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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1342339
審判番号 不服2017-15620  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-20 
確定日 2018-08-02 
事件の表示 特願2017- 99990「ワーク分割装置及びワーク分割方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 8月10日出願公開、特開2017-139504、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年12月26日に出願された特願2011-282761号(優先権主張 平成23年2月16日)の一部を平成24年6月4日に新たな特許出願(特願2012-126847号)とし,さらに,その一部を平成27年6月17日に新たな特許出願(特願2015-121666号)とし,さらに,その一部を平成28年12月15日に新たな特許出願(特願2016-243282号)とし,さらに,その一部を平成29年2月21日に新たな特許出願(特願2017-30266号)とし,さらに,その一部を平成29年5月19日に新たな特許出願としたものであって,同年6月5日付け拒絶理由通知に対し,同年7月7日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが,同年7月19日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がされ(同年7月21日発送),これに対し,同年10月20日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,同年12月26日に審判請求人から上申書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定は,概略,本願請求項1ないし8に係る発明は,その出願の日前の特許出願であって,その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記1の特許出願(以下,「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「先願明細書等」という。)に記載された発明(以下,「先願発明」という。)と実質的に同一であり,しかも,この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく,またこの出願の時において,その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので,特許法第29条の2の規定により,特許を受けることができない,というものである。
なお,原査定は,本願請求項1ないし8に係る発明と先願発明が実質的に同一であることを説示するために,下記2及び3の文献を引用している。


1.特願2009-230449号(平成21年10月2日出願,平成23年4月14日公開(特開2011-77482号公報))
2.特開2007-123658号公報
3.特開2010-206136号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は,特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正によって,補正前の請求項1に記載された「エキスパンド手段」について,「前記ワークが載置されたテーブルの周りを囲むように配置され,かつ前記ダイシングテープをエキスパンドする際に前記テーブルとは独立して昇降可能に構成されたリング部材を有し,」及び「前記リング部材が」接触した状態でダイシングテープをエキスパンドするという発明特定事項を追加する補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(なお,請求項4,請求項6及び請求項7についての補正も同旨である。)。また,当該発明特定事項は,本願の出願当初明細書の【0065】及び【0105】に記載されているから,新規事項を追加するものではない。
そして,後記第4から第6までに示すように,補正後の請求項1ないし8に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明8」という。)は,独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1ないし8に係る発明は,平成29年10月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は以下のとおりである。

(本願発明1)
「ダイシングテープをエキスパンドすることにより,前記ダイシングテープに貼付されたワークを個々のチップに分割するワーク分割装置において,
前記ワークが載置されたテーブルの周りを囲むように配置され,かつ前記ダイシングテープをエキスパンドする際に前記テーブルとは独立して昇降可能に構成されたリング部材を有し,前記ワークが貼付された前記ダイシングテープに前記リング部材が接触した状態で前記ダイシングテープをエキスパンドするエキスパンド手段と,
前記エキスパンドにより前記ダイシングテープの弛んだ部分を選択的に加熱する選択的加熱手段と,
前記選択的加熱手段を前記ワークの周方向に沿って相対的に移動させる移動手段と,
を備える,ワーク分割装置。」

なお,本願発明2ないし5は,本願発明1を減縮した発明である。また,本願発明6は,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明であり,本願発明7及び8は,本願発明6を減縮した発明である。

第5 先願発明及び周知例
1 先願発明
(1)先願明細書等の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,先願の先願明細書等には,以下の事項が記載されている。

「【技術分野】
【0001】
本発明は,分割前の板状ワークに貼着された拡張テープを拡張することにより当該板状ワークを個々のチップに分割してチップ間の間隔を所望の距離に拡張する機能や,チップに分割され全体として分割前の形状を維持した状態の板状ワークに貼着された拡張テープを拡張することによりチップ間の間隔を所望の距離に拡張する機能を有するテープ拡張装置に関する。」

「【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等の板状ワークを分割加工する方法として,板状ワークの分割予定ラインに沿ってその内部にレーザ光を集光して連続的な改質層を形成し,板状ワークに外力を加えることによってチップ間の間隔を広げて分割する方法がある。この方法においては,板状ワークの裏面に貼着したテープを拡張させるときの力が外力として用いられている。また,テープを拡張する力を外力として用いる技術は,板状ワークをチップに分割する場合だけでなく,チップに分割済みで全体として分割前の形状を維持した状態で拡張テープに貼着された板状ワークのチップ間隔を所望の距離に広げる場合にも,利用されている。板状ワークが半導体ウェーハであり,その裏面にDAF(Die Attach Film)と称されるダイボンド用のフィルム状接着剤が貼着されている場合においても,同様の技術が利用されている。」

