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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1341906
審判番号 不服2016-11543  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-08-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-02 
確定日 2018-07-04 
事件の表示 特願2014-506497「光視準調整された拡散フィルム,バックライト装置,および,拡散フィルムの視準を調整する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月26日国際公開,WO2012/145353,平成26年 7月17日国内公表,特表2014-517338〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
特願2014-506497号(以下,「本件出願」という。)は,2012年(平成24年)4月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年4月20日,米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成26年 9月 1日差出:手続補正書
平成27年 6月 4日付け:拒絶理由通知書
平成27年10月 7日差出:意見書,手続補正書
平成28年 3月28日付け:拒絶査定
平成28年 8月 2日差出:審判請求書,手続補正書
平成29年 7月13日付け:拒絶理由通知書(この拒絶理由通知書の拒絶の理由を,以下「当審拒絶理由」という。)
平成29年11月16日差出:意見書

第2 本願発明について
1 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1?請求項14に係る発明は,平成28年8月2日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項14に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明は,次のとおりである(以下「本願発明1」という。)。
「 光視準調整された拡散フィルムであって,
第1側と,前記第1側と反対の第2側と,第1周辺エッジとを有して,複数の突出部分および/または複数の溝部分を包含する第1表面加工面を前記第1側が有する,プラスチック層,
を包含し,
第1軸に近接した前記第1表面加工面での勾配角度の20より大から50パーセントが0より大から5度までの値を有し,
前記突出部分の平均幅が20μmから100μmであり,前記溝部分の平均幅が20μmから100μmであり,前記複数の溝部分の平均奥行はその平均幅の5から25%である,
拡散フィルム。」
また,請求項5の記載は,次のとおりである。
「 前記プラスチック層が,前記表面加工面を通る光線の90パーセント以上を前記表面加工面に対して垂直な軸へ誘導する,請求項1または2に記載の拡散フィルム。」
ここで,上記本願発明1の構成を具備し,請求項2に記載の構成は具備しない請求項5に係る発明を,以下「本願発明5」という。

2 当審の拒絶の理由
平成29年7月13日付け拒絶理由通知書による拒絶の理由は,概略,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,本件出願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2009-157074号公報(以下「引用例1」という。)に記載された発明,並びに,周知技術に基づいて,本件出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,という理由を理由1に含むものである。
また,上記拒絶の理由は,概略,本件出願の特許請求の範囲の請求項5に係る発明は明確でないから,本件出願は,特許請求の範囲の記載が,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない,という理由を理由2に含むものである。

第3 理由1について
1 引用例
(1)引用例1の記載
引用例1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は,当合議体が付したものであり,引用発明の認定に活用した箇所を示す。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は光線制御ユニットに関し,特に,ディスプレイに配設したときに,高輝度であり,干渉縞(モアレ)がなく面内輝度の均一性に優れたディスプレイを実現できる光線制御ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在,液晶表示装置は,携帯電話,PDA端末,デジタルカメラ,テレビ,パーソナルコンピュータ用ディスプレイ,ノートパソコンなどの幅広い分野で利用されている。液晶表示装置においては,例えば,液晶表示パネルの背後にバックライトユニットを配置し,このバックライトユニットからの光を液晶表示パネルに供給することにより,画像を表示する。このような液晶表示装置に用いられるバックライトユニットは,その表示画像を見やすくするために,液晶表示パネルに均一な光を供給するだけでなく,できるだけ多くの光を供給することが要求される。つまり,バックライトユニットは,光拡散性に優れると共に高い輝度が得られるという光学特性が要求される。
・・・(略)・・・
【0004】
ここで,輝度を向上するためにプリズムシートを重ねると,他のシートとの間における光の干渉に起因するモアレの発生,光を集めすぎることによる集光特性の緩和,液晶パネルとプリズムシートとの間のスティッキング等が生じてしまう。また,これらの問題を防止するために,プリズムシート上に,ヘーズ値が高く光拡散性の高い拡散シートと同等の性能を有する拡散シートを配設すると,正面に集光した光を再拡散させてしまい,正面輝度が低下するという問題があった。
【0005】
この正面輝度を低下させる問題を解決する手段として,光拡散剤となるビーズ量を少なくしてヘーズ値を下げた拡散シートを使用することが提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特許第3549491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,光拡散剤の量を減らした拡散シートでもプリズムシートで集光された光の正面輝度の減少割合が多く,また光拡散剤の量を下げることによってプリズムシートでできた傷が見えやすくなるという問題もあった。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり,プリズムシートで正面に集光した輝度を下げる量が少なく,高輝度であり輝度むらやモアレがない光線制御ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成する方法を開発すべく鋭意研究を行った結果,微細な3次元構造を有する光学シートをプリズムシート上に配設することを見出し,本発明を完成させた。
・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば,少なくとも一つの光源と,前記光源の上方に配設され,出光面にアレイ状のプリズム配列構造を有する光学シートと,前記光学シートの上方に配設され,不均一な非平面スペックルによって特徴づけられた微細な3次元構造を有する拡散シートと,を具備するので,プリズムシートで正面に集光した輝度を下げる量が少なく,高輝度であり輝度むらやモアレがない光線制御ユニットを提供することができる。」

