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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1341694
審判番号 不服2017-14187  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-26 
確定日 2018-07-10 
事件の表示 特願2013-111440「内燃機関の制御装置および制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月11日出願公開、特開2014-231742、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年5月28日の出願であって、平成29年2月20日付け(発送日:平成29年2月28日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年3月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月25日付け(発送日:同年8月29日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 原査定の概要
1.原査定の拒絶の概要
原査定の拒絶の概要は以下の通りである。
「この出願については、平成29年2月20日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
●理由(特許法第29条第2項)について

・請求項 1、7
・引用文献等 1-2
先に通知した引用文献1には、吸気ポート108に燃料を噴射する吸気ポート噴射用インジェクタ150と、燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用インジェクタ140と、を備え、筒内噴射用インジェクタ140および吸気ポート噴射用インジェクタ150の噴き分け率k1stがエンジン100の運転条件に応じて設定されてなる内燃機関の燃料噴射制御装置において、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも短いか否かを判定する電子制御ユニット200(本願発明の「噴射期間判定手段」に相当)を有し、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも短いと判定された場合であって、エンジン100の充填効率KLが境界充填効率KLb未満であるとき、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0とし、吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupを、総燃料噴射量Qに対応する値とする内燃機関の燃料噴射制御装置の発明が記載されている(特に、段落[0017]、[0023]、[0027]、[0031]、図1-2を参照)。
先に通知した引用文献2には、1サイクル内に燃焼室2へ燃料噴射を複数回に分けて実施している場合であって、着火時期が目標着火時期に対して第1所定時間T1以上遅角するとき、早期噴射、主噴射、アフタ噴射の内、アフタ噴射のみを停止するディーゼルエンジンの燃焼制御装置の発明が記載されている(特に、段落[0032]、[0045]-[0048]、図1、図3を参照)。
平成29年 3月31日付け手続補正書による補正後の請求項1に係る発明と、引用文献1に記載された発明とを対比すると、両者の相違点は、以下のとおりである。
補正後の請求項1に係る発明は、筒内噴射の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その噴射期間分の筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させるのに対し、引用文献1に記載された発明は、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも短いと判定された場合であって、エンジン100の充填効率KLが境界充填効率KLb未満であるとき、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0とし、吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupを、総燃料噴射量Qに対応する値とする点(以下、「相違点ア」という。)。
補正後の請求項1に係る発明は、1サイクル内に筒内噴射を複数回に分けて実施している場合であって、筒内噴射の特定の回の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その特定の回の噴射期間のみの筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させるのに対し、引用文献1に記載された発明は、かかる特定がされていない点(以下、「相違点イ」という。)。
相違点アについて検討すると、引用文献1に記載された発明において、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0とすることにより奏する効果と、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminとすることにより奏する効果のいずれを優先すべきか選択することは、設計的事項であり、エンジン100の充填効率KLが境界充填効率KLb未満であるかどうかによらず、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも短いと判定された場合、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0とし、吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupを、総燃料噴射量Qに対応する値とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
相違点イについて検討すると、引用文献1-2に記載された発明は、燃料噴射を停止する点で共通の機能を有し、引用文献2には、所定の条件を満たすとき、特定の回の燃料噴射を停止することが記載されているから、引用文献1-2に記載された発明を組み合わせ、特定の回の筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも短いと判定された場合、特定の回の筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
出願人は、平成29年 3月31日付け意見書において、(1)「引用文献2の技術では、アフタ噴射を停止した場合、その分だけ同じ噴射弁の主噴射を増量させており、アフタ噴射停止分の燃料を他の噴射弁からの噴射で補うという技術思想が何ら開示されていない点で、本願発明と大きく相違します。」と、(2)「引用文献2の技術は、アフタ噴射の実行/停止を噴射弁の最小噴射期間と比較して判断するものではないうえ、引用文献2の技術が対象としているディーゼルエンジンではポート噴射を行なうことがあり得ないので、引用文献2に記載された燃料噴射制御技術を、引用文献1に記載された燃料噴射制御技術に適用すること自体が困難であり、これらの引用文献を組み合わせて本願発明を想到することは当業者であっても到底容易になし得たものではありません。」と主張している。
出願人の主張(1)について検討すると、引用文献1の段落[0023]、[0027]、[0031]、図2には、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも短いと判定された場合であって、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0とし、吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupを、総燃料噴射量Qに対応する値とすることが記載されており、引用文献2の段落[0032]、[0045]-[0048]、図1、図3には、所定の条件を満たすとき、特定の回の燃料噴射を停止することが記載されているから、引用文献1-2に記載された発明を組み合わせ、引用文献1に記載された発明の筒内噴射およびポート噴射の分担率に係る制御を特定の回の筒内噴射に適用し、筒内噴射の特定の回の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その特定の回の噴射期間のみの筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させるものとすることは、当業者が容易に想到し得るものである。
出願人の主張(2)について検討すると、引用文献6の段落[0007]には、「上記の内燃機関の制御装置は、ディーゼル車両などに搭載される。内燃機関の制御装置は、エンジンと、ポート噴射用インジェクタと、筒内噴射用インジェクタと、制御手段と、を備える。」と記載されており、ディーゼルエンジンにおいてポート噴射を行うことは周知の技術的思想である。
したがって、出願人の主張は、採用できない。
よって、請求項1に係る発明は、引用文献1-2に記載された発明に基づいて、当業者であれば容易に想到し得たものであるから、依然として、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 2
・引用文献等 1-3
平成29年 2月20日付け拒絶理由通知書の「・請求項3」を参照。

・請求項 3
・引用文献等 1-4
上記拒絶理由通知書の「・請求項4」を参照。

・請求項 4-6
・引用文献等 1-5
上記拒絶理由通知書の「・請求項5」から「・請求項7」までを参照。

<引用文献等一覧>
1.特開2006-336620号公報
2.特開2011-252393号公報
3.特開2005-330943号公報
4.特開2009-103054号公報
5.特開2005-146921号公報
6.特開2010-133351号公報(新たに引用された文献)」

