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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
管理番号 1342037
異議申立番号 異議2018-700011  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-05 
確定日 2018-07-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6156860号発明「多管式反応器および多管式反応器の設計方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6156860号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯

特許第6156860号の請求項1?14に係る特許についての出願は、平成24年4月4日に特許出願され、平成29年6月16日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成30年1月5日に特許異議申立人松山 徳子(以下、単に「申立人」ということもある。)により、請求項1?14について特許異議の申立てがされ、当審において同年2月26日付けで取消理由を通知し、同年4月24日付けで意見書が提出され、同年6月12日付けで申立人から上申書が提出されたものである。

第2 本件発明(以下、項番号に対応して、「本件発明1」などという。)

「【請求項1】
円筒状のシェル内に複数の反応管が収容された、環状形邪魔板を含むディスク-アンド-ドーナッツ型の邪魔板構造を有し、該邪魔板構造で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する多管式反応器であって、
前記複数の反応管が、相互に隣接している任意の3つの反応管の中心軸間の距離が、全て等しくなる3角配置錯列となるように配列されており、
前記複数の反応管の一部の反応管に、温度計が設けられており、
該温度計が設けられた測温反応管のうちの少なくとも一部の測温反応管は、
前記シェルの中心軸と直交する断面において、該測温反応管の中心軸と該シェルの中心軸とを結ぶ直線を基準直線とし、該測温反応管の中心軸と該測温反応管と隣接する隣接反応管の中心軸とを結ぶ直線を連結直線とすると、該連結直線と前記基準直線のなす角の角度が0?15度となる隣接反応管を有する反応管である
ことを特徴とする多管式反応器。
【請求項2】
気固不均一反応によって物質を製造する固定床反応器である
ことを特徴とする請求項1記載の多管式反応器。
【請求項3】
プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコールまたはその混合物を、気相において分子状酸素を含有するガスにより酸化して、(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸を製造する固定床反応器である
ことを特徴とする請求項2記載の多管式反応器。
【請求項4】
前記シェルの直径が、3m以上である
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の多管式反応器。
【請求項5】
前記反応管を5000本以上有している
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の多管式反応器。
【請求項6】
前記反応管の直径Dによって隣接する反応管の中心軸間の距離Lを除した値(L/D)が、1.2?1.6となるように、前記複数の反応管が配設されている
ことを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の多管式反応器。
【請求項7】
前記反応管において、前記シェル内に供給される熱媒体と接触する部分の長さが、1.3m以上である
ことを特徴とする請求項1、2、3、4、5または6記載の多管式反応器。
【請求項8】
円筒状のシェル内に複数の反応管が収容された、環状形邪魔板を含むディスク-アンド-ドーナッツ型の邪魔板構造を有し、該邪魔板構造で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する多管式反応器の設計方法であって、
前記複数の反応管を、相互に隣接している任意の3つの反応管の中心軸間の距離が、全て等しくなる3角配置錯列となるように配列し、
前記シェルの中心軸と直交する断面において、一の反応管の中心軸と前記シェルの中心軸とを結ぶ直線を基準直線とし、該一の反応管の中心軸と該一の反応管と隣接する隣接反応管の中心軸とを結ぶ直線を連結直線とすると、前記連結直線と前記基準直線のなす角の角度が0?15度となる隣接反応管を有する該一の反応管に温度計を設ける
ことを特徴とする多管式反応器の設計方法。
【請求項9】
前記多管式反応器が、
気固不均一反応によって物質を製造する固定床式反応器である
ことを特徴とする請求項8記載の多管式反応器の設計方法。
【請求項10】
前記多管式反応器が、
プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコールまたはその混合物を、気相において分子状酸素を含有するガスにより酸化して、(メタ)アクロレイン及び/又は(メタ)アクリル酸を製造する固定床反応器である
ことを特徴とする請求項9記載の多管式反応器の設計方法。
【請求項11】
前記シェルの直径が、3m以上である
ことを特徴とする請求項8、9または10記載の多管式反応器の設計方法。
【請求項12】
前記反応管を5000本以上有している
ことを特徴とする請求項8、9、10または11記載の多管式反応器の設計方法。
【請求項13】
前記反応管の直径Dによって隣接する反応管の中心軸間の距離Lを除した値(L/D)が、1.2?1.6となるように、前記複数の反応管を配設する
ことを特徴とする請求項8、9、10、11または12記載の多管式反応器の設計方法。
【請求項14】
前記反応管において、前記シェル内に供給される熱媒体と接触する部分の長さが1.3m以上である
ことを特徴とする請求項8、9、10、11、12または13記載の多管式反応器の設計方法。」

第3 取消理由の概要

当審において、請求項1?14に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

[理由1] 本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、取消されるべきものである。

[理由2] 本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、取消されるべきものである。

[理由3] 本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

1 [理由1]、[理由2]について
(1) 引用文献等一覧
引用文献1(甲第1号証):特表2010-529005号公報
引用文献2(甲第2号証):特開2001-139499号公報
引用文献3(甲第3号証):特表2006-510471号公報
引用文献4(甲第4号証):特開2006-142299号公報
引用文献5(甲第5号証):特開2004-83430号公報
引用文献6(甲第6号証):特開2004-944号公報
引用文献7(甲第7号証):特開2001-137688号公報
引用文献8(甲第8号証):米国特許第4203906号明細書
引用文献9(甲第9号証):永井英彰、他2名、化学プラント用多管式反応器のスケールアップ技術の開発、三菱重工技報、日本、1996.09.発行、Vol.33、No.5、326-329頁
引用文献10(甲第10号証):国際公開第2005/005037号
引用文献11(甲第11号証):石賀宏明、他3名、多管式熱交換器モデルにおける伝熱促進に関する研究、可視化情報、日本、1997.07.発行、Vol.17、Suppl. No.1、261-264頁
引用文献12(甲第12号証):特開2003-206244号公報

(2) 本件特許の請求項1?14に係る発明(以下、項番号に応じて、「本件発明1」などという。)は、引用文献1(甲第1号証)に記載された発明(以下、項番号に応じて、「甲1発明」などという。)である。
また、本件発明1?14と、甲1発明とに相違があったとしても、本件発明1?14は、甲1発明、引用文献2(甲第2号証)の記載に基いて、または、甲1発明、引用文献3(甲第3号証)の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3) 本件発明1?3、8?10は、甲4発明である。
また、本件発明1?3、8?10と、甲4発明とに相違があったとしても、本件発明1?3、8?10は、甲4発明、引用文献4(甲第4号証)?引用文献7(甲第7号証)の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、本件発明4?7、11?14は、甲4発明、引用文献4(甲第4号証)?引用文献7(甲第7号証)の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4) 本件発明1?14は、甲10発明、引用文献1(甲第1号証)、引用文献6(甲第6号証)、引用文献10(甲第10号証)?引用文献12(甲第12号証)の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 [理由3]について
(1) 発明の詳細な説明の記載からは、本件発明1?14について、どのような技術上の意義を有するかを理解することができない。
また、どのようにすれば、本件発明1?14の課題を解決することができるのかを理解することができない。

(2) 本件発明1?14は、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

第4 理由1、2についての検討

1 引用文献の記載(当審注:下線は当審において付記したものである。以下同じ。)

(1) 引用文献1

引用文献1には、「管束反応器の反応管に新しい触媒固定床を再装填する方法」(発明の名称)について、次の記載がある。

(1a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
新しい触媒固定床中での有機出発化合物の新たな不均一系触媒作用部分的気相酸化の実施の目的で、管束反応器の反応管に新しい触媒床を再装填する方法であって、その際に、管束反応器の反応管に新しい触媒固定床を再装填する前に、同じ反応管中で、有機化合物の不均一系触媒作用部分的先行気相酸化を、この反応管中に存在するその活物質が元素Moを酸化された状態で含有している多元素酸化物である先行触媒固定床中で実施して、水蒸気含有生成ガス混合物を取得し、その部分酸化の終了後に、先行触媒固定床をこの反応管から取出している場合に、この反応管からの先行触媒固定床の取り出しとこの反応管への新しい触媒床の再装填との間に、少なくとも反応管の一部分で、その内壁上に堆積した酸化モリブデン及び/又は酸化モリブデン水和物を含有している固体膜(固体付着物)を、ブラシを用いて少なくとも部分的にブラッシング除去することを特徴とする、管束反応器の反応管に新しい触媒固定床を再装填する方法。」

(1b) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、管束反応器の反応管に新しい触媒固定床を再装填する前に、同じ反応管中で、この反応管中に存在する触媒固定床(これは、少なくともその活物質が元素Moを酸化された状態で含有している多元素酸化物である触媒成形体を含有している)中で、有機化合物の先行不均一系触媒作用部分気相酸化は実施されて、水蒸気含有生成ガス混合物が取得され、かつ先行触媒固定床は、この部分酸化の終了後に反応管から除去されている方法において、新しい触媒固定床中での有機出発化合物の新たな不均一系触媒作用部分気相酸化の実施の目的で、管束反応器の反応管に新しい触媒固定床を再装填する方法に関する。」

(1c) 「【0003】
ここで管束反応器とは、垂直に配置された反応管の管束を含有し、この管束が反応器ジャケットで包囲されている装置であり、この際、個々の反応管の両端は開いており、各反応管は、その上端で、反応ジャケット中に封入された上管床板の通過開口部中に、かつその下端で、反応ジャケット中に封入された下管床板の通過開口部中に気密に終端しており、この際、反応管の外部、上管床板及び下管床板及び反応器ジャケットは一緒になって、反応管周囲空間を区切っており、双方の管床板の各々は、少なくとも1つの開口部を有する反応器フードにより被われている。このような管束反応器中での不均一系触媒作用部分気相酸化の実施の際には、この反応管に、1個の触媒固定床(この反応管中に1触媒固定床が充填されており:この反応管中に1触媒固定床が存在する)が装填されており、二つの反応器フード中の少なくとも1つの開口部から、部分的に酸化されるべき有機化合物及び分子酸素を含有している反応ガス出発混合物が供給され、かつ、他の反応器フードの少なくとも1つの開口部から、所望の目的生成物まで部分的に酸化されるべき有機化合物の部分気相酸化によりこの反応管中に存在する触媒床の流過時に生じる目的生成物含有生成ガス混合物が排出され、その間、管束反応器のジャケット側上の反応管の周りに、少なくとも1種の(通常は液状の)熱交換媒体が導かれる。通例、少なくとも1種の液状熱交換媒体の使用の場合には、この反応管の周りにそれが導びかれて、二つの管束の相互に向き合っている各表面が液状熱交換媒体で濡らされる。少なくとも1種の(例えば液状)熱交換媒体が、通常は温度TW^(ein)で反応管周囲空間中に導入され、温度TW^(aus)で再び反応管周囲空間から導出され、この際、TW^(aus)≧TW^(ein)である。原則的に、熱交換媒体の少なくとも1種は、ガス状で又は沸騰状態で、反応管周囲空間に導びかれうる。このような管束反応器の例及びこの中で実施される不均一系触媒作用部分酸化は、例えば、EP-A700893、DE-A4431949、WO03/057653、EP-A1695954、WO03/055835、WO03/059857、WO03/076373、DE69915952T2、DE-A102004018267、DE202006014116U1及びドイツ特許整理番号102007019597.6並びに前記文献中に引用されている技術水準に開示されている。」

(1d) 「【0005】
この明細書中で、反応管の外部で2つの管床板及び反応器ジャケットを一緒に区切っている空間(この中に、少なくとも1種(通常は液状)の熱交換媒体が導びかれる)を、反応管周囲空間と称している。
【0006】
最も簡単には、この反応管周囲空間中に1種のみの(特に液状の)熱交換媒体が案内される(このような方法は、1帯域管束反応器中での1帯域法とも称される)。これは、この反応器周囲空間に、通例、その上端又は下端から、入口温度TW^(ein)で反応器ジャケット中の開口部を通って導入され、かつ逆の端部から、出口温度TW^(aus)で反応器ジャケット中の開口部を通って、再び反応管周囲空間から導出される。
・・・(中略)・・・
【0008】
反応管周囲空間内で、(特に液状の)熱交換媒体は、原則的に反応管内を流れる反応混合物に対して単純な並流又は向流で、反応管の周りに案内される。しかしながら、適当な転向ディスクを用いて曲がりくねって反応管の周りに案内されて、単に反応管周囲空間の全体に渡って、反応管中の反応ガス混合物の流動方向に対して並流又は向流を生じさせることもできる。使用される熱交換媒体が使用条件下に液状である場合には、これは、使用技術的に0から又は50まで又はこれから250℃まで、特に120?200℃の範囲の融点を有することが合目的である。」