イ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下,本発明の実施の形態について,添付図面を参照して詳細に説明する。
図1から図4は,本発明の実施の形態に係る光線制御ユニットの概略構成を示す図である。光線制御ユニット全体としては,複数の光源11を用いている。光源11としては,冷陰極管(CCFL)などの線光源や,LED(発光ダイオード),レーザなどの点光源を用いることができる。また,光源11の配置は画像の表示面に対して,直下に配列されていても良く(図1,図2),画像の表示面に対するエッジに配列されていても良い(図3,図4)。また,エッジ型で配列されている場合は,エッジから照らされた光源11を面発光させるための導光板12が使用される。さらに,直下型の光源11の下方又はエッジ型で導光板12の下方には,光を反射させるための反射シート13が使用される。
・・・(略)・・・
【0020】
アレイ状のプリズム配列構造を有する光学シート14の上方には,入光面及び/又は出光面に非平面スペックル構造を有する拡散シート15が配設されている。
【0021】
本発明に係る光線制御ユニットにおいて使用される拡散シート15の非平面スペックル構造は,微細な3次元構造をもつ凹凸形状15aである。この微細な3次元構造は,複数の凹凸構造で構成されており,前記凹凸形状の高さ及びピッチが不規則であることが好ましい。この凹凸形状15aは,擬似ランダム形状である拡散構造体であり,具体的には,次のようにして形成することができる。まず,予め干渉露光によりスペックルパターンを形成したサブマスタ型を作製し,このサブマスタ型に電鋳などの方法で金属を被着してこの金属にスペックルパターンを転写してマスタ型を作製する。光透過性樹脂層に,上記マスタ型を用いて紫外線による腑形を行って光透過性樹脂層の光取り出し面にスペックルパターンを転写する。このサブマスタ型の詳細な製造方法については,特許第3413519号公報に開示されている。この内容はすべてここに含めておく。
【0022】
スペックルパターンの寸法,形状及び方向を調節することにより,拡散角度の範囲を制御することができる。一般に,拡散角度の範囲は,スペックルの平均サイズ及び形状に依存する。スペックルが小さければ角度範囲が広い。また,スペックルが横方向の長円形であれば,角度分布の形は縦方向の長円形となる。このように所望する指向角度や拡散角度に応じてスペックルパターンを決定することができる。このスペックルパターンの詳細な製法については,特許第3390954号公報に開示されている。この内容はすべてここに含めておく。拡散角は凹凸構造のピッチ,高さ,アスペクト比を変えて制御しても構わないし,紫外線硬化される光透過性樹脂層の屈折率を変えて制御しても構わない。
【0023】
ここで,本発明における「拡散角」とは,輝度がピーク輝度の半分に減衰する角(半値角)の2倍の角度(FWHM:Full Width Half Maximum)をいう。この拡散角度は例えば例えば日本電色工業株式会社の変角色差計などで法線角度が0°より入射した光の出光分布を測定することによって求めることができる。
【0024】
図5は,本発明に係る光線制御ユニットに用いることができる,アレイ状のプリズム配列構造を有する光学シートを示す概略図であり,(a)は断面図であり,(b)は正面図であり,(c)は斜視図である。プリズム配列の稜線延在方向(長手方向)(図5(b)における破線)とは,図5中のY軸方向を示す。本発明において使用される微細な3次元構造を有する光学シート14おいては,光線制御ユニットの正面輝度を高くして,拡散の程度が十分であり,モアレの発生を抑えるために,アレイ状の稜線延在方向(図5でY軸方向)に平行な方向(稜線に沿う方向)における拡散角度が0.1°以上100°以下であることが好ましい。光学シートを用いることがため好ましい。さらに好ましくは,稜線延在方向に平行な方向(稜線に沿う方向)における拡散角度が0.5°以上90°以下である。
【0025】
また,プリズム配列の稜線延在方向(長手方向)に直交する方向(図5でX軸方向)に対しては,拡散角度は,モアレの発生抑制,正面輝度の減少割合を考慮すると,0.1°以上30°以下であることが好ましい。さらに好ましくは,拡散角度が0.5°以上20°以下,特に好ましくは1°以上10°以下である。
・・・(略)・・・
【0028】
本発明に係る光線制御ユニットは,非平面スペックル構造を有する拡散シートを用いて他の配設構成,例えば図6?図9に示す配設構成を採用することができる。図6?図9は,いずれも本発明の実施の形態に係る光線制御ユニットの他の構成を示す図である。光源ユニットについては,図6で示す直下型CCFLを用いた場合について説明しているが,光源ユニットとして,図2に示す直下型LED,図3に示すエッジ型CCFL,図4に示すエッジ型LEDを用いても良い。
【0029】
図6は,図2に示す構成において,光源11と,光学シート14との間に,さらに,内部拡散剤を有する拡散板16,及び球状ビーズ17aを表面に塗布してなる拡散シート17を光源11側からその順で配設してなる光線制御ユニットを示す。拡散板16としては,例えばポリスチレン,シクロオレフィンポリマー,アクリル系樹脂等に,光を拡散させる効果がある有機ポリマーや無機粒子を添加したものを用いることができる。これらの拡散板16は,光を拡散させ,下部光源の光を均一化させる効果がある。
【0030】
また,拡散シート17としてはアクリル系樹脂の球状ビーズ17aをポリエステル系樹脂シート上に塗布されたシートを用いることができる。このような拡散シート17は,光を拡散させ均一化させる効果とともに,拡散板16で拡散・均一化させた光を集光させる機能を有する。これらの光学シート16,17とともに,アレイ状のプリズム配列構造を有する光学シート14と,非平面スペックル構造で特徴づけられた微細な凹凸構造を有する拡散シート15とを配設することにより,正面輝度が高く,輝度むらが小さい光線制御ユニットを実現することができる。」

