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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C12G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C12G 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C12G |
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管理番号 | 1341969 |
異議申立番号 | 異議2017-700775 |
総通号数 | 224 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-08-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-08-09 |
確定日 | 2018-05-25 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6100729号発明「酒らしい味わいが付与された又は増強された飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6100729号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1-6〕、〔7-12〕について訂正することを認める。 特許第6100729号の請求項1?12に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6100729号の請求項1?12に係る特許についての出願は、平成26年4月18日に特許出願され、平成29年3月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年8月9日に特許異議申立人小野雅弘により特許異議の申立てがされ、平成29年11月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年2月16日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人小野雅弘から平成30年3月22日付けで意見書が提出されたものである。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 平成30年2月16日付けの訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正」という。)の内容は、特許請求の範囲の記載を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであって、具体的な訂正事項は次のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。 (訂正事項1) 特許請求の範囲の請求項1に「ネオテームを含有する飲料は除く」と記載されているのを、「ネオテームを含有する飲料と、ぶどう果汁及びワインエキスを含有する飲料は除く」に訂正する。 (訂正事項2) 特許請求の範囲の請求項7に「飲料の酒らしい味わいを増強または飲料に酒らしい味わいを付与する方法。」と記載されているのを、「飲料の酒らしい味わいを増強または飲料に酒らしい味わいを付与する方法(但し、当該飲料がぶどう果汁及びワインエキスを含有する場合は除く)。」に訂正する。 2 訂正の目的、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否等 上記訂正事項1は、飲料について「ネオテームを含有する飲料は除く」とされていたものを、「ネオテームを含有する飲料と、ぶどう果汁及びワインエキスを含有する飲料は除く」と、さらに限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 上記訂正事項2は、「飲料の酒らしい味わいを増強または飲料に酒らしい味わいを付与する方法」における「飲料」について、「(但し、当該飲料がぶどう果汁及びワインエキスを含有する場合は除く)。」と、さらに限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 そうすると、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 また、上記訂正事項1は、一群の請求項1?6について、上記訂正事項2は、一群の請求項7?12について、それぞれ請求するものであるから、特許法第120条の5第4項の規定についても適合するものである。 3 むすび したがって、上記訂正請求による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第4項の規定に適合し、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕、〔7-12〕について、訂正することを認める。 