• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C09J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09J
管理番号 1341971
異議申立番号 異議2017-700801  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-08-21 
確定日 2018-06-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6083493号発明「ラミネート用接着剤、それを用いた積層体、及び二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6083493号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。 特許第6083493号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。  
理由 第1 手続の経緯

特許第6083493号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成28年5月10日の出願であり、平成29年2月3日にその特許権の設定登録がされ、平成29年8月21日に、その特許について特許異議申立人岩崎勇(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成29年10月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月26日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、平成30年2月28日付けで異議申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否

1 訂正事項

上記平成29年12月26日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であるラミネート用接着剤。」とあるのを、「ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。」と訂正する。 (請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?10も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2に「ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有する請求項1に記載のラミネート用接着剤。」とあるのを、「ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記エポキシ化合物(B)が、エポキシ基を1分子中に2つ以上、且つ水酸基を1分子中に1つ以上有し、重量平均分子量が3000以下であるエポキシ化合物を必須の成分とし、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。」と訂正する。 (請求項2の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?10も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3

特許請求の範囲の請求項3に「エポキシ化合物(B)が、エポキシ基を1分子中に2つ以上、且つ水酸基を1分子中に1つ以上有し、重量平均分子量が3000以下であるエポキシ化合物を必須の成分とする、
請求項1又は2に記載のラミネート用接着剤。」とあるのを、「ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、昇温融解後冷却樹脂化し、再度昇温した際の結晶化ピークのトップ温度であり、該再度昇温条件が日立ハイテクサイエンス/X-DSC7000を使用し30℃(0min)→ -10℃/min → -80℃(0min)→ 10℃/min → 200℃/min である結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記エポキシ化合物(B)が、エポキシ基を1分子中に2つ以上、且つ水酸基を1分子中に1つ以上有し、重量平均分子量が3000以下であるエポキシ化合物を必須の成分とし、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。」と訂正する。 (請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?10も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4

特許請求の範囲の請求項4に「前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合された請求項1?3の何れかに記載のラミネート用接着剤。」とあるのを、「ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、昇温融解後冷却樹脂化し、再度昇温した際の結晶化ピークのトップ温度であり、該再度昇温条件が日立ハイテクサイエンス/X-DSC7000を使用し30℃(0min)→ -10℃/min → -80℃(0min)→ 10℃/min → 200℃/min である結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。」と訂正する。 (請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項5?10も同様に訂正する。)

(5)訂正事項5

特許請求の範囲の請求項5に「前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B)が2.0-5.5質量部の割合で配合された請求項1?4の何れかに記載のラミネート用接着剤。」とあるのを、「前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が2.0-5.5質量部の割合で配合された請求項1?4の何れかに記載のラミネート用接着剤。」と訂正する。


2 訂正事項の訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

ア 上記訂正事項1の内、「前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、」と追加する訂正(以下、「訂正事項1-1」という。)は、訂正前の請求項1の「ポリオレフィン樹脂(A)」を、訂正前の請求項1を引用する請求項2の「ポリオレフィン樹脂(A)」に限定するものであり、「前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。」とする訂正(以下、「訂正事項1-2」という。)は、訂正前の請求項1の「エポキシ化合物(B)」のポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対する配合割合を、訂正前の請求項2を引用する請求項4の配合割合に限定するものであるから、上記訂正事項1-1及び1-2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 上記訂正事項1-1は、願書に添付した明細書の段落【0019】の「更に、これらの変性ポリオレフィン樹脂のうち、金属層の密着性がより向上し、耐電解液性に優れることから、1?200mgKOH/gの酸価を有する変性ポリオレフィン樹脂・・・及び/または1?200mgKOH/gの水酸基価を有する変性ポリオレフィン樹脂・・・がより好ましい。」等の記載に基づくものであり、上記訂正事項1-2は、同段落【0032】の「当該エポキシ化合物(B)は、前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、0.01?30質量部の割合で配合された場合が好ましい。」、訂正前の請求項4等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項1-1及び1-2は、いずれも新規事項を追加するものではない。

ウ 上記訂正事項1-1は、訂正前の「ポリオレフィン樹脂(A)」を限定するものであり、上記訂正事項1-2は、訂正前の「エポキシ化合物(B)」の配合割合を限定するものであるから、いずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 上記訂正事項1-1及び1-2は、いずれも一群の請求項ごとに請求されたものである。

(2)訂正事項2について

ア 上記訂正事項2の内、「ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、」とする訂正(以下、「訂正事項2-1」という。)は、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であり、「前記エポキシ化合物(B)が、エポキシ基を1分子中に2つ以上、且つ水酸基を1分子中に1つ以上有し、重量平均分子量が3000以下であるエポキシ化合物を必須の成分とし、」とする訂正(以下、「訂正事項2-2」という。)は、「エポキシ化合物(B)」を、訂正前の請求項1および請求項2を引用する請求項3の「エポキシ化合物(B)」に限定するものであり、「前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合された」とする訂正(以下、「訂正事項2-3」という。)は、訂正前の請求項1の「エポキシ化合物(B)」のポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対する配合割合を、訂正前の請求項2又は請求項3を引用する請求項4の配合割合に限定するものであるから、上記訂正事項2-2及び2-3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 上記訂正事項2-1は、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であるから、新規事項を追加するものではない。上記訂正事項2-2は、願書に添付した明細書の段落【0031】の「また、エポキシ基を1分子中に2つ以上、且つ水酸基を1分子中に1つ以上有し、重量平均分子量が3000以下であるエポキシ化合物を必須の成分とする、エポキシ樹脂であってもよい。」等の記載に基づくものであり、上記訂正事項2-3は、同段落【0032】の「当該エポキシ化合物(B)は、前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、0.01?30質量部の割合で配合された場合が好ましい。」、訂正前の請求項4等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項2-2及び2-3は、いずれも新規事項を追加するものではない。

ウ 上記訂正事項2-1は、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であり、上記訂正事項2-2は、訂正前の「エポキシ化合物(B)」を限定するものであり、上記訂正事項2-3は、訂正前の「エポキシ化合物(B)」の配合割合を限定するものであるから、いずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 上記訂正事項2-1ないし2-3は、いずれも一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3)訂正事項3について

ア 上記訂正事項3の内、「ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、」とする訂正(以下、「訂正事項3-1」という。)は、訂正前の請求項3が請求項1の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正である。また、「昇温融解後冷却樹脂化し、再度昇温した際の結晶化ピークのトップ温度であり、該再度昇温条件が日立ハイテクサイエンス/X-DSC7000を使用し30℃(0min)→ -10℃/min → -80℃(0min)→ 10℃/min → 200℃/min である結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、」とする訂正(以下、「訂正事項3-2」という。)、「前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、」とする訂正(以下、「訂正事項3-3」という。)は、それぞれ、「結晶化ピーク温度」の測定条件、「ポリオレフィン樹脂(A)」を、願書に添付した明細書の段落【0017】および【0047】に記載された測定条件、訂正前の請求項2を引用する請求項3の「エポキシ化合物(B)」に限定するものであり、「前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合された」とする訂正(以下、「訂正事項3-4」という。)は、訂正前の請求項1の「エポキシ化合物(B)」のポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対する配合割合を、訂正前の請求項3を引用する請求項4の配合割合に限定するものであるから、上記訂正事項3-2ないし3-4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 上記訂正事項3-1は、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であるから、新規事項を追加するものではない。上記訂正事項3-2は、願書に添付した明細書の段落【0017】および【0047】に記載された測定条件等の記載に基づくものであり、上記訂正事項3-3は、同段落【0019】の「更に、これらの変性ポリオレフィン樹脂のうち、金属層の密着性がより向上し、耐電解液性に優れることから、1?200mgKOH/gの酸価を有する変性ポリオレフィン樹脂・・・及び/または1?200mgKOH/gの水酸基価を有する変性ポリオレフィン樹脂・・・がより好ましい。」等の記載に基づくものであり、上記訂正事項3-4は、同段落【0032】の「当該エポキシ化合物(B)は、前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、0.01?30質量部の割合で配合された場合が好ましい。」、訂正前の請求項4等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項3-2ないし3-4は、いずれも新規事項を追加するものではない。

ウ 上記訂正事項3-1は、請求項間の引用関係を解消し、請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であり、上記訂正事項3-2及び3-3は、それぞれ訂正前の「結晶化ピーク温度」の測定条件、及び「エポキシ化合物(B)」を限定するものであり、上記訂正事項3-4は、訂正前の「エポキシ化合物(B)」の配合割合を限定するものであるから、いずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 上記訂正事項3-1ないし3-4は、いずれも一群の請求項ごとに請求されたものである。

(4)訂正事項4について

ア 上記訂正事項4の内、「ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、」とする訂正(以下、「訂正事項4-1」という。)および「前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、」とする訂正(以下、「訂正事項4-2」という。)は、訂正前の請求項4が請求項2の記載を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項2の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正である。また、「昇温融解後冷却樹脂化し、再度昇温した際の結晶化ピークのトップ温度であり、該再度昇温条件が日立ハイテクサイエンス/X-DSC7000を使用し30℃(0min)→ -10℃/min → -80℃(0min)→ 10℃/min → 200℃/min である結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、」とする訂正(以下、「訂正事項4-3」という。)は、それぞれ、「結晶化ピーク温度」の測定条件を、願書に添付した明細書の段落【0017】および【0047】に記載された測定条件に限定するものであるから、上記訂正事項4-3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 上記訂正事項4-1及び4-2は、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用する請求項2の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であるから、新規事項を追加するものではない。上記訂正事項4-3は、願書に添付した明細書の段落【0017】および【0047】に記載された測定条件等の記載に基づくものであるから、上記訂正事項4-3は、いずれも新規事項を追加するものではない。

ウ 上記訂正事項4-1及び4-2は、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用する請求項2の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改めるための訂正であり、上記訂正事項4-3は、訂正前の「結晶化ピーク温度」の測定条件を限定するものであるから、いずれの訂正も、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 上記訂正事項4-1ないし4-3は、いずれも一群の請求項ごとに請求されたものである。

(5)訂正事項5について

上記訂正事項5は、「エポキシ化合物(B)」を、「前記エポキシ化合物(B)」とするものである。
この訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであると共に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3 小括

上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1ないし10〕について訂正することを求めるものであり、それらの訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし10〕について訂正することを認める。


第3 本件発明

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1ないし10に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」、「本件発明1」に対応する特許を「本件特許1」などどいい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)の記載は、次のとおりである。

