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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01C
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01C
管理番号 1342021
異議申立番号 異議2018-700248  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-26 
確定日 2018-07-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6205119号発明「2系統光学系を有する距離方向自動測定装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6205119号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6205119号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし7に係る特許についての出願は、平成24年11月13日に特許出願され、平成29年9月8日に特許権の設定登録がされ、その特許に対して、平成30年3月26日に特許異議申立人所智恵子により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1-7の特許に係る発明(以下、「本件特許発明1」-「本件特許発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1-7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
測定基準点に設置した測定装置によって、測定対象物の映像を操作者が視認し、測定目標点を選定し、その方向と距離とを測定する自動測定装置において、
測定対象物の映像は対物レンズによる画像センサ上への結像で得たものをディスプレイ上に表示すること、
距離測定機構は対物レンズの光軸に沿って設けたレーザ光線の発・受光機構によること、の2系統以上の光学系を有し、
対物レンズの前面側に光軸折り曲げ用45度反射鏡を有する回転ミラー部を設けること、
これにより両光軸を鉛直面内に回転可能とすること、
この回転による画像センサ上に結像する測定対象物の映像の回転を、当該映像を表示するディスプレイ機構上では当該回転分を逆回転して表示する正立表示ソフトを有すること、
の各条件を満たす測定装置であって、回転ミラー部以外の光学系を水平回転ベースに固定的に設置することにより、レーザ光線の発・受光機構を含む複数の光学系操作機構とその制御・処理用の電気・電子回路との接続を固定的に構成可能とすることを特徴とする2系統光学系を有する距離方向自動測定装置。
【請求項2】
測定基準点に設置した測定装置によって、測定対象物の映像を操作者が視認し、測定目標点を選定し、その方向と距離とを測定する自動測定装置において、
測定対象物の映像は対物レンズによる画像センサ上への結像で得たものをディスプレイ上に表示すること、
距離測定機構は対物レンズの光軸に沿って設けたレーザ光線の発・受光機構によることの2系統以上の光学系を有し、
対物レンズとその背面側に配置した光軸折り曲げ用45度反射鏡とを有する回転ミラー部を設けること、
これにより両光軸を鉛直面内に回転可能とすること、
この回転による対物レンズが画像センサ上に結像する測定対象物の映像の回転を、当該映像を表示するディスプレイ機構上では当該回転分を逆回転して表示する正立表示ソフトを有すること、
の各条件を満たす測定装置であって、
対物レンズを含む回転ミラー部以外の光学系を水平回転ベースに固定的に設置することにより、レーザ光線の発・受光機構を含む複数の光学系操作機構とその制御・処理用の電気・電子回路との接続を固定的に構成可能とすることを特徴とする2系統光学系を有する距離方向自動測定装置。
【請求項3】
対物レンズを焦点距離可変範囲の充分大きいズームレンズとし、その結像部以降の光学系を水平回転ベースに固定的に設置することを特徴とする請求項1又は2記載の2系統光学系を有する距離方向自動測定装置。
【請求項4】
対物レンズ光学系の光軸中心とレーザ光線の光軸との方向に誤差を含むこと、及び/または、回転ミラー部の機構的な回転軸と、回転された両光軸との直交性に誤差を含むこと、を前提として、回転ミラー部の鉛直面内の各回転位置に於いて、誤差内容を「標準誤差要素」として記録するとともに、個々の製品の制御回路の記録素子に記録して組み込み、実用時には記録した「標準誤差要素」の誤差内容に基づく位置修正・角度修正を自動的に行うことにより、ディスプレイ上の表示も、測定対象物上の実在の目標点に対するレーザ光照射も、すべて正しい状態を保つことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の2系統光学系を有する距離方向自動測定装置。
【請求項5】
前記回転ミラー部は光軸を、真下を超えて回転することを可能とし、本体下方に設置した位置基準ターゲットをディスプレイ上に表示できるようにして測定基準点の設定を容易にしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の2系統光学系を有する距離方向自動測定装置。
【請求項6】
水平回転ベースには、水平回転軸または水平回転軸受を設けて、本体すなわち固定ベースの回転軸受または回転軸と係合して固定ベースに対する水平回転を可能とし、当該回転軸を中空とすることで、回転ミラー部の回転により光軸を鉛直下向きにした場合、本体下方に設置した位置基準ターゲットをディスプレイ上に表示できるようにして測定光軸の水平回転基準点の設定を容易にしたことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の2系統光学系を有する距離方向自動測定装置。
【請求項7】
前記回転ミラー部は光軸を真上を超えて回転することを可能とし、本体設置部の真上の、または真上を超えた場所の目標対象物をディスプレイ上で視認選定可能とすることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の2系統光学系を有する距離方向自動測定装置。」

第3 申立理由の概要
理由1 特許異議申立人は、本件特許発明1-7は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないので、同法第113条第4号により取り消されるべきである旨主張している。

理由2 特許異議申立人は、主たる証拠として甲第1号証及び従たる証拠として甲第2号証-甲第14号証を提出し、請求項1-7に係る特許は第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである旨主張している。

<証拠方法>
甲第1号証:米国特許出願公開第2012/0033069号明細書
甲第2号証:特開2008-76303号公報
甲第3号証:特開2006-3119号公報
甲第4号証:特開2004-37127号公報
甲第5号証:特開平11-4373号公報
甲第6号証:特開2001-57641号公報
甲第7号証:特開平10-136237号公報
甲第8号証:特開2001-255144号公報
甲第9号証:特開2001-128038号公報
甲第10号証:特開2012-112896号公報
甲第11号証:特開2008-32701号公報
甲第12号証:特開2000-275042号公報
甲第13号証:特開2002-98531号公報
甲第14号証:特許第3803188号公報

