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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C09K
審判 一部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1341993
異議申立番号 異議2017-700987  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-12 
確定日 2018-06-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6120035号発明「水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子及びその生産方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6120035号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6120035号の請求項1?4、及び7に係る特許を維持する。 特許第6120035号の請求項5に係る特許についての申立てを却下する。 
理由
1 手続の経緯

特許第6120035号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成29年4月7日にその特許権の設定登録がされ、その後、同年10月12日に特許異議申立人清水すみ子(以下、単に「異議申立人」ともいう。)より請求項1?5、及び7に対して特許異議の申立てがされ、同年12月21日付けで取消理由が通知され、平成30年3月22日に意見書の提出及び訂正請求がされたものである。
なお、上記訂正請求に対して、異議申立人に期間を設定して意見書を提出する機会を与えたが、意見書の提出はなかった。

2 訂正の適否

(1) 訂正の内容

本件訂正請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求める、というものであって、本件特許に係る願書に添付した明細書及び特許請求の範囲について、次のア?カの訂正事項1?6のとおり訂正することを求めるというものである。

ア 訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1の「二次粒子90%の直径が5μmを超えず、」の後に、訂正前の請求項5及び請求項6に記載の発明特定事項である「吸油力が、水酸化マグネシウム100gに対して50g以下であり、空隙率が10.5x10^(?3)cm^(3)/g以下であり、」なる記載を追加する。
(請求項1を引用する請求項2?4、及び7も同様に訂正する。)

イ 訂正事項2

特許請求の範囲の請求項5を削除する。

ウ 訂正事項3

特許請求の範囲の請求項6を削除する。

エ 訂正事項4

願書に添付した明細書の段落【0003】、【0006】、【0010】、【0013】、【0026】、【0035】に記載された「回析」を「回折」に訂正する。

オ 訂正事項5

特許請求の範囲の請求項1に記載された「レーザー回析法」を「レーザー回折法」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?4、及び7も同様に訂正する。)

カ 訂正事項6

特許請求の範囲の請求項2に記載された「レーザー回析法」を「レーザー回折法」に訂正する。

(2) 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び独立特許要件について

ア 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

(ア) 訂正事項1について

上記訂正事項1は、訂正前の請求項5及び請求項6の記載に基き、請求項1に係る水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子において、その吸油力及び空隙率を限定するものであり、当該訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、請求項1を引用する請求項2?4、及び7も同様に訂正されるものであって、当該請求項2?4、及び7に係る訂正は、請求項1と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(イ) 訂正事項2、3について

上記訂正事項2、3は、請求項の削除であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(ウ) 訂正事項4について

上記訂正事項4は、「レーザー回析法」(【0003】、【0035】)、「X線回析法」(【0006】)、「レーザー回析測定」(【0010】、【0013】、【0026】)という記載における「回析」を「回折」と訂正するものであるところ、「回析」という技術用語は存在せず、それらは、順に、「レーザー回折法」、「X線回折法」及び「レーザー回折測定」という技術用語を指していることは明らかである。
そうすると、上記訂正事項4は、「回析」という語句を、本来の意味である「回折」という語句に正すものであって、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を有するものと客観的に認められるものである。

したがって、上記訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(エ) 訂正事項5について

上記訂正事項4について述べたように、訂正事項5は、請求項1に記載された「レーザー回析法」という語句を、本来の意味である「レーザー回折法」という語句に正すものであって、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を有するものと客観的に認められるものである。

また、請求項1を引用する請求項2?4、及び7も同様に訂正されるものであって、当該請求項2?4、及び7に係る訂正は、請求項1と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(オ) 訂正事項6について

上記訂正事項4について述べたように、訂正事項6は、請求項2に記載された「レーザー回析法」という語句を、本来の意味である「レーザー回折法」という語句に正すものであって、訂正前の記載が当然に訂正後の記載と同一の意味を有するものと客観的に認められるものである。

したがって、上記訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号の「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されている事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 一群の請求項について

訂正事項4について、「レーザー回析法」(【0003】、【0035】)、「X線回析法」(【0006】)、「レーザー回析測定」(【0010】、【0013】、【0026】)という語句は、請求項1?4、及び7に係る「水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」に直接関係し、請求項8?14に係る「水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の生産方法」には直接関係しない語句であるといえる。

そして、訂正前の請求項1?7は、請求項2?7が訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。

したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものであるとともに、明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われたものである。

ウ 独立特許要件について

特許異議の申立ては、訂正前の請求項1?5、及び7に対してされているので、訂正後の請求項1?4、及び7に係る発明については、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(3) まとめ

以上のことから、上記訂正事項1?6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、本件訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。

3 本件特許発明

上記2で述べたように、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?4、及び7?14に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?4、及び7?14に記載された事項によって特定される次のとおりのものである(以下、項番号に対応して、「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」という。)。

