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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01B |
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管理番号 | 1341943 |
異議申立番号 | 異議2017-701030 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-10-26 |
確定日 | 2018-05-17 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6121845号発明「表面処理シリカ粉末、スラリー組成物及びそれを用いた樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6121845号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6121845号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1.手続の経緯 特許第6121845号は、平成25年 8月13日に出願された特願2013-168327号について、平成29年 4月 7日に設定登録がされたものであり、その後、その請求項1?3に係る特許に対し、平成29年10月26日付けで特許異議申立人 大井 四郎により特許異議の申立てがされ、平成29年12月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年 3月 2日付けで意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して、特許異議申立人に意見を求めたものの応答がなかったものである。 第2.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 平成30年 3月 2日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1?2よりなる。 (ア)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項3に、「請求項2に記載のスラリー組成物」と記載されているのを、「エポキシ樹脂、ビニルトリメトキシシラン及び請求項2に記載のスラリー組成物」に訂正する。 (イ)訂正事項2 願書に添付した明細書の段落【0031】【表2】に記載された「実施例10」を「比較例10」に訂正する。 2.訂正の適否 (ア)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項3に記載された樹脂組成物について、「請求項2に記載のスラリー組成物を用いた」を「エポキシ樹脂、ビニルトリメトキシシラン及び請求項2に記載のスラリー組成物を用いた」に訂正するものであり、訂正前の請求項3の記載では、樹脂組成物に用いられるものが特定されていないのに対し、訂正後の請求項3の記載は、樹脂組成物に用いられるものがエポキシ樹脂及びビニルトリメトキシシランであることを明らかにすることで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定されている特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、当該訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0028】の「(3)樹脂硬化物の作製 エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON-850」(DIC株式会社製、エポキシ当量186g/eq)10.0質量部、・・・表面処理剤(SC剤)としてビニルトリメトキシシラン「KBM-1003」(信越化学工業株式会社製、分子量148.2)0.28質量部を得られたスラリー組成物100質量部に溶解し、樹脂組成物(エポキシ樹脂ワニス)を調製した。」との記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 (イ)訂正事項2について 願書に添付した明細書の段落【0031】【表2】に記載された「実施例10」は、本件発明の評価の指標である樹脂組成物の分散性、樹脂硬化物の成型性が共に×であり、さらにシリカ粉末の疎水化度も本件発明の範囲外である5.2%と記載され、さらに、かかる表2の記載の例は「実施例10」以外は全て「比較例」と記載されていること、かつ他の段落の【0030】【表1】には「実施例10」との記載があり、かかる表1に記載の例は全て「実施例」と記載され、実施例10は上記樹脂組成物の分散性、樹脂硬化物の成型性が共に○であり、さらにシリカ粉末の疎水化度も本件発明の範囲内の1.2%と記載されていることから、【0031】【表2】に記載された「実施例10」が「比較例10」の誤記であることは明らかである。 したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書の段落【0031】【表2】に記載された明らかな誤記を訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定されている誤記の訂正を目的とするものである。 そして、当該訂正事項2は、明細書の段落【0031】【表2】に記載されている「比較例」という正しい記載に基づくものであり、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。 さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。 3.一群の請求項について 訂正事項1は、訂正前の請求項3を訂正するものであり、また、本件特許明細書に係る訂正事項2は、明細書の誤記を訂正するものであるから、訂正前の一群の請求項1?3に関連するものである。 したがって、本件訂正は、一群の請求項1?3について請求するものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第4項?第6項に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正を認める。 第3.特許異議の申立てについて 1.本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?3に係る発明(以下「訂正発明1」?「訂正発明3」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「【請求項1】 体積平均粒径が0.80?1.3μm、粒度分布における累積体積10%値(D10)と累積体積50%値(D50)の比(D10/D50)=0.20?0.50、BET比表面積値が3.5?5.5m^(2)/g、疎水化度が1.0?5.0%である球状シリカ粉末。 【請求項2】 請求項1に記載の球状シリカ粉末を含有してなるスラリー組成物。 【請求項3】 エポキシ樹脂、ビニルトリメトキシシラン及び請求項2に記載のスラリー組成物を用いた樹脂組成物。」 2.取消理由について (1)訂正前の請求項3に係る特許に対して、平成29年12月25日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 本件特許明細書の実施例には、樹脂組成物において、樹脂としてエポキシ樹脂を用い、さらにKBM-1003(ビニルトリメトキシシラン)を共存させたものしか開示されておらず、樹脂組成物において、エポキシ樹脂とビニルトリメトキシシランとを共存させるもの以外の組み合わせについてまで課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、本件特許発明3の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、また、実施例の樹脂組成物において、ビニルトリメトキシシランを表面処理剤としてエポキシ樹脂に含ませることの技術的意義が不明であり、委任省令要件違反に該当するものであるから、同発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであり、取り消されるべきものである。 (2)樹脂組成物において用いられる樹脂と表面処理剤について通知した取消理由に対し、本件訂正請求により、訂正発明3の樹脂組成物において、エポキシ樹脂及びビニルトリメトキシシランが用いられることが特定され、当該樹脂組成物において、球状シリカ粉末をエポキシ樹脂に高充填した際、球状シリカ粒子が良好に分散してなる樹脂組成物を得る課題を解決でき、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が課題を解決する手段を理解できるものであることが明らかとなった。 (3)取消理由についてのまとめ 以上のとおりであるから、請求項3に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでない。 