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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12N 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C12N 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C12N 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12N 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C12N 審判 全部申し立て 特174条1項 C12N |
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管理番号 | 1341964 |
異議申立番号 | 異議2017-700829 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-01 |
確定日 | 2018-05-21 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6088562号発明「動物モデルおよび治療用分子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6088562号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔25〕について訂正することを認める。 特許第6088562号の請求項1ないし24、26ないし31に係る特許を維持する。 特許第6088562号の請求項25に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6088562号の請求項1?31に係る特許についての出願は、平成22年7月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年7月8日 英国、2009年7月8日 米国)を国際出願日とする特願2012-519063号の一部を平成27年2月6日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年9月1日に特許異議申立人 リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッドにより特許異議の申立てがされ、平成29年11月8日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年2月9日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成30年4月18日付けで意見書が提出されたものである。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 ア 訂正事項1 特許請求の範囲の請求項25を削除する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項 ア 訂正の目的について 訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲から請求項25を削除するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲から請求項25を削除するものである。 してみると、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲から請求項25を削除するものである。 したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 エ 特許出願の際に独立して特許を受けることができること 本件においては、訂正前の全ての請求項1?31について特許異議申立がされているので、訂正前の請求項25に係る訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。 オ 一群の請求項について 訂正前の請求項25について、訂正前の請求項25を引用する請求項はない。 したがって、訂正前の請求項25に対応する訂正後の請求項25は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であり、この訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔25〕について訂正を認める。 3 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?31に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?31」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?31に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 【請求項1】 げっ歯類細胞を生成するための方法であって、 (a)宿主げっ歯類定常領域の上流に、複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主げっ歯類哺乳動物カッパ定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主げっ歯類哺乳動物ラムダ定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域をそれぞれ、げっ歯類細胞のゲノム中に挿入するステップを含み、 1つまたは複数の挿入事象が、部位特異的組換えを活用し、 開始カセットがげっ歯類細胞のゲノム中に挿入されている部位において、挿入プロセスが開始し、開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い、 ヒトDNAの挿入を、げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間で行う、方法。 【請求項2】 キメラ抗体または重鎖もしくは軽鎖抗体鎖のレパートリーを生成することができるげっ歯類を生成するための方法であって、 (a)宿主げっ歯類定常領域の上流に、複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主げっ歯類哺乳動物カッパ定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主げっ歯類哺乳動物ラムダ定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域をそれぞれ、げっ歯類細胞のゲノム中に挿入するステップを含み、 挿入の結果、げっ歯類が、げっ歯類定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体または重鎖もしくは軽鎖抗体鎖のレパートリーを生成することができるようになり、ステップ(a)および(b)が、両方存在する場合は、いずれの順番でも実施することができ、 1つまたは複数の挿入事象が、部位特異的組換えを活用し、 開始カセットがげっ歯類細胞のゲノム中に挿入されている部位において、挿入プロセスが開始し、開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い、 ヒトDNAの挿入を、げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間で行う、方法。 【請求項3】 げっ歯類細胞を生成するための方法であって、 (a)宿主げっ歯類カッパ定常領域の上流に、複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主げっ歯類ラムダ定常領域の上流に、複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主げっ歯類定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIgH V領域、1つもしくは複数のヒトD領域および1つもしくは複数のヒトJ領域をそれぞれ、げっ歯類細胞のゲノム中に挿入するステップを含み、 1つまたは複数の挿入事象が、部位特異的組換えを活用し、 開始カセットがげっ歯類細胞のゲノム中に挿入されている部位において、挿入プロセスが開始し、開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い、 ヒトDNAの挿入を、げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間で行う、方法。 