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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1341564
審判番号 不服2017-3514  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-08 
確定日 2018-06-19 
事件の表示 特願2014- 37390「複合体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月11日出願公開、特開2014-167113〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2000年5月2日(パリ条約に基づく優先権主張 1999年4月30日 ドイツ(DE))を国際出願日とする特許出願である特願2001-501354号の一部を新たな特許出願として平成24年2月20日に出願された特許出願である特願2012-34502号(以下、「原出願」という。)の一部をさらに新たな特許出願として平成26年2月27日に出願された特許出願であって、平成27年3月6日付けで拒絶理由が通知され、同年9月10日に意見書及び手続補正書が提出され、平成28年2月16日付けで拒絶理由が通知され、同年10月27日付けで拒絶査定がされ、平成29年3月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年4月6日付けで前置報告がされたものである。

第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明は、平成29年3月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。なお、平成29年3月8日に提出された手続補正書による補正は、請求項2以降の請求項を削除するものであって、請求項1については、拒絶査定時の請求項1である、平成27年9月10日に提出された手続補正書の特許請求の範囲に記載された請求項1と同じである。

「【請求項1】
(A)ポリマー、(B)酸、(C)有機塩基、並びに(D)層状および/または網状ケイ酸塩を含む複合体であって、酸、塩基、並びに層状および/または網状ケイ酸塩の合計量を基準として、酸および塩基の混合物の割合が1乃至99重量%であり、層状および/または網状ケイ酸塩の割合が99乃至1重量%であり、前記ポリマーが、下記のi)およびii)からなる群、すなわち、
i)(E)低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー、
ii)(F)アイオノマーまたはアイオノマー前駆体、
から選択され、
前記アイオノマーは、下記の(a)、(b)、(c)および(d)からなる群、すなわち、
(a)陽イオン交換基-SO3H、-COOHおよび/または-PO3H2を有する陽イオン交換ポリマーであって、架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成するものであり、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、陽イオン交換ポリマー、
(b)陰イオン交換基-NR3+(R=H、アルキル、アリール)、ピリジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、トリアゾリウムを有する陰イオン交換ポリマーであって、架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成するものであり、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、陰イオン交換ポリマー、
(c)ポリマー鎖上に(b)の陰イオン交換基と(a)の陽イオン交換基との両方を有し、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、ポリマー、
(d)イオン的架橋に加えて共有的に架橋を形成しており、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、(a)と(b)の混合物、
から選択され、
前記アイオノマー前駆体は、下記の(I)および(II)からなる群、すなわち、
(I)陽イオン交換ポリマーの前駆体、および
(II)NR2-基(R=H、アルキル、アリール)、ピリジルPyr、イミダゾイル Im、ピラゾリルPyraz、トリアゾリルTriを含む陰イオン交換樹脂の前駆体、から選択され、
前記陽イオン交換ポリマーの前駆体は、下記の(Ia)、(Ib)および(Ic)からなる群、すなわち、
(Ia)COHal-、CONR2-またはCOOR-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー、
(Ib)SO2Hal-、SO2NR2-またはSO2OR-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー、
(Ic)PO3Hal2-、PO3(NR2)2-またはPO3(OR)2-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー、
から選択されることを特徴とする複合体。」

第3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由である、平成28年2月16日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は、
「1.(新規事項)平成27年9月30日付け手続補正書でした補正は、下記の点で願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
4.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」
というもの、及び「6.(進歩性)」として、
・請求項1に係る発明は、引用文献2(特表2003-501516号公報)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
というものを含むものである。

第4 当審の判断
1.特許法第17条の2第3項について
(1)平成27年9月10日付け手続補正書でした補正(以下、「本件補正」という。)は、請求項1において、次の補正事項を含むものである。なお、原査定の拒絶理由において「平成27年9月30日付け手続補正書」との記載があるが、原査定より前に提出された手続補正書は平成27年9月10日付けであるから、「平成27年9月10日付け手続補正書」の誤記であることは明らかである。

<補正事項>
(A)ポリマー等を含む複合体が「(E)非修飾ポリマーと、低分子の酸および塩基とをさらに含むか」と記載されているのを、(A)ポリマー等を含む複合体の前記ポリマーが「(E)低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」等から選択されると補正する。

(2)ここで、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、併せて「当初明細書等」という。)の記載について検討する。
当初明細書等には、以下のとおり記載されている(以下、それぞれの摘示を「摘示ア1」のようにいう。)。