2.平成29年2月20日付け拒絶理由通知書の概要
平成29年2月20日付け拒絶理由通知書(発送日:平成29年2月28日)の概要は以下の通りである。

「 理由

(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項 1、8
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には、吸気ポート108に燃料を噴射する吸気ポート噴射用インジェクタ150と、燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用インジェクタ140と、を備え、筒内噴射用インジェクタ140および吸気ポート噴射用インジェクタ150の噴き分け率k1stがエンジン100の運転条件に応じて設定されてなる内燃機関の燃料噴射制御装置において、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも短いか否かを判定する電子制御ユニット200(本願発明の「噴射期間判定手段」に相当)を有し、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも短いと判定された場合であって、エンジン100の充填効率KLが境界充填効率KLb未満であるとき、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0とし、吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupを、総燃料噴射量Qに対応する値とする内燃機関の燃料噴射制御装置の発明が記載されている(特に、段落[0017]、[0023]、[0027]、[0031]、図1-2を参照)。
引用文献1に記載された発明において、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0とすることにより奏する効果と、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminとすることにより奏する効果のいずれを優先すべきか選択することは、設計的事項であり、エンジン100の充填効率KLが境界充填効率KLb未満であるかどうかによらず、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも短いと判定された場合、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0とし、吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupを、総燃料噴射量Qに対応する値とすることは、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。

・請求項 2
・引用文献等 1-2
・備考
引用文献2には、1サイクル内に燃焼室2へ燃料噴射を複数回に分けて実施している場合であって、着火時期が目標着火時期に対して第1所定時間T1以上遅角するとき、早期噴射、主噴射、アフタ噴射の内、アフタ噴射のみを停止するディーゼルエンジンの燃焼制御装置の発明が記載されている(特に、段落[0032]、[0045]-[0048]、図1、図3を参照)。
引用文献1-2に記載された発明は、燃料噴射を停止する点で共通の機能を有するから、引用文献1-2に記載された発明を組み合わせ、特定の回の筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも短いと判定された場合、特定の回の筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

・請求項 3
・引用文献等 1-3
・備考
引用文献3には、圧縮比を可変とする駆動機構20を備え、吸気通路内燃料噴射弁21の燃料噴射比率が100%にされたときに、筒内燃料噴射弁22の燃料噴射比率が100%にされたときよりも目標圧縮比を高くする内燃機関の制御装置の発明が記載されている(特に、段落[0046]、[0108]、[0122]-[0125]、図1、図8-9を参照)。
引用文献1、3に記載された発明を組み合わせ、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0としたときに、圧縮比を高くする構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

・請求項 4
・引用文献等 1-4
・備考
引用文献4には、全噴射量に対する内燃機関の気筒内への燃料噴射量の割合を示す第1割合よりも、前記全噴射量に対する前記内燃機関の吸気通路内への燃料噴射量の割合を示す第2割合を大きくすると共に、点火時期を前記内燃機関が発生するトルクが最大となる点火時期である最大トルク点火時期より進角側とする内燃機関の制御装置の発明が記載されている(特に、段落[0006]、[0020]を参照)。
引用文献1、4に記載された発明を組み合わせ、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0としたときに、点火時期を進角させる構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

・請求項 5
・引用文献等 1-5
・備考
引用文献5には、第2ポート噴射弁2_(2)、第3ポート噴射弁2_(3)の噴射割合を増加させても第2触媒床温度Tc_(2)が補正触媒床耐熱温度Tlc以上である場合、第2ポート噴射弁2_(2)、第3ポート噴射弁2_(3)及び第2筒内噴射弁3_(2)、第3筒内噴射弁3_(3)とをあわせた全燃料噴射量TAUを増加させる内燃機関の制御装置の発明が記載されている(特に、段落[0066]-[0068]、[0071]、図12を参照)。
引用文献1、5に記載された発明を組み合わせ、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudを0としたときに、総燃料噴射量を増加させる構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。

・請求項 6
・引用文献等 1-5
・備考
引用文献3には、上記発明に加え、前記目標圧縮比を、機関運転条件に応じて設定することが記載されている(特に、段落[0122]、図9を参照)。
引用文献1に記載された発明と引用文献4-5に記載された発明を組み合わせる場合に、点火時期又は総燃料噴射量の補正量の目標値を設定すること、また、当該目標値を機関運転条件に応じて設定することは、当業者が適宜なし得る事項である。

・請求項 7
・引用文献等 1-5
・備考
所定の量の検出値と目標値に基づくフィードバック制御を行うことは周知技術である。

<引用文献等一覧>
1.特開2006-336620号公報
2.特開2011-252393号公報
3.特開2005-330943号公報
4.特開2009-103054号公報
5.特開2005-146921号公報」

第3 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明7」という。)は、平成29年3月31日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された以下の通りのものと認める。

「 【請求項1】
吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射弁と、燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用燃料噴射弁と、を備え、ポート噴射と筒内噴射との各々の分担率が機関運転条件に応じて設定されてなる内燃機関の制御装置において、
上記筒内噴射の噴射期間が、予め設定された所定の最小噴射期間よりも短いか否かを判定する噴射期間判定手段を有し、
上記筒内噴射の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その噴射期間分の筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させ、
1サイクル内に筒内噴射を複数回に分けて実施している場合であって、上記筒内噴射の特定の回の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その特定の回の噴射期間のみの筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
機械的な圧縮比を可変とする可変圧縮比機構を備え、
上記ポート噴射の分担率の増加時に、圧縮比を高くすることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
上記ポート噴射の分担率の増加時に、点火時期を進角させることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
上記ポート噴射の分担率の増加時に、上記筒内噴射の噴射量とポート噴射の噴射量とをあわせた総燃料噴射量を増加させることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
機械的な圧縮比を可変とする可変圧縮比機構を備え、
上記ポート噴射の分担率の増加時における圧縮比,点火時期あるいは総燃料噴射量の補正量の目標値が、機関運転条件に応じて設定されることを特徴とする請求項2?4のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
上記ポート噴射の分担率の増加時における圧縮比,点火時期あるいは総燃料噴射量は、機関運転状態を表す検出値に基づいてフィードバック制御されることを特徴とする請求項2?4のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射弁と、燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用燃料噴射弁と、を備え、ポート噴射と筒内噴射との各々の分担率が機関運転条件に応じて設定されてなる内燃機関の制御方法において、
上記筒内噴射の噴射期間が、最小噴射期間よりも短いか否かを判定する噴射期間判定手段を有し、
上記筒内噴射の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その噴射期間分の筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させ、
1サイクル内に筒内噴射を複数回に分けて実施している場合であって、上記筒内噴射の特定の回の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その特定の回の噴射期間のみの筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させることを特徴とする内燃機関の制御方法。」

