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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1342010
異議申立番号 異議2018-700356  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-27 
確定日 2018-06-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6224413号発明「キャップ用アルミニウム合金板及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6224413号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6224413号の請求項1?2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成25年10月28日に出願され、平成29年10月13日に特許権の設定登録がされ、同年11月1日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、平成30年4月27日に特許異議申立人 伊藤裕美により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6224413号の請求項1?2の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?2」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
mass%で、Si:0.1%以上0.6%以下、Fe:0.2%以上0.7%以下、Cu:0.01%以上0.3%以下、Mn:0.3%以上0.8%未満、Mg:0.2%以上0.8%未満を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成され、引張強さが200MPa以上300MPa以下であり、最終板断面による金属間化合物の面積占有率が1.0%以上3.0%以下、かつ、円相当径3μmを超える金属間化合物の個数密度が300ヶ/mm^(2)以上1000ヶ/mm^(2)以下であって、耳率が-3%以上+3%以下であることを特徴とするキャップ用アルミニウム合金板。
【請求項2】
mass%で、Si:0.1%以上0.6%以下、Fe:0.2%以上0.7%以下、Cu:0.01%以上0.3%以下、Mn:0.3%以上0.8%未満、Mg:0.2%以上0.8%未満を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金の溶湯を30mm/min以上60mm/min以下の鋳造速度で鋳造する鋳造工程と、得られた鋳塊に540℃以上610℃以下で1時間以上48時間以内の均質化処理を施す均質化処理工程と、前記鋳塊に熱間圧延を施し、熱間仕上げ圧延の終了温度を330℃以上370℃以下とし、熱間仕上げ圧延終了後のコイルに巻き取った状態で再結晶状態とする熱間圧延工程と、当該熱間圧延工程後に70%以上の圧延率で1次冷間圧延を施す第1の冷間圧延工程と、第1の冷間圧延後に連続焼鈍炉を用いて1℃/秒以上の昇温速度で到達温度400℃以上550℃以下で2分間以内保持後に1℃/秒以上の冷却速度で100℃以下まで冷却する中間焼鈍工程と、当該中間焼鈍工程後に圧延材に30%以上60%以下の冷間圧延率にて冷間圧延を施して最終板厚とする第2の冷間圧延工程と、当該第2の冷間圧延工程後に180℃以上270℃以下で0.5時間以上4時間以内の安定化焼鈍を行う安定化焼鈍工程とを施すことにより、引張強さが200MPa以上300MPa以下であり、最終板断面による金属間化合物の面積占有率が1.0%以上3.0%以下、かつ、円相当径3μmを超える金属間化合物の個数密度が300ヶ/mm^(2)以上1000ヶ/mm^(2)以下であって、耳率が-3%以上+3%以下である合金板を得ることを特徴とするキャップ用アルミニウム合金板の製造方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として甲第1号証?甲第4号証を提出し、以下の理由により、請求項1?2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1
本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1?2に係る特許は特許法第29条第1項第3号に該当するにもかかわらずなされたものである。

2 申立理由2
本件発明1?2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2007-191760号公報
甲第2号証:特開2009-270192号公報
甲第3号証:松尾守、「アルミニウムの連続鋳造」、軽金属、日本軽金属学会、1994年9月30日、Vol.44、No.9、p.510-525
甲第4号証:石川宣仁、「アルミニウム合金鋳塊におけるバットカール現象のシミュレーション解析」、Furukawa-sky Review No.1、古河スカイ株式会社、2005年4月1日、p.33-39

