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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G10H
管理番号 1342009
異議申立番号 異議2018-700286  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-04 
確定日 2018-06-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6207113号発明「電子打楽器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6207113号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6207113号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成29年5月8日に特許出願され、平成29年9月15日にその特許権の設定登録がされ(特許公報発行日 平成29年10月4日)、その後、その特許に対し、平成30年4月4日に特許異議申立人西谷敬之により請求項1ないし7に対して特許異議の申立てがされたものである。

2.本件特許発明
本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、各請求項の項番にしたがい「本件特許発明1」ないし「本件特許発明7」という。)。

【請求項1】
演奏者によって叩打される第1叩打部と、
前記第1叩打部とは異なる位置に同第1叩打部とは異なる固有振動数を有して設けられて前記演奏者によって叩打される第2叩打部と、
前記第1叩打部および前記第2叩打部に物理的に繋がった状態で共に支持する叩打部支持体と、
前記叩打部支持体に設けられて前記第1叩打部および前記第2叩打部の各叩打によって生じる振動を検出して同振動に対応する検出信号を出力する共通叩打センサと、
前記検出信号を用いて前記第1叩打部および前記第2叩打部の各叩打にそれぞれ対応する楽音信号を生成する制御部とを有し、
前記制御部は、
前記第1叩打部の叩打によって生じた振動と前記第2叩打部の叩打によって生じた振動とにおける周期、波長または単位時間当たりの振動数の差を用いて前記第1叩打部または前記第2叩打部の叩打を特定して同特定した叩打に応じた前記楽音信号を生成することを特徴とする電子打楽器。
【請求項2】
請求項1に記載した電子打楽器において、
前記叩打部支持体は、
ドラムにおけるヘッドを支持する筒状のシェルを構成していることを特徴とする電子打楽器。
【請求項3】
請求項2に記載した電子打楽器において、
前記第1叩打部および前記第2叩打部は、
互いに異なる硬度で構成されていることを特徴とする電子打楽器。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載した電子打楽器において、
前記第1叩打部および前記第2叩打部は、
互いに異なる材質で構成されていることを特徴とする電子打楽器。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した電子打楽器において、
前記第1叩打部および前記第2叩打部は、
互いに異なる厚さで形成されていることを特徴とする電子打楽器。
【請求項6】
請求項2ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した電子打楽器において、
前記第1叩打部は、
ドラムのヘッドの周囲に設けられたフープの少なくとも一部を構成しており、
前記第2叩打部は、
前記フープにおける他の一部を構成していることを特徴とする電子打楽器。
【請求項7】
請求項2ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した電子打楽器において、
前記第1叩打部は、
ドラムのヘッドの周囲に設けられたフープの少なくとも一部を構成しており、
前記第2叩打部は、
板状に形成されて前記フープに隣接して設けられていることを特徴とする電子打楽器。

3.申立理由の概要
特許異議申立人西谷敬之は、主たる証拠として甲第1号証、従たる証拠として甲第2号証及び甲第3号証を提出し、請求項1ないし7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし7に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証:特開2010-271428号公報
甲第2号証:実願昭60-157065号(実開昭62-65697号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特許第5904401号公報

4.各甲号証の記載
(1)甲第1号証
ア.甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。なお、下線は強調のために当審で付したものである。

(ア)「【0001】
本発明は、胴本体に張設された打撃面に対する打撃による該打撃面の振動を振動ピックアップによって衝撃波信号として検出するように構成された電子ドラムの改良に関する。」

(イ)「【0013】
図4は本発明の実施形態である電子ドラムのドラム本体側の外観を示す模式的説明図であり、図5はその平面図である。図4、図5に示すように、外観視筒状体のシェル200(胴本体)の上面である開放面には、打撃面1(ドラムヘッド)がシエル200に張設されている。また、シエル200の外周面には、その縦方向において適宜の間隔を設けてラグ500が配置されている。更に、テンションボルト100の貫通孔が形成されたリム400が打撃面1の外縁部を押さえ付けるようにした状態で、テンションボルト100が前記貫通孔を介してラグ500にねじ込まれて締結され所定の張設力で打撃面1が張設されている。そして、図4、図5では図示はしないが、打撃面1の打撃による打撃面1の振動信号を検出し、衝撃波信号(Su)として出力する振動ピックアップが打撃面1(ドラムヘッド)の裏面又は表面の適宜の位置に設けられている。図3はこの衝撃波信号(Su)の波形の模式的説明図であり、横軸を時間軸(t)としている。」

(ウ)「【0014】
(信号処理部)
図1は本発明の実施形態である電子ドラムの信号処理部の構成図である。この信号処理部は、打撃面1を打撃した際に打撃面1の振動振幅に応じた振幅信号を出力する振動ピックアップ(不図示)が出力する衝撃波信号(Su)をアナログデジタル変換するA/D変換器10と、このアナログデジタル変換されたデジタル信号を入力する共振系信号処理部20と、このアナログデジタル変換されたデジタル信号を入力するPCM系信号処理部30と、共振系信号処理部20からの出力信号を増幅するゲイン60と、PCM系信号処理部30からの出力信号を増幅するゲイン62と、両ゲイン60、62からの出力信号を混合するミキサー65(混合手段)と、混合されたミキシング信号をデジタルアナログ変換するD/A変換器40と、このデジタルアナログ変換されたアナログ信号を電子ドラム音として放音するためのスピーカ50とを備えている。更に、ゲイン60、ゲイン62は不図示の操作子でゲイン量を個別に調整可能になっている。そして、電子ドラムには図1に示すような信号処理部が内蔵されている。」