第3 当審の判断 1 特許第6100729号の請求項1?12に係る発明 特許第6100729号(以下「本件特許」という。)の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ「特許発明1?12」といい、それらを総合して「特許発明」という。)は、それぞれ、上記訂正請求により訂正された訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 アセスルファムカリウムとスクラロースとを含有する、酒らしい味わいが増強または付与された飲料であって、 アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が11?19であり、 アセスルファムカリウムの濃度が25mg/L以上650mg/L以下であり、 アルコール度数が3容量%未満であり、 炭酸ガスを含有する、前記飲料(但し、ネオテームを含有する飲料と、ぶどう果汁及びワインエキスを含有する飲料は除く)。 【請求項2】 アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が、11?14である、請求項1に記載の飲料。 【請求項3】 アセスルファムカリウムの濃度が、325mg/L以下である、請求項1又は2に記載の飲料。 【請求項4】 アルコール度数が1容量%未満である、請求項1?3のいずれか1項に記載の飲料。 【請求項5】 アルコール度数が0.01容量%未満である、請求項4に記載の飲料。 【請求項6】 pHが2.5以上4以下である、請求項1?5のいずれか1項に記載の飲料。 【請求項7】 アルコール度数が3容量%未満、アセスルファムカリウムの濃度が25mg/L以上650mg/L以下、及びアセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が11?19となるように、飲料のアルコール度数と、アセスルファムカリウムの濃度と、アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)とを調整すること、及び炭酸ガスを含有させることを含む、飲料の酒らしい味わいを増強または飲料に酒らしい味わいを付与する方法(但し、当該飲料がぶどう果汁及びワインエキスを含有する場合は除く)。 【請求項8】 飲料におけるアセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が、11?14である、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 飲料におけるアセスルファムカリウムの濃度が、325mg/L以下である、請求項7又は8に記載の方法。 【請求項10】 飲料におけるアルコール度数が1容量%未満である、請求項7?9のいずれか1項に記載の方法。 【請求項11】 飲料におけるアルコール度数が0.01容量%未満である、請求項10に記載の方法。 【請求項12】 飲料におけるpHが2.5以上4以下である、請求項7?11のいずれか1項に記載の方法。」 2 取消理由の概要 訂正前の請求項1?12に係る特許に対して平成29年11月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1) 特許発明1?12は、甲第1号証に基づき、本件特許の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であって、特許法29条1項2号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (2) 特許発明1?12は、甲第1号証に基づき、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 (3) 特許発明1?12は、特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた下記の発明、又は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 ア 甲第1号証を主引用例として 特許発明1?5:甲第1号証に示される公然実施をされた発明、又は、同号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項 特許発明6:甲第1号証に示される公然実施をされた発明、又は、同号証に記載された発明及び甲第2?4、6、7号証に記載された事項 特許発明7?11:甲第1号証に示される公然実施をされた発明、又は、同号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された事項 特許発明12:甲第1号証に示される公然実施をされた発明、又は、同号証に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された事項 イ 甲第5号証を主引用例として 特許発明1?11:甲第5号証に記載された発明及び甲第3、4号証に記載された事項 特許発明12: 甲第5号証に記載された発明及び甲第1?4、6?7号証に記載された事項 ウ 甲第8号証を主引用例として 特許発明1?12:甲第8号証に記載された発明及び甲第9、10号証に記載された事項 なお、上記取消理由は本件特許異議の申立てにおいて申立てられたすべての申立理由を含んでいる。 