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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B23K
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B23K
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23K
審判 一部申し立て 発明同一  B23K
管理番号 1341985
異議申立番号 異議2017-701039  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-11-08 
確定日 2018-05-31 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6125084号発明「鉛フリーはんだ合金を用いたソルダペースト組成物、電子回路基板および電子制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6125084号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2?5〕について訂正することを認める。 特許第6125084号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6125084号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年3月22日に出願された特願2016-57712号の一部を同年11月17日に新たな特許出願としたものであって、平成29年4月14日に特許権の設定登録がされ、同年5月10日に特許掲載公報が発行され、その後、同年11月8日付けで請求項1?3に対し、特許異議申立人である大池聞平(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年1月16日付けで当審から特許権者に対して取消理由が通知され、同年2月28日付けで特許権者から意見書の提出とともに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年3月5日付けで当審から申立人に対し訂正請求があった旨を通知するとともに相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、申立人から意見書の提出はされなかったものである。

第2 本件訂正の適否について

1 本件訂正請求の趣旨

本件訂正請求の趣旨は「特許第6125084号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2?5について訂正することを認める。」というものである。

2 訂正事項

本件訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1?3のとおりである。なお、下線は特許権者が訂正箇所を示すために付したものである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項2の「前記鉛フリーはんだ合金が更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含むこと」を「前記鉛フリーはんだ合金が更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であること」と訂正する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項3の「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり」を「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり」と訂正する。

(3)訂正事項3

明細書の段落【0058】の「実施例14、15、18、21、22、25から31、参考例1から13、16、17、19、20、23、24」を「実施例14、15、21、22、25から31、参考例1から13、16から20、23、24」と訂正する。
また、段落【0059】【表1】及び【0068】【表3】の「実施例18」を「参考例18」に訂正する。

3 一群の請求項について

本件訂正前の請求項2,4,5は、請求項4,5が、訂正請求の対象である請求項2を引用し、本件訂正前の請求項3?5は、請求項4,5が、訂正請求の対象である請求項3を引用し、本件訂正前の請求項2,4,5及び請求項3?5は、請求項4,5を共有する関係にあるから、本件訂正前の請求項2?5は、本件訂正前において一群の請求項に該当する。
したがって、本件訂正は、一群の請求項に対してなされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

4 明細書の訂正と関係する請求項について

訂正事項3に係る本件訂正は、関係する一群の請求項の全てについて行われるものであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法126条第4項の規定に適合する。

5 訂正要件の検討

(1)訂正事項1について

ア 訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,新規事項の有無

本件訂正前の請求項2が引用する請求項1の記載は、「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することを特徴とするソルダペースト組成物。」であり、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」が「Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下」含むことが特定されているところ、訂正事項1に係る本件訂正は、上記Sb及びBiの含有量を「Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下」のより狭い範囲に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、願書に添付した明細書の段落【0023】には、上記Sbの含有量に関し、「特にSbの含有量を2重量%以上4重量%以下とすると、亀裂進展抑制効果を更に向上させることができる。」と記載され、上記Biの含有量に関しては、段落【0028】に、「Niおよび/またはCoと併用する場合、Biの好ましい含有量は3.1重量%以上4.5重量%以下である。」と記載され、段落【0059】の【表1】には、実施例22,25?31の各鉛フリーはんだ合金粉末におけるBiの含有量が3.2重量%であることが記載されているから、訂正事項1に係る本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

イ 独立特許要件

(ア)本件訂正請求では、請求項1?3に対して特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2に記載されている事項により特定される発明に対して、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の適用はない。

(イ)また、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2を引用する請求項4,5に記載されている事項により特定される発明に対しては、特許出願の際独立して特許を受けることができない理由は見いだせないから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について

ア 訂正の目的の適否,特許請求の範囲の拡張・変更の存否,新規事項の有無

訂正事項2に係る本件訂正は、訂正前の請求項3において、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」が「Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下」含むことが特定されていたところ、上記Sb及びBiの含有量を「Sbを2重量%以上4重量%以下であり、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下」のより狭い範囲に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
また、前記(1)アと同様の理由により、訂正事項2に係る本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

イ 独立特許要件

(ア)本件訂正請求では、請求項1?3に対して特許異議の申立てがされているので、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項3に記載されている事項により特定される発明に対して、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の適用はない。

(イ)また、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項3を引用する請求項4,5に記載されている事項により特定される発明に対しては、特許出願の際独立して特許を受けることができない理由は見いだせないから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について

訂正事項3に係る本件訂正は、訂正事項1,2に係る本件訂正によって、本件訂正後の請求項2?5に係る発明における「粉末状の鉛フリーはんだ合金」のSbの含有量が「3.1重量%以上3.2重量%以下」に限定されたことに伴って、上記Sbの含有量が3.5重量%である「実施例18」を「参考例18」に訂正して、本件訂正後の請求項2?5の記載との整合を図るためのものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるから、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

6 小括

以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであって、かつ、同条第4項及び同条第9項で準用する同法126条第4項?第7項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔2?5〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

前記第2のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することを特徴とするソルダペースト組成物。
【請求項2】
前記鉛フリーはんだ合金が更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のソルダペースト組成物。
【請求項3】
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり、AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)が下記式(A)から(D)の全てを満たす粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することを特徴とするソルダペースト組成物。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦2.10 … B
3.6≦ Ag含有量+Sb含有量≦8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 … D
【請求項4】
前記鉛フリーはんだ合金が更にP、Ga、およびGeの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のソルダペースト組成物。
【請求項5】
前記鉛フリーはんだ合金が更にFe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のソルダペースト組成物。」

2 取消理由の内容

本件訂正前の請求項2,3に係る発明について、平成30年1月16日付けで当審から特許権者に対して通知した取消理由の内容は以下のとおりである。

「理由1(拡大先願)
本件特許の請求項2,3に係る発明は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

理由2(新規性欠如)
本件特許の請求項2,3に係る発明は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

理由3(進歩性欠如)
本件特許の請求項2,3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。



理由1(拡大先願)について

(1)証拠方法

甲第1号証:特願2015-146520号の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲
甲第2号証:国際公開第2017/018167号(特願2015-146520号を優先権主張の基礎として日本語でされた国際特許出願であるPCT/JP2016/070270の国際公開)

(2)当審の判断

ア 甲第1号証に記載された発明のうち、甲第2号証に記載された発明については、特許法第184条の15第2項により読み替える同法第41条3項の規定により、甲第2号証の国際公開日に出願公開されたものとみなして、同法29条の2本文の規定が適用される。

イ そうすると、請求項2,3に係る発明は、甲第1号証の実施例15(甲第2号証の実施例21)に記載の公知のフラックスが混合されたソルダペースト(【0062】?【0064】,【0096】,表1)であるから(詳細は、申立書の第10頁第1行?第12頁第7行の記載を参照。ただし、請求項1に係る発明についての記載は除く。)、特許法第29条の2の規定により特許を受けることはできない。
また、申立書には記載がないが、請求項2,3に係る発明は、甲第1号証の実施例16(甲第2号証の実施例24)に記載の公知のフラックスが混合されたソルダペースト(【0062】?【0064】,【0096】,表1)でもあるから、同様の理由により特許を受けることはできない。

ウ なお、請求項1に係る発明は、『鉛フリーはんだ合金』の必須の成分元素としてCoを含まないから、取消理由1の対象にはならない。

理由2(新規性欠如),理由3(進歩性欠如)について

(1)証拠方法

甲第3号証:特開2014-37005号公報
甲第4号証:国際公開第2014/163167号

(2)当審の判断

ア 請求項2,3に係る発明は、甲第3号証の実施例52に記載の公知のフラックスが混合されたソルダペースト(【0075】?【0077】,【0098】,表2)であるから(詳細は、申立書の第12頁第8行?第14頁第1行の記載を参照。ただし、請求項1に係る発明についての記載は除く。)、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることはできない。

イ また、甲第3号証の実施例52に記載の公知のフラックスが混合されたソルダペースト中のはんだ合金のSbの含有量である1.5質量%を、甲第4号証の記載に基づいて5質量%以下の範囲で増加させることは、当業者が容易になし得たことであるから(詳細は、申立書の第14頁第2行?第14頁第20行の記載を参照。ただし、請求項1に係る発明についての記載は除く。)、請求項2,3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。

ウ なお、請求項1に係る発明は、『鉛フリーはんだ合金』の必須の成分元素としてCoを含まず、甲第4号証の記載や技術常識を併せてみても、甲第3号証の実施例52に記載されたソルダペースト中のはんだ合金から必須の成分元素であるCoを除く合理的根拠を見い出せないから、請求項1に係る発明は、取消理由2,3の対象にはならない。」

3 当審の判断

(1)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

事案に鑑み、取消理由通知において採用しなかった明確性要件違反の特許異議申立理由から、その存否を検討する。
なお、取消理由通知では、本件発明1に対し、理由1(拡大先願),理由2(新規性欠如),理由3(進歩性欠如)の特許異議申立理由を採用していないが、本件発明1に対するこれらの理由1?3については、便宜のため、次の「(2)取消理由通知に記載した取消理由について」において、本件発明2,3と併せて検討する。

ア 申立人の主張内容

申立人は、本件訂正前の請求項1?3に係る発明に対し、特許異議申立書(以下、「申立書」という。)の「3 申立ての理由」「(4)具体的理由」「カ.理由4:特許法第36条第6項第2項(明確性)」(第15頁第21行?第16頁第18行)において、請求項1の「残部がSnからなる」という記載は不明確であるから、請求項1、及び、これを引用する請求項2に係る発明は明確であるとはいえず、同様の理由により請求項3に係る発明も明確であるとはいえない旨、主張する。

