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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07D
審判 全部申し立て 特29条の2  C07D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07D
審判 全部申し立て 特174条1項  C07D
管理番号 1341933
異議申立番号 異議2015-700094  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-15 
確定日 2018-04-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5702494号発明「ピタバスタチンカルシウムの新規な結晶質形態」の特許異議申立事件についてされた平成28年11月18日付け異議の決定に対し、知的財産高等裁判所において決定の一部取消しの判決(平成28年(行ケ)第10278号 平成30年1月15日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり決定する。 
結論 特許第5702494号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第5702494号の請求項1、3、5、7、10ないし13に係る特許を取り消す。 同請求項2、4、6、8、9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
1 特許第5702494号の請求項1?13に係る特許についての出願は,2004年2月2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2003年2月12日 欧州特許庁(EP))を国際出願日として特許出願された特願2006-501997号の一部を平成23年6月7日に新たに特許出願した特願2011-127696号の一部を平成25年12月20日にさらに新たな特許出願とした特願2013-264348号の一部をさらに平成26年7月30日に新たな特許出願(特願2014-155001号)としたものであって,平成27年2月27日に特許の設定登録がされ,同年4月15日にその特許公報が発行された。

2 その特許異議の申立ての期間内である同年10月15日に,その請求項1?13に係る発明の特許に対し,大橋直人(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。

その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年10月15日 特許異議申立書
同年11月20日 手続補正書(特許異議申立人)
平成28年 2月 1日 取消理由通知
同年 4月 1日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 4月26日 訂正拒絶理由通知
同年 6月 8日 意見書(特許権者)
同年 7月 4日 通知書
同年 8月 5日 意見書(特許異議申立人)
同年 8月23日 取消理由通知(決定の予告)
同年10月25日 意見書・訂正請求書(特許権者)

3 特許庁は,平成28年11月18日,「特許第5702494号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。特許第5702494号の請求項1ないし7、9ないし13に係る特許を取り消す。特許第5702494号の請求項8に係る特許を維持する。」との決定(以下「一次決定」という。)をし、その謄本が同年同月29日に特許権者に送達された。

4 特許権者は、平成28年12月28日、決定を不服として知的財産高等裁判所に訴えを提起した(平成28年(行ケ)第10278号)

5 同裁判所は、平成30年1月15日、「1 特許庁が異議2015-700094号事件について平成28年11月18日にした決定のうち,特許第5702494号の請求項2,4,6及び9に係る部分を取り消す。2 原告のその余の請求を棄却する。3 訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の負担とする。」旨の判決(以下「本件決定取消判決」という。)を言渡した
その後本件決定取消判決は確定した。

第2 一群の請求項のうち,本件決定取消判決により確定した請求項以外の請求項についての一次決定の取消しについて
本件決定取消判決の主文は
「1 特許庁が異議2015-700094号事件について平成28年11 月18日にした決定のうち,特許第5702494号の請求項2,4,6 及び9に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の負担とし,その余は原告の 負担とする。」
というものであるところ,本件決定取消判決が確定したことにより,一次決定のうち請求項2,4,6及び9に係る部分についてはその取消しが確定した。そして,訂正の請求がされた一群の請求項である請求項1?13のうち(なお,請求項1?13が一群の請求項であることは下記第3の2(5)で述べるとおりである。),請求項2,4,6及び9に係る部分の取消しが確定したから,特許法第181条第2項の規定により,一群の請求項のうち,その他の請求項1,3,5,7,8,10?13に係る部分について,一次決定を取り消すこととする。

第3 訂正の適否
特許権者は,特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成28年10月25日に訂正請求書を提出し,本件特許の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付した明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1?13について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。なお,平成28年4月1日付けの訂正請求は,特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1に
「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、」とあるのを,
訂正後の請求項1の
「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、」と訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項1に,
「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。」とあるのを,
訂正後の請求項1の
「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。」と訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の明細書の段落【0008】に,
「(1)2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、」とあるのを,
訂正後の明細書の段落【0008】の
「(1)2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、」と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の明細書の段落【0008】に,
「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。」とあるのを,
訂正後の明細書の段落【0008】の
「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。」と訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す」との発明特定事項を「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し」との発明特定事項とするものであり,訂正前の発明特定事項のもののうち,「20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない」ものに限定しているのであるから,明らかに特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項
特許法第120条の5第9項の規定により準用される特許法第126条第5項の規定により,訂正は願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないので,以下検討する。

(ア)特許法第126条第5項の解釈
特許法第126条第5項の訂正要件を満たすか否かは,新規事項か否かの判断基準(平成18年(行ケ)第10563号)に準拠し,当該訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「特許登録時の明細書等」という。)のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したか否かによって判断すべきと解される。

(イ)特許登録時の明細書等の記載
特許登録時の明細書等には以下の事項が記載されている。
(a’)「【請求項1】
2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
但し、2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。」
(b’)「(1)2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。」
(c’)「【0009】
上記結晶多形Aの一つの具体的形態は、例1に示される(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形Aであり、d間隔値(Å)および2θ角度値、について、表1に示したとおりの特徴的なピークを有するX線粉末回折図形を有するものである。なお、表1において、vs=非常に強い強度、s=強い強度、m=中間の強度、w=弱い強度、vw=非常に弱い強度を表す。
【0010】
【表1】


(d’)「【0017】
形態E:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の、本明細書で形態Eと名付けた結晶多形であって、d値(Å)および2θで表して、表5に示したとおりの特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【0018】
【表5】


(e’)「【0023】
粉末X線回折は、Cuのk(α1)放射線(1.54060Å)を用いて、Philips 1710という粉末X線回折計で実施し;2θの角度が±0.1?0.2°の実験誤差で記録される。X線粉末回折図形の理論の考察は、H.P. KlugおよびL.E. Alexanderによる「X-ray diffraction procedures」[J. Wiley, New York (1974)]中に見出すことができる。」
(f’)「【0025】
水性反応媒体は、通常、少なくとも80重量%の水を含有し;好ましくは、それは、水、または前工程からの微量の溶剤および/もしくは反応物を含有する水である。形態Aは、15%までの水、好ましくは約3?12%、より好ましくは9?11%までの水を含有することができる。」
(g’)「【0046】
・・・
[例1](実施例)
【0047】
形態Aの製造
(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸tert-ブチルエステル(ピタバスタチンtert-ブチルエステル)4.15gを、メチルtert-ブチルエーテルおよびメタノールの混合物(10:3)52mlに懸濁させた。この混合物に、NaOHの4M水溶液2.17mlを加え、得られた帯黄色溶液を、50℃で2.5時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、水50mlを加え、更に1時間撹拌した。水相を分離し、メチルtert-ブチルエーテル20mlで1回抽出した。この水溶液に、水80ml中のCaCl_(2)0.58gの溶液を1時間にわたって加えた。
得られた懸濁液を、室温で約16時間撹拌した。懸濁液を、濾過し、得られた固体を、40℃、50mbで約16時間乾燥した。得られた生成物は結晶形態Aであって、図1に示したようなX線粉末回折図形を特徴とする。得られた形態AのFT-IR分光法と結合した熱重量法による更なる特徴付けは、約10%の含水量を明らかにした。示差走査熱量測定は、95℃の融点を明らかにした。」
(h’)「【図1】



(ウ)判断
特許登録時の明細書等には,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す」,「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形Aについて記載されている(摘記a’,b’参照)。
一方,結晶形態Eは,「2θ」として「20.2°」に「vs」のピークを有し(摘記d’参照),X線粉末回折においては,「±0.1?0.2°の実験誤差で記載される。」との記載(摘記e’参照)からみて,「20.2°±0.2°」にピークを有するものである。
そして,結晶多形Aが「2θで表して、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない」ことについては,表1(摘記c’参照)及び図1(摘記g’,h’参照)からみても明かである。
そうすると,訂正後の「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示す」との発明特定事項は,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す」との発明特定事項から,少なくとも結晶形態Eを除外して,その範囲に含まないものにしたものといえ,その技術的な意味が変わるとはいえない。
したがって,訂正後の「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示」すとの発明特定事項については,特許登録時の明細書等に明記はないものの,新たな技術的事項を導入したものとはいえない。

(エ)まとめ
以上のとおりであるから,訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえ,特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更
上記アで述べたように,訂正事項1は特許請求の範囲を減縮するものであり,実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも当たらず,特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は,「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A」との発明特定事項を,「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A」との発明特定事項とするものであり,訂正前の発明特定事項のもののうち,「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)」ものに限定しているのであるから,明らかに特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 新規事項
特許登録時の明細書等には,「形態Aは、15%までの水、好ましくは約3?12%、より好ましくは9?11%までの水を含有することができる。」と記載されている(摘記f’参照)。
そして,実施例で得られた形態Aの結晶は「約10%の含水量」(摘記g’)であり,有効数字を考慮すれば「10.5?10.7%(w/w)の水を含むもの」ものとはいえない。
そうすると,特許登録時の明細書等に,「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)である」との数値範囲が明記されているわけではないが,含水量の上限として15%,下限として9%をそれぞれ自明な事項として導き出すことができ,かつ,その上下限内の「10.5?10.7%(w/w)」の範囲を除外したとしてもその技術的意味が変わるとはいえない。
よって,訂正事項2は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえるから,特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更
上記アで述べたように,訂正事項2は特許請求の範囲を減縮するものであり,実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも当たらず,特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は,明細書の段落【0008】において,特許請求の範囲についての訂正事項1と記載内容を整合させるために,
「(1)2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、」とあるのを,
「(1)2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、」と訂正するものであるから特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項
上記(1)イで述べたとおりであるから,訂正事項3も,新たな技術的事項を導入したものとはいえず,訂正事項3も,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえ,特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更
上記アで述べたように,訂正事項3は特許請求の範囲の訂正に係るものではなく,また,その訂正によって,実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも当たらず,特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は,明細書の段落【0008】において,特許請求の範囲についての訂正事項2と記載内容を整合させるために,
「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。」を,
「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。」と訂正するものであるから特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 新規事項
上記(2)イで述べたとおりであるから,訂正事項4も,新たな技術的事項を導入したものとはいえず,訂正事項4も,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえ,特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更
上記アで述べたように,訂正事項4は特許請求の範囲の訂正に係るものではなく,また,その訂正によって,実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも当たらず,特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1?13については,請求項2?13が請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから,請求項2?13は,訂正事項1,2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであって,当該請求項1?13は特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項であるといえ,本件訂正は一群の請求項である請求項1?13について請求されているから,特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(6)明細書又は図面の訂正に係る請求項について
上述のとおり,訂正事項1,2を含む請求項1?13に係る訂正は,願書に添付した明細書に係る訂正事項3,4と関係し,訂正事項3,4と関係するすべての一群の請求項である請求項1?13が訂正請求の対象とされている。
したがって,本件訂正は,特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

3 まとめ
以上のとおり,訂正事項1?4は,いずれも,特許法第120条の5第2項,第4項の規定に適合するととともに,同法第9項において準用する同法第126条第4項?6項の規定に適合する。
よって,訂正後の請求項1?13に係る本件訂正を認める。

第4 本件発明
上記第3で述べたとおり,本件訂正は認められるから,訂正後の本件特許の請求項1?13に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明13」という。)は,平成28年10月25日付けの訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
但し、2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。
【請求項2】
2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、13.7±0.2°(s)、20.8±0.2°(vs)、24.2±0.2°(s)[ここで、(vs)は非常に強い強度を意味し、(s)は強い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項1に記載の結晶多形A。
【請求項3】
2θで表して、さらに、10.5±0.2°、11.0±0.2°、18.4±0.2°、21.1±0.2°、21.6±0.2°、22.9±0.2°、23.7±0.2°、27.1±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項1に記載の結晶多形A。
【請求項4】
2θで表して、さらに、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、18.4±0.2°(m)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、27.1±0.2°(m)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項2に記載の結晶多形A。
【請求項5】
2θで表して、さらに、10.0±0.2°、14.0±0.2°、14,7±0.2°、16.9±0.2°、19.1±0.2°、25.2±0.2°、30.2±0.2°、34.0±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項3に記載の結晶多形A。
【請求項6】
2θで表して、さらに、10.0±0.2°(w)、14.0±0.2°(w)、14,7±0.2°(w)、16.9±0.2°(w)、19.1±0.2°(w)、25.2±0.2°(w)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項4に記載の結晶多形A。
【請求項7】
2θで表して、さらに、13.3±0.2°、15.9±0.2°、17.1±0.2、29.6±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項5に記載の結晶多形A。
【請求項8】
2θで表して、さらに、13.3±0.2°(vw)、15.9±0.2°(vw)、17.1±0.2°(vw)、29.6±0.2°(vw)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項6に記載の結晶多形A。
【請求項9】
示差走査熱量測定により測定した融点が95℃である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の結晶多形A。
【請求項10】
(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、75?100重量%の請求項1乃至9のいずれか1項に記載の結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩。
【請求項11】
(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、95?100重量%の請求項1乃至9のいずれか1項に記載の結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを用いた医薬組成物。

第5 取消理由
1 特許異議申立人が申し立てた取消理由
特許異議申立人が特許異議申立書及び平成27年11月20日付けの手続補正書で主張した取消理由は以下のとおりである。

[理由1]本件発明1?13の特許は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第1号に該当し,取り消すべきものである。

[理由2]本件発明1?13は,特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって,本件発明1?13に係る特許は,同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである。

[理由3]本件発明1?13は,発明の詳細な説明にその発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって,本件発明1?13に係る特許は,同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである。

[理由4]本件発明1,12は,本件特許出願と同日出願である甲第14号証出願の請求項6,7に係る発明と同一であって,協議をすることができないものであるから,特許法第39条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本件発明1,12に係る特許は,特許法第39条の規定に違反してされたものであるから,同法第113条第2号に該当し,取り消すべきものである。
甲第14号証出願:特願2013-182394号(特許第5445713号)

[理由5]本件発明1は,本件優先日前の外国語出願であって本件優先日後に国際公開がされた下記甲第11号証出願の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許出願の発明者が甲第11号証出願に係る上記発明をした者と同一ではなく,また本件特許出願の時に,その出願人が甲第11号証出願の出願人と同一の者でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。
よって,本件発明1に係る特許は,特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから,同法第113条第2号に該当し,取り消すべきものである。
甲第11号証出願:特願2003-564015号(WO2003/64392号)

2 当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由
当審が平成28年8月23日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

[理由1]本件発明1?7,9?13の特許は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから,同法第113条第1号に該当し,取り消すべきものである。

[理由2]本件発明1?7,9?13は,特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって,本件発明1?7,9?13に係る特許は,同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである。

[理由3]本件発明1?7,9?13は,発明の詳細な説明にその発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから,発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
よって,本件発明1?7,9?13に係る特許は,同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり,同法第113条第4号に該当し,取り消すべきものである。

[理由5]本件発明1,3,5,7,12,13は,本件優先日前の外国語出願であって本件優先日後に国際公開がされた下記甲第11号証出願の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許出願の発明者が甲第11号証出願に係る上記発明をした者と同一ではなく,また本件特許出願の時に,その出願人が甲第11号証出願の出願人と同一の者でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない。
よって,本件発明1,3,5,7,12,13に係る特許は,特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから,同法第113条第2号に該当し,取り消すべきものである。
甲第11号証出願:特願2003-564015号(WO2003/64392号)

[理由A]本件発明1,3,5,7,10?13は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第11号証,刊行物Aに記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
よって,本件発明1,3,5,7,10?13に係る特許は,同法第29条の規定に違反してなされたものであり,同法第113条第2号に該当し,取り消すべきものである。
甲第11号証:特表2005-520814号公報
刊行物A:特表2007-516952号公報

[理由B]本件発明1,3,5,7,10?13は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第11号証,刊行物Bに記載された発明及び本件出願時の技術常識に基いて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,本件発明1,3,5,7,10?13に係る特許は,同法第29条の規定に違反してなされたものであり,同法第113条第2号に該当し,取り消すべきものである。
甲第11号証:特表2005-520814号公報
刊行物A:特表2007-516952号公報(甲第8号証の原出願の公表公報である。)
刊行物B:特開平5-148237号公報
以下の刊行物は,本件出願時の技術常識を示すための文献である。
刊行物C:特開平6-192228号公報
刊行物D:特開平7-53581号公報
刊行物E:特開昭57-91983号公報
刊行物F:特開平6-157565号公報
刊行物G:特開平2-131494号公報
刊行物H:特公平6-13526号公報
刊行物J:第十四改正 日本薬局方解説書,2001年,廣川書店, B-614?B-619頁
刊行物K:芦澤一英編著,医薬品の多形現象と晶析の科学, 2002年9月20日, 丸善プラネット株式会社, 第44?54頁,第431?441頁

第6 取消理由通知に関する当審の判断
当審は,本件発明1,10?13に係る特許については,取消理由Aによって取り消すべきものであり,本件発明1,3,5,7,10?13に係る特許については,取消理由Bによって取り消すべきものと判断する。
また,本件発明1?7,9?13に係る特許については,取消理由1?3によって取り消すべきものとすることはできず,本件発明1,3,5,7,12,13に係る特許については,取消理由5によって取り消すべきものとすることはできないと判断する。

その理由は,以下のとおりであるが,本件特許出願の出願日を確定するため,まず,分割出願の適否について判断し,その後,事案に鑑み,取消理由1,2,3,A,B,5の順に判断する。

1 分割出願の適否について
(1)分割出願の適否の解釈
分割出願が適法であるための実体的要件としては,(i)もとの出願の明細書,特許請求の範囲の記載又は図面に二以上の発明が包含されていたこと,(ii)新たな出願に係る発明はもとの出願の明細書,特許請求の範囲の記載又は図面に記載された発明の一部であること,(iii)新たな出願に係る発明は,もとの出願の出願当初の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内であることを要する。なお,本件出願が特願2006-501997号の出願時にしたものとみなされるためには,本件出願,特願2011-127696号の出願及び特願2013-264348号の出願(以下「原出願」という。)が,それぞれ,もとの出願との関係で,上記分割の要件(i)ないし(iii)を満たさなければならない。
そこで,本件発明1は,原出願の出願当初の明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「原出願の出願当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内にあり,上記分割の要件(iii)を満たすかについて検討する。

