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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て成立) E01D
管理番号 1342041
判定請求番号 判定2018-600006  
総通号数 224 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2018-08-31 
種別 判定 
判定請求日 2018-02-15 
確定日 2018-07-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第3631965号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「橋梁」は、特許第3631965号の請求項2に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
本件判定請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す「橋梁」(以下「イ号物件」という。)は、特許第3631965号(以下「本件特許」という。)に係る発明の技術的範囲に属しないとの判定を求めるものである。

なお、判定請求書において、「5 請求の趣旨」には対象となる請求項が特定されていないものの、「6 請求の理由」の「・・・イ号物件が、被請求人が所有する特許第3631965号(以下、「本件特許」という)の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(以下、「本件特許発明」という)の技術的範囲に属する(侵害する)として・・・」(判定請求書2頁14行?16行)、「(8)むすび・・・イ号は、特許第3631965号の特許請求の範囲の請求項2に係る発明の技術的範囲に属しないので、請求の趣旨どおりの判定を求める。」(判定請求書13頁下から2行?14頁1行)等の記載から、判定を求める請求項は請求項2であることは明らかである(以下、請求項2に係る発明を「本件特許発明」という。)。

本件特許に係る手続の経緯は、平成13年1月31日に出願され、平成16年12月24日に特許権の設定登録がなされ、平成30年2月15日に本件判定請求がなされ、その後、判定請求書副本が送付され(発送日:同年3月6日)、同年4月5日に答弁書が提出がなされたものである。

第2 本件特許発明について
1 本件特許発明
本件特許発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(本判定において、構成要件ごとに分説し、記号A?Dを付した。以下「構成要件A」などという。)。

「A 橋軸方向に架設された一対のアーチリブと、これらアーチリブ間に挟み込まれる位置に垂直部材により吊り下げ支持される橋桁と、前記アーチリブ間を水平に接続する水平部材と、これらアーチリブ及び垂直部材及び水平部材間に構成される四角形構面で囲まれたスペースに斜めに挿設された斜部材とを備えたアーチ橋である橋梁において、
B 前記各斜部材のうちの少なくとも一部に、引っ張りと圧縮の交番軸力を受ける履歴型ブレースが用いられ、
C 前記履歴型ブレースが、前記各アーチリブと、これらアーチリブ間を接続する前記各水平部材との間に形成される第2の四角形構面内に、該第2の四角形構面の各対角間を結ぶ対角線状、もしくは前記第2の四角形構面の各辺中央部間を互いに結ぶ四角形状に設けられている
D ことを特徴とする橋梁。」

2 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、本件特許発明の課題、履歴型ブレース、第2の四角形構面に関して、以下のように記載されている(下線は当審で付与。以下同様。)。
(1)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】
この場合、要求される耐震性の高さに対応して十分な耐震強度を確保するためには、上記各部材をかなり大型化する必要がある。しかしながら、ビルディングなどの一般的な建築構造物とは異なり、河川などを跨ぐように架設される橋梁では、その構造重量を支持する基礎数が限られる上に、既設の場合には重量増加分を賄えるほど十分に基礎強度を補強することができないため、新たな解決手段が求められている。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、基礎構造を大幅に補強することなく高い耐震強度を確保できるアーチ橋またはトラス橋である橋梁の提供と、橋梁の耐震強度補強方法の提供とを目的とする。」

(2)「【0017】
そして、本実施の形態では、各斜部材17,・・・の全てに、引っ張りと圧縮の交番軸力を受ける履歴型ブレース(以下、各斜部材17,・・・を履歴型ブレース17,・・・と称する)を採用している点が特に特徴的となっている。すなわち、アーチリブ14,14と水平部材16,・・・と垂直部材15,・・・と水平部材16,・・・とが形成する各構面間に、従来の技術で説明した通常の前記ブレース6,7に代えて、耐震ダンパーとしての履歴型ブレース17,・・・が挿設された構成となっている。
この履歴型ブレース17,・・・としては、例えば特開2000-81085に開示されている履歴型ダンパー(引っ張りと圧縮の交番軸力を受ける長尺部材であり、その中間部に中間材を配し、該中間材の両端にそれぞれ他端が他部材に連結される構成を有している)を好適に用いることができる。」

