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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1342001
異議申立番号 異議2017-700468  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-05-15 
確定日 2018-05-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6026679号発明「リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極、及びリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6026679号の特許請求の範囲を、平成30年 1月10日付けの手続補正書で補正された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔7?10〕について訂正することを認める。 特許第6026679号の請求項1?7、9?10に係る特許を取り消す。 特許第6026679号の請求項8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続きの経緯
特許第6026679号の請求項1?10に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(特願2015-559157号)は、2015年 1月26日(優先権主張2014年 1月27日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年10月21日に特許権の設定登録がされ、同年11月16日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許に対し、平成29年 5月15日に特許異議申立人安東和恭(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、当審において、同年 7月10日付けで取消理由を通知し、同年 9月11日付けで、特許権者より、意見書の提出があり、当審において、同年10月 2日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、同年12月 1日付けで、特許権者より、意見書の提出及び訂正請求書の提出があり、当審において、同年12月12日付けで訂正拒絶理由が通知され、平成30年 1月10日付けで、特許権者より、手続補正書及び意見書の提出があり、同年 3月 7日付けで、申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正請求書を補正対象とする平成30年 1月10日付けの手続補正書における補正の適法性
訂正請求書を補正対象とする平成30年 1月10日付けの手続補正書における補正は、平成29年12月 1日付けの訂正請求書の訂正事項1を削除し、補正前の訂正事項2、訂正事項3の番号を繰り上げて、それぞれ、訂正事項1、訂正事項2と補正するものであって、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
よって、平成30年 1月10日付けの訂正請求書の手続補正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第131条の2第1項の規定に適合する。

2 訂正の内容
平成30年 1月10日付けの手続補正書によって補正された平成29年12月 1日付けの訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、以下のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項7に、
「M^(2)がAlである」とあるのを、
「M^(2)がAlであり、前記金属複合酸化物がα-LiAlO_(2)である」に訂正する。
また、請求項7を引用する請求項8?10も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8に、
「被覆層がアルミン酸リチウムである」とあるのを、
「被覆層がα-LiAlO_(2)である」に訂正する。
また、請求項8を引用する請求項9?10も同様に訂正する。

3 訂正の可否について
3-1 訂正事項1について
(1)訂正の目的について
訂正事項1は、「M^(2)がAlである」との記載を、「M^(2)がAlであり、前記金属複合酸化物がα-LiAlO_(2)である」との記載に訂正するものであり、「金属複合酸化物」について限定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、「金属複合酸化物」について限定をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
「金属複合酸化物」を「α-LiAlO_(2)」とすることについては、本件特許明細書等の実施例1?6、【0126】、【0275】の表1に記載があるから、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

3-2 訂正事項2について
(1)訂正の目的について
訂正事項2は、「被覆層がアルミン酸リチウムである」との記載を、「被覆層がα-LiAlO_(2)である」との記載に訂正するものであり、「アルミン酸リチウム」を「α-LiAlO_(2)」に限定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項2は、「アルミン酸リチウム」について、「α-LiAlO_(2)」に限定をするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
「被覆層」を「α-LiAlO_(2)」とすることについては、本件特許明細書等の実施例1?6、【0126】、【0275】の表1に記載があるから、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

3-3 一群の請求項について
訂正事項1に係る本件訂正前の請求項8?10は、請求項7を直接または間接に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項7に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項7?10に対応する訂正後の請求項7?10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

3-4 独立特許要件について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定のいわゆる独立特許要件は課されない。

