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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C07C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C07C
管理番号 1341949
異議申立番号 異議2017-700515  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-24 
確定日 2018-05-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6039781号発明「低いヨウ化エチル含量を有する反応媒体から酢酸を製造する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6039781号の特許請求の範囲を平成30年2月14日付け手続補正書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1?19]、[20?25]、26について訂正することを認める。 特許第6039781号の請求項1ないし3、5ないし12、14ないし17、19、26に係る特許を維持する。 特許第6039781号の請求項4、13、18、20ないし25に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6039781号の請求項1ないし26に係る特許についての出願は、平成27年11月12日(パリ条約による優先権主張 2014年11月14日 米国(US) 優先権主張 2015年10月2日 米国(US))に出願されたものであって、平成28年11月11日に特許権の設定登録がされ、平成28年12月7日にその特許公報が発行され、その後、平成29年5月24日に、特許異議申立人 株式会社ダイセル(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年8月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年11月29日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正請求に対して当審から平成29年12月26日付けで訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成30年2月14日に意見書及び訂正請求書の手続補正書が提出され、特許異議申立人から同年3月30日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正請求書の補正について
平成30年2月14日付けで提出された手続補正書に基づく手続補正により、平成29年11月29日付け訂正請求書の訂正事項1?15のうち、訂正事項2、5、15が削除され、訂正前の請求項20、22?25の削除の訂正が追加されたものであり、いずれの補正事項も訂正請求の要旨を変更するものではないので、この訂正請求書の手続補正を認める。

第3 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の訂正事項1?16のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1の「750wppm以下」を「380wppm以下」に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項26の「750wppm以下」を「380wppm以下」に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項1の末尾に「であり、該反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する方法」との記載を追加する。
(4)訂正事項4
請求項26の末尾に、「であり、該反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する方法」との記載を追加する。
(5)訂正事項5
請求項4を削除する。
(6)訂正事項6
請求項10の「(A)該反応器内の水素分圧;(B)該反応媒体の酢酸メチル濃度;及び/又は(C)該反応媒体のヨウ化メチル濃度」を「(A)該反応器内の水素分圧;及び/又は(B)該反応媒体のヨウ化メチル濃度」に訂正する。
(7)訂正事項7
請求項26の「(A)該反応器内の水素分圧;(B)該反応媒体の酢酸メチル濃度;及び/又は(C)該反応媒体のヨウ化メチル濃度」を「(A)該反応器内の水素分圧;及び/又は(B)該反応媒体のヨウ化メチル濃度」に訂正する。
(8)訂正事項8
請求項12の「0.5?30重量%」を「2.5?3.2重量%」に訂正する。
(9)訂正事項9
請求項13を削除する。
(10)訂正事項10
請求項18を削除する。
(11)訂正事項11
請求項20を削除する。
(12)訂正事項12
請求項21を削除する。
(13)訂正事項13
請求項22を削除する。
(14)訂正事項14
請求項23を削除する。
(15)訂正事項15
請求項24を削除する。
(16)訂正事項16
請求項25を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1,2,3,4について
ア 訂正の目的要件の適否
訂正事項1,2は、反応媒体中のヨウ化エチルの濃度の上限をさらに限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項3,4は、酢酸生成物の製造方法において、反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持することを特定して限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項1,2に関連する事項が、願書に添付した明細書の【0119】の表1に示された本発明の実施例とされる試料A?EのEI(ヨウ化エチル濃度)の最大値として記載されており、訂正後の「ヨウ化エチル濃度を380wppm以下」に係る発明特定事項は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)に記載されているものと認められる。
また、訂正事項3,4に関連する事項が、願書に添付した明細書の【0046】に反応媒体中の酢酸メチルの維持する濃度範囲として記載されており、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する」に係る発明特定事項は願書に添付した明細書等に記載されているものと認められる。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1,2,3,4に関連する事項は、明細書に記載された事項の範囲内においてヨウ化エチル濃度と、酢酸メチル濃度を特定濃度に維持することを特許請求の範囲においてさらに限定したものといえるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものとはいえない。

(2)訂正事項6,7,8について
ア 訂正の目的要件の適否
訂正事項6,7は、反応媒体中のヨウ化エチルの濃度を維持する手段の選択肢「(A)該反応器内の水素分圧;(B)該反応媒体の酢酸メチル濃度;及び/又は(C)該反応媒体のヨウ化メチル濃度」から、該反応媒体の酢酸メチル濃度を削除したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項8は、反応媒体の酢酸メチル濃度を2.5?3.2重量%に維持することをさらに特定して限定したものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項6,7は、請求項に係る発明の特定事項の選択肢を削除したもので、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえる。
訂正事項8に関連する事項が、願書に添付した明細書の【0119】の表1に示された本発明の実施例とされる試料A?EのMeOAc(酢酸メチル濃度)の最大値と最小値として記載されており、訂正後の「酢酸メチル濃度を2.5?3.2重量%に維持する」ことに係る発明特定事項は願書に添付した明細書等に記載されているものと認められる。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
また、訂正事項6,7は、請求項に係る発明の特定事項の選択肢を削除したもので、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものとはいえないし、訂正事項8の数値範囲の減縮は、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものとはいえない。

(3)訂正事項5,9?16について
ア 訂正の目的要件の適否
訂正事項5,9?16は、請求項を削除したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無について
訂正事項5,9?16は、請求項を削除したものであるから、願書に添付した明細書等に記載されているものと認められる。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項5,9?16は、請求項を削除したものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものとはいえない。

3 一群の請求項について
訂正事項1,3,5,6,8?10に係る訂正前の請求項1?19について、請求項2?19はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1および3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?19に対応する訂正後の請求項1?19は、一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。
また、訂正事項11?16に係る訂正前の請求項20?25について、請求項21?25はそれぞれ請求項20を引用しているものであって、訂正事項11?16によって削除請求項20と共に訂正によって全て削除されている。したがって、訂正前の請求項20?25に対応する訂正後の請求項20?25は、一群の請求項であり、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものである。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の[1?19],[20?25],26についての訂正を認める。

第4 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?3,5?12,14?17,19,26に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」,「本件発明5」?「本件発明12」,「本件発明14」?「本件発明17」,「本件発明19」,「本件発明26」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3,5?12,14?17,19,26に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】
酢酸生成物の製造方法であって、反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチル、及びハロゲン化物塩の存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程、ここで、該カルボニル化は該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行われる;および該反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み、該酢酸生成物が250wppm以下の量のプロピオン酸を含み、メタノールが該反応器中に導入され、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含む方法であり、該反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、該工程が、プロピオン酸を該酢酸生成物から除去し、及び/又は該酢酸生成物中のプロピオン酸濃度を減少させることを含まない方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、該工程が、該反応媒体からアルカンを除去するためのアルカン除去システムを含まない方法。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、該反応媒体中のヨウ化エチルと該酢酸生成物中のプロピオン酸が3:1?1:2の重量比で存在する方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、該反応媒体が0.1?14重量%の量の水を含む方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、該反応器を150?250℃の温度及び25?40気圧の全圧に維持する方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、該反応媒体が1500wppm以下の量のアセトアルデヒドを更に含む方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、アセトアルデヒドとヨウ化エチルが2:1?20:1の重量比で該反応媒体中に存在する方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、
該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を、
(A)該反応器内の水素分圧;及び/又は(B)該反応媒体のヨウ化メチル濃度:の少なくとも1つを調節し;そして
該反応媒体から該酢酸生成物を分離する;
ことによって維持する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、該反応器内の該水素分圧を0.3?2気圧に維持する方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法であって、該反応媒体の酢酸メチル濃度を2.5?3.2重量%に維持する方法。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を、該反応媒体から誘導される流れからアセトアルデヒドを除去することによって維持する方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
ヨウ化エチル濃度が、
(a)該反応媒体の少なくとも一部を分離して、酢酸及び液体再循環物質を含む蒸気オーバーヘッド流を与え;
(b)該蒸気オーバーヘッド流を蒸留して、精製酢酸生成物、並びにヨウ化メチル、水、酢酸、酢酸メチル、及びアセトアルデヒドを含む第1のオーバーヘッド流を生成させ;
(c)該第1のオーバーヘッド流の少なくとも一部を蒸留して、第2のオーバーヘッド流及び液相残渣を形成し、ここで、該第2のオーバーヘッド流は該第1のオーバーヘッド流の少なくとも一部に対してアセトアルデヒドが富化されており;そして
(d)該第2のオーバーヘッド流の一部を水で抽出して、アセトアルデヒドを含む水性アセトアルデヒド流、及びヨウ化メチルを含むラフィネートを得る;
ことを含む方法を用いてアセトアルデヒドを除去することによって維持される方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、該ラフィネートからのヨウ化メチルを該反応器に直接か又は間接的に戻す方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、該第1のオーバーヘッド流を凝縮及び二相分離して軽質液相及び重質液相を形成することを更に含み、ここで工程(c)において蒸留される該第1のオーバーヘッド流の該少なくとも一部が重質液相を含む方法。
【請求項18】
(削除)
【請求項19】
請求項17に記載の方法であって、該重質液相がヨウ化エチルを含む方法。
【請求項20】
(削除)
【請求項21】
(削除)
【請求項22】
(削除)
【請求項23】
(削除)
【請求項24】
(削除)
【請求項25】
(削除)
【請求項26】
酢酸生成物の製造方法であって、反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチル、及びハロゲン化物塩の存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程、ここで、該カルボニル化は、(A)該反応器内の水素分圧;及び/又は(B)該反応媒体のヨウ化メチル濃度;の少なくとも1つを調節することによって行われる;および、該反応媒体から該酢酸生成物を分離して、該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持する工程;および、該反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み、メタノールが該反応器中に導入され、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含む方法であり、該反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する方法。

第5 取消理由
1 特許異議申立人が申し立てた取消理由
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は以下のとおりである。
(1ア)訂正前の請求項1?26に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第2号証又は甲第11号証に記載された発明であり、特許法第第29条第1項第3号に該当し、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(1イ)訂正前の請求項1?26に係る特許は、当該請求項に係る発明が、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された下記甲第1号証に記載された発明及び下記甲第2?10号証に記載の事項に基いて、又は甲第2号証及び甲第3?10号証に記載の事項に基いて、又は甲第11号証に記載された発明及び甲第3?10号証に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(1ウ)訂正前の請求項18,20?25に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)甲号証
甲第1号証:特開平8-67650号公報
甲第2号証:特開平10-231267号公報
甲第3号証:下記標目参照
甲第4号証:下記標目参照
甲第5号証:下記標目参照
甲第6号証:下記標目参照
甲第7号証:下記標目参照
甲第8号証:下記標目参照
甲第9号証:下記標目参照
甲第10号証:下記標目参照
甲第11号証:特表2001-508405号公報

甲第3号証?甲第10号証の標目は以下のとおりである。

2 当審が通知した取消理由の概要
(1)訂正前の請求項1?26に係る特許に対して平成29年8月29日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
理由1:請求項1?26に係る発明は、数多くの変数に影響を受けるヨウ化エチルの形成を具体的にどのように制御し、濃度を維持すれば良いのか裏付けをもって記載されておらず、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1?26に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

理由2:請求項1?26に係る発明は、発明の詳細な説明に反応媒体中のヨウ化エチル濃度をどのように維持したのか具体的に記載されておらず、その発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、請求項1?26に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

理由3:請求項18の「エマルジョンを含む相が該軽質液相と該重質液相の間に形成されるのを阻止するのに十分な条件」との記載,請求項20の「ハロゲン化物有機物塩」との記載が不明確であり、請求項18,20?26に係る発明は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、請求項18,20?26に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

理由4:請求項1?14に係る発明は、刊行物2に記載された発明、及び刊行物1,3?11に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、請求項1?14に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

理由5:請求項1?26に係る発明は、刊行物11に記載された発明、及び刊行物1?10に記載の事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1?26に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

1 引用刊行物
刊行物1:特開平8-67650号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開平10-231267号公報(甲第2号証)
刊行物3:(甲第3号証)
刊行物4:(甲第4号証)
刊行物5:(甲第5号証)
刊行物6:(甲第6号証)
刊行物7:(甲第7号証)
刊行物8:(甲第8号証)
刊行物9:(甲第9号証)
刊行物10:(甲第10号証)
刊行物11:特表2001-508405号公報(甲第11号証)

なお、刊行物1,3?10は、本件発明の優先日時点での技術常識を示すものである。

第6 当審の判断
当審は、本件発明1?3,5?12,14?17,19,26は、特許異議申立人が申し立てた取消理由及び当審の通知した取消理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。
さらに、訂正前の請求項4,13,18,20?25に係る特許は、訂正により削除されているので、申立てを却下する。

