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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B60G
審判 全部申し立て 2項進歩性  B60G
管理番号 1342012
異議申立番号 異議2018-700239  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-23 
確定日 2018-07-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6201716号発明「自動車用足回り部品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6201716号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6201716号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成25年12月16日の出願であって、平成29年9月8日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年3月23日に特許異議申立人 平尾 公人より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明及び本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載
1 本件発明
特許第6201716号の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
アルミニウム合金製の鍛造部品であって、
外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上であること、
を特徴とする自動車用足回り部品。
【請求項2】
前記鍛造部品が熱処理型のアルミニウム合金製であること、
を特徴とする請求項1に記載の自動車用足回り部品。
【請求項3】
アルミニウム合金を鋳造する第一工程と、
前記第一工程で得られるアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加えて、結晶方位を制御し、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上とする第二工程と、
前記第二工程で得られる結晶方位制御アルミニウム合金に鍛造を施し、前記応力発生部位の前記シュミット因子の逆数の平均が2.3以上である鍛造部品を得る第三工程と、を有すること、
を特徴とする自動車用足回り部品の製造方法。
【請求項4】
前記第二工程と前記第三工程とを略同時に行う工程を有すること、
を特徴とする請求項3に記載の自動車用足回り部品の製造方法。
【請求項5】
前記第二工程は、前記アルミニウム合金鋳塊の端部を、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向に伸長させるように塑性変形する工程であること、
を特徴とする請求項3又は4に記載の自動車用足回り部品の製造方法。
【請求項6】
前記第一工程の前記鋳造に半連続鋳造法を用い、
前記半連続鋳造法により鋳造した鋳造棒を、鋳造進行方向と略垂直方向に切断し、
前記切断によって得られるスライス材の断面形状を、前記鍛造部品を鍛造時の鍛造プレス作動方向へ投影した形状に近似するように設計し、
前記スライス材を前記アルミニウム合金鋳塊とすること、
を特徴とする請求項3?5のいずれかに記載の自動車用足回り部品の製造方法。
【請求項7】
更に、前記第三工程で得られた前記鍛造部品に溶体化処理及び時効処理を施す第四工程を有すること、
を特徴とする請求項3?6のいずれかに記載の自動車用足回り部品の製造方法。」

2 本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)及び図面には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。また、以下「a」?「d」の記載事項は、それぞれ「記載事項a」?「記載事項d」という。以下同様。)。

a「【0007】
【特許文献1】特許第4224676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年では車体軽量化への要求が更に高くなっており、より薄く高強度なアルミニウム製の鍛造部品が求められているところ、上記特許文献1のアルミニウム合金の鍛造方法では、未だに十分な部品強度が得られていない。
【0009】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品及びその効果的な製造方法を提供することにある。」

b「【0012】
ここで、シュミット因子とは、金属材に対する巨視的垂直応力と分解せん断応力の間の係数であり、単結晶金属では、シュミット因子の大きな結晶ほど小さな外力で塑性変形が開始することになる。試料の断面積をA、引張力の大きさをFとすると、引張応力σはσ=F/Aとなる。また、引張力の方向とすべり面法線nのなす角をθ、引張方向とすべり方向dのなす角をφとすると、引張力のすべり方向への分力はFcosφであり、すべり面の面積はAs=A/cosθであるから、外力のこのすべり系への分解せん断応力τは、τ=Fcosφ/As=(F/A)・cosθcosφ=σcosθcosφとなる。ここで、cosθcosφがシュミット因子である。
【0013】
アルミニウムなどの面心立方格子の金属は、一般に12個のすべり系が活動する。結晶の方位と応力方向が決まれば、個々のすべり系はそれぞれ特有のシュミット因子を持ち、シュミット因子の大きなすべり系ほど活動に必要な応力は小さく、より活動しやすいすべり系であると言える。任意の結晶におけるシュミット因子とは、12個のすべり系の中で最も値が大きく、最も活動しやすいすべり系(主すべり系)のシュミット因子を指す。
【0014】
各結晶に加わる応力は巨視応力と等しく、導入されるひずみは結晶粒毎に異なり、活動するすべり系は主すべり系の1つである、と仮定するSachs理論においては、耐力はσ_(0)+τ_(CRSS)・mとなる。ここで、σ_(0)はアルミニウム合金の固有の強度に粒度の効果を加味した耐力、τ_(CRSS)は臨界分解せん断応力、mはシュミット因子の逆数(m値)である。
【0015】
つまり、シュミット因子の逆数(m値)が大きな部材では、当該シュミット因子の逆数(m値)を測定した方向に関して、高い強度を示すことができる。上述のとおり、本発明の自動車用足回り部品は、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数(m値)の平均が2.3以上であること、を特徴とするものであり、最大応力発生部位の負荷応力方向の強度が効果的に改善されている。」

c「【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の自動車用足回り部品及びその製造方法についての代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0027】
1.自動車用足回り部品
車体軽量化の観点からの自動車用部品のアルミニウム合金化は種々検討されており、例えば、自動車用のサスペンション部品であるアッパアーム、ロアアーム、及びトランスバースリンク等についても、アルミニウム合金の熱間型鍛造品が用いられるようになっている。これらの部品は昨今の自動車の車室寸法拡大、走行性能向上、コストダウンのための部品の一体化により形状が複雑化しているため、特定の部位に応力が集中しやすい。その他の自動車用部品としては、例えば、ナックル、トレーリングアーム等を挙げることができる。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車用足回り部品の一例を示す概略斜視図である。自動車用足回り部品1は鍛造サスペンション部品であり、反りが大きく三次元的に複雑な形状を有している。自動車用足回り部品1はアルミニウム合金製であり、熱処理型のアルミニウム合金製であることが好ましい。熱処理型のアルミニウム合金とは、熱処理によって所定の強度を得るアルミニウム合金であり、2000系合金(Al-Cu-Mg系合金)、6000系合金(Al-Mg-Si系合金)、7000系合金(Al-Zn-Mg系合金)、AC1B合金(Al-Cu-Mg系合金)、AC2A合金(Al-Cu-Si系合金)、AC2B合金(Al-Cu-Si系合金)、AC5A合金(Al-Cu-Ni-Mg系合金)、AC4A合金(Al-Si-Mg系合金)、AC4C合金(Al-Si-Mg系合金)、AC4CH合金(Al-Si-Mg系合金)、AC4B合金(Al-Si-Cu系合金)、AC4D合金(Al-Si-Cu-Mg系合金)、AC8A合金(Al-Si-Ni-Cu-Mg系合金)、AC8B合金(Al-Si-Ni-Cu-Mg系合金)、AC8C合金(Al-Si-Ni-Cu-Mg系合金)、AC9A合金(Al-Si-Cu-Mg?Ni系合金)、AC9A合金(Al-Si-Cu-Mg?Ni系合金)等を例示することができる。
【0029】
自動車用足回り部品1には上記熱処理型のアルミニウム合金を用いることができるが、自動車用足回り部品1の強度及び信頼性を担保する観点から、展伸材を用いることが好ましく、6000系合金を用いることがより好ましい。
【0030】
自動車用足回り部品1は、使用中に最大の応力が発生する最大応力発生部位をアーム部2に有しており、当該最大応力発生部位は使用態様に即して十分な強度を有している必要がある。ここで、最大応力発生部位は、外力が印加された場合の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上となるように設計されている。
【0031】
自動車用足回り部品1は、概ね図1に示すような略三角形の全体形状からなり、各三角形の頂点部分に、アーム部2で繋がれたボールジョイント取付部4及びブッシュボス6を有している。アーム部2は、その幅方向の各周縁部(両側端部)に、アーム部2の長手方向に延在するリブを有しており、その幅方向の中央部に、アーム部2の長手方向に延在するウェブを有しているのが一般的である。自動車用足回り部品1の使用時は、ブッシュボス6にブッシュを圧入し、ボールジョイント取付部4にボールジョイントを組付ける。
【0032】
上記の自動車用足回り部品1の全体構造や形状を前提として、通常の自動車用足回り部品1では、使用中に最大応力が発生する(最大応力が負荷される)特定部位は、アーム部2のボールジョイント取付部4側となる。また、自動車用足回り部品1の構造設計条件等で多少の差異は生じるものの、アーム部2への負荷応力方向は、アーム部2の略長手方向となる。
【0033】
図2に、自動車用足回り部品1の使用時の負荷状態の一例を示す概略図を示す。ブッシュを固定として、ボールジョイント取付部4に荷重方向‐1及び荷重方向‐2に示す方向に荷重が加わる場合、自動車用足回り部品1の最大応力発生部位はa及びbの領域となる。
【0034】
ここで、アーム部2の最大応力発生部位の強度が十分でない場合、自動車用足回り部品1の全体としての強度を高く維持しながら軽量化を図るのが困難となる。これに対し、本発明の自動車用足回り部品1では、外力が印加された場合の負荷応力方向(アーム部2の略長手方向)において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上となっており、集合組織の最適化によって強度を向上させている。
【0035】
集合組織により強度が異なることについては広く知られているが、本発明の自動車用足回り部品1においては、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化している。その結果、応力方向に対する強度を高くすることができる。
【0036】
以下に、外力が印加された場合の負荷応力方向(アーム部2の略長手方向)において、結晶方位からシュミット因子の逆数(m値)を得る方法について説明する。
【0037】
先ず、最大応力発生部位における引張試験片の採取位置の集合組織を、走査型電子顕微鏡に付属している後方散乱電子回折測定装置(SEM-EBSD)により測定する。具体的には、観察面が応力方向に垂直になるように試験片を採取し、観察面に対して機械研磨、バフ研磨を行った後、電解研磨により加工層を除去する。当該観察面に対してSEM-EBSD測定を行うことで方位情報を取得する。
【0038】
得られた方位情報から、EBSD解析ソフトを使用してシュミット因子の逆数(m値)を求めるが、その解析ソフトとしては、例えばTSL社製の「OIM Analysis」を用いれば良い。具体的には、活動するすべり系を{111}<110>と仮定し、観察面に垂直な方向に引張変形を与える条件のもとで、測定視野中の各測定点(約10万点)のそれぞれのシュミット因子を算出する。算出されたシュミット因子から、逆数を算出し、全測定点の平均を取ることで、測定視野におけるシュミット因子の逆数(m値)を算出することができる。
【0039】
2.自動車用足回り部品の製造方法
本発明の自動車用足回り部品の製造方法は、上記本発明の自動車用足回り部品の効果的な製造方法を提供するものである。図3は、本発明の自動車用足回り部品の製造方法の工程図である。本発明の自動車用足回り部品の製造方法は、アルミニウム合金を鋳造する第一工程(S01)と、前記第一工程(S01)で得られるアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加えて、結晶方位を制御する第二工程(S02)と、前記第二工程(S02)で得られる結晶方位制御アルミニウム合金に鍛造を施す第三工程(S03)と、を有している。また、更に、前記第三工程(S03)で得られた鍛造部品に溶体化処理を施す第四工程(S04)を有すること、が好ましい。なお、第二工程(S02)と第三工程(S03)は、一つの工程としてまとめて実施してもよい。
【0040】
(1)アルミニウム合金の鋳造(第一工程)
アルミニウム合金を鋳造する第一工程(S01)には、半連続鋳造法を用いることが好ましい。図4に、異形連鋳棒及びそれをスライスしたスライス材の一例を示す概略斜視図を示す。第一工程(S01)では、鍛造最終製品の製品投影形状に近似したスライス断面形状を有する異形連鋳棒8を製造する。なお、上述のとおり、アルミニウム合金には熱処理型のアルミニウム合金を用いることが好ましく、特に、6000系アルミニウム合金を用いることがより好ましい。
【0041】
異形連鋳棒8の断面形状としては、最終製品の投影形状よりも大きな形状とすることも可能であるが、鍛造の際の素材となるスライス材10の断面形状が最終製品の投影形状よりも大きいと、歩留まりを良くするために異形連鋳棒8をスライスする際の切断板厚を薄くする必要がある。しかし、肉厚をあまり薄くすると製品の厚肉部が欠けてしまういわゆる欠肉が生じやすくなるので、スライス材10の板厚を極端に薄くすることはできない。すなわち、スライス材10の板厚下限は、最終製品の最大厚肉部に欠肉が発生しないことが基準となる。
【0042】
なお、製品形状に仕上げる鍛造は、粗鍛造でほとんど製品形状に近い形状に鍛造し、その後の仕上鍛造で形状を整えるのが一般的である。
【0043】
(2)塑性変形による結晶方位制御(第二工程)
第一工程(S01)で得られるアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加え、アルミニウム合金鋳塊の結晶方位を制御する第二工程(S02)では、異形連鋳棒8を切断して得られるスライス材10の端部を、略一方向(外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向)に伸長させるように塑性変形を加える工程であること、が好ましい。
【0044】
スライス材10の端部を伸長させた領域は、最終的に自動車用足回り部品1のアーム部2となる領域に相当する。当該領域において、外力が印加された場合の負荷応力方向(アーム部2の略長手方向)における結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数(m値)の平均が2.3以上となるように鍛造する(特定の方向にメタルフローを形成させる)ことで、軽量かつ高強度な自動車用足回り部品1を得ることができる。なお、伸長の方向はアーム部2の略長手方向とすることが好ましい。
【0045】
第二工程(S02)には上記形状を有するスライス材10を用いることができるが、鍛造によってスライス材10の端部が伸長するため、予め端部を短く設計したスライス材を用いることが好ましい。図5に、(a)鍛造による端部の伸長を考慮しないスライス材、及び(b)鍛造による端部の伸長を考慮したスライス材の外観写真を示す。(b)においては、第二工程(S02)によって矢印方向に端部が伸長することによって、適当な形状及び大きさのスライス材10が得られることになる。
【0046】
第二工程(S02)における鍛造の圧下率は、10?70%が好ましく、30?50%がより好ましい。圧下率が大き過ぎると再結晶によって強度低下が生じ、小さ過ぎるとシュミット因子の逆数(m値)の平均を2.3以上とすることができないからである。
【0047】
なお、第二工程(S02)を施す回数は1回とは限らず、複数回施してもよい。
【0048】
(3)鍛造(第三工程)
第二工程(S02)で得られる結晶方位制御アルミニウム合金に鍛造を施し、自動車用足回り部品1の最終形状とする工程である。なお、鍛造方法は特に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の鍛造方法を用いることができる。
【0049】
なお、第三工程(S03)を施す回数は1回とは限らず、複数回施してもよい。
【0050】
(4)溶体化処理及び時効処理(第四工程)
アルミニウム合金として熱処理型のアルミニウム合金を用いた場合には、上記第三工程(S03)の鍛造によって最終形状とした鍛造部品に溶体化処理及び時効処理を施すことが好ましい。溶体化処理後、適当な時効処理を施すことによって、鍛造部品全体の強度を向上させることができる。
【0051】
溶体化処理及び時効処理の条件は特に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で従来公知の種々の溶体化処理及び時効処理を用いることができる。なお、これらの最適条件はアルミニウム合金の種類や鍛造部品の形状及び大きさ等に依存するため、溶体化処理及び時効処理後の鍛造部品について組織観察や機械的特性の評価を行い、適宜好適な条件を選定することが好ましい。」

d「【0052】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0053】
≪実施例≫
表1に記載の組成を有する熱処理型のアルミニウム合金を、図3に示した形状に半連続鋳造した。得られた鋳塊を均質化処理した後、それぞれ30mmの厚さに切断した(第一工程)。
【0054】
得られたアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加えて結晶方位を制御する第二工程の後、熱間鍛造(第三工程)[粗鍛造→仕上鍛造]を行い、図1に示す形状の鍛造品を得た。第二工程の塑性変形には熱間鍛造を用い、当該熱間鍛造の条件は、素材温度500℃及び圧下率40%とした。なお、得られた鍛造品にはT6調質処理を施した(第四工程)。
【0055】
得られた鍛造品の最大応力発生部位(図2に示すa及びb)から試験片を採取し、シュミット因子の逆数(m値)を上述のSEM-EBSD法にて算出した。なお、測定は日本電子製の走査型電子顕微鏡(SEM)と、TSL製の後方散乱電子回折測定装置(EBSD)の複合システムを用いて行った。測定条件は、視野面積800μm×800μm、結晶方位測定点間の距離(ステップサイズ)3μmである。測定後に、TSL社製OIMシステムを用いて結晶方位解析を実施した。得られたシュミット因子の逆数(m値)を表2に示す。
【0056】
また、鍛造品の最大応力発生部位(図2に示すa及びb)から取得した試験片に関して引張試験を行い、0.2%耐力、引張強度、及び伸びを測定した。引張試験片はJIS Z 2241に記載の14号A試験片を用いた。引張速度はJIS Z 2241に準拠し、0.2%耐力までを2mm/min、0.2%耐力以降を5mm/minとした。なお、N数は3本とし、平均値を計算した。得られた値を表2にそれぞれ示す。
【0057】
≪比較例≫
アルミニウム合金鋳塊の結晶方位を制御する第二工程を施さない以外は実施例と同様にして鍛造品を得た。また、実施例と同様にしてm値、0.2%耐力、引張強度、及び伸びを測定した。得られた値を表2にそれぞれ示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
実施例の鍛造品においては、全ての試験片でシュミット因子の逆数(m値)が2.3以上となっているが、比較例の鍛造品では全ての試験片でシュミット因子の逆数(m値)が2.3未満となっている。これに対応して、実施例の鍛造品の0.2%耐力は比較例の鍛造品と比較して明瞭に向上していることが確認できる。」

e 本件特許の願書には以下の図面が添付されている。


第3 特許異議申立ての理由の概要
1 特許異議申立人の主張の概要
(1)申立理由1
本件発明1?7は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