3-5 訂正の適否についての結論
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第4項、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔7?10〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
リチウムイオンをドープ及び脱ドープ可能な一次粒子が凝集してなる二次粒子からなるリチウム含有複合金属酸化物の表面に、被覆層を備えたリチウム二次電池用正極活物質であって、下記要件(1)?(3)を満たすことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
(1)前記リチウム含有複合金属酸化物が、式(A)で表されるα-NaFeO_(2)型の結晶構造を有する。
Li_(a)(Ni_(b)Co_(c)M^(1)_(1-b-c))O_(2)・・・(A)
(式中、0.9≦a≦1.2、0.9≦b<1、0<c≦0.1、0.9<b+c≦1であり、
M^(1)はMg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の任意金属を表す。)
(2)前記被覆層が、LiとM^(2)(M^(2)はAl、Ti、Zr及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種の任意金属を表す。)との金属複合酸化物を含む。
(3)前記リチウム二次電池用正極活物質の平均二次粒子径が2μm以上20μm以下であり、BET比表面積が0.1m^(2)/g以上2.5m^(2)/g以下であり、重装密度を軽装密度で除した値が1.0以上2.0以下である。
【請求項2】
M^(1)はMg、Al、Ca、Ti、Mn、Zn、Ga、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
M^(1)はMg、Al、Mn、Zn及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
重装密度が1.0g/cm^(3)以上3.5g/cm^(3)以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
粒度分布測定値から求めた90%累積径(D_(90))/10%累積径(D_(10))の値が1以上5以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
NiとCoとM^(1)の原子比の和に対するM^(2)の原子比の割合が0.1?5モル%である請求項1?5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
M^(2)がAlであり、前記金属複合酸化物がα-LiAlO_(2)である、請求項1?6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
被覆層がα-LiAlO_(2)である請求項7に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項1?8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を有するリチウム二次電池用正極。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。」

2 特許異議申立理由の概要
申立人は、証拠として甲第第1号証?甲第6号証を提出し、以下の理由により、訂正前の請求項1?10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1)申立理由1
訂正前の請求項1?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。

(2)申立理由2
発明の詳細な説明は、訂正前の請求項1?10に係る発明を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反してなされたものである。

(4)申立理由3
訂正前の請求項1?10に係る発明は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:国際公開2008/117683号
甲第2号証:特開2006-012433号公報
甲第3号証:特開2012-209064号公報
甲第4号証:特開2000-306577号公報
甲第5号証:特開2011-216272号公報
甲第6号証:特開2013-075773号公報
以下、それぞれ「甲1」?「甲6」という。

3 平成29年10月 2日付け取消理由(決定の予告)の概要
訂正前の請求項1?10に係る特許に対して平成29年10月 2日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、以下のとおりである。

(1)取消理由1(上記申立理由1を採用したもの)
訂正前の請求項1?10に係る発明は、下記の理由で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、訂正前の請求項1?10に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。



a 本願発明が解決しようとする課題
発明の詳細な説明には以下の記載がある。なお、下線は当審が付与した。
「【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、リチウム含有複合金属酸化物の組成や粒子形態を制御し、さらに被覆層を形成することで、従来よりも高い電流レートにおける高出力に優れるリチウム二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。また、このようなリチウム二次電池用正極活物質を用いたリチウム二次電池用正極、リチウム二次電池を提供することを併せて目的とする。」
これらの記載から、本願発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、高い電流レートにおける高出力に優れる、(すなわち、「ハイレート特性」に優れる)リチウム二次電池用正極活物質を提供することであると認められる。

b 課題を解決するための手段について
発明の詳細な説明の記載によれば、課題を解決するものとして、リチウム二次電池用正極活物質の「被覆層」について、具体的には、実施例1?6において、α-LiAlO_(2)からなる被覆層を形成した例が開示されているのみであり、他の被覆層とした場合に、実施例1?6と同様の3CA放電容量維持率を得られるかが明らかでない。

c 訂正前の請求項1?10に係る発明が課題を解決できるかについて
ア 訂正前の請求項1は、被覆層について、「被覆層が、LiとM^(2)(M^(2)はAl、Ti、Zr及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種の任意金属を表す。)との金属複合酸化物を含む。」と特定しており、α-LiAlO_(2)以外の様々なものを含む特定である。

イ 訂正前の請求項1の「被覆層」は、例えば、β-LiAlO_(2)、γ-LiAlO_(2)、Li_(2)WO_(4)、Li_(2)ZrO_(3)、Li_(2)TiO_(3)、Li_(4)Ti_(5)O_(12)、Li_(4)WO_(5)、Li_(2)W_(2)O_(7)や、M^(2)として、Al、Ti、Zr、Wのうち、2つ以上の複数の元素を含むもの等も含まれる特定となっている。なお、これら化合物はあくまで例示であって、本件発明1で特定される「被覆層」の全てではない。