3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)申立理由の概要 申立人は、上記取消理由の他に、 訂正前の請求項1?3に係る発明に含まれない具体例である表2の「実施例10」が実施例とされていることから、本件特許明細書の記載は、当業者がこれらの発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、発明の課題の解決手段を理解できないものであり、また、樹脂組成物において、エポキシ樹脂とビニルトリメトキシシランとを共存させるもの以外の組み合わせについてまで課題を解決できると当業者が認識できる程度に具体例又は説明が記載されていないため、訂正前の請求項1?2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、訂正前の請求項1?3に係る特許は特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである旨主張し(以下「申立理由1」という。)、 さらに、甲第1?4号証(以下、「甲1?4」という。)を提出し、訂正前の請求項1,3に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の請求項1?3に係る発明は、甲1?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨主張している(以下「申立理由2」という。) 甲第1号証:特開2001-81305号公報 甲第2号証:アドマテックス社製品カタログ「MIRACLE ADMAFINE」、平成22年6月発行 甲第3号証:特開2013-101411号公報 甲第4号証:特開2012-140529号公報 (2)申立理由1について 本件訂正請求により、表2の記載は「比較例10」であることが明らかとなったので、本件特許明細書の記載は、当業者が訂正発明1?3の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであり、発明の課題の解決手段を理解できるものといえる。 また、訂正発明1,2は、球状シリカ粉末を訂正発明3に係る樹脂へ高充填した際に、硬化前の樹脂組成物の流動性を極めて高くし、硬化後の樹脂組成物の基板強度を高くできる課題を解決できるものであるから、訂正発明1,2の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるものといえる。 したがって、この申立理由には理由がない。 (3)申立理由2について 申立人は、訂正前の請求項1に係る発明について、甲1に記載された発明であるか、甲3,4に記載された発明から容易に想到し得るものである旨主張していることから、これらの点について検討する。 ア)甲1発明について 甲1の請求項1、【0002】、【0006】、【0022】、【0051】、実施例9には、プリント配線基板の材料に用いる硬化性ポリフェニレンエーテル系樹脂組成物に充分な分散性を有するフィラーとして、本件特許明細書の実施例9で用いられている表面処理剤と同じシランカップリング剤であるビニルトリメトキシシランを、0.8wt%用いて処理されたアドマファインSO-C3である球状シリカ(以下、甲1発明という。)が記載されているものと認められる。 そして、甲2の記載によれば、アドマファインSO-C3は、体積平均粒径が0.8-1.2μm、比表面積が3-6m^(2)/g、D10/D50が0.39?0.51の範囲であるといえる。 しかしながら、甲1には、甲1発明の表面処理された球状シリカの疎水化度を1.0?5.0%とすることは記載も示唆もされていない。 また、訂正発明1の球状シリカ粉末は、本件特許明細書の段落【0019】、【0028】に記載されているとおり、超音波噴霧器を用いてシリカ粒子表面に予め表面処理剤を吸着させた後、オートクレーブを用いた加圧処理を行うことで、表面シラノール基と表面処理剤を均一に反応させているものであるのに対し、甲1発明は、どのような条件で表面処理を行っているのかが明らかでないことから、甲1発明が、本件特許発明の実施例と同じシランカップリング剤を用いており、シランカップリング剤の処理量が通常の表面処理で用いられる量と同じであるとしても、甲1発明の表面処理された球状シリカの疎水化度が1.0?5.0%であるとまではいえない。 イ)甲3発明について 甲3の請求項1、【0010】、【0017】には、液晶表示素子の製造において採用される液晶滴下法用シール剤である樹脂組成物に無機充填材として充填される表面が疎水化されたM値が20以上のシリカ粉末(以下、甲3発明という。)が記載されているものと認められる。 ここで、M値は疎水化の程度を示す指標であり、本件特許明細書の段落【0029】で記載された疎水化度の定義と甲3の段落【0010】で記載されたM値の定義をみると、両者は、疎水化度を測定する際の温度が明らかでない点でのみ相違するものであって、類似の疎水化の程度を示す指標であることがわかる。 