• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  IPCコード:なし
審判 全部申し立て 2項進歩性  IPCコード:なし
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  IPCコード:なし
管理番号 1342011
異議申立番号 異議2017-701142  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-05 
確定日 2018-06-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6144330号発明「ハードコート積層フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6144330号の請求項1?10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6144330号(以下「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成27年3月18日に出願した特願2015-54439号の一部を平成27年12月25日に新たな特許出願(特願2015-252778号)としたものであって、平成29年5月19日付けでその特許権の設定登録がされ、特許異議の申立て期間内である平成29年12月5日に特許異議申立人増山美紀(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年3月7日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成30年5月9日に意見書が提出されたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?10に係る発明(以下「本件発明1?10」という。また、これらをまとめて「本件発明」ということもある。)は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
【請求項1】
表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有し、
上記第1ハードコートはフルオロポリエーテル系撥水剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からなり;
上記第2ハードコートは無機粒子を含む塗料からなり;
下記、(イ)、(ホ)及び(へ)を満たすハードコート積層フィルム。
(イ)全光線透過率が85%以上。
(ホ)上記第1ハードコート表面の水接触角が100度以上。
(へ)上記第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上。
【請求項2】
上記第2ハードコートが、
(A)多官能(メタ)アクリレート 100質量部;及び
(D)平均粒子径 1?300nmの無機微粒子 50?300質量部;
を含む塗料からなる請求項1に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項3】
上記第2ハードコートを形成する塗料が、更に(E)レベリング剤 0.01?1質量部;を含む、請求項1又は2に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項4】
更に下記(ニ)を満たす、請求項1?3の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
(ニ)最小曲げ半径が40mm以下。
【請求項5】
上記透明樹脂フィルムが、
第一ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂層(α1);
芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);
第二ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂層(α2);が、
この順に直接積層された透明多層フィルムである、
請求項1?4の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項6】
上記第1ハードコートがシランカップリング剤を含む塗料からなる請求項1?5の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項7】
上記第1ハードコートの厚みが、0.5?5μmである、請求項1?6の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項8】
上記第2ハードコートの厚みが、15?30μmである、請求項1?7の何れか1項に記載のハードコート積層フィルム。
【請求項9】
請求項1?8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムの画像表示装置部材としての使用。
【請求項10】
請求項1?8の何れか1項に記載のハードコート積層フィルムを含む画像表示装置。
第3 取消理由の概要
平成30年3月7日付け取消理由通知の概要は、以下のとおりである。
なお、上記取消理由通知において、特許異議申立てされたすべての申立理由を通知した。
[理由1]
本件発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[理由2]
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
[理由3]
本件特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由1について
本件発明1?10は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証?甲第5号証に記載された事項並びに本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる(特許異議申立書「3-4-2」(9頁17行?34頁末行)参照。)。
[刊行物]
甲第1号証:特表2007-537059号公報
甲第2号証:特開2010-131771号公報
甲第3号証:特開2000-52472号公報
甲第4号証:特開2015-33851号公報
甲第5号証:山本洋之、他3名,「高耐久フッ化炭素系化学吸着膜の離型膜としての応用に関する研究」,成形加工,第22巻,第2号,2010年
[周知の事項A]
ハードコート層等の塗膜の表面を綿で多数回擦った後でも、塗膜表面の水接触角を高いレベルで維持させることが周知であることを示す例
周知例A-1:特開2005-298572号公報
周知例A-2:特開2000-129247号公報
周知例A-3:特開平7-126606号公報
周知例A-4:上記甲第5号証
[周知の事項B]
指すべり性が、パーフルオロポリエーテル系化合物に基づく効果であることが周知であることを示す例
周知例B-1:特開2015-31910号公報
[周知の事項C]
ハードコートフイルムの耐屈曲性を評価する手法として、円筒形状の棒にハードコートフイルムを巻きつけてクラックの有無を評価する試験(マンドレル試験)が周知であることを示す例
周知例C-1:特開2014-102320号公報
周知例C-2:特表2015-525147号公報
[周知の事項D]
無機化合物を含む層と、これに隣接する層との密着性を高めるために、当該隣接する層にシランカップリング剤を添加することが周知であることを示す例
周知例D-1:特開2011-83912号公報
周知例D-2:特開2012-150154号公報
周知例D-3:特開2013-142113号公報
理由2及び3について
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許異議申立書「3-4-3」(35頁1行?39頁5行)記載のとおり、本件発明1?10について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
