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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1341695
審判番号 不服2017-12460  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-08-23 
確定日 2018-07-10 
事件の表示 特願2013-103792「光学素子および表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年12月 4日出願公開、特開2014-224891、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
平成25年 5月16日 出願
平成29年 1月27日 拒絶理由通知
平成29年 4月 6日 意見書、手続補正書
平成29年 5月31日 拒絶査定(以下、「原査定」という。)
平成29年 8月23日 審判請求書、手続補正書

第2 本願発明
この出願の請求項1-6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明6」という。)は、平成29年4月6日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
樹脂材料を含む第1透光性部材と、
前記第1透光性部材の少なくとも1つの面に形成されたハーフミラー層と、
を有し、
前記ハーフミラー層は、
銀層と、
前記銀層と前記第1透光性部材との間に位置する第1誘電体多層膜と、
前記銀層に対して前記第1透光性部材とは反対側に位置する第2誘電体多層膜と、
を含み、
前記第1誘電体多層膜は、
前記銀層に接する第1酸化アルミニウム層と、
前記第1酸化アルミニウム層に前記第1透光性部材側で接する酸化チタン層と、
を含み、
前記第2誘電体多層膜は、
酸化ジルコニウムを含む酸化ジルコニウム系誘電体層と、
前記酸化ジルコニウム系誘電体層に接する第2酸化アルミニウム層と、
を含み、
前記第2誘電体多層膜では、前記酸化ジルコニウム系誘電体層が前記銀層に接していることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
請求項1に記載の光学素子において、
前記酸化ジルコニウム系誘電体層は、酸化ジルコニウムと酸化チタンとの混合膜であることを特徴とする光学素子。
【請求項3】
請求項1または2の何れか一項に記載の光学素子において、
前記第1誘電体多層膜は、前記酸化チタン層に対して前記第1酸化アルミニウム層とは反対側で接する第3酸化アルミニウム層を含むことを特徴とする光学素子。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の光学素子において、
前記第1酸化アルミニウム層は、前記銀層よりも膜厚が薄いことを特徴とする光学素子。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項に記載の光学素子において、
前記ハーフミラー層に対して前記第1透光性部材とは反対側に位置する第2透光性部材を有し、
前記第2透光性部材は、前記第1透光性部材と同一の屈折率であることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の光学素子を備えた表示装置であって、
画像光を出射する画像光出射装置を備え、
前記光学素子は、前記画像光出射装置からの前記画像光が入射する光入射部と、前記光入射部から入射した前記画像光のうち少なくとも一部が前記ハーフミラー層で反射して出射される光出射部と、を備えていることを特徴とする表示装置。」

第3 原査定の概要
原査定の拒絶の理由は概ね次のとおりである。

1 この出願の請求項1-3、5に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び引用文献2-4に示される周知技術に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 この出願の請求項6に係る発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献5に記載された発明、及び引用文献2-4に示される周知技術に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2012-242674号公報
2.特許第4482971号公報(周知技術を示す文献)
3.特開昭57-130001号公報(周知技術を示す文献)
4.特開昭63-249945号公報(周知技術を示す文献)
5.特開平11-249067号公報

第4 当審の判断
1 引用文献の記載
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2012-242674号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。

ア 「【請求項1】
光半透膜を介して接合された少なくとも二つの光学素子からなるビームスプリッタであって、
第一の光学素子と、
前記第一の光学素子側から順に設けられた、Al_(2)O_(3)からなる下引き層と、前記下引き層に接して設けられたAgからなる反射層と、前記反射層に接して設けられたAl_(2)O_(3)からなる上引き層と、SiO_(2)+La_(2)O_(3)の複合酸化物膜と、Al_(2)O_(3)層と、からなる光半透膜と、
接着層と、
第二の光学素子と、
を有するビームスプリッタ。
【請求項2】
第一および第二の光学素子が、樹脂性の基材からなることを特徴とする請求項1記載のビームスプリッタ。
(中略)
【請求項5】
前記下引き層および前記上引き層は、前記Agからなる反射層に接するAl_(2)O_(3)層および、そのAl_(2)O_(3)層に接するTiO_(2)層からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載のビームスプリッタ。」