「【請求項1】
板状六方構造をもち、BET法測定による比表面積が20m^(2)/g以下、レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が2μm以下であり、表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子であって、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子は、その二次粒子10%の直径が0.8μmを超えず、二次粒子90%の直径が5μmを超えず、吸油力が、水酸化マグネシウム100gに対して50g以下であり、空隙率が10.5x10^(?3)cm^(3)/g以下であり、なおかつ、上記水酸化マグネシウムの一次粒子が板状六方形を呈し、一次粒子の縦の長さが150?900nm、厚さが15?150nmであることを特徴とする、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項2】
レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が0.7?1.7μmであることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項3】
BET法測定による比表面積が2?15m^(2)/gであることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項4】
一次粒子の縦の長さが200?600nm、厚さが40?100nmであることを特徴とする、第1項に従う水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項7】
三酸化二鉄に換算した鉄分含有量が0.01%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項8】
塩化マグネシウム水溶液とアルカリ成分との相互反応による表面処理が行われておらず、二段階より成る、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の生産方法であって、第一段階において、温度100℃以下、常圧、OH-イオン対Mg++イオンのモル比が1.9?2.1:1の範囲において、塩化マグネシウム水溶液とアルカリ成分との相互反応が行われ、第二段階においては、温度120?220℃、圧力0.18?2.3MPa、継続時間2?24時間において水酸化マグネシウム粒子の水熱再結晶化がおこなれ、なおかつ、凝集による、その後の一次粒子の増大及び二次粒子の粗大化を防ぐことを目的として水熱再結晶化が行われる際に、温度160?240℃、圧力0.6?3,3MPaにおいて、過熱蒸気による周期的な液圧衝撃が反応塊に対して加えられることを特徴とする、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の生産方法。
【請求項9】
塩化マグネシウムとして、天然由来または合成由来の塩化マグネシウムを使用することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
塩化マグネシウム水溶液が、鉄、及び/または臭素、及び/またはホウ素、及び/または硫酸塩、及び/またはマンガン、その他の不純物を前もって除去されたものであることを特徴とする、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アルカリ成分として、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウム、または水酸化アンモニウムのそれぞれの水溶液、または水酸化カルシウム懸濁液が使われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
水酸化マグネシウムナノ粒子の生成が、周期的または連続的条件で行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
水熱再結晶化が、反応母液媒質中または脱イオン水中で行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
液圧衝撃が、任意の断面形状をもつ孔を経由して行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。」

4 当審の判断

(1) 取消理由通知に記載した取消理由について

訂正前の請求項1?5、及び7に係る特許に対して、平成29年12月21日付で通知した取消理由の概要は、以下のとおりであり、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由の概要と同じである。

「1 この特許の請求項1?5に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の甲第1号証(以下、項番号に応じて、「甲1」などという。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができず、この特許の請求項1?5に係る特許は取り消すべきものである。

2 この特許の請求項1?5及び7に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲1?甲5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、この特許の請求項1?5及び7に係る特許は取り消すべきものである。



甲1:西沢 仁監修、「高分子の難燃化技術」、株式会社シーエムシー出版、2002年11月27日普及版第1刷発行、第244?254頁
甲2:経営開発センター出版部企画編集、「無機物質とポリマーとの相互作用」、経営開発センター出版部、昭和61年1月31日発行、第395?411頁
甲3:フィラー研究会編、「フィラー活用事典」、株式会社大成社、平成6年(1994)5月31日初版第1刷発行、第40?43頁、第96?100頁
甲4:日本工業標準調査会 審議、「JIS 顔料試験方法-第13部:吸油量-第1節:精製あまに油法 JIS K5101-13-1:2004(ISO 787-5:1980)(JICIA/JSA)」、日本規格協会発行、官報公示:平成16年2月20日、第1?3頁
甲5:特開2006-160603号公報

本件発明1?5は、甲1に記載された発明である。
また、本件発明1?5と、甲1に記載された発明とに相違があったとしても、本件発明1?5は、甲1?甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件発明7は、甲1?甲5に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」

(2) 判断

甲1の244?254頁から、「キスマ5」について、次のア?ウの事項が理解できる(当審注:括弧内は、甲1の対応箇所。)。

ア 表面処理されていない難燃剤水酸化マグネシウムである(246頁には、「キスマ5は・・・表面処理技術で樹脂への相溶性を高め,これらの問題を解決した難燃剤水酸化マグネシウムである」という記載があり、キスマ5は、それ自体には表面処理はなされておらず、キスマ5に対する表面処理技術を経ることで樹脂への相溶性が高められるものであることがわかる。そして、このことは、248頁の「表3 キスマ5の各グレイドと物性および特長」の表に、「キスマ5」を異なる表面処理剤でコートした各グレイドが「5A」、「5B」等と表記されており、表面処理されていない「キスマ5」と、表面処理されている「5A」等の各グレイドのものとが、表面処理の有無によって異なる表記となっていることからもわかる。)。

イ 結晶粒子は、六角板状の形状であって、その結晶粒子径(1次粒子径)が約0.6?1.0μm(当審注:約600?1000nm)、厚さが100?300nm(246頁には、「結晶粒子の形状は,図2のSEM写真で示されている六角板状である」という記載がある。また、247頁の「図2 水酸化マグネシウムとそのPP複合体破断面のSEM写真」の「キスマ5」についての写真から、水酸化マグネシウムの結晶粒子(1次粒子)は、「六角板状」の形状であることが看取される。さらに、246頁には、「その結晶粒子径(1次粒子径)は,約0.6?1.0μm,厚さは0.1?0.3μm(当審注:100?300nm)である」という記載がある。)。

ウ レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が0.86μm(246頁には、「レーザー回折,散乱法による粒度分布測定結果の一例を図3に示す」という記載がある。そして、247頁の「図3 粒度分布(レーザー回折,散乱法)」の表には、「キスマ5」の「平均2次粒子径」について、「0.86μm(当審注:860nm)」という記載がある。)のナノ粒子である。

そうすると、甲1には、「キスマ5」として、
「六角板状の形状をもち、レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が0.86μmである、表面処理されていない難燃剤水酸化マグネシウムナノ粒子であって、上記水酸化マグネシウムの一次粒子が六角板状を呈し、一次粒子の結晶粒子径(1次粒子径)が約600?1000nm、厚さが100?300nmである、表面処理されていない難燃剤水酸化マグネシウムナノ粒子。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