「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,拡張テープの中には,加熱された後に冷却される過程において収縮する性質を有するものもあり,このような拡張テープについてたるみ部分を十分に収縮させてたるみを除去するには,拡張テープを熱した後に拡張テープから熱が十分放出されるのを待つ必要があり,処理効率が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は,これらの事実に鑑みて成されたものであり,その主な技術的課題は,板状ワークに貼着される拡張テープとして加熱された後に冷却される過程において収縮する性質を有するものを使用する場合において,拡張テープの拡張によってチップ間の間隔を所望の距離にした後に,拡張テープのうち板状ワーク貼着部分の外周側に生じるたるみの除去を迅速に行うことができるテープ拡張装置を提供することにある。」

「【発明の効果】
【0009】
本発明に係るテープ拡張装置は,加熱手段とともに冷却手段を備えたことにより,拡張テープを加熱した後に迅速に冷却することができるため,たるみ除去を迅速に行うことができる。」

「【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すテープ拡張装置1は,例えば図2(a),(b)に示す分割前の板状ワーク100を分割加工する装置である。板状ワーク100は,例えば図2(a)に示すように,その表面100aに,分割予定ライン101によって区画されて複数のチップ領域102が形成されたものである。図2(b)に示すように,裏面100bにはDAF(Die Attach Film)と称されるフィルム状接着剤103が貼着されており,フィルム状接着剤103が拡張テープ104に貼着されている。拡張テープ104の周縁部には,リング状に形成され開口部105aが形成された環状フレーム105が貼着されており,板状ワーク100は,開口部105aにおいて拡張テープ104を介して環状フレーム105と一体となって支持された状態となっている。以下では,このように拡張テープ104を介して環状フレーム105と一体となって支持された板状ワーク100のことを,「フレームつきワーク10」と称する。(・・・中略・・・)
【0012】
(・・・中略・・・)
【0014】
図1に示すテープ拡張装置1は,図2に示した板状ワーク100及びフィルム状接着剤103,拡張テープ104並びに環状フレーム105を保持する保持ユニット2と,保持ユニット2との間で環状フレーム105を挟持するフレーム押さえ部3と,保持ユニット2において保持された拡張テープ104に対する加熱及び冷却の機能を有する加熱冷却手段4と,加熱冷却手段4を上方から覆う蓋部材5とを備えている。
【0015】
図1に示すように,保持ユニット2は,拡張テープ104を介して板状ワーク100を吸引保持して昇降可能であるワーク保持テーブル20と,ワーク保持テーブル20において環状フレーム105を下方から支持するフレーム支持部21と,ワーク保持テーブル20を昇降させることによりワーク保持テーブル20に保持された板状ワーク100を昇降させるワーク昇降手段22と,フレーム支持部21を昇降させるフレーム昇降手段23とを有している。図1に示した環状フレーム105は,フレーム支持部21とフレーム押さえ部3とによって挟持されるため,フレーム支持部21とフレーム押さえ部3とでフレーム保持手段6が構成される。
【0016】
フレーム昇降手段23は,少なくとも3つ(図示の例では4つ)のエアシリンダによって構成されており,シリンダチューブ230とピストンロッド231とから構成されている。ピストンロッド231の上端がフレーム支持部21の下面に固定されており,ピストンロッド231の昇降によりフレーム支持部21を昇降させる構成となっている。
【0017】
(・・・中略・・・)
【0018】
図5に示すように,ワーク保持テーブル20は,上面が平面上に形成され無数の気孔を有する多孔質体により形成された吸着部200と,吸着部200を下方及び外周側から支持する枠体201とを有している。(・・・中略・・・)枠体201は,その外径がフレーム支持部21及びフレーム押さえ部3の内径より小さく形成されているため,ワーク保持テーブル20の外周面とフレーム支持部21及びフレーム押さえ部3の内周面との間には隙間8が形成されている。
【0019】
図5に示すように,ワーク昇降手段22は,例えばエアシリンダであり,シリンダチューブ220とピストンロッド221とから構成されている。ピストンロッド221の上端が枠体201の下面に固定されており,ピストンロッド221の昇降によりワーク保持テーブル20を昇降させる構成となっている。
【0020】
図5に示すように,フレーム支持部21とフレーム押さえ部3とでフレーム105を挟持し,その状態でワーク保持テーブル20を上昇させると,拡張テープ100が拡張されて板状ワーク100の個々のチップ102に分割し,さらにチップ間隔を所望の距離にすることができる。したがって,保持ユニット2及びフレーム押さえ部3は,環状フレーム105と板状ワーク100とを板状ワーク100の表面100aと垂直方向に交わる方向(本例では鉛直方向)に離反させて拡張テープ104を拡張し分割予定ライン101に沿って個々のチップ102に分割してチップ間隔を所望の距離に拡張するチップ間隔形成手段9として機能する。