第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献1(特開2006-336620号公報)には、「内燃機関の燃料噴射制御装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線部は当審が付した。以下同様。)。

(1)引用文献1の記載事項
ア 「【0002】
一般に、筒内に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタと吸気通路または吸気ポート内に向けて燃料を噴射するための吸気ポート噴射用インジェクタとを備え,機関の運転状態に応じてこれらのインジェクタを切替え使用することにより、例えば低負荷運転領域での成層燃焼と高負荷運転領域での均質燃焼を実現させたり、運転状態に応じて所定の噴き分け率で燃料噴射するようにして、燃費特性や出力特性の改善を図った、いわゆるデュアル噴射型の内燃機関が知られている(特許文献1、2等)。
【0003】
ところで、このようなデュアル噴射型の内燃機関において、運転状態に応じて所定の噴き分け率で燃料噴射を行なわせるようにした場合、運転状況によっては筒内噴射用インジェクタからの要求噴射量がその最小噴射量を下回るときがある。このように要求噴射量が最小噴射量を下回ると、開弁時間で設定されている燃料噴射量の制御が不安定となるおそれがある。そこで、最小開弁時間を維持したまま要求噴射量を満たすために、インジェクタに供給される燃圧を低下させることも考えられるが、このように燃圧を低下させると噴射燃料の微粒化が促進されず、燃焼やエミッションが悪化するという新たな問題が生ずるおそれがある。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述のように筒内噴射用インジェクタからの要求噴射量がその最小噴射量を下回った場合、単に特許文献3に記載のように筒内噴射用インジェクタからの噴射を2サイクルに1回、換言すると、1サイクルで噴射量をゼロとしたり、特許文献4に記載のように最小噴射量に設定したりするのみでは、デュアル噴射型の内燃機関の場合に適切ではない。例えば、高負荷領域で筒内噴射用インジェクタからの噴射をゼロとすると、この筒内噴射用インジェクタは高温の燃焼ガスに曝されるにもかかわらず自らの噴射による冷却作用がないので、当該インジェクタの噴口周りにデポジットが付着する結果、筒内噴射用インジェクタが詰まるおそれがある。他方、低負荷領域で最小噴射量に設定すると要求噴射量以上の燃料が筒内に噴射される結果、未燃成分が多く残りエミッションの悪化を招くおそれがあるからである。
【0009】
そこで、本発明の目的は、かかる従来の問題を解消し機関性能を損なうことのない内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の一形態に係る内燃機関の燃料噴射制御装置は、筒内に向けて燃料を噴射する筒内噴射用インジェクタと吸気ポート内に向けて燃料を噴射する吸気ポート噴射用インジェクタとを備えた内燃機関において、運転状態に応じ両インジェクタからの噴き分け率が変化し、前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量がその最小燃料噴射量を下回るときは、機関負荷に応じて両インジェクタからの噴き分け率を変更する変更制御手段を備えることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記変更制御手段は、機関負荷が所定値以下のときは前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量を0とし、機関負荷が前記所定値を超えるときは前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量を最小燃料噴射量とし、それぞれに対応させて前記吸気ポート噴射用インジェクタからの燃料噴射量を補正することを特徴とする
【発明の効果】
【0012】
本発明の一形態に係る内燃機関の燃料噴射制御装置によれば、筒内に向けて燃料を噴射する筒内噴射用インジェクタと吸気ポート内に向けて燃料を噴射する吸気ポート噴射用インジェクタとを備えた内燃機関において、運転状態に応じ両インジェクタからの噴き分け率が変化し、前記筒内噴射用インジェクタからの燃料噴射量がその最小燃料噴射量を下回るときは、変更制御手段によって両インジェクタからの噴き分け率が機関負荷に応じて変更される。従って、筒内噴射用インジェクタからその最小燃料噴射量を下回る燃料が噴射されることが回避されるので、燃料噴射量が不安定となることが抑制され機関性能を損なうことが防止される。」

ウ 「【0015】
まず、本発明に係るデュアル噴射型内燃機関の燃料噴射制御装置の概略構成図が示されている図1を参照するに、機関(以下、エンジンとも称す)100はシリンダブロック101に複数(図1には1個のみ示す)の気筒102を備えている。103は例えば頂面上にキャビティが形成されたピストン、104はシリンダブロック101上に固締されたシリンダヘッド、105はピストン103とシリンダヘッド104間に形成された燃焼室、106は吸気バルブ、107は排気バルブ、108は吸気ポート、109は排気ポート、110は点火プラグをそれぞれ示している。ピストン103はコネクティングロッド111を介してクランクシャフト112に連結されている。
【0016】
各気筒102はそれぞれ対応する吸気マニフォルド113を介して共通のサージタンク114に接続されている。サージタンク114は吸気ダクト115を介してエアフローメータ116に接続され、エアフローメータ116はエアクリーナ117に接続されている。吸気ダクト115内には電動モータ118によって駆動されるスロットル弁119が配置されている。このスロットル弁119は後述するアクセルペダル160の操作とは独立して、後述の電子制御ユニット(ECU)200により電子的に開閉制御される。一方、各気筒102は共通の排気マニフォルド120に連結され、この排気マニフォルド120は三元触媒コンバータ122に連結されている。
【0017】
各気筒102に対しては、筒内に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ140と吸気ポート108(ないしは吸気通路内)に向けて燃料を噴射するための吸気ポート噴射用インジェクタ150とがそれぞれ取り付けられている。これらインジェクタ140、150は電子制御ユニット200の出力信号に基づいてそれぞれ制御される。また、各筒内噴射用インジェクタ140は共通のデリバリパイプ142に接続されており、このデリバリパイプ142は不図示の逆止弁を介して、機関駆動式の高圧ポンプに接続されている。なお、高圧ポンプの吐出側はスピル電磁弁を介して高圧ポンプの吸入側に連結されており、このスピル電磁弁の開度が小さいとき程、高圧ポンプからデリバリパイプ142内に供給される燃料量が増大され、スピル電磁弁が全開にされると、高圧ポンプからデリバリパイプ142への燃料供給が停止されるように構成されている。このスピル電磁弁は電子制御ユニット200の出力信号に基づいて制御される。」