ここで、本件発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「六角板状の形状」は、本件発明1の「板状六方構造」及び「一次粒子が板状六方形を呈」する構成に相当する。
また、甲1発明の「表面処理されていない難燃剤水酸化マグネシウムナノ粒子」は、本件発明1の「表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」に相当する。
また、甲1発明の「レーザー回折法測定による二次粒子の平均径」は、本件発明1の範囲に含まれる。
さらに、本件発明1の「一次粒子の」「厚さが15?150nm」と、甲1発明の「一次粒子の」「厚さが100?300nm」とは、「一次粒子の」「厚さが100?150nm」の範囲で一致する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「板状六方構造をもち、レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が2μm以下であり、表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子であって、上記水酸化マグネシウムの一次粒子が板状六方形を呈し、一次粒子の厚さが100?150nmである水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。」である点で一致し、次の相違点1?5で相違する。

【相違点1】

表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の「BET法測定による比表面積」について、本件発明は「20m^(2)/g以下」であるのに対し、甲1発明は不明な点。

【相違点2】

表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の「二次粒子10%の直径」及び「二次粒子90%の直径」について、本件発明は、「二次粒子10%の直径が0.8μmを超えず、二次粒子90%の直径が5μmを超えず」であるのに対し、甲1発明のそれらは不明な点。

【相違点3】

水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の「吸油力」について、本件発明は、「吸油力が、水酸化マグネシウム100gに対して50g以下であ」るのに対し、甲1発明は不明な点。

【相違点4】

水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の「空隙率」について、本件発明は、「空隙率が10.5x10^(?3)cm^(3)/g以下であ」るのに対し、甲1発明は不明な点。

【相違点5】
水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の「一次粒子の縦の長さ」について、本件発明1は「150?900nm」であるのに対し、甲1発明は一次粒子の結晶粒子径(1次粒子径)が約600?1000nmであるものの、その縦の長さは不明な点。

ここで、相違点について検討する。

事案に鑑み、まず、相違点4について検討する。

異議申立人が主張するように、甲2には、キスマ5の比表面積(BET)及び吸油量が、それぞれ7m^(2)/g及び50ml/100gであることが開示され、甲3には、粒度分布において、各粒子径の存在比率を積算していくことで累積分布が得られること、前記累積分布は、粒子径の小さい側から存在比率を積算していくものであること、及び粒度分布より求められる累積分布から10%粒子径及び90%粒子径を読み取ることができることが記載され、甲4には、顔料及び体質顔料の吸油量を精製あまに油を用いて測定するための一般試験方法について規定したものであること、及び吸油量を試料100g当たりのgで表す換算式がQ_(2)=93V/m〔V:消費したあまに油の容量(ml)、m:試料の質量(g)〕であることが記載され、甲5には、水酸化マグネシウムにおける不純物として金属換算(Fe+Mn)の合計量が0.01重量%以下であることが記載されているとしても、甲1?甲5のいずれにも、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項である、「水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」について、「空隙率が10.5x10^(?3)cm^(3)/g以下であ」る点は、記載も示唆もされていない。また、この点に関して、異議申立人は何ら主張ないし立証を行っていない。

そして、上記本件発明1の「空隙率」に関する発明特定事項は、とりわけ、本件発明8や本件明細書の【0014】、【0038】?【0041】の【実施例1】?【実施例3】に記載された生産方法によって生産された「水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」が備えるものと認められるところ、甲1?甲5は、そのような生産方法を、開示も示唆もするものではない。

また、甲1発明の「表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」の「空隙率」が、本件発明1の範囲のものであるという技術常識は見当たらないし、さらに、該「表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」が、本件発明8や本件明細書に記載された生産方法によって生産されるものであるという根拠も見当たらない。

そうすると、甲1発明の「表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」の「空隙率」が、本件発明1の範囲のものである蓋然性は低い。さらに、該「表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子」に本件発明1で規定される「空隙率」を備えるようにする動機付けもない。

したがって、本件発明1は、甲1発明と同一であるとはいえず、しかも、甲1発明及び甲2?甲5に記載されたものに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件発明1に係る特許を取り消すことはできない。
そして、本件発明2?4、及び7は、本件発明1をさらに限定したものであるから、本件発明2?4、及び7に係る特許も、本件発明1と同様に、取り消すことはできない。

