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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1342026
異議申立番号 異議2018-700381  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-08 
確定日 2018-07-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6226072号発明「電磁鋼板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6226072号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6226072号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)6月26日(優先権主張 平成26年6月26日)を国際出願日とする出願であって、平成29年10月20日に特許権の設定登録がされ、同年11月8日に特許掲載公報が発行され、その後、平成30年5月8日付けで全請求項(請求項1?8)に対し、特許異議申立人であるJFEスチール株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明

本件特許の特許請求の範囲の請求項1?8に係る発明(以下、「本件発明1?8」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
質量%で、
C :0.010%以下、
Si:1.30%?3.50%、
Al:0.0000%?1.6000%、
Mn:0.01%?3.00%、
S :0.0100%以下、
N :0.010%以下、
P :0.000%?0.150%、
Sn:0.000%?0.150%、
Sb:0.000%?0.150%、
Cr:0.000%?1.000%、
Cu:0.000%?1.000%、
Ni:0.000%?1.000%、
Ti:0.010%以下、
V :0.010%以下、
Nb:0.010%以下、かつ
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有し、
結晶粒径が20μm?300μmであり、
(001)[100]方位の集積度をI_(Cube)、(011)[100]方位の集積度をI_(Goss)とあらわしたとき、式1、式2及び式3の関係を満たす集合組織を有することを特徴とする電磁鋼板。
I_(Goss)+I_(Cube)≧10.5 ・・・式1
I_(Goss)/I_(Cube)≧0.50 ・・・式2
I_(Cube)≧2.5 ・・・式3
【請求項2】
前記集合組織は、式4、式5及び式6を満たすことを特徴とする請求項1に記載の電磁鋼板。
I_(Goss)+I_(Cube)≧10.7 ・・・式4
I_(Goss)/I_(Cube)≧0.52 ・・・式5
I_(Cube)≧2.7 ・・・式6
【請求項3】
飽和磁束密度をBs、5000A/mの磁化力で磁化した際の圧延方向の磁束密度をB50L、5000A/mの磁化力で磁化した際の圧延方向及び板厚方向に直交する方向(板幅方向)の磁束密度をB50Cとあらわしたとき、式7及び式8の関係を満たす磁気特性を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁鋼板。
B50C/Bs≧0.790 ・・・式7
(B50L-B50C)/Bs≧0.070 ・・・式8
【請求項4】
前記磁気特性は、式9の関係を満たす磁気特性を有することを特徴とする請求項3に記載の電磁鋼板。
(B50L-B50C)/Bs≧0.075 ・・・式9
【請求項5】
前記磁気特性は、式10の関係を満たすことを特徴とする請求項3又は4に記載の電磁鋼板。
B50C/Bs≦0.825 ・・・式10
【請求項6】
前記化学組成において、
P :0.001%?0.150%、
Sn:0.001%?0.150%、若しくは
Sb:0.001%?0.150%、
又はこれらの任意の組み合わせが満たされることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電磁鋼板。
【請求項7】
前記化学組成において、
Cr:0.005%?1.000%、
Cu:0.005%?1.000%、若しくは
Ni:0.005%?1.000%、
又はこれらの任意の組み合わせが満たされることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電磁鋼板。
【請求項8】
厚さが0.10mm以上0.50mm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電磁鋼板。」

第3 申立理由の概要

申立人の主張する申立理由の概要は以下のとおりである。

1 証拠方法

甲第1号証:特開平11-236618号公報
甲第2号証:特開2008-127600号公報

2 申立理由1

本件発明1?5,8は、甲第1号証(以下、「甲1」という。)に記載された発明であるから、請求項1?5,8に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
また、本件発明6,7は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項6,7に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

3 申立理由2

本件発明1?6,8は、甲第2号証(以下、「甲2」という。)に記載された発明であるから、請求項1?6,8に係る本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、同法113条第2項の規定により取り消されるべきものである。
また、本件発明7は、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項7に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法113条第2項の規定により取り消されるべきものである。

第4 当審の判断

1 申立理由1について

(1)甲1の記載事項

ア 甲1には、以下の記載がある。なお、「・・・」は記載の省略を表す(以下同様)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は・・・無方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。」
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】この発明は・・・より一層の低鉄損化を可能ならしめる無方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。」
「【0011】・・・発明者らが種々の検討を重ねた結果、熱延板焼鈍処理を施した後に冷延2回法で製造すると、通常の冷延2回法を適用した場合に比べ、鉄損特性が著しく向上するケースがあることを知見し・・・詳細な検討を行った結果、鉄損は中間焼鈍処理後すなわち、最終冷延前の結晶粒径と最終冷延圧下率に依存することを新たに知見したのである。
【0012】(実験1)C:0.002wt%、Si:2.85wt%、Mn:0.34wt%、Al:1.1wt%、S:0.0017wt%、N:0.0016wt%及びO:0.0014wt%を含有する無方向性電磁鋼板用の連続鋳造スラブ(厚み220mm)を1200℃に加熱後、ラボ熱間圧延機により板厚:2.0mmの熱延板とした。次いで、この熱延板に900℃で150秒の熱延板焼鈍を連続焼鈍法により実施した後(一部、比較のために熱延板焼鈍を施さないものも実施した。)、ラボ冷間圧延機により板厚1mmの冷延板とし、この冷延板に種々の条件で中間焼鈍を施すことにより、中間焼鈍後の粒径を20?150μmに変化させた。中間焼鈍後のこれらの板は、再びラボ冷間圧延機により板厚0.5mmの厚さに冷延した後、950℃で10秒間の最終仕上焼鈍を施した。・・・」
「【0017】
・・・Cは、磁気特性の面からは有害な成分であり、極力低減するのが望ましいため、その含有量は0.005wt%以下とする。下限は特に規定しないが、経済上の理由から0.0001wt%程度とすることが望ましい。」
「【0024】Oはその含有量の低減が鉄損低減に直接結びつくことは広く知られている事実である。特に0.0020wt%を超えるOを含んでいると鉄損の劣化を招くので、その含有量は0.0020wt%以下とする必要がある。
【0025】・・・この発明では、前述した理由から最終製品の集合組織を改善するために熱延板焼鈍と中間焼鈍を挟んだ冷延2回法による製造が必須である。
「【0032】
【実施例】転炉吹錬により、表1に示す成分組成に調整した溶鋼をそれぞれ連続鋳造によりスラブとした。なお、上記の溶製に当たっては、脱硫、脱酸、ならびに脱ガス処理を強化して行い、鋼中のS量、O量及びN量を低減させた。
【0033】
【表1】