エ「【0023】
次に、上記構成を有する本発明の実施形態の制御の一例について、図2のフローチャートを参照して以下に説明する。まず、制御が開始されると、電子制御ユニット200は、ステップS201において、所定時間毎にアクセル開度センサ206およびクランク角センサ210により得られる機関要求負荷と機関回転数とにより、運転者により要求されている機関の運転条件ないしは領域を検知する。そして、この検知に基づき、次のステップS202においてマップに記憶されている総燃料噴射量Qが求められる。次に、ステップS203に進み、上記の運転条件における筒内噴射用インジェクタ140および吸気ポート噴射用インジェクタ150からの噴き分け率k1stが同じくマップから求められる。この噴き分け率k1stは、例えば図3に示すマップのように予め設定されている。
【0024】
具体的には、本実施の形態では、例えば、機関100のアイドリングおよび/または減速運転領域のような極低負荷の極低充填効率領域ではk1st=0、すなわち、筒内噴射用インジェクタ140からの燃料噴射割合が0で、吸気ポート噴射用インジェクタ150からの燃料噴射割合が1とされている。また、機関100の低負荷の低充填効率領域ではk1st=1、すなわち、筒内噴射用インジェクタ140からの燃料噴射割合が1で、吸気ポート噴射用インジェクタ150からの燃料噴射割合が0とされている。さらに、機関100の高負荷の高充填効率領域では、低負荷領域から最大負荷(WOT)領域に向かうにつれ吸気ポート噴射用インジェクタ150からの燃料噴射割合が増大される形態で、両インジェクタから同時に燃料が噴射されるように設定されている。そして、機関100の最大負荷(WOT)の最大充填効率領域では、k1st=1とされ、筒内噴射用インジェクタ140からのみ燃料が噴射されるように設定されている。
【0025】
そこで、再度、図3のフローチャートに戻り、そのステップS204においては、ステップS203で求めた噴き分け率k1stに基づき、筒内燃料噴射量Qdおよびポート筒内燃料噴射量Qpが次式(1)および(2)によりそれぞれ求められる。
(1)Qd=Q×k1st
(2)Qp=Q×(1-k1st)
【0026】
そして、次のステップS205では上述のステップS204で求められた筒内燃料噴射量Qdおよびポート燃料噴射量Qpに基づき、所定の燃圧の下に筒内噴射用インジェクタ140および吸気ポート噴射用インジェクタ150の開弁時間である筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudおよび吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupがそれぞれ算出され、ステップS206に進む。
【0027】
ステップS206では、この筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、0より大きく且つ筒内噴射用インジェクタ140の最小燃料噴射量に対応する筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも小さいか、すなわち、下回るか否かが判定される。筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminより大きいときは、ステップS217に進み、ステップS205で算出された筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudおよび吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupにより、燃料噴射が実行されて本制御ルーチンは終了する。
【0028】
一方、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminを下回るときはステップS207に進み、エンジン100の充填効率KLが境界充填効率KLb以上か否かが判定される。
【0029】
この充填効率KLは、本実施の形態ではエアフローメータ116により求められる吸入空気量に基づいて求められる。そして、境界充填効率KLbはエンジン100の負荷に対応させて、その低負荷領域と高負荷領域との境界領域に設定されている。
【0030】
そして、ステップS207において充填効率KLが境界充填効率KLb以上であると判定されるとステップS208に進み、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminに変更して設定される。その後さらに、ステップS209において筒内燃料噴射量Qdが再度算出され、この再算出された筒内燃料噴射量Qdと前述の総燃料噴射量Qとにより、噴き分け率k1stも再算出(=Qd/Q)される(ステップS210)。そして、ステップS211において、再算出された噴き分け率k1stを用いてポート燃料噴射量Qpが求められ、さらに吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupが再度求められる(ステップS212)。換言すると、吸気ポート噴射用インジェクタ150からの燃料噴射量Qpが補正される。その後はステップS218に進み、ステップS208で設定された筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudおよびステップS212で再算出された吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupにより、燃料噴射が実行されて本制御ルーチンは終了する。
【0031】
他方、ステップS207において充填効率KLが境界充填効率KLb未満であると判定されるとステップS213に進み、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが0に変更されて設定される。その後さらに、ステップS214において筒内燃料噴射量Qdが0とされ、この0とされた筒内燃料噴射量Qdに対応して噴き分け率k1stも0とされる(ステップS215)。そして、ステップS216において、ポート燃料噴射量Qpが総燃料噴射量Qとされ、さらに吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupが再度求められる(ステップS217)。その後はステップS218に進み、ステップS213で0に設定された筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudおよびステップS217で再算出された吸気ポート噴射用インジェクタ噴射時間taupにより、燃料噴射が実行されて本制御ルーチンは終了する。
【0032】
かくて、本実施の形態によれば、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminを下回るときに、機関負荷が所定値を超える、すなわち、エンジン100の充填効率KLが境界充填効率KLb以上のときは、筒内噴射用インジェクタ140からその最小燃料噴射量が噴射されるので、高温の燃焼ガスに曝されるにも拘わらず自らの噴射による冷却作用もあり、デポジットの付着が抑制されその詰まりが抑制される。そして、機関負荷が所定値以下、すなわち、エンジン100の充填効率KLが境界充填効率KLb未満のときは、全燃料噴射量が吸気ポート噴射用インジェクタ150から噴射され、均質混合気を得やすく未燃成分が少ないので、エミッションの悪化が抑制される。」

