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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D02G
審判 全部申し立て 2項進歩性  D02G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D02G
管理番号 1341958
異議申立番号 異議2017-700864  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-11 
確定日 2018-05-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6099798号発明「ハイブリッドタイヤコード及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6099798号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6099798号の請求項1、2、5ないし8に係る特許を維持する。 特許第6099798号の請求項3及び4に対する特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6099798号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成29年3月3日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年9月11日に特許異議申立人峯村 圭(以下「本件申立人」という。)より特許異議の申立てがされ、平成29年11月8日付けで取消理由が通知され、特許権者からの請求により延長された指定期間内である平成30年2月22日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その意見書及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)に対して本件申立人から平成30年4月3日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)ないし(4)のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1に「所定長さの前記ハイブリッドタイヤコードにおいて、前記上撚りのアンツイスト後、前記アラミド下撚り糸の長さは前記ナイロン下撚り糸の長さの1.005倍?1.025倍である、」と記載されているのを、「所定長さの前記ハイブリッドタイヤコードにおいて、前記上撚りのアンツイスト後、前記アラミド下撚り糸の長さは前記ナイロン下撚り糸の長さの1.005倍?1.025倍であり、
前記アラミド下撚り糸の撚り数は前記ナイロン下撚り糸の撚り数より0.1%?5%少なく、
前記ハイブリッドタイヤコードは部分的にカバーリング構造を有したマージ構造を有し、
日本標準協会(Japanese Standard Association:JSA)のJIS?L 1017方法によって実施されるディスク疲労テスト後の強度維持率が90%以上である、」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2、5、6、7及び8も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「ASTM D885によって測定された切断強度及び破断伸び率がそれぞれ8.0g/d?15.0g/d及び7%?15%で、
日本標準協会(Japanese Standard Association:JSA)のJIS?L 1017方法によって実施されるディスク疲労テスト後の強度維持率が90%以上である、」と記載されているのを、
「ASTM D885によって測定された切断強度及び破断伸び率がそれぞれ8.0g/d?15.0g/d及び7%?15%である、」と訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7及び8も同様に訂正する)。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1における、下撚りの撚り数については、訂正前の請求項3及び4に記載されており、また、ハイブリッドタイヤコードは部分的にカバーリング構造を有したマージ構造を有し、との特定を追加することは、本件明細書の段落【0045】の記載に基づくものであり、さらに、JIS規定による強度維持率の特定は、訂正前の請求項6に記載された事項である。訂正事項1は、明細書に記載された事項の範囲内において前記3つの特定事項を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2及び3
訂正事項2及び3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を導入するものでもなく、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項6に記載されており、上記訂正事項1によって、訂正後の請求項1に移された「日本標準協会(Japanese Standard Association:JSA)のJIS?L 1017方法によって実施されるディスク疲労テスト後の強度維持率が90%以上である、」という発明特定事項を、重複を避けるために削除したものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。
(4)一群の請求項について
訂正前の請求項2ないし8は、いずれも訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1ないし8は一群の請求項である。したがって、本件訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-8〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
上記第2で検討した訂正された本件発明1ないし8は、以下のとおりのものである。(決定注:以下、(A)ないし(M)の分説のための符号は、本件申立人が使用した符号を合議体が修正して付した。)
「【請求項1】
(D)ハイブリッドタイヤコードにおいて、
(A)ナイロン下撚り糸:及び
アラミド下撚り糸;を含み、
(B)前記ナイロン下撚り糸と前記アラミド下撚り糸は共に上撚りされており、