【0021】
図6は,図1,4及び5に示した加熱冷却手段4を下からみた状態を示しており,加熱冷却手段4は,円形の基盤40と,基盤40の中心に連結され基盤40とともに回転可能な軸部41と,基盤40の周縁部から下方に突出形成したリング基台42と,リング基台42に設けられた複数の加熱手段43及び複数の冷却手段44とから構成されている。図示の例では,加熱手段43及び冷却手段44は埋設されており,例えば,加熱手段43としてはヒータや熱風を送出する加熱ブロー,冷却手段44としては冷たい風を送出する冷却ブローを用いることができる。図6及び図7に示す例では,加熱手段43及び冷却手段44は,リング基台42の周方向に沿って交互に配設されている。図7の例では,45度おきに加熱手段43及び冷却手段44が交互に配設されており,リング基台42が矢印A方向に回転することにより加熱手段43及び冷却手段44も回転する構成となっている。
【0022】
次に,図2に示した板状ワーク100を個々のチップ102に分割してチップ間隔を拡張する方法について説明する。最初に,図8に示すように,フレーム支持部21に環状フレーム105を載置する。このとき,フレーム昇降手段23による制御により,フレーム支持部21の上面は,ワーク保持テーブル20の吸着部200の上面よりも若干上方に位置している。隙間8の上方には,加熱冷却手段4を構成するリング基台42に設けられた加熱手段43及び冷却手段44(図7参照)が位置している。
【0023】
次に,図9に示すように,フレーム昇降手段23のピストンロッド231を上昇させることにより,フレーム支持部21とフレーム押さえ部3との間で環状フレーム105を上下から挟持する。このときのフレームつきワーク10の位置が待機位置となる。そして,図10に示すように,フレーム支持部21とフレーム押さえ部3とで環状フレーム105が挟持された状態を維持しつつ,エアシリンダ22による制御によりピストンロッド221を上昇させてワーク保持テーブル20を上昇させることにより,吸着部200の上面及び枠体201の上面を拡張テープ104の裏面に接触させ,さらにワーク保持テーブル20を上昇させて拡張テープ104及び板状ワーク100を上昇させる。そうすると,拡張テープ104の周縁部に貼着された環状フレーム105はフレーム支持部21とフレーム押さえ部3とで挟持されて動かない一方,板状ワーク100が貼着された部分及びその外周側の拡張テープ104は上昇するため,拡張テープ104が開口部105a(図2参照)の中心を基準に放射方向に伸張される。そして,拡張テープ104が伸びると,板状ワーク100の内部に形成されていた変質層部分に水平方向の外力が作用し,分割予定ライン101が縦横に分離されて隣り合うチップ102の間の間隔が広がり,個々のチップ102に分割される。また,板状ワーク100の裏面100bに貼着されているフィルム状接着剤103も破断される。そして,チップ102への分割後もワーク保持テーブル20をさらに上昇させることにより,隣り合うチップ間の間隔を所望の距離に拡張することができる。
【0024】
こうして拡張テープ104を拡張させた後に,吸引源203から吸着部200に対して吸引力を作用させることにより,拡張した拡張テープ104を介して板状ワーク100を吸引保持する。そして,図11に示すように,ワーク保持テーブル20を下降させてフレームつきワーク10が待機位置に戻ると,チップ102の最外周部分と環状フレーム105の内周面との間の領域,すなわち空間8において拡張テープ104にたるみ部104aが生じる。なお,このとき,吸着部200には吸引力が作用しているため,拡張テープ104のうち各チップ102が貼着されている部分についてはたるみが生じることはない。
【0025】
次に,図12に示すように,ワーク保持テーブル20,フレーム支持部21及びフレーム押さえ部3の位置を変えずに,加熱冷却手段4を下降させ,リング基台42に埋設された加熱手段43及び冷却手段44を,空間8において露出した拡張テープ104の拡張された箇所,すなわちたるみ部104aに近接させた状態で対面させる。そして,例えば,加熱手段43をオンにするとともに冷却手段44から冷風を送出し,リング基台42を矢印A方向に135度回転させる。そうすると,図7に示したように,45度おきに加熱手段43と冷却手段44とが交互に配設されているため,最初の90度の回転によってたるみ部104aの全体に対して加熱手段43から矢印B方向に加熱が行われ,最初の45度の回転以降の90度の回転によって,加熱された部分に対して冷却手段44から矢印B方向に冷却が行われる。なお,最初は加熱手段43のみをオンとして加熱冷却手段4を90度回転させ,その後,加熱手段43をオフにするとともに冷却手段44をオンとし,その状態で加熱冷却手段4をさらに90度回転させるようにしてもよい。
【0026】
以上のようにしてたるみ部104aを加熱してから冷却すると,図13に示すように,図12に示したたるみ部104aが収縮してたるみが解消され,収縮部104bとなる。したがって,分割後のフレーム突きワーク10をテープ拡張装置1から取り外して次の工程に搬送したり次の工程で保持したりするにあたり,支障が生じない。しかも,加熱冷却手段4は,加熱後すぐに冷却を行うことができるため,極めて効率的である。」