一方、甲4の請求項1,2、【0015】、【0019】、【0020】、【0028】、実施例3,6,8には、水性表面と疎水性表面とを有する無機微粒子である両親媒性粒子において、M値は、両親媒性粒子の界面活性及び分散安定剤の分散安定性等の観点から、1?35が好ましく、実施例において、M値が1や5であるシリカ微粒子が記載されているものと認められる。 してみると、甲3発明は、M値を20以上とするものであるから、甲4に分散安定性の観点からシリカ微粒子のM値を1?5にする技術が記載されていたとしても、甲3発明において、疎水化度を1.0?5.0%(M値が1?5程度)とすることには、阻害要因があるといえる。 ウ)まとめ してみれば、訂正発明1は、甲1に記載された発明でも、甲1?4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 また、訂正発明1を引用する訂正発明2?3についても同様である。 第4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 表面処理シリカ粉末、スラリー組成物及びそれを用いた樹脂組成物 【技術分野】 【0001】 本発明は、シリカ粉末に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、電子機器の高速化、小型軽量化、高機能化に伴い、高密度実装・配線微細化に対応したプリント配線板が開発されている。多層ビルドアップ基板では、絶縁層と銅配線やICチップとの熱膨張率の違いによるクラック発生、製造時の耐熱性等の問題が生じ、微細配線の信頼性向上を目的として、従来にも増して、低熱膨張が要求されている。 【0003】 基板の熱膨張率低減には、シリカ粉末などのフィラーをエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂に高充填する方法、剛直な樹脂を利用する等の方法が知られている。しかし、フィラーを樹脂に高充填すると、流動性及び成形性が著しく低下する。更に、薄型化の場合、基板自体の剛性が低いため、絶縁信頼性が低下する問題があった。 【0004】 フィラーを樹脂に高充填かつ高流動させるために、粒度分布を調整して最密充填状態にすること、表面処理状態を制御することが有効である。特許文献1では、平均粒子径0.1μm以上5μm以下、かつ真球度0.8以上の球状シリカ粒子と平均粒子径1nm以上50nm以下のシリカナノ粒子とを有機溶媒に分散させてなるスラリー組成物、ワニス組成物が開示されている。この場合、粒度の適正化が不十分であり、最密充填状態の形成に伴う流動性の改善効果は乏しく、さらに、表面処理状態に関する記載がなく、問題解決までに至っていない。特許文献2では、平均粒子径D50、100%相当径D100が規定されているが、高流動性は実現されていない。 【0005】 シリカ粒子の粒子表面には反応サイトとして、シラノール基が存在しており、シランカップリング剤等の表面処理剤を用いた表面改質によって、樹脂に対する濡れ性が制御できることが知られている。すなわち、表面改質基量の制御が重要である。特許文献3では、シラザン類が特定量処理された塩基性シリカ粉体が開示されているが、処理量のみでは、不十分であった。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】 特開2006-36916号公報 【特許文献2】 特開2003-13002号公報 【特許文献3】 特開2004-161900号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、球状シリカ粉末を樹脂へ高充填した際に、分散が良好で、硬化前の樹脂組成物の流動性が極めて高く、硬化後の樹脂組成物の基板強度が高い、球状シリカ粉末を提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。 (1)体積平均粒径が0.80?1.3μm、粒度分布における累積体積10%値(D10)と累積体積50%値(D50)の比(D10/D50)=0.20?0.50、BET比表面積値が3.5?5.5m^(2)/g、疎水化度が1.0?5.0%である球状シリカ粉末。 (2)前記(1)に記載の球状シリカ粉末を含有してなるスラリー組成物。 (3)前記(2)に記載のスラリー組成物を用いた樹脂組成物。 【発明の効果】 【0009】 本発明の球状シリカ粉末を用いることにより、樹脂へ高充填した際に、硬化前の樹脂組成物の流動性を極めて高くし、硬化後の樹脂組成物の基板強度を高くすることができる。 【発明を実施するための形態】 【0010】 本発明は、体積平均粒径が0.80?1.3μm、粒度分布における累積体積10%値(D_(10))と累積体積50%値(D_(50))の比(D_(10)/D_(50))=0.20?0.50、BET比表面積値が3.5?5.5m^(2)/g、疎水化度が1.0?5.0%である球状シリカ粉末である。 