(3)「【0024】
次に図6,図7を参照しながら本発明の第2の実施の形態について以下に説明を行う。なお、図6は、本実施の形態の橋梁である他のアーチ橋の正面図である。また、図7は、同アーチ橋の要部を示す図であって、(a)は図6のF-F矢視図であり、(b)は(a)の変形例である。
図6,図7(a)に示すように、本実施の形態の中路式のアーチ橋は、両岸の基礎20,20間に架設された一対のアーチリブ21,21と、これらアーチリブ21,21間に挟み込まれる位置に垂直部材22,・・・により中央部が吊り下げ支持され、かつ両端が両岸の基礎23,23上に架設された橋桁24と、アーチリブ21,21間を水平に接続する水平部材25,・・・と、これらアーチリブ21,21及び水平部材25,・・・間に斜めに挿設された斜部材26,・・・とを備えた構成となっている。
中路式であるため、橋桁24は、アーチリブ21,21の高さ方向の中間位置に架設されており、垂直部材22,・・・は、橋桁24より上方位置のアーチリブ21,21との間にのみ垂設され、また、各アーチリブ21,21は、車両の通行する部分を除き、水平部材25,・・・で連結されている。
【0025】
そして、本実施の形態では、各斜部材26,・・・の全てに、引っ張りと圧縮の交番軸力を受ける履歴型ブレース(以下、各斜部材26,・・・を履歴型ブレース26,・・・と称する)を採用している点が特に特徴的となっている。すなわち、各アーチリブ21,21と、これらアーチリブ21,21間を接続する各水平部材25,・・・との間に形成される第2の四角形構面27,・・・内に、該第2の四角形構面27,・・・の各辺中央部間を互いに結ぶ菱形状(四角形状)に、従来の技術で説明した通常の前記ブレース6,7に代えて、耐震ダンパーとしての履歴型ブレース26,・・・が挿設された構成となっている。これら履歴型ブレース26,・・・は、上記第1の実施の形態で説明した履歴型ブレース17,・・・と同様のものであるとして、その説明を省略する。
なお、この他にも、例えば図7(b)に示されるように、第2の四角形構面27,・・・の各対角間を結ぶ対角線状(X字状)に設ける構成など、その他の構成も勿論採用可能である。」

(4)「【0046】
本発明は、新設の橋梁への適用に加えて、各種既設の橋梁を改修してその耐震強度を補強する改修方法としても採用することが可能である。すなわち、橋桁を支持する柱部材と、前記橋桁及び前記柱部材を補強支持する垂直部材及び水平部材と、これら柱部材及び垂直部材及び水平部材間に斜めに挿設された斜部材とを有する既設橋梁の耐震強度を補強する場合(以上図示省略)において、前記斜部材として、引っ張りと圧縮の交番軸力を受ける履歴型ブレースに換装して耐震強度を補強する方法である。
【0047】
この補強方法(改修方法)によれば、補強後の橋梁に地震力が作用して垂直部材や水平部材等が変形した場合、ここに斜部材として設けられた前記各履歴型ブレースに対して引っ張りと圧縮の交番軸力が発生するが、この交番軸力に呼応して各履歴型ブレースが作動し、その結果、地震エネルギが吸収されて橋梁の揺れを減衰させることができる。したがって、柱部材,垂直部材,水平部材といった橋梁の各主要構成部材を大型化せずとも、前記各履歴型ブレースの装備によって地震エネルギを吸収することができるので、既設橋梁の構造重量の大幅増加を招来せずに済み、基礎構造を大幅に補強することなく高い耐震強度を確保することが可能となる。」