当審が通知した取消理由の判断

1 理由1(特許法第36条第6項第1号)について
(1)サポート要件の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
請求項1には、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行うこと、酢酸生成物が250wppm以下の量のプロピオン酸を含むこと、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含むこと、反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持することが特定された酢酸生成物を製造する方法が記載されている。
そして、請求項2には、請求項1記載の方法において、プロピオン酸を該酢酸生成物から除去し、及び/又は減少させることを含まないことがさらに特定されたものが、請求項3には、請求項1記載の方法において、反応媒体からアルカンを除去するためのアルカン除去システムを含まないことがさらに特定されたものがそれぞれ記載されている。
そして、請求項5?9には、請求項1記載の方法において、それぞれ、反応媒体中ヨウ化エチルと酢酸生成物中のプロピオン酸の重量比、反応媒体中の水の含有量、反応器の温度と圧力の範囲、反応媒体中のアセトアルデヒド量の上限、反応媒体中のアセトアルデヒドとヨウ化エチルの重量比をさらに特定したものが記載されている。
さらに、請求項10には、請求項1記載の方法において、ヨウ化エチル濃度を、水素分圧、ヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節すること及び反応媒体から酢酸生成物を分離することで維持することを特定したものが、請求項11、12、14には、水素分圧、酢酸メチル濃度を特定の範囲に維持すること、ヨウ化エチル濃度を反応媒体から誘導される流れからアセトアルデヒドを除去することによって維持することをさらに特定したものが記載されている。
また、請求項15?17には、請求項14記載の方法において、アセトアルデヒドの除去が、蒸気オーバーヘッド流を与え、第1オーバーヘッド流を生成させ、第2オーバーヘッド流及び液相残渣を形成し、水性アルデヒド流、ラフィネートをえることを含む方法によることをさらに特定したもの、ラフィネートからヨウ化メチルを反応器に戻すことをさらに特定したもの、第1オーバーヘッド流を凝縮及び二相分離して軽質液相及び重質液相を形成し、工程(c)において蒸留される第1のオーバーヘッドが重質液相を含むことをさらに特定したものが記載されている。
そして、請求項19には、請求項17記載の方法において、重質液相がヨウ化エチルを含むことが特定されたものが記載され、請求項26には、酢酸生成物を製造する方法として、メタノールのカルボニル化を水素分圧、ヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節すること、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持すること、メタノール供給原が1?150wppmの量のエタノールを含むこと、反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持することが特定されたものが記載されている。

(3)発明の詳細な説明の記載
ア 発明の詳細な説明には、酢酸を製造する方法において、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行うこと、酢酸生成物が250wppm以下の量のプロピオン酸を含むこと、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含むこと、反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持することに関して、特許請求の範囲の記載の繰り返し記載を除くと、以下の記載がある。

イ 一般的記載として、【0028】には、「
ヨウ化エチル濃度:
・・・本発明は、メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種類のメンバーを、水、金属触媒、ヨウ化メチル、及びハロゲン化物塩の存在下でカルボニル化して反応媒体を形成することを含む酢酸の製造方法に関する。カルボニル化反応それ自体に加えて、幾つかの更なる反応が反応媒体中で起こる。理論には縛られないが、図1は、カルボニル化プロセス中に水素化及びアルドール縮合反応によって形成される可能性がある種々の副生成物及び不純物を示す。反応媒体中にアセトアルデヒドが存在すると、それはエタノールに水素化される可能性があり、これは次に酢酸と反応して酢酸エチルを形成する。酢酸エチルは次にヨウ化物と反応してヨウ化エチルを形成する。ヨウ化エチルは次に金属触媒及び一酸化炭素と反応して、プロピオン酸を形成する可能性がある。酢酸生成物中のプロピオン酸濃度は、式1にしたがって計算することが
できる。」(下線は当審にて追加。以下同様。)と記載があり、ヨウ化エチル濃度に関して、反応媒体中にアセトアルデヒドが存在すると、エタノールに水素化され酢酸エチルを形成し、ヨウ化物と反応してヨウ化エチルを形成し、金属触媒及び一酸化炭素と反応してプロピオン酸を形成する可能性のあることが記載され、【0031】【0032】には、「・・・反応器内において、メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種類のメンバーを、水、金属触媒、ヨウ化メチル、及びハロゲン化物塩の存在下で一酸化炭素を用いてカルボニル化して反応媒体を形成し、カルボニル化は反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750wppm以下に維持しながら行うことによって、酢酸を製造することができることが見出された。次に酢酸を反応媒体から分離し、酢酸生成物は250wppm以下のプロピオン酸を含む。驚くべきことに且つ予期しなかったことに、反応媒体中のヨウ化エチルの量を制御することによって、酢酸生成物中のプロピオン酸の量を250wppm以下に維持することができることが見出された。
【0032】
・・・幾つかの態様においては、反応媒体中のヨウ化エチルの濃度は、750wppm以下、又は例えば650wppm以下、又は550wppm以下、450wppm以下、或いは350wppm以下になるように維持/制御する。幾つかの態様においては、反応媒体中のヨウ化エチルの濃度は、1wppm以上、例えば5wppm以上、10wppm以上、20wppm以上、又は25wppm以上で、650wppm以下、例えば550wppm以下、450wppm以下、又は350wppm以下に維持/制御する。」との記載があり、反応媒体中のヨウ化エチルの量を制御することによって、酢酸生成物中のプロピオン酸の量を250wppm以下に維持することができることが見出されたことが記載されている。

ウ 【0033】?【0035】には、「【0033】
・・・幾つかの態様においては、酢酸生成物中のプロピオン酸濃度は、反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750wppm以下に維持することによって、酢酸生成物からプロピオン酸を除去及び/又は減少させることなく、250wppmより低く維持される。好ましくは、酢酸生成物中のプロピオン酸濃度は、250wppm以下、例えば225wppm以下、200wppm以下、又は150wppm以下の量で維持することができる。「酢酸生成物からプロピオン酸を除去及び/又は減少させることなく」とは、分離、抽出、吸着、或いは反応器及び/又はフラッシュ容器の外側の反応によってプロピオン酸を除去しないことを意味する。従来のプロセスにおいては、このプロピオン酸除去は、その中でプロピオン酸から酢酸生成物を蒸留し、カルボニル基を含む他の重質有機化合物及びアルキルヨウ化物を分離する重質留分カラムを伴っていた。従来は、これらの重質留分カラムによって酢酸生成物からプロピオン酸を除去及び/又は減少させることができた。有利なことに、反応媒体中のヨウ化エチル濃度を制御することによって、本発明は、酢酸生成物からプロピオン酸を別に除去及び/又は減少させる必要性を排除する。
【0034】
・・・而して、一態様においては、反応器内において、メタノール、ジメチルエーテル
、及び酢酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種類のメンバーを、水、金属触媒、ヨウ化メチル、及びハロゲン化物塩の存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成し、カルボニル化は750wppm以下の反応媒体中のヨウ化エチル濃度を維持しながら行い;そして反応媒体から酢酸生成物を分離する;工程を含み、酢酸生成物は250wppm以下の量のプロピオン酸を含み、プロピオン酸は、蒸留、抽出、又は吸着によって酢酸生成物から除去及び/又は減少されない、酢酸生成物の製造方法が提供される。
【0035】
・・・本明細書に記載する方法にはアセトアルデヒドの除去を含ませることができるので、別のアルカン除去システムは用いない。したがって、反応媒体中の750wppm以下のヨウ化エチル濃度は、アルカン除去、又はアルカン除去システムの使用によっては維持又は制御されない。」との記載があり、プロピオン酸が蒸留、抽出、又は吸着によって酢酸生成物から除去及び/又は減少されない、酢酸生成物の製造方法が提供できることが記載されている。
また、【0038】【0039】には、「【0038】
・・・PRC除去と組み合わせて、反応媒体中のヨウ化エチル濃度は、
(A)反応器内の水素分圧;:
(B)反応媒体中の酢酸メチル濃度;及び/又は
(C)反応媒体中のヨウ化メチル濃度;
の少なくとも1つを調節することによって維持することができる。
【0039】
・・・一態様においては、反応媒体中のヨウ化エチル濃度は、0.3?2気圧の比較的高い水素分圧を維持することによって維持することができる。水素分圧は反応器内で直接は測定されないが、これは、反応器に導入する水素、反応器排出流の組成、及び不純物/
副生成物の生成によって制御することができる。高い水素分圧は、反応媒体中におけるロジウム触媒の安定性のために有利である。反応媒体中におけるロジウム触媒の安定性は、水素分圧が0.3気圧未満である場合には制御するのが困難である。反応媒体中のヨウ化エチル濃度を減少させるために、水素分圧を低下させることができる。一態様においては、0.3?2気圧の範囲内で反応媒体中のヨウ化エチル濃度を低下させることができる。例えば、水素分圧が1.7気圧であり、ヨウ化エチル濃度が800ppmである場合には、水素分圧を、それが少なくとも0.3気圧である限りで低下させることができる。他の態様においては、ヨウ化エチル濃度は、反応媒体の酢酸メチル濃度を0.5?30重量%に維持することによって維持する。一態様においては、反応媒体中のヨウ化エチル濃度は、反応媒体のヨウ化メチル濃度を1?25重量%に維持することによって維持することができる。反応媒体中のヨウ化エチル濃度を減少させるために、反応媒体中の酢酸メチル濃度を減少させることができる。例えば、酢酸メチル濃度が4重量%であり、ヨウ化エチル濃度が800ppmである場合には、酢酸メチル濃度を、それが少なくとも0.5重量%又は1重量%である限りで減少させることができる。他の態様においては、ヨウ化エチル濃度は、反応媒体のヨウ化メチル濃度を1?25重量%に維持することによって維持する。反応媒体中のヨウ化エチル濃度を減少させるために、反応媒体中のヨウ化メチル濃度を減少させることができる。例えば、ヨウ化メチル濃度が4重量%であり、ヨウ化エチル濃度が800ppmである場合には、ヨウ化メチル濃度を、それが1重量%以上である限りで減少させることができる。而して一態様においては、反応器内において、メタノール、ジメチルエーテル、及び酢酸メチルからなる群から選択される少なくとも1種類のメンバーを、水、金属触媒、ヨウ化メチル、及びハロゲン化物塩の存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成し、カルボニル化は、(A)反応器内の水素分圧;(B)反応媒体の酢酸メチル濃度;及び/又は(C)反応媒体のヨウ化メチル濃度;の少なくとも1つを調節することによって、反応媒体中のヨウ化エチル濃度を750wppm以下に維持しながら行い;そして反応媒体から酢酸生成物を分離する;工程を含み、酢酸生成物は250wppm以下の量のプロピオン酸を含む、酢酸生成物の製造方法が提供される。」との記載があり、PRC除去と組み合わせて、反応媒体中のヨウ化エチル濃度は、反応器内の水素分圧、反応媒体中の酢酸メチル濃度、反応媒体中のヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節することによって維持することができることが記載されている。

エ 【0046】には、「【0046】
・・・反応媒体の成分は、酢酸の十分な生産を確保するために規定限界内に維持する。反応媒体は、特定の濃度の金属触媒、例えばロジウムとして100?3000wppm、例えば400?2000wppm、又は400?1500wppmの量のロジウム触媒を含む。反応媒体中の水の濃度は、14重量%以下、例えば0.1重量%?14重量%、0.2重量%?10重量%、又は0.25重量%?5重量%に維持する。好ましくは、反応は低水条件下で行い、反応媒体は4.1重量%以下、例えば3.5重量%未満、3重量%未満、又は2重量%未満の量の水を含む。範囲に関しては、反応媒体は、0.1?3.5重量%、例えば0.1?3重量%、又は0.5?2.8重量%の量の水を含む。反応媒体中のヨウ化メチルの濃度は、1?25重量%、例えば5?20重量%、4?13.9重量%になるように維持する。反応媒体中のヨウ化物塩、例えばヨウ化リチウムの濃度は、1?25重量%、例えば2?20重量%、3?20重量%になるように維持する。反応媒体中の酢酸メチルの濃度は、0.5?30重量%、例えば0.3?20重量%、0.6?4.1重量%になるように維持する。反応媒体中の酢酸の濃度は、概して30重量%以上、例えば40重量%以上、又は50重量%以上である。上記の量は反応媒体の全重量を基準
とするものである。」との記載があり、酢酸の十分な生産を確保するために規定限界内に維持する範囲として酢酸メチルに関して0.6?4.1重量%になるように維持することが記載されている。
また、【0064】には、「【0064】
ヨウ化エチル濃度及び制御:
・・・本明細書に記載するように、酢酸生成物、好ましくは250wppm未満、例えば225wppm未満、又は200wppm未満のプロピオン酸濃度を有する酢酸生成物が望ましい。ここで、酢酸生成物のプロピオン酸濃度は、少なくとも反応媒体中のヨウ化エチルの濃度を制御することによって制御することができることが見出された。更に、ヨウ化エチルの形成は、反応媒体中のアセトアルデヒド、酢酸エチル、酢酸メチル、及びヨウ化メチルの濃度などの数多くの変数によって影響を受けることが見出された。更に、メタノール供給源中のエタノール含量、一酸化炭素供給源中の水素分圧及び水素含量は、それぞれヨウ化エチル含量、及びその結果として酢酸生成物中のプロピオン酸含量に影響を与える。ヨウ化エチル含量に影響を与える可能性がある更なる要素としては、反応媒体中の触媒濃度及び水濃度が挙げられる。驚くべきことに、本明細書において議論するようにこれらの変数を制御及び/又は操作することによって、所望のヨウ化エチル濃度、及びその結果として所望の酢酸生成物が与えられる。」との記載があり、ヨウ化エチル濃度の制御に関して、酢酸生成物のプロピオン酸濃度は、少なくとも反応媒体中のヨウ化エチルの濃度を制御することによって制御することができることが見出されたこと、ヨウ化エチルの形成は、反応媒体中のアセトアルデヒド、酢酸エチル、酢酸メチル、及びヨウ化メチルの濃度などの数多くの変数によって影響を受けること、メタノール供給源中のエタノール含量、一酸化炭素供給源中の水素分圧及び水素含量は、それぞれヨウ化エチル含量、及びその結果として酢酸生成物中のプロピオン酸含量に影響を与えること、ヨウ化エチル含量に影響を与える可能性がある更なる要素としては、反応媒体中の触媒濃度及び水濃度が挙げられること、これらの変数を制御及び/又は操作することによって、所望のヨウ化エチル濃度、及びその結果として所望の酢酸生成物が与えられることが記載されている。