(1e) 「【0024】
US-A4701101に対する選択として、JP-A2006-159197は、その中で長い作業時間にわたり不均一系触媒作用部分気相反応が実施される管束反応器の反応管を、その終了の後並びにその内部中の触媒固定床の除去の後で、この管束反応器の反応管に触媒固定床が再装填される前に、液体(特に水)で洗浄し、引き続き乾燥させることを推奨している。この方法の欠点は、この液体が、反応管の内側上の使用洗浄液体中に可溶であるような壁付着物のみに作用することである。この方法の更なる欠点は、この場合に生じる懸濁液又は溶液が一般に腐食性であり、特に飛行錆(Flugrost)及び腐食した表面(これらは特に、完全な酸化を促進する作用をするので、不利である)の形成をもたらすことである。
【0025】
更に、この方法は、実質的に全ての固定床触媒が液相との接触に対して敏感であり、それらとの接触時にその作用効果を大抵は少なくとも部分的に失うことで、問題がないわけではない。即ち、洗浄された反応管(その全数が通常は数千本に達する)の後続の乾燥が正当に量的に行われないので、新しい触媒固定床装填に障害を起こすこともありうる(通常は、活物質表面の孔が液相で充填され、後のその排除は一般に困難であり、その結果、触媒表面の活性中心を被覆して、これが触媒性能を低下させる)。
【0026】
従って本発明の課題は、技術水準の前記方法に比べてそれらの欠点をいずれにせよ低下された形でのみ有する、改良された方法を提供することであった。
【0027】
相応して、新しい触媒床中での有機出発化合物の新たな不均一系触媒作用部分気相酸化を実施する目的で、この管束反応器の反応管に新しい触媒固定床を装填する前に、同じ反応管中で、反応管中に存在する先行触媒固定床(これは、反応管中に存在し、その活物質が元素Moを酸化された状態で含有している多元素酸化物である、触媒成形体から成っている)中で、有機化合物の不均一系触媒作用部分先行気相酸化を実施して、水蒸気含有生成ガス混合物を取得し、かつ先行触媒固定床をこの部分酸化の終了後にこの反応管から取り出す方法において、管束反応器の反応管に新しい触媒床を再装填する方法が発見され、この方法は、先行触媒固定床を反応管から取り出すこととこの反応管に新しい触媒床を再装填することとの間に、少なくとも反応管の一部で、その内壁上に堆積した酸化モリブデン及び/又は酸化モリブデン水和物を含有している固体付着物(固体膜)を、ブラシを用いて少なくとも部分的にブラッシング除去することを特徴としている。
【0028】
本発明によれば、この反応管のブラッシングを、乾燥状態で、即ち液相の不存在下に行なうことが有利である。」

(1f) 「【0038】
この反応管中の反応温度は、特に反応管周囲空間中に導かれる少なくとも1種の熱交換媒体によってコントロールされる。
【0039】
管束反応器中の反応管は、既に記載のように、通常はフェライト鋼又は不錆鋼から製造されており、屡々数mm、例えば1?3mmの壁厚を有している。その内径は、大抵数cm、例えば10?50mm、屡々20?30mmである。これらの管長は、通常の場合に数メーターに達している(典型的な反応管の長さは、1?10m、屡々2から8まで又は6mまで、むしろ2?4mの範囲である)。
【0040】
使用技術的に適切には、管束反応器中に収納されている反応管(作業管)の数は、少なくとも1000、屡々、少なくとも3000?5000及び多くの場合には、少なくとも10000本になる。屡々、管束反応器中に収納されている触媒管の数は15000?30000又は40000?50000本になる。50000本を上回る数の触媒管を有する管束反応器は、むしろ例外である。反応管周囲空間の内部に、反応管は通常の場合には実質的に均一に分布して配置されおり、この際にこの分布は、相互に隣合っている反応管の中心内軸の距離(いわゆる反応管ピッチ)が25?55mm、屡々35?55mmであるように選択するのが適切である。作業管は、通常、例えばEP-A873783に記載のようなサーモ管(Thermorohr)とは区別される。この作業管は、その中で不一系触媒作用部分気相反応が特有の意味で実施される反応管である一方で、サーモ管は、第一にこの反応管中の反応温度を追跡し、かつ制御する作用をする目的を有する。この目的のために、このサーモ管は、通例は、触媒固定床に加えて1個の温度センサーを備え、このサーモ管中でその長さに沿って中心に通っているサーモウエル(Thermohuellse)を有している。通常の場合に、1管束反応器中のサーモ管の数は、作業管の数よりも非常に少ない。通常は、このサーモ管の数は≦20である。」

(1g) 「【0134】
例1
前後に配置された2つの1帯域管束反応器中でのアクリル酸までのプロピレンの2工程不均一系触媒作用部分気相酸化の実施例
2つの管束反応器に、新鮮触媒固定床を装填した。
【0135】
この触媒固定床形成の終了後の定常作業条件は、次の通りであった:
A)一般的方法条件の記載
I.第1反応工程
使用熱交換媒体:
硝酸カリウム60質量%及び亜硝酸ナトリウム40質量%から成る塩融液;
反応管の材料:
DIN 材料番号1.0481のフェライト鋼;
反応管の寸法:
長さ 3200mm;
内径 25mm;
外径 30mm(壁厚:2.5mm);
反応器:
外径6800mmの円筒形容器(DIN 材料番号1.0345のフェライト鋼);ジャケット壁厚=中央部1.8cm、上部及び下部2.5cmまで肥厚化;自由中心空間を有しているリング状に垂直配置された管束;中心自由空間の直径:1000mm;最外側にある反応管から容器壁までの距離:150mm;管束中の均一な反応管分布(反応管1本当たり6本の等間隔隣接管);反応管ピッチ:38mm。
【0136】
反応管は、それらの端部で、板厚125mmの管床板の開口部中に気密に固定されており、それらの開口部で、上端で容器と結合しており、上部反応器床板を被っている反応器ヘッド中に接続されており、かつ下端で後冷却器までの円筒状移行部中に接続されていた。上部反応器床板(反応器床板E^(*))を被っている反応器フードは、直径1020mmの開口部E^(*)(ガス入口接続管の形で)を有していた。この管束反応器の管床板及び他のエレメントは、DIN 材料番号1.0481のフェライト鋼から製造されている。この反応器床板表面E^(*)(最外反応管輪の所の)中に及び上部反応器フード(反応器フードE^(*))中に、それぞれ1個のサーモカップルが挿入又は導入されていた。上部反応器フード(全圧壁=20mm)の内部は、タイプ1.4571の不錆鋼(DIN EN 10020)でメッキされていた(メッキ厚さ:3mm)。管束への熱交換媒体の供給:この管束は、管床板の間にその縦方向に沿って連続して配置された3つの転向ディスク(Umlenkscheibe)(それぞれの厚さ10mm)によって、等間隔(それぞれ730mm)の4つの縦区分(帯域)に分けられていた。
【0137】
最下及び最上の転向ディスクは、リング形態を有しており、この際、このリング内径は1000mmであり、リング外径は容器壁まで気密に(密封性に)拡がっていた。反応管は、この転向ディスクに非密封性(非気密に)に固定されていた。むしろ、1帯域内の塩融液の横断流速度ができるだけ一定であるように、間隙幅<0.5mmを有する間隙が残されていた。
【0138】
中の転向ディスクは円形であり、管束の最外側にある反応管まで拡がっていた。
【0139】
塩融液の循環案内は、各々が管束長さの半分を処理するように配慮された2つ塩融液ポンプによって行われた。
【0140】
これらのポンプは、塩融液を、反応器ジャケットの周りの下部に設置された、塩融液を容器周囲上に分配するリング通路中に圧入した。塩融液は、この反応器ジャケット中に存在する窓を通って、最下部の縦区分中の管束まで達した。次いで、この塩融液は、転向ディスクの指定(Vorgabe)に従って、順番に
- 外から内に、
- 内から外に、
- 外から内に、
- 内から外に、
容器の上から見て実質的に曲がりくねって下から上方に流れた。容器の周りの最上縦区分中に設置された窓を通って、塩融液(温度TW^(1,aus)を有する塩融液が反応管周囲空間を出た)は、反応ジャケットの周りに設置された上部リング通路中に集まり、当初の入口温度TW^(1,ein)まで冷却の後に、ポンプによって再び下部リング通路中に圧入された。
・・・(中略)・・・
【0145】
サーモ管(その数は10本が好ましく、これらは管束の中心範囲に一様に分配されていた)が、反応管中の温度を代表的に観察するために、次のように設計され、装填された:
10本のサーモ管の各々は、40個の温度測定位置を有する中心サーモウエルを有していた(即ち、各々のサーモ管は、種々異なる長さでサーモウエル中に組み込まれて、1個のマルチサーモカップルを形成している40本のサーモカップルを有しており、このマルチサーモカップルを用いて、サーモ管内部の異なる高さで、同時に温度を測定することができる)。それぞれ40個の温度測定位置の20個は、触媒固定床の活性区分(反応ガス混合物の流動方向で)の最初の1メーターの範囲内に存在した。サーモ管の内径は29mmであった。壁厚及び管材料は、作業管におけるそれと同様であった。サーモウエルの外径は10mmであった。サーモ管の充填を次のように行った:
1サーモ管に、帯域Bからのリング状完全触媒を充填した。加えて、このサーモ管中に、リング状完全触媒から得られた長さ0.5?5mmの触媒片を充填した。この触媒片の充填を、それぞれのサーモ管の触媒固定床の全体の活性区分上に、このサーモ管を通る際のこの反応ガス混合物の圧力損失が、反応ガス混合物が作業管を通る際のそれと同じになるように、均一に分配して行った(この目的のために、サーモ管中の触媒固定床の活性区分(即ち、不活性区分を除いて)に対して、触媒片5?30質量%が必要であった)。同時に、作業-及びサーモ管中の活性区分及び不活性区分のそれぞれの全充填高さを同じに決め、管内に存在する活物質の全量と作業管及びサーモ管中の管の熱伝達面積との割合を、実質的に同じ値に調節した。
・・・(中略)・・・
【0157】
L1を130Nl/l・hに選択した。反応ガス投入混合物の組成は次の通りであった:
プロピレン 6.0容量%
O_(2) 10.4容量%
H_(2)O 1.4容量%
CO 0.4容量%
CO_(2 ) 0.9容量% 及び
N_(2) 80.9容量%」

(2) 引用文献2

引用文献2には、「接触気相酸化方法」(発明の名称)について、次の記載がある。

(2a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 熱媒を環状導管を接続する循環装置を介して反応器シェルに循環させる多管式反応器による接触気相酸化反応において、反応器シェルから取り出した熱媒の一部を熱交換し、かつ該熱交換後の熱媒を導入する熱媒導入口が該循環装置入口側の熱媒循環口近傍または反応器出口側環状導管であり、該熱交換後の熱媒流量は、反応器シェル内の熱媒流量の2?40容量%の範囲であり、かつ該熱交換後の熱媒と反応器シェルに導入される熱媒との温度差は15?150℃であることを特徴とする、接触気相酸化方法。」

(2b) 「【0011】反応管に発生するホットスポット温度は触媒の劣化などを招くものであるが、特に、多数の反応管のなかで最も高い温度となる箇所が除熱の律速となりやすい。従って、いかに反応管を均一に熱除去し、ホットスポットの最高値を減少させるかが問題となる。しかしながら、従来技術では十分な熱除去を達成できるものではなかった。」

(2c) 「【0062】本発明によれば、熱媒を循環使用する際の反応器への投入を循環装置内の所定位置で行うことのみで、極めて効率よく熱媒の温度分布を均一にすることができき、既存の設備をそのまま使用できる点で優れるものであるが、これによって反応管のホットスポット温度を均一に減少することができ安定した反応が確保され、その結果、触媒の劣化を効率よく防止でき、触媒寿命の延長を達成出来るほか、目的生成物の選択率を向上することができる。」

(2d) 「【0070】反応温度(T3)は、反応器への熱媒供給側環状導管内の熱媒循環装置と180゜の位置に設置された温度計で測定し、320℃に制御した。図6に示すように、反応器の入口環状導管内温度分布を18゜毎(全20ヶ所)で測定した。結果を表1に示す。」

(2e) 「【0083】
【表1】



(2f) 「【図6】



(3) 引用文献3

引用文献3には、「触媒気相反応のためのジャケット管反応装置」(発明の名称)について、次の記載がある。

(3a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒気相反応を行うためのジャケット管反応装置(2)において、すなわち反応管束(6)とそらせ板(22、24)とそしてリング状流路(18、20)とを備え、第1にこの反応管束はリング状かつ垂直であり、ほぼ円筒形の反応装置ジャケット(4)に囲まれ、熱媒の接触流を受け、第2にそらせ板は熱媒のためのものであって、リング状のそらせ板とディスク状のそらせ板が交代に設けられ、熱媒が通過するための分流開口部(26)を備え、この分流開口部の少なくとも一部は、反応装置の半径にそって断面積が変化づけされており、第3にリング状流路は、反応装置ジャケットの少なくとも両末端に設けられ、周辺から熱媒を供給または排出するため、外部に設けられた1つの熱交換器およびやはり外部に設けられた少なくとも1つのポンプに接続されている、上記のジャケット管反応装置において、下記の事項:
a)流れ制御手段(38、42、44、50)を、反応装置円周にそって配分し、管束(6)の外周および/または内周に設けること、
b)すべての半径方向において流れ抵抗を制御できるようにするため、反応装置円周にそって、管束(6)の管ピッチに変化づけすること、
c)すべての半径方向において流れ抵抗を制御できるようにするため、反応装置円周にそって、管束(6)の半径方向寸法に変化づけすること、
d)管接触流条件を制御できるようにするため、反応装置円周にそって、少なくとも一方の種類のそらせ板(22、24)の半径方向寸法に変化づけすること、
e)管接触流条件を制御できるようにするため、反応装置円周にそって、少なくとも一方の種類のそらせ板(22、24)において、分流開口部(26)の少なくとも1つの輪縁の横断面に変化づけすること、
の少なくとも2つが組み合わされていることを特徴とする、上記のジャケット管反応装置。」