【請求項4】 キメラ抗体または重鎖もしくは軽鎖抗体鎖のレパートリーを生成することができるげっ歯類を生成するための方法であって、 (a)宿主げっ歯類カッパ定常領域の上流に、複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主げっ歯類ラムダ定常領域の上流に、複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主げっ歯類定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIgH V領域、1つもしくは複数のヒトD領域および1つもしくは複数のヒトJ領域をそれぞれ、げっ歯類細胞のゲノム中に挿入するステップを含み、 挿入の結果、げっ歯類が、げっ歯類定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体または重鎖もしくは軽鎖抗体鎖のレパートリーを生成することができるようになり、ステップ(a)および(b)が、両方存在する場合は、いずれの順番でも実施することができ、 1つまたは複数の挿入事象が、部位特異的組換えを活用し、 開始カセットがげっ歯類細胞のゲノム中に挿入されている部位において、挿入プロセスが開始し、開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い、 ヒトDNAの挿入を、げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間で行う、方法。 【請求項5】 部位特異的組換えが、RMCEである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 RMCEが、順次的RMCE(SRMCE)である、請求項5に記載の方法。 【請求項7】 i.開始カセットを形成するDNAを、細胞のゲノム中に挿入するステップと、 ii.第1のDNA断片を、挿入部位中に挿入するステップであって、第1のDNA断片が、ヒトVDJまたはVJ DNA領域の第1の部分、および第1の選択マーカーを含有するかまたは挿入時に選択マーカーを生成する第1のベクターの部分を含む、ステップと、 iii.場合により、ベクターのDNAの一部を除去するステップと、 iv.第2のDNA断片を、第1のDNA断片のベクターの部分中に挿入するステップであって、第2のDNA断片が、ヒトVDJまたはVJ DNAの第2の部分、および第2の選択マーカーを含有するかまたは挿入時に第2の選択マーカー生成する第2のベクターの部分を含む、ステップと、 v.任意のベクターのDNAを除去して、第1および第2のヒトDNA断片が近接した配列を形成することを可能にするステップと、 vi.必要に応じて、ヒトV(D)JのDNA部分の挿入およびベクターのDNAの除去のステップを反復して、宿主定常領域と協力して、キメラ抗体を生成することを可能にするのに十分な、ヒトのVDJ領域またはVJ領域の全部または一部を有する細胞を生成するステップ を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。 【請求項8】 3つの異種特異的かつ不和合性のloxP部位を使用する、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 部位特異的組換え部位が、loxP部位もしくはそれらの変異体、またはFRT部位もしくはそれらの変異体である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。 【請求項10】 部位特異的リコンビナーゼ系が、Cre-loxおよびFLP/FRTまたはそれらの組合せから選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。 【請求項11】 ヒトのVDJ遺伝子座またはVJ遺伝子座のうちのいくつかに由来するヒトDNAの領域であって、前記遺伝子座に由来しないDNAが隣接する、DNAの領域を含む挿入部を含むベクターを使用し、隣接DNAが、1つもしくは複数の選択マーカーまたは1つもしくは複数の部位特異的組換え部位を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。 【請求項12】 ベクターが、2つ以上の異種特異的かつ不和合性の部位特異的組換え部位を含む、請求項11に記載の方法。 【請求項13】 ベクターが、1つまたは複数のトランスポゾンITR(inverted terminal repeat)配列を含む、請求項11または12に記載の方法。 【請求項14】 ヒト重鎖DNAの挿入用に、開始カセットが、げっ歯類重鎖遺伝子座中に挿入されている、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。 【請求項15】 ヒト軽鎖VJ DNAの挿入用に、開始カセットが、げっ歯類軽鎖遺伝子座中に挿入されている、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。 【請求項16】 第1のヒト可変領域断片を、相同組換えにより、開始カセットの骨格配列に挿入し、次いで、ベクター中の任意のネガティブセレクションマーカーおよび開始カセットのDNAを、その後、リコンビナーゼ標的配列間の組換えによって除去する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。 【請求項17】 ヒト挿入部の5'末端の長さを増加させる、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。 【請求項18】 細胞がES細胞である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。 【請求項19】 1つまたは複数のげっ歯類制御配列を、げっ歯類のミュー定常領域の上流に、適切には、定常領域からの距離に関してその自然のままの位置に維持する、または、 1つまたは複数のげっ歯類制御配列を、げっ歯類のミュー定常領域の下流に、適切には、定常領域からの距離に関してその自然のままの位置に維持する、または、 げっ歯類スイッチ配列、適切には、内在性のスイッチ配列を、げっ歯類のミュー定常領域の上流に、適切には、定常領域からの距離に関してその自然のままの位置に維持する、 請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。 【請求項20】 ES細胞が、完全なヒトVDJもしくはVJ配列、またはその一部を含む、請求項19に記載の方法。 【請求項21】 請求項2または4に記載の方法によって生成されたげっ歯類を、望む抗原で免疫化するステップ、および抗体を回収するステップを含む、望む抗原に特異的な抗体を産生する方法。 【請求項22】 抗体または抗体産生細胞を回収し、その後、完全なヒト化抗体を産生するために、非-ヒト哺乳動物定常領域をヒト定常領域と置換するステップを含む、請求項21に記載の方法。 【請求項23】 請求項21または22に定義のキメラ抗体のキメラ抗体誘導体を産生するステップを更に含む、請求項21または22に記載の方法。 【請求項24】 請求項21または22に定義のキメラ抗体を、場合によっては、DNAレベルで操作して、定常領域が存在しない、重鎖もしくは軽鎖由来のヒト可変領域、または同じもしくは異なる種由来の重鎖もしくは軽鎖のいずれかに由来する任意の定常領域を有するヒト可変領域、または 非天然の定常領域を有するヒト可変領域、または 任意のその他の融合パートナーと一緒になったヒト可変領域から選択される抗体様の特性または構造を有する分子を産生する、請求項21に記載の方法。 【請求項25】(削除) 【請求項26】 請求項1から20のいずれか一項に記載の方法によって産生されるげっ歯類またはげっ歯類細胞。 【請求項27】 完全なヒトVDJまたはVJ配列またはその一部を含む、請求項26に記載のげっ歯類。 【請求項28】 完全なヒトVDJまたはVJ配列またはその一部を含む、請求項26または27に記載のげっ歯類から単離されたげっ歯類細胞。 【請求項29】 抗体を生成する細胞および細胞系を提供するための腫瘍細胞への融合、または直接的な細胞の不死化のいずれかにより不死化した抗体産生細胞である、請求項28に記載のげっ歯類細胞。 【請求項30】 げっ歯類またはげっ歯類細胞が、それぞれ、マウスまたはマウス細胞である、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。 【請求項31】 げっ歯類またはげっ歯類細胞が、それぞれ、マウスまたはマウス細胞である、請求項26から29のいずれか一項に記載のげっ歯類またはげっ歯類細胞。 