(2)申立理由2
本件発明1?7は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである。

(3)申立理由3
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

(4)申立理由4
本件特許は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

(5)申立理由5
本件特許は、発明の詳細な説明の範囲の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

上記(1)?(2)によれば、本件発明1?7は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。
また、上記(3)?(5)によれば、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

2 特許異議申立人が提出した証拠方法
(1)甲第1号証
特開2007-177308号公報

(2)甲第2号証
特開2013-209715号公報

(3)甲第3号証
平成29年5月17日付け実験成績証明書(本件の、平成29年6月16日の面接記録に、面接資料として添付されたもの)

(4)甲第4号証
「新版/アルミニウム技術便覧」
社団法人 軽金属協会 アルミニウム技術便覧 編集委員会、1996年11月18日発行、カロス出版株式会社
第6ページ

(5)甲第5号証
「JISハンドブック 非鉄」
財団法人日本規格協会、1996年4月20日発行、財団法人日本規格協会
第456ページ、第459ページ

第4 各甲号証の記載事項
1 甲第1号証
本件特許の出願日前に頒布された甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】
Clイオンを含有する溶液中で、純アルミニウムよりも電位的に貴な金属を含有し、かつ電位が純アルミニウムよりも貴である6000系アルミニウム合金押出材であって、該押出材の断面の肉厚中心部は平均結晶粒径10μm以下の亜結晶粒組織をそなえていることを特徴とする耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金押出材。
【請求項2】
Si:0.7?1.4%(質量%、以下同じ)、Mg:0.55?0.95%、Cu:0.43%を超え1.0%以下を含有し、Mn:0.15?0.43%、Cr:0.05?0.23%、およびZr:0.05?0.24%のうちの1種以上を含有し、残部がAlおよび不純物からなり、かつ[Si%]×1.73-[Mg%]>[Cu%]×1.03を満足する組成を有し、断面の肉厚中心部は平均結晶粒径10μm以下の亜結晶粒組織をそなえ、該亜結晶粒組織が前記断面に占める割合が70%以上であることを特徴とする請求項1記載の耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金押出材。
・・・
【請求項4】
請求項2または3記載の組成を有するアルミニウム合金を熱間押出加工した後、510?570℃で溶体化処理し、150?200℃で時効処理することを特徴とする耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金押出材の製造方法。
【請求項5】
前記熱間押出加工を、480?550℃の温度、減面率30%以上で行うことを特徴とする請求項4記載の耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金押出材の製造方法。
【請求項6】
請求項2または3記載のアルミニウム合金押出材を熱間鍛造したアルミニウム合金鍛造材であって、該鍛造材の断面の肉厚中心部は平均結晶粒径10μm以下の亜結晶粒組織をそなえ、該亜結晶粒組織が前記断面に占める割合が70%以上であることを特徴とする耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金鍛造材。」

(1b)「【0009】
一般的には、耐食性を向上させるためには、材料全体の電位を貴とするとともに、材料内部において電位差を生じさせないこと、すなわち局部電池を生成させないことが必要である。局部電池は、合金元素が結晶粒界に偏析し、粒界近傍に無析出領域が形成されることにより生成される。Al-Mg-Si系合金の場合、強度を高めるためにはMg_(2)SiとCuの含有量を多くすることが必要であるが、組織制御することなく、単にMg_(2)SiとCuの含有量を多くすると局部電池の形成を抑制することができないから、Al-Mg-Si系合金における高強度化と耐食性の維持の両立は困難な課題とされている。
【0010】
発明者らは、先に提案された上記Al-Mg-Si系合金の押出・鍛造材における合金成分と強度、耐食性の関係について詳細に検討を重ねた結果、Mg量、Si量およびCu量を特定の関係に調整し、断面組織を制御することにより、Cu量を多くしても耐食性を維持することができることを見出した。
【0011】
本発明は、上記の知見に基づいてさらに試験、検討を行った結果としてなされたものであり、その目的は、従来のAl-Mg-Si系合金よりさらに改良された強度と靭性、すなわち耐力で400MPa以上の高強度とシャルピー衝撃値25J/cm^(2)以上の高靭性を得ることができる車両機器部材用として好適な耐食性に優れた高強度、高靭性のAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材および鍛造材、該押出材および鍛造材の製造方法を提供することにある。当該アルミニウム合金材は、強度的に足回り部品としても十分に使用することが可能であり、耐食性の点では過酷な使用環境下においても十分に使用することができる。」

(1c)「【0020】
Al-Mg-Si系合金の押出材および鍛造材における合金成分と強度、耐食性の関係について詳細な検討を行った結果、Mg量、Si量およびCu量を特定の関係に調整し、断面組織を制御することにより、Cu量を多くしても耐食性を維持することができること、ならびに材料の電位を純アルミニウムよりも貴とすることができることを見出した。詳細には、平均結晶粒径10μm以下の亜結晶粒組織を形成させることにより、合金元素の結晶粒界への偏析が抑制され、粒界近傍における無析出領域の形成が抑制されて耐食性の向上が図られる。
【0021】
本発明における合金成分の意義および限定理由について説明すると、SiはMgと共存してマトリックス中にMg_(2)Si粒子を析出させ強度を向上させる。好ましい含有量は0.7?1.4%の範囲であり、0.7%未満では十分な強度が得られず、1.4%を超えて含有すると、加工性が低下しかつ伸びが低下する。Siのより好ましい含有範囲は0.8?1.2%である。
【0022】
MgはSiと共存してマトリックス中にMg_(2)Si粒子を析出させ、合金の強度を向上させるよう機能する。好ましい含有量は0.55?0.95%の範囲であり、0.55%未満では十分な強度が得られず、0.95%をを超えて含有すると、加工性、焼入れ性を悪くする。Mgのより好ましい含有範囲は0.6?0.9%である。
【0023】
Cuはマトリックス中に固溶して強度を向上させるよう機能する。好ましい含有量は0.43%を超え1.0%以下の範囲であり、0.43%以下ではその効果が十分でなく1.0%を超えると耐食性が低下する。Cuのより好ましい含有範囲は0.48?1.0%である。
【0024】
本発明において、0.43%を超える量のCuを含有させ、耐食性を維持しながら強度を向上させるためには、Si量、Mg量、Cu量を以下の関係式を満足するよう制御することが必要である。
[Si重量%]×1.73-[Mg重量%]>[Cu重量%]×1.03
左辺は過剰Si量を規定する式であり、本発明の範囲内の種々の組成のアルミニウム合金押出材を用いて耐食性試験を行った結果、この式の値をCu量の1.03倍以上とすることにより耐食性の確保が可能であることを見出した。最大量のSiを含有させた場合においても、Cu量が1.0%を超えると耐食性低下を抑制することはできない。Cuは、Clイオンを含有する溶液中において、純アルミニウムより電位的に貴な元素であり、上記のようにCu量、Si量、Mg量の関係を調整し、かつ平均結晶粒径が10μm以下の亜結晶粒組織に制御することにより電位を純アルミニウムより貴とし、さらに材料内部における局部電池の生成を防止してClイオンを含有する溶液中での耐食性を向上させることができる。
【0025】
Mn、Cr、Zrは、合金マトリックス中に平均結晶粒径10μm以下の亜結晶粒組織を得るために効果的に作用する。Mn、Cr、Zrは、それぞれAl-Mn-(Si)系、Al-Cr系、Al-Zr系の微細な化合物をマトリックス中に析出させ、亜結晶粒を形成・維持する役割を果たし、これら3元素を複合的に添加することによりその効果が向上する。好ましい含有量は、Mn:0.15?0.43%、Cr:0.05?0.23%、Zr:0.05?0.24%の範囲であり、Mn、CrおよびZrの全ての含有量が下限未満では亜結晶粒の形成・維持の効果が十分でなく粗大な再結晶組織となり、Mn、CrおよびZrのうちの少なくとも1種の含有量が上限を超えると巨大な金属間化合物が形成され、靭性、延性を低下させる。より好ましい含有範囲は、Mn:0.17?0.43%、Cr:0.07?0.23%、Zr:0.10?0.24%、さらに好ましい成分範囲は、Mn:0.20?0.40%、Cr:0.10?0.20%、Zr:0.12?0.22%である。
【0026】
本発明のアルミニウム合金押出材においては、押出材断面の肉厚中心部が平均結晶粒径10μm以下で、該亜結晶粒組織の断面に占める割合が70%以上であることが重要である。平均結晶粒10μm以下の亜結晶粒組織は強度向上に寄与し、また耐食性の低下を抑制する。亜結晶粒組織の断面に占める割合を70%以上とすることにより、材料全体の強度を考えた場合、押出材の表層部に形成される再結晶組織に起因する強度低下は問題とならず十分な強度を維持することができる。また、押出材の表層部に形成される再結晶組織部において耐食性が低下し、粒界腐食が発生する場合があるが、上記亜結晶粒組織の存在により、材料全体の靭性低下には影響しない。
【0027】
上記の亜結晶粒組織を得るためには、熱間押出に先立ち、アルミニウム合金鋳塊を400?480℃の低温で均質化処理し、480?550℃の温度で減面率30%以上の熱間押出を行うことが望ましい。均質化処理温度が400℃よりも低い場合には、亜結晶粒組織の生成を促すMn、Cr、Zrの晶出物の分解が不十分となる。その結果、マトリックス中への微細化合物としての分散もまた不十分となり、十分な亜結晶粒組織の生成が達成されない。均質化処理温度が480℃を超えると、熱間押出加工時に安定した亜結晶粒組織の形成が難しくなり、また押出温度が480℃未満の場合は、導入される加工歪み量が高いため、その後の溶体化処理や鍛造前の加熱時に表層に再結晶層が生成され、亜結晶比率70%以上を確保することができなくなることがある。また、減面率によっては熱間押出自体が不可能となることが有り得る。押出温度が550℃を超えると、表層における亜結晶粒組織の形成・維持が困難となり易く、亜結晶粒組織が断面に占める割合を70%以上に確保することが困難となる。また、複合的に添加元素を含有することにより、本来のAl-Mg-Si系合金よりも融点の低い共晶合金が生成されるため、この共晶合金の融解による割れの誘発が懸念される。この押出工程により、鋳塊を熱間鍛造することにより得られる亜結晶組織よりさらに集束度の高い亜結晶組織が得られ、その結果、高強度、高靭性が達成できる。熱間押出の減面率が30%未満では亜結晶粒の集束度が低くなったり、条件によっては亜結晶粒組織を得ることが難しくなったりする。押出形状は、中実材、中空材のいずれでもよく、いずれの形状に押出加工しても上記の組織性状が得られる。
【0028】
熱間押出加工後に熱間鍛造を行った場合にも、鍛造後、上記の亜結晶粒組織が得られ、高強度、高靭性が達成できる。この場合、熱間鍛造温度は、480?550℃の温度域で行うことが望ましい。480℃より低い場合には、鍛造時に塑性歪みが導入され易くなり、その結果、溶体化処理後の断面組織における亜結晶粒面積率が70%未満となり、かつ亜結晶粒の結晶粒径が10μmを超えることが懸念される。550℃を超える場合は、熱間加工時の加工発熱を考慮すると、添加元素により生成した共晶合金の融解による割れの誘発が懸念される。
【0029】
本発明においては、熱間押出後、または熱間鍛造後、510?570℃で溶体化処理し、150?200℃で時効処理することにより所定の強度、靭性を得ることができる。これらの処理によって、強度に寄与する合金元素が十分に溶入し、溶入した合金元素がマトリックス中に微細に析出して強度、靭性を高める。溶体化処理温度が510℃未満の場合は、溶入化が不十分となり、十分な強度が得られない。溶体化処理温度が570℃を超えると、溶体化処理後の断面組織における亜結晶粒面積率が70%を下回るだけでなく、添加元素により生成した共晶合金の融解による割れの誘発が懸念される。時効処理温度が150℃より低い場合には、析出が不十分となり、十分な強度が得られない。一方、時効処理温度が200℃よりも高い場合には、析出物が粗大となり、その結果十分な強度が得られない。」

(1d)「【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。なお、これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
実施例1
表1に示す組成のアルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造法により、直径90mmの押出用ビレットに造塊した。得られたビレットを450℃で均質化処理後、押出温度520℃、減面率95%で直径20mmの丸棒に熱間押出加工した。その後、表2に示す条件で溶体化処理および時効処理を施した。
【0032】
得られた材料を試験材として、以下の方法で、肉厚中心部の平均結晶粒径、断面に占める亜結晶粒の割合(亜結晶粒面積率)を調査した。また、機械的性質(引張強さ:σB,耐力:σ0.2,伸び率:δ)の測定を行い、さらに靭性、耐食性を評価した。結果を表2に示す。
平均結晶粒径の調査:調査断面を電解研磨後、偏光ミクロ観察を行い、画像解析により平均結晶粒径を算出した。
亜結晶粒面積率の調査:調査断面を苛性エッチング後、画像解析により亜結晶粒面積率を算出した。
機械的性質の測定:JIS Z 2201の4号試験片(備考2による相似形)を作製して、JIS Z 2241に準拠して測定し、耐力400MPa以上を合格とした。
靭性の評価:試験材をJIS3号衝撃試験片に加工後、室温にてシャルピー衝撃試験を実施し、シャルピー衝撃値は25J/cm^(2)以上を合格とした。
【0033】
耐食性評価:ISO/DIS11846B法に基づいて、下記の粒界腐食試験を行い、最大腐食深さ50μm以下を合格とした。
ISO/DIS11846 Method B
前処理 A.洗浄液(硝酸 50mL/L+フッ酸 5mL/L)95±2℃で1分間浸漬
B.水洗
C.硝酸(常温)で2分間浸漬
D.水洗
E.乾燥
試験 A.試験液(NaCl 30g/L+塩酸 10mL/L)常温で24時間連続浸漬
B.液量 試料表面積×5mL/cm2以上
後処理 A.水洗(流水中)
B.濃硝酸で30秒浸漬
C.水洗
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表2にみられるように、本発明に従う試験材1?5は機械的性質、靭性(衝撃特性)、耐食性に優れており、いずれも合格値を示した。
【0037】
比較例1
表1の合金No.Aの押出用ビレットを、450℃で均質化処理後、押出温度520℃(但し、試験材8は560℃)、減面率95%で直径20mmの丸棒に熱間押出加工し、表3に示す条件で溶体化処理および時効処理を施した。得られた材料を試験材として、実施例1と同じ方法で肉厚中心部の平均結晶粒径、断面に占める亜結晶粒の割合(亜結晶粒面積率)を調査し、機械的性質、靭性、耐食性の評価を行った。結果を表3に示す。なお、表3において本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0038】
【表3】