(2)引用発明
上記(1)の記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「吸気ポート108に向けて燃料を噴射するための吸気ポート噴射用インジェクタ150と、筒内に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ140と、を備え、運転状態に応じ両インジェクタからの噴き分け率k1stが変化する内燃機関の燃料噴射制御装置において、
筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ140の最小燃料噴射量に対応する筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも小さいかが判定され、
上記筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminより小さいと判定された場合、充填効率KLが境界充填効率KLb未満であるときは、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが0に変更され、ポート燃料噴射量Qpが総燃料噴射量Qとされるように噴き分け率k1stも0とされる、内燃機関の燃料噴射制御装置。」

2.引用文献2
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献2(特開2011-252393号公報)には、「ディーゼルエンジンの燃焼制御装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)引用文献2の記載事項
ア 「【0002】
従来より、ディーゼルエンジンの燃焼方式として、排ガス中の有害成分であるNOx及びPM(particulate matter)を同時に低減可能なPCI(Premixed compression Ignition)燃焼方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この燃焼方式では、圧縮上死点付近において主噴射を行う前に、早期噴射を行うことによって、噴射した燃料と筒内の空気との混合を促進し、煤の発生を抑制するようにしている。さらに、この燃焼方式では、EGR通路を介して排気の一部を吸気に戻すEGR(Exhaust Gas Recirculation)量を制御することによって、燃料の着火時期を圧縮上死点近傍まで遅延し、これによって、上記燃料と空気との混合時間を十分に確保しつつ(煤の発生を抑制しつつ)、吸気酸素濃度の低下により燃焼温度を低下させてNOxの発生を抑制するようにしている。」

イ 「【0007】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、PCI燃焼方式を採用したディーゼルエンジンにおいて、吸気温度が目標温度を所定温度以上下回る状況下において、燃料の過遅着火を防止し、延いては、燃焼時におけるCO及びHCの発生量を抑制するとともに、失火によるトルク抜けを防止しようとすることにある。」

ウ 「【0032】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の実施形態に係るエンジンの排気浄化装置Aの一例を示し、1は車両に搭載されたディーゼルエンジンである。このエンジン1は複数の気筒2,2,…(1つのみ図示する)を有し、その各気筒2内に往復動可能にピストン3が嵌挿されていて、このピストン3により各気筒2内に燃焼室4が区画されている。また、燃焼室4の天井部にはインジェクタ5(燃料噴射弁)が配設されていて、その先端部の噴口から高圧の燃料を燃焼室4に直接、噴射するようになっている。本実施形態では、エンジン1は、詳細は後述するように、該燃焼室4内における燃料の燃焼をPCI燃焼によって行うPCI燃焼モードと拡散燃焼によって行う拡散燃焼モードとの2つのモードを有している。」

エ 「【0045】
PCI燃焼モードにおけるエンジン1の燃焼制御は、基本的には、図2に示すように、圧縮上死点近傍(例えば、BTDC35°?BTDC5°であって、本実施形態ではBTDC15°)で行う燃料の主噴射に先立って、比較的早期に少量の燃料噴射(以下、早期噴射)を行うことで、早期噴射から着火までの着火遅れ時間を確保して燃料と空気との混合を促進する(いわゆる予混合燃焼を促進する)ことにより、煤の発生を抑制するとともに、吸気酸素濃度と等価なEGR量の制御との組合せにより、着火時期を目標着火時期(本実施形態では圧縮上死点)に制御して燃焼温度を極力高めることによって、CO及びHCの発生を抑制するとともに失火によるトルク低下を防止するようにしたものである。このEGR量の制御は、ECU100によって、燃焼混合気の高温部分がNOx生成温度よりも低くなるように、エンジン回転数及びエンジン負荷に基づいてEGR弁34?36の開度を制御することで行われる。さらにこの燃焼制御では、主噴射の後にアフタ噴射を行って、主噴射の燃焼に伴って発生した煤をアフタ噴射によって燃焼させるようになっている。
【0046】
本実施形態では、そうした制御を前提として、特に、着火遅れ時間が長い場合、つまり着火時期が目標着火時期に対して第1所定時間T1以上遅角する場合には、着火時期を目標着火時期まで進角させるための補正制御(後述するステップS8,S11及びS12)の制御)を実行する。
【0047】
この補正制御としては、PCI燃焼を維持しながら行われる第1補正制御(図3参照)及び第2補正制御(図4参照)と、PCI燃焼から拡散燃焼へと切り換えることで行われる第3補正制御(図5参照)との3つの制御がある。各図の(a)が補正制御を実行する前の過遅着火が発生している状態を示し、各図の(b)が補正制御を実行後の過遅着火が解消された状態を示している。
【0048】
第1補正制御は、図3(b)に示すように、アフタ噴射を停止(アフタ噴射の噴射量を0まで減量)してその分だけ主噴射を増量させる噴射量制御と、噴射時期を全体的に進角させる噴射時期進角制御との組合せにより行われる。本実施形態における噴射時期進角制御は、早期噴射及び主噴射の双方を同量だけ(例えば3°?5°CA)進角させるようになっている。尚、早期噴射及び主噴射の一方のみを進角させるようにしてもよい。」

オ 「【0067】
ここで、ECU100は、上記噴射量制御を実行する際に、アフタ噴射の停止による燃料噴射量の減量分を主噴射の増量によって補うようにしているので、エンジントルクの低下を防止することができる。また、アフタ噴射の減量分を早期噴射ではなく主噴射に上乗せするようにしたことで、燃料の予混合が進み過ぎることによるノッキングの発生を防止とすることができる。」

カ 「【0070】
また、上記実施形態では、ECU100による噴射量制御に際して、アフタ噴射を停止した分だけ主噴射を増量するようにしているが、早期噴射を増量するようにしてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、PCI燃焼モードにおける早期噴射を、一回の噴射により行うシングル噴射としているが、例えば、燃料を複数回に分けて噴射する分割噴射としてもよい。これにより、早期噴射による燃料の混合をより一層促進して、燃焼時における煤の発生を確実に抑制することができる。このように、早期噴射を分割噴射とした場合における噴射量制御では、早期噴射における複数回の燃料噴射のうち最も早い時期に行う噴射を増量することが好ましい。こうすることで、燃料の着火時期を目標着火時期まで確実に進角させることができる。」