イ 本件発明1について

本件発明1では、「鉛フリーはんだ合金」の成分元素の組成について、5種類の必須の成分元素であるAg,Cu,Sb,Bi,Niそれぞれの含有量の上限値及び下限値を重量%で特定した上で、「残部がSnからなる」ことが特定されているから、「鉛フリーはんだ合金」が、不可避不純物を除けば、Ag,Cu,Sb,Bi,Ni及び残部Snからなる合金であって他の元素を含まないことは、その記載から明らかである。
よって、本件発明1は明確である。

ウ 本件発明2について

本件発明2では、「鉛フリーはんだ合金」の成分元素の組成について、本件発明1を引用した上で、「更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であること」が特定されているから、本件発明2における「鉛フリーはんだ合金」が、不可避不純物を除けば、Ag,Cu,Sb,Bi,Ni,Co及び残部Snからなる合金であって他の元素を含まないことは、その記載から明らかである。
よって、本件発明2は明確である。

エ 本件発明3について

本件発明3も、本件発明1,2と同様の理由により明確である。

オ 小括

以上のとおり、本件発明1?3は、いずれも明確であるから、前記アの申立人の主張を採用することはできない。

(2)取消理由通知に記載した取消理由について

ア 理由1(拡大先願)について

(ア)証拠方法

申立人の提出した甲第1号証及び甲第2号証(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。他の甲号証に付いても同様。)は、以下のとおりである。
甲1:特願2015-146520号の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲
甲2:国際公開第2017/018167号(特願2015-146520号を優先権主張の基礎として日本語でされた国際特許出願であるPCT/JP2016/070270の国際公開)

(イ)甲1の記載事項

a 甲1に記載された発明のうち、甲2に記載された発明については、特許法第184条の15第2項で準用する同法第41条3項の規定により、甲2の国際公開日に出願公開されたものとみなして、同法29条の2本文の規定が適用されるところ、甲1には、甲2と共通する以下の事項が記載されている。なお、「・・・」は記載の省略を表し(以下同様)、末尾の括弧書きは対応する甲2の記載箇所を表す。

「【0001】
本発明は・・・詳しくは、はんだ合金・・・を含有するソルダペースト・・・に関する。」(甲2の[0001])
「【0011】
本発明の目的は、とりわけ厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40?150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持できるはんだ合金・・・を含有するソルダペースト・・・を提供することにある。」(甲2の[0011])
「【0029】
ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、3.5質量%以上、好ましくは、3.8質量%以上、より好ましくは、4.0質量%以上であり、4.8質量%以下、好ましくは、4.5質量%以下、より好ましくは、4.2質量%以下である。」(甲2の[0029])
「【0031】
一方、ビスマスの含有割合が上記下限を下回る場合には、耐熱疲労特性に劣り、また、ビスマスの含有割合が上記上限を上回る場合にも、耐熱疲労特性に劣るという不具合がある。」(甲2の[0031])
「【0039】
コバルトの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.008質量%を超過し、0.1質量%以下、好ましくは、0.05質量%以下、より好ましくは、0.03質量%以下である。」(甲2の[0039])
「【0041】
一方、コバルトの含有割合が上記下限を下回る場合には、耐熱疲労特性に劣り、また、コバルトの含有割合が上記上限を上回る場合にも、耐熱疲労特性に劣るという不具合がある。」(甲2の[0041])
「【0062】
フラックスとしては、特に制限されず、公知のはんだフラックスを用いることができる。
【0063】
具体的には、フラックスは、例えば、ベース樹脂(ロジン、アクリル樹脂など)、活性剤(例えば、エチルアミン、プロピルアミンなどアミンのハロゲン化水素酸塩、例えば、乳酸、クエン酸、安息香酸などの有機カルボン酸など)、チクソトロピー剤(硬化ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックスなど)などを主成分とし、また、フラックスを液状にして使用する場合には、さらに有機溶剤を含有することができる。
【0064】
そして、ソルダペーストは・・・はんだ合金からなる粉末と、上記したフラックスとを、公知の方法で混合することにより得ることができる。」(甲2の[0062]?[0064])
「【0075】
実施例1?20および比較例1?18
・はんだ合金の調製
表1に記載の各金属の粉末を、表1に記載の配合割合でそれぞれ混合し、得られた金属混合物を溶解炉にて溶解および均一化させて、はんだ合金を調製した。
【0076】
また、各実施例および各比較例の配合処方におけるスズ(Sn)の配合割合は、表1に記載の各金属(銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびインジウム(In))の配合割合(質量%)を、はんだ合金の総量から差し引いた残部である。なお、表中には、残部を「Bal.」と表記する。
【0077】
実施例1は、Ag、Cu、Bi、SbおよびCoを、表1に示す割合で配合し、残部をSnとしたはんだ合金である。」(甲2の[0075]?[0077]。なお、甲2では実施例が追加され、[0075]には「実施例1?31」と記載されている。)
「【0082】
実施例15?16は、実施例1の処方に対して、さらに、Niを配合し、また、Niの含有割合を増減させた処方の例である。」(甲2の[0085]。なお、甲1の「実施例15」及び「実施例16」は、それぞれ、甲2の[0085]の「実施例21」及び「実施例24」として記載されている。)
「【0096】
・ソルダペーストの調製
得られたはんだ合金を、粒径が25?38μmとなるように粉末化し、得られたはんだ合金の粉末と、公知のフラックスとを混合して、ソルダペーストを得た。」(甲2の[0103])

また、【0098】の【表1】には、「実施例15」の「配合処方(質量%)」が、Sn:Bal.,Ag:3.0,Cu:0.5,Bi:4.0,Sb:3.5,Co:0.01,Ni:0.05であることが記載され、「実施例16」の「配合処方(質量%)」が、Sn:Bal.,Ag:3.0,Cu:0.5,Bi:4.0,Sb:3.5,Co:0.01,Ni:0.20であることが記載されている。(なお、甲1の【0098】の【表1】における「実施例15」及び「実施例16」は、それぞれ、甲2の[0105]の[表1]の「実施例21」及び「実施例24」に相当する。)

b 前記aの記載によれば、甲1には、はんだ合金を含有するソルダペーストに関し(【0001】)、厳しい温度サイクル条件下(例えば、-40?150℃間の温度サイクルなど)においても、優れた耐熱疲労特性を維持できるはんだ合金を含有するソルダペースト(【0011】)として、実施例15及び実施例16の配合処方によって得られたはんだ合金(【0075】?【0077】,【0098】の【表1】)の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有する公知のフラックス(【0062】,【0063】)とを混合したソルダペースト(【0064】,【0096】)が記載されている。
したがって、甲1には、以下のとおり、実施例15に基づいて認定した先願発明1-1と、実施例16に基づいて認定した先願発明1-2が記載されている。

(先願発明1-1)
配合処方が、質量%で、Sn:残部,Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:4.0%,Sb:3.5%,Co:0.01%,Ni:0.05%であるはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト。

(先願発明1-2)
配合処方が、質量%で、Sn:残部,Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:4.0%,Sb:3.5%,Co:0.01%,Ni:0.20%であるはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト。

(ウ)対比・判断

a 本件発明1と先願発明1-1とを対比すると、本件発明1は「粉末状の鉛フリーはんだ合金」の成分元素としてCoを含まないのに対して、先願発明1-1の「はんだ合金の粉末」では「配合処方が」「質量%で」「Co:0.01%」であるから、本件発明1は、先願発明1-1と同一であるとはいえない。
同様の理由により、本件発明1は、先願発明1-2と同一であるとはいえない。
なお、前記(イ)bでは、先願発明1-1,1-2のはんだ合金の粉末中のCoの含有割合を実施例15,16に基づいて「0.01%」と認定したが、前記(イ)aにあるとおり、甲1の【0039】,【0041】には、Coを必須の成分元素として少なくとも0.008質量%を超過する含有割合で添加する必要がある旨の記載がされているから、前記(イ)bにおける先願発明1-1,1-2の認定に替えて、はんだ合金粉末の成分元素としてCoを含まない態様で先願発明を認定することはできない。

b 本件発明2と先願発明1-1とを対比すると、本件発明2の「粉末状の鉛フリーはんだ合金」は「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下である」のに対して、先願発明1-1の「はんだ合金の粉末」では「配合処方が」「質量%で」「Bi:4.0%」であるから、両者はBiの含有割合が異なっている。
したがって、本件発明2は、先願発明1-1と同一であるとはいえない。
同様の理由により、本件発明2は、先願発明1-2と同一であるとはいえない。
なお、前記(イ)bでは、先願発明1-1,1-2のはんだ合金の粉末中のBiの含有割合を実施例15,16に基づいて「4.0%」と認定したが、前記(イ)aにあるとおり、甲1の【0029】,【0031】には、Biを必須の成分元素として少なくとも3.5質量%以上の含有割合で添加する必要がある旨の記載がされているから、前記(イ)bにおける先願発明1-1,1-2の認定に替えて、Biの含有割合が3.5質量%を下回る態様で先願発明を認定することはできない。

c 本件発明3についても、前記bと同様の理由により、先願発明1-1,先願発明1-2のいずれともBiの含有割合が異なっているから、本件発明3は、先願発明1-1,先願発明1-2のいずれとも同一であるとはいえない。