3 特許異議申立に係る各甲号証及び記載事項等 (1) 特許異議申立書の各甲号証 甲第1号証:”Non-Alcoholic Rose Wine Drink SUNTORY のんある気分 ワインテイスト すっきりロゼ”、記録番号:1913187、第1?4ページ、2012年10月、MINTEL、インターネット<http://www.gnpd.com> 甲第2号証:”ミンテルについて”、第1、2ページ、[2017年4月28日検索]、ミンテルGNPD(世界新商品情報データベース)、インターネット<http://japan.mintel.com/sekai-shinseihin-jouhou> 甲第3号証:”アルコール分は不検出、合成甘味料は基準値内?ノンアルコール飲料の品質”、きらめっく、北海道立消費生活センター、2014年1月1日、第83号、表紙、第6?7ページ 甲第4号証:”「のんある気分<すっきりロゼ>」新発売-カクテルテイスト、チューハイテイストに続き、ワインテイストが定番ラインナップに登場-”、2012年8月7日、サントリーニュースリリース、インターネット<http://www.suntory.co.jp/news/2012/11522.html> 甲第5号証:特開2007-117063号公報 甲第6号証:社団法人日本缶詰協会、”缶びん詰・レトルト食品事典”、株式会社朝倉書店、1984年2月10日、p.353?359、奥付 甲第7号証:岡崎邦夫ら、”果実飲料および炭酸飲料中の糖組成の分析”、日本食品工業学会誌、第29巻第9号、1982年9月、p.547?552 甲第8号証:特開2011-135837号公報 甲第9号証:特開2010-279349号公報 甲第10号証:特開2013-153685号公報 (2) 各甲号証の記載事項等 ア 甲第1号証には、「SUNTORY のんある気分 ワインテイスト すっきりロゼ」と付された缶入り飲料の写真と共に、次の事項が掲載されている。 ・「Non-Alcoholic Rose Wine Drink」 ・「掲載時期: 2012年10月 情報源: 購入者」 ・「アルコール含有量(%): 0.00」 ・「成分(標準形式): ぶどう果汁、ワインエキス(エキス、ノンアルコール)、デキストリン、acidifier、フレーバー、sweetener(アセスルファムK、スクラロース)、植物性色素(植物性)、Caramel Colour(着色料)」 以上のことを総合すると、甲第1号証には、次の「甲1発明」が掲載されていると認められる。 「成分(標準形式)として、ぶどう果汁、ワインエキス(エキス、ノンアルコール)、デキストリン、acidifier、フレーバー、sweetener(アセスルファムK、スクラロース)、植物性色素(植物性)、Caramel Colour(着色料)を含有し、アルコール含有量(%)が0.00である、飲料。」 イ 甲第3号証には、次の事項が記載されている。 ・「●テスト品一覧と結果」の表中、No.、商品名、製造者・販売者・輸入者、内容量、アルコール分(%)、糖類(g/100ml)、合成甘味料(g/kg)として、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、スクラロース、熱量の目安(Kcal/100ml)及び価格(円/1缶)の各項目について、それぞれ、20、サントリー のんある気分 ワインテイストすっきりロゼ、サントリー酒類(株)、350ml、ND、0.22、0.26、ND、0.02、0.9及び105の事項。 以上の甲第1号証に掲載された事項及び甲第3号証に記載された事項を総合すると、次の「公然実施発明」が認められる。 (公然実施発明) 「成分(標準形式)として、ぶどう果汁、ワインエキス(エキス、ノンアルコール)、デキストリン、acidifier、フレーバー、sweetener(アセスルファムK0.26g/kg、スクラロース0.02g/kg)、植物性色素(植物性)、Caramel Colour(着色料)を含有し、アルコール含有量(%)が0.00である、サントリー のんある気分 ワインテイストすっきりロゼ350ml缶入り飲料。」 ウ 甲第5号証には、次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 リン酸又はその塩と、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、酒石酸、こはく酸、乳酸、グルコン酸、フマル酸、酢酸及びこれらの塩からなる群から選択される1以上とを、酸味料として配合したアルコール飲料であって、酸味料の5?55 w/w%がリン酸であることを特徴とする、アルコール飲料。」 ・「【0002】 従来より、ビール、日本酒、果実酒、蒸留酒、浸漬酒等の酒類や醸造アルコール等のアルコール原料に、リキュール類やカクテル類のように、果実、果汁、糖類、酸味料、苦味料、塩類等の様々な副原料や添加物を加えた、いわゆるチューハイのようなアルコール飲料がある。