(2)原出願の出願当初明細書等の記載事項
原出願の出願当初明細書等には,以下の事項が記載されている。

(1a)「【0001】
本発明は、ピタバスタチン(Pitavastatin)カルシウムの新規なアモルファス形態の製造方法、ピタバスタチンカルシウムの新規なアモルファス形態、及びそのアモルファス形態を含む医薬組成物を対象とする。」
(1b)「【0009】
ここに、本発明者らは、ピタバスタチンカルシウムの、本明細書では形態A、B、C、D、EおよびFと名付けた新規な結晶質形態、ならびにピタバスタチンカルシウムのアモルファス形態を、驚異的にも見出した。
本発明は、ピタバスタチンカルシウム塩(2:1)のアモルファス形態を対象とし、下記を特徴とする要旨を有するものである。
【0010】
(1)2θで表して、5.0(s)、6.8(s)、9.1(s)、10.0(w)、10.5(m)、11.0(m)、13.3(vw)、13.7(s)、14.0(w)、14.7(w)、15.9(vw)、16.9(w)、17.1(vw)、18.4(m)、19.1(w)、20.8(vs)、21.1(m)、21.6(m)、22.9(m)、23.7(m)、24.2(s)、25.2(w)、27.1(m)、29.6(vw)、30.2(w)、34.0(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
(2)実質的に図1に示したとおりのX線粉末回折図形を有する、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。・・・
【0013】
粉末X線回折は、Cuのk(α1)放射線(1.54060Å)を用いて、Philips 1710という粉末X線回折計で実施し;2θの角度が±0.1?0.2°の実験誤差で記録される。X線粉末回折図形の理論の考察は、H.P. KlugおよびL.E. Alexanderによる「X-ray diffraction procedures」[J. Wiley, New York (1974)]中に見出すことができる。」
(1c)「【0014】
なお、本発明の(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩のアモルファス形態ではない、かかる化合物のの結晶形態としては、以下のA,B、C、D、EおよびFと名付けた結晶形態がある。
形態A:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の、本明細書で形態Aと名付けた結晶多形であって、d値(Å)および2θで表して、表1に示したとおりの特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す(vs=非常に強い強度、s=強い強度、m=中間の強度、w=弱い強度、vw=非常に弱い強度)。
【0015】
【表1】


(1d)「【0022】
形態E:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の、本明細書で形態Eと名付けた結晶多形であって、d値(Å)および2θで表して、表5に示したとおりの特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【0023】
【表5】

・・・
【0025】・・・ 実験的詳細中の少々の変更は、X線粉末回折図形の特徴的なピークのd値および2θに小さな偏差を生じる可能性がある。」
(1e)「【0026】
次に、ピタバスタチンナトリウムの形態A、B、C、D、EおよびFとともに、本発明のアモルファス形態の製造方法について説明する。
【0027】
形態Aは、一般的には、ピタバスタチンナトリウムから、水性反応媒体中でCaCl_(2)と反応させて製造することができる。これに代えて、本発明の形態Aは、好都合にはやはり水性反応媒体中で、遊離酸((3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸)または対応するラクトンとCa(OH)_(2)から、in-situで得てもよい。
【0028】
水性反応媒体は、通常、少なくとも80重量%の水を含有し;好ましくは、それは、水、または前工程からの微量の溶剤および/もしくは反応物を含有する水である。形態Aは、15%までの水、好ましくは約3?12%、より好ましくは9?11%までの水を含有することができる。」
(1f)「【0049】
[例1](参考例)
形態Aの製造
(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸tert-ブチルエステル(ピタバスタチンtert-ブチルエステル)4.15gを、メチルtert-ブチルエーテルおよびメタノールの混合物(10:3)52mlに懸濁させた。この混合物に、NaOHの4M水溶液2.17mlを加え、得られた帯黄色溶液を、50℃で2.5時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、水50mlを加え、更に1時間撹拌した。水相を分離し、メチルtert-ブチルエーテル20mlで1回抽出した。この水溶液に、水80ml中のCaCl_(2)0.58gの溶液を1時間にわたって加えた。
得られた懸濁液を、室温で約16時間撹拌した。懸濁液を、濾過し、得られた固体を、40℃、50mbで約16時間乾燥した。得られた生成物は結晶形態Aであって、図1に示したようなX線粉末回折図形を特徴とする。得られた形態AのFT-IR分光法と結合した熱重量法による更なる特徴付けは、約10%の含水量を明らかにした。示差走査熱量測定は、95℃の融点を明らかにした。」
(1g)「【図1】



(3)原出願の出願当初明細書等に記載された結晶多形Aに関する事項
ア 原出願の出願当初明細書等にいう結晶多形Aは,原出願の出願当初明細書等において名付けられたものである(【0009】【0014】)。
イ そして,原出願の出願当初明細書等【0010】は,結晶多形Aに該当する具体的な結晶多形として,【0010】(1)は,2θで表して,【0015】の【表1】に記載された角度において,同記載のとおりの相対強度でピークを有する特徴的なX線粉末回析図形(以下「26個無偏差相対強度図形」ということがある。なお,上記【0015】の【表1】は本件明細書の【0010】の【表1】と同じである。)を示す,ピタバスタチンカルシウムの結晶多形を挙げ,また,【0010】(2)は,「実質的」に【図1】に示したとおりのX線粉末回析図形を有する,ピタバスタチンカルシウムの結晶多形を挙げるにとどまる。
ここで,【0010】(2)に挙げられた結晶多形は,「実質的」に【図1】で示したとおりのX線粉末回析図形を示すピタバスタチンカルシウムの結晶多形であるところ,「実質的」とは,対象をより抽象化する場合に用いられる表現であること,原出願の出願当初明細書等【0013】【0025】には偏差に関する記載があることからすれば,【0010】(2)に挙げられた結晶多形は,【図1】で示したとおりのX線粉末回析図形を示すピタバスタチンカルシウムの結晶多形及び【図1】に若干の偏差を有するX線粉末回析図形を示すピタバスタチンカルシウムの結晶多形を意味するというべきである。
そうすると,原出願の出願当初明細書等【0010】の記載は,結晶多形Aに該当する具体的な結晶多形として,26個無偏差相対強度図形,【図1】で示したとおりのX線粉末回析図形又は【図1】に若干の偏差を有するX線粉末回析図形を示すピタバスタチンカルシウムの結晶多形を説明するにとどまるということができる。
ウ また,原出願の出願当初明細書等【0014】の記載は,結晶多形Aの具体的な形態として,26個無偏差相対強度図形を示すピタバスタチンカルシウムの結晶多形を特定して説明するものである。
エ さらに,原出願の出願当初明細書等には,本件出願当初明細書【0009】や本件明細書【0009】のように,26個無偏差相対強度図形等を示すピタバスタチンカルシウムの結晶多形が,原出願の出願当初明細書等において規定される結晶多形Aの具体的な態様の一つであることを窺わせる記載はない。
オ したがって,原出願の出願当初明細書等には,結晶多形Aとして,26個無偏差相対強度図形,【図1】又はそれに若干の偏差を有するX線粉末回析図形を示すピタバスタチンカルシウムの結晶多形しか記載されていないというべきである。

(4) 分割の要件(iii)の充足の有無
本件発明1は,2θで表して,5.0±0.2°,6.8±0.2°,9.1±0.2°,13.7±0.2°,20.8±0.2°,24.2±0.2°に特徴的なピークを有し,20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない,特徴的なX線粉末回折図形を示すこと等により特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形であるところ,原出願の出願当初明細書等には,結晶多形Aとして,このような結晶多形は記載されておらず,結晶多形Aと名付けられた結晶多形以外の結晶多形としても,このような結晶多形が記載されているということはできない。
したがって,本件発明1は,原出願の出願当初明細書等に記載された事項の範囲内にあるということはできず,前記(1)で示した分割の要件(iii)は満たさない。

(5)特許権者の主張について
特許権者による,平成28年4月1日付け及び同年10月25日付けの意見書での分割の適否についての主張は,概略,当業者であれば,原出願の出願当初明細書等に,2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示す結晶多形Aが記載されていると理解できるというものである。
しかし,原出願の出願当初明細書等にいう結晶多形Aは,原出願の出願当初明細書等において名付けられたものであって,原出願の当初明細書等に結晶多形Aとして説明される結晶多形は,26個無偏差相対強度図形等を示すピタバスタチンカルシウムの結晶多形である。26個無偏差相対強度図形のうち,比較的相対強度の強い6個においてピークを確認できる結晶多形が,原出願の出願当初明細書等に開示された結晶多形Aであると同定できたとしても,原出願の出願当初明細書等において開示された結晶多形Aは,26個無偏差相対強度図形のうち,比較的相対強度の強い6個においてピークを確認できる結晶多形ではない。特許権者の主張は,原出願の出願当初明細書等の記載に基づくものではなく,採用できない。

(6) 小括
以上によれば,本件発明1は,原出願の出願当初明細書等に記載された事項の範囲内であるということはできず,前記(1)で示した分割の要件(iii)を満たさない。したがって,本件発明1に係る本件出願は,原出願の一部を新たに特許出願とするものではないから,その出願日は平成26年7月30日となる。
以下,本件特許出願はこの出願日に出願されたものとして,取消理由を判断する。

2 理由1について
(1)新規事項の解釈
明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「出願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ(特許法17条の2第3項),補正が,当業者によって,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものということができる。

(2)取消理由通知(決定の予告)における理由1の概要
取消理由通知(決定の予告)における理由1の概要は,平成26年12月26日付けの手続補正で補正され,本件訂正によってさらに訂正された特許請求の範囲について,「出願当初明細書等には,一応,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である結晶多形A」は記載されているといえるが,
「2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるもの」を除いたものについて記載されているとはいえない。
本件発明1を限定する本件発明2?7,9及び本件発明1を含む本件発明10?13も同様の理由により,出願当初明細書等に記載されているとはいえないし,また,その記載事項を総合しても導くことができるとも認められない。」というものである。
なお,特許異議申立人は本件発明8についても新規事項追加の取消理由を主張しているので,以下では本件発明1を限定する本件発明8も併せて検討する。

(3)判断
「2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。」(以下「除く事項」という。)を追加する補正は,本件出願時の特許請求の範囲の請求項1で特定される結晶多形Aから,除く事項で特定される結晶多形Aを除くものである。
そこで,本件出願時の特許請求の範囲の請求項1で特定される結晶多形Aから,除く事項で特定される結晶多形Aを除くものが,本件出願の出願当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれるかについて,検討する。

ア 本件出願の出願当初明細書等から導かれる技術的事項
(ア)本件出願の出願当初明細書等の記載
本件出願の出願当初明細書等には以下の記載がある。
(a)「【請求項1】
2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%である(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。」
(b)「【0007】
・・・本発明者らは、ピタバスタチンカルシウムの、本明細書では形態A、B、C、D、EおよびFと名付けた新規な結晶質形態、ならびにピタバスタチンカルシウムのアモルファス形態を、驚異的にも見出した。
【0008】
本発明は、ピタバスタチンカルシウム塩(2:1)の結晶多形を対象とし、下記の(1)?(10)に記載の本明細書で形態Aと名付けた結晶多形A、該結晶多形Aを含むヘミカルシウム塩及び医薬組成物にある。
(1)2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%である(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
・・・
(5)2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、10.0±0.2°、10.5±0.2°、11.0±0.2°、13.3±0.2°、13.7±0.2°、14.0±0.2°、14.7±0.2°、15.9±0.2°、16.9±0.2°、17.1±0.2°、18.4±0.2°、19.1±0.2°、20.8±0.2°、21.1±0.2°、21.6±0.2°、22.9±0.2°、23.7±0.2°、24.2±0.2°、25.2±0.2°、27.1±0.2°、29.6±0.2°、30.2±0.2°、34.0±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%である(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
・・・
【0009】
上記結晶多形Aの一つの具体的形態は、例1に示される(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形Aであり、d間隔値(Å)および2θ角度値、について、表1に示したとおりの特徴的なピークを有するX線粉末回折図形を有するものである。なお、表1において、vs=非常に強い強度、s=強い強度、m=中間の強度、w=弱い強度、vw=非常に弱い強度を表す。」
(c)「【0021】
実験的詳細中の少々の変更は、X線粉末回折図形の特徴的なピークのd値および2θに小さな偏差を生じる可能性がある。
・・・
【0023】
粉末X線回折は、Cuのk(α1)放射線(1.54060Å)を用いて、Philips 1710という粉末X線回折計で実施し;2θの角度が±0.1?0.2°の実験誤差で記録される。・・・」
(d)「【0047】
形態Aの製造
(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸tert-ブチルエステル(ピタバスタチンtert-ブチルエステル)4.15gを、メチルtert-ブチルエーテルおよびメタノールの混合物(10:3)52mlに懸濁させた。この混合物に、NaOHの4M水溶液2.17mlを加え、得られた帯黄色溶液を、50℃で2.5時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、水50mlを加え、更に1時間撹拌した。水相を分離し、メチルtert-ブチルエーテル20mlで1回抽出した。この水溶液に、水80ml中のCaCl_(2)0.58gの溶液を1時間にわたって加えた。
得られた懸濁液を、室温で約16時間撹拌した。懸濁液を、濾過し、得られた固体を、40℃、50mbで約16時間乾燥した。得られた生成物は結晶形態Aであって、図1に示したようなX線粉末回折図形を特徴とする。得られた形態AのFT-IR分光法と結合した熱重量法による更なる特徴付けは、約10%の含水量を明らかにした。示差走査熱量測定は、95℃の融点を明らかにした。」
(e)「【図1】
(摘記1gと同じなので摘記は省略する。)」

(イ)本件出願の出願当初明細書等に開示された結晶多形Aに関する技術的事項
a 本件出願の出願当初明細書等にいう結晶多形Aは,本件出願の出願当初明細書等において名付けられたものである(【0007】)。
b そして,本件出願の出願当初明細書等【0008】には,結晶多形Aに該当する具体的な結晶多形として,【0008】(1)は,本件出願時の特許請求の範囲の請求項1で特定される結晶多形を挙げるほか,【0008】(5)は,2θで表して,除く事項で特定されるのと同様の26個の角度において,ピークを有する特徴的なX線回析図形を示し,FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を挙げており,後者の結晶多形は,除く事項で特定される結晶多形を含むものである。このように,本件出願の出願当初明細書等【0008】の記載は,結晶多形Aには,除く事項で特定される結晶多形だけではなく,本件出願時の特許請求の範囲の請求項1で特定される結晶多形も,該当する旨説明するものである。
c また,本件出願の出願当初明細書等【0009】は,「結晶多形Aの一つの具体的形態」として,2θで表して,除く事項で特定されるのと同様の26個無偏差相対強度図形を示す結晶多形を例示しており,この結晶多形は,除く事項で特定される結晶多形を含むものである。そうすると,本件出願の出願当初明細書等【0009】の記載は,除く事項で特定される結晶多形は,結晶多形Aの具体的な態様の一つである旨説明するものである。
d さらに,本件出願の出願当初明細書等【0047】には,【0047】に記載された製造方法によって,結晶多形Aが得られること,当該結晶多形AのX線粉末回析図形は,除く事項と同様の26個無偏差相対強度図形を示したことが記載されている。本件出願の出願当初明細書等【0047】の記載は,特定の製造方法によって生成された結晶多形AのX線粉末回析図形を説明するにとどまり,除く事項で特定される結晶多形のみが結晶多形Aである旨説明するものではない。
e したがって,本件出願の出願当初明細書等の記載を総合すれば,除く事項で特定される結晶多形Aだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲の請求項1で特定される結晶多形Aも,導くことができる。

新規事項の追加の有無
本件出願の出願当初明細書等の記載を総合すれば,除く事項で特定される結晶多形Aだけではなく,本件出願時の特許請求の範囲の請求項1で特定される結晶多形Aも,導くことができるから,本件出願時の特許請求の範囲の請求項1で特定される結晶多形Aから,除く事項で特定される結晶多形Aを除くものを,本件出願の出願当初明細書等の全ての記載を総合することにより導くことができるというべきである。
したがって,本件出願時の特許請求の範囲の請求項1に,除く事項を追加する補正は,新たな技術的事項を導入するものではなく,本件出願の出願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。

ウ 小括
以上のとおりであるから,本件発明1?13の特許は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるということはできず,取り消すべきものであるということはできない。

3 理由2について
(1)特許法第36条第6項第1号の解釈
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。

(2)取消理由通知(決定の予告)における理由2の概要
取消理由通知(決定の予告)における理由2の概要は,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。」として,
「2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるもの」以外のものが記載されているとはいえない。
また,上記の2θが26個のピーク及びその相対強度で特定された結晶多形A以外に,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A」としてどのような結晶多形が存在するかについては,発明の詳細な説明に記載されていないし,そのような結晶をどのようにして製造することができるかも記載されていないから,本件発明1の課題を解決できると当業者が理解できるものということもできない。
よって,本件発明1は,特許請求の範囲に記載される特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものといえない。
また,本件発明2?7,9も本件発明1と同様に,上記の2θが26個のピーク及びその相対強度で特定された結晶多形A以外のものを含むものであるから,同様の理由により発明の詳細な説明に記載されているとはいえないし,本件発明10?13も本件発明1を含むものである以上同様の理由により発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。」というものである。
なお,特許異議申立人は本件発明8についてもサポート要件違反の取消理由を主張しているので,以下では本件発明8も併せて検討する。

(3)特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の記載は,上記「第4」で示したとおりである。

(4)発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。
(a’’)「【0001】
本発明は、ピタバスタチン(Pitavastatin)カルシウムの新規な結晶質形態A、その結晶質形態Aを含むピタバスタチンカルシウム塩、ならびにその結晶質形態Aを含む医薬組成物を対象とする。
・・・
【0004】
ピタバスタチンカルシウムは、新規な、化学的に合成された、強力なスタチンとして、興和化学株式会社(日本国)が最近開発した。報告されたデータによると、ピタバスタチンの薬効は、用量依存性であり、アトルバスタチンのそれと同等であると思われる。この新規スタチンは、安全であり、高コレステロール血症の患者の処置に充分に許容される。他の数多くの一般的に用いられる薬物との有意な相互作用は、極めて低いと考えることができる。」
(b’’)「【0006】
ピタバスタチンカルシウムの製造の完全な合成手順は、EP-A-0520406に記載されている。この特許に記載された方法では、ピタバスタチンカルシウムは、水溶液からの沈澱によって、融点が190?192℃の白色結晶質材料として得られる。薬学的物質は、多形を示せることが知られている。多形は、一般的には、何らかの物質が異なる二つ以上の結晶構造を有し得ることとして定義される。また薬物物質は、晶出したとき、溶媒分子を包摂することがある。これらの溶媒和物または水和物は、偽多形と呼ばれる。アモルファス形態に出会うこともあり得る。異なる多形、偽多形またはアモルファス形態は、融点、溶解度等々のようなその物理的特性が異なる。これらは、溶解速度および生物学的利用率のような薬学的特性に認め得るほどに影響することができる。」