第4 甲号証の記載事項
1 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第1号証には、「PPキャップ用アルミニウム合金板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a) 「【請求項1】
Cu:0.3質量%以下、Mn:0.2?0.5質量%、Mg:0.2?0.6質量%、Si:0.1?0.3質量%、Fe:0.2?0.7質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金板であって、
このアルミニウム合金板の板表面における結晶粒径が、圧延方向に平行となる圧延平行方向で50μm以下、圧延方向に垂直となる圧延垂直方向で30μm以下であることを特徴とするPPキャップ用アルミニウム合金板。
【請求項2】
Cu:0.3質量%以下、Mn:0.2?0.5質量%、Mg:0.2?0.6質量%、Si:0.1?0.3質量%、Fe:0.2?0.7質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金のスラブを、
保持温度:550?630℃、保持時間:1?10時間の条件で予備均質化熱処理を行う予備均質化熱処理工程と、
前記予備均質化熱処理を行った前記スラブの表面を面削する面削工程と、
表面を面削した前記スラブを、保持温度:450?530℃、保持時間:1?10時間の均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理を行った前記スラブを、圧延終了温度:300?380℃の熱間圧延を行い、熱間圧延板とする熱間圧延工程と、
前記熱間圧延板を、圧下率:50?90%の冷間圧延を行い、冷間圧延板とする冷間圧延工程と、
前記冷間圧延板を、昇温速度:10℃/秒以上、保持温度:400?530℃、保持時間:0?10秒間、降温速度:10℃/秒以上の中間焼鈍を行う中間焼鈍工程と、
前記中間焼鈍を行った前記冷間圧延板を、圧下率:10?60%で仕上げ冷間圧延を行い、仕上げ冷間圧延板とする仕上げ冷間圧延工程と、
前記仕上げ冷間圧延板を、保持温度:200?260℃、保持時間:1?4時間で仕上げ焼鈍を行い、アルミニウム合金板を製造する仕上げ焼鈍工程と、
を含むことを特徴とするPPキャップ用アルミニウム合金板の製造方法。」

(1b) 「【0012】
このように、本発明のPPキャップ用アルミニウム合金板の製造方法は、まず、特定の範囲の成分組成のアルミニウム合金のスラブを特定の条件で予備均質化熱処理することで、アルミニウム合金組織中の再結晶方位を一定の方向且つ一定の割合以上で具備できる前組織を成長させる。即ち、熱間圧延での再結晶方位を素材全体に亘ってある程度均一化するために必要な析出物を適性に成長させることで熱間圧延板の再結晶粒および耳率を安定化させる。
また、2回目に行う均質化熱処理を低温化することで表面劣化を押さえ、且つ再結晶の駆動力となる歪を効率的に導入し、アルミニウム合金組織中の再結晶方位を好適化することで、耳率の変化を低く抑える。
そして、冷間圧延の圧下率を特定の範囲に限定することによって、適正な加工硬化を得る。」

(1c) 「【0025】
(予備均質化熱処理工程)
予備均質化熱処理工程S1は、製造するアルミニウム合金板の鋳造偏析成分の均質化と再結晶に必要な析出物を適切に成長させるために行う。そのため、この予備均質化熱処理工程S1では、保持温度:550?630℃、保持時間:1?10時間の条件で、前記成分組成でなるアルミニウム合金のスラブに対して予備均質化熱処理を行う。
ここで、予備均質化熱処理の処理温度が550℃未満であると金属間化合物の生成が不十分となり、再結晶、キャップ開栓性に悪影響を及ぼす。また、予備均質化熱処理の処理時間が1時間未満であると、十分な均質化ができず、特性のばらつきが大きくなる。
一方、予備均質化熱処理の処理温度が630℃を超えると、Mgがバーニングを起こすので、製品表面品質上問題となる。また、予備均質化熱処理の処理時間が10時間を超えると、金属間化合物が再結晶に析出物サイズを超えて粗大成長し結晶粒、耳率がばらつく原因となる上、生産性も阻害され不適である。
【0026】
(面削工程)
面削工程S2は、予備均質化熱処理を行ったスラブの表面に生じた偏析を除去するために行う。面削工程S2におけるスラブ表面の面削量は、アルミニウム合金の成分組成や、予備均質化熱処理の処理条件などによって異なるので、事前に実験等によって適切な条件を設定するのが好ましい。
【0027】
(均質化熱処理工程)
均質化熱処理工程S3は、熱間圧延温度への加温のために行う。そのため、この均質化熱処理工程S3は、保持温度:450?530℃、保持時間:1?10時間の条件で、前記した面削工程S2で表面を面削したスラブに対して均質化熱処理を行う。
ここで、均質化熱処理の処理温度が450℃未満であると、圧延負荷が大きくなり、熱間圧延パス回数を増やさなければならず、経済的に不利となる。また、均質化熱処理の処理時間が1時間未満であると、鋳塊全体に亘って均質な温度とすることが難しく特性がばらつき易くなる。
一方、均質化熱処理の処理温度が530℃を超えると表面酸化膜が成長し、製品表面品質に悪影響を及ぼす。また、均質化熱処理の処理時間が10時間以上実施しても、効果は変わらず却って生産性が低下するので不適である。」