【0034】これらのスラブは熱間圧延により鋼A:2.4mm、鋼B:2.2mm、鋼C:2.0mmの熱延板としたのち、コイルに巻き取った。次いで、熱延板に熱延板焼鈍を施し(一部、比較のため熱延板焼鈍を省略)、中間焼鈍を含む2回の冷延を行った後に最終仕上焼鈍を施した。各熱延板焼鈍、中間焼鈍、最終冷延圧下率等の製造条件及び最終冷延前粒径、鋼板の鉄損特性の測定結果を表2にまとめて示す。
【0035】
【表2】



イ 前記アによれば、甲1には、以下の事項が記載されている。

(ア)甲1に記載された発明は、無方向性電磁鋼板の製造方法に関し(【0001】)、より一層の低鉄損化を可能とする無方向性電磁鋼板の製造方法を提案することを目的とする(【0008】)ものであって、熱延板焼鈍処理を施した後に冷延2回法で無方向性電磁鋼板を製造する際、鉄損特性が最終冷延前の結晶粒径と最終冷延圧下率に依存して著しく向上するケースがあるとの知見(【0011】,【0025】)に基づくものである。

(イ)表2の1行目に記載された実施例には、表1の「鋼種A」(Si:2.65wt%,Mn:0.20wt%,Al:0.20wt%,S:21ppm,O:10ppm)の成分組成に調整した溶鋼を連続鋳造によりスラブとする工程、上記スラブを熱間圧延により板厚2.4mmの熱延板とする工程、上記熱延板に対し、970℃,15秒の連続焼鈍を行う工程、1回目の冷間圧延を行う工程、1050℃、10秒の中間焼鈍を行って、平均結晶粒径を112μmとする工程、圧下率55%の最終冷間圧延を行う工程、及び、980℃,20秒の仕上焼鈍を行う工程を含む無方向性電磁鋼板の製造方法(【0032】?【0035】)が記載されている。

(ウ)なお、前記(イ)の実施例では、1回目の冷間圧延の圧下率が不明であるが、「実験1」(【0012】)には、板厚2.0mmの熱延板に対し1回目の冷間圧延を行い、板厚を1mmとする(圧下率を50%とする)ことが記載されている。

ウ 以上によれば、甲1には表2の1行目に記載された実施例に基づいて認定した以下の「甲1発明」及び、当該甲1発明の製造方法である「甲1方法発明」が記載されているものと認められる。

(甲1発明)
wt%で、
Si:2.65%、
Mn:0.20%、
Al:0.20%、
S:0.0021%(21ppm)、
N:0.0024%(24ppm)、
O:0.0010%
の成分組成に調整した溶鋼から製造された無方向性電磁鋼板。

(甲1方法発明)
wt%で、
Si:2.65%、
Mn:0.20%、
Al:0.20%、
S:0.0021%(21ppm)、
N:0.0024%(24ppm)、
O:0.0010%
の成分組成に調整した溶鋼を連続鋳造によりスラブとする工程、
上記スラブを熱間圧延により板厚2.4mmの熱延板とする工程、
上記熱延板に対し、970℃、15秒の連続焼鈍を行う工程、
1回目の冷間圧延を行う工程、
1050℃、10秒の中間焼鈍を行って、平均結晶粒径を112μmとする工程、
圧下率55%の最終冷間圧延を行う工程、及び、
980℃、20秒の仕上焼鈍を行う工程
を含む無方向性電磁鋼板の製造方法。

(2)本件発明1について

ア 本件発明1と甲1発明の一致点・相違点

(ア)本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の「無方向性電磁鋼板」は、甲1方法発明にあるとおり、その製造に際し、「溶鋼」の段階以降に成分元素の調整を行っていないから、「無方向性電磁鋼板」の成分組成は「溶鋼」の成分組成と同一であると認められる。
また、甲1発明の「無方向性電磁鋼板」と本件発明1の「電磁鋼板」は、「電磁鋼板」である点で一致し、甲1発明の「wt%」が「重量%」を意味し、本件発明1の「質量%」と同一であることは当業者の技術常識である。

(イ)甲1発明では、C(炭素)は、溶鋼の成分元素として明示的には特定されていないが、甲1には、「Cは、磁気特性の面からは有害な成分であり、極力低減するのが望ましいため、その含有量は0.005wt%以下とする。」(【0017】)と記載されているから、その含有量は「0.005wt%以下」の範囲にあるものと認められる。
また、甲1発明では、O(酸素)は、溶鋼の成分元素として「wt%で」「O:0.0010%」であることが特定され、甲1には、「Oはその含有量の低減が鉄損低減に直接結びつくことは広く知られている事実である・・・ので、その含有量は0.0020wt%以下とする必要がある。」(【0024】)と記載されているから、「wt%で」「O:0.0010%」のO(酸素)は、いわゆる「不可避的不純物」に相当するものとして理解することができる。
さらに、甲1発明では、「残部」の溶鋼の成分組成について、明示的に特定されていないが、上記溶鋼は「無方向性電磁鋼板」を製造するためのものであるから、「不可避的不純物」を除けば、残部の成分元素が、Fe(鉄)であることは明らかである。
そして、ここでいう「不可避的不純物」は、本件発明1の「不純物」に相当する概念であると認められる。