(c’’)「【0007】
生成物が、特殊化された貯蔵条件を必要とせずに長期にわたって安定的であることも、経済的に望ましい。そのため、薬物物質の多形を評価することが重要である。更に、薬物の新規な結晶多形形態の発見は、それによって、処方科学者が、ある薬物の、標的とする放出像その他の望ましい特徴を有する薬学的剤型を設計しようとする、材料の目録を拡大する。ここに、本発明者らは、ピタバスタチンカルシウムの、本明細書では形態A、B、C、D、EおよびFと名付けた新規な結晶質形態、ならびにピタバスタチンカルシウムのアモルファス形態を、驚異的にも見出した。」
(d’’)「【0008】
・・・
(1)2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
但し、2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。
(2)2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、13.7±0.2°(s)、20.8±0.2°(vs)、24.2±0.2°(s)[ここで、(vs)は非常に強い強度を意味し、(s)は強い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(1)に記載の結晶多形A。
(3)2θで表して、さらに、10.5±0.2°、11.0±0.2°、18.4±0.2°、21.1±0.2°、21.6±0.2°、22.9±0.2°、23.7±0.2°、27.1±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(1)に記載の結晶多形A。
(4)2θで表して、さらに、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、18.4±0.2°(m)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、27.1±0.2°(m)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(2)に記載の結晶多形A。
(5)2θで表して、さらに、10.0±0.2°、14.0±0.2°、14,7±0.2°、16.9±0.2°、19.1±0.2°、25.2±0.2°、30.2±0.2°、34.0±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(3)に記載の結晶多形A。
(6)2θで表して、さらに、10.0±0.2°(w)、14.0±0.2°(w)、14,7±0.2°(w)、16.9±0.2°(w)、19.1±0.2°(w)、25.2±0.2°(w)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(4)に記載の結晶多形A。
(7)2θで表して、さらに、13.3±0.2°、15.9±0.2°、17.1±0.2、29.6±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(5)に記載の結晶多形A。
(8)2θで表して、さらに、13.3±0.2°(vw)、15.9±0.2°(vw)、17.1±0.2°(vw)、29.6±0.2°(vw)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(6)に記載の結晶多形A。
(9)示差走査熱量測定により測定した融点が95℃である、上記(1)乃至(8)のいずれか1項に記載の結晶多形A。
(10)(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、75?100重量%の上記(1)乃至(9)のいずれか1項に記載の結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩。
(11)(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、95?100重量%の上記(1)乃至(9)のいずれか1項に記載の結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩。
(12)上記(1)乃至(11)のいずれか1項に記載の結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物。
(13)上記(1)乃至(11)のいずれか1項に記載の結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを用いた医薬組成物。」
(e’’)【0009】(摘記bの【0009】と同じなので摘記は省略する。)
(f’’)【0021】,【0023】(摘記cと同じなので摘記は省略する。)
(g’’)【0047】(摘記dと同じなので摘記は省略する。)
(h’’)【図1】(摘記eと同じなので摘記は省略する。)

(5)本件発明1について
ア 本件明細書に記載された発明
本件明細書にいう結晶多形Aは,本件明細書において名付けられたものである(【0007】)。そして,本件明細書【0008】の記載は,結晶多形Aには,上記除く事項で特定される結晶多形(【0008】(1)(2)(4)(6)(8)(なお,(2),(4),(6),(8)では強度をs,vs,m,w,vwで特定している。))だけではなく,請求項1の発明特定事項をすべて含む結晶多形(【0008】(1))も,該当する旨説明するものである。また,本件明細書【0009】の記載は,除く事項で特定される結晶多形は,結晶多形Aの具体的な態様の一つである旨説明するものである。さらに,本件明細書【0047】の記載は,特定の製造方法によって生成された結晶多形AのX線粉末回析図形を説明するにとどまり,除く事項で特定される結晶多形のみが結晶多形Aである旨説明するものではない。
したがって,本件明細書には,除く事項で特定される結晶多形Aだけではなく,本件発明1で特定される結晶多形Aも記載されている。よって,本件発明1は,本件明細書に記載された発明である。

イ 課題の解決
(ア)本件発明1の課題
前記(4)のとおり,本件明細書には,ピタバスタチンカルシウムは高コレステロール血症の患者の処置に用いられ,その異なる多形は,薬学的特性に影響を与えるところ,本件発明1は,請求項1に記載された事項で特定されるピタバスタチンカルシウムの新規な結晶多形を見出したものであると説明されている。
したがって,本件発明1の課題は,請求項1に記載された事項で特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を提供するものということができる。
(イ)課題解決手段
本件明細書【0047】には,【0047】に記載された製造方法によって,26個無偏差相対強度図形を示し,FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が約10%であるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を製造した旨記載されている。そして,本件明細書【0021】【0023】には偏差に関する記載がある。
そうすると,当業者は,本件明細書の記載から,除く事項の中で特定されているX線粉末回折図形(以下「26個偏差内相対強度図形」ということがある。)を示し,FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が約10%であるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を製造できると認識することができる。
そして,【0047】に記載された製造方法の乾燥条件を変更することで,含水量が約10%の上記結晶多形ではなく,10.5%(w/w)を下回る結晶多形や,10.7%(w/w)を上回る結晶多形を製造できることを,当業者は,技術常識に照らして認識することができる。
また,粉末X線回折法において,各ピークの相対強度の変動幅が比較的大きく,このため,相対強度が比較的小さいピークについては明確には測定できない場合もあり得ることは,本件出願当時の当業者の技術常識である(第十六改正日本薬局方解説書,東京廣川書店,2011年,B-376頁には,「同一結晶形の試料と基準となる物質・・・しかしながら,試料と基準となる物質間の相対的強度は選択配向効果のためかなり変動することがある.」との記載,B-379頁の注6には,「一方,測定試料によっては配向,粉砕による結晶性の低下,ロット間による晶癖の違い,選択的劈開などが原因となって,同一結晶間でも相対強度の差が20%より大きくなる場合がまれに生じる.」との記載がある。)。したがって,当業者は,X線粉末回析図形について,【0047】に記載された製造方法によっても,除く事項の26個偏差内相対強度図形を示すとは限らないことを,技術常識に照らして認識することができる。
したがって,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,当業者は,26個偏差内相対強度図形以外を示す請求項1に記載された事項で特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を製造できると認識することができる。
(ウ)よって,当業者は,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,請求項1に記載された事項で特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を提供するという本件発明1の課題を解決できると認識できるというべきである。

(6)本件発明2?9について
上記(5)と同様に検討するに,本件発明2?9の課題は,それぞれ請求項2?9に記載された事項で特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を提供するものということができるところ,本件明細書【0008】の記載は,結晶多形Aには,本件発明2?9で特定される結晶多形(【0008】(2)ないし(9))も,該当する旨説明するものであるから,上記(5)アで述べたのと同様の理由により,本件発明2?9で特定される結晶多形Aも記載されているといえ,上記(5)イで述べたのと同様の理由により,当業者は,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,請求項2?9に記載された事項で特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を提供するという本件発明2?9の課題を解決できると認識できるというべきである。

(7)本件発明10,11について
上記(5)と同様に検討するに,本件発明10,11の課題は,それぞれ請求項10,11に記載された事項で特定される,本件発明1?9の結晶多形Aのいずれかを含むヘミカルシウム塩を提供するものということができるところ,本件明細書【0008】の記載は,結晶多形Aには,本件発明1?9で特定される結晶多形(【0008】(1)ないし(9))も,該当する旨説明するものであるから,上記(5)アで述べたのと同様の理由により,本件発明1?9で特定される結晶多形Aのいずれかを含むヘミカルシウム塩も記載されているといえ,上記(5)イで述べたのと同様の理由により,当業者は,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,請求項10,11に記載された事項で特定される,本件発明1?9の結晶多形Aのいずれかを含むヘミカルシウム塩を提供するという本件発明10,11の課題を解決できると認識できるというべきである。

(8)本件発明12,13について
上記(5)と同様に検討するに,本件発明12,13の課題は,それぞれ請求項12に記載された事項で特定される,本件発明1?11の結晶多形Aのいずれかを含む医薬組成物を提供するもの,請求項13に記載された事項で特定される,本件発明1?11の結晶多形Aのいずれかを用いた医薬組成物を提供するものということができるところ,本件明細書【0008】の記載は,結晶多形Aには,本件発明1?11で特定される結晶多形(【0008】(1)ないし(11))も,該当する旨説明するものであるから,上記(5)アで述べたのと同様の理由により,本件発明1?11で特定される結晶多形Aのいずれかを含む医薬組成物及び本件発明1?11で特定される結晶多形Aのいずれかを用いた医薬組成物も記載されているといえ,上記(5)イで述べたのと同様の理由により,当業者は,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,請求項12に記載された事項で特定される,本件発明1?11の結晶多形Aのいずれかを含む医薬組成物を提供する,請求項13に記載された事項で特定される,本件発明1?11の結晶多形Aのいずれかを用いた医薬組成物を提供する,という本件発明12,13の課題を解決できると認識できるというべきである。

(9)小括
以上によれば,本件発明1?13は,本件明細書に記載された発明で,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,本件発明1?13の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから,本件発明1?13の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合するものである。
よって,本件発明1?13に係る特許は,同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものということはできず,取り消されるべきものとすることはできない。

4 理由3について
(1)実施可能要件の解釈
物の発明について実施可能要件を充足するためには,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その物を製造し,使用することができる程度の記載があることを要する。

(2)取消理由通知(決定の予告)における理由3の概要
取消理由通知(決定の予告)における理由3の概要は,「本件発明1に係る「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
但し、2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。」を製造することについては何ら記載がない。
そして,実施例に示される相対強度要件を満たさない結晶多形Aを具体的にどのように実施例の製造条件から変更することで,実施例に示される相対強度を満たさない結晶多形Aを作り分けることができるのか,そのような製造条件を見出すには当業者といえども過度の試行錯誤を要するものといわざるを得ない。
よって,本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
また,本件発明2?7,9も本件発明1と同様に,「但し、2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。」との発明特定事項を含むものであるから,本件発明1と同様に,発明の詳細な説明にその発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
さらに,本件発明1を含む本件発明10?13も同様の理由により,発明の詳細な説明にその発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。」というものである。

なお,特許異議申立人は本件発明8についても実施可能要件違反の取消理由を主張しているので,以下では本件発明8も併せて検討する。

(3)発明の詳細な説明の記載
上記3(4)に記載したとおりである。

(4)判断
ア 本件発明1について
前記3(5)イ(イ)のとおり,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,当業者は,26個偏差内相対強度図形以外を示す請求項1に記載された事項で特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を製造できると認識できる。したがって,当業者は,本件明細書の記載及び技術常識とに基づいて,請求項1に記載された事項で特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形を,過度の試行錯誤を要することなく,製造することができる。
また,本件明細書【0004】には,ピタバスタチンカルシウムは「安全であり,高コレステロール血症の患者の処置に充分に許容される」と記載されており,本件発明1は,その新規な結晶形態であるから,当業者は,本件明細書の記載及び技術常識とに基づいて,本件発明1を,過度の試行錯誤を要することなく,使用することができる。

イ 本件発明2?13について
前記3(5)イ(イ),(6)?(8)から明らかなとおり,本件明細書の記載及び技術常識に照らし,当業者は,請求項2?9に記載された事項で特定されるピタバスタチンカルシウムの結晶多形,請求項10,11に記載された事項で特定されるヘミカルシウム塩,請求項12,13に記載された事項で特定される医薬組成物を製造できると認識できる。したがって,当業者は,本件明細書の記載及び技術常識とに基づいて,これら請求項に係る本件発明2?13の物を,過度の試行錯誤を要することなく,製造することができる。
また,本件明細書【0004】には,ピタバスタチンカルシウムは「安全であり,高コレステロール血症の患者の処置に充分に許容される」と記載されており,本件発明2?9は,その新規な結晶多形であり,本件発明10,11は請求項10,11で特定される量の該結晶多形を含むヘミカルシウム塩であり,本件発明12は該結晶多形のいずれかの有効量と,薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物であり,本件発明13は該結晶多形のいずれかの有効量と,薬学的に許容され得る担体を用いた医薬組成物であるから,当業者は,本件明細書の記載及び技術常識とに基づいて,本件発明2?13を,過度の試行錯誤を要することなく,使用することができる。

(5)小括
以上によれば,本件発明1?13に係る本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明1?13の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものであるから,実施可能要件を満たす。したがって,本件各発明に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合する。
よって,本件発明1?13に係る特許は,同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものとはいえず,取り消されるべきものであるとすることはできない。

5 理由Aについて
取消理由通知(決定の予告)で通知した理由Aは,本件発明1,12,13は刊行物A及び甲第11号証に記載された発明であり,本件発明3,5及び7は甲第11号証に記載された発明であり,本件発明10,11は刊行物Aに記載された発明であることを根拠とするものである。

(1)刊行物及び証拠の記載事項
ア 刊行物Aの記載事項
本件出願日前に頒布された刊行物Aには以下の事項が記載されている。
(Aa)「【請求項1】
式(1)
【化1】

で表される化合物であり、5?15%の水分を含み、CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において、30.16°の回折角(2θ)に、相対強度が25%より大きなピークを有することを特徴とする結晶(結晶性形態A)。」
(Ab)「【請求項4】
請求項1に記載の結晶(結晶性形態A)を含有することを特徴とする医薬組成物。」
(Ac)「【0001】
本発明は、HMG-CoA還元酵素阻害剤として高脂血症の治療に有用な、化学名 Monocalciumbis[(3R,5S,6E)-7-(2-cyclopropyl-4-(4-fluorophenyl)-3-quinolyl)-3,5-dihydroxy-6-heptenoate]によって知られている結晶性形態のピタバスタチンカルシウム、その製造法、及びこの該化合物と医薬的に許容し得る担体を含有する医薬組成物に関するものである。」
(Ad)「【0008】
医薬品の原薬としては、高品質及び保存上から安定な結晶性形態を有することが望ましく、さらに大規模な製造にも耐えられることが要求される。ところが、従来のピタバスタチンカルシウムの製造法においては、水分値や結晶形に関する記載が全くない。ピタバスタチンカルシウム(結晶性形態A)に、一般的に行なわれるような乾燥を実施すると、乾燥前は、図1で示すような粉末X線回折図示したものが、水分が4%以下になったところで図2に示すようにアモルファスに近い状態まで結晶性が低下することが判明した。さらに、アモルファス化したピタバスタチンカルシウムは表1に示す如く、保存中の安定性が極めて悪くなることも明らかとなった。」
(Ae)「【0016】
結晶性形態Aのピタバスタチンカルシウムは、その粉末X線回折パターンによって特徴付けることができる。
────────────────────────────────
回折角(2θ) d-面間隔 相対強度
(°) (>25%)
────────────────────────────────
4.96 17.7999 35.9
6.72 13.1423 55.1
9.08 9.7314 33.3
10.40 8.4991 34.8
10.88 8.1248 27.3
13.20 6.7020 27.8
13.60 6.5053 48.8
13.96 6.3387 60.0
18.32 4.8386 56.7
20.68 4.2915 100.0
21.52 4.1259 57.4
23.64 3.7604 41.3
24.12 3.6866 45.0
27.00 3.2996 28.5
30.16 2.9607 30.6
────────────────────────────────
装置
粉末X線回折測定装置:MXLabo(マックサイエンス製)
線源:Cu、波長:1.54056A、ゴニオメータ:縦型ゴニオメータ
モノクロメータ:使用、補助装置:なし、管電圧:50.0Kv、管電流:30.0mA
測定方法:
測定前に、シリコン(標準物質)を用いてX-線管アラインメントを検査する。
試料約100mgをガラス試料板にのせ平坦にした後、以下の条件にて測定する。
データ範囲:3.0400?40.0000deg、データ点数:925
スキャン軸:2θ/θ、θ軸角度:設定なし
サンプリング間隔:0.0400deg、スキャン速度:4.800deg/min
本発明は、また、ピタバスタチンカルシウムを結晶性形態Aに制御するための製造法を提供する。」
(Af)「【0030】
実施例1
【0031】
【化8】

【0032】
2.71kg(6.03mol)の化合物(5)を、50kgのエタノールに撹拌しながら溶解し、均一溶液であることを確認した上で、58.5kgの水を加えた。-3?3℃に冷却した後、2mol/リットル(L)水酸化ナトリウム水溶液の3.37Lを滴下した後、続けて同温度で3時間撹拌し、加水分解反応を完結させた。全量の水酸化ナトリウム水溶液を反応系に送り込むため、4.70kgの水を使用した。
【0033】
反応混合物を減圧下に蒸留して溶媒を留去し、52.2kgのエタノール/水を除去後、内温を10?20℃に調整した。得られた濃縮液中に、別途調製しておいた塩化カルシウム水溶液(95%CaCl_(2) 775g/水39.3kg、6.63mol)を2時間かけて滴下した。全量の塩化カルシウム水溶液を反応系に送り込むため、4.70kgの水を使用した。滴下終了後、同温度で12時間撹拌を継続し、析出した結晶を濾取した。結晶を72.3kgの水で洗浄後、乾燥器内で減圧下40℃にて、品温に注意しながら、水分値が10%になるまで乾燥することにより、2.80kg(収率95%)のピタバスタチンカルシウムを白色の結晶として得た。
粉末X線回折を測定して、この結晶が結晶形態Aであることを確認した。」

