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審決分類 審判 一部申し立て 特39条先願  C08L
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C08L
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 一部申し立て 発明同一  C08L
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 一部申し立て 判示事項別分類コード:857  C08L
管理番号 1341988
異議申立番号 異議2017-700355  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-11 
確定日 2018-06-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6006298号発明「ポリスチレン系樹脂組成物及びこれを成形してなる導光板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6006298号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〕、〔2〕、〔3-4〕、〔5〕、〔6〕、〔7-8〕について訂正することを認める。 特許第6006298号の請求項1、2、5及び6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6006298号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2014-509173号(PCT/JP2013/060107)、以下「本願」という。)は、平成24年4月2日提出の特願2012-83951号、平成24年7月9日提出の特願2012-153906号及び平成24年10月4日提出の特願2012-222539を優先基礎出願とする優先権主張を伴って、特許権者であるPSジャパン株式会社によりなされた、平成25年4月2日を国際出願日とする特許出願であり、平成28年9月16日に特許権の設定登録(請求項の数8)がされ、平成28年10月12日に特許掲載公報が発行された。
その後、特許異議申立人西郷新(以下、「申立人」という。)により、請求項1、2、5及び6に係る本件特許について、甲第1号証?甲第15号証を証拠方法として平成29年4月11日に特許異議の申立てがされ、平成29年6月19日付けで取消理由が通知され、特許権者より同年8月10日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年9月21日に申立人から意見書が提出された。
平成29年10月31日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年12月7日に特許権者より意見書が提出がされ、さらに、同年12月25日付けで再度の取消理由(決定の予告)が通知され、特許権者より平成30年3月5日に意見書の提出及び訂正請求がされ、同年4月25日に申立人から意見書が提出された。
なお、平成29年8月10日に提出された訂正請求書による訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定より、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1.請求の趣旨
平成30年3月5日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6006298号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?8について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。

2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。

(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、かつ、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有する、前記スチレン系樹脂組成物。」と記載されているのを、
「スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマーであり、かつ該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーは(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸である、前記スチレン系樹脂組成物。」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「前記スチレン系樹脂1g当たりのタイマーとトリマーの合計含有量が、5000μg以下であり、かつ、下記構造式(I):
【化1】(合議体注;構造式の記載は省略する。)
で表されるトリマー成分(1a-フェニル-4e-(1’-フェニルエチル)テトラリン)の含有量が3000μg未満である、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、前記スチレン系樹脂1g当たりのダイマーとトリマーの合計含有量が、5000μg以下であり、下記構造式(I):
【化1】(合議体注;構造式の記載は省略する。)
で表されるトリマー成分(1a-フェニル-4e-(1’-フェニルエチル)テトラリン)の含有量が3000μg未満であり、かつ前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマー、又は該スチレン系モノマー50質量%超と(メタ)アクリル酸エステル50質量%未満とのポリマーである、前記スチレン系樹脂組成物。」
に訂正する。

(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「離型剤0.1?1.0質量部をさらに含有する、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。」
と記載されているのを、
「スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1gあたりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ離型剤0.1?1.0質量部をさらに含有する、前記スチレン系樹脂組成物。」に訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項5に
「スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する導光板であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの合有量が1?6μgであり、かつ、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有する、前記導光板。」
と記載されているのを、
「スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する導光板であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマーである、前記導光板。」
に訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「前記スチレン系樹脂1g当たりのタイマーとトリマーの合計含有量が、5000μg以下であり、かつ、下記構造式(I):
【化2】(合議体注;構造式の記載は省略する。)
で表されるトリマー成分(la-フェニル-4e-(1’-フェニルエチル)テトラリン)の含有量が3000μg未満である、請求項5に記載の導光板。」
と記載されているのを、
「スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する導光板であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、前記スチレン系樹脂1g当たりのダイマーとトリマーの合計含有量が、5000μg以下であり、下記構造式(I):
【化2】(合議体注;構造式の記載は省略する。)
で表されるトリマー成分(1a-フェニル-4e-(1’-フェニルエチル)テトラリン)の含有量が3000μg未満であり、前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマー、又は該スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマーであり、かつ該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーは(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸である、前記導光板。」
に訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の特許請求の範囲の請求項7に
「離型剤0.1?1.0質量部をさらに含有する、請求項5又は6に記載の導光板。」
と記載されているのを、
「スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する導光板であって、該スチレン系樹脂1gあたりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ離型剤0.1?1.0質量部をさらに含有する、前記導光板。」
に訂正する。

3.一群の請求項、訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)一群の請求項について
訂正事項1?3による本件訂正は、訂正前の請求項1?4を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2?4は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1?4は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であって、訂正事項1?3による本件訂正は、同規定による一群の請求項ごとにされたものである。
また、訂正事項4?6による本件訂正は、訂正前の請求項5?8を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項5?8は、訂正請求の対象である請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項5?8は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であって、訂正事項4?6による本件訂正は、同規定による一群の請求項ごとにされたものである。

(2)訂正事項1による訂正について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1における発明の発明特定事項である「スチレン系樹脂」を、「スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマーであり、かつ該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーは(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸」であるものに限定するものであるから、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項1による訂正に関し、本件特許の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書」という。)の【0020】には、「(ポリスチレン系樹脂) ポリスチレン系樹脂(又は重合体)は、ポリスチレン系単量体を主成分として(具体的には50質量%超で)含む樹脂である。ポリスチレン系樹脂を形成するために使用されるスチレン系単量体としては、例えば、スチレン・・・等が挙げられる。・・・また、ポリスチレン系樹脂としては、スチレンと共重合可能なコモノマーを、スチレンと共重合することにより得られたコポリマーを使用してもよい。スチレンと共重合可能なコモノマーとしては、例えば、・・等の(メタ)アクリル酸エステル類;・・・;(メタ)アクリル酸・・・、等の不飽和脂肪酸類;・・・等が挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用されることができる。」と記載されているから、訂正事項1による訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項2による訂正について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項2が請求項1を引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めると共に、訂正前の請求項2に係る発明の発明特定事項である「スチレン系樹脂」(ただし、訂正前の請求項2は引用形式であるためそこには直接の記載はなく、引用元である請求項1に記載されている。)を、「スチレン系モノマーのポリマー、又は該スチレン系モノマー50質量%超と(メタ)アクリル酸エステル50質量%未満とのポリマー」に限定するものであるから、訂正事項2による訂正は、請求項間の引用関係の解消、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2による訂正は、(2)でも言及した本件特許明細書の【0020】の記載に基づくものであって、訂正事項2による訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項3による訂正について
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用していたのを、引用関係を解消して請求項1を引用する発明について独立形式に改めるものであるから、訂正事項3による訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。また、訂正事項3による訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項4による訂正について
訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項5における発明の発明特定事項である「スチレン系樹脂」を、「スチレン系モノマーのポリマー」に限定するものであるから、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4による訂正は、(2)でも言及した本件特許明細書の【0020】の記載に基づくものであって、訂正事項4による訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項5による訂正について
訂正事項5による訂正は、訂正前の請求項6が請求項5を引用する記載であったのを、引用関係を解消して独立形式に改めると共に、訂正前の請求項6に係る発明の発明特定事項である「スチレン系樹脂」(ただし、訂正前の請求項6は引用形式であるためそこには直接の記載はなく、引用元である請求項5に記載されている。)を、「スチレン系モノマーのポリマー、又は該スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマーであり、かつ該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーは(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸」であるものに限定するものであるから、訂正事項5による訂正は、請求項間の引用関係の解消、及び、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5による訂正は、(2)でも言及した本件特許明細書の【0020】の記載に基づくものであって、訂正事項5による訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項6による訂正について
訂正事項6による訂正は、訂正前の請求項7が請求項5又6を引用していたのを、引用関係を解消して請求項5を引用する発明について独立形式に改めるものであるから、訂正事項6による訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものである。また、訂正事項6による訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1?6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条4項に適合するとともに、同条9項において準用する同法126条5項及び6項に適合するものであるから、本件訂正を認める。