【0039】
表3に示すように、試験材6は溶体化温度が低いため、試験材9は時効温度が低いため、また試験材10は時効温度が高いため、いずれも機械的性質が劣っている。試験材7は溶体化処理温度が高いため、溶体化処理後の断面組織における亜結晶粒面積率が70%未満となり、かつ亜結晶粒の結晶粒径が10μmを超えており、その結果、機械的性質、耐食性、靭性(シャルピー衝撃性)のいずれにおいても不合格となった。試験材8は、押出温度が高かったため押出時に割れが発生し、試験に供することができなかった。
【0040】
比較例2
表4に示す組成のアルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造法により、直径90mmの押出用ビレットに造塊した。得られたビレットを450℃で均質化処理後、押出温度520℃、減面率95%で直径20mmの丸棒に熱間押出加工した。その後、表5に示す条件で溶体化処理および時効処理を施した。得られた材料を試験材として、実施例1と同じ方法で肉厚中心部の平均結晶粒径、断面に占める亜結晶粒の割合(亜結晶粒面積率)を調査し、機械的性質、靭性、耐食性の評価を行った。結果を表5に示す。なお、表4、表5において本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
表5に示すように、試験材11はSi量が低いため、試験材13はCu量が低いため、いずれも機械的性質が不合格となった。試験材12はCu量に対する過剰Si量が低いため、試験材14はMg量が低くCu量が高いため、いずれも耐食性において不合格となった。試験材15はMn、CrおよびZr量が低いため、溶体化処理後の断面組織における亜結晶粒面積率が70%未満となり、かつ亜結晶粒の結晶粒径が10μmを超えた結果、機械的性質、耐食性、靭性(シャルピー衝撃性)のいずれにおいても不合格となった。試験材16はMn、CrおよびZr量が高いため、延性が低下しシャルピー衝撃性において不合格となった。
【0044】
実施例2、比較例3
表1の合金Aの押出用ビレットを、450℃で均質化処理後、押出温度520℃、減面率95%で直径20mmの丸棒に熱間押出加工した。得られた熱間押出加工材を、520℃および450℃の温度で熱間鍛造し、ともに535℃で溶体化処理後、180℃で時効処理した。得られた材料を試験材として、実施例1と同じ方法で肉厚中心部の平均結晶粒径、断面に占める亜結晶粒の割合(亜結晶粒面積率)を調査し、機械的性質、靭性、耐食性の評価を行った。結果を表6に示す。なお、表6において本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0045】
【表6】

【0046】
表6に示すように、本発明に従う試験材17は機械的性質、靭性(衝撃特性)、耐食性に優れており、いずれも合格値を示した。一方、試験材18は、鍛造温度が低いため鍛造時に導入された塑性歪みのため、溶体化処理後の断面組織における亜結晶粒面積率が70%未満となり、かつ亜結晶粒の結晶粒径が10μmを超えており、その結果、機械的性質、耐食性、靭性(シャルピー衝撃性)のいずれにおいても不合格となった。」

以上の記載事項(1a)?(1d)を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明1-1」という。)が記載されていると認める。
「Clイオンを含有する溶液中で、純アルミニウムよりも電位的に貴な金属を含有し、かつ電位が純アルミニウムよりも貴である6000系アルミニウム合金押出材であって、該押出材の断面の肉厚中心部は平均結晶粒径10μm以下の亜結晶粒組織をそなえている耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金押出材であって、
Si:0.7?1.4%(質量%、以下同じ)、Mg:0.55?0.95%、Cu:0.43%を超え1.0%以下を含有し、Mn:0.15?0.43%、Cr:0.05?0.23%、およびZr:0.05?0.24%のうちの1種以上を含有し、残部がAlおよび不純物からなり、かつ[Si%]×1.73-[Mg%]>[Cu%]×1.03を満足する組成を有し、断面の肉厚中心部は平均結晶粒径10μm以下の亜結晶粒組織をそなえ、該亜結晶粒組織が前記断面に占める割合が70%以上であり、
減面率95%で熱間押出加工されている
耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金押出材
を熱間鍛造したアルミニウム合金鍛造材であって、該鍛造材の断面の肉厚中心部は平均結晶粒径10μm以下の亜結晶粒組織をそなえ、該亜結晶粒組織が前記断面に占める割合が70%以上である耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金鍛造材
を車両機器部材用として使用した足回り部品。」

また、甲第1号証には、実質的に、引用発明1-1の製造方法である、次の発明(以下「引用発明1-2」という。)が記載されていると認める。
「引用発明1-1の耐食性に優れた高強度、高靭性アルミニウム合金押出材の組成を有するアルミニウム合金を熱間押出加工した後、510?570℃で溶体化処理し、150?200℃で時効処理し、前記熱間押出加工を、480?550℃の温度、減面率30%以上で行う製造方法において、前記熱間押出加工は、アルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造法により、押出用ビレットに造塊し、得られたビレットを減面率95%で熱間押出加工するものであり、得られた熱間押出加工材を、520℃および450℃の温度で熱間鍛造し、ともに535℃で溶体化処理後、180℃で時効処理する製造方法。」

2 甲第2号証
本件特許の出願日前に頒布された甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】
Mg:0.6?1.2質量%、
Si:0.7?1.5質量%、
Fe:0.1?0.5質量%、
Ti:0.01?0.1質量%、
Mn:0.3?1.0質量%を含有し、さらに
Cr:0.1?0.4質量%およびZr:0.05?0.2質量%から選択される少なくともいずれか1つを含有し、
Cu:0.1質量%以下および
Zn:0.05質量%以下に規制し、
水素量:0.25ml/100gAl以下であり、
残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金鍛造材であって、
晶出物の円相当最大径が8μm以下、晶出物の面積率が3.6%以下であり、
引張強度が420MPa以上であることを特徴とする自動車用アルミニウム合金鍛造材。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法であって、
鋳造温度700?780℃で前記アルミニウム合金の鋳塊を溶解・鋳造する溶解・鋳造工程と、
前記鋳塊を1.0℃/分以上の速度で昇温し、470?560℃で3?12時間均質化熱処理し、300℃以下まで2.5℃/分以上で冷却する均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理した鋳塊を500?560℃で0.75時間以上加熱する加熱工程と、
前記加熱した鋳塊を押出温度450?540℃、押出比15?25、押出速度1?15m/分で押出加工する押出工程と、
前記押出加工された成形品を500?560℃で0.75時間以上加熱する加熱工程と、
前記加熱した押出加工成形品を鍛造開始温度450?560℃、鍛造終了温度400℃以上で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程と、
前記鍛造材を500?560℃で3?8時間溶体化処理する溶体化処理工程と、
前記溶体化処理した鍛造材を60℃以下で焼入れする焼入れ工程と、
前記焼入れした鍛造材を160?220℃で3?12時間人工時効処理する人工時効処理工程、
をこの順に含むことを特徴とする自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法。」

(2b)「【0001】
本発明は、自動車用足回り部材や構造部材等に好適に用いられる自動車用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両、船舶、航空機、自動二輪あるいは自動車などの輸送用車両の構造部材には、JIS規格またはAA規格に規定される6000系(Al-Mg-Si系)などのアルミニウム合金(以下略して「Al合金」と表記することがある。)が使用されてきた。この6000系アルミニウム合金は、比較的耐食性にも優れており、またスクラップを6000系アルミニウム合金溶解原料として再利用できるリサイクル性の点からも優れている。
【0003】
また、自動車用構造部材には、製造コストの低減や、複雑形状部品への加工の点から、アルミニウム合金鋳造材やアルミニウム合金鍛造材が用いられている。この内、高強度で高靱性などの機械的性質が要求される構造部材、例えば、アッパーアーム、ロアーアームなどの自動車用足回り部材には、アルミニウム合金鍛造材が主として用いられている。そして、これらアルミニウム合金鍛造材は、アルミニウム合金鋳造材を均質化熱処理後、メカニカル鍛造、油圧鍛造などの熱間鍛造を行い、その後溶体化処理、焼入れ処理や人工時効処理(以下、単に時効処理とも言う)などの調質処理が施されて製造されている。
【0004】
近年、これら自動車用構造部材においては、低燃費、低CO_(2)排出の要求の高まりから、更なる軽量化・薄肉化の必要性が生じてきている。従来これらの用途には、6061や6151などの6000系アルミニウム合金鍛造材が使用されてきたが、強度の点で性能的に不十分であった。また、自動車用として種々の用途に実用的に使用され得るためには、耐食性を有していることも必要とされる。
そのため、例えば、特許文献1には、6000系のAl合金からなり、強度、靱性に優れたAl合金押出材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-177308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたAl合金押出材は、Cuの含有量が比較的高いものであり、強度は高いものの耐食性のレベルは低いものと推定されるものであった。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、良好な耐食性を維持しつつ、引張強度に優れた自動車用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法を提供しようとするものである。」

(2c)「【0008】
そこで、本発明者らは、アルミニウム合金鍛造材の引張強度のさらなる向上を図るために、組成と製造条件の両面において有効な手法の検討を進めた。
引張強度には、Al合金鍛造材内部のミクロな結晶形態が大きく係っている。特に、鍛造材中に存在する再結晶部分の比率が大きいと、破壊現象の起点となり易いため、引張強度の低下につながる。そのため再結晶部分を生じないようにするか、生じても大きくならないようにすることが必要である。
【0009】
従来の製造方法において、押出加工という工程は専ら鍛造品の形状を整えるための一手法に過ぎないものであった。しかし、本発明者らは、鋳造品を鍛造する前に押出加工を行い、その押出比を種々変えたものについて引張特性を検討した。その結果、押出比の増大に応じて引張強度が予期した以上に増大することを見出した。ひとつの原因としては、ミクロな結晶構造において押出方向に配向した構造変化が起こったためと考えられた。
【0010】
さらに本発明者らは、鋳造品を高倍率で押出加工することにより、鋳造品中に存在する晶出物の形態が大きく変形し、晶出物が破壊されたり、微細化されたり、結晶構造の変質等が生じたためと考えた。従来であれば、晶出物は、結晶化の核となって再結晶を促進させるものであるが、このような晶出物の微細化や質的変化が起こったために、再結晶が抑制され、そのことが引張強度の予期しない向上につながったものと推定した。
さらに、押出加工における押出条件のみならず、均質化熱処理工程における温度、時間、冷却速度、鍛造工程における終了温度、押出工程前後の加熱工程、等についても同様に引張強度の向上につながる条件についての検討を進めた。
【0011】
一方、押出加工を前提とした場合に、押出加工に適合した合金組成についても検討を加えた。一般に、引張強度の向上を図るためには、MgとSiという基本的な強度付与成分に加えて、CuやZnを添加することが有効である。しかし、CuやZnは耐食性を大きく低下させるため含有量を増加させることは困難である。そこで、CuとZnの含有量を極力減少させ、それらに代えて、Mn等の遷移元素やFeを所定量含有させ、晶出物の粒径や面積率を制御することにより、再結晶を抑制して、耐食性を維持しつつ優れた引張強度を達成できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、上記の種々の検討による新たな知見を踏まえることにより、押出加工という工程を行い、特定の製造条件と特定の組成とを組み合わせることにより、従来達成が困難であった高いレベルの引張強度と耐食性とを併せ持ったAl合金鍛造材を得ることに成功したものである。
【0013】
前記課題を解決するために、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材は、Mg:0.6?1.2質量%、Si:0.7?1.5質量%、Fe:0.1?0.5質量%、Ti:0.01?0.1質量%、Mn:0.3?1.0質量%を含有し、さらにCr:0.1?0.4質量%およびZr:0.05?0.2質量%から選択される少なくともいずれか1つを含有し、Cu:0.1質量%以下およびZn:0.05質量%以下に規制し、水素量:0.25ml/100gAl以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金鍛造材であって、晶出物の円相当最大径が8μm以下、晶出物の面積率が3.6%以下であり、引張強度が420MPa以上であることを特徴としている。
【0014】
前記構成によれば、Si、MgおよびFeを所定量含有させたこと、および遷移元素、特にMnを比較的多量に含有させたことにより、鍛造材の結晶組織が微細化され、引張強度を向上させている。またCuとZnの含有量を特定の数値以下に規制することにより、粒界腐食感受性が鈍くなり、耐食性能の保持が可能となっている。
さらに、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材は、晶出物の円相当最大径を8μm以下、晶出物の面積率を3.6%以下となるように結晶構造を制御することにより、420MPa以上の引張強度を達成している。
【0015】
また、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法は、鋳造温度700?780℃で前記アルミニウム合金の鋳塊を溶解・鋳造する溶解・鋳造工程と、前記鋳塊を1.0℃/分以上の速度で昇温し、470?560℃で3?12時間均質化熱処理し、300℃以下まで2.5℃/分以上で冷却する均質化熱処理工程と、前記均質化熱処理した鋳塊を500?560℃で0.75時間以上加熱する加熱工程と、前記加熱した鋳塊を押出温度450?540℃、押出比15?25、押出速度1?15m/分で押出加工する押出工程と、前記押出加工された成形品を500?560℃で0.75時間以上加熱する加熱工程と、前記加熱した押出加工成形品を鍛造開始温度450?560℃、鍛造終了温度400℃以上で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程と、前記鍛造材を500?560℃で3?8時間溶体化処理する溶体化処理工程と、前記溶体化処理した鍛造材を60℃以下で焼入れする焼入れ工程と、前記焼入れした鍛造材を160?220℃で3?12時間人工時効処理する人工時効処理工程、をこの順に含むことを特徴としている。
【0016】
このように、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法は、個々の工程の条件を精密に制御することにより、鍛造体内部の微細構造において、晶出物の円相当最大径が8μm以下、晶出物の面積率が3.6%以下であって、420MPa以上の引張強度を有した鍛造材を製造することを可能としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材は、耐食性を維持しつつ、引張強度、0.2%耐力および伸びに優れたものである。また本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法は、耐食性を維持しつつ、引張強度に優れた自動車用アルミニウム合金鍛造材を製造することができるものである。」