イ 「【0001】
本発明は、カメラ、複写機、プロジェクタ、ディスプレイ等に用いられる、入射した光を分割するためのビームスプリッタに関するものであり、特には光学特性が良好なAg層を有する光半透膜に関するものである。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
Agは光学特性の優れた材料であるものの、湿気による光学面の外観の劣化など光学特性の低下が生じやすい。
【0014】
これら外観の劣化は、水分の存在下でのAgイオンのマイグレーションと推測され、膜の微小クラック、接合面の微小な付着物等をトリガーとする透湿や硫黄Sや塩素Clによる汚染によって更に加速される。
【0015】
本発明は、基材、接着剤からのAg層への透湿を防ぎ、高温高湿環境下においても所望の透過率、反射率の特性を維持したまま、外観劣化を抑えたビームスプリッタを得るものである。
(中略)
【発明の効果】
【0021】
本発明の構成とすることにより、基板、接着剤からのAg層への透湿を防ぎ、高温高湿環境下においても所望の透過率、反射率の特性を維持したまま、外観劣化を低減したビームスプリッタを得ることが出来る。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のビームスプリッタの膜構成断面の模式図を図1に示す。樹脂製のプリズム形状の第一の光学素子1に、真空蒸着法等の成膜法によりAg層を含む光半透膜3を設け、UV硬化樹脂等の接着層4により他方の樹脂製のプリズム2と接合し、ビームスプリッタを形成した。
【0024】
樹脂製の基材としては、アクリル、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン等を用いることが出来る。
【0025】
光半透膜3は電子銃蒸発源、蒸着等を用いて無加熱(=基板温度が室温から±20℃の範囲)で形成される。基板側より順次、比較的高い屈折率を有する膜としてTiO_(2)膜5(可視光に対し屈折率約.2.2)、中間的な屈折率を有する膜としてAl_(2)O_(3)膜6(可視光に対し屈折率約1.6)からなる下引き層、Ag層よりなる反射層7、Al_(2)O_(3)膜8、TiO_(2)膜9よりなる上引き層、更に吸湿性を示すSiO_(2)+La_(2)O_(3)の複合酸化物膜10と緻密な膜質により透湿防止性を示すAl_(2)O_(3)膜よりなる保護層11を設ける。
【0026】
下引き層、上引き層の膜厚は所望の透過率、反射率を得るために適宜決めることが出来る。又、所望の透過率、反射率に応じて下引き層、上引き層の層数を適宜決めることが出来る。
【0027】
比較的高い屈折率を有する膜としてはTiO_(2)、Nb2O5、Ta2O5、ZrO_(2)、La_(2)O_(3)等の材料、又はこれらの混合物から選択することが出来る。中間的な屈折率を有する膜としてAl_(2)O_(3)膜が好適である。
【0028】
吸湿性を示す膜としては、SiO_(2)、スピネル、MgO、ZnO、CaO、SrO、BaO、Y2O_(3)、La_(2)O_(3)、Sm2O_(3)からなる少なくとも一つの材料を含むことが好ましく、SiO_(2)+La_(2)O_(3)の複合酸化物膜が好適である。La_(2)O_(3)のSiO_(2)に対する比率としては、La_(2)O_(3)が5?30wt%が好ましい。5wt%より小さい場合は硫黄(S)、塩素(Cl)によるAg層の劣化を防止する効果が少なく、30wt%より大きい場合は、接合後に高温高湿環境下でクラック、膜浮き等が発生し易くなる。又、膜厚(幾何学的膜厚、d)は20?80nmが好ましい。20nmより小さい場合は吸湿によるAg層の劣化を防止する効果が少なく、80nmより大きい場合は所望の分光特性を得るのが難しくなり、密着不良が発生し易くなる。
【0029】
透湿防止膜としてはAl_(2)O_(3)膜が好適である。その膜厚(d)は20?100nmが好ましい。20nmより小さい場合は透湿防止によるAg層の劣化を防止する効果が少なく、100nmより大きい場合は所望の分光特性を得るのが難しくなり、接合後、高温高湿環境下でクラックを発生し易い。
【0030】
又、透湿防止層としては膜密度が高いことが好ましく、成膜方法として、イオンプレーティング、イオンビームアシストを付加してもよく、スパッタ法を用いることも出来る。吸湿層としてはH_(2)O分子をとりこみやすい膜密度が低い膜であることが好ましく、通常の蒸着法で形成することが出来る。
【0031】
接着剤は、シリコン系、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系、オレフィン系接着剤等を用い、粘着硬化、2液硬化、紫外線硬化等により接合することが出来る。
【0032】
Ag層の膜厚は特に限定されないが、良好な光半透膜を得るためには1nm?50nm程度に設けると良い。
【0033】
本発明で用いる膜材料の高温高湿環境後の吸湿性を図2に示す。図2の棒グラフは各材料に対応しており、縦軸の左に付した数字は成膜時の真空度、横軸は成膜後の真空中での光学膜厚を100%としたときの、大気開放後(真/大気)、及び60℃90%100H後(大気/100H)の光学膜厚の増分(Δnd%)を示す。図2において、光学膜厚の増分は水分の吸湿の影響を示す。例えば、真空度5×10^(-3)Paの室温で成膜されたSiO_(2)+La_(2)O_(3)膜(La_(2)O_(3)のSiO_(2)に対する比率10wt%)は、真空から大気開放された時に約7%の光学膜厚の変化を示し、60℃90%100Hの高温高湿環境後は更に約5%の光学膜厚の変化を生じる。これはAl_(2)O_(3)膜の高温高湿環境後の挙動と好対照であり、SiO_(2)+La_(2)O_(3)膜の吸湿性、Al_(2)O_(3)膜の非吸湿性を示すものである。ただし無加熱成膜したAl_(2)O_(3)膜の表面に生じるマイクロクラックなど、局所的な欠陥がAl_(2)O_(3)膜に生じた場合は、欠陥のあるポイントから透湿が起こりえる。無加熱成膜されたAl_(2)O_(3)膜が有する、局所的な透湿が起こるものの吸湿性が低いという性質を活用し、SiO_(2)+La_(2)O_(3)複合酸化膜とAl_(2)O_(3)膜とをAg層側から順に互いに隣接して設け、保護層とすることで透湿を防止する。
【0034】
尚、TiO_(2)膜はその中間に位置付けられる。
【0035】
ビームスプリッタの湿気に対する光学特性の信頼性をさらに高めるために、接着剤側に接する保護層を透湿防止層/吸湿層/透湿防止層の3層以上としたり、又、接着剤側だけでなく基材側にも保護層を設けたりすると、さらにAg層に対する透湿防止効果が高まり有効である。本発明に特徴的な光半透膜を有するビームスプリッタは樹脂プリズムを採用するにあたり特に有効であるが、ガラスプリズムを用いてももちろん良い。」

