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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1341996
異議申立番号 異議2017-700293  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-21 
確定日 2018-06-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5996761号発明「耐熱性芽胞形成細菌の発芽抑制剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5996761号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5996761号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5996761号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成27年11月18日に太陽化学株式会社及びマイクロ波化学株式会社(以下「特許権者」という。)により特許出願され、平成28年9月2日に特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許公報が発行され、その後、上記請求項1?4に係る特許に対し、平成29年3月21日に特許異議申立人山崎浩一郎(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
そして、その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 6月 5日付け 取消理由通知
同年 7月31日 意見書、訂正請求書(特許権者)
同年 8月 7日付け 通知書
同年 9月 8日 意見書(特許異議申立人)
同年 9月28日付け 取消理由通知、審尋
同年12月 1日 意見書、回答書、訂正請求書(特許権者) 同年 同月 7日付け 通知書
平成30年 1月11日 意見書(特許異議申立人)
同年 2月 5日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 4月 6日 意見書(特許権者)
同年 5月 8日 上申書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否についての判断
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成29年12月1日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?4について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。
なお、平成29年12月1日付けの訂正の請求により、同年7月31日付けの訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

1 訂正の内容
(1)請求項1?4に係る一群の請求項に係る訂正について
ア 訂正事項1
訂正前の請求項1に「構成脂肪酸の95モル%以上がパルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステルを含む、耐熱性芽胞形成細菌の発芽抑制剤であって、耐熱性芽胞形成細菌がモレラ サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、サーモアネロバクター マスラニ(Thermoanaerobacter mathranii)、及びジオバチルス ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophillus)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、発芽抑制剤。」と記載されているのを、
「構成脂肪酸の95モル%以上がパルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステルを含む、耐熱性芽胞形成細菌の発芽抑制剤であって、耐熱性芽胞形成細菌がモレラ サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、サーモアネロバクター マスラニ(Thermoanaerobacter mathranii)、及びジオバチルス ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophillus)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記ショ糖脂肪酸エステルがその合成反応においてマイクロ波加熱を、周波数300MHz?300GHz、温度80?150℃、反応時間1?20時間の条件下で用いて得られたものである、発芽抑制剤。」に訂正する。

2 判断
(1)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1について、請求項2?4はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1におけるショ糖脂肪酸エステルについて、「前記ショ糖脂肪酸エステルがその合成反応においてマイクロ波加熱を、周波数300MHz?300GHz、温度80?150℃、反応時間1?20時間の条件下で用いて得られたものである」というショ糖脂肪酸エステルを得るための方法の記載を加入することで、ショ糖脂肪酸エステルを限定する訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1は、上記アで述べたとおり、特許請求の範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

新規事項の追加について
本件特許に係る願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の【0012】には「ショ糖脂肪酸エステルの製造法については、多くの提案がなされている。・・・本発明において重要なファクターは構成脂肪酸の90モル%以上がパルミチン酸であることであり、これを達成できるのであれば合成方法は特に制限されない。ただし、生産性向上の観点や風味を好ましいものとする観点から、マイクロ波や超音波を用いた合成が好ましく、マイクロ波と超音波を併用した合成がより好ましい。」との記載があり、同【0014】には「マイクロ波の周波数は・・・300MHz?300GHzの範囲内の周波数などを使用することができ・・・る。」との記載があり、同【0019】には「マイクロ波や超音波を用いる場合の合成時の温度は・・・80?150℃がより好ましい。反応時間は・・・1?20時間が好ましい。・・・」との記載がある。
そうすると、「構成脂肪酸の95モル%以上がパルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステル」が「その合成反応においてマイクロ波加熱を、周波数300MHz?300GHz、温度80?150℃、反応時間1?20時間の条件下で用いて得られたもの」であることは、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であるといえる。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第5996761号の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
構成脂肪酸の95モル%以上がパルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステルを含む、耐熱性芽胞形成細菌の発芽抑制剤であって、耐熱性芽胞形成細菌がモレラ サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、サーモアネロバクター マスラニ(Thermoanaerobacter mathranii)、及びジオバチルス ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophillus)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記ショ糖脂肪酸エステルがその合成反応においてマイクロ波加熱を、周波数300MHz?300GHz、温度80?150℃、反応時間1?20時間の条件下で用いて得られたものである、発芽抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載の発芽抑制剤を含有する飲食品。
【請求項3】
飲食品が密封容器飲料である請求項2記載の飲食品。
【請求項4】
密封容器飲料が、コーヒー、紅茶、緑茶、ココア、抹茶、豆乳、スープ類、又はミルクセーキである、請求項3記載の飲食品。」