すなわち、本件発明1は、「第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」という機能・特性により発明が特定されているところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、本件発明1に包含されるものとして具体的な製造方法が記載されている「(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して(B)撥水剤の含有量が0.0884質量部以上、かつ、第1ハードコートの厚みが0.5μm以上である物」以外の物について、当業者は技術常識を考慮しても、どのようにして上記機能・特性を満たすものを作ることができるのかを当業者は理解することができない。
また、特許異議申立書の上記記載を踏まえれば、発明の詳細な説明の記載からは、本件発明1?10の範囲まで、技術常識に照らしても、発明の詳細な説明に示された内容を拡張ないし一般化できるとすることはできないから、本件特許の請求項1?10の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
第4 取消理由についての判断
1 本件発明について
本件特許明細書の記載によると、本件発明について、以下のことが認められる。
(1) 本件発明は、透明性、表面硬度、耐曲げ性、耐擦傷性、色調、及び表面外観に優れたハードコート積層フィルムに関するものである(【0001】)。
近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、及びエレクトロルミネセンスディスプレイなどの画像表示装置上に設置され、表示を見ながら指やペン等でタッチすることにより入力を行うことのできるタッチパネルが普及している。
従来、タッチパネルのディスプレイ面板には、耐熱性、寸法安定性、高透明性、高表面硬度、及び高剛性などの要求特性に合致することから、ガラスを基材とする物品が使用されてきたものの、耐衝撃性が低く割れ易い;加工性が低い;ハンドリングが難しい;比重が高く重い;ディスプレイの曲面化やフレキシブル化の要求に応えることが難しい;などの問題から、代替材料として、透明樹脂フィルムの表面に表面硬度と耐擦傷性に優れるハードコートを形成したハードコート積層フィルムが多数提案されているが、その耐擦傷性はまだ不十分であり、ハンカチなどで繰返し拭かれたとしても指すべり性などの表面特性を維持できるハードコート積層フィルムが求められている(【0002】?【0003】)。
本発明の課題は、透明性、表面硬度、耐曲げ性、耐擦傷性、色調、及び表面外観に優れ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、及びエレクトロルミネセンスディスプレイなどの画像表示装置の部材(タッチパネル機能を有する画像表示装置及びタッチパネル機能を有しない画像表示装置を含む。)、特にタッチパネル機能を有する画像表示装置のディスプレイ面板として好適なハードコート積層フィルムを提供することにある(【0005】)。
(2) また、本件発明1の構成に関して、本件特許明細書には以下のような記載がみられる。
ア 無機粒子は、ハードコートの硬度を高めるのに効果が大きいが、塗料の樹脂成分との相互作用は弱く、耐擦傷性を不十分なものにする原因となっていた。そこで本件発明においては、最表面を形成する第1ハードコートには無機粒子を含まないようにして耐擦傷性を保持し、一方、第2ハードコートには無機粒子を含ませて硬度を高めることにより、この問題を解決した(【0019】)。
イ 本件発明のハードコート積層フィルムを、画像表示装置の部材、特にタッチパネル機能を有する画像表示装置のディスプレイ面板として用いる場合には、透明性、色調、耐擦傷性、表面硬度、耐曲げ性、及び表面外観の観点から、上記第1ハードコート形成用塗料としては、(A)多官能(メタ)アクリレート 100質量部;(B)撥水剤 0.01?7質量部;及び(C)シランカップリング剤 0.01?10質量部;を含み、かつ無機粒子を含まない塗料が好ましい(【0034】)。上記成分(B)としては、撥水性能の観点から、フルオロポリエーテル系撥水剤が好ましい(【0040】)。
ウ 本件発明のハードコート積層フィルムは、全光線透過率が85%以上、好ましくは88%以上、より好ましくは90%以上である。全光線透過率が85%以上であることにより、本件発明のハードコート積層フィルムは、画像表示装置部材として好適に用いることができる。全光線透過率は高いほど好ましい(【0022】)。
エ 本件発明のハードコート積層フィルムは、上記第1ハードコート表面の水接触角が好ましくは100度以上、より好ましくは105度以上である。本発明のハードコート積層フィルムをタッチパネルのディスプレイ面板として用いる場合、上記第1ハードコートはタッチ面を形成することになる。上記第1ハードコート表面の水接触角が100度以上であることにより、タッチ面上において、指やペンを思い通りに滑らし、タッチパネルを操作することができるようになる。指やペンを思い通りに滑らせるという観点からは、水接触角は高い方が好ましく、水接触角の上限は特にないが、指すべり性の観点からは、通常120度程度で十分である(【0028】)。
オ 本件発明のハードコート積層フィルムは、好ましくは上記第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上である。より好ましくは往復2万5千回綿拭後の水接触角が100度以上である。往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上であることにより、ハンカチなどで繰返し拭かれたとしても指すべり性などの表面特性を維持することができる。水接触角100度以上を維持できる綿拭回数は多いほど好ましい(【0029】)。
2 理由1について
2-1 甲各号証等の記載事項
(1) 甲第1号証(特表2007-537059号公報)
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
a)(i)少なくとも1種のフルオロポリエーテル(メタ)アクリル化合物、および
(ii)少なくとも1種の非フツ素化架橋剤
の反応生成物を含む表面層を有する光透過性基材と、
b)前記基材と前記表面層との間に配置されたハードコート層と
を含む物品。
【請求項2】
前記基材は透明または艶消の高分子フイルムである、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記表面層は少なくとも90度の水との静的接触角を示す、請求項1に記載の物品。
・・・
【請求項5】
前記表面層は、耐久性試験に従うチーズクロスおよび725グラムの分銅による200回の拭取り後にインキ剥離性を示す、請求項1に記載の物品。
【請求項6】
前記表面層は、耐久性試験に従うチーズクロスおよび725グラムの分銅による200回の拭取り後にインキビート形成を示す、請求項1に記載の物品。
・・・
【請求項21】
a)(i)少なくとも1種のフルオロポリエーテル(メタ)アクリル化合物、および
(ii)少なくとも1種の非フッ素化架橋剤
の反応生成物を含む表面層を有する光透過性基材と、
b)前記基材と前記表面層との間に配置されたハードコート層と
を含む表示装置パネル。
【請求項22】
前記物品は、タッチスクリーン、液晶表示装置パネル、プラズマ表示装置パネル、テレビジョンスクリーン、コンピュータスクリーンおよび計器表示装置パネルから選択される、請求項21に記載の表示装置パネル。」
イ 「【0002】
ハードコートも光学表示装置の面を保護するために用いられてきた。これらのハードコートは、結合剤前駆体樹脂マトリックスに分散させたナノメートル寸法の無機酸化物粒子、例えばシリカを典型的に含み、時には「セラマー」と呼ばれる。」
ウ 「【0011】
これらの実施形態の各々において、表面層は、好ましくは、少なくとも90度の水との静的接触角および/または少なくとも50度のヘキサデカンとの前進接触角によって示される低表面エネルギーを示す。表面層は、好ましくは約10?200ナノメートルの範囲の厚さを有する。表面層は、好ましくは、2%未満の初期曇り度および/または少なくとも90%の初期透過率を示す。更に、表面層は、耐久性試験(the Durability Test)後に特性(すなわち、接触角、インキ剥離性、インキビート形成(ink bead up)、曇り度、透過率)の持続によって示されるように好ましくは耐久性である。」
エ 「【0022】
本明細書に記載された組成物の反応生成物は、炭化水素架橋剤によって付与される良好な耐久性と組み合わせた(パー)フルオロポリエーテル(メタ)アクリル化合物によって付与される低い表面エネルギーの相乗作用を奏する組み合わせをもたらす。下にあるハードコートも耐久性の一因となる。