(ウ)以上によれば、本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点(以下、「相違点1」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
質量%で、
C :0.005%以下、
Si:2.65%、
Al:0.20%、
Mn:0.20%、
S :0.0021%、
N :0.0024%、かつ
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有する電磁鋼板。

(相違点1)
本件発明1の「電磁鋼板」は、「結晶粒径が20μm?300μmであり、 (001)[100]方位の集積度をI_(Cube)、(011)[100]方位の集積度をI_(Goss)とあらわしたとき」
「I_(Goss)+I_(Cube)≧10.5 ・・・式1
I_(Goss)/I_(Cube)≧0.50 ・・・式2
I_(Cube)≧2.5 ・・・式3」「の関係を満たす集合組織を有する」のに対し、
甲1発明の「無方向性電磁鋼板」は、上記のような集合組織を有するか否かが明らかではない点。

イ 相違点1の判断

(ア)甲1には、本件発明1で「(001)[100]方位の集積度をI_(Cube)、(011)[100]方位の集積度をI_(Goss)」と定義された「IC_(ube)」及び「I_(Goss)」について、何らの記載も示唆もされていないから、相違点1が実質的なものではないというためには、甲1発明の製造方法である甲1方法発明と、本件発明1の製造方法とを対比し、両者が同一の製造方法であることを明らかにしなければならない。

(イ)そこで、最初に、甲1方法発明と、本件特許の願書に添付された明細書の発明の詳細な説明(以下、「本件特許の発明の詳細な説明」という。)に、本件発明1の発明特定事項を満たす「発明例」として記載された「試料No.」の「1?5」(表1),「23?27」(表2),「31?38」(表3,4)及び「51?53」(表5,6)のそれぞれの製造方法とを対比し、両者が同一の製造方法といえるのか否かを検討する。

a 本件特許に係る試料No.1?5(表1)の製造方法との同一性について

(a)本件特許に係る試料No.1?5(表1)の製造方法に関し、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0059】
(第1の試験)
第1の試験では、集合組織と磁気特性との関係について調査した。先ず、質量%で、C:0.002%、Si:2.10%、Al:0.0050%、Mn:0.20%、S:0.002%、N:0.002%、P:0.012%、Sn:0.002%、Sb:0.001%、Cr:0.01%、Cu:0.02%、Ni:0.01%、Ti:0.002%、V:0.002%、及びNb:0.003%を含有し、残部がFe及び不純物からなる複数のスラブを作製した。スラブの一部については、熱間圧延により板厚が2.5mmの熱延鋼板とした後、800℃で10時間保持する箱型の焼鈍又は1000℃で30秒保持する連続焼鈍を熱延板焼鈍として施して焼鈍鋼板を得た。次いで、焼鈍鋼板に1回又は中間焼鈍を間に挟む2回の冷間圧延を施して板厚が0.30mmの冷延鋼板を得た。中間焼鈍としては、950℃で10時間保持する箱型の焼鈍、又は900℃以上1100℃以下の温度で30秒保持する連続焼鈍を行った。残りのスラブについては、熱間圧延における粗圧延にて板厚を10mmとした後、表裏面の研削加工によって厚さが3mmの研削板を得た。次いで、研削板を1150℃で30分加熱した後、850℃にて歪速度が35s-1の条件で1パスの仕上圧延を施して、板厚が1.0mmの熱延鋼板を得た。その後、1000℃で30秒保持する熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延によって板厚が0.30mmの冷延鋼板を得た。
【0060】
冷間圧延後には、冷延鋼板に1000℃で1秒間保持する仕上焼鈍を施して、電磁鋼板を得た。上記のシュルツ法による測定を行ったところ、下記表1に示すように、集積度I_(Cube)は0.1以上10.0以下であり、集積度I_(Goss)は0.3以上23.8以下であった。上記の縦断面組織写真を用いた方法による測定を行ったところ、平均結晶粒径は66μm以上72μm以下であった。
【0061】
そして、各試料の鉄損及び磁束密度を測定した。・・・この結果を表1・・・に示す。表1中の下線は、その数値が本発明の範囲又は好ましい範囲から外れていることを示す。・・・
【0062】
【表1】



(b)前記(a)の記載によれば、「表1」の結果が得られた「第1の試験」では、特定の化学組成(【0059】)のスラブを作製した後の製造方法として、
[1]スラブの熱間圧延→熱延板焼鈍→冷間圧延→仕上焼鈍
[2]スラブの熱間圧延→熱延板焼鈍→冷間圧延→中間焼鈍→冷間圧延→仕上焼鈍
[3]スラブの熱間粗圧延→表裏面の研削加工→仕上圧延→熱延板焼鈍→冷間圧延→仕上焼鈍
の3種類の製造方法が採用されている。
しかし、「発明例」である試料No.1?5が、上記3種類のうちのいずれの製造方法によって製造されたものであるのかは、前記(a)の記載によっても明らかではないから、甲1方法発明と試料No.1?5に対応する製造方法とを対比することはできない。