ウ 「【0038】
次に,本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明するが,本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
非平面スペックルで特徴づけられた微細な凹凸構造を有する拡散シートとして米国Luminit社から販売されているLSD(登録商標)を用いた。実施例に示される拡散角度は,微細な凹凸構造を有する面から入光させ,変角色差計で測定した角度を示している。例えばLSD60°×1°は例えば,ある方向のFWHMが60°であり,それとほぼ直交する方向の値が1°であることを表す。また,例えば,LSD5°は,どの方向のFWHMも,5°であることを表す。
【0040】
光学シートとして実施例で記載がないものについて,すなわち,拡散板,ビーズを塗布した拡散シート,アレイ状のプリズム配列構造を有する光学シートについては,ソニー社製のBRAVIA S-2500に使用されている拡散板(以下,DPと略記),拡散シート(以下,DSと略記),アレイ状のプリズム配列構造を有する光学シート(以下,プリズムシートと略記)を用いた。
【0041】
また,光線制御ユニットの光源として,BRAVIA S-2500のCCFL光源を用いた。輝度及び輝度むらは,コニカミノルタ製の2次元色彩輝度計(CA2000)を使用し,光線制御ユニットから75cm離して設置し,光線制御ユニットの中心部40mm×210mm[62ドット分(x)×322ドット分(y)]の範囲で測定した平均輝度値を輝度とした。輝度むらはx軸(40mm)方向の平均輝度値を求め,y軸方向について,各々の点の輝度値を各々点から±17ドット分の輝度平均値で割り返した標準偏差値として輝度むらを求めた。
【0042】
1.実施例1から実施例6及び比較例1から比較例4は,DP/DS/プリズムシート/拡散シートの構成について評価を行った。
【0043】
(実施例1)
図6に示すように,光源からDP,DS,プリズムシート,LSD60°×1°を配置して実施例1の光線制御ユニットを構成した。なお,プリズムシートの稜線延在方向(長手方向)は,CCFL光源に対して平行であり,LSD60°×1°をプリズムシートの稜線延在方向(長手方向)に対して平行な方向(図5でY軸方向)における拡散角度が60°となるようにした。実施例1の光線制御ユニットにおける輝度,輝度むら値,モアレの有無を上記の方法で調べた。その結果を下記表1に示す。
【0044】
(実施例2)
プリズムシート上にLSD60°×4°(プリズムシートの稜線延在方向と平行な方向における拡散角度が60°となるように配設)を配設すること以外は実施例1と同様にして実施例2の光線制御ユニットを構成した。実施例2の光線制御ユニットにおける輝度,輝度むら値,モアレの有無を上記の方法で調べた。その結果を下記表1に併記する。
【0045】
(実施例3)
プリズムシート上にLSD1°を配設すること以外は実施例1と同様にして実施例3の光線制御ユニットを構成した。実施例3の光線制御ユニットにおける輝度,輝度むら値,モアレの有無を上記の方法で調べた。その結果を下記表1に併記する。
【0046】
(実施例4)
プリズムシート上にLSD5°を配設すること以外は実施例1と同様にして実施例4の光線制御ユニットを構成した。実施例4の光線制御ユニットにおける輝度,輝度むら値,モアレの有無を上記の方法で調べた。その結果を下記表1に併記する。
【0047】
(実施例5)
プリズムシート上にLSD1°を図10に示すようにプリズムシートから出光された光を凹凸面から入光されるように配設すること以外は実施例1と同様にして実施例5の光線制御ユニットを構成した。実施例5の光線制御ユニットにおける輝度,輝度むら値,モアレの有無を上記の方法で調べた。その結果を下記表1に併記する。
【0048】
(実施例6)
プリズムシート上にLSD5°を配設すること以外は実施例5と同様にして実施例6の光線制御ユニットを構成した。実施例6の光線制御ユニットにおける輝度,輝度むら値,モアレの有無を上記の方法で調べた。その結果を下記表1に併記する。
【0049】
(比較例1)
図11に示すように,光源からDP,DS,プリズムシート(プリズムシートの稜線延在方向はCCFL光源に対して平行)を配置して比較例1の光線制御ユニットを構成した。比較例1の光線制御ユニットにおける輝度,輝度むら値,モアレの有無を上記の方法で調べた。その結果を下記表1に併記する。
【0050】
(比較例2)
プリズムシート上にDSを配設すること以外は比較例1と同様にして比較例2の光線制御ユニットを構成した。比較例2の光線制御ユニットにおける輝度,輝度むら値,モアレの有無を上記の方法で調べた。その結果を下記表1に併記する。
【0051】
(比較例3)
プリズムシート上に拡散シートBS082(恵和社製,商品名)を配設すること以外は比較例1と同様にして比較例3の光線制御ユニットを構成した。比較例3の光線制御ユニットにおける輝度,輝度むら値,モアレの有無を上記の方法で調べた。その結果を下記表1に併記する。
【0052】
(比較例4)
プリズムシート上に拡散シートBS912(恵和社製,商品名)を配設すること以外は比較例1と同様にして比較例4の光線制御ユニットを構成した。比較例4の光線制御ユニットにおける輝度,輝度むら値,モアレの有無を上記の方法で調べた。その結果を下記表1に併記する。
【表1】


【0053】
表1より,図6に示すDP/DS/プリズムシート/非平面スペックル構造で特徴づけられた微細な凹凸構造を有する拡散シートの構成を持つ光線制御ユニットは,DP/DS/プリズムシート/球状ビーズを用いた拡散シートの構成を持つ光線制御ユニットより,輝度,輝度むらのバランスが良く,DP/DS/プリズムシートの配設に比べモアレが無いことが分かる。」

エ 「【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態に係る光線制御ユニットの構成を示す図である。
・・・(略)・・・
【図6】本発明の実施の形態に係る光線制御ユニットの構成の他の例を示す図である。」

オ 「
【図1】


【図6】



(2)引用発明
引用例1には,図1又は図6に示されるような光線制御ユニット内で用いられる拡散シートに関する発明として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「 非平面スペックル構造を有する拡散シート15であって,
非平面スペックル構造は,微細な3次元構造をもつ凹凸形状15aであり,この微細な3次元構造は,複数の凹凸構造で構成されており,
予め干渉露光によりスペックルパターンを形成したサブマスタ型を作製し,このサブマスタ型に電鋳などの方法で金属を被着してこの金属にスペックルパターンを転写してマスタ型を作製し,光透過性樹脂層に,上記マスタ型を用いて紫外線による腑形を行って光透過性樹脂層の光取り出し面にスペックルパターンを転写することにより形成され,
スペックルパターンの寸法,形状及び方向を調節することにより,拡散角度の範囲を制御することができ,拡散角は凹凸構造のピッチ,高さ,アスペクト比を変えて制御しても構わない,
拡散シート15。」

(3)引用例2及び引用例3の記載
ア 引用例2の記載
本件出願の優先日前に頒布され,当審拒絶理由において引用例2として引用された刊行物である特表2008-507731号公報(以下「引用例2」という。)には,以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,光平行化・拡散フィルム及びかかるフィルムを製造するためのシステムに関する。」

(イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
図1及び2について説明すれば,液晶ディスプレイ装置(図示せず)を照明するためのバックライト型デバイス20が示されている。バックライト型デバイス20は,光源22,反射フィルム24,光ガイド26,光平行化・拡散フィルム28,光平行化フィルム30,光平行化フィルム32及び光拡散フィルム34を含んでいる。図示のように,光源22は光ガイド26の第一の端部に配設されている。さらに,反射フィルム24は光ガイド26の第一の側に近接して配設されている。光平行化・拡散フィルム28の第一の側は光ガイド26の第二の側に近接して配設されると共に,ポスト36,38を用いて光ガイド26から隔離されている。ポスト36,38は,光ガイド26とフィルム28との間にエアギャップを形成している。光平行化フィルム30は,フィルム28の第二の側に近接して配設されている。最後に,光平行化フィルム32は光平行化フィルム30に近接して配設され,光拡散フィルム34は光平行化フィルム32に近接して配設されている。
【0043】
次に,光ガイド26及び光平行化・拡散フィルム28の両方を通って伝わる例示的な光ビームの進路を説明しよう。光源22から放射された光ビーム42は,光ガイド26を通って進行し,光ガイド26の上面に対して実質的に垂直な軸線44に向かって反射される。光ビーム42が光ガイド26から出射してエアギャップ40に入る際,光ビーム42は約45度の角度で軸線44から離れるように屈折する。光ビーム42が光平行化・拡散フィルム28に入射する際,フィルム28は光ビーム42を軸線44に向かって屈折させる。その後,光ビーム42がフィルム28から出射する際,光ビームは約31度の角度で軸線44から離れるように屈折する。その後,光ビーム42は軸線44に対して31度の角度で光平行化フィルム30の下面に入射し,フィルム30を通って進行する。フィルム30は,その上面で,光ビームを軸線44に対して0度の角度に屈折させる。光ビームは軸線44に対して0度の角度でフィルム32に入射するので,フィルム32は軸線44に沿って比較的高い輝度を与える。
【0044】
次に,図2及び3を参照しながら,光平行化・拡散フィルム28をさらに詳しく説明しよう。フィルム28は,光ビームを軸線44に向けて屈折させるために使用される。フィルム28は,0.025?10ミリメートルの範囲内の厚さを有する一元プラスチック層から構成されている。もちろん,フィルム28は0.025ミリメートル未満又は10ミリメートル超の厚さを有するように構成することもできる。フィルム28はプラスチック層中に配置された蛍光増白剤化合物を有していて,蛍光増白剤化合物の質量はプラスチック層の総質量の0.001?1.0%の範囲内にある。フィルム28はさらに,プラスチック層中に配置された帯電防止剤化合物(例えば,フッ素化ホスホニウムスルホネート)を含んでいる。フッ素化ホスホニウムスルホネートは,一般式{CF_(3)(CF_(2))_(n)(SO_(3))}^(Θ){P(R_(1))(R_(2))(R_(3))(R_(4))}^(Φ)を有している。式中,Fはフッ素であり,nは1?12の整数であり,Sは硫黄であり,R_(1),R_(2)及びR_(3)は同一の要素であって,各々炭素原子数1?8の脂肪族炭化水素基又は炭素原子数6?12の芳香族炭化水素基であり,R_(4)は炭素原子数1?18の炭化水素基である。フィルム28はさらに,プラスチック層中に配置された紫外線(UV)吸収剤化合物を含んでいて,UV吸収剤化合物の質量はプラスチック層の総質量の0.01?1.0%の範囲内にある。フィルム28は,複数の山部52及び複数の谷部54を有するテクスチャード上面46を含んでいる。複数の山部52の平均高さは,複数の山部の平均幅の25?75%の範囲内にある。さらに,複数の山部52の平均幅は0.5?100ミクロンの範囲内にある。山部52及び谷部54は,所望の傾き角分布が得られるようにして上面46分布している。
【0045】
傾き角分布とは,光平行化・拡散フィルム28上における1以上の所定トラジェクトリーに沿った複数の傾き角分布である。さらに,各傾き角(φ)は下記の式を用いて計算される。
【0046】
傾き角φ=arc tan|Δh/Δw|
式中,
(Δw)は,テクスチャード表面46に沿った所定幅(例えば,0.5ミクロン)を表し,
(Δh)は,(i)幅(Δw)に沿ったテクスチャード表面46上の最低位置と(ii)幅(Δw)に沿った表面46上の最高位置との間の高さの差を表す。
・・・(略)・・・
【0049】
傾き角分布は,プラスチック層上の所定の基準トラジェクトリー又は基準線に沿って測定できる。別法として,複数の基準トラジェクトリー又は基準線を用いてプラスチック層の表面全体にわたり傾き角分布を測定することもできる。
【0050】
例えば,図6及び8について説明すれば,テクスチャード表面46を横切る所定のトラジェクトリー(例えば,フィルム28のへり61平行な軸線62又は軸線62に垂直な軸線60)に沿って複数の傾き角(φ)を算出できる。別法として,複数の傾き角(φ)は線80又は線82に沿っても算出できる。上述のトラジェクトリーの1以上では,所望の傾き角分布は0?5度の値を有する傾き角を7?20%含む。
【0051】
図4について説明すれば,例示的な実施形態に係るフィルム28の第一の側にあるテクスチャード表面上の傾き角分布を示すグラフが示されている。ここで本発明者らは,テクスチャード表面46上の傾き角の20%以下,好ましくは表面46上の傾き角の7?20%が0?5度の値を有する場合,隣接する輝度増強フィルム(例えば,フィルム30及び32)は軸線44に関して増加した輝度を有することを認めた。
【0052】
図1及び2について説明すれば,テクスチャード上面46上における0?5度の傾き角の百分率は,フィルム28から出射して光平行化フィルム30に入射する光の角度を制御する。表面46上における傾き角の百分率が約16%である場合,光は図示のように軸線44に対して31度の角度でフィルム28から出射する。代替実施形態では,光が軸線44に対して31度より大きい角度でフィルム28から出射することが望ましければ,フィルム28は0?5度の値を有する傾き角が16%を超えるように構成すればよい。別の代替実施形態では,光が軸線44に対して31度より小さい角度でフィルム28から出射することが望ましければ,フィルム28は0?5度の値を有する傾き角が16%未満になるように構成すればよい。」

(ウ)「【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】例示的な実施形態に係るバックライト型デバイスの分解図である。
・・・(略)・・・
【図4】光平行化・拡散フィルムの前面上の傾き分布を表すグラフである。
・・・(略)・・・
【図6】傾き角分布を測定するための例示的なトラジェクトリーを示す光平行化・拡散フィルムの上面図である。」