オ そして、具体的記載として、【0117】?【0123】に、「【0117】
・・・本発明は以下の非限定的な実施例を考慮してより良好に理解される。
実施例1:試料A?C:
[0105]一酸化炭素及びメタノール、ロジウム触媒、ヨウ化メチル、ヨウ化リチウム、及び酢酸メチルを含むロジウム触媒混合物をマイクロユニットに供給した。メタノールは5?15wppmのエタノールを含んでいた。温度を一定に維持し、反応圧力も同様にし、一方、他の条件及び成分は変化させた。アセトアルデヒド及びヨウ化エチルの濃度を測定し、下表1に報告する。
【0118】
実施例2:試料D?F:
・・・一酸化炭素、メタノール、並びにロジウム触媒、ヨウ化メチル、ヨウ化リチウム、及び酢酸メチルを含むロジウム触媒混合物をパイロットプラントに供給した。温度を実質的に一定に維持し(全実施例の間で2℃以内)、一方、他の条件及び成分は変化させた。アセトアルデヒド及びヨウ化エチルの濃度を測定し、下表1に報告する。実施例Fは比較実施例であり、一方試料A?Eは本発明である。
【0119】
【表1】

【0120】
・・・表1に示されるように且つ図3においてプロットされているように、試料A?Fは、アセトアルデヒド濃度とヨウ化エチル濃度との間の関係が、非常に安定性がなく、予測できないことを示す。マイクロユニット内で行った試料A?Cを比較すると、増加するヨウ化エチルと、増加するアセトアルデヒド、増加する水素分圧及び一酸化炭素中の水素との間の傾向が明らかである。この傾向はまた、パイロットプラント内で行った試料D?Fを比較することによっても分かる。
【0121】
実施例3:
・・・試料A?Fのそれぞれの反応混合物を反応器から取り出し、図2において記載するようなフラッシュ容器、軽質留分カラム、及び乾燥カラムに通した。プロピオン酸、或いは酢酸よりも高い沸点を有する成分の重質留分除去は行わなかった。酢酸生成物中のプロピオン酸濃度を測定した。結果を、反応混合物中のアセトアルデヒド濃度とヨウ化エチル濃度を比較して下表2に示す。
【0122】
【表2】

【0123】
・・・表2において示されるように、ヨウ化エチル含量が750wppm未満であり、アセトアルデヒド濃度が1500wppm未満である場合には、酢酸生成物中のプロピオ
ン酸濃度は250wppm未満である。」との記載があり、実施例1,2に示された試料A?Eまでの実施例と試料Fの比較例が示され、表1と図3からアセトアルデヒド濃度とヨウ化エチル濃度との関係が示され、実施例3に、試料A?Fを図2装置を用いて行った結果を表2として酢酸生成物中のプロピオン酸濃度を含めて示されている。

以下に図1?3を示す。


(4)対比判断
ア 本件発明の課題
発明の詳細な説明の【技術分野】【0002】の「【技術分野】・・・【0002】・・・ 本発明は、酢酸の製造方法、特に低いヨウ化エチル含量を有する反応媒体から酢酸を製造する方法に関する。」との記載、【発明が解決しようとする課題】の【0010】の「・・・上記に記載の公報は、アルカン、アルカン様の材料、及びアセトアルデヒドのようなカルボニル不純物をカルボニル化反応系から抑止又は除去することに焦点が当てられているが、特にアルカン除去プロセスの不存在下においてはこれらの不純物から形成される可能性があるヨウ化エチルの形成を除去又は制御することに関する技術は少ししか存在しない。したがって、少ない量のヨウ化エチルを含む反応媒体を生成させるための改良された方法に対する必要性が存在する。」との記載及び本願明細書全体の記載を参酌して、本件特許発明の課題は、アルカンやカルボニル不純物やカルボン酸不純物を直接除去することに頼らず、低いヨウ化エチル含量を有する反応媒体から酢酸を製造する方法の提供にあるものと認める。

イ 対比判断
(ア)本件発明1について
a 前記(2)に記載されるように、請求項1には、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含み、反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持し、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行い、酢酸生成物が250wppm以下の量のプロピオン酸を含むことが特定された酢酸を製造する方法が記載されている。
b 一方、発明の詳細な説明には、【0028】には、ヨウ化エチル濃度に関して、反応媒体中にアセトアルデヒドが存在すると、エタノールに水素化され酢酸エチルを形成し、ヨウ化物と反応してヨウ化エチルを形成し、金属触媒及び一酸化炭素と反応してプロピオン酸を形成する可能性のある旨の反応機構に関して説明され、【0031】【0032】には、反応媒体中のヨウ化エチルの量を制御することによって、酢酸生成物中のプロピオン酸の量を250wppm以下に維持することができることが見出されたことが記載され、【0033】?【0035】には、プロピオン酸を蒸留、抽出、又は吸着によって酢酸生成物から除去及び/又は減少しない酢酸生成物の製造方法が提供できる旨の本発明の効果が記載され、【0038】【0039】には、PRC除去と組み合わせて、反応媒体中のヨウ化エチル濃度は、反応器内の水素分圧、反応媒体中の酢酸メチル濃度、反応媒体中のヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節することによって維持することができる旨の制御パラメータが説明され、その上下限の一定の技術的意義が記載され、【0046】には、酢酸の十分な生産を確保するために規定限界内に維持する範囲として酢酸メチルに関しては0.6?4.1重量%になるように維持することが最も狭い数値範囲として記載されている。
また、【0064】には、ヨウ化エチル濃度の制御に関して、酢酸生成物のプロピオン酸濃度は、少なくとも反応媒体中のヨウ化エチルの濃度を制御することによって制御することができ、ヨウ化エチルの形成は、反応媒体中のアセトアルデヒド、酢酸エチル、酢酸メチル、ヨウ化メチルの濃度などの数多くの変数によって影響を受けること、やメタノール供給源中のエタノール含量、一酸化炭素供給源中の水素分圧及び水素含量は、それぞれヨウ化エチル含量、及びその結果として酢酸生成物中のプロピオン酸含量に影響を与える旨の説明があり、ヨウ化エチルの形成、ひいてはプロピオン酸含量に影響を与える変数について説明がある。
c さらに具体的実施例において、試料A?Cに関して、「一酸化炭素及びメタノール、ロジウム触媒、ヨウ化メチル、ヨウ化リチウム、及び酢酸メチルを含むロジウム触媒混合物をマイクロユニットに供給した。メタノールは5?15wppmのエタノールを含んでいた。温度を一定に維持し、反応圧力も同様にし、一方、他の条件及び成分は変化させた 」、試料D?E及び試料Fに関して、「一酸化炭素、メタノール、並びにロジウム触媒、ヨウ化メチル、ヨウ化リチウム、及び酢酸メチルを含むロジウム触媒混合物をパイロットプラントに供給した。温度を実質的に一定に維持し(全実施例の間で2℃以内)、一方、他の条件及び成分は変化させた 」と記載され、「表1に示されるように且つ図3においてプロットされているように、試料A?Fは、アセトアルデヒド濃度とヨウ化エチル濃度との間の関係が、非常に安定性がなく、予測できないことを示す。マイクロユニット内で行った試料A?Cを比較すると、増加するヨウ化エチルと、増加するアセトアルデヒド、増加する水素分圧及び一酸化炭素中の水素との間の傾向が明らかである。この傾向はまた、パイロットプラント内で行った試料D?Fを比較することによっても分かる」と記載されている。

d また、上記bのとおり、ヨウ化エチルを含めたプロピオン酸生成の反応機構の記載やアセトアルデヒドを基点とした不純物に関する説明の図面があり、ヨウ化エチルを一定量に維持することで生成酢酸中のプロピオン酸を一定以下にできることの記載、ヨウ化エチル濃度制御のパラメータは多いものの、少なくとも、PRC除去と組み合わせて、反応媒体中のヨウ化エチル濃度は、反応器内の水素分圧、反応媒体中の酢酸メチル濃度、反応媒体中のヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節することによって維持することができることが説明されているのであるから、具体例で、ヨウ化エチル濃度380wppmとし、酢酸の十分な生産を確保するために規定限界内に維持する範囲として例示されている酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に該当する試料A?Eの結果と各パラメータの考察の記載を考慮すると、ヨウ化エチル濃度を一定の低い範囲に制御できると理解できる。
したがって、上記知見を理解した上であれば、「メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含み」、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持し」、「ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行い」、「酢酸生成物が250wppm以下の量のプロピオン酸を含む」「酢酸を製造する方法」を実行することは可能であるといえ、実際に実行できれば、前記課題が解決できると認識できる範囲であるといえる。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(イ)請求項2?3,5?12,14?17,19に係る発明について
請求項2?3,5?12,14?17,19に係る発明は、請求項1に係る発明において、プロピオン酸を該酢酸生成物から除去し、及び/又は減少させることを含まないこと、反応媒体からアルカンを除去するためのアルカン除去システムを含まないこと、反応媒体中ヨウ化エチルと酢酸生成物中のプロピオン酸の重量比、反応媒体中の水の含有量、反応器の温度と圧力の範囲、反応媒体中のアセトアルデヒド量の上限、反応媒体中のアセトアルデヒドとヨウ化エチルの重量比、ヨウ化エチル濃度を、水素分圧、ヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節すること及び反応媒体から酢酸生成物を分離することで維持すること、水素分圧、酢酸メチル濃度を特定範囲に維持すること、ヨウ化エチル濃度を反応媒体から誘導される流れからアセトアルデヒドを除去することによって維持すること、アセトアルデヒドの除去が蒸気オーバーヘッド流を与え、第1オーバーヘッド流を生成させ、第2オーバーヘッド流及び液相残渣を形成し、水性アルデヒド流、ラフィネートをえること、ラフィネートからヨウ化メチルを反応器に戻すこと、第1オーバーヘッド流を凝縮及び二相分離して軽質液相及び重質液相を形成し、蒸留される第1のオーバーヘッドが重質液相を含むこと、重質液相がヨウ化エチルを含むことが、それぞれ、さらに限定されたものである。
そして、発明の詳細な説明には、それらの点が、【0034】?【0036】にプロピオン酸を該酢酸生成物から除去し、及び/又は減少させることを含まないことや反応媒体からアルカンを除去するためのアルカン除去システムを含まないことが、【0042】に反応器の温度と圧力の範囲、【0046】には、水の含有量が、4.1重量%以下に維持することが、【0067】には、アセトアルデヒド含量は好ましくは1500wppm以下であること、アセトアルデヒドとヨウ化エチルの重量比の範囲に関して、【0038】には、ヨウ化エチル濃度を水素分圧、ヨウ化メチル濃度の少なくとも1つで維持すること、【0039】には、水素分圧を0.3?2気圧に維持すること、【0067】【0070】?【0072】には、アルデヒド除去システムの説明、図2の酢酸製造システムにおける各部材の説明が、それぞれ存在し、これらの一般的説明も考慮すれば、請求項2?3,5?12,14?17,19に係る発明も、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

(ウ)請求項26に係る発明について
a 前記(2)に記載されるように、請求項26は、メタノール供給原が1?150wppmの量のエタノールを含み、メタノールのカルボニル化を水素分圧、ヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節し、酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持し、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持する酢酸を製造する方法の発明が記載されている。
b 一方、発明の詳細な説明には、【0038】【0039】にPRC除去と組み合わせて、反応媒体中のヨウ化エチル濃度は、反応器内の水素分圧、反応媒体中の酢酸メチル濃度、反応媒体中のヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節することによって維持することができる旨の制御パラメータが説明され、その上下限の一定の技術的意義が記載されている。
c そして、請求項1に係る発明について上記(ア)で検討したのと同様に、ヨウ化エチル濃度380wppmとし、酢酸の十分な生産を確保するために規定限界内に維持する範囲として例示されている酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に該当する試料A?Eの結果と各パラメータの考察の記載を考慮すると、ヨウ化エチル濃度を一定の低い範囲に制御できると理解できる。
したがって、上記知見を理解した上であれば、「メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含み」、「メタノールのカルボニル化を水素分圧、ヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節し」、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持し」、「ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行い」、「酢酸を製造する方法」を実行することは可能であるといえ、実際に実行できれば、前記課題が解決できると認識できる範囲であるといえる。
したがって、請求項26に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。