b 本件特許に係る試料No.23?27(表2)の製造方法との同一性について

(a)本件特許に係る試料No.23?27(表2)の製造方法に関し、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0068】
(第2の試験)
第2の試験では、中間焼鈍の条件と集積度及び磁気特性との関係について調査した。先ず、質量%で、C:0.002%、Si:1.99%、Al:0.0190%、Mn:0.20%、S:0.002%、N:0.002%、及びP:0.012%を含有し、残部がFe及び不純物からなる板厚が2.5mmの複数の熱延鋼板を作製した。次いで、熱延鋼板に800℃の温度で10時間保持する箱型の熱延板焼鈍を施して焼鈍鋼板を得た。焼鈍鋼板の平均結晶粒径は70μmであった。その後、第1の冷間圧延率が60%の第1の冷間圧延を焼鈍鋼板に施すことにより、板厚が1.0mmの中間冷延鋼板を得た。続いて、中間冷延鋼板に下記表2に示す条件で中間焼鈍を施すことにより、中間焼鈍鋼板を得た。表2に示すように、中間焼鈍鋼板の平均結晶粒径は71μm以上355μm以下であった。次いで、中間焼鈍鋼板に第2の冷間圧延を施すことにより、板厚が0.30mmの冷延鋼板を得た。その後、冷延鋼板に1000℃で15秒間保持する仕上焼鈍を施して、電磁鋼板を得た。上記のシュルツ法による測定を行ったところ、下記表2に示すように、集積度I_(Cube)は2.3以上4.1以下であり、集積度I_(Goss)は6.5以上24.5以下であった。上記の縦断面組織写真を用いた方法による測定を行ったところ、表2に示すように、平均結晶粒径は70μm以上82μm以下であった。
【0069】
そして、第1の試験と同様にして磁束密度B50L及び磁束密度B50Cを測定した。この結果を表2に示す。表2中の下線は、その数値が本発明の範囲又は好ましい範囲から外れていることを示す。
【0070】
【表2】



(b)前記(1)イ(ウ)で検討したとおり、甲1方法発明では、1回目の冷間圧延の圧下率が不明であるが、「実験1」(【0012】)には、板厚2.0mmの熱延板に対し1回目の冷間圧延を行い、板厚を1mmとする(圧下率を50%とする)ことが記載されているから、これを善解して、甲1方法発明における1回目の冷間圧延の圧下率が50%であるとして、甲1方法発明と、前記(a)の製造方法のうち、表2の「発明例」である試料No.23?27に記載の製造方法とを対比しても、いずれの製造方法も、成分組成、熱延板の板厚、熱延板焼鈍の条件、第1の冷間圧延率、中間焼鈍の条件、第2の冷間圧延率、仕上焼鈍の条件が、甲1方法発明と異なっており、これに加えて、中間焼鈍後の平均結晶粒径が、試料No.23?27の製造方法では、155?355μmの範囲にあるのに対して、甲1方法発明では、112μmであるから、甲1方法発明と表2の試料No.23?27に記載の製造方法は同一であるとはいえない。

c 本件特許に係る試料No.31?38(表3,4)の製造方法との同一性について

(a)本件特許に係る試料No.31?38(表3,4)の製造方法に関し、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0072】
(第3の試験)
第3の試験では、成分と集積度及び磁気特性との関係について調査した。先ず、表3に示す成分を含み、更にTi:0.002%、V:0.003%、及びNb:0.002%を含み、残部がFe及び不純物からなる板厚が2.0mmの複数の熱延鋼板を作製した。次いで、熱延板焼鈍として、1000℃で30秒保持する連続焼鈍を施して焼鈍鋼板を得た。焼鈍鋼板の平均結晶粒径は72μm以上85μm以下であった。その後、第1の冷間圧延率が70%の第1の冷間圧延を焼鈍鋼板に施すことにより、板厚が0.6mmの中間冷延鋼板を得た。続いて、中間冷延鋼板に、950℃で100時間保持する箱型の中間焼鈍を施すことにより、中間焼鈍鋼板を得た。中間焼鈍鋼板の平均結晶粒径は280μm以上343μm以下であった。次いで、第2の冷間圧延率が58%の第2の冷間圧延を中間焼鈍鋼板に施すことにより、板厚が0.25mmの冷延鋼板を得た。その後、冷延鋼板に1050℃の温度で30秒間保持する仕上焼鈍を施して、電磁鋼板を得た。上記のシュルツ法による測定を行ったところ、下記表4に示すように、集積度I_(Cube)は1.9以上3.9以下であり、集積度I_(Goss)は8.0以上21.3以下であった。上記の縦断面組織写真を用いた方法による測定を行ったところ、表4に示すように、平均結晶粒径は112μm以上123μm以下であった。
【0073】
そして、第1の試験と同様にして磁束密度B50L及び磁束密度B50Cを測定した。この結果を表4に示す。表3又は表4中の下線は、その数値が本発明の範囲又は好ましい範囲から外れていることを示す。
【0074】
【表3】

【0075】
【表4】」



(b)前記b(b)と同様に、甲1方法発明における1回目の冷間圧延の圧下率が50%であると善解して、甲1方法発明と、前記(a)の製造方法のうち、「発明例」である表3,4の試料No.39?41に記載の製造方法とを対比すると、いずれの製造方法も、成分組成、熱延板の板厚、熱延板焼鈍の条件、第1の冷間圧延率、中間焼鈍の条件、第2の冷間圧延率、仕上焼鈍の条件が、甲1方法発明と異なっているから、甲1方法発明と表3,4の試料No.39?41に記載の製造方法は同一であるとはいえない。