ア1 「【請求項1】
複合体を製造する方法であって、以下の成分(A)?(D)を用意するステップと、前記成分(A)?(D)を-40℃乃至300℃の温度において互いに接触させるステップと、を含むことを特徴とする方法。
む方法。
(A)ポリマー、(B)酸、(C)有機塩基、並びに(D)官能化した層状または網状ケイ酸塩を含む複合体であって、酸、塩基、並びに層状または網状ケイ酸塩の合計量を基準として、酸および塩基の混合物の割合が1乃至99重量%であり、層状または網状ケイ酸塩の割合が99乃至1重量%であり、
前記複合体が、
i)(E)非修飾ポリマーと、低分子の酸および塩基とをさらに含むか、または、
ii)(F)アイオノマーまたはアイオノマー前駆体であって、
該アイオノマーは、
(a)陽イオン交換基-SO_(3)H、-COOHおよび/または-PO_(3)H_(2)を有するものであり、架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成するものであり、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、陽イオン交換ポリマー、
(b)陰イオン交換基-NR_(3)^(+)(R=H、アルキル、アリール)、ピリジニウムPyrR^(+)、イミダゾリウム ImR^(+)、ピラゾリウムPyrazR^(+)、トリアゾリウム TriR^(+)を有するものであり、架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成するものであり、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、陰イオン交換ポリマー、
(c)ポリマー鎖上に(b)の陰イオン交換基と(a)の陽イオン交換基との両方を有し、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、ポリマー、および
(d)イオン的架橋に加えて共有的に架橋を形成しており、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、(a)と(b)の混合物、
からなる群より選択されており、
該アイオノマー前駆体は、
(I)陽イオン交換ポリマーの前駆体、
(Ia)CoHal-、CONR_(2)-またはCOOR-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー、
(Ib)SO_(2)Hal-、SO_(2)NR_(2)-またはSO_(2)OR-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー、
(Ic)PO_(3)Hal_(2)-、PO_(3)(NR_(2))_(2)-またはPO_(3)(OR)_(2)-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー、
(II)NR_(2)-基(R=H、アルキル、アリール)、ピリジル Pyr、イミダゾイル Im、ピラゾリル Pyraz、トリアゾリルTriを含む陰イオン交換樹脂の前駆体、
からなる群より選択されている、
アイオノマーまたはアイオノマー前駆体をさらに含む。
【請求項2】
前記層状または網状ケイ酸塩成分を用意する間に、前記層状または網状ケイ酸塩を少なくとも2つの異なる塩基成分と混合することを特徴とする、請求項1に記載の複合体の製造方法。」

イ1 「【0009】
こうした技術状況を出発点として、本発明の課題は、膨張性(Quellung)を備えると同時に電気化学セルの作動温度を100℃より高くした場合にも、イオン導電性(特にはプロトン伝導性)の高い複合体を提供することである。したがって、本発明の目的は、酸および/または有機塩基と層状ケイ酸塩とを有するイオン伝導複合体であって、その組成が酸-塩基の割合を1乃至99重量%とし、層状ケイ酸塩を99乃至1重量%とすることを特徴とする。」

ウ1 「【0011】
(a) 酸を陽イオン交換ポリマー(陽イオン交換基-SO_(3)H、-COOH、-PO_(3)H_(2)を有し、該ポリマーを前記陽イオン交換基の何れか、または前記陽イオン交換基の混合物のみで修飾可能なもの)とすることができる。この場合、該ポリマーは架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成し得る。一般に、イオン交換容量は、0.1乃至12ミリ当量/gが好ましい。特には0.3乃至8ミリ当量/gが好ましい。さらには0.5乃至2ミリ当量/gが好ましい。ここで、骨格鎖として特に好適なのは熱可塑樹脂である。
【0012】
(b) 酸を有機または無機の低分子酸とすることもできる。無機酸としては、特に硫酸およびリン酸が好ましい。有機酸としては、スルホン酸またはカルボン酸の全ての低分子酸、特にはアミノスルホン酸およびその前駆体としてアミノスルホ塩化物を用いることができる。
【0013】
(c) 塩基を陰イオン交換ポリマー(陰イオン交換基-NR_(3)^(+)(R=H、アルキル、アリール)、ピリジニウムPyrR^(+)、イミダゾリウム ImR^(+)、ピラゾリウムPyrazR^(+)、トリアゾリウム TriR^(+)および他の有機塩基芳香および/または非芳香族(R=H、アルキル、アリール)を有し、該ポリマーを前記陰イオン交換基の何れか、または前記陰イオン交換基の混合物のみで修飾可能もの)とすることができる。この場合、該ポリマーは架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成し得る。この場合、陰イオン交換容量は、一般に、1乃至15ミリ当量/gが好ましい。特には3乃至12ミリ当量/gが好ましく、さらには6乃至10ミリ当量/gが好ましい。この場合も骨格鎖としては全ての熱可塑樹脂、特にはポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリベンズイミダゾールおよびポリビニルピリジンが好ましい。
【0014】
(d) 塩基を有機または無機の低分子塩基とすることができる。有機低分子塩基としては、全てのグアニジン誘導体が特に好ましい。
【0015】
(e) 酸および塩基の官能基を同一分子内に存在させることができる。これらの分子を低分子または高分子とすることができる。それがポリマーの場合には、(c)の陰イオン交換基と(a)の陽イオン交換基の両方がポリマー鎖上に存在する。
【0016】
(f) 前記(a)乃至(e)の酸および塩基を複合体中で混合することができる。この場合、あらゆる混合比を適用することができる。この場合、この混合にはイオン的架橋に加えて共有的に架橋を形成することができる。
【0017】
(g) 酸も塩基も低分子であるので、非修飾ポリマーもさらに複合体中に含まれる。
【0018】
(h) 無機活性充填材は、モンモリロナイト、スメクタイト、イライト、セピオライト、パリゴルスカイト、マスコバイト、アレファダイト(Allevardit)、アメサイト、ヘクトライト、タルク、フッ化ヘクトライト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、スティーブンサイト、ベントナイト、雲母、バーミキュライト、フッ化バーミキュライト、ハロイサイト、フッ素含有合成タルカムパウダーに基づく層状ケイ酸塩または前記層状ケイ酸塩の2以上の混合物である。層状ケイ酸塩を層剥離化(delaminiert)またはピラー化(pillartiert)することができる。特にはモンモリロナイトが好ましい。層状ケイ酸塩の重量比を1乃至80%、好ましくは2乃至30重量%、および特には5乃至20重量%とすることができる。」