5 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1?4、及び7に係る特許を取り消すことはできない。

そして、他に本件特許の請求項1?4、及び7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

また、本件特許の請求項5に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項5に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。よって、本件特許の請求項5に係る特許異議の申立ては不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子及びその生産方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学生産技術、すなわち、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子及びその生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水酸化マグネシウムは、水酸化アルミニウムと同様に、難燃剤として、たいへん興味深い。水酸化マグネシウムが、酸化マグネシウムと水へ分解し始める温度は300?320℃であり、水酸化アルミニウムの分解が始まる温度よりも100℃だけ高い。水酸化アルミニウムは、両性物質であるため、PVCが燃焼する際に放出される塩化水素と相互反応しない。水酸化マグネシウムは、弱塩基性であり、PVCの熱分解時に放出される塩化水素と相互反応を行う。実験結果が示すように、水酸化マグネシウムを含有するPVC組成物の排煙率は、水酸化アルミニウム含有組成物のそれよりも著しく低い。これは、水酸化マグネシウムと塩化水素との相互反応の生成物(塩化マグネシウム)が、脱塩化水素後に生ずるポリエン鎖の掛橋結合過程に触媒作用を及ぼし、その結果、発煙を促進するベンゼン、トルエンなどの揮発性芳香炭化水素の生成を抑えることによる。このようにして、難燃性ケーブル用組成物の品質評価基準となる諸特性、すなわち、酸素指数値、塩化水素放出量及び煙の光学濃度に対する水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムの影響を全体として問題にするならば、水酸化マグネシウムが水酸化アルミニウムに対して著しい優位性をもつものであると、確信をもって結論することができる(非特許文献1)。これが、プラスチック、ゴム及びその他の材料中の排煙抑制・非毒性燃焼抑制剤として、水酸化マグネシウムを用いる根拠である。
【0003】
しかしながら、燃焼抑制にとって必要な約60mass%以上の量の水酸化マグネシウムをポリマー基材に添加すると、ポリマーの機械的特性及び生産工程の技術効率を損なう結果となる(非特許文献2)。ポリマーの機械的特性及び生産工程の技術効率を損なうことなく、ポリマー基材中に充填・難燃剤として水酸化マグネシウムを用いるためには、BET法で測定された、水酸化マグネシウムの比表面積が20m^(2)/g未満(望ましくは15m^(2)/g未満)で、レーザー回折法で測定された二次粒子の平均径が5μm以下(望ましくは2μm以下)であることが必要である。一次粒子のサイズを小さくすることによって、ポリマー基材中の充填材粒子分布の均一化が可能となる。このほか、水酸化マグネシウムは、粒子が板状を呈し、それら粒子の幾何特性の特性比が高いおかげで、潜在的に、ポリマーにとっての補強材となる。ポリマー中の充填・難燃剤として水酸化マグネシウムを用いるためには、塩化物、カルシウム、鉄などの不純物の質量含有率を厳しく制限しなければならないことは、忘れてはならない。
【0004】
水酸化マグネシウムの粒子表面処理によって、無機粒子とポリマー基材との混和性が向上するとともに、諸成分の物理特性が均一化し、製品の耐湿性及び耐温性が高まる。
【0005】
水酸化マグネシウムの結晶、とくに、薄い板状六方晶には、通常、(二次粒子の)凝塊形成をもたらす凝集傾向があり、このことが有機基材との混和性を損ない、機械的特性を低下させる原因となることが知られている。水酸化マグネシウムの結晶のサイズと形状及び凝塊のサイズと形状は、結晶条件を変更することによって、変更することができる。水酸化マグネシウムの分散度及び比表面積は、水熱処理工程による再結晶化によって著しく改善される(非特許文献3)。
【0006】
塩基性の、塩化マグネシウムまたは硝酸マグネシウムの加熱工程を含む水酸化マグネシウム生産方法が、諸考案者(特許文献1)によって記述されている。この塩基性塩化マグネシウムまたは硝酸マグネシウムの化学式は、Mg(OH)_(2-x)A_(x)mH_(2)O(ただし、AはClまたはNO_(3)であり、xは0から0.2の値をもち、mは0から6までの数)であり、常圧以下の圧力、50℃?120℃の温度で、上記の塩基性塩化マグネシウムまたは硝酸マグネシウムの反応母液中において、X線回折法にて測定された間隔は8.2 A、 4.1 A、 2.7 A、 2.0 A、 1.56 A 及び 1.54 Aである。この生産方法によって、高純度の超微細化された水酸化マグネシウムが得られ、その二次粒子の平均径は1.5μm以下、二次粒子90%の径が4.0μm以下である。二次粒子径の縮小は、水酸化マグネシウム一次粒子サイズの縮小及び二次粒子(一次粒子の凝塊)を形成する一次粒子量の削減によって達成されることが指摘されている。しかしながら、記述された水酸化マグネシウムの比表面積が20?50m^(2)/gであるため、この水酸化マグネシウムをポリマー基材の充填・難燃剤として使用することはできない。
【0007】
特許文献2には、六角形の、針状の結晶構造をもつ水酸化マグネシウムの生産方法が示されているが、この場合、六方針状結晶構造をもち、化学式がMg(OH)_(2-nx)A_(x)^(n-)mH_(2)O(ただし、AはCl、Br、NO_(3)及びSO_(4)基から選ばれた一価もしくは二価のアニオンであり、xは0.2?0.5の値をもち、mは0?2の数値をもつ)であるマグネシウム化合物が、結晶水の一部をマグネシウム化合物から除去するかたちで、六方針状結晶構造を壊さない条件下において乾燥され、その後、この乾燥済みマグネシウム化合物が、水、アセトン及び低アルコール類を含有する基から選ばれた不活性液状媒体中で、アルカリ金属水酸化物、アンモニア、水酸化カルシウム及び水酸化アンモニアを含む基から選ばれたアルカリと相互反応を起こす。この方法で得られた繊維構造を有する水酸化マグネシウムの場合、結晶径に対する結晶長の比率は、倍率1000倍の電子顕微鏡における測定によれば、10以上である。繊維構造をもつ水酸化マグネシウムは、既知の利用分野においてのみならず、新たな未開発分野において使用することができる。しかしながら、これらの考案者は、水酸化マグネシウムの二次粒子の平均サイズも、比表面積も記述していないので、水酸化マグネシウムをポリマー基材の充填・難燃剤として用いることができるか否かの判定を行うことができない。