(2d)【0020】
本発明のアルミニウム合金は、Mg:0.6?1.2質量%、Si:0.7?1.5質量%、Fe:0.1?0.5質量%、Ti:0.01?0.1質量%、Mn:0.3?1.0質量%を含有し、さらにCr:0.1?0.4質量%およびZr:0.05?0.2質量%から選択される少なくともいずれか1つを含有し、Cu:0.1質量%以下およびZn:0.05質量%以下に規制し、水素量:0.25ml/100gAl以下であり、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金である。
本発明のアルミニウム合金を構成する各元素の含有量について、以下に説明する。
【0021】
(Mg:0.6?1.2質量%)
Mgは、人工時効処理によりSiとともに、Mg_(2)Si(β’相)として析出して、最終製品であるアルミニウム合金鍛造材の使用時に高強度(耐力)を付与するために必須の元素である。Mgの含有量が0.6質量%未満では時効硬化量が低下する。一方、Mgの含有量が1.2質量%を超えると、強度(耐力)が高くなりすぎ、鋳塊の鍛造性を阻害する。また、溶体化処理後の焼き入れ途中に多量のMg_(2)Siが析出しやすくなり、粒界上に存在するMg_(2)SiやAl-Fe-Si-(Mn、Cr)系晶出物の平均粒径が小さくならず、これら晶出物同士の平均間隔を大きくすることができない。目安としては、Mg_(2)SiやAl-Fe-Si-(Mn、Cr)系晶出物の平均粒径は1.2μm以下、晶出物同士の平均間隔は3.0μm以上とすることが望ましい。Mgの含有量は、好ましくは0.7?1.1質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.8?1.0質量%の範囲である。
【0022】
(Si:0.7?1.5質量%)
Siは、人工時効処理によりMgとともに、Mg_(2)Si(β’相、β’’相)として析出して、最終製品であるアルミニウム合金鍛造材の使用時に高強度(耐力)を付与するために必須の元素である。Siの含有量が0.7質量%未満では人工時効で十分な強度が得られない。一方、Siの含有量が1.5質量%を超えると、鋳造時および溶体化処理後の焼き入れ途中で、粗大な単体Si粒子が晶出および析出して、耐食性と靱性を低下させる。また、Siが過剰になると、粒界上に存在するMg_(2)SiやAl-Fe-Si-(Mn、Cr)系晶出物の晶出物同士の平均間隔を大きくすることができない。そのため、後記するMgの場合と同様に、アルミニウム合金鍛造材の耐食性と靱性を低下させる。
【0023】
更に、Siの含有量が1.5質量%を超えると、アルミニウム合金鍛造材の伸びが低くなるなど、加工性も阻害する。目安としては、Mg_(2)SiやAl-Fe-Si-(Mn、Cr)系晶出物の平均粒径は1.2μm以下、晶出物同士の平均間隔は3.0μm以上とすることが望ましい。ここで、Al-Fe-Si-(Mn、Cr)系晶出物の平均粒径と平均間隔に関する知見は、本出願人の出願に係る特開2001?107168号公報に記載されている。Siの含有量は、好ましくは0.9?1.4質量%の範囲であり、さらに好ましくは1.0?1.3質量%の範囲である。
【0024】
(Fe:0.1?0.5質量%)
アルミニウム合金に不純物として含まれるFeは、Al_(7)Cu_(2)Fe、Al_(12)(Fe,Mn)3Cu_(2)、(Fe,Mn)Al_(6)など、Al-Fe-Si-(Mn、Cr)系の晶出物を生成させる。これらの晶出物は、前記した通り、破壊靱性および疲労特性などを劣化させる。特に、Feの含有量が0.5質量%、より厳密には0.3質量%を超えると、Al-Fe-Si-(Mn、Cr)系晶出物の合計の面積率を、単位面積当たり1.5%以下、好ましくは1.0%以下とすることが困難となり、自動車用構造材などに要求される、より高強度で高靱性を有するアルミニウム合金鍛造材を得ることができない。ここで、Al-Fe-Si-(Mn、Cr)系晶出物の面積率に関する知見は、本出願人の出願に係る特開2008-163445号公報に記載されている。Feの含有量は、好ましくは0.2?0.4質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.2?0.3質量%の範囲である。
【0025】
(Ti:0.01?0.1質量%)
Tiは、鋳塊の結晶粒を微細化し、押出、圧延、鍛造時の加工性を向上させるために添加する元素である。しかし、Tiの0.01質量%未満の含有では、結晶粒の微細化が不十分なため、加工性向上の効果が得られず、一方、Tiが0.1質量%を超えて含有されると、粗大な晶出物を形成し、前記加工性を低下させ易い。Tiの含有量は、好ましくは0.01?0.08質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.02?0.05質量%の範囲である。
【0026】
(Mn:0.3?1.0質量%)
Mnは、主に均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時にAl_(6)Mnなどの金属間化合物の分散粒子を形成し、再結晶時の粒界移動を妨げる効果がある。しかし、Mnの含有量が0.3質量%未満ではその効果が不十分であり、一方Mnの含有量が1.0質量%を越えると粗大な晶出物を形成し、加工性や靭性が低下しやすくなる。Mnの含有量は、好ましくは0.5?0.9質量%の範囲であり、より好ましくは0.6?0.8質量%の範囲である。
【0027】
(Cr:0.1?0.4質量%およびZr:0.05?0.2質量%から選択される少なくともいずれか1つ)
これらの元素は主に均質化熱処理時およびその後の熱間鍛造時に、Al_(6)MnやAl_(12)Mg_(2)Cr、Al-Cr系、Al-Zr系などの金属間化合物の分散粒子(分散相)を生成する。これらの分散粒子は、再結晶時の粒界移動を妨げる効果があるため、微細な結晶粒や亜結晶粒を得ることができる。そのため、これらの元素のうち、Crは0.1?0.4質量%、Zrは0.05?0.2質量%であって、これらから選択される少なくともいずれか1つを満足することが必要である。
但し、CrまたはZrあるいはCrとZrを含む、いずれの場合であっても、Crは0.4質量%、Zrは0.2質量%のそれぞれの上限を超えないことが必要である。
【0028】
これらの元素は、その含有量が少なすぎるとこれらの効果が期待できず、一方、含有量が過剰であると、溶解、鋳造時に粗大なAl-Fe-Si-(Mn、Cr)系の金属間化合物や晶出物を生成しやすく、破壊の起点となり、強度、靱性や疲労特性を低下させる原因となる。その場合には、Al-Fe-Si-(Mn、Cr)系晶出物の合計の面積率を、単位面積当たり1.5%以下、好ましくは1.0%以下とすることができず、高靱性や高疲労特性を得ることができない。
【0029】
Crの含有量は、好ましくは0.1?0.3質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.2?0.3質量%の範囲である。
Zrの含有量は、好ましくは0.08?0.2質量%の範囲であり、さらに好ましくは0.1?0.2質量%の範囲である。
【0030】
(Cu:0.1質量%以下)
Cuは、アルミニウム合金鍛造材の組織の応力腐食割れや粒界腐食の感受性を著しく高め、アルミニウム合金鍛造材の耐食性や耐久性を低下させる。この観点から本発明では、Cuの含有量をできるだけ少なく規制する。しかし、操業上0.1質量%程度の混入は避けられず、影響が軽微であることから、Cuの含有量は0.1質量%以下に規制する。
【0031】
(Zn:0.05質量%以下)
Znが存在することにより、人工時効処理時において、MgZn_(2)を微細かつ高密度に析出させることができれば高い引張強度を実現することができる。しかし、Znは製品の腐食電位を大きく低下させるため、耐食性が悪くなってしまう。またMgと化合して析出することからMg_(2)Si析出量を低下させ、結果として引張強度を低下させる。そのため、Znの含有量は、0.05質量%以下に規制することが必要である。
【0032】
(水素:0.25ml/100gAl以下)
水素(H_(2))は、特に、アルミニウム合金鍛造材の加工度が小さくなる場合、水素に起因する気泡が鍛造などの加工で圧着せず、破壊の起点となるため、靱性や疲労特性を著しく低下させる。高強度化した輸送用車両の構造材などにおいては、水素による影響が大きい。従って、水素の含有量は0.25ml/100gAl以下にすることが必要である。水素量は、鋳造工程前の溶解した合金に対して、アルゴン、窒素や塩素等を連続脱ガス装置を使用してバブリングすることにより、0.25ml/100gAl以下に制御することができる。
【0033】
(不可避的不純物)
不可避的不純物としては、C、Ni、Na、Ca、V等の元素が想定し得るが、いずれも本発明の特徴を阻害しないレベルで含有することは許容される。具体的には、これら不可避的不純物の元素は、個々の元素毎の含有量がそれぞれ0.3質量%以下であり、合計の含有量が1.0質量%以下であることが必要である。
【0034】
(晶出物)
本発明において、晶出物の円相当最大径が8μm以下、晶出物の面積率が3.6%以下であることが必要である。ここで、本発明における晶出物とは、Al-Si-(Fe、Mn)系の晶出物やMg_(2)Si(β’相)等の結晶性の微細な析出物のことをいう。Al-Si-(Fe、Mn)系の晶出物の具体例としては、AlSiMn、AlSi(Fe、Mn)、等がある。これらの晶出物は、鋳造品の内部に発生し、均質化熱処理工程や鍛造工程においても残存しており、鍛造工程や溶体化処理工程において再結晶の核となって、再結晶が促進されることとなる。こうした晶出物に由来する結晶構造物が存在すると、鍛造材の強度低下につながる。そのため、晶出物の発生量を抑えること、そして晶出物の粒子径が大きくならないように微細化させることが必要である。
【0035】
晶出物の大きさは、晶出物の円相当最大径で示される。具体的な測定方法は次のとおりである。Al合金鍛造材の重心位置において鍛造材を切断し、断面部分の中心部をケラー氏液で30秒エッチングする。その後、光学顕微鏡にてミクロ写真(倍率400倍)を取る。写した晶出物の写真の一例を図4に示した。図4に示されるように、写真中に黒く映し出された晶出物は不定形をしている。この写真に映し出された晶出物を画像解析して、晶出物の不定形の面積と同等の面積を有する円の直径として、晶出物の大きさを求めた。
【0036】
晶出物の円相当最大径は、8μm以下であることが必要である。晶出物の円相当最大径が8μmを超えると引張時において破壊を起こす起点となりやすくなるため、引張強度の低下を引き起こすこととなる。晶出物の円相当最大径は、好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは3μm以下である。
【0037】
また、晶出物の発生量は、晶出物の面積率で示される。具体的な測定方法は次のとおりである。Al合金鍛造材の重心位置において鍛造材を切断し、断面部分の中心部をケラー氏液で30秒エッチングする。その後、晶出物の大きさを測定するときと同様に、光学顕微鏡にてミクロ写真(倍率400倍)を取る。写した晶出物の写真の一例を図4に示した。図4に示されるように、写真中に黒く映し出された晶出物は不定形をしている。この写真に映し出された晶出物を画像解析して、晶出物の不定形の面積の合計を求め、画像全体の面積に対する比率として、晶出物の面積率を求めた。
【0038】
晶出物の面積率は、3.6%以下であることが必要である。晶出物の面積率が3.6%を超えると引張時において破壊を起こし易い部位を多数内在しているため、引張強度の低下を引き起こすこととなる。晶出物の面積率は、好ましくは3.0%以下であり、さらに好ましくは2.5%以下である。
【0039】
以上述べてきたように、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材は、上記組成を有したアルミニウム合金からなり、晶出物の円相当最大径が8μm以下、晶出物の面積率が3.6%以下であることにより、引張強度420MPa以上のアルミニウム合金鍛造材とすることが可能となるものである。
【0040】
次に、本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法について説明する。図1は、本発明のアルミニウム合金鍛造材の製造方法の工程Sを示すフローチャートである。
図1に示すように、本発明の製造方法Sは、溶解・鋳造工程S1、均質化熱処理工程S2、加熱工程S3、押出工程S4、加熱工程S5、鍛造工程S6、溶体化処理工程S7、焼入れ工程S8および人工時効処理工程S9をこの順に含むものである。本発明の優れた引張強度と耐食性を有した自動車用アルミニウム合金鍛造材を得るためには、前述のアルミニウム合金の組成だけでなく、製造方法についても所定の条件を採用することが必要となる。
【0041】
本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材の製造方法では、以下に特に記載した以外の工程や条件については、常法により製造することが可能である。以下に、各工程の条件について図1を参照して説明する。
【0042】
(溶解・鋳造工程)
溶解・鋳造工程S1は、前記アルミニウム合金の化学成分組成に溶解調整された溶湯を鋳造して鋳塊とする工程である。連続鋳造法(例えば、ホットトップ鋳造法)や半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造する。なお、鋳塊の形状は、丸棒などのインゴットやスラブ形状などがあり、特に制限されるものではない。
【0043】
溶解・鋳造工程S1においては、加熱温度は700?780℃とすることが必要である。加熱温度が700℃未満であると、凝固温度より低下しやすくなり、タンディッシュ内で溶湯が凝固しやすくなり、更に、鋳造ノズル詰まりになり、鋳造不可能になる。加熱温度が780℃を超えると、凝固しづらくなり、連続鋳造時に、凝固シェルが破れるいわゆるブリードが発生し、これも連続鋳造が不可能となる。
【0044】
鋳塊の結晶粒を微細化し、かつ粒界上に存在するAl-Fe-Si-(Mn、Cr)系晶出物の平均粒径を小さくし、晶出物同士の平均間隔を大きくするためには、溶湯はできる限り早い冷却速度で冷却することが望ましい。
【0045】
(均質化熱処理工程)
均質化熱処理工程S2は、前記鋳塊に所定の均質化熱処理を施す工程である。前記鋳塊を1.0℃/分以上の速度で昇温し、470?560℃で3?12時間均質化熱処理し、300℃以下まで2.5℃/分以上で冷却することが必要である。
昇温速度は、1.0℃/分以上であることが必要である。昇温速度が1.0℃/分未満であると、粗大なMg-Si系析出物が生成されやすくなり、分散粒子が粗大なMg-Si系析出物の周りに生成されることで不均質になり、再結晶を生じやすくなる。また、昇温速度が10℃/分以上であると、粗大な分散粒子が形成されやすくなり、再結晶を生じやすくなるので、10℃/分未満であることが望ましい。
【0046】
均質化熱処理は5?500nm程度のサイズである分散粒子を高密度に析出させることを目的としている。分散粒子を高密度に析出させることで粒界移動の抑制が高くなり、再結晶を抑制することができる。このとき、効果的な温度範囲は470?560℃であり、より好ましくは480?540℃である。熱処理温度が470?560℃の範囲から外れると、再結晶抑制に効果のある分散粒子が少なかったり粗大になりすぎて抑制効果が弱くなったりする。また、十分な析出をさせるには熱処理を3?12時間行う必要がある。熱処理時間が3時間未満であると、鋳塊全体を均一な温度とすることが困難であり、分散粒子が十分に生成させることができない。また、熱処理時間は、生産性の点から12時間以下であることが望ましい。
【0047】
均質化熱処理後の冷却速度は、300℃以下まで2.5℃/分以上で冷却することが必要である。冷却速度が300℃以下まで2.5℃/分未満であると、冷却途中で粗大なMg_(2)Si等の晶出物が発生するため、押出工程を行っても再結晶を十分に抑制することができず、強度向上の効果や分散粒子の効果が低減してしまう。さらに、後の加工性が低下するなどの影響が出る。
均質化熱処理には、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉などが適宜用いられる。
【0048】
(加熱工程)
加熱工程S3は、次の押出工程S4において、鋳塊をスムーズに加工するために必要な工程である。
【0049】
加熱工程S3では、前記鋳塊を500?560℃で0.75時間以上加熱することが必要である。加熱温度が500℃より低いと上記効果が得られず、560℃より高いと、共晶溶融から製品内部に空隙が残り、押出工程S4で加工をスムーズに行うことができない。加熱時間が0.75時間未満であると、材料中心部まで十分に均一に加熱されない可能性があり、上記効果が得られなくなる可能性がある。また、加熱時間は、均質化熱処理で生成した分散粒子の維持の点から、6時間以下であることが望ましい。
【0050】
(押出工程)
本発明では、上記加熱工程S3の後に、鋳塊を押出加工する押出工程S4を行う。押出工程を入れると、繊維状組織となることで引張強度と靱性をより向上させる点で好ましい。
押出条件としては、押出温度450?540℃、押出比15?25、押出速度1?15m/分で行うことが必要である。
【0051】
押出温度は、450℃未満であると、変形抵抗が高くなって加工歪が高くなり、後の溶体化処理工程S7で再結晶が生じやすくなり、引張強度が低下することとなる。また、540℃を超えると、表面で再結晶が生じやすくなり、引張強度の向上効果を得ることができない。
【0052】
押出比とは、押出加工前後の成形品の断面形状の変化率を意味している。すなわち、押出加工の加工方向とは直角方向における押出加工前後の成形品の断面積を測定し、押出加工前の断面積を押出加工後の断面積で除したときの比率である。この押出比が15未満であると、十分に金属組織が繊維状組織とならず、晶出物の微細化や変質化が不十分であり、後の工程で再結晶を引き起こすこととなり、引張強度の向上が十分に見られない。
一方、押出比が25を超えると、金属組織が既に十分繊維状組織化していることから引張強度の向上が見られず、加工歪量が大きくなりすぎるため、再結晶も生じやすくなって強度が低下することもある。
【0053】
また、押出速度が1m/分未満であると、鋳塊の温度が低下して加工が困難となる。押出速度が15m/分を超えると、加工発熱により表面部の摩擦が大きくなるため、再結晶を引き起こすこととなり、引張強度の向上が十分に見られない。
【0054】
(加熱工程)
加熱工程S5は、鍛造工程S6での変形抵抗を減らすことと鍛造加工による歪みを減らすために必要な工程である。加熱工程S3は鍛造加工を最適にするために行う工程であるため、鍛造温度と同等以上の温度が必要となる。
【0055】
加熱工程S5では、前記押出品を500?560℃で0.75時間以上加熱することが必要である。加熱温度が500℃より低いと上記効果が得られず、560℃より高いと、共晶溶融から製品内部に空隙が残り、引張物性を向上させることができない。加熱時間が0.75時間未満であると、材料中心部まで十分に均一に加熱されない可能性があり、上記効果が得られなくなる可能性がある。また、加熱時間は、均質化熱処理で生成した分散粒子の維持の点から、6時間以下であることが望ましい。
【0056】
(鍛造工程)
鍛造工程S6は、押出加工された前記成形品を鍛造素材として使用し、メカニカル鍛造や油圧鍛造などにより押出品に熱間鍛造を施して、所定の形状の鍛造材を得る工程である。この際、鍛造素材の鍛造の開始温度は、450?560℃とする。開始温度が450℃未満になると変形抵抗が高くなり、十分な加工ができなくなる上、鍛造加工による歪みが高くなるため再結晶が生じやすくなる。560℃を超えると鍛造割れや共晶溶融などの欠陥が発生しやすくなる。鍛造の開始温度は、鍛造の回数などに応じて適宜設定される。
【0057】
また、鍛造素材の鍛造の終了温度は、400℃以上とする。終了温度が400℃未満であると、鍛造加工による歪みが高くなるため再結晶が生じやすくなる。また、鍛造の終了温度は、鍛造加工による歪みを少なくする点から、できる限り高くすることが望ましい。
【0058】
(溶体化処理工程)
溶体化処理工程S7は、鍛造工程S6で導入された歪みを緩和し、溶質元素の固溶を行う工程である。溶体化処理工程S7では、前記鍛造材を500?560℃で3?8時間で溶体化処理することが必要である。処理温度が500℃未満になると、溶体化が進まず、時効析出による高強度化が期待できなくなる。処理温度が560℃を超えると高い上記効果が得られるものの、共晶溶融や再結晶が生じやすくなる。保持時間が3時間未満であると、均質な溶体化が進まず引張強度の低下が起こり、また晶出物の微細化も進まないことから望ましくない。また保持時間が8時間を越えると、再結晶を抑制していた分散粒子が粗大化、または消滅することで再結晶が生じやすくなる。
【0059】
また、溶体化処理の昇温速度は、引張強度を保証するために、60℃/時間以上とすることが好ましい。
溶体化処理には、空気炉、誘導加熱炉、硝石炉などが適宜用いられる。
【0060】
(焼入れ工程)
焼入れ工程S8は、前記溶体化処理した鍛造材を60℃以下で焼入れ処理する工程である。通常、水中あるいは温湯中への冷却により行う。処理温度が60℃を超えると、十分な冷却速度で焼きが入らず、粗大なMg-Si系析出物が出るため後の人工時効処理工程S9で十分な引張強度が得られなくなる。
【0061】
(人工時効処理工程)
人工時効処理工程S9は、前記焼入れした鍛造材を160?220℃で3?12時間人工時効処理する工程である。
処理温度が160℃未満になったり処理時間が3時間より短いと引張強度を向上させるMg-Si系析出物が十分成長できなくなる。また処理温度が220℃より高くなったり処理時間が12時間より長くなるとMg-Si系析出物が粗大になりすぎて引張強度向上への効果が減少してしまう。
なお、人工時効硬化処理には、空気炉、誘導加熱炉、オイルバスなどが適宜用いられる。
【0062】
以上述べてきたように、前述の組成を有した特定のアルミニウム合金に対して、上記した製造方法の各工程(S1?S9)の条件を厳密に制御することにより、優れた引張強度と耐食性を有した自動車用アルミニウム合金鍛造材を得ることが可能となる。
【0063】
尚、本発明では、溶解・鋳造工程S1の後または均質化熱処理工程S2の後に、ピーリングを行ってもよい。鋳造後に、鋳造品の表面に偏析相が生成することがある。この偏析相には鋳造品の内部よりも添加元素が多量に存在しており、鋳造品内部よりも硬くて脆い。そのため、この表面の偏析相を除去するために、鍛造工程S6で塑性加工を行う前にピーリングを行うことができる。」