エ1 「【0025】
(複合体の製造方法)
本発明はさらに複合膜の製造方法に関する。以下にプロトン伝導性の高いプロトン導電性化合物の製造の一例を説明する。
【0026】
1) アミノアリールスルホクロライドをテトラヒドロフランに溶解する。その後、対応する量のモンモリロナイトK10を加える。モンモリロナイトをプロトン交換し、乾燥する。その後、数時間攪拌する。攪拌時間はアミノアリールスルホクロライドの分子の大きさおよびモンモリロナイトの陽イオン交換容量に対するアミノ基の比によって決まる。攪拌処理中に、アミノ基をモンモリロナイトの空孔にインターカレートする。ここで、懸濁液としてスルホ塩素化ポリスルホンをテトラヒドロフランに溶解する。熱可塑樹脂のスルホクロライド量は繰返し単位当たり約0.5基である。懸濁液を攪拌し、慎重に脱気し、ガラス板上にフィルムを形成する。室温でテトラヒドロフラン(THF)を蒸発させる。添加したスルホ塩素化ポリスルホンが5乃至10重量%となるようにモンモリロナイトの量を選択する。フィルムを完全に乾燥し、脱塩水中で剥離した後、10%塩酸中において90℃で後処理する。
【0027】
この際、スルホクロライド基は加水分解され、スルホン酸基に変わる。得られた膜をさらに80乃至90℃の熱湯で後処理し、塩酸がもはや検出されないようにする。繰返し単位当たり0.5基のSO_(2)Clを有するスルホ塩素化ポリスルホンは、加水分解後1.0ミリ当量/グラムの陽イオン交換容量に相当する。アミノアリールスルホクロライドからの付加スルホン酸基により、陽イオン交換容量がその量に応じて著しく上昇し、非水溶性となる。同じ陽イオン交換容量において、スルホン化ポリスルホンを除いて水溶性である。
【0028】
2) 0.9ミリ当量/グラムの陽イオン交換容量(IEC)を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトンを高温(T>80℃)のN-メチルピロチドン(NMP)に溶解する。この成分をスルホ塩素化した形態はTHFに不溶である。高分子スルホン酸およびその塩は、THFに全くまたはほとんど不溶である。ここで、この溶液にアミノスルホン酸を積載したモンモリロナイトK10のNMP懸濁液を加える。スルホン酸基は表面付近にあり、一方アミノ基はモンモリロナイトの空孔内にある。固形分がポリマー量の2乃至20重量%となるように、懸濁液の組合せを再び選択する。これはどの使用範囲で膜が必要であるかにより決まる。80乃至150℃の温度で、膜を炉内で乾燥する。膜をガラス板から剥離し、脱塩水内で12時間90℃で後処理する。
【0029】
3)スルホ塩素化ポリスルホンおよびアミノ化ポリスルホンをTHFに溶解する。その後、10重量%のモンモリロナイトK10(乾燥しプロトン化した形態)を加える。懸濁液を攪拌し、脱気して前記の膜を得る。ガラス板から剥離した後、膜を希塩酸中で80℃で後処理する。この場合もスルホクロライド基はスルホン酸に加水分解される。次いで、膜をさらに脱塩水で処理して、膜から完全に塩酸を除去する。
【0030】
本発明による複合体の以下のような驚くべき特性が分かった。
・複合体は、100℃よりはるかに高い温度で非常に高いイオン導電性を示す。特に、この温度域においても複合体のプロトン伝導性は非常に良好である。これは、一方では粘土鉱物の保水特性に、他方では粘土鉱物の固有プロトン導電性に起因するものである。プロトン導電性が良好であることにより、この複合体を前記の温度域で燃料電池膜に適用することができる。
・空孔中でポリマー分子およびゼオライト等の粘土鉱物が相互に作用することができるので、空孔をケイ酸塩に設けることにより複合膜の化学的、機械的および熱的安定性が著しく向上する。特に、アイオノマー混合物を含有する塩基性ポリマーおよび塩基性ポリマー成分を、ケイ酸塩のルイス酸空孔中の塩基性基の相互作用によりインターカレートすることが可能である。これにより酸性ケイ酸塩と塩基性ポリマー鎖との間のイオン的架橋が形成され、これは系のpHに依存せず、特に複合膜が強酸または強塩基媒質中に置かれた場合、機械的、化学的および熱的安定性の向上に寄与する。
【0031】
・DMFCに適用すると、本発明に好適な複合膜は、膜に対するメタノール浸透性およびガス拡散性が低下する。この際、次のようにして膜のメタノール透過性および選択透過性を意図的に調整することができる。
・層状-/網状ケイ酸塩の型。
・複合体中のケイ酸塩の重量割合。
・ケイ酸塩の空孔中へのスペーサー分子(Spacermolekulen)および二官能分子の意図的導入。この際、スペーサー分子と透過分子との相互作用の型および強度は、膜の露出している官能基と透過分子の官能基の型によって決まる。ベントナイト表面上のアルカリベントナイトに対する交換において、例えばアミノスルホン酸またはアミノカルボン酸とアミン官能物(Aminfunktion)を組み合わせる。第2官能基は、ポリマーとの反応またはプロトン移送電気膜法に使用可能である。
【0032】
・本発明に好適な膜は、従来のアイオノマー膜に比べて、付着物(菌類および細菌によるアイオノマー膜の微生物的腐食)が非常に少なく、アイオノマー膜中のケイ酸塩(モンモリロナイト)の2乃至5重量%である。複合体に混合した粘土鉱物がこの原因である。微生物分解、特に菌類による分解を非常に遅延させることで、粘土鉱物が土壌改良剤として作用することは、すでに長年にわたり知られている。驚くべきことに、粘土鉱物のこの特性は粘土鉱物含有膜にも効果を発揮する。本発明に好適な複合物のこの特性により、水処理および廃水処理分野における膜分離技術、およびいかなる酸化環境、例えばヒドロキシラジカルおよび/または過酸化水素を含有する環境にも適用が可能となる。
・本発明に好適な粘土鉱物を構成するシリカ化合(silicatischen)ルイス酸の触媒特性を本発明に好適な複合物にも用いることができる。
【実施例】
【0033】
(実施例)
1.スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(スルホン化率70%)を5重量%のモンモリロナイトとDMAc中に溶解し、溶剤を蒸発させて厚さ50μmの膜を得る。この膜を菌類で汚染した水性培地に入れる。菌類による分解は検出されない。モンモリロナイトの入っていないコントロールでは、非常に繁殖が起こり、かつ分解される。
【0034】
2.a)塩の形態のスルホン化ポリスルホンおよびポリビニルピリジンを、最終容量として1ミリ当量[H+]/gの全混合物が得られるような比で混合する。両方のポリマーをDMAcに溶解して膜を得る。得られた膜の比抵抗は33[Ω×cm]である。
b)2.aと同じ混合物に8重量%の活性化モンモリロナイトをさらに加え、2.aと同様にして膜を得る。比抵抗は27.7[Ω×cm]である。
【0035】
3.DMAcに溶解したポリベンズイミダゾールを10重量%の活性化モンモリロナイトと混合し、層状ケイ酸塩を入れないものをコントロールとする。両方の混合物からそれぞれ膜を作り、インピーダンス分光法により抵抗を測定する。層状ケイ酸塩の入っていないものは抵抗値が588[Ω×cm]であり、層状ケイ酸塩の入っているものは276[Ω×cm]である。」

