とする。また、本発明は上記電気泳動型表示装置の駆動方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は上記電気泳動型表示装置を駆動する駆動手段を提供することを目的とする。」

「【0039】
図3の上図は、白色の極限光学状態から黒色の極限光学状態への画像変化のための典型的な駆動波形を例示するものであり、それに関連する比較的長い更新時間を示している。図3の下図は、本発明の第1の典型的な実施形態に従ったスクロールモードにおいて画像変化を生じさせる駆動波形を例示している。読み取りモードにおいては、画質と光学性能とが最も重要であるので、比較的長い更新時間t_(標準更新)が必要であることが見て取れる。他方、高速スクロール中は、表示された画像情報の読みやすさはスクロール自体の速さほど意味を有さない。故に、本発明の第1の典型的な実施形態に従った駆動波形は、光学コントラスト比を幾分低下させるものではあるが、スクロールモードにおいて比較的短い画像更新時間t_(スクロール)を提供する。
【0040】
本発明の第1の典型的な実施形態においては、スクロールモードでは極限光学状態(例えば、白色又は黒色)と中間光学状態(例えば、灰色)との間での画像変化が用いられ、スクロール中に画像をスクロールする更新時間(t_(スクロール))は100ms未満になり得る。最初のスクロール要求命令を受信した際にスクロールモードに入るため、黒色状態にある画素は先ず、その後のスクロール中に白色状態から実現可能となる状態である所望のスクロール用の灰色状態(S)にされるべきである。続くスクロール命令が受信されると、白色状態と灰色状態(S)との間を切り替える(toggling)スクロールモード用の波形が使用される。例えば、所定期間(例えば、0.5s)スクロール命令が受信されなかったときなど、スクロールが完了したとき、灰色状態(S)にある画素は先ず“復元”波形を用いて所望の黒色状態に戻されなければならず、その後、ディスプレーは標準更新モード用の波形を用いて更新されてもよい。この処理は後続サイクル中に繰り返される。」

上記記載から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「白色の極限光学状態から黒色の極限光学状態への画像変化のために、比較的長い更新時間t_(標準更新)が必要である駆動波形を用いる読み取りモードと、比較的短い画像更新時間t_(スクロール)を提供する駆動波形を用いるスクロールモードを使用する、グレイスケール等の中間光学状態が電圧が画素に存在する時間を制御することによって得られる電気泳動型表示装置の駆動方法であって、(【0003】、【0014】、【0039】)
スクロールモードでは極限光学状態(例えば、白色又は黒色)と中間光学状態(例えば、灰色)との間での画像変化が用いられ、
最初のスクロール要求命令を受信した際にスクロールモードに入るため、黒色状態にある画素は先ず、その後のスクロール中に白色状態から実現可能となる状態である所望のスクロール用の灰色状態(S)にされるべきであり、続くスクロール命令が受信されると、白色状態と灰色状態(S)との間を切り替えるスクロールモード用の波形が使用され、スクロールが完了したとき、灰色状態(S)にある画素は先ず“復元”波形を用いて所望の黒色状態に戻されなければならず、その後、ディスプレーは標準更新モード用の波形を用いて更新されてもよい(【0040】)、方法。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明を対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「比較的長い更新時間t_(標準更新)が必要である駆動波形を用いる読み取りモード」(における駆動方式)、及び「比較的短い画像更新時間t_(スクロール)を提供する駆動波形を用いるスクロールモード」(における駆動方式)は、それぞれ、本願発明1の「互いに異なる」、「第1の駆動方式」及び「第2の駆動方式」に相当する。
イ 引用発明においては、「最初のスクロール要求命令を受信した際にスクロールモードに入るため、黒色状態にある画素は先ず、その後のスクロール中に白色状態から実現可能となる状態である所望のスクロール用の灰色状態(S)」とされ、また「スクロールが完了したとき、灰色状態(S)にある画素は先ず“復元”波形を用いて所望の黒色状態に戻され」ており、その際のそれぞれの駆動方式が本願発明1の「前記第1の駆動方式とも前記第2の駆動方式とも異なる」ものである、「第1の遷移駆動方式」及び「第2の遷移駆動方式」に対し、「第1の遷移駆動方式」及び「第2の遷移駆動方式」である点で共通するといえる。

ウ 引用発明の「電気泳動型表示装置の駆動方法」が、本願発明1の「電気光学ディスプレイを動作させる方法」に相当する。

エ 引用発明において、「スクロールモードに入る」前は、読み取りモードにおいてディスプレーの更新がなされているものと認められるところであり、また、引用発明は「グレイスケール等の中間光学状態が電圧が画素に存在する時間を制御することによって得られる電気泳動型表示装置の駆動方法」であるから、上記読み取りモードでのディスプレーの更新によって、複数のグレーレベルを有する画像の表示が可能であることは明らかといえる。そうすると、引用発明における、「スクロールモードに入る」直前の、読み取りモードによるディスプレーの更新を行うステップが、本願発明1の、「前記第1の駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第1の駆動方式の第1の画像に駆動するステップであって、前記第1の画像が、複数のグレーレベルを有する、ステップ」に相当する。