(C)所定長さの前記ハイブリッドタイヤコードにおいて、前記上撚りのアンツイスト後、前記アラミド下撚り糸の長さは前記ナイロン下撚り糸の長さの1.005倍?1.025倍であり、
(GH)前記アラミド下撚り糸の撚り数は前記ナイロン下撚り糸の撚り数より0.1%?5%少なく、
(M)前記ハイブリッドタイヤコードは部分的にカバーリング構造を有したマージ構造を有し、
(J3)日本標準協会(Japanese Standard Association:JSA)のJIS?L 1017方法によって実施されるディスク疲労テスト後の強度維持率が90%以上である、
(D)ハイブリッドタイヤコード。
【請求項2】
(E)前記ナイロン下撚り糸は第1撚り方向を有し、
前記アラミド下撚り糸は第2撚り方向を有し、
前記ナイロン下撚り糸と前記アラミド下撚り糸は共に第3撚り方向に上撚りされており、
(F)前記第2撚り方向は前記第1撚り方向と同一の方向で、
前記第3撚り方向は前記第1撚り方向の反対方向である、請求項1に記載のハイブリッドタイヤコード。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
(I)前記ナイロン下撚り糸と前記アラミド下撚り糸との重量比は20:80?80:20である、請求項1に記載のハイブリッドタイヤコード。
【請求項6】
(J1)前記ナイロン下撚り糸と前記アラミド下撚り糸上にコートされた接着剤をさらに含み、
(J2)ASTM D885によって測定された切断強度及び破断伸び率がそれぞれ8.0g/d?15.0g/d及び7%?15%である、
請求項1に記載のハイブリッドタイヤコード。
【請求項7】
(K)ASTM D885によって測定された3%LASE、5%LASE、及び7%LASEがそれぞれ0.8g/d?2.0g/d、1.5g/d?4.0g/d、及び3.0g/d?6.0g/dである、請求項6に記載のハイブリッドタイヤコード。
【請求項8】
(L)180℃で2分間、超荷重0.01g/denierで測定された乾熱収縮率が1.5%?2.5%である、請求項7に記載のハイブリッドタイヤコード。」
2 特許異議申立の概要
平成29年9月11日付け本件申立書に記載された理由の概要は、次のとおりである。
(1)証拠の一覧
本件申立人が提示した証拠は、以下のとおりである。
ア 甲第1号証(以下「甲1」などという。)
国際公開第2014/104680号、翻訳文として、特表2016-506453号公報を採用、摘記も翻訳文で行う。
イ 甲2
特表2013-537264号公報
ウ 甲3
特開2009-91713号公報
エ 甲3の2
「実験報告」と題する文書
オ 甲4
特開平7-232511号公報
カ 甲5
特開2012-96603号公報
キ 甲6
特表2007-505228号公報
(2)新規性(特許法第29条第1項第3号)についての申立理由
ア 甲1を引用例とする新規性について
甲1記載のハイブリッド繊維コードは、アンツイスト後の糸の長さの比は明らかでないが、本件発明の請求項2、5、6、8で特定される特性を有しており、甲1発明と本件発明1、2、5、6、8と物として区別ができないから、それらの発明は新規性を欠く。
イ 甲3を引用例とする新規性について
甲3に記載されたケーブルは、アラミド単糸とナイロン単糸をZ方向に撚り、これらを合わせてS方向に撚ったものであるから、ハイブリッドコードである。甲3の実施例1により製造したハイブリッドコードのアンツイスト後のアラミド糸は、ナイロン糸の長さの1.007倍であった(甲3の2)。したがって、本件発明1、2、5は、甲3から新規性を欠く。
(3)進歩性(特許法第29条第2項)についての申立理由
ア 甲1を主引用例とする進歩性について
本件発明1ないし8は、甲1から認定する甲1発明及び甲2ないし5に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得る発明であり、進歩性を有しない。
イ 甲3を主引用例とする進歩性について
本件発明1ないし8は、甲3から認定する甲3発明及び甲1、2、4、5に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得る発明であり、進歩性を有しない。
ウ 甲4を主引用例とする進歩性について
本件発明1ないし8は、甲4から認定する甲4発明及び甲1ないし3、5に記載された技術事項から当業者が容易に想到し得る発明であり、進歩性を有しない。
(4)記載要件(特許法第36条第6項第1号及び第2号)違背についての申立理由
ア ケーブルコード撚糸機には、下撚りと上撚りを同時に行う直接撚糸機と、下撚りと上撚りを段階的に行う2段撚糸機が存在し、どちらの撚糸機を用いるかで、コードの性質が異なる(甲6)ところ、本件発明では、どちらの撚糸機を用いて製造したかが特定されていないので本件発明は不明確であり、明細書にサポートされていない。
イ 本件明細書には、400デニール?3000デニールがケーブルコード撚糸機に投入されることが記載されている(段落【0060】)が、実施例には1260デニールのナイロンフィラメントと1500デニールのアラミドフィラメントの例が記載されているだけであるから、本件発明はサポート要件違背である。

第4 特許異議申立についての判断
1 甲1ないし甲5の記載事項について
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。
ア 【請求項1】
「第1の撚り数を有するナイロン下撚り糸及び
第2の撚り数を有するアラミド下撚り糸を含み、
前記第1の撚り数及び前記第2の撚り数は同一であり、
前記ナイロン下撚り糸及び前記アラミド下撚り糸は、同一の構造で共に上撚りされていることを特徴とするハイブリッド繊維コード。」
イ 【請求項6】
「ナイロンフィラメントを第1の撚り数で下撚りすることによってナイロン下撚り糸を製造する第1のステップ、
アラミドフィラメントを第2の撚り数で下撚りすることによってアラミド下撚り糸を製造する第2のステップ及び
前記ナイロン下撚り糸及び前記アラミド下撚り糸を同一の構造で共に上撚りすることによって合撚糸を製造する第3のステップを含み、
前記第1の撚り数と前記第2の撚り数は同一であることを特徴とするハイブリッド繊維コードの製造方法。」
ウ 段落【0006】
「前記ナイロンの他にキャッププライ素材として使用されているアラミドは、ナイロンに比べて低い収縮応力を示すが、優れたクリープ特性を保有しており、モジュラス特性が非常に高く、常温及び高温でのモジュラスの変化量が少ないため、長時間駐車した場合でも、タイヤが変形するフラットスポット現象をほとんど示さない。このようなアラミド材質は、タイヤの品質が非常に重要視される高級タイヤで主に使用されているが、材料自体が非常に高価であるため、汎用的なタイヤでは使用がほとんど不可能である。また、アラミドは、高いモジュラスによってタイヤ成形及び加硫中の膨張が非常に困難であるため、一般的なタイヤに使用しにくく、低い破断伸度によって低い疲労性能を示し、長期間の耐久性を確保しにくいという短所がある。」