第4 平成30年2月5日付け取消理由(決定の予告)の概要
当審が取消理由通知(決定の予告)で通知した平成30年2月5日付け取消理由は、以下の理由1であり、その概要は下記に示すものである。

1 理由1について
本件の平成29年12月1日付け訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された特許を受けようとする発明は、下記の点で明確とはいえないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。
よって、平成29年12月1日付け訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明の特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

平成29年12月1日付け訂正請求により訂正された請求項1に係る発明は、発芽抑制剤という物の発明について請求項にその物の製造方法が記載されているところ、発芽抑制剤に含まれる構成脂肪酸の95モル%以上がパルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステルに関し、残り5%脂肪酸及び熱劣化成分について、不可能・非実際的事情が存在しているとはいえないから、上記請求項1に係る発明は明確でない。
上記請求項1に係る発明を引用する同請求項2?4に係る発明も同じ理由により明確でない。

第5 当審の判断
当審は、平成30年2月5日付け取消理由(決定の予告)の理由1によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 本件発明1について
本件発明1は、上記第3で示したとおりであって、構成脂肪酸の95モル%以上がパルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステルを含む、耐熱性芽胞形成細菌の発芽抑制剤という物の発明である。そして、本件発明1が記載されている請求項1には、発芽抑制剤の成分であるショ糖脂肪酸エステルについて、「その合成反応においてマイクロ波加熱を、周波数300MHz?300GHz、温度80?150℃、反応時間1?20時間の条件下で用いて得られたものである」という製造方法(以下「マイクロ波加熱を用いた製造方法」という。)が記載されているので、請求項1の記載は、物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に相当するといえる。

2 不可能・非実際的事情について
物の発明に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に、発明が明確であることという要件に適合するといえるには、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限られると解されるので、以下、不可能・非実際的事情が存在するかについて検討する。

(1)発明の詳細な説明の記載
本願特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「【背景技術】
【0002】
飲食品、特に缶・ビン・レトルトパウチ等に充填される飲食品は通常長期保存のために加熱殺菌処理を経て製造される。しかしながら芽胞を形成する細菌類は加熱殺菌処理によっても死滅する事はなく、保管条件によっては発芽、増殖を経て飲食品を変敗に至らしめる事がある。このような耐熱性の高い細菌類による品質劣化を回避するため抗菌性を有する乳化剤、例えばショ糖脂肪酸エステルを300ppm?1000ppm添加し芽胞形成耐熱性細菌の増殖を抑制する事が一般的に行われている。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで、ショ糖脂肪酸エステルは、パルミチン酸比率が70モル%程度あれば十分に殺菌性等の効果が得られると考えられていた。このため一般に、パルミチン酸比率がさらに高いショ糖脂肪酸エステルの市場流通は見られない。前記文献に開示される、いずれのショ糖脂肪酸エステルにおいても、パルミチン酸比率がせいぜい80モル%以下に留まっている。このような背景のもと、耐熱性芽胞形成細菌の発芽抑制剤においても、パルミチン酸比率の高くないショ糖脂肪酸エステルが用いられているが、十分な発芽抑制効果を期待するには相応の添加量が必要となる。しかしながら、高い発芽抑制効果を期待してショ糖脂肪酸エステルの添加量を多くすると、ショ糖脂肪酸エステル特有の苦味が生じ、飲食品の風味を著しく損なうといった問題があることがわかった。
【0007】
本発明の課題は、耐熱性芽胞形成細菌の発芽抑制効果を有しつつも、ショ糖脂肪酸エステル特有の苦味が少なく、飲食品の風味を損なうことのない発芽抑制剤を提供することである。」