特許権者は、本件訂正請求において、訂正前の請求項2、3、6及び7について、引用関係を解消する訂正(訂正事項2、3、5及び6)をしており、また、特許権者は、本件訂正請求書の18頁(「ウ 引用関係の解消の求め」の項)において、請求項2及び3についての訂正が認められるときは請求項1とは別の訂正単位として扱われることの求めを、請求項6及び7についての訂正が認められるときは請求項5とは別の訂正単位として扱われることの求めを要求している。そして、訂正前の請求項2、3、6及び7についての本件訂正は認められるので、訂正後の請求項〔1〕、〔2〕、〔3-4〕、〔5〕、〔6〕、〔7-8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?8に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)。

「【請求項1】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマーであり、かつ該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーは(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸である、前記スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、前記スチレン系樹脂1g当たりのダイマーとトリマーの合計含有量が、5000μg以下であり、下記構造式(I):
【化1】


で表されるトリマー成分(1a-フェニル-4e-(1’-フェニルエチル)テトラリン)の含有量が3000μg未満であり、かつ前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマー、又は該スチレン系モノマー50質量%超と(メタ)アクリル酸エステル50質量%未満とのポリマーである、前記スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1gあたりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ離型剤0.1?1.0質量部をさらに含有する、前記スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記離型剤が高級アルコール又は高級脂肪酸である、請求項3に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する導光板であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマーである、前記導光板。
【請求項6】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する導光板であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、前記スチレン系樹脂1g当たりのダイマーとトリマーの合計含有量が、5000μg以下であり、下記構造式(I):
【化2】


で表されるトリマー成分(1a-フェニル-4e-(1’-フェニルエチル)テトラリン)の含有量が3000μg未満であり、前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマー、又は該スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマーであり、かつ該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーは(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸である、前記導光板。
【請求項7】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する導光板であって、該スチレン系樹脂1gあたりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ離型剤0.1?1.0質量部をさらに含有する、前記導光板。
【請求項8】
前記離型剤が高級アルコール又は高級脂肪酸である、請求項7に記載の導光板。」

なお、以下、請求項1、6に特定される「スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマーであり、かつ該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーは(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸」であるスチレン系樹脂を、「スチレン(メタ)アクリル酸エステル/スチレン(メタ)アクリル酸コポリマー」といい、請求項2、5及び6に特定される「スチレン系モノマーのポリマー」を「スチレンホモポリマー」と、請求項2及び5に特定される「スチレン系モノマー50質量%超と(メタ)アクリル酸エステル50質量%未満とのポリマー」を、「スチレン(メタ)アクリル酸エステルコポリマー」という。
また、この特許異議の決定において、以下、請求項2及び5で、「構造式(I)」の【化1】及び【化2】として表記される構造式の記載は省略する。


第4 特許異議の申立て及び取消理由通知の概要

1.特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した特許異議の申立ての理由
請求項1、2、5及び6に係る発明についての本件特許に対し、申立人が申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、請求項1、2、5及び6に係る発明についての優先権主張の効果は認められず、これらの請求項に係る発明についての本件特許は、次の(1)?(4)のとおりの取消理由により、取り消されるべきものであるし、仮に、請求項1、2、5及び6に係る発明についての優先権主張の効果が認められる場合には、さらに、次の(5)のとおりの取消理由によっても、これらの請求項に係る発明についての本件特許は取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、下記(6)の甲第1号証?甲第15号証を提出した。

(1)取消理由1(先願発明)
請求項1、2、5及び6に係る発明は、下記の先願の請求項1に係る発明と同一であるし、請求項5及び6に係る発明は、下記の先願の請求項3に係る発明と同一であるから、これらの請求項に係る本件特許は、特許法第39条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
先願:特願2012-136804号(特許第6038497号;申立人による下記の甲第1号証である。)

(2)取消理由2(サポート要件)
請求項1、2、5及び6に係る本件特許は、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(甲第4号証を主たる引用文献とする進歩性)
請求項1及び5に係る発明は、甲第4号証に記載された発明、甲第5号証?甲第9号証に記載の技術的事項、及び、甲第10号証?甲第15号証に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるし、請求項2及び6に係る発明は、甲第4号証に記載された発明、甲第2号証に記載の技術的事項、甲第5号証?甲第9号証に記載の技術的事項、及び甲第10号証?甲第15号証に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1、2、5及び6に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)取消理由4(甲第5号証?甲第14号証のいずれかを主たる引用文献とする進歩性)
請求項1及び5に係る発明は、甲第5号証?甲第14号証のいずれかに記載された発明、及び、甲第4号証?甲第15号証のうちの残りの各証拠に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるし、請求項2及び6に係る発明は、甲第5号証?甲第14号証のいずれかに記載された発明、甲第4号証?甲第15号証のうちの残りの各証拠に記載された技術的事項、及び、甲第2号証に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1、2、5及び6に係る本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)取消理由6(先願明細書(甲第14号証)に記載された発明)
請求項1、2、5及び6に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、本件特許の出願後に公開された甲第14号証に係る特許出願の出願日における明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、その出願人又は発明者が同一ではないから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。よって、請求項1、2、5及び6に係る本件特許は、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

(6)証拠方法
甲第1号証:特願2012-136804号(特許第6038497号;平成24年6月18日出願)
甲第2号証:特開平9-111073号公報
甲第3号証:特許庁編「特許・実用新案審査基準」(2015年9月)、第III部第4章(先願(特許法第39条))
甲第4号証:特開2010-211977号公報
甲第5号証:国際公開第2010/071152号
甲第6号証:特開2004-250610号公報
甲第7号証:国際公開第2011/162306号
甲第8号証:特開2009-215476号公報
甲第9号証:特開2004-250609号公報
甲第10号証:特開2008-189902号公報
甲第11号証:Material Life,5(4),(Oct.1993),pp.89-95
甲第12号証:特開2009-185291号公報
甲第13号証:住友化学技術誌2006-I,(2006年5月),pp.24-29
甲第14号証:特開2012-149156号公報(特願2011-8465号;平成23年1月19日出願、平成24年8月9日公開)
甲第15号証:米国特許第5,221,461号明細書

(以下、それぞれ「甲1」?「甲15」ともいう。)

2.平成29年6月19日付け取消理由通知書に記載した取消理由
(1)上記1.(1)の取消理由1(先願発明)と同旨。(ただし、請求項1及び5についてのみで、後者における先願発明は、先願の請求項3に係る発明のみ。)
(2)上記1.(2)の取消理由2(サポート要件)と同旨。

3.平成29年12月25日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由
(1)上記1.(1)の取消理由1(先願発明)と同旨。(ただし、請求項1についてのみ。)
(2)上記1.(2)の取消理由2(サポート要件)と同旨。


第5 当審の判断
以下に述べるように、2回の取消理由通知書に記載した取消理由及び申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、訂正後の請求項1、2、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。
以下、事案に鑑み、まず、本件特許の優先権主張の効果の有効性について検討した後、取消理由については、取消理由通知書に採用した取消理由(取消理由1及び2)、取消理由通知書において採用しなかった特許異議の申立ての理由(取消理由3?5)の順で検討する。

1.本件特許の優先権主張の効果の有効性について
本件発明1、2、5及び6に関し、本件発明1、2、5及び6の発明特定事項のうち、スチレン系樹脂組成物が、(スチレン系樹脂100質量部に対して)「フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有する」との技術的事項は、本件特許に係る出願の優先権の基礎となる出願(特願2012-83951号、特願2012-153906号及び特願2012-222539号、以下、これらをまとめて「優先権基礎出願」という。)の出願書類には記載されていない事項である。
優先権基礎出願には、スチレン系樹脂組成物に、必要に応じてフェノール系酸化防止剤を添加しても良いことは記載されている(例えば、特願2012-83951号の【0025】)が、フェノール系酸化防止剤をスチレン系樹脂100質量部に対して0.02?0.2質量部となる量で含有するものとすることについては記載されておらず、かかる技術的事項は、本件特許に係る出願の現実の出願日である平成25年4月2日に提出された国際出願(PCT/JP2013/060107)の明細書等において初めて記載されたものである。

したがって、本件発明1、2、5及び6については、優先基礎出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものであるとはいえないから、本件発明1、2、5及び6についての、優先権の主張の効果は認められない。