これらは、その副原料や添加物等により、新たな香味や風味、機能性等が付与されることによって多くの消費者に受け入れられ、市場の拡大が図られている。」 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 これらのアルコール飲料の後味の悪さを改善し、香味が良好で、爽快なスッキリ感を有するアルコール飲料を提供することを本発明の目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者は、さまざまな添加剤の検討を行った結果、リン酸又はその塩を5?55 w/w%含有する酸味料を配合することで、爽快なスッキリ感を有するアルコール飲料が得られることを見出し、本発明を完成させた。」 「【0011】 以下、本発明を具体的に詳述する。本明細書中において、アルコール飲料とは、アルコールを含有する飲料をいう。アルコールの含有量は、0.1?12 v/v%、好ましくは0.5?10 v/v%、最も好ましくは1?8 v/v%である。本発明のアルコール飲料に用いるアルコール原料は、特に限定されず、醸造アルコール、スピリッツ類(ウォッカ、ジン、ラム、等)、リキュール類、ウイスキー、ブランデー、焼酎(甲類、乙類、甲乙混和)等、更には清酒、果実酒、ビール等の醸造酒でも良い。これらを単独で又は複数を組み合わせていても良い。本発明のアルコール飲料は、糖類、果汁類等を含むものであり得る。」 ・「【0036】 実施例2 果汁と高甘味度甘味料を用いて果汁・高甘味度甘味料含有アルコール飲料を調製した。表5に示す配合により、アルコール、水、果汁、高甘味度甘味料、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、クエン酸三ナトリウム、フレーバーを加えて得た調合液を、実施例1と同様に処理してアルコール飲料(実施例2)を調製した。対照として、リン酸の代わりにクエン酸を配合したもの(比較例2-1)、リン酸の代わりにリンゴ酸を配合したもの(比較例2-2)を、酸度が一致するように調製した。 【0037】 【表5】 【0038】 得られたそれぞれの果汁・高甘味度甘味料含有アルコール飲料について専門のパネラー10名により官能評価試験を行った。 結果を表6に示す。実施例2は、比較例2-1、比較例2-2に比べて、香味のメリハリがあり、高甘味度甘味料特有の後味が残らず、後味のキレがより強く感じられるアルコール飲料であった。 【0039】 【表6】 」 以上のことを総合し、実施例2の飲料に着目すると、甲第5号証には、次の「甲5発明」が記載されていると認められる。 「1000.00ml中に、スピリッツ72.90ml、ライチ果汁0.60g、ローズヒップ果汁2.90g、アセスルファムカリウム0.30g、スクラロース0.02g、リン酸0.27g、クエン酸2.10g、リンゴ酸0.70g、クエン酸三ナトリウム0.70g、香料1.20g、残余を水とし、炭酸ガス適量を含有し、アルコール度数が4.3v/v%である、飲料。」 エ 甲第8号証には、次の事項が記載されている。 ・「【請求項1】 高甘味度甘味料と、柑橘類果汁と、マルチトールとを含む、アルコール飲料であって、 (A)糖アルコールを除く単糖類及び二糖類の総含有量が0.5w/w%未満; (B)アルコール度数が1?10v/v%;及び (C)マルチトールの含有量が0.009?0.72w/v%; である、前記アルコール飲料。」 ・「【請求項3】 柑橘類果汁の総含有量が、果汁率換算で0.1?10w/v%である、請求項1に記載のアルコール飲料。」 ・「【0007】 「糖類ゼロ」を表示する飲料が(以下、「糖類ゼロタイプ」とも呼ぶ)アルコール飲料である場合には、上記した問題に加え、アルコール自体の苦味・刺激感の問題がある。このため、糖類ゼロタイプのアルコール飲料では、アルコールを含まない飲料以上に、苦味の低減が大きな問題となる。 【0008】 この点、糖類や果汁は、甘味やアミノ酸等の成分によって飲料に厚み・ボディ感を付与し、苦味を軽減する効果を有し、有益であると考えられる。しかしながら、糖類の配合量が制限される糖類ゼロタイプのアルコール飲料では、糖類の添加によるそれらの効果はあまり期待できない。このことは、果汁についても同様である。なぜなら、果汁にも糖類が含まれているため、糖類ゼロタイプのアルコール飲料においては果汁の配合量にも制約があるからである。したがって、糖類ゼロタイプのアルコール飲料は、厚み・ボディ感や味わいが不足しがちであるだけでなく、アルコールと高甘味度甘味料による苦味が目立ちやすいという課題がある。 【0009】 これに加えて、飲料が容器詰めの製品である場合には、製造後商品として市場に出回ってから消費者が飲用するまで一定の期間が経過するため、製造直後だけでなく、消費者が飲用するまでの間の香味の劣化も問題となる。 【0010】 例えば、アルコール飲料は、レモンやグレープフルーツのような柑橘類果実の風味のものの人気が高いが、柑橘類果実の果汁は、アルコール飲料に配合された場合、酸素や熱などによって劣化し、厚み・ボディ感が減少する傾向があるため、苦味のマスキング効果も低減する。結果として、速やかに品質が悪化すると考えられる。特に、糖類ゼロタイプのアルコール飲料においては、この問題はより深刻となる。