エ 「【0036】
(実施例1)
基板として、アモルファスポリオレフィン樹脂プリズム(ZEONEX E48R)を用い、基板側から順にTiO_(2)膜、Al_(2)O_(3)膜の2層からなる下引き層、Ag層、Al_(2)O_(3)膜、TiO_(2)膜の2層からなる上引き層、SiO_(2)+La_(2)O_(3)膜(La_(2)O_(3)のSiO_(2)に対する比率10wt%)、Al_(2)O_(3)膜の2層からなる保護層を無加熱蒸着法(蒸着法)により設けた。この光半透膜を成膜したプリズムと他方のアモルファスポリオレフィン樹脂プリズムとを紫外線硬化型アクリル系接着剤により接合し、ビームスプリッタを形成した。各成膜時の真空度は、TiO_(2)膜は1×10^(-2)Pa(酸素導入)、Al_(2)O_(3)膜は5×10^(-3)Pa(酸素導入)、Ag層は1×10^(-3)Pa以下、SiO_(2)+La_(2)O_(3)膜は5×10^(-3)Pa(酸素導入)とした。保護層のAl_(2)O_(3)膜は透湿防止層、SiO_(2)+La_(2)O_(3)膜は吸湿層の役割を果たす。Ag層に接するAl_(2)O_(3)膜も透湿防止層として有効である。
【0037】
膜構成を表1に、分光特性を図3に示す。
(中略)
【0040】