4 取消理由通知に記載した取消理由について (1)取消理由の概要 訂正前の請求項1?31に係る特許に対して平成29年11月8日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 ア 請求項1?24、26?31に係る発明は、甲第1、2、20号証に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1?24、26?31に係る特許は、取り消されるべきものである。 イ 請求項25に係る特許は、甲第1号証に記載された発明に該当するから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基づき容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項25に係る特許は、取り消されるべきものである。 甲第1号証: 特表2004-524841号公報 甲第2号証: Biol.Chem, Vol.381, pp.801-813 (2000) 甲第20号証:Physiol. Genomics, Vol.34, pp.225-238 (2008) (2)引用文献 ア 甲第1号証の記載事項 甲第1号証(以下、「甲1」という。)に係る特表2004-524841号公報には、以下の事項が記載されている。 (甲1-1)特許請求の範囲 「【請求項1】 非ヒト真核生物細胞において、内因性免疫グロブリン可変領域遺伝子座をホモログヒト遺伝子座またはオルソログヒト遺伝子座と、全部または一部置換する方法であって、該方法は、以下: a)改変改変該ホモログヒト遺伝子座または該オルソログヒト遺伝子座を全部または一部含む、大きなクローン化されたゲノムフラグメントを得る工程; b)細菌相同組換えを使用して、(a)の該クローン化されたゲノムフラグメントを遺伝子改変し、真核生物細胞における使用のための大きな標的化ベクター(LTVEC)を作製する工程; c)(b)の該LTVECを該真核生物細胞に導入して、該内因性免疫グロブリン可変遺伝子座を、全部または一部置換する工程;ならびに d)(c)の該真核生物細胞において対立遺伝子の改変(MOA)を検出するために定量アッセイを使用して、該内因性免疫グロブリン可変領域遺伝子座が、該ホモログヒト遺伝子座または該オルソログヒト遺伝子座と、全部または一部置換された真核生物細胞を同定する、工程、 を包含する、方法。 【請求項2】 請求項1に記載の方法であって、該方法はさらに、以下: e)(a)の前記フラグメントと異なるホモログヒト遺伝子座またはオルソログヒト遺伝子座の一部を含む、大きなクローン化されたゲノムフラグメントを得る工程; f)細菌相同組換えを使用して、(e)の該クローン化されたゲノムフラグメントを遺伝子改変し、第2のLTVECを作製する工程; g)(f)の該第2のLTVECを工程(d)で同定された前記真核生物細胞に導入して、前記内因性免疫グロブリン可変遺伝子座を、全部または一部置換する工程;ならびに h)(g)の該真核生物細胞において対立遺伝子の改変(MOA)を検出するための定量アッセイを使用して、該内因性免疫グロブリン可変領域遺伝子座が、該ホモログヒト遺伝子座または該オルソログヒト遺伝子座と、全部または一部置換された真核生物細胞を同定する、工程、 を包含する、方法。 【請求項3】 請求項2に記載の方法であって、ここで、工程(e)?(h)は、前記内因性免疫グロブリン可変領域遺伝子座がホモログヒト遺伝子座またはオルソログヒト遺伝子座と全部置換されるまで、繰り返される、方法。 【請求項4】 請求項1に記載の方法であって、ここで、前記免疫グロブリン可変遺伝子座は、以下: a)κ軽鎖の可変遺伝子座; b)λ軽鎖の可変遺伝子座;および c)重鎖の可変遺伝子座、 からなる群より選択される座である、方法。 ・・・ 【請求項11】 内因性免疫グロブリン可変領域遺伝子座をホモログ遺伝子座またはオルソログ遺伝子座と、全部または一部置換する方法であって、該方法は、以下: a)部位特異的組換え部位、該可変遺伝子座内の下流相同性アーム、該可変遺伝子座内の上流相同性アームを含む、LTVECを作製する工程であって、 ここで、該下流相同性アームは、該免疫グロブリン可変遺伝子座領域のJセグメントにすぐ隣接する領域を含むが、該Jセグメントを含まない、工程; b)部位特異的組換え部位、該可変遺伝子座内の上流相同性アーム、該可変遺伝子座内の下流相同性アームを含む、LTVECを作製する工程であって、 ここで、該上流相同性アームは、該免疫グロブリン可変遺伝子座領域の最も遠位のV遺伝子セグメントに隣接する領域を含むが、いかなるV遺伝子セグメントも含まない、工程; c)(a)および(b)のLTVECを真核生物細胞に導入する工程; d)該可変遺伝子座中の対立遺伝子の改変(MOA)を検出するために定量アッセイを使用して、該部位特異的組換え部位が該内因性可変領域遺伝子座に隣接する工程(c)の真核生物細胞を同定する工程; e)該オルソログ遺伝子座または該ホモログ遺伝子座の全部または一部に隣接する部位特異的組換え配列を含むベクターを作製する工程;ならびに f)組換えを介して、該内因性免疫グロブリン可変領域遺伝子座が該ホモログ遺伝子座または該オルソログ遺伝子座と、全部または一部置換されるように、工程(d)において同定された真核生物細胞中に(e)のベクターを導入する工程、 を包含する、方法。 【請求項12】 前記真核生物細胞が胚幹細胞である、請求項11に記載の方法。 【請求項13】 請求項1、4、7、8、10、11、または12に記載の方法によって産生される、遺伝子改変された免疫グロブリン可変領域遺伝子座。 【請求項14】 請求項1、4、7、8、11、または12に記載の方法によって産生される遺伝子改変された免疫グロブリン可変領域遺伝子座を含む、遺伝子改変された真核生物細胞。 【請求項15】 請求項1、4、7、8、10、または11に記載の方法によって産生される遺伝子改変された免疫グロブリン可変領域遺伝子座を含む、非ヒト生物。 【請求項16】 請求項7、8、10、または12に記載の方法によって作製される遺伝子改変された免疫グロブリン可変領域遺伝子座を含む、マウス胚幹細胞。 【請求項17】 前記マウス重鎖可変領域座が、ヒト重鎖可変遺伝子座で全部または一部置換された、請求項16に記載の胚幹細胞。 【請求項18】 前記マウスκ軽鎖可変領域座が、ヒトκ軽鎖可変領域座で全部または一部置換された、請求項16に記載の胚幹細胞。 【請求項19】 前記マウスλ軽鎖可変領域座が、ヒトλ軽鎖可変領域座で全部または一部置換された、請求項16に記載の胚幹細胞。 【請求項20】 前記重鎖可変領域遺伝子座および前記軽鎖可変領域遺伝子座が、そのヒトホモログまたはヒトオルソログで全部置換された、請求項16に記載の胚幹細胞。 【請求項21】 請求項16に記載の胚幹細胞から作製される、マウス。 【請求項22】 請求項17に記載の胚幹細胞から作製される、マウス。 【請求項23】 請求項18に記載の胚幹細胞から作製される、マウス。 【請求項24】 請求項19に記載の胚幹細胞から作製される、マウス。 【請求項25】 請求項20に記載の胚幹細胞から作製される、マウス。 【請求項26】 請求項11に記載の遺伝子改変された改変遺伝子座によってコードされるヒト可変領域を含む、抗体。 【請求項27】 非ヒト定常領域をさらに含む、請求項26に記載の抗体。 【請求項28】 ヒト定常領域をさらに含む、請求項26に記載の抗体。 ・・・ 【請求項30】 トランスジェニックマウスであって、該マウスは、内因性マウス定常領域座に作動可能に連結されたヒト重鎖可変領域座および/またはヒト軽鎖可変領域座を含むゲノムを有し、その結果、該マウスは、抗原性刺激に応答してヒト可変領域およびマウス定常領域を含む抗体を含有する血清を産生する、トランスジェニックマウス。 【請求項31】 トランスジェニックマウスであって、該マウスは、ホモログヒト可変領域座またはオルソログヒト可変領域座で置換された内因性免疫グロブリン可変領域座を含み、該マウスは、以下: a)結合された場合に該ホモログヒト可変領域座または該オルソログヒト可変領域座に広がる、1つ以上の大きなクローン化されたゲノムフラグメントを得る工程; b)細菌相同組換えを使用して、(a)の該クローン化されたゲノムフラグメントを遺伝子改変し、マウス胚幹細胞における使用のための大きな標的化ベクターを作製する工程; c)(b)の該大きな標的化ベクターをマウス胚幹細胞に導入して、該細胞において該内因性可変領域座を置換する工程; d)(c)の該マウス胚幹細胞において対立遺伝子の改変(MOA)を検出するために定量PCRアッセイを使用して、該内因性可変領域座が、該ホモログヒト可変領域座または該オルソログヒト可変領域座と置換されたマウス胚幹細胞を同定する、工程、 e)(d)の該マウス胚幹細胞を胚盤胞に導入する工程;ならびに f)(e)の該胚盤胞を妊娠のために代理母に導入する工程、 を包含する、方法 によって作製される、トランスジェニックマウス。 ・・・ 【請求項36】 ヒト抗体を作製する方法であって、該方法は、以下: a)請求項26に記載のマウスを抗原性刺激に曝す工程であって、その結果、該マウスは該抗原に対する抗体を産生する、工程; b)該抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするDNAを単離する工程; c)活性な抗体を発現し得る細胞中で、(b)の該可変領域をコードするDNAをヒト重鎖定常領域およびヒト軽鎖定常領域をコードするDNAに作動可能に連結する工程; d)該細胞を、該ヒト抗体を発現するような条件下で増殖させる工程;ならびに e)抗体を回収する工程、 を包含する、方法。 【請求項37】 前記細胞がCHO細胞である、請求項36に記載の方法。 【請求項38】 工程(b)の前記DNAが、工程(a)中の抗原性刺激に曝された前記マウスの脾臓から作製されたハイブリドーマから単離される、請求項36に記載の方法。 ・・・」 (甲1-2)実施例3 「【0114】 (実施例3:キメラ抗体およびヒト抗体を産生するためのLTVECの使用) ・・・ 【0116】 非ヒト種における種々の抗原に対する抗体の産生は、ヒト治療剤として用いられ得る抗体の大規模産生についての大きな見込みを最初に提供した。 ・・・ 【0119】 (b.簡単な説明) ヒト可変領域(VDJ/VJ)およびマウス定常領域を含むハイブリッド抗体を産生する、トランスジェニックマウスが、作製される。これは、そのマウス可変領域(VDJ/VJ)遺伝子群をそれらのヒト対応物で直接インサイチュにて置換することによって、達成される。生じるハイブリッド免疫グロブリン座は、そのハイブリッド抗体を産生するように、B細胞発生の間に天然の再配列プロセスを受ける。 ・・・ 【0121】 ヒトV-D-J/V-J領域によるそのマウス座の等価な領域の直接置換が存在するので、適切な転写、組換え、および/またはクラススイッチに必要な配列のすべてが、インタクトなままである。例えば、そのマウス免疫グロブリン重鎖イントロンエンハンサー(Em)は、V-D-J組換えおよびB細胞発生の初期段階の間の重鎖遺伝子発現に重要であることが示されているが[Ronia,D.,Berru,M.およびShulman,M.,J.Mol.Cell Biol 19:7031?7040(1999)]、その免疫グロブリン重鎖3’エンハンサー領域は、クラススイッチ[Pan,Q.,Petit-Frere,C.,Stavnezer,J.およびHammarstrom,L.,Eur J Immunol 30:1019-1029(2000)]ならびにB細胞分化の後期段階での重鎖遺伝子発現のために重要であるようである[Ong,J.,Stevens,S.Roeder,R.G.,およびEckhardt,L.A.,J Immunol 160:4896-4903(1998)]。その転写制御エレメントのこれらの様々であるが重要な機能を考慮すると、これらの配列をインタクトなまま維持することが、望ましい。 ・・・ 【0127】 (C.材料および方法) マウス重鎖可変領域(VDJ)をヒト対応物で正確に置換することは、以下の例における相同組換えと部位特異的組換えの組み合わせを使用して例証され、この例は、2段階プロセスを使用する。当業者は、マウス座を、ヒトホモログ座またはオルソログヒト座で置換することが、1つ以上の工程で達成され得ることを、認識する。従って、本発明は、マウス座の全体または一部を、相同組換えを介して、各組み込みにより置換することを企図する。 ・・・ 【0129】 第1段階において、LTVEC1(図4D)を、E.coliにおける細菌相同組換えにより構築する。LTVEC1は、順番に、マウスDJ領域から上流にある領域に由来する大マウス相同性アーム(しかし、その絶対的端部は重要ではない);ES細胞において機能する選択マーカー(この例においてはPGK-ネオマイシンR)をコードするカセット;loxP部位;いくつかのV遺伝子セグメントからDJ領域全体にまで広がる、大ヒトインサート;およびマウスJセグメントとすぐ近接するがこのセグメントは含まない領域を含む、マウス相同性アーム;を含む。この下流アームの5’末端およびloxP部位の配置は、置換されるべき領域の3’末端を、この座中に規定する。マウスES細胞を、標準的技術(例えば、エレクトロポレーション)によって、線状化LTVEC1で形質転換する。LTVEC1の直接導入は、内因性可変遺伝子座の改変を生じるので、ネオマイシン耐性コロニーを、MOAアッセイを使用して正確な標的化についてスクリーニングし得る。これらの標的化ES細胞は、ハイブリッド重鎖を含む抗体を産生するマウスを生じ得る。しかし、このマウス可変セグメントの残りを排除するその後の段階を続行することが、好ましい。 【0130】 第2段階において、LTVEC2(図4C)を、E.coli中にて、細菌相同組換えによって構築する。LTVEC2は、順番に、最も遠位のマウスV遺伝子セグメントと近接するがいかなるマウスV遺伝子セグメントも含まない、領域を含む大マウス相同性アーム;多数の遠位ヒトV遺伝子セグメントを含む大インサート;(LTVEC2およびLTVEC1中の野生型loxP部位と反対の方向にある)lox511と呼ばれる変異体loxP部位[Hoess,R.H.,Wierzbicki,A.およびAbremski,K.,Nucleic Acids Res.14:2287-2300(1986)](この部位は、野生型loxP部位と組換わらないが、他のlox511部位と容易に組み換わる);野生型loxP部位;第2選択マーカー(この例においてはPGK-ピューロマイシンR)およびV領域に由来する、マウス相同性アーム(しかし、その絶対的端部は重要ではない);を含む。この上流相同性アームの3’末端およびloxP部位の配置は、置換されるべき領域の5’末端を、この座中に規定する。その後、LTVEC1で正確に標的化されたマウスES細胞を、標準的技術によって、線状化LTVEC2で形質転換し、そしてハイグロマイシン耐性コロニーを、内因性可変遺伝子座における改変について、MOAアッセイを使用して正確な標的化についてスクリーニングする。この形質転換から生じる正確に標的化されたES細胞を、本明細書中で、以後、「二重標的化ES細胞」と呼ぶ。 ・・・ 【0132】 LTVEC2中にlox511を含めると、ハイブリッド座中へのさらなるヒトV遺伝子セグメントの挿入が可能である。 ・・・ 【0140】 ヒトBACを、可変領域と隣接するlox511組換え部位および可変領域と隣接するloxP組換え部位を含むES細胞株中に、CREリコンビナーゼとともに同時形質転換する。重複するBACを使用する場合、それらのBACの間で相同組換えが生じて、より大きなDNAフラグメントが生じ、そして隣接するloxP部位およびlox511部位が、この大フラグメントを、マウス座中に標的化する。細胞を、ピューロマイシン耐性について選択し、そしてそのマウス可変領域の置換についてスクリーニングする。あるいは、このマウス配列を、まず、その2つのloxP部位を介して欠失させ得、その後、そのヒト配列を、残りのlox511部位およびloxP部位を介して導入し得る。 【0141】 LTVEC1が、第3の部位特異的組換え部位(例えば、lox2272(・・・)を、細菌耐性遺伝子/哺乳動物耐性遺伝子(例えば、ピューロマイシン耐性)のすぐ下流に含む場合、第4のBACを挿入し得、LTVECを作製し得る。このLTVECは、順番に、ピューロマイシン耐性遺伝子、loxP遺伝子、およびlox2272遺伝子、その後ろに、ヒト配列、を含む。このBACを、マウス免疫グロブリン座中に組み込んだ後、lox511部位/lox2272部位は、第2回目のカセット交換におけるレシピンエトとして役立ち得、この第2回目のカセット交換において、ピューロマイシン耐性遺伝子が、ヒト免疫グロブリン座可変領域のさらなる上流部分、およびlox511部位およびlox2272部位が隣接する異なる細菌耐性遺伝子/哺乳動物耐性遺伝子によって、置換される。 」(段落【0114】-【141】) (甲1-3)図4 イ 甲第2号証の記載事項 甲第2号証(以下、「甲2」という。)に係るBiol.Chem, Vol.381, pp.801-813 (2000)には、以下の事項が記載されている。 (甲2-1)Multiplex RMCE:Addressing at Willの項目(809-810頁) 「多重的RMCE(リコンビナーゼを介したカセット交換):希望通りに行う 部位における各セット(Fm-Fn)は、ターゲティング・ベクターが対応するゲノムタグに誘導され得る不十分な場所(address)を表わす。それゆえ、異なるゲノム上の遺伝子座において、FRT部位の異なるセットを置くことによって、全体的な染色体の再配置を導く、遺伝子座間組換えの危険に直面しないように、Flpは同じ細胞内で複数の遺伝子座で不十分なDNA組換えを触媒し得る。我々はまた、段階的な方法で、所定の染色体上の遺伝子座において完全なクロマチン・ドメインを、構成することができる状況を構想し得る。