エ 段落【0007】
「これを補完するために、ナイロンとアラミドとを共に使用するハイブリッド構造が開発されてきたが、ナイロンとアラミドとの大きな物性差を考慮して、主に、ナイロンとアラミドとの下撚りの撚り数とその合撚糸の上撚りの撚り数とが全て異なる構造が使用されてきた。これによって、タイヤ製造中の膨張問題と疲労耐久性との問題を解決することができたが、全て異なる撚り数とするための球形リング撚糸機または特殊撚糸機の使用によって、生産性が低下するという限定された製造可能性、不安定な構造による物性変動値の増加及び不良率の上昇などの問題を有しており、使用量の拡大において限界が発生した。」
オ 段落【0008】
「具体的に説明すると、従来のハイブリッドコードは、異なる撚り数をそれぞれ有するナイロン下撚り糸及びアラミド下撚り糸を含むだけでなく、これらが共に上撚りされるときにも異なる撚り数で上撚りされるため、ハイブリッド繊維コードの全体の物性が、下撚りの各撚り数及び上撚りの撚り数に支配的な影響を受けた。」
カ 発明が解決しようとする課題
(ア)段落【0010】
「本発明は、前記のような関連技術の制限及び短所に起因した各問題を防止できるハイブリッド繊維コード及びその製造方法に関する。」
(イ)段落【0011】
「本発明の一観点は、既存のハイブリッド繊維コードに比べてその製造が簡便なだけでなく、より均一な物性及び改善された強度と耐疲労性とを有することによって、超高性能タイヤに適用可能なナイロンフィラメント及びアラミドフィラメントを含むハイブリッド繊維コードを提供することである。」
(ウ)段落【0012】
「本発明の他の観点は、既存のハイブリッド繊維コードに比べてその製造が簡便なだけでなく、より均一な物性及び改善された強度と耐疲労性とを有することによって、超高性能タイヤに適用可能なナイロンフィラメント及びアラミドフィラメントを含むハイブリッド繊維コードの製造方法を提供することである。」
キ タイヤコードについて
(ア)段落【0052】
「図2に示したように、ナイロン下撚り糸110及びアラミド下撚り糸120が実質的に同一の構造を有するためには、撚糸工程を行うとき、モジュラス特性が異なるナイロンフィラメントとアラミドフィラメントにそれぞれ加えられる張力を適宜調節することができる。」
(イ)段落【0053】
「タイヤとの接着性を向上させるために、撚糸工程を通じて得られた合撚糸100を接着剤溶液に浸漬又は通過させるステップを経た後、乾燥して熱処理することによって本発明のハイブリッド繊維コードを完成する。」
(ウ)段落【0055】及び【0056】
「前記浸漬工程に続いて行われる乾燥工程の温度及び時間は、前記接着剤溶液の組成によって変わるが、70℃?200℃で30秒?120秒間乾燥工程を実施することができる。熱処理工程は、200℃?250℃で30秒?120秒間実施することができる。」
(エ)段落【0057】
「このような乾燥及び熱処理工程を通じて以前のステップで合撚糸100に含浸された接着剤溶液の接着剤成分が合撚糸の表面にコーティングされることによって、タイヤ用ゴム組成物との接着性が増加する。」
(オ)段落【0058】
「一方、本発明のハイブリッド繊維コードは、撚糸工程で同一の撚り数の下撚りと上撚りを付与するが、接着剤溶液に浸漬した後で乾燥させるステップで撚りが解ける現象が発生し、下撚りと上撚りで15%以内の撚り数差が発生することがある。」
ク 実施例1
(ア)段落【0065】
「1260De’のナイロンフィラメントと1500De’のアラミドフィラメントに対してケーブルコーダー撚糸機を用いて下撚りを反時計方向に、上撚りを時計方向にそれぞれ同時に行い、ハイブリッド合撚糸を製造した。このとき、300TPMの撚り数が設定された。」
(イ)段落【0066】
「このように製造されたハイブリッド合撚糸を2.0重量%のレゾルシノール、3.2重量%のホルマリン(37%)、1.1重量%の水酸化ナトリウム(10%)、43.9重量%のスチレン/ブタジエン/ビニルピリジン(15/70/15)ゴム(41%)及び水を含むレゾルシノール-ホルムアルデヒド-ラテックス(RFL)接着剤溶液にディッピングした。ディッピング時、ハイブリッド合撚糸に加えられる張力は0.5kg/cordになるように制御した。」
(ウ)段落【0067】
「浸漬によってRFL溶液を含有したハイブリッド合撚糸を150℃で100秒間乾燥させた後、240℃で100秒間熱処理することによってハイブリッド繊維コードを完成した。」
ケ 実施例2
段落【0068】
「840De’のナイロンフィラメントと1000De’のアラミドフィラメントを使用し、相対的に低い繊度を挽回するために相対的に高い撚り数である350TPMの撚り数を設定したことを除いては、実施例1と同一の方法でハイブリッド繊維コードを製造した。」
コ 実施例3
段落【0069】
「350TPMの撚り数を設定したことを除いては、実施例1と同一の方法でハイブリッド繊維コードを製造した。」
サ 比較例
段落【0070】
「ナイロンフィラメントとアラミドフィラメントをそれぞれ300TPM及び400TPMで下撚りし、ナイロン下撚り糸及びアラミド下撚り糸を製造した後、リング撚糸機(Ring?Twister)を用いて上撚り工程を行うことによってアラミド下撚り糸がナイロン下撚り糸をカバーリングする形態の合撚糸を製造したことを除いては、前記実施例1と同一の方法でハイブリッド繊維コードを製造した。」
シ 段落【0071】
「前記の各実施例及び比較例によって得られた各ハイブリッド繊維コードの切断強度及びその不均一性、破断伸び率及びその不均一性、乾熱収縮率、及びディスク疲労テスト後の強力維持率を次の方法でそれぞれ測定し、その結果を表1に示した。」
ス 表1



セ 段落【0020】
「・・・【図2】本発明のハイブリッド繊維コードを構成する合撚糸の模式図である。」
ソ 【図2】



(2)甲2の記載事項
甲2には、次の記載がある。
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
混合繊維において、
第1のフィラメント;及び
前記第1のフィラメントと異なる第2のフィラメント;を含み、
ASTM D 885の規定によって測定された前記混合繊維の強度-伸度曲線は、少なくとも1個のピークを有し、