オ 「【0041】
(実施例2)
実施例1と同様の成膜条件にて、下引き層、Ag層、上引き層を設け、更にAl_(2)O_(3)膜、SiO_(2)+La_(2)O_(3)膜(La_(2)O_(3)のSiO_(2)に対する比率10wt%)、Al_(2)O_(3)膜の3層からなる保護層を無加熱蒸着法により設け、ビームスプリッタを形成した。
【0042】
膜構成を表2、このときの分光特性を図4に示す。
(中略)
【0044】




カ 「【0045】
(実施例3)
実施例1と同様の成膜条件にて、プリズム側からAl_(2)O_(3)膜、SiO_(2)+La_(2)O_(3)膜(La_(2)O_(3)のSiO_(2)に対する比率10wt%)の保護層を設けてから、下引き層、Ag層、上引き層を設け、更にSiO_(2)+La_(2)O_(3)膜(La_(2)O_(3)のSiO_(2)に対する比率10wt%)、Al_(2)O_(3)膜の2層からなる保護層を無加熱蒸着法により設け、ビームスプリッタを形成した。
【0046】
膜構成を表3、このときの分光特性を図5に示す。
(中略)
【0048】




キ 上記アないしカ(特にアとウ)によると、引用文献1には、ビームスプリッタとして、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。

「光半透膜を介して接合された少なくとも二つの光学素子からなるビームスプリッタであって、
アクリル等の樹脂性の基材からなる第一の光学素子と、
前記第一の光学素子側から順に設けられた、Agからなる反射層に接するAl_(2)O_(3)層および、そのAl_(2)O_(3)層に接するZrO_(2)層からなる下引き層と、前記下引き層に接して設けられた前記Agからなる反射層と、前記Agからなる反射層に接するAl_(2)O_(3)層および、そのAl_(2)O_(3)層に接するZrO_(2)層からなる上引き層と、SiO_(2)+La_(2)O_(3)の複合酸化物膜と、Al_(2)O_(3)層と、からなる光半透膜と、
接着層と、
アクリル等の樹脂性の基材からなる第二の光学素子と、
を有するビームスプリッタ。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2(特許第4482971号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0003】
特に全ての波長で均等に反射率の高い銀を用いた金属膜は、耐湿性が乏しいため、長時間の使用により、酸化が進み、黒く変色して反射率が低下してしまったり、銀膜の密着性が劣化し、膜そのものが剥離してしまうという問題点があった。
そこで、非晶質樹脂基板とアルミニウム膜との密着性を向上させて膜剥離を防ぐ手段として、特開平8-327809にはニッケル・クロム層を単層で下地層として設けることが開示されている。しかし、アルミニウムに比べ可視域全体にわたり反射の高い銀反射膜については、密着力を向上させるための有力な手段がいまだない。また、銀反射膜の上に酸化ジルコニウムや酸化アルミニウムの保護層を設けて、銀反射膜の耐久性を向上することも試みられている。」

(3)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3(特開昭57-130001号公報)には、次の事項が記載されている。

「2.特許請求の範囲
(1) 透明な第1プリズムの斜面に、第1誘電体薄膜層、第2金属薄膜層、第3誘電体薄膜層を順次蒸着し、しかる後に屈折率が前記第1プリズムに等しく且つ透明なる第2プリズムを接着剤で前記第1プリズムの斜面に接合して成るビームスプリッターに於いて、前記第2金属薄膜層は銀であり、前記第1誘電体薄膜層及び第3誘電体薄膜層は酸化チタンと酸化ジルコニウムから成る混合膜層で、且つ第1誘電体薄膜層と第3誘電体薄膜層の膜厚がほぼ等しいことを特徴とする低偏光色消しビームスプリッター。」

(4)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4(特開昭63-249945号公報)には、次の事項が記載されている。

ア 「また、第2図に上記無偏光ビームスプリッタ3の断面模式図を示す。第2図において、3_(1),3_(2)はプリズムであり、前記プリズム3_(1)の斜辺上に順に誘電体薄膜3_(3),銀膜3_(4),誘電体薄膜3_(5)を蒸着し、接着剤3_(6)によりプリズム3_(2)と接着されている。」(第3頁左上欄第9行-第14行)

イ 「次に前記無偏光ビームスプリッタ3の実際の膜構成例を2つ示す。誘電体薄膜3_(3),3_(5)に光学的膜厚245nmの酸化ジルコニウム,銀膜3_(4)の幾何学的膜厚を24nmとしたものの分光特性図を第4図に示す。」(第3頁左下欄第16行-第20行)