(エ)「【0015】
また、メモリ70には予め実際の打楽器音等をPCM方式で録音した信号(例えば電子ドラム残響音等)が記録されており、PCM系信号処理部30は、以下に説明するように、所定時にメモリ70から録音信号を読み出して再生出力するように構成されている。図7は電子ドラムに適用した場合に、このメモリ70に格納されるテーブル700の説明図である。この例では、打撃面1を打撃することによって得られる衝撃波信号(Su)が、HPF300(ハイパスフィルタ)を通過した場合とLPF302(ローパスフィルタ)を通過した場合の2種類に分けて別々に記録されている。打撃面1を打撃することによって得られる衝撃波信号(Su)がLPF302を通過して発音動作される場合には「低音用」としてPCM信号「PL」が読み出し再生されるように構成されている。同様に、打撃面1を打撃することによって得られる衝撃波信号(Su)がHPF300を通過して発音動作される場合には「高音用」としてPCM信号「PH」が読み出し再生されるように構成されている。
【0016】
図6は本発明の特徴部の構成例であり、図1に示したPCM系信号処理部30の構成図である。図6に示すように、PCM系信号処理部30は、ハイパス信号処理系とローパス信号処理系の2系統の信号処理系で成っている。HPF300とLPF302とは夫々、衝撃波信号(Su)を入力する構成となっている。図8(a)はこのHPF300とLPF302の周波数特性(横軸は周波数f、縦軸は出力レベル)を模式的に示した説明図である。図中「LPF」で示した特性はLPF302に対するものであり、図中「HPF」で示した特性はHPF300に対するものである。図8(a)を参照すれば分かるように、衝撃波信号(Su)の低域側周波数成分はLPF302で抽出される一方、衝撃波信号(Su)の高域側周波数成分はHPF300で抽出される。かくして、衝撃波信号(Su)は2種類の周波数特性の異なるフィルタ(HPF300、LPF302)によって低域と高域の両成分に分かれて(周波数特性の交差部が存在するため「完全な分離」を意味しない)以降の信号処理が実行される。但し、LPF302の右肩下がり部とHPF300の右肩上がり部とは交差するようになっていて、これによって衝撃波信号(Su)の総ての周波数成分に対応可能となり、両信号処理系の動作が対等に行われるようになっている。」

(オ)「【0018】
さて、図6を参照してPCM系信号処理部30の構成の説明を続ける。ハイパス信号処理系は、衝撃波信号(Su)を入力して高域側周波数成分を抽出するHPF300と、このHPF300の出力を入力しこれに基づいてトリガ信号の検出出力を行うトリガ検出部304と、このトリガ検出部304が出力したトリガ信号が入力されると音源部312に対してボイス割り当て指示を与える割り当て指示部308と、ボイス割り当て指示が与えられるとこれに応答してハイパスフィルタ固有の発音制御を行う音源部312と、音源部312からの発音信号を増幅するゲイン316とを有している。一方、ローパス信号処理系は、衝撃波信号(Su)を入力して低域側周波数成分を抽出するLPF302と、このLPF302の出力を入力しこれに基づいてトリガ信号の検出出力を行うトリガ検出部306と、このトリガ検出部306が出力したトリガ信号が入力されると音源部314に対してボイス割り当て指示を与える割り当て指示部310と、ボイス割り当て指示が与えられるとこれに応答してローパスフィルタ固有の発音制御を行う音源部314と、音源部314からの発音信号を増幅するゲイン318とを有している。そして、両ゲイン316、318からの増幅信号はミキサー320で混合されて、図1のゲイン62へと出力される。2個のゲイン316、ゲイン318は不図示の操作子でゲイン量を個別に調整可能になっている。なお、音源部312および音源部314は夫々、ボイス割り当て指示が与えられるとこれに応答して発音動作を行うように構成されていると共に、例えば3音分割り当て可能で同時発音可能にも構成されている。」

(カ)「【0024】
例えば、打撃対象物として硬い物を打撃すればLPF302よりもHPF300の出力レベルが大きくなり、その結果、ミキサー320で混合される混合信号の内、ハイパス信号処理系からの混合比が高くなる一方、打撃対象物として軟い物を打撃すればミキサー320で混合される混合信号の内、ローパス信号処理系からの混合比が高くなる。また、打撃位置や打撃態様を変化させることで衝撃波信号の周波数成分が変わるので、本実施形態によれば、打撃位置や打撃態様の変化を考慮したリアリティのある打撃音を放音可能なPCM録音方式の電子ドラムを簡単な構成で実現することができる。」

イ.甲第1号証に記載される発明
以下、甲第1号証に記載される発明を認定する。

(ア)電子ドラムについて
上記ア.(ア)によると、甲第1号証には、『電子ドラム』の発明が記載されている。

(イ)電子ドラムの構成について
上記ア.(イ)によると、甲第1号証には、「電子ドラム」に関して、「外観視筒状体のシェル200(胴本体)の上面である開放面には、打撃面1(ドラムヘッド)がシエル200に張設されている」ことが記載されている。
また、上記ア.(イ)によると、甲第1号証には、「電子ドラム」に関して、「打撃面1の打撃による打撃面1の振動信号を検出し、衝撃波信号(Su)として出力する振動ピックアップが打撃面1(ドラムヘッド)の裏面又は表面の適宜の位置に設けられている」ことが記載されている。
また、上記ア.(ウ)によると、甲第1号証には、「電子ドラム」には、「信号処理部が内蔵されている」ことが記載されている。