【0023】
表面エネルギーは、実施例において記載された試験方法により決定される接触角およびインキ剥離性などの種々の方法によって特性決定することが可能である。本明細書に記載された表面層および物品は、好ましくは少なくとも70度の水との静的接触角を示す。より好ましくは、水との接触角は少なくとも80度であり、なおより好ましくは少なくとも90度(例えば、少なくとも95度、少なくとも100度)である。
・・・
【0025】
本明細書に記載された表面層および物品が好ましくは耐久性でもあるとは、725gの分銅および200回拭き取りでチーズクロスを用いる実施例に記載された試験方法により行われた耐久性試験後に表面が表面損傷を実質的に示さないか、または光学特性の大幅な損失を示さない(例えば、元の透過率の97%を保持する)ことを意味する。更に、表面層および物品は、好ましくは、こうした耐久性試験後でさえも前述した低表面エネルギー特性(例えば、接触角、インキ剥離性およびビート形成)を示し続ける。」
オ 「【0053】
本発明の塗料組成物は、好ましくは、ハードコート上への本発明の組成物の被覆を助ける溶媒を用いて別個の表面層として被着される。・・・
【0054】
塗料組成物は、様々な従来の塗布方法を用いてハードコートに被着させることが可能である。・・・乾燥させた塗料はエネルギー源を用いて少なくとも部分的に、典型的には完全に硬化される。
・・・
【0056】
好ましくは、塗料組成物は、少なくとも約10ナノメートル、好ましくは少なくとも約25ナノメートルの厚さを有する硬化した層を提供するのに十分な量で被着される。硬化した層は、典型的には約200ナノメートル未満、好ましくは約100ナノメートル未満、より好ましくは約75ナノメートル未満の厚さを有する。従って、耐久性の大部分は、下にあるハードコート層によって提供される。
【0057】
図1に描かれたように、本明細書で記載された組成物の反応生成物18は、物品10(例えば表示装置)の目視表面上に配置される。ハードコート層16は(例えば透明)基材13と表面層18との間に配置される。他の層も存在してよいけれども、ハードコートは表面層の下にある(すなわち、目視面を基準として)。ハードコートは、基材および下にある表示装置スクリーンを引っ掻き、磨耗および溶媒などの原因からの損傷から保護する強靭で耐磨耗性の層である。しかし、ハードコート単独では所望する低表面エネルギーを提供しない。表面層が好ましくは無機酸化物粒子を実質的に含まないけれども、ハードコートは、結合剤マトリックスに分散したナノメートルサイズのこうした無機酸化物粒子を好ましくは含む。ハードコートは、典型的にはフッ素化化合物を含まないけれども、必要に応じて任意にフッ素化化合物を含んでもよい。典型的には、ハードコートは、基材上に硬化性液体セラマー組成物を被覆し、現場(in-situ)で組成物を硬化させて硬化したフイルムを形成することにより形成される。適する塗布方法はフルオロケミカル表面層の塗布のために前述した方法を含む。
・・・
【0059】
図2は、30として一般に識別された本発明の表示装置への塗布のために適する保護物品を示している。可撓性膜33の下面は、保護ライナー32が被着されている接着剤層34で被覆されている。接着剤34の下面は、任意に、描かれているように微細表面模様付きであってもよい。微細表面模様付きは、情報表示装置プロテクタ30を表示装置スクリーンに被着させる時に情報表示装置プロテクタ30の下から気泡が逃げるのを助け、よって情報表示装置プロテクタ30とスクリーンとの間の良好な光学的結合を提供するのを助ける。膜33の上面はハードコート層36で被覆される。ハードコート36は耐引掻き性および耐摩耗性を提供して、スクリーンが損傷しないように保護するのを助ける。ハードコート36は描かれているように粗い上面37を任意に有する。粗い表面は、表示装置スクリーンのためにグレア保護を提供し、針を用いて表示スクリーン上に書き込むことをより容易にする。本発明の塗料組成物38は、ハードコート36の粗い上面37が目視面31上に複製されるように典型的には十分薄い。」
カ 「【0062】
表示装置パネルおよび保護物品などの物品の場合、基材は光透過性であり、それは表示装置を見るとができるように基材を通して光を透過することが可能であることを意味する。透明(例えば光沢)光透過性基材と艶消光透過性基材の両方が表示装置パネル中で用いられる。艶消基材は、典型的な光沢フィルムより低い透過率および高い曇り度値を典型的に有する。艶消フィルムは、光を拡散させるシリカなどのマイクロメートルサイズの分散無機充填剤の存在にゆえに典型的にこの特性を示す。」
キ 「【0070】
セラマー組成物は、約1?約100マイクロメートル、約2?約50マイクロメートルまたは約3?約30マイクロメートルの厚さを有する硬化したハードコートを提供するのに十分な塗布量で被覆される。被覆後、たとえあるにしても溶媒は熱および/または真空などにより急速に蒸発する。その後、被覆されたセラマー組成物は、熱エネルギー、可視光線、紫外線または電子ビーム線などの適するエネルギー形態を照射することにより硬化される。周囲条件での紫外線による照射は、この硬化技術の相対的な低コストおよび高速のゆえに用いられることが多い。更に、ハードコート表面は任意に粗くするか、または表面模様付けして艶消表面を提供する。これは、シリカサンドまたはガラスビーズなどの適する小粒子充填剤をハードコートに添加することにより、または米国特許第5,175,030号明細書(リュー(Lu)ら)および同第5,183,597号明細書(リュー(Lu))に記載されたように適する粗い原盤を対照にして硬化を行うことにより、ビートブラストされたか、または別段に粗された適する工具によりハードコートをエンボスすることを含む当業者が精通している多様な方法において実行することが可能である。」
ク 「【0077】
2.耐久性試験
フィルムの表面を横切って(ゴムガスケットによって)針に固定されたチーズクロスまたは鋼綿を往復できる機械的装置の使用によって、硬化したフィルムの耐摩耗性を交差ウェブ方向から被覆方向に試験した。針は3.5回拭取り/秒の速度で幅10cmの走査幅にわたって往復した。ここで、「拭取り」を10cmの片道移動として定義する。針はチーズクロスに関しては直径1.25インチ(3.2cm)の平坦な円筒形状、および鋼綿に関しては直径6mmの平坦な円筒形状を有していた。フィルムの表面に垂直な針によって加えられる力を増加させるために分銅を上に置いたプラットホームを機械的装置に取り付けた。チーズクロスは、「Mil Spec CCC-c-440プロダクト#S12905」という商品名でペンシルバニア州ハッツフィールドのEMS・アクイジション・コーポレーション(EMS Acquisition Corp.(Hatsfield,PA))のサマーズ・オプティカル,EMSパッケージング,Aサブディビジョン(Summers Optical,EMS Packaging,A subdivision)から購入した。チーズクロスを12層に折り畳んだ。・・・実施例ごとに単一サンプルを試験した。針を加えたグラムの重量および試験中に用いた拭取りの回数を第3表および第4表で報告している。
【0078】
3.ビード形成
・・・市販されているペンで表面層にインキマーキングを被着させた。基材に被着させた時にインキマークがビード形成したか(すなわち第3表および第4表により「イエス」)、ビード形成しなかったか(すなわち第3表および第4表により「ノー」)どうかを決定するために観察を行った。
【0079】
4.インキ剥離性
・・・市販されているペンで表面層にインキマーキングを被着させた。「サーパス・フェイシャル・ティシュ(SURPASS FACIAL TISUUE)」という商品名で・・・市販されているような乾燥ティシュで拭くことによりインキマークが容易に除去されたか(すなわち第3表および第4表により「イエス」)、ビード形成しなかったか(すなわち第3表および第4表により「ノー」)どうかを決定するために観察を行った。」
ケ 「【0094】
塗料溶液の調製
第1A表および第1B表で報告された材料および重量による量を用いて基材を重合性組成物で被覆した。すべての重合性成分をメチルエチルケトン中で全固形物10重量%に希釈した。メチルエチルケトン中の10%固形物光開始剤溶液を用いて、光開始剤「ダロキュア(Darocur)」1173の固形物に基づく2重量%を重合性組成物中に含めた。塗料溶液の最終濃度に混合物を希釈する前に光開始剤を添加した。メチルイソブチルケトンを用いて、固形物濃度(すなわち2重量%または2.5重量%)への希釈を達成した。実施例ごとの塗料溶液の最終固形物濃度を第1A表および第1B表に記載している。