(b)「【0012】
ショ糖脂肪酸エステルの製造法については、多くの提案がなされている。・・・また、溶媒を用いずに、ショ糖と脂肪酸エステルとを直接混合して100?150℃に加熱することにより反応させる直接法と呼ばれる方法もある。これ以外にもマイクロ波や超音波をショ糖及び脂肪酸エステルを含む混合物又はショ糖及び脂肪酸を含む混合物(以下、単に「混合物」ともいう)に照射することで、効率よく反応を進める方法等も提唱されているが、本発明において重要なファクターは構成脂肪酸の90モル%以上がパルミチン酸であることであり、これを達成できるのであれば合成方法は特に制限されない。ただし、生産性向上の観点や風味を好ましいものとする観点から、マイクロ波や超音波を用いた合成が好ましく、マイクロ波と超音波を併用した合成がより好ましい。
【0013】
マイクロ波や超音波を用いることで風味が好ましいものとなるメカニズムは、定かではないが、混合物にマイクロ波や超音波を照射することにより反応が効率よく促進され、短時間で反応を行うことができ、このため、風味を損なう熱劣化成分の発生が少なくなるためと推定される。」

(c)「【実施例】
【0034】
発芽抑制剤の調製
・・・
【0035】
実施例2、3 マイクロ波加熱及び超音波照射
三口フラスコにショ糖34g及び水50gを入れ、30分間、60℃にて加熱撹拌することで完全に溶解させた。また、パルミチン酸メチル27gを60℃にて加熱し溶融させ、三口フラスコに投入した。その三口フラスコを撹拌機及び温度計(熱電対)を備え付けたマイクロ波リアクター内に設置した後、三口フラスコ上部より超音波ホーンを導入した。そして、撹拌しながらマイクロ波(2.45GHz)と超音波(20kHz)を同時に照射し、温度を90℃±2℃に保持しながら、下記の各調製品となるように、反応時間を適宜調整してエステル交換反応を行った。このエステル交換反応時の液状は、水中油滴型のエマルションであった。反応終了後、混合物より水とメチルエチルケトン、酢酸エチルを用いて以下のショ糖パルミチン酸エステルに精製し、実施例2の発芽抑制剤を得た。実施例3は、前記の精製工程の中で、モノエステル含量を90重量%とする以外は同様にして発芽抑制剤を得た。
実施例2:C16(9580)SE:パルミチン酸比率95モル%、モノエステル含量80重量%
実施例3:C16(9590)SE:パルミチン酸比率95モル%、モノエステル含量90重量%
・・・
【0036】
実施例4、5、比較例1、2 通常加熱
三口フラスコにショ糖34g、乳化剤としてのショ糖パルミチン酸エステル2g、及び水50gを入れ、30分間、60℃にて加熱撹拌することで完全に溶解させた。また、パルミチン酸メチル27gを60℃にて加熱し溶融させ、三口フラスコに投入した。その三口フラスコを油浴内に設置し、撹拌しながら温度計(熱電対)で測定した温度を90℃±2℃に保持しながら、下記の各調製品となるように、反応時間を適宜調整してエステル交換反応を行った。反応終了後、混合物より水とメチルエチルケトン、酢酸エチルを用いて以下のショ糖パルミチン酸エステルに精製し、実施例4の発芽抑制剤を得た。実施例5は、前記の精製工程の中で、パルミチン酸比率を95モル%とする以外は同様にして発芽抑制剤を得た。比較例1は、前記の精製工程の中で、パルミチン酸比率を70モル%とする以外は同様にして発芽抑制剤を得た。比較例2は、前記の精製工程の中で、パルミチン酸比率を80モル%とする以外は同様にして発芽抑制剤を得た。
実施例4:C16(9080)SE:パルミチン酸比率90モル%、モノエステル含量80重量%
実施例5:C16(9580)SE:パルミチン酸比率95モル%、モノエステル含量80重量%
・・・」

(d)「【0043】
試験例2
<飲料風味試験>
L値20の焙煎コーヒー豆65gを用いて熱水抽出(抽出効率25%)を行い、Bx3.0のコーヒー抽出液550gを得た。ここに、牛乳150g、グラニュー糖50g、並びに60℃の温水に各実施例、比較例の発芽抑制剤をパルミチン酸含量が240ppmとなるよう添加量調整し溶解した溶液を加え、重曹にてpH6.9に調整後、更に水を加え全量を1000gとし、コーヒーミックスを得た。重量調整したコーヒーミックスは高圧型均質機を用い65?75℃の温度で15MPaの圧力で均質化し、缶容器に充填後121℃、30分間レトルト殺菌を行った。殺菌後のコーヒーミックスのpHは6.6であった。本飲料サンプルを用いて、以下の基準で、苦味及び異味についての官能評価を実施した結果を表4に示す。
苦味の評価基準
○:苦味を感じない
△:僅かに苦味を感じる
×:苦味を感じる
異味の評価基準
◎:異味を感じない
○:異味をほとんど感じない
△:僅かに異味を感じる
×:異味を感じる
【0044】
【表4】