(エ)「
【図1】


【図4】


【図6】



イ 引用例3の記載
本件出願の優先日前に頒布され,当審拒絶理由において引用例3として引用された刊行物である特開2010-277080号公報(以下「引用例3」という。)には,以下の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は,光散乱性基材,光散乱性基材の製造方法,偏光板,及び画像表示装置に関する。
・・・(略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし,上記文献に記載の光学フィルムは,全光透過率が低いので,画像表示装置に用いると,正面白輝度の低下の一因になる場合がある。一方で,正面輝度を維持するため,ヘイズを下げる,つまり全光透過率を上げると,表示画面の均一性の悪化(バックライトのムラ等)やモアレ等の干渉縞を生じるのを抑制できなくなる場合がある。これらは,光散乱性を制御しにくい不定形粒子や二次粒子を用いたり,表面の形状を例えばRa,Rtなど高さに関する項目だけで制御しており,厳密な光散乱のための表面設計にまで及んでいないためである。
・・・(略)・・・
【図面の簡単な説明】
【0011】
・・・(略)・・・
【図8b】本発明の液晶表示装置の一例を表す模式図である。」

(イ)「【発明を実施するための形態】
【0012】
・・・(略)・・・
【0014】
<液晶表示装置の構成>
・・・(略)・・・
本発明の液晶表示装置の好ましい態様においては,図8(b)に示すように,光源側から,〔光源41/導光板(蛍光管)42/下拡散シート43/集光シート44(プリズムシートなど)/液晶パネル(下偏光板46(光散乱性基材49を含む)/基板48/液晶セル47/基板48/上偏光板46)〕との構成を有している。上拡散シートの代わりに,下偏光板の保護フィルムに光散乱性基材49により光拡散性を付与し,上拡散シートと同様以上の性能を発揮させるものであり,上記構成とすることで,モアレや面内輝度ムラを軽減するだけでなく,上拡散シートを用いる従来技術では弊害となっていた,正面輝度や正面コントラストの低下を抑える効果をもたらす。更に上拡散シートを除去することで,液晶表示装置全体の厚みを薄くすることができ,上拡散シートを複数枚使用する場合はより効果的である。原理的には除去した拡散シートの厚み分だけ薄くすることができる。
【0015】
具体的には,上拡散シートを用いる従来技術では必要以上に広角の範囲まで入射光を拡散させており,これにより相対的に正面方向への出射光量を低下させていた。本発明の構成,即ち下偏光板に付与した光拡散性保護フィルムの光拡散プロファイルを最適化させた液晶表示装置においては,正面方向への出射光量を低下させることなく,モアレや輝度ムラ軽減に必要十分な拡散性を付与しているため,この問題を解決できる。また,バックライト,下拡散シートの特性を変えたり,これら部材を複合化したりすることで,本発明に用いる光拡散性を有する光学フィルムの最適光散乱プロファイルも変化はするが,上述の構成範囲内であれば概ね目的の性能を発揮することが可能である。
・・・(略)・・・
【0019】
<光散乱性基材の表面形状>
以下,本発明の光散乱性基材について説明する。
本発明の光散乱性基材は,少なくとも一方の表面に凹凸形状(傾斜面)を有した,平均一次粒径が3?12μmの透光性粒子と熱可塑性樹脂とを含む光散乱性フィルムである。
・・・(略)・・・
【0024】
本発明の光散乱性基材は,前方散乱性を有するように,その表面の傾斜角を制御する必要がある。このため,A面の表面形状はJIS B0601による粗さのパラメータ(算術平均粗さRa,平均凹凸間隔Sm及び凹凸の平均傾斜角θa)で表すと,下記(式1)から(式3)を満たすことが必要である。
0.03μm≦Ra≦0.3μm ・・・(式1)
10μm≦Sm≦300μm ・・・(式2)
0.2°≦θa≦2.5° ・・・(式3)
また,好ましい範囲としては,
0.05μm≦Ra≦0.25μm ・・・(式1’)
30μm≦Sm≦250μm ・・・(式2’)
0.4°≦θa≦2.3° ・・・(式3’)
であり,更に好ましい範囲としては,
0.08μm≦Ra≦0.2μm ・・・(式1”)
50μm≦Sm≦200μm ・・・(式2”)
0.5°≦θa≦2.0° ・・・(式3”)
であり,特に好ましい範囲としては,
0.12μm≦Ra≦0.2μm ・・・(式1”’)
60μm≦Sm≦130μm ・・・(式2”’)
0.5°≦θa≦2.0° ・・・(式3”)
である。
これら粗さのパラメータは,JIS-B0601(1994,2001)に準じた測定器,たとえば小坂研究所(株)製,サーフコーダー MODEL SE-3500などを用いて測定することができる。
【0025】
Raの値が0.03μm以上であると,十分な散乱効果を得ることができ,0.3μm以下であると,不必要な広角範囲まで光が散乱することを防ぎ十分な正面輝度が確保でき,また隣合う部材との耐擦傷性の問題も生じない。また,Smの値が300μm以下であれば,バックライトの均一性が向上し,モアレも解消される。また,本発明における平均一次粒径が3μm?12μmの透光性粒子を用いて光散乱性基材を作製する際には,Smが10μm以上であれば,θaが2.5°以下との両立も容易となり,目標の表面形状が得られ易くなる。液晶表示装置のモアレの解消には,Smとしてはバックライト側のプリズムシートのピッチ以下,又は液晶セルの画素ピッチの2倍以下であることが好ましい。更に,θaの値が0.2°以上であると,直進方向への光の成分が多くなりすぎることなく,十分な散乱効果が得られ,2.5°以下であると不必要な広角散乱成分を抑え,正面輝度が向上し,隣り合う部材との耐擦傷性も良好に保てる。
・・・(略)・・・
【0030】
本発明においては,光散乱性基材のA面の凹凸の傾斜角が以下の分布を有することが好ましい。
(a)0°以上0.5°未満の頻度の積分値が25%未満
(b)0.5°以上10°未満の頻度の積分値が65%以上100%未満
(c)10°以上の頻度の積分値が0%以上20%未満
また,好ましい傾斜角分布としては,
(a)0°以上0.5°未満の頻度の積分値が20%未満
(b)0.5°以上10°未満の頻度の積分値が68%以上100%未満
(c)10°以上の頻度の積分値が0%以上18%未満
であり,更に好ましい傾斜角分布としては
(a)0°以上0.5°未満の頻度の積分値が15%以下
(b)0.5°以上10°未満の頻度の積分値が70%以上100%未満
(c)10°以上の頻度の積分値が0%以上15%以下
である。
【0031】
傾斜角が0°以上0.5°未満の頻度の積分値が25%未満であると,平滑な面の割合が少なく十分な散乱性を得ることができる。また,0.5°以上10°未満の頻度の積分値が65%以上であると,正面コントラスト低下の影響の少ない適度な散乱角度をもった散乱成分を十分に確保できる。また,10°以上の頻度の積分値が20%未満とすると広角側の散乱成分を抑えて正面コントラストを確保し,耐擦傷性も良好に保つことができる。耐擦傷性の観点では特に,傾斜角が20°を超える成分は,5%未満が好ましく,2%未満が更に好ましい。」