2.取消理由1(先願発明)についての検討
1.で記載したとおり、本件発明1、2、5及び6については優先権主張の効果は認められないから、取消理由1についての検討における、本件発明1、2、5及び6についての判断の基準日は、本件特許に係る出願とみなされた国際出願の現実の出願日(以下、単に、「本件特許の出願日」という。)である平成25年4月2日となる。

(1)先願発明1
本件特許の先願(特願2012-136804号)は、本件特許の出願日より前の平成24年6月18日に特許出願されたものであって、先願に係る特許第6038497号の請求項1に係る発明は、該特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリスチレン樹脂、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤及び4-t-ブチルカテコールを含むポリスチレン樹脂組成物であって、
該リン系酸化防止剤の含有量が、該ポリスチレン樹脂100質量部に対して0.02質量部?0.2質量部であり、
該フェノール系酸化防止剤の含有量が、該ポリスチレン樹脂100質量部に対して0.02質量部?0.2質量部であり、そして
該4-t-ブチルカテコールの含有量が、該ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?6μgである、ポリスチレン樹脂組成物。」
(以下、「先願発明1」という。)

(2)本件発明1について
第3で記載した定義に基づいて本件発明1と先願発明1とを対比すると、本件発明1の「スチレン(メタ)アクリル酸エステル/スチレン(メタ)アクリル酸コポリマー」も、先願発明1の「ポリスチレン樹脂」も、いずれも、「スチレン系樹脂」であるから、両者は、以下の一致点で一致し、以下の相違点1で相違する。
<一致点>
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有する、前記スチレン系樹脂組成物。
<相違点1>
スチレン系樹脂が、本件発明1では、「スチレン(メタ)アクリル酸エステル/スチレン(メタ)アクリル酸コポリマー」であるのに対し、先願発明1では、「ポリスチレン樹脂」、すなわち、「スチレンホモポリマー」である点。

そうすると、本件発明1と先願発明1とは、上記の点で相違するのであるから、本件発明1は先願発明1と同一であるということはできない。

これに関し、申立人は、平成30年4月25日提出の意見書の3-1.において、上記の相違点は、課題解決のための具体化手段における微差にすぎないから、本件発明1と先願発明1は、実質同一である旨主張している。
しかしながら、本件発明1の課題は、「スチレン(メタ)アクリル酸エステル/スチレン(メタ)アクリル酸コポリマー」における「光線透過率及び色調の向上」(本件特許明細書の【0007】)であるのに対し、先願発明1の課題は、「スチレンホモポリマー」における「光学特性(具体的には光線透過率)」の向上(甲1の【0009】)であって、両者の発明が解決しようとする課題は、光線透過率を向上させる前提となるポリマーが異なる点で、異なっている。そうすると、本件発明1と先願発明1との相違点は、「課題解決のための具体化手段における微差」とはいえず、上記相違点は、実質的な相違点である。
よって、上記申立人の主張は採用できない。

(3)本件発明2について
(2)での対比を踏まえて本件発明2と先願発明1とを対比すると、本件発明2と先願発明1とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点2で相違する。

<一致点>
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマー(すなわち、「スチレンホモポリマー」)である、前記スチレン系樹脂組成物。
<相違点2>
スチレン系樹脂について、本件発明2では、「スチレン系樹脂1g当たりのダイマーとトリマーの合計含有量が、5000μg以下であり、下記構造式(I):【化1】で表されるトリマー成分(1a-フェニル-4e-(1’-フェニルエチル)テトラリン)の含有量が3000μg未満」と特定されているのに対し、先願発明1では、かかる特定はされていない点。

そうすると、本件発明2と先願発明1とは、上記の点で相違するのであるから、本件発明1は先願発明1と同一であるということはできない。

これに関し、申立人は、申立書の(ウ)(i)において、相違点2は、甲2、甲4、甲7、甲8及び甲13に開示されるように周知慣用技術であって、相違点2は、課題解決のための具体化手段における微差に過ぎないないから、本件発明2は先願発明1と同一である旨主張する。

そこで、検討すると、以下のとおり、これら各甲号証の記載を検討しても、相違点2に係る構成が周知慣用技術であって、相違点2が課題解決のための具体化手段における微差に過ぎないということはできない。
すなわち、本件特許明細書の【0031】及び【0033】によれば、本件発明2は、相違点2の構成を備えることで、光路長が300mmの樹脂成形体とにおいて500?600nmの平均透過率が83%を下回ることがなく、光線透過率に優れた樹脂性成形体となるという技術的意義を有するといえる。
一方、申立人が周知技術として提示した文献には、スチレン系樹脂に、副生物としてダイマー及びトリマーが含まれることは記載されるが、構造式(I)で表される構造のトリマー成分を開示しているのは甲2のみであるし、当該文献も含め、いずれの文献にも、相違点2に係る本件発明2の構成は具体的には開示されていない。また、スチレン系樹脂中のダイマー及びトリマーの含有量と光線透過率との関係を示唆する記載もない。

そうすると、相違点2の構成を備えることで、光線透過率に優れた樹脂性成形体とするという技術的意義を有する本件発明2について、相違点2の構成が課題解決のための具体化手段における微差に過ぎず、本件発明2は先願発明1と同一である、ということはできない。

よって、申立人の主張は採用できない。

(4)本件発明5について
(2)での対比を踏まえて本件発明2と先願発明1とを対比すると、本件発明5と先願発明1とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点3で相違する。
<一致点>
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有し、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマー(すなわち、「スチレンホモポリマー」)である、前記スチレン系樹脂を含む物。
<相違点3>
スチレン系樹脂を含む物が、本件発明5は「導光板」であるのに対し、先願発明1は「樹脂組成物」である点。

そうすると、本件発明5と先願発明1とは、上記相違点3で相違するのであるから、本件発明5は先願発明1と同一であるということはできない。

これに関し、申立人は、申立書の(エ)(i)において、相違点3は、甲4、甲5、甲10及び甲14に開示されるとおり周知慣用技術であるから、本件発明5は先願発明1と同一である旨主張する。
しかしながら、「導光板」と「樹脂組成物」は、概念上、明確に区別されるものであって、本件発明5と先願発明1とは、技術的思想である発明の対象が明確に異なる。
そうすると本件発明5は先願発明1と同一であるとはいえない。
よって、申立人の主張は採用できない。

(5)本件発明6について
上記(2)での対比を踏まえて本件発明6と先願発明1とを対比すると、本件発明6と先願発明1とは、上記(4)で記載した一致点で一致し、(3)で記載した相違点2及び(4)で記載した相違点3で相違する。
そして、相違点2及び相違点3についての判断は、それぞれ、上記(3)及び(4)において、本件発明2及び本件発明5について検討したと同様である。
よって、本件発明6は先願発明1と同一であるとはいえない。

(6)先願の請求項3に係る発明に基づく取消理由について
本件訂正前の請求項5に係る発明に対し、平成29年6月19日付け取消理由通知書の取消理由1として、先願の請求項3に係る発明と同一であるとの取消理由を通知していたし、申立人は、申立書の(エ)(i)及び(オ)(i)訂正前の請求項5及び6に係る発明について、先願の請求項3に係る発明と同一である旨の取消理由を主張していたので、検討する。(なお、申立書の(エ)(i)及び(オ)(i)の「甲第1号証の・・・請求項2」は、「甲第1号証の・・・請求項3」の誤記と認める。)
先願に係る特許第6038497号の請求項3については、平成29年8月25日に、「特許第6038497号の特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3について訂正することを認める。」との審決を求める訂正審判(訂正2017-390085)が請求され、請求項3を削除する訂正を認めた審決が既に平成29年10月19日に確定している。
そうすると、先願の請求項3が削除されたことから、上記の取消理由にはいずれも理由がないことは明らかである。

(7) まとめ
以上のとおり、当審において通知した取消理由1、及び、申立人が主張する取消理由1には、理由がなく、取消理由1によっては、本件発明1、2、5及び6についての特許を取り消すことはできない。