第3 イ号物件
1 請求人によるイ号物件の特定
請求人は、イ号物件について、以下のように特定している。

「a 橋軸方向に架設された一対のアーチリブ(121)と、これらアーチリブ(121)間に挟み込まれる位置に垂直部材(122)により吊り下げ支持される橋桁(124)と、前記アーチリブ(121)間を水平に接続する水平部材(125)と、これらアーチリブ(121)及び垂直部材(122)及び水平部材(125)間に構成される四角形構面で囲まれたスペースに斜めに挿設された斜部材(126)とを備えたアーチ橋である橋梁において、
b 前記各斜部材(126)のうちの少なくとも一部に、地震時のエネルギーを吸収可能な座屈拘束ブレース(126)が用いられ、
c 前記座屈拘束ブレース(126)は、前記各アーチリブ(121)と、これらアーチリブ(121)間を接続する前記各水平部材(125)との間に形成される各第2の四角形構面(127)内に2本設けられ、2本の前記座屈拘束ブレース(126)のうちの一方である第1の座屈拘束ブレース(126a)は、該第2の四角形構面(127)の一辺を構成する第1の水平部材(125a)の中央部(130)と、前記第2の四角形構面(127)の一辺を構成すると共に該第1の水平部材(125a)に対向する第2の水平部材(125b)と前記一対のアーチリブ(121)のうちの一方との間に形成される第1の角部(133a)とを結ぶように設けられ、2本の前記座屈拘束ブレース(126)のうちの他方である第2の座屈拘束ブレース(126b)は、前記中央部(130)と、前記第2の水平部材(125b)と前記一対のアーチリブ(121)のうちの他方との間に形成される第2の角部(133b)とを結ぶように設けられることにより、前記座屈拘束ブレース(126)は、前記第2の四角形構面(127)内において、くの字状又は逆くの宇状を形成する
d ことを特徴とする橋梁。」(判定請求書4頁12行?5頁9行)

2 当審によるイ号物件の特定
(1)判定請求書におけるイ号物件の記載について
判定請求書には、イ号物件について、次のように記載されている。

ア 「甲第2号証(イ号物件の補強計画の側面図及び平面図)、甲第3号証(イ号物件の座屈拘束ブレースを設置する部分の部分平面図1)及び甲第4号証(イ号物件の座屈拘束ブレースを設置する部分の部分平面図2)に記載されているとおり、イ号の橋梁は、橋軸方向に架設された一対のアーチリブ(121)と、これらアーチリブ(121)間に挟み込まれる位置に垂直部材(122)により吊り下げ支持される橋桁(124)と、当該アーチリブ(121)間を水平に接続する水平部材(125)と、これらアーチリブ(121)及び垂直部材(122)及び水平部材(125)間に構成される四角形構面で囲まれたスペースに斜めに挿設された斜部材(126)と、を備えている。」(判定請求書5頁11行?20行)

イ 「甲第2号証に記載されているとおり、「座屈拘束ブレース設置工」と記載された部分の内、符号Xを付した部分について、斜部材(126)として株式会社横川住金ブリッジの座屈拘束ブレース(126)(国土交通省新技術情報提供システム(NETIS)登録No. TH-110015-A)を用いている。
ここで、甲第2号証に記載されているとおり、イ号の橋梁の橋軸方向半分の区間において、座屈拘束ブレース(126)が設けられる構面である第2の四角形構面(127)は区間i内の7個及び区間ii内の3個の計10個である。つまり、イ号の橋梁全体における第2の四角形構面(127)の数は20個となる。したがって、上記座屈拘束ブレース(126)は当該20個の第2の四角形構面(127)に設けられることとなる。」(判定請求書5頁22行?6頁6行)

ウ 「各第2の四角形構面(127)に設けられる座屈拘束ブレース(126)は、いずれの第2の四角形構面(127)においても2本である。一例として、甲第4号証中(B)を参照するに、各アーチリブ(121a, 121b)と、これらアーチリブ(121a,121b)間を接続する各水平部材(125a,125b)との間に形成される第2の四角形構面(127)内において、第1の座屈拘束ブレース(126a)及び第2の座屈拘束ブレース(126b)の2本が設けられている。第1の座屈拘束ブレース(126a)は、第2の四角形構面(127)の一辺を構成する第1の水平部材(125a)の中央部(130)と、第2の四角形構面(127)の一辺を構成すると共に第1の水平部材(125a)に対向する第2の水平部材(125b)とアーチリブ(121a)との間に形成される第1の角部(133a)とを結ぶように設けられている。また、第2の座屈拘束ブレース(126b)は、上記中央部(130)と、第2の水平部材(125b)とアーチリブ(121b)との間に形成される第2の角部(133b)とを結ぶように設けられている。その結果、2本の座屈拘束ブレース(126a, 126b)は、第2の四角形構面(127)内において、くの字状を形成している。
上記で示した以外の第2の四角形構面についても、上記と同様に、第1の座屈拘束ブレース及び第2の座屈拘束ブレースは、第2の四角形構面において、くの字状又は逆くの字状を形成するように設けられている。
・・・
甲第2号証に記載されているとおり、イ号は橋梁である。」(判定請求書6頁8行?7頁2行)