(3)前記補正事項、すなわち複合体が含む「(A)ポリマー」が「(E)低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」等から選択されると補正することについて、当初明細書等における記載を検討すると、「前記複合体が、i)(E)非修飾ポリマーと、低分子の酸および塩基とをさらに含むか、」(摘示ア1の請求項1)、「(g) 酸も塩基も低分子であるので、非修飾ポリマーもさらに複合体中に含まれる。」(摘示ウ1の【0017】)と記載されているものの、「低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」というポリマーはそもそも記載されていない。
また、複合体(複合膜)の製造方法として、「アミノアリールスルホクロライド」、「モンモリロナイトK10」、「スルホ塩素化ポリスルホン」からフィルムを形成し、塩酸で後処理してスルホクロライド基をスルホン酸基に変えること(摘示エ1の【0026】、【0027】)、「スルホン化ポリエーテルエーテルケトン」、「アミノスルホン酸を積載したモンモリロナイトK10」から膜を得ること(摘示エ1の【0028】)、「スルホ塩素化ポリスルホンおよびアミノ化ポリスルホン」、「モンモリロナイトK10」から膜を得て、塩酸で後処理してスルホクロライド基をスルホン酸に加水分解すること(摘示エ1の【0029】)が記載され、平成27年9月10日に提出された意見書の「2-1.本願の補正について」で補正の根拠とされている【0033】を含む実施例には、複合体が、「スルホン化ポリエーテルエーテルケトン」、「モンモリロナイト」を含むこと(摘示エ1の【0033】)、「塩の形態のスルホン化ポリスルホンおよびポリビニルピリジン」、「活性化モンモリロナイト」を含むこと(摘示エ1の【0034】)、「ポリベンズイミダゾール」、「活性化モンモリロナイト」を含むこと(摘示エ1の【0035】)が記載されているものの、複合体が含む「(A)ポリマー」のポリマーが「低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」であることは何ら記載されていない。
さらに、この技術分野において、複合体が、非修飾ポリマーと、低分子の酸および塩基とをさらに含む旨の記載、酸も塩基も低分子であるので、非修飾ポリマーもさらに複合体中に含まれる旨の記載、前記複合体(複合膜)の製造方法の記載、及び前記実施例の複合体の記載の各記載が当初明細書等に存在することをもってして、複合体が含むポリマーとして「低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」を選択することが、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)にとって、自明のことでもないし、本願出願時(5.(2)において後述するように、本願は適法な分割出願であるとはいえないので、本願の出願日は、現実の出願日である平成26年2月27日である。)の技術常識でもない。
以上のとおりであるから、当初明細書等には、前記補正事項についての記載は一切されていないし、そのことが示唆もされていないし、本願出願時において、当業者にとって、そのことが自明のことでもない。
そうすると、補正後の請求項1に記載された、複合体が含む「(A)ポリマー」として「(E)低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」を選択することが、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとする根拠は見出せない。