(2e)「【0064】
次に、本発明を実施例に基づいて説明する。尚、本発明は、以下に示した実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例において評価した特性は以下のとおりである。
【0065】
[合金組成]
合金組成は、島津製作所製発光分析装置OES-1014を用いて測定した。製品の測定部位は、測定が可能であれば特に限定されない。操作は取扱説明書に従って行った。
【0066】
[引張試験]
JIS Z2201にある4号試験片を用いて、JIS Z2241の規定に準じて、引張強度、0.2%耐力、伸びの測定を行った。3個の試験片の測定値の平均値として求めた。図2(a)には、鍛造材試験片から引張物性測定用JIS4号引張試験片を採取する位置が点線で示されている。図2(c)は、図2(a)に示された鍛造材試験片のB-Bの位置における断面図である。図2(c)のB-B断面図において、引張物性測定用JIS4号引張試験片の断面が網点で示されている。Cは製造時のパーティングラインを示している。引張物性測定用JIS4号引張試験片を、鍛造材試験片の中心部分であって、押出工程における押出方向と平行となる方向で採取した。引張強度は420MPa以上のとき、0.2%耐力は370MPa以上のとき、伸びは10.0%以上のときに合格と判定した。
【0067】
[耐応力腐食割れ性(SCC)]
ASTM G47の交互浸漬法の規定に準じて行った。3個の試験片中で最初に割れたものを鍛造材試験片の寿命(日数)として求めた。耐応力腐食割れ性評価用試験片(SCC試験用Cリング)は、JIS H8711の規定を参照して作成した。図3には、(a)側面図と(b)正面図におけるSCC試験用Cリングの寸法が示されている。図2(b)は、図2(a)に示された鍛造材試験片のA-Aの位置における断面図である。図2(b)には、このA-A断面図におけるSCC試験用Cリングを採取する位置が示されている。
300MPa負荷時の耐応力腐食割れの寿命が20日未満は×、30日以上?40日未満は○、40日以上は◎と評価した。○または◎は合格と判定した。
【0068】
[晶出物]
本発明における晶出物は、以下の条件で測定した。
図2(c)は、図2(a)に示された鍛造材試験片のB-B位置における断面図である。図2(c)のB-B断面図において、晶出物の測定位置が網点で示されている。断面部分の中心部をケラー氏液で30秒エッチングする。その後、光学顕微鏡を用いて400倍で撮影した。
図4は、晶出物の状況の一例を示す拡大写真である。晶出物は黒色に現れる。この写真から画像解析ソフトを用いて、晶出物の円相当直径を測定した。求められた円相当直径のうち、最大の値をもって、その写真中における円相当最大径とした。また同様に、晶出物が画像中に占める面積を画像の全面積で除すことにより、その写真中における晶出物の面積率を測定した。晶出物の円相当最大径と面積率は、同等の条件で製造された1個の試料から得られた各20視野の拡大写真から得られた数値の平均値をもって当該鍛造材試験片の数値とした。
ここで、画像解析ソフトとしては、三谷商事株式会社製のWinROOFを使用した。
【0069】
[実施例1?11、比較例1?21]
鋳造工程前において表1に示す各種合金組成を有したAl合金を用いて、ホットトップ鋳造法により、加熱温度720℃かつ鋳造速度30mm/分で鋳造した。得られた鋳塊は、φ300mm径の寸法を有するものであった。その後この鋳塊を、昇温速度1.5℃/分で昇温し、540℃×8時間で保持し、300℃以下まで3℃/分で冷却して、均質化熱処理を行った。
【0070】
その後、空気炉を用いて520℃に加熱して1.5時間保持して加熱処理を行った。次に加熱処理された鋳塊を冷却することなく、以下の条件で、直接押出プレスを用いて押出加工を行った。
押出温度;500℃、押出比;21.3、押出速度;3m/分
【0071】
押出加工された成形品を、空気炉を用いて520℃に加熱して1.5時間保持して加熱処理を行った。加熱処理された成形品を冷却することなく、次の鍛造工程を行った。
鍛造開始温度520℃、鍛造終了温度440℃で、上下金型を用いたメカニカル鍛造により合計の鍛造圧下率が70%となるように熱間鍛造を行い、Al合金鍛造材を製造した。
【0072】
さらに、得られたAl合金鍛造材を空気炉で540℃で8時間の溶体化処理をした後、60℃の水で水冷(水焼入れ)を行い、引き続いて空気炉で175℃で8時間の人工時効処理を行った。
【0073】
こうして得られたAl合金鍛造材から、図2に示す位置で引張試験用試験片および耐応力腐食割れ性(SCC)評価用試験片(Cリング)を採取した。
得られた鍛造材について、引張強度、0.2%耐力、伸びおよび耐応力腐食割れ性を評価した。評価結果を表2に示した。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
表1、表2に示すように、本発明の請求項1の規定を満足するAl合金からなる鍛造材(実施例1?11)は、引張強度、0.2%耐力、伸びおよび耐応力腐食割れ性が優れていた。一方、本発明の規定を満足しないAl合金からなる鍛造材(比較例1?21)は、引張強度、0.2%耐力、伸びおよび耐応力腐食割れ性のうちのいずれか1つ以上が劣っていた。表1、表2中、本発明の規定を満足しない組成は、数値に下線を引いて示した。また、表1の合金組成において、「<」の記号を付した数値は、この記号のうしろの数値未満であることを示している。この場合、この記号のうしろの数値が、測定装置の検出限界であることを示している。
【0077】
[実施例12?17、比較例22?53]
鋳造工程前において表1の実施例3に記載の組成、即ち、Si:1.20質量%、Fe:0.45質量%、Cu:0.07質量%、Mg:1.00質量%、Ti:0.02質量%、Zn:0.02質量%未満、Mn:0.65質量%、Cr:0.20質量%、Zr:0.01質量%未満、水素量0.15ml/100gAlで、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金を用いて、表3に記載の製造条件を用いて、実施1?11と同様にアルミニウム合金鍛造材を製造した。表3に記載した以外の製造条件は、実施例1?11と同様である。
【0078】
こうして得られたAl合金鍛造材から実施1?11と同様に、図2に示す位置で引張試験用試験片および耐応力腐食割れ性(SCC)評価用試験片(Cリング)を採取した。
得られた鍛造材について、引張強度、0.2%耐力、伸びおよび耐応力腐食割れ性を評価した。評価結果を表4に示した。
【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
表3、表4に示すように、本発明の請求項2の規定を満足する製造条件を用いたAl合金鍛造材(実施例12?17)は、引張強度、0.2%耐力、伸びおよび耐応力腐食割れ性が優れていた。一方、本発明の規定を満足しない製造条件を用いたAl合金鍛造材(比較例22?53)は、引張強度、0.2%耐力、伸びおよび耐応力腐食割れ性のうちのいずれか1つ以上が劣っていた。表3中、本発明の規定を満足しない製造条件は、数値に下線を引いて示した。
【0082】
図5は、実施例3の条件を原則的に用いて、特定の製造工程後のAl合金材断面のミクロ組織観察による晶出物の状況を示した写真である。写真中には50μmに相当する目盛が示されている。
(a)は、溶解・鋳造工程S1後の鋳塊のミクロ組織観察による晶出物の状況を示したものである。
(b)は、溶解・鋳造工程S1、均質化熱処理工程S2を行った後に、加熱工程S3、押出工程S4を行わずに、加熱工程S5、鍛造工程S6、溶体化処理工程S7、焼入れ工程S8、人工時効処理工程S9を行った後のAl合金鍛造材のミクロ組織観察による晶出物の状況を示したものである。
(c)は、溶解・鋳造工程S1から人工時効処理工程S9に至る各工程を実施例3の条件に従って行った後のAl合金鍛造材のミクロ組織観察による晶出物の状況を示したものである。
【0083】
図5(a)の写真から、溶解・鋳造工程S1後の鋳塊においては、晶出物が網の目のように多量に析出していることが見て取れる。この鋳塊から、押出工程を経ずに得られたAl合金鍛造材の晶出物の写真(b)と押出工程を経て得られたAl合金鍛造材の晶出物の写真(c)とを比較すると、押出工程を経ることによって、晶出物の量が減少し、晶出物がより微細になっていることが分かる。このように、晶出物が減少したり、より微細になったりしたために、再結晶が抑制され、引張強度の向上につながったものと考えられる。
【0084】
図6は、実施例3の条件を原則的に用いて押出比を種々変更した場合に、得られたAl合金鍛造材の引張強度(MPa)を示した図である。この図6から分かるように、押出比が15?25の時に引張強度が急激に増大して、極大値を有している。押出比が15?25のときに高い引張強度を有したAl合金鍛造材が得られることが分かる。」

(2f)甲第2号証には以下の図が示されている。


以上の記載事項(2a)?(2f)を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下「引用発明2-1」という。)が記載されていると認める。
「Mg:0.6?1.2質量%、
Si:0.7?1.5質量%、
Fe:0.1?0.5質量%、
Ti:0.01?0.1質量%、
Mn:0.3?1.0質量%を含有し、さらに
Cr:0.1?0.4質量%およびZr:0.05?0.2質量%から選択される少なくともいずれか1つを含有し、
Cu:0.1質量%以下および
Zn:0.05質量%以下に規制し、
水素量:0.25ml/100gAl以下であり、
残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金から構成されるアルミニウム合金鍛造材であって、
晶出物の円相当最大径が8μm以下、晶出物の面積率が3.6%以下であり、
引張強度が420MPa以上であり、
押出温度;500℃、押出比;21.3、押出速度;3m/分の条件で直接押出プレスを用いて押出加工を行った自動車用アルミニウム合金鍛造材
を用いた自動車用足回り部材。」

また、甲第2号証には、実質的に、引用発明2-1の自動車用アルミニウム合金鍛造材を用いた自動車用足回り部材の製造方法である、次の発明(以下「引用発明2-2」という。)が記載されていると認める。
「引用発明2-1の自動車用アルミニウム合金鍛造材を用いた自動車用足回り部材の製造方法であって、鋳造温度700?780℃で前記アルミニウム合金の鋳塊を溶解・鋳造する溶解・鋳造工程と、前記鋳塊を1.0℃/分以上の速度で昇温し、470?560℃で3?12時間均質化熱処理し、300℃以下まで2.5℃/分以上で冷却する均質化熱処理工程と、前記均質化熱処理した鋳塊を500?560℃で0.75時間以上加熱する加熱工程と、前記加熱した鋳塊を押出温度450?540℃、押出比15?25、押出速度1?15m/分で押出加工する押出工程と、前記押出加工された成形品を500?560℃で0.75時間以上加熱する加熱工程と、前記加熱した押出加工成形品を鍛造開始温度450?560℃、鍛造終了温度400℃以上で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程と、前記鍛造材を500?560℃で3?8時間溶体化処理する溶体化処理工程と、前記溶体化処理した鍛造材を60℃以下で焼入れする焼入れ工程と、前記焼入れした鍛造材を160?220℃で3?12時間人工時効処理する人工時効処理工程、をこの順に含み、押出温度;500℃、押出比;21.3、押出速度;3m/分の条件で直接押出プレスを用いて押出加工を行う製造方法。」

3 甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。


4 甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

(4a)第6ページ左欄第33行?第36行
「ニアネットシェイプの鍛造用素材製造にDC鋳造が行われ、従来の円形あるいは矩形の製品以外に複雑な断面形状を持つDC鋳造品が利用されるようになってきた。」

5 甲第5号証
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。


第6 当審の判断
1 申立理由1(甲第1号証 特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1-1を対比する。

(ア)引用発明1-1の「アルミニウム合金鍛造材を車両機器部材用として使用した足回り部品」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「アルミニウム合金製の鍛造部品」である「自動車用足回り部品」に相当する。

以上のことから、本件発明1と引用発明1-1とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点1>
「アルミニウム合金製の鍛造部品である自動車用足回り部品。」

<相違点1>
「自動車用足回り部品」に関し、
本件発明1は、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上である」のに対し、
引用発明1-1は、そのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点1について検討する。
引用発明1-1が「減面率95%で熱間押出加工されている」ことに関し、甲第1号証の特に段落【0027】の「押出工程により、鋳塊を熱間鍛造することにより得られる亜結晶組織よりさらに集束度の高い亜結晶組織が得られ、その結果、高強度、高靭性が達成できる。熱間押出の減面率が30%未満では亜結晶粒の集束度が低くなったり、条件によっては亜結晶粒組織を得ることが難しくなったりする。」(記載事項(1c))という記載を参照しても、甲第1号証には、「アルミニウム合金鍛造材を車両機器部材用として使用した足回り部品」に外力が引加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向に関する記載及び結晶方位に関する記載が一切なく、両者の関係どころか、負荷応力方向と熱間押出の方向の関係も判然としない。
そうすると、甲第1号証に「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上」とする発明が実質的に記載されているとはいえない。
したがって、相違点1は実質的な相違点といえる。