【0095】
被覆、乾燥、硬化プロセス
ハードコート表面層を各々が有する2つの異なる基材を実施例において用いた。5.0ミルの厚さおよび下塗り表面を有する「メリネックス(Melinex)」618という商品名で・・・購入した透明ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムから第1の基材(S-1)を調製した。米国特許第6,299,799号明細書の実施例3と実質的に同じであったハードコート組成物を下塗り表面上に被覆し、50パーツパーミリオン(ppm)未満の酸素を有するUVチャンパ内で硬化させた。メリーランド州ゲーサーズバーグのフュージョンUVシステムズ(Fusion UV Systems(Gaithersburg,MD))製の全動力で動作する600ワットH型バルブがUVチャンバに装着されていた。第2の基材(S-2)は、「N4D2A」という商品名で・・・市販されている前もって被着されたハードコート表面層を有する艶消フィルムであった(S-2)。この艶消フィルムを更に修正せずに用いた。」
コ 「【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【0105】
【表6】


サ 「【図1】


シ 甲第1号証の「表面層」は架橋材を含むものであり、完全に硬化していることから(【0054】)、ハードコート層といえる。
また、甲第1号証の「表面層」は、なおより好ましくは少なくとも90度(例えば、少なくとも95度、少なくとも100度)の水との静的接触角を示すものである(【0023】)。
また、甲第1号証の「表面層」は好ましくは無機酸化物粒子を実質的に含まない層であり、「ハードコート」は、結合剤マトリックスに分散したナノメートルサイズの無機酸化物粒子を好ましくは含む層である(【0057】)。
また、甲第1号証の「物品」は、透過率が90%より大きいものである(【0104】【表5】「試験前の透過率」参照)。
また、甲第1号証の「表面層」は、耐久性試験後に低表面エネルギー特性(例えば、接触角、インキ剥離性およびビート形成)を示し続けるものであり(【0025】)、ここで耐久性試験とは、分銅によって725gの荷重をかけたチーズクロスで表面層を200回拭取る試験である(【0077】)。
ス 上記シの認定事項を踏まえ、上記記載事項ア?サを総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。
<甲1発明>
「少なくとも1種のフルオロポリエーテル(メタ)アクリル化合物、および、少なくとも1種の非フッ素化架橋剤の反応生成物を含む表面層を有する光透過性基材と、
前記基材と前記表面層との間に配置されたハードコート層とを含む物品であって、
前記基材が透明または艶消の高分子フィルムであり、
前記表面層は無機酸化物粒子を実質的に含まない層であり、ハードコート層は結合剤マトリックスに分散したナノメートルサイズの無機酸化物粒子を含む層であり、
前記物品は透過率が90%よりも大きく、
前記表面層は少なくとも100度の水との静的接触角を示し、
前記表面層は、分銅によって725gの荷重をかけたチーズクロスで200回の拭取り後に、低表面エネルギー特性(例えば、接触角、インキ剥離性およびビート形成)を示し続ける、
表示装置パネルに用いられる、物品。」
(2) 甲第2号証(特開2010-131771号公報)
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
光透過性基材フィルムの一面側に当該光透過性基材フィルム側から順に第一のハードコート層、及び第二のハードコート層を設けたハードコートフィルムであって、
前記第一のハードコート層は、粒子表面に反応性官能基aを有する平均1次粒径10?100nmの反応性シリカ微粒子及び反応性官能基bを有する第一のバインダー成分を含む第一の硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
前記第二のハードコート層は、反応性官能基cを有する第二のバインダー成分を含む第二の硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
前記反応性官能基a、b、並びにcは、それぞれ、同種及び異種の反応性官能基間での架橋反応性を有し、
前記第一及び第二のハードコート層は、それぞれ、膜厚1?20μmであり、且つ第一及び第二のハードコート層の膜厚の合計が25μm以下であり、
前記第一及び第二のハードコート層にそれぞれ、当該層に対する法線方向の荷重をかけたとき、当該荷重によるマルテンス硬度は、前記第一のハードコート層が第二のハードコート層よりも大きく、
前記法線方向の荷重を解消したときの押込深さの回復率は、前記第二のハードコート層が前記第一のハードコート層よりも大きく、且つ、
前記第一及び第二のハードコート層にそれぞれ、法線方向の荷重をかけながら、水平方向に一定速度で当該層を切削したときの水平力は、前記第二のハードコート層が前記第一のハードコート層よりも大きいことを特徴とする、ハードコートフィルム。
【請求項2】
前記第一のハードコート層において、当該第一のハードコート層に対する法線方向の荷重100?500mNをかけたとき、当該荷重によるマルテンス硬度は、290?425N/mm^(2)であり、
前記第二のハードコート層に対する法線方向の荷重100?500mNをかけたとき、当該荷重によるマルテンス硬度は、215?280N/mm^(2)であり、
前記法線方向の荷重500mNを解消したときの前記押込深さの回復率が、前記第一のハードコート層では88%以上94%未満であり、前記第二のハードコート層では95%以上であり、
前記第一のハードコート層において、法線方向に荷重100mNをかけながら、水平方向に速度20nm/secで当該層を切削したときの水平力が0.03N以上0.08N未満であり、且つ、
前記第二のハードコート層において、法線方向に荷重100mNをかけながら、水平方向に速度20nm/secで当該層を切削したときの水平力が0.08N以上であることを特徴とする、請求項1に記載のハードコートフィルム。」
イ 「【0031】
1.ハードコートフィルム
本発明に係るハードコートフィルムは、光透過性基材フィルムの一面側に当該光透過性基材フィルム側から順に第一のハードコート層、及び第二のハードコート層を設けたハードコートフィルムであって、
前記第一のハードコート層は、粒子表面に反応性官能基aを有する平均1次粒径10?100nmの反応性シリカ微粒子及び反応性官能基bを有する第一のバインダー成分を含む第一の硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
前記第二のハードコート層は、反応性官能基cを有する第二のバインダー成分を含む第二の硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、
前記反応性官能基a、b、並びにcは、それぞれ、同種及び異種の反応性官能基間での架橋反応性を有し、
前記第一及び第二のハードコート層は、それぞれ、膜厚1?20μmであり、且つ第一及び第二のハードコート層の膜厚の合計が25μm以下であり、
前記第一及び第二のハードコート層にそれぞれ、当該層に対する法線方向の荷重をかけたとき、当該荷重によるマルテンス硬度は、前記第一のハードコート層が第二のハードコート層よりも大きく、
前記法線方向の荷重を解消したときの押込深さの回復率は、前記第二のハードコート層が前記第一のハードコート層よりも大きく、且つ、
前記第一及び第二のハードコート層にそれぞれ、法線方向の荷重をかけながら、水平方向に一定速度で当該層を切削したときの水平力は、前記第二のハードコート層が前記第一のハードコート層よりも大きいことを特徴とする。
【0032】
本発明に係るハードコートフィルムは、上記法線方向の荷重に強く、下地の層として機能する第一のハードコート層、柔軟性に優れた第二のハードコート層を、光透過性基材フィルム側からこの順序で有することにより、硬度及び耐擦傷性に優れる。
・・・
【0034】
図2は、本発明に係るハードコートフィルムの層構成の一例を模式的に示した断面図である。