(5)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5(特開平11-249067号公報)には、次の事項が記載されている。

「【0017】
【発明の実施の形態】図1は本発明のハーフミラーを用いた観察系の実施形態1の光路を示す要部断面図である。
【0018】図中、5は観察者、3は表示手段であり、液晶表示素子等から成り、可視域の映像情報を表示している。表示手段3は、例えばCD-ROMやビデオカメラ等の映像情報供給手段(不図示)からの信号に基づいて映像情報を表示している。
【0019】Pは観察光学系であり、プリズム体より成る拡大用の光学素子1とシースルー用のプリズム体2とを有している。光学素子1は平面、又は球面より成る入射面1a、平面、球面又はトーリック飛球面より成る一部に全反射を利用した前面1b、そして平面、球面又はトーリック面より成る反射面1cより成っている。
【0020】プリズム体2は外景の画像情報からの光束を入射させる平面、球面又はトーリック面より成る入射面2aと光学素子1の反射面1cと同形状の平面、球面又はトーリック面より成る出射面2bとを有している。
【0021】光学素子1の反射面1c又はプリズム体2の出射面2bはハーフミラー面となっている。本実施形態では反射面1cをハーフミラー面としている。ハーフミラー面は基板面上に複数の金属膜と複数の誘電体膜からなっている。4は外景の画像情報である。6は光軸(中心軸)であり、これは眼球5aの光軸と一致している。表示手段3から眼球5aに至る光路中の各要素で、表示手段3で表示した映像情報の虚像を観察している。
【0022】光学素子1とプリズム体2はアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂等のプラスチック樹脂材料によって一体成形している。本実施形態では表示手段3で表示された映像情報に基づく光束(可視光束)を光学素子1にその入射面1aより導入している。そして光学素子1の前面1bで全反射させた後に、ハーフミラー面1cで反射集光して前面1bを通過させて観察者5の眼球5aに導光している。」

2 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「アクリル等の樹脂性の基材からなる第一の光学素子」は、本願発明1の「樹脂材料を含む第1透光性部材」に相当する。

イ 引用発明の「光半透膜」は、第一の光学素子側から順に設けられた複数の層を有するから、本願発明1の「前記第1透光性部材の少なくとも1つの面に形成されたハーフミラー層」に相当する。

ウ 引用発明の「光半透膜」は、「Agからなる反射層」と、「Agからなる反射層」と「第一の光学素子」との間に位置する「下引き層」と、「Agからなる反射層」に対して「第一の光学素子」とは反対側に位置する「上引き層」を含むといえる。また、引用発明の「下引き層」は、「Agからなる反射層に接するAl_(2)O_(3)層」と、「そのAl_(2)O_(3)層に」第一の光学素子側で「接するZrO_(2)層」を含む誘電体多層膜であり、引用発明の「上引き層」は、「ZrO_(2)層」と、「ZrO_(2)層」に接する「Al_(2)O_(3)層」を含む誘電体多層膜であるといえる。さらに、引用発明の「下引き層」の「ZrO_(2)層」は、酸化チタン層と同様に、金属酸化物層である。
そうすると、引用発明において、「光半透膜」は、「前記第一の光学素子側から順に設けられた、Agからなる反射層に接するAl_(2)O_(3)層および、そのAl_(2)O_(3)層に接するZrO_(2)層からなる下引き層と、前記下引き層に接して設けられた前記Agからなる反射層と、前記Agからなる反射層に接するAl_(2)O_(3)層および、そのAl_(2)O_(3)層に接するZrO_(2)層からなる上引き層と、SiO_(2)+La_(2)O_(3)の複合酸化物膜と、Al_(2)O_(3)層と、からなる」ことと、本願発明1において、「前記ハーフミラー層は、銀層と、前記銀層と前記第1透光性部材との間に位置する第1誘電体多層膜と、前記銀層に対して前記第1透光性部材とは反対側に位置する第2誘電体多層膜と、を含み、前記第1誘電体多層膜は、前記銀層に接する第1酸化アルミニウム層と、前記第1酸化アルミニウム層に前記第1透光性部材側で接する酸化チタン層と、を含み、前記第2誘電体多層膜は、酸化ジルコニウムを含む酸化ジルコニウム系誘電体層と、前記酸化ジルコニウム系誘電体層に接する第2酸化アルミニウム層と、を含」むことは、共に、「前記ハーフミラー層は、銀層と、前記銀層と前記第1透光性部材との間に位置する第1誘電体多層膜と、前記銀層に対して前記第1透光性部材とは反対側に位置する第2誘電体多層膜と、を含み、前記第1誘電体多層膜は、前記銀層に接する第1酸化アルミニウム層と、前記第1酸化アルミニウム層に前記第1透光性部材側で接する金属酸化物層と、を含み、前記第2誘電体多層膜は、酸化ジルコニウムを含む酸化ジルコニウム系誘電体層と、前記酸化ジルコニウム系誘電体層に接する第2酸化アルミニウム層と、を含」む点で共通する。