「【請求項1】 ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。

【請求項2】 ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記エポキシ化合物(B)が、エポキシ基を1分子中に2つ以上、且つ水酸基を1分子中に1つ以上有し、重量平均分子量が3000以下であるエポキシ化合物を必須の成分とし、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。

【請求項3】 ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、昇温融解後冷却樹脂化し、再度昇温した際の結晶化ピークのトップ温度であり、該再度昇温条件が日立ハイテクサイエンス/X-DSC7000を使用し30℃(0min)→ -10℃/min → -80℃(0min)→ 10℃/min → 200℃/min である結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記エポキシ化合物(B)が、エポキシ基を1分子中に2つ以上、且つ水酸基を1分子中に1つ以上有し、重量平均分子量が3000以下であるエポキシ化合物を必須の成分とし、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。

【請求項4】 ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、昇温融解後冷却樹脂化し、再度昇温した際の結晶化ピークのトップ温度であり、該再度昇温条件が日立ハイテクサイエンス/X-DSC7000を使用し30℃(0min)→ -10℃/min → -80℃(0min)→ 10℃/min → 200℃/min である結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。

【請求項5】 前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が2.0-5.5質量部の割合で配合された請求項1?4の何れかに記載のラミネート用接着剤。

【請求項6】 更に、熱可塑性エラストマー、粘着付与剤、触媒、燐酸化合物、メラミン樹脂、シランカップリング剤、又は反応性エラストマーを含有する請求項1?5の何れかに記載のラミネート用接着剤。

【請求項7】 請求項1?6の何れかに記載のラミネート用接着剤を、金属層とポリオレフィン樹脂層間で使用してなる積層体。

【請求項8】 請求項7に記載の積層体の製造方法において、25?80℃の範囲でエージングする工程を有する積層体の製造方法。

【請求項9】 請求項7に記載の積層体を電解液封止フィルム又は電極部保護フィルムとして用いた二次電池。

【請求項10】 請求項8に記載の製造方法により得られる積層体を電解液封止フィルム又は電極部保護フィルムとして用いた二次電池の製造方法。」

第4 平成29年10月26日付けで通知した取消理由の概要

1 特許法第36条第4項第1号

(1)訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、要するに、ポリオレフィン樹脂の結晶化ピーク温度によって規定されているにもかかわらず、本件発明の明細書には、結晶化ピーク温度を本件発明1の範囲にする方法や手段に関する記載がなく、技術常識でもないこと、実施例で使用される2種の商品についても、どのような組成、製造方法をもって結晶化ピーク温度を所定の値にするのかを開示するものではないことから、本件発明1の所定の結晶化ピーク温度を有するポリオレフィン樹脂を製造することは過大な試行錯誤を求めるものであるといわざるを得ず、本件発明の明細書は、当業者が本件発明1ないし10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

(2)本件発明は耐電解液性を改善することを課題の一つとし、この課題を解決する手段として、ラミネート用接着剤に用いるポリオレフィン樹脂(A)の結晶化ピーク温度を規定しているが、本件発明の明細書の実施例において結晶化ピーク温度の境界付近の結晶化ピーク温度を持つ2種のポリオレフィン樹脂の商品を使用したことが記載されているにすぎず、また、一般に、結晶化ピーク温度と耐電解液性との因果関係が明らかでないし、本件発明の明細書には、28℃?38℃の範囲の特に中間付近の結晶化ピーク温度では実施しておらず、当該因果関係が直接的に理解できないから、本件発明の課題である耐電解液性を改善するための手段が開示されていないといわざるを得ず、本件発明の明細書は、当業者が本件発明1ないし10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

(3)訂正前の請求項1ないし10に係る発明は、要するに、ポリオレフィン樹脂の結晶化ピーク温度によって規定されているものである。しかしながら、本件発明の明細書の段落【0017】の「本発明における結晶化ピーク温度は、昇温融解後冷却樹脂化し、再度昇温した際の結晶化ピークのトップ温度である。ここで、本発明における結晶化ピークのトップ温度は、示差走査熱量測定法(DSC法)により測定した。」旨と、参考資料2の昇温温度及び昇温速度が結晶化ピーク温度に大きく影響を与えることが技術常識である旨の記載を鑑みると、樹脂を初めに昇温する温度や昇温速度が結晶化ピーク温度を測定する際に重要なファクターであるといえるが、本件発明の明細書の段落【0047】の測定温度条件は、初めに昇温融解工程を経ずに冷却し、結晶化ピーク温度を測定しており、通常行う測定方法と大きく異なっていることから、本件発明の明細書の記載が不明確となっているため、本件発明の明細書は、当業者が本件発明1ないし10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

よって、訂正前の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由1」という)。

上記特許法第36条第4項第1号に関する理由は、特許異議申立て(以下、単に「異議申立て」という。)の訂正前の請求項1ないし10に対する実施可能要件に関する理由と同趣旨である。

2 特許法第36条第6項第1号

(1)本件発明は耐電解液性を改善することを課題の一つとし、この課題に対し、訂正前の請求項1ないし10に係る発明において、特に、ポリオレフィン樹脂(A)の結晶化ピーク温度が特定の範囲にあるポリオレフィン樹脂を特定しているが、本件発明の明細書の実施例において2種のポリオレフィン樹脂の商品を使用したことが記載されているにすぎない。そして、一般に、結晶化ピーク温度等の樹脂の性質には、樹脂のモノマー構成や合成方法が大きく影響を及ぼすこと、結晶化ピーク温度と耐電解液性との課題を解決することの間の因果関係を認める記載はないこと、本件発明は、プロピレン及び1-ブテンを主成分とすることまでは特定しているが、その特定のみで課題を解決できると理解できる記載はないことを考慮すると、前記2種類のポリオレフィン樹脂以外の本件発明1に含まれるポリオレフィン樹脂を採用した場合についてまで上記実施例と同等の効果を有するものと理解することは困難といわざるを得ず、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいうことはできない。

(2)本件発明は耐電解液性を改善することを課題の一つとし、この課題を解決する手段として、ラミネート用接着剤に用いるポリオレフィン樹脂(A)の結晶化ピーク温度を規定しているが、本件発明の明細書の実施例において2種のポリオレフィン樹脂の商品を使用したことが記載されているにすぎず、一般に、ポリオレフィン樹脂の結晶化ピーク温度と耐電解液性と初期密着性の両立との間の因果関係は不明で、当該因果関係が技術常識ではないことを考慮すると、前記2種類のポリオレフィン樹脂が示す結晶化ピーク温度以外の結晶化ピーク温度(例えば、28℃?38℃の中間値)を有するポリオレフィン樹脂を採用した場合についてまで上記実施例と同等の効果を有するものと理解することは困難といわざるを得ず、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいうことはできない。

(3)訂正前の請求項1ないし10は、要するに、本件発明が、耐電解液性の保持率が40%弱まで低下した場合も含む点で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいうことはできない。

よって、訂正前の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由2」という)。

上記特許法第36条第6項第1号に関する理由は、異議申立ての訂正前の請求項1ないし10に対するサポート要件に関する理由と同趣旨である。

3 特許法第36条第6項第2号

訂正前の請求項1は、結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であるポリオレフィン樹脂を使用することを特定しているが、本件発明の明細書の段落【0047】の結晶化ピーク温度の測定温度条件は、初めに昇温融解工程を経ずに冷却し、結晶化ピーク温度を測定しており、通常行う測定方法と大きく異なっていること、何故、従来当業者に知られている測定方法と異なる方法を採用しているのかその根拠が明らかでないから、訂正前の請求項1に係る発明は、明確でない。

よって、訂正前の請求項1ないし10に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由3」という)。

上記特許法第36条第6項第2号に関する理由は、異議申立ての訂正前の請求項1ないし10に対する明確性要件に関する理由と同趣旨である。

4 特許法第29条第1項第3号・同法同条第2項

訂正前の請求項1ないし3,6,7に係る発明は、下記甲第1号証(以下、甲第1号証を「甲1」などという。)に記載された発明であるか、甲1に記載された発明および甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
また、訂正前の請求項4,5に係る発明は、下記甲1に記載された発明、甲1に記載された事項および技術常識に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、訂正前の請求項8ないし10に係る発明は、甲1に記載された発明、甲1に記載された事項および周知の技術的事項(甲2?4)に基づいて、当業者が容易に発明できたものである。
そうすると、訂正前の請求項1ないし10に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号又は同法同条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである(以下、「取消理由4及び5」という)。

上記特許法第29条第1項第3号に関する理由は、異議申立ての甲1を主引例とする訂正前の請求項1ないし3,6,7に対する新規性欠如に関する理由と同趣旨である。
また、上記特許法第29条第2項に関する理由は、異議申立ての甲1を主引例とする訂正前の請求項1ないし10に対する進歩性欠如に関する理由と同趣旨である。



甲1:国際公開第2015/068385号
甲2:国際公開第2015/190411号
甲3:特開2016-000825号公報
甲4:特開2016-035035号公報


第5 取消理由1ないし3に関する当審の判断

1 取消理由1について

(1) 取消理由1 (1)について
本件発明の明細書には、ポリオレフィン樹脂の結晶化ピーク温度を本件発明1ないし4の範囲にする方法や手段に関する記載がないものの、本件明細書の段落【0049】【表1】の実施例1?5では、結晶化ピーク温度が28?38℃の範囲にあり、上市されている「ハードレン NS-2002」、「GMP5070E」が用いられ、【表2】の比較例1?5では、28?38℃の範囲にない「GMP3020E」、「GMP7550E」、「アウローレン 350S」、「アウローレン 550S」等が用いられていることからすると、所望する結晶化ピーク温度の範囲に応じて、対応するポリオレフィン樹脂の製品を用意することが可能であるといえる。また、例えば、特公平4-25976号公報には、1-ブテン成分を主成分とする結晶性1-ブテン系重合体の結晶化温度をコントロールする方法が記載されている。
そうすると、特定の結晶化ピーク温度を有するプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体を製造すること又は入手することは、当業者が本件発明1ないし10を実施する際に、過度の試行錯誤を求めるものであるとはいえず、本件発明の明細書は、「当業者が本件発明1ないし10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない」とすることはできない。