図11は,拡張テープにたるみ部が形成された状態を略示的に示す断面図,図12は,たるみ部に加熱及び冷却を行う状態を略示的に示す断面図であり,ワーク保持テーブル20を下降させてフレームつきワーク10を待機位置に戻すと,板状ワーク100を分割したチップ102の最外周部分と環状フレーム105の内周面との間の領域の拡張テープ104にたるみ部104aが発生するので(【0024】),リング基台42の周方向に沿って配設された加熱手段43を,上記たるみ部104aに近接させた状態で対面させ,リング基台42を回転させることにより加熱すること(【0025】)が見て取れる。

(2)先願発明
したがって,先願明細書等には,以下の先願発明が記載されている。

(先願発明)
「拡張テープ104を拡張し,前記拡張テープ104に貼着された板状ワーク100を個々のチップ102に分割するテープ拡張装置において,
前記拡張テープ104を介して前記板状ワーク100を吸引保持するワーク保持テーブル20であって,かつ拡張テープ104を拡張する際に昇降可能であり,前記板状ワーク100が貼着された前記拡張テープ104に接触した状態で前記拡張テープ104を拡張するワーク保持テーブル20と,
リング基台42の周方向に沿って配設され,前記拡張により前記拡張テープ104に生じたたるみ部104aに近接させた状態で対面させて加熱する加熱手段43と,を備え,
前記リング基台42は,円形の基盤40の周縁部から下方に突出形成されており,該基盤40とともに回転可能な軸部41の回転にともなって回転する,
テープ拡張装置。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0033】
次に,エアシリンダ機構からなる進退手段63を作動して,環状の拡張部材61および保持テーブル62を図9に示す拡張位置まで上昇せしめる。従って,環状の拡張部材61の上端に配設された拡張補助ローラ613が熱収縮性粘着テープ3に当接して押し上げるので,熱収縮性粘着テープ3が拡張せしめられる(テープ拡張工程)。この結果,熱収縮性粘着テープ3に貼着されている半導体ウエーハ10は,放射状に引張力が作用する。このように半導体ウエーハ10に放射状に引張力が作用すると,ストリート101に沿って形成された変質層110は強度が低下せしめられているので,半導体ウエーハ10は変質層110に沿って破断され個々の半導体チップ100に分離される。なお,テープ拡張工程においては,環状の拡張部材61に配設された拡張補助ローラ613が熱収縮性粘着テープ3と接触するので,両者間に生ずる摩擦力が小さいため,熱収縮性粘着テープ3は均一に拡張される。従って,半導体ウエーハ10を変質層110が形成されたストリート101に沿って確実に破断することができるとともに,個々に分離された半導体チップ100間の間隔Sが均一となる。このテープ拡張工程における熱収縮性粘着テープ3の拡張量即ち伸び量は,拡張部材61の上方への移動量によって調整することができ,本発明者等の実験によると熱収縮性粘着テープ3を20mm程度引き伸ばしたときに半導体ウエーハ10を変質層110が形成されたストリート101に沿って破断することができた。このとき,各半導体チップ100間の間隔Sは,1mm程度となった。
【0034】
上述したようにテープ拡張工程を実施したならば,個々の半導体チップ100間が広がった状態(図9に示す状態)で,図示しない吸引手段を作動して保持テーブル62の吸着チャック622に負圧を作用せしめる。この結果,環状のフレーム2に装着された熱収縮性粘着テープ3における半導体ウエーハ10(個々の半導体チップ100に分離されている)が貼着されているウエーハ貼着領域3aが吸引保持される(テープ吸引保持工程)。
【0035】
上述したテープ吸引保持工程を実施したならば,図9に示す状態から進退手段63を作動して拡張部材61および保持テーブル62を下降して基準位置に位置付け,更に,4個のエアシリンダ機構からなる退避手段7を作動して拡張部材61を下降し,図10に示す退避位置に位置付ける(拡張部材退避工程)。従って,拡張部材6は,熱収縮性粘着テープ3から離隔する。この結果,環状のフレーム2に装着された熱収縮性粘着テープ3におけるウエーハ貼着領域3aと環状のフレーム2との間の収縮領域3bに弛みが生ずる。」