なぜなら、アルコール飲料に厚みやボディ感を付与し、苦味を軽減することのできる糖類の含有量が少ないからである。 【0011】 従って、柑橘類果汁を含む糖類ゼロタイプのアルコール飲料については、上記のような課題を解決する必要性がある。 【課題を解決するための手段】 【0012】 本発明者らは、上記のような課題に鑑み鋭意研究した結果、糖アルコールの一種であるマルチトールを特定量配合することにより、柑橘類果汁を含む糖類ゼロタイプのアルコール飲料に特有の課題を解決できることを見出した。」 ・「【0046】 以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 (実験1)アルコール存在下での高甘味度甘味料の苦味 【0047】 表3に示す配合表に従って、高甘味度甘味料(アセスルファムK、スクラロース)とレモン香料とを含む、飲料液を作成した。 【0048】 【表3】 【0049】 次に、この飲料液にニュートラルスピリッツ(アルコール度数59v/v%)を加えた後、イオン交換水を加えて全量を1000mLとし、レモン香料を含むアルコール飲料のサンプル2?8を作成した。サンプル2?8における最終的なアルコール度数は、それぞれ、3、8、10、15、20、30、40v/v%であった。ニュートラルスピリッツを加えないで加水された(アルコールを含まない)サンプルを、サンプル1とした。これらのサンプル1?8の苦味について、専門パネラー3名にて官能評価を次のようにして実施した。 【0050】 サンプルを飲用したときに感じられる苦味について、アルコールを含まないサンプル1を対照として、以下の基準に従い、4点満点として評価を行った。 4点:強い苦味を感じる。3点:苦味を感じる。2点:やや苦味を感じる。1点:苦味をあまり感じない。 【0051】 各パネラーの採点結果の平均点を表4に示す。 【0052】 【表4】 【0053】 アルコールを含まないサンプル1の苦味を1点とした場合、アルコール度数が3v/v%という比較的低アルコール度数であっても、明らかにサンプル1より強い苦味が感じられるようになることが分かった。また、アルコール度数が高くなるにつれて苦味も強く感じられるようになり、低アルコール飲料の範疇であると通常言われる、アルコール度数8?10v/v%であっても、強い苦味が感じられることが分かった。 【0054】 従って、高甘味度甘味料を含む飲料にアルコールが加わった場合、予想以上に強い苦味が感じられるため、アルコールを含まない飲料に対する従来の技術では、対応できない可能性が示唆された。」 以上のことを総合し、実施例の実験1の飲料に着目すると、甲第8号証には、次の「甲8-1発明」及び「甲8-2発明」が記載されていると認められる。 (甲8-1発明) 「アセスルファムK0.2g、スクラロース0.01g、クエン酸5g、クエン酸ナトリウム1g、レモン香料1mLとニュートラルスピリッツ及びイオン交換水を加え、アルコール濃度が3?40v/v%で1000mLに調整された飲料。」 (甲8-2発明) 「アセスルファムK0.2g、スクラロース0.01g、クエン酸5g、クエン酸ナトリウム1g、レモン香料1mL及びイオン交換水を加え、アルコール濃度が0v/v%で1000mLに調整された飲料。」 3 取消理由通知に記載した取消理由について (1) 取消理由(1)及び(2)(特許法第29条第1項第2号及び第3号)について 本件訂正により、特許発明1?6において、飲料から、「但し、ネオテームを含有する飲料と、ぶどう果汁及びワインエキスを含有する飲料は除く」ものとされ、特許発明7?12において、飲料から、「但し、当該飲料がぶどう果汁及びワインエキスを含有する場合は除く」ものとされた。 一方、公然実施発明及び甲1発明は、ぶどう果汁及びワインエキスを含有するものであるから、特許発明1?12は、公然実施発明及び甲1発明と、この点で実質的に相違するものである。 よって、特許発明1?12は、公然実施発明であるとすることはできず、又、甲1発明であるとすることもできない。 したがって、特許発明1?12は、特許法29条1項2号に該当するものではなく、又、特許法29条1項3号に該当するものでもないので、この点で、特許発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。 (2) 取消理由(3)(特許法第29条第2項)について ア 甲第1号証を主引用例として 上記(1)で検討したとおり、特許発明1?12は、飲料として、少なくとも、「ぶどう果汁及びワインエキスを含有する」ものを除くものであり、一方、公然実施発明及び甲1発明は、「ぶどう果汁及びワインエキスを含有する」ことを前提とするものである。そして、上記公然実施発明及び甲1発明は、販売された製品として完成された性状のものであり、このものから、製品の前提である「ぶどう果汁及びワインエキスを含有する」ものを除くことは、当業者であれば通常想定し得ないものといえる。 また、仮に、「ぶどう果汁及びワインエキスを含有する」ものを除くことを想定し得たとしても、飲料の原料として他の種類の成分を選択した場合に、飲料の味覚は当然に異なるものとなり、その結果、甘味料として用いるアセスルファムカリウム及びスクラロースの量も異なったものとなることは、明らかである。