(2)取消理由1 (2)について
本件発明の明細書の段落【0019】には、ポリオレフィン樹脂(A)が、1?200mgKOH/gの酸価を有する変性ポリオレフィン樹脂及び/または1?200mgKOH/gの水酸基価を有する変性ポリオレフィン樹脂であると、金属層の密着性がより向上し、耐電解液性に優れる旨記載されている。
一方、本件発明の明細書の段落【0043】?【0054】に記載される実施例では、本件発明1ないし4の結晶化ピーク温度を満たすポリオレフィン樹脂として、市販品である「ハードレン NS-2002(東洋紡社製)変性ポリオレフィン樹脂 不揮発分20% 結晶化ピーク温度36.1℃ 結晶化ピーク熱量20.2mj/mg」と「GMP5070E(ロッテケミカル社製)変性ポリオレフィン樹脂 不揮発分100% 結晶化ピーク温度28.8℃ 結晶化ピーク熱量31.0mj/mg」との2種類を選択し、「デナコール EX-321」、「エピクロン 860」というエポキシ化合物と前記ポリオレフィン樹脂とを架橋させ、初期接着強度及び耐電解液性に優れた例が具体的に記載されている。
前記記載をまとめると、本件訂正により、本件発明1ないし4で、変性ポリオレフィン樹脂(A)が「酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有する」ものであり、かつ、「ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合された」接着剤に特定され、ポリオレフィン樹脂(A)の変性基が、酸基又は水酸基であること、酸価や水酸基価を限定することにより変性の程度も特定されたことから、酸基又は水酸基で変性された変性ポリオレフィン樹脂(A)とエポキシ化合物(B)との架橋の程度が特定されたともいえる。
そうすると、結晶化ピーク温度と耐電解液性との因果関係が明らかでないものの、特定の酸価又は水酸基価を有し、特定の結晶化ピーク温度を有する変性ポリオレフィン樹脂(A)とエポキシ化合物(B)とを架橋させる接着剤を用いれば、実施例と同様に、初期接着強度及び耐電解液性に優れたラミネートが得られることは明らかであり、本件発明の明細書は、本件発明の課題である耐電解液性を改善するための手段が開示されていないとはいえず、「当業者が本件発明1ないし10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない」とすることはできない。

(3)取消理由1 (3)について
本件発明の明細書には、段落【0047】の測定温度条件は、初めに昇温融解工程を経ずに冷却し、結晶化ピーク温度を測定しており、通常行う測定方法と異なっているものの、本件発明の明細書の段落【0017】には、再度昇温する前に、昇温融解を行って、冷却樹脂化することが明示されており、同段落【0047】にも、冷却後の昇温で結晶化ピーク温度を測定しているといえ、測定条件も開示されているといえる。さらに、同段落【0047】に記載の測定方法に最初に行う昇温融解工程が明示されていなくとも、最初の昇温融解工程は必要に応じて行う程度のことである。
そして、熱履歴を除去するのに十分に高い温度で何回か試測定し、昇温到達温度を決定することは技術常識である。
そうすると、本件発明の明細書に開示されている結晶化ピーク温度の測定法は、不明確であるとはいえず、本件発明の明細書は、「当業者が本件発明1ないし10を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない」とすることはできない。


2 取消理由2について

(1) 取消理由2 (1)及び(2)について
本件発明の明細書の段落【0019】には、ポリオレフィン樹脂(A)が、1?200mgKOH/gの酸価を有する変性ポリオレフィン樹脂及び/または1?200mgKOH/gの水酸基価を有する変性ポリオレフィン樹脂であると、金属層の密着性がより向上し、耐電解液性に優れる旨記載されている。
一方、本件発明の明細書の段落【0043】?【0054】に記載される実施例では、本件発明1の結晶化ピーク温度を満たすポリオレフィン樹脂として、市販品である「ハードレン NS-2002(東洋紡社製)変性ポリオレフィン樹脂 不揮発分20% 結晶化ピーク温度36.1℃ 結晶化ピーク熱量20.2mj/mg」と「GMP5070E(ロッテケミカル社製)変性ポリオレフィン樹脂 不揮発分100% 結晶化ピーク温度28.8℃ 結晶化ピーク熱量31.0mj/mg」との2種類を選択し、「デナコール EX-321」、「エピクロン 860」というエポキシ化合物と前記ポリオレフィン樹脂とを架橋させ、初期接着強度及び耐電解液性に優れた例が具体的に記載されている。
当該記載をまとめると、本件訂正により、本件発明1で、変性ポリオレフィン樹脂(A)が「酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有する」ものであり、かつ、「ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合された」接着剤に特定され、ポリオレフィン樹脂(A)の変性基が、酸基又は水酸基であること、酸価や水酸基価を限定することにより変性の程度も特定されたことから、酸基又は水酸基で変性された変性ポリオレフィン樹脂(A)とエポキシ化合物(B)との架橋の程度が特定されたともいえる。
そうすると、結晶化ピーク温度と耐電解液性との因果関係が明らかでないものの、特定の酸価又は水酸基価を有し、特定の結晶化ピーク温度を有する変性ポリオレフィン樹脂(A)とエポキシ化合物(B)とを架橋させる接着剤を用いれば、実施例と同様に、初期接着強度及び耐電解液性に優れたラミネートが得られることは明らかであり、本件発明1ないし10は、本件訂正により、本件発明の課題を解決できることを示している実施例の範囲に対応するものとなった。
そうすると、本件発明1ないし10を、「発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいうことはできない」とすることはできない。

(2)取消理由2 (3)について
本件発明は、耐電解液性の保持率が60%にまで低下した場合も含むものの、本件発明の明細書の段落【0049】【表1】に記載される実施例1?5において、同段落【0052】【表2】の比較例1?5の耐電解液性の保持率が60?50%や50%以下の△又は×であることに比べると優れた結果を示しているのであるから、本件発明が耐電解液性の保持率が60%にまで低下した場合を含むということをもって、本件発明1ないし10を、「発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるとも、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できるものであるともいうことはできない」とすることはできない。


3 取消理由3について

上記第5 1(3)でも検討したとおり、本件発明は、冷却後の昇温で結晶化ピーク温度を測定しているといえ、そして、熱履歴を除去するのに十分に高い温度で何回か試測定し、昇温到達温度を決定することは技術常識であることを鑑みると、本件発明の明細書に開示されている結晶化ピーク温度の測定法は明確であり、当該結晶化ピーク温度で規定される本件発明1ないし4は明確である。これにより、本件発明1ないし10を、明確でないとすることはできない。


第6 取消理由4及び5に関する当審の判断

1 甲号証に記載の事項

(1)甲1(国際公開第2015/068385号)
甲1には、次の記載がある。なお、下線は、当審が付与したものであり、以下、同様である。

(1-1)「請求の範囲
[請求項1] プロピレン由来の構成単位(a)を60?95モル%、炭素数4以上のα-オレフィン由来の構成単位(b)を5?40モル%〔(a)+(b)=100モル%とする〕含み、下記(i)?(iv)を全て満たすプロピレン・α-オレフィン共重合体(A1)に、不飽和カルボン酸もしくはその誘導体または不飽和スルホン酸もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種をグラフトした共重合体であり、
酸価が0.5?100KOHmg/gである、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)。
(i)GPCで測定した重量平均分子量(Mw)が3,000?40,000の範囲にある
(ii)DSCで測定した融点(Tm)が60?110℃の範囲にある
(iii)DSCで測定した結晶融点ピークの半値幅が1?20℃の範囲にある
(iv)^(1)HNMRにより測定した、1000個の炭素原子あたりのビニリデン基の個数が0.5?5個である
・・・
[請求項20] 請求項1?5のいずれか一項に記載の変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)、もしくは、請求項1?5のいずれか一項に記載の変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)および他の樹脂(B1)を含む、接着剤。」

(1-2)「[0001] 本発明は、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体とその製造方法、それを含むコーティング材、成形用樹脂組成物およびホットメルト組成物に関する。」

(1-3)「[0083] 変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の、DSCの結果により得られる結晶化温度(Tc)は、15?80℃、好ましくは25?70℃、更に好ましくは30?70℃、特に好ましくは40?50℃の範囲でありうる。結晶化温度(Tc)が上記範囲にある変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)は、有機溶媒、あるいは併用する樹脂に対する溶解性や分散性、耐ブロッキング性、基材との密着性のバランスに優れる。」

(1-4)「[0102] 2.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、本発明の変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を含み、必要に応じて他の樹脂(B1)をさらに含んでもよい。

[0103] <他の樹脂(B1)> 他の樹脂(B1)としては、オレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ロジン樹脂、アルキド樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、クマロン樹脂、ケトン樹脂、セルロース系樹脂、塩素化ポリオレフィン、或いはこれらの混合樹脂等を用いることができる。特に、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)との相溶性の観点では、オレフィン系樹脂やスチレン系樹脂が好ましく、オレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマーが特に好ましい。後述するように樹脂組成物をプライマーとして用いた場合に、上塗り層との密着性を得やすくする観点では、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂が好ましく、特にアクリル樹脂が好ましい。
・・・
[0107] 本発明の樹脂組成物における、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)と他の樹脂(B1)の重量比は、通常、1/99?90/10であり、好ましくは1/99?50/50であり、より好ましくは2/98?30/70であり、さらに好ましくは8/92?25/75である。上記の値の範囲内であれば、本発明の樹脂組成物を用いたコーティング材の安定性、塗工性が向上し、本樹脂組成物から成る塗膜の耐ブロッキング性、基材との密着性を向上させるとともに、他の樹脂の強度や耐熱性等の特性を良好に保つことができる。」

(1-5)「[0154] エポキシ樹脂は、典型的には、芳香族ジオール(例えばビスフェノールA)とエピクロルヒドリンとをアルカリの存在下に反応させることにより得られる樹脂であり、好ましくはエポキシ当量170?5000のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などでありうる。このようなエポキシ樹脂は市販されており、例えば商品名エポミック(三井化学(株))、エピクロン(大日本インキ化学工業(株))、スミエポキシ(住友化学工業(株))等を挙げることができる。」