(1d) 「【実施例】
【0035】
次に、本発明のPPキャップ用アルミニウム合金板およびその製造方法について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。
【0036】
まず、本発明のPPキャップ用アルミニウム合金板の成分組成について検討を行った。
表1の実施例1?5および比較例1?9に示すような成分組成を備えたアルミニウム合金のスラブを作成し、かかるスラブを、保持温度:600℃、保持時間:4時間の条件で予備均質化熱処理を行い、予備均質化熱処理を行ったスラブの表面を8mm面削した。そして、面削したスラブを、保持温度:500℃、保持時間:2時間の均質化熱処理を行った後、当該スラブを、圧延終了温度:340℃の熱間圧延を行って熱間圧延板とした。そして、当該熱間圧延板を、圧下率:80%の冷間圧延を行って、冷間圧延板とした後、当該冷間圧延板を、昇温速度:20℃/秒以上、保持温度:450℃、保持時間:1秒間、降温速度:20℃/秒以上の中間焼鈍を行った。次いで、中間焼鈍を行った当該冷間圧延板を、圧下率:50%で仕上げ冷間圧延を行って仕上げ冷間圧延板とし、その仕上げ冷間圧延板を、保持温度:220℃、保持時間:3時間で仕上げ焼鈍を行うことで、実施例1?5および比較例1?9に示す成分組成を備えたアルミニウム合金板を製造した。なお、表1における下線は、本発明の要件を満たしていないことを示す。
【0037】
【表1】



(1e) 「【0042】
(b)引張試験
まず、実施例1?5および比較例1?9のアルミニウム合金板からJIS Z 2201に規定されている5号試験片を作製した。
そして、引張試験は、かかる試験片を用いてJIS Z 2241に規定の金属材料引張試験方法に準拠して行った。今般PPキャップとして要求されている天面部高強度化、耐内圧性能向上を踏まえ、引張強さは150MPa以上を好適と評価した。
【0043】
(c)耳率
耳率は、実施例1?5および比較例1?9のアルミニウム合金板から直径φ40mmのブランクを作製し、直径φ76.9mmのポンチで絞り(絞り率48%)、この際の絞りカップの耳高さから算出した。すなわち、通常生じる8つの山谷の平均差をカップの平均高さで除算したものである(下記数1参照)。90度耳(山)はマイナス表示、45度耳はプラス表示であり、本発明では耳率が0%以上+3%未満のものをPPキャップに用いるのに好適であると評価した。なお、耳率が前記範囲を超えると、ブランクに印字した後、絞り成形してPPキャップを製造した際に、PPキャップの側面の印字が曲がることが強く懸念されるので好ましくない。」

(1f) 「【0048】
【0048】
(d-3)キャップ開栓性
巻き締め後にトルクメーターを使用してキャップの開栓性を測定した。開栓トルクは通常3段階で評価される。つまり、キャップと瓶が相対的に滑りを生じるトルク(第1トルク)、ミシン目の破断トルク(第2トルク)、スコア破断によるリングの脱離トルク(第3トルク)が開栓過程で極大値として測定され、評価される。
この中で特に重要なのは、キャップの巻き締め成形性の影響を受けるミシン目破断時の第2トルクであり、ネジ成形性や材料の適切な破断特性が要求される。第2トルクの適正値は用途によって様々であるが、どの様な用途であっても1Nmを超えると一般消費者は容易に開けることはできない。
良好な開栓挙動で第2トルクが1Nm以下であるものを「○」、ネジ成形深さが不十分でキャップが空回りして開栓できなかったり、第2トルクが1Nmを超えたりするものを「×」と評価した。なお、キャップ巻き締め成形性で「×」の評価が得られた場合は、キャップ開栓性の評価を行うことができないので、かかる評価を行わなかった(「-」)。」