(ウ)「
【図8b】



2 対比
(1)本願発明1と引用発明とを比較すると,以下のとおりとなる。
ア 光視準調整された拡散フィルム
本件出願の明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0010】には,「光視準とは,所望または目標の方向へ光線を集束および誘導するフィルムの能力を指している。・・・光視準調整フィルムは,光線の集束および誘導のレベルが調整されるもの」と記載されている。そこで,本願発明1の「光視準調整された」なる構成も,段落【0010】に記載された意味と解される。一方,引用発明は,「スペックルパターンの寸法,形状及び方向を調節することにより,拡散角度の範囲を制御することができ,拡散角は凹凸構造のピッチ,高さ,アスペクト比を変えて制御しても構わない」ものである。ここで,拡散角又は拡散角度の範囲を制御することは,光線の集束及び誘導の方向を調整することと同じである。
したがって,本願発明1の「拡散フィルム」と,引用発明の「拡散シート15」とは,「光視準調整された拡散」部材である点で共通する。

イ 第1側,第2側,第1周辺エッジ
引用発明の「拡散シート15」は,シート状の形状を備えていると解されるから,シートの通常の意味を考慮すると,第1側及び第2側,並びに,周辺エッジを備えているものと解される。

ウ 第1表面加工面
引用発明の「拡散シート15」は「非平面スペックル構造」を有し,当該「非平面スペックル構造は,微細な3次元構造をもつ凹凸形状15aであり,この微細な3次元構造は,複数の凹凸構造で構成されて」いる。ここで,「複数の凹凸構造」が,複数の突出部分及び/又は複数の溝部分から構成されていることは明らかである。また,引用発明は,「光透過性樹脂層に,上記マスタ型を用いて紫外線による腑形を行って光透過性樹脂層の光取り出し面にスペックルパタンを転写することにより形成され」る。すなわち,前記「複数の凹凸構造」は,引用発明の「拡散シート15」の表面である「光取り出し面」に,加工により形成されたものである。そうしてみると,引用発明の「拡散シート15」の両面のうち,「光取り出し面」の側を,本願発明でいう「第1側」に対応付けることができ,また,「光取り出し面」の反対側を「第2側」に対応付けることができる。
したがって,本願発明1の「拡散フィルム」と引用発明の「拡散シート15」は,「複数の突出部分および/または複数の溝部分を包含する第1表面加工面を前記第1側が有する」点で共通する。

エ プラスチック層
上記ウで指摘したように,引用発明は「光透過性樹脂層の光取り出し面にスペックルパタンを転写することにより形成され」る。ここで,引用発明の「光透過性樹脂層」は,その文言が意味するとおり光透過性の「樹脂」の「層」であるから,本願発明1でいう「プラスチック層」に該当する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
上記(1)を踏まえると,本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。
「 光視準調整された拡散部材であって,
第1側と,前記第1側と反対の第2側と,第1周辺エッジとを有して,複数の突出部分および/または複数の溝部分を包含する第1表面加工面を前記第1側が有する,プラスチック層,
を包含する
拡散部材。」

イ 相違点
本願発明1と引用発明とは,以下の点で相違する,あるいは,一応相違する。
(相違点1)
本願発明1は,拡散「フィルム」であるのに対して,引用発明は,拡散「シート」である点。

(相違点2)
本願発明1は,「第1軸に近接した前記第1表面加工面での勾配角度の20より大から50パーセントが0より大から5度までの値を有し,前記突出部分の平均幅が20μmから100μmであり,前記溝部分の平均幅が20μmから100μmであり,前記複数の溝部分の平均奥行はその平均幅の5から25%である」のに対して,引用発明の「凹凸形状15a」は,このような特定がなされていない点。

3 判断
(1)相違点1について判断する。
フィルムとシートとは,いずれも薄い膜状の形状を意味する言葉であり,同じ物に対して使用されることもある言葉である。例えば,引用例1には,拡散シートの例として「米国Luminit社から販売されているLSD(登録商標)」が挙げられている(段落【0039】)ところ,特開2009-237418号公報では,同じ商品が「拡散フィルム」と称されている(段落【0090】を参照。)。そうしてみると,引用発明の「拡散シート15」は,「拡散フィルム」と称することもできる物である。よって,相違点1は,実質的な相違点ではない。
あるいは,仮に,フィルムとシートとの間に構造上の差異があるとしても,引用発明の「光透過性樹脂層に,上記マスタ型を用いて紫外線による腑形を行って光透過性樹脂層の光取り出し面にスペックルパターンを転写することにより形成」するという製造方法を踏まえれば,引用発明を,シートとしてではなく,フィルムとして形成することは,当業者の随意である。

(2)相違点2について判断する。
ア 引用発明は,「スペックルパターンの寸法,形状及び方向を調節することにより,拡散角度の範囲を制御することができ,拡散角は凹凸構造のピッチ,高さ,アスペクト比を変えて制御しても構わない,拡散シート15」である。ここで,引用発明は,「光透過性樹脂層の光取り出し面にスペックルパターンを転写することにより形成され」るものであるから,「スペックルパターンの寸法,形状及び方向を調節する」ことは,「凹凸構造」の寸法,形状及び方向を調節することでもある。
また,引用例1の段落【0007】には,発明が解決しようとする課題として,「プリズムシートで正面に集光した輝度を下げる量が少なく,高輝度であり輝度むらやモアレがない光線制御ユニットを提供することを目的とする。」と記載されている。そうしてみると,引用発明は,光拡散性と高い正面輝度を両立させるように,凹凸構造の寸法,形状,方向,ピッチ,高さ及びアスペクト比を調節した拡散シートである。