(1-6)「[0195] 次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその趣旨を越えない限りこれらの実施例に制約されるものではない。
実施例及び比較例における物性値等は、以下の測定方法により求めた。
[0196] 〔重合体の組成〕 重合体のプロピレン由来の構成単位、及び炭素数4以上のα-オレフィン由来の構成単位の含有割合は、^(13)C-NMRスペクトルの解析により求めた。
・・・
[0200] 〔融解熱量(ΔH)〕
上記DSCにより得られた吸熱ピークと吸熱ピーク全体のベースラインとで区切られた面積から融解熱量(ΔH)(J/g)を算出した。
[0201] 〔結晶化温度(Tc)〕
重合体の結晶化温度(Tc)は、DSC(示差走査型熱量測定法)に従い、DSC-20(セイコー電子工業社製)によって測定した。即ち、試料約10mgを200℃程度まで昇温し、5分間保持した後、10℃/分で常温(-20℃)まで降温する操作を行い、得られたカーブの発熱ピークの温度を結晶化温度として求めた。
・・・
[0204]
〔酸価〕
混合キシレン:n-ブタノール=1:1質量比の混合溶媒に、精秤した重合体の試料を溶解させて試料溶液を得た。次いで、この試料溶液を、予め標定されたN/10水酸化カリウムのアルコール溶液(特級水酸化カリウム7gにイオン交換水5gを添加し、1級エチルアルコールで1L(リットル)とし、N/10塩酸と1%フェノールフタレイン溶液にて力価=Fを標定したもの)で滴定し、その中和量から次式に従って算出した。
酸価(mgKOH/g)=(N/10-KOH滴定量(ml)×F×5.61)/(試料(g)×0.01)
・・・
[0207] 1.プロピレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体(A2)の製造
〔プロピレン・1-ブテン共重合体(A2-1)〕
充分に窒素置換した2000mlの重合装置に、900mlの乾燥ヘキサン、1-ブテン65gとトリイソブチルアルミニウム(1.0mmol)を常温で仕込んだ後、重合装置内温を70℃に昇温し、プロピレンで0.7MPaに加圧した。次いで、ジメチルメチレン(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)フルオレニルジルコニウムジクロリド0.002mmolとアルミニウム換算で0.6mmolのメチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製)を接触させたトルエン溶液を重合器内に添加し、内温62℃、プロピレン圧0.7MPaを保ちながら30分間重合し、20mlのメタノールを添加し重合を停止した。脱圧後、2Lのメタノール中で重合溶液から重合体を析出し、真空下130℃、12時間乾燥し、プロピレン・1-ブテン共重合体(A2-1)を得た。
[0208] 〔プロピレン・1-ブテン共重合体(A2-2)〕
充分に窒素置換した2000mlの重合装置に、900mlの乾燥ヘキサン、1-ブテン30gとトリイソブチルアルミニウム(1.0mmol)を常温で仕込んだ後、重合装置内温を70℃に昇温し、プロピレンで0.7MPaに加圧した。次いで、ジメチルメチレン(3-tert-ブチル-5-メチルシクロペンタジエニル)フルオレニルジルコニウムジクロリド0.002mmolとアルミニウム換算で0.6mmolのメチルアルミノキサン(東ソー・ファインケム社製)を接触させたトルエン溶液を重合器内に添加し、内温62℃、プロピレン圧0.7MPaを保ちながら30分間重合し、20mlのメタノールを添加し重合を停止した。脱圧後、2Lのメタノール中で重合溶液から重合体を析出し、真空下130℃、12時間乾燥し、プロピレン・1-ブテン共重合体(A2-2)を得た。
[0209] 〔プロピレン・エチレン共重合体(X2-2)〕
プロピレン・エチレン共重合体(X2-2)として、SM668(タイタンケミカル社)を用いた。
[0210] 得られた共重合体の各物性を、前述の方法で測定した。その結果を表1に示す。
・・・
[0211] 2.変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)の製造
[製造例1]
1)プロピレン・1-ブテン共重合体(A1-1)の製造
攪拌装置、窒素導入管、コンデンサーを備えた1.5Lステンレス製熱分解装置に、上記製造した原料プロピレン・1-ブテン共重合体(A2-1)を200g入れ、系内を充分に窒素置換した。次に、窒素を流入したまま熱分解装置内の温度を380℃まで昇温し樹脂を溶融した後、攪拌を開始した。系内の樹脂温度が所定温度に達してから4.5時間加熱し熱分解を実施した。その後、常温まで冷却することにより、プロピレン・1-ブテン共重合体(A1-1)を得た。
2)変性プロピレン・1-ブテン共重合体(A-1)の製造
得られたプロピレン・1-ブテン共重合体(A1-1)200gをトルエン1000ml中に入れ、160℃で耐圧オートクレーブ中で完全に溶解させた。これに、70℃の無水マレイン酸16.3gおよび常温のジターシャリーブチルパーオキサイド(日本油脂社製、パーブチルD)27.7gを同時にそれぞれ1.5時間かけて供給し、1時間熟成後、真空度を1mmHgとして溶剤を除去し、表2に示す物性を有する変性プロピレン・1-ブテン共重合体(A-1)を得た。
・・・
[0217] 製造例1?6で得られた共重合体の各物性を、前述の方法で測定した。それの結果を表2に示す。
[表2]

・・・
[0223] 3.コーティング材
3-1.水分散型組成物
・・・
[0233] 3-2.溶媒分散型組成物
(原料)
<極性モノマーグラフト架橋樹脂の調製>
プロピレン系エラストマーの合成
充分に窒素置換した2リットルのオートクレーブに、ヘキサンを900ml、1-ブテンを85g仕込み、トリイソブチルアルミニウムを1ミリモル加え、70℃に昇温した後、プロピレンを供給して全圧7kg/cm^(2)Gにし、メチルアルミノキサン0.30ミリモル、上記製造例と同様の方法で製造されたrac-ジメチルシリレン-ビス{1-(2-メチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロライドをZr原子に換算して0.001ミリモル加え、プロピレンを連続的に供給して全圧を7kg/cm^(2)Gに保ちながら30分間重合を行った。重合後、脱気して大量のメタノール中でポリマーを回収し、110℃で12時間減圧乾燥し、Mw240,000、Tm91℃のプロピレン系エラストマーを得た。
[0234] 極性モノマーグラフト架橋樹脂の調製
次いで、上記プロピレン系エラストマー(合成品)50質量部、スチレン系エラストマー(タフテックH1051、旭化成社SEBS、スチレン含量:40質量部、Mw:72,000)50質量部に対し、極性モノマー(無水マレイン酸)1.0質量部、ラジカル重合開始剤(パーへキシン25B)0.2質量部加え、充分混合した後、2軸押出機(日本プラコン社製、30mm押出機、L/D=42、同方向回転、ベント2箇所設置、0.08MPaにベントを減圧)を用いて、押出温度220℃、回転数500回転/分、押出量16kg/時間で押出変性を行い、極性モノマーグラフト架橋樹脂を得た。
[0235] 酸変性ワックス:
製造例1で得られた変性プロピレン・1-ブテン共重合体(A-1)
[0236] (実施例3)
上記製造した極性モノマーグラフト架橋樹脂54gと、製造例1で得られた変性プロピレン・1-ブテン共重合体(A-1)6gとを、メチルシクロヘキサン240gに同時に溶解し、固形分20質量%の溶媒分散型組成物を得た。
[0237] (実施例4)
上記製造した極性モノマーグラフト架橋樹脂48gと、製造例1で得られた変性プロピレン・1-ブテン共重合体(A-1)12gとを、メチルシクロヘキサン240gに同時に溶解し、固形分20%の溶媒分散型組成物を得た。
[0238] (比較例5)
製造例1で得られた変性プロピレン・1-ブテン共重合体(A-1)を用いず、上記製造した極性モノマーグラフト架橋樹脂60gをメチルシクロヘキサン240gに溶解し、固形分20%の溶媒分散型組成物を得た。
[0239] 得られた溶媒分散型組成物の静置安定性、塗工性および接着強度を、以下の方法で評価した。
[0240] 〔静置安定性〕
得られた溶媒分散型組成物を一週間静置した後、静置安定性を以下の基準で評価した。
○:分離なし
△:やや分離あり
×:顕著に分離あり
[0241] 〔塗工性〕
得られた溶媒分散型組成物を、バーコーターを使用して、アルミ箔上に乾燥厚みが2μmとなるよう塗布した後、風乾させた。この塗布物を、170℃にセットしたエア・オーブン中で20秒間加熱した。得られた塗布物の塗膜の外観を、以下の基準で評価した。
○:塗膜にスジやムラがなく、均一である
×:塗膜にスジやムラある
[0242] 〔接着強度〕
得られた溶媒分散型組成物を、バーコーターを使用して、アルミ箔上に乾燥厚みが2μmとなるよう塗布した後、風乾させてヒートシール層を形成した。次いで、ヒートシール層上に、PPシートを配置し、100℃または140℃で1秒間熱圧着(ヒートシール)させた。得られた積層物の、ヒートシール層とアルミ箔との界面の接着強度を、180°剥離試験(速度100mm/分)により測定した。
[0243] これらの評価結果を表4に示す。
[表4]



(2)甲2(国際公開第2015/190411号)
甲2には、次の記載がある。

(2-1)「[請求項5]
変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)を0.01?20質量部、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を1?20質量部、有機溶剤(C)を80?1000質量部含有する請求項1?4のいずれかに記載の接着剤組成物。」

(2-2)「[0056] 以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。実施例中および比較例中に単に部とあるのは質量部を示す。
[0057]<結晶性酸変性ポリオレフィン(A1)の製造例>
製造例1
1Lオートクレーブに、プロピレン-ブテン共重合体(三井化学社製「タフマー(登録商標)XM7080」)100質量部、トルエン150質量部及び無水マレイン酸25質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド6質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に3時間撹拌した。その後、得られた反応液を冷却後、多量のメチルエチルケトンが入った容器に注ぎ、樹脂を析出させた。その後、当該樹脂を含有する液を遠心分離することにより、無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン-ブテン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離、精製した。その後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体(PO-1、酸価48mgKOH/g-resin、重量平均分子量50,000、Tm75℃、△H25J/g)を得た。
・・・
[0071](主剤1の作製)
水冷還流凝縮器と撹拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン-ブテン共重合体(PO-1)を100質量部、メチルシクロヘキサンを280質量部およびメチルエチルケトンを120質量部仕込み、撹拌しながら80℃まで昇温し、撹拌を1時間続けることで主剤1を得た。溶液状態を表1に示す。
・・・
[0075]実施例1
主剤1を500質量部、硬化剤としてグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)であるフェノールノボラック型エポキシ樹脂を19.8質量部、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)であるTETRAD(登録商標)-Xを0.2質量部配合し、接着剤組成物を得た。ポットライフ性、接着性および耐薬品性の評価結果を表3に示す。
・・・
[0077]
[表3]



[0078]
[表4]