したがって、甲第1号証には、「電子ドラム」が、『シェルと、シェルに張設されている打撃面(ドラムヘッド)と、前記打撃面(ドラムヘッド)の裏面又は表面の適宜の位置に設けられ、打撃面の打撃による打撃面の振動信号を検出し、衝撃波信号(Su)として出力する振動ピックアップと、信号処理部を備える』ことが記載されている。

(ウ)信号処理部について
上記ア.(ウ)によると、甲第1号証には、「前記信号処理部」は、「打撃面1を打撃した際に打撃面1の振動振幅に応じた振幅信号を出力する振動ピックアップ(不図示)が出力する衝撃波信号(Su)をアナログデジタル変換するA/D変換器10と、このアナログデジタル変換されたデジタル信号を入力する共振系信号処理部20と、このアナログデジタル変換されたデジタル信号を入力するPCM系信号処理部30と、共振系信号処理部20からの出力信号を増幅するゲイン60と、PCM系信号処理部30からの出力信号を増幅するゲイン62と、両ゲイン60、62からの出力信号を混合するミキサー65(混合手段)と、混合されたミキシング信号をデジタルアナログ変換するD/A変換器40と、このデジタルアナログ変換されたアナログ信号を電子ドラム音として放音するためのスピーカ50とを備えている」ことが記載されている。

したがって、甲第1号証には、「前記信号処理部」は、『前記衝撃波信号(Su)をアナログデジタル変換し、共振系信号処理部とPCM系信号処理部に入力し、両処理部の出力信号を増幅して混合し、混合されたミキシング信号をデジタルアナログ変換して、アナログ信号を電子ドラム音として放音する』ことが記載されている。

(エ)PCM系信号処理部について
上記ア.(エ)によると、甲第1号証には、「PCM系信号処理部30は、ハイパス信号処理系とローパス信号処理系の2系統の信号処理系で成っている」ことが記載されている。

また、上記ア.(オ)によると、甲第1号証には、「ハイパス信号処理系は、衝撃波信号(Su)を入力して高域側周波数成分を抽出するHPF300と、このHPF300の出力を入力しこれに基づいてトリガ信号の検出出力を行うトリガ検出部304と、このトリガ検出部304が出力したトリガ信号が入力されると音源部312に対してボイス割り当て指示を与える割り当て指示部308と、ボイス割り当て指示が与えられるとこれに応答してハイパスフィルタ固有の発音制御を行う音源部312と、音源部312からの発音信号を増幅するゲイン316とを有している」ことが記載されている。

また、上記ア.(オ)によると、甲第1号証には、「ローパス信号処理系は、衝撃波信号(Su)を入力して低域側周波数成分を抽出するLPF302と、このLPF302の出力を入力しこれに基づいてトリガ信号の検出出力を行うトリガ検出部306と、このトリガ検出部306が出力したトリガ信号が入力されると音源部314に対してボイス割り当て指示を与える割り当て指示部310と、ボイス割り当て指示が与えられるとこれに応答してローパスフィルタ固有の発音制御を行う音源部314と、音源部314からの発音信号を増幅するゲイン318とを有している」ことが記載されている。

また、上記ア.(オ)によると、甲第1号証には、「前記PCM系信号処理部」は、「両ゲイン316、318からの増幅信号はミキサー320で混合されて、図1のゲイン62へと出力される」ことが記載されている。

また、上記ア.(エ)によると、甲第1号証には、「前記PCM系信号処理部」において、「打撃面1を打撃することによって得られる衝撃波信号(Su)がLPF302を通過して発音動作される場合には「低音用」としてPCM信号「PL」が読み出し再生され」、「打撃面1を打撃することによって得られる衝撃波信号(Su)がHPF300を通過して発音動作される場合には「高音用」としてPCM信号「PH」が読み出し再生されるように構成されている」ことが記載されている。

したがって、甲第1号証には、「前記PCM系信号処理部」は、『ハイパス信号処理系とローパス信号処理系の2系統の信号処理系からなり、前記ハイパス信号処理系は、前記衝撃波信号(Su)の高域側周波数成分をHPFで抽出して、トリガ信号を生成し、該トリガ信号に応じて高音用のPCM信号「PH」を発音信号として増幅して出力し、前記ローパス信号処理系は、前記衝撃波信号(Su)の低域側周波数成分をLPFで抽出して、トリガ信号を生成し、該トリガ信号に応じて低音用のPCM信号「PL」を発音信号として増幅して出力し、両処理系の出力をミキサーで混合して出力する』ことが記載されている。

(オ)打撃対象物について
上記ア.(カ)によると、甲第1号証には、「打撃対象物として硬い物を打撃すればLPF302よりもHPF300の出力レベルが大きくなり、その結果、ミキサー320で混合される混合信号の内、ハイパス信号処理系からの混合比が高くなる一方、打撃対象物として軟い物を打撃すればミキサー320で混合される混合信号の内、ローパス信号処理系からの混合比が高くなる」ことが記載されている。