【0045】
表4の結果より、各ショ糖脂肪酸エステルが静菌性を示す量を添加したミルクコーヒー飲料は、パルミチン酸比率が高いショ糖脂肪酸エステルの方が添加量を低く抑えられることより苦味が抑えられ風味が良好であった。また、実施例1、2と実施例4、5との対比より、マイクロ波や超音波を用いて合成することにより、異味が抑えられ風味がより良好となることがわかる。なお、実施例4、5においては、僅かに異味を感じるものの、飲料として問題のない程度のものであった。」

(2)平成30年4月6日付け意見書について
特許権者は、「不可能・非実際的事情」について、以下のように主張している。
「(1)ショ糖脂肪酸エステルを構成する残り5%の脂肪酸について
審判官殿がご指摘のように、本件発明は、「構成脂肪酸の95モル%以上がパルミチン酸」であり、残り5%の脂肪酸は、原料である脂肪酸メチルエステルに含まれるパルミチン酸以外の不純物としての他の脂肪酸となります。実験には、メーカー保証純度97%品を使用していますが、実験報告書に記載のように、本件特許権者の方で分析した純度は、99.9%以上であり、その他ピークは0.1%以下であります。

審判官殿が懸念している事項は、ショ糖脂肪酸エステルを構成する5%の脂肪酸の違いによる風味への影響であろうかと思料します。即ち、同じ原料を使用しても、マイクロ波加熱と通常加熱とでは、残り5%の脂肪酸組成が異なる可能性を懸念されていると思いますが、その心配はありません。今回の実験では、精製完了品にメチルエステル化脂肪酸組成分析(ガスクロマトグラフチャート最終品メチルエステル分解脂肪酸組成分析)を実施したところ、実験報告書の図○11(○11は、○の中の11を表す。以下同じ。)、○12に示すように、マイクロ波合成、通常加熱合成のいずれの方法で合成したものでもショ糖エステルを構成している結合脂肪酸に差異は見られずほぼ全てがパルミチン酸であったという結果になっています(その他の明確なピークは確認されていません)。今回の実験は、メーカー保証純度97%を使用しましたが、仮に、原料にもし異なる鎖長の脂肪酸メチルエステルがもう少し、5%程度まで含まれており、その結果、パルミチン酸以外の脂肪酸エステルが微量に混在したとしても、ショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸組成においてはマイクロ波合成、通常加熱合成に明確な差異は出ないことは、当業者からみれば明白なことであります。これは鎖長の異なる脂肪酸メチルエステル間の反応性はマイクロ波と通常加熱の間に理論的には差異がないためであります。添付の実験報告書で考察されていますが、マイクロ波合成では、ショ糖と脂肪酸メチルエステルとの反応速度は通常加熱と比較して高くなりますが、その異なる鎖長間の反応性は同様であります。従って異なる鎖長間の脂肪酸メチルエステルの反応性はマイクロ波と通常加熱において同一であり、同一原料を使用するかぎり合成品のショ糖脂肪酸エステル中の脂肪酸組成に差異はないとみるのが科学的に妥当なことであります。

(2)通常加熱によるショ糖脂肪酸エステルの精製品に不純物のピークは実質的に検出できないこと
今回、通常加熱によるショ糖脂肪酸エステルの合成と、同時にマイクロ波による合成も実施しました。審判官殿は、マイクロ波加熱か通常加熱かの違い以外同じ条件で合成し,分析するようにご示唆をいただきましたが、モノエステル体とジエステル体の合成割合が2つの合成間で差が生じないように調整するため、反応温度と反応時間は相違していますが、それ以外の点は、全て同じ条件であります。そして、実験報告書の図○5、○10に示すように、いずれの合成法においても未反応物や不純物が十分に除去された精製品(図中では、「MW反応-最終品」、「通常加熱反応-最終品」と表示)は、どちらのショ糖エステルも共に純度99%以上でありました。従って、精製により、検出できるような不純物は、通常加熱による精製品でも実質的に存在しないものといえます。」(平成30年4月6日付け意見書第2頁第21行?第4頁第8行)

そして、この意見書に添付された乙第2号証(実験報告書)には、実験を行った日付と木谷径治氏の氏名及び捺印があり、そして、「1.実験方法」及び「2.結果と考察」が以下のように記載され、ガスクロマトグラフチャート○5(MW反応-最終品)、同○10(通常加熱反応-最終品)、同○11(MW反応-最終品メチルエステル分解脂肪酸組成分析)及び同○12(通常加熱反応-最終品メチルエステル分解脂肪酸組成分析)が示されている。