3.取消理由2(サポート要件)について
(1)本件特許明細書の記載
本件発明の課題に関し、本件特許明細書には、以下の記載がある。

「【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のバックライトには、光源を表示装置の正面に配置する直下型と側面に配置するエッジライト型がある。導光板は、エッジライト型バックライトに用いられ、側面に配置された光源の光を正面に導く役割を果たす。エッジライト型バックライトは、テレビ、パーソナルコンピュータ用モニター(例えば、デスクトップ用、ノートブック用など)、カーナビゲーションシステム用モニター、携帯電話、PDAなどのように、より薄型が求められる用途で使用されることが多く、以前は直下型がほとんどだった大画面サイズ(32インチ以上)テレビでもエッジライト型バックライトが使用される機会が増えており、現在ではバックライトの主流となっている。
【0003】
エッジライト方式では、導光板中の光透過距離が比較的長いため導光板中での光損失が大きく、光損失を防止するためには、材料に高い光線透過率を有することが求められている。このため、導光板にはメタクリル酸メチルなどのアクリル樹脂が使用されることが多いが、アクリル樹脂の高吸水性のために、片面から吸水したときの成形品の反り又は全面から吸水したときの寸法変化が発生するという問題があり、大画面サイズになるとその問題がより顕著になる。
【0004】
一方で、ポリスチレン系樹脂は、低い吸水率(約0.05%)を有するので、成形品の反り又は寸法変化という問題は無い。吸水性という観点では優れるポリスチレン系樹脂ではあるが、その光線透過率はアクリル系樹脂に比較してやや劣る。特に短い波長(?500nm)の光線透過率がアクリル樹脂に比較して低いために、光透過距離が長くなると、ポリスチレン系樹脂を透過した光は僅かに黄色味を帯びることがあるため、カラー液晶表示における色合いに影響を及ぼすという問題がある。そのため、導光板の原料として、アクリル樹脂とポリスチレン系樹脂の組み合わせが提案されているものの(以下の特許文献1と2を参照のこと)、ポリスチレン系樹脂を単独で用いることはほとんど無く、ポリスチレン系樹脂の光学特性を向上するための検討はこれまで成されていない。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリスチレンは吸水性が低く、成形品の反り又は寸法変化という問題はほとんどないものの、光線透過率が十分でなく導光板の原料としては必ずしも満足のいくものではなかった。したがって、本発明が解決しようとする課題は、ポリスチレン系樹脂の光線透過率及び色調を向上させて、導光板の製造に適したポリスチレン系樹脂組成物を提供することである。」


また、本件発明の課題解決手段に関し、本件特許明細書には、以下の記載がある。

「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決すべき鋭意検討し実験を重ねた結果、スチレン系樹脂に特定の量のリン系酸化防止剤、特定の量の4-t-ブチルカテコール、特定の量のフェノール系酸化防止剤、特定の量の離型剤を含有させ、さらにスチレン系樹脂中のトリマーの量、及びダイマーとトリマーの合計量を特定の範囲内に調整することにより、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。」

「【0020】
・・・
<ポリスチレン系樹脂組成物>
本発明の実施形態では、ポリスチレン系樹脂組成物は、ポリスチレン系樹脂、リン系酸化防止剤、4-t-ブチルカテコール、離型剤、及び所望により適宜各種の添加剤を含む。
(ポリスチレン系樹脂)
ポリスチレン系樹脂(又は重合体)は、ポリスチレン系単量体を主成分として(具体的には50質量%超で)含む樹脂である。ポリスチレン系樹脂を形成するために使用されるスチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、パラメチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。これらの中でもスチレンが好ましい。また、ポリスチレン系樹脂としては、スチレンと共重合可能なコモノマーを、スチレンと共重合することにより得られたコポリマーを使用してもよい。スチレンと共重合可能なコモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステル類;・・・スチレン以外の芳香族ビニル単量体類;(メタ)アクリル酸、・・・等の不飽和脂肪酸類;・・・等が挙げられる。これらの単量体は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用されることができる。」

「【0025】
(リン系酸化防止剤及びフェノール性酸化防止剤)
リン系酸化防止剤は、分子中にリン原子を有する化合物を含む酸化防止剤である。リン系酸化防止剤は、高温下で劣化の原因となるヒドロペルオキシドを還元することで安定化するため、比較的短い波長(例えば、波長420?500nm)の光の透過率の向上に寄与し、特に、薄黄色着色の低減に寄与する。・・・
【0026】
フェノール系酸化防止剤は、分子中にヒンダードフェノール構造を含む酸化防止剤である。フェノール系酸化防止剤は、自動酸化において発生するペルオキシラジカルを捕捉し、準安定なヒドロペルオキシドとすることで、連鎖的な劣化の進行を抑制する。ヒドロペルオキシドは、リン系酸化防止剤によりさらに還元されて安定化される。これに起因して、フェノール系酸化防止剤は、高温曝露時の光線透過率の保持率の向上に寄与し、特に、高温環境での使用時の薄黄色着色の低減に寄与する。・・・
【0027】
ポリスチレン系樹脂組成物中のリン系酸化防止剤の含有量は、ポリスチレン系樹脂100質量部当たり、0.02質量部?0.2質量部である。この含有量が0.02質量部以上であると、成形時等樹脂が溶融するような高温での劣化による光線透過率の低下を抑えることができ、一方、0.2質量部以下であると、モールドデポジットが発生しなくなる点又はコストの点で有利である。・・・
【0028】
ポリスチレン系樹脂組成物中のフェノール系酸化防止剤の含有量は、ポリスチレン系樹脂100質量部当たり、0.02質量部?0.2質量部である。この含有量が0.02質量部以上であると、導光板として使用される環境温度(室温?約70℃)での劣化による光線透過率の低下を抑えることができ、一方、0.2質量部以下であると、フェノール系酸化防止剤自身が原因となる光線透過率の低下を防ぐことができる点又はコストの点で有利である。」

「【0030】
(4-t-ブチルカテコール)
・・・また、ポリスチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの濃度(以下、「TBC濃度」ともいう。)は、1μg/g?6μg/gの範囲である。TBC濃度が、1μg/g以上であると、リン系酸化防止剤と併用することにより、ポリスチレン系樹脂とリン系酸化防止剤との併用による光線透過率の低下を抑制することができ、一方で、6μg/g以下であると、4-t-ブチルカテコール自体の着色による光線透過率の低下を防止できる。」

「【0046】
上述のポリスチレン系樹脂組成物を成形して得られた導光板は、光学特性(具体的には光線透過率、特に、短い波長の光線透過率)に優れる。具体的には、導光板は、光路長300mmにおいて、波長500?600nmの範囲の平行光の平均透過率(%)(以下の表1、2中で、Bと記載する。)が、好ましくは83%以上、より好ましくは84%以上、更に好ましくは85%以上である。波長500?600nmの範囲の平行光の平均透過率が83%以上であれば、光学特性に優れ有利である。該平均透過率は高いほど好ましいが、素材の屈折率の観点から、例えば、好ましくは93%以下、より好ましくは91%以下であることができる。
【0047】
また、導光板は、波長選択性(すなわち波長による光線透過率の差)に優れ、具体的には、光路長300mmにおいて、波長500nm?600nmの範囲の平行光の平均透過率に対する波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率の比(波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率(%)(以下の表1、2中で、Aと記載する。)/波長500nm?600nmの範囲の平行光の平均透過率(%)、すなわち、A/Bが、好ましくは0.92以上、より好ましくは0.93以上である。上記比が0.92以上であることは、光学特性に優れる点で有利であり、特に薄黄色の着色が抑えられる点で有利である。
【0048】
また、導光板は、高温処理後の光線透過率に優れ、光路長300mmにおいて、上記の波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率に対する、80℃及び500時間の曝露処理後の波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率(%)(以下の表1、2中で、Cと記載する。)の比率で定義される、平均透過率の保持率((C/A)×100)が、93%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは95.5%以上、更に好ましくは96%以上である。上記保持率が95%以上であることは、光源等の熱源により加熱され続ける環境で使用した場合にも着色(特に薄黄色の着色)が抑えられる点で有利である。」