・・・
[0081] 表3?6で用いた硬化剤は以下のものである。
<グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)>
N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン:TETRAD(登録商標)-X(三菱ガス化学社製)
<グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)>
フェノールノボラック型エポキシ樹脂:jER(登録商標)152(三菱化学社製)
o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂:YDCN-700-3(新日鉄住金化学社製)
<その他の硬化剤>
ポリイソシアネート:デュラネート(登録商標)TPA-100(旭化成社製)
シランカップリング剤:KBM-403(信越シリコーン社製)
[0082] 上記のようにして得られた各変性ポリオレフィン、主剤および接着剤組成物に対して下記方法に基づいて分析測定および評価を行った。
酸価の測定
本発明における酸価(mgKOH/g-resin)は、FT-IR(島津製作所社製、FT-IR8200PC)を使用して、無水マレイン酸(東京化成製)のクロロホルム溶液によって作成した検量線から得られる係数(f)、結晶性無水マレイン酸変性ポリオレフィン溶液における無水マレイン酸のカルボニル(C=O)結合の伸縮ピーク(1780cm-1)の吸光度(I)を用いて下記式により算出した値である。
酸価(mgKOH/g-resin)=
[吸光度(I)×(f)×2×水酸化カリウムの分子量×1000(mg)/無水マレイン酸の分子量]
無水マレイン酸の分子量:98.06 水酸化カリウムの分子量:56.11
[0083]塩素含有率
本発明における塩素含有率はJIS-K-7210に準じて測定によって求められる値である。
[0084]重量平均分子量(Mw)の測定
本発明における重量平均分子量は日本ウォーターズ社製ゲルパーミエーションクロマトグラフAlliance-e2695(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂、移動相:テトラヒドロフラン、カラム:Shodex KF-806 + KF-803、カラム温度:40℃、流速:1.0ml/分、検出器:フォトダイオードアレイ検出器(波長254nm=紫外線))によって測定した値である。
[0085]融点、融解熱量の測定
本発明における融点、融解熱量は示差走査熱量計(以下、DSC、ティー・エー・インスツルメント・ジャパン製、Q-2000)を用いて、20℃/分の速度で昇温融解、冷却樹脂化して、再度昇温融解した際の融解ピークのトップ温度および面積から測定した値である。
・・・
[0088]金属基材とポリオレフィン樹脂基材との積層体の作製
金属基材にはアルミニウム箔(住軽アルミ箔社製、8079-0、厚さ40μm)を使用し、ポリオレフィン樹脂基材には無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製パイレン(登録商標)フィルムCT、厚さ40μm)(以下、CPPともいう。)を使用した。
実施例1?32および比較例1?15で得られた接着剤組成物を金属基材にバーコータを用いて乾燥後の接着剤層の膜厚が3μmになるように調整して塗布した。塗布面を温風乾燥機を用いて100℃雰囲気で1分間乾燥させ、膜厚3μmの接着剤層を得た。前記接着剤層表面にポリオレフィン樹脂基材を重ね合わせ、テスター産業社製の小型卓上テストラミネーター(SA-1010-S)を用いて80℃、0.3MPa、1m/分にて貼り合わせ、40℃、50%RHにて120時間養生することで積層体を得た。
[0089] 上記のようにして得られた積層体に対して、下記方法にて評価を行った。
[0090]接着性の評価
前記積層体を100mm×15mm大きさに切断し、T型剥離試験により接着性の評価を行った。評価結果を表3?6に示す。
[0091]<T型剥離試験>
ASTM-D1876-61の試験法に準拠し、オリエンテックコーポレーション社製のテンシロンRTM-100を用いて、25℃環境下で、引張速度50mm/分における剥離強度を測定した。金属基材/ポリオレフィン樹脂基材間の剥離強度(N/cm)は5回の試験値の平均値とした。
[0092]<評価基準>
☆(実用上特に優れる):8.0N/cm以上またはCPPが材破する(以下、単に「材破」ともいう。)材破とは、金属基材/CPPの界面で剥離が生じず、金属基材またはCPPが破壊されることをいう。
◎(実用上優れる):7.5N/cm以上8.0N/cm未満
○(実用可能):7.0N/cm以上7.5N/cm未満
×(実用不可能):7.0N/cm未満
[0093]耐薬品性の評価
アルミ箔とCPPの積層体の使用形態の1つであるリチウムイオン電池の包装材としての利用性を検討するため電解液試験による耐薬品性(以下、耐電解液性ともいう)の評価を行った。前記積層体を、100mm×15mm大きさに切断し、電解液[エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(容積比)に6フッ化リン酸リチウムを添加したもの]に85℃で3日間浸漬させた。その後、積層体を取り出しイオン交換水で洗浄、ペーパーワイパーで水を拭き取り、十分に水分を乾燥させ、100mm×15mm大きさに切断し、T型剥離試験により耐薬品性の評価を行った。
[0094]<評価基準>
☆(実用上特に優れる):8.0N/cm以上または材破
◎(実用上優れる):7.5N/cm以上8.0N/cm未満
○(実用可能):7.0N/cm以上7.5N/cm未満
×(実用不可能):7.0N/cm未満」

(2-3)「[0095] 本発明にかかる接着剤組成物は、変性ポリオレフィン、エポキシ樹脂および有機溶剤を含有し、長期保存しても増粘やゲル化を生じることなく良好なポットライフ性を維持し、かつ金属基材とポリオレフィン樹脂基材との良好な接着性を両立させることができる。そのため、本発明の接着剤組成物から形成されるポリオレフィン樹脂基材と金属基材との積層構造体は、家電外板、家具用素材、建築内装用部材などの分野のみならず、パソコン、携帯電話、ビデオカメラなどに用いられるリチウム電池の包装材(パウチ形態)としても幅広く利用し得るものである。」


(3)甲3(特開2016-000825号公報)
甲3には、次の記載がある。

(3-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と水性媒体とを含有するポリオレフィン樹脂水性分散体であって、
ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを共重合体成分として含有し、
オレフィン成分が、プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)とを含有し、 プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との質量比(A/B)が、60/40?95/5であり、
プロピレン(A)と、プロピレン以外のオレフィン(B)との合計100質量部に対し、共重合体成分としての不飽和カルボン酸成分の含有量が、1質量部以上であり、かつ、
水性分散体の乾燥残渣における、不飽和カルボン酸モノマー量が10,000ppm以下であることを特徴とするポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項2】
プロピレン以外のオレフィン(B)が、ブテンであることを特徴とする請求項1記載のポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項3】
さらに、架橋剤および/またはポリウレタン樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のポリオレフィン樹脂水性分散体。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のポリオレフィン樹脂水性分散体を含有することを特徴とする、コーティング剤、プライマー、塗料、インキおよび接着剤から選ばれる水性分散体含有物。」

(3-2)「【0059】
本発明の水性分散体に添加する架橋剤として、自己架橋性を有する架橋剤、不飽和カルボン酸成分と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、多価の配位座を有する金属等を用いることができる。
具体的には、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、エポキシ基含有化合物、メラミン化合物、尿素化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、必要に応じて複数のものを混合使用してもよい。中でも、取り扱い易さの観点から、オキサゾリン基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、エポキシ基含有化合物を添加することが好ましい。
・・・
【0063】
エポキシ基含有化合物は、分子中に少なくとも2つ以上のエポキシ基を有しているものであれば特に限定されない。例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAβ-ジメチルグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、テトラヒドロキシフェニルメタンテトラグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、クロル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、エポキシウレタン樹脂等のグリシジルエーテル型;p-オキシ安息香酸グリシジルエーテル・エステル等のグリシジルエーテル・エステル型;フタル酸ジグリシジルエステル、テトラハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサハイドロフタル酸ジグリシジルエステル、アクリル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等のグリシジルエステル型;グリシジルアニリン、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルイソシアヌレート、トリグリシジルアミノフェノール等のグリシジルアミン型;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の線状脂肪族エポキシ樹脂;3,4-エポキシ-6メチルシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシ-6メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート、ビス(3,4-エポキシ-6メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド、ジシクロペンタジエンオキサイド、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテル、リモネンジオキサイド等の脂環族エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの1種または2種以上を用いることができる。
市販のエポキシ化合物としては、本発明に適した水系のものとして、例えば、長瀬ケムテック社製のデナコールシリーズ(EM-150、EM-101など)、旭電化工業社製のアデカレジンシリーズ等が挙げられ、UVインキ密着性や耐スクラッチ性向上の点から多官能エポキシ樹脂エマルションである旭電化社製のアデカレジンEM-0517、EM-0526、EM-11-50B、EM-051Rなどが好ましい。」

(3-3)「【0069】
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体から得られる塗膜は、ポリオレフィン樹脂基材との接着性に優れるため、本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、コーティング剤、プライマー、塗料、インキ等として好適に使用できる。
さらに、本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体から得られる塗膜は、ポリオレフィン樹脂以外の他の基材との接着性も良好であるため、本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、基材どうしを接着して積層体とするための接着剤として好適に使用できる。
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体を含有するコーティング剤、プライマー、塗料、インキ、接着剤などの具体例としては、PP押出ラミ用アンカーコート剤、二次電池セパレータ用コーティング剤、UV硬化型コート剤用プライマー、靴用プライマー、自動車バンパー用プライマー、クリアボックス用プライマー、PP基材用塗料、包装材料用接着剤、紙容器用接着剤、蓋材用接着剤、インモールド転写箔用接着剤、PP鋼板用接着剤、太陽電池モジュール用接着剤、植毛用接着剤、二次電池電極用バインダー用接着剤、二次電池外装用接着剤、自動車用ベルトモール用接着剤、自動車部材用接着剤、異種基材用接着剤、繊維収束剤などが挙げられる。
【0070】
本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、シーラント樹脂としてのポリプロピレン樹脂を基材に積層する際の接着剤として用いることができる。
積層体の製造方法としては、どのような方法を採用してもよいが、例えばドライラミネート法や押出ラミネート法が挙げられる。本発明のポリオレフィン樹脂水性分散体は、より工程が簡便でコスト的に有利である、押出ラミネート法による積層体の製造に適用することができる。
【0071】
積層体の具体的な製造条件として、ポリプロピレン樹脂を含有するシーラント樹脂をTダイから溶融押出してシーラント層を形成する際の、Tダイから押出された直後の樹脂温度は、230?300℃であることが好ましい。Tダイから押出された直後の樹脂温度は、接着性を向上させるためには、より高い温度であることが好ましいが、ポリプロピレン樹脂の熱分解を抑制する観点から、230?270℃であることがより好ましく、240?260℃であることがさらに好ましい。
【0072】
シーラント樹脂を接着層表面に積層して得られた積層体は、接着性の向上を目的として、エージング処理を施してもよい。エージング処理温度は、常温?100℃程度であることが好ましく、積層体への熱によるダメージや経済性の観点から、30?60℃であることがより好ましく、40?50℃であることがさらに好ましい。」