前記強度-伸度曲線が2個以上のピークを有する場合、前記2個以上のピークのうち最も低い伸度を有する第1のピークと最も高い伸度を有する第2のピークとの間の伸度差は3%以下であることを特徴とする混合繊維。
・・・
【請求項4】
前記第1のフィラメントはアラミドフィラメントで、
前記第2のフィラメントはナイロン66フィラメントで、
前記混合繊維内の前記アラミドフィラメントの含量は10?90重量%であることを特徴とする、請求項1に記載の混合繊維。
【請求項5】
前記混合繊維は撚糸物であることを特徴とする、請求項1に記載の混合繊維。
【請求項6】
前記第1のフィラメントは第1の下撚糸で、
前記第2のフィラメントは第2の下撚糸で、
前記混合繊維は、前記第1及び第2の下撚糸の上撚りを通して得られた合撚糸であることを特徴とする、請求項1に記載の混合繊維。
【請求項7】
前記第1及び第2の下撚糸は互いに異なる撚り数を有することを特徴とする、請求項6に記載の混合繊維。
【請求項8】
レゾルシノール-ホルムアルデヒド-ラテックス接着剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の混合繊維。
【請求項9】
第1のフィラメントを準備する段階;
前記第1のフィラメントより高い伸度を有する第2のフィラメントを準備する段階;
前記第1及び第2のフィラメントの伸度差を3%以下にするために前記第2のフィラメントに張力を加える段階;及び
伸度差が3%以下になった前記第1及び第2のフィラメントを合糸する段階;を含むことを特徴とする混合繊維の製造方法。
【請求項10】
前記第1のフィラメントに張力を加える段階をさらに含み、
前記第1のフィラメントに加えられる張力は、前記第2のフィラメントに加えられる張力より小さいことを特徴とする、請求項9に記載の混合繊維の製造方法。
【請求項11】
前記第1のフィラメントはアラミドフィラメントで、
前記第2のフィラメントはナイロン66フィラメントであることを特徴とする、請求項9に記載の混合繊維の製造方法。」
イ 段落【0051】
「本発明の一実施例によると、混合繊維を構成する第1及び第2のフィラメントは、それぞれ第1及び第2の下撚糸(primary twisted yarns)で、前記混合繊維は、前記第1及び第2の下撚糸の上撚り(secondary twisting)を通して得られた合撚糸(ply yarn)である。例えば、アラミドフィラメント及びナイロン66フィラメントを含む混合繊維の場合、前記アラミドフィラメント及びナイロン55フィラメントのそれぞれはZ方向に撚られた下撚糸であり、前記混合繊維は、前記各下撚糸をS方向に上撚りすることによって製造された合撚糸であり得る。」
ウ 段落【0055】
「本発明の混合繊維は、タイヤコード、ホース、ベルト、ケーブル、防弾服、ロープ、コンポジット、防弾手袋などの多様な製品の製造に使用可能であるが、その用途に応じて、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、又はエチレンビニルアセテート樹脂を選択的にさらに含むことができる。」
(3)甲3の記載事項
甲3には、次の記載がある。
ア 特許請求の範囲
「【請求項1】
アラミド単糸とナイロン単糸を撚り合わせた(cabled together)ケーブルであって、前記アラミド糸が約220?約3300dtexの範囲の線密度を有し、前記ナイロン糸が約220?約2100dtexの範囲の線密度を有することを特徴とするケーブル。
・・・
【請求項12】
約1670dtexの線密度を有する2本のアラミド糸を、約1400dtexの線密度を有するナイロン糸と撚り合わせたコード構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のケーブル。
【請求項13】
前記ナイロン糸が10.7Zの撚りを有し、前記アラミド糸がそれぞれ6.2Zの撚りを有し、前記ケーブル全体が9.7Stpiの撚りを有することを特徴とする、請求項1に記載のケーブル。
【請求項14】
カーカスと、前記カーカスの道路係合部分上のトレッドとを有し、前記カーカスが1本または複数本のケーブルを含み、前記ケーブルは撚り合わされたアラミド単糸とナイロン単糸とを含み、前記アラミド糸が約220?約3300dtexの範囲の線密度を有し、前記ナイロン糸が約220?約2100dtexの範囲の線密度を有することを特徴とする空気入りゴムタイヤ。」
イ 段落【0049】
「図1は、本発明のコード構造の第1の実施形態を示す。このコードは螺旋状に撚られた異種の糸2および3を含む。この複合またはハイブリッドコードは、アラミド3の1本または複数本の糸、より好ましくは単糸のみを含む。このアラミド3は、標準的アラミドとして当業者に知られたものを含むことができる。本発明に適したアラミドの一例は、デュポンによって製造され、ケブラー29の商品名で販売されている。本発明に適した標準的アラミドの別の例は、帝人によって製造され、トワロン1000の商品名で販売されている。線密度は、約220dtex?約3300dtexの範囲、より好ましくは約1100?約3300の範囲、最も好ましくは約1670dtexとすることができる。アラミド糸はそれぞれZ方向に個別に撚られる。撚りは、Z方向に約3?約16tpi(撚り/インチ)、より好ましくは約6?約12tpi、最も好ましくはZ方向に約10.7tpiとすることができる。」
ウ 段落【0050】
「複合コードはさらに脂肪族ポリアミドもしくはナイロン糸2、好ましくはナイロン6/6を含む。好ましくは、ナイロンの単糸だけが使用される。このナイロンは、好ましくは約220?約2100dtex(1890デニール)の範囲、より好ましくは約1400?約2100の範囲、最も好ましくは1400dtexの線密度を有する。ナイロン2は、約3?約16の範囲、より好ましくは約3?約7の範囲、最も好ましくは約6.2(tpi)でZ撚りで個別に撚られる。次いで、これらのナイロンおよびアラミドの糸を撚り合わせて(plied together)、約3?約16tpiの範囲、より好ましくは約7?約10の範囲、最も好ましくは約9.7撚り/インチのS撚りを有するケーブルを形成する。」
エ 段落【0051】