【0008】
特許文献3においては、耐火性水酸化マグネシウムの生産方法が記述されているが、この方法には、塩化マグネシウムと、理論量以上に添加され、水酸化マグネシウムの沈殿物を生成するアンモニアとの相互反応、及び水酸化マグネシウムの水熱再結晶化工程が含まれている。この方法で得られる耐火性水酸化物の場合、BET法で測定された比表面積が10m^(2)/g未満、レーザー拡散法によって測定された平均粒子径が0.5?10.0μmで、横断面が卵型を呈する多数の結晶が見られる。残念ながら、これらの考案者も、粒子10%の直径及び粒子90%の直径などの、二次粒子についての重要な特性を記述しておらず、一次粒子のサイズにつていても言及していない。
【0009】
一連の発明(特許文献4/特許文献5/特許文献6)において、水酸化マグネシウム粒子をポリマー基材の充填・難燃剤として使用することを可能にする二次粒子平均径及びBET法測定比表面積を備えた水酸化マグネシウム粒子についての記述が見られる。しかしながら、この発明の場合にも、水酸化マグネシウム二次粒子の特性、すなわち二次粒子10%の直径、二次粒子90%の直径、及び(板状六方形の)一次粒子の特性は示されておらず、示されているのは、合成条件及び水熱処理に直接左右される、それら粒子のサイズ(長さ及び厚み)に過ぎないので、水酸化マグネシウムを充填・難燃剤として使用する場合には、ポリマー特性及び生成工程の技術効率に影響を及ぼすことになる。また、一次粒子の増大化を調整する方法も示されていない。
【0010】
最も近縁な、先行技術とみなされている方法は、ミクロメートル及び/またはナノメートルの水酸化マグネシウムを生成する方法(特許文献7)であり、この方法においては、ナトリウムの水酸化物及び塩化物、またはカリウムの水酸化物及び塩化物、またはカルシウムの水酸化物及び塩化物、またはアンモニウムの水酸化物及び塩化物と塩化マグネシウムとの相互反応が、それぞれ、水媒質中において、温度10?200℃、常圧または自生圧力にて一段階で行われるか、または二段階で行われる。後者の場合、第一段階では10?100℃、常圧で相互反応が行われ、第二段階では101?200℃、自生圧力にてそれが行われ、可能な修正を施されたのち、水酸化マグネシウムが分離される。この方法を用いれば、ミクロメートル及び/またはナノメートル粒子状の水酸化マグネシウムを生成することができ、これらの粒子のBET法測定による比表面積は3?100m^(2)/g、レーザー回折測定による二次粒子の平均径は0.1?50μmであり、走査電子顕微鏡(SEM)画像による板状一次粒子の縦の長さは50?600nm、厚さは5?60nmである。しかしながら、これらの考案者は、二次粒子の特性(二次粒子10%の直径及び二次粒子90%の直径)を示していない。このほか、反応塊への余剰塩化物添加によって、水酸化マグネシウム粒子の塩化物からの分離が複雑化するが、最終生成物中のこの塩化物含有量に対しては、かなり厳しい要件が提起されているので、分離の際の脱イオン水の消費量が増え、おそらく、補足的なリパルピング及び濾過が必要となり、結局は、生産工程の機械化が複雑化し、最終生成物の原価が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第0365347号
【特許文献2】米国特許第4246254号
【特許文献3】米国特許第5872169号
【特許文献4】欧州特許第0780425号
【特許文献5】国際特許出願W02007117841号
【特許文献6】チェコ特許第9300994号
【特許文献7】ロシア特許第2422364号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】スメルコーフS.I.、リャビーコフA.I.、イリイーンV.I.「PVC製の絶縁及び被覆を有するケーブル製品の火災危険低減」、防火、2011年、No.2、p.66-72
【非特許文献2】Huaqiang Cao、He Zheng、Jiefu Yinその他、「Mg(OH)2 complex nanostructures with superhydrophobicity and flame retardant effects」、Journal Phys.Chem.、2010年、114、p. 17362-17368
【非特許文献3】Jianmin Chen、Li Lin、Yunhua Song、Lei Shao、「Influence of KOH on the hydrotermal modification of Mg(OH)2」、Journal of Crystal Growth、2009年、311、p.2405-2408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、水酸化マグネシウム難燃剤のナノ粒子の生成であるが、このナノ粒子は、できるだけ、表面処理がなされ、板状六方構造を呈し、BET法測定による比表面積が20m^(2)/g以下、望ましくは2?15m^(2)/g、レーザー回折測定による二次粒子の平均径が2μm以下、望ましくは0.7?1.7μmであり、その粒子を充填・難燃剤として用いた場合、最も効率的であるような粒度特性(二次粒子10%の直径が0.8μm以下、二次粒子90%の直径が5μm以下)をもち、一次粒子の縦の長さが150?900nm、望ましくは200?600nm、厚さは15?150nm、望ましくは40?100nmである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
設定目標は、水酸化マグネシウム難燃剤のナノ粒子生成を二段階にて行うことによって達成され、第一段階において、温度が100℃以下、圧力は常圧、OH^(-)イオン対Mg^(++)イオンのモル比が1.9?2.1:1の範囲において、塩化マグネシウム水溶液とアルカリ成分との相互反応が行われ、第二段階においては、温度120?220℃、圧力0.18?2.3MPa、継続時間2?24時間において、水酸化マグネシウム粒子の水熱再結晶化が行われ、その際、凝集による、その後の一次粒子の増大及び二次粒子の粗大化を防ぐために、温度160?240℃、圧力0.6?3,3MPaにて、反応塊に対して過熱蒸気による周期的な液圧衝撃が加えられる。
【0015】
