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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
管理番号 1342013
異議申立番号 異議2018-700236  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-20 
確定日 2018-07-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6199529号発明「エンボス加工用複合材およびエンボス加工品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6199529号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第6199529号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成28年9月23日(優先権主張 平成27年9月30日 日本国)を国際出願日とする出願であって、平成29年9月1日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成30年3月20日に、その特許に対し、特許異議申立人馬越寧子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項1?8に係る発明(以下「本件発明1?8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
表皮材の一面に軟質ポリウレタンフォームシートが積層されたエンボス加工用複合材であって、前記軟質ポリウレタンフォームシートは、厚さが3?15mmであり、100?150℃の温度範囲における圧縮率が5?40%の範囲である、エンボス加工用複合材。
【請求項2】
前記軟質ポリウレタンフォームシートの圧縮残留歪みが30%以下である、請求項1に記載のエンボス加工用複合材。
【請求項3】
前記軟質ポリウレタンフォームシートの繰り返し圧縮残留歪みが10%以下である、請求項1又は2に記載のエンボス加工用複合材。
【請求項4】
前記軟質ポリウレタンフォームシートの密度が16?60kg/m^(3)である、請求項1?3のいずれか1項に記載のエンボス加工用複合材。
【請求項5】
前記軟質ポリウレタンフォームシートの反発弾性が20%以上である、請求項1?4のいずれか1項に記載のエンボス加工用複合材。
【請求項6】
前記軟質ポリウレタンフォームシートの100?150℃の温度範囲における圧縮率が10?30%の範囲である、請求項1?5のいずれか1項に記載のエンボス加工用複合材。
【請求項7】
請求項1?6のいずれか1項に記載のエンボス加工用複合材を含み、前記エンボス加工用複合材の表皮材表面にエンボス加工が施されたエンボス加工品。
【請求項8】
前記エンボス加工により形成された凹部における前記軟質ポリウレタンフォームシートの厚みが1.0mm以下であり、前記凹部の深さが3.0mm以上である、請求項7に記載のエンボス加工品。」

3.申立理由の概要
申立人は、甲第1号証(特開2014-184580号公報。以下「甲1」という。)及び甲第2号証(馬越寧子、「実験成績証明書」、2018年3月1日作成。以下「甲2」という。)を提出し、本件発明1?4、6、7は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件発明5、8は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1?8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するため取り消すべきものである旨、申立てている。

4.当審の判断
(1)甲1に記載された発明
ア.甲1には、実施例1(【0020】、【0032】?【0035】)の積層シートに係る発明として、
「ポリエーテルポリオール(分子量3000、官能基数3、水酸基価56mgKOH/g、品名:サンニックスGP3000、三洋化成工業社製)100質量部に対し、トリレンジイソシアネート(2,4-TDIと、2,6-TDIが80:20の割合であるTDI、品名:TDI-80、日本ポリウレタン工業株式会社製)をイソシアネートインデックスが115であるように含むポリウレタン原料から作成した軟質ポリウレタンフォームを、厚み15mmに裁断したものと、裏基布と、からなる積層シートであって、
軟質ポリウレタンフォームは、エステル価が41.3mgKOH/g、圧縮残留歪(JIS K 6400-4 6.2B法、70℃×22時間×50%圧縮後)が3%、密度(JIS K7222準拠)が22kg/m^(3)、硬さ(JIS K 6400-2:2004に準拠)が105である、積層シート」の発明(以下「甲1-1発明」という。)が記載されている。
イ.同様に、甲1には、実施例2?8の積層シートに係る各発明(以下「甲1-2発明」等という。)も記載されている。

(2)本件発明1について
ア.本件発明1と甲1-1発明を対比すると、両者は、少なくとも以下の相違点1で相違する。
《相違点1》