ウ しかしながら、訂正前の請求項1で特定される「被覆層」のうち、α-LiAlO_(2)以外の様々なもの、すなわち上記訂正前の請求項1の「被覆層」に含まれる全ての場合において、上記aの課題を解決するかどうかは、依然として不明である。

エ したがって、訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

オ また、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項2?10に係る発明も、同様に、発明の詳細な説明に記載したものではない。

4 判断
(1)取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
a 本件発明1?6について
本件訂正後の請求項1?6は、訂正されておらず、訂正前の請求項1?6と同じであるから、上記3 平成29年10月 2日付け取消理由(決定の予告)の概要に記載のとおり、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、請求項1?6に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

b 本件発明7、9?10について
本件請求項1と、本件請求項1を引用する本件請求項7を再掲すると、次のとおりである。なお、下線は当審が付与した。
「【請求項1】
リチウムイオンをドープ及び脱ドープ可能な一次粒子が凝集してなる二次粒子からなるリチウム含有複合金属酸化物の表面に、被覆層を備えたリチウム二次電池用正極活物質であって、下記要件(1)?(3)を満たすことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
(1)前記リチウム含有複合金属酸化物が、式(A)で表されるα-NaFeO_(2)型の結晶構造を有する。
Li_(a)(Ni_(b)Co_(c)M^(1)_(1-b-c))O_(2)・・・(A)
(式中、0.9≦a≦1.2、0.9≦b<1、0<c≦0.1、0.9<b+c≦1であり、
M^(1)はMg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の任意金属を表す。)
(2)前記被覆層が、LiとM^(2)(M^(2)はAl、Ti、Zr及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種の任意金属を表す。)との金属複合酸化物を含む。
(3)前記リチウム二次電池用正極活物質の平均二次粒子径が2μm以上20μm以下であり、BET比表面積が0.1m^(2)/g以上2.5m^(2)/g以下であり、重装密度を軽装密度で除した値が1.0以上2.0以下である。」
「【請求項7】
M^(2)がAlであり、前記金属複合酸化物がα-LiAlO_(2)である、請求項1?6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。」

本件発明7は、「被覆層」が、「α-LiAlO_(2)」である「金属複合酸化物」を「含む」ものであり、例えば、「被覆層」のほとんどが、リチウムマンガン複合酸化物からなるとともに、当該「被覆層」が、極微量の「α-LiAlO_(2)」を含有する場合をも含む発明である。
ここで、発明の詳細な説明の【0003】、【0004】には、従来例として、リチウムニッケル複合酸化物の表面に、リチウムマンガン複合酸化物などの被覆層を形成したリチウム二次電池用正極活物質が挙げられており、当該従来例では、高い電流レートにおける高出力を達成することができない旨が記載されているから、上記「被覆層」のほとんどが、リチウムマンガン複合酸化物からなるとともに、当該「被覆層」が、極微量の「α-LiAlO_(2)」を含有する場合には、上記「高い電流レートにおける高出力に優れる」との課題を解決できると、本件特許明細書等から認識することはできない。
そうすると、本件発明7は、課題を解決することができないものを含むから、発明の詳細な説明に記載したものではない。
よって、本件発明7は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反しているので、請求項7に係る特許は、取り消されるべきものである。

また、請求項1?7を、直接的又は間接的に引用する、請求項9?10に係る発明も、同様に、特許法第36条第6項第1号の規定に違反しているので、請求項9?10に係る特許は、取り消されるべきものである。

c 本件発明8について
本件請求項8を再掲すると、以下のとおりである。
「【請求項8】
被覆層がα-LiAlO_(2)である請求項7に記載のリチウム二次電池用正極活物質。」
訂正によって、本件発明8の「被覆層」は、上記3(1)bで課題を解決する手段として示したとおりの、「α-LiAlO_(2)である」「被覆層」となった。
したがって、本件発明8は、課題を解決するものであるから、発明の詳細な説明に記載したものである。

(2)取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
請求項1?7、9?10に係る発明については、上記(1)で検討したとおり、その特許は取り消されるべきものであるから、ここでは、請求項8に係る発明についてのみ、上記申立理由2、3によって、その特許を取り消すべきものか否かを検討する。
最初に、申立理由3について検討した後、申立理由2について検討する。

a 特許法第29条2項(進歩性)(上記申立理由3)
申立人は、特許異議申立書第16頁第12行?第33頁最終行において、証拠として、甲1?甲6を提出し、請求項1?10に係る発明は特許法29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?10に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