d 本件特許に係る試料No.51?53(表5,6)の製造方法との同一性について

(a)本件特許に係る試料No.51?53(表5,6)の製造方法に関し、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0077】
(第4の試験)
第4の試験では、熱延板焼鈍、第1の冷間圧延及び第2の冷間圧延の条件と磁気特性との関係について調査した。先ず、質量%で、C:0.002%、Si:2.15%、Al:0.0050%、Mn:0.20%、S:0.003%、N:0.001%、P:0.016%、Sn:0.003%、Sb:0.002%、Cr:0.02%、Cu:0.01%、Ni:0.01%、Ti:0.003%、V:0.001%、及びNb:0.002%を含有し、残部がFe及び不純物からなる板厚が1.6mm以上2.5mm以下の熱延鋼板を作製した。次いで、熱延鋼板に下記表5に示す条件で熱延板焼鈍を施すことにより、焼鈍鋼板を得た。表5に示すように、焼鈍鋼板の平均結晶粒径は24μm以上135μm以下であった。その後、焼鈍鋼板に、第1の冷間圧延率が35%以上75%以下の第1の冷間圧延を施して、板厚が0.5mm以上1.3mm以下の中間冷延鋼板を得た。続いて、中間冷延鋼板に950℃で10時間保持する箱型の中間焼鈍を施して、中間焼鈍鋼板を得た。中間焼鈍鋼板の平均結晶粒径は295μm以上314μm以下であった。次いで、中間焼鈍鋼板に第2の冷間圧延率が30%以上86%以下の第2の冷間圧延を施すことにより、板厚が0.15mm以上0.35mm以下の冷延鋼板を得た。その後、冷延鋼板に800℃以上1120℃で15秒間以上60秒間以下保持する仕上焼鈍を施して、電磁鋼板を得た。上記のシュルツ法による測定を行ったところ、下記表6に示すように、集積度I_(Cube)は1.5以上3.7以下であり、集積度I_(Goss)は5.5以上16.4以下であった。上記の縦断面組織写真を用いた方法による測定を行ったところ、表6に示すように、平均結晶粒径は32μm以上192μm以下であった。
【0078】
そして、第1の試験と同様にして磁束密度B50L及び磁束密度B50Cを測定した。この結果を表6に示す。表5又は表6中の下線は、その数値が本発明の範囲又は好ましい範囲から外れていることを示す。
【0079】
【表5】

【0080】
【表6】



(b)前記b(b)と同様に、甲1方法発明における1回目の冷間圧延の圧下率が50%であると善解して、甲1方法発明と、前記(a)の製造方法のうち、「発明例」である表5,6の試料No.51?53に記載の製造方法とを対比すると、いずれの製造方法も、成分組成、熱延板の板厚、熱延板焼鈍の条件、第1の冷間圧延率、中間焼鈍の条件、第2の冷間圧延率、仕上焼鈍の条件が、甲1方法発明と異なっているから、甲1方法発明と表5,6の試料No.51?53に記載の製造方法は同一であるとはいえない。

e 以上a?dのとおりであるから、甲1方法発明と、本件特許の発明の詳細な説明に、本件発明1の発明特定事項を満たす「発明例」として記載された「試料No.」の「1?5」(表1),「23?27」(表2),「31?38」(表3,4)及び「51?53」(表5,6)のそれぞれの製造方法との対比によっては、相違点1が実質的なものではないということはできない。

(ウ)次に、甲1方法発明と、本件特許の発明の詳細な説明に記載された好ましい製造方法との対比によって、相違点1が実質的なものではないといえるか否かについて検討する。

a 本件特許の発明の詳細な説明には、実施形態に係る電磁鋼板を製造する好ましい方法に関し、以下の記載がある。
「【0034】
・・・以下の説明において、電磁鋼板に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は・・・「質量%」を意味する。本実施形態に係る電磁鋼板は、C:0.010%以下、Si:1.30%?3.50%、Al:0.0000%?1.6000%、Mn:0.01%?3.00%、S:0.0100%以下、N:0.010%以下、P:0.000%?0.150%、Sn:0.000%?0.150%、Sb:0.000%?0.150%、Cr:0.000%?1.000%、Cu:0.000%?1.000%、Ni:0.000%?1.000%、Ti:0.010%以下、V:0.010%以下、Nb:0.010%以下、かつ残部:Fe及び不純物で表される化学組成を有している。・・・」
「【0048】
次に、実施形態に係る電磁鋼板を製造する好ましい方法について説明する。この製造方法では、スラブの熱間圧延、熱延板焼鈍、第1の冷間圧延、中間焼鈍、第2の冷間圧延、仕上焼鈍を行う。
【0049】
熱間圧延においては・・・各種条件は、特に限定されるものではない。・・・
【0050】
熱間圧延後には、熱間圧延により得られた熱延鋼板の焼鈍(熱延板焼鈍)を行う。熱延板焼鈍は箱型炉を用いて行ってもよく、熱延板焼鈍として連続焼鈍を行ってもよい。以下、箱型炉を用いた焼鈍を箱型の焼鈍ということがある。・・・箱型の焼鈍を行う場合、例えば、熱延鋼板を700℃以上1100℃以下の温度域に1時間以上200時間以下保持することが好ましい。・・・連続焼鈍を行う場合、例えば、熱延鋼板を750℃以上1250℃以下の温度域を1秒間以上600秒間以下で通過させることが好ましい。・・・熱延板焼鈍により得られる焼鈍鋼板の平均結晶粒径は、好ましくは20μm以上であ・・・る。
【0051】
熱延板焼鈍後には、焼鈍鋼板の冷間圧延(第1の冷間圧延)を行う。第1の冷間圧延の冷間圧延率(以下、「第1の冷間圧延率」ということがある)は、好ましくは40%以上85%以下とする。・・・
【0052】
第1の冷間圧延後には、第1の冷間圧延により得られた冷延鋼板(以下、「中間冷延鋼板」ということがある)の焼鈍(中間焼鈍)を行う。中間焼鈍として箱型の焼鈍を行ってもよく、中間焼鈍として連続焼鈍を行ってもよい。・・・箱型の焼鈍を行う場合、例えば、中間冷延鋼板を850℃以上1100℃以下の温度域に1時間以上200時間以下保持することが好ましい。・・・連続焼鈍を行う場合、例えば、中間冷延鋼板を1050℃以上1250℃以下の温度域を1秒間以上600秒間以下で通過させることが好ましい。・・・中間焼鈍により得られる中間焼鈍鋼板の平均結晶粒径は、好ましくは140μm以上であ・・・る。中間焼鈍としては連続焼鈍よりも箱型の焼鈍が好ましい。
【0053】
中間焼鈍後には、中間焼鈍により得られた中間焼鈍鋼板の冷間圧延(第2の冷間圧延)を行う。第2の冷間圧延の冷間圧延率(以下、「第2の冷間圧延率」ということがある)は、好ましくは45%以上85%以下とする。・・・
【0054】
第2の冷間圧延後には、第2の冷間圧延により得られた冷延鋼板の焼鈍(仕上焼鈍)を行う。・・・仕上焼鈍の温度は、好ましくは700℃以上1250℃以下とし、仕上焼鈍の時間は、好ましくは1秒間以上600秒間以下とする。・・・」