以上から,引用文献2には,熱収縮性粘着テープを介して半導体ウエーハを保持する保持テーブルの周りを囲むように配置され,かつ前記ダイシングテープをエキスパンドする際に,前記保持テーブルとともに昇降可能であり,前記半導体ウエーハが貼付された前記熱収縮性粘着テープに接触した状態で前記熱収縮性粘着テープをエキスパンドする環状の拡張部材を備えた装置という技術的事項が記載されていると認められる。

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0043】
次に,図7(b)に示すように,突き上げ部材43と吸着テーブル48が,コロ部材43aと吸着部482の上面の高さ位置を一致させた状態で同期して上昇し,これによってウェーハ1がテープ6とともに所定の拡張位置まで突き上げられる。なお,この時のテープ6の拡張は突き上げ部材43のみを上昇させて行ってもよい。
【0044】
拡張位置まで突き上げられたテープ6は,放射方向に引っ張られる力を受け,ウェーハ1とともに再び拡張させられる。続いて吸引源484を運転して,テープ6の裏面に接触している吸着部482を負圧とする。すると,拡張状態のウェーハ1がテープ6を介して吸着部482に吸着して保持される。
【0045】
次に,図7(c)に示すように突き上げ部材43が下降してテープ6から離れ,また,吸着テーブル48が,フレーム5を保持している吸着部482の上面がフレーム5とほぼ同じ高さ位置になるまで下降する。これにより,テープ6の弛み領域6aは弛んだ状態となる。次いで,図8(a)に示すようにヒータ49を下降させて加熱体493を弛み領域6aの直上に近接させ,該加熱体493を発熱させて弛み領域6aを加熱する。このようにしてヒータ49により加熱された弛み領域6aは,図8(b)に示すように収縮する。弛み領域6aの加熱は,拡張されたテープ6を吸着テーブル48の吸着部482に吸着して保持した状態のまま行われる。したがって,テープ6の,吸着部482に保持されている部分,すなわち弛み領域6aの内側のウェーハ1が貼着されている円形部分は収縮が生じない。このため,テープ6の拡張によって分割されたDAF付きチップ3の間隔が確保され,隣り合うチップ3やDAF4どうしが接触することが起こらない。」

以上から,引用文献3には,テープを介してウェーハを保持する吸着テーブルの周りを囲むように配置され,かつ前記テープをエキスパンドする際に,前記吸着テーブルとは独立して昇降可能であり,前記ウェーハが貼付された前記テープに接触した状態で前記テープをエキスパンドする環状の突き上げ部材を備えた装置という技術的事項が記載されていると認められる。