「未処理およびRLF浴浸漬した第1の実施形態のコード特性を表Iに示す。比較のために、1400/1/2ナイロン構造およびアラミド1100/1/2構造も表Iに示す。表および図5に示すように、1400N+1670A構造は、未処理および浸漬のどちらも破壊強度が大幅に向上した。このコード構造の破壊強度は、ナイロンに対して45%増加し、アラミドに対して5%増加した。図3は、繰返数に対する破壊強度の変化を示しており、本発明の破壊強度が常にナイロンまたはアラミドのいずれよりも大きいことを示している。図2は、本発明ならびにナイロンおよびアラミドの浸漬コード構造の応力-歪み曲線を示す。浸漬した本発明の構造は、アラミド構造と比べて曲線下の面積が大きく、ナイロン構造と同等の性能であった。図7は破断点伸びを示す。この図では、本発明のコードは、ナイロンと比較して、伸びが24%減少している。図8は、破壊までのエネルギーを示す。この図では、本発明のコードは、破壊までのエネルギー特性がナイロンと同等である。図6はテナシティーを示す。この図では、本発明のコードは、テナシティーがナイロンより25%増加している。図4は、120,000回にわたる繰返時のテナシティーを示しており、テナシティーがわずかに減少し、次いで水平になることを示す。図9は、本発明のコードの靭性を示しており、本発明のコードがアラミドの靭性特性を有することを示す。図10は、本発明の収縮特性を示しており、ナイロンと比較して、収縮が58%減少していることを示す。」
オ 段落【0052】
【表1】



カ 段落【0057】
「 実施例1
図13に示したタイヤ構造の2本の試験タイヤ32X11.5-15を作成し試験した。対照品タイヤはナイロンカーカスを含んでいた。試験タイヤは、1670dtex(A)+1400dtex(N)/1/2;10.7Z(A)+6.2Z(N)X9.7Sの組合せコード構造を含んでいた。タイヤに一連の試験を行った。タイヤに破裂試験を行った。ナイロンの対照品タイヤは1524psiで破裂した。試験タイヤは1176psiで破裂した。タイヤには動的試験も行った。試験タイヤは、標準離陸48回、長時間の誘導滑走1回、および高速離陸1回に合格した後で破壊した。試験タイヤはさらに拡散試験(diffusion testing)に合格した。本発明の動的タイヤ性能データは期待を超えており、全く驚くべきものであった。本発明の耐動的疲労性を図14に示した。ナイロン対照品と比べて、強度、疲労および延性が向上していることが分かった。本発明のタイヤは、商業化のために望まれるレベルで試験したものではないが、これらの試験はこのコンセプトの実現可能性を実証した。」
キ 【図1】



(4)甲4の記載事項
甲4には、次の記載がある。
ア 請求項1
「トレッド部と、その両端から半径方向内方に延びるサイドウォール部と、該サイドウォール部の半径方向内端部に位置するビード部とを有し、トレッド部、サイドウォール部を通りビード部のビードコアの回りにタイヤの内側から外側にかけて巻き上げて係止された、ラジアル方向に複数のコードを配列してなるカーカス層と、該カーカス層のタイヤ半径方向外側に配したベルト層と、該ベルト層の半径方向外側に位置するバンド層とを備えた空気入りラジアルタイヤであって、
前記ベルト層は、非金属コードを用いた少なくとも1枚のベルトプライを有する一方、
前記バンド層は、少なくとも1本の複合コードをタイヤ赤道に対して0?3°の角度を有してタイヤ円周方向に連続して螺旋状に巻回させたプライからなり、
前記複合コードは、弾性率2000kgf/mm^(2)以下の低弾性繊維を下撚りしてなる低弾性糸と弾性率3000kgf/mm^(2)以上の高弾性繊維を下撚りしてなる高弾性糸とを合わせて上撚りして形成するとともに、
前記複合コードは、前記プライの巾5cm当りの複合コードの打ち込み本数であるエンズE(単位:本)と2%伸張時の応力F1(単位:kgf)との積FIxEを60より小、かつエンズEと6%伸張時の応力F2(単位:kgf)との積F2xEを150より大としたことを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。」
イ 段落【0009】
「高速耐久性、操縦安定性を維持しつつ、軽量化を図るため、スチールコードに代えて非金属コードをベルトに使用した空気入りラジアルタイヤを採用する場合でも、高速走行時のリフティングを防止するためにはタガ効果を大きくする必要があり、一方、タイヤの加硫時には金型フィット性のため容易に膨張できる伸びが必要である。この両方の性質を満たしても、加硫時の伸びとタガ効果の間でタイヤのいわば縮みしろによる外径の変化が大きいとトレッド部の耐カット性および耐亀裂性に劣るという問題がある。本発明は近年の高速走行性能、軽量化の要請にこたえるとともに、この問題を解決することによりタイヤの総合品質を向上させることを目的としている。」
ウ 段落【0020】
「・・・複合コード23は、図4、図5に示す如く、高弾性繊維とし
てアラミド繊維を用いた少なくとも1本の高弾性糸21と、低弾性繊維としてナイロン繊維を用いた少なくとも1本の低弾性糸22とを撚り合わせている。」
エ 段落【0021】
「高弾性繊維としては弾性率3000kgf/mm^(2)以上であることが必要であり、アラミド繊維の他、強度15g/d以上のポリビニルアルコール繊維、炭素繊維、ガラス繊維などを使用してもよい。好ましくは5000kgf/mm^(2)以上である。高弾性繊維の弾性率が3000kgf/mm^(2)より低いと十分なタガ効果が得られず、高速走行時のリフティングの防止が不十分となる。低弾性繊維としては脂肪族ポリアミドのナイロン繊維が好適であり、弾性率が2000kgf/mm^(2)以下、好ましくは1000kgf/mm^(2) 以下のものが用いられる。」
オ 段落【0024】の【表1】



カ 段落【0027】
「試験番号3の複合コードは、低弾性糸の太さを420d、下撚り数を42.4(回/10cm)とし、上撚り数を47.8(回/10cm)としている。したがって、概算上、見かけの撚り数の差は、高弾性糸の上撚り方向に5.8(回/10cm)、低弾性糸もその方向に5.4回/10cmとなっている。このコードはJLBバンド層の2%伸張時の応力F1とエンズEとの積F1xEが55であり、このによるタイヤは30,000km走行してTGCは5カ所未満の軽微な状態であった。」
キ 【図4】



ク 【図5】



(5)甲5の記載事項
甲5には、次の記載がある。
ア 請求項1
「左右一対のビード部にカーカス層を装架すると共に、サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向内側に断面が三日月状の補強ゴム層を配置した空気入りランフラットタイヤにおいて、
前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側にアラミド繊維の下撚り糸とナイロン繊維の下撚り糸とを撚り合わせて構成された複合コードからなるサイド補強層を配置し、下記(1)式で表わされる前記複合コードの上撚り係数N1が1300≦N1≦2500の範囲にあると共に、前記複合コードの上撚り数T1と前記アラミド繊維の下撚り糸の下撚り数TaとがT1≧Taの関係であり、かつ前記複合コードの上撚り数T1と前記ナイロン繊維の下撚り糸の下撚り数TnとがT1≧Tnの関係であることを特徴とする空気入りランフラットタイヤ。