したがって、甲第1号証には、「前記電子ドラム」において、『打撃対象物として硬い物を打撃すれば前記LPFよりも前記HPFの出力レベルが大きくなり、その結果、前記ミキサーで混合される混合信号の内、前記ハイパス信号処理系からの混合比が高くなる一方、打撃対象物として軟い物を打撃すれば前記ミキサーで混合される混合信号の内、前記ローパス信号処理系からの混合比が高くなる』ことが記載されている。

(カ)まとめ
以上によると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。甲1発明の各構成については、以下、構成a?構成eと称する。

(甲1発明)
(a)シェルと、
(b)シェルに張設されている打撃面(ドラムヘッド)と、
(c)前記打撃面(ドラムヘッド)の裏面又は表面の適宜の位置に設けられ、打撃面の打撃による打撃面の振動信号を検出し、衝撃波信号(Su)として出力する振動ピックアップと、
(d)信号処理部を備え、
(d1)前記信号処理部は、前記衝撃波信号(Su)をアナログデジタル変換し、共振系信号処理部とPCM系信号処理部に入力し、両処理部の出力信号を増幅して混合し、混合されたミキシング信号をデジタルアナログ変換して、アナログ信号を電子ドラム音として放音するものであって、
(d2)前記PCM系信号処理部は、ハイパス信号処理系とローパス信号処理系の2系統の信号処理系からなり、前記ハイパス信号処理系は、前記衝撃波信号(Su)の高域側周波数成分をHPFで抽出して、トリガ信号を生成し、該トリガ信号に応じて高音用のPCM信号「PH」を発音信号として増幅して出力し、前記ローパス信号処理系は、前記衝撃波信号(Su)の低域側周波数成分をLPFで抽出して、トリガ信号を生成し、該トリガ信号に応じて低音用のPCM信号「PL」を発音信号として増幅して出力し、両処理系の出力をミキサーで混合して出力し、
(d3)打撃対象物として硬い物を打撃すれば前記LPFよりも前記HPFの出力レベルが大きくなり、その結果、前記ミキサーで混合される混合信号の内、前記ハイパス信号処理系からの混合比が高くなる一方、打撃対象物として軟い物を打撃すれば前記ミキサーで混合される混合信号の内、前記ローパス信号処理系からの混合比が高くなる
(e)電子ドラム。

(2)甲第2号証
ア.甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。なお、下線は強調のために当審で付したものである。

(ア)「(1) 軟質材料からなる第1の被打撃体と,この第1の被打撃体よりも硬質な材料からなる第2の被打撃体と,これら第1および第2の被打撃体の振動をピックアップし、電気信号に変換するピックアップ装置とを備え,前記第2の被打撃体はリング状に形成されることにより中央に前記第1の被打撃体が嵌挿される開口を有し、その開口端は該第1の被打撃体の被打撃面より高く、かつ第2の被打撃体の外周部より高いことを特徴とする電子ドラム。」(第1頁第5?14行目)

(イ)「この考案は、正規の可撓性被打撃体に対する打撃操作に加えて一般ドラムと同様のリムショット操作も可能にした電子ドラムに関する。」(第2頁第5?7行目)

(ウ)「これらの図において,電子ドラム1は,上下に2分割形成され止めねじ等によつて一体的に結合された上ケース2および下ケース3とを備え,これら両ケース2,3によつて楽器筐体4を構成し、内部には第1の被打撃体であるパッド5と,電子ドラム1のセッテイング角度を調整する角度調整装置6が収納配置されている。」(第5頁第9?16行目)

(エ)「前記パッド5は,ポリウレタン等のプラスチックの発泡状態を制御するなどして形成されることにより、表層部がフィルム状の非発泡層(インテグラルスキンとも呼ばれる)7Aを構成し、内部が発泡層7Bを構成する軟質可撓性のパッド本体7と,このパッド本体7の下面にインサート成形等によつて一体に形成された木材,金属等からなる芯板8とからなり、非発泡層7Aの厚みがパッド5の大きさ等に対応して0.1mm?10mm程度,望ましくは0.1mm?5mm程度に設定され、芯板8の下面中央部には該パッド5および後述する第2の被打撃体の振動をピックアップし電気信号に変換する圧電素子等のピックアップ装置10が固着されている。」(第5頁第17行目?第6頁第18行目)

(オ)「さて,この考案を特徴づける第2の被打撃体は、前記パッド5の表面側中央部を囲繞保護する前述の上ケース2で構成されるもので、この上ケース2はAl等の軽金属によつて平面視略リング状で断面形状が略伏皿状に形成されることにより、中央に前配パッド5の表面側中央部が嵌挿される前記開口13を有し,表面36は外周縁が前配開口13の上側開口端13Aより低くなるように傾斜している。」(第8頁第16行目?第9頁第4行目)

(カ)「かくしてこのような構成からなる電子ドラム1においては、上ケース2を金属で形成し、しかも開口13の開口端13Aをパッド5の被打撃面14および該ケース2の外周縁より高くすることで,前記開口端13Aが第2の被打撃体の被打撃部を構成するため、被打撃面14に対する打撃操作に加えて開口13の開口端13Aを一般のドラムにおけるリムショットと同様に打撃操作することができる。」(第9頁第12?20行目)