イ 甲第11号証の記載事項
本件出願日前に頒布された甲第11号証には以下の事項が記載されている。
(11a)「【0135】
別法として、(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸およびそのカルシウム塩は、それぞれ、以下のようにして製造し得る:
(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸((S)-1-フェニル-エチル)アミド(4.0g、6.53ミリモル)をエタノール(40mL)に溶かす。水(40mL)と水酸化ナトリウム粉末(2.64g、66ミリモル)を加え、混合物を50?55℃にて26時間、製造過程コントロール(HPLC)が完全な変換を示すまで加熱する。塩酸(59mL、1M溶液、59ミリモル)を15分の時間を要してゆっくり添加する。溶媒を減圧下に留去し、残渣を水(80mL)に溶かす。この水溶液を tert-ブチル-メチルエーテル(3×80mL)で抽出し、有機相を除去する。水相を減圧下に蒸発させ、残渣を水(176mL)に再溶解する。塩酸(6.53mL、1M溶液、6.53ミリモル)を加えて該酸を沈殿させ、次いで、酢酸エチル(176mL)を加える。この混合物を15分間撹拌し、層分離する。有機層を水(90mL)で洗う。活性炭(0.5g)を有機層に加え、混合物を30?35℃にて数時間撹拌する。濾過助剤(セルフロック(Cellflock)、1.0g)を加え、さらに30分間撹拌を続ける。活性炭を濾過助剤上に濾去し、澄明な溶液を得て、減圧下、30?35℃にて溶媒を留去し、(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸を白色固体として得る。
【0136】
カルシウム塩形成のために、該酸(2.55g、6.05ミリモル)を水(40.5mL)に懸濁し、水酸化ナトリウム(0.260g、6.5ミリモル)を加えて、相当するナトリウム塩の澄明な溶液を得る。水(2mL)中塩化カルシウム(0.399g、3.49ミリモル)の溶液をナトリウム塩の溶液に滴下する。塩化カルシウムの添加後、直ちに懸濁液が形成される。懸濁液は20?25℃で4時間、15?17℃で2時間、撹拌する。生成物を濾過単離し、濾過ケーキを冷水で洗い、20?25℃で減圧下乾燥して(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸カルシウム塩を、10.6%(w/w)の水を含む白色結晶性粉末として得る。[α]D20=+22.92°(1:1アセトニトリル/水、c=1)。X線解析は結晶変形Aの存在を明らかにした。(3S,5R)立体配置をもつエナンチオマーの比率はカラム電気泳動によると0.05%の検出限界以下であった。生成物はHPLCによると99.7面積%以上の純度を有し、対応するエピマーを0.09面積%((3S,5S)および(3R,5R)エピマーの合計;HPLCでは分離されなかった)含んいた(注:「含んでいた」の誤記と認める)。対応するラクトンは0.05面積%の検出限界で検出できなかった。」
(11b)「【0001】
本発明はエナンチオマーとして純粋なHMG-CoA還元酵素阻害剤の製造法、製造工程、および新規中間体に関する。
・・・
【0004】
好適なHMG-Co還元酵素阻害剤はすでに市場に出された薬剤であり、最も好ましいのはフルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、とりわけそのカルシウム塩、またはシンバスタチンまたはその医薬上許容される塩である。」

(2)刊行物に記載された発明
ア 刊行物A
刊行物Aには,「式(1)

で表される化合物」であって,「CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において」,以下の粉末X線回折パターンによって特徴付けられる結晶

───────────────────
回折角(2θ) 相対強度
(°) (>25%)
───────────────────
4.96 35.9
6.72 55.1
9.08 33.3
10.40 34.8
10.88 27.3
13.20 27.8
13.60 48.8
13.96 60.0
18.32 56.7
20.68 100.0
21.52 57.4
23.64 41.3
24.12 45.0
27.00 28.5
30.16 30.6
───────────────────」が記載されている(摘記Aa,Ae参照)。そして,式(I)で表される化合物は「ピタバスタチンカルシウム塩」であって,その結晶の具体的な製造方法が記載され,その水分値が10%であり,上記X線粉末解析によってその結晶形態であることが確認されている(摘記Ae参照)。
そうすると,刊行物Aには,
「式(1)

で表される化合物(ピタバスタチンカルシウム塩)であって,CuKα放射線を使用して測定するX線粉末解析において,以下の粉末X線回折パターンによって特徴付けられ,水分値10%である結晶
───────────────────
回折角(2θ) 相対強度
(°) (>25%)
───────────────────
4.96 35.9
6.72 55.1
9.08 33.3
10.40 34.8
10.88 27.3
13.20 27.8
13.60 48.8
13.96 60.0
18.32 56.7
20.68 100.0
21.52 57.4
23.64 41.3
24.12 45.0
27.00 28.5
30.16 30.6
───────────────────」の発明(以下「刊A発明1」という。)が記載されているといえる。
また,刊行物Aには,「結晶(結晶性形態A)を含有することを特徴とする医薬組成物」(摘記Ab参照),「この該化合物と医薬的に許容し得る担体を含有する医薬組成物」(摘記Ac参照)も記載されているので,「刊A発明1と医薬的に許容し得る担体を含有する医薬組成物」の発明(以下「刊A発明2」という。)も記載されているといえる。

イ 甲第11号証
甲第11号証には,「(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸」の「カルシウム塩」の製造方法として,「(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸」から「カルシウム塩形成のために、該酸(2.55g、6.05ミリモル)を水(40.5mL)に懸濁し、水酸化ナトリウム(0.260g、6.5ミリモル)を加えて、相当するナトリウム塩の澄明な溶液を得る。水(2mL)中塩化カルシウム(0.399g、3.49ミリモル)の溶液をナトリウム塩の溶液に滴下する。塩化カルシウムの添加後、直ちに懸濁液が形成される。懸濁液は20?25℃で4時間、15?17℃で2時間、撹拌する。生成物を濾過単離し、濾過ケーキを冷水で洗い、20?25℃で減圧下乾燥して(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸カルシウム塩を、10.6%(w/w)の水を含む白色結晶性粉末として得る」ことが記載されている(摘記11a参照)。
そうすると,甲第11号証には,
「(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸を水に懸濁し、水酸化ナトリウムを加えて、相当するナトリウム塩の溶液を得、水中塩化カルシウムの溶液(塩化カルシウム水溶液)を、前記ナトリウム塩の溶液に滴下し、形成された懸濁液を20?25℃で4時間、15?17℃で2時間撹拌し、生成物を濾過単離し、濾過ケーキを冷水で洗い、20?25℃で減圧下乾燥して得られた、(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸カルシウム塩の10.6%(w/w)の水を含む白色結晶性粉末。」の発明(以下「甲11発明1」という。)が記載されている。
さらに,甲第11号証には,「好適なHMG-Co還元酵素阻害剤はすでに市場に出された薬剤であり、最も好ましいのは・・・ピタバスタチン、とりわけそのカルシウム塩・・・である。」と記載され(摘記11b参照),「(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸カルシウム塩」とはピタバスタチンカルシウム塩のことであるから,甲第11号証には,「甲11発明1を有効成分として含む薬剤」の発明(以下「甲11発明2」という。)も記載されているといえる。

(3)対比・判断
(3-1)本件発明1について
(3-1-1)刊行物Aを引用例とする場合
本件発明1と刊A発明1を対比する。
刊A発明1の「式(1)

で表される化合物(ピタバスタチンカルシウム塩)」は,本件発明1の「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」に相当する。
そして,刊A発明1は,X線粉末回折パターンにおいて,2θで表して,4.96°,6.72°,9.08°,13.60°,20.68°,24.12°にピークを有し,20.2±0.2°にピークがないから,本件発明1の「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示す」結晶に相当する。
そして,刊A発明1は,少なくとも2θの10.0±0.2°に対応するピークを有さないから,「2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示」すものではない。
してみると,両者は,
「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示」す「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A」であって,
「2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるもの」である点で一致し,以下の点で一応相違している。
(A-i)本件発明1が「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)」のに対して,刊A発明1が「10%の水分値」のものである点

上記相違点(A-i)について検討すると,刊行物Aには,水分値の測定方法が記載されていないが,仮に,刊A発明1の水分値の測定方法が本件発明1と異なっているとしても,本件発明1における「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量」の値と,それ以外の測定方法で求められた水分値が実質的に異なることは,技術常識に照らして考えにくいことから,刊A発明1の含水量が10%であることは,有効数字を考慮すれば,本件発明1の「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)」ものと推認することができる。
よって,両者は同一である。

(3-1-2)甲第11号証を引用例とする場合
本件発明1と甲11発明1とを対比する。
甲11発明1の「(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸カルシウム塩」は,本件発明1の「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」に相当する。
そうすると,本件発明1と甲11発明1とは,
「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」である点で一致し,以下の点で相違している。
(11-i)本件発明1は,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示」す「結晶多形A」であって,
「但し、2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。」ものであるのに対して,
甲11発明1は,X線粉末回折図形において,どのような回折角(2θ)にピークを有するものであるかが明確でない「結晶性粉末」である点
(11-ii)本件発明1が「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)」のに対して,甲11発明1が「10.6%(w/w)の水を含む」ものである点

そして,上記相違点(11-i),(11-ii)は実質的な相違点である。
したがって,本件発明1は甲第11号証に記載された発明であるとはいえない。

(3-2)本件発明3,5,7について
本件発明3,5,7は,いずれも本件発明1で特定される事項を発明特定事項とするものであるから,本件発明1が甲第11号証に記載された発明であるとはいえない以上,甲第11号証に記載された発明であるとはいえない。

(3-3)本件発明10,11について
本件発明10と刊A発明1とを対比する。
本件発明10は,「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、75?100重量%の」本件発明1?9のいずれかの「結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩」である。
刊A発明1は,結晶そのものであるが,刊行物Aの実施例1において,「ピタバスタチンカルシウムを白色の結晶として得」て,「粉末X線回折を測定して、この結晶が結晶形態Aであることを確認した」(摘記Af参照)こと,「乾燥前は、図1で示すような粉末X線回折図示したものが、水分が4%以下になったところで図2に示すようにアモルファスに近い状態まで結晶性が低下する」こと(摘記Ad参照)からみて,他の結晶形やアモルファスが含まれていないピタバスタチンカルシウム塩が得られているものと推認することができる。
そうすると,刊行物Aには,「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、75?100重量%の」本件発明1の「結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩」も記載されているということができる。
また,本件発明11についても,同様に,刊行物Aには,「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、95?100重量%の」本件発明1の「結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩」も記載されているということができる。

(3-4)本件発明12,13について
(3-4-1)刊行物Aを引用例とする場合
本件発明12と刊A発明2とを対比すると,上記(3-1-1)で述べたとおり,本件発明1と刊A発明1とは同一であり,刊A発明2が刊A発明1の有効量を含有することは明らかであるから,
両者は,「本件発明1?11のいずれかの結晶多形Aの有効量と薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物」である点で一致し,相違点はない。
また,本件発明13と刊A発明2とを対比すると,上記(3-1-1)で述べたとおり,本件発明1と刊A発明1とは同一である。また,刊A発明2において,「刊A発明1と医薬的に許容し得る担体を含有する」とは,刊A発明1と医薬的に許容し得る担体とを用いることであるといえ,刊A発明1の有効量を用いることも明らかであるから,両者は「本件発明1?11のいずれかの結晶多形Aの有効量と薬学的に許容され得る担体とを用いる医薬組成物」である点で一致し,相違点はない。
よって,本件発明12,13は,刊A発明2と同一である。

(3-4-2)甲第11号証を引用例とする場合
本件発明12,13は,いずれも本件発明1で特定される事項を発明特定事項とするものであるから,本件発明1が甲第11号証に記載された発明であるとはいえない以上,甲第11号証に記載された発明であるとはいえない。

(4)特許権者の主張
ア 特許権者の主張の概要
本件特許出願は分割要件違反ではないから,刊行物A及び甲第11号証は本件の原出願の優先日前に頒布された刊行物ではない。

イ 特許権者の主張の検討
上記1で述べたとおり,本件特許出願は,適法な分割出願とは認められないから,出願日は遡及せず,平成26年7月30日が出願日となる。
したがって,刊行物A及び甲第11号証は本件出願日前に頒布された刊行物となる。

(5)小括
以上のとおり,本件発明1,10?13は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物Aに記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。また,本件発明1,3,5,7,12,13は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第11号証に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないとすることはできない。
よって,本件発明1,10?13に係る特許は,同法第29条の規定に違反してなされたものであり,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。また,本件発明3,5,7に係る特許は,同法第29条の規定に違反してなされたものとはいえず,取り消されるべきものであるとすることはできない。

6 理由Bについて
取消理由通知(決定の予告)で通知した理由Bは,本件発明1,3,5,7,10?13は,甲第11号証,刊行物Bに記載された発明及び本件出願時の技術常識に基づいて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであることを根拠とするものである。

(1)刊行物及び証拠の記載事項
ア 甲第11号証の記載事項
上記5(1)イに記載したとおりである。

イ 丙第1号証
丙第1号証:帝京大学教授 薬学博士 夏苅英明作成, 研究成果報告書,2013年8月9日
(無効2013-800211号において,甲第3号証として請求人(沢井製薬株式会社)から提出された証拠である。)
丙第1号証には以下の事項が記載されている。
(1’a)「1.目的
特表2005-520814段落番号【0136】の追試及び水分含量の結果について報告する。」(第2頁第1?2行)
(1’b)「2.出発物質
実験には、以下の試料を使用した。
ピタバスタチンフリー体
沢井製薬株式会社から提供されたピタバスタチンフリー体を実験工程1回目から2回目で使用した。」(第2頁第3?6行)
(1’c)「3.実験
実験期間 : 2013年7月30日?2013年8月1日
実験場所 : 帝京大学薬学部 創薬化学研究室」(第2頁第7?9行)
(1’d)「実験方法
特表2005-520814段落番号【0136】の操作に従い2回実験を行った。
<実験工程 1回目>
ピタバスタチンフリー体(2.55g、6.05ミリモル)を水(40.5mL)に懸濁し、水酸化ナトリウム(0.260g、6.5ミリモル、和光純薬、Lot.LAQ6267)を加えて、相当するナトリウム塩の澄明な溶液を得た。水(2mL)中塩化カルシウム(0.399g、3.49ミリモル、和光純薬、Lot.CDQ5131)の溶液をナトリウム塩の溶液に10分かけて滴下した。塩化カルシウムの添加後、直ちに懸濁液が形成された。 懸濁液は20?25℃で4時間、15?17℃で2時間撹拌した。生成物を濾過単離し、濾過ケーキを冷水で洗い、23℃で減圧下乾燥して、白色粉末を得た。

<実験工程 2回目>
ピタバスタチンフリー体(2.55g、6.05ミリモル)を水(40.5mL)に懸濁し、水酸化ナトリウム(0.260g、6.5ミリモル、和光純薬、Lot.LAQ6267)を加えて、相当するナトリウム塩の澄明な溶液を得た。水(2mL)中塩化カルシウム(0.399g、3.49ミリモル、和光純薬、Lot.CDQ5131)の溶液をナトリウム塩の溶液に10分かけて滴下した。塩化カルシウムの添加後、直ちに懸濁液が形成された。 懸濁液は20?25℃で4時間、15?17℃で2時間撹拌した。生成物を濾過単離し、濾過ケーキを冷水で洗い、22℃で減圧下乾燥して、白色粉末を得た。」(第2頁第10行?末行)
(1’e)「4.生成物の測定
上記実験により得られた生成物の一部を抜き取って、帝京大学薬学部創薬化学研究室にて水分含量を測定した。」(第3頁第1?3行)
(1’f)「5.結果
○1(注:丸文字に1である。以下同じである。)実験工程第1回目の生成物
23℃減圧下で乾燥させ、生成物の一部を抜き取って水分含量をモニタリングしながら、合計140分(7月31日に計100分、8月1日にさらに計40分)乾燥した生成物の水分含量は、10.7%であった。
なお、7月31日は乾燥を開始した時刻が遅く、乾燥終了時刻が深夜に及ぶ見込みとなったため、やむなく生成物の乾燥を2日間にわたって実施することとした。乾燥途中の生成物は遮光ガラス瓶に入れ密封し、室温保管し、翌日(8月1日)にさらに乾燥を実施した。
ロット番号 SWF130731、1.17g

○2 実験工程第2回目の生成物
22℃減圧下で乾燥させ、生成物の一部を抜き取って水分含量をモニタリングしながら合計97分(8月1日)乾燥した生成物の水分含量は、10.7%であった。
ロット番号 SWF130801、1.94g

各生成物の全量をそれぞれ遮光ガラス瓶に入れ、密封し、沢井製薬株式会社に引き渡した。」(第4頁第1?14行)

ウ 丙第2号証
丙第2号証:神戸薬科大学教授 薬学博士 北河修治作成, 研究成果報告書, 2013年8月30日
(無効2013-800211号において,甲第4号証として請求人から提出された証拠である。)
丙第2号証には以下の事項が記載されている。
(2’a)「1.目的
特表2005-520814段落番号【0136】の追試生成物の結晶形態の結果について報告する。」(第2頁第1?3行)
(2’b)「2.測定物質
ピタバスタチンカルシウム
帝京大学で合成された後、遮光ガラス瓶内に密封された形態で沢井製薬株式会社内にて室温で保管されていた特表2005-520814段落番号【0136】の追試実験工程第1回目の生成物ロット番号SWF130731」(第2頁第4?8行)
(2’c)「3.実験
実験期間 : 2013年8月21日
実験場所 : 神戸薬科大学 製剤学研究室
実験担当者 : 神戸薬科大学准教授 寺岡 麗子」(第2頁第9?12行)
2’d)「4.X線粉末回折 測定
帝京大学で合成された上記2.の測定物質(特表2005-520814段落番号【0136】の追試実験工程第1回目の生成物)についてX線粉末回折を測定した。」(第2頁第13?15行)
(2’e)「5.結果
追試実験工程第1回目より得た生成物(ロット番号SWF130731)
X線粉末回折のチャートは、特表2006-518354の結晶多形Aのチャート【図1】と良い一致を示した。 表1に特徴的なピークの2θの角度を示す。

」(第2頁下から第4行?第3頁表1)

エ 刊行物Bの記載事項
本件出願前に頒布された刊行物Bには以下の事項が記載されている。
(Ba)「【0045】〔実施例1〕
(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・D(+)フェネチルアミン塩 化合物〔(-)I・(+)II〕
参考例1で得られた化合物〔(±)I〕のジクロロメタン溶液に、D(+)フェネチルアミン〔(+)II〕16.2gを加え撹拌した後、ジクロロメタンを留去し、残渣を得た。残渣は、メチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン-エタノール(10:1,v/v)で結晶化を繰り返し、目的とする化合物〔(-)I・(+)II〕の白色結晶19.8gを得た。(融点 144?147℃、光学純度 97%ee)。」
(Bb)「【0046】〔実施例2〕
(E)-6(S)-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イルエテニル〕-4(R)-ヒドロキシ-3,4,5,6-テトラヒドロ-2H-ピラン-2-オン 化合物〔III〕
実施例1で得られた(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・D(+)フェネチルアミン塩化合物〔(-)I・(+)II〕14.08gに、1規定塩酸25.9mL、水235mLを加え溶解させた。この溶液に、酢酸エチル250mLを加え、化合物〔(-)I〕の抽出を行った。酢酸エチル溶液を飽和食塩水で洗い、減圧下溶媒を留去した。残渣に無水トルエン250mLを加え、3時間ジーン・スターク(Dean Srark)装置で加熱還流した。減圧下、溶媒を留去し、得られた残留固体をトルエン-ヘプタンから再結晶し、目的化合物〔III〕、6.4gを得た。(融点 136?139℃)。」
(Bc)「【0047】〔実施例3〕
(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・1/2 カルシウム塩
実施例1で得られた(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・D(+)フェネチルアミン塩化合物〔(-)I・(+)II〕12.0gに、1規定水酸化ナトリウム水溶液24.3mL、水200mLを加え、撹拌溶解させた。この溶液中に、水200mLに無水塩化カルシウム1.47gを溶解させた塩化カルシウム水溶液を滴下した。この反応液を一晩撹拌後、生じた白色沈澱をろ過し、白色結晶9.06gを得た。(融点 190?192℃〔分解〕)。」
(Bd)「【0002】
【従来の技術】式〔V〕で表されるキノリンメバロン酸化合物及び式〔VI〕で表されるキノリンメバロノラクトン化合物
【0003】
【化6】