ア「1.実験方法
1-1実験試薬
本実証実験に使用した原料脂肪酸メチルエステルは、これまで採用してきたものと同一の東京化成品であり、メーカー保証純度は97%品である。我々で分析した純度は99.9%以上であり、その他ピークは0.1%以下であった。

1-2 マイクロ波合成
ショ糖7.2gを水7.2gに完全に溶解させた水溶液を三口フラスコに投入した。60℃まで加熱して完全に融解させたパルミチン酸メチル(メーカー保証純度97%)48gを投入した。その三口フラスコを撹拌機及び温度計(熱電対)を備え付けたマイクロ波リアクター内に設置した。そして撹拌しながらマイクロ波(2.45GHz)を照射し、内容液温度を120℃±2℃に保持しながら、反応時間を調整してエステル交換反応を行った。
反応終了後(ガスクロマトグラフチャート○1)、反応物に水とメチルエチルケトンを加え、完全に溶解させ、水洗作業を行った(ガスクロマトグラフチャート○2)。その後、水とメチルエチルケトンを留去し,得られた固形物より酢酸エチルを用いて晶析工程を繰り返した。

1-3 通常加熱合成
ショ糖7.2gを水7.2gに完全に溶解させた水溶液を三口フラスコに投入した。60℃まで加熱して完全に融解させたパルミチン酸メチル(メーカー保証純度97%)48gを投入した。その三口フラスコを撹拌機及び温度計(熱電対)を備え付けたヒートブロック式加熱装置に設置した。そして撹拌しながら加熱し、内容液温度を110℃±2℃に保持しながら、ショ糖エステル組成がマイクロ波合成のものと同等になるように反応時間を調整してエステル交換反応を行った。
反応終了後(ガスクロマトグラフチャート○6)、反応物に水とメチルエチルケトンを加え、完全に溶解させ、水洗作業を行った(ガスクロマトグラフチャート○7)。その後、水とメチルエチルケトンを留去し,得られた固形物より酢酸エチルを用いて晶析工程を繰り返した。
マイクロ波と通常加熱にて作成したショ糖パルミチン酸エステルについて、monoエステル体と、diエステル体の組成を揃えるために、実験条件を調整した。通常加熱法では熱伝導のため、バルク温度よりも熱源付近の温度は高くなってしまう。このことからマイクロ波と同じ液温とすると、diエステル体の割合が高くなるため(またコゲも発生する)、収率は悪化するが温度を下げて実施した。」(乙第2号証第1頁第5行?第2頁第9行)

イ「

」(乙第2号証第7頁)

ウ「

」(乙第2号証第12頁)

エ「

」(乙第2号証第13頁)

オ「

」(乙第2号証第14頁)

(3)甲第7号証の記載
特許異議申立人が平成29年9月8日に提出した意見書に添付された甲第7号証(小久保定夫著、シュガーエステル開発の歴史と最近の動向、独立行政法人 農畜産業振興機構、2010年3月6日(https://sugar.alic.go.jp/japan/user/user1002a.htm))には、以下の記載がされている。

(7a)「2.製造方法
砂糖はブドウ糖と果糖が結びついた糖類で、1分子の中には8カ所の水になじむ水酸基がある。この水酸基にパーム油、やし油から得られる脂肪酸をつけると(この結合をエステル結合という)、不思議なことに冒頭に述べたように甘味を感じなくなる。通常、無味、無臭と表現しているが、厳密には脂肪酸由来の風味や独特の味を感ずる。水に溶けるものから油脂のようにまったく水に溶けない製品まで、8個ある水酸基にいくつ脂肪酸をつけるかによって性格が変わる。また結合する脂肪酸の種類によってもその性格が変わる。」(甲第7号証第2頁「2.製造方法」の項目の下第1?6行)

(4)判断
本件発明1は、合成反応においてマイクロ波加熱を、周波数300MHz?300GHz、温度80?150℃、反応時間1?20時間の条件下で用いて得られたショ糖脂肪酸エステルであって、構成脂肪酸の95モル%以上がパルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステルを含む、耐熱性芽胞形成細菌の発芽抑制剤に係るものである。