b 前記aによれば、本件特許の発明の詳細な説明には、実施形態に係る電磁鋼板を製造する好ましい方法として、以下の事項が記載されている。

(a)電磁鋼板の化学組成は、質量%で、C:0.010%以下、Si:1.30%?3.50%、Al:0.0000%?1.6000%、Mn:0.01%?3.00%、S:0.0100%以下、N:0.010%以下、P:0.000%?0.150%、Sn:0.000%?0.150%、Sb:0.000%?0.150%、Cr:0.000%?1.000%、Cu:0.000%?1.000%、Ni:0.000%?1.000%、Ti:0.010%以下、V:0.010%以下、Nb:0.010%以下、かつ残部:Fe及び不純物である(【0034】)。

(b)実施形態に係る電磁鋼板を製造する好ましい方法では、スラブの熱間圧延、熱延板焼鈍、第1の冷間圧延、中間焼鈍、第2の冷間圧延、仕上焼鈍を行う(【0048】)。

(c)スラブの熱間圧延については、各種条件は特に限定されない(【0049】)。

(d)熱延板焼鈍については、箱型の焼鈍を行う場合、熱延鋼板を700℃以上1100℃以下の温度域に1時間以上200時間以下保持することが好ましく、連続焼鈍を行う場合、熱延鋼板を750℃以上1250℃以下の温度域を1秒間以上600秒間以下で通過させることが好ましい。そして、熱延板焼鈍により得られる焼鈍鋼板の平均結晶粒径は20μm以上であることが好ましい(【0050】)。

(e)第1の冷間圧延の冷間圧延率は、40%以上85%以下が好ましい(【0051】)。

(f)第1の冷間圧延により得られた冷延鋼板(中間冷延鋼板)の中間焼鈍については、箱型の焼鈍を行う場合、中間冷延鋼板を850℃以上1100℃以下の温度域に1時間以上200時間以下保持することが好ましく、連続焼鈍を行う場合、中間冷延鋼板を1050℃以上1250℃以下の温度域を1秒間以上600秒間以下で通過させることが好ましい。そして、中間焼鈍により得られる中間焼鈍鋼板の平均結晶粒径は140μm以上であることが好ましい(【0052】)。

(g)第2の冷間圧延の冷間圧延率は、45%以上85%以下が好ましい(【0053】)。

(h)仕上焼鈍については、温度は700℃以上1250℃以下が好ましく、時間は1秒間以上600秒間以下が好ましい(【0054】)。

c そこで、甲1方法発明が、前記bの(a)?(h)を充足するか否かを検討すると、(a)については、甲1方法発明における「wt%で」「0.0010%」のO(酸素)が(a)の「不純物」に相当することは、前記ア(イ)で検討したとおりであるから、甲1方法発明は、上記(a)を充足し、(b),(c)についても、これらを充足する。
(d)については、連続焼鈍の条件は充足するが、甲1方法発明における焼鈍鋼板の平均粒径は不明であるから、「焼鈍鋼板の平均結晶粒径が20μm以上であること」は充足しない。
(e)については、前記(イ)b(b)と同様に、甲1方法発明における1回目の冷間圧延の圧下率が50%であると善解すれば、これを充足する。
(f)については、甲1方法発明の中間焼鈍が連続焼鈍であると善解すれば、焼鈍条件は充足するが、甲1方法発明では、中間焼鈍後の平均粒子径は112μmであるから、「中間焼鈍鋼板の平均結晶粒径が140μm以上であること」は充足しない。
(g),(h)については、甲1方法発明は、これらを充足する。

d 以上のとおり、甲1方法発明は、前記bの(a)?(h)のうち、少なくとも(d)及び(f)を充足しない。
したがって、上記(a)?(h)の全てを充足する製造方法で製造された電磁鋼板が本件発明1の発明特定事項を満たすものであるとしても、相違点1が実質的なものではないということはできない。

e もっとも、本件特許の発明の詳細な説明には、前記bの(a)?(h)を充足する製造方法を採用しさえすれば、それだけで直ちに本件発明1の発明特定事項を満たす電磁鋼板が得られる旨の記載はない。
むしろ、前記bの(a)?(h)の成分組成や各製造条件は、相互に関連して電磁鋼板の特性を決定するものであるから、本件特許の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、前記bの(a)?(h)の成分組成や製造条件の範囲は、「結晶粒径が20μm?300μmであり、 (001)[100]方位の集積度をI_(Cube)、(011)[100]方位の集積度をI_(Goss)とあらわしたとき」
「I_(Goss)+I_(Cube)≧10.5 ・・・式1
I_(Goss)/I_(Cube)≧0.50 ・・・式2
I_(Cube)≧2.5 ・・・式3」「の関係を満たす集合組織を有する」「電磁鋼板」を得るための前提となる成分組成や製造条件の範囲を定めたものにすぎず、当該「電磁鋼板」を得るためには、その範囲から、さらに具体的な成分組成や各製造条件を相互の関連性等に配慮しつつ最適化して、それらの組合せを具体的に決定する必要があることを理解する。
したがって、仮に、甲1方法発明が、前記bの(a)?(h)を全て充足しているとしても、それをもって直ちに本件発明1の発明特定事項を満たす電磁鋼板が得られるとはいえない。