(イ)次に「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」について、本件発明1で具体的下限値が特定されているのでさらに検討する。
本件発明1は、「アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品及びその効果的な製造方法を提供する」(記載事項a)ためになされたものであって、当該課題及び記載事項b、c等を踏まえて検討すると、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」が「2.37以上」であることの意義は、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くすることにあると理解できる。
ここで、甲第1号証の段落【0011】の「従来のAl-Mg-Si系合金よりさらに改良された強度と靭性、すなわち耐力で400MPa以上の高強度とシャルピー衝撃値25J/cm^(2)以上の高靭性を得ることができる車両機器部材用として好適な耐食性に優れた高強度、高靭性のAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材および鍛造材、該押出材および鍛造材の製造方法を提供する」(記載事項(1b))という記載、段落【0026】?【0027】の「押出材断面の肉厚中心部が平均結晶粒径10μm以下で、該亜結晶粒組織の断面に占める割合が70%以上であることが重要である。平均結晶粒10μm以下の亜結晶粒組織は強度向上に寄与し、また耐食性の低下を抑制する。亜結晶粒組織の断面に占める割合を70%以上とすることにより、材料全体の強度を考えた場合、押出材の表層部に形成される再結晶組織に起因する強度低下は問題とならず十分な強度を維持することができる。・・・480?550℃の温度で減面率30%以上の熱間押出を行うことが望ましい。・・・押出工程により、鋳塊を熱間鍛造することにより得られる亜結晶組織よりさらに集束度の高い亜結晶組織が得られ、その結果、高強度、高靭性が達成できる。熱間押出の減面率が30%未満では亜結晶粒の集束度が低くなったり、条件によっては亜結晶粒組織を得ることが難しくなったりする。」という記載(記載事項(1c))を参照すると、引用発明1-1は、車両機器部材用として好適な耐食性に優れた高強度、高靭性のAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材および鍛造材を提供するという課題を解決するために、「押出材」「断面の肉厚中心部は平均結晶粒径10μm以下の亜結晶粒組織をそなえ、該亜結晶粒組織が前記断面に占める割合が70%以上」である構成としたものであって、集束度の高い亜結晶組織を得るために押出工程を設けているものと理解できる。
そうすると、引用発明1-1は、アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品を提供する点で、本件発明1の課題と共通しているといえるが、引用発明1-1が「減面率95%で熱間押出加工されている」ことに関し、上記(ア)で述べたとおり、甲第1号証には、「アルミニウム合金鍛造材を車両機器部材用として使用した足回り部品」に外力が引加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向に関する記載及び結晶方位に関する記載が一切なく、両者の関係どころか、負荷応力方向と熱間押出の方向の関係も判然としないから、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くするものではない点で、本件発明1とは異なる。
したがって、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くするものではない引用発明1-1において、上記相違点1に係る本件発明1の構成のように、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を最適化又は好適化することが、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものであるとはいえない。
また、上記「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を「2.37以上」とすることは本願出願日前における周知技術でもないので、引用発明1-1が「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上」であると当業者が理解することはできないし、引用発明1-1において「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を「2.37以上」とすることを当業者が容易に想到し得るともいえない。

(ウ)特許異議申立人は、本件発明1における「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向」という発明特定事項は外力の印加態様によって変化するから、甲第1号証に記載された発明(以下「甲1発明」という。)の一部にでもシュミット因子の逆数の平均が2.37以上の部分が存在すれば、使用時の外力の印加態様によっては当該発明特定事項を充足する旨主張し(特許異議申立書第14ページ下から9行?下から4行。以下「主張A」という。)、かかる主張を前提として、本件明細書の段落【0046】(記載事項c)及び段落【0053】?【0054】(記載事項d)の記載を参照すると、シュミット因子の逆数の平均を2.3以上とするには、第二工程における鍛造の圧下率を大きく(例えば、10%以上、30%以上)すればよく、また逆に、シュミット因子の逆数に影響を与える要因は第二工程の圧下率のみであると判断でき、さらに、本件明細書には、具体例として、Al-Mg-Si系合金を圧下率40%で鍛造した場合にシュミット因子の逆数の平均が2.3以上となることが記載されているところ、甲1発明においても、Al-Mg-Si系合金を圧下率40%で加工しているから、シュミット因子の逆数の平均が2.3以上となっていることは明らかである旨主張し(特許異議申立書第10ページ下から3行?第12ページ第19行及び第13ページ下から4行?第14ページ第14行。以下「主張B」という。)、本件特許の権利者が作成した実験成績証明書(甲第3号証)の「5.結果」の図2の左側のグラフを参照すると、シュミット因子の逆数の平均は0.2%耐力と相関し、0.2%耐力が高ければシュミット因子の逆数の平均が高くなるといえ、さらに、当該グラフから、Al-Mg-Si系合金の0.2%耐力が416MPa以上であるとシュミット因子の逆数の平均が2.37以上となることが看て取れるところ、甲1発明においても、Al-Mg-Si系合金の0.2%耐力が420MPaであるから、シュミット因子の逆数の平均が2.3以上となっていることは明らかである旨主張する(特許異議申立書第12ページ下から5行?第13ページ下から4行及び第13ページ下から3行?第14ページ第14行。以下「主張C」という。)ので、以下検討する。

(エ)上記主張Aについて検討する。
本件明細書の段落【0030】の「自動車用足回り部品1は、使用中に最大の応力が発生する最大応力発生部位をアーム部2に有しており、当該最大応力発生部位は使用態様に即して十分な強度を有している必要がある。・・・最大応力発生部位は、外力が印加された場合の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上となるように設計されている」という記載及び段落【0032】の「上記の自動車用足回り部品1の全体構造や形状を前提として、通常の自動車用足回り部品1では、使用中に最大応力が発生する(最大応力が負荷される)特定部位は、アーム部2のボールジョイント取付部4側となる。また、自動車用足回り部品1の構造設計条件等で多少の差異は生じるものの、アーム部2への負荷応力方向は、アーム部2の略長手方向となる」という記載(いずれも記載事項c)を参照すると、本件発明1における「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向」という発明特定事項の意味は、自動車用足回り部品ごとに、その使用態様に即して定まる、使用中に最大の応力が発生する最大応力発生部位における負荷応力方向であると理解できる。
そうすると、本件発明1における「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向」は、外力の印加状況によって変化するものではなく、自動車用足回り部品ごとにその使用態様に即して一意に定まる方向を意味しているといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張Aは採用できない。

(オ)次に上記主張Bについて検討する。
本件明細書の段落【0043】?【0044】の「アルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加え、アルミニウム合金鋳塊の結晶方位を制御する第二工程(S02)では、異形連鋳棒8を切断して得られるスライス材10の端部を、略一方向(外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向)に伸長させるように塑性変形を加える・・・スライス材10の端部を伸長させた領域は、最終的に自動車用足回り部品1のアーム部2となる領域に相当する。当該領域において、外力が印加された場合の負荷応力方向(アーム部2の略長手方向)における結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数(m値)の平均が2.3以上となるように鍛造する(特定の方向にメタルフローを形成させる)ことで、軽量かつ高強度な自動車用足回り部品1を得ることができる。」という記載及び段落【0046】の「第二工程(S02)における鍛造の圧下率は、10?70%が好ましく、30?50%がより好ましい。圧下率が大き過ぎると再結晶によって強度低下が生じ、小さ過ぎるとシュミット因子の逆数(m値)の平均を2.3以上とすることができないからである。」という記載(いずれも記載事項c)を参照すると、鍛造の圧下率は、第二工程において、外力が印加された場合の負荷応力方向におけるシュミット因子の逆数(m値)の平均を2.3以上とするため、「異形連鋳棒8を切断して得られるスライス材10の端部を、略一方向(外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向)に伸長させるように塑性変形を加える」際の条件の1つにすぎないと理解できるから、本件明細書に圧下率の値の具体例として「40%」が記載されているとしても、そのことが外力が印加された場合の負荷応力方向におけるシュミット因子の逆数(m値)の平均を2.3以上とするための十分条件であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張Bは採用できない。

(カ)最後に上記主張Cについて検討する。
本件明細書の段落【0059】には、シュミット因子の逆数及び0.2%耐力について、2.37及び417MPaであるデータ、2.43及び416MPaであるデータ、2.29及び401MPaであるデータ、2.28及び397MPaであるデータが記載され、段落【0060】には、「実施例の鍛造品においては、全ての試験片でシュミット因子の逆数(m値)が2.3以上となっているが、比較例の鍛造品では全ての試験片でシュミット因子の逆数(m値)が2.3未満となっている。これに対応して、実施例の鍛造品の0.2%耐力は比較例の鍛造品と比較して明瞭に向上していることが確認できる。」(記載事項d)と記載されている。
これらによれば、シュミット因子の逆数(m値)が2.3以上となっていると0.2%耐力が向上するものと理解できるものの、0.2%耐力は、アルミニウム合金製の鍛造部品の組成に加え、結晶粒径、析出物、加工履歴、熱履歴等に応じて変化することが技術常識であるから、0.2%耐力が416MPa以上であることがシュミット因子の逆数(m値)の平均を2.3以上であるための十分条件であるとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張Cは採用できない。

(キ)以上より、引用発明1-1(甲第1号証に記載された発明)を根拠に、上記相違点1が実質的な相違点でないということはできないから、本件発明1が引用発明1-1、すなわち、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
また、引用発明1-1(甲第1号証に記載された発明)を根拠に、上記相違点1に係る本件発明1の構成が容易に想到できたものということはできない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を直接的に引用し、少なくとも本件発明1の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(1)のとおり、本件発明1が甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、当業者にとって容易に発明することができたものともいえないのであるから、同様に、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、当業者にとって容易に発明することができたものともいえない。

(3)本件発明3について
ア 対比
上記「(1)ア」を踏まえて、本件発明3と引用発明1-2を対比する。

(ア)引用発明1-2の「アルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造法により、押出用ビレットに造塊」することは、その意味からみて、本件発明3の「アルミニウム合金を鋳造する第一工程」に相当する。

(イ)引用発明1-2の「得られたビレットを減面率95%で熱間押出加工」することは、本件発明3の「前記第一工程で得られるアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加えて、結晶方位を制御し、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上とする第二工程」と、「前記第一工程で得られるアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加える第二工程」の限度で一致する。

(ウ)引用発明1-2の「得られた熱間押出加工材を、520℃および450℃の温度で熱間鍛造」することは、本件発明3の「前記第二工程で得られる結晶方位制御アルミニウム合金に鍛造を施し、前記応力発生部位の前記シュミット因子の逆数の平均が2.3以上である鍛造部品を得る第三工程」と、「前記第二工程で得られるアルミニウム合金に鍛造を施し、鍛造部品を得る第三工程」の限度で一致する。

以上のことから、本件発明3と引用発明1-2とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点2>
「アルミニウム合金を鋳造する第一工程と、
前記第一工程で得られるアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加える第二工程と、
前記第二工程で得られるアルミニウム合金に鍛造を施し、鍛造部品を得る第三工程と、を有する、
自動車用足回り部品の製造方法。」

<相違点2>
「第二工程」及び「第三工程」に関し、
本件発明3は、「結晶方位を制御し、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上」とし、「結晶方位制御アルミニウム合金に鍛造を施し、前記応力発生部位の前記シュミット因子の逆数の平均が2.3以上である」鍛造品を得るのに対し、
引用発明1-2は、そのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点2について検討する。
上記「(1)イ」で述べたとおり、引用発明1-2が「アルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造法により、押出用ビレットに造塊し、得られたビレットを減面率95%で熱間押出加工する」ことに関し、甲第1号証には、「アルミニウム合金鍛造材を車両機器部材用として使用した足回り部品」に外力が引加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向に関する記載及び結晶方位に関する記載が一切なく、両者の関係どころか、負荷応力方向と熱間押出の方向の関係も判然としない。
そうすると、甲第1号証に「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上」としたり、「結晶方位制御アルミニウム合金に鍛造を施し、前記応力発生部位の前記シュミット因子の逆数の平均が2.3以上」鍛造品を得る発明が実質的に記載されているとはいえない。
したがって、相違点2は実質的な相違点といえる。

(イ)次に「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」について、本件発明3で具体的下限値が特定されているのでさらに検討する。
上記「(1)イ」で述べたとおり、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」が「2.3以上」であることの意義は、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くすることにあると理解できる。
ここで、甲第1号証の段落【0011】の「従来のAl-Mg-Si系合金よりさらに改良された強度と靭性、すなわち耐力で400MPa以上の高強度とシャルピー衝撃値25J/cm^(2)以上の高靭性を得ることができる車両機器部材用として好適な耐食性に優れた高強度、高靭性のAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材および鍛造材、該押出材および鍛造材の製造方法を提供する」(記載事項(1b))という記載、段落【0026】?【0027】の「押出材断面の肉厚中心部が平均結晶粒径10μm以下で、該亜結晶粒組織の断面に占める割合が70%以上であることが重要である。平均結晶粒10μm以下の亜結晶粒組織は強度向上に寄与し、また耐食性の低下を抑制する。亜結晶粒組織の断面に占める割合を70%以上とすることにより、材料全体の強度を考えた場合、押出材の表層部に形成される再結晶組織に起因する強度低下は問題とならず十分な強度を維持することができる。・・・480?550℃の温度で減面率30%以上の熱間押出を行うことが望ましい。・・・押出工程により、鋳塊を熱間鍛造することにより得られる亜結晶組織よりさらに集束度の高い亜結晶組織が得られ、その結果、高強度、高靭性が達成できる。熱間押出の減面率が30%未満では亜結晶粒の集束度が低くなったり、条件によっては亜結晶粒組織を得ることが難しくなったりする。」という記載(記載事項(1c))を参照すると、引用発明1-2は、車両機器部材用として好適な耐食性に優れた高強度、高靭性のAl-Mg-Si系アルミニウム合金押出材および鍛造材を提供するという課題を解決するために、「押出材」「断面の肉厚中心部は平均結晶粒径10μm以下の亜結晶粒組織をそなえ、該亜結晶粒組織が前記断面に占める割合が70%以上」である構成としたものであって、集束度の高い亜結晶組織を得るために押出工程を設けているものと理解できる。
そうすると、引用発明1-2は、アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品を提供する点で、本件発明3の課題と共通しているといえるが、上記(ア)で述べたとおり、引用発明1-2が「アルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造法により、押出用ビレットに造塊し、得られたビレットを減面率95%で熱間押出加工する」ことに関し、甲第1号証には、「アルミニウム合金鍛造材を車両機器部材用として使用した足回り部品」に外力が引加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向に関する記載及び結晶方位に関する記載が一切なく、両者の関係どころか、負荷応力方向と熱間押出の方向との関係も判然としないから、引用発明1-2は、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くするものではない点で、本件発明3とは異なる。
したがって、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くするものではない引用発明1-2において、上記相違点2に係る本件発明3の構成のように、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を最適化又は好適化することが、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものであるとはいえない。
また、上記「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を「2.37以上」とすることは本願出願日前における周知技術でもないので、引用発明1-2が「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上」であると当業者が理解することはできないし、引用発明1-2において「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を「2.37以上」とすることを当業者が容易に想到し得るともいえない。

(ウ)以上より、引用発明1-2(甲第1号証に記載された発明)を根拠に、上記相違点2が実質的な相違点でないということはできないから、本件発明3が引用発明1-2、すなわち、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。
また、引用発明1-2(甲第1号証に記載された発明)を根拠に、上記相違点2に係る本件発明3の構成が容易に想到できたものということはできない。

(4)本件発明4?7について
本件発明4?7は、本件発明3を直接的又は間接的に引用し、少なくとも本件発明3の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(3)のとおり、本件発明3が甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、当業者にとって容易に発明することができたものともいえないのであるから、同様に、本件発明4?7は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、当業者にとって容易に発明することができたものともいえない。

2 申立理由2(甲第2号証 特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明2-1を対比する。

(ア)引用発明2-1の「自動車用アルミニウム合金鍛造材を用いた自動車用足回り部材」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「アルミニウム合金製の鍛造部品」である「自動車用足回り部品」に相当する。

以上のことから、本件発明1と引用発明2-1とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点3>
「アルミニウム合金製の鍛造部品である自動車用足回り部品。」