本件発明8について
甲1?甲6のいずれにも、本件発明8の特定事項である、下記式(A)で表されるα-NaFeO_(2)型の結晶構造を有するリチウム含有複合金属酸化物が記載されていないし、α-LiAlO_(2)である被覆層についても記載されていない。
「Li_(a)(Ni_(b)Co_(c)M^(1)_(1-b-c))O_(2)・・・(A)
(式中、0.9≦a≦1.2、0.9≦b<1、0<c≦0.1、0.9<b+c≦1であり、
M^(1)はMg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の任意金属を表す。)」
特に、リチウム含有複合金属酸化物のNiの含有割合bとCoの含有割合cが、それぞれ「0.9≦b<1」「0<c≦0.1」である点が、甲1?甲6のいずれにも記載されていない。

この点について、以下詳細に検討する。
甲1の段落0014?0016には、以下の記載がある。なお、下線は、当審が付与した。
「[0014] 非水電解質二次電池用正極活物質として有用な本発明に係るリチウム含有複合酸化物は、一般式Li_(p)N_(x)M_(y)O_(z)F_(a)で表される。係る一般式において、p、x、y、z及びaは、上記したように定義される。p、x、y、z及びaは、それぞれ下記の範囲が好ましい。0.95≦p≦1.2が好ましく、0.97≦p≦1.03がより好ましい。0.93≦x<1.00が好ましく、0.94≦x≦0.9995がより好ましい。0<y≦0.035が好ましく、0.0005≦y≦0.03がより好ましい。1.9≦z≦2.1が好ましく、1.95≦z≦2.05がより好ましい。ここで、aが0より大きいときには、酸素原子の一部がフッ素原子で置換された複合酸化物になるが、この場合には、得られた正極活物質の安全性が向上する。
[0015]なお、前記リチウム含有複合酸化物がフッ素を含まない場合は、フッ素を含む場合と比べ、放電容量が高くなる傾向があり、容量を重視するときはa=0が好ましい。また、前記複合酸化物がフッ素を含む場合は、酸素の一部がフッ素で置換された正極活物質となり、安全性がさらに向上する傾向が見られるため、安全性を重視するときは0<a≦0.02の範囲が好ましい。安全性を重視する場合において、aは、0.001≦a≦0.01がより好ましい。
上記一般式において、N元素は、Co、Mn及びNiからなる群から選ばれる少なくとも1種である。N元素は、なかでも、Co、Ni、CoとNi、MnとNi、又はCoとNiとMnである場合が好ましく、Coである場合がより好ましい。
[0016]本発明において、M元素は、Co、Mn及びNi以外の遷移金属元素、Al、Sn並びにアルカリ土類金属からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である。ここで、上記の遷移金属元素は、周期表の4族、5族、6族、7族、8族、9族、10族、11族、又は12族の遷移金属を表す。なかでも、M元素は、Al、Zr、Ti、Hf、Nb、Ta、Mg、Sn及びZnからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が好ましい。特に、放電容量、安全性、サイクル特性などの見地より、M元素は、Al、Ti、Zr、Nb及びMgからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。」

したがって、甲1には、リチウム含有複合酸化物として、「Li_(p)N_(x)M_(y)O_(z)F_(a)」の組成のものが記載されている。
そして、上記組成であるリチウム含有複合酸化物の「N元素」として、「CoとNi」を用いる例示がされており、「N元素」として、「CoとNi」を選択した場合に、NiとCoとの合計の含有割合を表す添字であるxが「0.93≦x<1.00」であるリチウム含有複合酸化物が記載されていると認められる。
しかるに、甲1には、上記リチウム含有複合酸化物において、N元素については、NiとCoとの合計の含有割合を表す添字であるxが「0.93≦x<1.00」であることが記載されているのみであり、「Ni」、「Co」それぞれの含有割合について記載はなく、本件発明8のようにNiの含有割合bを「0.9≦b<1」とし、Coの含有割合cを「0<c≦0.1」とする点について記載されていない。
また、甲1には、実施例についてみても、N元素として、Ni及びCoを含有するリチウム含有複合金属酸化物は記載されていない。
さらに、甲2?甲6にも、式(A)のリチウム含有複合金属酸化物は記載されていない。
そして、被覆層については、甲2の【0023】に、「ニッケルコバルトアルミン酸リチウム」が記載されているのみであって、α-LiAlO_(2)を被覆層とすることは、甲2?甲6のいずれにも記載されていない。