【0004】
〔式中、R^(1) は水素原子、C_(1-4)の低級アルキル基、即ち、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基、i-ブチル基、s-ブチル基、若しくはNa, K, 1/2Ca、又はHNR^(2)R^(3)R^(4)(R^(2) 、R^(3)、R^(4)はそれぞれ水素、C_(1-3)の低級アルキル基又は2-ヒドロキシエチル基を意味するか、R^(2)が水素またはメチル基の時、R^(3)、R^(4)が一緒になって-(CH_(2))_(4)-、-(CH_(2))_(5)-、-(CH2)2-O-(CH_(2))_(2)- 、-(CH_(2))_(2)-NH-(CH_(2))_(2)-を意味する。)を示す。〕は・・・コレステロール生合成の律速段階であるHMG-CoAリダクターゼの強力な阻害剤であり、高脂血症、動脈硬化等の予防、治療における医薬品として期待されている。」

オ 刊行物Cの記載事項
本件出願前に頒布された刊行物Cには,以下の事項が記載されている。
(Ca)「【0002】
【従来の技術】ロイコトリエン(leukotriene)合成の阻害剤である下記式(I)
【0003】
【化2】
(化学式は省略する。)
【0004】の(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド、その製造方法及び薬品におけるその利用は既にEP344,519に記載されている。
【0005】そこに記載された製造方法によると、式(I)の化合物は非結晶性粉末状態で得られる。溶媒和物を含まない結晶性変態(solvate-free crystalline modification)は今まで知られていない。
【0006】しかし、非結晶状態の式(I)の化合物は、特に固形薬品の製造において重大な欠点を有することが明らかとなった。このように非晶質状態の式(I)の化合物を含有する薬品は、例えば非常に不十分な貯蔵安定性しか示さない。調合剤を30℃を超える温度で比較的長期間貯蔵する場合におこりがちなこの物理的不安定性は、吸収効率及びこれら調合剤の安全性を損なう。」
(Cb)「【0008】
【課題を解決するための手段】公知の非結晶形と比較して、増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有し、それ故種々の薬品の製造のために非結晶形より相当適している、新規な結晶形の化合物(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミドが今回見出された。」

カ 刊行物Dの記載事項
本件出願前に頒布された刊行物Dには,以下の事項が記載されている。
(Da)「【0002】
【従来技術および課題】現在市販されているL-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩は非晶質であるため、保存時吸湿しやすく粉末の団塊化を生じやすい。また、L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩自身の化学的安定性が充分でなく、他の薬物との配合時に影響を与えることが多い。さらに、ケーキングを生じたり、流動性が不十分なため製剤化に際して支障をきたすことが多く、実用面で支障になる品質のバラツキが生じやすい。従って、安定な結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩として提供されることが望まれている。」

キ 刊行物Eの記載事項
本件出願前に頒布された刊行物Eには,以下の事項が記載されている。
(Ea)「ラニチジンの塩酸塩(以下、ラニチジン塩酸塩と称する)は特に重要である。なぜならば、これはラニチジンを例えば、経口投与用錠剤に都合良く処方できるようにするからである。従つて、現在の製薬上の要件や規格を満足させるために、できる限り純粋かつ高度に結晶性の状態でラニチジンを製造する必要があつた。」(第2頁左下欄末行?右下欄第6行)

ク 刊行物Fの記載事項
本件出願前に頒布された刊行物Fには,以下の事項が記載されている。
(Fa)「【0018】4-クロロフェニルチオメチレンビスホスホン酸は、「チルドロン酸(tiludronic acid) 」という慣用名が与えられ、このチルドロン酸のジナトリウム塩は、同様に、チルドロン酸ナトリウムと呼ばれている。」
(Fb)「【0030】チルドロン酸ジナトリウム一水和物は、湿度および温度条件に関係なく、経時的に特に安定である。」

ケ 刊行物Gの記載事項
本件出願前に頒布された刊行物Gには,以下の事項が記載されている。
(Ga)「本発明は、L-アスコルビン酸-2-リン酸(以下、AsA2Pと略記する。)のナトリウム塩(以下、Na塩と略記する。)結晶およびその製法に関する。」(第2頁左上欄第14?17行)
(Gb)「本発明によれば、安定で取り扱い易く、高純度のAsA2Pが、新規なAsA2PNa塩の結晶として提供される。」(第2頁右下欄第16?18行)

コ 刊行物Hの記載事項
本件出願前に頒布された刊行物Hには,以下の事項が記載されている。
(Ha)「ここに本発明者らは高純度結晶形態でそして高収率でセフロキシムアクセチルを取得しうる方法を開発することに成功した。そのような生成物は活性化合物の高純度形態であるという点から有用でありそして従って生物学的投与に対して一層適当であるのみならず、より特定的には高度に純粋の実質的に無晶(無定形)形態のセフロキシムアクセチル(この形態は予想外にも経口投与した場合高い生物学的活性を有しそして結晶性物質よりも商業的使用に対してより良好な性質バランスを有していることが発見されている)の製造の出発物質としても高度に有用である。」(第2頁左欄第48行?右欄第8行)

サ 刊行物Jの記載事項
本件出願前に頒布された刊行物Jには,以下の事項が記載されている。
(Ja)「注2 多くの医薬品結晶では,結晶多形,溶媒和結晶の存在が知られている.水和結晶は水和物結晶とも呼ばれる.結晶多形及び溶媒和結晶間では,溶解度,溶解速度の違いによりバイオアベイラビリティが異なったり,あるいはまた,経時的な安定性も異なる場合があることが知られている.」(B-617頁第10?13行)

シ 刊行物Kの記載事項
本件出願前に頒布された刊行物Kには,以下の事項が記載されている。
(Ka)「4.新医薬品の開発から申請までの結晶多形に関する検討事項(1つの考え方)
4.1 IND(CTX)までに検討する事項
(1)結晶化の検討に際して,結晶水と付着水,溶媒和と残留溶媒,純度(不純物,無機物)と結晶形等基礎的検討を実施する。結晶化においては溶媒の滴下時間,攪拌速度を検討する。」(第435頁第14?17行)

ス 丙第3号証の記載事項
丙第3号証:沢井製薬株式会社 勝本麻美作成, ピタバスタチンカルシウム結晶形特許追試結果報告書, 平成25年6月11日
(無効2013-800211号において,甲第5号証として請求人から提出された証拠である。)
丙第3号証には以下の事項が記載されている。
(3’a)「1.目的
特開平5-148237実施例3及び特表2005-520814【0136】の追試を実施し、得られたピタバスタチンカルシウムの結晶形態を報告する。

2.結果まとめ
特開平5-148237実施例3
水分含量が10%程度である場合、乾燥条件に関係なく、結晶形態はすべてFormAであった。
一方、40℃送風乾燥で得られた水分含量11.1%の生成物ではFormEとFormAが混在し、水分含量12.7%の生成物ではFormEであった。」(第3頁第1?8行)
(3’b)「3.特許追試I(特開平5-148237)
3-1.目的
特開平5-148237実施例3の追試を行ってピタバスタチンカルシウムを得、その結晶形態について報告する。
特開平5-148237 (日産化学工業株式会社)
出願日:1992.5.20
内容:光学活性キノリンメバロン酸のジアステレオマー塩

3-2.特許内容
【実施例3】
(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-[4’-(4”-フルオロフェニル)-2’-シクロプロピルキノリン-3’-イル]ヘプト-6-エン酸・D(+)フェネチルアミン塩化合物[(-)I・(+)II]12.0gに、1規定水酸化ナトリウム水溶液24.3mL、水200mLを加え、撹拌溶解させた。この溶液中に、水200mLに無水塩化カルシウム1.47gを溶解させた塩化カルシウム水溶液を滴下した。この反応液を一晩撹拌後、生じた白色沈殿をろ過し、白色結晶9.06gを得た。(融点190?192℃[分解])。」(第4頁第1?15行)
(3’c)「3-3. 追試実験
<追試1回目><追試2回目>
ピタバスタチンフェネチルアミン塩6g(Shasun、Lot.2372-025)に、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液12.15mL(和光純薬、Lot.PDR5678)、水100mLを加え、撹拌溶解させた。この溶液中に、水100mLに無水塩化カルシウム0.735g(和光純薬、Lot.CDQ5131)を溶解させた塩化カルシウム水溶液を30分かけて滴下した。この反応液を一晩撹拌後、生じた白色沈殿をろ過し、乾燥させ、白色結晶を得た。乾燥条件は下記に示した。」(第4頁第16行?末行)
(3’d)「3-4.生成物の測定
上記実験により得られた生成物について、水分含量測定、粉末X線回折及び熱分析(DSC)を行い、後記6.参考情報に基づいてその結晶形態を判定した。

」(第5頁第1?3行,表)
(3’e)「粉末X線回折結果
図1に得られた粉末X線回折のチャートを示す。また、各サンプルについて、表2、表3及び表4に特徴的なピークの2θの角度を示す。
・・・

」(第5頁第4行?第7頁表3)
(3’f)「

粉末X線回折結果
図2に得られた粉末X線回折のチャートを示す。また、各サンプルについて、表5、表6及び表7に特徴的なピークの2θの角度を示す。
・・・

」(第9頁から第11頁表6)

セ 丙第4号証の記載事項
丙第4号証:厚生労働省医薬局審査管理課長, 平成13年5月1日,
「新医薬品の規格及び試験方法の設定」(医薬審発第568号)
丙第4号証には以下の事項が記載されている。
(4’a)「各都道府県衛生主管部(局)長殿
・・・
有効成分含有医薬品の医薬品の製造(輸入)承認申請書の規格及び試験方法の記載内容については、・・・別添のとおり、「新医薬品の規格及び試験方法の設定」(以下「本ガイドライン」という。)をとりまとめ、下記により取り扱うこととしたので、御了知の上、貴管下関係業者に対して周知徹底方御配慮願いたい。」(本文)
(4’b)「c)結晶多形(Polymorphic forms)
新原薬の中には、物理的性質の異なる2つ以上の結晶形で存在するものがある。結晶多形には、溶媒和物あるいは水和物(擬多形とも呼ばれる)や無晶形も含まれる。こうした固体状態の違いが、新製剤の品質や機能に影響を及ぼすことがある。そうした違いが、製剤機能、バイオアベイラビリティあるいは安定性に影響を及ぼすような場合には、新原薬の規格に適切な存在形を規定すべきである。
結晶多形が存在するかどうかを調べるのには、通常、物理化学的な測定技術が用いられる。そうした方法の例としては、ホットステージ顕微鏡法を含む融点測定、固体状態でのIR測定、粉末X線回折法、(DSC、TGA、DTAのような)熱分析法、ラマンスペクトル法、光学顕微鏡法及び固体状態のNMR測定が挙げられる。」(3.3.1.新原薬 c)結晶多形)
(4’c)「e)水分含量(Water content)
新原薬が吸湿性である場合、水分により分解される場合あるいは原薬が化学量論的な水和物である場合には、水分含量の試験が重要である。その判定基準については、水和や水分の吸収が原薬に及ぼす影響を考慮して、妥当なレベルに設定するとよい。試験方法としては、乾燥減量試験法でもよい場合もあるが、水分を特異的に測定する方法(例えば、カールフィッシャー法)が望ましい。」(3.3.1.新原薬 e)水分含量)

(2)刊行物に記載された発明
ア 甲第11号証に記載された発明
甲第11号証には,上記5(2)イに示した発明が記載されている。

イ 刊行物Bに記載された発明(刊B発明)
刊行物Bには,「(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・D(+)フェネチルアミン塩化合物〔(-)I・(+)II〕・・・に、・・・水酸化ナトリウム水溶液・・・水・・・を加え、撹拌溶解させ・・・この溶液中に、水・・・に無水塩化カルシウム・・・を溶解させた塩化カルシウム水溶液を滴下し・・・この反応液を一晩撹拌後、生じた白色沈澱をろ過し、白色結晶・・・を得た」こと,そして,この「白色結晶」が「(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-〔4′-(4″-フルオロフェニル)-2′-シクロプロピルキノリン-3′-イル〕ヘプト-6-エン酸・1/2カルシウム塩」であることも記載されている(摘記Bc参照)。
そうすると,刊行物Bには,
「(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-[4’-(4”-フルオロフェニル)-2’-シクロプロピルキノリン-3’-イル]ヘプト-6-エン酸・D(+)フェネチルアミン塩化合物[(-)I・(+)II]に、水酸化ナトリウム水溶液、水を加え、撹拌溶解させ、この溶液中に、水に無水塩化カルシウムを溶解させた塩化カルシウム水溶液を滴下し、この反応液を一晩撹拌後、生じた白色沈殿をろ過して得られた(E)-3(R)-5(S)-ジヒドロキシ-7-[4’-(4”-フルオロフェニル)-2’-シクロプロピルキノリン-3’-イル]ヘプト-6-エン酸・1/2カルシウム塩の白色結晶」の発明(以下「刊B発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
(3-1)本件発明1について
(3-1-1)甲第11号証を主引用例とする場合
ア 対比
本件発明1と甲11発明1との一致点及び相違点は上記5(3-1-2)に示したとおりである。

イ 相違点(11-i)の検討
(ア)丙第1号証の製造方法で得られた結晶について
丙第1号証の製造方法で得られた白色結晶(以下「丙1結晶」という。)のX線粉末回折の結果が丙第2号証に以下のとおり示されている(摘記2’a?2’e参照)。

角度[2θ] 強度[cps]
5.0 2170
6.8 2198
9.1 698
10.0 685
10.3 803
10.9 802
13.2 823
13.6 978
13.9 1382
14.5 270
15.8 495
16.9 295
17.1 267
18.3 923
18.9 428
20.9 1735
21.1 1352
21.5 1005
22.9 383
23.6 808
24.1 785
25.4 455
26.9 458
29.6 300
30.1 538
33.8 298

そうすると,丙1結晶は,本件発明1と同じく,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2°±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示す」結晶であるといえる。
その一方,丙1結晶は「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、10.0±0.2°、10.5±0.2°、11.0±0.2°、13.3±0.2°、13.7±0.2°、14.0±0.2°、14.7±0.2°、15.9±0.2°、16.9±0.2°、17.1±0.2°、18.4±0.2°、19.1±0.2°、20.8±0.2°、21.1±0.2°、21.6±0.2°、22.9±0.2°、23.7±0.2°、24.2±0.2°、25.2±0.2°、27.1±0.2°、29.6±0.2°、30.2±0.2°、34.0±0.2°」に特徴的なピークを有するX線粉末回折図形を示すものであるが,強度[cps]は,2θが5.0°のピークが2170,2θが20.9°のピークが1735であるから,少なくとも「2θで表して、5.0±0.2°(s)、20.8±0.2°(vs)(ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味する)」に特徴的なピークを有するものではなく,「2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示」すものではない。

(イ)甲11発明1は,甲第11号証【0136】に記載された白色結晶性粉末であるところ,当該段落には,当該白色結晶性粉末の製造方法が記載されているから,当業者であれば,甲第11号証【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法に基づく追試を行うことは容易に想到し得るものである。そして,同記載の条件を基に丙第1号証に記載された実験(以下「本件実験」という。)により得られた丙1結晶は,上記(ア)で述べたことから,本件発明1の発明特定事項のうち,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2°±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、」,「結晶多形A。」,「但し、2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。」との要件(以下「構成要件a」という。)に含まれるものであったと認められる。

(ウ)甲第11号証【0136】記載の条件と本件実験の条件の相違
a 甲第11号証【0136】記載の条件と本件実験の条件(ただし,実験工程1回目のもの。摘記1’a?1’d,1’f)を比較するに,前者における(E)-(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸は,後者におけるピタバスタチンフリー体に相当する。そして,甲第11号証【0136】記載の条件は,(i)水中塩化カルシウムの溶液(塩化カルシウム水溶液)の滴下時間が不明であり,(ii)減圧下乾燥を,どのように行うのか不明であるのに対し,本件実験の条件は,(i)塩化カルシウム水溶液の滴下時間を10分とする点,(ii)減圧下乾燥を,生成物の一部を抜き取って水分量をモニタリングしながら,水分量10.7%になるまで合計140分かけて行う点で相違する。
b 滴下条件
芦澤一英編著「医薬品の多形現象と晶析の科学」と題する文献(丸善プラネット株式会社,2002年9月20日発行,435頁。以下「文献A」という。)(刊行物Kの一部の頁と同じ)に,「結晶化においては溶媒の滴下時間…を検討する。」と記載されていることからすれば,滴下時間は,結晶化において当業者が当然に検討する事項であるといえる。したがって,甲第11号証【0136】に記載された製造方法の追試を行う場合,滴下時間を設定することは,当業者が通常行うことであるといえる。
そして,本件実験のように,滴下時間を10分と設定することは,その余の反応時間と比較して短く,かつ懸濁液を形成するための相当の時間を設定することを考慮すれば,不自然なものとはいえない。
よって,甲第11号証【0136】に記載された製造方法の追試を行うに当たり,本件実験のように滴下時間を10分と設定することは,当業者が,滴下時間として適宜設定する範囲内のものということができる。
c 乾燥条件
上記文献A(435頁)に,「結晶化の検討に際して,結晶水と付着水,溶媒和と残留溶媒…等基礎的検討を実施する。」と記載されていることからすれば,水分量は,結晶化において当業者が当然に検討する事項であるといえる。したがって,甲第11号証【0136】に記載された製造方法の追試を行う場合,乾燥条件を設定することは,当業者が通常行うことであるといえる。
そして,甲第11号証【0136】には,水分量10.6%の結晶性粉末を得る旨記載されているところ,生成物の一部を抜き取って水分量をモニタリングしながら乾燥させることは普通の乾燥方法であって,本件実験のように,減圧下乾燥を,生成物の一部を抜き取って水分量をモニタリングしながら,水分量10.7%になるまで合計140分かけて行うことは,不自然なものとはいえない。
よって,甲第11号証【0136】に記載された製造方法の追試を行うに当たり,本件実験のように減圧下乾燥を,生成物の一部を抜き取って水分量をモニタリングしながら,水分量10.7%になるまで合計140分かけて行うよう設定することは,当業者が,乾燥条件として適宜設定する範囲内のものということができる。
d したがって,本件実験の実験条件は,当業者が,甲第11号証【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法に基づく追試を行う際に,技術常識を参酌することにより適宜設定可能なものであったといえる。