(4)甲4(特開2016-035035号公報)
甲4には、次の記載がある。

(4-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基もしくは酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂(A)と、2つ以上のエポキシ基を有する化合物であって、芳香族アミノ基もしくはヘテロ原子として窒素原子を有する複素環の少なくとも一方を有するエポキシ化合物(B)とを含有することを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂(A)の重量平均分子量が5万?50万であることを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、1-ブテンと他のオレフィンとから得られる共重合体を、さらに酸変性することにより得られることを特徴とする請求項1または2記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記ポリオレフィン樹脂(A)1(g)当たりのカルボキシル基の含有量をX(mmol)、酸無水物基の含有量をY(mmol)とした場合に、X+2Yが0.05?0.6であることを特徴とする請求項1?3いずれか記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記ポリオレフィン樹脂(A)をP(g)、前記エポキシ化合物(B)由来のエポキシ基をZ(mmol)とした場合に、Z/[(X+2Y)P]が0.3?10であることを特徴とする請求項4記載の接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1?5いずれか記載の接着剤組成物から形成される接着剤層を介して、金属箔層とヒートシール層とが積層されてなる積層体。
【請求項7】
前記金属箔層と前記接着剤層との間に表面処理層を有し、
前記表面処理層がエポキシ基と反応する官能基を含む処理剤から形成されることを特徴とする請求項6記載の積層体。
【請求項8】
前記処理剤におけるエポキシ基と反応する官能基が、カルボキシル基、水酸基およびアミノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項7記載の積層体。
【請求項9】
外層から順に、外層側樹脂フィルム層、外層側接着剤層、金属箔層、内層側接着剤層、ヒートシール層を必須とする蓄電デバイス用包装材において、
前記内層側接着剤層が請求項1?5いずれか記載の接着剤組成物から形成されることを特徴とする蓄電デバイス用包装材。」

(4-2)「【実施例】
【0062】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例中における各評価は下記の方法に従った。なお、実施例中、%は質量%を、部は質量部を示す。
<カルボキシル基の定量>
秤量した試料a(g)を還流させたキシレン中に溶解させ、室温まで冷却後、フェノールフタレインを指示薬とし、0.1Mのエタノール性水酸化カリウムを用いて滴定することにより定量を行った。指示薬の呈色が10秒間残留した時を滴定の終点とした。滴定量をb(ml)とすると、以下の式からXを求めることができる。
X=0.1*b/a
<酸無水物基の定量>
秤量した試料c(g)を還流させたキシレン中に溶解させ、室温まで冷却後、試料の酸無水物基の当量以上のオクチルアミンd(mmol)を添加した。残存するオクチルアミンを、0.1Mエタノール性過塩素酸を用いて滴定することにより定量を行った。滴定量
をe(ml)とすると、以下の式からYを求めることができる。
Y=(0.1*e-d)/c
【0063】
<重量平均分子量>
TSKgel superHZM-Nのカラムを2本接続した東ソー株式会社製HLC-8220GPCシステムにより、溶離液にテトラヒドロフラン、カラム温度を40℃とし、流量毎分0.35mlの条件にて測定した。サンプルは、2mgのポリオレフィン樹脂(A)を、5mlのテトラヒドロフランに溶解して調整した。また、重量平均分子量は標準ポリスチレン換算で算出した。
【0064】
<融点、融解温度エネルギー(ΔE)>
融点、ΔEは、JIS K7121に準じてDSC測定により求めることができる。具体的には以下のようにして求める。
約10mgのポリオレフィン樹脂(A)の直径または各辺が0.5mm以下の場合はそのまま使用し、0.5mmを超えるものは0.5mm以下に切断して容器に入れる。
毎分10℃で融点より約30℃高い温度まで加熱し、その後毎分10℃でTgより約50℃低い温度まで冷却する。明確なTgが観測されない場合は、融点より約50℃低い温度まで冷却する。その後、毎分10℃で融点より約30℃高い温度まで加熱した際に表れる融解に対応するピークのピークトップより求めた。また、ΔEは、融解に対応するピークが、ベースラインから離れてから再度ベースラインに戻るまでの部分の面積より求めた。
ポリオレフィン樹脂(A)を2種以上併用した場合は、融点は高温側のピークのピークトップより求め、ΔEは融解により得られる全てのピーク面積の合計から算出した。
【0065】
<共重合組成比>
ポリオレフィンの共重合組成比は、日本電子株式会社製NMR(JNM-LA400)を用いて、^(13)Cの測定により求めた。
サンプル20mgを1mlの重クロロホルムに溶解して測定した。エチレン由来のメチレン基は40-50ppmに、プロピレン由来のメチン基は25-30ppmに、1-ブテン由来のメチン基は30-35ppmに含まれる。各ピークの積分比から共重合組成比を求めた。
【0066】
<合成例1>
窒素置換した内容積500mLのガラス製オートクレーブに精製トルエン250mL、メチルアルミノキサンをAl原子換算で0.5mg、ジメチルシリル-ビス-(4,5,6,7,8-ペンタヒドロアズレン-2-イル)ジルコニウムジクロライドをZr原子換算で1.25μg原子を投入し、40℃に昇温した。続いてエチレンとプロピレンを、それぞれ50L/hr、40L/hrの一定速度で供給しながら、40℃で1.32MPaの一定圧力を維持するように1-ブテンモノマーを連続供給し、重合を開始した。40℃、8時間、重合を行った後、イソプロパノールを添加して重合を停止した。得られたポリマー溶液を、多量のメタノールに添加し、ポリマーを析出させた。析出したポリマーをろ過、乾燥することにより、エチレン/プロピレン/1-ブテン=46/33/15(モル比)で共重合されたポリオレフィンを得た。
得られたポリオレフィン20gと、セロソルブアセテート20gとを仕込み、窒素気流下、加熱溶解させ、溶液温度の110℃にした。無水マレイン酸4g、ラウリルメタクリレート2gおよび過酸化ベンゾイル0.6gをセロソルブアセテート239.4gに溶解したものを2時間かけて滴下した。滴下終了後さらに1時間その温度で反応を続けた。得られたポリマー溶液を、多量のメタノールに添加し、ポリマーを析出させた。析出したポリマーをろ過、乾燥することにより、酸無水物基を有するポリオレフィン樹脂(A1)を得た。
ポリオレフィン樹脂(A1)のMw、融点、ΔEは、それぞれ4700、103℃、45mJ/mgであった。
・・・
【0072】
<処理アルミの作製例1>
ポリカルボン酸樹脂(アクリセット、EMN-260E、日本触媒株式会社製)3.8部と、オルトリン酸2部と、フッ化クロム(III)4部とを蒸留水990部に溶解させ、さらにオキサゾリン基含有ポリマー(エポクロスWS-700、日本触媒株式会社製)0.2部を溶解させることで、固形分濃度1%の処理剤1を作製した。
脱脂処理を施したアルミニウム箔(40μm)の一方の面に乾燥塗布量50mg/m^(2)になるように処理液1を塗工し、150℃で乾燥することにより表面処理層にポリカルボン酸樹脂由来のカルボキシル基を有するAL-1を得た。
・・・
【0077】
<添加剤の作製例1>
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた反応容器にjER1001(三菱化学株式会社製BPA型エポキシ樹脂エポキシ当量475)545.5部と、ジエチレングリコールジメチルエーテル259.0部とを仕込んで、加熱溶解させながら、80℃まで昇温した。溶解後、80℃にてアクリル酸59.7部を仕込み、続いてジブチルヒドロキシトルエン0.6部、トリフェニルホスフィン2.4部を仕込み、110℃まで1時間かけて昇温しながら撹拝した。110℃で3時間保持して反応を続行せしめて、酸価が1.0mgKOH/g以下となった所で、80℃にまで下げて、85%リン酸12.1部およびジエチレングリコールジメチルエーテル70.2部からなる混合物を、1時間かけて連続滴下した。滴下終了後も引き続いて、80℃で4時間反応させ、次いで、ジエチレングリコールジメチルエーテル50.5部仕込むことにより、不揮発分が64.0%で、かつ、酸価が9.0なる、リン酸変性エポキシ樹脂(C1)の溶液を得た。
【0078】
<実施例1>
ポリオレフィン樹脂(A1)15部をトルエン/MEK=7/3(重量比)130.3部に加熱溶解した。GAN(日本化薬株式会社製、エポキシ当量125のN,N-ジグリシジルアニリン)を8部添加して攪拌することで、固形分15%の接着剤溶液を得た。
処理アルミAL-1の処理面側に、前記接着剤溶液をバーコーターにて塗布し、100℃、1分間乾燥し、乾燥後の塗布量が約2g/m^(2)の接着剤層を得た。次いで、前記接着剤層に厚み40μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(以下CPPと呼ぶ)を重ね合わせ、80℃に設定した2つのロール間を通過させ、積層体を得た。その後、得られた積層体を40℃で5日間の硬化(エージング)を行った。こうして、得られたアルミニウム箔/CPPラミネートフィルムを、以下「Al/CPP積層フィルム」と呼ぶ。
後述する方法に従って、初期接着強度、耐溶剤性、電解質耐性を評価した。結果を表2に示す。
・・・」

(4-3)「【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る接着剤組成物は、リチウムイオン電池や電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスの容器を形成するための包材用(積層体)に好適に使用できる。
その他、本発明に係る接着剤組成物は、蓄電デバイスの容器を形成するための包材の他、建築、化学、医療、自動車などのように高接着強度、耐薬品性が求められる各種産業分野における積層体の形成に好適に使用される。」

2 刊行物に記載の発明

(1)甲1A発明について

甲1には、上記摘示(1-1)から、酸価が0.5?100KOHmg/gである変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)と他の樹脂(B1)を含む接着剤が記載されている。また、上記摘示(1-3)に、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体の結晶化温度は15?80℃であること、上記摘示(1-4)に、前記他の樹脂としてエポキシ樹脂が記載されている。さらに、上記摘示(1-6)に、前記変性プロピレン・α-オレフィン共重合体のα-オレフィンとして1-ブテンを採用し、当該共重合体はプロピレンと1-ブテンを主成分とする例が記載されている。加えて、上記摘示(1-6)の段落[0242]には、接着剤をアルミ箔とポリプロピレンシートとの間に使用した例が記載されており、前記接着剤はラミネート用としての使用が記載されているといえる。
そうすると、甲1には、「酸価が0.5?100KOHmg/gである変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)と、他の樹脂(B1)とを含有するラミネート用接着剤において、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、結晶化温度が15?80℃の範囲であるラミネート用接着剤。」(以下、「甲1A発明」という。)が記載されているといえる。