光透過性基材フィルム10の一面側に、光透過性基材フィルム10から順に、第一のハードコート層60及び第二のハードコート層70が設けられている。」
ウ 「【0043】
2.第一のハードコート層
本発明の第一のハードコート層は、粒子表面に反応性官能基aを有する平均1次粒径10?100nmの反応性シリカ微粒子及び反応性官能基bを有する第一のバインダー成分を含む第一の硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、膜厚1?20μmであり、当該第一のハードコート層に対する法線方向の荷重をかけたとき、当該荷重によるマルテンス硬度は、後述する第二のハードコート層よりも大きい。
【0044】
反応性シリカ微粒子は平均1次粒径10?100nmであり、且つ粒子表面の反応性官能基aにより第一のバインダー成分や第二のバインダー成分と架橋可能なため、第一のハードコート層の光透過性を維持しながら第一のハードコート層に硬度を付与する。
【0045】
光透過性基材フィルム側の第一のハードコート層は、反応性シリカ微粒子と第一のバインダー成分を含む第一の硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、膜厚1?20μmであることにより、当該第一の層の法線方向の荷重に強く、第一のハードコート層のマルテンス硬度は第二のハードコート層よりも大きく、下地の層として機能する。
第一のハードコート層のマルテンス硬度が第二のハードコート層よりも大きいことにより、衝撃や荷重が光透過性基材フィルムに伝わることを防ぎ、ハードコートフィルムの割れや傷を抑制する効果を有する。」
エ 「【0050】
(反応性シリカ微粒子)
反応性シリカ微粒子は、ハードコート層に硬度を付与するための成分である。
ハードコート層用硬化性樹脂組成物に平均1次粒径10?100nmのシリカ微粒子を含有させることにより、ハードコート層に優れた硬度を付与しやすくなる。
【0051】
反応性シリカ微粒子は平均1次粒径が10?100nmであれば、凝集粒子であっても良く、凝集粒子である場合は、2次粒径が上記範囲内で且つ当該凝集粒子表面に反応性官能基aがあれば良い。
反応性シリカ微粒子の平均1次粒径は12?50nmであることが好ましい。反応性シリカ微粒子の平均1次粒径が10nm未満ではハードコート層に十分な硬度を付与できず、また、ハードコート層に隣接するトリアセチルセルロース基材の浸透層や必要に応じてハードコート層のトリアセチルセルロース基材とは反対側に設けるその他の層とシリカ微粒子との接触面積が増えるために、基材との密着性が悪化するおそれがある。平均1次粒径が100nmを超えると、ハードコート層の光透過性が低下し、透過率の悪化、ヘイズの上昇を招く。
【0052】
また、反応性シリカ微粒子は、光透過性を損なうことなく、後述する第一のバインダー成分のみを用いた場合の復元率を維持しつつ、硬度を向上させる点から、粒径分布が狭く、単分散であることが好ましい。
【0053】
第一の硬化性樹脂組成物の全固形分に対して含まれる反応性シリカ微粒子の量は特に限定されずに、ハードコート層の要求される硬度や密着性等の性能に応じて適宜調節すればよい。中でも、第一の硬化性樹脂組成物の全固形分に対する反応性シリカ微粒子の量は30?65重量%含まれることが好ましく、40?60重量%がさらに好ましい。30重量%以上であればハードコート層の法線方向の荷重(押し込み荷重)に対する強度が十分得られる。65重量%を超えると、前記押し込み荷重には強いが、充填率が上がり過ぎ、シリカ微粒子とバインダー成分との密着性が悪化し、かえってハードコート層の硬度を低下させ、割れを生ずる恐れや第二のハードコート層との密着性も低下する恐れがある。」
オ 「【0152】
(その他の成分)
第一の硬化性樹脂組成物には、上記成分のほかに、更に重合開始剤、帯電防止剤、防眩剤等を適宜添加することもできる。更に、反応性又は非反応性レベリング剤、各種増感剤等の各種添加剤が混合されていても良く、塗工性や硬度を向上させるために溶剤が含まれていても良い。帯電防止剤及び/又は防眩剤を含む場合には、ハードコート層に、更に帯電防止性及び/又は防眩性を付与できる。」
カ 「【0162】
3.第二のハードコート層
本発明の第二のハードコート層は、第二のバインダー成分を含む第二の硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、膜厚1?20μmであり、当該第二のハードコート層に対する法線方向の荷重をかけたとき、当該荷重によるマルテンス硬度は、前記第一のハードコート層よりも小さく、前記法線方向の荷重を解消したときの押込深さの回復率は、第二のハードコート層が前記第一のハードコート層よりも大きく、且つ、
前記第一及び第二のハードコート層にそれぞれ、法線方向の荷重をかけながら水平方向に一定速度で当該層を切削したときの水平力は、第二のハードコート層が前記第一のハードコート層よりも大きいことにより、優れた柔軟性を有する層となる。
【0163】
本発明に係るハードコートフィルムは、マルテンス硬度が大きく下地の層として機能する前記第一のハードコート層、柔軟性に優れた第二のハードコート層を、光透過性基材フィルム側からこの順序で有することにより、硬度及び耐擦傷性に優れる。
【0164】
第二のハードコート層は、第二のバインダー成分を含む第二の硬化性樹脂組成物の硬化物からなり、膜厚1?20μmであることにより、衝撃に対する回復性に優れ、水平力が大きく、優れた柔軟性を有する。
第二のハードコート層の柔軟性により、当該第二のハードコート層がない場合に比べ、光透過性基材フィルム側の層に伝わる衝撃や荷重を和らげ、当該衝撃や荷重が解消した際に回復し、傷等による外観の品質劣化を低減する効果がある。」
キ 「【0168】
(第二の硬化性樹脂組成物)
第二のハードコート層用硬化性樹脂組成物は、第二のバインダー成分を必須成分として含み、その他、硬度、帯電防止性、防眩性、塗工性を考慮して適宜、第二の反応性シリカ微粒子、帯電防止剤、防眩剤、及び溶剤等の成分を含んでいても良い。
以下、各成分について説明する。
【0169】
(第二のバインダー成分)
第二のバインダー成分は、第一のバインダー成分や前記反応性シリカ微粒子と架橋反応可能な反応性官能基cを有し、上記第一の硬化性樹脂組成物で説明した第一のバインダー成分と同じものを用いることができる。第二のバインダー成分は前記第一のバインダー成分と同じであっても異なっていても良い。
・・・
【0173】
(第二の硬化性樹脂組成物のその他の成分)
第二のハードコート層用硬化性樹脂組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、硬度、重合開始剤、帯電防止性、防眩性、防汚性、塗工性等を考慮して、第二の微粒子、帯電防止剤、防眩剤、防汚剤、及び溶剤等のその他の成分が含まれていても良い。
【0174】
(第二の反応性シリカ微粒子)
第二の硬化性樹脂組成物に含まれていても良い第二の反応性シリカ微粒子は、上記第一の硬化性樹脂組成物に含まれる反応性シリカ微粒子と同様のものが挙げられる。
第二の反応性シリカ微粒子の第二の硬化性樹脂組成物に対する含有量は、第二の硬化性樹脂組成物の全固形分に対して、0重量%以上30重量%未満であることが好ましく、1重量%以上30重量%未満であることがより好ましい。30重量%未満であることにより、第二のバインダー成分の回復性を確保しやすく、第一のハードコート層との密着性も高め、第二のハードコート層の水平力を高めることもできる。」
(3) 甲第3号証(特開2000-52472号公報)
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】透明プラスチックフィルムもしくはシート基材の少なくとも一方の面に硬化樹脂被膜層を設けたハードコートフィルムもしくはシートであって、該基材上に第1ハードコート層として無機質或いは有機質の内部架橋超微粒子を含有する硬化樹脂層を設けた後、さらに第2ハードコート層として無機質或いは有機質の内部架橋超微粒子を含有しないクリア硬化樹脂の薄膜を設けてなる硬化樹脂被膜層であることを特徴とするハードコートフィルムもしくはシート。
【請求項2】前記無機質或いは有機質の内部架橋超微粒子の平均粒子径が、0.01μm以上、5.0μm以下であることを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルムもしくはシート。