2 理由2(特許法第36条第4項第1号)について
ア 発明の詳細な説明の記載について
(ア)前記1の理由1において、検討したように、請求項1?3,5?12,14?17,19,26に係る発明に関して、発明の詳細な説明の記載から、発明の詳細な説明には、【0028】には、ヨウ化エチル濃度に関して、反応媒体中にアセトアルデヒドが存在すると、エタノールに水素化され酢酸エチルを形成し、ヨウ化物と反応してヨウ化エチルを形成し、金属触媒及び一酸化炭素と反応してプロピオン酸を形成する可能性のある旨の反応機構に関して説明され、【0031】【0032】には、反応媒体中のヨウ化エチルの量を制御することによって、酢酸生成物中のプロピオン酸の量を250wppm以下に維持することができることが見出されたことが記載され、【0033】?【0035】には、プロピオン酸を蒸留、抽出、又は吸着によって酢酸生成物から除去及び/又は減少しない酢酸生成物の製造方法が提供できる旨の本発明の効果が記載され、【0038】【0039】には、PRC除去と組み合わせて、反応媒体中のヨウ化エチル濃度は、反応器内の水素分圧、反応媒体中の酢酸メチル濃度、反応媒体中のヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節することによって維持することができる旨の制御パラメータが説明され、その上下限の一定の技術的意義が記載され、【0046】には、酢酸の十分な生産を確保するために規定限界内に維持する範囲として酢酸メチルに関しては0.6?4.1重量%になるように維持することが最も狭い数値範囲として記載されている。
また、【0064】には、ヨウ化エチル濃度の制御に関して、酢酸生成物のプロピオン酸濃度は、少なくとも反応媒体中のヨウ化エチルの濃度を制御することによって制御することができ、反応媒体中のアセトアルデヒド、酢酸エチル、酢酸メチル、ヨウ化メチル、メタノール供給源中のエタノール含量、一酸化炭素供給源中の水素分圧及び水素含量が、それぞれヨウ化エチル含量、及びその結果として酢酸生成物中のプロピオン酸含量に影響を与えることの説明がある。
(イ)また、【0034】?【0036】にプロピオン酸を該酢酸生成物から除去し、及び/又は減少させることを含まないことや反応媒体からアルカンを除去するためのアルカン除去システムを含まないことが、【0042】に反応器の温度と圧力の範囲、【0046】には、水の含有量が、4.1重量%以下に維持することが、【0067】には、アセトアルデヒド含量は好ましくは1500wppm以下であること、アセトアルデヒドとヨウ化エチルの重量比の範囲に関して、【0038】には、ヨウ化エチル濃度を水素分圧、ヨウ化メチル濃度の少なくとも1つで維持すること、【0039】には、水素分圧を0.3?2気圧に維持すること、【0067】【0070】?【0072】には、アルデヒド除去システムの説明、図2の酢酸製造システムにおける各部材の説明が存在する。
(ウ)さらに具体的実施例において、実施例A?Cに関して、「一酸化炭素及びメタノール、ロジウム触媒、ヨウ化メチル、ヨウ化リチウム、及び酢酸メチルを含むロジウム触媒混合物をマイクロユニットに供給した。メタノールは5?15wppmのエタノールを含んでいた。温度を一定に維持し、反応圧力も同様にし、一方、他の条件及び成分は変化させた 」、実施例D?E及び比較例Fに関して、「一酸化炭素、メタノール、並びにロジウム触媒、ヨウ化メチル、ヨウ化リチウム、及び酢酸メチルを含むロジウム触媒混合物をパイロットプラントに供給した。温度を実質的に一定に維持し(全実施例の間で2℃以内)、一方、他の条件及び成分は変化させた 」と記載され、「表1に示されるように且つ図3においてプロットされているように、試料A?Fは、アセトアルデヒド濃度とヨウ化エチル濃度との間の関係が、非常に安定性がなく、予測できないことを示す。マイクロユニット内で行った試料A?Cを比較すると、増加するヨウ化エチルと、増加するアセトアルデヒド、増加する水素分圧及び一酸化炭素中の水素との間の傾向が明らかである。この傾向はまた、パイロットプラント内で行った試料D?Fを比較することによっても分かる」と記載されている。

イ 検討
(ア) 上記ア(ア)及びア(ウ)のとおり、請求項1に係る発明に関して、ヨウ化エチルを含めたプロピオン酸生成の反応機構の記載やアセトアルデヒドを基点とした不純物に関する説明の図面があり(図1)、ヨウ化エチルを一定量に維持することで生成酢酸中のプロピオン酸を一定以下にできることの記載、ヨウ化エチル濃度制御のパラメータは多いものの、少なくとも、PRC除去と組み合わせて、反応媒体中のヨウ化エチル濃度は、反応器内の水素分圧、反応媒体中の酢酸メチル濃度、反応媒体中のヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節することによって維持することができることが説明されているのであるから、具体例で、ヨウ化エチル濃度380wppmとし、酢酸の十分な生産を確保するために規定限界内に維持する範囲として例示されている酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に該当する実施例A?Eの結果と各パラメータの考察の記載を考慮すると、ヨウ化エチル濃度を一定範囲に制御できると理解できる。
したがって、上記知見を理解した上であれば、当業者は、「メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含み」、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持し」、「ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行い」、「酢酸生成物が250wppm以下の量のプロピオン酸を含む」「酢酸を製造する方法」を実行することは可能であるといえ、過度な試行錯誤を経ることなく、実施することができるといえる。

(イ)また、2?3,5?12,14?17,19に係る発明についても、上記ア(ア)?ア(ウ)の発明の詳細な説明の一般的記載及び実施例の具体例の数値から、当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(ウ)さらに、請求項26に係る発明についても、請求項1に係る発明で検討したのと同様に、当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(エ)また、実施例1の「マイクロユニット」、実施例2の「パイロットプラント」、実施例3の図2の装置による実施に関しては、表1,表2の結果と上述の一般的記載の実施条件及び図2の装置の説明、当業者のカルボニル反応器、フラッシュ容器、軽質留分カラム、乾燥カラム等を含む酢酸製造プラントの技術常識を考慮すれば、温度、圧力以外の条件をどのように調整すればよいかは理解できるといえ、その点での取消理由も解消されているといえる。

ウ 小括
したがって、請求項1?3,5?12,14?17,19,26に係る発明に関しては、発明の詳細な説明は、当業者が容易に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(3) 理由3(特許法第36条第6項第2号)について
取消理由通知において理由3が通知された請求項18,20?26のうち、請求項18,20?25については、訂正請求によって請求項が削除されているので、取消理由は解消している。
また、【0028】の「ヨウ化メチル」「ヨウ化エチル」はハロゲン化有機物であって、ハロゲン化物有機塩ではないと平成29年11月29日付け意見書で主張し、「ハロゲン化物有機塩」を特定事項として含む請求項20?25については、上述のとおり削除されている。
さらに、請求項26については、「ハロゲン化物塩」との記載が「ハロゲン化物有機塩」との関係で不明確であったところ、「ハロゲン化物有機塩」に係る請求項が削除されたこと、上記特許権者の平成29年11月29日付け意見書における主張を考慮すると、「ハロゲン化物塩」は、例えば【0044】に記載されるようなヨウ化物塩であることが明確になったといえ、取消理由は解消している。

4 理由4及び理由5(特許法第29条第2項)について

(1)引用刊行物(再掲)
刊行物1:特開平8-67650号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開平10-231267号公報(甲第2号証)
刊行物3:(甲第3号証)
刊行物4:(甲第4号証)
刊行物5:(甲第5号証)
刊行物6:(甲第6号証)
刊行物7:(甲第7号証)
刊行物8:(甲第8号証)
刊行物9:(甲第9号証)
刊行物10:(甲第10号証)
刊行物11:特表2001-508405号公報(甲第11号証)

甲第3号証?甲第10号証の標目は以下のとおりである。

なお、刊行物1,3?10は、本件発明の優先日時点での技術常識を示すものである。

(2)刊行物の記載
ア 刊行物2
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物2には以下の記載がある。

(1a)「【請求項1】 カルボニル化反応用原料を反応溶媒中においてカルボニル化反応用触媒、ヨウ化アルキル及び水の存在下で一酸化炭素とカルボニル化反応させるカルボニル化反応工程を含む有機カルボン酸の製造方法において、
(i)該カルボニル化反応用触媒として窒素を含む不溶性樹脂担体に固定化したロジウム触媒を用いること、
(ii)該反応系に存在する水の量が、反応混合物中0.5?10重量%であること、
(iii)該反応系における水素分圧が0.1?5kg/cm^(2)及び一酸化炭素分圧が7?30kg/cm^(2)であり、かつ該反応温度が140?250℃であること、
(iv)該カルボニル化反応で得られた有機カルボン酸を含む反応生成液のカルボニル化度が0.5?0.9であり、かつ該反応生成液中に含まれる水の量が10重量%以下であること、を特徴とする有機カルボン酸の製造方法。」

(1b)「【0020】本発明で用いるカルボニル化反応における水素分圧は、0.1?5kg/cm^(2)、好ましくは1?3kg/cm^(2)である。反応原料として用いる一酸化炭素には、通常、0.5?5容量%、特に、約1?2容量%の水素が含まれており、また、カルボニル化反応器においても、副反応により水素が副生する。従って、カルボニル化反応器内の気相部には水素が存在する。本発明では、この水素分圧を5kg/cm^(2)以下、より好ましくは3kg/cm^(2)に規定する。この水素分圧の規定により、製品カルボン酸からの分離困難で、製品カルボン酸の品質を低下させるアセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、プロピオン酸、酢酸エチル等のアルデヒド及びその誘導体、並びにヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ペンチル、ヨウ化ヘキシル等のヨウ化物からなる不純物量を減少させることができる。水素分圧は、気相部のガスの一部を圧力調節弁を介して外部へパージすることによってコントロールし得る他、反応原料として使用する一酸化炭素に含まれる水素量を調節することによってコントロールすることができる。」

(1c)「【0023】アルデヒド誘導体、ヨウ素化物の生成反応ルートは以下のごとく考えられる。
1. CH_(3)COOH+H_(2) → CH_(3)CHO+H_(2)O
2. CH_(3)CHO+H_(2) → CH_(3)CH_(2)OH
3. CH_(3)CH_(2)OH+HI → CH_(3)CH_(2)I+H_(2)O
4. CH_(3)CH_(2)I+CO → CH_(3)CH_(2)COI
5. CH_(3)CH_(2)COI+H_(2)O → CH_(3)CH_(2)COOH+HI
6. 2CH_(3)CHO → CH_(3)CH=CHCHO+H_(2)O
(クロトンアルデヒド)
7. CH_(3)CH=CHCHO+CH_(3)CHO → CH_(3)CH=C(C_(2)H_(5))CHO+H_(2)O
(2-エチルクロトンアルデヒド)
8. CH_(3)CH_(2)OH+CH_(3)COOH → CH_(2)COOCH_(2)CH_(3)+H_(2)O
9. CH_(3)CH=CHCHO+2H_(2) → CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)OH
10. CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)OH+HI → CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)I+H_(2)O」

(1d)「【0041】
【実施例】次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
図1に示したフローシートに従って酢酸を合成した。この場合の主操作条件を以下に示す。
(1)反応器A
(i)内壁面材質
液相部内壁:チタン材
気相部内壁:チタン-パラジウム合金
(ii)触媒
ロジウムを担持したVP樹脂(ロジウム担持量0.8wt%)
(iii)反応条件
反応温度:180℃
CO分圧:20kg/cm^(2)
水素分圧:0.25kg/cm^(2)
(2)ライン11
(i)成分組成
カルボニル化度 :0.76
ヨウ化メチル :14.0wt%
メタノール :1.9wt%
酢酸 :53.4wt%
酢酸メチル :23.7wt%
水分 :7wt%
ヨウ化水素 :25wtppm
アセトアルデヒド :80wtppm
プロピオン酸 :32wtppm
ヨウ化エチル :微量
酢酸エチル :微量
ヨウ化ブチル :未検出
クロトンアルデヒド:未検出」

(1e)「【0044】実施例2
実施例1において、水素分圧を2?8kg/cm^(2)に変化させた以外は同様にして実験を行った。この場合のライン11を通る反応溶液の成分組成を表2及び表3に示す。
【0045】
【表2】



(1f)「【0047】また、前記実験No.1?4において、ライン31を通る製品酢酸の性状を次表に示す。
【0048】
【表4】



イ 刊行物11
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物11には以下の記載がある。
(2a)「1. メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びC_(2-12)アルキルヨウ化物化合物を減少及び/又は除去するための方法であって、該メタノールはVIII族金属触媒、有機ヨウ化物及びヨウ化物塩触媒促進剤を含む好適な液相反応媒体中でカルボニル化し;該カルボニル化の生成物は生成物を含む揮発性相とVIII族金属触媒、酢酸、及びヨウ化物触媒促進剤を含む揮発性に劣る相とに分離し;該生成物相は蒸留塔において蒸留して精製生成物並びに有機ヨウ化物、酢酸メチル、水、酢酸、及び未反応メタノールを含むオーバーヘッドを得、該オーバーヘッドの少なくとも一部はオーバーヘッド受容器デカンターに導き、該オーバーヘッド受容器デカンターは該オーバーヘッドを酢酸及び水を含む軽質相と酢酸メチル及び有機ヨウ化物を含む重質相とに分離し;かつ、該重質相をカルボニル化反応器に再循環させる方法であって、以下を含む改善:
(a)酢酸及び水を含む軽質相を蒸留器に導き、該蒸留器は該混合物を、水及び酢酸を含む残滓流(1)並びにヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノール、C_(2-12)アルキルヨウ化物、及びPRCを含むオーバーヘッド流2)の2つの流れに分離するものであり;
(b)工程(a)の流れ(1)を該反応器に戻し、及び工程(a)の流れ(2)を第2蒸留器に導き、該第2蒸留器はPRCを該混合物から除去する役目を果たすものであり;
(c)工程(b)のPRCを除去した混合物を抽出器に導いてそこから有機ヨウ化物化合物を除去してもよく;かつ
(d)濃縮したPRCを廃棄のために分別し、(e)の有機ヨウ化物相を、PRC及びC_(2-12)アルキルヨウ化物の割合が低い流れとしてカルボニル化反応器に戻す、
を特徴とする方法。」(特許請求の範囲1)