(3b) 「【0019】
図1は、すでに述べたように、本発明の実現に適するジャケット管反応装置である。このジャケット管反応装置2は、円筒形の反応装置ジャケット4に囲まれた、直立型、リング状の反応管束6を備える。反応管束に属する管(反応管)8はその両端を、管板10および12によって密封、保持されている。この2つの管板の外側に、反応装置フード14および16が広がる。この例では上側管板10の上にあるのがガス流入側フードであり、下側管板12の下にあるのがガス流出側フードであって、管8内で反応するプロセスガスの取り入れ口、あるいは排出口のためのものである。しかしこのプロセスガスの流れ方向は逆にすることもできる。その場合、ガス流出側フードは上側に、したがってガス流入側フードは下側に位置することとなろう。」

(3c) 「【0021】
反応装置ジャケット4に対する熱媒の供給と排出は、管板10および12近辺のリング状流路18および20を経由して行われる。熱媒は、管束6を基準にしてほぼ横断方向に、すなわち半径方向に流れるものとする。このような流れは、多くの場合すでに、熱媒と管8との間の熱交換が改善されるという理由で好ましい。そのため反応装置ジャケット4の内部、リング状流路18および20の間の平面に、リング状およびディスク状のそらせ板22および24を交代に設ける。そして管8の少なくとも大部分がこのそらせ板を貫通するものとする。しかしそらせ板22および24はいわゆる分流開口部26を備え、この分流開口部は、そらせ板のたとえば管を取り巻くリング状隙間から、または独立した穴からなるものとすることができる。このことについては、後出箇所でさらに詳しく説明する。DE16 75 501 C3によれば、この分流開口部26は面取りしたものとすることができ、この面取り部分は、反応装置の半径方向においてさまざまに変化づけすることができる。」

(3d) 「【0034】
しかしジャケット管反応装置の場合に生じる問題は、流速が半径方向において不均一になるということだけではない。図7からもっともよく理解されるように、反応管8は通常そのピッチに対応する正三角形状に配置される。このような管束6が、半径方向内側から外側に、あるいはその逆に貫流を受ける場合、熱媒はその中で、いずれの方向に流れるかに従って、遭遇する流れ抵抗がさまざまに異なるものとなる。管8がたがいに一直線にならぶ(図7ではたとえば0°、60°などのとき)方向(半径方向の軸に相当する)は、管が多かれ少なかれたがいに位置をずらす方向と、交代して現れる。管8がたがいに一直線にならぶとき、熱媒が受ける偏向は比較的わずかであるが、管がたがいに位置をずらすときはいちじるしく偏向される。このとき圧力損失が高くなり、流速を低下させる。この状況は、管束の中心軸を基準として、角度間隔60°で繰り返される。管8に対する接触流条件が不均一なことにより、熱伝達の不均一を、それに対応して管束6の円周にそって管温度プロフィールの不均一を生じる。」

(3e) 「【0045】
上記の措置のほか、DE199 09 340 A1に記載する配管においては、管直径の異なるゾーンを使用することができる。この場合管内径は、半径方向内側領域における25mmから、外側領域における30mmまで、変化を持たせることができる。そのほか管束6には、温度および必要があればそのほかの測定箇所を持ついわゆる“サーモ管”を設ける。このサーモ管は、隣接する反応管と等しい直径とすることもできるし、異なる直径とすることもできる。」

(3f) 「【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】通常のジャケット管反応装置として、本発明の実現に適しているものの縦断面略図。
・・・(中略)・・・
【図7】ジャケット管反応装置のリング状管束の一部横断面」

(3g) 「【図1】

【図7】



(4) 引用文献4

引用文献4には、「固定床多管式反応器」(発明の名称)について、次の記載がある。

(4a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が充填される複数の反応管を略垂直に保持した固定床多管式反応器であって、前記反応管のうち、少なくとも1つの反応管の下部開口を触媒受けで着脱自在に塞ぎ、該触媒受けによって反応管内の触媒を支持したことを特徴とする固定床多管式反応器。」

(4b) 「【0003】
このような固定床多管式反応器では、反応管に充填した触媒が反応管から落下しないように、通常、反応管の下部に金網やパンチングプレートが取り付けられている。金網やパンチングプレートの開口サイズ(口径)は、触媒等の反応器下部充填材よりも小さく設定されている。例えば、特許文献1には、触媒の落下防止を目的として金網や受器を反応管下部に設けることが記載されている。金網や受器は、通常、反応管の下部全面を覆うように設置されている。」

(4c) 「【0005】
ところで、固定床多管式反応器では、触媒層内部の温度測定を行なうために、一部の反応管(計測用反応管)に、温度センサーを収容した保護管を挿入している(特許文献2)。このような温度計測用の保護管が反応管内に挿入されていると、反応管の上部から触媒を吸引して抜き出すのは困難である。」

(4d) 「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の固定床多管式反応器は、触媒が充填される複数の反応管を略垂直に保持したものであって、前記反応管のうち、少なくとも1つの反応管の下部開口を触媒受けで着脱自在に塞ぎ、該触媒受けによって反応管内の触媒を支持したことを特徴とする。」

(4e) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は本発明の一実施形態に係る固定床多管式反応器1を示している。この多管式反応器1は、複数の反応管2、21,22と、これらの反応管2、21,22を覆う反応器シエル3とを備えた熱交換型反応器である。この反応器では、粒状の触媒4を充填した反応管2、21,22に原料化合物Aを通過させながら発熱反応により生成物Bを得る。反応器シエル3内には熱媒体が充填されており、反応管2、21,22内と熱媒体との間で熱交換させるように構成されている。なお、反応器シエル3は複数段に分割されていてもよい。
【0014】
反応管21は、温度計等の計測器を収容した計測管5が管内に挿入された計測用反応管である。また、反応管22は、反応管の肉厚を超音波などで検査するための検査用反応管である。図2は反応器1内の反応管2,21,22の配列の一例を示している。」

(4f) 「【0020】
この実施形態における固定床多管式反応器1は、上記のようにして粒状の固体触媒が充填された複数の反応管2、21,22に、所定の原料化合物Aを通過させながら、気相接触反応により原料化合物を酸化させ、目的化合物Bを得る。
このような反応に供される原料化合物Aには、例えば気相酸化法により塩素を得るための塩化水素および酸素、気相酸化法によりアクロレイン、さらにアクリル酸を得るためのプロピレンおよび酸素、気相酸化法によりメタクロレイン、さらにメタクリル酸を得るためのイソブチレンおよび酸素などが挙げられる。」

(4g) 「【0026】
本発明の固定床多管式反応器は、前記したように、熱交換型反応器に好適に適用される。具体的には、ディスク・アンド・ドーナツ型の多管式反応器、欠円バッフル型の多管式反応器などが好適に使用される。熱媒体としては、例えば溶融塩、スチーム、有機化合物、溶融金属などが挙げられ、特に溶融塩、スチームを使用するのが熱安定性や取り扱い性のうえから好ましい。」

(4h) 「【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る固定床多管式反応器の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】図1に示すような反応器内の反応管の配列の一例を示す概略平面図である。
【図3】触媒受けの取付け状態を示す概略断面図である。
【図4】触媒受けが有する穴あきプレートの一例を示す概略平面図である。
【図5】触媒受けの動作を説明するための概略底面図である。
【図6】触媒受けのハンドル係止機構を示す概略断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態にかかる触媒受けの取付け状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1:固定床多管式反応器、2:反応管、3:反応器シエル、4:触媒、5:計測管、6:金網、7:触媒受け、8:金網支持板、9:貫通孔、10:ストッパー、11:凹部、21:計測用反応管、22:検査用反応管、71:穴あきプレート、72:ハンドル、73:アーム部、12:管版、17:触媒受け、18:突起」

(4i) 「【図1】

【図2】



(5) 引用文献5

引用文献5には、「多管式反応器を用いた気相接触酸化方法」(発明の名称)について、次の記載がある。

(5a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料供給口と生成物排出口とを有する円筒状反応器シェルと、該円筒状反応器シェルに熱媒体を導入又は導出するための、円筒状反応器シェルの外周に配置される複数の環状導管と、該複数の環状導管を互いに接続する循環装置と、該反応器の複数の管板によって拘束され触媒を包含する複数の反応管と、該反応器シェルに導入された熱媒体の方向を変更するための、該反応管の長手方向に配置される複数の邪魔板とを有する多管式反応器を用いて、被酸化物を分子状酸素含有ガスにて気相接触酸化する方法において、熱媒体の伝熱係数が1000W/(m^(2)・K)以上となる条件下で気相接触酸化反応を行うことを特徴とする気相接触酸化方法。」

(5b) 「【0004】
しかし、気相接触酸化反応の反応熱は非常に大きく、しばしばホットスポットが発生して触媒を劣化させたり、該触媒の許容温度を超えたことによって暴走反応に至り、触媒が使用不能になるなどの問題が発生することがある。」

(5c) 「【0005】
気相接触酸化反応に用いられる多管式反応器でのホットスポットの形成を抑制する方法が、多く提案されている。例えば特開平8-92147号公報には、熱媒体の反応器シェル内の流れと反応器に導かれる原料ガスの流れ方向を並流とし、更には邪魔板によって熱媒体の流れを蛇行させて上昇させ、熱媒体の反応器入口から出口までの温度差を2?10℃以下とすることによって熱媒体の温度を均一にする方法が開示されている。しかし、この方法は熱媒体の温度差のみに着目しており、反応器内部の伝熱係数が不均一である実際の反応器においては、伝熱係数の悪い領域ではホットスポットが生じてしまうという欠点を有する。」

(5d) 「【0022】
本発明の気相接触酸化方法で用いる、多管式熱交換器型反応器の第1の実施態様を図1に示す。
【0023】
多管式反応器のシェル2に反応管1a、1b、1cが管板5a、5bに固定され配置されている。反応の原料ガスの入り口である原料供給口、生成物の出口である生成物排出口は4a又は4bであるが、ガスの流れ方向は何れでもかまわない。反応器シェルの外周には熱媒体を導入する環状導管3aが設置される。熱媒体の循環ポンプ7によって昇圧された熱媒体は、環状導管3aより反応器シェル内を上昇し、反応器シェルの中央部付近に開口部を有する穴あき邪魔板6aと、反応器シェルの外周部との間に開口部を有するように配置された穴あき邪魔板6bとを交互に複数配置することによって流れの方向が転換されて環状導管3bより循環ポンプに戻る。反応熱を吸収した熱媒体の一部は循環ポンプ7の上部に設けられた排出管より熱交換器(図には示されていない)によって冷却されて熱媒体供給ライン8aより、再度反応器へ導入される。熱媒体温度の調節は、温度計14の指示に基づいて熱媒体供給ライン8aから導入される還流熱媒体の温度又は流量を調節することにより行われる。
・・・(中略)・・・
【0026】
反応器シェル内に設置する邪魔板の数は特に制限はないが、通常3枚(6aタイプ2枚と6bタイプ1枚)以上設置するのが好ましい。以下、この3枚の邪魔板を有する反応器(図1)を例にとって説明する。
【0027】
この邪魔板の存在により、熱媒体の流れは上昇流が妨げられ、反応管管軸方向に対して横方向に転換し、熱媒体は反応器シェルの外周部より中心部へ集まり、邪魔板6aの開口部で方向転換して外周部へ向かいシェルの外筒に到達する。熱媒体は、邪魔板6bの外周で再度方向転換して中心部へ集められ、邪魔板6aの開口部を上昇して、反応器シェルの上部管板5aに沿って外周へ向かい、環状導管3bを通ってポンプに循環する。
【0028】
また邪魔板6a、6bには、反応管を通す為の穴と反応器の熱膨張対策としての胴との隙間を有するので、この穴および隙間もある程度の熱媒体が通過する測流が発生する。この測流は反応熱の除去に有効に作用しないので少なくすることが望ましい。
【0029】
反応器内に配置された反応管には温度計11が挿入され、反応器外まで信号が伝えられて、触媒層の反応器管軸方向の温度分布が記録される。反応管には複数本の温度計が挿入され、1本の温度計では管軸方向に通常3?20点の温度が測定される。
【0030】
反応管は、3枚の邪魔板の開口部との関係の配置により、即ち熱媒体の流れ方向との関係により3種類に分けられる。
【0031】
反応管1aは邪魔板6bにのみ拘束せられ、2枚の邪魔板6aの開口部に位置し拘束されていない。反応管の外部を流れる熱媒体は反応器の中心部で方向転換する領域に反応管1aが位置している。熱媒体の流れは主として、反応管の管軸方向と平行である。反応管1bは3枚の邪魔板6a、6b、6aに拘束され、大部分の反応管はこの領域に配置されている。反応管との関係に於いて、熱媒体の流れ方向は反応管の全領域で反応管管軸方向に対しほぼ直角である。反応管1cは反応器シェルの外周近くで、邪魔板6bには拘束されていないで邪魔板6bの外周部に位置する。該反応器1cは反応管の中央部では、熱媒体が方向転換する領域にあり、この領域即ち反応管の中央部では熱媒体が反応管管軸方向と平行に流れる。
【0032】
図4は、図1の反応器を上方から見た図を表している。邪魔板6aや邪魔板6bの開口部で熱媒体が集合する領域即ち反応器シェルの中心部及び縁辺部、即ち反応管1aや1cの設置されている領域は、熱媒体流れが管軸と平行になるのみではなく流速も非常に小さくなるため、熱媒体の伝熱係数がこの領域は低くなりやすい。
【0033】
本発明に用いられる邪魔板は、邪魔板6aが反応器シェルの中央部付近に開口部を持ち、邪魔板6bが外周部とシェルの外筒との間に開口し、それぞれの開口部で熱媒体が方向転換をし、熱媒体のバイパス流を防ぎ、流速を変えられる構成であれば、図2に示すセグメントタイプの欠円邪魔板や図3に示す円盤形邪魔板のどちらでも適用可能である。両タイプの邪魔板とも熱媒体の流れ方向と反応管管軸との関係は変わらない。
【0034】
通常の邪魔板としては、特に円盤形邪魔板が多く用いられる。邪魔板6aの中心部開口面積は反応器シェル断面積の5?50%であるのが好ましく、さらには10?30%であるのが好ましい。邪魔板6bの反応器シェル胴板2との開口面積は反応器シェル断面積の5?50%であるのが好ましく、さらには10?30%であるのが好ましい。邪魔板(6a及び6b)の開口比が小さすぎると熱媒体の流路が長くなり、環状導管(3a及び3b)間の圧力損失が増大し、熱媒体循環ポンプ7の動力が大きくなる。邪魔板の開口比が大きすぎると一般に熱媒体の伝熱係数が低くなりやすい領域に設置される反応管(1a及び1c)の本数が増加してしまう。」