本件特許明細書には、生産性向上の観点や風味を好ましいものとする観点から、マイクロ波や超音波を用いてショ糖脂肪酸エステルを合成することが好ましいと記載され、マイクロ波や超音波を用いることで風味が好ましいものとなるメカニズムは、定かではないが、混合物にマイクロ波や超音波を照射することにより反応が効率よく促進され、短時間で反応を行うことができ、このため、風味を損なう熱劣化成分の発生が少なくなるためと推定されることが記載されている(上記(1)の摘記(b)を参照)。

そして、本件発明1のショ糖脂肪酸エステルは、合成反応においてマイクロ波加熱を、周波数300MHz?300GHz、温度80?150℃、反応時間1?20時間の条件下で用いて製造することにより、通常の加熱方法に比べて、発芽抑制剤として飲料に配合した際に、官能評価として異味を感じないという効果を奏することが、本願特許明細書の段落【0035】、【0036】及び【0043】に記載された、実施例2と実施例5との対比により示されている(上記(1)の摘記(c)及び(d)を参照)。

当審は、本件発明1の内容及び発明の詳細な説明の記載から解される技術上の意義から、不可能・非実際的事情について、ショ糖脂肪酸エステルを構成するパルミチン酸以外の残り5%の脂肪酸及び熱劣化成分という2つの観点から検討する。

ア ショ糖脂肪酸エステルを構成するパルミチン酸以外の残り5%の脂肪酸について
本件発明1は、ショ糖脂肪酸エステル自体については、「構成脂肪酸の95モル%以上がパルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステル」と特定しているだけであって、残りの5%がどのような脂肪酸であるのか特定されていない。上記した実施例2及び実施例5は、いずれもショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の95モル%がパルミチン酸であることは具体的に確認できるが、残りの5%の脂肪酸は明らかでない。

一方、甲第7号証には、ショ糖に脂肪酸をエステル反応させると、甘みを感じなくなること、厳密には、脂肪酸由来の風味や独特の味を感じることが記載され(上記(3)の摘記(7a)を参照)、この記載は、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の違いにより、風味が変わることが技術常識であることが示されているといえ、ショ糖脂肪酸エステルを構成するパルミチン酸以外の残り5%の脂肪酸の種類により、本件特許明細書の実施例における効果として記載された官能評価として異味の差を生じることを示唆するといえる。

この上で、平成30年4月6日付け意見書及び乙第2号証(実験報告書)をみてみると、メーカー保証純度97%であるパルミチン酸メチルとショ糖とを用いてショ糖脂肪酸エステルを製造する場合、マイクロ波加熱を用いて製造する場合と、通常加熱により製造する場合とを対比しても、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪酸に差異はなく、パルミチン酸以外の脂肪酸は検出されていない(ガスクロマトグラフチャート○11及び○12をみると、パルミチン酸メチルエステル以外のピークは検出されておらず、両チャートを比較してもピークに違いはない(上記(2)の摘記エ及びオを参照)。)から、マイクロ波加熱により製造されたショ糖脂肪酸エステルを残り5%の脂肪酸により直接特定することはできないといえる。

ここで、乙第2号証(実験報告書)には、メーカー保証純度97%であるパルミチン酸メチルを用いてショ糖脂肪酸エステルを製造したことが記載されているところ、ショ糖脂肪酸エステルを製造するに際しては、常に「メーカー保証純度97%」のパルミチン酸メチルを使用するものとはいえないが、本件発明1の発芽抑制剤は、本件特許明細書の【背景技術】及び【発明が解決しようとする課題】の記載(上記(1)の摘記(a)を参照)からみて、飲食品に添加するものであることから、目的とする化合物であるショ糖パルミチン酸エステル以外の不純物はできるだけ少なくしようとすることが自然であるといえる。
そうすると、本件発明1において、ショ糖パルミチン酸エステルを製造するに当たり、純度がより低いパルミチン酸メチルを使用するものとは認められず、この乙第2号証(実験報告書)で使用した「メーカー保証純度97%」と同等程度の純度のパルミチン酸メチルを使用することが普通であるといえる。
このようなことからすれば、本件発明1の発芽抑制剤のショ糖脂肪酸エステルを製造する場合には、「メーカー保証純度97%」と同等程度の純度のパルミチン酸メチルを使用するのであるから、パルミチン酸以外の脂肪酸は、乙第2号証(実験報告書)に記載された結果と同様に検出されないという結果が得られると解するのが自然であって、パルミチン酸以外の脂肪酸を特定できるものとは認められない。