「【0090】
【表1】

【0091】
【表2】



(2)本件発明1、2、5及び6が解決しようとする課題について
特許請求の範囲(請求項1、2、5及び6)及び上記本件特許明細書の記載(【0002】?【0007】、特に【0007】)によれば、本件発明1及び2が解決しようとする課題は、「ポリスチレン系樹脂の光線透過率(特に短い波長(?500nm)の光線透過率)及び色調が向上した導光板の製造に適したポリスチレン系樹脂組成物を提供すること」であると認められるし、また、本件発明5及び6が解決しようとする課題は、「ポリスチレン系樹脂の光線透過率(特に短い波長(?500nm)の光線透過率)及び色調が向上した導光板を提供すること」であると認められる。
(以下、本件発明1、2、5及び6が解決しようとする課題をまとめて、「本件発明の課題」という。)

(3)サポート要件についての判断
以下、上記(1)の本件特許明細書の記載から、本件特許出願時の技術常識を考慮して、本件発明の課題が本件発明1、2、5及び6に特定される発明特定事項(課題解決手段)により解決できると、当業者が認識できるかについて検討する。

上記【0020】によれば、本件発明のスチレン系樹脂は、「スチレン系単量体」を重合したもの、すなわち、本件発明2、5及び6に特定される「スチレンホモポリマー」であってもよいし、本件発明1及び6に特定される「スチレン(メタ)アクリル酸エステル/スチレン(メタ)アクリル酸コポリマー」や、本件発明2に特定される「スチレン(メタ)アクリル酸エステルコポリマー」であってもよい。
そして、【0004】によれば、かかる「ポリスチレン系樹脂」は、光線透過率(特に、?500nmの短波長の光線透過率)がアクリル樹脂に比較して低いため、光透過距離が長くなると、ポリスチレン系樹脂を透過した光は僅かに黄色味を帯びる問題があったところ、【0008】によれば、本件発明においては、スチレン系樹脂に、「特定の量のリン系酸化防止剤」、「特定の量の4-t-ブチルカテコール」、「特定の量のフェノール系酸化防止剤」(以下、「特定の3成分」という。)を含有させることにより、上記前記課題を解決し得ることを見出したものとされている。

【0025】及び【0027】によれば、スチレン系樹脂に、「特定の量のリン系酸化防止剤」を含有させる点の技術的意義は、成形時等の高温下で劣化の原因となるでヒドロペルオキシドを還元することにより光線透過率の低下を抑えることで、比較的短波長(例えば、波長420?500nm)の光の透過率の向上に寄与して、薄黄色着色の低減に寄与することであり、また、【0026】及び【0028】によれば、「スチレン系樹脂」に、「特定の量のフェノール系酸化防止剤」を含有させる点の技術的意義は、ペルオキシラジカルを捕捉してヒドロペルオキシドとすることで、連鎖的な劣化の進行を抑制し、(ヒドロペルオキシドがリン系酸化防止剤によりさらに還元され安定化されることも相まって)、導光板として使用される室温?約70℃のような高温環境曝露時の光線透過率の保持率向上に寄与し、高温環境での使用時の薄黄色着色の低減に寄与することであり、0.2質量部以下とすることで、フェノール系酸化防止剤自身が原因となる光線透過率の低下を防ぐことができることである。
上記【0030】によれば、「スチレン系樹脂」に「特定の量の4-t-ブチルカテコール(TBC)」を含有させる点の技術的意義は、TBC自体の着色による光線透過率の低下の影響を抑えつつ、ポリスチレン系樹脂とリン系酸化防止剤との併用による光線透過率の低下を抑制することである。

【0046】?【0048】によれば、本件発明の特定の3成分を含むスチレン系樹脂組成物から得られる導光板は、「波長500?600nmの範囲の平行光の平均透過率(%)」(光線透過率B)が「83%以上」で光学特性に優れ、「波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率(%)」(光線透過率A)の光線透過率Bに対する比「A/B」(波長選択性)が「0.92以上」と光学特性に優れ、薄黄色の着色が抑えられ、また、光線透過率Aに対する、「80℃及び500時間の曝露処理後の波長420nm?500nmの範囲の平行光の平均透過率(%)」(光線透過率C)で定義される、「平均透過率の保持率((C/A)×100)」が、「95%以上」で、光源等の熱源により加熱され続ける高温環境で使用した場合にも着色(特に薄黄色の着色)が抑えられる。

そして、スチレン系樹脂がスチレンホモポリマーである場合についての具体例を開示する【0090】の【表1】によれば、本件発明の具体例である実施例5?9、11等においては、TBCを、ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1.5μg?5.5μg、リン系酸化防止剤をポリスチレン樹脂100質量部に対して0.05質量部?0.10質量部、フェノール系酸化防止剤をポリスチレン樹脂100質量部に対して0.05質量部?0.10質量部含むポリスチレン樹脂組成物からの試験片(導光板)は、光線透過率Aが81%以上(小数点以下一桁四捨五入による。以下同様。)、光線透過率Bが85%以上と高い光線透過率を有し、光線透過率Cが77%以上と、高温処理後の光線透過率にも優れ、かつ、波長選択性(A/B)が0.93以上と波長選択性に優れ、平均透過率の保持率の点でも、(C/A)×100の値が96%以上と優れることが示されている。

さらに、【表1】と【表2】の記載から、以下のことが理解できる。
(i)参考例1と比較例2(いずれも、TBCを特定量含む。)との対比から、リン系酸化防止剤を含む場合は、含まない場合よりも短波長(420?500nm)での光線透過率A、及び、高温処理後の光線透過率Cが向上すること。
(ii)比較例6と比較例2(いずれも、TBCを特定量含む。)の対比から、フェノール系酸化防止剤を含む場合は、含まない場合よりも光線透過率C及び保持率(C/A)が向上すること。
(iii)実施例5と実施例10との比較から、特定の3成分を含んでいても、フェノール系酸化防止剤の量が多すぎる場合には、光線透過率A、光線透過率B、光線透過率Cのいずれもが低下すること。
(iv)実施例5と参考例1及び比較例6(いずれも、TBCを特定量含む。)との比較から、リン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤を併用する場合には、これらの一方のみが含まれる場合よりも、加熱環境曝露処理後の光線透過率Cがさらに向上すること。
(v)実施例5と比較例7及び比較例8との比較から、TBCを特定の量とすることで、これを外れる場合(含まれない場合及び含有量が上限を超える場合)よりも光線透過率A?Cのいずれも優れ、また、波長選択性A/Bも向上すること。

そうすると、以上の本件特許明細書の記載に接した当業者は、ポリスチレン樹脂に、特定の量のリン系酸化防止剤、特定の量の4-t-ブチルカテコール、及び、特定の量のフェノール系酸化防止剤、つまり、「特定の3成分」を「特定量」含有させることにより、光線透過率(特に、短い波長(?500nm)の光線透過率)及び色調が向上した導光板の製造に適したポリスチレン系樹脂組成物が得られ、当該組成物を使用して光線透過率(特に、短い波長(?500nm)の光線透過率)及び色調が向上した導光板が得られることを理解できる。

また、リン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤の作用は、当該酸化防止剤自体の化学構造に起因して発揮される作用であり、本件特許の出願時、スチレンホモポリマーで奏されるリン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤の作用が、スチレン系コポリマーでは奏されないとの技術常識があったとは認められないから、このスチレン樹脂についての結果は、スチレン系樹脂においても同様に奏されると当業者は理解すると解されるし、TBCによる作用についても同様である。

そうすると、以上の本件特許明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識を踏まえれば、当業者は、本件発明(本件発明1、2、5及び6)に特定される発明特定事項を備えることで、上記本件発明の課題を解決できると、認識できるといえる。

したがって、本件発明1、2、5及び6は、サポート要件を満足するといえる。

(4)まとめ
以上のとおり、当審において通知した取消理由2、及び、申立人が主張する取消理由2には、理由がなく、取消理由2によっては、本件発明1、2、5及び6についての特許を取り消すことはできない。


4.取消理由3(甲4を主たる引用文献とする進歩性)についての検討
(1)甲4に記載された発明
本件特許に係る出願の前に頒布された刊行物である甲4の請求項1には、
「導光板」に用いられる組成物として、「スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸単量体を含有するスチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体組成物であり、(メタ)アクリル酸単量体単位の含有量が5.0?13.0質量%、メタノール可溶分が2.0質量%以下、残存単量体及び重合溶媒の合計が1000μg/g以下、重量平均分子量(Mw)が16万?30万であるスチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体組成物」が記載されているといえる。
そして、請求項1に記載の組成物の具体的態様についてのものである実施例2(【表2】の実施例2の「組成物の特性」の欄の記載、【表1】の「PS-2」の欄の記載、及び、PS-2の製造方法に関する【0035】の記載)によれば、甲4には、実施例2(PS-2)として、次のとおりの発明が記載されていると認められる。