(エ)小括

以上のとおりであるから、本件発明1?3は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえない。

イ 理由2(新規性欠如),理由3(進歩性欠如)について

(ア)証拠方法

申立人の提出した甲3,4は、以下のとおりである。
甲3:特開2014-37005号公報
甲4:国際公開第2014/163167号

(イ)甲3の記載事項

a 甲3には、以下の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は・・・詳しくは、スズ-銀-銅系のはんだ合金・・・を含有するソルダペースト・・・に関する。」
「【0004】
・・・鉛フリーはんだ合金としては・・・とりわけ、スズ-銀-銅系合金は、強度などに優れるため、広く用いられている。」
「【0008】
一方、このようなはんだ合金としては、耐久性(耐疲労性、とりわけ、耐冷熱疲労性)の向上が要求されている。
【0009】
また、このようなはんだ合金としては、さらに、融点を低く抑えるとともに、耐クラック性、耐侵食性を向上させることや、ボイド(空隙)を抑制することが要求されている。
【0010】
本発明の目的は、低融点であり、耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性に優れ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができるはんだ合金・・・を含有するソルダペースト・・・を提供することにある。」
「【0032】
ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、0.8質量%以上、より好ましくは、1.2質量%以上、さらに好ましくは、1.8質量%以上、とりわけ好ましくは、2.2質量%以上であり、例えば、4.8質量%以下、好ましくは、4.2質量%以下、より好ましくは、3.5質量%以下、さらに好ましくは、3.0質量%以下である。
【0033】
ビスマスの含有割合が上記範囲であれば、融点を低く抑えるとともに、優れた強度および耐久性を確保することができる。」
「【0038】
コバルトの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.001質量%以上、好ましくは、0.003質量%以上、より好ましくは、0.004質量%以上であり、0.008質量%以下、好ましくは、0.006質量%以下である。」
「【0041】
一方、コバルトの含有割合が上記下限未満である場合には、耐久性に劣り、さらに、組織の微細化を図ることができず、耐クラック性および強度に劣る。また、コバルトの含有割合が上記上限を超過する場合には、耐久性に劣り、さらに、ボイドの発生を抑制できないという不具合がある。」
「【0075】
フラックスとしては、特に制限されず、公知のはんだフラックスを用いることができる。
【0076】
具体的には、フラックスは、例えば、ベース樹脂(ロジン、アクリル樹脂など)、活性剤(例えば、エチルアミン、プロピルアミンなどアミンのハロゲン化水素酸塩、例えば、乳酸、クエン酸、安息香酸などの有機カルボン酸など)、チクソトロピー剤(硬化ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックスなど)などを主成分とし、また、フラックスを液状にして使用する場合には、さらに有機溶剤を含有することができる。
【0077】
そして、ソルダペーストは・・・はんだ合金からなる粉末と、上記したフラックスとを、公知の方法で混合することにより得ることができる。」
「【0087】
実施例1?54および比較例1?20
・はんだ合金の調製
表1?2に記載の各金属の粉末を、表1?3に記載の配合割合でそれぞれ混合し、得られた金属混合物を溶解炉にて溶解および均一化させて、はんだ合金を調製した。各実施例および各比較例の配合処方におけるスズ(Sn)の配合割合は、表1?3に記載の各金属(銀(Ag)、銅(Cu)、インジウム(In)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co))の配合割合(質量%)を差し引いた残部である。
【0088】
実施例1?3のはんだ合金は、Ag、Cu、In、Bi、NiおよびCoの各金属を表1に示す割合で配合して、残部をSnとしたものである。」
「【0092】
実施例44?54は、実施例2の処方に対して、Inを配合することなく、さらに、Sbを配合した処方であって、Ag、Bi、Sbの配合割合を実施例34?42に準じて増減させた処方の例である。」
「【0098】
・ソルダペーストの調製
得られたはんだ合金を、粒径が25?38μmとなるように粉末化し、得られたはんだ合金の粉末と、公知のフラックスとを混合して、ソルダペーストを得た。」
「【0121】
・・・
<総合評価>
「耐クラック性(はんだ組織の大きさ)」、「ボイド抑制」および「耐浸食性(Cu喰われ)」の各評価に対する評点として、評価“A”を2点、評価“B”を1点、評価“C”を0点とした。また、「耐久性(はんだ寿命)」に対する評点として、評価“A+”を5点、評価“A”を4点、評価“A-”を3点、評価“B”を2点、評価“B-”を1点、評価“C”を0点とした。次いで、各評価項目の評点の合計を算出し、表現の合計に基づいて、各実施例および各比較例のソルダペーストを下記の基準によって総合的に評価した。
【0122】
A+:極めて良好(評点合計が10点以上であり、かつ、評価“B”以下の項目を含まない。)
A:良好(評点合計が8点以上であり、「耐久性(はんだ寿命)」の項目で評価“B”以下を含まず、かつ、評価“B-”以下の項目を含まない。)
A-:概ね良好(評点合計が8点以上であり、かつ、評価“B-”以下の項目を含まない。上記総合評価“A”に該当するものを除く。)
B:実用上許容:(評点合計が6点以上であり、かつ、評価“C”の項目を含まない。)
C:不良(評点合計が6点以下であるか、または、評価“C”の項目を1つでも含む。)」

また、【0101】の【表2】には、「実施例45」の「配合処方(質量%)」が、Ag:3.0,Cu:0.5,In:-,Bi:2.7,Sb:1.5,Ni:0.05,Co:0.005であることが記載され、「実施例52」の「配合処方(質量%)」が、Ag:3.0,Cu:0.5,In:-,Bi:3.5,Sb:1.5,Ni:0.05,Co:0.005であることが記載されている。
さらに、【0123】の【表5】には、「実施例45」の「評点合計総合評価」が「9,A」であり、「実施例52」の「評点合計総合評価」が「8,A」であることが記載されている。

b 前記aの記載によれば、甲3には、鉛フリーはんだ合金であるスズ-銀-銅系のはんだ合金を含有するソルダペーストに関し(【0001】,【0004】)、従来、耐久性(耐疲労性、とりわけ、耐冷熱疲労性)の向上や、融点を低く抑えるとともに、耐クラック性、耐侵食性を向上させ、ボイド(空隙)を抑制することが要求されていることに鑑み(【0008】,【0009】)、低融点であり、耐久性、耐クラック性、耐侵食性などの機械特性に優れ、さらに、ボイド(空隙)の発生を抑制することができるはんだ合金を含有するソルダペーストを提供することを目的として(【0010】)、実施例52の配合処方によって得られたはんだ合金(【0087】?【0088】,【0092】,【0101】の【表2】)の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有する公知のフラックス(【0075】,【0076】)とを混合したソルダペースト(【0077】,【0098】)が記載されている。
したがって、甲1には、実施例52に基づいて認定した以下の甲3発明が記載されている。

(甲3発明)
配合処方が、質量%で、Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:3.5%,Sb:1.5%,Ni:0.05%,Co:0.005%,残部Snである鉛フリーのはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト。

(ウ)甲4の記載事項

甲4には、以下の事項が記載されている。

「[0001] 本発明は、温度サイクル特性に優れ、衝突などの衝撃に強い鉛フリーはんだ合金・・・に関する。」
「[0011] 本発明が解決しようとする課題は、低温が-40℃、高温が125℃というような厳しい温度サイクル特性に長期間耐えられるだけでなく、縁石への乗り上げや前の車との衝突などで発生する外部からの力に対しても長期間に耐える事が可能なはんだ合金・・・を開発することである。」
「[0012] 本発明者らは、長期間の温度サイクル後の外部からの力に耐えるには、Sn相に固溶する元素を添加して固溶強化型の合金を作ることが有効なこと、固溶析出強化型の合金を作るにはSbが最適な元素であること、さらにSnマトリックス中のSbの添加は微細なSnSb金属間化合物が形成され、析出分散強化の効果も現すことを見い出し、本発明を完成させた。
[0013] 本発明は、Agが1?4質量%、Cuが0.6?0.8質量%、Sbが1?5質量%、Niが0.01?0.2質量%、残部がSnの鉛フリーはんだ合金である。さらに、Biを1.5?5.5質量%を添加しても良い。さらに、CoおよびFeから選択された元素を少なくとも1種を合計で0.001?0.1質量%添加しても良い。」
「[0027] 本発明のはんだ合金では、Biを添加することで、さらに温度サイクル特性を向上させることができる。・・・
本発明のはんだ合金に添加するBiの量は、1.5?5.5質量%が好ましく、より好ましいのは、3?5質量%のときである。さらに好ましくは、3.2?5.0質量%である。
[0028] さらに、本発明のはんだ合金では、CoまたはFe、またはその両方を添加することで、本発明のNiの効果を高めることができる。特に、Coは優れた効果を現す。
・・・
本発明に添加するCoまたはFe、その両方を添加する量は、0.001?0.1質量%が好ましい。」

(エ)本件発明1の新規性,進歩性について

a 対比

(a)本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末」と、本件発明1の「粉末状の鉛フリーはんだ合金」とは、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」である点で一致する。

(b)甲3発明の「ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックス」は、本件発明1の「樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックス」に相当するから、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト」と、本件発明1の「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」は、「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」である点で一致する。