エ 甲第2号証の側面図から、イ号物件はアーチ橋であることが看て取れる。

オ 上記イ及び甲第2号証の符号Xを付した部分の記載を踏まえると、斜部材(126)のうちの一部として座屈拘束ブレース(126)が用いられている。

カ 甲第3号証、甲第4号証の座屈拘束ブレースの配置から見て、座屈拘束ブレースには引っ張りと圧縮の交番軸力が作用することは明らかである。

(2)イ号物件の特定
上記1及び(1)を総合して、イ号物件を上記本件特許発明の構成要件A?Dに対応させて整理すると、イ号物件は以下のとおり分説した構成を具備するものと認められる(構成ごとに記号a?dを付した。以下、分説した構成を「構成a」などという。)。

「 a 橋軸方向に架設された一対のアーチリブ(121)と、これらアーチリブ(121)間に挟み込まれる位置に垂直部材(122)により吊り下げ支持される橋桁(124)と、当該アーチリブ(121)間を水平に接続する水平部材(125)と、これらアーチリブ(121)及び垂直部材(122)及び水平部材(125)間に構成される四角形構面で囲まれたスペースに斜めに挿設された斜部材(126)とを備えたアーチ橋である橋梁において、
b 斜部材(126)のうちの少なくとも一部として、引っ張りと圧縮の交番軸力を受ける座屈拘束ブレース(126)が用いられ、
c 各アーチリブ(121a, 121b)と、これらアーチリブ(121a,121b)間を接続する各水平部材(125a,125b)との間に形成される第2の四角形構面(127)内において、第1の座屈拘束ブレース(126a)及び第2の座屈拘束ブレース(126b)の2本が設けられ、第1の座屈拘束ブレース(126a)は、第2の四角形構面(127)の一辺を構成する第1の水平部材(125a)の中央部(130)と、第2の四角形構面(127)の一辺を構成すると共に第1の水平部材(125a)に対向する第2の水平部材(125b)とアーチリブ(121a)との間に形成される第1の角部(133a)とを結ぶように設けられ、第2の座屈拘束ブレース(126b)は、上記中央部(130)と、第2の水平部材(125b)とアーチリブ(121b)との間に形成される第2の角部(133b)とを結ぶように設けられ、その結果、2本の座屈拘束ブレース(126a, 126b)は、第2の四角形構面(127)内において、くの字状又は逆くの字状を形成するように設けられている、
d 橋梁。」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張
判定請求書において、請求人は、イ号物件は構成要件B、Cを充足しないとしつつ、更に、「第2の四角形構面」について、以下のように主張している。
「上記「第2の四角形構面」は、以下に示す理由により、当然のごとく、各アーチリブと、これらアーチリブ間を接続する水平部材であって、互いに隣り合う2つの水平部材とにより構成される面であるものと解釈されるのであり、互いに隣り合わない2つの水平部材、即ち、両水平部材の間に他の水平部材が存在するような2つの水平部材と、上記各アーチリブとにより構成される面をも含むと解釈する余地はない。」(判定請求書10頁15行?20行)

2 被請求人の主張
被請求人は、判定事件答弁書(以下「答弁書」という。)において、イ号物件は構成要件A?Dを充足するとしつつ、「第2の四角形構面」について、以下のように主張している。
(1)「なお、被請求人は、上述したイ号の橋梁の構成cにおける四角形講面(判定注;「構面」の誤記と認める。)をアーチリブ(乙1の121a, 121b)及び2つの水平部材(乙1の125a,125c)により形成された四角形構面(乙1の128)と解釈したが、この解釈は、請求人の「四角形構面は乙1の121a,125a,121b,125bにより形成された四角形構面127である」との解釈とは異なる。」(答弁書5頁1行?5行)