「単量体中の4-t-ブチルカテコール濃度が13μg/gであるスチレン単量体とメタアクリル酸単量体を単量体原料として、下記のPS-2の製造方法により製造されたスチレン-メタアクリル酸系共重合体組成物であって、メタアクリル酸単量体単位の含有量が8.0質量%、メタノール可溶分が1.5質量%、残存単量体及び重合溶媒の合計が510μg/g、重量平均分子量(Mw)が20.3万であるスチレン-メタアクリル酸系共重合体組成物。

PS-2の製造方法:
完全混合型撹拌槽である第1反応器と第2反応器を直列に接続して重合工程を構成した。各反応器の容量は、第1反応器を39リットル、第2反応器を39リットルとした。以下の表1のPS-2の欄に記載の原料組成にて、原料溶液を作成し、第1反応器に原料溶液を表1に記載の流量にて連続的に供給した。重合開始剤-1である1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(日本油脂株式会社製パーヘキサC)は、第1反応器の入口で表1に記載の添加濃度(原料溶液に対する質量基準の濃度)となるように原料溶液に添加混合した。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(POE)ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製エマルゲン109P)は、第1反応器の入口で表1に記載の添加濃度(生成共重合体量に対する質量基準の濃度)となるように原料溶液に添加混合した。
続いて、第2反応器より連続的に取り出した共重合体を含む溶液を直列に2段より構成される予熱器付き真空脱揮槽に導入し、表1に記載の樹脂温度となるよう予熱器の温度を調整し、表1に記載の圧力に調整することで、未反応スチレン、メタクリル酸及びエチルベンゼンを分離した後、多孔ダイよりストランド状に押し出しして、コールドカット方式にて、ストランドを冷却および切断しペレット化した。また、得られたペレットに外部潤滑剤として、エチレンビスステアリルアミドを100μg/gの濃度で添加しドライブレンドした。

表1:


(以下、「甲4発明」という。)
なお、甲4発明においては、甲4に記載の表1の一部分を摘示している。 また、以下、「4-t-ブチルカテコール」を「TBC」ともいう。

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と、甲4発明とを対比する。
甲4発明の「スチレン-メタアクリル酸系共重合体」は、本件発明1の「スチレン系樹脂」に相当するし、甲4発明の「メタアクリル酸単量体」は、本件発明1の「スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー」であって、「(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸」が「メタアクリル酸」である場合に相当する。
また、甲4発明の「スチレン-メタアクリル酸共重合体」は、「メタアクリル酸単量体単位の含有量が8.0質量%」であるから、甲4発明のスチレン-メタアクリル酸系共重合体は、本件発明1の「スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマー」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点1?2で相違する。

<一致点>
スチレン系樹脂を含有するスチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマーであり、かつ該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーは(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸である、前記スチレン系樹脂組成物。
<相違点1>
本件発明1では、スチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂について、「4-t-ブチルカテコールの含有量が、ポリスチレン樹脂組成物1g当たり1μg?6μg」であることが特定されているのに対し、甲4発明では、「単量体中の4-t-ブチルカテコール濃度が13μg/gであるスチレン単量体」を「原料」として使用することが特定されているのみで、該単量体から得られた共重合体(スチレン系樹脂)に含まれる「4-t-ブチルカテコール」の含有量は不明である点。
<相違点2>
本件発明1では、スチレン系樹脂組成物について、「リン系酸化防止剤0.02?0.2質量部」、「フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部」を(さらに)含有することが特定されているのに対し、甲4発明では、かかる特定がない点。


イ 本件発明1の技術的意義について
相違点についての検討の前に、本件発明1において、スチレン系樹脂を、「リン系酸化防止剤」、「4-t-ブチルカテコール(TBC)」、「フェノール系酸化防止剤」の「特定の3成分」を、「特定量」含有するものとする点の技術的意義について確認する。

本件特許明細書には、上記3.(1)(本件特許明細書の記載)のとおりの記載がある。
そして、当該記載によれば、本件発明1は、従来、ポリスチレン系樹脂は、(吸水性という観点では優れるが、)「光線透過率はアクリル系樹脂と比較してやや劣」り、「特に短い波長(?500nm以下)の光線透過率がアクリル樹脂に比較して低いために、光透過距離が長くなると、ポリスチレン系樹脂を透過した光は僅かに黄色味を帯びることがあるため、カラー液晶表示における色合いに影響を及ぼすという問題」があった(【0004】)のを解決するものであって、上記3.(2)で記載したとおり、「ポリスチレン系樹脂の光線透過率(特に、短い波長(?500nm)の光線透過率)及び色調を向上させて、導光板の製造に適したポリスチレン系樹脂組成物を提供すること」を解決課題とする。
そして、本件発明1は、スチレン系樹脂を、特定の3成分を特定量含有することで、上記解決課題を解決したものであって(【0008】)、上記3.(3)で説示したとおり、本件発明1では、スチレン系樹脂に「特定のTBC」を含有させることで、TBC自体の着色による光線透過率の低下の影響を抑えつつ、ポリスチレン系樹脂とリン系酸化防止剤との併用による光線透過率の低下を抑制することができ(【0030】)、また、「特定の量のリン系酸化防止剤」を含有させることで、短波長(例えば、波長420?500nm)の光の透過率の向上に寄与して、薄黄色着色の低減に寄与し、「特定の量のフェノール系酸化防止剤」を含有させることで、導光板として使用される室温?約70℃のような高温環境曝露時の光線透過率の保持率向上に寄与し、高温環境での使用時の薄黄色着色の低減に寄与することができる(【0025】?【0028】)とされている。
さらに、上記3.(3)で指摘した本件特許明細書の具体例の記載(特に上記(v))から理解できるとおり、本件発明では、TBCが特定量含まれることで、含まれない場合に比べ、80℃及び500時間の環境加熱曝露処理後における短い波長での光線透過率Cを含め、光線透過率A?Cのすべてが優れ、また、波長選択性A/Bが向上するものであるし、同(i)?(iv)で指摘したとおり、本件発明1においては、TBCを特定量含む系において、特定量のリン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤を併用することで、酸化防止剤の一方のみが含まれる場合や併用するフェノール系酸化防止剤の量が多すぎる場合よりも、環境加熱曝露処理後の短波長での光線透過率Cが優れる。

すなわち、本件特許明細書の記載によれば、スチレン系樹脂組成物に特定の3成分が特定量含有される本件発明1は、420?500nmの範囲の短波長での光線透過率を含めた光線透過率A?Cの全てにおいて優れ、また、波長選択性が向上するものであって、光路長300mmという長い光路長の導光板用とする場合でも、スチレン系樹脂の短波長の光線透過率が低いことに起因する着色を抑制でき、また、導光板として長時間使用した場合でも、着色を抑制できるという優れた効果が奏されるという技術的意義を有する。
そして、本件発明1により奏される上記の優れた効果は、特定の3成分のうちいずれかの成分が欠ける場合や、3成分がそろっていても、含有量が特定量を外れる場合には、奏されないことが理解できる。

ウ 相違点についての判断

相違点1に関し、甲4の【0026】には、「スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合体組成物を製造する際、スチレン系単量体中の4-t-ブチルカテコール濃度は2μg/g以下であることが好ましい。4-t-ブチルカテコール濃度が2μg/gを超えると、導光板の黄色味が強くなることがある。」と記載されており、甲4には、スチレン系単量体中のTBCを2μg/g以下に減らすことが好ましいことは記載されているが、スチレン系樹脂中のTBCの量についての記載はない。むしろ、上記【0026】の記載、及び、実施例1をはじめ、実施例2で使用されているPS-2を除く全ての実施例において、スチレン単量体中のTBC濃度が<1μg/gであって、これらの実施例におけるYI値(導光板の黄色度の値)は実施例2よりも優れること(表2参照。)からすれば、甲4の記載に接した当業者は、甲4発明において、スチレン単量体に含まれるTBCを1μg/g未満とすること(この場合、スチレン系樹脂中の含有量は1μg/g未満となる。)を動機付けられるとはいえても、スチレン系樹脂にTBCが「スチレン系樹脂組成物1g当たり1μg?(6μg)」残存するようにすることは動機付けられないといえる。
一方、上記イで記載したように、本件特許明細書の記載によれば、本件発明1では、スチレン系樹脂を、TBCが「スチレン樹脂組成物1g当たり1μg?6μg」含まれるものとすることで、TBCが含まれない場合や上限を超える場合よりも、環境加熱曝露処理後における短波長での光線透過率を含め、光線透過率が改善し、また、波長選択性が向上するものであって、光路長300mmという長い光路長の導光板用とする場合の着色抑制の点で優れるという優れた効果が奏されることが理解できる。
そうすると、甲4の記載からは、甲4発明を本件発明1の構成を備えたものとすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