(5e) 「【0060】
図1に示すタイプの反応器であって、反応管の長さが3.5m、内径24mmφ、外径28mmφのステンレス製反応管を12,000本有する反応器シェル内径4500mmφの反応器を用いた。」

(5f) 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の気相接触酸化方法に用いる多管式熱交換型反応器の一つの実施の形態を示す。
【図2】本発明に係る多管式反応器に用いる邪魔板の一つの実施の形態を示す。
【図3】本発明に係る多管式反応器に用いる邪魔板の一つの実施の形態を示す。
【図4】本発明に係る多管式反応器を上方から見た図を示す。
【図5】本発明の気相接触酸化方法に用いる多管式熱交換型反応器の一つの実施の形態を示す。
【図6】図5の多管式反応器のシェルを分割する中間管板の拡大図を示す。
【符号の説明】
1a、1b、1c 反応管
2 反応器
3a、3b 環状導管
4a 生成物排出口
4b 原料供給口
5a、5b 管板
6a、6b 穴あき邪魔板
7 循環ポンプ
8a 熱媒体供給ライン
8b 熱媒体抜き出しライン
9 中間管板
10 熱遮蔽板
11、14、15 温度計
12 淀み空間
13 スぺーサーロッド」

(5g) 「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】



(6) 引用文献6

引用文献6には、「多管式反応器」(発明の名称)について、次の記載がある。

(6a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒が充填される複数の反応管と、これらの反応管を内装し反応管外部を流れる熱媒が導入されるシェルを有する多管式反応器において、前記反応管は、呼び外径及び呼び肉厚が同一であり、当該外径の許容差が±0.62%であって、当該肉厚の許容差が+19%?-0%の管体から選ばれた管であることを特徴とする多管式反応器。」

(6b) 「【0002】
【従来の技術及びその課題】
通常の多管式反応器は、反応器のシェル内に、触媒が充填された複数の反応管と当該シェル内に導入された熱媒をシェル内全体へ行き渡らせて循環させる為に複数の邪魔板が内装されており、そして反応管内の触媒により、当該反応管内に供給された原料ガスが反応して反応熱が発生する。この反応熱はシェル内を循環する熱媒によって除熱される構造となっている。」

(6c) 「【0006】
本発明の多管式反応器は、多管式反応器のシェル内に、呼び外径及び呼び肉厚が同一であり、当該外径の許容差が±0.62%であって、当該肉厚の許容差が+19%?-0%の管体、特に好ましくは、当該外径の許容差が±0.56%であって、当該肉厚の許容差が+17%?-0%の管体から選ばれた複数の反応管を内装してなる多管式反応器である。
この管多管式反応器は、プロピレン、プロパン、イソブチレン、イソブタノール又はt-ブタノールを分子状酸素含有ガスにより酸化する際に好適に用いられる。
図1に基づいて本発明の多管式反応器の具体的な詳細構造について以下に説明する。
2は多管式反応器のシェルであって、当該シェル2内には触媒が充填された反応管1a、1b、1cが下部管板5bと上部管板5aの両者によって固定されて内装されている。
当該反応管1a、1b、1cは、内径20?40mmφ、肉厚1?2mm、長さ3,000?6,000mm程度のもので、材質には炭素鋼管またはステンレス鋼管が使用される。
シェル2内に内装される反応管1a、1b、1cの合計本数は、目的生成物の生産量にもよるが、通常1,000?30,000本を使用して、その配置は反応管の外径サイズにもよるが5?50mmの間隔で、正方形または正三角形配列で内装される。
上記の正三角形配列は単位面積当たりの反応管1a、1b、1cの内装本数が多くできることから、シェル2のサイズを小さくする為に当該正三角形配列が多く用いられている。
・・・(中略)・・・
【0008】
シェル2の上下端には反応の原料ガスRgの出入り口4a及び4bが設けられており、当該原料ガスRgは反応器の上下端に設けられた原料ガスの出入り口4a、4bを経て、反応管1a、1b、1c内を上昇或いは下降の流れ方向で流通する。この流れ方向は特に限定されないが、下降流がより好ましい。
また、シェル2の外周には熱媒Hmを導入する環状導管3aが設けられており、循環ポンプ7によって昇圧された熱媒Hmは当該環状導管3aよりシェル2内に導入される。
シェル2内に導入された熱媒Hmは、シェル2内に内装されている邪魔板6a、6b、6aによって矢印の如く流れ方向を転換しながら上昇し、この間に熱媒Hmは反応管1a、1b、1cの外面と接触して反応熱を奪った後、シェル2の外周に設けられた環状導管3bより循環ポンプ7に戻る。
反応熱を吸収した熱媒Hmの一部は循環ポンプ7の上部に設けられた排出管8bより熱交換器(図示せず)によって冷却された後、再び熱媒供給管8aより循環ポンプ7に吸入されてシェル2内に導入される。
シェル2内に導入される熱媒Hmの温度調節は、熱媒供給管8aより流入される熱媒の温度又は流量を調節することにより行なう。また熱媒Hmの温度は環状導管3aの入口側に挿入されている温度計14により測定する。
【0009】
環状導管3a及び3bの内側の胴板部には、多孔板やスリットを持った整流板(図示せず)が配備されている。この多孔板の開口面積やスリット間隔を変えることにより熱媒Hmをシェル2の全円周より均等に当該シェル2内に導入及び流出させることができる。
また、環状導管(3a、好ましくは3bも)内の温度は図4に示す如く円周に等間隔に温度計15を複数個配置して監視することが出来る。
【0010】
シェル2内には通常邪魔板が1?5枚が内装されており、図1の場合には3枚の邪魔板(6a、6b、6a)が内装されている。この邪魔板の存在により熱媒Hmのシェル2内における流れは、先ずシェル2の外周部より中心部へ集まり邪魔板6aの開口部を上昇しながら方向変換して外周部へ向かいシェル2の内壁に到達する。
次いで熱媒Hmはシェル2の内壁と邪魔板6bの外周との間隙を上昇しながら再度方向変換して中心部へ集まり、最後に邪魔板6aの開口部を上昇してシェル2の上部管板5aの下面に沿って外周へ向かい環状導管3bに導入された後、循環ポンプ7に吸引され再度シェル2内に循環される。
【0011】
本発明で用いられる邪魔板の具体的構造は、図2に示すセグメントタイプの欠円邪魔板や、図3に示す円板形邪魔板のどちらでも構わない。
両タイプの邪魔板とも熱媒の流れ方向と反応管の管軸との関係は変わらない。邪魔板6aは外周がシェル2の内壁と一致していると共にその中央付近に開口部を有している。また邪魔板6bは外周がシェル2の内壁よりも小径寸法であるので、当該邪魔板6bの外周とシェル2の内壁とに間隙が形成される。
それぞれの開口部及び間隙で、熱媒は上昇しながら流れを方向変換し流速が変えられる。
【0012】
シェル2内に内装された反応管1a、1b、1cには温度計11が内装され、シェル2の外部まで信号が伝えられて、当該反応管内に充填された触媒層の反応管の管軸方向の温度分布が測定される。
反応管1a、1b、1cには複数本の温度計11が挿入されて管軸方向に2?20点の温度が測定される。
・・・(中略)・・・
【0015】
図4に、反応管1a、1b、1cと邪魔板6a、6b、6aとの位置関係及び熱媒Hmの流れの相互関係を示す。」

(6d) 「【0040】
・・・(中略)・・・
【図面の簡単な説明】
【図1】多管式反応器の一例の断面図。
【図2】多管式反応器に内装される邪魔板の一例の斜視図。
【図3】多管式反応器に内装される邪魔板の他の例の斜視図。
【図4】図1の多管式反応器を上方より見た図。
【図5】多管式反応器の他の例の断面図。
【図6】図5の多管式反応器に内装された中間管板と熱遮蔽板の部分断面図。
【符号の説明】
1a,1b、1c…反応管、
2…多管式反応器のシェル、
5a、5b…管板、
6a、6b…邪魔板、
9…中間管板、
11…触媒層用の温度計、
14、15…熱媒用の温度計、
Hm…熱媒、
Rg…原料ガス、」

(6e) 「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】



(7) 引用文献7

引用文献7には、「多管式反応器」(発明の名称)について、次の記載がある。

(7a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の反応管を内蔵し、反応器シェルに導入された熱媒の移動方向の変更が可能な邪魔板を備える反応器において、反応管を配列しない空間部を中央に備え、外周部と中央部との間に少なくとも一つ以上の熱媒の循環通路を有することを特徴とする多管式反応器。」

(7b) 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、反応器内の温度分布を少なくするとともに、目的生成物の収率を向上できる反応器およびその反応器を用いた(メタ)アクリル酸および/または(メタ)アクロレインの製造方法を提供することにある。」

(7c) 「【0019】図2は本発明にかかる多管式反応器の代表例であって、反応器を縦に切断して熱媒の流れを示す説明図である。図2において、反応原料と酸素含有ガスを混合した原料ガスは、原料ガス導入口202より反応器201に供給され、触媒203が充填された反応管204内を下降し、反応管内で部分的に酸化されて反応生成物となったのち、生成ガス排出口205から排出される。
・・・(中略)・・・
【0024】シェル219内において、熱媒は穴あき円板と円板が交互に配置された環状型邪魔板207c,207b,207aに沿って進行する。例えば、熱媒は、シェル219外周部全体から中央部におよそ水平に進み、穴あき円板207cの設置されたところでは、その中央部を通過して上昇し、その後、中央部から外周部全体におよそ水平状態で向かい、さらに、円板207bの設置されたところでは、シェル219の外周部を通過して上昇し、その後外周部全体から中央部におよそ水平に進む。この方法が繰り返される。穴あき円板と反応器との間に隙間があってもよいが、シェル219内の熱媒の温度分布を低減する目的からは隙間をなくすことが好ましい。
・・・(中略)・・・
【0032】図5は、本発明にかかる多管式反応器の代表例を示す概略断面の説明図であり、501は反応器、502は原料ガス導入口、503は触媒、504は反応管、505は生成ガス排出口、506aは上部管板、506bは下部管板、507a、507b、507cは邪魔板、509はシェル、540は熱媒排出装置、541は熱媒排出口、542は熱媒排出ポット、543はノズル、551は冷熱媒導入管、552は熱媒排出管、553はポンプ、554は熱媒導入管を示す。
・・・(中略)・・・
【0037】反応管の配列は、実質的に図4に示されているものと同じであり、反応器内の熱媒の温度の偏りを防ぎ、ホットスポット温度の発生を抑制することもできる。」