【請求項3】前記第1ハードコート層の膜厚が、3.0μm以上、30μm以下で、前記第2ハードコート層の膜厚が、1.0μm以上、20μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のハードコートフィルムもしくはシート。」
イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、各種ディスプレイ、レンズ、ミラー、ゴーグル、窓ガラス等の光学部材に保護の目的で貼着されるプラスチックフィルムもしくはシートに関するものであり、特に耐引っ掻き、耐擦り傷性が付与されたプラスチックフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、液晶表示装置、CRT表示装置、その他商業用のディスプレイ、レンズ、ミラー、窓ガラス、ゴーグル等の光学部材には、耐引っ掻き性、擦り傷性を有する透明性プラスチックフィルムが貼着される場合が多い。一般的にプラスチック表面を硬質化する技術としては、オルガノシロキサン系、メラミン系等の熱硬化性樹脂をコーティングしたり真空蒸着法やスパッタリング法等で金属薄膜を形成する方法、あるいは多官能アクリレート系の活性エネルギー線硬化性樹脂をコーティングする。近年このような方法の中で、大面積の加工が容易で生産性に優れる活性エネルギー線硬化性樹脂を採用する場合が多い。しかしながら、これらのいずれの方法もハードコート/基材間の密着、フィルム折曲げ時のクラック、フィルムのカール等が実用的に問題ない範囲内で、プラスチックフィルムまたはシート基材上での鉛筆硬度値としては2Hから3Hが限界となる場合が多く、4H以上の要望があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するものであり、その課題とするところは、プラスチックフィルムまたはシートをハードコート形成用の支持体として用いた場合でもハードコート/基材間の密着、フィルム折曲げ時のクラック、フィルムのカール等を実用的に許容できる範囲内に収めることができ、且つ従来の限界を上回る4H以上の鉛筆硬度値を有するハードコートフィルムもしくはシートを提供することにある。」
ウ 「【0010】
【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明のハードコートフィルムもしくはシートは、図1に示すように、透明プラスチックフィルムもしくはシート基材(10)の少なくとも一方の面に硬化樹脂被膜層(50)を設けたハードコートフィルムもしくはシート(1)であって、該基材(10)上に第1ハードコート層(20)として無機質或いは有機質の内部架橋超微粒子(40)を含有する硬化樹脂層を設けた後、さらに第2ハードコート層(30)として無機質或いは有機質の内部架橋超微粒子(40)を含有しないクリア硬化樹脂の薄膜を設けてなる硬化樹脂被膜層(50)であり、この硬化樹脂被膜層(50)に特徴を持たせたものである。」
エ 「【0016】本発明の第1ハードコート層(20)に含有させる無機もしくは有機の内部架橋超微粒子(40)としては活性エネルギー線硬化樹脂中で良好な透明性を保持する微粒子であれば任意に使用することができる。
・・・
【0019】また必要に応じて公知の一般的な塗料添加剤を配合することができる。例えばレベリング、表面スリップ性等を付与するシリコーン系、フッソ系の添加剤は硬化膜表面の傷つき防止性に効果があることに加えて、活性エネルギー線として紫外線を利用する場合は前記添加剤の空気界面へのブリードによって、酸素による樹脂の硬化阻害を低下させることができ、低照射強度条件下に於いても有効な硬化度合を得ることができる。これらの添加量は、活性エネルギー線硬化型樹脂100重量部に対し0.01?0.5重量部が適当である。」
オ 「【0022】以上のような本発明のハードコートフィルムもしくはシートの用途として、具体的には液晶表示装置、CRT表示装置、プラズマ表示装置、エレクトロクロミック表示装置、発光ダイオード表示装置、EL表示装置等、各種表示装置の画面保護に好適である。さらに本発明のハードコートフィルムもしくはシートは、赤外吸収効果、赤外反射効果、電磁波シールド効果、帯電防止効果、紫外線吸収効果、反射防止効果、反射強調効果等の各種機能を有する無機質材を中心に構成される機能性薄膜を表面に設ける目的に使用することができる。」
(4) 甲第4号証(特開2015-33851号公報)
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】
表層側から順に、(α)機能層と(β)ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂フィルム層とを有し、
上記(α)機能層は、光拡散機能、反射防止機能、耐汚染性機能、防曇性機能、抗菌性機能、熱伝導性機能、及び帯電防止機能、からなる群から選択される1以上の機能を有し、
全光線透過率が80%以上であることを特徴とする積層体。」
イ 「【0001】
本発明は、ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂積層体に関する。更に詳しくは、機能層とポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂フィルム層との密着強度に優れ、タッチパネルのディスプレイ面板や透明導電性基板として好適に用いることのできるポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂積層体に関する。」
ウ 「【0084】
また本発明の積層体に用いるポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂フィルムは、ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂の単層フィルムに限定されない。2以上のポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂の単層フィルムの積層フィルムを用いてもよい。任意の他の樹脂フィルムとの多層積層フィルムを用いてもよい。
【0085】
上記多層積層フィルムの好ましいものとしては、例えば、第一ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂層;芳香族ポリカーボネート系樹脂層;第二ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂層;が、この順に直接積層されたポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂多層積層フィルムをあげることができる。ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂は表面硬度に優れているが、高い耐打抜加工性は有しないのに対し、芳香族ポリカーボネート系樹脂は耐打抜加工性に優れているが、高い表面硬度は有しない。そこで上記の層構成にすることにより、両者の長所を併せて、表面硬度と耐打抜加工性の何れにも優れた多層積層フィルムとなる。」
(5) 甲第5号証(周知例A-4)(山本洋之、他3名,「高耐久フッ化炭素系化学吸着膜の離型膜としての応用に関する研究」,成形加工,第22巻,第2号,2010年)
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
ア 「本研究では,・・・金型の離型膜への応用を目指し,・・・金属表面に形成した高耐久フッ化炭素系化学吸着膜の物性測定結果と,試験金型を用いて,実際に射出成形を試みた金型の離型性能の評価結果を報告する.」(104頁右欄)
イ 「2.3 金属表面の物性の測定
2.3.1 実験基材
実験に用いた基材を表1に示す.金属基材は,金型材料として一般的に広く用いられている材質のものを4種類選択した.また,ガラス基板は,比較のサンプルとして選択した.
・・・
2.3.4 耐摩耗性試験
形成された化学吸着膜の耐摩耗性の評価は,新東科学(株)製往復摩耗試験機(TYPE:18S)を用いた.
摩耗試験の条件は,荷重600g/cm^(2),往復速度7200mm/分とした.摩擦面は,ネル布を用いた.ネル布の摩耗の影響を避けるため,ネル布は,往復10,000回毎に交換した.接触角を,往復10,000回毎に測定し,100,000回まで行い,耐久性を評価した.」(105頁左欄下から4行?右欄下から5行)
ウ 「3.1.3 耐摩耗特性
耐摩耗試験の結果を図9に示す.