N1=T1×D1^(1/2) ・・・(1)
(式中、T1は複合コードの上撚り数[回/10cm]、D1は複合コードの総繊度[dtex]である。)
イ 請求項2
「下記(2)式で表わされる前記アラミド繊維の下撚り糸の下撚り係数Naと下記(3)式で表わされる前記ナイロン繊維の下撚り糸の下撚り係数NnとがNa≧Nnの関係であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りランフラットタイヤ。
Na=Ta×Da^(1/2) ・・・(2)
Nn=Tn×Dn^(1/2) ・・・(3)
(式中、Taはアラミド繊維の下撚り糸の下撚り数[回/10cm]、Tnはナイロン繊維の下撚り糸の下撚り数[回/10cm]、Daはアラミド繊維の下撚り糸の繊度[dtex]、Dnはナイロン繊維の下撚り糸の繊度[dtex]である。)」
ウ 段落【0017】
「このように構成されたサイド補強層9を配置することにより、通常走行時の乗心地性を良好に維持すると共にランフラット走行時の耐久性を向上することが出来る。即ち、通常走行時には弾性率が低く柔軟性の高いナイロン繊維の物性が発揮され乗心地性を良好に維持することが出来、ランフラット走行時には高強度高弾性のアラミド繊維の物性が発揮されると共に、ナイロン繊維の柔軟性によりサイドウォール部の撓みに耐えることが出来るため、耐久性を向上することが出来る。」
エ 実施例(段落【0025】及び【0026】)
「タイヤサイズを225/45ZR17で共通にし、サイド補強層の仕様を表1のように異ならせた比較例1?5、実施例1?7の12種類の試験タイヤを製作した。
これら12種類の試験タイヤについて、下記の評価方法により通常走行時の乗心地性及びランフラット走行時の耐久性を評価し、その結果を表1に併せて示した。」
オ 段落【0029】表1



2 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)平成29年11月8日付け取消理由について
当審からは、次のような取消理由を通知した。
ア 甲1発明を引用例とする新規性欠如
甲1の実施例1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)と、本件訂正前の本件発明1(本件発明1の構成要件(A)?(D)からなる発明)とを対比すると、甲1発明が、構成要件(A)、(B)、(D)を備えるものであって、構成要件(C)についても、上記1(1)キ(ア)に記載のように、「ナイロンフィラメントとアラミドフィラメントに加えられる張力と適宜調整することができる」のであるから、示唆されているといえるから、本件発明1は甲1発明から新規性を欠如する。また、甲1には、構成要件(E)、(I)、(J1)、(J2)も開示されているから、本件訂正前の本件発明2、5、6、8も同様に新規性を欠如する。
イ 甲1発明を主引用例とする進歩性欠如
(ア)甲1発明と本件発明1ないし8との相違点があったとしても、それらの相違点は、甲2ないし甲5に記載されており、甲1発明を主引用例として、当業者が容易に想到し得るものである。
(イ)甲2には、上記1(2)アに摘記したように、アラミドフィラメントとナイロンフィラメントとの伸度差を3%以下にするため、ナイロンフィラメントに張力を加えて下撚りし、さらにアラミドフィラメントにも張力を加えて下撚りし、伸度差が3%以下となった両フィラメントを上撚りされる複合繊維が記載され、上記1(2)ウに摘記したようにタイヤコードとすることも記載されているから、本件発明の構成要件(A)、(B)、(D)、(E)、(F)、(I)が開示されている。
(ウ)甲3には、上記1(3)エ、オ、カに摘記した実施例において、アラミドフィラメント(1670dtex)の下撚り数がZ方向に約10.7tpi(当審注:撚/インチ)、ナイロンフィラメントの下撚り数がZ方向に約6.2tpi、上撚り数がS方向に約9.7tpiの複合コードが開示され、接着剤を用いてタイヤコードとすることも記載されている。アラミドフィラメントとナイロンフィラメントとの比重(それぞれ、1.44及び1.14)を考慮すると、重量比は、(1670×1.44):(1400×1.14)=60:40となることが開示されていることになり、また、上記1(3)カの表1において、LASE5%の値も開示されている。したがって、甲3には、本件発明の構成要件(A)、(B)、(D)、(E)、(F)、(I)、(J1)が開示されている。
(エ)甲4には、上記1(4)アに摘記したように、ナイロン繊維を下撚りしてなる低弾性糸と、アラミド繊維を下撚りしてなる高弾性糸とを合わせて上撚りした複合コードを用いた空気入りラジアルタイヤが記載されている。そして、上記1(4)オの表に記載された実施例A(試験例3)に注目すると、上記1(4)カにも摘記したように、1000dのアラミド繊維を撚り数42.0(T/10cm)で下撚りし、420dのナイロン繊維を撚り数42.4(T/10cm)で下撚りし、それらを下撚りと逆方向に上撚りした複合コードが記載されている。複合コードの2%伸長時応力は、1.1kgf(換算すると、0.77g/d)であり、6%伸長時応力は、8.0kgf(換算すると、5.6g/d)である。実施例Aの複合コードについて、アラミド繊維とナイロン繊維の比重を用いて、換算すると、アラミド繊維とナイロン繊維の重量比は、(1000×1.44:420×1.14)=3:1の比率となり、また、アラミド繊維の下撚り数は、ナイロン繊維より0.9%低いことが計算できる。そうすると、甲4には、本件発明の構成要件(A)、(B)、(GH)、(D)、(E)、(F)、(I)、(J1)、(K)が記載されている。
(オ)甲5には、上記1(5)アで摘記したように、アラミド繊維の下撚り糸と、ナイロン繊維の下撚り糸とをより合わせて構成した複合コードを有する空気入りランフラットタイヤが記載されており、その実施例6には、1670dのアラミド繊維の下撚り数が26(T/10cm)、1400dのナイロン繊維の下撚り数が28(T/10cm)である複合コードが記載されている。アラミド繊維の撚り数は、ナイロン繊維の撚り数よりも7%少ない。また、アラミド繊維及びナイロン繊維の比重を用いて、重量比を換算すると、(1670×1.44):(1400×1.14)=60:40である。そうすると、甲5には、本件発明の構成要件(A)、(B)、(D)、(I)が記載されている。