第4 理由1(第36条第6項第2号)について
1 本件特許発明1について
異議申立人は、異議申立書において、
「【請求項1】
・・・
B 測定対象物の映像は対物レンズによる画像センサ上への結像で得たものをディスプレイ上に表示すること、
C 距離測定機構は対物レンズの光軸に沿って設けたレーザ光線の発・受光機構によること、の2系統以上の光学系を有し、
D 対物レンズの前面側に光軸折り曲げ用45度反射鏡を有する回転ミラー部を設けること、これにより両光軸を鉛直面内に回転可能とすること、
・・・」(異議申立書第11頁第13行-第12頁第3行)と、請求項1を構成要件毎に分節し、
「(1) 請求項1の構成要件B?Dには、それぞれ「対物レンズ」という発明特定事項が存在するところ、これらの「対物レンズ」が共通する一つの対物レンズとして特定される場合、構成要件C及びDにおける「対物レンズ」は、「前記対物レンズ」と記載する必要があるが、単に「対物レンズ」と記載されているものである。
したがって、請求項1を文言どおりに解釈すれば、構成要件Bの画像センサ上への結像に用いる「対物レンズ」と、構成要件Cの距離測定機構にある「対物レンズ」とが、共通する一つの対物レンズであっても、それぞれ異なる対物レンズであっても、そのいずれでもよいと解釈される。
(2)・・・
一方、本件特許明細書における発明の実施形態又は実施例として記載された測定装置は、いずれも共通する一つの対物レンズを有する測定装置とされており、異なる対物レンズである場合が記載されていない。そうすると、サポート要件を充足しているというのであれば、かかる明細書の記載を参酌すると、前記「対物レンズ」とは、共通する一つの対物レンズであると解釈されるべきこととなるが、他方、前記のとおり、請求項の文言上は、構成要件C及びDにおける「対物レンズ」には、異なる対物レンズである場合が包含されると解釈され得る。
したがって、請求項1の記載は、構成要件C及びDにおける「対物レンズ」について、当業者が具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できる程度に明確に記載されておらず、特許を受けようとする発明を不明確にするものであり、明らかに特許法第36条6項2号(明確性要件)に違反する。」(異議申立書第14頁第5行-第15頁第3行)と主張している。

そこで、検討すると、請求項1の構成要件B?Dには、それぞれ「対物レンズ」という記載があり、当該「対物レンズ」は、共通する一つの対物レンズであるか、複数の異なる対物レンズであるのか解釈の余地があるように捉えられるが、
請求項1の上記構成要件B?Dの記載及び他の構成要件の記載を精査しても、請求項1には「対物レンズ」が複数であることの記載又は示唆はないことから、請求項1に記載された「対物レンズ」は、共通する一つの対物レンズであると解釈される。
また、明細書及び図面の記載を参酌しても、発明の実施形態又は実施例として記載された測定装置は、いずれも共通する一つの対物レンズを有する測定装置であり、請求項1に記載された「対物レンズ」を、共通する一つの対物レンズであると解釈することとの間に矛盾はない。
したがって、請求項1に記載された「対物レンズ」は、共通する一つの対物レンズであり、請求項1の記載は明確である。

したがって、本件特許発明1は、明確である。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

2 本件特許発明2について
請求項1と同じ理由により、請求項2に記載された「対物レンズ」は、共通する一つの対物レンズであり、請求項2の記載は明確である。

したがって、本件特許発明2は、明確である。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

3 本件特許発明3-7について
本件特許発明1又は2を、直接又は間接的に引用する本件特許発明3-7についても、同様な理由により、明確である。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1-7は、特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしているから、特許法第113条第4号により取り消すことはできない。

第5 理由2(第29条第2項)について
1 甲第1号証-甲第14号証の記載事項
(1)甲第1号証には、以下のように記載されている。(下線は、当審で付与したものである。以下同様。なお、翻訳は、異議申立人の翻訳によった。)
「[0003]・・・ A laser scanner can be used to optically scan and measure objects in a volume around the laser scanner. Laser scanners collect a variety of data points representing objects in the surrounding volume. Such data points are obtained by transmitting a beam of light onto the objects in the volume and collecting the reflected or scattered light to determine, for each point, a distance, two angles (for example, an azimuth and a zenith angle), and a gray-scale value (i.e., a quantity related to the irradiance of the scattered light returned to the scanner). ・・・
[0004] Many contemporary laser scanners also include a camera mounted on the laser scanner for gathering camera digital images of the environment and for presenting the camera digital images to an operator of the laser scanner. By viewing the camera images, the operator of the scanner can determine the field of view of the measured volume and adjust settings on the laser scanner to measure over a larger or smaller region of space if the field of view needs adjusting. 」
(翻訳:【0003】・・・レーザスキャナを使用して、レーザスキャナの周囲のボリューム内のオブジェクトを光学的に走査して測定をすることができる。レーザスキャナは、周囲のボリューム内のオブジェクトを表す様々なデータポイントを収集する。このようなデータポイントは、ボリューム内のオブジェクトに光ビームを送信し、その反射光又は散乱光を収集し、各点について、距離、2つの角度(例えば、方位角及び天頂角)、及びグレースケール値(すなわち、スキャナに戻される散乱光の放射照度に関する量)を測定することによって得ることができる。・・・
【0004】 現代の多くのレーザスキャナは、レーザスキャナに取り付けられたカメラも含み、環境のデジタルカメラ画像を収集し、レーザスキャナのオペレータにデジタルカメラ画像を提示する。カメラ画像を見ることによって、スキャナのオペレータは、測定されたボリュームの視野を決定し、視野が調整される必要がある場合、より大きい又はより小さな空間領域にわたって測定するようにレーザスキャナの設定を調整することができる。)