所定の特性をもった水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の生成は、特殊な水熱処理によって達成され、その過程では、水熱再結晶化の際に起こる一次粒子の増大化を防止するために、絶えず撹拌が行われるとともに、圧力0.6?3.3MPa、温度160?240℃の過熱蒸気による液圧衝撃が小出しに行われる。液圧衝撃により、結晶化しつつある粒子が母液から隔離され、そのことによって、粒子の増大化過程、すなわち、粒子サイズの増大が抑えられる。液体媒質中のノズル周辺部分に過熱蒸気が供給された瞬間、衝撃波が生じ、その作用によって、形成されつつある一次粒子の凝塊が破壊される。このほか、過熱蒸気が液体媒質に触れるときに、供給された蒸気のストリームが無数の蒸気泡となり、それが崩壊する際のキャビテーションによりマイクロ衝撃波が発生し、一次粒子の凝集を阻止する。
【0016】
液圧衝撃頻度数ならびに反応塊中における衝撃の分布及び伝播速度を変化させることによって、サイズの異なる一次粒子の割合を調節することができる。このようにして、強度の撹拌、高頻度の液圧衝撃及び、反応塊中における衝撃の均等配分によって、より細かな、サイズの揃った、水酸化マグネシウムの六方平板及び二次粒子が形成される。しかしながら、液圧衝撃が点状に、周期的に行われ、撹拌が穏やかな場合には、形成される水酸化マグネシウムの六方平板及び二次粒子のサイズは、より大きいものとなる。
【0017】
水熱再結晶化によって、鮮明な六方形態を有する水酸化マグネシウム粒子が形成される。
【0018】
水熱再結晶化工程は、温度120?220℃、望ましくは140?200℃にて、反応母液媒質または脱イオン水媒質において、周期的または連続的な条件のもとで実施される。
【0019】
反応母液として、塩化マグネシウムとアルカリ成分との相互反応の際に形成される母液が用いられる。
【0020】
水熱再結晶化の継続時間は、2?24時間で、最も望ましくは、4?16時間である。
【0021】
塩化マグネシウムとして、天然由来の塩化マグネシウム(海水または海洋水、塩水湖水、地下塩水等)もしくは(マグネサイト、ドロマイトまたはブルーサイトを塩酸に溶解させて得られた)合成由来のものが用いられる。
【0022】
鉄、及び/または臭素、及び/またはホウ素、及び/または硫酸塩、及び/またはマンガン等の望ましくない不純物を前もって取り除いた塩化マグネシウムの溶液を使用することが望ましい。
【0023】
アルカリ成分としては、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウム、または水酸化アンモニアのそれぞれの水溶液、または水酸化カルシウムの懸濁液が用いられる。
【0024】
水熱再結晶化は、反応母液中の広範囲な試薬濃度において実施するがことが可能であるが、水酸化マグネシウムの含有量が2?10%であることが望ましい。この場合、OH^(-)イオン対Mg^(++)イオンのモル比は1.9?2.1:1の範囲内におまる。
【0025】
液圧衝撃は、水熱再結晶化が行われる際に、反応塊の温度120?220℃において行われ、過熱蒸気(生蒸気)の供給は、任意の断面形状の孔、例えば円形孔を通して行われる。温度160?240℃、圧力0.6?3.3MPaの生蒸気を使用することが望ましい。
【0026】
生成される水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子は、板状六方構造を呈し、BET法測定比表面積は20m^(2)以下、レーザー回折測定による二次粒子の平均径は2μm以下、二次粒子10%の直径は0.8μm以下、二次粒子90%の直径は5μm以下、一次粒子の縦方向の長さは150?900nm、厚さは15?150nmである。上記粒子の吸油力は、水酸化マグネシウム100gに対してアマニ油50g以下、空隙率は10,5x10^(?3)cm^(3)/g以下、三酸化二鉄に換算した鉄分質量含有率は0.01%以下である。
【0027】
上記の方法で生成された水酸化マグネシウムナノ粒子は、一つまたはいくつかのシランカップリング剤、及び/または表面処理剤によって改質することができる。
【0028】
シランカップリング剤として、有機官能トリアルコキシシラン基から選ばれた化合物が用いられ、この基には、アルキルトリエトキシシラン、アルキルトリメトキシシラン、アルケニルトリエトキシシラン、アルケニルトリメトキシシラン、アミノシラン、その他、及び/またはそれらの混合物が含まれる。このような化合物の例としては、メチルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル・トリス(2-メトキシエトキシ)シラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシ)-エチルトリメトキシシラン、 グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピル・トリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等がある。
【0029】
表面処理剤として、8?20の炭素原子、またはそれらのアルカリ金属塩及び/またはそれらの混合物を含有する、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸基から選ばれた化合物が用いられる。このような化合物の例としては、ステアリン酸、オレイン酸、ラウリル酸、パルミチン酸、ベヘン酸、ミリスチン酸、トール油脂肪酸等がある。
【0030】
表面処理は、既知の方法、例えば、懸濁法、または乾式法を用いて、または回転・気流式粉砕機などにおける乾燥工程において行われる。
【0031】
水酸化マグネシウムに対して0.1?5.0%の量の表面処理剤を用いることが望ましい。
【0032】
本方法によって生成される水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子においては、一次及び二次粒子のサイズならびに比表面積の調整が可能であるため、ポリマーの機械的特性及び処理の技術効率を損なうことなく、有機ポリマー基材用の排煙抑制・非毒性燃焼抑制剤として、これを用いることができる。
【0033】
本方法によって生成される水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子は、そのユニークな特性ゆえに、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレンアクリレート共重合、ポリスチロール、エチレンビニルアセテート共重合体をベースとしたポリマー、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ABS樹脂などより成るポリマー基材に対して用いることができる。