(c)したがって、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有するソルダペースト組成物。

(相違点)
本件発明1では、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」が「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる」もので、成分元素としてCoを含まないのに対し、
甲3発明では、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の「配合処方が、質量%で、Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:3.5%,Sb:1.5%,Ni:0.05%,Co:0.005%,残部Snであ」って、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の成分元素のうち、Ag,Cu,Bi,Sb,Niについては、その含有割合が、本件発明1の対応する成分元素の含有割合の範囲内にある一方、その他の成分元素として0.005重量%のCoを含む点。

b 相違点についての判断

(a)前記a(c)のとおり、本件発明1と甲3発明の相違点は実質的なものであって、本件発明1は甲3発明ではないから、本件発明1は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(b)次に前記相違点について検討すると、前記(イ)aにあるとおり、甲3には、「コバルトの含有割合は、はんだ合金の総量に対して、0.001質量%以上、好ましくは、0.003質量%以上、より好ましくは、0.004質量%以上であり」(【0038】)、「コバルトの含有割合が上記下限未満である場合には、耐久性に劣り、さらに、組織の微細化を図ることができず、耐クラック性および強度に劣る。」(【0038】)と記載されるとおり、甲3には、はんだ合金の必須の成分元素としてCoを添加する必要があることが記載されているから、甲3発明において、鉛フリーのはんだ合金の成分元素からCoを除くことは、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。
さらに、甲4を参酌しても、前記(ウ)にあるとおり、「本発明のはんだ合金では、CoまたはFe、またはその両方を添加することで、本発明のNiの効果を高めることができる。特に、Coは優れた効果を現す。・・・本発明に添加するCoまたはFe、その両方を添加する量は、0.001?0.1質量%が好ましい。」([0028])と記載されるとおり、Coは添加することが好ましい成分元素として記載されているから、甲4の記載を参酌しても、上記判断は左右されない。
そして、甲3発明において、鉛フリーのはんだ合金の成分元素からCoを除くことが容易になし得たこととはいえない以上、当業者であっても、鉛フリーはんだ合金の成分元素としてCoを含有しない本件発明1の効果を予測することはできない。
したがって、本件発明1は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(オ)本件発明2の新規性,進歩性について

a 対比

(a)本件発明2と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末」と、本件発明2の「粉末状の鉛フリーはんだ合金」とは、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」である点で一致する。
そうすると、甲3発明の「配合処方が、質量%で、Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:3.5%,Sb:1.5%,Ni:0.05%,Co:0.005%,残部Snである鉛フリーのはんだ合金の粉末」と、
本件発明2の「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金」「が更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であること」とは、
「Agを3.0重量%と、Cuを0.5重量%と、Sbと、Biと、Niを0.05重量%と、更にCoを0.005重量%含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金」である点で一致する。

(b)甲3発明の「ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックス」は、本件発明2の「樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックス」に相当するから、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト」と、本件発明2の「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」は、「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」である点で一致する。

(c)したがって、本件発明2と甲3発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
Agを3.0重量%と、Cuを0.5重量%と、Sbと、Biと、Niを0.05重量%と、更にCoを0.005重量%含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有するソルダペースト組成物。

(相違点1)
本件発明2では、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」における「Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下」であるのに対して、
甲3発明では、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の「配合処方が、質量%で」「Sb:1.5%」である点。

(相違点2)
本件発明2では、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」における「Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下である」のに対して、
甲3発明では、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の「配合処方が、質量%で」「Bi:3.5%」である点。

b 相違点についての判断

(a)前記a(c)のとおり、本件発明2と甲3発明の相違点1,2は実質的なものであって、本件発明2は甲3発明ではないから、本件発明2は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(b)次に事案に鑑み、相違点2について検討する。
(i)前記(イ)aにあるとおり、甲3には、「ビスマスの含有割合は、はんだ合金の総量に対して・・・例えば、4.8質量%以下、好ましくは、4.2質量%以下、より好ましくは、3.5質量%以下、さらに好ましくは、3.0質量%以下である。」(【0032】),「ビスマスの含有割合が上記範囲であれば、融点を低く抑えるとともに、優れた強度および耐久性を確保することができる。」(【0033】)と記載されるとおり、Biの含有割合の上限については、好ましい順に、「3.0質量%以下」,「3.5質量%以下」,「4.8質量%以下」,「4.2質量%以下」であることが記載されている。
(ii)また、前記(イ)aにあるとおり、甲3には、甲3発明を認定する際に根拠とした「実施例52」(Bi:3.5質量%)と、この「実施例52」とBiの含有割合(Bi:2.7質量%)のみが異なる「実施例45」について、「耐クラック性(はんだ組織の大きさ)」,「ボイド抑制」,「耐浸食性(Cu喰われ)」及び「耐久性(はんだ寿命)」を総合評価した「評点合計総合評価」が、それぞれ「8,A」(実施例52),「9,A」(実施例45)であることが記載されており、かかる記載によれば、Biの含有割合が2.7質量%の「実施例45」の方が、Biの含有割合が3.5質量%の「実施例52」よりも「評点合計総合評価」が優れていることが分かる。
上記(i)(ii)を踏まえると、甲3に接した当業者であれば、甲3発明のBiの含有割合である3.5質量%は、2番目に好ましいとされる「3.5質量%以下」に該当するものであり、これを、例えば「実施例45」の2.7質量%のように、最も好ましいとされる「3.0質量%以下」にすれば、より優れた「評点合計総合評価」が得られることを理解できる。
しかし、甲3に接した当業者であっても、2番目に好ましいとされる「3.5質量%以下」に該当する甲3発明のBiの含有割合である3.5質量%を、敢えて、最も好ましいとされる「3.0質量%以下」とはせずに、同じ「3.5質量%以下」の範囲に属する「3.1重量%以上3.2重量%以下」の範囲とすることに対しては合理的根拠を見いだすことはできず、かかる根拠を裏付ける技術常識も見いだせない。
さらに、甲4を参酌しても、前記(ウ)にあるとおり、「本発明のはんだ合金では、Biを添加することで、さらに温度サイクル特性を向上させることができる。・・・添加するBiの量は、1.5?5.5質量%が好ましく、より好ましいのは、3?5質量%のときである。さらに好ましくは、3.2?5.0質量%である。」([0027])と記載されるとおり、最も好ましいBiの含有割合は「3.2?5.0質量%」とされており、甲3発明のBiの含有割合である3.5質量%は、既に甲4で最も好ましいとされる範囲内の値であるから、当業者であっても、この含有割合を敢えて上記範囲外の「3.1重量%以上3.2重量%以下」とすることに対しては合理的根拠を見いだすことはできず、かかる根拠を裏付ける技術常識も見いだせない。
そして、以上のとおり、甲3発明において、Biの含有割合を「3.1重量%以上3.2重量%以下」の範囲とすることが容易になし得たこととはいえない以上、当業者であっても、Biの含有割合が「3.1重量%以上3.2重量%以下」の範囲である本件発明2の効果を予測することはできない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明2は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(カ)本件発明3の新規性,進歩性について

a 対比

(a)本件発明3と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末」と、本件発明3の「粉末状の鉛フリーはんだ合金」とは、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」である点で一致する。
そうすると、甲3発明の「配合処方が、質量%で、Ag:3.0%,Cu:0.5%,Bi:3.5%,Sb:1.5%,Ni:0.05%,Co:0.005%,残部Snである鉛フリーのはんだ合金の粉末」と、
本件発明2の「Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからな」る「粉末状の鉛フリーはんだ合金」とは、
「Agを3.0重量%と、Cuを0.5重量%と、Sbと、Biと、Niを0.05重量%と、Coを0.005重量%含み残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金」である点で一致する。

(b)甲3発明におけるAg(3.0質量%),Cu(0.5質量%),Sb(1.5質量%),Bi(3.5質量%),Ni(0.05質量%),Co(0.005質量%)それぞれの含有量は、以下のとおり、本件発明3の式(A)?(D)を満たしている。
式(A)について
Ag含有量+(Cu含有量/0.5)
=3.0+(0.5/0.5)
=4.0
であり、1.6≦4.0≦5.9が成立するから式(A)は満たされる。
式(B)について
(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)
=(3.0/3)+(3.5/4.5)
=1.78
であり、0.85≦1.78≦2.10が成立するから式(B)は満たさ
れる。
式(C)について
Ag含有量+Sb含有量
=3.0+1.5
=4.5
であり、3.6≦4.5≦8.9が成立するから式(C)は満たされる。
式(D)について
(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)
=(0.05/0.25)+(0.005/0.25)
=0.22
であり、0<0.22≦1.19が成立するから式(D)は満たされる。

(c)甲3発明の「ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックス」は、本件発明3の「樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックス」に相当するから、甲3発明の「鉛フリーのはんだ合金の粉末と、ベース樹脂、活性剤、チクソトロピー剤を主成分とし、さらに有機溶剤を含有するフラックスとを混合したソルダペースト」と、本件発明3の「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」は、「粉末状の鉛フリーはんだ合金と、 樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有する」「ソルダペースト組成物」である点で一致する。

(d)したがって、本件発明3と甲3発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
Agを3.0重量%と、Cuを0.5重量%と、Sbと、Biと、Niを0.05重量%と、Coを0.005重量%含み残部がSnからなり、AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)が下記式(A)から(D)の全てを満たす粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有するソルダペースト組成物。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦2.10 … B
3.6≦Ag含有量+Sb含有量≦8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 … D

(相違点1’)
本件発明3では、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」が「Sbを2重量%以上4重量%以下」含むのに対して、
甲3発明では、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の「配合処方が、質量%で」「Sb:1.5%」である点。

(相違点2’)
本件発明3では、「粉末状の鉛フリーはんだ合金」が「Biを3.1重量%以上3.2重量%以下」含むのに対して、
甲3発明では、「鉛フリーのはんだ合金の粉末」の「配合処方が、質量%で」「Bi:3.5%」である点。

b 相違点についての判断

(a)前記a(d)のとおり、本件発明3と甲3発明の相違点1’,2’は実質的なものであって、本件発明3は甲3発明ではないから、本件発明3は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

(b)次に事案に鑑み、相違点2’について検討すると、相違点2’は、前記(オ)a(c)に記載の相違点2と実質的に同一であり、前記(オ)b(b)に説示した相違点2についての判断は、相違点2’に対しても、そのまま妥当する。
したがって、相違点1’について検討するまでもなく、本件発明3は、甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて当業者容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