「[0058] Referring to FIG. 9 , the laser scanner 910 comprises a light emitter 912 and a light receiver 914 , which are connected to an evaluation and control unit 916 . In an embodiment, the light emitter 912 comprises a laser diode 972 that is designed to generate a laser beam 918 having a wavelength of approximately 905 nm as an emission light beam. The emission light beam 918 is emitted in order to illuminate a measuring point 917 on the surface of an object 920 . In an embodiment, the emission light beam 918 is amplitude-modulated with a rectangular-waveform modulation signal in order to determine the distance d from the illuminated object point by evaluating phase information. Any suitable modulation signal may be utilized, for example, the emission light beam 918 can be modulated with a sinusoidal modulation signal and/or the emission light beam 918 can be emitted in pulsed fashion in order to determine the distance d on the basis of a pulse propagation time method.
[0059] The emission light beam 918 is deflected by a minor 922 to the object 920 . The reference number 924 designates a reception light beam that is reflected from the object 920 and is deflected via the minor 922 to the receiver 914 . The minor 922 is arranged here at the angled front end face of a cylinder 926 connected to a rotary drive 930 via a shaft 928 . With the aid of the rotary drive 930 , the minor 922 can be rotated about an axis 932 of rotation. The rotation direction is indicated here by reference numeral 933 . The respective rotary position of the minor 922 can be determined with aid of an angular encoder 934 . The output signals of the encoder 934 are likewise fed to the evaluation and control unit 916 through wires not illustrated here for reasons of clarity.
[0060] In an embodiment, the axis 932 of rotation is arranged horizontally and the minor 922 is inclined at an angle of approximately 45° relative to the axis 932 of rotation. A rotation of the mirror 922 about the horizontal axis 932 therefore has the consequence that the emission light beam 918 is deflected along a vertical plane (that is to say in elevation). The emission light beam 918 forms, when the minor 922 is rotating, a fan with which the spatial region 936 is scanned in the vertical plane.
[0061] The laser scanner 910 here has a housing structure essentially having two housing parts 938 , 940 . The housing parts 938 , 940 are arranged on a common baseplate 942 . The emitter 912 , the receiver 914 and the evaluation and control unit 916 are accommodated in the housing part 938 illustrated on the left in FIG. 9 . The housing part illustrated on the right in FIG. 9 accommodates the rotary drive with the encoder 934 and the cylinder 926 , wherein the cylinder 926 with the minor 922 projects from the housing part 940 , such that the minor 922 is arranged approximately centrally between the two housing parts 938 , 940 .
[0062] The baseplate 942 is arranged on a rotary drive 944 seated on a stand 946 . The stand 946 is height-adjustable and has a scaling 948 in order to be able to perform a reproducible height setting. The reference numeral 950 designates a further encoder, with the aid of which the rotational position of the rotary drive 944 can be determined. The output signals of the encoder 950 are likewise fed to the evaluation and control unit 916 .
[0063] The rotary drive 944 enables the laser scanner 910 to be rotated about a vertical axis 952 which together with the axis 932 of rotation defines an axial intersection point. ・・・
[0064] The evaluation and control unit 916 here comprises a microprocessor 954 and an FPGA (field programmable gate array) 956 . The FPGA 956 here generates the binary rectangular-waveform modulation signal with which the laser diode of the light emitter 912 is driven. The microprocessor 954 reads in digitized reception data from the light receiver 914 and determines the distance d between the laser scanner 910 and the object 920 on the basis of these data. The microprocessor 954 and the FPGA 956 communicate with one another, wherein the microprocessor 954 receives, inter alia, the phase information of the emission light beam for determining the propagation time.
[0065] The reception optical unit 958 of the light receiver 914 comprises at least one first lens element 960 (there can also be a plurality of first lens elements which together fulfill the function of the first lens element described below), a second lens element 962 and a pinhole diaphragm 964 . The light detector 966 is arranged behind the pinhole diaphragm 964 and detects the reception light beam 924 . As can readily be understood, the light emitter 912 shades the reception light beam 924 in a central region of the reception optical unit since the light emitter 912 here is arranged coaxially in front of the light receiver 914 . In order to illustrate this shading pictorially, the reception light beam 924 is illustrated ”doubly” and with an exaggerated width in comparison with the emission light beam 918 . The reception light beam 924 actually reaches the light detector 966 here in the form of a light ring whose inner center is shaded by the light emitter 912 .
[0066] As shown in FIG. 9 , a laser collimator 972 is beside the receiving optics. Via mirror 970 and mirror 911 , laser light is transmitted to the large rotating mirror 922 . A color camera 968 is located behind minor 912 in a hole of lens 960 . Minor 912 is transparent for visible light and acts as a mirror for the 905 nm wavelength of the laser. Thus, the color camera 968 can take images of the environment of the scanner through minor 912 and minor 922 .
[0067]・・・ In an exemplary embodiment, the graphics display 904 furthermore serves to display a distance image and/or an optical image that was recorded with the aid of the first light detector 966 and/or the camera 968 , respectively. The distance image shows the recorded spatial region 936 in the form of a black and white image or in the form of a false color representation, wherein each represented pixel represents a 3D coordinate value that can be displayed when a cursor moves to the corresponding pixel. In an embodiment, the optical image is a color image which was recorded with the aid of the camera 960 and which shows the spatial region 936 .」
(翻訳:【0058】 図9を参照すると、レーザスキャナ910は、評価及び制御ユニット916に接続された発光装置912及び受光装置914を備える。一実施形態では、発光装置912は、放射光ビームとして約905nmの波長を有するレーザビーム918を生成するように設計されたレーザダイオード972を含む。オブジェクト920の表面上の測定点917を照明するために放射光ビーム918を放射する。一実施形態では、放射光ビーム918は、矩形波形変調信号で振幅変調され、位相情報を評価することによって被照明オブジェクトポイントからの距離dを測定する。任意の適切な変調信号を利用することができ、例えば、放射光ビーム918を正弦波変調信号で変調することができ、かつ/又は放射光ビーム918を、パルス状に発射して、パルス伝播時間法に基づいて距離dを測定することができる。
【0059】
放射光ビーム918は、ミラー922によってオブジェクト920に偏向される。参照番号924は、オブジェクト920から反射され、ミラー922を介して受光装置914に偏向される受光ビームを示す。ミラー922は、ここでは、シャフト928を介して回転駆動装置930に接続されたシリンダ926の傾斜した前端面に配置されている。回転駆動装置930を用いて、ミラー922を回転軸932の周りに回転させることができる。ここでは回転方向を参照番号933で示す。ミラー922のそれぞれの回転位置は、角度エンコーダ934を用いて決定することができる。エンコーダ934の出力信号は、明瞭性の理由から、ここでは図示していないワイヤを介して評価及び制御ユニット916に同様に送られる。
【0060】
一実施形態では、回転軸932は水平に配置され、ミラー922は回転軸932に対して約45°の角度で傾斜している。したがって、水平軸932の周りのミラー922の回転は、放射光ビーム918が垂直平面に沿って(すなわち仰角で)偏向されることになる。放射光ビーム918は、ミラー922が回転しているときに、空間領域936が垂直平面内で走査されるファンを形成する。
【0061】
ここで、レーザスキャナ910は、本質的に2つのハウジング部分938、940を有するハウジング構造を有する。ハウジング部分938、940は、共通ベースプレート942上に配置される。発光装置912、受光装置914、及び評価及び制御ユニット916は、図9の左側に示すハウジング部938に収容されている。図9の右側に示すハウジング部は、エンコーダ934及びシリンダ926と共に回転駆動装置を収容し、ミラー922を有するシリンダ926は、ハウジング部940から突出して、ミラー922が2つのハウジング部938、940の間のほぼ中心に配置される。
【0062】
ベースプレート942は、スタンド946に着座した回転駆動装置944上に配置されている。スタンド946は高さ調節が可能であり、再現可能な高さ設定を行うことができるようにスケーリング948を有する。参照番号950はさらに別のエンコーダを示し、これを用いて回転駆動装置944の回転位置を測定することができる。エンコーダ950の出力信号は、同様に、評価及び制御ユニット916に送られる。
【0063】
回転駆動装置944は、レーザスキャナ910が回転軸932と共に軸交点を画定する垂直軸952を中心に回転することを可能にする。・・・
【0064】
評価及び制御ユニット916は、ここでは、マイクロプロセッサ954及びFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)956を備える。ここで、FPGA956は、発光装置912のレーザダイオードが駆動されるバイナリ矩形波形変調信号を生成する。マイクロプロセッサ954は、受光装置914からデジタル化された受信データを読み込み、これらのデータに基づいてレーザスキャナ910とオブジェクト920との間の距離dを決定する。マイクロプロセッサ954及びFPGA956は、互いに通信し、マイクロプロセッサ954は、とりわけ、伝播時間を決定するための放射光ビームの位相情報を受信する。
【0065】
受光装置914の受光光学ユニット958は、少なくとも1つの第1レンズ素子960(後述する第1レンズ素子の機能を併せ持つ複数の第1レンズ素子も可能である)と、第2レンズ素子962と、ピンホールダイアフラム964とを備える。光検出器966は、ピンホールダイヤフラム964の後方に配置され、受光ビーム924を検出する。容易に理解できるように、ここでは発光装置912は受光装置914の前に同軸上に配置されているので、発光装置912は受光光学ユニットの中央領域において受光ビーム924を遮蔽する。この影を図的に説明するために、受光ビーム924は、放射光ビーム918と比較して「二重に」表示してあり、幅が誇張されている。受光ビーム924は、実際には、発光装置912によって内側の中心が遮られた光リングの形で光検出器966に到達する。
【0066】
図9に示すように、レーザコリメータ972が受光光学系の横にある。ミラー970及びミラー911を介して、レーザ光は大回転ミラー922に伝達される。カラーカメラ968は、ミラー911の後ろにおいて、レンズ960の穴の中に配置されている。ミラー911は、可視光に対して透明であり、レーザの905nm波長の鏡として機能する。したがって、カラーカメラ968は、ミラー911及びミラー922を介してスキャナの環境の画像を撮影することができる。
【0067】
・・・例示的な実施形態では、グラフィックディスプレイ904はさらに、第1の光検出器966及び/又はカメラ968を用いて記録された距離画像及び/又は光学画像をそれぞれ表示する機能を有する。距離画像は、記録された空間領域936を白黒画像又は偽色表現の形態で示し、表示された画像は、それぞれ、カーソルが対応する画素に移動したときに表示される三次元座標値を表す。一実施形態では、光学画像は、カメラ960を用いて記録され、空間領域936を示すカラー画像である。)