<相違点3>
「自動車用足回り部品」に関し、
本件発明1は、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上である」のに対し、
引用発明2-1は、そのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点3について検討する。
引用発明2-1が「押出温度;500℃、押出比;21.3、押出速度;3m/分の条件で直接押出プレスを用いて押出加工を行」うことに関し、甲第2号証の特に段落【0009】の「押出比の増大に応じて引張強度が予期した以上に増大することを見出した。」という記載(記載事項(2c))、段落【0050】?【0052】の「押出工程を入れると、繊維状組織となることで引張強度と靱性をより向上させる点で好ましい。・・・押出比とは、押出加工前後の成形品の断面形状の変化率を意味している。・・・押出加工の加工方向とは直角方向における押出加工前後の成形品の断面積を測定し、押出加工前の断面積を押出加工後の断面積で除したときの比率である。・・・押出比が15未満であると、十分に金属組織が繊維状組織とならず、晶出物の微細化や変質化が不十分であり、後の工程で再結晶を引き起こすこととなり、引張強度の向上が十分に見られない。・・・押出比が25を超えると、金属組織が既に十分繊維状組織化していることから引張強度の向上が見られず、加工歪量が大きくなりすぎるため、再結晶も生じやすくなって強度が低下することもある。」という記載(記載事項(2d))及び段落【0066】「図2(a)には、鍛造材試験片から引張物性測定用JIS4号引張試験片を採取する位置が点線で示されている。図2(c)は、図2(a)に示された鍛造材試験片のB-Bの位置における断面図である。図2(c)のB-B断面図において、引張物性測定用JIS4号引張試験片の断面が網点で示されている。Cは製造時のパーティングラインを示している。引張物性測定用JIS4号引張試験片を、鍛造材試験片の中心部分であって、押出工程における押出方向と平行となる方向で採取した。」という記載(記載事項(2e))を参照すると、「自動車用アルミニウム合金鍛造材を用いた自動車用足回り部材」に外力が引加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向に関する記載及び結晶方位に関する記載が一切なく、両者の関係どころか、負荷応力方向と熱間押出の方向の関係も判然としない。
そうすると、甲第2号証に「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上」とする発明が実質的に記載されているとはいえない。
したがって、相違点3は実質的な相違点といえる。

(イ)次に「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」について、本件発明1で具体的下限値が特定されているのでさらに検討する。
上記「1(1)イ(イ)」で述べたとおり、本件発明1は、「アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品及びその効果的な製造方法を提供する」(記載事項a)ためになされたものであって、当該課題及び記載事項b、c等を踏まえて検討すると、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」が「2.37以上」であることの意義は、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くすることにあると理解できる。
ここで、甲第2号証の段落【0003】の「アッパーアーム、ロアーアームなどの自動車用足回り部材には、アルミニウム合金鍛造材が・・・用いられている」という記載及び段落【0007】の「本発明は、・・・良好な耐食性を維持しつつ、引張強度に優れた自動車用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法を提供しようとするものである」という記載(いずれも記載事項(2b))並びに段落【0039】の「本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材は、上記組成を有したアルミニウム合金からなり、晶出物の円相当最大径が8μm以下、晶出物の面積率が3.6%以下であることにより、引張強度420MPa以上のアルミニウム合金鍛造材とすることが可能となる」という記載及び段落【0050】?【0052】の「押出工程を入れると、繊維状組織となることで引張強度と靱性をより向上させる点で好ましい。・・・押出比とは、押出加工前後の成形品の断面形状の変化率を意味している。・・・押出加工の加工方向とは直角方向における押出加工前後の成形品の断面積を測定し、押出加工前の断面積を押出加工後の断面積で除したときの比率である。・・・押出比が15未満であると、十分に金属組織が繊維状組織とならず、晶出物の微細化や変質化が不十分であり、後の工程で再結晶を引き起こすこととなり、引張強度の向上が十分に見られない。・・・押出比が25を超えると、金属組織が既に十分繊維状組織化していることから引張強度の向上が見られず、加工歪量が大きくなりすぎるため、再結晶も生じやすくなって強度が低下することもある。」という記載(いずれも記載事項(2d))を参照すると、引用発明2-1は、アッパーアーム、ロアーアームなどの自動車用足回り部材として良好な耐食性を維持しつつ、引張強度に優れた自動車用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法を提供するという課題を解決するために、晶出物の円相当最大径が8μm以下、晶出物の面積率が3.6%以下であることにより、引張強度420MPa以上のアルミニウム合金鍛造材としたものであって、繊維状組織とすることで引張強度と靱性をより向上させるために押出工程を設けているものと理解できる。
そうすると、引用発明2-1は、アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品を提供するという点で、本件発明1の課題と共通しているといえるが、上記(ア)で述べたとおり、引用発明2-1が「押出温度;500℃、押出比;21.3、押出速度;3m/分の条件で直接押出プレスを用いて押出加工を行」うことに関し、甲第2号証には、「アルミニウム合金鍛造材を車両機器部材用として使用した足回り部品」に外力が引加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向に関する記載及び結晶方位に関する記載が一切なく、両者の関係どころか、負荷応力方向と押出の方向の関係も判然としないから、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くするものではない点で、本件発明1とは異なる。
したがって、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くするものではない引用発明2-1において、上記相違点3に係る本件発明1の構成のように、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を最適化又は好適化することが、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものであるとはいえない。
また、上記「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を「2.37以上」とすることは本願出願日前における周知技術でもないので、引用発明2-1が「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上」であると当業者が理解することはできないし、引用発明2-1において「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を「2.37以上」とすることを当業者が容易に想到し得るともいえない。

(ウ)特許異議申立人は、上記「1(1)イ(ウ)」で述べたと同様に、上記主張Aを前提として、上記主張Bと同様に、甲2号証に記載された発明(以下「甲2発明」という。)においても、Al-Mg-Si系合金を圧下率40%より加工率の高い押出比21.3で加工しているから、シュミット因子の逆数の平均が2.3以上となっていることは明らかである旨主張し(特許異議申立書第20ページ第7行?第13行及び第16行?末行。以下「主張D」という。)、上記主張Cと同様に、甲2発明においても、Al-Mg-Si系合金の0.2%耐力が424MPaであるから、シュミット因子の逆数の平均が2.3以上となっていることは明らかである旨主張する(特許異議申立書第20ページ第14行?末行。以下「主張E」という。)ので、以下検討する。

(エ)上記主張Aについては、上記「1(1)イ(エ)」で述べたとおり、採用できない。また、上記主張D、Eについては、上記「1(1)イ(オ)」、「1(1)イ(カ)」で述べたと同様に、採用できない。

(オ)以上より、引用発明2-1(甲第2号証に記載された発明)を根拠に、上記相違点3が実質的な相違点でないということはできないから、本件発明1が引用発明2-1、すなわち、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。
また、引用発明2-1(甲第2号証に記載された発明)を根拠に、上記相違点3に係る本件発明1の構成が容易に想到できたものということはできない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を直接的に引用し、少なくとも本件発明1の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(1)のとおり、本件発明1が甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、当業者にとって容易に発明することができたものともいえないのであるから、同様に、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、当業者にとって容易に発明することができたものともいえない。

(3)本件発明3について
ア 対比
上記「(1)ア」を踏まえて、本件発明3と引用発明2-2を対比する。

(ア)引用発明2-2の「鋳造温度700?780℃で前記アルミニウム合金の鋳塊を溶解・鋳造する溶解・鋳造工程」は、その意味からみて、本件発明3の「アルミニウム合金を鋳造する第一工程」に相当する。

(イ)引用発明2-2の「前記加熱した鋳塊を押出温度450?540℃、押出比15?25、押出速度1?15m/分で押出加工する押出工程」であって「押出温度;500℃、押出比;21.3、押出速度;3m/分の条件で直接押出プレスを用いて押出加工を行う」工程、は、本件発明3の「前記第一工程で得られるアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加えて、結晶方位を制御し、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上とする第二工程」と、「前記第一工程で得られるアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加える第二工程」の限度で一致する。

(ウ)引用発明2-2の「前記加熱した押出加工成形品を鍛造開始温度450?560℃、鍛造終了温度400℃以上で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程」は、本件発明3の「前記第二工程で得られる結晶方位制御アルミニウム合金に鍛造を施し、前記応力発生部位の前記シュミット因子の逆数の平均が2.3以上である鍛造部品を得る第三工程」と、「前記第二工程で得られるアルミニウム合金に鍛造を施し、鍛造部品を得る第三工程」の限度で一致する。

以上のことから、本件発明1と引用発明2-2とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点4>
「アルミニウム合金を鋳造する第一工程と、
前記第一工程で得られるアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加える第二工程と、
前記第二工程で得られるアルミニウム合金に鍛造を施し、鍛造部品を得る第三工程と、を有する、
自動車用足回り部品の製造方法。」

<相違点4>
「第二工程」及び「第三工程」に関し、
本件発明3は、「結晶方位を制御し、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上」とし、「結晶方位制御アルミニウム合金に鍛造を施し、前記応力発生部位の前記シュミット因子の逆数の平均が2.3以上である」鍛造品を得るのに対し、
引用発明2-2は、そのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)相違点4について検討する。
上記「(1)イ」で述べたとおり、引用発明2-2の「前記加熱した鋳塊を押出温度450?540℃、押出比15?25、押出速度1?15m/分で押出加工する押出工程と、前記押出加工された成形品を500?560℃で0.75時間以上加熱する加熱工程と、前記加熱した押出加工成形品を鍛造開始温度450?560℃、鍛造終了温度400℃以上で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程」に関し、甲第2号証には、「アルミニウム合金鍛造材を車両機器部材用として使用した足回り部品」に外力が引加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向に関する記載及び結晶方位に関する記載が一切なく、両者の関係どころか、負荷応力方向と熱間押出の方向の関係も判然としない。
そうすると、甲第2号証に「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上」としたり、「結晶方位制御アルミニウム合金に鍛造を施し、前記応力発生部位の前記シュミット因子の逆数の平均が2.3以上」鍛造品を得る発明が実質的に記載されているとはいえない。

(イ)次に「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」について、本件発明3で具体的下限値が特定されている意義について検討する。
上記「(1)イ」で述べたとおり、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」が「2.3以上」であることの意義は、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くすることにあると理解できる。
ここで、甲第2号証の段落【0003】の「アッパーアーム、ロアーアームなどの自動車用足回り部材には、アルミニウム合金鍛造材が・・・用いられている」という記載及び段落【0007】の「本発明は、・・・良好な耐食性を維持しつつ、引張強度に優れた自動車用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法を提供しようとするものである」という記載(いずれも記載事項(2b))並びに段落【0039】の「本発明の自動車用アルミニウム合金鍛造材は、上記組成を有したアルミニウム合金からなり、晶出物の円相当最大径が8μm以下、晶出物の面積率が3.6%以下であることにより、引張強度420MPa以上のアルミニウム合金鍛造材とすることが可能となる」という記載及び段落【0050】?【0052】の「押出工程を入れると、繊維状組織となることで引張強度と靱性をより向上させる点で好ましい。・・・押出比とは、押出加工前後の成形品の断面形状の変化率を意味している。・・・押出加工の加工方向とは直角方向における押出加工前後の成形品の断面積を測定し、押出加工前の断面積を押出加工後の断面積で除したときの比率である。・・・押出比が15未満であると、十分に金属組織が繊維状組織とならず、晶出物の微細化や変質化が不十分であり、後の工程で再結晶を引き起こすこととなり、引張強度の向上が十分に見られない。・・・押出比が25を超えると、金属組織が既に十分繊維状組織化していることから引張強度の向上が見られず、加工歪量が大きくなりすぎるため、再結晶も生じやすくなって強度が低下することもある。」という記載(いずれも記載事項(2d))を参照すると、引用発明2-2は、アッパーアーム、ロアーアームなどの自動車用足回り部材として良好な耐食性を維持しつつ、引張強度に優れた自動車用アルミニウム合金鍛造材およびその製造方法を提供するという課題を解決するために、晶出物の円相当最大径が8μm以下、晶出物の面積率が3.6%以下であることにより、引張強度420MPa以上のアルミニウム合金鍛造材としたものであって、繊維状組織とすることで引張強度と靱性をより向上させるために押出工程を設けているものと理解できる。
そうすると、引用発明2-2は、アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品を提供するという点で、本件発明3の課題と共通しているといえるが、上記(ア)で述べたとおり、引用発明2-2の「前記加熱した鋳塊を押出温度450?540℃、押出比15?25、押出速度1?15m/分で押出加工する押出工程と、前記押出加工された成形品を500?560℃で0.75時間以上加熱する加熱工程と、前記加熱した押出加工成形品を鍛造開始温度450?560℃、鍛造終了温度400℃以上で鍛造して所定の形状の鍛造材を得る鍛造工程」に関し、甲第2号証には、「アルミニウム合金鍛造材を車両機器部材用として使用した足回り部品」に外力が引加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向に関する記載及び結晶方位に関する記載が一切なく、両者の関係どころか、負荷応力方向と押出の方向の関係も判然としないから、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くするものではない点で、本件発明3とは異なる。
したがって、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化して、応力方向に対する強度(具体的には鍛造品の0.2%耐力)を高くするものではない引用発明2-2において、上記相違点4に係る本件発明3の構成のように、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を最適化又は好適化することが、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎないものであるとはいえない。
また、上記「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を「2.37以上」とすることは本願出願日前における周知技術でもないので、引用発明2-2が「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上」であると当業者が理解することはできないし、引用発明2-2において「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均」を「2.37以上」とすることを当業者が容易に想到し得るともいえない。

(ウ) 以上より、引用発明2-2(甲第2号証に記載された発明)を根拠に、上記相違点4が実質的な相違点でないということはできないから、本件発明3が引用発明2-2、すなわち、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。
また、引用発明2-2(甲第2号証に記載された発明)を根拠に、上記相違点4に係る本件発明3の構成が容易に想到できたものということはできない。

(4)本件発明4?7について
本件発明4?7は、本件発明3を直接的又は間接的にに引用し、少なくとも本件発明3の構成を更に限定して発明を特定するものであって、上記(3)のとおり、本件発明3が甲第2号証に記載された発明であるとはいえず、当業者にとって容易に発明することができたものともいえないのであるから、同様に、本件発明4?7は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、当業者にとって容易に発明することができたものともいえない。

3 申立理由3(特許法第36条第6項第1号)について
(1)検討
ア 本件発明1?7は「アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品及びその効果的な製造方法を提供する」という課題を解決するために、発明特定事項として、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上である」こと又は「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上とする」ことを特定したものと理解することができる(記載事項a)。

イ 上記「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上である」又は「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上とする」という発明特定事項に対応する本件明細書の段落【0013】?【0015】の「アルミニウムなどの面心立方格子の金属は、一般に12個のすべり系が活動する。結晶の方位と応力方向が決まれば、個々のすべり系はそれぞれ特有のシュミット因子を持ち、シュミット因子の大きなすべり系ほど活動に必要な応力は小さく、より活動しやすいすべり系であると言える。・・・Sachs理論においては、耐力はσ_(0)+τ_(CRSS)・mとなる。ここで、σ_(0)はアルミニウム合金の固有の強度に粒度の効果を加味した耐力、τ_(CRSS)は臨界分解せん断応力、mはシュミット因子の逆数(m値)である。・・・シュミット因子の逆数(m値)が大きな部材では、当該シュミット因子の逆数(m値)を測定した方向に関して、高い強度を示す」という記載(記載事項b)、段落【0030】?【0035】の「自動車用足回り部品1は、使用中に最大の応力が発生する最大応力発生部位をアーム部2に有しており、当該最大応力発生部位は使用態様に即して十分な強度を有している必要がある。・・・最大応力発生部位は、外力が印加された場合の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上となるように設計されている。・・・上記の自動車用足回り部品1の全体構造や形状を前提として、通常の自動車用足回り部品1では、使用中に最大応力が発生する(最大応力が負荷される)特定部位は、アーム部2のボールジョイント取付部4側となる。また、自動車用足回り部品1の構造設計条件等で多少の差異は生じるものの、アーム部2への負荷応力方向は、アーム部2の略長手方向となる。・・・本発明の自動車用足回り部品1では、外力が印加された場合の負荷応力方向(アーム部2の略長手方向)において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上となっており、集合組織の最適化によって強度を向上させている。・・・集合組織により強度が異なることについては広く知られているが、本発明の自動車用足回り部品1においては、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化している。その結果、応力方向に対する強度を高くすることができる。」という記載(記載事項c)及び段落【0043】?【0044】の「アルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加え、アルミニウム合金鋳塊の結晶方位を制御する第二工程(S02)では、異形連鋳棒8を切断して得られるスライス材10の端部を、略一方向(外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向)に伸長させるように塑性変形を加える・・・スライス材10の端部を伸長させた領域は、最終的に自動車用足回り部品1のアーム部2となる領域に相当する。当該領域において、外力が印加された場合の負荷応力方向(アーム部2の略長手方向)における結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数(m値)の平均が2.3以上となるように鍛造する(特定の方向にメタルフローを形成させる)ことで、軽量かつ高強度な自動車用足回り部品1を得ることができる。」という記載(記載事項c)を参照すると、本件明細書における発明の詳細な説明には、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上であれば、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化することができるため、Sachs理論にも基づいて、応力方向に対する強度を高くすることができることが記載されているといえる。
また、段落【0053】?【0060】(記載事項d)には、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.29である比較例、2.28である比較例において0.2%耐力がそれぞれ401MPa、397MPaであったものが、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37である実施例、2.43である実施例において0.2%耐力がそれぞれ417MPa、416MPaとなり、0.2%耐力が向上することが記載されているから、実施例は、比較例と比較して、強度が向上していると理解できる。
そうすると、本件明細書には、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上であれば、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化している結果、Sachs理論にも基づいて、応力方向に対する強度を高くすることができるという作用機序及び「力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上」を満足する実施例において、十分な強度を有する(0.2%耐力が向上する)ことが記載されており、また、アルミニウム合金の組成等によっては上記作用機序を敷衍できないという技術常識等があるともいえないから、本件明細書における発明の詳細な説明の記載から、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上である」又は「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上とする」という発明特定事項により、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化している結果、Sachs理論にも基づいて、応力方向に対する強度を高くすることができ、0.2%耐力を向上できると理解できる、すなわち「アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品及びその効果的な製造方法を提供する」という本件発明1?7の上記課題を解決できると当業者が認識できるといえる。