したがって、ショ糖脂肪酸エステルを構成するパルミチン酸以外の残り5%の脂肪酸については、不可能・非実際的事情が存在するといえる。

イ 熱劣化成分について
本件特許明細書には、マイクロ波加熱を用いた製造方法によるショ糖脂肪酸エステルは、熱劣化成分の発生が少なくなる旨の記載がある(上記(1)の摘記(b)を参照)。この記載からすると、マイクロ波加熱を用いた製造方法によるショ糖脂肪酸エステルと、通常加熱によるショ糖脂肪酸エステルとの間の官能評価の差は、熱劣化成分の違いによると理解することが自然であるともいえるから、この熱劣化成分について検討する。

ここで、平成30年4月6日付け意見書及び乙第2号証(実験報告書)をみてみると、メーカー保証純度97%であるパルミチン酸メチルとショ糖とを用いてショ糖脂肪酸エステルを製造する場合、マイクロ波加熱を用いて製造した場合のガスクロマトグラフチャート○5(上記(2)の摘記イを参照)と、通常加熱により製造した場合のガスクロマトグラフチャート○10(上記(2)の摘記ウを参照)を対比しても、製造されたショ糖脂肪酸エステルのピークに違いがあるとはいえず、加熱方法の違いによって熱劣化成分が生じるとはいえないから、マイクロ波加熱により製造されたショ糖脂肪酸エステルを熱劣化成分により直接特定することはできないといえる。

ここで、乙第2号証(実験報告書)には、メーカー保証純度97%であるパルミチン酸メチルを用いてショ糖脂肪酸エステルを製造したことが記載されていることについては、上記アで述べたとおり、本件発明1の発芽抑制剤のショ糖脂肪酸エステルを製造する場合には、「メーカー保証純度97%」と同等程度の純度のパルミチン酸メチルを使用するのであるから、乙第2号証(実験報告書)に記載された結果と同様に、熱劣化成分が生じているとはいえないという結果が得られると解するのが自然であって、熱劣化成分を特定できるものとは認められない。

したがって、熱劣化成分については、不可能・非実際的事情が存在するといえる。

ウ 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成30年5月8日に上申書を提出し、特許権者が平

成30年4月6日付けで提出した意見書及び乙第2号証(実験報告書)は科学的見地から妥当でない箇所を含むものであり、以下の点で適切でなく特許権者の主張は認められるべきではないと主張しているので、以下に検討する。

(ア)特許異議申立人は、特許権者が提出したガスクロマトグラフチャートには、生成するとされるショ糖脂肪酸トリエステル体が示されておらず、これは、特許権者の分析手法が適切でないから、製造方法の違いによるショ糖脂肪酸エステルの差が出ていない、という旨の主張をしている(上申書第2頁第1?11行)。

そこで、この点について検討するが、特許異議申立人は、具体的なデータを示した上でショ糖脂肪酸トリエステルが生成すること述べているわけではないので、直ちに、ショ糖脂肪酸トリエステルが生成することを前提とする特許異議申立人の主張は採用することはできない。
仮に、ショ糖脂肪酸トリエステルが生成していたとしても、特許権者が提出した乙第2号証(実験報告書)は、その記載に従い適切に実施されたものであるといえ、上記ア及びイで述べたように、この乙第2号証(実験報告書)の記載からみて、残り5%の脂肪酸や、熱劣化成分により発明を特定することができないのであるから、不可能・非実際的事情が存在するとした判断に誤りがあるとはいえない。

(イ)特許異議申立人は、特許権者が提出したマイクロ波加熱により製造されたショ糖脂肪酸エステルを示すガスクロマトグラフチャート○5(上記(2)の摘記イを参照)中の複数のピークの高さ(強度)を比較すると、それらの高さ(強度)の関係が、通常加熱により製造されたショ糖脂肪酸エステルを示すガスクロマトグラフチャート○10(上記(2)の摘記ウを参照)の複数のピークの高さ(強度)の関係と異なり、このピークの強度の違いはショ糖脂肪酸エステルのエステル化部位の違いによるものであり、マイクロ波加熱により製造されたショ糖脂肪酸エステルと通常加熱により製造されたショ糖脂肪酸エステルとの間に差異があることが明らかである旨の主張をしている(上申書第2頁第12?22行)。