(2b)「用いられる液体反応媒体としてはこの触媒系と適合するあらゆる溶媒が挙げられ、純粋なアルコール、アルコール原料及び/又は所望のカルボン酸及び/又はこれらの2種類の化合物のエステルが挙げられてもよい。低水量カルボニル化プロセスの好ましい溶媒及び液体反応媒体にはカルボン酸生成物が含まれる。したがって、メタノールから酢酸へのカルボニル化においては、好ましい溶媒は酢酸である。
この反応媒体中は水を含有するが、その濃度はこれまで十分な反応速度を得るのに実用的であると考えられていたものを大きく下回る。従来は、本発明において述べられる型のロジウム触媒カルボニル化反応においては、水の添加が反応速度に対して有益な効果を発揮するものと教示されている・・・このため、大部分の商用操業は少なくとも約14wt%の水濃度で稼働している。したがって、そのような高水準の水濃度で得られる反応速度と実質的に同等以上の反応速度が14wt%未満の、及び約0.1wt%という低い水濃度で達成できるということは全く予想外である。
酢酸の製造に最も有用な本発明によるカルボニル化プロセスによると、反応媒体中に酢酸メチル、及び触媒促進剤、例えば、ヨウ化メチル又は他の有機ヨウ化物として存在するヨウ化物を上回る追加ヨウ化物イオンを含めることにより、低水濃度であっても所望の反応速度が得られる。この追加ヨウ化物促進剤はヨウ化物塩であり、ヨウ化リチウムが好ましい。低水濃度の下では、酢酸メチル及びヨウ化リチウムが、これらの成分の各々が比較的高濃度で存在する場合にのみ速度促進剤として作用し、これらの成分の両者が同時に存在する場合にその促進が高度であることが見出されている」(15頁10行?16頁3行)

(2c)「 本発明において最も有用な低水量カルボニル化プロセスにおいては、有機ヨウ化物促進剤を上回る追加のヨウ化物が触媒溶液中に約2ないし約20wt%の量存在し、酢酸メチルが約0.5ないし約30wt%の量存在し、かつヨウ化メチルが約5ないし約20wt%の量存在する。ロジウム触媒は約200ないし約1000百万分率(ppm)の量で存在する。
カルボニル化の典型的な反応温度は約150ないし約250℃であり、約180ないし約220℃の温度範囲が好ましい範囲である。反応器内の一酸化炭素分圧は広範囲に変化し得るが、典型的には約2ないし約30気圧であり、好ましくは約3ないし約10気圧である。副生物の分圧及び収容される液体の蒸気圧のため、反応器の全圧は約15ないし約40気圧の範囲をとる。
メタノールから酢酸へのヨウ化物促進ロジウム触媒カルボニル化に用いられる典型的な反応及び酢酸回収系が図1に示されており、これは液相カルボニル化反応器、フラッシャー、及びヨウ化メチル酢酸軽留カラム14を具備し、このカラムは酢酸側流17を有し、この側流はさらなる精製に進む。反応器及びフラッシャーは図1には示されない。これらは、カルボニル化処理の技術分野において現在公知の標準的な設備と考えられる。カルボニル化反応器は、典型的には、反応する液体内容物が自動的に一定の濃度に維持される攪拌容器である。この反応器内に新鮮なメタノール、一酸化炭素、必要に応じて反応媒体中の少なくとも限定濃度の水を維持するのに十分な水、フラッシャー基底部からの再循環触媒溶液、再循環ヨウ化メチル及び酢酸メチル相、及びヨウ化メチル酢酸軽留分、すなわちスプリッターカラム14のオーバーヘッド受容器デカンターからの再循環水性酢酸相を連続的に導入する。粗製酢酸を回収し、並びに触媒溶液、ヨウ化メチル、及び酢酸エチルを反応器に再循環する手段を提供する蒸留系を用いる。好ましいプロセスにおいては、内容物の攪拌に用いられる攪拌器の直下に一酸化炭素をカルボニル化反応器内に連続的に導入する。この攪拌手段により、気体状の供給物を反応する液体全体に完全に分散させる。気体状パージ流は、気体状副生物の集積を防止し、所定の反応器全圧での一酸化炭素分圧の設定を維持するため、反応器から排出する。反応器の温度を制御し、所望の反応器全圧を維持するのに十分な速度で一酸化炭素供給物を導入する。
液体生成物をカルボニル化反応器から、その内部の一定濃度を維持するのに十分な速度で抜き取り、フラッシャーに導入する。フラッシャー内では、触媒溶液を基底流(主として、ロジウム及びヨウ化物塩をより少量の酢酸メチル、ヨウ化メチル、及び水と共に含む酢酸)として回収し、これに対してフラッシャーの蒸気オーバーヘッド流は主として生成物である酢酸をヨウ化メチル、酢酸メチル、及び水と共に含む。側流として反応器から流出してフラッシャーに流入する溶解気体は気体状副生物、例えば、メタン、水素、及び二酸化炭素と共に一酸化炭素の一部からなり、これはオーバーヘッド流としてフラッシャーを流出し、流れ26として軽留、すなわちスプリッターカラム14に導かれる。
カラム14を流出する重質相流よりも高い濃度、約3倍のPRC、特にはアセトアルデヒド含有物が軽質相内に存在することが発見されている。したがって、本発明によると、PRCを含む流れ28をオーバーヘッド受容器デカンター16に導き、このデカンター16では軽留相、流れ30が蒸留カラム18に導かれる。」(16頁23行?18頁8行)

(2d)「 上述の方法を用いて観察される他の利点には以下のものが含まれる:
1.より少ないプロピオン酸;
2.より少量のRhをカルボニル化反応に用いることができる;
3.生成物酢酸中のより少ない全ヨウ化物;
4.より低濃度のPRC;
5.過マンガン酸塩時間試験値の増加。
下記表1は、本発明の方法を用いる前後の様々なPRC及び過マンガン酸塩時間のデータを示す。このデータは、反応器を定常状態条件で一度稼働させた反応器流から得た。
表1:定常状態条件で稼働する反応器の下での反応器流からのデータ

」(24頁20行?25頁表1)

(2e)「 本発明は、不飽和アルデヒド及び他のカルボニル不純物、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、2-エチルクロトンアルデヒド、及び2-エチルブチルアルデヒド等、並びにそれらのアルドール縮合生成物の形成につながる過マンガン酸塩還元化合物(PRC)、例えば、アセトアルデヒドの除去に向けられている。他のPRCとしてはアルキルヨウ化物、例えば、ヨウ化エチル、ヨウ化プロピル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ペンチル、ヨウ化ヘキシル等が挙げられる。さらに別のPRCとしてはプロピオン酸、この酢酸プロセスの副生物、が挙げられる。
PCRは、典型的には、ヨウ化物触媒促進剤(例えば、MeI)に非常に近い沸点を有し、アルキルヨウ化物を十分に除去することは困難である。アルキルヨウ化物は反応生成物から除去することが望ましく、これは、(酢酸生成物中の)痕跡量のこれらの不純物が酢酸ビニル、最も一般的には酢酸から製造される生成物、の製造において用いられる触媒を無力化する傾向にあるためである。したがって、本発明は、アルキルヨウ化物、特にはC2-12アルキルヨウ化物化合物の除去にも向けられている。これらのカルボニル不純物はヨウ化物触媒促進剤とさらに反応して多炭素アルキルヨウ化物、例えば、ヨウ化エチル、ヨウ化ブチル、ヨウ化ヘキシル等を形成することもある。多くの不純物はアセトアルデヒドを起源とするため、第1の目的はこの反応系におけるアセトアルデヒド及びアルキルヨウ化物を除去し、又はその含量を減少させることにある。」(8頁6?25行)

ウ 刊行物3
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物3には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(3a)「2.3 CH_(3)CH_(2)OHの由来と制御
CH_(3)CH_(2)OHの由来も2つあり、1つは原料メタノールからの持ち込み・・・

」(51頁右欄4?13行)

エ 刊行物4
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物4には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(4a)「メタノールは特に川下製品の酢酸の製造原料とした場合に、国家規格に満足する以外に、メタノール中のエタノール含量を≦100×10^(-6)にしなければならない。
・・・メタノール中のエタノール含量を50×10^(-6)以下に低下し、酢酸中のプロピオン酸生成を大きく減少できた。」(21頁左欄8?16行)

オ 刊行物5
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物5には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(5a)「エタノールは精製メタノールの品質にあまり影響しないが、メタノールは川下製品の酢酸の製造原料とした場合に、国家規格GB338-2004または米国AA specを満足する以外に、メタノール中のエタノール含量が100mg/kgを超えない、さらにそれより以下にする必要がある。そうしないと、酢酸などの川下製品に大量の不純物が生成してしまう。外国のメーカー、特に大手メーカーはメタノール中のエタノール含量が30?60mg/kg以下であることを要求している。」(225頁左欄2?9行)

カ 刊行物6
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物6には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(6a)「例えば、わが国の初営業運転のメタノールカルボニル化による酢酸製造装置において、BP社が要求したメタノール中のエタノール含量が≦100×10^(-6)であることに対して、メタノール工場内部で≦50×10^(-6)にを制御することは、比較的に妥当だと思う。・・・酢酸製造にとって許容できる。」(53頁左欄14?20行)

キ 刊行物7
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物7には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(7a)「メタノール生産の四塔精留プロセスの検討

メタノール法による酢酸製造に専用する国産念20万トンメタノール装置の四塔精留プロセスは、二塔精留プロセスの特徴を利用して、更なる改良・改善した先進なものである。
メタノールカルボニル化による酢酸製造プロセスにおいて、メタノール中エタノール含量を厳しく要求されて、エタノール質量分数を<0.001%にする。」(タイトル及び21頁左欄1?5行)

ク 刊行物8
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物8には以下の記載がある。
訳文にて示す。
(8a)「粗メタノールの精留について

例えば、カルボニル化による酢酸の合成法は、現在世界最先端の酢酸合成法であり、この合成方法の主原料がメタノールと一酸化炭素とであり、この方法において、要求されるメタノール中のエタノール含量が非常に低い(<100ppm。低いほどよい)。それは、エタノールと一酸化炭素とが反応してプロピオン酸の生成による酢酸の品質低下を避けるためである。外国から技術導入のカルボニル化による酢酸合成装置がすでに製造が開始され、もちろんエタノール含有量の低い精製メタノールが要求されている。」(2頁左欄24行?右欄3行)。

ケ 刊行物9
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物9には以下の記載がある。

化学技術百科事典として、表3には、メタノールの仕様として、グレードAAとしてエタノールwt%最大値として0.001との記載がある。(タイトル及び554頁9?17行)

コ 刊行物10
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物9には以下の記載がある。

IMPCAメタノールの参照仕様として、エタノールmg/kgが最大50であることがの記載がある。 (タイトル及び1頁)

サ 刊行物1
本件優先日前に頒布された刊行物であると認められる刊行物1には以下の記載がある。

(11a)「【請求項1】 ロジウム触媒、ヨウ化物塩およびヨウ化メチルの存在下、連続的にメタノールと一酸化炭素を反応させて酢酸を製造する方法において、反応液中のアセトアルデヒド濃度を 400ppm 以下に保ち、反応を行うことを特徴とする高純度酢酸の製造方法。」

(11b)「【0010】本発明において、ヨウ化物塩は、特に低水分下でのロジウム触媒の安定化と副反応抑制等のために添加される。このヨウ化物塩は反応液中で、ヨウ素イオンを発生するものであればいかなるものであってもよい。例を挙げるならば、LiI 、NaI 、KI、RbI 、CsI のようなアルカリ金属ヨウ化物塩、
・・・
【0011】本発明において、ヨウ化メチルは触媒促進剤として使用され、反応液中5?20重量%、好ましくは12?16重量%存在させる。また本発明における反応液中の水分濃度は15重量%以下、好ましくは10重量%以下、更に好ましくは1?5重量%である。また本発明の反応は連続反応であるので、原料メタノールが酢酸と反応して生成する酢酸メチルが 0.1?30重量%、好ましくは 0.5?5重量%存在しており、反応液中、残りの主成分は、生成物でありかつ反応溶媒でもある酢酸である。本発明におけるカルボニル化の典型的な反応温度は約 150?250 ℃であり、約180?220 ℃の温度範囲が好ましい。反応器中の一酸化炭素分圧は広範囲に変動し得るが、典型的には約2?30気圧、好ましくは4?15気圧である。全反応器圧は、副生成物の分圧と含まれる液体の蒸気圧とのために、約15?40気圧の範囲内である。」

(11c)「【0013】好ましいプロセスでは、一酸化炭素を、カルボニル化反応器10に、内容物の攪拌に用いる攪拌機のすぐ下において連続的に導入する。ガス状供給材料はこの手段によって反応液全体に分散される。ガス状パージ流を反応器から排出して、ガス状副生成物の蓄積を阻止し、一定総反応器圧における設定一酸化炭素分圧を維持する。反応器温度は自動的に制御され、一酸化炭素供給材料は好ましい総反応器圧を維持するために充分な反応速度で導入される。液体生成物はカルボニル化反応器10から一定レベルを維持するために充分な速度で取り出されて、フラッシャー12にその頂部とその底部との中間点においてライン11を介して導入される。フラッシャー12では、触媒溶液が底部流13(主として、ロジウム触媒とヨウ化物塩とを、少量の酢酸メチル、ヨウ化メチル及び水と共に含む酢酸)として取り出され、カルボニル化反応器10に戻される。フラッシャー12のオーバーヘッド15は主として生成物の酢酸をヨウ化メチル、酢酸メチル及び水と共に含む。ヨウ化メチル-酢酸スプリッターカラム14の底部近くの側面からライン17により取り出される生成物酢酸(底部流としても取り出されうる)は、当業者によって自明の方法で更に精製される。主としてヨウ化メチルと酢酸メチルのほかに若干の水と酢酸とを含む、ヨウ化メチル-酢酸スプリッターカラム14からのオーバーヘッド20はライン21を介してカルボニル化反応器10に再循環される。オーバーヘッド20は凝縮すると、充分な水が存在する場合には、典型的に二つの液相に分かれる。下相30は主としてヨウ化メチルプラス若干の酢酸メチルと酢酸から成り、上相32は主として水と酢酸プラス若干の酢酸メチルから成る。」