(2)引用文献2記載の技術
上記(1)の記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献2には、以下の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されている。

「高圧の燃料を燃焼室4に直接、噴射するインジェクタ5が配設される、PCI燃焼方式を採用したディーゼルエンジンにおいて、早期噴射及び主噴射の後にアフタ噴射を行うPCI燃焼モードで、アフタ噴射を停止してその分だけ主噴射又は早期噴射を増量させる噴射量制御を行う技術。」

3.引用文献3
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献3(特開2005-330943号公報)には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)引用文献3の記載事項
ア 「【0005】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、可変圧縮比機構とデュアルタイプの燃料噴射装置を備えた内燃機関に好適な制御技術を提供することにより、熱効率の向上と燃費向上を図ることを目的とする。」

イ 「【0046】
シリンダブロック4とクランクケース3との係合部には、シリンダブロック4をシリンダ軸方向の上死点側又は下死点側へ変位させる駆動機構20が設けられている。この駆動機構20は、本発明に係る可変圧縮比機構に相当するものであり、例えば特開2003-206771号公報に開示されている機構を用いることができる。
【0047】
本実施の形態に係る内燃機関1は、吸気ポート11内へ燃料を噴射する吸気通路内燃料噴射弁21と燃焼室10内へ燃料を噴射する筒内燃料噴射弁22との二つの燃料噴射弁を具備したデュアルタイプの燃料噴射装置を備えている。」

ウ 「【0108】
そこで、本実施例では内燃機関が低回転・高負荷運転状態にあるときは、筒内燃料噴射弁22の燃料噴射比率を100%にするとともに、同一運転条件下で吸気通路内燃料噴射弁21の燃料噴射比率が100%とされる場合より圧縮比が高くなるようにした。」

エ 「【0122】
図9はアクセル開度:ACCPと機関回転数:NEと目標圧縮比との関係を示す図である。図9中実線は筒内燃料噴射弁22の燃料噴射比率が100%にされたときの目標圧縮比を示し、点線は吸気通路内燃料噴射弁21の燃料噴射比率が100%にされたときの目標圧縮比を示している。
【0123】
低回転・高負荷時の目標圧縮比は、吸気通路内燃料噴射弁21の燃料噴射比率が100%にされた場合より筒内燃料噴射弁22の燃料噴射比率を100%にされた場合の方が高くされている。これは、筒内燃料噴射弁22の燃料噴射比率を100%にされた場合は、吸気通路内燃料噴射弁21の燃料噴射比率が100%にされた場合より燃焼室10内温度が低下し易く、ノッキングが発生し難いためである。
【0124】
ここで図8に戻りECU27はS307において前述した図9に示されるようなマップに従って目標圧縮比:εを算出し、本ルーチンの実行を終了する。その後、ECU27は、前記目標圧縮比:εに従って駆動機構20を制御するとともに、前記目標噴射量Qintake、Qcylinderに従って吸気通路内燃料噴射弁21及び筒内燃料噴射弁22を制御する。
【0125】
上記した目標圧縮比:ε、目標噴射量Qintake、及び目標噴射量:Qcylinderに従って駆動機構20、吸気通路内燃料噴射弁21、及び筒内燃料噴射弁22が制御されると、目標燃料噴射量:Qinjの全てが筒内燃料噴射弁22から噴射されるとともに、目標燃料噴射量:Qinjの全てが吸気通路内燃料噴射弁21から噴射される場合に比して圧縮比が高くなる。この場合、内燃機関1の熱効率が向上し、それに応じて燃費も向上する。」

(2)引用文献3記載の技術
上記(1)の記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献3には、以下の技術(以下、「引用文献3記載の技術」という。)が記載されている。

「可変圧縮比機構とデュアルタイプの燃料噴射装置を備えた内燃機関において、低回転・高負荷時の目標圧縮比は、吸気通路内燃料噴射弁21の燃料噴射比率が100%にされた場合より筒内燃料噴射弁22の燃料噴射比率を100%にされた場合の方が高くされる技術。」

4.引用文献4
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献4(特開2009-103054号公報)には、「内燃機関の制御装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)引用文献4の記載事項
ア 「【0005】
そこで本発明は、例えば上記の問題点に鑑みなされたものであり、ノッキングの発生やスモークの排出などの内燃機関の運転上の不都合の発生を抑制しつつ、デポジット燃料の焼失を実現することが可能な内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る内燃機関の制御装置は、過給機を備える内燃機関を制御する内燃機関の制御装置であって、前記内燃機関の気筒内に第1所定量の燃料を噴射可能な第1燃料噴射手段(例えば直噴インジェクタ)と、前記内燃機関の吸気通路内に第2所定量の燃料を噴射可能な第2燃料噴射手段(例えばポートインジェクタ)と、前記気筒内の燃料に所定点火時期で点火を行う点火手段と、前記第1燃料噴射手段の噴射口の温度を上昇させる場合、前記過給機による過給圧に基づいて、前記第1所定量及び前記第2所定量を合計した全噴射量に対する前記第1所定量の第1割合並びに前記全噴射量に対する前記第2所定量の第2割合を変化させるように、前記第1燃料噴射手段及び前記第2燃料噴射手段のうち少なくとも一方の噴射手段を制御すると共に、前記過給圧、前記第1割合及び前記第2割合に基づいて、前記所定点火時期を変化させるように前記点火手段を制御する制御手段とを備える。」

イ 「【0020】
上述した機関回転数を利用する制御装置の態様では、前記制御手段は、前記温度を上昇させる場合であって前記機関回転数が所定数より大きく且つ前記過給圧がゼロを含む所定範囲内にある場合、前記第2割合を前記第1割合より大きくするように、前記少なくとも一方の噴射手段を制御すると共に、前記所定点火時期を前記内燃機関が発生するトルクが最大となる点火時期である最大トルク点火時期より進角側になるように、前記点火手段を制御してもよい。」

(2)引用文献4記載の技術
上記(1)の記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献4には、以下の技術(以下、「引用文献4記載の技術」という。)が記載されている。