(7d) 「【0081】
【表1】



(7e) 「【図2】

【図4】

【図5】



(8) 引用文献8

引用文献8には、次の記載がある(原文は省略。訳は、引用文献8に添付されたもの。)。

(8a) 「図1は、本発明の製造方法を実施するための反応器の縦断面図を示す。」(第3欄第41?42行)

(8b) 「図1は、固定床式多管熱交換型反応器1の一例であり、シェル2中に、多数の直径5?50mmの反応管(例えば、数百から数千以上)が、シェル2の軸と並行に装填されている。各反応管3は、それらの上端および下端で、拡管法または溶接により管板4および5の開口と固着されている。反応管の下部において、触媒落下防止用の金網6や穴あき板7が、溶接などによりシェル2に固定されている。シェル2はその上端および下端で、溶接などにより前帽8および後帽9に固定されている。シェル2の内部は、1枚以上の穴あき板10を所望の位置に配置することによって、2個以上の伝熱媒体区間AおよびBに区切られ、反応管3がその開口11を貫いている。」(第3欄第54行?第4欄第4行)

(8c) 「固定床式多管熱交換型反応器を使用して行うに際し、1種以上の酸化用触媒が充填された束状の多数の反応管がシェル内に設置され、該反応管は、シェル内を2個以上の伝熱媒体供給区間に区切る、1枚以上の穴あき遮蔽板に形成された開口を貫き、該穴あき遮蔽板を貫く各反応管は遮蔽板とは直接接触せず、反応管外壁と開口の内壁との間隔が0.2?5mmに保たれ、供給ガスが反応器の反応管へ供給され、各区間の熱媒温度を調節しながら発熱を伴う接触気相酸化反応を行い、各区間の温度差が0?100℃の範囲内にあるように維持することを特徴とする接触気相酸化方法。)(第10欄、claim 1)

(8d) 「

」(図1)

(9) 引用文献9

引用文献9には、「化学プラント用多管式反応器のスケールアップ技術の開発」(論文の名称)について、次の記載がある。

(9a) 「

」(第326頁)

(10) 引用文献10

引用文献10には、「固定床多管式反応器」(発明の名称)について、次の記載がある。

(10a) 「発明を実施するための最良の形態
本発明の固定床多管式反応器の一例について図面を参照しながら説明する。
図1は、固定床多管式反応器の概略構成図である。この固定床多管式反応器1は、気相接触酸化反応が行われるものであって、触媒が充填されて触媒層2を形成した複数本の反応管3と、これら複数本の反応管3のうちの全てではなくその一部である複数本の反応管3の内部にそれぞれ1つずつ挿入された触媒温度測定器4と、反応管3の外側に位置する熱媒浴5と、熱媒浴5の温度を測定する熱媒浴温度測定器6とを具備して概略構成される。
この固定床多管式反応器1において、複数本の反応管3に挿入された触媒温度測定器4の測定位置Pは、反応管の長手方向について異なっており、一定ではない。
また、図2に示すように、複数本の反応管3は、互いに隣接するように配置されて反応管群11をなしている。ここで、その反応管群11をなす少なくとも一部の反応管に触媒温度測定器が設けられていることが好ましい。
このように反応管3が反応管群11をなし、その反応管群11をなす少なくとも一部に触媒温度測定器が設けられていれば、高精度に触媒層の温度分布を把握できる。」(第5頁第1?17行)

(10b) 「多管式反応器において、反応管は、通常、図3に示すような三角配置あるいは図4に示すような四角配置で配置される。図3および図4においては、各直線の交点(黒丸)に反応管が配置される。」(第5頁下から第3?末行)

(10c) 「さらに、触媒温度測定器が設けられた反応管は、反応管長手方向の温度分布をより一層正確に把握できることから、基準となる反応管から1本目以内の範囲で隣接していることが好ましい。」(第6頁第13?15行)

(10d) 「反応管群を複数有している場合、それら反応管群は、反応管の外側を流れる熱媒体のフローパターンが異なる部分に配置されていることが好ましい。
ここで、熱媒体のフローパターンについて説明する。熱媒体のフローパターンとは、固定床多管式反応器を反応管長手方向に対し直交方向に切断したときの切断面(以下、切断面と略す。図5参照)を見た際の、熱媒体の流動状態(流量、流動方向:模式的には図5中の矢印20a,20b,20c,20d)のことである。通常、この熱媒体のフローパターンが均一になるように反応器は設計され、例えば、図5に示すように、熱媒体の入口21と出口22とは、互いに反対方向を向くように、あるいは、同一方向を向くように設けられる。しかし、熱媒体のフローパターンを全く同じにすることは困難であり、固定床多管式反応器内に熱媒体が流れやすい場所と流れにくい場所とが生ずる。特に、反応管数が多い場合には、固定床多管式反応器内で熱媒体のフローパターンの違いが大きくなりやすい。フローパターンが異なると反応管の伝熱状態が変化するので、異なるフローパターンの熱媒体が接する反応管同士では温度にも差が生じやすい。
したがって、複数の反応管群11が、反応管の外側を流れる熱媒体のフローパターン20a,20b,20c,20dが異なる部分に配置されていれば、固定床多管式反応器内の温度をより詳細に把握することができる。
また、反応管群が複数である場合の反応管群の配置としては、図2に示すように、複数の反応管群11が環状(図2中の円12a,12b上)に配置されているとともに、反応器の半径方向切断面を同面積になるように中心Mから分けた2以上の区域の各区域Lに少なくとも1つの反応管群11が配置されていることが好ましい。」(第6頁下から第12行?第7頁第10行)

(10e) 「このようにして固定床多管式反応器内の触媒層の温度をモニタリングすることで、酸化反応のように大きな発熱を伴う操作においても、ホットスポット部の温度を監視できる。
そして、その測定結果に基づいて反応を制御することで、気相接触酸化反応を安定にかつ高効率に操業できる。」(第7頁第11?15行)

(10f) 「この固定床多管式反応器1のシェル側(熱媒浴5側)には、熱媒体の流れ方を制御する目的で通常バッフルを挿入することができる。バッフルを挿入した場合、少なくともバッフルで仕切られた区域毎に1つ以上の熱媒浴温度測定器6が設けられていることが好ましい。」(第9頁第3?6行)

(10g) 「図1

図2

図3

図5



(11) 引用文献11

引用文献11には、「多管式熱交換器モデルにおける伝熱促進に関する研究」(論文の名称)について、次の記載がある。

(11a) 「1 まえがき
熱交換器の伝熱促進のために格子状に配列された多管(水管)の管中心を格子点として、その中央に燃焼ガスの短絡防止のためのロッドを配置する。管列中にロッドを配置すると、ガスは短絡せずに管の外側に沿って流れ、ガスから管への伝熱促進が期待される。モデルは水管、ロッドを等温領域と仮定し二次元ガス流の数値シミュレーションを行った。」(第261頁左欄第1?8行)

(11b) 「

」(第263頁Fig.4?7)

(12) 引用文献12

引用文献12には、「気相接触酸化方法」(発明の名称)について、次の記載がある。

(12a) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数の反応管を有する固定床式多管熱交換型反応器を用い、反応管外部に熱媒体を循環させ、触媒を充填した反応管内部に反応原料ガスを供給することにより、反応生成ガスを得る気相接触酸化方法において、反応管内部の反応状態を予測し、その予測結果に応じて、反応管の間の反応状態の不均一性が減少されるように、反応管における触媒の充填仕様を変更することを特徴とする、気相接触酸化方法。
・・・(中略)・・・
【請求項5】 前記反応管内部の熱状態を把握するために、コンピューターによるシミュレーション解析を用いることを特徴とする、請求項1?3の何れかに記載の気相接触酸化方法。」

(12b) 「【0038】反応管内部の熱状態を把握するには、反応管の触媒層温度を測定すること、又はコンピューターシミュレーション解析を用いることにより行うことができる。」

(12c) 「【0043】このようにして、上記熱媒体の流動解析により除熱が悪い部分を考慮し、さらに反応管内部の反応熱解析を加えると、より反応管内のすべての場所にある各反応管内の反応状態を予測することができる。
【0044】本発明者らは、コンピューターによるシミュレーションの解析の結果、以下に示す図2のダブルセグメントタイプの固定床式多管熱交換型反応器や図3のリングアンドド-ナツタイプの固定床式多管熱交換型反応器を用いた気相接触酸化方法において、反応管に対して垂直流れ(横流れ)に比べて、反応管に沿う流れ(縦流れ)は除熱が悪いこと、更に、反応器外周部の縦流れよりも反応器中心部の縦流れの部分の除熱が非常に悪いこと確認した。」

(12d) 「【0056】
【発明の実施の形態】本発明の気相接触酸化方法で用いる、固定床式多管熱交換型反応器の第1の実施態様を図1に示す。
【0057】図1において、1は反応器、2は反応原料ガス導入口(ダウンフローの場合)或いは反応生成ガス排出口(アップフローの場合)、3は反応生成ガス排出口(ダウンフローの場合)或いは反応原料ガス導入口(アップフローの場合)、4は反応管(内部には触媒を充填)、5は上部管板、6は下部管板、7、8、9は邪魔板、10は熱媒体出口ノズル、11は熱媒体入口ノズル、13は反応温度調節用熱媒体入口ライン、14は熱媒体オ-バ-フロ-ラインをそれぞれ示す。
・・・(中略)・・・
【0061】上記本発明の固定床式多管熱交換型反応器における邪魔板の構造は特に限定はなく、例えば、図2で示すダブルセグメント・バッフルタイプ、図3で示すリングアンドド-ナツ・バッフルタイプ、図4で示すマルチ・バッフルタイプの固定床式多管熱交換型反応器の何れも使用できる。尚、図2?4には、邪魔板の形状及び熱媒体の流れを記載している。
・・・(中略)・・・
【0070】
【数2】・・・(中略)・・・
また、触媒層のピ-ク温度は、反応管に多点式熱電対(20点)を挿入し、各測定点の温度を測定することにより求めた。」

(12e) 「【図1】

【図3】



2 引用発明の認定

(1) 引用文献1に記載された発明について

引用文献1の(1c)から、引用文献1には、管束反応器について、該管束反応器は、垂直に配置された反応管の管束を含有し、この管束が反応器ジャケットで包囲されている装置であり、各反応管は、その上端で、反応ジャケット中に封入された上管床板の通過開口部中に、かつその下端で、反応ジャケット中に封入された下管床板の通過開口部中に気密に終端しており、この際、反応管の外部、上管床板及び下管床板及び反応器ジャケットは一緒になって、反応管周囲空間を区切っており、管束反応器のジャケット側上の反応管の周りに、少なくとも1種の(通常は液状の)熱交換媒体が導かれることが記載されている。

また、引用文献1の(1f)の【0040】に、管束反応器中に少なくとも1000本の反応管、及び温度センサーを備える20本以下のサーモ管が収納されていることが記載されている。

そして、引用文献1の(1g)の【0135】に、管束反応器の具体例である「実施例1」は、外径6800mmの円筒形容器(DIN 材料番号1.0345のフェライト鋼);ジャケット壁厚=中央部1.8cm、上部及び下部2.5cmまで肥厚化;自由中心空間を有しているリング状に垂直配置された管束;中心自由空間の直径:1000mm;最外側にある反応管から容器壁までの距離:150mm;管束中の均一な反応管分布(反応管1本当たり6本の等間隔隣接管);反応管ピッチ(相互に隣合っている反応管の中心内軸の距離):38mmの管束反応器であること、管束中の反応管の数が25500であること、反応管の寸法が、長さ 3200mm;内径 25mm;外径 30mm(壁厚:2.5mm)であること、使用する熱交換媒体が塩融液であることがわかる。
また、引用文献1の(1g)の【0145】に、サーモ管は、その数は10本が好ましく、これらは管束の中心範囲に一様に分配されていると記載されている。

さらに、この管束は、管床板の間にその縦方向に沿って連続して配置された3つの転向ディスク(Umlenkscheibe)(それぞれの厚さ10mm)によって、等間隔(それぞれ730mm)の4つの縦区分(帯域)に分けられており〔(1g)の【0136】〕、最下及び最上の転向ディスクは、リング形態を有しており、中の転向ディスクは円形であり〔(1g)の【0137】、【0138】〕、これによって、熱交換媒体である塩融液が、転向ディスクの指定(Vorgabe)に従って、順番に「外から内に」、「内から外に」、「外から内に」、「内から外に」、容器の上から見て実質的に曲がりくねって下から上方に流れることがわかる〔(1g)の【0140】〕。