(1g) 「【0050】
【表2】



2 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第2号証には、「缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
(2a) 「【0032】
〔鋳造工程〕
(鋳造速度:40?65mm/分、冷却速度:0.5?1.5℃/秒)
はじめに、アルミニウム合金を溶解し、DC鋳造法等の公知の半連続鋳造法により鋳造し、アルミニウム合金の固相線温度未満まで冷却して鋳塊とする。鋳造速度が40mm/分未満、あるいは冷却速度が0.5℃/秒未満と遅いと、鋳塊中に粗大な金属間化合物が多量に晶出する。一方、鋳造速度が65mm/分、あるいは冷却速度が1.5℃/秒をそれぞれ超えて速いと、鋳塊割れや“す”が発生し易くなって鋳造歩留が低下する。したがって、鋳造において、鋳造速度は40?65mm/分、冷却速度は0.5?1.5℃/秒とする。また、この冷却速度は、鋳塊の中央部の温度、すなわち鋳造方向に垂直な面の中央部の温度についてのものであり、アルミニウム合金の液相線温度から固相線温度までの冷却における速度とする。なお、本発明に係るアルミニウム合金の液相線温度および固相線温度は、それぞれ組成によって変化し、特にMg,Cuの含有量が多いと低くなる。」

(2b) 「【0034】
〔均熱処理工程〕
鋳塊を圧延する前に、所定温度で均質化熱処理(均熱処理)することが必要である。熱処理を施すことによって、内部応力を除去し、鋳造時に偏析した溶質元素を均質化し、鋳造時に晶出した金属間化合物を拡散固溶させて、組織が均質化される。均熱処理温度が500℃未満では、本発明に係るアルミニウム合金からなる鋳塊の均質化が不十分である。一方、均熱処理温度がアルミニウム合金の固相線温度に至ると、鋳塊が溶融する。したがって、均熱処理温度は500℃以上、アルミニウム合金の固相線温度未満とすることが好ましい。また、均熱処理時間が2時間未満では、鋳塊の均質化が完了していないことがある。一方、8時間を超える均熱処理を行っても効果の向上はなく、生産性が低下する。したがって、均熱処理時間は2?8時間が好ましいが、特に限定するものではない。」

(2c) 「【0050】
【表1】



3 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第3号証には、「アルミニウムの連続鋳造」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。
(3a) 「鋳塊形状は鋳造速度に影響されることから,鋳造速度の遅い鋳込み始めの非定常部は定常部に比べ鋳塊厚みが大きい(図16)。」(515頁右欄下から4?2行)

(3b) 「

」(516頁左欄)

4 本件特許に係る出願日前に頒布された甲第4号証には、「アルミニウム合金鋳塊におけるバットカール現象のシミュレーション解析」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。
(4a) 「実機鋳塊のバットカール測定対象を表2に示す。鋳造条件として、鋳塊幅,降下速度,注湯温度がなるべく異なるものを選んだ。」(38頁左欄7?9行)

(4b) 「

」(38頁左欄)

第5 当審の判断
1 甲第1号証に記載された発明
(1) 甲第1号証の前記(1d)、(1g)の比較例5に関する記載に注目し、本件発明1、2のそれぞれの記載ぶりに即して整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

ア 「質量%で、Si:0.24%、Fe:0.31%、Cu:0.19%、Mn:0.33%、Mg:0.66%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成され、
引張強さが211MPaであり、耳率が2.0%であるアルミニウム合金板。」(以下、「甲1比較例5物発明」という。)

イ 「質量%で、Si:0.24%、Fe:0.31%、Cu:0.19%、Mn:0.33%、Mg:0.66%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金のスラブに600℃で4時間の予備均質化熱処理を施す予備均質化熱処理工程と、前記予備均質化熱処理工程を行ったスラブの表面を8mm面削する面削工程と、前記面削工程を行ったスラブに500℃で2時間の均質化熱処理を施す均質化熱処理工程と、前記均質化熱処理工程を行ったスラブに熱間圧延を施し、圧延終了温度を340℃とし熱間圧延板とする熱間圧延工程と、前記熱間圧延工程後に80%の圧下率で冷間圧延を施して冷間圧延板とする冷間圧延工程と、前記冷間圧延工程後に20℃/秒以の昇温速度で保持温度450℃で1秒間保持後に20℃/秒以上の降温速度で中間焼鈍を行う中間焼鈍工程と、前記中間焼鈍工程後に50%の圧下率で仕上げ冷間圧延を施して仕上げ冷間圧延板とする仕上げ冷間圧延工程と、前記仕上げ冷間圧延工程後に220℃で3時間の仕上げ焼鈍を行いアルミニウム合金板を製造する仕上げ焼鈍工程とを施すことにより、引張強さが211MPaであり、耳率が2.0%である合金板を得るアルミニウム合金板の製造方法。」(以下、「甲1比較例5方法発明」という。)