図9


図9より、カラーカメラ968の前面側にミラー922が設けられていること、発光装置912、受光装置914、カラーカメラ968及び評価及び制御ユニット916は、ハウジング部938に収容されることが見て取れる。

上記の記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる(括弧内は、甲第1号証の記載箇所を示す。)。

「レーザスキャナの周囲のボリューム内のオブジェクトを光学的に走査して、オブジェクトを表す様々なデータポイントを収集するレーザスキャナにおいて、
データポイントは、ボリューム内の各点について、距離、2つの角度を測定することによって得ることができ(【0003】)
レーザスキャナに取り付けられたカメラを含み、カメラ画像を見ることによって、スキャナのオペレータは、測定されたボリュームの視野を決定することができ(【0004】)、
レーザスキャナ910は、発光装置912及び受光装置914を備え(【0058】)、発光装置912は受光装置914の前に同軸上に配置されており(【0065】)、
発光装置912は、レーザビーム918を生成し、オブジェクト920の表面上の測定点917を照明するために放射光ビーム918を放射し、放射光ビーム918は、矩形波形変調信号で振幅変調され、位相情報を評価することによって被照明オブジェクトポイントからの距離dを測定し(【0058】)、
カラーカメラ968の前面側にミラー922が設けられ(図9)、
放射光ビーム918は、ミラー911を介してミラー922に伝達され(【0066】)、ミラー922によってオブジェクト920に偏向され、受光ビーム924は、オブジェクト920から反射され、ミラー922を介して受光装置914に偏向され(【0059】)、
受光装置914は、第1レンズ素子960を備え、受光ビーム924を検出し(【0065】)、
カラーカメラ968は、ミラー911の後ろにおいて、レンズ960の穴の中に配置され、ミラー911及びミラー922を介してスキャナの環境の画像を撮影し(【0066】)、グラフィックディスプレイ904は、カメラ968を用いて記録された光学画像を表示する機能を有し(【0067】)、
回転駆動装置930を用いて、ミラー922を回転軸932の周りに回転させることができ、回転位置は、角度エンコーダ934を用いて決定することができ(【0059】)、回転軸932は水平に配置され、ミラー922は回転軸932に対して約45°の角度で傾斜し、水平軸932の周りのミラー922の回転は、放射光ビーム918が垂直平面に沿って偏向されることになり(【0060】)、
レーザスキャナ910は、2つのハウジング部分938、940を有し、ハウジング部分938、940は、共通ベースプレート942上に配置され、発光装置912、受光装置914、カラーカメラ968及び評価及び制御ユニット916は、ハウジング部938に収容され、ハウジング部940は、エンコーダ934と共に回転駆動装置930を収容し(【0061】、図9)、ベースプレート942は、スタンド946に着座した回転駆動装置944上に配置されており(【0062】)、回転駆動装置944は、レーザスキャナ910が垂直軸952を中心に回転することを可能にし(【0063】)、
評価及び制御ユニット916は、発光装置912のレーザダイオードが駆動されるバイナリ矩形波形変調信号を生成し、受光装置914からデジタル化された受信データを読み込み、レーザスキャナ910とオブジェクト920との間の距離dを決定し(【0064】)、エンコーダ934の出力信号は、ワイヤを介して送られる(【0059】)、
レーザスキャナ。」

(2)甲第2号証には、以下のように記載されている。
「【0122】
尚、第2の実施の形態では、前記回動台77が回転することで、前記画像受光部43に対して画像、反射測距光の受光状態も回転するが、前記画像受光部43に対する画像、反射測距光の受光状態の回転は、前記水平角検出器26によって検出されるので、該水平角検出器26の検出角によって、画像データ、距離データが修正される。」

(3)甲第3号証には、以下のように記載されている。
「【0057】
前記追尾光40が前記対象物55により反射されると、反射光40aが前記反射ミラー28を介して前記回転レーザ装置1に入射され、前記対物レンズ32によって前記反射光40aが前記画像受光部34上に集光される。
【0058】
このとき画像は前記画像受光部34に対し、前記反射ミラー28の回転に追従して回転した状態であるので前記ロータリエンコーダ69の検出角度に基いて補正プログラムにより画像の回転を補正する。補正された後、画像に基づき高低角が求められる。」