(エ)以上のとおり,甲11発明1に接した当業者であれば,甲第11号証【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法に基づく追試を,技術常識を参酌することにより適宜設定可能な範囲で実験条件を加えて行うことは,容易に想到し得るものであり,その結果得られた白色粉末は,本件発明1の構成要件aに含まれる。
したがって,相違点(11-i)に係る本件発明1の構成要件aは,甲11発明1及び技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものというべきである。

ウ 相違点(11-ii)の検討
厚生労働省が平成13年5月1日に発出した通知(医薬審発第568号「新医薬品の規格及び試験方法の設定について」,厚生労働省医薬局審査管理課長)(丙第4号証と同じ)とには,「新原薬が吸湿性である場合、水分により分解される場合あるいは原薬が化学量論的な水和物である場合には、水分含量の試験が重要である。その判定基準については、水和や水分の吸収が原薬に及ぼす影響を考慮して、妥当なレベルに設定するとよい。」と記載されていることからすれば,医薬品の水分含量について,水和や水分の吸収が原薬に及ぼす影響を考慮して決定することは,当業者の技術常識であったといえる。
そうすると,甲第11号証【0136】に記載された製造方法によって得られた結晶の含水量を10.6%から多少変化させて,その影響を調べることは,当業者が当然に行うことであるといえる。そして,乾燥条件を適宜設定することにより,含水量を10.5?10.7%の範囲を超えて含水量を変化させることは当業者が容易になし得たことといえる。また,「FT-IR分光法と結合した熱重量法」により測定した場合と,それ以外の方法で測定した場合とで,含水量の値が実質的に異なることは考え難いことから,甲11発明1の含水量は,「FT-IR分光法と結合した熱重量法」により測定した場合であっても同様の値を採るものと解される。
以上によれば,甲11発明1に接した当業者であれば,甲第11号証【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法において,乾燥条件を適宜設定することにより,甲11発明1の含水量を,「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し,10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)、」の範囲内の含水量とすることは容易に想到し得る。
したがって,相違点(11-ii)に係る本件発明1の構成は,甲11発明1及び技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものというべきである。

エ 本件発明1の効果
本件発明1が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するとはいえない。

オ 小括
以上によれば,本件発明1は,甲11発明1及び技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-1-2)刊行物Bを主引用例とする場合
ア 対比
本件発明1と刊B発明とは,
「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプタン酸ヘミカルシウム塩」である点で一致し,以下の点で相違している。
(B-i)本件発明1は,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない特徴的なX線粉末回折図形を示す」「結晶多形A」であって,
「但し、2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。」ものであるのに対して,
刊B発明は,X線粉末回折図形において,どのような回折角(2θ)にピークを有するものであるかが明確でない「白色結晶」である点
(B-ii)本件発明1は,「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)」のに対して,刊B発明の含水量が明確でない点

イ 相違点の検討
(ア)同一化合物の結晶多形を作る動機付けについて
刊行物Cには,(R)-(-)-2-シクロヘプチル-N-メチルスルフォニル-[4-(2-キノリニルメトキシ)-フェニル]-アセトアミド化合物の非結晶性粉末は,物理的に不安定性で,吸収効率及び調合剤の安全性を損なうところ,非結晶形と比較して,増大した物理的安定性と低減した圧力感受性に特徴を有する新規な結晶形の化合物が得られたことが記載されている(摘記Ca,Cb参照)。
刊行物Dには,L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩の非晶質は実用面で支障になる品質のバラツキが生じやすく,安定な結晶質L-アスコルビン酸-2-燐酸エステルマグネシウム塩として提供されることが望まれていることが記載されている(摘記Da参照)。
刊行物Eには,ラニチジンの塩酸塩は,現在の製薬上の要件や規格を満足させるために,できる限り純粋かつ高度に結晶性の状態でラニチジンを製造する必要があることが記載されている(摘記Ea参照)。
刊行物Fには,4-クロロフェニルチオメチレンビスホスホン酸(チルドロン酸)のジナトリウム塩の一水和物は,湿度および温度条件に関係なく,経時的に特に安定であることが記載されている(摘記Fa,Fb参照)。
刊行物Gには,L-アスコルビン酸-2-リン酸のナトリウム塩の結晶は,安定で取り扱い易いことが記載されている(摘記Ga,Gb参照)。
刊行物Hには,高純度結晶形態のセフロキシムアクセチルは,生物学的投与に対して一層適当であることが記載されている(摘記Ha参照)。
刊行物C?Hのこれらの記載からすれば,同一化合物において非晶質を結晶形態とすることで,医薬化合物の安定性,扱いやすさ等を改善する例が数多くあることが理解でき,一般に医薬化合物においては,非結晶性の物質を結晶化することについては強い動機付けがあり,結晶化条件を検討したり,結晶多形を調べることは当業者がごく普通に行うことと認められる。
また,丙第4号証には,「新原薬の中には、物理的性質の異なる2つ以上の結晶形で存在するものがある。結晶多形には、溶媒和物あるいは水和物(擬多形とも呼ばれる)や無晶形も含まれる。こうした固体状態の違いが、新製剤の品質や機能に影響を及ぼすことがある。そうした違いが、製剤機能、バイオアベイラビリティあるいは安定性に影響を及ぼすような場合には、新原薬の規格に適切な存在形を規定すべきである。」との指針が記載され,さらにそのような結晶多形の存在を調べるにあたって,粉末X線回折法によって物理化学的な測定をすることも記載されている(摘記4’b参照)から,この点からも,本件出願前に,医薬化合物の結晶化条件を検討したり,結晶多形(水和物などの溶媒和物も含む)を調べることは当業者がごく普通に行うことと認められる。
そして,刊B発明は,結晶化されたものであるから,この結晶について,当業者が結晶化条件を検討したり,結晶多形の存在を調べたり,得られた結晶について分析することには,十分な動機付けを認めることができる。

(イ)本件発明1の結晶を作成する容易性について
<丙第3号証の実験条件について>
丙第3号証には,以下の示すように,刊B発明をもとに,乾燥条件を様々に設定して6つの結晶(以下「結晶1」?「結晶6」という。)を作成し,これらの粉末X線回折の結果と水分量測定の結果が示されている(摘記3’a?摘記3’f参照)。
乾燥条件 乾燥時間 水分量
結晶1 追試1回目 室温減圧乾燥 30min 10.7%
結晶2 追試1回目 60℃棚式乾燥 60min 10.3%
結晶3 追試1回目 40℃送風乾燥 60min 12.7%
結晶4 追試2回目 室温減圧乾燥 48min 9.7%
結晶5 追試2回目 60℃棚式乾燥 75min 10.2%
結晶6 追試2回目 40℃送風乾燥 75min 11.1%

上記(ア)で述べたように,刊B発明を知り得た当業者であれば,刊B発明を結晶化する結晶化条件を調べたり,結晶多形の存在を調べることは,ごく普通に行うことといえるものの,刊行物Bには,得られた結晶の水分量,乾燥操作については記載がないから,結晶化条件や結晶多形の存在を調べる際に,丙第3号証のような乾燥条件によって結晶1?6のような水分量の結晶を得ることが当業者がごく普通に行うことであったのかについてさらに検討する。
刊行物Jには,「多くの医薬品結晶では,結晶多形,溶媒和結晶の存在が知られている.水和結晶は水和物結晶とも呼ばれる.結晶多形及び溶媒和結晶間では,溶解度,溶解速度の違いによりバイオアベイラビリティが異なったり,あるいはまた,経時的な安定性も異なる場合があることが知られている.」と記載され(摘記Ja参照),また,医薬品の結晶多形に関する総説である刊行物Kにも,「結晶化の検討に際して,結晶水と付着水,溶媒和と残留溶媒,純度(不純物,無機物)と結晶形等基礎的検討をする.」と記載されている(摘記Ka参照)ことからすれば,本件出願前において,結晶化の検討にあたっては,結晶水を有する水和物の存在は当業者が普通に確認するといえる。
そして,刊B発明は,水溶液中の反応によって得られるものであること,また,水和物の結晶水は,結晶に含まれる水分量に関連することは明かであって,さらに,丙第4号証の「新原薬が吸湿性である場合、水分により分解される場合あるいは原薬が化学量論的な水和物である場合には、水分含量の試験が重要である。その判定基準については、水和や水分の吸収が原薬に及ぼす影響を考慮して、妥当なレベルに設定するとよい。」との記載(摘記4’c参照)からみて,医薬品の水分量は,水和や水分の吸収が原薬に及ぼす影響を考慮して当業者が決定することが本件出願時の技術常識であったといえ,刊B発明において,水溶液の反応から得られた生成物(水分を必ず含んでいる。)の乾燥状態を適宜設定して結晶の水分量を調整し,水和物結晶の存在やその原薬に及ぼす影響を調査することは当業者がごく普通に行うことであったといえる。
そうすると,刊B発明において,丙第3号証のように乾燥条件を適宜設定して,水分量を変化させ,水分量が9.7?12.7%の結晶1?6を得ることは,これらの乾燥条件が特殊であるといえない以上,刊B発明の結晶化の検討において,当業者が通常行う試行錯誤の範囲内で得ることができたものと認められる。

<粉末X線回折について>
丙第3号証には,その製造方法で得られた結晶1,2,4,5のX線粉末回折の結果が以下のとおり示されている(摘記3’e,3’f参照)。
2θ(°)
結晶1 結晶2 結晶4 結晶5
4.985 5.081 4.999 5.070
6.751 6.849 6.762 6.845
9.119 9.220 9.139 9.211
9.959 10.073 9.980 10.068
10.447 10.542 10.462 10.536
10.898 10.997 10.913 10.984
13.192 13.307 13.211 13.322
13.669 13.776 13.692 13.765
13.955 14.078 13.975 14.055
14.642 14.751 14.666 14.754
15.768 15.867 15.638 15.776
16.843 16.955 16.853 16.951
17.089 17.185 17.111 17.197
18.296 18.432 18.322 18.401
19.244 19.131 18.976 19.066
20.748 20.842 20.766 20.848
21.135 21.123 21.148 21.089
21.602 21.643 21.636 21.662
22.921 23.018 22.942 23.020
23.662 23.756 23.684 23.747
24.153 24.240 24.172 24.235
25.188 25.286 25.205 25.286
27.030 27.119 27.043 27.115
29.552 29.650 29.557 29.638
30.227 30.287 30.252 30.312
34.034 34.037 34.054 34.094

そうすると,結晶1,2,4,5は,本件発明1と同じく,「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2°±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示す」結晶であるといえる。
その一方,結晶1,2,4,5はいずれも「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、10.0±0.2°、10.5±0.2°、11.0±0.2°、13.3±0.2°、13.7±0.2°、14.0±0.2°、14.7±0.2°、15.9±0.2°、16.9±0.2°、17.1±0.2°、18.4±0.2°、19.1±0.2°、20.8±0.2°、21.1±0.2°、21.6±0.2°、22.9±0.2°、23.7±0.2°、24.2±0.2°、25.2±0.2°、27.1±0.2°、29.6±0.2°、30.2±0.2°、34.0±0.2°」に特徴的なピークを有するX線粉末回折図形を示すものであるが,強度は,2θが5.0±0.2°に対応するピークよりも,2θが20.8±0.2°に対応するピークの方が小さいから(摘記3’e,3’f),少なくとも「2θで表して、5.0±0.2°(s)、20.8±0.2°(vs)(ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味する)」に特徴的なピークを有するものではなく,「2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示」すものではない。
そして,結晶2,4,5の水分量は,測定方法によって実質的に異なるとはいえないから,「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)」ものと推認できる。
したがって,本件発明1の結晶と丙第3号証で得られている結晶2,4,5とは同一であるということができる。

(ウ)相違点の検討のまとめ
上記(ア),(イ)で検討したとおり,刊B発明について,それを結晶化する結晶化条件を検討したり,結晶多形を調べることは当業者がごく普通に行うことであるといえるところ,丙第3号証のように乾燥条件を適宜設定して,水分量を変化させ,結晶2,4,5を得ることは,当業者が通常なし得る試行錯誤の範囲内においてしたことと認められ,こうして得られた結晶2,4,5が,本件発明1の結晶と同一なのであるから,刊B発明において,相違点(B-i),(B-ii)を構成することは当業者が容易になし得たことと認めることができる。

ウ 本件発明1の効果
本件発明1の効果は,上述のとおり,新規な結晶形態であるピタバスタチンカルシウム塩の結晶多形Aを見出したことにあるものと認められるから,本件発明1の結晶を容易に得ることができる以上,自明の効果にすぎない。

エ 小括
以上によれば,本件発明1は,刊B発明及び技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-2)本件発明3,5及び7について
(3-2-1)甲第11号証を主引用例とする場合
本件明細書及び甲第11号証の記載によれば,本件発明3と甲11発明1との相違点は,相違点(11-i)及び(11-ii)のほか,本件発明3が,2θで表して、さらに、10.5±0.2°、11.0±0.2°、18.4±0.2°、21.1±0.2°、21.6±0.2°、22.9±0.2°、23.7±0.2°、27.1±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回析図形を示すのに対し,甲11発明1は,X線粉末回析図形において,そのような回析角(2θ)にピークを有するものであるかが明確でない点(以下「相違点(11-iii)」という。)であると認められる。
また,本件明細書及び甲第11号証の記載によれば,本件発明5と甲11発明1との相違点は,相違点(11-i)?(11-iii)のほか,本件発明5は,2θで表して、さらに、10.0±0.2°、14.0±0.2°、14,7±0.2°、16.9±0.2°、19.1±0.2°、25.2±0.2°、30.2±0.2°、34.0±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回析図形を示すのに対し,甲11発明1は,X線粉末回析図形において,そのような回析角(2θ)にピークを有するものであるかが明確でない点(以下「相違点(11-iv)」という。)であると認められる。
さらに,本件明細書及び甲第11号証の記載によれば,本件発明7と甲11発明1との相違点は,相違点(11-i)?(11-iv)のほか,本件発明7は,2θで表して、さらに、13.3±0.2°、15.9±0.2°、17.1±0.2、29.6±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回析図形を示す結晶多形であるのに対し,甲11発明1は,X線粉末回析図形において,そのような回析角(2θ)にピークを有するものであるかが明確でない点(以下「相違点(11-v)」という。)であると認められる。
これに対し,本件実験により得られた白色粉末は,相違点(11-iii)?(11-v)に係る本件発明3,5及び7の各構成を有するものと認められるところ(丙第1及び2号証),前記(3-1-1)イ(ウ)のとおり,本件実験の実験条件は,当業者が,甲第11号証【0136】に記載された白色結晶性粉末の製造方法に基づく追試を行う際に,技術常識を参酌することにより適宜設定可能なものであったといえる。
そうすると,相違点(11-iii)に係る本件発明3の構成,相違点(11-iv)に係る本件発明5の構成及び相違点(11-v)に係る本件発明7の構成は,いずれも甲11発明1及び技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものというべきである。
以上によれば,本件発明3,5及び7は,いずれも甲11発明1及び技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-2-2)刊行物Bを主引用例とする場合
刊B発明に基づいて得られる結晶2,4,5も,2θで表して「2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、10.0±0.2°、10.5±0.2°、11.0±0.2°、13.3±0.2°、13.7±0.2°、14.0±0.2°、14.7±0.2°、15.9±0.2°、16.9±0.2°、17.1±0.2°、18.4±0.2°、19.1±0.2°、20.8±0.2°、21.1±0.2°、21.6±0.2°、22.9±0.2°、23.7±0.2°、24.2±0.2°、25.2±0.2°、27.1±0.2°、29.6±0.2°、30.2±0.2°、34.0±0.2°」に特徴的なピークを有するものであるから,本件発明3,5,7における限定は,刊B発明との間において新たな相違点とはならない。
したがって,本件発明3,5,7は,刊B発明及び技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-3)本件発明10及び11について
(3-3-1)甲第11号証を主引用例とする場合
本件明細書及び甲第11号証の記載によれば,本件発明10と甲11発明1との相違点は,相違点(11-i)及び(11-ii)のほか,本件発明10は,「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、75?100重量%の」本件発明1?9のいずれかの「結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩」であるのに対して,甲11発明1は,含まれる結晶の割合が特定されていない点(以下「相違点(11-vi)」という。)において相違する
そして,特定の結晶多形の純度を高めることは,本件出願の出願日前から当業者に周知の課題であり,また,再結晶化等の手法によって特定の結晶多形の純度を高めることも当業者によく知られた手段であったといえるから,相違点(11-vi)に係る本件発明10の構成は,甲11発明1及び技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものというべきである。
さらに,本件明細書及び甲第11号証の記載によれば,本件発明11と甲11発明1との相違点は,相違点(11-i)及び(11-ii)のほか,本件発明11は,ピタバスタチンカルシウムの総量を基準にして、95?100重量%の本件発明1?9のいずれかの結晶多形Aを含むピタバスタチンカルシウムであるのに対して,甲11発明1は,含まれる結晶の割合が特定されていない点(以下「相違点11-vii」という。)であると認められる。もっとも,相違点11-viと同様に,相違点11-viiに係る本件発明11の構成は,甲11発明1及び技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものというべきである。
以上によれば,本件発明10及び11は,いずれも甲11発明1及び技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-3-2)刊行物Bを主引用例とする場合
本件発明10と刊B発明は,上記相違点(B-i)(B-ii)に加えて,
(B-iii)本件発明10は,「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、75?100重量%の」本件発明1?9のいずれかの「結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩」であるのに対して,刊B発明は,含まれる結晶の割合が特定されていない点でさらに相違する。
しかしながら,上記のとおり,特定の結晶多形の純度を高めることは,本件出願時において当業者に周知の課題であって,また,再結晶化等の手法によって特定の結晶多形の純度を高めることも当業者によく知られた手段であるといえる。
さらにいえば,刊B発明を当業者が適宜条件を設定することで得られた結晶2,4,5は,本件発明1,3,5,7とX線粉末回折における2θが一致しているから,この手法で得られた(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩には,本件発明1,3,5,7以外の結晶が含まれていないことが推認でき,仮にアモルファスが含まれているとしても,「(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、75?100重量%の」結晶1,2,4,5を含むものが得られていると認めることができる。
本件発明11も同様に刊B発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることができる。