軟質ポリウレタンフォームの特性について、本件発明1は、「100?150℃の温度範囲における圧縮率が5?40%の範囲である」のに対し、甲1-1発明は、エステル価が41.3mgKOH/g、圧縮残留歪(JIS K 6400-4 6.2B法、70℃×22時間×50%圧縮後)が3%、密度(JIS K7222準拠)が22kg/m^(3)、硬さ(JIS K 6400-2:2004に準拠)が105ではあるものの、「100?150℃の温度範囲における圧縮率が5?40%の範囲」であるか不明である点。
イ.そこで、上記相違点1について検討すると、本件特許の願書に添付した明細書の記載によれば、本件発明1の「圧縮率」は「熱機械分析(TMA)装置」を「使用し、圧子として先端が平らな膨張測定用プローブを用い、一定荷重を加え昇温した時の各温度における軟質ポリウレタンフォームシートの厚さの変位を測定し、軟質ポリウレタンフォームシートの加温前の厚さ(mm)に対する割合(%)を求めた」(【0045】)ものであるところ、本件発明1の「100?150℃の温度範囲における圧縮率が5?40%の範囲」との特性には、「複合材のエンボス加工時、軟質ポリウレタンフォームシートの温度は、一般に100?150℃の範囲内となる」ことから、その「100?150℃の温度範囲」において、圧縮率が「5%以上であることにより、エンボス加工による凹凸意匠の賦型性が不十分となることを抑制することができ」、「40%以下であることにより、エンボス加工時の熱により軟質ポリウレタンフォームにヘタリが生じクッション性能およびその耐久性が損なわれることを抑制することができる」(【0015】)という技術的意義を有するものである。
一方、甲1-1発明の軟質ポリウレタンフォームの特性としての「エステル価が41.3mgKOH/g、圧縮残留歪(JIS K 6400-4 6.2B法、70℃×22時間×50%圧縮後)が3%、密度(JIS K7222準拠)が22kg/m^(3)、硬さ(JIS K 6400-2:2004に準拠)が105」は、本件発明1の「圧縮率」のように、「一定荷重を加え昇温した時の各温度における軟質ポリウレタンフォームシートの厚さの変位」を示す指標ではなく、甲1-1発明の軟質ポリウレタンフォームの特性が、本件発明1の上記特性を備えるものとは直ちにはいえない。
ウ.この点に関し、申立人は甲2の「実験成績証明書」を提出して、甲1(特に、請求項1、【0012】)に記載されたエステル価、圧縮残留歪、密度、硬さの数値範囲を充足する市販品の軟質ポリウレタンフォームの試験品A?Cは、100?150℃の温度範囲における圧縮率が5?40%の範囲であるとしている。
しかし、甲2の「実験成績証明書」で試験対象とした市販品の軟質ポリウレタンフォームの試験品A?Cは、いずれも甲1-1発明の「ポリエーテルポリオール(分子量3000、官能基数3、水酸基価56mgKOH/g、品名:サンニックスGP3000、三洋化成工業社製)100質量部に対し、トリレンジイソシアネート(2,4-TDIと、2,6-TDIが80:20の割合であるTDI、品名:TDI-80、日本ポリウレタン工業株式会社製)をイソシアネートインデックスが115であるように含むポリウレタン原料から作成した軟質ポリウレタンフォーム」であることは示されていない。
そのため、甲2の試験品A?Cが、本件発明1の「100?150℃の温度範囲における圧縮率が5?40%の範囲」との特性を有するものとしても、試験品A?Cとは別の製造品である甲1-1発明の軟質ポリウレタンフォームについて、本件発明1の上記特性を有することを示すものとはならない。また、他に、甲1-1発明の軟質ポリウレタンフォームが、本件発明1の上記特性を有することを示す証拠は提出されていない。
エ.よって、甲1-1発明の「エステル価が41.3mgKOH/g、圧縮残留歪(JIS K 6400-4 6.2B法、70℃×22時間×50%圧縮後)が3%、密度(JIS K7222準拠)が22kg/m^(3)、硬さ(JIS K 6400-2:2004に準拠)が105」の特性を備えるものが、「100?150℃の温度範囲における圧縮率が5?40%の範囲である」という特性を備えるものであるとはいえないから、本件発明1と甲1-1発明との上記相違点1は実質的なものであり、本件発明1は甲1-1発明ではない。
オ.甲1には、さらに実施例2?8の積層シートに係る甲1-2発明?甲1-8発明も記載されているが、これらの各発明の軟質ポリウレタンフォームも、実施例1に係る甲1-1発明のものと同様に、本件発明1の上記特性を備えるものといえるものではなく、本件発明1は、甲1-2発明?甲1-8発明でもない。
そして、甲1には、100?150℃の温度範囲での軟質ポリウレタンフォームシートの厚さの変位に係る「圧縮率」に着目する記載はなく、他に、「100?150℃の温度範囲における圧縮率が5?40%の範囲」との特性を有する軟質ポリウレタンフォームについて示唆する記載もない。
カ.よって、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(3)本件発明2?4、6について
本件発明2?4、6は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記(2)のとおり、本件発明1は甲1に記載された発明ではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2?4、6も、甲1に記載された発明ではない。