「内燃機関の気筒内に第1所定量の燃料を噴射可能な直噴インジェクタと、吸気通路内に第2所定量の燃料を噴射可能なポートインジェクタと、点火手段を有し、全噴射量に対する前記第2所定量の第2割合を全噴射量に対する前記第1所定量の第1割合より大きくするように、前記少なくとも一方の噴射手段を制御すると共に、前記第1割合及び前記第2割合に基づいて、所定点火時期を進角側になるように点火手段を制御する技術。」

5.引用文献5
原査定に引用され、本願出願前に頒布された引用文献5(特開2005-146921号公報)には、「内燃機関の制御装置及び内燃機関の制御方法」に関して、図面(特に、図11及び図12を参照。)とともに以下の事項が記載されている。

(1)引用文献5の記載事項
ア 「【0007】
上述の目的を達成するために、本発明に係る内燃機関の制御装置は、ポート噴射弁と筒内噴射弁とを備える内燃機関を制御するものであり、前記内燃機関の排ガスを浄化する触媒の触媒床温度に関するパラメータに基づいて、前記触媒床温度が所定の基準値を超えたか否かを判定する触媒床温度判定部と、前記触媒床温度が前記所定の基準値を超えたときには、前記ポート噴射弁の燃料噴射量を、前記内燃機関の運転条件によって定められる前記ポート噴射弁の燃料噴射量よりも増加させる噴射割合制御部と、を含んで構成されることを特徴とする。」

イ 「【0066】
Tc_(2)がTl_(c)よりも低いとき(ステップS503;No)、第2触媒床温度Tc_(2)は正常であり、異常な温度上昇は発生していないと判断できる。このため、通常噴射に移行する(ステップS508)。Tc_(2)がTlc以上のとき(ステップS503;Yes)、第2触媒床温度Tc_(2)は、耐熱温度のほぼ上限に達していると判断できる。したがって、そのままの状態で運転を続けると、第2三元触媒9_(2)の過熱により耐久性を低下させるおそれがある。このため、噴射割合決定部23は触媒床温度判定部22の前記判定結果により、第2三元触媒9_(2)の第2触媒床温度Tc_(2)を下げるように制御する。
【0067】
具体的には、噴射割合決定部23は、全燃料噴射量TAUを変化させずに、第2ポート噴射弁2_(2)、第3ポート噴射弁2_(3)(第2三元触媒9_(2)に対応するポート噴射弁)の噴射割合を増加させる。ここで、第2ポート噴射弁2_(2)、第3ポート噴射弁2_(3)は、第2三元触媒9_(2)が担当する第2気筒1as_(2)及び第3気筒1as_(3)の第2及び第3吸気通路4_(2)、4_(3)がそれぞれ備えるものである。そして、第2筒内噴射弁3_(2)、第3筒内噴射弁3_(3)(第2三元触媒9_(2)に対応する筒内噴射弁)の噴射割合を低下させるように燃料噴射量を決定する(ステップS504)。第2、第3ポート噴射弁2_(2)、2_(3)、及び第2、第3筒内噴射弁3_(2)、3_(3)は、この噴射割合で燃料を噴射する(ステップS505)。その結果、第2触媒床温度Tc_(2)がTlc以下になったら、通常噴射に移行する(ステップS506;No、ステップS508)。
【0068】
第2ポート噴射弁2_(2)等の噴射割合を増加させても第2触媒床温度Tc_(2)がTlc以上であると触媒床温度判定部22が判定した場合(ステップS506;Yes)、噴射割合決定部23は、全燃料噴射量TAUを増量させることにより、第2、第3ポート噴射弁2_(2)、2_(3)、及び第2、第3筒内噴射弁3_(2)、3_(3)の燃料噴射量を増加させる(ステップS507)。そして、第2、第3ポート噴射弁2_(2)、2_(3)、及び第2、第3筒内噴射弁3_(2)、3_(3)は、この噴射割合で燃料を噴射する(ステップS508)。これにより、空燃比A/Fを下げてリッチ化できるので、燃焼状態を改善することができる。その結果、排ガス中に含まれる未燃HCの量が減少して排ガス温度が低下するので、第2触媒床温度Tc_(2)を低下させることができる。」

ウ 「【0071】
ステップS509以降において噴射割合決定部23が実行する、第1触媒床温度Tc_(1)を低下させる手順(ステップS510?ステップS513)は、上記ステップS504?ステップS507と同様なのでその説明を省略する。第1触媒床温度Tc_(1)が補正触媒床耐熱温度Tl_(c)よりも低い場合(ステップS509;No)、通常噴射で燃料を噴射する(ステップS514)とともに、ステップS501に戻って第1及び第2触媒床温度Tc_(1)、Tc_(2)の監視を継続する。」

(2)引用文献5記載の技術
上記(1)の記載事項及び図面の図示内容を総合すると、引用文献5には、以下の技術(以下、「引用文献5記載の技術」という。)が記載されている。

「ポート噴射弁と筒内噴射弁とを備える内燃機関において、全燃料噴射量TAUを増量させることで前記筒内噴射弁及び前記ポート噴射弁の燃料噴射量を増加させる技術。」

第5 対比・判断
1.本願発明1
本願発明1と引用発明とを対比すると、後者の「内燃機関の燃料噴射制御装置」はその機能、構成および技術的意義からみて前者の「内燃機関の制御装置」に相当し、以下同様に、「吸気ポート108に向けて燃料を噴射するための吸気ポート噴射用インジェクタ150」は「吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射弁」に、「筒内に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ140」は「燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用燃料噴射弁」に、「筒内噴射用インジェクタ噴射時間taud」は「筒内噴射の噴射期間」に、「筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが0に変更され」は「その噴射期間分の筒内噴射を禁止し」に、「ポート燃料噴射量Qpが総燃料噴射量Qとされる」は「筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補う」に、「噴き分け率k1stも0とされる」は「ポート噴射の分担率を増加させること」にそれぞれ相当する。
そして、後者の「上記筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminより小さいと判定された場合、充填効率KLが境界充填効率KLb未満であるときは、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが0に変更され、ポート燃料噴射量Qpが総燃料噴射量Qとされるように噴き分け率k1stも0とされる」と前者の「上記筒内噴射の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その噴射期間分の筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させ」ることとは、「上記筒内噴射の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その噴射期間分の筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させることがある」という限りで一致する。
また、後者の「筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが、筒内噴射用インジェクタ140の最小燃料噴射量に対応する筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminよりも小さいかが判定され」は、該判定を行う手段により行われることから、後者が前者の「噴射期間判定手段」に相当する事項を備えていることは明らかである。