(エ)以上によれば、相違点1が実質的なものではないということはできないから、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
また、甲1には、本件発明1で「(001)[100]方位の集積度をI_(Cube)、(011)[100]方位の集積度をI_(Goss)」と定義された「IC_(ube)」及び「I_(Goss)」について、何らの記載も示唆もされていないから、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。

(3)本件発明2?8について

本件発明2?8は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有しているから、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)小括

以上のとおりであるから、申立理由1には理由がない。

2 申立理由2について

(1)甲2の記載事項

ア 甲2には、以下の記載がある。
「【0001】
本発明は、モーターやトランスのコア(鉄芯)材料として用いる無方向性電磁鋼板に関する。」
「【0009】
・・・本発明は、モーターやトランスの分割コア用として最適な磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。」
「【0070】
(実施例1)
鋼を真空溶解炉で溶解しつつ、成分組成を調整し、表1に示す成分組成を有するインゴットを鋳造した。これを、1200℃に加熱して熱間圧延し、1.5mm厚の熱延板とした。次いで、N_(2)雰囲気中、920℃で90秒均熱して焼鈍を行った。酸洗後、冷間圧延を施して、板厚0.25mm(圧下率83.3%)の冷延板とした。
【0071】
その後、冷延板を、H_(2)雰囲気中、1000℃で20秒均熱し、冷延板に再結晶焼鈍を施した。再結晶焼鈍時の加熱速度は、10℃/秒であった。冷延板の平均結晶粒径は、40?60μmの範囲に入っていた。・・・」
「【0076】
【表1】



イ 前記アによれば、甲2には、以下の事項が記載されている。

(ア)甲2に記載された発明は、モーターやトランスのコア(鉄芯)材料として用いる無方向性電磁鋼板に関し(【0001】)、最適な磁気特性を有する無方向性電磁鋼板を提供することを目的とするものである(【0009】)。

(イ)表1の「実験No.」の「3」に記載された実施例には、mass%で、C:0.001%、Si:3.3%、Mn:0.2%、Al:1.2%、S:0.0002%、N:0.0014%、Sn:0.003%の成分組成を有するインゴットを1200℃に加熱して熱間圧延し、1.5mm厚の熱延板とする工程、 上記熱延板に対し、N_(2)雰囲気中、920℃で90秒均熱して焼鈍を行う工程、 冷間圧延を施して、板厚0.25mm(圧下率83.3%)の冷延板とする工程、及び、上記冷延板を、H_(2)雰囲気中、1000℃で20秒均熱し、加熱温度10℃/秒の再結晶焼鈍を施す工程を含む無方向性電磁鋼板の製造方法(【0070】,【0071】,【0076】)が記載されており、上記再結晶焼鈍後の冷延板の平均結晶粒径は、40?60μmの範囲に入っていた(【0071】)。

ウ 以上によれば、表1の「実験No.」の「3」に記載された実施例に基づいて認定した以下の「甲2発明」及び、当該甲2発明の製造方法である「甲1方法発明」が記載されているものと認められる。

(甲2発明)
mass%で、
C:0.001%、
Si:3.3%、
Mn:0.2%、
Al:1.2%、
S:0.0002%、
N:0.0014%、
Sn:0.003%
の成分組成を有するインゴットから製造され、平均結晶粒径が40?60μmの範囲にある無方向性電磁鋼板。

(甲2方法発明)
mass%で、
C:0.001%、
Si:3.3%、
Mn:0.2%、
Al:1.2%、
S:0.0002%、
N:0.0014%、
Sn:0.003%
の成分組成を有するインゴットを1200℃に加熱して熱間圧延し、1.5mm厚の熱延板とする工程、
上記熱延板に対し、N_(2)雰囲気中、920℃で90秒均熱して焼鈍を行う工程、
冷間圧延を施して、板厚0.25mm(圧下率83.3%)の冷延板とする工程、及び、
上記冷延板を、H_(2)雰囲気中、1000℃で20秒均熱し、加熱温度10℃/秒の再結晶焼鈍を施す工程
を含む平均結晶粒径が40?60μmの範囲にある無方向性電磁鋼板の製造方法。

(2)本件発明1について

ア 本件発明1と甲2発明の一致点・相違点

(ア)本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の「無方向性電磁鋼板」は、甲2方法発明にあるとおり、その製造に際し、「インゴット」の段階以降に成分元素の調整を行っていないから、「無方向性電磁鋼板」の成分組成は「インゴット」の成分組成と同一であると認められる。
また、甲2発明の「無方向性電磁鋼板」と本件発明1の「電磁鋼板」は、「電磁鋼板」である点で一致し、甲2発明の「mass%」が、本件発明1の「質量%」と同一であることは当業者の技術常識である。

(イ)甲2発明では、「残部」のインゴットの成分組成について、明示的に特定されていないが、上記インゴットは「無方向性電磁鋼板」を製造するためのものであるから、いわゆる「不可避的不純物」を除けば、残部の成分元素が、Fe(鉄)であることは明らかである。
そして、ここでいう「不可避的不純物」は、本件発明1の「不純物」に相当する概念であると認められる。