(2)「1)先ず、本件特許発明の構成要件Cは、「前記各アーチリブと、これらアーチリブ間を接続する前記各水平部材との間に形成される第2の四角形構面」と規定しているので、第2の四角形構面を形成する各水平部材は、文言上、アーチリブ間を接続する水平部材であれば良く、「互いに隣接する水平部材」に限定解釈される理由は存在しない。
この構成要件Cの文言に基づけば、上述したイ号の橋梁(乙第1号証参照)における水平部材125a及び水平部材125cは、構成要件Cに規定された「第2の四角形構面を形成する各水平部材」に相当する。その結果、イ号の橋梁においては、各アーチリブ121a,121bと、これらアーチリブ間を接続する各水平部材125a,125cとの間に四角形構面128が形成され、この四角形構面128内に、座屈拘束ブレース(履歴型ブレース)126a,126b,126c,126dが四角形構面18の各辺中央部間を互いに結ぶ四角形状に設けられることになる。
この構成要件Cに関し、請求人は、水平部材125aと125cの間に、水平部材125bが設けられていることを理由に、各アーチリブ121a、121bと、水平部材125a、125bによって囲まれた面が「第2の四角形構面」に相当するものであり、イ号の橋梁は構成要件Cを充足していないと主張している。しかしながら、イ号の橋梁が各アーチリブ121a、121bと水平部材125a、125cからなる面を「第2の四角形構面」とした構成要件Cを含んでいることに変わりはなく、イ号の橋梁では、単に、構成要件Cには記載されていない水平部材125bが付加されているだけである。また、この水平部材125bが付加された状態でも、橋梁に地震力が作用して垂直部材や水平部材が変形した場合に、斜部材として設けられた履歴型ブレース126a、126b、126c、126dに対して引っ張りと圧縮の交番力が発生し、地震エネルギを吸収して橋梁の揺れを減衰させる、という本件特許発明の作用効果を奏することに変わりはない。ここで、特許法第36条第5項に「特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項の全てを記載しなければならない」と規定されている。被請求人は出願当時、特許を受けようとする発明の特定に「水平部材125b」は必ずしも必要な構成ではないと判断し、これを構成要件Cに記載しなかっただけである。そのため、「水平部材125b」を追加の部材として設けることにより、この追加の部材を備えた構成が本件特許発明の技術的に含まれないとすることは、上述した特許法の規定から、認められない。
2)次に、水平部材125bは、耐震対策により追加された水平部材であり、この水平部材125bにより、構造強度が向上するようになっている。さらに、この水平部材125bの存在により、座屈拘束ブレース126a,126b,126c,126dによる地震エネルギーの吸収機能が阻害されることはない。よって、この点からも、この水平部材125bが存在することにより、イ号の橋梁が、本件特許発明の構成要件Cを充足しないと言うことはできない
以上から、イ号の橋梁が、本件特許発明の構成要件Cを充足することは、明白である。
3)次に、図1及び図2を参酌して、上述した事項の補足説明をする。図1は耐震補強工事前の橋梁を示し、図2は耐震補強工事後のイ号の橋梁を示している。なお、図1の左側の2つの斜部材と図2の左側の2つの座屈拘束ブレースとは向きが逆になっているが、図1と図2の両方に「○8○14(判定注;原文は○の中に数字)」と記載されているように、図1は図2のイ号の橋梁の同じ箇所を示している。
図1から明らかなように、耐震補強工事前の橋梁においては、各アーチリブ121a,121bと、これらのアーチリブ間を接続する2つの水平部材125a,125cとの間に四角形構面128が形成され、この四角形構面128の各辺中央部間を結ぶ四角形状に4つの斜部材126a,126b,126c,126dが設けられていた。
次に、図2から明らかなように、耐震補強工事後のイ号の橋梁においては、耐震補強工事前の橋梁に対し、「4つの斜部材に座屈拘束ブレース(履歴型ブレース)126a,126b,126c,126dを採用し」、さらに、「水平部材125bを追加した」構造となっている。これらの図1及び図2からも、イ号の橋梁は、4つの斜部材に座屈拘束ブレース(履歴型ブレース)126a,126b,126c,126dを採用することにより、補強工事前の従来構造のものに比べ高い耐震強度を確保することができ、それに加えて、水平部材125bを追加することにより、構造強度を増大することができるようになっていると理解できる。
この補足説明からも、本件特許発明の構成要件Cに規定された「第2の四角形構面」は、乙第5号証(判定注;「乙第5号証」は「乙第1号証」の誤記と認める。)に示された「四角形構面128」である、とするのが合理的である。」(答弁書6頁末行?9頁5行)

第5 属否の判断
イ号物件が、本件特許発明の構成要件を充足するか否かについて検討する。
1 構成要件A、Dについて
(1)イ号物件の構成aの「アーチリブ(121)」、「垂直部材(122)」、「水平部材(125)」、「橋桁(124)」、「斜部材(126)」、「アーチ橋」、「橋梁」は、それぞれ本件特許発明の「アーチリブ」、「垂直部材」、「水平部材」、「橋桁」、「斜部材」、「アーチ橋」、「橋梁」に相当し、イ号物件の構成aと本件特許発明の構成要件Aは一致している。
同様に、イ号物件の構成dと本件特許発明の構成要件Dは一致している。