第4 結論

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鉛フリーはんだ合金を用いたソルダペースト組成物、電子回路基板および電子制御装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛フリーはんだ合金を用いたソルダペースト組成物、並びに当該ソルダペースト組成物を用いて形成されるはんだ接合部を有する電子回路基板および電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プリント配線板やシリコンウエハといった基板上に形成される電子回路に電子部品を接合する際には、はんだ合金を用いたはんだ接合方法が採用されている。このはんだ合金には鉛を使用するのが一般的であった。しかし環境負荷の観点からRoHS指令等によって鉛の使用が制限されたため、近年では鉛を含有しない、所謂鉛フリーはんだ合金によるはんだ接合方法が一般的になりつつある。
この鉛フリーはんだ合金としては、例えばSn-Cu系、Sn-Ag-Cu系、Sn-Bi系、Sn-Zn系はんだ合金等がよく知られている。その中でもテレビ、携帯電話等に使用される民生用電子機器や自動車に搭載される車載用電子機器には、Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金が多く使用されている。
鉛フリーはんだ合金は、鉛含有はんだ合金と比較してはんだ付性が多少劣るものの、フラックスやはんだ付装置の改良によってこのはんだ付性の問題はカバーされている。そのため、例えば車載用電子回路基板であっても、自動車の車室内のように寒暖差はあるものの比較的穏やかな環境下に置かれるものにおいては、Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部でも大きな問題は生じていない。
【0003】
しかし近年では、例えば電子制御装置に用いられる電子回路基板のように、エンジンコンパートメントやエンジン直載、モーターとの機電一体化といった寒暖差が特に激しく(例えば-30℃から110℃、-40℃から125℃、-40℃から150℃といった寒暖差)、加えて振動負荷を受けるような過酷な環境下での電子回路基板の配置の検討および実用化がなされている。このような寒暖差の非常に激しい環境下では、実装された電子部品と基板との線膨張係数の差によるはんだ接合部の熱変位およびこれに伴う応力が発生し易い。そして寒暖差による塑性変形の繰り返しははんだ接合部に亀裂を引き起こし易く、更に時間の経過と共に繰り返し与えられる応力は上記亀裂の先端付近に集中するため、当該亀裂ははんだ接合部の深部まで横断的に進展し易くなる。このように著しく進展した亀裂は、電子部品と基板上に形成された電子回路との電気的接続の切断を引き起こしてしまう。特に激しい寒暖差に加え電子回路基板に振動が負荷される環境下にあっては、上記亀裂およびその進展は更に発生し易い。
そのため、上述の過酷な環境下に置かれる車載用電子回路基板および電子制御装置が増える中で、十分な亀裂進展抑制効果を発揮し得るSn-Ag-Cu系はんだ合金を用いたソルダペースト組成物への要望は、今後ますます大きくなることが予想される。
【0004】
また、車載用電子回路基板に搭載されるQFP(Quad Flat Package)、SOP(Small Outline Package)といった電子部品のリード部分には、従来、Ni/Pd/AuめっきやNi/Auめっきのされた部品が多用されていた。しかし近年の電子部品の低コスト化や基板のダウンサイジング化に伴い、リード部分をSnめっきに替えた電子部品やSnめっきされた下面電極をもつ電子部品の検討および実用化がなされている。
はんだ接合時において、Snめっきされた電子部品は、Snめっきおよびはんだ接合部に含まれるSnとリード部分や前記下面電極に含まれるCuとの相互拡散を発生させ易い。この相互拡散により、はんだ接合部と前記リード部分や前記下面電極との界面付近の領域(以下、本明細書においては「界面付近」という。)にて、金属間化合物であるCu_(3)Sn層が凸凹状に大きく成長する。前記Cu_(3)Sn層は元々硬くて脆い性質を有する上に、凸凹状に大きく成長したCu_(3)Sn層は更に脆くなる。そのため、特に上述の過酷な環境下においては、前記界面付近ははんだ接合部と比較して亀裂が発生し易く、また発生した亀裂はこれを起点として一気に進展するため、電気的短絡が生じ易い。
従って、今後は上述の過酷な環境下でNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いた場合であっても前記界面付近における亀裂進展抑制効果を発揮し得る鉛フリーはんだ合金への要望も大きくなることが予想される。
【0005】
これまでもSn-Ag-Cu系はんだ合金にAgやBiといった元素を添加することによりはんだ接合部の強度とこれに伴う熱疲労特性を向上させ、これにより上記はんだ接合部の亀裂進展を抑制する方法はいくつか開示されている(特許文献1から特許文献7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-228685号公報
【特許文献2】特開平9-326554号公報
【特許文献3】特開2000-190090号公報
【特許文献4】特開2000-349433号公報
【特許文献5】特開2008-28413号公報
【特許文献6】国際公開パンフレットWO2009/011341号
【特許文献7】特開2012-81521号公報
【0007】
はんだ合金にBiを添加した場合、Biははんだ合金の原子配列の格子に入り込みSnと置換することで原子配列の格子を歪ませる。これによりSnマトリックスが強化され、合金強度が向上するため、Biの添加によるはんだ亀裂進展特性の一定の向上は見込まれる。
【0008】
しかしBiの添加により高強度化した鉛フリーはんだ合金は延伸性が悪化し、脆性が強まるというデメリットがある。出願人がBiを添加した従来の鉛フリーはんだ合金を用いて基板とチップ抵抗部品とをはんだ接合しこれを寒暖差の激しい環境下に置いたところ、チップ抵抗部品側にあるフィレット部分において、チップ抵抗部品の長手方向に対して約45°の方向から亀裂が直線状に入り電気的短絡が発生した。従って、特に寒暖の差の激しい環境下に置かれる車載用基板においては従来のような高強度化のみでは亀裂進展抑制効果は十分ではなく、高強度化に加え新たな亀裂進展抑制方法の出現が望まれる。
【0009】
またNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合、前記界面付近にて金属間化合物であるCu_(3)Sn層が凸凹状に大きく成長するため、この界面付近における亀裂進展の抑制は難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、寒暖の差が激しく、振動が負荷されるような過酷な環境下においてもはんだ接合部の亀裂進展を抑制でき、且つNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合においても前記界面付近における亀裂進展を抑制することのできる鉛フリーはんだ合金を用いたソルダペースト組成物、並びに当該ソルダペースト組成物を用いて形成されるはんだ接合部を有する電子回路基板および電子制御装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明のソルダペースト組成物は、Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金と、樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することをその特徴とする。
【0012】
(2)上記(1)に記載の構成にあって、前記鉛フリーはんだ合金は更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含むことをその特徴とする。
【0013】
(3)また本発明の他の構成として、本発明のソルダペースト組成物は、Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり、AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)が下記式(A)から(D)の全てを満たす粉末状の鉛フリーはんだ合金と、樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することをその特徴とする。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦ 2.10 … B
3.6 ≦ Ag含有量+Sb含有量≦ 8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 …D
【0014】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1に記載の構成にあって、前記鉛フリーはんだ合金は、更にP、Ga、およびGeの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことをその特徴とする。
【0015】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1に記載の構成にあって、前記鉛フリーはんだ合金は、更にFe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことをその特徴とする。
【0016】
(6)本発明の電子回路基板は、上記(1)から(5)のいずれか1に記載のソルダペースト組成物を用いて形成されるはんだ接合部を有することをその特徴とする。
【0017】
(7)本発明の電子制御装置は、上記(6)に記載の電子回路基板を有することをその特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鉛フリーはんだ合金を用いたソルダペースト組成物、並びに当該ソルダペースト組成物を用いて形成されるはんだ接合部を有する電子回路基板および電子制御装置は、寒暖の差が激しく、振動が負荷されるような過酷な環境下においてもはんだ接合部の亀裂進展を抑制でき、またNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品を用いてはんだ接合をした場合においても、前記界面付近における亀裂進展を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係り、電子回路基板の一部を表した部分断面図。
【図2】本発明の比較例に係る試験基板において、チップ部品のフィレット部にボイドが発生した断面を表す電子顕微鏡写真。
【図3】本発明の実施例および比較例に係る試験基板において、チップ部品の電極下の領域およびフィレットが形成されている領域を表す、X線透過装置を用いてチップ部品側から撮影した写真。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の鉛フリーはんだ合金を用いたソルダペースト組成物、並びに電子回路基板および電子制御装置の一実施形態を詳述する。なお、本発明が以下の実施形態に限定されるものではないことはもとよりである。
【0021】
(1)鉛フリーはんだ合金
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、1重量%以上3.1重量%以下のAgを含有させることができる。Agを添加することにより、鉛フリーはんだ合金のSn粒界中にAg_(3)Sn化合物を析出させ、機械的強度を付与することができる。
但し、Agの含有量が1重量%未満の場合、Ag_(3)Sn化合物の析出が少なく、鉛フリーはんだ合金の機械的強度および耐熱衝撃性が低下するので好ましくない。またAgを3.1重量%を超えて添加しても引っ張り強度は大幅には向上せず、飛躍的な耐熱疲労特性の向上には結びつかない。また高価なAgの含有量を増やすことは経済的に好ましくない。更にAgの含有量が4重量%を超える場合、鉛フリーはんだ合金の延伸性が阻害され、これを用いて形成されるはんだ接合部が電子部品の電極剥離現象を引き起こす虞があるので好ましくない。
またAgの含有量を2重量%以上3.1重量%以下とすると、鉛フリーはんだ合金の強度と延伸性のバランスをより良好にできる。更に好ましいAgの含有量は2.5重量%以上3.1重量%以下である。
【0022】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、1重量%以下のCuを含有させることができる。この範囲でCuを添加することで、電子回路のCuランドに対するCu食われ防止効果を発揮すると共に、Sn粒界中にCu_(6)Sn_(5)化合物を析出させることにより鉛フリーはんだ合金の耐熱衝撃性を向上させることができる。