ガラス基材においては,初期接触角は,117°程度を示し,往復回数10,000回で100°程度まで低下した.その後,若干低下するが90,000回で100°以上の接触角を示し,100,000回で85°程度の接触角となった.金属基材においては,すべての金属基材の初期接触角は,105?110°程度であった.SKD62およびSUS420J2は,・・・100,000回で接触角が100°程度となった.・・・SKD11においては,・・・100,000回まで98°から103°の範囲で安定した.」(108頁右欄下から5行?109頁左欄下から2行)
(6) 周知例A-1(特開2005-298572号公報)
周知例A-1には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0071】
[実施例1]
コーティング液(1)100gに、硬化触媒としてアルミニウム・アセチルアセトナートを0.5g、更にエタノールを4900g加えて稀釈し、十分撹拌混合して処理液(1)を準備した。この処理液に、表面を清浄に洗滌したガラス板を浸漬し、250mm/分の速度で引き上げ、塗布した。10分間風乾した後、80℃×60分加熱硬化し、ガラス基板上に硬化被膜を形成した。
・・・
【0072】
この硬化被膜の水接触角を測定したところ、103°と良好な撥水性を示した。この被膜に、前記と同様なトルエン含浸脱脂綿拭取り処理を実施した後、水接触角を測定したところ、103°と同じ値を示した。また、往復式引掻き試験機((株)ケイエヌテー製)にネル布を装着し、荷重1.2kgf/cm^(2)下で、500往復させた後、再度水接触角を測定したところ、103°と同じ値を示した。このように、本硬化被膜は耐久性のある優れた撥水性を示すことが確認された。」
(7) 周知例A-2(特開2000-129247号公報)
周知例A-2には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0072】本発明の表面処理剤組成物を処理する基材としては、透明な材料からなる基材が好ましく、特にガラスが好ましい。」
イ 「【0105】[例1](実施例)
温度計、撹拌機が装着されたガラス製反応容器に、酢酸ブチル97.00g、合成例1で得た化合物を3.00g入れ、25℃で1昼夜撹拌し表面処理剤組成物組成物を調製した。あらかじめ研磨洗浄されたサイズ10cm×10cm(厚さ3.5mm)のソーダライムガラス表面に、調製した表面処理剤組成物を1ccを滴下し、ティッシュペーパーで自動車ワックスがけの要領で塗り広げ、大気中で乾燥してサンプル基材1を得た。サンプル基材1の評価結果を表1に示す。」
ウ 「【0118】[例13?18](実施例)
サンプル基材1?6を、それぞれサンプルを荷重1kgでネル布にて1500回往復摩耗した。摩耗試験後の撥水性、水滴転落性を評価した結果を表4に示す。」
(8) 周知例A-3(特開平7-126606号公報)
周知例A-3には、以下の事項が記載されている。
ア 「【0071】[耐摩耗性試験]ネル布を、荷重1kgで5000回往復させる摩耗試験を実施した。」
イ 「【0078】[実施例1]予め洗浄された10cm×10cm(厚さ3mm)のガラス板に、上記の方法で調整した処理剤1の溶液を2cc滴下し、ネル布にてワックス掛けの要領にて塗り広げ、サンプル試験片を作成した。この試験片を上記の方法で耐摩耗性試験に処し、試験前後の接触角および防汚性を評価した。接触角の評価結果を表2に、防汚性を評価結果を表3に示す。」
2-2 理由1についての判断
(1) 本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比
甲1発明の「表面層」、「ハードコート層」、及び、「透明または艶消の高分子フィルムで」ある「光透過性基材」は、その機能と構成からみて、本件発明1の「第1ハードコート」、「第2ハードコート」、及び、「透明樹脂フィルム」に、それぞれ相当し、よって、甲1発明の「表面層を有する光透過性基材」と、「前記基材と前記表面層との間に配置されたハードコート層とを含む物品」は、まとめて、本件発明1の「表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有」する「ハードコート積層フィルム」に相当する。
甲1発明の「表面層」が、「少なくとも1種のフルオロポリエーテル(メタ)アクリル化合物、および、少なくとも1種の非フッ素化架橋剤の反応生成物を含む」こと、「無機酸化物粒子を実質的に含まない層であ」ること、「少なくとも100度の水との静的接触角を示」すことは、本件発明1の「第1ハードコート」が、「フルオロポリエーテル系撥水剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からな」ること、「(ホ)上記第1ハードコート表面の水接触角が100度以上」であることに相当する。
甲1発明の「ハードコート層」が「結合剤マトリックスに分散したナノメートルサイズの無機酸化物粒子を含む層であ」ることは、本件発明1の「上記第2ハードコートは無機粒子を含む塗料からな」ることに相当する。
甲1発明の「物品」の「透過率が90%よりも大き」いことは、本件発明1の「ハードコート積層フィルム」の「(イ)全光線透過率が85%以上」であることに相当する。
甲1発明の「表面層」が、「分銅によって725gの荷重をかけたチーズクロスで200回の拭取り後に、低表面エネルギー特性(例えば、接触角、インキ剥離性およびビート形成)を示し続ける」ことと、本件発明1の「(へ)上記第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」であることは、甲1発明の「分銅によって725gの荷重をかけたチーズクロスで200回の拭取り」という試験及び本件発明1の「往復2万回綿拭」という試験が、ともにハードコート積層フィルム表面の耐久性・耐擦傷性を評価するものであることを踏まえると、「第1ハードコート表面が、耐久性・耐擦傷性評価の所定の試験後において、一定程度の耐久性・耐擦傷性を有する」という限りにおいて一致する。
よって、本件発明1は、甲1発明とは、
「表面側から順に第1ハードコート、第2ハードコート、及び透明樹脂フィルムの層を有し、
上記第1ハードコートはフルオロポリエーテル系撥水剤を含み、かつ無機粒子を含まない塗料からなり;
上記第2ハードコートは無機粒子を含む塗料からなり;
下記、(イ)、(ホ)及び(へ)を満たすハードコート積層フィルム。
(イ)全光線透過率が85%以上。
(ホ)上記第1ハードコート表面の水接触角が100度以上。
(へ)第1ハードコート表面が、耐久性・耐擦傷性評価の所定の試験後において、一定程度の耐久性・耐擦傷性を有する」
という点で一致し、以下の点において相違する。
[相違点]
第1ハードコート表面の、耐久性・耐擦傷性評価の所定の試験後における耐久性・耐擦傷性の程度について、本件発明1の第1ハードコート表面は、往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上であるのに対して、甲1発明の表面層は、分銅によって725gの荷重をかけたチーズクロスで200回の拭取り後に、低表面エネルギー特性(例えば、接触角、インキ剥離性およびビート形成)を示し続けるものである点。
イ 上記相違点についての検討
本件発明1は、上記「第4 1(1)及び(2)」に示したとおり、ガラス基材の代替材料として、透明樹脂フィルムの表面に表面硬度と耐擦傷性に優れるハードコートを形成したハードコート積層フィルムが多数提案されているが、その耐擦傷性はまだ不十分であるとの認識のもと、ハンカチなどで繰返し拭かれたとしても指すべり性などの表面特性を維持できるように、より耐擦傷性に優れたハードコート積層フィルムを提供することを課題とするものであって、その解決手段として、最表面を形成する第1ハードコートには無機粒子を含まないようにして耐擦傷性を保持し、一方、第2ハードコートには無機粒子を含ませて硬度を高めるようにするとともに、当該第1ハードコート表面については「往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」という物性を備えるようにしたものである。
一方、甲1発明の「分銅によって725gの荷重をかけたチーズクロスで200回の拭取り」という試験における「200回の拭取り」は、往復換算では「往復100回の拭取り」であって、本件発明1の「往復2万回綿拭」に比して、わずか200分の1の程度でしかないこと、加えて、甲第1号証の「耐久性の大部分は、下にあるハードコート層によって提供される。」(【0056】)、「ハードコートは、基材および下にある表示装置スクリーンを引っ掻き、磨耗および溶媒などの原因からの損傷から保護する強靭で耐磨耗性の層である。」(【0057】)及び「膜33の上面はハードコート層36で被覆される。ハードコート36は耐引掻き性および耐摩耗性を提供して、スクリーンが損傷しないように保護するのを助ける。」(【0059】)という記載からみて、甲1発明の耐久性・耐摩耗性は、(表面層ではなく)ハードコート層に大部分を発現させるものと認められることを勘案すると、甲1発明の表面層の耐久性・耐摩耗性は、本件発明1の「往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」という強度まで求められるものとはいえない。そして、甲1発明の耐久性・耐摩耗性は、ハードコート層に大部分を発現させるものとされているところ、当該ハードコート層についてならともかく、表面層について、その耐久性・耐摩耗性の程度を「往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」という程度まで高めようとする動機付けがあるとはいえない。