ウ 甲3発明を主引用例とする進歩性欠如
上記イ(ウ)に記載した、甲3の実施例に記載された発明(以下「甲3発明」という。)を主引用例とすると、本件発明の構成要件(A)、(B)、(D)、(E)、(F)、(I)、(J1)が一致点となり、本件発明との相違点は、甲1、2、4、5に記載された事項から当業者が容易に想到し得るものである。
エ 甲4発明を主引用例とする進歩性欠如
上記イ(エ)に記載した、甲4の実施例Aとして記載された発明(以下「甲4発明」という。)を主引用例とすると、本件発明の構成要件(A)、(B)、(GH)、(D)、(E)、(F)、(I)、(J1)、(K)が一致点となり、相違点は、甲1、甲2、甲3、甲5に記載された事項から、当業者が容易に想到し得るものである。
(2)甲1発明を引用例とする新規性についての当審の判断
本件発明は、上記第2に記載した訂正により、甲1に何ら開示のない構成要件(GH)、(M)を有することとなった。そうすると、本件発明1が甲1に記載された発明から新規性を欠くということはできず、本件各発明が特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとはいえない。
(3)進歩性についての当審の判断
上記2(1)アないしウで通知した進歩性については、以下のとおり、甲1、甲3、甲4のいずれを主引用例としても、本件特許がその出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえないと判断した。
ア 上記1(1)?(5)で摘記した甲1ないし甲5のいずれにも、ハイブリッドタイヤコードにおいて、「部分的にカバーリング構造を有したマージ構造を有し」かつ、「所定長さの前記ハイブリッドタイヤコードにおいて、前記上撚りのアンツイスト後、前記アラミド下撚り糸の長さは前記ナイロン下撚り糸の長さの1.005倍?1.025倍」の数値範囲(以下「本件数値範囲」という。)内に調整されることは、記載されていると認めることはできない。
イ そして、上記アの点によって、本件特許明細書の【表2】及び段落【0096】、【0097】に記載されるような効果を奏するものである。特に、【表2】に記載された比較例5及び6は、それぞれ、本件数値範囲外の「1.003倍」及び「1.03倍」とするものであり、【表2】によると、本件数値範囲内の実施例5ないし8に対して、いずれも強度維持率において劣るものであるから、本件数値範囲には、臨界的意義が認められるともいえる。
ウ そうすると、本件発明1が甲1ないし5に記載された発明から、当業者が容易に想到できたものということはできない。本件発明1を引用する本件発明2、5ないし8についても、同様に当業者が容易に想到できたものということはできない。
3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲3を引用例とする新規性について
本件申立人は、甲3の2により「実験報告」と題する文書を提示し、甲3に記載された実施例1を再現したものと主張する。しかしながら、甲3の2には、作成者の署名も捺印もなく、どこで行った実験であるかも明らかでない。甲3の2に記載されたことが事実であると信じるに足りないから、本件申立人の主張は採用できない。本件特許が、甲3に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないということはできない。
(2)記載要件違背について
ア 本件申立人は、特許異議申立書において、ハイブリッドタイヤコードは、ケーブルコード撚糸機により製造されるが、この撚糸機には、下撚りと上撚りとを同時に行う直接撚糸機と、下撚りと上撚りとを段階的に行う2段撚糸機が存在し、どちらの撚糸機を用いるかで、コードの性質が異なる(甲6の表2)ところ、本件発明では、どちらの撚糸機を用いて製造したかが特定されていないなどと主張する。しかしながら、そもそも、本件発明は、ハイブリッドコードという物の発明であるから、製造方法の特定は必須ではない。したがって、直接撚糸方式か2段撚糸方式かを特定しなくとも、本件に係る特許請求の範囲の記載は、この点で、サポート要件違背及び明確性要件違背はないというべきである。本件申立人のこの主張は失当であり、採用できない。
イ また、本件申立人は、本件明細書には、400デニール?3000デニールがケーブルコード撚糸機に投入されることが記載されている(段落【0060】)が、実施例には1260デニールのナイロンフィラメントと1500デニールのアラミドフィラメントの例が記載されているだけなどと主張するが、本件発明には、いずれの請求項においても繊度は特定されていないから、この主張は本件特許の構成要件とは無関係な主張であり、失当である。
4 平成30年4月3日付け意見書に対して
本件申立人は、上記意見書において、次のように主張している。
(1)構成要件(I)について
ア 上記1で分説した、請求項1の構成要件(M)「前記ハイブリッドタイヤコードは、カバーリング構造が少し加味されたマージ構造を有」する点について、本件申立人は、本件特許明細書の段落【0045】に、「前記アラミド下撚り糸の長さは前記ナイロン下撚り糸の長さの1.005倍?1.025倍である。すなわち、本発明のハイブリッドタイヤコードは、カバーリング構造が少し加味されたマージ構造を有する」と記載されていることを根拠に、構成要件(C)と同義の構成要件(M)により新規性を生ずることはないと主張する。
イ しかしながら、新規性の判断は、本件優先日前に記載された文献から、新規性があるかを判断するものであって、本件明細書の記載から新規性の有無を論ずることは、誤りである。仮に、構成要件(C)が優先日前知られていたとしても、本件優先日前に、構成要件(C)が「カバーリング構造が少し加味されたマージ構造」であると当業者が理解出来たと認めるに足りる証拠はない。本件申立人の主張は理由がない。
(2)構成要件(GH)について
ア 甲1との対比
(ア)異議申立人は、上記第3、3(1)キ(オ)で摘記した甲1の段落【0058】の「接着剤溶液に浸漬した後で乾燥させるステップで撚りが解ける現象が発生し、下撚りと上撚りで15%以内の撚り数差が発生することがある」という記載から、下撚りの撚り数が甲1記載のタイヤコードにおいても構成要件(GH)を満たす可能性があると主張する。
(イ)しかしながら、甲1記載のタイヤコードは、ナイロン下撚り糸と、アラミド下撚り糸とは、同じ撚り数で下撚りをかけられ、それらをあわせて上撚りをかけされるものである。前記段落【0058】において、解けるのは、後でかけられた上撚りであって、ナイロン下撚り糸及びアラミド下撚り糸の下撚り数に影響するものではない。本件申立人の主張は理由がない。