なお、Cuの含有量を0.5重量%から1重量%とすると良好なCu喰われ防止効果を発揮することができる。特にCuの含有量が0.7重量%以下の場合、Cuランドに対するCu食われ防止効果を発揮することができると共に、溶融時の鉛フリーはんだ合金の粘度を良好な状態に保つことができ、リフロー時におけるボイドの発生を抑制し、形成するはんだ接合部の耐熱衝撃性を向上することができる。更には、溶融した鉛フリーはんだ合金のSn結晶粒界に微細なCu_(6)Sn_(5)が分散することで、Snの結晶方位の変化を抑制し、はんだ接合形状(フィレット形状)の変形を抑制することができる。
なおCuの含有量が1重量%を超えると、はんだ接合部の電子部品および電子回路基板との界面近傍にCu6Sn5化合物が析出し易くなり、接合信頼性やはんだ接合部の延伸性を阻害する虞があるため好ましくない。
【0023】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、1重量%以上5重量%以下のSbを含有させることができる。この範囲でSbを添加することで、Sn-Ag-Cu系はんだ合金の延伸性を阻害することなくはんだ接合部の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。特にSbの含有量を2重量%以上4重量%以下とすると、亀裂進展抑制効果を更に向上させることができる。
【0024】
ここで、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝されるという外部応力に耐えるには、鉛フリーはんだ合金の靭性(応力-歪曲線で囲まれた面積の大きさ)を高め、延伸性を良好にし、且つSnマトリックスに固溶する元素を添加して固溶強化をすることが有効であると考えられる。そして、十分な靱性および延伸性を確保しつつ、鉛フリーはんだ合金の固溶強化を行うためにはSbが最適な元素となる。
即ち、実質的に母材(本明細書においては鉛フリーはんだ合金の主要な構成要素を指す。以下同じ。)をSnとする鉛フリーはんだ合金に上記範囲でSbを添加することで、Snの結晶格子の一部がSbに置換され、その結晶格子に歪みが発生する。そのため、このような鉛フリーはんだ合金を用いて形成されるはんだ接合部は、Sn結晶格子の一部のSb置換により前記結晶中の転移に必要なエネルギーが増大してその金属組織が強化される。更には、Sn粒界に微細なSnSb、ε-Ag_(3)(Sn,Sb)化合物が析出することにより、Sn粒界のすべり変形を防止することではんだ接合部に発生する亀裂の進展を抑制し得る。
【0025】
また、Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金に比べ、上記範囲でSbを添加した鉛フリーはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部の組織は、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝した後もSn結晶が微細な状態を確保しており、亀裂が進展しにくい構造であることを確認した。これはSn粒界に析出しているSnSb、ε-Ag_(3)(Sn,Sb)化合物が寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝した後においてもはんだ接合部内に微細に分散しているため、Sn結晶の粗大化が抑制されているものと考えられる。即ち、上記範囲内でSbを添加した鉛フリーはんだ合金を用いたはんだ接合部は、高温状態ではSnマトリックス中へのSbの固溶が、低温状態ではSnSb、ε-Ag_(3)(Sn,Sb)化合物の析出が起こるため、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝された場合にも、高温下では固溶強化、低温下では析出強化の工程が繰り返されることにより、優れた耐冷熱衝撃性を確保し得ると考えられる。
【0026】
さらに、上記範囲でSbを添加した鉛フリーはんだ合金は、Sn-3Ag-0.5Cuはんだ合金に対して延伸性を低下させずにその強度を向上させることができるため、外部応力に対する十分な靱性を確保でき、残留応力も緩和することができる。
ここで、延伸性の低いはんだ合金を用いて形成されたはんだ接合部を寒暖の差の激しい環境下に置いた場合、繰り返し発生する応力は当該はんだ接合部の電子部品側に蓄積し易くなる。そのため、深部亀裂は電子部品の電極近傍のはんだ接合部にて発生することが多い。この結果、この亀裂近傍の電子部品の電極に応力が集中してしまい、はんだ接合部が電子部品側の電極を剥離してしまう現象が生じ得る。しかし本実施形態のはんだ合金は上記範囲でSbを添加したことにより、Biといったはんだ合金の延伸性に影響を及ぼす元素を含有させてもそれ自体の延伸性が阻害され難く、よって上述のような過酷な環境下に長時間曝された場合であっても電子部品の電極剥離現象をも抑制することができる。
【0027】
但し、Sbの含有量が5重量%を超えると、鉛フリーはんだ合金の溶融温度が上昇してしまい、高温下でSbが再固溶しなくなる。そのため、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝した場合、SnSb、ε-Ag_(3)(Sn,Sb)化合物による析出強化のみが行われるため、時間の経過と共にこれらの金属間化合物が粗大化し、Sn粒界のすべり変形の抑制効果が失効してしまう。またこの場合、鉛フリーはんだ合金の溶融温度の上昇により電子部品の耐熱温度も問題となるため、好ましくない。
【0028】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、0.5重量%以上4.5重量%以下のBiを含有させることができる。本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成であれば、この範囲内でBiを添加することにより、鉛フリーはんだ合金の延伸性に影響を及ぼすことなく、その強度を向上させると共にSb添加により上昇した溶融温度を低下させることができる。即ち、BiもSbと同様にSnマトリックス中へ固溶するため、鉛フリーはんだ合金を更に強化することができる。但し、Biの含有量が4.5重量%を超えると鉛フリーはんだ合金の延伸性を低下させて脆性が強まるため、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝された際、当該鉛フリーはんだ合金により形成されたはんだ接合部には深部亀裂が生じ易くなるため好ましくない。
またBiの含有量を2重量%以上4.5重量%以下とすると、はんだ接合部の強度をより向上させることができる。また後述するNiおよび/またはCoと併用する場合、Biの好ましい含有量は3.1重量%以上4.5重量%以下である。
【0029】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、0.01重量%以上0.25重量%以下のNiを含有させることができる。本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成であれば、この範囲でNiを添加することにより、溶融した鉛フリーはんだ合金中に微細な(Cu,Ni)_(6)Sn_(5)が形成されて母材中に分散するため、はんだ接合部における亀裂の進展を抑制し、更にその耐熱疲労特性を向上させることができる。
また、本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Ni/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品をはんだ接合する場合であっても、はんだ接合時にNiが前記界面付近に移動して微細な(Cu,Ni)_(6)Sn_(5)を形成するため、その界面付近におけるCu_(3)Sn層の成長を抑制することができ、前記界面付近の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。
【0030】
但し、Niの含有量が0.01重量%未満であると、前記金属間化合物の改質効果が不十分となるため、前記界面付近の亀裂抑制効果は十分には得られ難い。またNiの含有量が0.25重量%を超えると、従来のSn-3Ag-0.5Cu合金に比べて過冷却が発生し難くなり、はんだ合金が凝固するタイミングが早くなってしまう。そのため、形成されるはんだ接合部のフィレットでは、はんだ合金の溶融中に外に抜け出ようとしたガスがその中に残ったまま凝固してしまい、フィレット中にガスによる穴(ボイド)が発生してしまうケースが確認される。このフィレット中のボイドは、特に-40℃から140℃、-40℃?150℃といった寒暖差の激しい環境下においてはんだ接合部の耐熱疲労特性を低下させてしまう。
なお、上述の通りNiはフィレット中にボイドを発生し易いものであるが、本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成においては、Niと他の元素との含有量のバランスから、Niを0.25重量%以下含有させても上記ボイドの発生を抑制することができる。
【0031】
またNiの含有量を0.01重量%以上0.15重量%以下とすると良好な前記界面付近の亀裂進展抑制効果および耐熱疲労特性を向上しつつ、ボイド発生の抑制を向上させることができる。
【0032】
本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、Niに加え0.001重量%以上0.25重量%以下のCoを含有させることができる。本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成であれば、この範囲でCoを添加することにより、Ni添加による上記効果を高めると共に溶融した鉛フリーはんだ合金中に微細な(Cu,Co)_(6)Sn_(5)が形成されて母材中に分散するため、はんだ接合部のクリープ変形の抑制および亀裂の進展を抑制しつつ、特に寒暖差の激しい環境下においてもはんだ接合部の耐熱疲労特性を向上させることができる。
また、本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、Ni/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品をはんだ接合する場合であっても、Ni添加による上記効果を高めると共に、Coがはんだ接合時に前記界面付近に移動して微細な(Cu,Co)_(6)Sn_(5)を形成するため、その界面付近におけるCu_(3)Sn層の成長を抑制することができ、前記界面付近の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。
【0033】
但し、Coの含有量が0.001重量%未満であると、前記金属間化合物の改質効果が不十分となるため、前記界面付近の亀裂抑制効果は十分には得られ難い。またCoの含有量が0.25重量%を超えると、従来のSn-3Ag-0.5Cu合金に比べて過冷却が発生し難くなり、はんだ合金が凝固するタイミングが早くなってしまう。そのため、形成されるはんだ接合部のフィレットでは、はんだ合金の溶融中に外に抜け出ようとしたガスがその中に残ったまま凝固してしまい、フィレット中にガスによるボイドが発生してしまうケースが確認される。このフィレット中のボイドは、特に寒暖差の激しい環境下においてはんだ接合部の耐熱疲労特性を低下させてしまう。
なお、上述の通りCoはフィレット中にボイドを発生し易いものであるが、本実施形態の鉛フリーはんだ合金の構成においては、Coと他の元素との含有量のバランスから、Coを0.25重量%以下含有させても上記ボイドの発生を抑制することができる。
【0034】
またCoの含有量を0.001重量%以上0.15重量%以下とすると良好な亀裂進展抑制効果および耐熱疲労特性を向上しつつ、ボイド発生の抑制を向上させることができる。
【0035】
ここで本実施形態の鉛フリーはんだ合金にNiとCoとを併用する場合、AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)は下記式(A)から(D)の全てを満たすことが好ましい。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦ 2.10 …B
3.6 ≦ Ag含有量+Sb含有量≦ 8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 …D
AgとCuとSbとBiとNiとCoの含有量を上記範囲内とすることで、はんだ接合部の延伸性阻害および脆性増大の抑制、はんだ接合部の強度および熱疲労特性の向上、フィレット中に発生するボイドの抑制、寒暖の差が激しい過酷な環境下におけるはんだ接合部の亀裂進展抑制、Ni/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない電子部品のはんだ接合時における前記界面付近の亀裂進展抑制効果のいずれもをバランスよく発揮させることができ、はんだ接合部の信頼性を一層向上させることができる。