(3-4)本件発明12及び13について
(3-4-1)甲第11号証を主引用例とする場合
本件明細書及び甲第11号証の記載によれば,本件発明12と甲11発明2との相違点は,相違点(11-i)及び(11-ii)のほか,本件発明12が「薬学的に許容され得る担体を含む」ものであるのに対して,甲11発明2はその点が明確でない点(以下「相違点(11-viii)」という。)であると認められる。そして,医薬品として使用する場合に,「薬学的に許容され得る担体を含」ませることは技術常識であるといえるから,相違点(11-viii)に係る本件発明12の構成は,甲11発明2及び技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものというべきである。
また,本件明細書及び甲第11号証の記載によれば,本件発明13と甲11発明2との相違点は,相違点(11-i)及び(11-ii)のほか,本件発明13が「薬学的に許容され得る担体を用いた」ものであるのに対して,甲11発明2はその点が明確でない点(以下「相違点(11-ix)という。)であると認められる。もっとも,相違点(11-viii)と同様に,相違点(11-ix)に係る本件発明13の構成は,甲11発明2及び技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものというべきである。
以上によれば,本件発明12及び13は,いずれも甲11発明2及び技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3-4-2)刊行物Bを主引用例とする場合
本件発明12と刊B発明は,上記相違点(B-i),(B-ii)に加えて,
本件発明12が,
(B-iv)本件発明1?11のいずれかの「結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物」であるのに対して,刊B発明は,単なる「白色結晶」である点で相違する。
しかしながら,刊行物Bに,この化合物が,「コレステロール生合成の律速段階であるHMG-CoAリダクターゼの強力な阻害剤であり、高脂血症、動脈硬化等の予防、治療における医薬品として期待されている。」と記載されている(摘記Bd参照)ことから,刊B発明の白色結晶は,医薬品として使用されるものであって,医薬品として使用する場合に,「薬学的に許容され得る担体を含」ませることは当該技術分野の技術常識であるといえ,刊B発明に基いて当業者が容易に得ることができる結晶2,4,5を有効成分として含み,薬学的に許容され得る担体を含む医薬組成物とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。
また,本件発明13と刊B発明とは,上記相違点(B-i),(B-ii)に加えて,本件発明13が,
(B-v)本件発明1?11のいずれかの「結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを用いた医薬組成物」であるのに対して,刊B発明は,単なる「白色結晶」である点で相違する。もっとも,相違点(B-iv)と同様に,相違点(B-v)に係る本件発明13の構成は,刊B発明及び技術常識に基づき当業者が容易に想到し得たものというべきである。
以上によれば,本件発明12及び13は,いずれも刊B発明及び技術常識に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)特許権者の主張
ア 特許権者の主張の概要
(ア)甲第11号証を主引用例とする場合
上記5(4)アで述べたとおりである。

(イ)刊行物Bを主引用例とする場合
刊行物Bの実施例3の記載はきわめて簡単で,塩化カルシウム水溶液の滴下時間も温度も記載されておらず,その乾燥条件も記載されておらず,「白色結晶・・・を得た」と記載されているが,粉末X線回折の結果も,生成物が結晶であることを確認した記載はなく,少なくとも水和物結晶を得たと認められる根拠は記載されていない。
そして,丙第3号証の追試では,塩化カルシウム水溶液の滴下に30分をかけるという通常選択しない条件が採用されるとともに,乾燥条件は生成物の水分量が10%程度となるように恣意的に設定したもので,10%程度に調整する根拠は存在しない。
ピタバスタチンカルシウムの結晶多形Aは,水分10%程度で安定することはなく,乾燥を継続すれば水分量は7%を下回り,一夜継続すると2.8%まで低下する(乙第7、8号証)。化学実験による結晶形態は恒量に達するまで乾燥して評価するのが技術常識である(乙第9の1?9号証)から,予め10%を目標とすることを事前に知っていない限り,結晶多形Aの水分を約10%とすることは起こりえないことであり,丙第3号証の追試は当業者が容易に行い得るものではない。
また,実施例3のピタバスタチンの収量からみて,水分量が10%であるとすると収率が84%となり,カルシウム塩への変換反応であることからすれば収率が低すぎ,水分量が2%で計算すると収率が91%となるから,水分量が2%のアモルファスであったと考えるのが合理的である。実施例1,2で再結晶化を行っているのに対して,実施例3では結晶化や再結晶の記載がないことからも,単に白色粉末が得られたことを記載しているとするのが合理的である。
刊行物C?Hに開示されている結晶化に関する一般知識を適用したとしても,ピタバスタチンカルシウムの結晶多形Aが水分量は10%であるが容易に乾燥して4%以下となるとアモルファスとなるという性質を知らずに,丙第3号証が適用した乾燥条件を採用することは当業者が容易になし得たことではない。

イ 特許権者の主張の検討
(ア)甲11号証を主引用例とする場合について
上記5(4)イで述べたとおりである。

(イ)刊行物Bを主引用例とする場合について
刊行物Bには,実施例3で得られたカルシウム塩が水和物であるとの記載はないが,そのことが水和物結晶ではないことを意味しない。実施例3は水溶液中で実施されていること(摘記Bc参照)からすれば,水和物結晶となり得る条件で実施されているといえ,当業者が乾燥状態を適宜設定して結晶の水分量を調整し,水和物結晶の存在を調査することを妨げるものではない。
また,刊行物Bには,実施例1,2が記載され,ここでは再結晶化などの結晶化が行われているのに対して,実施例3では再結晶化は行われていないが,そのことが直ちに,実施例3において結晶化されていないことを意味するものではなく,少なくとも実施例1,2で具体的に結晶化されることが記載され,実施例3でも「結晶」が得られたことが明記されている以上,実施例3も結晶を得ることを前提として記載されていると考えるのが自然である。
また,刊B発明の水分量が10%であるとすると収率は84%となるが,収率は実験条件によって変動するものであることを考慮すれば,水分量が必ずしも10%にならないとしても,結晶性を示す程度の水分量が含まれた結晶が得られていると解しても不自然とはいえない。
そうすると,刊B発明は少なくとも結晶形が得られたと解するのが相当である。

丙第3号証では,刊行物Bに記載のない塩化カルシウム溶液の滴下時間を30分としているが,刊B発明の白色結晶を得るために,刊行物Bに明示されていない実験条件を技術常識等を参酌して必要な試行錯誤によって適宜設定することは通常の追試の手法といえる。そして,滴下時間については,100mLにつき30分であれば1分間に3.3mLの滴下量であって,100mLのナトリウム塩溶液への滴下時間として特に時間がかかりすぎるともいえないから,技術常識の範囲で適切な設定がなされたものといえる。
また,丙第3号証では,滴下時の温度や撹拌時の温度は規定していないが,滴下時の温度,撹拌時の温度が結晶化に影響を及ぼす要因であるとしても,これらも通常の試行錯誤の範囲内で技術常識を参酌して当業者が適切な範囲を設定すればよいことであって,水溶液中でカルシウム塩への変換が生じ得る適切な温度条件を設定することは当業者が行う通常の追試の範囲で行われているものと理解できる。

次に,丙第3号証において結晶1?6を得るための乾燥条件は,刊行物Bに記載はないが,刊行物C?H及び丙第4号証,刊行物J,Kの記載を総合すれば,上記(3)で述べたように,結晶化の検討にあたっては,結晶水を有する水和物の存在の確認やその水分量の影響の調査は当業者が普通に確認するといえ,刊B発明のような水溶液の反応から得られた生成物の乾燥状態を適宜設定して結晶の水分量を調整し,結晶多形(水和物も含む)の存在や水分量の影響を調査することは当業者がごく普通に行うことといえるから,刊B発明のピタバスタチンカルシウム塩に水を失いやすい水和物結晶があることを予め知らないとしても,刊B発明において,丙第3号証のように乾燥条件を適宜設定して,水分量を変化させ,水分量が9.7?12.7%の結晶1?6を得ることは,当業者が通常なし得る試行錯誤の範囲内で実施できたものと認められる。
よって,特許権者の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおり,本件発明1,3,5,7,10?13は,本件出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第11号証,刊行物Bに記載された発明及び本件出願時の技術常識に基いて,本件出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,本件発明1,3,5,7,10?13に係る特許は,同法第29条の規定に違反してなされたものであり,同法第113条第2号に該当し,取り消されるべきものである。

7 理由5について
理由5は、本件特許出願が適法な分割出願であることを前提とした理由であるところ、上記1で示したことから、本件特許出願は適法な分割出願であるとはいえず、上記前提が成り立たないから、この理由により本件発明1,3,5,7,12,13に係る特許を取り消すことはできない。

第7 特許異議申立書及び平成27年11月20日付けの手続補正書に記載された取消理由1?3について
特許異議申立書及び平成27年11月20日付けの手続補正書に記載された取消理由1は,概要,平成26年12月26日付けの手続補正における,請求項1?13と【0008】の結晶多形Aを「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した3?15%の含水量」を具備するものも、具備しないものも結晶多形Aとする補正は新規事項の追加にあたることを根拠とするものである。
しかしながら,本件発明1?13は,「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%であ」り,【0008】の記載も同様であるから,この理由はその前提を欠く。
また,特許異議申立書及び平成27年11月20日付けの手続補正書に記載された取消理由2,3は,概要,
(i)「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量(3?15%)」を要件としていない本件特許に係る結晶多形A(本件特許発明1?13)は明細書に記載された発明ではない
(ii)6本のピークだけで結晶多形Aが特定されている本件特許発明1?13は明細書に記載された発明ではない
(iii)6本のピークの相対強度((vs),(s))が規定されていない本件特許発明1,3,5,7,9?13は,明細書に記載された発明ではない
(iv)本件明細書には表1及び図1以外に結晶多形AのX線粉末回折図形は記載されておらず,これ以外の結晶多形Aが具体的にどのようなものであるかについては記載されておらず,本件特許発明の結晶多形Aから表1及び図1に示す特徴的なピークを有するX線粉末回折図形を有する結晶多形Aが除かれたものがいかなるものであるかを把握することはできないから,本件発明1?13は明細書に記載された発明ではない
(v)本件明細書には水分量が3%未満の結晶多形Aがどのようなものであるかの記載がされていない
ことをその根拠とするものである。
しかしながら,(i),(v)については,本件発明1?13は,「FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である」ことから,その前提を欠き,(ii)?(iv)については,上記第6の3,4に示したことから,それらの理由によって,本件発明1?13について,特許請求の範囲がサポート要件を満たさないとすることはできず,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たさないとすることができないことは明らかである。

第8 むすび
以上のとおり,本件発明1,3,5,7,10?13に係る特許は,同法第29条の規定に違反してなされたものであり,同法第113条第2号に該当し,取り消すべきものである。
しかしながら,本件発明1?13に係る特許は,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものとはいえず,取り消すべきものであるとすることはできない。
また,本件発明1?13に係る特許は,同法第36条第6項の規定を満たさないか,同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものとはいえず,取り消すべきものであるとすることはできない。
さらに,本件発明1,3,5,7,12,13に係る特許は,特許法第29条の2の規定に違反してなされたものとはいえず,取り消すべきものであるとすることはできない。
そして,本件発明2,4,6,8,9に係る特許は,当審が通知した取消理由及び特許異議申立書に記載された取消理由によって取り消すことはできない。さらに,他に本件発明2,4,6,8,9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ピタバスタチンカルシウムの新規な結晶形態
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピタバスタチン(Pitavastatin)カルシウムの新規な結晶質形態A、その結晶質形態Aを含むピタバスタチンカルシウム塩、ならびにその結晶質形態Aを含む医薬組成物を対象とする。
【0002】
本発明は、ピタバスタチンカルシウムの新規な結晶質形態に関するものである。ピタバスタチンは、NK-104、イタバスタチン(Itavastatin)およびニスバスタチン(Nisvastatin)という名称によっても知られている。ピタバスタチンカルシウムは、化学名:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩によって知られている。ピタバスタチンカルシウムは、下記の式を有する:
【0003】

【背景技術】
【0004】
ピタバスタチンカルシウムは、新規な、化学的に合成された、強力なスタチンとして、興和化学株式会社(日本国)が最近開発した。報告されたデータによると、ピタバスタチンの薬効は、用量依存性であり、アトルバスタチンのそれと同等であると思われる。この新規スタチンは、安全であり、高コレステロール血症の患者の処置に充分に許容される。他の数多くの一般的に用いられる薬物との有意な相互作用は、極めて低いと考えることが
できる。
【0005】
ピタバスタチンの製造法は、EP-A-0304063およびEP-A-1099694に、またN.MiyachiらによるTetrahedron Letters(1993)、第34巻8267-8270ページの、およびK.TakahashiらによるBull.Chem.Soc.Jpn(1995)、第68巻2649-2656ページの刊行物に記載されている。これらの刊行物は、ピタバスタチンの合成を非常に詳しく記載しているが、ピタバスタチンのヘミカルシウム塩を記載していない。L.A.SorberaらによるDrugs of the Future(1998)、第23巻847-859ページの、およびM.SuzukiらによるBioorganic & Medicinal Chemistry Letters(1999)第9巻2977-2982ページの刊行物は、ピタバスタチンカルシウムを記載しているが、その製造の精細な手順は、示されていない。
【0006】
ピタバスタチンカルシウムの製造の完全な合成手順は、EP-A-0520406に記載されている。この特許に記載された方法では、ピタバスタチンカルシウムは、水溶液からの沈澱によって、融点が190?192℃の白色結晶質材料として得られる。薬学的物質は、多形を示せることが知られている。多形は、一般的には、何らかの物質が異なる二つ以上の結晶構造を有し得ることとして定義される。また薬物物質は、晶出したとき、溶媒分子を包摂することがある。これらの溶媒和物または水和物は、偽多形と呼ばれる。アモルファス形態に出会うこともあり得る。異なる多形、偽多形またはアモルファス形態は、融点、溶解度等々のようなその物理的特性が異なる。これらは、溶解速度および生物学的利用率のような薬学的特性に認め得るほどに影響することができる。
【0007】
生成物が、特殊化された貯蔵条件を必要とせずに長期にわたって安定的であることも、経済的に望ましい。そのため、薬物物質の多形を評価することが重要である。更に、薬物の新規な結晶多形形態の発見は、それによって、処方科学者が、ある薬物の、標的とする放出像その他の望ましい特徴を有する薬学的剤型を設計しようとする、材料の目録を拡大する。ここに、本発明者らは、ピタバスタチンカルシウムの、本明細書では形態A、B、C、D、EおよびFと名付けた新規な結晶質形態、ならびにピタバスタチンカルシウムのアモルファス形態を、驚異的にも見出した。
【0008】
本発明は、ピタバスタチンカルシウム塩(2:1)の結晶多形を対象とし、下記の(1)?(13)に記載の結晶多形A、該結晶多形Awo含むヘミカルシウム塩及び医薬組成物にある。
(1)2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
但し、2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。
(2)2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、13.7±0.2°(s)、20.8±0.2°(vs)、24.2±0.2°(s)[ここで、(vs)は非常に強い強度を意味し、(s)は強い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(1)に記載の結晶多形A。
(3)2θで表して、さらに、10.5±0.2°、11.0±0.2°、18.4±0.2°、21.1±0.2°、21.6±0.2°、22.9±0.2°、23.7±0.2°、27.1±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(1)に記載の結晶多形A。
(4)2θで表して、さらに、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、18.4±0.2°(m)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、27.1±0.2°(m)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(2)に記載の結晶多形A。
(5)2θで表して、さらに、10.0±0.2°、14.0±0.2°、14,7±0.2°、16.9±0.2°、19.1±0.2°、25.2±0.2°、30.2±0.2°、34.0±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(3)に記載の結晶多形A。
(6)2θで表して、さらに、10.0±0.2°(w)、14.0±0.2°(w)、14,7±0.2°(w)、16.9±0.2°(w)、19.1±0.2°(w)、25.2±0.2°(w)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(4)に記載の結晶多形A。
(7)2θで表して、さらに、13.3±0.2°、15.9±0.2°、17.1±0.2、29.6±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(5)に記載の結晶多形A。
(8)2θで表して、さらに、13.3±0.2°(vw)、15.9±0.2°(vw)、17.1±0.2°(vw)、29.6±0.2°(vw)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、上記(6)に記載の結晶多形A。
(9)示差走査熱量測定により測定した融点が95℃である、上記(1)乃至(8)のいずれか1項に記載の結晶多形A。
(10)(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、75?100重量%の上記(1)乃至(9)のいずれか1項に記載の結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩。
(11)(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、95?100重量%の上記(1)乃至(9)のいずれか1項に記載の結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩。
(12)上記(1)乃至(11)のいずれか1項に記載の結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物。
(13)上記(1)乃至(11)のいずれか1項に記載の結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを用いた医薬組成物。
【0009】
上記結晶多形Aの一つの具体的形態は、例1に示される(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形Aであり、d間隔値(Å)および2θ角度値、について、表1に示したとおりの特徴的なピークを有するX線粉末回折図形を有するものである。なお、表1において、vs=非常に強い強度、s=強い強度、m=中間の強度、w=弱い強度、vw=非常に弱い強度を表す。
【0010】
【表1】

【0011】
なお、結晶多形A以外の結晶質形態としては、以下のB、C、D、EおよびFと名付けた結晶多形形態ならびにアモルファス形態がある。
形態B:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の、本明細書で形態Bと名付けた結晶多形であって、d値(Å)および2θで表して、表2に示したとおりの特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【0012】
【表2】

【0013】
形態C:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の、本明細書で形態Cと名付けた結晶多形であって、d値(Å)および2θで表して、表3に示したとおりの特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【0014】
【表3】

【0015】
形態D:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の、本明細書で形態Dと名付けた結晶多形であって、d値(Å)および2θで表して、表4に示したとおりの特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【0016】
【表4】

【0017】
形態E:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の、本明細書で形態Eと名付けた結晶多形であって、d値(Å)および2θで表して、表5に示したとおりの特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【0018】
【表5】

【0019】
形態F:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の、本明細書で形態Fと名付けた結晶多形であって、d値(Å)および2θで表して、表6に示したとおりの特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【0020】
【表6】