したがって、両者は、
「吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射弁と、燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用燃料噴射弁と、を備え、ポート噴射と筒内噴射との各々の分担率が機関運転条件に応じて設定されてなる内燃機関の制御装置において、
上記筒内噴射の噴射期間が、予め設定された所定の最小噴射期間よりも短いか否かを判定する噴射期間判定手段を有し、
上記筒内噴射の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その噴射期間分の筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させることがある内燃機関の制御装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
前者は「上記筒内噴射の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その噴射期間分の筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させ」るのに対し、後者は「上記筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが筒内噴射用インジェクタ最小燃料噴射時間tauminより小さいと判定された場合、充填効率KLが境界充填効率KLb未満であるときは、筒内噴射用インジェクタ噴射時間taudが0に変更され、ポート燃料噴射量Qpが総燃料噴射量Qとされるように噴き分け率k1stも0とされる」のであって、すなわち「充填効率KLが境界充填効率KLb未満である」との条件を備える点。

[相違点2]
前者は「1サイクル内に筒内噴射を複数回に分けて実施している場合であって、上記筒内噴射の特定の回の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合、その特定の回の噴射期間のみの筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させる」のに対し、後者はかかる構成を備えていない点。

事案に鑑み、先ず相違点2について検討するに、本願発明1と引用文献2記載の技術とを対比すると、後者の「高圧の燃料を燃焼室4に直接、噴射するインジェクタ5」は、その機能、構成および技術的意義からみて前者の「燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用燃料噴射弁」に相当し、以下同様に「早期噴射及び主噴射の後にアフタ噴射を行うPCI燃焼モード」は「1サイクル内に筒内噴射を複数回に分けて実施している場合」に、「アフタ噴射を停止し」は「その特定の回の噴射期間のみの筒内噴射を禁止し」に相当する。
また、後者の「主噴射又は早期噴射を増量させる」ことと、前者の「この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うように、ポート噴射の分担率を増加させること」とは、「この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補う」という限りで一致する。

そして、引用文献2記載の技術を本願発明の用語を用い整理すると、引用文献2記載の技術は、以下の事項(以下、「引用文献2記載の技術事項」という。)ということができる。

「1サイクル内に筒内噴射を複数回に分けて実施している場合であって、その特定の回の噴射期間のみの筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補う技術。」

そして、上記相違点2にかかる本願発明1の発明特定事項と、引用文献2記載の技術事項とは、
「1サイクル内に筒内噴射を複数回に分けて実施している場合であって、その特定の回の噴射期間のみの筒内噴射を禁止し、この筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うこと。」にかかる事項で一致するものの、「筒内噴射の禁止により不足する分の燃料噴射量を補うこと」を本願発明1の発明特定事項では、「ポート噴射の分担率を増加させる」ことで達成しているのに対し、引用文献2記載の技術事項ではPCI燃焼モードにおける早期噴射又は主噴射を増量させる、すなわち、筒内噴射が禁止される特定の回以外の噴射期間の噴射量を増加させる点、及び本願発明1の発明特定事項では筒内噴射を禁止する特定の回が「特定の回の噴射期間が最小噴射期間よりも短いと判定された場合」であるのに対し、引用文献2記載の技術事項はかかる事項を備えていない点、で少なくとも相違する。
そうすると、このような本願発明1の発明特定事項とは相違する点を備えた引用文献2記載の技術事項を引用発明に適用しても、上記相違点2にかかる本願発明1の発明特定事項にはならない。
また、引用文献2記載の技術事項は、早期噴射、主噴射及びアフタ噴射を行う筒内噴射において、アフタ噴射を停止した分の噴射量は主噴射又は早期噴射の増量で補うものであるから、アフタ噴射を停止しても、筒内噴射における燃料噴射量は不足しないと理解できる。そうすると、特定の回の噴射期間の筒内噴射の禁止により生じる筒内噴射における燃料噴射量の不足をポート噴射の噴射量の増加で補うことがある引用発明に対し、アフタ噴射を停止しても筒内噴射における燃料噴射量は不足しない引用文献2記載の技術事項を適用する動機を見出すこともできない。

そうすると、引用発明及び引用文献2記載の技術事項を総合しても、上記相違点2にかかる本願発明1の発明特定事項を容易になし得ることはできない。
また、引用文献3記載の技術ないし引用文献5記載の技術も、相違点2にかかる本願発明1の発明特定事項は記載も示唆もされていない。

したがって、相違点1の検討をするまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2記載の技術事項、又は引用発明及び引用文献2記載の技術ないし引用文献5記載の技術に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし6について
本願の特許請求の範囲における請求項2ないし6は、請求項1の記載を直接又は間接的に、かつ、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本願発明2ないし6は、本願発明1の発明特定事項を全て含むものである。

したがって、本願発明2ないし6は、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載の技術事項、又は引用発明及び引用文献2記載の技術ないし引用文献5記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.本願発明7について
本願の特許発明の範囲における請求項7は、請求項1に記載された「内燃機関の制御装置」の発明のカテゴリを変更し、「内燃機関の制御方法」としたものであるから、本願発明7は、本願発明1の発明特定事項を実質的に備えるものである。

したがって、本願発明7は、本願発明1と同様の理由により、引用発明及び引用文献2記載の技術事項、又は引用発明及び引用文献2記載の技術ないし引用文献5記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし7は、引用発明及び引用文献2記載の技術事項、又は引用発明及び引用文献2記載の技術ないし引用文献5記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-25 
出願番号 特願2013-111440(P2013-111440)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 将一  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 水野 治彦
鈴木 充
発明の名称 内燃機関の制御装置および制御方法  
代理人 小林 博通  
代理人 富岡 潔  

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