4 その他の文献について
(1)前置報告書において周知技術を示す文献として引用された引用文献4(特開2009-253071号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0022】
本発明が適用されたエキスパンド工程では,複数の小工程からなり,上記のような状態で供給されるウェーハWに対して図3(a)?(f)で示す順序で各小工程が実施される。
【0023】
エキスパンド工程に供給されたウェーハWは,まず,同図(a)に示すように剥離テーブル10に搬送され,保護シートHが貼着された表面側が上向きとなるように剥離テーブル10上に載置される。また,フレームFが不図示のフレーム固定機構により所定位置に固定される。そして,この状態で,ウェーハWの表面の保護シートHが不図示のアームによりウェーハWから剥離される。
【0024】
続いて,同図(b)に示すように剥離テーブル10の周部を囲むように配置された昇降可能なリング12が下降位置(同図(a)参照)から上昇位置に図示しない昇降機構により押し上げられ,ウェーハWの裏面側に貼着された粘着シートSが放射状にエキスパンド(伸張)される。
【0025】
これにより,ステルスダイシングによりダイシングライン(分割予定ライン)が形成されていたウェーハWが個々のチップTに分断されると共に,個々のチップTの間に隙間(約20?30μm)が形成される。
【0026】
一方,ウェーハWや剥離テーブル10等は特別な温度調整が行われることなく常温の環境下(約25度?約60度)におかれており,この常温の環境下では,DAF(D)が切断されずに伸張された状態となる。
【0027】
続いて,同図(c)に示すように剥離テーブル10の上方にテープ拡張保持リング14が昇降可能に配置されており,図示しない昇降機構によってそのテープ拡張保持リング14が上昇位置から下降位置に押し下げられ,粘着シートSが上記リング12とテープ拡張保持リング14とで挟み込まれる。そして,粘着シートSに対するリング12の当接面が剥離テーブル10の上面と程一致する高さとなるようにリング12とテープ拡張保持リング14が粘着シートSを挟み込んだ状態を維持しながら下降する。
【0028】
これによって,粘着シートSにおいてリング12よりも外周側の部分にエキスパンドによる弛みが生じる。その弛み部分が図示しない加熱手段によって加熱され(熱風を吹きかける等),加熱によって粘着シートSの弛み部分が収縮する。」

(2)また,同じく,前置報告書において周知技術を示す文献として引用された引用文献5(特開2005-109043号公報)には,図面とともに次の事項が記載されている。

「【0048】
次に,本発明に係るエキスパンド方法の別の実施形態について説明する。図7は,本発明に係るエキスパンド方法の別の実施形態に用いるエキスパンド装置を表わしている。エキスパンド装置10Aは,ベース11,ベース11に載置されたステージ31とフレームチャック13,取付台35を介してベース11に設けられたリング状の加熱板34を有している。
【0049】
フレームチャック13の上面には多孔質部材13Aが埋設され,多孔質部材13Aは図示しない真空源に接続され,フレームFを粘着シートSごと吸着保持するようになっている。
【0050】
加熱板34にはラバーヒータ等の面発熱体が用いられ,加熱板34を取り付けた取付台35は図示しない駆動手段により上下に移動されるようになっている。
【0051】
ステージ31の上方には環状のクランプリング33が設けられ,図示しない駆動手段で上下移動される。クランプリング33が下方に押し下げられた時に粘着シートSをステージ31に押付け,粘着シートSをクランプするようになっている。
【0052】
また,加熱板34の上方には環状の押圧リング32が設けられ,図示しない駆動手段で上下移動される。押圧リング32が下方に押し下げられた時に,粘着シートSをリング状に下方に押し下げるようになっている。
【0053】
図8は,本発明に係るエキスパンド方法の別の実施形態を表わすフローチャートである。先ず,ウェーハWをステージ31に,フレームFをフレームチャック13に載置し,次いでフレームチャック13の真空源をОNし,フレームFを粘着シートSごとフレームチャック13に吸着固定する(ステップS31)。
【0054】
次に,押圧リング32を下方に移動させ,粘着シートSのステージ31とフレームFとの間の部分を下方に押し下げる。これにより粘着シートSがエキスパンドされ,個々のチップT間の間隔が拡大される(ステップS33)。
【0055】
次に,クランプリング33を下方に移動させ,粘着シートSをウェーハWの外周部でステージ31に押付けてクランプする(ステップS35)。これにより,ステージ31上の粘着シートSのエキスパンド状態が保持される。ここで押圧リング32を上方に後退させると,粘着シートSのステージ31とフレームFとの間の部分に図7の点線で示すような
弛みSAが形成される(ステップS37)。
【0056】
次に,取付台35を上昇させ,およそ120°に加熱されたリング状の過熱板34を粘着シートSの弛みSA部分に接触させて,徐々に持ち上げてゆく。粘着シートSは熱収縮性シートであるので,弛みSA部分が徐々に収縮して弛みSAが解消される(ステップS39)。リング状の過熱板34で粘着シートのウェーハWの外側部分を環状に加熱するので,粘着シートSの弛みSA部分が均一に収縮して解消される。
【0057】
弛みSAが完全に解消されたところで,過熱板34とクランプリング33を後退させる(ステップS41)。ここでフレームFの吸着を解除する(ステップS43)。ステージ31上の粘着シートSのクランプとフレームFの吸着とが解除されても,粘着シートSの弛みSAが収縮し解消しているので粘着シートSのエキスパンド状態が保持され,個々のチップT間の間隔が拡大されて個々のチップT同士の接触が防止され,ウェーハWはフレームFごと容易に搬送することができる。
【0058】
なお,本別の実施形態では過熱板34を粘着シートSの弛みSA部分に接触させて弛みSAを収縮させ,弛みSAを解消しているが,他の加熱手段,例えば熱風等で過熱するようにしてもよい。
【0059】
図7では,押圧リング32によって図の点線で示すような弛みSAが形成され,その弛みSAがリング状の過熱板34で加熱されて収縮し,完全に解消された状態(図の実線)を表わしている。」