【0034】
水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の本生産方法は、本発明の本質を示す下記実施例に明示されているが、これらの実施例は、あくまで例証であって、出願された発明の分野はこれらに限られるものではない。
【0035】
水酸化マグネシウム粒子の分析のためには、以下の分析法が用いられた:
・ 粒度分布は、モジュールScirocco 2000付きの、Malvern InStruments Limited社(英国)のMalvern MasterSizer - 2000 Eにおいてレーザー回折法によって測定された。
・ BET法による比表面積及び空隙率は、Quantachrome Instuments社(米国)の表面積及び孔サイズ用高速分析器「Nova 2200 e」において測定された。
・ 粒子の形態とサイズは、走査顕微鏡を用いて測定された。
・ 吸油力は、GOST21119.8?75、第3項に従って測定された。
・ 鉄の質量含有率は、スルホサリチル酸法によって測定された。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】比較例の水酸化マグネシウムの一次粒子の形状及びサイズを示す図である。
【図2】比較例の水酸化マグネシウムの一次粒子の形状及びサイズを示す図である。
【図3】実施例1の水酸化マグネシウムの一次粒子の形状及びサイズを示す図である。
【図4】実施例1の水酸化マグネシウムの一次粒子の形状及びサイズを示す図である。
【図5】実施例2の水酸化マグネシウムの一次粒子の形状及びサイズを示す図である。
【図6】実施例2の水酸化マグネシウムの一次粒子の形状及びサイズを示す図である。
【図7】実施例3の水酸化マグネシウムの一次粒子の形状及びサイズを示す図である。
【図8】実施例3の水酸化マグネシウムの一次粒子の形状及びサイズを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
比較例
外被とタービン攪拌機付き反応器・高圧釜へ、質量含有率32%の塩化マグネシウム及び質量含有率0.0008%の鉄を含有する、質量含有率10%、重量282,09kgのビショフ石溶液が含まれている水酸化ナトリウム溶液760.40kgを撹拌しながら装入する。OH^(?)イオン対Mg++イオンのモル比は2.006 : 1である。反応器の内容物は、180?190℃まで加熱し、撹拌しながら12時間寝かせる。冷却後、質量含有率5.3%の水酸化マグネシウムを含む懸濁液を圧搾濾過器にて冷却、濾過し、塩化物の洗浄を行う。圧搾濾過済みの水酸化マグネシウムを真空乾燥機にて、温度60?65℃、圧力100?650mmHgにて乾燥したのち、ハンマー式粉砕機にて微細化する。生成された水酸化マグネシウムの諸特性は表に示され、一次粒子の形状及びサイズは図1及び2に示されている。
【実施例1】
【0038】
外被、櫂型攪拌機及び熱電対が装備された反応器に、質量含有率33.5%の塩化マグネシウム及び質量含有率0.0006%の鉄を含有する、質量含有率18.3%、体積0.421m^(3)のビショフ石溶液と同時に水酸化カリウム溶液1.036m^(3)を30分間撹拌しながら装入する。 OH^(?)イオン対Mg++イオンのモル比は2.006 : 1である。撹拌しながら、反応塊を45?55℃まで加熱し、1時間寝かせる。その後、反応塊は高圧釜に移し替えられるのであるが、この高圧釜には、二段式櫂型攪拌機、外被、及び複数の円形孔があり、反応塊の液面から高さの2/3だけ低い位置に互いに向き合うように取り付けられた二つの過熱蒸気供給用バブラーが装備されている。反応塊を撹拌しながら加熱し、流量1.5?2.5m^(3)/h、温度190℃、圧力1.3MPaで生蒸気を周期的、脈動的に供給しつつ、温度180?185℃にて2時間寝かす。生成された懸濁液を圧搾濾過器にて濾過し、脱イオン水で洗浄し、回転・気流式粉砕機にて乾燥する。生成された水酸化マグネシウムの諸特性は表に示され、一次粒子の形状及びサイズは図3及び4においても示されている。
【実施例2】
【0039】
外被、櫂型攪拌機及び熱電対が装備された反応器に、質量含有率33.5%の塩化マグネシウム及び質量含有率0.00035%の鉄を含有する、質量含有率15.4%、体積0.421m^(3)の純化されたビショフ石溶液と同時に水酸化ナトリウム溶液0.881m^(3)を30分間撹拌しながら装入する。OH^(?)イオン対Mg^(++)イオンのモル比は2.014 : 1である。反応塊を、撹拌しながら45?55℃まで加熱し、1時間寝かせる。
その後、反応塊は高圧釜に移し替えられるが、この高圧釜には、二段式櫂型攪拌機、外被、及び複数の円形孔があり、反応塊の液面から高さの2/3だけ低い位置に互いに向き合うように取り付けられた二つの過熱蒸気供給用バブラーが装備されている。反応塊を撹拌しながら加熱し、流量1.5?2.5m^(3)/h、温度220℃、圧力2.3MPaで生蒸気を周期的、脈動的に供給しつつ、温度180?185℃にて6時間寝かす。
【0040】
水酸化マグネシウムの分離は実施例1と類似の方法で行われる。生成された水酸化マグネシウムの諸特性は表に示され、一次粒子の形状及びサイズは図5及び6においても示されている。
【実施例3】
【0041】
外被、櫂型攪拌機及び熱電対が装備された反応器に、質量含有率32%の塩化マグネシウム及び質量含有率0,0003%の鉄を含有する、質量含有率17%、64,97kg/hの純化されたビショフ石溶液と同時に水酸化ナトリウム溶液103,5kg/hを計量して、撹拌しながら装入する。OH^(?)イオン対Mg^(++)イオンのモル比は2.014 : 1である。反応器中の反応塊を温度40?50℃にて1時間維持する。反応塊は、合成反応器から高圧釜に移し替えられるが、この高圧釜には、二段式櫂型攪拌機、外被、及び複数の円形孔があり、反応塊の液面から高さの2/3だけ低い位置に互いに向き合うように取り付けられた二つの過熱蒸気供給用バブラーが装備されている。高圧釜内の反応塊を温度175?185℃にて12時間保持する。生蒸気は、流量25?40kg/h、温度190℃、圧力1.3MPaで脈動的に供給される。水酸化マグネシウム粒子の懸濁液を、高圧釜から懸濁層用の受け器に圧力をかけて押し出す。生成された懸濁液は、圧搾濾過器で濾過され、脱塩水にて洗浄され、回転・気流式粉砕機にて乾燥される。生成された水酸化マグネシウムの諸特性は表に示され、一次粒子の形状及びサイズは図7及び8においても示されている。
【0042】
水酸化マグネシウムの特性
【0043】
【表1】