(4)甲第4号証には、以下のように記載されている。
「【0049】
詳細には、反射体検出光発光部1210及び、第1の撮像部1320、第2の撮像部1330は固定的に設けられているため、回動部の位置により画像は、視準中心Oと一致する位置を中心に回転する。
【0050】
図3(C)に基づいて説明すると、例えば、位置検出装置10000が置かれている位置から見て、水平方向をX軸、鉛直方向をY軸とする。このとき、Y方向に一定角度ずれた位置にターゲット2000aの反射体2000bがある場合、▲1▼から▲4▼の様に、位置検出装置10000に対して置かれる位置によって、第1の撮像部1320、第2の撮像部1330上での位置は図3(C)の様に変わる。従って、第1の撮像部1320、第2の撮像部1330からの偏差を検出して、視準中心Oを反射体2000bの中心へ移動させる場合、また、ターゲット2000aの反射体2000bの水平、鉛直方向の偏差角度を求める場合、画像センサ40000上の座標を、本体2000を回転させる水平及び鉛直の座標に変換する必要がある。その式は、座標の回転で表され、第1式で表される。これらの変換処理は、演算処理部4000にて行われる。」

(5)甲第5号証には、以下のように記載されている。
「【0024】図3に示すように、それぞれの画像情報1?画像情報15は初期位置に対して、回転角度θx=22.5×x(x=1,2,…,15)だけ回転していることになる。
【0025】図4は、画像処理用コントローラにおいて、画像情報0?画像情報15の16枚の画像情報から全周パノラマ画像情報を構成するアルゴリズムの流れを説明する図である。
【0026】次に、図4(a)に示すように、それぞれの画像情報1?画像情報15を回転角θx(x=1,2,…,15)分だけ、画像中心を軸として回転変換させる(ステップ105)。また、図4(b)に示すように、当該回転変換後のそれぞれの画像情報0?画像情報15を鏡像反転させる(ステップ106)。最後に、図4(c)に示すように、それぞれの画像情報0?画像情報15の境界領域で、それぞれの画像情報同士を平行移動させながら、パターンマッチングを行い、それぞれの画像情報の繋ぎ合わせを行う(ステップ107)。」

(6)甲第6号証には、以下のように記載されている。
「【0057】ミラー回転型カメラで取得されたカメラ原画像は、従来技術の説明において図19に示したように上下方向(図中の矢印方向)が回転したものとなる。そこで、カメラ画像生成手段221は、画像取得手段220で取得されたカメラ原画像を回転変換処理して上下方向が補正されたカメラ画像を生成する。回転変換処理のパラメータは、ミラー回転制御手段211から送られてくるミラー角度情報に基づいて決定される。」

(7)甲第7号証には、以下のように記載されている。
「【0014】このような構成において、回転台11に取り付けられたカメラヘッド部12が回転することにより、撮影窓27の外部に存在する被写体の像がその撮影窓27を経て取り込まれ、反射鏡23の反射面24で反射されてレンズ系22に至り、このレンズ系22で被写体像は、スリット21を経て2次元撮像素子17に結像される。いま、カメラヘッド部12が初期位置にあるときの被写体をAとし、角度θだけ回転した時の被写体をBとすると、初期位置にあっては、2次元撮像素子17に結像される像は、図3に示すように、図示状態では上下方向に結像されており、カメラヘッド部12が角度θだけ回動した時には、図3においては角度θだけ傾いた状態に結像している。そのため、2次元撮像素子17から出力される画像データをそのまま表示装置で観察すると、カメラヘッド部12の回転に合わせて像がθ度だけ傾いた見にくいものになってしまう。そこで、画像処理により表示時に回転補正して常に正立するように補正する。これは、2次元撮像素子17の各画素からの出力データのアドレスを座標変換することにより実現できる。・・・」

(8)甲第8号証には、以下のように記載されている。
「【0026】前記回転式測距機2は、図3に詳細を示すように、レーザーダイオード7から発振されたパルス光を水平方向に延びる回転軸線βの周りに周回させながら、放射状に投光するものである。すなわち、パルス光は前記レーザーダイオード7から回転軸線βに沿って出力された後、その光路が反射鏡8により直角方向に変更されて、対物レンズ9によって所定の拡がり角になるように絞られながら該対物レンズ9の光軸に沿って投光される。また、前記反射鏡8は、図示しない直流電動モータからなる駆動モータにより回転軸線βの周りに略一定速度(例えば600rpm)で回転されるようになっており、これにより、パルス光の投光方向が回転軸線βの周りを周回するように変化する。そして、前記反射鏡8の回転角度がロータリエンコーダ10により例えば0.25度刻みで検出される。尚、前記反射鏡8及び駆動モータにより、パルス光の投光方向を回転軸線βの周りを周回するように変化させる投光方向可変手段が構成され、また、前記ロータリエンコーダ10により、パルス光の投光方向の回転変位量を検出する回転変位検出手段が構成されている。」

(9)甲第9号証には、以下のように記載されている。
「【0022】
【発明の実施の形態】(第1実施形態)図1には、本発明の第1実施形態である撮像ユニットの概略構成を示している。この図において、1は視野変更操作が可能な撮像系であり、図中の平面ミラー(反射部材)3とこの平面ミラー3よりも物体側の光学系構成部分(以下、これらの部分を回転部分という)が、平面ミラー3よりも像面側の光学系構成部分の光軸を中心として回転させることにより、撮像素子(撮像媒体)2による撮像範囲(視野)を変更することができるようになっている。」

(10)甲第10号証には、以下のように記載されている。
「【0034】
撮像手段11は、光学系の望遠レンズ機構およびCCDカメラ、CMOSカメラ等の撮像素子を用いることで、構造物全体を広く見渡せることができる。また、光学系のズーム機能のほかに、電子式ズーム機能も備えていてもよい。図6に示すように、撮像手段11は、装置本体10の上部に水平に固定される。よって、測量手段14の光軸方向と平行に調整されて固定される。また、撮像手段11は、静止画および/または動画を撮像する構成である。
【0035】
角度調節機構12は、撮像手段11の光軸方向を水平軸周りに回転する回転機構と、鉛直軸周りに回転する回転機構を有して構成できる。角度調節機構12は、後述する遠隔操作手段22の遠隔操作命令に応じて機能させることができる。また、上下回転用のツマミ6a、左右回転用のツマミツマミ6bを回転することで、手動で各種回転機構を回転させることができる。」

(11)甲第11号証には、以下のように記載されている。
「【0017】
トータルステーション100は、測距儀110とデジタルカメラ120とから構成される。測距儀110には望遠光学系39を有する望遠鏡111が設けられる。ユーザは望遠光学系39を用いて測量対象物33に対して測量目標点34を視準する。測量対象物33は測量が行われる地物やコーナキューブ等をいい、測量目標点34は視準を行うために望遠鏡の光軸上に設けられる一点をいう。デジタルカメラ120は撮像光学装置121により画像を撮像する。」