また、ハードコート層等の塗膜の表面を綿で多数回擦った後でも、塗膜表面の水接触角を高いレベルで維持させる例として示した周知例A-1?A-3についてみると、周知例A-1は、「ガラス基板上に硬化被膜を形成した」(【0071】)ものについて、往復式引掻き試験機((株)ケイエヌテー製)にネル布を装着し、荷重1.2kgf/cm^(2)下で、500往復させた試験であり(【0072】)、周知例A-2も基材はガラスであって(【0072】、【0105】)、摩耗試験はサンプルを荷重1kgでネル布にて1500回往復摩耗したものであり(【0118】)、周知例A-3も基材はガラスであって(【0078】)、摩耗試験はネル布を、荷重1kgで5000回往復させるものであり(【0071】)、いずれも本件発明1のような樹脂フィルム基材のハードコート層に対するものではなく、かつ試験の強度も往復2万回に比して相当程度負荷が低いものである。また、周知例A-4(甲第5号証)ついても、基材は、金属又はガラスであって、耐摩耗性試験は、新東科学(株)製往復摩耗試験機(TYPE:18S)を用いて、荷重600g/cm^(2)、往復速度7200mm/分、ネル布を用いて100,000回行うものであるところ、本件発明1のような樹脂フィルム基材のハードコート層に対するものではない。そうすると、周知例A-1?A-4に示された技術的事項からは、樹脂フィルム基材の第1ハードコート表面について、往復2万回綿拭後においても水接触角が100度以上であるような耐久性・耐摩耗性のものが周知の事項であったということはできない。
そして、本件発明1の樹脂フィルム基材の第1ハードコート表面について、往復2万回綿拭後においても水接触角が100度以上であるような耐久性・耐摩耗性とすることは、甲第2?4号証には記載されていないし、示唆する記載もない。同様に、指すべり性が、パーフルオロポリエーテル系化合物に基づく効果であることが周知であることを示す例として示した周知例B-1、ハードコートフイルムの耐屈曲性を評価する手法として、円筒形状の棒にハードコートフイルムを巻きつけてクラックの有無を評価する試験(マンドレル試験)が周知であることを示す例として示した周知例C-1及び周知例C-2、無機化合物を含む層と、これに隣接する層との密着性を高めるために、当該隣接する層にシランカップリング剤を添加することが周知であることを示す例として示した周知例D-1?D-3にも、上記相違点における本件発明1に係る構成の記載や示唆はない。
よって、甲1発明について、上記相違点における本件発明1に係る構成を得ることは当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明、甲第2号証?甲第5号証に記載された事項並びに本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2) 本件発明2?10について
本件発明2?10は、本件発明1の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記(1)のとおり、本件発明1は、甲1発明、甲第2号証?甲第5号証に記載された事項並びに本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2?10についても同様に、甲1発明、甲第2号証?甲第5号証に記載された事項並びに本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
2-3 理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?10は、甲1発明、甲第2号証?甲第5号証に記載された事項並びに本願出願前周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明1?10に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではないから、特許法第113条第2号に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。
3 理由2及び3について
(1) 本件発明は、上記「第4 1(1)及び(2)」に示したとおり、ガラス基材の代替材料として、透明樹脂フィルムの表面に表面硬度と耐擦傷性に優れるハードコートを形成したハードコート積層フィルムが多数提案されているが、その耐擦傷性はまだ不十分であるとの認識のもと、ハンカチなどで繰返し拭かれたとしても指すべり性などの表面特性を維持できるように、より耐擦傷性に優れたハードコート積層フィルムを提供することを課題とするものであって、その解決手段として、最表面を形成する第1ハードコートには無機粒子を含まないようにして耐擦傷性を保持し、一方、第2ハードコートには無機粒子を含ませて硬度を高めるようにするとともに、当該第1ハードコート表面については「往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」という物性を備えるようにしたものである。
そして、上記第1ハードコート表面について、「往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」という物性を特定することの技術的意義は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、「本発明のハードコート積層フィルムをタッチパネルのディスプレイ面板として用いる場合、上記第1ハードコートはタッチ面を形成することになる。上記第1ハードコート表面の水接触角が100度以上であることにより、タッチ面上において、指やペンを思い通りに滑らし、タッチパネルを操作することができるようになる。指やペンを思い通りに滑らせるという観点からは、水接触角は高い方が好ましく、水接触角の上限は特にないが、指すべり性の観点からは、通常120度程度で十分である(【0028】)。」及び「往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上であることにより、ハンカチなどで繰返し拭かれたとしても指すべり性などの表面特性を維持することができる。水接触角100度以上を維持できる綿拭回数は多いほど好ましい(【0029】)。」(上記「第4 1(2)エ、オ」参照)として示されている。
(2) ここで、取消理由として通知した理由3は、要するに、「(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して(B)撥水剤の含有量が0.0884質量部以上、かつ、第1ハードコートの厚みが0.5μm以上である物」以外の物について、当業者は技術常識を考慮しても、どのようにして「第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」という機能・特性を満たすものを作ることができるのかを当業者は理解することができない、というものである。
確かに、本件特許明細書の記載によれば、第1ハードコートの厚みと撥水剤の含有量は、「第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」に影響を及ぼすパラメータとして検討されているが(【0034】、【0038】、【0055】等)、本件発明は、その請求項に記載されるとおり、第1ハードコートの厚みと撥水剤の含有量を特定してなるものではないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、「(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して(B)撥水剤の含有量が0.0884質量部以上、かつ、第1ハードコートの厚みが0.5μm以上である物」以外の物が、「第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」という機能・特性を満たし得るかの記載がされているか否かは、本件発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるかの判断を直接に左右するものではない。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」に相当する「耐擦傷性1」の評価が「A」又は「B」(【0123】参照)である具体的な実施例が多数(【表5】?【表13】参照)示されており、本件発明の「第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」という構成に対応する実施例が具体的かつ実施可能な程度に開示されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が、本件発明について、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。
したがって、上記理由3について、理由があるということはできない。
(3) また、本件発明の「第1ハードコート表面の往復2万回綿拭後の水接触角が100度以上」という構成は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から把握される、上記(1)に示した当該構成の技術的意義を踏まえれば、「ハンカチなどで繰返し拭かれたとしても指すべり性などの表面特性を維持できるように、より耐擦傷性に優れたハードコート積層フィルムを提供する」という本件発明の課題を解決できることを当業者において認識できる範囲のものであることは明らかというべきである。
そうすると、取消理由として通知した理由2について、理由があるということはできない。
(4) よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。また、本件特許の請求項1?10の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
したがって、本件発明1?10に係る特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由に取り消されるべきものとすることはできない。
第5 むすび
以上のとおり、上記取消理由によっては、本件発明1?10に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-21 
出願番号 特願2015-252778(P2015-252778)
審決分類 P 1 651・ 536- Y ()
P 1 651・ 537- Y ()
P 1 651・ 121- Y ()
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 竹下 晋司
千壽 哲郎
登録日 2017-05-19 
登録番号 特許第6144330号(P6144330)
権利者 リケンテクノス株式会社
発明の名称 ハードコート積層フィルム  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
代理人 瀬田 寧  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