イ 甲4との対比
(ア)本件申立人は、「甲4の表1の実施例Aには、1000dのアラミド繊維を撚り数42.0(T/10cm)で下撚りし、420dのナイロン繊維を撚り数42.4(T/10cm)でアラミド繊維と同じ方向に下撚りし、それらを下撚りと逆方向に上撚りした複合コードが記載されている。この複合コードにおけるアラミド繊維の撚り数、ナイロン繊維の撚り数よりも0.9%少ない」から、甲4には、構成要件(GH)を充足する複合コードが開示されている旨主張する。
(イ)検討
a 確かに、前記第3、3(4)オ及びカの記載からみて、甲4実験例Aのタイヤコードは、下撚りの段階では、アラミド繊維の撚り数が、ナイロン繊維の撚り数よりも0.9%少なくなっており、また、それらを合わせて上撚りすることにより、複合コード中での撚り数は、アラミド繊維の方が高くなっていると認められる。
b しかしながら、甲1には、前記第3、3(1)エ、オ、シの表中の比較例に記載されるような、従来のハイブリッド繊維コードにおいて、アラミド繊維とナイロン繊維との下撚り数が異なることによって、ハイブリッド繊維コード内での、アラミド繊維とナイロン繊維との構造が異なることによる不安定な構造による物性変動値の増加という課題が記載されている。
c そして、前記第3、3(1)アに記載されているように、ナイロン下撚り糸とアラミド下撚り糸との撚り数を同一として、それらが同一の構造で共に上撚りすることで解決するというものである。
d そのような、甲1に記載された発明に対して、甲4実験例Aに記載された、アラミド繊維の撚り数が、ナイロン繊維の撚り数よりも0.9%少なくするという事項を適用することには、阻害事由があると言うべきである。
e よって、本件申立人の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1、2、5ないし8について、特許法第29条第1項第3号に該当するともいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないともいえず、また、本件特許に係る特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号または第2号に規定する要件を満たすものといえるから、特許法第113条第2号または第4号に該当するとはいえないから、本件発明1、2、5ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2、5ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項3及び4に係る特許は、本件訂正により、削除されたため、本件特許の請求項3及び4に対して、本件申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。そうすると、請求項3及び4についての特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8の規定により準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイブリッドタイヤコードにおいて、
ナイロン下撚り糸:及び
アラミド下撚り糸;を含み、
前記ナイロン下撚り糸と前記アラミド下撚り糸は共に上撚りされており、
所定長さの前記ハイブリッドタイヤコードにおいて、前記上撚りのアンツイスト後、前記アラミド下撚り糸の長さは前記ナイロン下撚り糸の長さの1.005倍?1.025倍であり、
前記アラミド下撚り糸の撚り数は前記ナイロン下撚り糸の撚り数より0.1%?5%少なく、
前記ハイブリッドタイヤコードは部分的にカバーリング構造を有したマージ構造を有し、
日本標準協会(Japanese Standard Association:JSA)のJIS?L 1017方法によって実施されるディスク疲労テスト後の強度維持率が90%以上である、
ハイブリッドタイヤコード。
【請求項2】
前記ナイロン下撚り糸は第1撚り方向を有し、
前記アラミド下撚り糸は第2撚り方向を有し、
前記ナイロン下撚り糸と前記アラミド下撚り糸は共に第3撚り方向に上撚りされており、
前記第2撚り方向は前記第1撚り方向と同一の方向で、
前記第3撚り方向は前記第1撚り方向の反対方向である、請求項1に記載のハイブリッドタイヤコード。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】
前記ナイロン下撚り糸と前記アラミド下撚り糸との重量比は20:80?80:20である、請求項1に記載のハイブリッドタイヤコード。
【請求項6】
前記ナイロン下撚り糸と前記アラミド下撚り糸上にコートされた接着剤をさらに含み、
ASTM D885によって測定された切断強度及び破断伸び率がそれぞれ8.0g/d?15.0g/d及び7%?15%である、
請求項1に記載のハイブリッドタイヤコード。
【請求項7】
ASTM D885によって測定された3%LASE、5%LASE、及び7%LASEがそれぞれ0.8g/d?2.0g/d、1.5g/d?4.0g/d、及び3.0g/d?6.0g/dである、請求項6に記載のハイブリッドタイヤコード。
【請求項8】
180℃で2分間、超荷重0.01g/denierで測定された乾熱収縮率が1.5%?2.5%である、請求項7に記載のハイブリッドタイヤコード。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-14 
出願番号 特願2016-127648(P2016-127648)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (D02G)
P 1 651・ 121- YAA (D02G)
P 1 651・ 113- YAA (D02G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 細井 龍史福井 弘子斎藤 克也  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 門前 浩一
西藤 直人
登録日 2017-03-03 
登録番号 特許第6099798号(P6099798)
権利者 コーロン インダストリーズ インク
発明の名称 ハイブリッドタイヤコード及びその製造方法  
代理人 鄭 元基  
代理人 相田 伸二  
代理人 相田 京子  
代理人 相田 京子  
代理人 相田 伸二  
代理人 鄭 元基  

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