エ 引用発明の「ビームスプリッタ」は、以下の相違点1及び2を除いて、本願発明1の「光学素子」に相当する。

オ 以上によれば、両者は以下の点で一致する。
<一致点>
「樹脂材料を含む第1透光性部材と、
前記第1透光性部材の少なくとも1つの面に形成されたハーフミラー層と、
を有し、
前記ハーフミラー層は、
銀層と、
前記銀層と前記第1透光性部材との間に位置する第1誘電体多層膜と、
前記銀層に対して前記第1透光性部材とは反対側に位置する第2誘電体多層膜と、
を含み、
前記第1誘電体多層膜は、
前記銀層に接する第1酸化アルミニウム層と、
前記第1酸化アルミニウム層に前記第1透光性部材側で接する金属酸化物層と、
を含み、
前記第2誘電体多層膜は、
酸化ジルコニウムを含む酸化ジルコニウム系誘電体層と、
前記酸化ジルコニウム系誘電体層に接する第2酸化アルミニウム層と、
を含む、
光学素子。」

カ 他方、両者は以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明1においては、「第1誘電体多層膜」が「酸化チタン層」を含むのに対し、引用発明においては、「下引き層」が「ZrO_(2)層」を含む点。

<相違点2>
本願発明1においては、「第2誘電体多層膜では、前記酸化ジルコニウム系誘電体層が前記銀層に接している」のに対し、引用発明においては、「上引き層」では、「Al_(2)O_(3)層」が「Agからなる反射層」に接している点。

(2)判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。
引用文献1には、上引き層のAl_(2)O_(3)層(酸化アルミニウム層)がAgからなる反射層に接する態様のものが記載されているだけであり、上引き層のTiO_(2)層(酸化チタン層)又はZrO_(2)層(酸化ジルコニウム層)がAgからなる反射層に接する態様のものは記載されていない。
また、引用文献1に、上引き層の(中間的な屈折率を有する)Al_(2)O_(3)層と(比較的高い屈折率を有する)TiO_(2)層又はZrO_(2)層の位置を変更してもよいということは記載されていないし、屈折率の異なる層の位置を変更するとその光学特性が変化してしまうことからすると、引用発明において、上引き層のAl_(2)O_(3)層とZrO_(2)層の位置を変更することは想定されておらず、上引き層のAl_(2)O_(3)層とZrO_(2)層の位置を変更する動機付けがあるとはいえない。
さらに、引用文献2-5にも、Al_(2)O_(3)層とTiO_(2)層又はZrO_(2)層からなる誘電体多層膜をAgからなる反射層に接して設ける場合に、TiO_(2)層又はZrO_(2)層がAgからなる反射層に接するようにすることは記載されていない。
そうすると、引用発明、引用文献2-4に示される周知技術、引用文献5に記載された発明に基づいて、相違点2に係る本願発明1の構成を得ることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
したがって、相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明、引用文献2-4に示される周知技術、引用文献5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 本願発明2ないし6について
請求項2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するから、本願発明2ないし6は、上記本願発明1についての判断と同様の理由により、引用発明、引用文献2-4に示される周知技術、引用文献5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-06-25 
出願番号 特願2013-103792(P2013-103792)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
関根 洋之
発明の名称 光学素子および表示装置  
代理人 鈴野 幹夫  

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