次に、申立人が相違点1に関して提出した甲5?甲9について検討すると、甲5?甲9には、相違点1に関し、以下の記載があるのみで、スチレン系樹脂中のTBCの含有量を「スチレン系樹脂1g当たり1μg?6μg」とすることは記載されていないし、甲5?甲9には、そのことにより、上記の優れた効果が奏されることを示唆する記載もない。

甲5は、「光学用成形体及びそれを用いた導光板及び光拡散体」に関するものである。そして、甲5の[0029]には、スチレン系単量体中の重合禁止剤(合議体注;これにはTBCが含まれる。)の含有量を10ppm未満とすることで、長光路における光透過率が高くなり、耐光性が良好となることが記載され、実施例5として、TBCを7ppm含むスチレン-2モノマーを原料としてスチレン-メタクリル酸メチル共重合体(樹脂)を製造したことは記載されているが、これらの記載は、スチレン系単量体中の含有量についてのものであり、甲5には、重合後のスチレン系樹脂中のTBC含有量についての記載はない。(その上、[0030]には、単量体中の重合禁止剤の含有量について、「好ましくは5ppm未満、さらに好ましくは1ppm未満」と記載されており、最も好ましい含有量の場合、重合後の樹脂中の重合禁止剤の含有量は、本件発明1で特定されるTBCの含有量を下回ることになる。)

甲6は、「共重合樹脂及びその製造方法」に関するものである。そして、甲6の【0015】には、ベンゼン環に2個以上の水酸基を有するフェノール系化合物(合議体注;これにはTBCが含まれる。)が、単量体の合計100質量部に対し、1ppm未満であるとスチレン系単量体の保存安定性が悪くなるため実用的でなく、20ppmを越えるとスチレン系共重合樹脂の色相が悪くなるため好ましくないことが記載され、また、実施例1及び13には、TBCを12ppm含むスチレンモノマーを原料としてスチレン-メタクリル酸メチル共重合体樹脂を製造したことが記載されているが、これらの記載は、スチレン系単量体中の含有量についてのものであり、甲6には、重合後のスチレン系樹脂中のTBC含有量についての記載はない。(その上、甲6は、弱電部品や雑貨等に利用される、重合後における残存単量体の量が少なく、成形時の着色や残存揮発分が少なく、成形温度によるb値の差が少ない透明性に優れた共重合体に関するものであって(【0063】)、導光板に関するものではない。)

甲7は、「スチレン系導光板」に関するものである。そして、甲7の[0026]には、スチレン系単量体中のTBC濃度が10μg/g未満であることが好ましく、さらに好ましくは3μg/g未満であること、TBC濃度が10μg/g以上になると、導光板の黄色味が強くなることがあることが記載され、実施例2及び3には、TBC8μg/g及び20μg/g含むスチレンモノマーを原料としてスチレン重合体樹脂を製造したことが記載されているが、これらの記載は、スチレン単量体中の含有量についてのものであり、甲6には、重合後のスチレン系樹脂中のTBC含有量についての記載はない。

甲8は、「光拡散板用スチレン系樹脂組成物及びその製造方法」に関するものである。そして、甲8の【0013】には、原料単量体中のTBC濃度が10ppmを超えると、スチレン系樹脂組成物を成形加工した際に黄変するため好ましくないことが記載されているが、重合後のスチレン系樹脂中のTBC含有量についての記載はない。

甲9は、「スチレン-(メタ)アクリル酸系共重合樹脂の製造方法」に関するものである。そして、甲9の【0008】には、通常、市場で入手できるスチレン系単量体には10?30ppm程度の重合禁止剤(合議体注;これにはTBCが含まれる。)が含まれていること、及び、スチレン系単量体中の重合禁止剤は0.05ppm以上10ppm未満であり、0.05ppm未満であると共重合体が白濁する場合があり、10ppm以上であると、低温成形における色相が悪いものとなることが記載されているが、重合後の共重合樹脂中のTBC含有量についての記載はない。

また、申立人が提出した他の証拠(甲2、甲3、甲10?甲15)にも、重合後のスチレン系樹脂中のTBC含有量についての記載はない。

そうすると、甲5?甲9を含め、申立人が提出した他のいずれの証拠を参酌しても、当業者は、甲4発明を相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを導き出せない。

一方、本件発明1では、相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることで、TBCが含まれない場合や上限を超える場合よりも、環境加熱曝露処理後における短波長での光線透過率を含め、光線透過率が改善し、また、波長選択性が向上するものであって、スチレン系樹脂組成物を光路長300mmという長い光路長の導光板用とする場合の着色抑制の点で優れるという優れた効果が奏されるものであって、この効果は、甲5?甲9を含め申立人が提出した他のいずれの証拠の記載からも予測し得ない。

よって、相違点2について検討するまでもなく、甲5?甲9を含め、申立人が提出した他のいずれの証拠を参酌しても、本件発明1について、甲4発明に基いてが当業者に容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 申立人の主張について
(ア) 申立人は、相違点1に関し、甲4の実施例2、甲5の実施例5、甲6の実施例1及び13、甲7の実施例2及び3においては、スチレン系樹脂の製造条件が、本件特許明細書に記載される実施例のスチレン系樹脂と類似の製造条件である(原料中のTBC濃度の条件及び重合後の脱揮条件が類似する)から、上記各甲号証の実施例におけるスチレン系樹脂のTBC濃度も、本件発明1で規定される範囲内であるといえる旨主張し、また、申立人による再現実験によれば、甲5の実施例5、甲6の実施例1及び13、甲7の実施例2及び3におけるスチレン系樹脂中のTBC濃度は、それぞれ、1.1ppm、1.6ppm及び5.7ppm、1.0ppm及び2.0ppmであり、本件発明1に特定される含有量を満足していた旨主張している(甲4については申立書の6?7頁及び21頁、甲5?甲7については、それぞれ、申立書の9、10及び12頁参照。)。

(イ) そこで、検討すると、TBCを特定量含有するスチレン系樹脂の製造に関し、本件特許明細書の【0035】には、「ポリスチレン系樹脂を製造するときに、脱気工程では、溶媒と未反応単量体を加熱・減圧脱気等の手法を用いて除去するが、同時に重合工程で消費されなかった4-t-ブチルカテコール等も除去される。通常、脱気工程での溶媒と未反応単量体の効率的な除去のため、樹脂温度及び/又は減圧度を、樹脂の分解等が起きないレベルで高めに設定するが、本発明では、比較的低い樹脂温度と低い減圧度で、脱気工程を運転することで、所望の4-t-ブチルカテコールを樹脂中に残存させることができる。」と記載されている。また、具体的な製造例に関しては、実施例5、15等に、TBC濃度11μg/gのスチレン原料を用いて得られた重合体溶液を、2段ベント付き脱揮押出機に連続的に供給し、「押出機温度225℃」、「真空度15torr」で、「未反応単量体及び溶媒を回収した」ところ、得られたスチレン系樹脂組成物中のTBC濃度は、1.5?2μg/gであったことが(実施例5が引用する【0059】の参考例1の製造方法及び【表1】のTBCの欄を参照。)、実施例11等には、TBC濃度25μg/gのスチレン原料を用いて「実施例1(合議体注;「実施例1」は、「参考例1」の誤記と認める。)と同様の方法でスチレン系樹脂組成物を得た」ところ、TBC濃度は、5.5μg/gであったことが、それぞれ、記載されている。