(11d)「【0024】実施例1
本実施例では、前記80段蒸留塔の塔頂抜取液を用いて水抽出を行い、得られた抽出液を蒸留し、アセトアルデヒドが分離できることを示す。抽出は抽剤である水と前記80段蒸留塔の塔頂抜取液との比S/Fを1(重量比)、理論段2段で行った。アセトアルデヒドの抽出率は98%であった。前記80段蒸留塔の塔頂抜取液全量 540g/hrを処理することにより、 154g/hrのアセトアルデヒドを除去できた。これにより、反応器でのアセトアルデヒド生成量 270g/hrの57%を除去できた。アセトアルデヒドを除去し精製された抽残液(ヨウ化メチル富化液)は、前記80段蒸留塔の上から10段目に再循環されることで前記80段蒸留塔の塔底抜き取り液として、反応器に再循環した。アセトアルデヒドを抽出した抽出液(水相流)は、後続の蒸留塔に供給され、留出液としてアセトアルデヒドを取り出し、缶出液として水を取り出した。この蒸留は理論段8段、還流比0.3 で充分分離できた。蒸留の操作圧力は、いかなる圧力も用いることができ、この方法において決定的ではない。缶出の水は抽剤として抽出器へ再循環した。反応器でのアセトアルデヒド濃度は200ppmであった。この結果、得られる製品酢酸の過マンガン酸タイムは 200分であった。また、ヨウ化メチル-酢酸スプリッターカラム14の底部付近から取り出された湿潤生成物流は蒸留により乾燥されるが、この乾燥した生成物液中のヨウ化ヘキシルは9ppb 、プロピオン酸濃度は270ppmであった。表1に抽出原料(塔頂抜取液)、抽出液、抽残液、留出液および缶出液の組成を、表2に分液槽下相液30および反応器への再循環液の組成を、表3に反応液の組成をそれぞれ示す。



(11e)「【0028】実施例2
実施例1と同様の操作により、分液槽下相液30からのアセトアルデヒド濃縮液の水抽出処理量を変化させることによって、系外に除去するアセトアルデヒド量を表4に示すように変化させた。なお、未処理のアセトアルデヒド濃縮液はプロセス液として反応器に再循環させた。これにより、反応液中のメイン組成を変えずに反応液中のアセトアルデヒド濃度を表4に示すようにコントロールした。反応液中のアセトアルデヒド濃度に対する脱水された生成物酢酸の微量不純物濃度、及び脱水された生成物酢酸をさらに脱高沸蒸留して得られた製品酢酸の過マンガン酸タイムを表4に示す。



(3)刊行物2に記載された発明
上記摘記(1a)には、カルボニル化反応用原料を反応溶媒中においてカルボニル化反応用触媒、ヨウ化アルキル及び水の存在下で一酸化炭素とカルボニル化反応させるカルボニル化反応工程を含む有機カルボン酸の製造方法において、(i)該カルボニル化反応用触媒として窒素を含む不溶性樹脂担体に固定化したロジウム触媒を用いること、(ii)該反応系に存在する水の量が、反応混合物中0.5?10重量%であること、(iii)該反応系における水素分圧が0.1?5kg/cm^(2)及び一酸化炭素分圧が7?30kg/cm2であり、かつ該反応温度が140?250℃であること、(iv)該カルボニル化反応で得られた有機カルボン酸を含む反応生成液のカルボニル化度が0.5?0.9であり、かつ該反応生成液中に含まれる水の量が10重量%以下である方法が記載されている。
そして、上記有機カルボン酸の製造方法の具体例として酢酸の製造方法として、上記摘記(1d)には、反応器からフラッシャーに向かうライン11を通る反応溶液の成分組成として、ヨウ化メチル、メタノール、ヨウ化エチルを含むことが示され、上記摘記(1e)には、表2に反応生成液中の濃度としてヨウ化エチルが微量又は380wtppmである例が記載され、上記摘記(1f)には、第2蒸留塔を出たライン31を通る製品酢酸の組成として、表4にプロピオン酸が21wtppm、97wtppm、33wtppmである例が記載されている。
したがって、刊行物2には、具体的記載として、「反応器において、カルボニル化反応用原料を反応溶媒中においてカルボニル化反応用触媒、ヨウ化アルキル及び水の存在下で一酸化炭素とカルボニル化反応させるカルボニル化反応工程を含む酢酸の製造方法において、不溶性樹脂担体に固定化したロジウム触媒を用い、反応系に存在する水の量が、反応混合物中0.5?10重量%であり、反応系における水素分圧が0.1?5kg/cm^(2)及び一酸化炭素分圧が7?30kg/cm^(2)であり、かつ反応温度が140?250℃でありヨウ化エチルが微量又は380wtppmであり、第2蒸留塔の塔頂から蒸気留分を抜き出し、製品酢酸中のプロピオン酸が21又は33又は97wtppmである方法」(以下、「刊行物2発明」という。)が開示されているといえる。

(4)刊行物2発明との対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と刊行物2発明とを対比すると、刊行物2発明の「酢酸の製造方法」は、本件発明1の、「酢酸生成物の製造方法」に相当し、刊行物2発明の「カルボニル化反応用原料」「カルボニル化反応用触媒」「ヨウ化アルキル」は、本件発明1の「メタノール」「金属触媒」「ヨウ化メチル」に相当する。
そして、刊行物2発明の「反応器において、カルボニル化反応用原料を反応溶媒中においてカルボニル化反応用触媒、ヨウ化アルキル及び水の存在下で一酸化炭素とカルボニル化反応させるカルボニル化反応工程」ることは、本件発明1の「反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチルの存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程」に相当する。
そして、刊行物2発明の「第2蒸留塔の塔頂から蒸気留分を抜き出す」ことは、抜き出すのは精製酢酸であるから、本件発明1の「反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み」に、相当している。

したがって、本件発明1と刊行物2発明とは、「酢酸生成物の製造方法であって、反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチルの存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程、該反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み、メタノールが該反応器中に導入される方法。」である点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点1:本件発明1は、カルボニル化は該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行われるのに対して、刊行物2発明は、反応媒体中のヨウ化エチルの濃度が微量又は380wtppmの例があるものの維持されていることが特定されていない点

相違点2:本件発明1は、「酢酸生成物が250wppm以下の量のプロピオン酸を含」むことが特定されているのに対して、刊行物2発明は、製品酢酸中のプロピオン酸が21,97,33ppmの場合がある点

相違点3:本件発明1は、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含むことが特定されているものの、刊行物2発明はそのような特定のない点

相違点4:本件発明1は、ハロゲン化物塩の存在下で反応媒体を形成することが特定されているのに対して、刊行物2発明は、反応媒体にハロゲン化物塩が存在しているがどうか不明である点

相違点5:本件発明1は、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する」ことが特定されているのに対して、刊行物2発明は、酢酸メチル濃度を「0.6?4.1重量%に維持する」ことの特定のない点。

(イ)相違点の判断
以下、相違点について検討する。
事案に鑑み相違点5について検討する。

a 相違点5の判断について
刊行物2発明では、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する」ことの記載はない。
刊行物2には、刊行物2発明の認定の根拠となった実施例の記載としては、酢酸メチル濃度に関して、「(2)ライン11
(i)成分組成
カルボニル化度 :0.76
ヨウ化メチル :14.0wt%
メタノール :1.9wt%
酢酸 :53.4wt%
酢酸メチル :23.7wt%」との記載(摘記(1d)があり、一般的記載部分には、酢酸メチル濃度に関して記載がないことから、刊行物2発明において、反応媒体の酢酸メチル濃度を敢えて0.6?4.1重量%に維持することの動機付けはない。
一方、他の文献として、刊行物1には、一般的記載として酢酸メチル濃度を0.1?30重量%、好ましくは0.5?5重量%とする旨の記載や、酢酸メチル濃度を反応液組成として、1.6重量%とする記載があり、刊行物11には、酢酸メチル濃度に関して約0.5?約30%の量存在することが記載されているが、上述のとおり、刊行物2発明において、酢酸メチル濃度は、反応混合物中の全成分の組み合わせとして存在しているものであるから、刊行物2の実施例において記載される酢酸メチル濃度23.7wt%を変更する場合は、他の成分組成に与える影響を考えなければならず、得られる反応生成物中の不純物含有量を減少できるかどうかは不明であり、当然ヨウ化エチルの量を一定以下に維持できるかどうかも不明である。

したがって、刊行物1や刊行物11にたまたま、本件発明1の酢酸メチル濃度と重複する範囲の濃度の記載があるからといって、刊行物2発明の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持することは、当業者といえども容易に想起できる技術的事項とはいえない。
また、刊行物3?10記載のメタノール中のエタノール含有量の技術常識を考慮しても、相違点5が容易に想起できない技術的事項であることにかわりはない。

b 効果について
本件発明1は、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に低く維持し、生成酢酸中のプロピオン酸の濃度を250wppm以下低下させることで、純粋な酢酸の製造ができることを効果としている(【0064】)。
そして、アセトアルデヒド濃度の影響を一定程度受けるものの、酢酸メチル濃度を特定範囲に低く維持することで、ヨウ化エチルの濃度が制御され、プロピオン酸の副生が抑えられ、アルカン除去システムを用いずとも、生成酢酸中のプロピオン酸量を減少できることは、予想を超えた顕著なものといえる。

c 以上のとおり、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(ウ)小括
本件発明1は、刊行物2発明及び刊行物1又は11の技術的事項及び刊行物3?10記載の技術常識から当業者が容易になし得たものとはいえない。

イ 本件発明2,3,5?12について
(ア)対比
本件発明2,3,5?12は、本件発明1において、理由1で述べたように本件発明を技術的に限定するものであって、本件発明1において述べたように、いずれの発明も刊行物2発明との対比において、相違点5を有してしており、刊行物2発明及び刊行物1又は11の技術的事項及び刊行物3?10記載の技術常識から当業者が容易になし得たものとはいえない。

(イ)小括
本件発明2、3,5?12は、刊行物2発明及び刊行物1,3?11に記載の技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。

ウ 本件発明14について
(ア)対比
本件発明14は、本件発明1において、理由1で述べたように本件発明を技術的に限定するものであって、本件発明1において述べたように、本件発明14は、刊行物2発明との対比において、相違点5を有してしており、刊行物2発明及び刊行物1又は11の技術的事項及び刊行物3?10記載の技術常識から当業者が容易になし得たものとはえいない。

(イ)小括
本件発明14は、刊行物2発明及び刊行物1,3?11に記載の技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。

特許異議申立人は、平成30年3月30日付け意見書において、取消理由を通知した請求項以外の発明についても、刊行物2発明に対する進歩性欠如を主張しているので、以下検討しておく。

エ 本件発明15?17、19について
(ア)対比
本件発明15?17、19は、本件発明1において、理由1で述べたように本件発明を技術的に限定するものであって、本件発明1において述べたように、いずれの発明も刊行物2発明との対比において、相違点5を有してしており、刊行物2発明及び刊行物1又は11の技術的事項及び刊行物3?10記載の技術常識から当業者が容易になし得たものとはえいない。

(イ)小括
本件発明15?17、19は、刊行物2発明及び刊行物1,3?11に記載の技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。

オ 本件発明26について
(ア)対比
本件発明26と刊行物2発明とを対比すると、刊行物2発明の「酢酸の製造方法」は、本件発明26の、「酢酸生成物の製造方法」に相当し、刊行物2発明の「カルボニル化反応用原料」「カルボニル化反応用触媒」「ヨウ化アルキル」は、本件発明26の「メタノール」「金属触媒」「ヨウ化メチル」に相当する。
そして、刊行物2発明の「反応器において、カルボニル化反応用原料を反応溶媒中においてカルボニル化反応用触媒、ヨウ化アルキル及び水の存在下で一酸化炭素とカルボニル化反応させるカルボニル化反応工程」ることは、本件発明26の「反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチルの存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程」に相当する。
また、刊行物2発明の「反応系における水素分圧が0.1?5kg/cm^(2)・・・であ」ることは、本件発明26の「カルボニル化は、(A)該反応器内の水素分圧;及び/又は(B)該反応媒体のヨウ化メチル濃度;の少なくとも1つを調節することによって行われる」ことに該当する。
そして、刊行物2発明の「第2蒸留塔の塔頂から蒸気留分を抜き出す」ことは、抜き出すのは精製酢酸であるから、本件発明26の「反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み」に、相当している。

したがって、本件発明26と刊行物2発明とは、「酢酸生成物の製造方法であって、反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチルの存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程、カルボニル化は、(A)該反応器内の水素分圧;及び/又は(B)該反応媒体のヨウ化メチル濃度;の少なくとも1つを調節することによって行われ、該反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み、メタノールが該反応器中に導入される方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-26:本件発明26は、カルボニル化は該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行われるのに対して、刊行物2発明は、反応媒体中のヨウ化エチルの濃度が微量又は380wtppmの例があるものの維持されていることが特定されていない点

相違点2-26:本件発明26は、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含むことが特定されているものの、刊行物2発明はそのような特定のない点

相違点3-26:本件発明26は、ハロゲン化物塩の存在下で反応媒体を形成することが特定されているのに対して、刊行物2発明は、反応媒体にハロゲン化物塩が存在しているがどうか不明である点

相違点4-26:本件発明26は、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する」ことが特定されているのに対して、刊行物2発明は、酢酸メチル濃度を「0.6?4.1重量%に維持する」ことの特定のない点。