つまり、本件発明8は、上記式(A)の組成が、甲1に記載される組成のうち、少なくともN元素について、NiとCoに限定をした上に、NiとCoそれぞれの含有割合の範囲を特定したものであって、さらにα-LiAlO_(2)である被覆層を備えるという甲1?甲6のいずれにも記載されていない特徴を備えることにより、ハイレート特性に優れるという格別の効果を奏するものである。

したがって、本件発明8は、甲1?甲6に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができるものではない。

b 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)(上記申立理由2)
申立人は、特許異議申立書第35頁第9行?第36頁最終行において、 請求項1の「平均二次粒子径が2μm以上20μm以下であり、BET比表面積が0.1m^(2)/g以上2.5m^(2)/g以下であり、重装密度を軽装密度で除した値が1.0以上2.0以下」との特定について、当該範囲に粒子形態を制御する具体的な手段が、発明の詳細な説明に開示されておらず、特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないと主張している。(以下、主張1という。)

また、申立人は、特許異議申立書第35頁第9行?第36頁最終行において、比較例8の製造方法のうち、水酸化カリウムを用いること、pH、金属複合酸化物と水酸化リチウムとの混合粉末との焼成温度は、【0045】、【0046】、【0052】にそれぞれ好適な形態として挙げられている条件で行っているにも関わらず、請求項1に係る発明であるリチウム二次電池用正極活物質が得られていないと主張している。(以下、主張2という。)