(3)前記(1)及び(2)から,引用文献4には,剥離テーブルの周りを囲むように配置され,かつ粘着シートをエキスパンドする際に剥離テーブルとは独立して昇降可能なリングを用いて粘着シートをエキスパンドするという技術的事項が記載されており,引用文献5には,ステージの上方に配置され,かつ粘着シートをエキスパンドする際にステージとは独立して昇降可能な押圧リングを用いて粘着シートをエキスパンドするという技術的事項が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と先願発明を対比する。
・先願発明の「板状ワーク100」は,「ワーク」の一種である。
・上記第5の1(1)のとおり,先願発明の「拡張テープ」は,該「拡張テープ」に貼着(貼付)された板状ワークを個々のチップに分割,すなわち,ダイシングしてチップ間の間隔を所望の距離に拡張(エキスパンド)する機能を有するものであって(【0001】),ダイシング用のテープであるということができるから,先願発明の「拡張テープ104」は,本願発明1の「ダイシングテープ」に相当し,先願発明の「拡張テープ104」の「たるみ部104a」は,本願発明1の「ダイシングテープ」の「弛んだ部分」に相当する。
・先願発明の「ワーク保持テーブル20」は,拡張テープ104を介して板状ワーク100を吸引(吸着)保持しているから,ワークが載置された「テーブル」といえる。
・先願発明の「加熱手段43」は,たるみが生じたたるみ部104aに近接させた状態で対面させて加熱するものであり,拡張テープ104のうち,前記たるみ部104aを加熱するものであるから,たるみ部104aを選択的に加熱しているということができる。
・先願発明の「加熱手段43」は,「リング基台42」の周方向に沿って配設されており,該「リング基台42」を回転させることにより,「板状ワーク100」を分割したチップ102の最外周部分と環状フレーム105の内周面との間の領域に生じたたるみ部104aを加熱するものであるから,「加熱手段43」は,「板状ワーク100」の周方向に沿って相対的に移動しているということができる。また,先願発明の「基盤40」,「軸部41及び「リング基台42」は,「加熱手段43」を回転させて,移動させるものであるから,「移動手段」ということができる。
・先願発明の「テープ拡張装置」は,板状ワーク100を個々のチップ102に分割する機能を有するから,「ワーク分割装置」ということができる。

そうすると,本願発明1と先願発明は,以下の点で一致し,また,相違する。

(一致点)
「ダイシングテープをエキスパンドすることにより,前記ダイシングテープに貼付されたワークを個々のチップに分割するワーク分割装置において,
前記ワークが載置されたテーブルと,
エキスパンドにより前記ダイシングテープの弛んだ部分を選択的に加熱する選択的加熱手段と,
前記選択的加熱手段を前記ワークの周方向に沿って相対的に移動させる移動手段と,
を備える,ワーク分割装置。」