(2)甲1B発明について

甲1には、上記2 (1)に記載の接着剤が記載されており、上記摘示(1-6)の段落[0242]には、接着剤をアルミ箔とポリプロピレンシートとの間に使用した例が記載されていることから、アルミ箔、接着剤層及びポリプロピレンシートからなる積層体の製造方法も記載されているといえる。
そうすると、甲1には、「酸価が0.5?100KOHmg/gである変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)と、他の樹脂(B1)とを含有するラミネート用接着剤において、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、結晶化温度が15?80℃の範囲であるラミネート用接着剤を、アルミ箔とポリプロピレンシート間で使用してなる積層体の製造方法。」(以下、「甲1B発明」という。)が記載されているといえる。


3 対比・判断

(1)本件発明1について

ア 本件発明1と甲1A発明との一致点・相違点

本件発明1と甲1A発明を対比する。

甲1A発明の「変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)」は、本件発明の明細書の段落【0019】の「本発明で用いるポリオレフィン樹脂(A)は、上記のとおり、種々が使用可能であるが、特に、ポリオレフィン樹脂に種々の官能基(例えば、カルボキシル基、水酸基等)を導入した変性ポリオレフィン樹脂がより好ましい。更に、これらの変性ポリオレフィン樹脂のうち、金属層の密着性がより向上し、耐電解液性に優れることから、1?200mgKOH/gの酸価を有する変性ポリオレフィン樹脂(以下、酸変性ポリオレフィン樹脂と記す)及び/または1?200mgKOH/gの水酸基価を有する変性ポリオレフィン樹脂(以下、水酸基変性ポリオレフィン樹脂と記す)がより好ましい。」という記載からみて、同様の官能基により変性されたものであることから、本件発明1の「ポリオレフィン樹脂(A)」に、甲1A発明の「他の樹脂(B1)」は、上記摘示(1-4)から「エポキシ樹脂」であることから、本件発明1の「エポキシ化合物(B)」にそれぞれ相当する。
そうすると、本件発明1と甲1A発明とは、「ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?100mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有するラミネート用接着剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。

【相違点1】ポリオレフィン樹脂(A)について、本件発明1は、結晶化ピーク温度が28?38℃であるのに対して、甲1A発明は、結晶化温度が15?80℃である点。

【相違点2】エポキシ化合物(B)について、本件発明1は、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、0.01?5.5質量部の割合で配合されるのに対して、甲1A発明は、そのように明示されていない点。

イ 相違点に関する判断

事案に鑑みて、まず【相違点2】について検討する。
上記摘示(1-4)の段落[0107]には、「本発明の樹脂組成物における、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)と他の樹脂(B1)の重量比は、通常、1/99?90/10であり、好ましくは1/99?50/50であり、より好ましくは2/98?30/70であり、さらに好ましくは8/92?25/75である。」旨記載されている。
甲1A発明は、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)と他の樹脂(B1)の重量比は、より好ましくは2/98?30/70であり、さらに好ましくは8/92?25/75であること、上記摘示(1-6)の表4を参酌しても、接着剤において、他の樹脂(B1)を主成分として使用することは明らかである。
よって、上記【相違点2】は、実質的な相違点となるものである。

さらに、上記【相違点2】が、当業者が容易に想到し得るものであるのか否かについて検討するに、上記摘示(1-4)の段落[0107]には、「本発明の樹脂組成物における、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)と他の樹脂(B1)の重量比は、通常、1/99?90/10であり、好ましくは1/99?50/50であり、より好ましくは2/98?30/70であり、さらに好ましくは8/92?25/75である。」旨記載されていることは、前述したとおりであるが、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)と他の樹脂(B1)の重量比の下限は90:10であり、計算すると、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)100質量部に対する他の樹脂(B1)の質量部は、少なくとも11質量部であるといえる。
そこで、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)100質量部に対する他の樹脂(B1)の配合量を0.01?5.5質量部とすることができるかを検討するに、上記摘示(1-6)の段落【0243】には、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)90質量部、他の樹脂(B1)10質量部(実施例3)、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)80質量部、他の樹脂(B1)20質量部(実施例4)含む接着剤の例が記載されている。
これを踏まえると、甲1において、他の樹脂(B1)を主成分の樹脂とし、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を添加成分とするものであると解することが自然であることから、甲1の記載に当業者が接したとしても、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)100質量部に対する他の樹脂(B1)の配合量を0.01?5.5質量部とすることを認識することができるとはいえない。
そうすると、たとえ接着剤の技術分野において、接着性能を最大化するために、接着剤組成物の成分の配合量を設定することが周知の技術的事項であったとしても、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)100質量部に対する他の樹脂(B1)の配合量を、本件発明1に重複する範囲とすることが当業者ならば容易に想到し得るものであるともいえない。
また、上記甲1の他、甲2ないし4にも、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)100質量部に対する他の樹脂(B1)の配合量を0.01?5.5質量部とすることを示唆する記載はない。

そして、本件発明1は、本件発明の明細書の段落【0010】の【発明の効果】として記載される「積層体の金属層とプラスチック層との接着性に優れ、低温養生でも耐電解液性を兼ね備え、その保持率が高く、経時で層間剥離を生じることがないラミネート積層体用接着剤組成物、その製造方法、該接着剤を使用した積層体、及び二次電池を提供することができる。」という格別の効果を奏するものであるから、本件発明1は、甲1A発明及び甲2ないし4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2について

本件発明2は、本件発明1の発明特定事項にさらに「エポキシ化合物(B)」に関する限定を行ったものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2は、甲1A発明及び甲2ないし4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明3について

本件発明3は、本件発明1の発明特定事項にさらに「結晶化ピーク温度」及び「エポキシ化合物(B)」に関する限定を行ったものであるから、本件発明1と同様に、本件発明3は、甲1A発明及び甲2ないし4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明4について

本件発明4は、本件発明1の発明特定事項にさらに「結晶化ピーク温度」に関する限定を行ったものであるから、本件発明1と同様に、本件発明4は、甲1A発明及び甲2ないし4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件発明5ないし7,9について

本件発明5ないし7,9は、本件発明1の発明特定事項をさらに限定するものであるか、本件発明1にさらに発明特定事項を追加するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明5ないし7,9は、甲1A発明及び甲2ないし4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件発明8について

ア 本件発明8と甲1B発明との一致点・相違点

本件発明8と甲1B発明を対比する。

上記3 (1)アでも検討したとおり、甲1B発明の「変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)」は、本件発明8の「ポリオレフィン樹脂(A)」に、甲1B発明の「他の樹脂(B1)」は、本件発明8の「エポキシ化合物(B)」にそれぞれ相当するといえる。また、甲1B発明の「アルミ箔」は、本件発明8の「金属層」に、甲1B発明の「ポリプロピレンシート」は、本件発明8の「ポリオレフィン樹脂層」に相当するといえる。
そうすると、本件発明8と甲1B発明とは、「ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?100mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有するラミネート用接着剤を、金属層とポリオレフィン樹脂層間で使用してなる積層体の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

【相違点1’】ポリオレフィン樹脂(A)について、本件発明8は、結晶化ピーク温度が28?38℃であるのに対して、甲1B発明は、結晶化温度が15?80℃である点。

【相違点2’】エポキシ化合物(B)について、本件発明8は、ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、0.01?5.5質量部の割合で配合されるのに対して、甲1B発明は、そのように明示されていない点。

【相違点3’】積層体の製造方法において、本件発明8は、25?80℃の範囲でエージングする工程を有するのに対して、甲1B発明は、そのように明示されていない点。

イ 相違点に関する判断

事案に鑑みて、まず【相違点2’】について検討するに、上記3 (1)イでも検討したとおりであるから、本件発明8は、甲1B発明及び甲2ないし4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(7)本件発明10について

本件発明10は、本件発明8の発明特定事項をさらに限定するものであるから、本件発明8と同様に、本件発明10は、甲1B発明及び甲2ないし4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


第7 取消理由で採用しなかった申立理由

1 申立理由3について(特許法第29条第1項第3号)
<本件発明4,5,8ないし10>
上記第6 3(1)ないし(7)で述べたように、本件発明1ないし10と甲1に記載された発明(甲1A発明、甲1B発明)との間には、実質的な相違点(【相違点2】、【相違点2’】)が存在する。
そうすると、本件発明4,5,8ないし10は、甲1に記載された発明であるということはできない。


第8 異議申立人の平成29年12月21日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)における主な主張について

1 取消理由1(1)について

異議申立人は、「これに対して、特許権者は、意見書において、石油化学工業協会のHPを引用して、ポリオレフィン樹脂は日本でも毎年多量に生産されていることを述べ、さらに、ポリオレフィンの結晶化度に関する出願は、登録公報だけでも600件はあることを述べ、その代表例として特公平4-25976及び特許第5357385の二つの公報を挙げている。
しかしながら、特許権者が挙げたこれらの二つの公報はいずれも、「未変性」のポリオレフィンの結晶化度に関するものであり、本件特許発明の対象である「変性」ポリオレフィンの結晶化度に関するものではない。
・・・
「未変性」のポリオレフィンと「変性」ポリオレフィンとでは、様々な点が相違し、「未変性」ポリオレフィンに関する技術を直ちに「変性」ポリオレフィンに適用することはできないことは、当業者の常識である。」と主張している(意見書第3、4頁)。

しかしながら、上記の主張は、第5 1(1)で述べたように、特公平4-25976には、プロピレン及び1-ブテンからなる重合体の結晶化ピーク温度の調整方法が開示されており、本件発明1ないし10も、プロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、変性基の配合量を見ても、導入された変性基が、例えば結晶化ピーク温度がランダムになるほど影響を及ぼすとはいえないから、ポリオレフィン樹脂が「変性」されているか否かは、結晶化ピーク温度の調整に大きな違いをもたらすものではない。また、結局のところ、ポリオレフィンを変性することにより、結晶化ピーク温度を特定の値にすることが当業者にとって困難である旨の異議申立人の主張は、根拠も示していない。
そうすると、異議申立人の上記の主張は、採用できない。