以上のことから、前記補正事項を含む本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

2.特許法第36条第4項第1号について
本願発明は、前記第2に記載したとおりの発明であり、(A)ポリマー、(B)酸、(C)有機塩基、並びに(D)層状および/または網状ケイ酸塩を含み、前記ポリマーが、i)(E)低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー、ii)(F)アイオノマーまたはアイオノマー前駆体からなる群から選択される複合体に関する。すなわち、本願発明は、(A)前記i)(E)及びii)(F)のものから選択されるポリマー、(B)酸、(C)有機塩基、並びに(D)層状および/または網状ケイ酸塩を含む複合体に関する。
ここで、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるか否かについて検討する。
発明の詳細な説明には、「(a) 酸を陽イオン交換ポリマー・・・(略)・・・とすることができる。」、「(b) 酸を有機または無機の低分子酸とすることもできる。」、「(c) 塩基を陰イオン交換ポリマー・・・(略)・・・とすることができる。」、「(d) 塩基を有機または無機の低分子塩基とすることができる。」、「(e) 酸および塩基の官能基を同一分子内に存在させることができる。」、「(f) 前記(a)乃至(e)の酸および塩基を複合体中で混合することができる。」、「(g) 酸も塩基も低分子であるので、非修飾ポリマーもさらに複合体中に含まれる。」、「(h) 無機活性充填材は、・・・(略)・・・に基づく層状ケイ酸塩または前記層状ケイ酸塩の2以上の混合物である。」との記載があり(摘示ウ1の【0011】?【0018】)、また、複合体(複合膜)の製造方法として、「アミノアリールスルホクロライド」、「モンモリロナイトK10」、「スルホ塩素化ポリスルホン」からフィルムを形成し、塩酸で後処理してスルホクロライド基をスルホン酸基に変えること(摘示エ1の【0026】、【0027】)、「スルホン化ポリエーテルエーテルケトン」、「アミノスルホン酸を積載したモンモリロナイトK10」から膜を得ること(摘示エ1の【0028】)、「スルホ塩素化ポリスルホンおよびアミノ化ポリスルホン」、「モンモリロナイトK10」から膜を得て、塩酸で後処理してスルホクロライド基をスルホン酸に加水分解すること(摘示エ1の【0029】)が記載され、さらに、実施例として、「スルホン化ポリエーテルエーテルケトン」、「モンモリロナイト」を含む複合体(摘示エ1の【0033】)、「塩の形態のスルホン化ポリスルホンおよびポリビニルピリジン」、「活性化モンモリロナイト」を含む複合体(摘示エ1の【0034】)、「ポリベンズイミダゾール」、「活性化モンモリロナイト」を含む複合体(摘示エ1の【0035】)が記載されている。
しかしながら、発明の詳細な説明に記載された上記の複合体(複合膜)は、いずれも、(A)前記i)(E)及びii)(F)のものから選択されるポリマー、(B)酸、(C)有機塩基、並びに(D)層状および/または網状ケイ酸塩という、(A)?(D)の4成分を含む複合体とは異なるものであり、発明の詳細な説明には、前記(A)?(D)の4成分を含む複合体については何ら記載されていない。
また、複合体の成分が異なれば、その化学的性質や製造するための方法も異なることが本願出願時の技術常識であるから、発明の詳細な説明に上記のとおりの事項が記載されているとしても、当業者は、前記(A)?(D)の4成分を含む複合体についてもその化学的性質や製造するための方法が理解できるとはいえない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

以上のことから、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.特許法第36条第6項第1号について
本願発明は、前記2.において検討したとおり、(A)前記i)(E)及びii)(F)のものから選択されるポリマー、(B)酸、(C)有機塩基、並びに(D)層状および/または網状ケイ酸塩を含む複合体に関する。
ここで、本願発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるか否かについて検討する。
本願発明の課題について、発明の詳細な説明には、「本発明の課題は、膨張性(Quellung)を備えると同時に電気化学セルの作動温度を100℃より高くした場合にも、イオン導電性(特にはプロトン伝導性)の高い複合体を提供することである。」と記載されている(摘示イ1)。
前記2.において検討したように、発明の詳細な説明には、「(a) 酸を陽イオン交換ポリマー・・・(略)・・・とすることができる。」、「(b) 酸を有機または無機の低分子酸とすることもできる。」、「(c) 塩基を陰イオン交換ポリマー・・・(略)・・・とすることができる。」、「(d) 塩基を有機または無機の低分子塩基とすることができる。」、「(e) 酸および塩基の官能基を同一分子内に存在させることができる。」、「(f) 前記(a)乃至(e)の酸および塩基を複合体中で混合することができる。」、「(g) 酸も塩基も低分子であるので、非修飾ポリマーもさらに複合体中に含まれる。」、「(h) 無機活性充填材は、・・・(略)・・・に基づく層状ケイ酸塩または前記層状ケイ酸塩の2以上の混合物である。」との記載があり(摘示ウ1の【0011】?【0018】)、また、複合体(複合膜)の製造方法として、「アミノアリールスルホクロライド」、「モンモリロナイトK10」、「スルホ塩素化ポリスルホン」からフィルムを形成し、塩酸で後処理してスルホクロライド基をスルホン酸基に変えること(摘示エ1の【0026】、【0027】)、「スルホン化ポリエーテルエーテルケトン」、「アミノスルホン酸を積載したモンモリロナイトK10」から膜を得ること(摘示エ1の【0028】)、「スルホ塩素化ポリスルホンおよびアミノ化ポリスルホン」、「モンモリロナイトK10」から膜を得て、塩酸で後処理してスルホクロライド基をスルホン酸に加水分解すること(摘示エ1の【0029】)が記載され、さらに、実施例として、「スルホン化ポリエーテルエーテルケトン」、「モンモリロナイト」を含む複合体(摘示エ1の【0033】)、「塩の形態のスルホン化ポリスルホンおよびポリビニルピリジン」、「活性化モンモリロナイト」を含む複合体(摘示エ1の【0034】)、「ポリベンズイミダゾール」、「活性化モンモリロナイト」を含む複合体(摘示エ1の【0035】)が記載されている。
しかしながら、前記2.において検討したとおり、発明の詳細な説明に記載された上記の複合体(複合膜)は、いずれも、(A)前記i)(E)及びii)(F)のものから選択されるポリマー、(B)酸、(C)有機塩基、並びに(D)層状および/または網状ケイ酸塩という、(A)?(D)の4成分を含む複合体とは異なるものであり、発明の詳細な説明には、前記(A)?(D)の4成分を含む複合体については何ら記載されておらず、(A)?(D)の4成分を含むことによってどのような作用が発揮されるのかを具体的に確認できる記載はない。
また、複合体の成分が異なれば、その化学的性質も異なることが本願出願時の技術常識であるから、(A)?(D)の4成分を含むことにより発揮される作用や、(A)?(D)の4成分を含むことにより前記課題が解決されることが、本願出願時の技術常識であるとも認められない。
この点について、発明の詳細な説明には、「本発明による複合体の以下のような驚くべき特性が分かった。」、「・複合体は、100℃よりはるかに高い温度で非常に高いイオン導電性を示す。特に、この温度域においても複合体のプロトン伝導性は非常に良好である。これは、一方では粘土鉱物の保水特性に、他方では粘土鉱物の固有プロトン導電性に起因するものである。プロトン導電性が良好であることにより、この複合体を前記の温度域で燃料電池膜に適用することができる。」との記載があるが(摘示エ1の【0030】)、前述したように、(A)?(D)の4成分を含むことにより発揮される作用は具体的に記載されておらず、また、本願出願時の技術常識ともいえないことに照らすと、驚くべき特性が分かった等の上記の記載をもって、前記課題が解決されると当業者が認識できるとは到底いえない。
したがって、本願出願時の技術常識を参酌したとしても、発明の詳細な説明が、本願発明の課題を解決できる程度に記載されているとはいえず、本願発明は、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