(キ)「ここで,上ケース2を打撃した時,奏者はリムショット音を直接生音で開くことができるが,上ケース2の振動はパッド5に伝達されるためピックアップ装置10によつて電気信号に変換され,電子音源装置から電子音としても発音される。」(第10頁第7?11行目)

(ク)「なお、上記実施例はパッド5の下面にのみピックアップ装置10を配設した場合について説明したが、この考案はこれに限らず上ケース2のリムショット音を積極的に電子音源装置から発音させたい場合には上ケース2の下面適宜箇所にもピックアップ装置を配設するとよい。」(第11頁第11?16行目)

イ.甲第2号証に記載される技術
上記ア.(ア)?(ク)によると、甲第2号証には、以下の技術が記載されている。

「金属で形成された第2の被打撃体である上ケース、および下ケースによって構成される楽器筐体と、
内部に収納配置されており、ポリウレタン等のプラスチックで形成された第1の被打撃体であるパッドと、
前記パッドの下面に配設され、前記第1および第2の被打撃体の振動をピックアップし、電気信号に変換するピックアップ装置と、
前記ピックアップ装置によって変換された電気信号に基づいて電子音を発音する電子音源装置を備える電子ドラムにおいて、
前記上ケースの下面適宜箇所にもピックアップ装置を配設する技術」

(3)甲第3号証
ア.甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、図面と共に次に掲げる事項が記載されている。なお、下線は強調のために当審で付したものである。

(ア)「【0001】
本発明は、打撃検出装置に関し、打面の打撃に対する検出精度に優れる打撃検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子打楽器には、打面の打撃による振動を検出するセンサが設けられている。従来、ノイズなどによる誤発音を防ぐために、閾値を設け、その閾値とセンサからの出力値とを比較し、発音の制御を行っていた(例えば、特許文献1)。具体的に、センサからの出力値が前記閾値を超える場合には、センサが打面の打撃による振動を検出したと判断して発音させる一方で、センサからの出力値が前記閾値以下である場合には、センサが検出した振動がノイズなどに基づくものであると判断して発音させないように制御していた。」

(イ)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、閾値とセンサからの出力値との比較に基づいて発音制御を行った場合、ノイズによる誤検出を防止できる一方で、演奏時における弱い打撃を検出できず、発音すべき音が発音されなくなることがあった。
【0005】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、打面の打撃に対する検出精度に優れる打撃検出装置を提供することを目的としている。」

(ウ)「【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の打撃検出装置100を搭載する音源装置1の電気的構成を示すブロック図である。音源装置1は、接続されるパッド51が打撃されたことに基づく楽音(音)を生成し、生成した楽音を、接続されるスピーカ41へと出力する装置である。
【0017】
詳細は後述するが、本実施形態の音源装置1は、入力部15を介して入力された、パッド51に設けられている振動センサ51aから出力された電圧波形のゼロクロス回数と、当該電圧波形のピークレベルの値とに基づいて、入力部15を介して入力された電圧波形(以下、単に「入力波形」と称す)が、打撃に基づくものであるか否かを判定するように構成されている。よって、弱い打撃に基づくピークレベルの小さい入力波形が、ノイズとして誤検出されることを防止され、弱い打撃に対する検出感度を向上させている。」

(エ)「【0036】
従来、入力波形のピークレベルが閾値を超えた場合には、打撃であると判定して発音させ、当該ピークレベルが閾値以下である場合には、ノイズであると判定して発音させないように、発音の制御を行っていた。しかし、図3のグラフによれば、打撃であるか否かの判定を行うレベルの閾値を、ピークレベルが高いノイズよりも大きく、ノイズを発生させない閾値L1に設定した場合、ピークレベルが閾値L1以下である一部の打撃を検出することができない。一方、打撃であるか否かの判定を行うレベルの閾値を、ピークレベルが小さい打撃よりも小さく、弱い打撃を検出可能にする閾値L2に設定した場合には、ノイズが打撃と誤判定されることになる。
【0037】
一方、ゼロクロス回数は、打撃に基づく電圧波形(◆)と、ノイズに基づく電圧波形(■)とで明白な相違がある。そこで、本実施形態の音源装置1(打撃検出装置100)では、閾値L1と閾値L2との間のレベル区間について、ゼロクロス回数の閾値Z1を設ける。これにより、閾値L1と閾値L2との間のレベル区間内に含まれ得る打撃に基づく電圧波形(入力波形)と、ノイズに基づく電圧波形(入力波形)とを分けることができる。具体的に、閾値L1と閾値L2との間のレベル区間内に含まれ得るピークレベルの入力波形のうち、ゼロクロス回数が閾値Z1以下のものは打撃であり、閾値Z1を超えるものはノイズであると分離できる。
【0038】
つまり、本実施形態の音源装置1(打撃検出装置100)は、ピークレベルが閾値L1を超える入力波形(即ち、領域A1に含まれる入力波形)と、ピークレベルが閾値L1と閾値L2との間にあり、かつ、ゼロクロス回数が閾値Z1以下である入力波形(即ち、領域A2に含まれる入力波形)とを、打撃に基づく入力波形であると判定する。一方、音源装置1(打撃検出装置100)は、ピークレベルが閾値L2以下である入力波形(即ち、領域A3に含まれる入力波形)と、ピークレベルが閾値L1と閾値L2との間にあり、かつ、ゼロクロス回数が閾値Z1を超える入力波形(即ち、領域A4に含まれる入力波形)とを、ノイズに基づく入力波形であると判定する。なお、図3では、ノイズに基づく入力波形であると判定される領域(領域A3,A4)を着色領域として表わし、打撃に基づく入力波形であると判定される領域(領域A1,A2)との区別を分かり易くしている。
【0039】
このように、本実施形態の音源装置1(打撃検出装置100)によれば、打撃であるか否かの判定を、入力波形(振動センサ51aから出力された電圧波形)のピークレベルと、入力波形のゼロクロス回数とに基づいて行うので、ピークレベルが小さい弱い打撃とノイズとを明確に区別できる。よって、弱い打撃を確実に検出できるとともに、ノイズが打撃と誤判定されることも防止できる。」

