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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1342398
審判番号 不服2017-8583  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-13 
確定日 2018-07-11 
事件の表示 特願2014-533336「抗ウイルス化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月 4日国際公開、WO2013/049407、平成26年10月27日国内公表、特表2014-528412〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2012年9月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年9月30日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年5月29日付けで手続補正書が提出され、平成28年6月27日付けで拒絶理由が通知され、同年10月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成29年2月6日付けで拒絶査定がされ、同年6月13日に拒絶査定不服審判が請求され、同年8月4日に物件提出書が提出され、同年12月8日に上申書が提出され、同年12月11日に物件提出書が提出されたものである。
なお、この出願からは、特願2017-116041号が分割出願されている。

第2 本願発明
この出願の発明は、平成29年6月13日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
式:

によって表される、化合物。」

第3 原査定の理由
原査定の理由である平成28年6月27日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由は、理由5を含むものであり、その理由5の概要は、以下のとおりである。
「5.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

記・・・

・請求項 1-25
本願請求項1-25には、化合物、医薬組成物、化合物を使用した、真核細胞の自然免疫応答を調節するインビトロ方法が記載されており、また、本願の発明の詳細な説明の【表3】の化合物について、一部の化合物について、医薬としての活性が開示されている。

ここで、物の発明においては、当業者がその物を製造できるように本願の発明の詳細な説明が記載されている必要があるところ、本願の発明の詳細な説明の全体を参酌しても、前記本願請求項1-25に記載された発明における化合物の一般製造スキームや個別の製造方法は開示されていない。
してみれば、本願の発明の詳細な説明の記載及び技術常識を参酌しても、当業者が本願請求項1-25に記載された発明の化合物を如何にして製造するのかが理解できないといえる。
・・・
したがって、・・・この出願の発明の詳細な説明は、請求項1-25に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」
本願発明は、拒絶理由通知で言及された請求項7に係る発明に相当する。

第4 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は、以下のとおりである。

1 発明の詳細な説明の記載について

(1)技術分野及び背景技術についての記載
この出願の明細書(以下「本願明細書」という。)の段落【0001】?【0006】に、以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される化合物および方法は、RNAウイルス感染症を含む脊椎動物のウイルス感染症を治療するのに有用である。
【背景技術】
【0002】
RNAウイルスの一群は、米国および世界中で公衆衛生上の大きな問題となっている。よく知られているRNAウイルスには、インフルエンザウイルス(トリ分離株およびブタ分離株を含む)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ウエストナイルウイルス、SARS-コロナウイルス、呼吸器多核体ウイルス(RSV)およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)がある。
【0003】
世界で1億7,000万を越える人がHCVに感染し、そのうちの1億3,000万人が慢性肝疾患(肝硬変、癌腫および肝不全)発症のリスクのある慢性キャリアである。したがって、先進国ではHCVが全肝移植の原因の3分の2を占めている。最近の研究では、慢性感染患者の加齢によりHCV感染症による死亡率が上昇していることがわかっている。同様に、毎年人口の5?20%が季節性インフルエンザに感染し、その結果、200,000人が入院し、36,000人が死亡している。
【0004】
インフルエンザおよびHCVに比べると、ウエストナイルウイルスによる感染者数は最も少なく、2010年の米国では981人である。感染患者の20%が重症型の疾患を発症し、死亡率は4.5%となっている。インフルエンザおよびHCVとは異なり、ウエストナイルウイルス感染症の治療に承認された治療法は存在せず、また生物テロリストの薬剤になる可能性があることから、ウエストナイルウイルスは薬物開発の優先度の高い病原体となっている。
【0005】
上に挙げたRNAウイルスのうち、インフルエンザウイルスにのみワクチンが存在する。したがって、これらのウイルスによる高い罹患率および死亡率を軽減するためには、薬物療法が不可欠である。残念ながら、抗ウイルス薬の数は少なく、その多くのものが効果に乏しい上、そのほとんどすべてが、ウイルスの耐性の進化が速く、作用の範囲が狭いという問題を抱えている。さらに、急性インフルエンザおよびHCV感染症の治療法は中程度の効果しかない。HCV感染症の標準治療であるペグ化インターフェロンとリバビリンには、患者の50%にしか効果が認められず、併用療法に伴い用量制限をもたらす副作用が多数認められる。急性インフルエンザ抗ウイルス剤のアダマンタンおよびノイラミニダーゼ阻害剤は両種類とも、効果があるのは感染後48時間以内に限られるため、治療の機会が得られる時間帯が限定されている。アダマンタンは、これらに対する高い耐性がみられるため、既に使用が制限されており、ノイラミニダーゼ阻害剤は、大量に備蓄されているが、やがては乱用やインフルエンザの耐性株の出現を招くことになるであろう。
【0006】
これらのウイルスに対する薬物開発の努力はほとんどの場合、ウイルスタンパク質を標的とするものである。このことは、現在用いられている薬物が、薬効範囲が狭くウイルス耐性が出現しやすい理由の大きな部分を占めている。ほとんどのRNAウイルスのゲノムは小さく、多くのものが十二に満たないタンパク質をコードしている。したがって、ウイルス標的は限られたものとなっている。上記のことに基づき、ウイルス感染症に対する効果的な治療法の必要性は非常に大きく、満たされていない。」