2 取消理由1(2)、取消理由2(1)及び2(2)について

異議申立人は、「しかしながら、本件特許の現在の請求項の記載では、結晶化度に影響を及ぼす「化学構造」及び「架橋状態」の要因の規定はいずれも不十分なままである。
・・・各主成分の量や主成分同士の配合比率は、当業者には周知の通り、得られる重合体の結晶化ピーク温度に多大な影響を及ぼすからである。
その証拠としては枚挙に暇がないが、ここに参考資料3として添付する「ポリプロピレンハンドブック」を挙げることができる。
参考資料3の第287頁第11行?第13行には、「コモノマーの挿入は、ホモポリマーの立体規則性の低下と同様に、結晶化傾向の急激な減少を招く不連続点を発生させる。結果として結晶化速度が遅くなり、結晶化度が低く、融点が低下する。」と記載されている。
・・・
この参考資料3から明らかなように、得られる共重合体の結晶化度に影響を及ぼす要因は、ポリオレフィン樹脂の主成分であるプロピレン及び1-ブテンの存在だけでなく、それらの量や両者の配合比率にもあり、コモノマー成分の量やそれらの配合割合の範囲を本件特許の新独立請求項1?4において規定すべきであることは明らかである。
・・・
また、「架橋状態」についても同様に現在の請求項の記載では、その要因の規定が不十分なままである。「架橋状態」の要因としては、本件特許の新独立請求項1?4において、ポリオレフィン樹脂の酸価及び/又は水酸基価の範囲(それぞれ1?200mgKOH/g)が規定されている。また、本件特許の新独立請求項1?4においてポリオレフィン樹脂に対するエポキシ化合物の配合割合(ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、エポキシ化合物0.01?5.5質量部の割合で配合)が規定されている。
しかしながら、これらの規定の数値範囲はいずれも、最大値が最小値の100倍をはるかに超える途轍もなく広い範囲を包含するものである。」と主張している(意見書第5、6頁)。

しかしながら、上記の主張は、第5 1(2)で述べたように、特公平4-25976には、プロピレン及び1-ブテンからなる重合体の結晶化ピーク温度の調整方法が開示されていること、また、異議申立人が提示した参考資料3には、プロピレン及び1-ブテンからなる重合体のコモノマー導入量と結晶化ピーク温度との関係が示されていること、本件発明1ないし10には、架橋に必要な酸価及び/又は水酸基価の範囲と架橋剤であるエポキシ化合物の必要量が記載されていることから、本件発明1ないし10に記載の接着剤の組成に関する発明特定事項と、従来技術とをもってすれば、本件発明1ないし10に記載の範囲において、実施例と同様に、初期接着強度及び耐電解液性に優れた接着剤を得ることは明らかである。そして、本件発明1ないし10の記載では、課題を解決できない範囲の発明を含む旨の異議申立人の主張は、そのことを直接的に示す根拠を示しておらず、当を得ないものである。
そうすると、異議申立人の上記の主張は、採用できない。

3 取消理由1(3)及び取消理由3について

異議申立人は、「まず、特許権者は、昇温融解工程は、測定対象の熱履歴を除去するための工程であるため、昇温到達温度は何回かの試測定によって決定されると主張し、このことが常識であると主張しているが、その証拠となる技術文献を何ら提示していない。証拠もなしに「常識」であると主張されても、到底認めるわけにはいかない。特許権者のこれらの主張は、もちろん技術常識ではない。
・・・
さらに述べると、仮に本願における昇温到達温度を特許権者が主張する200℃に設定したとしても、その後の冷却速度が全く不明である。・・・そうすると、「200℃」から「30℃」へというかなりの温度差で冷却樹脂化が行われることになるが、この冷却樹脂化工程における冷却速度が本件特許の明細書には一切記載されておらず、全く不明である。
・・・
また、このことは、異議申立人が異議申立書において提出した参考資料2にも示されている。即ち、参考資料2の第12頁の「冷却速度の影響」と題される欄には、異なる冷却速度でのDSC測定の結果を示した図5に言及して、「冷却速度が速いほど、結晶化ピーク温度がより低温へとシフトすることになります。サンプルが非常にゆっくりと冷却されると、その後すぐの2^(nd)runには冷結晶化は観測されません。」と記載されている。
・・・それにもかかわらず、本件特許では、昇温融解後の冷却樹脂化工程における冷却速度が本件特許の明細書には一切記載されておらず、全く不明である。」と主張している(意見書第9、10頁)。

しかしながら、上記の主張は、第5 1(3)で述べたように、実施例では、測定対象の熱履歴を除去するための前工程である昇温融解の工程及びその後の結晶化ピーク温度を測定する直前の冷却速度を明示していないものの、実際に測定する段階で少なからず結晶化ピーク温度のデータが取得できるように、測定前の昇温融解工程については、必要に応じて行うことができる程度のことであるし、その条件に関しても当業者の技術常識をもってすれば適宜設定し得るものである。
そうすると、異議申立人の上記の主張は、採用できない。

4 取消理由5について

異議申立人は、「また、取消理由通知書では言及されていないが、異議申立書では、異議申立人は引用例1に加えて引用例2(異議申立書では、甲第2号証と称している)をさらに引用して、引用例2の【請求項5】には、「変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)を0.01?20質量部、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を1?20質量部・・・含有する請求項1?4のいずれかに記載の接着剤組成物。」と記載されており、本件特許の旧請求項4及び5と重複する配合割合が開示されていることを指摘した。
・・・
まず引用例1の段落【0103】では、引用例1の発明の樹脂組成物IIおいて変性プロピレン・α-オレフィン共重合体とエポキシ樹脂の併用が明確に記載されている。この併用例が実施例に記載されていないからと言って、当業者が引用例1の段落【0103】における変性プロピレン・α-オレフィン共重合体とエポキシ樹脂の併用の記載を無視することは到底ありえない。
・・・
しかしながら、そもそも引用例2の段落【0039】及び【0041】において例示されているエポキシ化合物の配合量の範囲を逸脱した場合に接着性や耐薬品性が低下することが記載されているのだから、エポキシ化合物の添加量と接着強度や耐薬品性とを関連付けて考える動機が当業者にあることは明白である。」と主張している(意見書第11?15頁)。

しかしながら、上記の主張は、第6 3(1)イで述べたように、甲1での、接着剤の使用において、エポキシ化合物に相当する他の樹脂(B1)がポリマー成分の主成分として使用されており、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)は添加剤に過ぎないのだから、甲1に記載された発明において、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)100質量部に対する他の樹脂(B1)の配合量を0.01?5.5質量部とする動機付けがあるとはいえない。
また、甲2においても、上記摘示(2-1)の[請求項5]の「変性ポリオレフィン(A)100質量部に対して、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)を0.01?20質量部、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)を1?20質量部・・・含有する」という記載は、エポキシ化合物として、特定のグリシジルアミン型エポキシ樹脂(B1)とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(B2)とを組み合わせた際の変性ポリオレフィン(A)100質量部に対する配合量であり、一方で、甲1と甲2とで具体的なエポキシ化合物が異なり、甲1のエポキシ化合物は、甲2の(B1)及び(B2)に直接に対応するものではないことから、当該甲2の記載をもって、甲1に記載された変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)を主成分として、変性プロピレン・α-オレフィン共重合体(A)100質量部に対する他の樹脂(B1)の配合量を0.01?5.5質量部とすることは、困難であるといわざるを得ない。
そうすると、異議申立人の上記の主張は、採用できない。


第9 むすび

上記「第5」ないし「第8」で検討したとおり、本件特許1ないし10は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできないし、同法第29条第1項第3号及び同法同条第2項の規定に違反してされたものであるということはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由1ないし5及び上記申立理由1ないし4によっては、本件特許1ないし10を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1ないし10を取り消すべき理由を発見しない。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。
【請求項2】 ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記エポキシ化合物(B)が、エポキシ基を1分子中に2つ以上、且つ水酸基を1分子中に1つ以上有し、重量平均分子量が3000以下であるエポキシ化合物を必須の成分とし、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。
【請求項3】 ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、昇温融解後冷却樹脂化し、再度昇温した際の結晶化ピークのトップ温度であり、該再度昇温条件が日立ハイテクサイエンス/X-DSC7000を使用し30℃(0min)→ -10℃/min → -80℃(0min)→ 10℃/min → 200℃/min である結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記エポキシ化合物(B)が、エポキシ基を1分子中に2つ以上、且つ水酸基を1分子中に1つ以上有し、重量平均分子量が3000以下であるエポキシ化合物を必須の成分とし、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。
【請求項4】 ポリオレフィン樹脂(A)と、エポキシ化合物(B)とを含有するラミネート用接着剤において、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、単量体としてプロピレン及び1-ブテンを主成分とする重合体であり、昇温融解後冷却樹脂化し、再度昇温した際の結晶化ピークのトップ温度であり、該再度昇温条件が日立ハイテクサイエンス/X-DSC7000を使用し30℃(0min)→ -10℃/min → -80℃(0min)→ 10℃/min → 200℃/min である結晶化ピーク温度が28℃?38℃の範囲であり、
前記ポリオレフィン樹脂(A)が、酸価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂、及び/又は水酸基価が1?200mgKOH/gである変性ポリオレフィン樹脂を含有し、
前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が0.01?5.5質量部の割合で配合されたラミネート用接着剤。
【請求項5】 前記ポリオレフィン樹脂(A)100質量部に対して、前記エポキシ化合物(B)が2.0-5.5質量部の割合で配合された請求項1?4の何れかに記載のラミネート用接着剤。
【請求項6】 更に、熱可塑性エラストマー、粘着付与剤、触媒、燐酸化合物、メラミン樹脂、シランカップリング剤、又は反応性エラストマーを含有する請求項1?5の何れかに記載のラミネート用接着剤。
【請求項7】 請求項1?6の何れかに記載のラミネート用接着剤を、金属層とポリオレフィン樹脂層間で使用してなる積層体。
【請求項8】 請求項7に記載の積層体の製造方法において、25?80℃の範囲でエージングする工程を有する積層体の製造方法。
【請求項9】 請求項7に記載の積層体を電解液封止フィルム又は電極部保護フィルムとして用いた二次電池。
【請求項10】 請求項8に記載の製造方法により得られる積層体を電解液封止フィルム又は電極部保護フィルムとして用いた二次電池の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-22 
出願番号 特願2016-547191(P2016-547191)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C09J)
P 1 651・ 113- YAA (C09J)
P 1 651・ 121- YAA (C09J)
P 1 651・ 536- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 吉岡 沙織  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 原 賢一
阪▲崎▼ 裕美
登録日 2017-02-03 
登録番号 特許第6083493号(P6083493)
権利者 DIC株式会社
発明の名称 ラミネート用接着剤、それを用いた積層体、及び二次電池  
代理人 河野 通洋  
代理人 河野 通洋  
代理人 小川 眞治  
代理人 小川 眞治  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