以上のことから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.特許法第36条第6項第2号について
(1)本願発明は、前記第2に記載したとおりの発明であり、「(A)ポリマー、(B)酸、(C)有機塩基、並びに(D)層状および/または網状ケイ酸塩を含む複合体であって、・・・(略)・・・前記ポリマーが、下記のi)およびii)からなる群、すなわち、i)(E)低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー、ii)(F)アイオノマーまたはアイオノマー前駆体、から選択され、」との記載がある。しかしながら、「(B)酸、(C)有機塩基」と「低分子の酸および塩基」とは、酸や塩基であるという点で成分として重複し得るものであるところ、非修飾ポリマーが有する「低分子の酸および塩基」と、複合体が含む「(B)酸、(C)有機塩基」とは、同じものであってもよいのか、あるいは異なるものであるのか明確でない。
ここで、本願明細書も参照するに、本願明細書には、「低分子の酸および塩基」について、「(b) 酸を有機または無機の低分子酸とすることもできる。」、「(d) 塩基を有機または無機の低分子塩基とすることができる。」、「(g) 酸も塩基も低分子であるので、非修飾ポリマーもさらに複合体中に含まれる。」との記載がある(それぞれ、摘示ウ1の【0012】、【0014】、【0017】)が、これらの記載からも、「(B)酸、(C)有機塩基」と「低分子の酸および塩基」との関係は定かではない。そうすると、「(B)酸、(C)有機塩基」、「低分子の酸および塩基」という記載の意味するところについて、本願明細書を参照しても明確でない。

(2)本願発明は、前記第2に記載したとおりの発明であり、「低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」との記載がある。しかしながら、非修飾ポリマーとは、修飾されていないポリマーのことであると認められるところ、低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマーとはどのような構造のポリマーであるのか(非修飾でありながら、低分子の酸および塩基を有するポリマーとは、どのような構造であるのか)、明確でない。
ここで、本願明細書も参照するに、本願明細書には、「(g) 酸も塩基も低分子であるので、非修飾ポリマーもさらに複合体中に含まれる。」との記載がある(摘示ウ1の【0017】)が、「低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」については記載がない。そうすると、「低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」という記載の意味するところについて、本願明細書を参照しても明確でない。

(3)以上のことから、本願発明は明確とはいえないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

5.特許法第29条第2項について
(1)本願発明
本願発明は、前記第2に記載したとおりの発明であり、「(A)ポリマー、(B)酸、(C)有機塩基、並びに(D)層状および/または網状ケイ酸塩を含む複合体であって、・・・(略)・・・前記ポリマーが、下記のi)およびii)からなる群、すなわち、i)(E)低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー、ii)(F)アイオノマーまたはアイオノマー前駆体、から選択され」るものである。

(2)本願の出願日
原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「原出願の当初明細書等」という。)には、非修飾ポリマーについて、「(g) 酸も塩基も低分子であるので、非修飾ポリマーもさらに複合体中に含まれる。」との記載があるのみであり(【0017】)、「低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」を複合体が含むことは記載されているとはいえず、示唆もされていない。
してみると、本願発明、すなわち本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明において、複合体が含む「(A)ポリマー」として「(E)低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー」が選択されることは、原出願の当初明細書等に記載も示唆もされておらず、原出願の当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、本願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項は、原出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内であるとはいえない。したがって、本願は適法な分割出願であるとはいえないので、出願時の遡及は認められず、本願の出願日は本願の現実の出願日である平成26年2月27日である。

(3)刊行物及びその記載事項
本願の出願日は平成26年2月27日であるから、原査定の拒絶理由で引用文献2として引用された特表2003-501516号公報(以下、「引用文献」という。)は、本願の出願前である平成15年1月14日に頒布された刊行物である。そして、引用文献には、次の事項(以下、「摘示ア2」のようにいう。)が記載されている。なお、下線は当審において付した。