【0036】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、6重量%以下のInを含有させることができる。この範囲内でInを添加することにより、Sbの添加により上昇した鉛フリーはんだ合金の溶融温度を低下させると共に亀裂進展抑制効果を向上させることができる。即ち、InもSbと同様にSnマトリックス中へ固溶するため、鉛フリーはんだ合金を更に強化することができるだけでなく、AgSnIn、およびInSb化合物を形成しこれをSn粒界に析出させることでSn粒界のすべり変形を抑制する効果を奏する。
本発明のはんだ合金に添加するInの含有量が6重量%を超えると、鉛フリーはんだ合金の延伸性を阻害すると共に、寒暖の差が激しい過酷な環境下に長時間曝されている間にγ-InSn_(4)が形成され、鉛フリーはんだ合金が自己変形してしまうため好ましくない。
なお、Inのより好ましい含有量は、4重量%以下であり、1重量%から2重量%が特に好ましい。
【0037】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、P、Ga、およびGeの少なくとも1種を0.001重量%以上0.05重量%以下含有させることができる。この範囲内でP、Ga、およびGeの少なくとも1種を添加することにより、鉛フリーはんだ合金の酸化を防止することができる。但し、これらの含有量が0.05重量%を超えると鉛フリーはんだ合金の溶融温度が上昇し、またはんだ接合部にボイドが発生し易くなるため好ましくない。
【0038】
更に本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、Fe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を0.001重量%以上0.05重量%以下含有させることができる。この範囲内でFe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を添加することにより、鉛フリーはんだ合金の亀裂進展抑制効果を向上させることができる。但し、これらの含有量が0.05重量%を超えると鉛フリーはんだ合金の溶融温度が上昇し、またはんだ接合部にボイドが発生し易くなるため好ましくない。
【0039】
なお、本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、その効果を阻害しない範囲において、他の成分(元素)、例えばCd、Tl、Se、Au、Ti、Si、Al、Mg、Zn等を含有させることができる。また本実施形態の鉛フリーはんだ合金には、当然ながら不可避不純物も含まれるものである。
【0040】
また本実施形態の鉛フリーはんだ合金は、その残部はSnからなることが好ましい。なお好ましいSnの含有量は、79.8重量%以上97.49重量%未満である。
【0041】
本実施形態のはんだ接合部の形成は、例えばフロー方法、はんだボールによる実装、ソルダペースト組成物を用いたリフロー方法等、はんだ接合部を形成できるものであればどのような方法を用いても良い。なおその中でも特にソルダペースト組成物を用いたリフロー方法が好ましく用いられる。
【0042】
(2)ソルダペースト組成物
このようなソルダペースト組成物としては、例えば粉末状にした前記鉛フリーはんだ合金とフラックスとを混練しペースト状にすることにより作製される。
【0043】
このようなフラックスとしては、例えば樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスが用いられる。
【0044】
前記樹脂としては、例えばトール油ロジン、ガムロジン、ウッドロジン等のロジンおよび水添ロジン、重合ロジン、不均一化ロジン、アクリル酸変性ロジン、マレイン酸変性ロジン等のロジン誘導体を含むロジン系樹脂;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の各種エステル、メタクリル酸の各種エステル、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、マレイン酸のエステル、無水マレイン酸のエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、酢酸ビニル等の少なくとも1種のモノマーを重合してなるアクリル樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて用いることができる。
これらの中でもロジン系樹脂、その中でも特に酸変性されたロジンに水素添加をした水添酸変性ロジンが好ましく用いられる。また水添酸変性ロジンとアクリル樹脂の併用も好ましい。
【0045】
前記樹脂の酸価は10mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましく、その配合量はフラックス全量に対して10重量%以上90重量%以下であることが好ましい。
【0046】
前記チキソ剤としては、例えば水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記チキソ剤の配合量は、フラックス全量に対して3重量%以上15重量%以下であることが好ましい。
【0047】
前記活性剤としては、例えば有機アミンのハロゲン化水素塩等のアミン塩(無機酸塩や有機酸塩)、有機酸、有機酸塩、有機アミン塩を配合することができる。更に具体的には、ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩、シクロヘキシルアミン臭化水素酸塩、ジエチルアミン塩、酸塩、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸等が挙げられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記活性剤の配合量は、フラックス全量に対して5重量%以上15重量%以下であることが好ましい。
【0048】
前記溶剤としては、例えばイソプロピルアルコール、エタノール、アセトン、トルエン、キシレン、酢酸エチル、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、グリコールエーテル等を使用することができる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記溶剤の配合量は、フラックス全量に対して20重量%以上40重量%以下であることが好ましい。
【0049】
前記フラックスには、鉛フリーはんだ合金の酸化を抑える目的で酸化防止剤を配合することができる。この酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。その中でも特にヒンダードフェノール系酸化剤が好ましく用いられる。これらは単独でまたは複数を組合せて使用することができる。前記酸化防止剤の配合量は特に限定されないが、一般的にはフラックス全量に対して0.5重量%以上5重量%程度以下であることが好ましい。
【0050】
前記フラックスには、その他の樹脂、並びにハロゲン、つや消し剤、消泡剤および無機フィラー等の添加剤を加えてもよい。
前記添加剤の配合量は、フラックス全量に対して10重量%以下であることが好ましい。またこれらの更に好ましい配合量はフラックス全量に対して5重量%以下である。
【0051】
前記鉛フリーはんだ合金とフラックスとの配合比率は、はんだ合金:フラックスの比率で65:35から95:5であることが好ましい。より好ましい配合比率は85:15から93:7であり、特に好ましい配合比率は87:13から92:8である。
【0052】
(3)電子回路基板
本実施形態の電子回路基板の構成を図1を用いて説明する。本実施形態の電子回路基板100は、基板1と、絶縁層2と、電極部3と、電子部品4と、はんだ接合体10とを有する。はんだ接合体10は、はんだ接合部6とフラックス残渣7とを有し、電子部品4は、外部電極5と、端部8を有する。
基板1としては、プリント配線板、シリコンウエハ、セラミックパッケージ基板等、電子部品の搭載、実装に用いられるものであればこれらに限らず基板1として使用することができる。
電極部3は、はんだ接合部6を介して電子部品4の外部電極5と電気的に接合している。
またはんだ接合部6は、本実施形態に係るはんだ合金を用いて形成されている。
【0053】
このような構成を有する本実施形態の電子回路基板100は、はんだ接合部6が亀裂進展抑制効果を発揮する合金組成であるため、はんだ接合部6に亀裂が生じた場合であってもその亀裂の進展を抑制し得る。特に電子部品4にNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがなされていない場合であっても、はんだ接合部6と電子部品4との界面付近における亀裂進展抑制効果をも発揮することができる。またこれにより電子部品4の電極剥離現象をも抑制することができる。
【0054】
このような電子回路基板100は、例えば以下のように作製される。
先ず、所定のパターンとなるように形成された絶縁層2および電極部3を備えた基板1上に、前記ソルダペースト組成物を上記パターンに従い印刷する。
次いで印刷後の基板1上に電子部品4を実装し、これを230℃から260℃の温度でリフローを行う。このリフローにより基板1上にはんだ接合部6およびフラックス残渣7を有するはんだ接合体10が形成されると共に、基板1と電子部品4とが電気的接合された電子回路基板100が作製される。
【0055】
またこのような電子回路基板100を組み込むことにより、本実施形態の電子制御装置が作製される。
【実施例】
【0056】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳述する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
フラックスの作製
以下の各成分を混練し、実施例および比較例に係るフラックスを得た。
水添酸変性ロジン(製品名:KE-604、荒川化学工業(株)製) 51重量%
硬化ひまし油 6重量%
ドデカン二酸 10重量%(製品名:SL-12、岡村製油(株)製)
マロン酸 1重量%
ジフェニルグアニジン臭化水素酸塩 2重量%
ヒンダードフェノール系酸化防止剤(製品名:イルガノックス245、BASFジャパン(株)製) 1重量%
ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル 29重量%
【0058】
ソルダペースト組成物の作製
前記フラックス11.0重量%と、表1から表2に記載の各鉛フリーはんだ合金の粉末(粉末粒径20μmから38μm)89.0重量%とを混合し、実施例14、15、21、22、25から31、参考例1から13、16から20、23、24および比較例1から19に係る各ソルダペースト組成物を作製した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
(1)はんだ亀裂試験(-40℃から125℃)
・3.2mm×1.6mmチップ部品(チップA)
3.2mm×1.6mmのサイズのチップ部品(Ni/Snめっき)と、当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよび前記チップ部品を接続する電極(1.6mm×1.2mm)とを備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用意した。
前記ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペースト組成物を印刷し、それぞれ前記チップ部品を搭載した。
その後、リフロー炉(製品名:TNP-538EM、(株)タムラ製作所製)を用いて前記各ガラスエポキシ基板を加熱してそれぞれに前記ガラスエポキシ基板と前記チップ部品とを電気的に接合するはんだ接合部を形成し、前記チップ部品を実装した。この際のリフロー条件は、プリヒートを170℃から190℃で110秒間、ピーク温度を245℃とし、200℃以上の時間が65秒間、220℃以上の時間が45秒間、ピーク温度から200℃までの冷却速度を3℃から8℃/秒とし、酸素濃度は1500±500ppmに設定した。
次に、-40℃(30分間)から125℃(30分間)の条件に設定した冷熱衝撃試験装置(製品名:ES-76LMS、日立アプライアンス(株)製)を用い、冷熱衝撃サイクルを1,000、1,500、2,000、2,500、3,000サイクル繰り返す環境下に前記各ガラスエポキシ基板をそれぞれ曝した後これを取り出し、各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol-25、丸本ストルアス(株)、製)を用いて各試験基板に実装された前記チップ部品の中央断面が分かるような状態とし、形成されたはんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かを走査電子顕微鏡(製品名:TM-1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察し、以下の基準にて評価した。その結果を表3および表4に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価チップ数は10個とした。