【0044】
表面処理実施例1
攪拌機及び外被付きの反応器に、423.92kgの脱塩水及び実施例2に従って得られた、濾過済みの水酸化マグネシウム沈殿物125.15kgを撹拌しながら装入する。この沈殿物には、質量含有率43.97%の水酸化マグネシウム、質量含有率0.10%の塩化ナトリウム及び質量含有率99.5%、重量1.10kgのステアリン酸が含まれている。懸濁液を80?90℃に加熱し、1?2時間寝かせたのち、圧搾濾過器で濾過し、回転・気流式粉砕機にて乾燥させる。表面処理された水酸化マグネシウム粒子が生成される。ステアリン酸の質量含有率は2%である。
【0045】
表面処理実施例2
ヘンシェルミキサーに、実施例2に従って生成された、質量含有率1.5%の水を含む水酸化マグネシウム200gを装入し、2gのビニルトリメトキシシランSilquest A? 171を添加し、40?60分間撹拌する。表面処理された水酸化マグネシウム粒子が生成される。ビニルトリメトキシシランの質量含有率は1%である。
【0046】
これらの実施例は、本生産方法によって、一次及び二次粒子のサイズ及び比表面積が調整可能な水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子を生成することができることを示している。
【0047】
水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の使用例
100重量部の耐衝撃性ポリプロピレン、0.2質量部の抗酸化剤Irganox 1010及び実施例3に従って生成された185質量部の水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子を、均一状態になるまで撹拌し、230℃にて二軸スクリュー押出機に掛けて顆粒化する。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状六方構造をもち、BET法測定による比表面積が20m^(2)/g以下、レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が2μm以下であり、表面処理されていない水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子であって、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子は、その二次粒子10%の直径が0.8μmを超えず、二次粒子90%の直径が5μmを超えず、吸油力が、水酸化マグネシウム100gに対して50g以下であり、空隙率が10.5x10^(?3)cm^(3)/g以下であり、なおかつ、上記水酸化マグネシウムの一次粒子が板状六方形を呈し、一次粒子の縦の長さが150?900nm、厚さが15?150nmであることを特徴とする、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項2】
レーザー回折法測定による二次粒子の平均径が0.7?1.7μmであることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項3】
BET法測定による比表面積が2?15m^(2)/gであることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項4】
一次粒子の縦の長さが200?600nm、厚さが40?100nmであることを特徴とする、第1項に従う水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
三酸化二鉄に換算した鉄分含有量が0.01%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子。
【請求項8】
塩化マグネシウム水溶液とアルカリ成分との相互反応による表面処理が行われておらず、二段階より成る、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の生産方法であって、第一段階において、温度100℃以下、常圧、OH-イオン対Mg++イオンのモル比が1.9?2.1:1の範囲において、塩化マグネシウム水溶液とアルカリ成分との相互反応が行われ、第二段階においては、温度120?220℃、圧力0.18?2.3MPa、継続時間2?24時間において水酸化マグネシウム粒子の水熱再結晶化がおこなれ、なおかつ、凝集による、その後の一次粒子の増大及び二次粒子の粗大化を防ぐことを目的として水熱再結晶化が行われる際に、温度160?240℃、圧力0.6?3,3MPaにおいて、過熱蒸気による周期的な液圧衝撃が反応塊に対して加えられることを特徴とする、水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子の生産方法。
【請求項9】
塩化マグネシウムとして、天然由来または合成由来の塩化マグネシウムを使用することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
塩化マグネシウム水溶液が、鉄、及び/または臭素、及び/またはホウ素、及び/または硫酸塩、及び/またはマンガン、その他の不純物を前もって除去されたものであることを特徴とする、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アルカリ成分として、水酸化ナトリウム、または水酸化カリウム、または水酸化アンモニウムのそれぞれの水溶液、または水酸化カルシウム懸濁液が使われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
水酸化マグネシウムナノ粒子の生成が、周期的または連続的条件で行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
水熱再結晶化が、反応母液媒質中または脱イオン水中で行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
液圧衝撃が、任意の断面形状をもつ孔を経由して行われることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-21 
出願番号 特願2016-179303(P2016-179303)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (C09K)
P 1 652・ 113- YAA (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 井上 能宏
國島 明弘
登録日 2017-04-07 
登録番号 特許第6120035号(P6120035)
権利者 ジョイント ストック カンパニー カウスティク
発明の名称 水酸化マグネシウム難燃剤ナノ粒子及びその生産方法  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  

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