「【0027】
ステップS26とS27では、ユーザはカメラ表示装置123に表示された画像を見て望遠鏡111を水平又は鉛直方向に回転させ測量対象物33の方向に向ける。
【0028】
画像には方向誤差を修正したショットマークが表示されているため、ユーザは望遠鏡111を測量対象物33の概略方向に向けることが出来、ステップS28において望遠鏡111の概略方向が決定される。
【0029】
次に、ユーザはステップS29で望遠鏡111を用いて測量目標点34を測量対象物33に視準する。これにより測量の準備が整えられ、ステップS30で測量が実行される。」

「【0047】
撮像された画像はカメラ表示装置123の表示領域よりも大きい。そのため、表示領域には、撮像された画像の一部のみが表示される。ユーザがカメラ表示装置123を参考にして望遠鏡を測量対象物33へ向けるとき、ショットマーク43がカメラ表示装置123の表示領域の中心にあると、ユーザは望遠鏡を測量対象物33へ向けやすくなる。そこで、カメラ表示装置123に表示される画像は、水平方向にdHLp+dHAp分、及び鉛直方向にdVLp+dVAp分、自動的に動かされる。これにより、ショットマーク43の位置はカメラ表示装置123の表示領域の中心と一致し、ユーザは容易に望遠鏡を測量対象物33の方向へ向けることが可能となる。」

上記段落【0017】及び【0029】の記載より、甲第11号証には、次の技術が記載されている。
「トータルステーション100において、ユーザが、望遠鏡111を用いて、測量目標点34を測量対象物33に視準することにより測量の準備を整え、測量を実行する技術。」

(12)甲第12号証には、以下のように記載されている。
「【0036】通常の状態では前記リファレンス板42は前記追尾光軸30より外れている。前記対物レンズ5より入光した前記追尾反射光は、前記光軸Oと交差する方向にペンタ型プリズム21の第1ダイクロイックミラー面24、第2ダイクロイックミラー面25で反射され、前記孔明ミラー33で反射された後、前記リレーレンズ38により、前記受光素子40に集光される。前記バンドパスフィルタ39は追尾反射光以外の外乱光を遮断し、前記受光素子40での追尾反射光の検出精度を向上する。正確に視準されていると、前記受光素子40に投影された追尾反射光は前記受光素子40の中心、又は基準位置と合致している。視準がずれていると、該受光素子40の受光位置は基準位置よりずれている。前述したと同様該受光素子40で受光された結果に基づき、測量機の視準中心に目標対象物が位置する様自動測量機の姿勢が自動調整される。」

「【0042】前記受光素子40で検出された光軸のずれは、図示しない測量機の制御部に入力記憶され、以後の目標対象物からの反射光の位置が補正されることになる。補正により、目標対象物は視準中心となることができる。」

(13)甲第13号証には、以下のように記載されている。
「【0019】光軸補正データ記憶回路181は、光軸調整時に、光軸ずれ測定装置30からの補正量データを各ジンバル機構部11のEL及びAZ方向への傾き角度に対応付けて記憶する。光軸補正制御機能は、図2に示すように、運用時に、ジンバル機構部11が回動する毎に光軸補正データ記憶回路181からジンバル機構部11のEL及びAZ方向への傾き角度に対応する補正量データを読み出して、この補正量データを制御信号として照射用レーザ出射光鏡15に供給する。
【0020】照射用レーザ出射光鏡15は、光軸調整制御回路18からの補正量データに従って、レーザ光導光路14の光軸を補正量の分だけずらす。」

(14)甲第14号証には、以下のように記載されている。
「【0053】
以上のように本実施形態は、求心望遠鏡100を備えたトータルステーション20において、測距用光波のみを通すコーティングを施した光学部材106が設けられるとともに、光波穴42が形成されている。したがって求心望遠鏡100を介して鉛直下方の目標物(基点)を観察することができ、求心作業を行なうことができる。求心作業の後、上記各実施形態と同様に、望遠鏡22を下方に向け、光学部材106を透過する光を利用して測距作業が行なわれ、機械高が検出される。すなわち、望遠鏡22から出射された測距用光波は鉛直軸Jに沿って光学部材106を通り、中心Oから下方の目標物(基点)までの距離が測定される。・・・」

2 対比・判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比
(ア)引用発明は、「レーザスキャナの周囲のボリューム内のオブジェクトを光学的に走査」するものであるから、「レーザスキャナ」を測定基準点に設置して、「周囲のボリューム内のオブジェクトを光学的に走査」しているといえるので、引用発明の「レーザスキャナ」は、本件特許発明1の「測定基準点に設置した測定装置」に相当する。
また、引用発明の「オブジェクト」は、本件特許発明1の「測定対象物」に相当し、引用発明において「カメラ画像で見る」ものは、「オブジェクト」であるから、引用発明の「スキャナのオペレータは、」「カメラ画像を見ること」は、本件特許発明1の「測定対象物の映像を操作者が視認」することに相当する。
そして、引用発明の「スキャナのオペレータ」が決定する「測定されたボリュームの視野」は、「カメラ画像」で見た測定範囲であり、引用発明は「スキャナのオペレータ」が、「カメラ画像」で見た測定範囲である「ボリューム内」の「オブジェクト」「各点について、距離、2つの角度を測定」しているといえるので、
引用発明の「レーザスキャナに取り付けられたカメラを含み、カメラ画像を見ることによって、スキャナのオペレータは、測定されたボリュームの視野を決定することができ」「ボリューム内の各点について、距離、2つの角度を測定することによって得ることができ」ることと、本件特許発明1の「測定対象物の映像を操作者が視認し、測定目標点を選定し、その方向と距離とを測定する」ことは、「測定対象物の映像を操作者が視認し、視認した範囲の測定対象物について、その方向と距離とを測定する」点で共通する。
よって、引用発明の「レーザスキャナの周囲のボリューム内のオブジェクトを光学的に走査して、オブジェクトを表す様々なデータポイントを収集するレーザスキャナ」と、本件特許発明1の「測定基準点に設置した測定装置によって、測定対象物の映像を操作者が視認し、測定目標点を選定し、その方向と距離とを測定する自動測定装置」とは、「測定基準点に設置した測定装置によって、測定対象物の映像を操作者が視認し、視認した範囲の測定対象物について、その方向と距離とを測定する自動測定装置」である点で共通する。