ア2 「【請求項1】 酸および/または有機塩基と層状/網状ケイ酸塩とを含有するプロトン導電性複合体であって、酸-塩基複合物の割合が1乃至99重量%であり、層状/網状ケイ酸塩の割合が99乃至1重量%であることを特徴とする複合体。
【請求項2】 複合体および複合体混合膜の製造方法であって、アイオノマー溶液またはアイオノマー前駆体の溶液を層状もしくは網状ケイ酸塩、または両者の混合物と混合し、得られた懸濁液から溶剤を蒸発させることを特徴とする方法。
ここで、アイオノマーは、
(a)陽イオン交換ポリマー(陽イオン交換基-SO_(3)H、-COOH、-PO_(3)H_(2)を有し、該ポリマーを前記陽イオン交換基の何れか、または前記陽イオン交換基の混合物のみで修飾可能なもの)。ここで、該ポリマーは架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成し得る。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
(b)陰イオン交換ポリマー(陰イオン交換基-NR_(3)^(+)(R=H、アルキル、アリール)、ピリジニウム PyrR^(+)、イミダゾリウム ImR^(+)、ピラゾリウム PyrazR^(+)、トリアゾリウム TriR^(+)および他の有機塩基芳香および/または非芳香族基(R=H、アルキル、アリール)を有し、該ポリマーを前記陰イオン交換基の何れか、または前記陰イオン交換基の混合物のみで修飾可能なもの)。ここで、該ポリマーは架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成し得る。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
(c)ポリマー鎖上に(a)の陰イオン交換基と(b)の陽イオン交換基との両方を有するポリマー。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
(d)(a)と(b)の混合物であって、混合比が(a)100%から(b)100%にまで達することができる。ここで、該混合物はイオン的架橋に加えて、さらに共有的に架橋を形成している。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
ここで、アイオノマーの前駆体としては、
(a)陽イオン交換樹脂の前駆体。
(a1)CoHal-、CONR_(2)-またはCOOR-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー。
(a2)SO_(2)Hal-、SO_(2)NR_(2)-またはSO_(2)OR-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー。
(a3)PO_(3)Hal_(2)-、PO_(3)(NR_(2))_(2)-またはPO_(3)(OR)_(2)-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー。
(b)陰イオン交換樹脂の前駆体(NR_(2)-基(R=H、アルキル、アリール)、ピリジル Pyr、イミダゾイル Im、ピラゾリル Pyraz、トリアゾリル Triおよび/または他の有機塩基芳香および/または非芳香基を有する)。ここで、無機成分は、層状ケイ酸塩もしくは網状ケイ酸塩またはこれらの任意の混合物とすることができる。」

イ2 「【0008】
層状ケイ酸塩(粘土鉱物)は興味深い性質を有する。
・250℃まで水和水を保有した状態にある。
・さらに金属陽イオンおよび金属酸化物をこれらの物質中に貯蔵することが可能であり、これにより内部プロトン伝導性が次の一般系のように引き起こされる。
M^(n+)(H_(2)O)->(M-OH)^((n-1)+)+H^(+) [有機反応におけるゼオライト、粘土およびヘテロポリ酸( Zeolite, clay and hereropoly acid in organic reactions)、Y.イズミ、K.ウラベ、M.オナカ、1992年、ワインハイム、VCH出版、26頁]。
・ルイス酸空孔を示す層状ケイ酸塩を、塩基ポリマーの塩基基と酸-塩基相互作用によりインターカレートする(interkalieren)ことができる[プラスチックナノ複合材、シンポジウム:発明から革新へ、1998年5月6日ケルンにおける化学工業基金シンポジウム用出版物、(Kunststoffnanokomposite, Symposium:Von der Invention zur Innovation, Publikation zum Symposium des Fonds der Chemishen Industrie am 6. Mai 1998 in Koln)]。この性質により、ある種の層状ケイ酸塩/ポリマー複合材が既に合成されている。したがって、Muhlhauptらがモンモリロナイトとポリプロピレン、モンモリロナイトとポリアミド、およびモンモリロナイトとプレキシガラスの複合材を作っている。これらの複合材により、例えばプレキシガラスはモンモリロナイトとの混合物によって不燃性となる。混合された層状ケイ酸塩が燃焼により発生した熱分解ガスに対するバリアとなるからである。」

ウ2 「【0029】
本発明による複合体の以下のような驚くべき特性が分かった。
・複合体は、100℃よりはるかに高い温度で非常に高いイオン導電性を示す。特に、この温度域においても複合体のプロトン伝導性は非常に良好である。これは、一方では粘土鉱物の保水特性に、他方では粘土鉱物の固有プロトン導電性に起因するものである。プロトン導電性が良好であることにより、この複合体を前記の温度域で燃料電池膜に適用することができる。」

(4)引用文献に記載された発明
引用文献には、摘示ア2の請求項2の、「アイオノマー溶液またはアイオノマー前駆体の溶液を層状もしくは網状ケイ酸塩、または両者の混合物と混合し、得られた懸濁液から溶剤を蒸発させる」、「複合体および複合体混合膜の製造方法」についての記載から、当該製造方法で製造される、複合体という物としての次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「アイオノマーまたはアイオノマー前駆体と、層状もしくは網状ケイ酸塩、または両者の混合物と、を含む複合体。
ここで、アイオノマーは、
(a)陽イオン交換ポリマー(陽イオン交換基-SO_(3)H、-COOH、-PO_(3)H_(2)を有し、該ポリマーを前記陽イオン交換基の何れか、または前記陽イオン交換基の混合物のみで修飾可能なもの)。ここで、該ポリマーは架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成し得る。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
(b)陰イオン交換ポリマー(陰イオン交換基-NR_(3)^(+)(R=H、アルキル、アリール)、ピリジニウム PyrR^(+)、イミダゾリウム ImR^(+)、ピラゾリウム PyrazR^(+)、トリアゾリウム TriR^(+)および他の有機塩基芳香および/または非芳香族基(R=H、アルキル、アリール)を有し、該ポリマーを前記陰イオン交換基の何れか、または前記陰イオン交換基の混合物のみで修飾可能なもの)。ここで、該ポリマーは架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成し得る。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
(c)ポリマー鎖上に(a)の陰イオン交換基と(b)の陽イオン交換基との両方を有するポリマー。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
(d)(a)と(b)の混合物であって、混合比が(a)100%から(b)100%にまで達することができる。ここで、該混合物はイオン的架橋に加えて、さらに共有的に架橋を形成している。ここで、ポリマー骨格鎖は、ビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物とすることができる。
ここで、アイオノマーの前駆体としては、
(a)陽イオン交換樹脂の前駆体。
(a1)CoHal-、CONR_(2)-またはCOOR-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー。
(a2)SO_(2)Hal-、SO_(2)NR_(2)-またはSO_(2)OR-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー。
(a3)PO_(3)Hal_(2)-、PO_(3)(NR_(2))_(2)-またはPO_(3)(OR)_(2)-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー。
(b)陰イオン交換樹脂の前駆体(NR_(2)-基(R=H、アルキル、アリール)、ピリジル Pyr、イミダゾイル Im、ピラゾリル Pyraz、トリアゾリル Triおよび/または他の有機塩基芳香および/または非芳香基を有する)。」