そうすると、公然実施発明又は甲1発明において、「ぶどう果汁及びワインエキスを含有する」ものを除いた別の飲料として、さらに「アルコール度数が低い飲料に対して酒らしい好ましい味わいを付与または増強する」という課題(本件特許明細書【0007】)を解決することを意図して、アセスルファムカリウムとスクラロースの重量比に着目して、「アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が11?19」とすることの動機付けを見出すことはできない。 したがって、特許発明1?12を、公然実施発明、又は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 イ 甲第5号証を主引用例として 甲5発明において、アセスルファムカリウムとスクラロースとの重量比を計算すると、0.30/0.02=15となるから、甲5発明は、本件発明1の「アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が11?19」の特定事項において、相違するものではない。しかしながら、甲5発明の各成分の配合は、アルコール度数4.3v/v%を前提とするものであり、アルコール度数が味に影響することは技術常識である(甲第8号証【0052】)。 甲5発明において、アルコール度数を仮に低くした場合、飲料の味は異なるものとなるから、これに応じて、他の成分の配合を異なるものとすることは明らかである。そして、各成分の配合は、配合に応じた飲料の味を検討して定め得るものといえるから、甲5発明において、アルコール度数を3%未満と低くした際に、他の成分の配合をどの程度とすればよいかについての手掛かりはなく、アセスルファムカリウム及びスクラロースを含んだ各成分の配合を明確に特定することはできない。また、甲第1?7号証をみても、「アルコール度数が低い飲料に対して酒らしい好ましい味わいを付与または増強する」という課題(本件特許明細書【0007】)を解決することを意図して、アセスルファムカリウムとスクラロースの重量比に着目して、「アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が11?19」とすることの動機付けを見出すことはできない。 そうすると、甲第5号証において、アルコールの範囲として、「0.1?12v/v%」との範囲が記載されているとしても(【0011】)、そのことから、甲5発明のアルコール濃度を3%未満とした場合に、他の成分の配合をどの程度に調整するかは特定することができず、「アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が11?19」とするものということもできない。 よって、特許発明1を、甲5発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 このことは、特許発明2?12についても同様である。 ウ 甲第8号証を主引用例として 甲8-1発明及び甲8-2発明の「アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)」を計算すると、0.2/0.01=20となり、特許発明1の「アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が11?19」との特定事項と相違するものである。 そして、甲第8号証には、「【0007】 「糖類ゼロ」を表示する飲料が(以下、「糖類ゼロタイプ」とも呼ぶ)アルコール飲料である場合には、上記した問題に加え、アルコール自体の苦味・刺激感の問題がある。このため、糖類ゼロタイプのアルコール飲料では、アルコールを含まない飲料以上に、苦味の低減が大きな問題となる。 【0008】 この点、糖類や果汁は、甘味やアミノ酸等の成分によって飲料に厚み・ボディ感を付与し、苦味を軽減する効果を有し、有益であると考えられる。しかしながら、糖類の配合量が制限される糖類ゼロタイプのアルコール飲料では、糖類の添加によるそれらの効果はあまり期待できない。このことは、果汁についても同様である。なぜなら、果汁にも糖類が含まれているため、糖類ゼロタイプのアルコール飲料においては果汁の配合量にも制約があるからである。したがって、糖類ゼロタイプのアルコール飲料は、厚み・ボディ感や味わいが不足しがちであるだけでなく、アルコールと高甘味度甘味料による苦味が目立ちやすいという課題がある。」、「【課題を解決するための手段】 【0012】 本発明者らは、上記のような課題に鑑み鋭意研究した結果、糖アルコールの一種であるマルチトールを特定量配合することにより、柑橘類果汁を含む糖類ゼロタイプのアルコール飲料に特有の課題を解決できることを見出した。」と記載されるように、柑橘類果汁を含む糖類ゼロタイプのアルコール飲料に特有の課題を解決するため、マルチトールを適当量配合することについて記載され、高甘味度甘味料であるアセスルファムカリウム及びスクラロースの重量及び重量比について、着目するところはない。 