(ウ)甲2発明の「無方向性電磁鋼板」における「平均結晶粒径」については、甲2に「鋼板の圧延方向(・・・以下「L方向」ということがある。)」(【0005】)及び「平均結晶粒径は,鋼板断面を光学顕微鏡で観察した組織において,L方向の線分と交差する結晶粒界の個数を数え、平均化して求めた。」(【0035】)と記載されている。
他方、本件発明1の「電磁鋼板」における「結晶粒径」については、本件特許の発明の詳細な説明に「平均結晶粒径としては、板厚方向及び圧延方向に平行な縦断面組織写真において、板厚方向及び圧延方向について、切断法により測定した結晶粒径の平均値を用いることができる。縦断面組織写真としては、光学顕微鏡写真を用いることができ・・・る。」(【0046】)と記載されている。
以上によれば、甲2発明の「平均結晶粒径」と、本件発明1の「結晶粒径」は、同一の概念であると認められるから、甲2発明の「平均結晶粒径が40?60μmの範囲にある無方向性電磁鋼板」と、本件発明1の「結晶粒径が20μm?300μmであ」「る電磁鋼板」は、「結晶粒径が40μm?60μmである電磁鋼板」である点で一致する。

(ウ)以上によれば、本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点(以下、「相違点2」という。)は、以下のとおりである。

(一致点)
質量%で、
C :0.001%、
Si:3.3%、
Al:1.2%、
Mn:0.2%、
S :0.0002%、
N :0.0014%、
Sn:0.003%、かつ
残部:Fe及び不純物
で表される化学組成を有し、
結晶粒径が40μm?60μmである電磁鋼板。

(相違点2)
本件発明1の「電磁鋼板」は、「(001)[100]方位の集積度を
I_(Cube)、(011)[100]方位の集積度をI_(Goss)とあらわしたとき」
「I_(Goss)+I_(Cube)≧10.5 ・・・式1
I_(Goss)/I_(Cube)≧0.50 ・・・式2
I_(Cube)≧2.5 ・・・式3」「の関係を満たす集合組織を有する」のに対し、
甲2発明の「無方向性電磁鋼板」は、上記のような集合組織を有するか否かが明らかではない点。

イ 相違点2の判断

(ア)甲2には、本件発明1で「(001)[100]方位の集積度をI_(Cube)、(011)[100]方位の集積度をI_(Goss)」と定義された「IC_(ube)」及び「I_(Goss)」について、何らの記載も示唆もされていないから、相違点2が実質的なものではないというためには、甲2発明の製造方法である甲2方法発明と、本件発明1の製造方法とを対比し、両者が同一の製造方法であることを明らかにしなければならない。

(イ)そこで、最初に、甲2方法発明と、本件特許の発明の詳細な説明に、本件発明1の発明特定事項を満たす「発明例」として記載された「試料No.」の「1?5」(表1),「23?27」(表2),「31?38」(表3,4)及び「51?53」(表5,6)のそれぞれの製造方法とを対比し、両者が同一の製造方法といえるのか否かを検討する。

a 本件特許に係る試料No.1?5(表1)の製造方法との同一性について

前記1(2)イ(イ)aで検討したとおり、「発明例」である試料No.1?5が、3種類の製造方法のうちのいずれの製造方法によって製造されたものであるのかは、明らかではないから、甲2方法発明と試料No.1?5に対応する製造方法とを対比することはできない。

b 本件特許に係る試料No.23?27(表2),試料No.31?38(表3,4),試料No.51?53(表5,6)の製造方法との同一性について

前記1(2)イ(イ)b?dで検討したとおり、「発明例」である試料No.23?27(表2),試料No.31?38(表3,4),試料No.51?53(表5,6)の製造方法ではいずれも、中間焼鈍を介して2回の冷間圧延を施しているところ、甲2方法発明では、1回の冷間圧延を施しているのみであるから、甲2方法発明は、本件特許に係る上記の製造方法のいずれとも同一ではない。

c 以上のとおりであるから、甲2方法発明と、本件特許の発明の詳細な説明に、本件発明1の発明特定事項を満たす「発明例」として記載された「試料No.」の「1?5」(表1),「23?27」(表2),「31?38」(表3,4)及び「51?53」(表5,6)のそれぞれの製造方法との対比によっては、相違点2が実質的なものではないということはできない。

(ウ)次に、甲2方法発明と、本件特許の発明の詳細な説明に記載された好ましい製造方法との対比によって、相違点2が実質的なものではないといえるか否かについて検討すると、前記1(2)イ(ウ)bにあるとおり、上記の好ましい製造方法では、中間焼鈍を介して2回の冷間圧延を施しているところ、甲2方法発明では、1回の冷間圧延を施しているのみであるから、甲2方法発明は、上記の好ましい製造方法に包含されるものではない。
したがって、上記の好ましい製造方法で製造された電磁鋼板が本件発明1の発明特定事項を満たすものであるとしても、相違点2が実質的なものではないということはできない。
もっとも、仮に、甲2方法発明が、上記の好ましい製造方法に包含されるものであったとしても、それをもって直ちに本件発明1の発明特定事項を満たす電磁鋼板が得られるとはいえないことは、前記1(2)イ(ウ)eで検討したとおりである。

(エ)以上によれば、相違点2が実質的なものではないということはできないから、本件発明1は甲2発明であるとはいえない。
また、甲2には、本件発明1で「(001)[100]方位の集積度をI_(Cube)、(011)[100]方位の集積度をI_(Goss)」と定義された「IC_(ube)」及び「I_(Goss)」について、何らの記載も示唆もされていないから、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者であっても容易になし得たこととはいえない。

(3)本件発明2?8について

本件発明2?8は、本件発明1を引用し、本件発明1の発明特定事項を全て有しているから、本件発明1と同様の理由により、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)小括

以上のとおりであるから、申立理由2には理由がない。

第5 結び

以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-03 
出願番号 特願2016-529674(P2016-529674)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 陽一  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 長谷山 健
▲辻▼ 弘輔
登録日 2017-10-20 
登録番号 特許第6226072号(P6226072)
権利者 新日鐵住金株式会社
発明の名称 電磁鋼板  
代理人 伊東 秀明  
代理人 蜂谷 浩久  
代理人 國分 孝悦  
代理人 渡辺 望稔  
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