◎:3,000サイクルまではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,501から3,000サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
△:2,001から2,500サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
×:2,000サイクル未満ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
【0062】
・2.0×1.2mmチップ部品(チップB)
2.0×1.2mmのサイズのチップ部品(Ni/Snめっき)と、当該サイズのチップ部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよび前記チップ部品を接続する電極(1.25mm×1.0mm)とを備えたガラスエポキシ基板を用いた以外は3.2mm×1.6mmチップ部品と同じ条件にて試験基板を作成し、且つ同じ方法にて評価した。その結果を表3および表4に表す。
【0063】
(2)SnめっきSONにおけるはんだ亀裂試験
6mm×5mm×0.8tmmサイズの1.3mmピッチSON(Small Outline Non-leaded package)部品(端子数8ピン、製品名:STL60N3LLH5、STMicroelectronics社製)と、当該SON部品を実装できるパターンを有するソルダレジストおよび前記SON部品を接続する電極(メーカー推奨設計に準拠)とを備えたガラスエポキシ基板と、同パターンを有する厚さ150μmのメタルマスクを用意した。
前記ガラスエポキシ基板上に前記メタルマスクを用いて各ソルダペースト組成物を印刷し、それぞれに前記SON部品を搭載した。その後、冷熱衝撃サイクルを1,000、2,000、3,000サイクル繰り返す環境下に各ガラスエポキシ基板を置く以外は上記はんだ亀裂試験(1)と同じ条件にて前記ガラスエポキシ基板に冷熱衝撃を与え、各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol-25、丸本ストルアス(株)製)を用いて各試験基板に実装された前記SON部品の中央断面が分かるような状態とし、はんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かについて走査電子顕微鏡(製品名:TM-1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察した。この観察に基づき、はんだ接合部について、はんだ母材(本明細書においてはんだ母材とは、はんだ接合部のうちSON部品の電極の界面およびその付近以外の部分を指す。以下同じ。なお表3および表4においては単に「母材」と表記する。)に発生した亀裂と、はんだ接合部とSON部品の電極の界面(の金属間化合物)に発生した亀裂に分けて以下のように評価した。その結果を表3および表4に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価SON数は20個とし、SON1個あたりゲート電極の1端子を観察し、合計20端子の断面を確認した。
【0064】
・はんだ母材に発生した亀裂
◎:3,000サイクルまではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
△:1,001から2,000サイクルの間ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
×:1,000サイクル未満ではんだ母材を完全に横断する亀裂が発生
【0065】
・はんだ接合部とSON部品の電極の界面に発生した亀裂
◎:3,000サイクルまで前記界面を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
△:1,001から2,000サイクルの間で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
×:1,000サイクル未満で前記界面を完全に横断する亀裂が発生
【0066】
(3)はんだ亀裂試験(-40℃から150℃)
車載用基板等は寒暖差の非常に激しい過酷な環境下に置かれるため、これに用いられるはんだ合金は、このような環境下においても良好な亀裂進展抑制効果を発揮することが求められる。そのため、本実施例に係るはんだ合金がこのようなより過酷な条件下においても当該効果を発揮し得るかどうかを明確にすべく、液槽式冷熱衝撃試験装置を用いて-40℃から150℃の寒暖差におけるはんだ亀裂試験を行った。その条件は以下のとおりである。
先ずはんだ接合部形成後の各ガラスエポキシ基板を-40℃(5分間)から150℃(5分間)の条件に設定した液槽式冷熱衝撃試験装置(製品名:ETAC WINTECH LT80、楠本(株)製)を用いて冷熱衝撃サイクルを1,000、2,000、3,000サイクル繰り返す環境下に曝す以外は上記はんだ亀裂試験(1)と同じ条件にて、3.2×1.6mmチップ部品搭載および2.0×1.2mmチップ部品搭載の各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の対象部分を切り出し、これをエポキシ樹脂(製品名:エポマウント(主剤および硬化剤)、リファインテック(株)製)を用いて封止した。更に湿式研磨機(製品名:TegraPol-25、丸本ストルアス(株)、製)を用いて各試験基板に実装された前記チップ部品の中央断面が分かるような状態とし、形成されたはんだ接合部に発生した亀裂がはんだ接合部を完全に横断して破断に至っているか否かを走査電子顕微鏡(製品名:TM-1000、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて観察し、以下の基準にて評価した。その結果を表3および表4に表す。なお、各冷熱衝撃サイクルにおける評価チップ数は10個とした。
◎:3,000サイクルまではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生しない
○:2,001から3,000サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
△:1,001から2,000サイクルの間ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
×:1,000サイクル未満ではんだ接合部を完全に横断する亀裂が発生
【0067】
(4)ボイド試験
上記はんだ亀裂試験(1)と同じ条件にて、3.2×1.6mmチップ部品搭載および2.0×1.2mmチップ部品搭載の各試験基板を作製した。
次いで各試験基板の表面状態をX線透過装置(製品名:SMX-160E、(株)島津製作所製)で観察し、各試験基板中40箇所のランドにおいて、チップ部品の電極下の領域(図3の破線で囲った領域(a))に占めるボイドの面積率(ボイドの総面積の割合。以下同じ。)とフィレットが形成されている領域(図3の破線で囲った領域(b))に占めるボイドの面積率の平均値を求め、それぞれについて以下のように評価した。その結果を表3および表4に表す。
◎:ボイドの面積率の平均値が3%以下であって、ボイド発生の抑制効果が極めて良好
○:ボイドの面積率の平均値が3%超5%以下であって、ボイド発生の抑制効果が良好
△:ボイドの面積率の平均値が5%超8%以下であって、ボイド発生の抑制効果が十分
×:ボイドの面積率の平均値が8%を超え、ボイド発生の抑制効果が不十分
【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
以上に示す通り、実施例に係る鉛フリーはんだ合金を用いて形成したはんだ接合部は、寒暖の差が激しく振動が負荷されるような過酷な環境下にあっても、そのチップのサイズを問わず、また電極にNi/Pd/AuめっきやNi/Auめっきがされているといないとを問わず、はんだ接合部および前記界面付近における亀裂進展抑制効果を発揮し得る。
特に液槽式冷熱衝撃試験装置を用いて寒暖の差を-40℃から150℃とした非常に過酷な環境下においても、実施例のはんだ接合部は良好な亀裂抑制効果を奏することが分かる。
特にNiとCoとを併用した実施例18から実施例31においては、いずれの条件下にあっても良好なはんだ接合部および前記界面付近の亀裂進展抑制効果を発揮し得る。
また、例えば実施例19や実施例22のようにNiやCoを0.25重量%含有させた場合であっても、フィレットにおけるボイドの発生を抑制することができる。
従って、このようなはんだ接合部を有する電子回路基板は車載用電子回路基板といった寒暖差が激しく且つ高い信頼性の求められる電子回路基板にも好適に用いることができる。更にこのような電子回路基板は、より一層高い信頼性が要求される電子制御装置に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 基板
2 絶縁層
3 電極部
4 電子部品
5 外部電極
6 はんだ接合部
7 フラックス残渣
8 端部
10 はんだ接合体
100 電子回路基板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを1重量%以上5重量%以下と、Biを3.1重量%以上4.5重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下含み、残部がSnからなる粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することを特徴とするソルダペースト組成物。
【請求項2】
前記鉛フリーはんだ合金が更にCoを0.001重量%以上0.25重量%以下含み、Sbの含有量が2重量%以上4重量%以下であり、Biの含有量が3.1重量%以上3.2重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のソルダペースト組成物。
【請求項3】
Agを2重量%以上3.1重量%以下と、Cuを1重量%以下と、Sbを2重量%以上4重量%以下と、Biを3.1重量%以上3.2重量%以下と、Niを0.01重量%以上0.25重量%以下と、Coを0.001重量%以上0.25重量%以下含み残部がSnからなり、AgとCuとSbとBiとNiとCoのそれぞれの含有量(重量%)が下記式(A)から(D)の全てを満たす粉末状の鉛フリーはんだ合金と、
樹脂と、チキソ剤と、活性剤と、溶剤とを含むフラックスを有することを特徴とするソルダペースト組成物。
1.6≦Ag含有量+(Cu含有量/0.5)≦5.9 … A
0.85≦(Ag含有量/3)+(Bi含有量/4.5)≦ 2.10 … B
3.6 ≦ Ag含有量+Sb含有量≦ 8.9 … C
0<(Ni含有量/0.25)+(Co含有量/0.25)≦1.19 …D
【請求項4】
前記鉛フリーはんだ合金が更にP、Ga、およびGeの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のソルダペースト組成物。
【請求項5】
前記鉛フリーはんだ合金が更にFe、Mn、Cr、およびMoの少なくとも1種を合計で0.001重量%以上0.05重量%以下含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のソルダペースト組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-21 
出願番号 特願2016-224592(P2016-224592)
審決分類 P 1 652・ 161- YAA (B23K)
P 1 652・ 113- YAA (B23K)
P 1 652・ 537- YAA (B23K)
P 1 652・ 121- YAA (B23K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川口 由紀子  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 金 公彦
長谷山 健
登録日 2017-04-14 
登録番号 特許第6125084号(P6125084)
権利者 株式会社タムラ製作所
発明の名称 鉛フリーはんだ合金を用いたソルダペースト組成物、電子回路基板および電子制御装置  
代理人 太田 洋子  
代理人 太田 洋子  
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