(オ)「【0051】
S412において、カウントしたゼロクロス回数が閾値Z1を越えるとCPU11が判定した場合には(S412:Yes)、CPU11は、入力波形がノイズに基づくものであると判断して、本処理を終了する。一方、S412において、カウントしたゼロクロス回数が閾値Z1以下であるとCPU11が判定した場合には(S412:No)、CPU11は、入力波形が打撃に基づくものであると判断して、発音処理を実行する(S413)。」

イ.甲第3号証に記載される技術
上記ア.(ア)?(オ)によると、甲第3号証には、以下の技術が記載されている。

「弱い打撃とノイズとを明確に区別するために、
パッドに設けられた振動センサから出力された入力波形のゼロクロス回数と、当該入力波形のピークレベルの値とに基づいて、当該入力波形が打撃に基づくものであるか否かを判定する電子打楽器の打撃検出装置において、
ピークレベルが閾値L1を超える入力波形と、ピークレベルが閾値L1とL2の間にあり、かつ、ゼロクロス回数が閾値Z1以下である入力波形とを、打撃に基づく入力波形であると判定し、
ピークレベルが閾値L2以下である入力波形と、ピークレベルが閾値L1と閾値L2との間にあり、かつ、ゼロクロス回数が閾値Z1を超える入力波形とを、ノイズに基づく入力波形であると判定する技術」

5.判断
(1)本件特許発明1について
ア.本件特許発明1
本件特許発明1は、上記2.に示した請求項1に係る発明であるが、ここに再掲する。
なお、本件特許発明1の各構成の符号は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成A?構成Fと称する。

(本件特許発明1)
(A)演奏者によって叩打される第1叩打部と、
(B)前記第1叩打部とは異なる位置に同第1叩打部とは異なる固有振動数を有して設けられて前記演奏者によって叩打される第2叩打部と、
(C)前記第1叩打部および前記第2叩打部に物理的に繋がった状態で共に支持する叩打部支持体と、
(D)前記叩打部支持体に設けられて前記第1叩打部および前記第2叩打部の各叩打によって生じる振動を検出して同振動に対応する検出信号を出力する共通叩打センサと、
(E1)前記検出信号を用いて前記第1叩打部および前記第2叩打部の各叩打にそれぞれ対応する楽音信号を生成する制御部とを有し、
(E2)前記制御部は、前記第1叩打部の叩打によって生じた振動と前記第2叩打部の叩打によって生じた振動とにおける周期、波長または単位時間当たりの振動数の差を用いて前記第1叩打部または前記第2叩打部の叩打を特定して同特定した叩打に応じた前記楽音信号を生成することを特徴とする
(F)電子打楽器。

イ.本件特許発明1と甲1発明との対比
(ア)本件特許発明1の構成Fについて
ドラムは打楽器の一種であるから、甲1発明の構成eの「電子ドラム」は、本件特許発明1の「電子打楽器」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、「電子打楽器」であるという点で一致する。

(イ)本件特許発明1の構成Aについて
甲1発明の構成d3の「硬い物」は「打撃対象物」であり、構成bの「打撃面(ドラムヘッド)」は、打撃の対象となるものであるから、該「硬い物」は、該「打撃面(ドラムヘッド)」の一部を構成するものと解される。そして、構成d3の「硬い物」は、演奏者によって叩打されるものであることは当業者にとって明らかであるから、本件特許発明1の「演奏者によって叩打される第1叩打部」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、「演奏者によって叩打される第1叩打部」を有するという点で一致する。

(ウ)本件特許発明1の構成Bについて
甲1発明の構成d3の「軟い物」は「打撃対象物」であり、構成bの「打撃面(ドラムヘッド)」は、打撃の対象となるものであるから、該「軟い物」は、該「打撃面(ドラムヘッド)」の一部を構成するものと解される。そして、構成d3の「軟い物」は、演奏者によって叩打されるものであることは当業者にとって明らかである。
また、構成d3の「軟い物」は、構成d3の「硬い物」とは異なるものであると解されるところ、異なる2つのものが同じ位置を占めることはできないから、該「硬い物」とは異なる位置に設けられているといえる。
また、物の硬さによって固有振動数が異なることは当業者にとって明らかであるから、構成d3の「軟い物」は、該「硬い物」とは異なる固有振動数を有しているといえる。
以上によると、甲1発明の構成d3の「軟い物」は、本件特許発明1の「前記第1叩打部とは異なる位置に同第1叩打部とは異なる固有振動数を有して設けられて前記演奏者によって叩打される第2叩打部」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、「前記第1叩打部とは異なる位置に同第1叩打部とは異なる固有振動数を有して設けられて前記演奏者によって叩打される第2叩打部」を有するという点で一致する。