(相違点)
本願発明1は,「前記ワークが載置されたテーブルの周りを囲むように配置され,かつ前記ダイシングテープをエキスパンドする際に前記テーブルとは独立して昇降可能に構成されたリング部材を有し,前記ワークが貼付された前記ダイシングテープに前記リング部材が接触した状態で前記ダイシングテープをエキスパンドするエキスパンド手段」を有するのに対し,先願発明は,「拡張テープ104を介して前記板状ワーク100を吸引保持するワーク保持テーブル20」が昇降可能であることで,板状ワーク100が貼着された拡張テープに接触した状態で,拡張テープ104を拡張する機能を有し,ワーク(板状ワーク100)を吸引保持する手段とダイシングテープ(拡張テープ104)をエキスパンド(拡張)する手段が,同一の手段(ワーク保持テーブル20)として構成されるものであって,分離されていない点。

(2)相違点についての判断
ア 特許法第29条の2における,本願の請求項に係る発明と,先願発明とが同一か否かの判断は,本願の請求項に係る発明と,先願発明とを対比した結果,「(i)本願の請求項に係る発明と先願発明との間に相違点がない場合」,あるいは,「(ii)本願の請求項に係る発明と先願発明との間に相違点がある場合であっても,両者が実質同一である場合」のいずれかの場合に,両者が同一であると判断すべきものであり,ここでの実質同一とは,本願の請求項に係る発明と先願発明との間の相違点が課題解決のための具体化手段における微差(周知技術,慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものでないもの)である場合をいうものと解するのが相当である。
以下,上記の観点に立って,本願発明1と先願発明とが同一であるか否かについて検討する。

イ 上記(1)で認定したとおり,本願発明1と先願発明とは,上記(相違点)において相違するから,本願発明1と先願発明とは同一であるとはいえない。

ウ さらに,本願明細書の「【0016】また,一つの実施態様として,前記ワーク分割手段は,前記冷却されたワークの外周部を,前記ダイシングテープの外周支持部から相対的に押し上げてエキスパンドする突上げ用リングであることが好ましい。【0017】これによれば,簡単な機構でワークを一度に分割することができる。」との記載,及び「【0070】すなわち,突上げ用リングは,この二つの領域においての熱環境を分離するという機能を有している。【0071】ウェハ領域は,冷凍チャックテーブルにより冷却される。その冷却した状態は,外部の加熱エリアからの熱の流入は突上げ用リングで遮断される。また,ダイシングテープは高分子でできており,金属などと比べて熱伝導性が悪いため,突上げ用リングの内周部に存在するウェハエリアにも熱が伝わりにくい。」との記載に照らして,本願発明1は,上記相違点によって,簡単な機構でワークを一度に分割することができ,さらに,外部の加熱エリアからの熱の流入を遮断することができるという効果を有することになるものと認められる。
そうすると,本願発明1と先願発明との間における相違点は,新たな効果を奏するものといえる。
そして,上記で認定した引用文献2ないし5に記載されている技術的事項を参酌しても,上記相違点が課題解決のための具体化手段における微差であると認めることはできない。

以上のとおり,本願発明1と先願発明は,上記(相違点)で相違するから,同一であるとはいえないし,実質的に同一であるともいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は,前記第4のとおり,本願発明1を減縮するものであって,本願発明1と同一の発明特定事項を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,先願発明と同一あるいは実質的に同一であるとはいえない。

3 本願発明6について
本願発明6は,前記第4のとおり,本願発明1とカテゴリ表現が異なるだけの発明であり,本願発明1の「エキスパンド手段」に対応する構成を備えるものであるから,本願発明1と同様の理由により,先願発明と同一あるいは実質的に同一であるとはいえない。

4 本願発明7及び8について
本願発明7及び8は,前記第4のとおり,本願発明6を減縮するものであって,本願発明6と同一の発明特定事項を備えるものであるから,本願発明6と同様の理由により,先願発明と同一あるいは実質的に同一であるとはいえない。

第7 原査定について
上記第3のとおり,本願発明1ないし8は,審判請求時の補正によって,発明特定事項が追加され,限定されるものとなっており,拒絶査定において引用された先願発明と同一あるいは実質的に同一であるとはいえない。

第8 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-07-23 
出願番号 特願2017-99990(P2017-99990)
審決分類 P 1 8・ 16- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 河合 俊英
梶尾 誠哉
発明の名称 ワーク分割装置及びワーク分割方法  
代理人 松浦 憲三  

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