(2)したがって、イ号物件の構成a、dは、それぞれ本件特許発明の構成要件A、Dを充足する。

2 構成要件Bについて
(1)本件特許発明の課題は「基礎構造を大幅に補強することなく高い耐震強度を確保できるアーチ橋またはトラス橋である橋梁の提供と、橋梁の耐震強度補強方法の提供とを目的とする」(第2の2(1)参照)ものであり、地震時に橋梁の部材に交番力が生じることは技術常識であるから、本件特許発明の「履歴型ブレース」は地震時に生じる「引っ張りと圧縮の交番軸力を受ける」斜部材であることは明らかである。

(2)本件特許発明の「履歴型ブレース」について、本件特許の明細書には「【0017】・・・この履歴型ブレース17,・・・としては、例えば特開2000-81085に開示されている履歴型ダンパー(引っ張りと圧縮の交番軸力を受ける長尺部材であり、その中間部に中間材を配し、該中間材の両端にそれぞれ他端が他部材に連結される構成を有している)を好適に用いることができる」(第2の2(2)参照)と記載され、当該記載で引用された特開2000-81085号公報には「履歴型ダンパー」に関して、「【0008】・・・例えば地震荷重が作用すると斜材7は引張りと圧縮の交番軸力を受けるが、この軸力は斜材両端の接合部材13から端継手板10を介して履歴型ダンパー6の芯材6aを経て中間材8に伝わる。そして引張り軸力が芯材6aの降伏軸力+Nyに達すると塑性変形+δが生じ、圧縮軸力が芯材6aの降伏軸力-Nyに達すると塑性変形-δが生ずる。この際、圧縮軸力を受けた芯材6aは座屈変形しようとするが、外接する補剛鋼管6bによってその変形が拘束されて座屈が防止される。・・・」(特開2000-81085号公報の【0008】)と記載されている。これらの記載から見て、本件特許発明の「履歴型ブレース」は座屈変形が拘束されるブレースを含んでいるといえる。

(3)イ号物件の構成bの「座屈拘束ブレース」は、その名称のとおり、座屈変形を拘束することにより補強されたブレースであると解され、また、「座屈拘束ブレース」の取付箇所から見て、地震時に交番軸力が生じるものであるといえるから、「座屈拘束ブレース」は地震時に生じる「引っ張りと圧縮の交番軸力を受ける」斜部材である。
したがって、イ号物件の構成bの「座屈拘束ブレース」は、本件特許発明の「履歴型ブレース」に相当する。

(4)よって、イ号物件の構成bは本件特許発明の構成要件Bを充足する。

3 構成要件Cについて
(1)イ号物件の構成cの「第2の四角形構面」、「(第1、第2の)座屈拘束ブレース」は、それぞれ本件特許発明の「第2の四角形構面」、「履歴型ブレース」に相当する。

(2)イ号物件の構成cの「(第1、第2の)座屈拘束ブレース」は「第2の四角形構面」内に「第1の座屈拘束ブレース(126a)は、第2の四角形構面(127)の一辺を構成する第1の水平部材(125a)の中央部(130)と、第2の四角形構面(127)の一辺を構成すると共に第1の水平部材(125a)に対向する第2の水平部材(125b)とアーチリブ(121a)との間に形成される第1の角部(133a)とを結ぶように設けられ、第2の座屈拘束ブレース(126b)は、上記中央部(130)と、第2の水平部材(125b)とアーチリブ(121b)との間に形成される第2の角部(133b)とを結ぶように設けられ、その結果、2本の座屈拘束ブレース(126a, 126b)は、第2の四角形構面(127)内において、くの字状又は逆くの字状を形成するように設けられている」ことから、本件特許発明の「履歴型ブレース」が「第2の四角形構面内に、該第2の四角形構面の各対角間を結ぶ対角線状、もしくは前記第2の四角形構面の各辺中央部間を互いに結ぶ四角形状に設けられている」ことと比較して、イ号物件及び本件特許発明それぞれの斜部材(それぞれ「座屈拘束ブレース」、「履歴型ブレース」)の「第2の四角形構面」内における配置が異なっていることは明らかである。