そのような状況は、DNAのドメインサイズの断片(平均で約70kb)をクローニングすることが、技術的な課題を引き起こす状況においては、好ましい。YAC、BAC及びPACベクターの出現で、新しい戦略がこの目的のために利用可能になって以来、ひとたび、その基本的な性質がin situ において確立されれば、調節性又は境界性の要素を、発現ユニットに加える実現性から、より魅力的な用途が発生する。このアプローチは、それゆえ、シス作用(acting)要素の機能を研究するための探索システムとして、又は転写特性を更に改善するための方法若しくはGOIをヘテロ・クロマチン化から保護するための方法として、役に立つ(Baer and Nehlsen, unpublished)。 図7に記載の例においては、レポーター/セレクター融合遺伝子を最初にアンカーし、トランスフェクションによってヒットされるか、又は相同組換えによって標的とされる、多くのゲノム部位の特性を試験することを示唆する。egfp/tk/neo三重融合において、eGFPレポーターを融合することで産生される緑色蛍光によってテストが可能となる。次に、我々は、例えば、足場/空間付着領域(S/MAR;scaffold/matrix attachment region)の形成において、最初のドメイン境界を導入するために提供する。この転換の限定要因が、トランスフェクション効率であるなら、そのバックボーンにおいて、Flp発現ベクター、及びtk-bfp(青色蛍光蛋白質)機能を実行し得るF5-F3交換カセットの共導入を行う。図2と同じように、青色蛍光の利点によってレシピエント細胞を選別し得る。魅力的な代替策は、一時的な遺伝子導入マーカーとしてピューロマイシン耐性遺伝子(pac)を適用したTaniguchiら(1998)によって最近提案された。代替策とは:ある細胞型が、一時的にpacを発現していない場合、24-48時間以内にピューロマイシンによって殺される。 egfp/tk/neor融合遺伝子の発現特性が、ドメイン境界の存在からくる利益であることが見出された場合、所望の遺伝子についてのレポーターの交換を望むであろう。その文脈においては、それはF3-GOIFwtカセットとしてターゲティング・ベクター上に存在させることによって、達成し得る。ガンシクロビル存在下におけるネガティブ選択は、RMCEを改善するため、及びオリジナル・カセットの残留若しくは何らかの交換ベクターの正しくないインテグレーションによっておこる、tk機能を有する何らかの成分が不注意によって存在することに対抗選択する(counterselect)ため、に適用し得る。望むのであれば、該ドメインは、RMCEの3番目のステップ等として、境界の導入によって、続いて締め出すことができる。」 (甲2-2)Fig.7 図7.多重的RMCE(リコンビナーゼを介したカセット交換) 部位における各セット(Fm-Fn)は、所定の染色体上の部位に、対応するターゲティング・ベクターを向かわせるために使用し得る固有のタグを表わす。ここで記載されている例においては、最初の境界(1)を導入し、所望の遺伝子の導入(2)や次の境界(3)の導入が続く、段階的な方法で、完全なクロマチン・ドメインが確立されている。ユー・クロマチン安定化要素を導入することによってか、又はin situ におけるラージ・ドメインの構築によって、発現の特徴を更に改善するための多くの方法において、このスキームは改変し得る。 (3)甲1に記載された発明 ア 非ヒト真核生物について (甲1-1)の請求項1に記載された「非ヒト真核生物」とは、請求項16-19、21-25、30、31、36、38および(甲1-2)の実施例に「マウス」が特定されているように、「マウス」に代表される「非ヒト真核生物」という意味である。 イ オルソログヒト遺伝子座について (甲1-1)の請求項1に記載された「オルソログヒト遺伝子座」とは、段落【0072】に『「オルソログ(orthologous)」配列は、別の種中のその配列の機能的等価物である種由来の配列をいう。』と記載されているように、「非ヒト真核生物」である「マウス」における内因性免疫グロブリン可変領域遺伝子座に対応する「ヒト」における免疫グロブリン可変領域遺伝子座を意味している。 ウ 可変領域遺伝子座について (甲1-1)の請求項1に記載された「可変領域遺伝子座」とは、請求項4に特定されているように、「κ軽鎖の可変遺伝子座、λ軽鎖の可変遺伝子座、重鎖の可変遺伝子座」を意味している。 エ まとめ (甲1-1)の記載および上記ア?ウによれば、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「マウス細胞において、内因性マウス免疫グロブリン可変領域遺伝子座(κ軽鎖の可変遺伝子座、λ軽鎖の可変遺伝子座、重鎖の可変遺伝子座)を対応するヒト由来の免疫グロブリン可変領域遺伝子座と置換する方法であって、該ヒト由来の免疫グロブリン可変領域遺伝子座を含む大きな標的化ベクターをマウス細胞に導入して、マウス可変領域遺伝子座の全部または一部と置換する方法。」 (4)対比・判断 ア 本件発明1について 本件発明1と甲1発明を以下に対比する。 本件発明1の「げっ歯類」には「マウス」が含まれ、「遺伝子座」はヒトおよびマウスにおいては「DNA」で構成されているので、以下の一致点と相違点が存在する。 (一致点) ヒト由来の免疫グロブリン可変領域遺伝子座を宿主げっ歯類ゲノム中の対応する遺伝子座に導入するステップを含む、げっ歯類細胞を生成するための方法。 (相違点) 本件発明1が「1つまたは複数の挿入事象が、部位特異的組換えを活用し、開始カセットがげっ歯類細胞のゲノム中に挿入されている部位において、挿入プロセスが開始し、開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い、ヒトDNAの挿入を、げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間で行う」ことで「宿主げっ歯類哺乳動物定常領域の上流に、複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域」を「げっ歯類細胞のゲノム中に挿入する」のに対して、 甲1発明では「ヒト由来の免疫グロブリン可変領域遺伝子座を含む大きな標的化ベクターを」げっ歯類細胞である「マウス細胞に導入して、マウス可変領域遺伝子座の全部または一部と置換する」ものである点 (相違点に対する判断) (甲1-1)の請求項11や(甲1-2)の段落【0129】【0130】に記載されているように、甲1発明において、ヒト由来の免疫グロブリン可変領域遺伝子座をマウスゲノム中に導入する方法は、「下流相同性アーム」と「上流相同性アーム」で挟まれる領域の「相同組換え」によるマウス遺伝子のヒト遺伝子による「置換」であることが理解できる。 そして、甲1発明の「置換」する領域について、(甲1-1)の請求項11には、「下流相同性アームは、該免疫グロブリン可変遺伝子座領域のJセグメントにすぐ隣接する領域を含むが、該Jセグメントを含まない」および「上流相同性アームは、該免疫グロブリン可変遺伝子座領域の最も遠位のV遺伝子セグメントに隣接する領域を含むが、いかなるV遺伝子セグメントも含まない」と記載されている。 一方、本件発明1は、「部位特異的組換えを活用し、」「げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間」の「開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い」、「宿主げっ歯類哺乳動物定常領域の上流に、複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域」を「げっ歯類細胞のゲノム中に挿入する」ものである。 そして、本件発明1は、このような導入方法を用いることによって、「げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間」に、その前後に存在するげっ歯類細胞の内在性の遺伝子に影響を与えることなく、長大なヒト由来の免疫グロブリン可変領域遺伝子座を導入可能としたものである。 してみると、甲1発明が「相同組換え」を用いてマウス遺伝子とヒト遺伝子の「置換」を行うのに対して、本件発明1は「部位特異的組換え」を用いてマウスゲノム中にヒト遺伝子を「挿入」する点で、甲1発明と本件発明1とはヒト遺伝子の導入方法において全く異なるものである。 異議申立人が主張するように、甲1発明では、(甲1-3)に記載されるように、基本的に「相同組換え」を用いてヒト由来のV領域、D領域、J領域をマウスゲノム中に導入しているものの、(甲1-1)の請求項2及び3並びに(甲1-2)の【0132】に記載されているように、ヒト由来のV領域、D領域、J領域は大きな遺伝子座であって、その「全て」をマウスゲノム中に導入するためには導入操作を繰り返す必要があることから、loxP部位等の「部位特異的組換え」への言及もあり、また(甲2-1)や(甲2-2)に摘記したように「多重的RMCE(リコンビナーゼを介したカセット交換)」技術も公知であったことは事実である。 