イ 引用例2及び引用例3には,光拡散フィルムにおいて,光線の出射方向の分布を好適化するために,フィルム表面の凹凸構造の周期や,勾配角度分布を好適化することが記載されている(引用例2の段落【0044】,【0051】?【0052】,引用例3の段落【0024】?【0025】,【0030】を参照。)。そうしてみると,フィルム表面に,周期や勾配角度分布が調節された凹凸形状を設けることにより,当該フィルムを通過した光線の出射方向の分布を制御することは,本件出願の優先日前に周知の技術(以下「周知技術」という。)であった。
引用発明が調節している,凹凸構造の寸法,形状,方向,ピッチ,高さ及びアスペクト比は,当該凹凸構造の勾配角度分布と相関するパラメータである。そうしてみると,引用発明において,上記アで指摘した課題を解決するために,上記周知技術を適用して,凹凸構造の寸法,形状,方向,ピッチ,高さ及びアスペクト比に加えて,勾配角度分布も調節することは,当業者が容易になし得たことである。

ウ 引用発明の拡散シートのように,表面の凹凸形状を利用して光線の進行方向を変化させる光学素子において,その出射光の進行方向の分布は,当該光学素子へ入射する光線の進行方向の分布に依存することは,当業者には明らかである。また,所定の拡散シートを,例えば液晶表示装置のバックライトユニットに用いる場合には,輝度向上のためのプリズムシートや他の拡散素子と合わせて用いることが通常であるところ,それらを合わせてなる装置の,光拡散性や正面輝度は,前記所定の拡散シートのみならず,前記プリズムシートや他の拡散素子の光学特性にも依存することも,当業者には明らかである。そうしてみると,「高輝度であり輝度むらやモアレがない光線制御ユニットを提供する」(段落【0007】)という引用発明の課題を解決するためには,光線制御ユニット内で,共に用いる他の光学素子も踏まえた上で,引用発明の「光学シート15」の表面形状を好適化する必要がある。すなわち,凹凸構造の各パラメータについて,引用例2又は引用例3に記載された具体的な値をそのまま採用するのではなく,実際に採用する光線制御ユニットにおける好適値を見いだす必要があることは,技術常識を踏まえれば,当業者には明らかである。そして,そのような好適化を行うことは,当業者の通常の創作能力の発揮においてなし得たことである。

エ 凹凸形状の勾配角度分布の好適化については,上記ウの通りであるが,引用例2及び引用例3の教示を踏まえて,更に検討を行う。
(ア)引用例2には,その図1に示されるバックライト型デバイス20において,光ガイド26と光平行化フィルム30,32との間に設けられる光平行化・拡散フィルム28に関して,「表面46上の傾き角の7?20%が0?5度の値を有する場合,隣接する輝度増強フィルム(例えば,フィルム30及び32)は軸線44に関して増加した輝度を有することを認めた。」と記載されている(段落【0051】を参照。)。ここに記載された勾配角度分布は,本願発明1のそれよりも,0?5度の頻度が低いもの,すなわち,大きな勾配角度により大きな分布を有するものである(このような勾配角度分布を,以下「凹凸性が高い」という。)。
引用例3には,凹凸の傾斜角の好適な分布として,「(a)0°以上0.5°未満の頻度の積分値が25%未満 (b)0.5°以上10°未満の頻度の積分値が65%以上100%未満 (c)10°以上の頻度の積分値が0%以上20%未満」(段落【0030】)と記載されている。当該分布は,本願発明1や引用例2の勾配角度分布と直接比較することはできないものの,10度未満に頻度が集中していることから,小さな勾配角度に大きな分布を有する(このような勾配角度分布を,以下「凹凸性が低い」という。)ものと解される(このことは,引用例2の図4に示された傾き分布において,12度以上の度数の累積が,20%を大きく超えることからも確認される。)。そして,引用例3では,このような勾配角度分布を有する光拡散性基材を,図8(b)に示されるような構成で用いることが示唆されている(段落【0014】を参照。)。すなわち,集光シート44(プリズムシートなど)よりも液晶セル側に,前記光拡散性基材を用いようとするものである。
引用例3の図8(b)に示されるような構成において,プリズムシートを通過した後の光線の出射角度の範囲は,プリズムシートにより所望の範囲に制御済みのものであるから,プリズムシートより液晶セル側に設けられる拡散シートの凹凸性は低いものが好ましいことは明らかである。このことは,上述の引用例2及び引用例3における凹凸性の違いからも確認できる事項である。

(イ)引用例1には,引用発明を図1又は図6のように,プリズム配列構造を有する光学シート14より下流側に,拡散シート15を設けることが記載されている。そうしてみると,上記(ア)で検討した事項を踏まえるならば,引用発明に上記周知技術を適用する際に,引用例2に開示された勾配角度分布よりも,凹凸性が低い勾配角度分布,すなわち,0より大から5度までの頻度が比較的大きいような勾配角度を選択することは,当業者が容易になし得たことである。
そうしてみると,引用発明において,「第1軸に近接した前記第1表面加工面での勾配角度の20より大から50パーセントが0より大から5度までの値を有」するような凹凸構造とすることは,当業者が容易になし得たことである。