ウ なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の13頁の(4-3-1)において、甲第1号証の比較例5に関する記載を根拠として、甲第1号証に記載された発明は、「PPキャップ用アルミニウム合金板」(表の1コ)であると認定しているが、甲第1号証の表2(前記(1g)参照。)において、比較例5の「キャップ巻き締め成形性」は「×」であり、「キャップ開栓性」は「-」(当該「-」とは、甲第1号証の前記(1f)の記載によれば、「キャップ巻き締め成形性で「×」の評価が得られた場合は、キャップ開栓性の評価を行うことができないので、かかる評価を行わなかった」ことを意味する。)であり、「総合評価」は「×」であるから、当該比較例5に記載されているアルミニウム合金板は、PPキャップに用いるに適したものであるとはいえない。
したがって、前記ア及びイにおいて、比較例5の記載に基づいた甲1比較例5物発明及び甲1比較例5方法発明は、いずれも「PPキャップ用アルミニウム合金板」とは認定しない。

(2) また、甲第1号証の前記(1a)、(1e)の記載を、本件発明1、2のそれぞれの記載ぶりに即して整理すると、甲1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「質量%で、Si:0.1?0.3%、Fe:0.2?0.7%、Cu:0.3%以下、Mn:0.2?0.5%、Mg:0.2?0.6%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金板であって、
このアルミニウム合金板の板表面における結晶粒径が、圧延方向に平行となる圧延平行方向で50μm以下、圧延方向に垂直となる圧延垂直方向で30μm以下であり、引張強さが150MPa以上であり、耳率が0%以上+3%未満であるPPキャップ用アルミニウム合金板。」(以下、「甲1物発明」という。)

「質量%で、Si:0.1?0.3%、Fe:0.2?0.7%、Cu:0.3%以下、Mn:0.2?0.5%、Mg:0.2?0.6%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金のスラブに550?630℃で1?10時間の予備均質化熱処理を施す予備均質化熱処理工程と、前記予備均質化熱処理工程を行ったスラブの表面を面削する面削工程と、前記面削工程を行ったスラブに450?530℃で1?10時間の均質化熱処理を施す均質化熱処理工程と、前記均質化熱処理工程を行ったスラブに熱間圧延を施し、圧延終了温度を300?380℃とし熱間圧延板とする熱間圧延工程と、前記熱間圧延工程後に50?90%の圧下率で冷間圧延を施して冷間圧延板とする冷間圧延工程と、前記冷間圧延工程後に10℃/秒以上の昇温速度で保持温度400?530℃で0?10秒間保持後に10℃/秒以上の降温速度で中間焼鈍を行う中間焼鈍工程と、前記中間焼鈍工程後に10?60%の圧下率で仕上げ冷間圧延を施して仕上げ冷間圧延板とする仕上げ冷間圧延工程と、前記仕上げ冷間圧延工程後に200?260℃で1?4時間の仕上げ焼鈍を行いアルミニウム合金板を製造する仕上げ焼鈍工程とを施すことにより、引張強さが150MPa以上であり、耳率が0%以上+3%未満である合金板を得るPPキャップ用アルミニウム合金板の製造方法。」(以下、「甲1方法発明」という。)

2 甲1比較例5物発明及び甲1比較例5方法発明を主引用発明とする新規性進歩性について
(1)本件発明2について
事案に鑑み、本件発明2から検討する。
ア 本件発明2と甲1比較例5方法発明との対比・判断
(ア) 本件発明2と甲1比較例5方法発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の2点で相違する。
相違点1:「均質化処理工程」について、本件発明2は、「得られた鋳塊に540℃以上610℃以下で1時間以上48時間以内の均質化処理を施す均質化処理工程」であるのに対し、甲1比較例5方法発明は、「アルミニウム合金のスラブに550?630℃で1?10時間の予備均質化熱処理を施す予備均質化熱処理工程」及び「前記面削工程を行ったスラブに450?530℃で1?10時間の均質化熱処理を施す均質化熱処理工程」からなる点。
相違点2:本件発明2は、「最終板断面による金属間化合物の面積占有率が1.0%以上3.0%以下、かつ、円相当径3μmを超える金属間化合物の個数密度が300ヶ/mm^(2)以上1000ヶ/mm^(2)以下であ」るのに対し、甲1比較例5方法発明は、そのような事項を備えているか不明である点。