(イ)相違点の判断
以下、相違点について検討する。
事案に鑑み相違点4-26について検討する。

a 相違点4-26の判断について
刊行物2発明では、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する」ことの特定はない。
刊行物2には、刊行物2発明の認定の根拠となった実施例の記載としては、酢酸メチル濃度に関して、「(2)ライン11
(i)成分組成
カルボニル化度 :0.76
ヨウ化メチル :14.0wt%
メタノール :1.9wt%
酢酸 :53.4wt%
酢酸メチル :23.7wt%」との記載(摘記(1d)があり、一般的記載部分には、酢酸メチル濃度に関して記載がないことから、刊行物2発明において、反応媒体の酢酸メチル濃度を敢えて0.6?4.1重量%に維持することの動機付けはない。
一方、他の文献として、刊行物1には、一般的記載として酢酸メチル濃度を0.1?30重量%、好ましくは0.5?5重量%とする旨の記載や、酢酸メチル濃度を反応液組成として、1.6重量%とする記載があり、刊行物11には、酢酸メチル濃度に関して約0.5?約30%の量存在することが記載されているが、上述のとおり、刊行物2発明において、酢酸メチル濃度は、反応混合物中の全成分の組み合わせとして存在しているものであるから、刊行物2の実施例において記載される酢酸メチル濃度23.7wt%を変更する場合は、他の成分組成に与える影響を考えなければならず、得られる反応生成物中の不純物含有量を減少できるかどうかは不明であり、当然ヨウ化エチルの量を一定以下に維持できるかどうかも不明である。

したがって、刊行物1や刊行物11にたまたま、本件発明26の酢酸メチル濃度と重複する範囲の濃度の記載があるからといって、刊行物2発明の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持することは、当業者といえども容易に想起できる技術的事項とはいえない。
また、刊行物3?10記載のメタノール中のエタノール含有量の技術常識を考慮しても、相違点4-26が容易に想起できない技術的事項であることにかわりはない。

b 効果について
本件発明26は、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に低く維持し、生成酢酸中のプロピオン酸の濃度を低下させることで、純粋な酢酸の製造ができることを効果としている(【0064】)。
そして、アセトアルデヒド濃度の影響を一定程度受けるものの、反応器内の水素分圧及び/又は反応媒体のヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節し、かつ酢酸メチル濃度を特定範囲に低く維持することで、ヨウ化エチルの濃度が制御され、プロピオン酸の副生が抑えられ、アルカン除去システムを用いずとも、生成酢酸中のプロピオン酸量を減少できることは、予想を超えた顕著なものといえる。

c 以上のとおり、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明26は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
る。

(ウ)小括
本件発明26は、刊行物2発明及び刊行物1又は11の技術的事項及び刊行物3?10記載の技術常識から当業者が容易になし得たものとはいえない。

(5)刊行物11に記載された発明
上記摘記(2a)には、メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びC_(2-12)アルキルヨウ化物化合物を減少及び/又は除去するための方法であって、該メタノールはVIII族金属触媒、有機ヨウ化物及びヨウ化物塩触媒促進剤を含む好適な液相反応媒体中でカルボニル化し;該カルボニル化の生成物は生成物を含む揮発性相とVIII族金属触媒、酢酸、及びヨウ化物触媒促進剤を含む揮発性に劣る相とに分離し;該生成物相は蒸留塔において蒸留して精製生成物並びに有機ヨウ化物、酢酸メチル、水、酢酸、及び未反応メタノールを含むオーバーヘッドを得、該オーバーヘッドの少なくとも一部はオーバーヘッド受容器デカンターに導き、該オーバーヘッド受容器デカンターは該オーバーヘッドを酢酸及び水を含む軽質相と酢酸メチル及び有機ヨウ化物を含む重質相とに分離し;かつ、該重質相をカルボニル化反応器に再循環させる方法であって、
(a)酢酸及び水を含む軽質相を蒸留器に導き、該蒸留器は該混合物を、水及び酢酸を含む残滓流(1)並びにヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノール、C_(2-12)アルキルヨウ化物、及びPRCを含むオーバーヘッド流2)の2つの流れに分離するものであり;
(b)工程(a)の流れ(1)を該反応器に戻し、及び工程(a)の流れ(2)を第2蒸留器に導き、該第2蒸留器はPRCを該混合物から除去する役目を果たすものであり;
(c)工程(b)のPRCを除去した混合物を抽出器に導いてそこから有機ヨウ化物化合物を除去してもよく;かつ
(d)濃縮したPRCを廃棄のために分別し、(e)の有機ヨウ化物相を、PRC及びC_(2-12)アルキルヨウ化物の割合が低い流れとしてカルボニル化反応器に戻す、
方法が記載されている。
そして、上記メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びC_(2-12)アルキルヨウ化物化合物を減少及び/又は除去するための方法に関して、上記摘記(2b)摘記(2c)には、酢酸の製造に最も有用な本発明によるカルボニル化プロセスにおいて、反応媒体中に約0.5?30wt%酢酸メチル、約5?20wt%のヨウ化メチル、約150ないし約250℃の反応温度、反応器の全圧は約15ないし約40気圧であり、追加ヨウ化物促進剤としてのヨウ化リチウムが用いられることが記載され、上記摘記(2d)には、反応器を定常状態条件で稼働する反応器の下での反応器流からのデータとして、ヨウ化エチルの処理後の濃度が245ppmであり、プロピオン酸が150、130ppmである結果が示されている。

したがって、刊行物11には、「メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びC_(2-12)アルキルヨウ化物化合物を減少及び/又は除去するための方法であって、該メタノールはVIII族金属触媒、有機ヨウ化物及びヨウ化物塩触媒促進剤を含む好適な液相反応媒体中でカルボニル化し;該カルボニル化の生成物は生成物を含む揮発性相とVIII族金属触媒、酢酸、及びヨウ化物触媒促進剤を含む揮発性に劣る相とに分離し;該生成物相は蒸留塔において蒸留して精製生成物並びに有機ヨウ化物、酢酸メチル、水、酢酸、及び未反応メタノールを含むオーバーヘッドを得、該オーバーヘッドの少なくとも一部はオーバーヘッド受容器デカンターに導き、該オーバーヘッド受容器デカンターは該オーバーヘッドを酢酸及び水を含む軽質相と酢酸メチル及び有機ヨウ化物を含む重質相とに分離し;かつ、該重質相をカルボニル化反応器に再循環させる方法であって、反応媒体中には、約0.5?30wt%酢酸メチル、約5?20wt%のヨウ化メチル、14wt%未満の約0.1wt%の水を含有し反応器の反応温度としては、約150ないし約250℃、反応器の全圧は約15ないし約40気圧であり、追加ヨウ化物促進剤としてのヨウ化リチウムが用いられ、
(a)酢酸及び水を含む軽質相を蒸留器に導き、該蒸留器は該混合物を、水及び酢酸を含む残滓流(1)並びにヨウ化メチル、酢酸メチル、メタノール、C_(2-12)アルキルヨウ化物、及びPRCを含むオーバーヘッド流2)の2つの流れに分離するものであり;
(b)工程(a)の流れ(1)を該反応器に戻し、及び工程(a)の流れ(2)を第2蒸留器に導き、該第2蒸留器はPRCを該混合物から除去する役目を果たすものであり;
(c)工程(b)のPRCを除去した混合物を抽出器に導いてそこから有機ヨウ化物化合物を除去してもよく;かつ
(d)濃縮したPRCを廃棄のために分別し、(e)の有機ヨウ化物相を、PRC及びC_(2-12)アルキルヨウ化物の割合が低い流れとしてカルボニル化反応器に戻すことで、
で、反応器を定常状態条件で稼働する反応器の下での反応器流からのデータとして、ヨウ化エチルの処理前濃度が622ppmであり、ヨウ化エチルの処理後の濃度が245ppmであり、プロピオン酸が150、130ppmである方法」(以下、「刊行物11発明」という。)が開示されているといえる。

(6)刊行物11発明との対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と刊行物11発明とを対比すると、刊行物11発明の「メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びC_(2-12)アルキルヨウ化物化合物を減少及び/又は除去するための方法」は、本件発明1の、「酢酸生成物の製造方法」に相当し、刊行物11発明の「VIII族金属触媒」「ヨウ化リチウム」は、本件発明1の「金属触媒」「ハロゲン化物塩」に相当する。
そして、刊行物11発明の「メタノール」を「VIII族金属触媒、有機ヨウ化物及びヨウ化物塩触媒促進剤を含む好適な液相反応媒体中でカルボニル化す」ることは、本件発明1の「反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチルの存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程」に相当する。
そして、刊行物11発明の「該生成物相は蒸留塔において蒸留して精製生成物並びに有機ヨウ化物、酢酸メチル、水、酢酸、及び未反応メタノールを含むオーバーヘッドを得」ることは、「反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み」に、相当している。

したがって、本件発明1と刊行物11発明とは、「酢酸生成物の製造方法であって、反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチルの存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程、該反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み、メタノールが該反応器中に導入される方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1’:本件発明1は、カルボニル化は該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行われるのに対して、刊行物11発明は、反応器を定常状態条件で稼働する反応器の下での反応器流からのデータとして、ヨウ化エチルの処理前濃度が622ppmの例があり、処理後に245ppmになった記載はあるものの、ヨウ化エチル濃度が380wppm以下に維持されていることが特定されていない点

相違点2’:本件発明1は、酢酸生成物が250wppm以下の量のプロピオン酸を含むことが特定されているのに対して、刊行物11発明は、反応器を定常状態条件で稼働する反応器の下での反応器流からのデータとして処理後のプロピオン酸が150、130ppmである場合がある点

相違点3’:本件発明1は、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含むことが特定されているものの、刊行物11発明はそのような特定のない点

相違点4’:本件発明1は、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する」ことが特定されているのに対して、刊行物11発明は、酢酸メチル濃度を「0.6?4.1重量%に維持する」ことの特定のない点。

(イ)相違点の判断
以下、相違点について検討する。
事案に鑑みまず相違点4’について検討する。

a 相違点4’の判断について
刊行物11には、一般的記載として、「酢酸メチルが約0.5ないし約30wt%の量」の量存在することの記載はあるが(摘記(2c))、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する」ことの記載はない。
刊行物11では、「本発明において最も有用な低水量カルボニル化プロセスにおいては、有機ヨウ化物促進剤を上回る追加のヨウ化物が触媒溶液中に約2ないし約20wt%の量存在し、酢酸メチルが約0.5ないし約30wt%の量存在し、かつヨウ化メチルが約5ないし約20wt%の量存在する。」との記載はあるものの、具体的記載においては、各成分の濃度をどのように維持、制御したかの記載はなく、メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びアルキルヨウ化物化合物の除去システムを用いた方法が各装置の構成に基づいて説明されているだけであり(摘記(2a)摘記(2c))、刊行物11発明において、反応媒体の酢酸メチル濃度を敢えて0.6?4.1重量%に維持することの動機付けはない。
一方、他の文献として、刊行物1には、一般的記載として酢酸メチル濃度を0.1?30重量%、好ましくは0.5?5重量%とする旨の記載や、酢酸メチル濃度を反応液組成として、1.6重量%とする記載があるが、反応液中のアセトアルデヒド濃度を400ppm以下に保つことに着目している刊行物1にたまたま本件発明1の酢酸メチル濃度に該当するものがあったからといって、刊行物1の具体的結果においてはプロピオン酸は、本件発明1に該当するものではなく、刊行物11発明において、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持するため、酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持し、生成酢酸中のプロピオン酸の量を250ppm以下にすることができるかどうかも不明である。

したがって、刊行物1にたまたま、本件発明1の酢酸メチル濃度と重複する範囲の濃度の記載があるからといって、刊行物11発明の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持することは、当業者といえども容易に想起できる技術的事項とはいえない。
また、刊行物2にも、前述のとおり、酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持することの記載はなく、刊行物3?10記載のメタノール中のエタノール含有量の技術常識を考慮しても、相違点5が容易に想起できない技術的事項であることにかわりはない。

b 効果について
本件発明1は、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に低く維持し、生成酢酸中のプロピオン酸の濃度を250wppm以下低下させることで、純粋な酢酸の製造ができることを効果としている(【0064】)。
そして、アセトアルデヒド濃度の影響を一定程度受けるものの、酢酸メチル濃度を特定範囲に低く維持することで、ヨウ化エチルの濃度が制御され、プロピオン酸の副生が抑えられ、アルカン除去システムを用いずとも、生成酢酸中のプロピオン酸量を減少できることは、予想を超えた顕著なものといえる。

c 以上のとおり、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(ウ)小括
本件発明1は、刊行物11発明及び刊行物1?10に記載の技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。

イ 本件発明2、3、5?12について
(ア)対比
本件発明2、3、5?12は、理由1で述べたように、本件発明1を技術的に限定するものであって、本件発明1において述べたように、いずれの発明も刊行物11発明との対比において、相違点4’を有しており、刊行物11発明及び刊行物1の技術的事項及び刊行物3?10記載の技術常識から当業者が容易になし得たものとはいえない。

(イ)小括
本件発明2、3、5?12は、刊行物11発明及び刊行物1,3?11に記載の技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。

ウ 本件発明14?17、19について
(ア) 対比
本件発明14?17、19は、理由1で述べたように、本件発明1を技術的に限定するものであって、本件発明1において述べたように、いずれの発明も刊行物11発明との対比において、相違点4’を有しており、刊行物11発明及び刊行物1,刊行物3?10記載の技術常識から当業者が容易になし得たものとはいえない。

(イ)小括
本件発明14?17、19は、刊行物11発明及び刊行物1,3?11に記載の技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。