(3)したがって、イ号物件の構成cは本件特許発明の構成要件Cを充足しない。

第6 被請求人の主張について
1 被請求人は、「被請求人は、上述したイ号の橋梁の構成cにおける四角形構面をアーチリブ(乙1の121a, 121b)及び2つの水平部材(乙1の125a,125c)により形成された四角形構面(乙1の128)と解釈したが、この解釈は、請求人の「四角形構面は乙1の121a,125a,121b,125bにより形成された四角形構面127である」との解釈とは異なる」(第4の2(1)参照)と主張し、さらに「本件特許発明の構成要件Cは、「前記各アーチリブと、これらアーチリブ間を接続する前記各水平部材との間に形成される第2の四角形構面」と規定しているので、第2の四角形構面を形成する各水平部材は、文言上、アーチリブ間を接続する水平部材であれば良く、「互いに隣接する水平部材」に限定解釈される理由は存在しない」(第4の2(2)参照)と主張する。
しかしながら、本件特許発明の構成要件Cの「各アーチリブと、これらアーチリブ間を接続する前記各水平部材との間に形成される第2の四角形構面内に」の記載において、本件特許発明では「各水平部材」について格別な限定や定義がなされておらず、本件明細書の【0024】、【0025】の記載及び図6、7を見ても、「第2の四角形構面」は「アーチリブ間を接続する」互いに隣接する「水平部材」により形成されると解されるから、複数の「水平部材」(に相当する部材)のうち、例えば、1つおきに「水平部材」を定義するようなことは想定できない。また、本件明細書及び図面において、被請求人が上記で主張するような解釈に沿った実施例などの記載や示唆もない。よって、被請求人の主張は採用できない。

2 被請求人は、「1)・・・しかしながら、イ号の橋梁が各アーチリブ121a、121bと水平部材125a、125cからなる面を「第2の四角形構面」とした構成要件Cを含んでいることに変わりはなく、イ号の橋梁では、単に、構成要件Cには記載されていない水平部材125bが付加されているだけである。・・・被請求人は出願当時、特許を受けようとする発明の特定に「水平部材125b」は必ずしも必要な構成ではないと判断し、これを構成要件Cに記載しなかっただけである。」、「2)次に、水平部材125bは、耐震対策により追加された水平部材であり、この水平部材125bにより、構造強度が向上するようになっている。さらに、この水平部材125bの存在により、座屈拘束ブレース126a,126b,126c,126dによる地震エネルギーの吸収機能が阻害されることはない。」、「3)・・・図2から明らかなように、耐震補強工事後のイ号の橋梁においては、耐震補強工事前の橋梁に対し、「4つの斜部材に座屈拘束ブレース(履歴型ブレース)126a,126b,126c,126dを採用し」、さらに、「水平部材125bを追加した」構造となっている。これらの図1及び図2からも、イ号の橋梁は、4つの斜部材に座屈拘束ブレース(履歴型ブレース)126a,126b,126c,126dを採用することにより、補強工事前の従来構造のものに比べ高い耐震強度を確保することができ、それに加えて、水平部材125bを追加することにより、構造強度を増大することができるようになっていると理解できる。この補足説明からも、本件特許発明の構成要件Cに規定された「第2の四角形構面」は、乙第5号証(判定注;「乙第5号証」は「乙第1号証」の誤記と認める。)に示された「四角形構面128」である、とするのが合理的である」(第4の2(2)参照)と主張する。
しかしながら、イ号において、座屈拘束ブレースと共に水平部材(125b)が追加されているとしても、当該水平部材(125b)は既存の水平部材(125a)(125c)と構造強度上、格別異なるものであるとはイ号図面からは看て取れず、当該水平部材は橋梁を補強するために必須であると解され、任意付加的なものとはいえない。
よって、被請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明の構成要件Cを充足しないから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2018-06-28 
出願番号 特願2001-24850(P2001-24850)
審決分類 P 1 2・ - ZA (E01D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鹿戸 俊介柴田 和雄土屋 真理子  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 井上 博之
住田 秀弘
登録日 2004-12-24 
登録番号 特許第3631965号(P3631965)
発明の名称 橋梁、及び橋梁の耐震強度補強方法  
代理人 弟子丸 健  
代理人 渡邊 誠  
代理人 特許業務法人アルファ国際特許事務所  
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