(イ)引用発明は、「カラーカメラ968」で「画像を撮影し」、「グラフィックディスプレイ904」に「カメラ968を用いて記録された光学画像を表示する」ものであるから、引用発明の「カラーカメラ968」は、画像センサで撮像するデジタルカメラである。そして、カメラは、対物レンズを備えるものであるから、引用発明の「カラーカメラ968」は、対物レンズによる画像センサ上への結像で得たものを撮像している。
また、引用発明の「カラーカメラ968」で撮影する、「スキャナの環境の画像」は「ボリューム内のオブジェクト」を撮影したものであり、本件特許発明1の「測定対象物の映像」に相当するものである。
よって、引用発明の「カラーカメラ968は、」「スキャナの環境の画像を撮影し、グラフィックディスプレイ904は、カメラ968を用いて記録された光学画像を表示する」ことは、本件特許発明1の「測定対象物の映像は対物レンズによる画像センサ上への結像で得たものをディスプレイ上に表示すること」に相当する。

(ウ)引用発明の「レーザスキャナ910は、発光装置912及び受光装置914を備え、」「発光装置912は、レーザビーム918を生成し、オブジェクト920の表面上の測定点917を照明するために放射光ビーム918を放射し、放射光ビーム918は、矩形波形変調信号で振幅変調され、位相情報を評価することによって被照明オブジェクトポイントからの距離dを測定し、」「放射光ビーム918は、ミラー911を介してミラー922に伝達され、ミラー922によってオブジェクト920に偏向され、受光ビーム924は、オブジェクト920から反射され、ミラー922を介して受光装置914に偏向され、受光装置914は、第1レンズ素子960を備え、受光ビーム924を検出し」ているので、引用発明の「発光装置912及び受光装置914」は、本件特許発明1の「距離測定機構」である「レーザ光線の発・受光機構」に相当する。
そして、引用発明は「カラーカメラ968は、ミラー911の後ろにおいて、レンズ960の穴の中に配置され、ミラー911及びミラー922を介してスキャナの環境の画像を撮影」するものであり、「発光装置912は、」「放射光ビーム918を放射し、」「放射光ビーム918は、ミラー911を介してミラー922に伝達され、ミラー922によってオブジェクト920に偏向され、受光ビーム924は、オブジェクト920から反射され、ミラー922を介して受光装置914に偏向され、受光装置914は、第1レンズ素子960を備え、受光ビーム924を検出し、」「発光装置912は受光装置914の前に同軸上に配置されて」いるので、
「カラーカメラ968」の光軸は、「レンズ960の穴」、「ミラー911」及び「ミラー922」に沿うものであり、「発光装置912及び受光装置914」の光軸は、「第1レンズ素子960」、「ミラー911」及び「ミラー922」に沿うものであり、引用発明の「発光装置912及び受光装置914」は、「カラーカメラ968」の対物レンズの光軸に沿って設けられているといえる。
よって、引用発明の「レーザスキャナ910は、発光装置912及び受光装置914を備え、」「発光装置912は、」「放射光ビーム918を放射し、」「受光装置914は、」「受光ビーム924を検出し、」「被照明オブジェクトポイントからの距離dを測定し」ていることは、本件特許発明1の「距離測定機構は対物レンズの光軸に沿って設けたレーザ光線の発・受光機構によること」に相当する。

(エ)上記(イ)及び(ウ)を踏まえると、引用発明の「カラーカメラ968は、」「スキャナの環境の画像を撮影し、グラフィックディスプレイ904は、カメラ968を用いて記録された光学画像を表示する」ことと、「発光装置912及び受光装置914を備え、」「距離dを測定し」ていることは、本件特許発明1の「測定対象物の映像は対物レンズによる画像センサ上への結像で得たものをディスプレイ上に表示すること、距離測定機構は対物レンズの光軸に沿って設けたレーザ光線の発・受光機構によること、の2系統以上の光学系を有」することに相当する。

(オ)引用発明は、「カラーカメラ968の前面側にミラー922が設けられ」ているので、「カラーカメラ968」の対物レンズの「前面側にミラー922が設けられ」ているといえる。
そして、引用発明の「回転軸932に対して約45°の角度で傾斜し、水平軸932の周りの」「回転は、放射光ビーム918」を「垂直平面に沿って偏向」する「ミラー922」は、本件特許発明1の「光軸折り曲げ用45度反射鏡を有する回転ミラー部」に相当する。
また、上記(ウ)によると、引用発明の「発光装置912及び受光装置914」の光軸と「カラーカメラ968」の対物レンズの光軸は、「ミラー911」及び「ミラー922」に沿って設けられており、「水平軸932の周りのミラー922の回転は、放射光ビーム918が垂直平面に沿って偏向される」ので、「ミラー922の回転は」、「発光装置912及び受光装置914」の光軸と「カラーカメラ968」の対物レンズの光軸を「垂直平面に沿って偏向」しているといえる。
よって、引用発明の「カラーカメラ968の前面側にミラー922が設けられ」ている「レーザスキャナ」と、本件特許発明1の「対物レンズの前面側に光軸折り曲げ用45度反射鏡を有する回転ミラー部を設けること、これにより両光軸を鉛直面内に回転可能とすること、」「の各条件を満たす測定装置」とは、「対物レンズの前面側に光軸折り曲げ用45度反射鏡を有する回転ミラー部を設けること、これにより両光軸を鉛直面内に回転可能とすること、」「の条件を満たす測定装置」である点で共通する。

(カ)
a 引用発明の「レーザスキャナ910」を「垂直軸952を中心に回転することを可能にし」た「スタンド946に着座した回転駆動装置944上に配置され」た「共通ベースプレート942上に」、「発光装置912、受光装置914、カラーカメラ968」を配置することは、本件特許発明1の「回転ミラー部以外の光学系を水平回転ベースに固定的に設置すること」に相当する。
b 引用発明の「発光装置912、受光装置914、カラーカメラ968」及び「回転駆動装置930」は、本件特許発明1の「レーザ光線の発・受光機構を含む複数の光学系操作機構」に相当する。
c 引用発明の「発光装置912のレーザダイオードが駆動されるバイナリ矩形波形変調信号を生成し、受光装置914からデジタル化された受信データを読み込み、レーザスキャナ910とオブジェクト920との間の距離dを決定し、エンコーダ934の出力信号は、ワイヤを介して送られる」「評価及び制御ユニット916」は、本件特許発明1の「制御・処理用の電気・電子回路」に相当する。
d 引用発明は「発光装置912、受光装置914、カラーカメラ968」、「回転駆動装置930」及び「評価及び制御ユニット916」を、「共通ベースプレート942上」に配置しているので、「発光装置912、受光装置914、カラーカメラ968」及び「回転駆動装置930」とその「評価及び制御ユニット916」との接続は固定的に構成可能である。