【0021】
実験的詳細中の少々の変更は、X線粉末回折図形の特徴的なピークのd値および2θに小さな偏差を生じる可能性がある。
【0022】
アモルファス形態:(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩のアモルファス形態であって、図7に示したとおりの特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【0023】
粉末X線回折は、Cuのk(α1)放射線(1.54060Å)を用いて、Philips 1710という粉末X線回折計で実施し;2θの角度が±0.1?0.2°の実験誤差で記録される。X線粉末回折図形の理論の考察は、H.P.KlugおよびL.E.Alexanderによる「X-ray diffraction procedures」[J.Wiley,New York(1974)]中に見出すことができる。
【0024】
形態Aは、一般的には、ピタバスタチンナトリウムから、水性反応媒体中でCaCl_(2)と反応させて製造することができる。これに代えて、本発明の形態Aは、好都合にはやはり水性反応媒体中で、遊離酸((3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸)または対応するラクトンとCa(OH)_(2)から、in-situで得てもよい。
【0025】
水性反応媒体は、通常、少なくとも80重量%の水を含有し;好ましくは、それは、水、または前工程からの微量の溶剤および/もしくは反応物を含有する水である。形態Aは、15%までの水、好ましくは約3?12%、より好ましくは9?11%までの水を含有することができる。
【0026】
形態Bは、一般的には、形態Aを、水を助溶剤として含有するエタノールに懸濁させることによって製造することができる。水の量は、好ましくは約1?50%である。
【0027】
形態Cは、一般的には、形態Aを、水を助溶剤として含有するイソプロパノールに懸濁させることによって製造することができる。水の量は、好ましくは約1?50%、特に1?20%、より好ましくは約5%である。形態Cは、水を助溶剤として含有する、イソプロパノールおよびケトン溶剤の混合物から製造することもできる。好ましくは、ケトン溶剤はアセトンであり、ケトン溶剤の量は、約1?30%、より好ましくは約10%である。水の量は、好ましくは約1?20%、より好ましくは約5%である。
【0028】
形態Dは、一般的には、形態Aを無水エタノールに懸濁させることによって製造することができる。
【0029】
形態Eは、一般的には、形態Aを、水を助溶剤として含有する1,4-ジオキサンに懸濁させることによって製造することができる。水の量は、好ましくは、約1?50%である。
【0030】
形態Fは、一般的には、形態Aを、水を助溶剤として含有するメタノールに懸濁させることによって製造することができる。水の量は、好ましくは、約1?50%である。
【0031】
上記の方法中、所望の結晶質形態の少量の種晶を、反応混合物に加えることができる。好ましくは、少量は、約1?20重量%、より好ましくは約5重量%である。種晶は、晶出を開始する工程(たとえば、上記のような冷却、非溶剤の添加等々)の前か、または適切ならばその後に加えてよい。晶出を開始する前の添加には、特定の技術的関心が持たれる。
【0032】
アモルファス形態は、一般的には、有機溶剤中のピタバスタチンカルシウムの濃縮溶液への、非溶剤の添加によって製造することができる。非溶剤としては、たとえば、ヘプテンまたはメチルtert-ブチルエーテルを採用し得るのに対し、有機溶剤の例は、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランおよびエチルメチルケトンである。非溶剤および溶剤は、混和性であることが好ましい。アモルファス形態は、ピタバスタチンカルシウムの水溶液の凍結乾燥によって製造することもできる。
【0033】
多形形態A、B、C、D、EおよびFならびにアモルファス形態の製造は、通常、好ましくは実質的に結晶質形態での特定された遊離体と、上記のとおりの溶剤および/または非溶剤とから本質的になる、実質的に純粋な反応系で実施する。
【0034】
多形形態A、B、C、D、EおよびFならびにアモルファス形態の製造においては、残留有機溶剤を本質的に含まないピタバスタチンカルシウムの結晶質形態を製造することもできる。
【0035】
特に、ピタバスタチンカルシウムの結晶質形態を、規定された相対空気湿度を有する雰囲気に接触させることによって、残留有機溶剤を基本的に含まないピタバスタチンカルシウムの結晶質形態を製造することができる。
【0036】
より詳しくは、残留有機溶剤を基本的に含まない、ピタバスタチンカルシウムのあらゆる結晶質形態またはアモルファス形態を製造する方法を対象とする。これらは、たとえば、該結晶質形態またはアモルファス形態を、5?100%の相対空気湿度を有する雰囲気に曝露させることによって製造することができる。好ましくは、これらは、規定された相対空気湿度を有する不活性気体流に曝露させて、残留有機溶剤を水と交換することによって製造する。概して、5?100%、特に40?80%の相対空気湿度を用いる。
【0037】
本発明のもう一つの目的は、有効量のピタバスタチンカルシウムの結晶多形形態Aと、薬学的に許容され得る担体とを含む、医薬組成物である。
【0038】
結晶多形形態Aは、単一成分としてか、または他の結晶質多形もしくはアモルファス形態との混合物として用いることができる。
【0039】
ピタバスタチンカルシウムの新規な多形形態およびアモルファス形態に関しては、これらが、ピタバスタチンカルシウムの総量を基準にして25?100重量%、特に50?100重量%の、該新規形態の少なくとも一つを含有するのが好ましい。好ましくは、ピタバスタチンカルシウムの新規な多形形態またはアモルファス形態のそのような量は、75?100重量%、特に90?100重量%である。非常に好ましいのは、95?100重量%の量である。
【0040】
本発明の組成物は、該結晶多形形態Aを含む粉末、顆粒、凝集体その他の固体組成物を包含する。加えて、本発明が企図する組成物は、希釈剤、たとえば粉末化されたセルロース、微結晶質セルロース、微細セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロース塩その他の置換および非置換セルロースのようなセルロースの誘導材料;澱粉;ゼラチン化済み澱粉;炭酸カルシウムおよび二リン酸カルシウムのような無機希釈剤その他の、製薬業界に公知の希釈剤を更に含有してよい。
更にその他の適切な希釈剤は、ワックス、糖、ならびにマンニトールおよびソルビトールのような糖アルコール、アクリラート重合体および共重合体はもとより、ペクチン、デキストリンおよびゼラチンを包含する。
【0041】
本発明の企図の範囲内にある更なる賦形剤は、結合剤、たとえばアラビアゴム、ゼラチン化済み澱粉、アルギン酸ナトリウム、グルコースその他の、湿式および乾式造粒ならびに直接打錠法に用いられる結合剤を包含する。固体組成物中に存在してもよい賦形剤は、澱粉グリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、低置換ヒドロキシプロピルセルロースなどのような崩壊剤を更に包含する。加えて、賦形剤は、ステアリン酸マグネシウムおよびカルシウム、ならびにステアリルフマル酸ナトリウムのような製錠潤滑剤;香味料;甘味料;防腐剤;薬学的に許容され得る染料および滑沢剤、たとえば二酸化ケイ素を包含してよい。
【0042】
投与は、経口、頬側、直腸、非経口(皮下、筋内および静脈内を包含)、吸入および点眼投与に適した投与を包含する。いずれの症例においても最適の経路は、処置しようとする状態の性質および重篤度に依存することになるが、本発明の最も好適な経路は、経口である。投与は、好都合には、単位投与の形態として提示され、製薬の当技術に周知の方法のいずれかによって製造することができる。
【0043】
投与の形態は、固体剤型、たとえば錠剤、散剤、カプセル剤、坐薬、薬袋、トローチおよびロゼンジ剤はもとより、液体懸濁液およびエリキシル剤も包含する。この記載は、限定することを意図するものではないが、本発明は、ピタバスタチンカルシウムの固体形態を際立たせる特性が失われる、ピタバスタチンカルシウムの真の溶液に関連させようとするものでもない。しかし、そのような溶液を調製するための該新規形態の使用は、本発明の企図の範囲内にあると考えられる。
【0044】
カプセル剤の剤型は、当然、ゼラチンその他の慣用の封入材料で製造し得るカプセル内に、固体組成物を含有することになる。錠剤および散剤は、被覆し得る。錠剤および散剤は、腸溶コーティングで被覆し得る。腸溶被覆された散剤形態は、フタル酸セルロース酢酸エステル、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステル、フタル酸ポリビニルアルコール、カルボキシメチルエチルセルロース、スチレンおよびマレイン酸の共重合体、メタクリル酸およびメタクリル酸メチルの共重合体、ならびに同様の材料を含むコーティングを有してもよく、所望により、それらは、適切な可塑剤および/または増量剤とともに用いることができる。被覆錠剤は、錠剤の表面にコーティングを有し得るか、または腸溶コーティングとともに粉末または顆粒を含む錠剤であり得る。
【0045】
本発明の医薬組成物の好適な単位投与量は、代表的には、新規なピタバスタチンカルシウム形態、または相互のか、もしくはピタバスタチンカルシウムのその他の形態とのその混合物0.5?100mgを含有する。より常用的には、単位投与量のピタバスタチンカルシウム形態の併せた重量は、2.5?80mg、たとえば5、10、20または40mgである。
【0046】
下記の実施例は、本発明をより詳細に例示する。温度は、摂氏で示される。
[例1](実施例)
【0047】
形態Aの製造
(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸tert-ブチルエステル(ピタバスタチンtert-ブチルエステル)4.15gを、メチルtert-ブチルエーテルおよびメタノールの混合物(10:3)52mlに懸濁させた。この混合物に、NaOHの4M水溶液2.17mlを加え、得られた帯黄色溶液を、50℃で2.5時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、水50mlを加え、更に1時間撹拌した。水相を分離し、メチルtert-ブチルエーテル20mlで1回抽出した。この水溶液に、水80ml中のCaCl20.58gの溶液を1時間にわたって加えた。
得られた懸濁液を、室温で約16時間撹拌した。懸濁液を、濾過し、得られた固体を、40℃、50mbで約16時間乾燥した。得られた生成物は結晶形態Aであって、図1に示したようなX線粉末回折図形を特徴とする。得られた形態AのFT-IR分光法と結合した熱重量法による更なる特徴付けは、約10%の含水量を明らかにした。示差走査熱量測定は、95℃の融点を明らかにした。
[例2](参考例)
【0048】
形態Bの製造
ピタバスタチンカルシウムの形態A100mgを、水2mlに懸濁させ、室温で30分間撹拌した後、エタノール2mlを加え、18時間更に撹拌した。懸濁液を濾過し、空気中で乾燥して、形態B36mgを得た。得られた結晶の形態Bは、図2に示したようX線粉末回折図形を特徴とする。得られた形態BのFT-IR分光法と結合した熱重量法による更なる特徴付けは、約10%の含水量を明らかにした。
[例3](参考例)
【0049】
形態Cの製造
ピタバスタチンカルシウムの形態A62mgを、5%の水を含有するイソプロパノール2mlに懸濁させた。この懸濁液を60℃に加熱して、形態Aのほとんど完全な溶解へと導き、再び室温まで冷却した。この温度で、懸濁液を66時間撹拌した。得られた懸濁液を濾過し、5%の水を含有するいくらかのイソプロパノールで1回洗浄し、空気中で乾燥した。得られた結晶の形態Cは、図3に示したようなX線粉末回折図形を特徴とする。得られた形態CのFT-IR分光法と結合した熱重量法による更なる特徴付けは、サンプルが、約6.3%のイソプロパノール、および少量の水を含有することを明らかにした。
[例4]](参考例)
【0050】
形態Cの製造
ピタバスタチンカルシウムの形態A65mgを、イソプロパノール0.9ml、アセトン0.1mlおよび水40μlの混合物に懸濁させた。この懸濁液を約1時間撹拌することは、ほぼ完全な溶解へと導いた。(実施例3からの)形態C4mgのシーディング、および2時間の撹拌は、濃縮懸濁液の形成へと導いた。この懸濁液を、上記と同じ量の溶剤混合物で希釈し、更に40時間撹拌した。懸濁液を濾過し、得られた固体を、40℃で約10分間乾燥した。X線粉末回折による分析は、生成物が、図3に示したような結晶の形態Cであることを示した。
[例5](参考例)
【0051】
形態Dの製造
ピタバスタチンカルシウムの形態A60mgを、無水エタノール1mlに懸濁させ、室温で20時間撹拌した。得られた懸濁液を濾過し、空気中で乾燥した。得られた結晶の形態Dは、図4に示したようなX線粉末回折図形を特徴とする。
[例6](参考例)
【0052】
形態Eの製造
ピタバスタチンカルシウムの形態A60mgを、1,4-ジオキサンおよび水の混合物(1:1)に懸濁させ、室温で18時間撹拌した。得られた懸濁液を濾過し、空気中で乾燥した。得られた結晶の形態Eは、図5に示したようなX線粉末回折図形を特徴とする。
[例7](参考例)
【0053】
形態Fの製造
ピタバスタチンカルシウムの形態A60mgを、20%の水を含有するメタノール3mlに懸濁させ、40℃で1時間撹拌した。得られた懸濁液を、室温まで徐々に冷却し、撹拌を4時間継続した。懸濁液を、40℃まで再び加熱し、30分間撹拌し、室温まで徐々に冷却し、更に15時間撹拌した。懸濁液を濾過し、得られた白色固体を空気中で乾燥した。得られた結晶の形態Fは、図6に示したようなX線粉末回折図形を特徴とする。
[例8](参考例)
【0054】
アモルファス形態の製造
ピタバスタチンカルシウムの形態A62mgを、1,4-ジオキサン0.3mlに溶解した。この撹拌溶液に、n-ヘプタン2.3mlを室温で徐々に加え、更に16時間撹拌した。得られた懸濁液を濾過し、空気中で乾燥した。得られた固体は、図7(上)に示したX線粉末回折図形によって示されるとおり、アモルファスであった。
[例9](参考例)
【0055】
アモルファス形態の製造
ピタバスタチンカルシウムの形態A60mgを、エチルメチルケトン1.5mlに溶解した。この溶液に、合計21mlのメチルtert-ブチルエーテルを、30秒に各1mlずつ段階的に加えた。得られた懸濁液を、室温で約16時間撹拌した。懸濁液を濾過し、得られた固体を空気中で乾燥した。生成物に関するX線回折の研究は、これがアモルファスであることを示した(図7下を参照されたい)。得られた生成物のFT-IR分光法と結合した熱重量法による更なる特徴付けは、サンプルが約5.5%のメチルtert-ブチルエーテルを含有することを明らかにした。示差走査熱量測定は、サンプルが約68℃のガラス転移温度を有することを示した。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】形態Aの特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【図2】形態Bの特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【図3】形態Cの特徴的な二つのX線粉末回折図形を示す
【図4】形態Dの特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【図5】形態Eの特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【図6】形態Fの特徴的なX線粉末回折図形を示す。
【図7】アモルファス形態の特徴的な二つのX線粉末回折図形を示す。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2θで表して、5.0±0.2°、6.8±0.2°、9.1±0.2°、13.7±0.2°、20.8±0.2°、24.2±0.2°に特徴的なピークを有し、20.2±0.2°に特徴的なピークを有しない、特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が9?15%である(但し、10.5?10.7%(w/w)の水を含むものを除く)、(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の結晶多形A。
但し、2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、10.0±0.2°(w)、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、13.3±0.2°(vw)、13.7±0.2°(s)、14.0±0.2°(w)、14.7±0.2°(w)、15.9±0.2°(vw)、16.9±0.2°(w)、17.1±0.2°(vw)、18.4±0.2°(m)、19.1±0.2°(w)、20.8±0.2°(vs)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、24.2±0.2°(s)、25.2±0.2°(w)、27.1±0.2°(m)、29.6±0.2°(vw)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)[ここで、(vs)は、非常に強い強度を意味し、(s)は、強い強度を意味し、(m)は、中間の強度を意味し、(w)は、弱い強度を意味し、(vw)は、非常に弱い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示し、FT-IR分光法と結合した熱重量法により測定した含水量が3?15%であるものを除く。
【請求項2】
2θで表して、5.0±0.2°(s)、6.8±0.2°(s)、9.1±0.2°(s)、13.7±0.2°(s)、20.8±0.2°(vs)、24.2±0.2°(s)[ここで、(vs)は非常に強い強度を意味し、(s)は強い強度を意味する]に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項1に記載の結晶多形A。
【請求項3】
2θで表して、さらに、10.5±0.2°、11.0±0.2°、18.4±0.2°、21.1±0.2°、21.6±0.2°、22.9±0.2°、23.7±0.2°、27.1±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項1に記載の結晶多形A。
【請求項4】
2θで表して、さらに、10.5±0.2°(m)、11.0±0.2°(m)、18.4±0.2°(m)、21.1±0.2°(m)、21.6±0.2°(m)、22.9±0.2°(m)、23.7±0.2°(m)、27.1±0.2°(m)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項2に記載の結晶多形A。
【請求項5】
2θで表して、さらに、10.0±0.2°、14.0±0.2°、14,7±0.2°、16.9±0.2°、19.1±0.2°、25.2±0.2°、30.2±0.2°、34.0±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項3に記載の結晶多形A。
【請求項6】
2θで表して、さらに、10.0±0.2°(w)、14.0±0.2°(w)、14,7±0.2°(w)、16.9±0.2°(w)、19.1±0.2°(w)、25.2±0.2°(w)、30.2±0.2°(w)、34.0±0.2°(w)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項4に記載の結晶多形A。
【請求項7】
2θで表して、さらに、13.3±0.2°、15.9±0.2°、17.1±0.2、29.6±0.2°に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項5に記載の結晶多形A。
【請求項8】
2θで表して、さらに、13.3±0.2°(vw)、15.9±0.2°(vw)、17.1±0.2°(vw)、29.6±0.2°(vw)に特徴的なピークを有する特徴的なX線粉末回折図形を示す、請求項6に記載の結晶多形A。
【請求項9】
示差走査熱量測定により測定した融点が95℃である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の結晶多形A。
【請求項10】
(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、75?100重量%の請求項1乃至9のいずれか1項に記載の結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩。
【請求項11】
(3R,5S)-7-[2-シクロプロピル-4-(4-フルオロフェニル)キノリン-3-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6(E)-ヘプテン酸ヘミカルシウム塩の総量を基準にして、95?100重量%の請求項1乃至9のいずれか1項に記載の結晶多形Aを含む前記ヘミカルシウム塩。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを含む医薬組成物。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の結晶多形Aの有効量と、薬学的に許容され得る担体とを用いた医薬組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-03-09 
出願番号 特願2014-155001(P2014-155001)
審決分類 P 1 651・ 55- ZDA (C07D)
P 1 651・ 536- ZDA (C07D)
P 1 651・ 113- ZDA (C07D)
P 1 651・ 537- ZDA (C07D)
P 1 651・ 121- ZDA (C07D)
P 1 651・ 16- ZDA (C07D)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 早川 裕之  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
瀬下 浩一
登録日 2015-02-27 
登録番号 特許第5702494号(P5702494)
権利者 日産化学工業株式会社
発明の名称 ピタバスタチンカルシウムの新規な結晶質形態  
代理人 増井 和夫  
代理人 齋藤 誠二郎  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 橋口 尚幸  
代理人 増井 和夫  
代理人 齋藤 誠二郎  

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