そうすると、マルチトールを含有していない甲8-1発明及び甲8-2発明の開示があるものの、当該甲8-1発明及び甲8-2発明において「アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)」に着目して調整し、「アルコール度数が低い飲料に対して酒らしい好ましい味わいを付与または増強する」という課題(本件特許明細書【0007】)を解決することを意図して、「アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が11?19」とすることの動機付けを見出すことはできない。 よって、特許発明1を、甲8-1発明又は甲8-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 この点は、特許発明2?12においても同様である。 エ 以上のア?ウのとおりであるから、特許発明1?12は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとはいえず、この点で特許発明1?12に係る特許を取り消すことはできない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件請求項1?12に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 アセスルファムカリウムとスクラロースとを含有する、酒らしい味わいが増強または付与された飲料であって、 アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が11?19であり、 アセスルファムカリウムの濃度が25mg/L以上650mg/L以下であり、 アルコール度数が3容量%未満であり、 炭酸ガスを含有する、前記飲料(但し、ネオテームを含有する飲料と、ぶどう果汁及びワインエキスを含有する飲料は除く)。 【請求項2】 アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が、11?14である、請求項1に記載の飲料。 【請求項3】 アセスルファムカリウムの濃度が、325mg/L以下である、請求項1又は2に記載の飲料。 【請求項4】 アルコール度数が1容量%未満である、請求項1?3のいずれか1項に記載の飲料。 【請求項5】 アルコール度数が0.01容量%未満である、請求項4に記載の飲料。 【請求項6】 pHが2.5以上4以下である、請求項1?5のいずれか1項に記載の飲料。 【請求項7】 アルコール度数が3容量%未満、アセスルファムカリウムの濃度が25mg/L以上650mg/L以下、及びアセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が11?19となるように、飲料のアルコール度数と、アセスルファムカリウムの濃度と、アセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)とを調整すること、及び炭酸ガスを含有させることを含む、飲料の酒らしい味わいを増強または飲料に酒らしい味わいを付与する方法(但し、当該飲料がぶどう果汁及びワインエキスを含有する場合は除く)。 【請求項8】 飲料におけるアセスルファムカリウム/スクラロース(重量比)が、11?14である、請求項7に記載の方法。 【請求項9】 飲料におけるアセスルファムカリウムの濃度が、325mg/L以下である、請求項7又は8に記載の方法。 【請求項10】 飲料におけるアルコール度数が1容量%未満である、請求項7?9のいずれか1項に記載の方法。 【請求項11】 飲料におけるアルコール度数が0.01容量%未満である、請求項10に記載の方法。 【請求項12】 飲料におけるpHが2.5以上4以下である、請求項7?11のいずれか1項に記載の方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-05-17 |
出願番号 | 特願2014-86614(P2014-86614) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C12G)
P 1 651・ 112- YAA (C12G) P 1 651・ 121- YAA (C12G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 上條 肇、植原 克典 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
山崎 勝司 莊司 英史 |
登録日 | 2017-03-03 |
登録番号 | 特許第6100729号(P6100729) |
権利者 | サントリーホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 酒らしい味わいが付与された又は増強された飲料 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 山本 修 |
代理人 | 梶田 剛 |
代理人 | 梶田 剛 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 小野 新次郎 |