(5)本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「アイオノマーまたはアイオノマー前駆体」は、本願発明における「ii)(F)アイオノマーまたはアイオノマー前駆体」、すなわち「(A)ポリマー」に相当する。
引用発明における「層状もしくは網状ケイ酸塩、または両者の混合物」は、本願発明における「(D)層状および/または網状ケイ酸塩」に相当する。

そうすると、両者は、
「(A)ポリマー、並びに(D)層状および/または網状ケイ酸塩を含む複合体であって、前記ポリマーが、下記のi)およびii)からなる群、すなわち、
i)(E)低分子の酸および塩基を有する非修飾ポリマー、
ii)(F)アイオノマーまたはアイオノマー前駆体、
から選択され、
前記アイオノマーは、下記の(a)、(b)、(c)および(d)からなる群、すなわち、
(a)陽イオン交換基-SO3H、-COOHおよび/または-PO3H2を有する陽イオン交換ポリマーであって、架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成するものであり、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、陽イオン交換ポリマー、
(b)陰イオン交換基-NR3+(R=H、アルキル、アリール)、ピリジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、トリアゾリウムを有する陰イオン交換ポリマーであって、架橋を形成しないかまたは共有的に架橋を形成するものであり、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、陰イオン交換ポリマー、
(c)ポリマー鎖上に(b)の陰イオン交換基と(a)の陽イオン交換基との両方を有し、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、ポリマー、
(d)イオン的架橋に加えて共有的に架橋を形成しており、ポリマー骨格鎖がビニルポリマー、アリール主鎖ポリマー、ポリチアゾール、ポリピラゾール、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェンまたはこれらの任意の混合物である、(a)と(b)の混合物、
から選択され、
前記アイオノマー前駆体は、下記の(I)および(II)からなる群、すなわち、
(I)陽イオン交換ポリマーの前駆体、および
(II)NR2-基(R=H、アルキル、アリール)、ピリジルPyr、イミダゾイル Im、ピラゾリルPyraz、トリアゾリルTriを含む陰イオン交換樹脂の前駆体、から選択され、
前記陽イオン交換ポリマーの前駆体は、下記の(Ia)、(Ib)および(Ic)からなる群、すなわち、
(Ia)COHal-、CONR2-またはCOOR-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー、
(Ib)SO2Hal-、SO2NR2-またはSO2OR-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー、
(Ic)PO3Hal2-、PO3(NR2)2-またはPO3(OR)2-基(R=H、アルキル、アリールであり、Hal=F、Cl、Br、I)を有するポリマー、
から選択されることを特徴とする複合体。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点>
本願発明においては、複合体が「(B)酸、(C)有機塩基」を含み、「酸、塩基、並びに層状および/または網状ケイ酸塩の合計量を基準として、酸および塩基の混合物の割合が1乃至99重量%であり、層状および/または網状ケイ酸塩の割合が99乃至1重量%であ」ると特定されているのに対して、引用発明においては、複合体がそのように特定されていない点。

前記相違点について検討する。引用文献には、層状ケイ酸塩(粘土鉱物)はプロトン伝導性を示す旨が記載されており(摘示イ2、ウ2)、引用発明において、層状もしくは網状ケイ酸塩、または両者の混合物を含む複合体は、プロトン伝導性を示すものと認められる。
また、引用文献には、層状/網状ケイ酸塩を含有するプロトン導電性複合体について、酸および/または有機塩基を含有すること、及び酸-塩基複合物の割合が1乃至99重量%であり、層状/網状ケイ酸塩の割合が99乃至1重量%であることが記載されている(摘示ア2の請求項1)。当該プロトン導電性複合体は、層状/網状ケイ酸塩を含有し、プロトン導電性である点で、引用発明の複合体と共通するものである。
そうすると、引用発明において、当該プロトン導電性複合体についての記載に従って、層状/網状ケイ酸塩に加えて酸および有機塩基を含有させ、酸-塩基複合物の割合を1乃至99重量%、層状/網状ケイ酸塩の割合を99乃至1重量%として前記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。また、そのことにより引用発明からみて格別な効果があるともいえない。

以上のことから、本願発明は、引用発明、すなわち引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由は妥当なものであるから、本願は、これらの理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-19 
結審通知日 2018-01-24 
審決日 2018-02-06 
出願番号 特願2014-37390(P2014-37390)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08L)
P 1 8・ 536- Z (C08L)
P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 55- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小出 直也杉江 渉河野 隆一朗  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 西山 義之
井上 猛
発明の名称 複合体の製造方法  
代理人 関口 一哉  
代理人 関口 一哉  
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