(イ) 相違点1についての判断
a 「均質化処理工程」について、本件発明2は、「得られた鋳塊に540℃以上610℃以下で1時間以上48時間以内の均質化処理を施す均質化処理工程」であるから、本件発明2における「均質化処理工程」は1段階の処理工程からなるものである。一方、甲1比較例5方法発明は、「アルミニウム合金のスラブに550?630℃で1?10時間の予備均質化熱処理を施す予備均質化熱処理工程」及び「前記面削工程を行ったスラブに450?530℃で1?10時間の均質化熱処理を施す均質化熱処理工程」からなるものであるから、甲1比較例5方法発明の「均質化処理工程」は、2段階の処理工程からなるものである。
ここで、甲第1号証の前記(1b)、(1c)の記載によれば、予備均質化熱処理工程は、熱間圧延での再結晶方位を素材全体にわたってある程度均一化するために必要な析出物を適性に成長させることで熱間圧延板の再結晶粒および耳率を安定化させるための工程であり、その後、予備均質化熱処理を行ったスラブの表面に生じた偏析を除去するために面削を行った後、表面劣化を押さえ、かつ再結晶の駆動力となる歪を効率的に導入し、アルミニウム合金組織中の再結晶方位を好適化することで、耳率の変化を低く抑えるために均質化熱処理工程を行うものであるから、甲1比較例5方法発明において、これら一連の3つの工程を1つの均質化処理工程とすることは、その技術的意義を損なうものである。
そうすると、両者の「均質化処理工程」は明らかに異なっているから、相違点1は実質的な相違点である。

b そして、前記aを踏まえれば、甲1比較例5方法発明において、「均質化処理工程」を2段階で行うことは必須の事項であり、甲1比較例5方法発明における2段階の「均質化処理工程」に代えて、1段階の処理工程である、相違点1に係る本件発明2の「均質化処理工程」を採用することには阻害要因があるということができる。このことは、特許異議申立人が提出した甲第2号証?甲第4号証に記載されている事項により左右されるものではない。
したがって、甲1比較例5方法発明において、相違点1に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(ウ) 相違点2についての判断
a 前記(イ)aで検討したように、本件発明2と甲1比較例5方法発明の「均質化処理工程」は明らかに異なっている。
ここで、甲第2号証の前記(2b)の記載にもあるとおり、均質化処理工程の具体的な条件によって、金属間化合物の拡散固溶の程度が変わる、すなわち、金属間化合物の個数や大きさは変わるといえるから、それに伴って最終板断面の面積占有率及び個数密度も変わるものと認められる。
そうすると、「均質化処理工程」の具体的な条件が異なる本件発明2と甲1比較例5方法発明とでは、最終板断面の面積占有率及び個数密度が同じになっているとはいえない。
したがって、相違点2も実質的な相違点である。

b 相違点2に係る本件発明2の発明特定事項については、甲第1号証?甲第4号証のいずれにも具体的に記載も示唆もされていないから、甲1比較例5方法発明において、相違点2に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

c 特許異議申立人は、特許異議申立書14頁の(4-3-3)及び17頁の[相違点の判断]において、本件特許明細書に示された【実施例】の実験結果に基づくと、以下の(A)?(D)の4つの場合に該当しなければ、相違点2に係る本件発明2の発明特定事項を満たすと判断できる旨主張している。
(A)Siが0.04mass%以下、又は、0.67mass%以上の場合
(B)Feが0.14mass%以下、又は、0.76mass%以上の場合
(C)Mnが0.24mass%以下、又は、0.94mass%以上の場合
(D)鋳造速度が20mm/min以下、又は、70mm/min以上の場合
しかし、前記aで検討したように、均質化処理工程の条件によって、最終板断面の面積占有率及び個数密度も変わるものと認められるから、最終板断面の面積占有率及び個数密度は、上記(A)?(D)の条件のみによって決まるものとはいえない。
したがって、上記(A)?(D)の4つの場合に該当しなければ、相違点2に係る本件発明2の発明特定事項を満たすとはいえない。
よって、特許異議申立人の上記主張はその前提において誤っており採用できない。