(エ)本件特許発明1の構成Cについて
上記(イ)及び(ウ)で述べたとおり、甲1発明の構成d3の「硬い物」及び「軟い物」は、構成bの「シェルに張設されている打撃面(ドラムヘッド)」の一部を構成するものと解されるから、構成aの「シェル」は、構成d3の「硬い物」及び「軟い物」に物理的に繋がった状態で共に支持するものといえる。
よって、甲1発明の構成aの「シェル」は、本件特許発明1の「前記第1叩打部および前記第2叩打部に物理的に繋がった状態で共に支持する叩打部支持体」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、「前記第1叩打部および前記第2叩打部に物理的に繋がった状態で共に支持する叩打部支持体」を有するという点で一致する。

(オ)本件特許発明1の構成Dについて
甲1発明の構成cの「振動ピックアップ」は、打撃面の打撃による打撃面の振動信号を検出し、衝撃波信号(Su)として出力するものであるところ、構成d3の「硬い物」及び「軟い物」による打撃は、いずれも、構成cの「振動ピックアップ」により検出されると解される。
よって、本件特許発明1の「共通叩打センサ」と、甲1発明の構成cの「振動ピックアップ」は、「前記第1叩打部および前記第2叩打部の各叩打によって生じる振動を検出して同振動に対応する検出信号を出力する共通叩打センサ」である点で共通する。
しかしながら、甲1発明の構成cの「振動ピックアップ」は、「打撃面(ドラムヘッド)の裏面又は表面の適宜の位置」に設けられるものであって、構成aの「シェル」に設けられるものではない。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、「前記第1叩打部および前記第2叩打部の各叩打によって生じる振動を検出して同振動に対応する検出信号を出力する共通叩打センサ」を有するという点で一致する。
ただし、「共通叩打センサ」の設けられている位置に関して、本件特許発明1では、「叩打部支持体」に設けられているのに対し、甲1発明では、「打撃面(ドラムヘッド)の裏面又は表面の適宜の位置」に設けられている点で、両発明は相違している。

(カ)本件特許発明1の構成E1について
上記(イ)及び(ウ)で述べたとおり、甲1発明の「硬い物」及び「軟い物」は、本件特許発明1の「第1叩打部」及び「第2叩打部」に相当し、構成d3に「打撃対象物として硬い物を打撃すれば前記LPFよりも前記HPFの出力レベルが大きくなり、その結果、前記ミキサーで混合される混合信号の内、前記ハイパス信号処理系からの混合比が高くなる一方、打撃対象物として軟い物を打撃すれば前記ミキサーで混合される混合信号の内、前記ローパス信号処理系からの混合比が高くなる」とあるから、構成d2の「PCM系信号処理部」は、「硬い物」及び「軟い物」の各打撃にそれぞれ対応する混合信号を出力するといえる。
そして、甲1発明の構成dの「信号処理部」は、該混合信号をデジタルアナログ変換して、アナログ信号を放音するから、本件特許発明1の「前記検出信号を用いて前記第1叩打部および前記第2叩打部の各叩打にそれぞれ対応する楽音信号を生成する制御部」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明は、「前記検出信号を用いて前記第1叩打部および前記第2叩打部の各叩打にそれぞれ対応する楽音信号を生成する制御部」を有するという点で一致する。

(キ)本件特許発明1の構成E2について
甲1発明の構成d1の「信号処理部」は、「衝撃波信号(Su)をアナログデジタル変換し、共振系信号処理部とPCM系信号処理部に入力し、両処理部の出力信号を増幅して混合し、混合されたミキシング信号をデジタルアナログ変換して、アナログ信号を電子ドラム音として放音する」ものである。
また、構成d2の「PCM系信号処理部」は、「ハイパス信号処理系とローパス信号処理系の2系統の信号処理系からなり、前記ハイパス信号処理系は、衝撃波信号(Su)の高域側周波数成分をHPFで抽出して、トリガ信号を生成し、該トリガ信号に応じて高音用のPCM信号「PH」を発音信号として増幅して出力し、前記ローパス信号処理系は、前記衝撃波信号(Su)の低域側周波数成分をLPFで抽出して、トリガ信号を生成し、該トリガ信号に応じて低音用のPCM信号「PL」を発音信号として増幅して出力し、両処理系の出力をミキサーで混合して出力する」ものである。

甲1発明の構成d2の「PCM系信号処理部」は、HPF及びLPFを用いるものであるが、当該HPF及びLPFは、衝撃波信号(Su)の高域側周波数成分及び低域側周波数成分を抽出するものであって、衝撃波信号(Su)の周期、波長または単位時間当たりの振動数を抽出するものではないから、構成d2の「PCM系信号処理部」は、「第1叩打部の叩打によって生じた振動と第2叩打部の叩打によって生じた振動とにおける周期、波長または単位時間当たりの振動数」の差を用いるものとはいえない。

さらに、甲1発明の構成d2の「PCM系信号処理部」は、ハイパス信号処理系とローパス信号処理系の出力をミキサーで混合するが、混合する際に、ハイパス信号処理系とローパス信号処理系の両方から発音信号が出力され、ミキサーによって混合されることも想定されるから、構成d2の「PCM系信号処理部」は、「硬い物」または「軟い物」の打撃を「特定する」ものとはいえない。
よって、甲1発明の構成dの「信号処理部」は、「第1叩打部または第2叩打部の叩打を特定して同特定した叩打に応じた楽音信号を生成する」ものとはいえない。