よって、上記aからdを踏まえると、引用発明の「共通ベースプレート942上に」「発光装置912、受光装置914、カラーカメラ968」を配置することは、本件特許発明1の「回転ミラー部以外の光学系を水平回転ベースに固定的に設置することにより、レーザ光線の発・受光機構を含む複数の光学系操作機構とその制御・処理用の電気・電子回路との接続を固定的に構成可能とすること」に相当する。

(キ)上記(エ)で検討したように、引用発明の「カラーカメラ968は、」「スキャナの環境の画像を撮影し、グラフィックディスプレイ904は、カメラ968を用いて記録された光学画像を表示する」ことと、「発光装置912及び受光装置914を備え、」「距離dを測定し」ていることは、本件特許発明1の「2系統以上の光学系を有」することに相当するのであるから、引用発明の「レーザスキャナ」は、本件特許発明1の「2系統光学系を有する距離方向自動測定装置」に相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明とは、次の一致点、相違点を有する。
(一致点)
「測定基準点に設置した測定装置によって、測定対象物の映像を操作者が視認し、視認した範囲の測定対象物について、その方向と距離とを測定する自動測定装置において、
測定対象物の映像は対物レンズによる画像センサ上への結像で得たものをディスプレイ上に表示すること、
距離測定機構は対物レンズの光軸に沿って設けたレーザ光線の発・受光機構によること、の2系統以上の光学系を有し、
対物レンズの前面側に光軸折り曲げ用45度反射鏡を有する回転ミラー部を設けること、これにより両光軸を鉛直面内に回転可能とすること、
の条件を満たす測定装置であって、
回転ミラー部以外の光学系を水平回転ベースに固定的に設置することにより、レーザ光線の発・受光機構を含む複数の光学系操作機構とその制御・処理用の電気・電子回路との接続を固定的に構成可能とすることを特徴とする2系統光学系を有する距離方向自動測定装置。」

(相違点1)
本件特許発明1は、測定対象物の映像を操作者が視認し、「測定目標点を選定し」、その方向と距離とを測定するのに対して、引用発明は、カメラ画像を見ることによって、スキャナのオペレータは、測定されたボリュームの視野を決定し、ボリューム内の各点について、距離、2つの角度を測定するが、オペレータが、距離、2つの角度を測定する「ボリューム内」の「オブジェクト」の「点」を選定することは、特定されてない点。
(相違点2)
本件特許発明1は、両光軸を回転可能として、「この回転による画像センサ上に結像する測定対象物の映像の回転を、当該映像を表示するディスプレイ機構上では当該回転分を逆回転して表示する正立表示ソフトを有すること、の」「条件を満たす測定装置」であるのに対して、引用発明は、カラーカメラ968が、スキャナの環境の画像を撮影する際に、介するミラー922を回転軸932の周りに回転させるが、そのような特定がない点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
甲第11号証には,トータルステーション100において、ユーザが、望遠鏡111を用いて、測量目標点34を測量対象物33に視準することにより測量の準備を整え、測量を実行する技術が記載されている(上記「1 (11)」)。
しかしながら、甲第11号証に記載された技術は、トータルステーション100を用いた測量に関するもので、ユーザが、望遠鏡111を用いて、測量目標点34を測量対象物33に視準するものであり、
引用発明の「スキャナのオペレータ」が「カメラ画像を見ることによって」「測定されたボリュームの視野を決定」し、「ボリューム内の各点について、距離、2つの角度を測定する」、「周囲のボリューム内のオブジェクトを光学的に走査して、オブジェクトを表す様々なデータポイントを収集するレーザスキャナ」に、上記技術を適用する理由を見つけることはできない。
そして、甲第2-10、12-14号証には、測定対象物の映像を操作者が視認し、測定目標点を選定し、その方向と距離とを測定することは記載されていないことから、上記相違点1に係る本件特許発明1の構成は、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、本件特許発明1は、上記相違点2について検討するまでもなく、引用発明、甲第2号証-甲第14号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることができない。

(2)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2は、本件特許発明1の「対物レンズの前面側に」「反射鏡」「を有する回転ミラー部を設けること」を、「対物レンズと」「その背面側に配置した」「反射鏡と」「を有する回転ミラー部を設けること」にしたものである。
したがって、本件特許発明2と引用発明を対比すると、次の相違点を有する。

(相違点1’)
本件特許発明2は、測定対象物の映像を操作者が視認し、「測定目標点を選定し」、その方向と距離とを測定するのに対して、引用発明は、カメラ画像を見ることによって、スキャナのオペレータは、測定されたボリュームの視野を決定し、ボリューム内の各点について、距離、2つの角度を測定するが、オペレータが、距離、2つの角度を測定する「ボリューム内」の「オブジェクト」の「点」を選定することは、特定されてない点。
(相違点2’)
本件特許発明2は、両光軸を回転可能として、「この回転による対物レンズが画像センサ上に結像する測定対象物の映像の回転を、当該映像を表示するディスプレイ機構上では当該回転分を逆回転して表示する正立表示ソフトを有すること、の」「条件を満たす測定装置」であるのに対して、引用発明は、カラーカメラ968が、スキャナの環境の画像を撮影する際に、介するミラー922を回転軸932の周りに回転させるが、そのような特定がない点。
(相違点3’)
本件特許発明2は、「対物レンズと」「その背面側に配置した」「反射鏡と」「を有する回転ミラー部を設け」たのに対し、引用発明は、「(対物レンズを有する)カラーカメラ968の前面側にミラー922が設けられ」ている点。

イ 判断
上記相違点1’について検討する。
上記相違点1’は上記相違点1と同じであり、上記「(1) イ」に記載したように、上記相違点1’に係る本件特許発明2の構成は、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、本件特許発明2は、上記相違点2’及び3’について検討するまでもなく、引用発明、甲第2号証-甲第14号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることができない。

(3)本件特許発明3-7について
本件特許発明1又は2を、直接又は間接的に引用する本件特許発明3-7は、本件特許発明1又は2をさらに減縮したものであるから、上記本件特許発明1又は2についての判断と同様の理由により、引用発明、甲第2号証-甲第14号証に記載された技術に基づいて、当業者が容易になし得たものとすることができない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1-7は、いずれも、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-26 
出願番号 特願2012-249574(P2012-249574)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01C)
P 1 651・ 537- Y (G01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 ▲うし▼田 真悟  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 中村 説志
須原 宏光
登録日 2017-09-08 
登録番号 特許第6205119号(P6205119)
権利者 株式会社新興技術研究所
発明の名称 2系統光学系を有する距離方向自動測定装置  
代理人 吉澤 桑一  

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