そうすると、引用文献1には、実施例1の管束反応器について、特に、反応管の配置に着目すると、

「円筒形容器である反応器内に、複数の反応管からなる反応管束を有した反応器であって、
複数の反応管は、自由中心空間を有して、リング状に垂直配置され、
反応管束の分布は、反応管1本当たり6本の等間隔隣接管が配置された均一な反応管分布であり、
反応管束は、管床板の間にその縦方向に沿って連続して配置された3つの転向ディスクによって、等間隔の4つの縦区分(帯域)に分けられており、最下及び最上の転向ディスクは、リング形態を有しており、中の転向ディスクは円形であり、これによって、熱交換媒体が、転向ディスクによって、順番に『外から内に』、『内から外に』、『外から内に』、『内から外に』、容器の上から見て実質的に曲がりくねって下から上方に流れるものであり、反応管束中のうち、10本の反応管は温度センサーを備えたサーモ管であり、
サーモ管は、反応管束の中心範囲に一様に分配されている反応器。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2) 引用文献4に記載された発明について

引用文献4の(4e)の【0013】から、引用文献4には、固定床多管式反応器1について、該固定床多管式反応器1は、複数の反応管2、21、22と、これらの反応管2、21、22を覆う反応器シエル3とを備えること、該反応器シエル3内には熱媒体が充填されていることが記載されている。

また、引用文献4の(4i)の図1、2からみて、該固定床多管式反応器1は、円筒状であって、また、欠円バッフル型の邪魔板構造を有していることが看取できる。

また、引用文献4の(4e)の【0014】からみて、複数の反応管2、21、22の一部である反応管21に、温度計等の計測器を収容した計測管が管内に挿入されており、また、該反応器1内の反応管2、21、22は、一例として示している同(4i)の図2からみて、3角配置錯列となるように配列されていることが看取でき、さらに、反応管21は、反応管2と隣接していることもわかる。

そうすると、引用文献4には、

「円筒状の反応器シエル3内に複数の反応管2、21、22を備えた、欠円バッフル型の邪魔板構造を有し、該反応器シエル3内には熱媒体が充填されている固定床多管式反応器1であって、複数の反応管2、21、22は、3角配置錯列となるように配列されており、複数の反応管2、21、22の一部である反応管21に、温度計等の計測器を収容した計測管が管内に挿入されており、温度計等の計測器を収容した計測管が管内に挿入された反応管21は、反応管2と隣接している固定床多管式反応器1。」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

(3) 引用文献10に記載された発明について

引用文献10の(10a)、(10f)の記載から、引用文献10には、固定床多管式反応器1について、該固定床多管式反応器のシェルには、触媒が充填されて触媒層2を形成した複数本の反応管3と、これら複数本の反応管3のうちの全てではなくその一部である複数本の反応管3の内部にそれぞれ1つずつ挿入された触媒温度測定器4と、反応管3の外側に位置する熱媒浴5と、熱媒浴5の温度を測定する熱媒浴温度測定器6とを具備していることが記載されており、また、シェルにバッフルを挿入し、熱媒浴5の流れ方を制御することが記載されている。

また、引用文献10の(10g)の図2の記載から、固定床多管式反応器1のシェルは、円筒状であることが看取できる。

また、引用文献10の(10a)、(10g)の図2の記載から、複数本の反応管3は、互いに隣接するように配置されて反応管群11をなしていることが記載されており、また、その反応管群11をなす少なくとも一部の反応管に触媒温度測定器が設けられていることが好ましいことも記載されている。そして、このことから、触媒温度測定器が設けられている反応管は、触媒温度測定器が設けられていない反応管と隣接しているということができる。

さらに、引用文献10の(10b)、(10g)の図3の記載から、複数本の反応管3は、三角配置錯列となるように配列されていることが看取できる。

そうすると、引用文献10には、

「固定床多管式反応器1の円筒状のシェル内に触媒が充填されて触媒層2を形成した複数本の反応管3と、これら複数本の反応管3のうちの全てではなくその一部である複数本の反応管3の内部にそれぞれ1つずつ挿入された触媒温度測定器4と、反応管3の外側に位置する熱媒浴5と、熱媒浴5の温度を測定する熱媒浴温度測定器6とを具備し、また、バッフルを挿入し、熱媒浴5の流れ方を制御する固定床多管式反応器1であって、前記複数本の反応管3は、互いに隣接するように三角配置錯列となるように配列されて反応管群11をなしており、その反応管群11をなす少なくとも一部の反応管に触媒温度測定器が設けられており、触媒温度測定器が設けられている反応管は、触媒温度測定器が設けられていない反応管と隣接している固定床多管式反応器1。」の発明(以下、「甲10発明」という。)が記載されていると認められる。

3 判断

(1) 甲1発明を主発明とした場合

ア 本件発明1について

本件発明1と甲1発明とを対比する。

甲1発明の「円筒形容器」、「複数の反応管」、及び「反応器」は、本件発明1の「円筒状のシェル」、「複数の反応管」、及び「多管式反応器」にそれぞれ相当する。

また、甲1発明の「3つの転向ディスク」の内、最下及び最上の転向ディスクは、リング形態を有しており、中の転向ディスクは円形であり、それぞれ、本件発明1の「ドーナッツ型」、「ディスク」型の環状形邪魔板に相当することから、甲1発明の「管床板の間にその縦方向に沿って連続して配置された3つの転向ディスクによって、等間隔の4つの縦区分(帯域)に分けられており、最下及び最上の転向ディスクは、リング形態を有しており、中の転向ディスクは円形であ」る構成は、本件発明1の「環状形邪魔板を含むディスク-アンド-ドーナッツ型の邪魔板構造」に相当するといえる。さらに、甲1発明の「熱交換媒体が、転向ディスクによって、順番に『外から内に』、『内から外に』、『外から内に』、『内から外に』、容器の上から見て実質的に曲がりくねって下から上方に流れる」構成は、本件発明の「該邪魔板構造で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する」構成に相当するといえる。

また、甲1発明の「反応管1本当たり6本の等間隔隣接管が配置された均一な反応管分布」は、反応管の配置が3角配置錯列であるといえることから、本件発明1の「前記複数の反応管が、相互に隣接している任意の3つの反応管の中心軸間の距離が、全て等しくなる3角配置錯列となるように配列されて」いる構成に相当する。

また、甲1発明の「温度センサー」、及び「温度センサーを備える」「サーモ管」は、本件発明1の「温度計」、及び「温度計が設けられた測温反応管」に相当する。
なお、甲1発明の「反応管」は、引用文献1の(1c)の【0003】によれば、触媒固定床が装填されており、甲1発明の「サーモ管」は、引用文献1の(1f)の【0040】によれば、触媒固定床に加えて温度センサーを備えるものであるから、触媒固定床に加えて温度センサーを備える甲1発明の「サーモ管」は、本件発明1の「温度計が設けられて」いる「前記複数の反応管の一部の反応管」に相当するものである。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、

「円筒状のシェル内に複数の反応管が収容された、環状形邪魔板を含むディスク-アンド-ドーナッツ型の邪魔板構造を有し、該邪魔板構造で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する多管式反応器であって、
前記複数の反応管が、相互に隣接している任意の3つの反応管の中心軸間の距離が、全て等しくなる3角配置錯列となるように配列されており、
前記複数の反応管の一部の反応管に、温度計が設けられており、該温度計が設けられた測温反応管を有する、
多管式反応器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>

一部の測温反応管と、それに隣接する反応管との関係について、本件発明1は、「シェルの中心軸と直交する断面において、該測温反応管の中心軸と該シェルの中心軸とを結ぶ直線を基準直線とし、該測温反応管の中心軸と該測温反応管と隣接する隣接反応管の中心軸とを結ぶ直線を連結直線とすると、該連結直線と前記基準直線のなす角の角度が0?15度となる隣接反応管を有する」ことが特定されているのに対し、甲1発明は、「サーモ管」に隣接する「6本の等間隔隣接管」の中に、本件発明1のような位置関係を有するものがあるかどうかは不明な点。

ここで、上記相違点について検討する。

引用文献2、3には、上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項については、記載も示唆もされておらず、当業者にとって自明な事項ともいえない。

そして、本件発明1は、該発明特定事項を備えることで、「測温反応管によって測定された温度データを利用すれば、ホットスポットやコールドスポットができないようにシェル内の状態を適切に制御することができる」(【0014】)という、格別顕著な作用効果を奏するものである。

なお、申立人は、甲1発明の「サーモ管は、反応管束の中心範囲に一様に分配されている」構成について、甲2(引用文献2)の記載と本件特許出願時の技術常識から、当業者であれば反応器の中心角度が等間隔となるように10本のサーモ管を配置することを動機付けられることから、本件発明1に容易に想到するものである旨主張している(特許異議申立書45頁下から第4行?46頁第2行)。

しかしながら、甲1発明は、「反応管1本当たり6本の等間隔隣接管が配置された均一な反応管分布」を有しており、一般的に、このような反応管の配置では、「相互に隣接している任意の3つの反応管」の中心軸が正三角形の頂点に配置され、正三角形の内角は60度であるから、反応器の中心角度が60度おきに、同様な反応管分布が繰り返される軸対称のものとなることは明らかであって、反応器の中心から、ある特定の距離に配置された反応管は、引用文献3の図7にも看取されるように、たとえば、該図7では、反応器の中心角度が30±α、90±α、150±α、210±α、270±α、330±α度(0≦α≦30)の半径上にある6ないし12本のみであって、反応器の中心からある特定の距離に「反応器の中心角度が等間隔となるように10本のサーモ管を配置する」ことはできない。

そうすると、甲1発明において、甲1発明の「サーモ管は、反応管束の中心範囲に一様に分配されている」構成について、仮に、引用文献2の記載に基いて、10本のサーモ管を「反応器の中心角度が等間隔となるように」配置した場合、「反応器の中心からの距離」が異なるものが必ず含まれることになることから、「サーモ管は、反応管束の中心範囲に一様に分配されている」ものとはならない。

したがって、「サーモ管は、反応管束の中心範囲に一様に分配されている」ものを前提とする甲1発明は、「反応器の中心角度が等間隔となるように10本のサーモ管を配置すること」は想定されないというべきである。

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明と同一であるということはできないし、しかも、甲1発明、引用文献2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

<まとめ>

したがって、本件発明1と甲1発明の間には実質的な相違点が存在し、本件発明1は、甲1発明と同一であるとはいえず、しかも、甲1発明、引用文献2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件発明2?7について

本件発明2?7は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2?7は、甲1発明と同一であるとはいえず、しかも、甲1発明、引用文献2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件発明8について

本件発明8は、本件発明1に係る多管式反応器の設計方法と認められるところ、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明8は、甲1発明と同一であるとはいえず、しかも、甲1発明、引用文献2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 本件発明9?14について

本件発明9?14は、本件発明8をさらに減縮したものであるから、本件発明8についての判断と同様の理由により、本件発明9?14は、甲1発明と同一であるとはいえず、しかも、甲1発明、引用文献2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(2) 甲4発明を主発明とした場合

ア 本件発明1について

本件発明1と甲4発明とを対比する。

甲4発明の「円筒状の反応器シエル3」及び「複数の反応管2、21、22を備えた」構成は、それぞれ、本件発明1の「円筒状のシェル」及び「複数の反応管が収容された」構成に相当する。

また、甲4発明の「欠円バッフル型の邪魔板構造を有し、該反応器シエル3内には熱媒体が充填されている」構成は、欠円バッフル型の邪魔板構造で反応器シエル3内に充填されている熱媒体を制御するといえることから、本件発明1の「環状形邪魔板を含むディスク-アンド-ドーナッツ型の邪魔板構造を有し、該邪魔板構造で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する」構成と、「邪魔板構造を有し、該邪魔板構造で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する」という点で共通する。

また、甲4発明の「複数の反応管2、21、22は、3角配置錯列となるように配列されて」いる構成は、本件発明1の「前記複数の反応管が、相互に隣接している任意の3つの反応管の中心軸間の距離が、全て等しくなる3角配置錯列となるように配列されて」いる構成と、「前記複数の反応管が、3角配置錯列となるように配列されて」いる点で共通する。

また、甲4発明の「温度計等の計測器を収容した計測管」及び「温度計等の計測器を収容した計測管が管内に挿入されている」「反応管21」は、それぞれ、本件発明1の「温度計」及び「温度計が設けられた測温反応管」に相当するから、甲4発明の「複数の反応管2、21、22の一部である反応管21に、温度計等の計測器を収容した計測管が管内に挿入されて」いる構成は、本件発明1の「前記複数の反応管の一部の反応管に、温度計が設けられて」いる構成に相当するということができる。

さらに、甲4発明の「反応管2と隣接している」「温度計等の計測器を収容した計測管が管内に挿入された反応管21」は、本件発明1の「該温度計が設けられた測温反応管のうちの少なくとも一部の測温反応管は、」「隣接反応管を有する反応管である」構成に相当する。

そうすると、本件発明1と甲4発明とは、

「円筒状のシェル内に複数の反応管が収容された、邪魔板構造を有し、該邪魔板構造で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する多管式反応器であって、
前記複数の反応管が、3角配置錯列となるように配列されており、
前記複数の反応管の一部の反応管に、温度計が設けられており、
該温度計が設けられた測温反応管のうちの少なくとも一部の測温反応管は、隣接反応管を有する反応管である
多管式反応器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4A>