球状シリカ粉末の体積平均粒径は0.80?1.3μmであって、1.3μmを超えると、シリカ凝集物が発生し、成型性が不良になり、0.80μm未満では、高い流動性が得られない。好ましい範囲は0.90?1.2μmである。 【0011】 球状シリカ粉末の粒度分布における累積体積10%値(D_(10))と累積体積50%値(D_(50))の比である(D_(10)/D_(50))は0.20?0.50である。(D_(10)/D_(50))=0.50を超えると、球状シリカ粉末の最大充填率増加に伴う高い流動性が得られない。(D_(10)/D_(50))=0.20未満であると、比表面積の増加に伴い系が熱力学的に不安定状態となるため、粒子同士が凝集し、流動性が損なわれる。好ましい、(D_(10)/D_(50))の範囲は0.28?0.42である。 【0012】 球状シリカ粉末の粒度分布、累積体積10%値(D_(10))、累積体積50%値(D_(50))は、レーザー回折光散乱法による粒度測定に基づく値であり、粒度分布測定機としては、例えば「モデルLS-230」(ベックマン・コールター社製)にて測定することができる。測定に際しては、溶媒には使用する有機溶剤を用い、前処理として、20秒間、超音波ホモジナイザーを用いて200Wの出力をかけて分散処理させる。また、PIDS(Polarization Intensity Differential Scattering)濃度を45?55質量%になるように調製した。なお、屈折率には、用いる溶剤の屈折率を用い、粉末の屈折率については粉末の材質の屈折率を考慮した。たとえば、非晶質シリカについては屈折率を1.50として測定した。なお、測定した粒度分布は、粒子径チャンネルがlog(μm)=0.04の幅になるよう変換した。 【0013】 球状シリカ粉末の比表面積は、BET法に基づく値であり、比表面積測定機としては、「Macsorb HM model-1208」(MACSORB社製)を用いて測定することができる。 【0014】 球状シリカ粉末のBET比表面積値は、3.5?5.5m^(2)/gである。3.5m^(2)/g未満では、粗大粒子の存在により成型性が不良になり、5.5m^(2)/gを超えると、シリカ凝集物が発生し、成型性が不良になる。 【0015】 本発明の球状シリカ粉末の疎水化度は、1.0?5.0%である。5.0を超えると、スラリー組成物製造時に使用される表面処理剤との反応量が低下し、基板強度が低下することがある。1.0未満では、樹脂組成物の高い流動性、分散性が得られない。 【0016】 本発明を構成する球状シリカ粉末の製造方法は、例えば、金属粉末スラリーを製造炉で可燃性ガスと助燃性ガスとからなる高温火炎中に供給し、該火炎中で該金属粉末を気化、酸化させることにより得られる。 【0017】 前記球状シリカをスラリー組成物として使用する前にシランカップリング剤による表面処理を行う。表面処理を予め施し、表面状態に起因する疎水化度を1.0?5.0%にすることが好ましい。これにより、シリカ粒子が有機溶媒中への分散性を向上した状態で、湿式表面処理を行うことで、更に、樹脂組成物中にシリカ粒子を良好に分散させることができる。シランカップリング剤として、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン、アクリロキシトリメトキシシラン等のアクリルシラン等が例示される。 【0018】 超音波噴霧器は、特に限定されず、公知のものを使用すれば良い。超音波噴霧時の噴霧サイズは、超音波振動の周波数に依存し、周波数が高くなればなるほど、噴霧サイズを小さくすることができる。好ましい噴霧サイズは1μm以下である。 【0019】 超音波噴霧器を用いて、シリカ粒子表面に予め表面処理剤を吸着させた後、オートクレーブを用いた加圧処理を行う。処理温度は120-180℃、処理圧力は1-2atm、処理時間は1-3hrが好ましい。これにより、表面シラノール基と表面処理剤を均一に反応させることができる。 【0020】 スラリー組成物について、説明する。 球状シリカ粉末は、水、有機溶媒に分散させたスラリー組成物として、好適に使用することができる。シリカ粒子を分散させる有機溶媒としては、その種類が特に限定されるものではない。樹脂に応じて選択すればよい。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル等の極性溶媒が用いられる。 その中でも特に、メチルエチルケトンが好ましい。 【0021】 スラリー組成物に含まれる球状シリカ粉末の含有量は、樹脂組成物の成形性の観点から72.0?75.0質量%である。75.0質量%を超えると、分散処理ができない。72.0質量%未満の場合、樹脂ワニス粘度が低くなるため、成型性が低下する。 【0022】 本発明のスラリー組成物は、CASSON粘度式における降伏値が0.4?1.9Pa、見かけの粘性係数が、0.01?0.05の範囲にあることが好ましい。 