(主張1について)
本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与した。
「【0048】
反応温度、反応pH、及び焼成条件等を後述するような範囲とすることにより、下記工程で最終的に得られるリチウム二次電池用正極活物質の平均一次粒子径、平均二次粒子径、BET比表面積等の各種物性を制御することができ、特に重装密度を軽装密度で除した値を好ましい範囲とするために、例えば金属複合水酸化物が球状の二次粒子形態となるように調整することが好ましい。より所望の粒子形態を実現するためには、上記の条件の選定に加えて、例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等の不活性ガス、空気、酸素等の各種気体によるバブリングを併用する方法も挙げられる。反応条件については、使用する反応槽のサイズ等にも依存するが、上記条件を考慮して最終的に得られるリチウム二次電池用正極活物質の各種物性をモニタリングすることで、反応条件を最適化することが出来る。」
「【0117】
(実施例1)
1.正極活物質C1の製造
攪拌機及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
【0118】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子との原子比が0.92:0.08となるように混合して、混合原料溶液を調整した。
【0119】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、反応槽内の溶液のpHが11.4になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルト複合水酸化物粒子を得た。得られた粒子を、濾過後水洗し、100℃で乾燥することにより、乾燥粉末の金属複合化合物A1を得た。この金属複合化合物A1のBET比表面積は、9.2m^(2)/gであった。組成分析の結果Ni:Coのモル比は0.92:0.08であった。
【0120】
金属複合化合物A1と水酸化リチウム粉末とを、Li/(Ni+Co)=1.03となるように秤量して乳鉢で乾式混合した後、酸素雰囲気下750℃で10時間焼成して、リチウム含有複合金属酸化物B1を得た。
得られたリチウム含有複合金属酸化物B1の組成分析の結果、Li:Ni:Coのモル比は1.03:0.92:0.08であった。
【0121】
リチウム含有複合金属酸化物B1と、酸化アルミニウム(日本アエロジル株式会社製アルミナC、平均一次粒子径13nm、リチウム含有複合金属酸化物B1におけるNi及びCoの含有量1molに対し、Alは0.02molである。即ち、NiとCoの原子比の和に対するAlの原子比の割合は、2モル%である。)を乳鉢で乾式混合して、混合粉末を得た。得られた粉末を、60℃、相対湿度80%、に制御した恒温恒湿槽に3時間静置した。さらに室温にて1時間真空雰囲気に保持した後、酸素雰囲気下において750℃で5時間の焼成を行ない、正極活物質C1を得た。」
「【0129】
(実施例2)
1.正極活物質C2の製造
攪拌機及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
【0130】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マグネシウム水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマグネシウム原子との原子比が0.90:0.08:0.02となるように混合して、混合原料溶液を調整した。
【0131】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、反応槽内の溶液のpHが11.3になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマグネシウム複合水酸化物粒子を得た。得られた粒子を、濾過後水洗し、100℃で乾燥することにより、乾燥粉末の金属複合化合物A2を得た。この金属複合化合物A2のBET比表面積は、9.9m^(2)/gであった。
組成分析の結果Ni:Co:Mgのモル比は0.90:0.08:0.02であった。
【0132】
金属複合化合物A2と水酸化リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mg)=1.03となるように秤量して乳鉢で乾式混合した後、酸素雰囲気下750℃で10時間焼成して、リチウム含有複合金属酸化物B2を得た。
得られたリチウム含有複合金属酸化物B2の組成分析の結果、Li:Ni:Co:Mgのモル比は1.03:0.90:0.08:0.02であった。
【0133】
リチウム含有複合金属酸化物B2と、酸化アルミニウム(日本アエロジル株式会社製アルミナC、平均一次粒子径13nm 、リチウム含有複合金属酸化物B2におけるNi、Co及びMgの含有量1molに対し、Alは0.02molである。即ち、NiとCo及びMgの原子比の和に対するAlの原子比の割合は、2モル%である。)を乳鉢で乾式混合して、混合粉末を得た。得られた粉末を、60℃、相対湿度80%、に制御した恒温恒湿槽に3時間静置した。さらに室温にて1時間真空雰囲気に保持した後、酸素雰囲気下において750℃ で5時間の焼成を行ない、正極活物質C2を得た。」
「【0141】
(実施例3)
1.正極活物質C3の製造
攪拌機及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
【0142】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸マンガン水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とマンガン原子との原子比が0.90:0.08:0.02となるように混合して、混合原料溶液を調整した。
【0143】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、反応槽内の溶液のpHが11.1になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得た。得られた粒子を、濾過後水洗し、100℃で乾燥することにより、乾燥粉末の金属複合化合物A3を得た。この金属複合化合物A3のBET比表面積は、10.6m^(2)/gであった。組成分析の結果Ni:Co:Mnのモル比は0.90:0.08:0.02であった。
【0144】