邪魔板構造を有する多管式反応器について、本件発明1が「環状形邪魔板を含むディスク-アンド-ドーナッツ型」の邪魔板構造を有する多管式反応器であるのに対して、甲4発明は、「欠円バッフル型」の邪魔板構造を有する多管式反応器である点。

<相違点4B>

一部の測温反応管と、それに隣接する反応管との関係について、本件発明1は、「シェルの中心軸と直交する断面において、該測温反応管の中心軸と該シェルの中心軸とを結ぶ直線を基準直線とし、該測温反応管の中心軸と該測温反応管と隣接する隣接反応管の中心軸とを結ぶ直線を連結直線とすると、該連結直線と前記基準直線のなす角の角度が0?15度となる隣接反応管を有する」ことが特定されているのに対し、甲4発明は、「温度計等の計測器を収容した計測管が管内に挿入された反応管21」に隣接する「反応管2」の中に、本件発明1のような位置関係を有するものがあるかどうかは不明な点。

ここで、上記相違点について検討する。

事案に鑑み、まず、相違点4Bについて検討する。

引用文献5、6には、上記相違点4Bに係る本件発明1の発明特定事項については、記載も示唆もされておらず、当業者にとって自明な事項ともいえない。

そして、上記(1)で述べたように、本件発明1は、該発明特定事項を備えることで、「測温反応管によって測定された温度データを利用すれば、ホットスポットやコールドスポットができないようにシェル内の状態を適切に制御することができる」(【0014】)という、格別顕著な作用効果を奏するものである。

なお、申立人は、甲4(引用文献4)の図2において、少なくとも1つの計測用反応管と反応管との関係が、本件発明1で規定されるものに含まれることが確認され、しかも、甲4の【0026】には、甲4の固定床多管式反応器として、ディスク・アンド・ドーナツ型の多管式反応器が好適に使用されることが記載されていることから、本件発明1は、甲4に記載されている旨主張している(特許異議申立書52頁18行?53頁15行)。

しかしながら、甲4の図2に示された反応器は、反応器の中央部に反応管が配置されており、反応器の中央部が熱媒体反応器の中央部に反応管は配置されず、該中央部が熱媒体の流路となって、反応器の中央部から放射状に熱媒体が流れるディスク・アンド・ドーナツ型の多管式反応器とは、熱媒体の流れる方向が異なるものであり、上記2(2)において認定したように、欠円バッフル型の邪魔板構造を有する固定床多管式反応器といわざるを得ない。

そして、甲4には、計測用反応管の配置についての指針は示されておらず、甲4の図2に示された反応器を、仮に、ディスク・アンド・ドーナツ型の多管式反応器に変更した場合に、計測用反応管がどのように配置されるかは、不明というほかない。たとえば、該図2において、ディスク・アンド・ドーナツ型の多管式反応器に変更した場合に、中央部に配置された計測用反応管を、どこに再配置するかは、甲4の記載からは明らかではない。

これに対し、本件発明1は、ディスク・アンド・ドーナツ型の多管式反応器において、上記相違点4Bに係る本件発明1の発明特定事項を備えることで、「測温反応管によって測定された温度データを利用すれば、ホットスポットやコールドスポットができないようにシェル内の状態を適切に制御することができる」(【0014】)という、格別顕著な作用効果を奏するものであるから、本件発明1は、甲4に記載されたものであるとも、甲4に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

また、申立人は、甲5(引用文献5)の【0033】、甲6(引用文献6)の【0011】には、欠円(欠円バッフル型)邪魔板とディスク・アンド・ドーナッツ型(ディスク・アンド・ドーナツ型)の邪魔板とでは、熱媒体の流れ方向と反応管管軸との関係は変わらない旨の記載があり、当業者であれば、ディスク・アンド・ドーナッツ型の多管式反応器においても、甲4の図2と同様の位置に計測用反応管を配置することを動機付けられる旨主張している(特許異議申立書53頁19行?54頁10行)。

しかしながら、甲5の【0033】の「図2に示すセグメントタイプの欠円邪魔板」を備えた反応器は、2枚の「穴あき邪魔板6a」の間に、さらに、「穴あき邪魔板6b」を備えるものであって、2枚の邪魔板の間に邪魔板を備えない甲4の反応器とは、熱媒体の流れる方向が同じものとはいえない。
また、甲6の【0011】の記載についても、甲5と同様なことがいえる。

そうすると、甲5、6に、欠円(欠円バッフル型)邪魔板とディスク・アンド・ドーナッツ型(ディスク・アンド・ドーナツ型)の邪魔板とでは、熱媒体の流れ方向と反応管管軸との関係は変わらないことが記載されているということはできない。

以上のとおりであるから、上記相違点4Aについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明と同一であるということはできないし、しかも、甲4発明、引用文献5、6の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

<まとめ>

したがって、本件発明1と甲4発明の間には実質的な相違点が存在し、本件発明1は、甲4発明と同一であるとはいえず、しかも、甲4発明、引用文献4?7の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件発明2?7について

本件発明2?7は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2?7は、甲4発明と同一であるとはいえず、しかも、甲4発明、引用文献4?7の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件発明8について

本件発明8は、本件発明1に係る多管式反応器の設計方法と認められるところ、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明8は、甲4発明と同一であるとはいえず、しかも、甲4発明、引用文献4?7の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 本件発明9?14について

本件発明9?14は、本件発明8をさらに減縮したものであるから、本件発明8についての判断と同様の理由により、本件発明9?14は、甲4発明と同一であるとはいえず、しかも、甲4発明、引用文献4?7の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3) 甲10発明を主発明とした場合

ア 本件発明1について

甲10発明の「円筒状のシェル」、「複数本の反応管3」、「具備し」、「固定床多管式反応器1」は、それぞれ、本件発明1の「円筒状のシェル」、「複数の反応管」、「収容された」、「多管式反応器」に相当し、また、甲10発明の「バッフル」は、本件発明1の「環状形邪魔板」と、「邪魔板」である点で一致し、さらに、甲10発明の「バッフルを挿入し、」「反応管3の外側に位置する」「熱媒浴5の流れ方を制御する」は、本件発明1の「環状形邪魔板を含むディスク-アンド-ドーナッツ型の邪魔板構造を有し、該邪魔板構造で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する」と、「邪魔板を有し、邪魔板で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する」点で一致するといえる。

また、甲10発明の「前記複数本の反応管3は、互いに隣接するように三角配置錯列となるように配列されて」は、本件発明1の「前記複数の反応管が、相互に隣接している任意の3つの反応管の中心軸間の距離が、全て等しくなる3角配置錯列となるように配列されており」と、「前記複数の反応管が、3角配置錯列となるように配列されており」という点で共通する。

また、甲10発明の「触媒温度測定器」、及び「触媒温度測定器が設けられている反応管」は、本件発明1の「温度計」、及び「温度計が設けられた測温反応管」に相当するから、甲10発明の「前記複数本の反応管3は、互いに隣接するように三角配置錯列となるように配列されて反応管群11をなしており、その反応管群11をなす少なくとも一部の反応管に触媒温度測定器が設けられて」いる構成は、本件発明1の「前記複数の反応管の一部の反応管に、温度計が設けられて」いる構成に相当するということができる。

さらに、甲10発明の「触媒温度測定器が設けられていない反応管と隣接している」「触媒温度測定器が設けられている反応管」は、本件発明1の「該温度計が設けられた測温反応管のうちの少なくとも一部の測温反応管は、」「隣接反応管を有する反応管である」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲10発明とは、

「円筒状のシェル内に複数の反応管が収容された、邪魔板を有し、邪魔板で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する多管式反応器であって、
前記複数の反応管が、配列されており、
前記複数の反応管の一部の反応管に、温度計が設けられており、
該温度計が設けられた測温反応管のうちの少なくとも一部の測温反応管は、隣接反応管を有する反応管である
多管式反応器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点10A>

邪魔板構造について、本件発明1が「環状形邪魔板を含むディスク-アンド-ドーナッツ型の邪魔板構造」であるのに対して、甲10発明は、「バッフル」構造である点。

<相違点10B>

一部の測温反応管と、それに隣接する反応管との関係について、本件発明1は、「シェルの中心軸と直交する断面において、該測温反応管の中心軸と該シェルの中心軸とを結ぶ直線を基準直線とし、該測温反応管の中心軸と該測温反応管と隣接する隣接反応管の中心軸とを結ぶ直線を連結直線とすると、該連結直線と前記基準直線のなす角の角度が0?15度となる隣接反応管を有する」ことが特定されているのに対し、甲10発明は、「触媒温度測定器が設けられている反応管」に隣接する「反応管」の中に、本件発明1のような位置関係を有するものがあるかどうかは不明な点。

ここで、上記相違点について検討する。

事案に鑑み、まず、相違点10Bについて検討する。

引用文献1、6、11、12には、上記相違点10Bに係る本件発明1の発明特定事項については、記載も示唆もされておらず、当業者にとって自明な事項ともいえない。

そして、上記(1)で述べたように、本件発明1は、該発明特定事項を備えることで、「測温反応管によって測定された温度データを利用すれば、ホットスポットやコールドスポットができないようにシェル内の状態を適切に制御することができる」(【0014】)という、格別顕著な作用効果を奏するものである。

そうすると、上記相違点10Aについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲10発明と同一であるということはできないし、しかも、甲10発明、引用文献1、6、11、12の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。

(申立人の主張について)
申立人は、甲10(引用文献10)には、固定床多管式反応器について、反応器内において熱媒体が流れやすい場所と流れにくい場所とが生じて、反応管の温度に差が生じることがあることから、熱媒体の流れ方を制御する目的でバッフルを挿入し、しかも、バッフルで仕切られた区域毎に1つ以上の熱媒浴温度測定器を設けることが好ましいという記載があり、甲11(引用文献11)には、多管式熱交換器における熱媒体のフローパターンのシミュレーション結果から、熱媒体の流れに対して前方の管の影にあたる部分は熱媒体の流れが悪いことが示され、甲12(引用文献12)には、反応管内の熱状態をシミュレーション解析で把握することが記載され、甲6には、ディスク・アンド・ドーナッツ型の邪魔板を有する多管式反応器において、熱媒が反応器の中心から外側に向かって流れることが記載され、甲1には、ディスク・アンド・ドーナッツ型の邪魔板を有する多管式反応器において、反応器内の反応管の配置を3角配置錯列とし、塩融液が容器の上から見て内から外、外から内と流れることが記載されていることから、本件発明1は、甲10や甲11、甲12に記載の技術常識と、甲1及び甲6の記載から、当業者が容易に想到するものである旨主張している(特許異議申立書58頁2行?60頁13行)。

しかしながら、甲1、6、10、11に、申立人が主張するような記載が認定でき、さらに、甲12から申立人が主張するような技術常識が認定できたとしても、すなわち、甲10に記載された固定床多管式反応器において、仮に、反応管内の熱状態をシミュレーション解析で把握することができ、熱媒体の流れに対して前方の管の影にあたる部分は熱媒体の流れが悪いことが認識されたとしても、甲1(引用文献1)又は甲6(引用文献6)に記載されたディスク・アンド・ドーナッツ型の邪魔板は、反応器内において、熱媒体の流れを生成するために設けたものであって、反応器内において熱媒体が流れやすい場所と流れにくい場所とが生じないようにするために設けたものではないことから、甲10に記載された固定床多管式反応器に、甲1又は甲6に記載されたディスク・アンド・ドーナッツ型の邪魔板(バッフル)を採用する動機付けがあるとはいえず、申立人の上記主張は採用できない。

<まとめ>

したがって、本件発明1と甲10発明の間には実質的な相違点が存在し、本件発明1は、甲10発明と同一であるとはいえず、しかも、甲10発明、及び引用文献1、6、10?12の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件発明2?7について

本件発明2?7は、本件発明1をさらに減縮したものであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2?7は、甲10発明と同一であるとはいえず、しかも、甲4発明、及び引用文献1、6、10?12の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

ウ 本件発明8について

本件発明8は、本件発明1に係る多管式反応器の設計方法と認められるところ、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明8は、甲10発明と同一であるとはいえず、しかも、甲10発明、及び引用文献1、6、10?12の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

エ 本件発明9?14について

本件発明9?14は、本件発明8をさらに減縮したものであるから、本件発明8についての判断と同様の理由により、本件発明9?14は、甲10発明と同一であるとはいえず、しかも、甲10発明、及び引用文献1、6、10?12の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

第5 理由3についての検討

1 本件発明の課題について

本件発明が解決しようとする課題に関して、本件明細書には次のように記載されている。

「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑み、発熱や吸熱反応を伴う物質の製造の際に、ホットスポットやコールドスポットが形成されることを防ぐように、適切に反応を制御することができる多管式反応器および多管式反応器の設計方法を提供することを目的とする。」