オ 引用発明の「スクロールモード」における画像変化は、「極限光学状態(例えば、白色又は黒色)と中間光学状態(例えば、灰色)との間での画像変化」であり、これは、極限光学状態と中間光学状態という2つの状態間の画像変化であって、本願発明1の「モノクローム画像」に相当するから、本願発明1において「最初のスクロール要求命令を受信した際にスクロールモードに入るため、黒色状態にある画素は先ず、その後のスクロール中に白色状態から実現可能となる状態である所望のスクロール用の灰色状態(S)にされる」ステップは、引用発明の「第1の遷移駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第1の画像とは異なる、前記第2の駆動方式の第2の画像に駆動し、前記第1の駆動方式から前記第2の駆動方式に遷移させるステップであって、前記第2の画像が、モノクローム画像である、ステップ」に相当する。

カ 引用発明において、「続くスクロール命令が受信されると、白色状態と灰色状態(S)との間を切り替えるスクロールモード用の波形が使用され」るステップは、本願発明1の「前記第2の駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第2の画像とは異なる、前記第2の駆動方式の第3の画像に駆動するステップ」に相当する。

キ 引用発明において、「スクロールが完了したとき、灰色状態(S)にある画素は先ず“復元”波形を用いて所望の黒色状態に戻され」るステップは、本願発明1の「第2の遷移駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第3の画像とは異なる、前記第1の駆動方式の第4の画像に駆動し、前記第2の駆動方式から前記第1の駆動方式に遷移させるステップ」に相当する。

ク 引用発明の「標準更新モード用の波形」が、「比較的長い更新時間t_(標準更新)が必要である駆動波形」と同じもの、すなわち「読み取りモード」で用いられる駆動波形を指すことは明らかであるから、その「(所望の黒色状態に戻された)後、ディスプレーは標準更新モード用の波形を用いて更新され」るステップは、本願発明1の「前記第1の駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第4の画像とは異なる、前記第1の駆動方式の第5の画像に駆動するステップ」に相当する。

以上のことから、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「互いに異なる第1の駆動方式および第2の駆動方式、ならびに少なくとも1つの遷移駆動方式を使用して電気光学ディスプレイを動作させる方法において、当該方法が、
前記第1の駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第1の駆動方式の第1の画像に駆動するステップであって、前記第1の画像が、複数のグレーレベルを有する、ステップと、
第1の遷移駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第1の画像とは異なる、前記第2の駆動方式の第2の画像に駆動し、前記第1の駆動方式から前記第2の駆動方式に遷移させるステップであって、前記第2の画像が、モノクローム画像である、ステップと、
前記第2の駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第2の画像とは異なる、前記第2の駆動方式の第3の画像に駆動するステップと、
第2の遷移駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第3の画像とは異なる、前記第1の駆動方式の第4の画像に駆動し、前記第2の駆動方式から前記第1の駆動方式に遷移させるステップと、
前記第1の駆動方式を使用して前記ディスプレイを前記第4の画像とは異なる、前記第1の駆動方式の第5の画像に駆動するステップと
をこの順序で含む方法。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1においては、「遷移駆動方式」は「前記第1の駆動方式とも前記第2の駆動方式とも異なる」とされているが、引用発明においては、それらが同一のものを含まないか否かは必ずしも明らかではない点。
(相違点2)本願発明1は、「前記第1の駆動方式、前記第2の駆動方式、及び前記遷移駆動方式が、前記ディスプレイのグレーレベル間のあらゆる可能な遷移をもたらすのに十分な1組の波形であ」るのに対し、引用発明がこのようなものであるか不明な点。
(相違点3)本願発明1は、「前記第1の駆動方式から前記第2の駆動方式への遷移が、前記第2の駆動方式から前記第1の駆動方式への遷移と同じ場合、前記第1及び第2の遷移駆動方式が、同じ波形セットを有しており、前記第1の駆動方式から前記第2の駆動方式への遷移が、前記第2の駆動方式から前記第1の駆動方式への遷移と異なる場合、前記第1及び第2の遷移駆動方式が、異なる波形を有する」というものであるのに対し、引用発明がこのようなものであるかは必ずしも明らかではない点。

(2)相違点についての判断
ア 本願発明1の内容に鑑み、上記相違点2について検討する。
本願発明1の「前記第1の駆動方式、前記第2の駆動方式、及び前記遷移駆動方式」は、「グレーレベル間のあらゆる可能な遷移をもたらすのに十分な1組の波形」である。
イ しかしながら引用発明においては、例えば、「読み取りモード」から「スクロールモード」への遷移は、「(読み取りモードの)黒色状態」を「スクロール用の灰色状態(S)」にするものであって、引用文献1には、「(読み取りモードの)黒色状態」を「(スクロール用の)白色状態」にすることの記載や示唆はなく、また「(読み取りモードの)白色状態」を「スクロール用の灰色状態(S)」にすることの記載や示唆もない。また、表示装置技術において、そのような動作制御が周知なものであるとも認められない。
ウ そうすると、本願発明1と引用発明とは実質的な上記相違点2を有しており、また、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項とすることを当業者が容易に想到し得たともいえない。
したがって、上記相違点1,3について検討するまでもなく、本願発明1は引用文献1に記載された発明であるとはいえない。また、当業者であっても、引用文献1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

2 本願発明2-9について
本願発明2-9は、本願発明1を減縮したものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。また、当業者であっても、引用文献1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。


第6 原査定について
以上のとおりであって、本願発明1,4,6-7は、引用文献1に記載された発明であるとはいえない。また、本願発明1-9は、当業者であっても、引用文献1に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-07-03 
出願番号 特願2014-163508(P2014-163508)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G09G)
P 1 8・ 113- WY (G09G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山崎 仁之波多江 進  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 中塚 直樹
須原 宏光
発明の名称 電気光学ディスプレイを駆動するための方法  
代理人 特許業務法人北青山インターナショナル  

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