しかしながら、いずれも一般的な遺伝子の導入方法として記載されているにすぎず、本件発明1の「げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間」の「開始カセット中」に「多重的RMCE(リコンビナーゼを介したカセット交換)」を適用することは記載されておらず、本件発明1の具体的な導入方法は、甲1や甲2に記載された発明に基づき当業者が容易に想到し得ることではない。 そして、本件発明1は、甲1発明に係る「下流相同性アーム」および十分に特定されていない「上流相同性アーム」で規定される「相同組換え」による「置換」に比べ、マウスゲノム中に存在する未特定の調節エレメントや必須遺伝子に悪影響を与えないという顕著な効果を奏している。 したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づき、または甲1に記載された発明および甲2に記載された発明に基づき、当業者であれば容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明2?24、26?31について 本件発明2?24、26?31はいずれも、本件発明1の「部位特異的組換えを活用し、」「げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間」の「開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い」、「宿主げっ歯類哺乳動物定常領域の上流に、複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域」を「げっ歯類細胞のゲノム中に挿入する」という発明特定事項を直接または引用により含むものであって、甲第20号証にも上記アに記載した本件発明1の特徴点は記載されていないことから、上記アに記載した理由と同様にして、本件発明2?24、26?31についても、甲第1、2、20号証に記載された発明に基づき、当業者であれば容易に発明をすることができたものではない。 (5)上記(1)イに記載した取消理由について 上記2に記載したように、訂正により請求項25は削除されたため、本件発明25に係る取消理由は解消した。 5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)新規性 特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明21?28は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないと主張している。 しかしながら、上記4(4)に記載したように、本件発明21?24、26?28は、「部位特異的組換えを活用し、」「げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間」の「開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い」、「宿主げっ歯類哺乳動物定常領域の上流に、複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域」を「げっ歯類細胞のゲノム中に挿入する」という方法を用いて生成された「げっ歯類」や「げっ歯類細胞」を発明特定事項とするものであって、甲1に記載された「下流相同性アーム」と「上流相同性アーム」で挟まれる領域の「相同組換え」によるマウス遺伝子をヒト遺伝子に「置換」するという方法を用いて生成された「げっ歯類」や「げっ歯類細胞」とは、ゲノムの構成において相違する。 特に、(甲1-1)の請求項11には、「上流相同性アームは、該免疫グロブリン可変遺伝子座領域の最も遠位のV遺伝子セグメントに隣接する領域を含むが、いかなるV遺伝子セグメントも含まない」と記載されており、内因性のマウスD領域とマウスJ領域が対応するヒト遺伝子で「置換」されて「げっ歯類」や「げっ歯類細胞」のゲノム中に存在していない点で明らかに相違する。 したがって、請求人の主張には理由がない。 なお、上記2に記載したように、訂正により請求項25は削除されたため、請求項25に係る申立理由には理由がない。 (2)進歩性 特許異議申立人は、特許異議申立書において、上記4で取り上げた進歩性に係る異議申立理由以外に、甲1と甲第2?22号証(以下、それぞれ「甲2?22」という。)を組み合わせた進歩性欠如および甲17と技術常識を組み合わせた進歩性欠如(特許法第29条第2項違反)を主張している。 しかしながら、甲2?22のいずれにも、上記4(4)に記載した、「部位特異的組換えを活用し、」「げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間」の「開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い」、「宿主げっ歯類哺乳動物定常領域の上流に、複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域」を「げっ歯類細胞のゲノム中に挿入する」という方法が記載も示唆もされておらず、甲2?22の記載に基づき、当業者が本件発明を容易に想到し得るものではない。 したがって、請求人の主張には理由がない。 (3)明確性 特許異議申立人は、特許異議申立書において、それぞれの請求項に記載された以下の記載事項が不明確であると主張しているが、以下の理由により、いずれも特許法第36条第6項第2号の要件を満たさないとはいえない。 ア 「開始カセット」(請求項1?4) 請求項1?4では、開始カセットがゲノムに挿入されていることが規定されているが、開始カセットを構成するためにどのような技術的特徴が必要であるのか、及びこれが天然ゲノムの他の標的化領域とどのように区別されるのかが不明確であり、開始カセットの特徴が、部位特異的組換え部位の存在を必要とするか否かも不明確であると主張している。 しかしながら、本件特許の図2および請求項1?4の「部位特異的組換えを活用し」という記載から、「開始カセット」の技術的特徴や「開始カセット」中に部位特異的組換え部位が存在することは明らかである。 イ 「第1のDNA断片」及び「第2のDNA断片」(請求項1?4) 「第1」及び「第2」のDNA断片への言及について、請求項1?4ではそのような断片に関して何ら特定されていないため不明確であると主張している。 しかしながら、請求項1?4の(a)および(b)においてDNA断片の挿入後のゲノムの構成が特定されており、請求項1?4に係る発明が不明確であるとは言えない。 ウ 「ヒトDNAの挿入」(請求項1?4) 請求項1?4の「ヒトDNAの挿入」について、挿入される特定の種類のヒトDNAが明確に規定されておらず、該挿入と該請求項に記載された他の(特に、該挿入との文言が記載された部分より前に記載の)特徴との間の関係が不明確であると主張している。 しかしながら、請求項1?4の(a)および(b)において「ヒトDNAの挿入」後のゲノムの構成が特定されており、請求項1?4に係る発明が不明確であるとは言えない。 エ 「ゲノム中に挿入するステップ」(請求項1?4) 請求項1?4では「ヒトDNAの挿入を、げっ歯類定常領域と最後の3’げっ歯類J領域との間に行う」ことを規定しており、VDJ/VJ領域、及び定常領域の両方を挿入プロセスにおいて挿入するのか、又はVDJ/VJ領域のみを挿入するのかが不明確であると主張している。 しかしながら、請求人が主張する「VDJ/VJ領域、及び定常領域の両方を挿入プロセスにおいて挿入する」ことは、本件特許明細書に記載されておらず不明確とはいえない。 なお、「開始カセット」については、上記アに記載した通りである。 オ 「げっ歯類重鎖(軽鎖)遺伝子座中」(請求項14及び15) 請求項14及び15では、開始カセットが、それぞれ、げっ歯類重鎖遺伝子座中、及びげっ歯類軽鎖遺伝子座中に挿入されることが特定されているが、上記特定によって具体的にどのような位置に開始カセットが挿入されるのかが不明確であると主張している。 しかしながら、請求項14及び15は、先行する請求項を引用する請求項であるから、「げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間」であることは明らかある。 カ 「挿入部位」(請求項7) 請求項7のiiに記載の「挿入部位」への挿入については、該請求項のii以前の部分及び該請求項が従属する請求項1?6において何ら特定されておらず、どのような部位を意味するのかが不明確と主張している。 しかしながら、請求項7は、先行する請求項を引用する請求項であるから、「挿入部位」が「げっ歯類定常領域と、最後の3'げっ歯類J領域との間」であることは明らかである。 