ウ 特許異議申立人は、本件発明1?7はその構成要件である「アルミニウム合金製の鍛造部品」について、アルミニウム合金の種類・組成を特定していないが、それに対して、本件明細書において実施例として記載されているのは、Siが1.05mass%、Feが0.19mass%、Cuが0.42mass%、Tiが0.02mass%、Mnが0.37mass%、Mgが0.85%、Crが0.27mass%の組成を有するアルミニウム合金1種のみで、また比較例として記載されているのも実施例と同様のアルミニウム合金であるところ、アルミニウム合金の種類・組成が異なれば、引張強さや耐力等の機械的性質が大きく異なることは技術常識であるから、本件明細書の上記アルミニウム合金1種のみの実施例・比較例の記載から、本件発明1?7に包含される多数の「アルミニウム合金製の鍛造部品」について、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上である」又は「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上とする」である場合に、「アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品及びその効果的な製造方法を提供」できる、すなわち本件発明1?7の課題が解決可能であるかどうか当業者が理解できない、旨主張している(特許異議申立書第25ページ第11行?第26ページ第9行。以下「主張F」という。)。
また、本件発明1?7において、シュミット因子の逆数の平均の上限が規定されていないが、それに対して、本件明細書の段落【0053】?【0060】(記載事項d)には、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37である実施例、2.43である実施例において0.2%耐力がそれぞれ417MPa、416MPaとなることが記載されており、シュミット因子の逆数の平均の値が高くなると0.2%耐力が低下すると理解できるから、シュミット因子の逆数の平均の値が極端に大きい場合などには、本件発明1?7の課題が解決可能であるかどうか当業者が理解できない、旨主張している(特許異議申立書第26ページ第10行?第27ページ第14行。以下「主張G」という。)ので、以下検討する。

エ まず、上記主張Fについて検討する。
上記イで述べたとおり、本件明細書には、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上であれば、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化している結果、Sachs理論にも基づいて、応力方向に対する強度を高くすることができるという作用機序及び「力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上」を満足する実施例において、十分な強度を有する(0.2%耐力が向上する)ことが記載されており、また、特許異議申立人は、アルミニウム合金の種類・組成が異なれば、引張強さや耐力等の機械的性質が大きく異なることは技術常識であるというが、そうであったとしても、アルミニウム合金の組成等によっては上記作用機序を敷衍できないとはいえないから、本件明細書における発明の詳細な説明の記載から、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上である」又は「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上とする」という発明特定事項により、最大応力発生部位に関して選択的に集合組織を最適化している結果、Sachs理論にも基づいて、応力方向に対する強度を高くすることができ、0.2%耐力を向上できると理解できる、すなわち「アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品及びその効果的な製造方法を提供する」という本件発明1?7の上記課題を解決できると当業者が認識できるといえる。
したがって、特許異議申立人の上記主張Fは採用できない。

オ 次に上記主張Gについて検討する。
「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上である」こと又は「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上とする」という発明特定事項に対応する本件明細書の段落【0013】?【0015】の「アルミニウムなどの面心立方格子の金属は、一般に12個のすべり系が活動する。結晶の方位と応力方向が決まれば、個々のすべり系はそれぞれ特有のシュミット因子を持ち、シュミット因子の大きなすべり系ほど活動に必要な応力は小さく、より活動しやすいすべり系であると言える。・・・Sachs理論においては、耐力はσ_(0)+τ_(CRSS)・mとなる。ここで、σ_(0)はアルミニウム合金の固有の強度に粒度の効果を加味した耐力、τ_(CRSS)は臨界分解せん断応力、mはシュミット因子の逆数(m値)である。・・・シュミット因子の逆数(m値)が大きな部材では、当該シュミット因子の逆数(m値)を測定した方向に関して、高い強度を示す」という記載(記載事項b)を参照すると、シュミット因子の逆数が大きくなるほど0.2%耐力は向上するものと理解できる。
また、本件明細書の段落【0053】?【0060】(記載事項d)には、外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.29である比較例、2.28である比較例において0.2%耐力がそれぞれ401MPa、397MPaであったものが、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37である実施例、2.43である実施例において0.2%耐力がそれぞれ417MPa、416MPaとなり、0.2%耐力が向上することが記載されているところ、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37である実施例、2.43である実施例において0.2%耐力がそれぞれ417MPa、416MPaとなる関係を除けば、シュミット因子の逆数が大きくなるほど0.2%耐力は向上しているから、全体的にみて、シュミット因子の逆数が大きくなるほど0.2%耐力は向上する傾向があるものと理解できる。また、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37である実施例、2.43である実施例において0.2%耐力がそれぞれ417MPa、416MPaとなるというデータの組合せを除けば、シュミット因子の逆数の平均の値が高くなると0.2%耐力が低下するデータはなく、シュミット因子の逆数の平均の値が高くなると一様に0.2%耐力が低下する傾向があるとは理解できない。
そうすると、本件明細書を参照しても、本件発明1の「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.37以上である」又は本件発明3の「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上とする」という発明特定事項により、「アルミニウム合金鋳造材からの鍛造部品としても、十分な強度を有するアルミニウム合金製の自動車用足回り部品及びその効果的な製造方法を提供する」という本件発明1?7の上記課題を解決できると当業者が認識できるといえ、シュミット因子の逆数の平均の値が極端に大きい場合などには、当該課題を解決できないと当業者が理解するとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張Gは採用できない。

(2)小括
以上より、本件発明1?7が、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。

4 申立理由4(特許法第36条第6項第2号)について
(1)検討
ア 請求項1、3における「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向において」という記載における、「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向」について、本件明細書の段落【0030】の「自動車用足回り部品1は、使用中に最大の応力が発生する最大応力発生部位をアーム部2に有しており、当該最大応力発生部位は使用態様に即して十分な強度を有している必要がある。・・・最大応力発生部位は、外力が印加された場合の負荷応力方向において、結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数の平均が2.3以上となるように設計されている」という記載及び段落【0032】の「上記の自動車用足回り部品1の全体構造や形状を前提として、通常の自動車用足回り部品1では、使用中に最大応力が発生する(最大応力が負荷される)特定部位は、アーム部2のボールジョイント取付部4側となる。また、自動車用足回り部品1の構造設計条件等で多少の差異は生じるものの、アーム部2への負荷応力方向は、アーム部2の略長手方向となる」という記載(いずれも記載事項c)を参照すると、本件発明1、3における「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向」という発明特定事項は、自動車用足回り部品ごとに、その使用態様に即して定まる、使用中に最大の応力が発生する最大応力発生部位における負荷応力方向を意味していると理解できる。
そうすると、本件発明1、3における「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向」は、外力の印加状況によって変化するものではなく、自動車用足回り部品ごとに、その使用態様に即して一意に定まる方向を意味しているといえる。したがって、本件発明1、3に含まれる具体的な事物の範囲を一義的に特定することができないとまではいえない。

イ 特許異議申立人は、自動車用足回り部品には、本件明細書の段落【0027】に記載されたアッパアーム、ロアアーム、トランスバースリンク、ナックル、トレーリングアーム等、多種多様な形状の部品が含まれ、そのような多種多様な形状に対して外力が印加された場合、「最大応力発生部位」がいかなる部位となるのか、また「負荷応力方向」がどのような方向となるのか想定できず、これら「最大応力発生部位」及び「負荷応力方向」を一意に特定することができないし、そもそも、どのような方向のどのような力を受けるかによって「最大応力発生部位」及び「負荷応力方向」自体も変化するから、本件特許の請求項1、3の記載は明確でない、旨主張している(特許異議申立書第27ページ第16行?第28ページ第9行。以下「主張H」という。)ので、以下検討する。

ウ 上記アで述べたとおり、本件明細書の段落【0030】及び段落【0032】(いずれも記載事項c)を参照すると、本件発明1、3における「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向」という発明特定事項は、自動車用足回り部品ごとに、その使用態様に即して一意に定まる、使用中に最大の応力が発生する最大応力発生部位における負荷応力方向を意味していると理解できる。
そうすると、自動車用足回り部品に、アッパアーム、ロアアーム、トランスバースリンク、ナックル、トレーリングアーム等、多種多様な形状の部品が含まれるとしても、本件発明1、3における「外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向」は、それら自動車用足回り部品ごとに、その使用態様や想定される外力の印加状況に即して定まる一意のものを意味しているといえ、外力が印加された場合にその都度変化するものではないと理解できるから、本件発明1、3に含まれる具体的な事物の範囲を一義的に特定することができないとまではいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張Hは採用できない。

エ よって、本件発明1、3が明確でないとはいえない。
また、請求項1を引用する請求項2、請求項3を引用する請求項4?7についても同様であるから、本件発明2、4?7が明確でないとはいえない。

(2)小括
以上より、本件発明1?7が、明確でないとはいえない。

5 申立理由5(特許法第36条第4項第1号 実施可能要件)について
(1)検討
ア 本件明細書の段落【0043】?【0044】の「アルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加え、アルミニウム合金鋳塊の結晶方位を制御する第二工程(S02)では、異形連鋳棒8を切断して得られるスライス材10の端部を、略一方向(外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向)に伸長させるように塑性変形を加える・・・スライス材10の端部を伸長させた領域は、最終的に自動車用足回り部品1のアーム部2となる領域に相当する。当該領域において、外力が印加された場合の負荷応力方向(アーム部2の略長手方向)における結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数(m値)の平均が2.3以上となるように鍛造する(特定の方向にメタルフローを形成させる)ことで、軽量かつ高強度な自動車用足回り部品1を得ることができる。」という記載(記載事項c)及び段落【0053】?【0058】の「表1に記載の組成を有する熱処理型のアルミニウム合金を、図3に示した形状に半連続鋳造した。得られた鋳塊を均質化処理した後、それぞれ30mmの厚さに切断した(第一工程)。得られたアルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加えて結晶方位を制御する第二工程の後、熱間鍛造(第三工程)[粗鍛造→仕上鍛造]を行い、図1に示す形状の鍛造品を得た。第二工程の塑性変形には熱間鍛造を用い、当該熱間鍛造の条件は、素材温度500℃及び圧下率40%とした。なお、得られた鍛造品にはT6調質処理を施した(第四工程)。」という記載(記載事項d)を参照すると、本件明細書から、アルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加え、アルミニウム合金鋳塊の結晶方位を制御する第二工程(S02)を、異形連鋳棒8を切断して得られるスライス材10の端部を、略一方向(外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向)に伸長させるように塑性変形を加える工程とする、要するに、スライス材の端部を伸長させた領域は最終的に自動車用足回り部品1のアーム部2となる領域に相当し、当該領域において、外力が印加された場合の負荷応力方向(アーム部2の略長手方向)における結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数(m値)の平均が2.3以上となるように鍛造する(特定の方向にメタルフローを形成させる)ことで、本件発明1?7に係る足回り部品を製造できると理解できる。また、製造条件の具体例として、Siが1.05mass%、Feが0.19mass%、Cuが0.42mass%、Tiが0.02mass%、Mnが0.37mass%、Mgが0.85%、Crが0.27mass%の組成を有するアルミニウム合金について、第二工程の塑性変形には熱間鍛造を用い、当該熱間鍛造の条件を、素材温度500℃及び圧下率40%とすることが記載されている。
また、アルミニウム合金の組成等が異なると、かかる塑性変形によっては、本件発明1?7に係る足回り部品を製造できないという技術常識等があるともいえないし、製造条件を見いだすために過度の試行錯誤を要するともいえない。
そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の範囲の記載を参照しても、当業者がその実施をすることができないとはいえない。

イ 特許異議申立人は、本件明細書において実施例として記載されているのは、Siが1.05mass%、Feが0.19mass%、Cuが0.42mass%、Tiが0.02mass%、Mnが0.37mass%、Mgが0.85%、Crが0.27mass%の組成を有するアルミニウム合金1種のみで、また比較例として記載されているのも実施例と同様のアルミニウム合金であるところ、当該種類・組成以外のアルミニウム合金を使用した場合、例えば、アルミニウム合金がCu、Zn、Niを含有する場合、こうした成分がシュミット因子にどのような影響を与えるか不明であり、単に塑性加工の圧下率を制御すれば良いのか、それとも各工程において別の制御が必要となるのか、さらに別の工程を設けるべきであるのか不明である、旨主張している(特許異議申立書第28ページ第13行?第29ページ第3行。以下「主張I」という。)ので、以下検討する。

ウ 上記アで述べたとおり、本件明細書の段落【0043】?【0044】(記載事項c)及び段落【0053】?【0058】(記載事項d)を参照すると、本件明細書から、アルミニウム合金鋳塊に塑性変形を加え、アルミニウム合金鋳塊の結晶方位を制御する第二工程(S02)を、異形連鋳棒8を切断して得られるスライス材10の端部を、略一方向(外力が印加された場合の最大応力発生部位の負荷応力方向)に伸長させるように塑性変形を加える工程とする、要するに、スライス材の端部を伸長させた領域は最終的に自動車用足回り部品1のアーム部2となる領域に相当し、当該領域において、外力が印加された場合の負荷応力方向(アーム部2の略長手方向)における結晶方位から算出されるシュミット因子の逆数(m値)の平均が2.3以上となるように鍛造する(特定の方向にメタルフローを形成させる)ことで本件発明1?7に係る足回り部品を製造できると理解できる。また、製造条件の具体例として、Siが1.05mass%、Feが0.19mass%、Cuが0.42mass%、Tiが0.02mass%、Mnが0.37mass%、Mgが0.85%、Crが0.27mass%の組成を有するアルミニウム合金について、第二工程の塑性変形には熱間鍛造を用い、当該熱間鍛造の条件は、素材温度500℃及び圧下率40%とすれば、シュミット因子の逆数(m値)の平均が2.3以上又は2.37以上となると理解できる。
さらに、アルミニウム合金の組成等が異なる場合、例えば、アルミニウム合金がCu、Zn、Niを含有する場合に、かかる塑性変形によっては、本件発明1?7に係る足回り部品を製造できないという技術常識等があるとはいえないし、製造条件を見いだすために過度の試行錯誤を要するともいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張Iは採用できない。

(2)小括
以上より、本件特許の発明の詳細な説明の範囲の記載が、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。

第7 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許が、特許法第29条第2項及び第1項第3号の規定に違反してなされたものとはいえないことから、特許法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、本件特許が特許法36条第6項、第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないことから、特許法第113条第4号の規定に該当するものとして取り消すことがはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-21 
出願番号 特願2013-259461(P2013-259461)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B60G)
P 1 651・ 113- Y (B60G)
P 1 651・ 121- Y (B60G)
P 1 651・ 537- Y (B60G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 出口 昌哉
中田 善邦
登録日 2017-09-08 
登録番号 特許第6201716号(P6201716)
権利者 日本軽金属株式会社
発明の名称 自動車用足回り部品及びその製造方法  
代理人 特許業務法人IPRコンサルタント  
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