金属複合化合物A3と水酸化リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Mn)=1.03となるように秤量して乳鉢で乾式混合した後、酸素雰囲気下750℃で10時間焼成して、リチウム含有複合金属酸化物B3を得た。得られたリチウム含有複合金属酸化物B3の組成分析の結果、Li:Ni:Co:Mnのモル比は1.03:0.90:0.08:0.02であった。
【0145】
リチウム含有複合金属酸化物B3と、酸化アルミニウム(日本アエロジル株式会社製アルミナC、平均一次粒子径13nm 、リチウム含有複合金属酸化物B3におけるNi、Co及びMnの含有量1molに対し、Alは0.02molである。即ち、NiとCoとMnの原子比の和に対するAlの原子比の割合は、2モル%である。)を乳鉢で乾式混合して、混合粉末を得た。得られた粉末を、60℃、相対湿度80%、に制御した恒温恒湿槽に3時間静置した。さらに室温にて1時間真空雰囲気に保持した後、酸素雰囲気下において750℃ で5時間の焼成を行ない、正極活物質C3を得た。」
「【0153】
(実施例4)
1.正極活物質C4の製造
攪拌機及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
【0154】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸アルミニウム水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子とアルミニウム原子との原子比が0.90:0.08:0.02となるように混合して、混合原料溶液を調整した。
【0155】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、反応槽内の溶液のpHが11.2になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルトアルミニウム複合水酸化物粒子を得た。得られた粒子を、濾過後水洗し、100℃で乾燥することにより、乾燥粉末の金属複合化合物A4を得た。この金属複合化合物A4のBET比表面積は、10.3m^(2)/gであった。組成分析の結果Ni:Co:Alのモル比は0.90:0.08:0.02であった。
【0156】
金属複合化合物A4と水酸化リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Al)=1.03となるように秤量して乳鉢で乾式混合した後、酸素雰囲気下750℃で10時間焼成して、リチウム含有複合金属酸化物B4を得た。
得られたリチウム含有複合金属酸化物B4の組成分析の結果、Li:Ni:Co:Alのモル比は1.03:0.90:0.08:0.02であった。
【0157】
リチウム含有複合金属酸化物B4と、酸化アルミニウム(日本アエロジル株式会社製アルミナC、平均一次粒子径13nm 、リチウム含有複合金属酸化物B4におけるNi、Co及びAlの含有量1molに対し、Alは0.02molである。即ち、NiとCoとB4由来のAlの原子比の和に対する、酸化アルミニウム由来のAlの原子比の割合は、2モル%である。)を乳鉢で乾式混合して、混合粉末を得た。得られた粉末を、60℃、相対湿度80%、に制御した恒温恒湿槽に3時間静置した。さらに室温にて1時間真空雰囲気に保持した後、酸素雰囲気下において750℃ で5時間の焼成を行ない、正極活物質C4を得た。」
「【0165】
(実施例5)
1.正極活物質C5の製造
攪拌機及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加した。
【0166】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液と硫酸亜鉛水溶液とを、ニッケル原子とコバルト原子と亜鉛原子との原子比が0.90:0.08:0.02となるように混合して、混合原料溶液を調整した。
【0167】
次に、反応槽内に、攪拌下、この混合原料溶液と硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加し、反応槽内の溶液のpHが11.1になるよう水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、ニッケルコバルト亜鉛複合水酸化物粒子を得た。得られた粒子を、濾過後水洗し、100℃で乾燥することにより、乾燥粉末の金属複合化合物A5を得た。この金属複合化合物A5のBET比表面積は、10.3m^(2)/gであった。組成分析の結果Ni:Co:Znのモル比は0.90:0.08:0.02であった。
【0168】
金属複合化合物A5と水酸化リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Zn)=1.03となるように秤量して乳鉢で乾式混合した後、酸素雰囲気下750℃で10時間焼成して、リチウム含有複合金属酸化物B5を得た。
得られたリチウム含有複合金属酸化物B5の組成分析の結果、Li:Ni:Co:Znのモル比は1.03:0.90:0.08:0.02であった。
【0169】
リチウム含有複合金属酸化物B5と、酸化アルミニウム(日本アエロジル株式会社製アルミナC、平均一次粒子径13nm 、リチウム含有複合金属酸化物B5におけるNi、Co及びZnの含有量1molに対し、Alは0.02molである。即ち、NiとCoとZnの原子比の和に対するAlの原子比の割合は、2モル%である。)を乳鉢で乾式混合して、混合粉末を得た。得られた粉末を、60℃、相対湿度80%、に制御した恒温恒湿槽に3時間静置した。さらに室温にて1時間真空雰囲気に保持した後、酸素雰囲気下において750℃ で5時間の焼成を行ない、正極活物質C5を得た。」
「【0177】
(実施例6)
1.正極活物質C6の製造
金属複合化合物A1と酸化スズと水酸化リチウム粉末とをLi/(Ni+Co+Sn)=1.03となるように秤量して乳鉢で乾式混合した後、酸素雰囲気下750℃で10時間焼成して、リチウム含有複合金属酸化物B6を得た。
得られたリチウム含有複合金属酸化物B6の組成分析の結果、Li:Ni:Co:Snのモル比は1.03:0.90:0.08:0.02であった。
【0178】
リチウム含有複合金属酸化物B6と、酸化アルミニウム(日本アエロジル株式会社製アルミナC、平均一次粒子径13nm 、リチウム含有複合金属酸化物B6におけるNi及びCo及びSnの含有量1molに対し、Alは0.02molである。即ち、NiとCoとSnの原子比の和に対するAlの原子比の割合は、2モル%である。)を乳鉢で乾式混合して、混合粉末を得た。得られた粉末を、60℃、相対湿度80%、に制御した恒温恒湿槽に3時間静置した。さらに室温にて1時間真空雰囲気に保持した後、酸素雰囲気下において750℃ で5時間の焼成を行ない、正極活物質C6を得た。」
「【0275】
【表1】