キ 「重鎖DNA」(請求項14) 請求項14に記載のヒト「重鎖DNA」という文言と、該請求項が従属する請求項1?4に記載のVDJ及び/又は重鎖定常領域DNAという文言との関係が、当初明細書の記載を考慮しても不明確であると主張している。 しかしながら、「挿入用」の「重鎖DNA」であるから、請求項1?4に記載されたVDJ領域であることは明らかである。 ク 「ベクター」及び「骨格配列」(請求項16) 請求項16に記載の「ベクター」及び「骨格配列」について、該請求項中及び該請求項が従属する請求項1?15において何ら特定されておらず、どのような構成を有するものであるか等について不明確であり、開始カセットが、げっ歯類細胞ゲノム中にすでに存在しているため、請求項16の「ベクター」への言及、及びベクター中の任意のネガティブセレクションマーカー及び開始カセットのDNAを除去する段階が不明確であると主張している。 しかしながら、本件特許明細書の【0122】?【0125】の記載および技術常識から当業者であれば「ベクター」及び「骨格配列」について理解可能である。また、【0190】には開始カセットが相同組換えにより挿入されることが記載されており、請求項1?4に特定がなくとも不明確とはいえない。 ケ 「ヒト挿入部」(請求項17) 請求項17に記載の「ヒト挿入部」について、該請求項中及び該請求項が従属する請求項1?16において特定されておらず、その意味が不明確であると主張している。 しかしながら、「ヒト挿入部」は請求項1?4のヒト由来のDNAであることが明らかである。 コ 「変異体」及び「誘導体」(請求項9および23) 請求項9に記載の「変異体」については、当初明細書の段落【0110】に、請求項23に記載の「誘導体」については、当初明細書の段落【0143】、【0146】等に記載されているものの、それらの構造的又は機能的特徴等について何ら定義されておらす、該「変異体」及び「誘導体」に含まれる具体的なものが不明確であると主張している。 しかしながら、loxP部位やFRT部位の「変異体」並びにキメラ抗体の「誘導体」は技術常識から当業者に理解できないとはいえない。 (4)新規事項 ア 「宿主げっ歯類定常領域」(請求項1?4) 当初明細書には、本件発明は、天然の内因性定常領域の上流の内因性免疫グロブリン遺伝子座における挿入のための位置を規定する特徴が必要であることが記載されているが、請求項1?4においては、ゲノム内の異なる位置に異なる種類の定常領域を包含する、任意の宿主げっ歯類定常領域の上流へのヒトVDJ領域の挿入が規定されており、そのため重鎖定常領域である必要はなく、ましてや内因性重鎖定常領域ではないから、請求項1?4には、内因性免疫グロブリン座に挿入することに限定されないより広い範囲が記載されており、請求項1?4は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものではなく、新規事項の追加に該当する(特許法第17条の2第3項違反)、と請求人は主張している。 しかしながら、請求項1?4および本件特許明細書の記載を参酌すると、請求人の指摘するような「内因性免疫グロブリン座に挿入することに限定されないより広い範囲」が記載されているとは解釈できないので、請求人の主張には理由がない。 6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1?24及び26?31に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に1?24及び26?31に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 訂正により請求項25は削除されたので、請求項25に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 げっ歯類細胞を生成するための方法であって、 (a)宿主げっ歯類定常領域の上流に、複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主げっ歯類哺乳動物カッパ定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主げっ歯類哺乳動物ラムダ定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域 をそれぞれ、げっ歯類細胞のゲノム中に挿入するステップを含み、 1つまたは複数の挿入事象が、部位特異的組換えを活用し、 開始カセットがげっ歯類細胞のゲノム中に挿入されている部位において、挿入プロセスが開始し、開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い、 ヒトDNAの挿入を、げっ歯類定常領域と、最後の3’げっ歯類J領域との間で行う、方法。 【請求項2】 キメラ抗体または重鎖もしくは軽鎖抗体鎖のレパートリーを生成することができるげっ歯類を生成するための方法であって、 (a)宿主げっ歯類定常領域の上流に、複数のヒトIgH V領域、1つまたは複数のヒトD領域、および1つまたは複数のヒトJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主げっ歯類哺乳動物カッパ定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主げっ歯類哺乳動物ラムダ定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域 をそれぞれ、げっ歯類細胞のゲノム中に挿入するステップを含み、 挿入の結果、げっ歯類が、げっ歯類定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体または重鎖もしくは軽鎖抗体鎖のレパートリーを生成することができるようになり、ステップ(a)および(b)が、両方存在する場合は、いずれの順番でも実施することができ、 1つまたは複数の挿入事象が、部位特異的組換えを活用し、 開始カセットがげっ歯類細胞のゲノム中に挿入されている部位において、挿入プロセスが開始し、開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い、 ヒトDNAの挿入を、げっ歯類定常領域と、最後の3’げっ歯類J領域との間で行う、方法。 【請求項3】 げっ歯類細胞を生成するための方法であって、 (a)宿主げっ歯類カッパ定常領域の上流に、複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主げっ歯類ラムダ定常領域の上流に、複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主げっ歯類定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIgH V領域、1つもしくは複数のヒトD領域および1つもしくは複数のヒトJ領域 をそれぞれ、げっ歯類細胞のゲノム中に挿入するステップを含み、 1つまたは複数の挿入事象が、部位特異的組換えを活用し、 開始カセットがげっ歯類細胞のゲノム中に挿入されている部位において、挿入プロセスが開始し、開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い、 ヒトDNAの挿入を、げっ歯類定常領域と、最後の3’げっ歯類J領域との間で行う、方法。 【請求項4】 キメラ抗体または重鎖もしくは軽鎖抗体鎖のレパートリーを生成することができるげっ歯類を生成するための方法であって、 (a)宿主げっ歯類カッパ定常領域の上流に、複数のヒトIg軽鎖カッパV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖カッパJ領域、ならびに/または宿主げっ歯類ラムダ定常領域の上流に、複数のヒトIg軽鎖ラムダV領域および1つもしくは複数のヒトIg軽鎖ラムダJ領域、さらに、 (b)場合により、宿主げっ歯類定常領域の上流に、1つもしくは複数のヒトIgH V領域、1つもしくは複数のヒトD領域および1つもしくは複数のヒトJ領域 をそれぞれ、げっ歯類細胞のゲノム中に挿入するステップを含み、 挿入の結果、げっ歯類が、げっ歯類定常領域およびヒト可変領域を有するキメラ抗体または重鎖もしくは軽鎖抗体鎖のレパートリーを生成することができるようになり、ステップ(a)および(b)が、両方存在する場合は、いずれの順番でも実施することができ、 1つまたは複数の挿入事象が、部位特異的組換えを活用し、 開始カセットがげっ歯類細胞のゲノム中に挿入されている部位において、挿入プロセスが開始し、開始カセット中への第1のDNA断片の挿入に続き、第1のDNA断片の一部への第2のDNA断片の挿入を行い、 ヒトDNAの挿入を、げっ歯類定常領域と、最後の3’げっ歯類J領域との間で行う、方法。 