イ 以上のとおりであるから、甲第1号証?甲第4号証に記載されたいずれの事項を参酌しても、本件発明2は、甲1比較例5方法発明であるとはいえないし、また、甲1比較例5方法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1比較例5物発明との対比・判断
(ア) 本件発明1と甲1比較例5物発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点3:本件発明1は、「最終板断面による金属間化合物の面積占有率が1.0%以上3.0%以下、かつ、円相当径3μmを超える金属間化合物の個数密度が300ヶ/mm^(2)以上1000ヶ/mm^(2)以下であ」るのに対し、甲1比較例5物発明は、そのような事項を備えているか不明である点。

(イ) 相違点3についての判断
相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、発明のカテゴリーは異なるが、実質的に前記相違点2に係る本件発明2の発明特定事項と同様であるから、前記(1)ア(ウ)で検討したのと同様の理由により、相違点3は実質的な相違点であり、また、甲1比較例5物発明において、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

イ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1比較例5物発明であるとはいえないし、また、甲1比較例5物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

3 甲1物発明及び甲1方法発明を主引用発明とする新規性進歩性について
事案に鑑み、本件発明2から検討する。
(1) 本件発明2について
ア 本件発明2と甲1方法発明との対比・判断
(ア) 本件発明2と甲1方法発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の2点で相違する。
相違点4:「均質化処理工程」について、本件発明2は、「得られた鋳塊に540℃以上610℃以下で1時間以上48時間以内の均質化処理を施す均質化処理工程」であるのに対し、甲1方法発明は、「アルミニウム合金のスラブに550?630℃で1?10時間の予備均質化熱処理を施す予備均質化熱処理工程」及び「前記面削工程を行ったスラブに450?530℃で1?10時間の均質化熱処理を施す均質化熱処理工程」からなる点。
相違点5:本件発明2は、「最終板断面による金属間化合物の面積占有率が1.0%以上3.0%以下、かつ、円相当径3μmを超える金属間化合物の個数密度が300ヶ/mm^(2)以上1000ヶ/mm^(2)以下であ」るのに対し、甲1方法発明は、そのような事項を備えているか不明である点。

(イ) 相違点4についての判断
相違点4に係る本件発明2の発明特定事項は、前記相違点1に係る本件発明2の発明特定事項と同様であるから、前記2(1)ア(イ)で検討したのと同様の理由により、相違点4は実質的な相違点であり、また、甲1方法発明において、相違点4に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(ウ) 相違点5についての判断
相違点5に係る本件発明2の発明特定事項は、前記相違点2に係る本件発明2の発明特定事項と同様であるから、前記2(1)ア(ウ)で検討したのと同様の理由により、相違点5は実質的な相違点であり、また、甲1方法発明において、相違点5に係る本件発明2の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

イ 以上のとおりであるから、本件発明2は、甲1方法発明であるとはいえないし、また、甲1方法発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1物発明との対比・判断
(ア) 本件発明1と甲1物発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。
相違点6:本件発明1は、「最終板断面による金属間化合物の面積占有率が1.0%以上3.0%以下、かつ、円相当径3μmを超える金属間化合物の個数密度が300ヶ/mm^(2)以上1000ヶ/mm^(2)以下であ」るのに対し、甲1物発明は、そのような事項を備えているか不明である点。

(イ) 相違点6についての判断
相違点6に係る本件発明1の発明特定事項は、発明のカテゴリーは異なるが、実質的に前記相違点2に係る本件発明2の発明特定事項と同様であり、また、前記相違点5に係る本件発明2の発明特定事項とも同様であるから、前記2(1)ア(ウ)及び(1)ア(ウ)で検討したのと同様の理由により、相違点6は実質的な相違点であり、また、甲1物発明において、相違点6に係る本件発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

イ 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1物発明であるとはいえないし、また、甲1物発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-19 
出願番号 特願2013-223278(P2013-223278)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松本 陶子  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 結城 佐織
河本 充雄
登録日 2017-10-13 
登録番号 特許第6224413号(P6224413)
権利者 株式会社UACJ
発明の名称 キャップ用アルミニウム合金板及びその製造方法  
代理人 木内 光春  
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