摘記した上記【0048】には、反応温度、反応pH、焼成条件等を調整することで、得られるリチウム二次電池用正極活物質の平均一次粒子径、平均二次粒子径、BET比表面積、重装密度を軽装密度で除した値等の各種物性を制御することができることが記載されている。
そして、摘記した上記発明の詳細な説明には、実施例1?実施例6の製造方法が記載されており、これら実施例1?実施例6は、下線部を付した摘記箇所に記載されているとおり、具体的な反応温度、反応pH、焼成条件が示されており、その結果として、表1の記載のとおり、平均二次粒子径、BET比表面積、重装密度を軽装密度で除した値のいずれも、本件発明8で特定される範囲を満たすものとなっている。
よって、実施例1?実施例6によって、本件発明8が実施できることが記載されているから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできない。

(主張2について)
発明の詳細な説明で、「好ましい」範囲として記載されているのは、反応温度、反応pH、焼成条件等について、複数ある条件の、それぞれのとり得る最大限の範囲が記載されているのであって、当該最大限の範囲内において、それら複数の条件の組み合わせにより、様々な粒子形態のリチウム二次電池用正極活物質が得られることは自明であり、当該「好ましい」それぞれの条件の、様々な組み合わせの中に、比較例8のような、請求項1に係る発明とはならない場合が存在するとしても、実施例1?6によって本件発明が製造できることが示されている以上、発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明8を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないということはできない。

以上より、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載から、本件発明8を過度の試行錯誤等を要することなく、実施できるといえる。

第3 むすび
以上のとおり、請求項1?7、9?10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6条第1号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
また、請求項8に係る発明については、取消理由通知に記載した取り消し理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項8に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンをドープ及び脱ドープ可能な一次粒子が凝集してなる二次粒子からなるリチウム含有複合金属酸化物の表面に、被覆層を備えたリチウム二次電池用正極活物質であって、下記要件(1)?(3)を満たすことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
(1)前記リチウム含有複合金属酸化物が、式(A)で表されるα-NaFeO_(2)型の結晶構造を有する。
Li_(a)(Ni_(b)Co_(c)M^(1)_(1-b-c))O_(2)・・・(A)
(式中、0.9≦a≦1.2、0.9≦b<1、0<c≦0.1、0.9<b+c≦1であり、
M^(1)はMg、Al、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の任意金属を表す。)
(2)前記被覆層が、LiとM^(2)(M^(2)はAl、Ti、Zr及びWからなる群より選ばれる少なくとも1種の任意金属を表す。)との金属複合酸化物を含む
(3)前記リチウム二次電池用正極活物質の平均二次粒子径が2μm以上20μm以下であり、BET比表面積が0.1m^(2)/g以上2.5m^(2)/g以下であり、重装密度を軽装密度で除した値が1.0以上2.0以下である。
【請求項2】
M^(1)はMg、Al、Ca、Ti、Mn、Zn、Ga、Zr及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
M^(1)はMg、Al、Mn、Zn及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
重装密度が1.0g/cm^(3)以上3.5g/cm^(3)以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
粒度分布測定値から求めた90%累積径(D_(90))/10%累積径(D_(10))の値が1以上5以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
NiとCoとM^(1)の原子比の和に対するM^(2)の原子比の割合が0.1?5モル%である請求項1?5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
M^(2)がAlであり、前記金属複合酸化物がα-LiAlO_(2)である、請求項1?6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
被覆層がα-LiAlO_(2)である請求項7に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】
請求項1?8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を有するリチウム二次電池用正極。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウム二次電池用正極を有するリチウム二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-04-17 
出願番号 特願2015-559157(P2015-559157)
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (H01M)
P 1 651・ 537- ZDA (H01M)
P 1 651・ 536- ZDA (H01M)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 藤原 敬士  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 結城 佐織
土屋 知久
登録日 2016-10-21 
登録番号 特許第6026679号(P6026679)
権利者 株式会社田中化学研究所 住友化学株式会社
発明の名称 リチウム二次電池用正極活物質、リチウム二次電池用正極、及びリチウム二次電池  
代理人 加藤 広之  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 佐藤 彰雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 加藤 広之  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 加藤 広之  
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