したがって、「制御部」に関して、本件特許発明1では、「第1叩打部の叩打によって生じた振動と第2叩打部の叩打によって生じた振動とにおける周期、波長または単位時間当たりの振動数の差を用いて前記第1叩打部または前記第2叩打部の叩打を特定して同特定した叩打に応じた楽音信号を生成する」ものであるのに対し、甲1発明では、「第1叩打部の叩打によって生じた振動と第2叩打部の叩打によって生じた振動とにおける周期、波長または単位時間当たりの振動数」の差を用いておらず、「第1叩打部または第2叩打部の叩打を特定して同特定した叩打に応じた楽音信号を生成する」ものではない点で、両発明は相違している。

(ク)まとめ
以上の対比結果をまとめると、本件特許発明1と甲1発明との[一致点]と[相違点]は以下のとおりである。

[一致点]
演奏者によって叩打される第1叩打部と、
前記第1叩打部とは異なる位置に同第1叩打部とは異なる固有振動数を有して設けられて前記演奏者によって叩打される第2叩打部と、
前記第1叩打部および前記第2叩打部に物理的に繋がった状態で共に支持する叩打部支持体と、
前記第1叩打部および前記第2叩打部の各叩打によって生じる振動を検出して同振動に対応する検出信号を出力する共通叩打センサと、
前記検出信号を用いて前記第1叩打部および前記第2叩打部の各叩打にそれぞれ対応する楽音信号を生成する制御部とを有することを特徴とする
電子打楽器。

[相違点]
(相違点1)
「共通叩打センサ」の設けられている位置に関して、本件特許発明1では、「叩打部支持体」に設けられているのに対し、甲1発明では、「打撃面(ドラムヘッド)の裏面又は表面の適宜の位置」に設けられている点。

(相違点2)
「制御部」に関して、本件特許発明1では、「第1叩打部の叩打によって生じた振動と第2叩打部の叩打によって生じた振動とにおける周期、波長または単位時間当たりの振動数の差を用いて前記第1叩打部または前記第2叩打部の叩打を特定して同特定した叩打に応じた楽音信号を生成する」ものであるのに対し、甲1発明では、「第1叩打部の叩打によって生じた振動と第2叩打部の叩打によって生じた振動とにおける周期、波長または単位時間当たりの振動数」の差を用いておらず、「第1叩打部または第2叩打部の叩打を特定して同特定した叩打に応じた楽音信号を生成する」ものではない点。

ウ.相違点の判断
(ア)相違点1について
まず、相違点1について検討する。

甲第2号証には、第2の被打撃体である上ケース、および下ケースによって構成される楽器筐体と、内部に収納配置されており、第1の被打撃体であるパッドと、前記パッドの下面に配設され、前記第1および第2の被打撃体の振動をピックアップし、電気信号に変換するピックアップ装置を備える電子ドラムにおいて、前記上ケースの下面適宜箇所にもピックアップ装置を配設する技術が記載されている。
また、甲第3号証には、電子打楽器において、振動センサがパッドに設けられる技術が記載されている。
しかしながら、甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術は、「共通叩打センサ」が「叩打部支持体」に設けられる技術ではなく、相違点1に係る構成に相当するものではない。
そして、相違点1に係る構成は、周知技術ともいえないから、甲1発明において、相違点1に係る構成を導き出すことは、当業者が容易に想到し得ることではない。

よって、相違点1に係る構成は、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術事項から、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(イ)相違点2について
次に、相違点2について検討する。

甲第3号証には、弱い打撃とノイズとを明確に区別するために、パッドに設けられた振動センサから出力された入力波形のゼロクロス回数と、当該入力波形のピークレベルの値とに基づいて、当該入力波形が打撃に基づくものであるか否かを判定する技術が記載されている。
しかしながら、甲第3号証に記載された技術は、入力波形が打撃に基づくものであるかノイズに基づくものであるかを判定する技術であって、第1叩打部または第2叩打部の叩打を特定する技術ではないから、相違点2に係る構成に相当するものではない。
また、甲第2号証にも、相違点2に係る構成は記載されていない。
そして、相違点2に係る構成は、周知技術ともいえないから、甲1発明において、相違点2に係る構成を導き出すことは、当業者が容易に想到し得ることではない。

よって、相違点2に係る構成は、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術事項から、当業者が容易になし得るものとはいえない。

(ウ)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、当業者が相違点1及び相違点2に係る構成を容易に導き出すことはできないから、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術事項から、当業者が容易になし得るものとはいえない。

エ.小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(2)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1を引用する発明であるから、本件特許発明2ないし7は、少なくとも上記相違点1及び相違点2に係る構成を有している発明である。
したがって、本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1と同様、甲1発明、及び甲第2号証、甲第3号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

6.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-15 
出願番号 特願2017-92143(P2017-92143)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G10H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 冨澤 直樹  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 坂東 大五郎
小池 正彦
登録日 2017-09-15 
登録番号 特許第6207113号(P6207113)
権利者 ATV株式会社
発明の名称 電子打楽器  
代理人 居藤 洋之  
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