【0023】 樹脂組成物について、説明する。 スラリー組成物を用いて、パッケージ用基板や層間絶縁フィルム等の樹脂基板を製造する場合には、樹脂としてエポキシ樹脂を採用することが好ましい。 【0024】 樹脂組成物に用いるエポキシ樹脂は、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる重要分子量を有する2種類以上を併用もでき、1種類または2種類以上することもできる。 これらエポキシ樹脂中でも特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。 【0025】 本発明の樹脂組成物は、公知の硬化剤を用いればよいが、フェノール系硬化剤を使用することができる。フェノール系硬化剤としてはフェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、ポリビニルフェノール類などを単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。 【0026】 前記フェノール硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂との当量比(フェノール性水酸基当量/エポキシ基当量)が1.0未満、0.1以上が好ましい。これにより、未反応のフェノール硬化剤の残留がなくなり、吸湿耐熱性が向上する。 【0027】 樹脂組成物に配合される球状シリカ粉末の量は、耐熱性、熱膨張率の観点から、多いことが好ましい。樹脂組成物の全体質量に対して、80質量%以上であることが望ましい。 【実施例】 【0028】 実施例1?10 比較例1?10 (1)球状シリカ粉末の製造 最外部より、可燃性ガス供給管、助燃性ガス供給管、金属粉末スラリー供給管の順に組まれた三重巻管構造のバーナーを製造炉の頂部に設置する一方、製造炉の下部を捕集系(生成粉末をブロワーで吸引しバッグフィルターにて捕集)に接続されてなる装置を用い、金属酸化物粉末を製造した。なお、バーナーの外周には外周火炎を形成させる外周バーナーが更に3本設置されている。可燃性ガス供給管からLPGを10Nm^(3)/hr、助燃性ガス供給管から酸素を15Nm^(3)/hr供給して、製造炉内に高温火炎を形成した。金属シリコン粉末をメチルアルコールに分散させて調製した濃度55質量%のスラリーを、スラリーポンプを用いて、金属粉末スラリー供給管から供給し、球状シリカ粉末をバグフィルターにて捕集した。 (2)シリカ含有スラリーの製造 金属粉末スラリー法で製造された球状シリカ粉末に超音波噴霧器を用いて、噴霧量2.5L/min、周波数1.6MHz、N_(2)圧力0.04MPaの条件にて、シリカ粉末に表面処理剤を噴霧した。その後、オートクレーブにシリカ粉末を充填し、2atm、180℃下で2hr処理し、表面処理球状シリカ粉末とした。表面処理剤は、N-フェニルトリメトキシシラン「KBM-573」(信越化学工業株式会社製、分子量255.4)を用いた。次いで、得られたシリカ粉末をメチルエチルケトン(MEK)溶媒に分散させて、固形分濃度が75質量%のスラリーを調製した。 (3)樹脂硬化物の作製 エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂「EPICLON-850」(DIC株式会社製、エポキシ当量186g/eq)10.0質量部、硬化剤としてノボラック型フェノール樹脂「PSM-4261」(群栄化学工業株式会社製、水酸基当量106g/eq、軟化点80℃)5.9質量部、硬化促進剤として2-フェニルイミダゾール(2PZ)「四国化成工業株式会社製」0.2質量部、表面処理剤(SC剤)としてビニルトリメトキシシラン「KBM-1003」(信越化学工業株式会社製、分子量148.2)0.28質量部を得られたスラリー組成物100質量部に溶解し、樹脂組成物(エポキシ樹脂ワニス)を調製した。この樹脂組成物を基材にアプリケーターを用いて塗布し、50℃下で真空脱泡後、温度150℃、2時間乾燥し、樹脂硬化物を得た。得られた樹脂組成物の流動性、分散性及び樹脂硬化物の成型性を以下に示す方法に従って評価した。それらの評価結果を表1?2に示す。 (4)実施例9 実施例1の表面処理において、ビニルトリメトキシシラン「KBM-1003」(信越化学工業株式会社製、分子量148.2)を用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。 (5)実施例10 実施例1の表面処理において、メチルトリメトキシシラン「KBM-13」(信越化学工業株式会社製、分子量136.2)を用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。 (6)比較例9 実施例1の表面処理において、超音波噴霧器を用いた表面処理のみを行い、オートクレーブによる処理を行わなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。 (7)比較例10 実施例1の表面処理において、超音波噴霧器の代わりにスプレーを用いて表面処理を行った以外は、実施例1と同様にして、樹脂硬化物を得た。 【0029】 表面処理シリカ、樹脂組成物及び樹脂硬化物の評価方法を以下の(1)?(6)に示す。 (1)比表面積 球状シリカ粉末を1.0g計量し、測定用のセルに投入、前処理後、BET比表面積値を測定した。測定機は「Macsorb HM model-1208」(MACSORB社製)を使用した。以下の条件にて、前処理を行った。 脱気温度 :300℃ 脱気時間 :18分 冷却時間 :4分 (2)疎水化度 イオン交換水50ml、試料となる表面処理シリカ粉末を0.2gビーカーに入れ、マグネティックスターラーで撹拌しながらビュレットからメタノールを滴下し、試料全量が沈んだ終点におけるメタノール水混合溶液中のメタノール質量分率を疎水化度とした。 (3)流動性 真空脱泡後の樹脂組成物をE型粘度計(東機産業株式会社製:TVE-10)にて20 rpm時(測定温度25℃)の粘度を測定した。この際、2.0Pa・s以上を不良とした。 (4)分散性 樹脂組成物をJIS-K5101に準拠して、幅90mm、長さ240mm、最大深さ100μmのグラインドゲージを用いることにより、分散性として評価した。 各符号は以下の通りである。 ◎:1cm以上の筋(線状痕)が3本発生した位置の目盛りが5μm未満 ○:1cm以上の筋(線状痕)が3本発生した位置の目盛りが8μm未満 △:1cm以上の筋(線状痕)が3本発生した位置の目盛りが8μm以上 ×:1cm以上の筋(線状痕)が3本発生した位置の目盛りが10μm以上 (5)成形性/シリカ粒子の凝集物 得られた樹脂硬化物の面積1cm^(3)中に存在する10μm以上のシリカ粒子の凝集物の個数を表面形状検査システムKURASURF-PH(倉敷紡績株式会社製)を用いて、縞パターンを照射し位相差シフトを行うことで表面形状の凹凸を検出し、次の基準で成形性として評価した。 各符号は以下の評価基準である。 ◎:10μm未満の凝集物なし ○:10μm未満の凝集物5個未満 ×:10μm以上の凝集物5個以上 (6)曲げ強度 JIS規格C6481に基づき試験片(厚さ1.0mm×奥行25.0mm×幅75.0mm)を作製し、垂直方向の曲げ強度N/mm^(2)を評価した。 【0030】 【表1】 【0031】 【表2】 【0032】 実施例および比較例の対比から明らかなように、本発明の球状シリカ粉末をエポキシ樹脂に高充填した際、極めて流動性の高いスラリー組成物及び球状シリカ粒子が良好に分散してなる樹脂組成物を得ることができる。 【産業上の利用可能性】 【0033】 本発明のスラリー組成物、樹脂組成物は、例えば、プリント配線板等の電子機器分野において、半導体パッケージ基板に使用することができる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 体積平均粒径が0.80?1.3μm、粒度分布における累積体積10%値(D10)と累積体積50%値(D50)の比(D10/D50)=0.20?0.50、BET比表面積値が3.5?5.5m^(2)/g、疎水化度が1.0?5.0%である球状シリカ粉末。 【請求項2】 請求項1に記載の球状シリカ粉末を含有してなるスラリー組成物。 【請求項3】 エポキシ樹脂、ビニルトリメトキシシラン及び請求項2に記載のスラリー組成物を用いた樹脂組成物。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-05-07 |
出願番号 | 特願2013-168327(P2013-168327) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C01B)
P 1 651・ 113- YAA (C01B) P 1 651・ 537- YAA (C01B) P 1 651・ 536- YAA (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 森坂 英昭、村岡 一磨 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
山崎 直也 宮澤 尚之 |
登録日 | 2017-04-07 |
登録番号 | 特許第6121845号(P6121845) |
権利者 | デンカ株式会社 |
発明の名称 | 表面処理シリカ粉末、スラリー組成物及びそれを用いた樹脂組成物 |
代理人 | 伊藤 高志 |
代理人 | 田口 昌浩 |
代理人 | 伊藤 高志 |
代理人 | 田口 昌浩 |