一方、甲4?甲7の上記実施例のスチレン系樹脂の製造条件についての記載をみると、甲4の実施例2では、スチレン中にTBCを13μg/g含むスチレン原料を用いて重合し、「樹脂温度220℃」で、「圧力1.0kPa(合議体注;これは、7.5torrに相当する。)に減圧した第二脱揮槽に導入し単量体を除去」する工程を経て、スチレン系樹脂であるPS-2を得ている(表1及び表2)。また、甲5の実施例5([0076])では、TBCが7ppm(合議体注;これはスチレンに対し7μg/gに相当する。)含まれるスチレン-2原料([0066])から、甲5の実施例1と同様の方法である、「温度240℃で圧力1.0kPa(合議体注;これは、7.5torrに相当する。)で制御した脱揮槽」で揮発分を除去する工程を経てスチレン系樹脂を得ている([0070])し、甲6の実施例1及び13では、「TBCを12ppm(合議体注;これはスチレンに対し12μg/gに相当する。)含むスチレン」を用いて、「予熱器で230℃に加温した後1.3kPa(合議体注;これは、9.75torrに相当する。)に減圧した第二脱揮槽に導入し単量体を除去」する工程を経てスチレン系樹脂を得ている(【0031】及び【0043】及び表1)。さらに、甲7の実施例2及び3では、スチレン中のTBCが8μg/g及び20μg/g含まれるスチレン原料から、「樹脂温度220℃」、「圧力0.4kPa(合議体注;これは、3torrに相当する。)」に減圧した第二脱揮槽に導入する脱揮(脱気)工程を経てスチレン系樹脂を得ている(表1のPS-1の欄)。

そして、上記甲4?甲7の実施例のいずれも、重合後の脱気条件が本件特許明細書に開示されている数値(15torr)よりも低く、より減圧度が高くなっており、これらの実施例の条件は、本件発明1の実施例と製造条件が同じであるとはいえない。また、減圧度が高くなればTBCはより揮発しやすくなり、樹脂中に残存しにくくなるのであるから、上記甲4?甲7の上記実施例の記載からは、これらの実施例で製造されたスチレン系樹脂に、TBCが、「樹脂組成物1g当たり1μg?(6μg)」の量で残存しているとはいえない。

(ウ) さらに、申立人による再現実験によれば、甲5?甲7の上記特定の実施例におけるスチレン系樹脂中のTBC濃度は、本件発明1の特定を満足する旨の主張については、そもそも、申立人は、その主張を裏付ける実験成績証明書を提出しておらず、具体的な再現実験の内容(実施日、実施者、実験手順及びその結果)は全く不明であって、技術的な裏付けを欠いているので、上記申立人の主張は採用できない。

(エ) したがって、(ア)に記載した申立人の主張は、いずれも採用できない。

オ 本件発明1についてのむすび
以上のとおり、本件発明1は、甲4に記載された発明(甲4発明)及び甲2?甲15に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明2、5及び6について
本件発明2、5及び6は、いずれも、本件発明1と同様に、スチレン系樹脂に特定の3成分が特定量含まれることを発明特定事項として包含しており、これらの本件発明は、甲4発明と、少なくとも上記相違点1及び2の点で相違している。
そして、相違点1についての判断は、上記(2)のウ及びエで記載したとおりであるから、本件発明2、5及び6についても、本件発明1について検討したと同様の理由によって、甲4に記載された発明及び甲2?甲15に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、申立人の取消理由3の主張には理由がなく、取消理由3によっては、本件発明1、2、5及び6についての特許を取り消すことはできない。


5.取消理由4(甲5?甲14のいずれかを主たる引用文献とする進歩性)についての検討
上記、「4.取消理由3についての検討」の「(2)」「ウ 相違点についての判断」において、本件発明1と甲4発明との相違点1に関して説示したとおり、甲5?甲14を含め、申立人が提出したいずれの証拠にも、本件発明1に係る発明特定事項(上記相違点1に係る本件発明1の構成)である、「スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコール(TBC)の含有量が1?6μg」のスチレン系樹脂は記載されていない。また、これらの証拠のいずれからも、スチレン系樹脂をかかる構成を備えるものとすることで、TBCが含まれない場合や上限を超える場合よりも、環境加熱曝露処理後における短波長での光線透過率を含め、光線透過率が改善し、また、波長選択性が向上し、スチレン系樹脂組成物を光路長300mmという長い光路長の導光板用とする場合の着色抑制の点で優れるという優れた効果が奏されることは予測し得ない。

そうすると、甲5?甲14のいずれを主たる引用文献とする場合であっても、申立人が提出した他の証拠(甲2、甲4?甲15)を参酌しても、当業者は、上記相違点1に係る本件発明1、2、5及び6の構成を備えたスチレン系樹脂を導き出せないのであるから、本件発明1、2、5及び6について、これらの証拠に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

よって、申立人の取消理由4の主張には理由がなく、取消理由4によっては、本件発明1、2、5及び6についての特許を取り消すことはできない。

6.取消理由5(先願明細書に記載された発明)についての検討
申立人の主張する取消理由5は、第4の1.に記載したとおり、本件特許に係る出願の本件発明1、2、5及び6について、優先権主張の効果が認められることを前提としたものである。
そして、第5の1.に記載したとおり、本件発明1、2、5及び6についての優先権主張の効果は認められないから、優先権主張の効果が認められることを前提とした取消理由5については検討を要しない。


第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、2、5及び6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2、5及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマーであり、かつ該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーは(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸である、前記スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、前記スチレン系樹脂1g当たりのダイマーとトリマーの合計含有量が、5000μg以下であり、下記構造式(I):
【化1】

で表されるトリマー成分(1a-フェニル-4e-(1’-フェニルエチル)テトラリン)の含有量が3000μg未満であり、かつ前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマー、又は該スチレン系モノマー50質量%超と(メタ)アクリル酸エステル50質量%未満とのポリマーである、前記スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有するスチレン系樹脂組成物であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ離型剤0.1?1.0質量部をさらに含有する、前記スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記離型剤が高級アルコール又は高級脂肪酸である、請求項3に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する導光板であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマーである、前記導光板。
【請求項6】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する導光板であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、前記スチレン系樹脂1g当たりのダイマーとトリマーの合計含有量が、5000μg以下であり、下記構造式(I):
【化2】

で表されるトリマー成分(1a-フェニル-4e-(1’-フェニルエチル)テトラリン)の含有量が3000μg未満であり、前記スチレン系樹脂が、スチレン系モノマーのポリマー、又は該スチレン系モノマー50質量%超と、該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマー50質量%未満とのポリマーであり、かつ該スチレン系モノマーと共重合可能なモノマーは(メタ)アクリル酸エステル及び/又は(メタ)アクリル酸である、前記導光板。
【請求項7】
スチレン系樹脂100質量部及びリン系酸化防止剤0.02?0.2質量部を含有する導光板であって、該スチレン系樹脂1g当たりの4-t-ブチルカテコールの含有量が1?6μgであり、フェノール系酸化防止剤0.02?0.2質量部をさらに含有し、かつ離型剤0.1?1.0質量部をさらに含有する、前記導光板。
【請求項8】
前記離型剤が高級アルコール又は高級脂肪酸である、請求項7に記載の導光板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-31 
出願番号 特願2014-509173(P2014-509173)
審決分類 P 1 652・ 857- YAA (C08L)
P 1 652・ 4- YAA (C08L)
P 1 652・ 121- YAA (C08L)
P 1 652・ 537- YAA (C08L)
P 1 652・ 161- YAA (C08L)
P 1 652・ 851- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 渕野 留香
須藤 康洋
登録日 2016-09-16 
登録番号 特許第6006298号(P6006298)
権利者 PSジャパン株式会社
発明の名称 ポリスチレン系樹脂組成物及びこれを成形してなる導光板  
代理人 古賀 哲次  
代理人 齋藤 都子  
代理人 齋藤 都子  
代理人 三橋 真二  
代理人 石田 敬  
代理人 三間 俊介  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 和広  
代理人 古賀 哲次  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 和広  
代理人 石田 敬  
代理人 三間 俊介  
代理人 三橋 真二  

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