オ 本願発明1は,勾配角度分布に加えて,「突出部分の平均幅」,「溝部分の平均幅」,「複数の溝部分の平均奥行」について,範囲を特定している。これらの値は,引用発明が調節している凹凸構造の寸法,形状,方向,ピッチ,高さ及びアスペクト比により決定される値であり,また,上記イで指摘したように,調節することを当業者が容易に想到し得た勾配角度分布にも依存する値である。
また,引用例2には,複数の山部の平均幅を0.5?100ミクロンの範囲内にすることが記載されている(段落【0044】)。当該記載を踏まえて,樹脂層表面に転写により凹凸構造を形成する際に,転写性等を考慮すれば,山部すなわち突出部分の平均幅を20?100μmの範囲内で設計するのは現実的であるといえる。また,本願発明1は溝部分の平均幅も限定しているが,本件明細書の段落【0026】に記載された定義を用いれば,突出部分の平均幅と溝部部の平均幅とは,同程度になることは明らかである。
また,本願発明1における,複数の溝部分の平均奥行は,上述の平均幅と同様に,突出部分の平均高さと同程度であるといえるところ,引用例2には,複数の山部の平均高さが,複数の山部の平均幅の25?75%の範囲内にあることが記載されている(段落【0044】)。上記エ(イ)で検討したように,引用発明に上記周知技術を適用した場合には,引用例2よりも凹凸性が低い勾配角度分布を選択することは,当業者が容易になし得たことである。この場合には,突出部分(又は溝部分)の平均幅に対する平均高さ(平均奥行)の比率は,引用例2に記載されたそれよりも低くなる。したがって,引用発明において,複数の溝部分の平均奥行をその平均幅の5から25%とすることは,当業者が容易になし得たことである。
以上より,引用発明において,突出部分の平均幅,溝部分の平均幅及び複数の溝部分の平均奥行を,本願発明1の範囲とすることは,当業者の通常の創作能力の発揮においてなし得たことである。

カ 以上のとおりであるから,引用発明において,相違点2に係る本願発明1の構成を具備させることは,当業者が容易になし得たことである。

(3)発明の効果について
ア 本願発明1は,特定の勾配角度を選択することにより,「80%以上の高い濁度と,バックライトの用途に望ましい輝度プロファイルを可能にする光視準調整作用の両方を提供することが可能である」(本件明細書の段落【0011】)という効果を有するものといえるかもしれない。また当該効果に関して,本件明細書には,勾配角度の0?5度の頻度が50パーセントより大きい比較例1及び比較例2では,濁度が十分でないことが記載されている(同段落【0071】?【0073】)。また,勾配角度の0?5度の頻度が20パーセントより小さい比較例3では,図4に示されたバックライト構成において,軸上ルミナンスが劣ることが記載されている(同段落【0074】?【0075】を参照。)。

イ 上記(2)ウで指摘したように,拡散フィルムを通過した光線の拡散分布は,当該拡散フィルムへの入射角分布に依存する。しかし,本願発明1は,拡散フィルムへ光線がどのように入射するかを規定していないから,上記アで述べた効果について,どの程度の効果を有するかは,明らかでない。

ウ また,上記アで引用した本件明細書の実施例及び比較例により確認された効果のうち,比較例1及び比較例2との比較により確認された効果は,凹凸性が低くなれば光拡散性が低下するという自明な効果である(引用例3の段落【0031】の記載からも確認される事項である。)。また,比較例3との比較により確認された効果は,上記(2)エ(ア)で述べた,本件出願の図4又は引用例3の図8(b)のようなバックライト構成においては,凹凸性が高すぎない勾配角度分布が好ましいとする引用例3の開示が有する効果である。

エ そうしてみると,本願発明1の効果は,どの程度に奏するかが不明な効果であるか,あるいは,引用発明並びに上記周知技術から,当業者が予測し得た範囲のものである。

(4)請求人の主張について
平成29年11月16日付け意見書中で,本件請求人は,引用例2及び引用例3には,本願発明1の「第1軸に近接した前記第1表面加工面での勾配角度の20より大から50パーセントが0より大から5度までの値を有し」という構成は開示されていないと主張する。また,引用例2及び引用例3には,本願発明1の上記構成とは異なる勾配角度分布が有利な範囲として記載されていて,これらの記載は,本願発明1の上記構成を導くにあたり阻害要因になるとも主張する。
しかし,上記(2)で判断したように,引用発明に,引用例2及び引用例3に記載されたような周知技術を適用する際に,引用例2又は引用例3に開示された具体的な勾配角度分布自体を採用するのではなく,引用発明の拡散シートを用いる環境に応じて,勾配角度分布の好適値を見いだそうとすることは,当業者が容易に想到し得たことであり,また,当該好適値を見いだすことは,当業者の通常の創作能力の発揮においてなし得たことである。
したがって,請求人の上記主張は受け入れられない。

第4 理由2について
請求項5には,「前記プラスチック層が,前記表面加工面を通る光線の90パーセント以上を前記表面加工面に対して垂直な軸へ誘導する」と記載されている。
本願発明5に係る拡散フィルムは,「複数の突出部分および/または複数の溝部分を包含する第1表面加工面」によって,光線の進む方向を変更するものである。このような拡散フィルムを出射した光が進む方向は,上記第3 3(2)ウにおいて引用例1に関して指摘したのと同様に,「第1表面加工面」の構造だけではなく,拡散フィルムに入射する光線の角度にも依存することは,当業者には明らかである。そうしてみると,入射光線の入射角を限定していない本願発明5において,請求項5に記載された上記構成が,「拡散フィルム」をどのように限定しているのか,不明瞭である。
また,本件出願の明細書又は図面に,どのような入射光束に対しても,「前記表面加工面を通る光線の90パーセント以上を前記表面加工面に対して垂直な軸へ誘導する」拡散フィルムが,記載されているということもできない。したがって,明細書又は図面の記載を参酌しても,本願発明5を明確に把握できるということはできない。
平成29年11月16日付け意見書において,本件請求人は,当該拒絶理由に対して,本件明細書の段落【0010】の記載に照らせば,本願発明5は明確であると主張する。しかし,段落【0010】には,光線が誘導される量は,フィルムの設計に基づいて調整され得るから,表面加工面を通過する光線の90%以上を,表面加工面に対して垂直な軸へ誘導することができると記載されているだけであって,具体的に,フィルムをどのように設計すれば,当該誘導を実現できるのか,説明されてはいない。そのため,本件明細書の当該記載を踏まえても,本願発明5が明確であるとはいえない。
よって,本願発明5は明確でない。

第5 まとめ
以上のとおりであるから,本願発明1は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。また,本件出願は特許請求の範囲の記載が,同法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本件出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-01-31 
結審通知日 2018-02-06 
審決日 2018-02-19 
出願番号 特願2014-506497(P2014-506497)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
P 1 8・ 537- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 佐藤 秀樹
河原 正
発明の名称 光視準調整された拡散フィルム、バックライト装置、および、拡散フィルムの視準を調整する方法  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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