そこで、この点について検討するが、特許異議申立人は、ピークの強度の違いによりショ糖脂肪酸エステルにどのような差異があるのかを具体的なデータ等を示した上で主張しているわけではないから、直ちにこの主張を採用することはできない。
仮に、特許異議申立人の主張のとおり、ピークの強度の違いによりショ糖脂肪酸エステルに差異があるとしても、この差異がどういった差異であるのか何も明らかにされておらず、そして、このピークの強度の違いにより残り5%の脂肪酸に違いがあるとも、また、熱劣化成分の違いがあるともいえないのであるから、不可能・非実際的事情が存在するとした判断に誤りがあるとはいえない。

(ウ)特許異議申立人は、特許権者が提出した乙第2号証(実験報告書)は、純度が99.9%のパルミチン酸メチルを用いた実験であり、構成脂肪酸の95モル%がパルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステルの残り5%の脂肪酸の違いがないことは何ら示していない旨の主張をしている(上申書第2頁第23?第3頁7行)。

そこで、この点について検討するが、乙第2号証(実験報告書)には、メーカー保証純度97%であるパルミチン酸メチルとショ糖とを用いてショ糖脂肪酸エステルを生成したことが記載されているところ、上記アで述べたとおり、本件発明1の発芽抑制剤のショ糖脂肪酸エステルを製造する場合には、「メーカー保証純度97%」と同等程度の純度のパルミチン酸メチルを使用するのであるから、乙第2号証(実験報告書)に記載された結果と同様にパルミチン酸以外の脂肪酸は検出されないという結果が得られると解するのが自然であって、残り5%の脂肪酸に違いがあるとはいえない。
よって、特許異議申立人のこの主張は採用することはできず、不可能・非実際的事情が存在するとした判断に誤りがあるとはいえない。

(エ)小括
したがって、特許異議申立人の主張はいずれも採用することはできない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1のショ糖脂肪酸エステルについて、ショ糖脂肪酸エステルを構成するパルミチン酸以外の残り5%の脂肪酸、熱劣化成分のいずれの観点から検討してみても、不可能・非実際的事情が存在すると解することができる。
そうすると、物の発明であるがその物の製造方法が記載されている本件発明1は、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するといえるから、その発明が明確であるといえる。

3 本件発明2?4について
本件発明2?4は、上記第3で示したとおり、本件発明1を直接的又は間接的に引用した発明であって、本願発明1の発芽抑制剤を含む飲食品という物の発明であり、本願発明1と同じように、請求項2?4の記載は、物の発明であるがその物の製造方法が記載されている場合に相当するといえる。

そして、本件発明2?4についても本件発明1と同様に、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することができない、不可能・非実際的事情が存在するといえるから、その発明が明確であるといえる。

4 小括
以上のとおり、本件発明1?4は、発明が明確であるという要件に適合するといえるから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合するものである。

第6 まとめ
したがって、本件発明1?4に係る特許は、特許法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされれたものであるとはいえず、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものとはいえない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸の95モル%以上がパルミチン酸であるショ糖脂肪酸エステルを含む、耐熱性芽胞形成細菌の発芽抑制剤であって、耐熱性芽胞形成細菌がモレラ サーモアセチカ(Moorella thermoacetica)、サーモアネロバクター マスラニ(Thermoanaerobacter mathranii)、及びジオバチルス ステアロサーモフィラス(Geobacillus stearothermophillus)からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記ショ糖脂肪酸エステルがその合成反応においてマイクロ波加熱を、周波数300MHz?300GHz、温度80?150℃、反応時間1?20時間の条件下で用いて得られたものである、発芽抑制剤。
【請求項2】
請求項1記載の発芽抑制剤を含有する飲食品。
【請求項3】
飲食品が密封容器飲料である請求項2記載の飲食品。
【請求項4】
密封容器飲料が、コーヒー、紅茶、緑茶、ココア、抹茶、豆乳、スープ類、又はミルクセーキである、請求項3記載の飲食品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-05-31 
出願番号 特願2015-225341(P2015-225341)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 伊佐地 公美井上 千弥子  
特許庁審判長 守安 智
特許庁審判官 佐藤 健史
齊藤 真由美
登録日 2016-09-02 
登録番号 特許第5996761号(P5996761)
権利者 マイクロ波化学株式会社 太陽化学株式会社
発明の名称 耐熱性芽胞形成細菌の発芽抑制剤  
代理人 細田 芳徳  
代理人 細田 芳徳  
代理人 細田 芳徳  

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