よって、本件発明2?4、6は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、本件発明2?4、6に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(4)本件発明5について
ア.本件発明5は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記(2)のとおり、本件発明1は、甲1-1発明とは少なくとも上記相違点1で相違するから、本件発明5も、甲1-1発明とは少なくとも上記相違点1で相違する。
イ.甲1には、前記(2)オ.で述べたように、100?150℃の温度範囲での軟質ポリウレタンフォームシートの厚さの変位に係る「圧縮率」に着目する記載はなく、甲1-1発明の軟質ポリウレタンフォームにおいて、「100?150℃の温度範囲における圧縮率が5?40%の範囲」との特性を備えるようとする動機付けはない。
そうすると、本件発明5の上記相違点1に係る構成は、甲1-1発明から、容易に想到することができたものではない。
また、このことは、甲1の実施例2?8の積層シートに係る甲1-2発明?甲1-8発明との対比においても同様である。
ウ.よって、本件発明5は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明1?5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(5)本件発明7、8について
ア.本件発明7は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含み、さらに「前記エンボス加工用複合材の表皮材表面にエンボス加工が施されたエンボス加工品」であることを特定するものである。
一方、甲1(【0036】)には、熱プレスにより凹凸模様を形成した実施例1の積層シートに係る発明として、
「甲1-1発明の積層シートに、加熱温度180℃の凹凸賦形型を240秒加圧して得たものであって成形率が70.3%である、凹凸模様を形成した積層シート」の発明(以下「甲1-1’発明」という。)も記載されている。
同様に、甲1には、熱プレスにより凹凸模様を形成した実施例2?8の積層シートに係る各発明も記載されている。
イ.本件発明7と、この甲1-1’発明を対比すると、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明7は、甲1-1’発明とは少なくとも上記相違点1で相違する。
そして、この相違点1は、上記(2)で述べたように実質的なものであるから、本件発明7は甲1-1’発明ではない。
また、甲1の熱プレスにより凹凸模様を形成した実施例2?8の積層シートに係る各発明でもないし、甲1には、「100?150℃の温度範囲における圧縮率が5?40%の範囲」との特性を有する軟質ポリウレタンフォームについて示唆する記載もない。
よって、本件発明7は、甲1に記載された発明ではない。
ウ.本件発明8は、本件発明7の発明特定事項をすべて含むものであるところ、上記イ.のとおり、本件発明7は、甲1-1’発明とは少なくとも上記相違点1で相違するから、本件発明8も、甲1-1’発明とは少なくとも上記相違点1で相違する。
この本件発明8の上記相違点1に係る構成は、上記(4)で述べた理由と同様に、甲1-1’発明から、当業者が容易に想到することができたものではない。
また、このことは、甲1の熱プレスにより凹凸模様を形成した実施例2?8の積層シートに係る各発明との対比においても同様である。
よって、本件発明8は、甲1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ.したがって、本件発明7は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、本件発明8は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明7、8に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(6)むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-25 
出願番号 特願2017-518381(P2017-518381)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 平井 裕彰藤田 雅也  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 井上 茂夫
門前 浩一
登録日 2017-09-01 
登録番号 特許第6199529号(P6199529)
権利者 セーレン株式会社
発明の名称 エンボス加工用複合材およびエンボス加工品  
代理人 蔦田 正人  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 有近 康臣  
代理人 前澤 龍  
代理人 中村 哲士  
代理人 水鳥 正裕  
代理人 富田 克幸  

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