エ 本件発明26について
(ア)対比
本件発明26と刊行物11発明とを対比すると、刊行物11発明の「メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びC_(2-12)アルキルヨウ化物化合物を減少及び/又は除去するための方法」は、本件発明26の、「酢酸生成物の製造方法」に相当し、刊行物11発明の「VIII族金属触媒」「ヨウ化リチウム」は、本件発明26の「金属触媒」「ハロゲン化物塩」に相当する。
そして、刊行物11発明の「メタノール」を「VIII族金属触媒、有機ヨウ化物及びヨウ化物塩触媒促進剤を含む好適な液相反応媒体中でカルボニル化す」ることは、本件発明26の「反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチルの存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程」に相当する。
そして、刊行物11発明の「該生成物相は蒸留塔において蒸留して精製生成物並びに有機ヨウ化物、酢酸メチル、水、酢酸、及び未反応メタノールを含むオーバーヘッドを得」ることは、「反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み」に、相当している。

したがって、本件発明26と刊行物11発明とは、「酢酸生成物の製造方法であって、反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチルの存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程、該反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み、メタノールが該反応器中に導入される方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1’-26:本件発明26は、カルボニル化は該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行われるのに対して、刊行物11発明は、反応器を定常状態条件で稼働する反応器の下での反応器流からのデータとして、ヨウ化エチルの処理前濃度が622ppmの例があるものの維持されていることが特定されていない点

相違点2’-26:本件発明26は、カルボニル化は、「(A)該反応器内の水素分圧;及び/又は(B)該反応媒体のヨウ化メチル濃度;の少なくとも1つを調節することによって行われ」ることが特定されているのに対して、そのような特定のない点

相違点3’-26:本件発明26は、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含むことが特定されているものの、刊行物11発明はそのような特定のない点

相違点4’-26:本件発明26は、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する」ことが特定されているのに対して、刊行物11発明は、酢酸メチル濃度を「0.6?4.1重量%に維持する」ことの特定のない点。

(イ)相違点の判断
以下、相違点について検討する。
事案に鑑みまず相違点4’-26について検討する。

a 相違点4’-26の判断について
刊行物11には、一般的記載として、「酢酸メチルが約0.5ないし約30wt%の量」の量存在することの記載はあるが(摘記(2c))、「反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する」ことの記載はない。
刊行物11では、「本発明において最も有用な低水量カルボニル化プロセスにおいては、有機ヨウ化物促進剤を上回る追加のヨウ化物が触媒溶液中に約2ないし約20wt%の量存在し、酢酸メチルが約0.5ないし約30wt%の量存在し、かつヨウ化メチルが約5ないし約20wt%の量存在する。」との記載はあるものの、具体的記載においては、各成分の濃度をどのように維持、制御したかの記載はなく、メタノールから酢酸生成物へのカルボニル化において形成される過マンガン酸塩還元化合物(PRC)及びアルキルヨウ化物化合物の除去システムを用いた方法が各装置の構成に基づいて説明されているだけであり(摘記(2a)摘記(2c))、刊行物11発明において、反応媒体の酢酸メチル濃度を敢えて0.6?4.1重量%に維持することの動機付けはない。
一方、他の文献として、刊行物1には、一般的記載として酢酸メチル濃度を0.1?30重量%、好ましくは0.5?5重量%とする旨の記載や、酢酸メチル濃度を反応液組成として、1.6重量%とする記載があるが、反応液中のアセトアルデヒド濃度を400ppm以下に保つことに着目している刊行物1にたまたま本件発明26の酢酸メチル濃度に該当するものがあったからといって、刊行物11発明において、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持するため、酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持することで、生成酢酸中のプロピオン酸の量を一定以下にすることができるかどうかも不明である。

したがって、刊行物1にたまたま、本件発明26の酢酸メチル濃度と重複する範囲の濃度の記載があるからといって、刊行物11発明の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持することは、当業者といえども容易に想起できる技術的事項とはいえない。
また、刊行物3?10記載のメタノール中のエタノール含有量の技術常識を考慮しても、相違点5が容易に想起できない技術的事項であることにかわりはない。

b 効果について
本件発明26は、ヨウ化エチル濃度を380wppm以下に低く維持し、生成酢酸中のプロピオン酸の濃度を低下させることで、純粋な酢酸の製造ができることを効果としている(【0064】)。
そして、アセトアルデヒド濃度の影響を一定程度受けるものの、酢酸メチル濃度を特定範囲に低く維持すること及び反応器内の水素分圧及び/又は反応媒体のヨウ化メチル濃度の少なくとも1つを調節することによって、ヨウ化エチルの濃度が制御され、プロピオン酸の副生が抑えられ、アルカン除去システムを用いずとも、生成酢酸中のプロピオン酸量を減少できることは、予想を超えた顕著なものといえる。

c 以上のとおり、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明26は、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(ウ)小括
本件発明26は、刊行物11発明及び刊行物1?10に記載の技術的事項から当業者が容易になし得たものとはいえない。

7 特許異議申立人の主張についての検討
(1)特許異議申立人は、申立書53頁において、甲11号証の表1に反応器流中のヨウ化エチル濃度が622ppmであり、処理後のプロピオン酸濃度が150又は130ppmであったことが記載されているので本件発明とは相違しない旨主張している。
しかしながら、本件発明は、反応媒体中のヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行われるもので、その手段として酢酸メチル濃度を特定範囲に維持するものであるから、そのような特定のない甲第11号証に記載された発明と異なるものであり、上述のとおり、当業者が容易に発明することができたものともいえない。

(2)特許異議申立人は、平成30年3月30日付け意見書6?10頁において、反応媒体中の酢酸エチル濃度、触媒濃度、水濃度が実施例において開示されていないことや、実施例で用いたマイクロユニットやパイロットプラントに供給した反応混合物の成分が不明であることや、フラッシュ容器、軽質留分カラム、乾燥カラムの運転条件が不明であるとして、サポート要件や実施可能要件を問題にしている。
しかしながら、反応媒体中の酢酸エチル濃度、触媒濃度、水濃度に関しては、【0046】に維持すべき範囲が記載され、装置の運転条件についても【0060】?【0063】及び【0070】?【0072】及び【0089】?【0093】及び【図2】に示されているのであるから、実施例に示された表1及び表2の結果と合わせみれば、当業者は、すべての条件が実施例において明らかにされないからといって、過度な試行錯誤を要するとはいえないといえる。
また、特許請求の範囲に特定された発明を実行することができれば、結果として、アルカンやカルボニル不純物やカルボン酸不純物を直接除去することに頼らず、低いヨウ化エチル含量を有する反応媒体から酢酸を製造する方法の提供をするという本件発明の課題も解決しているといえる。

(3)特許異議申立人は、平成30年3月30日付け意見書11頁において、刊行物2に記載された発明において、刊行物1や刊行物11に記載された酢酸メチル濃度範囲を適用することが容易である旨主張しているが、高純度の酢酸の製造において、不純物を問題にしている点で共通しているからといって、刊行物1のアセトアルデヒド濃度に着目した高純度酢酸の製造方法と、刊行物11の酢酸製造中に形成される過マンガン酸塩還元化合物及びアルキルヨウ化物化合物除去のためのシステムに着目した高純度酢酸の製造方法とは、どの不純物に着目し、何を制御維持するのかに関して、適用の前提が異なっている。つまり、刊行物1,2,11のいずれも、酢酸生成物中のプロピオン酸濃度を目的として、ヨウ化エチルの濃度を一定以下に維持するために酢酸メチル濃度を一定範囲に維持することに着目しておらず、たまたま、数値範囲の重なる記載があるからといって、酢酸メチル濃度を特定範囲に維持することの示唆のない刊行物2発明において、その範囲を採用するとはいえないし、ましてや、酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持するとはいえない。

取消理由で採用しなかった特許異議申立理由について

1 特許異議申立人は、訂正前の請求項1?26に係る発明が、刊行物2又は刊行物11に記載された発明であるとして、特許法第29条第1項第3号に関する理由を申立てているので検討する。
訂正後の特許請求の範囲に記載された本件発明に関し、刊行物2発明との対比で認定した相違点5(43頁)及び相違点4-26(46頁)、刊行物11発明との対比で認定した相違点4’(51頁)及び相違点4’-26(54頁)はいずれも前述のとおり実質的相違点であるので、特許異議申立人の特許法第29条第1項第3号に関する主張は採用できない。

2 また、特許異議申立人は、刊行物1に記載された発明に対して刊行物2?10に記載の技術的事項を適用した場合の特許法第29条第2項に関する理由を申立てているので検討する。
上述のとおり、刊行物1は、アセトアルデヒド濃度を一定以下に抑えることで、高純度の酢酸を製造しようとするもので、ヨウ化エチルの濃度を一定以下に維持するために酢酸メチル濃度を一定範囲に維持することに着目しておらず、酢酸メチル濃度を23.7重量%という高い値で実行している刊行物2記載の技術的事項や刊行物3?10のメタノール中のエタノール含有量の技術常識を考慮しても、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2?10記載の技術的事項から容易に発明することができたものとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、請求項1?3,5?12,14?17,19,26に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠によっては、取り消されるべきものとはいえない。
また、他に請求項1?3,5?12,14?17,19,26に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項4,13,18,20?25に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4,13,18,20?25に係る特許に関する申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸生成物の製造方法であって、反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチル、及びハロゲン化物塩の存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程、ここで、該カルボニル化は該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持しながら行われる;および該反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み、該酢酸生成物が250wppm以下の量のプロピオン酸を含み、メタノールが該反応器中に導入され、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含む方法であり、該反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、該工程が、プロピオン酸を該酢酸生成物から除去し、及び/又は該酢酸生成物中のプロピオン酸濃度を減少させることを含まない方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、該工程が、該反応媒体からアルカンを除去するためのアルカン除去システムを含まない方法。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、該反応媒体中のヨウ化エチルと該酢酸生成物中のプロピオン酸が3:1?1:2の重量比で存在する方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、該反応媒体が0.1?14重量%の量の水を含む方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、該反応器を150?250℃の温度及び25?40気圧の全圧に維持する方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、該反応媒体が1500wppm以下の量のアセトアルデヒドを更に含む方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法であって、アセトアルデヒドとヨウ化エチルが2:1?20:1の重量比で該反応媒体中に存在する方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、
該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を、
(A)該反応器内の水素分圧;及び/又は(B)該反応媒体のヨウ化メチル濃度:の少なくとも1つを調節し;そして
該反応媒体から該酢酸生成物を分離する;
ことによって維持する方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、該反応器内の該水素分圧を0.3?2気圧に維持する方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法であって、該反応媒体中の酢酸メチル濃度を2.5?3.2重量%に維持する方法。
【請求項13】
(削除)
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を、該反応媒体から誘導される流れからアセトアルデヒドを除去することによって維持する方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
ヨウ化エチル濃度が、
(a)該反応媒体の少なくとも一部を分離して、酢酸及び液体再循環物質を含む蒸気オーバーヘッド流を与え;
(b)該蒸気オーバーヘッド流を蒸留して、精製酢酸生成物、並びにヨウ化メチル、水、酢酸、酢酸メチル、及びアセトアルデヒドを含む第1のオーバーヘッド流を生成させ;
(c)該第1のオーバーヘッド流の少なくとも一部を蒸留して、第2のオーバーヘッド流及び液相残渣を形成し、ここで、該第2のオーバーヘッド流は該第1のオーバーヘッド流の少なくとも一部に対してアセトアルデヒドが富化されており;そして
(d)該第2のオーバーヘッド流の一部を水で抽出して、アセトアルデヒドを含む水性アセトアルデヒド流、及びヨウ化メチルを含むラフィネートを得る;
ことを含む方法を用いてアセトアルデヒドを除去することによって維持される方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、該ラフィネートからのヨウ化メチルを該反応器に直接か又は間接的に戻す方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、該第1のオーバーヘッド流を凝縮及び二相分離して軽質液相及び重質液相を形成することを更に含み、ここで工程(c)において蒸留される該第1のオーバーヘッド流の該少なくとも一部が重質液相を含む方法。
【請求項18】
(削除)
【請求項19】
請求項17に記載の方法であって、該重質液相がヨウ化エチルを含む方法。
【請求項20】
(削除)
【請求項21】
(削除)
【請求項22】
(削除)
【請求項23】
(削除)
【請求項24】
(削除)
【請求項25】
(削除)
【請求項26】
酢酸生成物の製造方法であって、反応器内において、メタノールを、水、金属触媒、ヨウ化メチル、及びハロゲン化物塩の存在下で一酸化炭素を用いて連続的にカルボニル化して反応媒体を形成する工程、ここで、該カルボニル化は、(A)該反応器内の水素分圧;及び/又は(B)該反応媒体のヨウ化メチル濃度;の少なくとも1つを調節することによって行われる;および、該反応媒体から該酢酸生成物を分離して、該反応媒体中のヨウ化エチル濃度を380wppm以下に維持する工程;および、該反応媒体から該酢酸生成物を分離する工程を含み、メタノールが該反応器中に導入され、メタノール供給源が1?150wppmの量のエタノールを含む方法であり、該反応媒体の酢酸メチル濃度を0.6?4.1重量%に維持する方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-07 
出願番号 特願2015-221831(P2015-221831)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C07C)
P 1 651・ 537- YAA (C07C)
P 1 651・ 113- YAA (C07C)
P 1 651・ 121- YAA (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山本 昌広  
特許庁審判長 佐藤 健史
特許庁審判官 冨永 保
瀬良 聡機
登録日 2016-11-11 
登録番号 特許第6039781号(P6039781)
権利者 セラニーズ・インターナショナル・コーポレーション
発明の名称 低いヨウ化エチル含量を有する反応媒体から酢酸を製造する方法  
代理人 中田 隆  
代理人 中田 隆  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
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