【請求項5】 部位特異的組換えが、RMCEである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項6】 RMCEが、順次的RMCE(SRMCE)である、請求項5に記載の方法。 【請求項7】 i.開始カセットを形成するDNAを、細胞のゲノム中に挿入するステップと、 ii.第1のDNA断片を、挿入部位中に挿入するステップであって、第1のDNA断片が、ヒトVDJまたはVJ DNA領域の第1の部分、および第1の選択マーカーを含有するかまたは挿入時に選択マーカーを生成する第1のベクターの部分を含む、ステップと、 iii.場合により、ベクターのDNAの一部を除去するステップと、 iv.第2のDNA断片を、第1のDNA断片のベクターの部分中に挿入するステップであって、第2のDNA断片が、ヒトVDJまたはVJ DNAの第2の部分、および第2の選択マーカーを含有するかまたは挿入時に第2の選択マーカー生成する第2のベクターの部分を含む、ステップと、 v.任意のベクターのDNAを除去して、第1および第2のヒトDNA断片が近接した配列を形成することを可能にするステップと、 vi.必要に応じて、ヒトV(D)JのDNA部分の挿入およびベクターのDNAの除去のステップを反復して、宿主定常領域と協力して、キメラ抗体を生成することを可能にするのに十分な、ヒトのVDJ領域またはVJ領域の全部または一部を有する細胞を生成するステップ を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。 【請求項8】 3つの異種特異的かつ不和合性のloxP部位を使用する、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 部位特異的組換え部位が、loxP部位もしくはそれらの変異体、またはFRT部位もしくはそれらの変異体である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。 【請求項10】 部位特異的リコンビナーゼ系が、Cre-loxおよびFLP/FRTまたはそれらの組合せから選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。 【請求項11】 ヒトのVDJ遺伝子座またはVJ遺伝子座のうちのいくつかに由来するヒトDNAの領域であって、前記遺伝子座に由来しないDNAが隣接する、DNAの領域を含む挿入部を含むベクターを使用し、隣接DNAが、1つもしくは複数の選択マーカーまたは1つもしくは複数の部位特異的組換え部位を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。 【請求項12】 ベクターが、2つ以上の異種特異的かつ不和合性の部位特異的組換え部位を含む、請求項11に記載の方法。 【請求項13】 ベクターが、1つまたは複数のトランスポゾンITR(inverted terminal repeat)配列を含む、請求項11または12に記載の方法。 【請求項14】 ヒト重鎖DNAの挿入用に、開始カセットが、げっ歯類重鎖遺伝子座中に挿入されている、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。 【請求項15】 ヒト軽鎖VJ DNAの挿入用に、開始カセットが、げっ歯類軽鎖遺伝子座中に挿入されている、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。 【請求項16】 第1のヒト可変領域断片を、相同組換えにより、開始カセットの骨格配列に挿入し、次いで、ベクター中の任意のネガティブセレクションマーカーおよび開始カセットのDNAを、その後、リコンビナーゼ標的配列間の組換えによって除去する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。 【請求項17】 ヒト挿入部の5’末端の長さを増加させる、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。 【請求項18】 細胞がES細胞である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。 【請求項19】 1つまたは複数のげっ歯類制御配列を、げっ歯類のミュー定常領域の上流に、適切には、定常領域からの距離に関してその自然のままの位置に維持する、または、 1つまたは複数のげっ歯類制御配列を、げっ歯類のミュー定常領域の下流に、適切には、定常領域からの距離に関してその自然のままの位置に維持する、または、 げっ歯類スイッチ配列、適切には、内在性のスイッチ配列を、げっ歯類のミュー定常領域の上流に、適切には、定常領域からの距離に関してその自然のままの位置に維持する、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。 【請求項20】 ES細胞が、完全なヒトVDJもしくはVJ配列、またはその一部を含む、請求項19に記載の方法。 【請求項21】 請求項2または4に記載の方法によって生成されたげっ歯類を、望む抗原で免疫化するステップ、および抗体を回収するステップを含む、望む抗原に特異的な抗体を産生する方法。 【請求項22】 抗体または抗体産生細胞を回収し、その後、完全なヒト化抗体を産生するために、非-ヒト哺乳動物定常領域をヒト定常領域と置換するステップを含む、請求項21に記載の方法。 【請求項23】 請求項21または22に定義のキメラ抗体のキメラ抗体誘導体を産生するステップを更に含む、請求項21または22に記載の方法。 【請求項24】 請求項21または22に定義のキメラ抗体を、場合によっては、DNAレベルで操作して、 定常領域が存在しない、重鎖もしくは軽鎖由来のヒト可変領域、または 同じもしくは異なる種由来の重鎖もしくは軽鎖のいずれかに由来する任意の定常領域を有するヒト可変領域、または 非天然の定常領域を有するヒト可変領域、または 任意のその他の融合パートナーと一緒になったヒト可変領域 から選択される抗体様の特性または構造を有する分子を産生する、請求項21に記載の方法。 【請求項25】(削除) 【請求項26】 請求項1から20のいずれか一項に記載の方法によって産生されるげっ歯類またはげっ歯類細胞。 【請求項27】 完全なヒトVDJまたはVJ配列またはその一部を含む、請求項26に記載のげっ歯類。 【請求項28】 完全なヒトVDJまたはVJ配列またはその一部を含む、請求項26または27に記載のげっ歯類から単離されたげっ歯類細胞。 【請求項29】 抗体を生成する細胞および細胞系を提供するための腫瘍細胞への融合、または直接的な細胞の不死化のいずれかにより不死化した抗体産生細胞である、請求項28に記載のげっ歯類細胞。 【請求項30】 げっ歯類またはげっ歯類細胞が、それぞれ、マウスまたはマウス細胞である、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。 【請求項31】 げっ歯類またはげっ歯類細胞が、それぞれ、マウスまたはマウス細胞である、請求項26から29のいずれか一項に記載のげっ歯類またはげっ歯類細胞。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-05-09 |
出願番号 | 特願2015-22430(P2015-22430) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C12N)
P 1 651・ 121- YAA (C12N) P 1 651・ 851- YAA (C12N) P 1 651・ 536- YAA (C12N) P 1 651・ 537- YAA (C12N) P 1 651・ 55- YAA (C12N) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 荒木 英則 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
山中 隆幸 長井 啓子 |
登録日 | 2017-02-10 |
登録番号 | 特許第6088562号(P6088562) |
権利者 | カイマブ・リミテッド |
発明の名称 | 動物モデルおよび治療用分子 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 鎌田 光宜 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 高島 一 |
代理人 | 増本 要子 |
代理人 | 伊藤 洋介 |
代理人 | 増本 要子 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 渡部 崇 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 渡部 崇 |
代理人 | 村山 靖彦 |