「【0020】
まず、本発明の多管式反応器1の特徴を説明する前に、図2に基づいて、本発明の多管式反応器1の基本構造を簡単に説明する。
なお、図2では、本発明の多管式反応器1の構造を理解しやすくするために、実際の多管式反応器1に比べて反応管10の本数は大幅に少なく記載している。また、各部の相対的な大きさも実際の多管式反応器1と異なる寸法となっている。
【0021】
本発明の多管式反応器1は、円筒状のシェル2内に複数本の反応管10が設けられた反応器であって、シェル2内を流す熱媒体HTMの流れを制御する邪魔板として、環状形邪魔板5が設けられたものである。」

「【0032】
(複数本の反応管10の配列)
上述したように、本発明の多管式反応器1では、環状型邪魔板5を設けたことによって、シェル2の空間2b内において熱媒体HTMはシェル2の半径方向の速度成分を有するように流れる。
そして、かかる流れを有する熱媒体HTMと複数本の反応管10との接触効率を向上し熱交換効率を向上させるために、本発明の多管式反応器1では、熱媒体HTMの流れに対して、3角配置錯列となるように複数本の反応管10は配設されている。
3角配置錯列は、シェル2の横断面(シェル2の中心軸と直交する断面)において、図4に示すような構造を有する配列である。」
【0033】
このように複数本の反応管10を3角配置錯列とした場合には、シェル2の中心軸周りに回転対称となるように複数本の反応管10が配列される。このため、熱媒体HTMがシェル2の中心軸から半径方向に沿って流れる場合、つまり、本発明の多管式反応器1のように環状型邪魔板5を設けた場合には、シェル2の周方向では熱媒体HTMはほぼ同じ流動状態になると推察される。
【0034】
しかし、本願発明者らは、複数本の反応管10を3角配置錯列としかつ環状型邪魔板5を設けた多管式反応器1でも、シェル2の周方向において、熱媒体HTMの流動状態が異なっており、そのために個々の反応管10で伝熱能力が異なっていることを把握した。
【0035】
そして、シェル2の周方向において熱媒体HTMの流動状態が異なることに基づいて、本発明の多管式反応器1では、反応管10内での反応状態を判断するための温度計20を、伝熱の悪い位置に設置している。このため、この温度計20によって測定された温度データを利用すれば、ホットスポットやコールドスポットができないようにシェル2内の状態を適切に制御することができる。
【0036】
以下、温度計20を配設する位置、つまり、温度計20を配設する反応管(以下、測温反応管10mという)について説明する。
・・・(中略)・・・
【0040】
かかる測温反応管10mの位置では、測温反応管10mと熱媒体HTMとの接触効率の悪い状態となる。つまり、複数の反応管10のうち、熱媒体HTMとの間での熱伝達の悪い部分が形成される可能性の高い反応管10を選択して測温反応管10mとしている。
例えば、隣接角が0度となる反応管10を有する測温反応管10mの周囲では、基準直線BL上に隣接する反応管10が存在する。この反応管10と測温反応管10mとの間には、熱媒体HTMの流れが非常に弱い部分(淀み)が形成される。逆に、他の隣接する反応管10と測温反応管10mとの間では、熱媒体HTMの流れが整流され、熱媒体HTMの流れる速度が速くなる。」

これらの記載から、本件発明は、中空な円筒状のシェルを備え、このシェルに複数本の反応管が収容され、シェル内を流れる熱媒体の流れを制御する邪魔板として、環状形邪魔板が設けられ、複数の反応管が3角配置錯列となるように配設された多管式反応器(【0021】、【0032】)においては、熱媒体がシェルの半径方向の速度成分を有するように流れ、このような流れでは、シェルの周方向において、熱媒体の流動状態が異なり、そのために個々の反応管で伝熱能力が異なったものとなることがある(【0034】)という知見に基づき、温度計を伝熱の悪い位置に設置することで、ホットスポットやコールドスポットができないようにシェル内の状態を適切に制御することができる(【0035】)ようにしたものということができる。

そして、上記「伝熱の悪い位置」(熱媒体の流動状態が悪い位置)に温度計を設置すること、すなわち、多管式反応器において、熱媒体の流れが悪い位置を見出し、測温反応管の配置を、本件発明は、「第4 3(1)」で述べた相違点1に係る本件発明1の発明特定事項である「シェルの中心軸と直交する断面において、該測温反応管の中心軸と該シェルの中心軸とを結ぶ直線を基準直線とし、該測温反応管の中心軸と該測温反応管と隣接する隣接反応管の中心軸とを結ぶ直線を連結直線とすると、該連結直線と前記基準直線のなす角の角度が0?15度となる隣接反応管を有する」場合に特定することで、「発熱や吸熱反応を伴う物質の製造の際に、ホットスポットやコールドスポットが形成されることを防ぐように、適切に反応を制御することができる多管式反応器および多管式反応器の設計方法を提供」(【0012】)したものといえる。

なお、本件発明は、測温反応管の配置に特徴を有するものであって、多管式反応器中の各反応管の除熱効率の差異をなくすことを課題に有するものではない。

また、上記「伝熱の悪い位置」が、上記のような場合に生じることは、本件明細書の【0049】?【0056】に記載された実施例において、確認されている。

そうすると、本件発明の課題は、上記した各発明特定事項をすべて具備することにより、解決され、所期の効果を奏することが理解できる。

2 まとめ

よって、本件発明は、「円筒状のシェル内に複数の反応管が収容された、環状形邪魔板を含むディスク-アンド-ドーナッツ型の邪魔板構造を有し、該邪魔板構造で前記反応管に接する熱媒体の流れを制御する多管式反応器であって、前記複数の反応管が、相互に隣接している任意の3つの反応管の中心軸間の距離が、全て等しくなる3角配置錯列となるように配列されて」いる多管式反応器を前提として、「前記複数の反応管の一部の反応管に、温度計が設けられており、該温度計が設けられた測温反応管のうちの少なくとも一部の測温反応管は、前記シェルの中心軸と直交する断面において、該測温反応管の中心軸と該シェルの中心軸とを結ぶ直線を基準直線とし、該測温反応管の中心軸と該測温反応管と隣接する隣接反応管の中心軸とを結ぶ直線を連結直線とすると、該連結直線と前記基準直線のなす角の角度が0?15度となる隣接反応管を有する反応管である」という発明特定事項を有するものであるから、本件発明は、上記課題を解決し得るものとして、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
さらに、本件発明が、上記のとおり技術上の意義を有することが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から理解できることから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるといえ、本件明細書の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

3 当審において理由がないと判断した申立人の主張について

ア 特許異議申立書によると、申立人は、理由3の記載要件について、概略以下のように述べている。

(ア) 「本件特許発明は、測温反応管の数が少ない場合においてのみ、従来の多管式反応器に対する技術的意義があるといえるものであるから、測温反応管の数が限定されていない本件発明1の全体についてどのような技術的意義があるのかを当業者が理解することができない。
したがって、本件発明1?14は、実施可能要件違反である。」

(イ) 「本件特許明細書には、ホットスポット等の形成を検出した後にどのように反応を制御するかという点について一切記載がないため、本件特許明細書をみても、どのようにすれば本件特許発明の課題を解決することができるかを当業者が理解できず、本件特許明細書は当業者が本件特許発明を実施することができるように記載されているとはいえない。
したがって、本件発明1?14は、実施可能要件違反である。」

(ウ) 「導入口や排出口が設けられた領域では、これらがない領域とは熱媒体の流動状態が異なり、本件特許発明1の発明特定事項を充足する何れの領域に測温反応管を配置した場合であってもホットスポット等の発生を防ぐように適切に反応を制御できるとは到底考えられず、本件特許明細書のシミュレーションの結果を本件発明1の範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件発明1?14は、サポート要件違反である。」

(エ) 「反応器の中でも反応管の位置によって熱媒体の流動状体は大きく異なるものであるから、本件特許明細書の図7に示された、最外列から2列目の反応管における反応器内の中心角度と管外境膜伝熱係数との関係が反応器内の何れの位置の反応管にも適用できるとは到底考えられず、本件特許明細書のシミュレーションの結果を本件特許発明1の範囲にまで拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件発明1?14は、サポート要件違反である。」

(オ) 「本件明細書の図7に示されている、反応器内の中心角度と管外境膜伝熱係数との関係を示した結果では反応器内の中心角度が5°?10°の範囲において管外境膜伝熱係数の値が最も小さくなっており、この範囲に測温反応管を設置することでホットスポット等の発生を確認できることは理解できるとしても、この範囲を外れる、例えば、0°や15°の位置に測温反応管を設置した場合にも中心角度が5°や10°の領域の反応管の状況を特定することができず、本件発明1の発明特定事項Eを充足する何れの領域に測温反応管を配置してもホットスポット等の発生を的確に把握できるとはいえず、本件発明1?14は、サポート要件違反である。」

(カ) 「測温反応管を1本だけしか有さない多管式反応器を含む本件発明1?7の多管式反応器や本件発明8?14の多管式反応器の設計方法の範囲まで本件特許明細書のシミュレーションの結果を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件発明1?14は、サポート要件違反である。」

イ 上記(ア)について

上記「1」で述べたとおり、本件発明は、ホットスポットやコールドスポットができないようにシェル内の状態を適切に制御するために、温度計を伝熱の悪い位置に設置するものであり、そのために、「シェルの中心軸と直交する断面において、該測温反応管の中心軸と該シェルの中心軸とを結ぶ直線を基準直線とし、該測温反応管の中心軸と該測温反応管と隣接する隣接反応管の中心軸とを結ぶ直線を連結直線とすると、該連結直線と前記基準直線のなす角の角度が0?15度となる隣接反応管を有する」測温反応管であれば、ホットスポットやコールドスポットが形成されることを防ぐように、適切に反応を制御することができるといえることから、測温反応管の数に左右されるものでなく、1本であってもよいものである。
そして、本件発明のように、ディスク-アンド-ドーナツ型の邪魔板構造を有し、反応管が3角配置錯列となるように配列されたものにおいては、製作誤差や熱媒体の流量によって、多少の差異があるものとしても、上記「伝熱の悪い位置」が大きく変わるとまではいえない。
以上のことから、本件発明1?14において、測温反応管の数が特定されていないからといって、本件発明の技術的意義が理解できないとまではいえない。

ウ 上記(イ)について

本件明細書の【0041】には、「かかる測温反応管10mにおいて測定された温度データを利用して、測温反応管10mの温度が適切な温度となるように熱媒体HTMの流量等を制御すれば、ホットスポットやコールドスポットができないようにすることができる。」と記載されており、例えば、測温反応管10mにおいて測定された温度データに基づいて、ホットスポット等が検出された後は、熱媒体の流量等を制御して、その結果、反応を制御するすることが理解でき、例えば、熱媒体の流量を増加させることで、ホットスポット等の温度が制御できることは、当業者にとって明らかであるから、ホットスポット等の形成を検出した後にどのように反応を制御するかという点について一切記載がないとはいえない。

エ 上記(ウ)について

本件発明は、ディスク・アンド・ドーナッツ型の邪魔板を有する多管式反応器において、反応管同士の位置関係によって生じる熱媒体の流れが非常に弱い部分(淀み)が生じることを見出し、ホットスポット等の発生を防ぐように、測温反応管を配置したものであり(本件明細書【0040】)、導入口や排出口が設けられた領域に測温反応管を配置した場合であっても、反応管同士の位置関係によって生じる熱媒体の流れ自体には変化がないことから、ホットスポット等の発生を防ぐことができなくなるとはいえない。

オ 上記(エ)について

上記エで述べたように、本件発明は、反応管同士の位置関係によって生じる熱媒体の流れに着目したものであるから、反応器における測温反応管の位置によって、上記「非常に弱い部分(淀み)」がなくなるものではなく、このような熱媒体の流れは、最外列から2列目の反応管に限定されるものではない。

カ 上記(オ)について

上記エで述べたように、本件発明は、反応管同士の位置関係によって生じる熱媒体の流れに着目したものであって、申立人の主張するように、0°や15°の位置に測温反応管を配置した場合に、5°や10°の領域の反応管の状況を特定できるかどうかは、本件発明の課題と直接の関係があるものではない。

キ 上記(カ)について

上記イで述べたように、本件発明は、測温反応管の数を問わないものであって、1本の測温反応管でも、ホットスポット等の発生を防ぐことができるといえる。
また、本件明細書のシミュレーション結果は、反応器内の熱媒体の流動状況を確認したものであって、測温反応管の数が1本の場合に、本件発明の課題が解決されないことを示すものではない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

また、平成30年6月12日付けの申立人の上申書における申立人の主張は、概ね、特許異議申立書における主張の繰り返しにとどまるものであり、いずれの主張も採用することができない。

第7 むすび

したがって、請求項1?14に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-06-29 
出願番号 特願2012-85158(P2012-85158)
審決分類 P 1 651・ 536- Y (B01J)
P 1 651・ 537- Y (B01J)
P 1 651・ 121- Y (B01J)
P 1 651・ 113- Y (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 原 賢一  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 阪▲崎▼ 裕美
國島 明弘
登録日 2017-06-16 
登録番号 特許第6156860号(P6156860)
権利者 住友化学株式会社
発明の名称 多管式反応器および多管式反応器の設計方法  
代理人 特許業務法人山内特許事務所  

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