(2)発明の概要についての記載
本願明細書の段落【0007】?【0016】に、以下の記載がある。
「【発明の概要】
【0007】
本明細書に開示される化合物および方法は、ウイルス薬物開発の焦点を、ウイルスタンパク質を標的とすることから、宿主の先天性の抗ウイルス応答を標的とし増強する薬物の開発に転換するものである。このような化合物および方法は、より効果が高く、ウイルス耐性がより出現しにくく、副作用がより少なく、様々な異なるウイルスに効果を示す可能性がある。
【0008】
RIG-I経路は、RNAウイルス感染症に対する自然免疫応答の調節に深く関与している。HCV、インフルエンザおよびウエストナイルウイルスを含めた多くのウイルスの治療にはRIG-Iアゴニストが有用であると予想される。したがって、本開示は、RNAウイルスによる感染症を含めたウイルス感染症を治療する化合物および方法に関するものであり、化合物はRIG-I経路を調節することができるものである。
【0009】
本開示の一実施形態は、式

によって表される化合物を含み、式中、破線は結合の有無を示し;R^(1)はR^(a)、OR^(2)またはNR^(2)R^(3)であってよく;各R^(a)は、独立してH、任意に置換されたヒドロカルビル、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリールであってよく;R^(2)およびR^(3)は、それぞれ独立してR^(a)、COR^(a)またはSO_(2)R^(a)であってよく;Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)およびY^(4)は、それぞれ独立してCR^(4)またはNであってよく;各R^(4)は、独立してR^(2)、OR^(a)、NR^(2)R^(3)、SR^(a)、SOR^(a)、SO_(2)R^(a)、SO_(2)NHR^(a)、NCOR^(a)、ハロゲン、トリハロメチル、CN、S=Oまたはニトロであってよく;R^(5)はR^(a)、COR^(a)、SO_(2)R^(a)であり得るか、存在せず;VはCR^(2)、CR^(2)R^(3)、C=O、COCR^(2)R^(3)またはC=NR^(2)であってよく;WおよびXは、それぞれ独立してN、NR^(a)、O、S、CR^(2)R^(4)またはCR^(4)であってよい。
【0010】
本開示のいくつかの実施形態は、式

によって表される化合物(「KIN1000」化合物)を含む。
【0011】
別の実施形態は、式

によって表される化合物を含み、式中、R^(10)、R^(13)、R^(14)、R^(16)、R^(17)、R^(18)、R^(19)、R^(20)、R^(21)およびR^(22)は独立してR^(b)、OR^(b)、SR^(b)、COR^(b)、CO_(2)R^(b)、OCOR^(b)、NR^(b)R^(c)、CONR^(b)R^(c)、NR^(b)COR^(c)、SO_(2)NR^(b)R^(c)、CF_(3)、CN、NO_(2)、F、Cl、Br、IまたはC_(2?5)ヘテロシクリルであり;各R^(b)は、独立してHまたはC_(1?3)ヒドロカルビルであり、各R^(c)は、独立してHまたはC_(1?3)アルキルである。
【0012】
本開示のまた別の実施形態は、式

によって表される化合物(「KIN1148」化合物)を含む。
【0013】
本開示のいくつかの実施形態は、本明細書に記載のいずれかの化合物を含む医薬組成物を含む。
【0014】
本開示のいくつかの実施形態は、脊椎動物に本明細書に記載の医薬組成物を投与することを含む、脊椎動物のウイルス感染症を治療または予防する方法を含む。いくつかの実施形態では、ウイルス感染症は、1つ以上の次に挙げる科のウイルスによって引き起こされるものである:アレナウイルス科、アストロウイルス科、・・・。いくつかの実施形態では、ウイルス感染症はインフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、SARS-コロナウイルス、ポリオウイルス、麻疹ウイルス、デングウイルス、黄熱病ウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、セントルイス脳炎ウイルス、マレーバレーウイルス、ポワッサンウイルス、ロシオウイルス、跳躍病ウイルス、バンジウイルス、イルヘウスウイルス、ココベラウイルス、クンジンウイルス、アルファイウイルス、ウシ下痢ウイルス、キャサヌール森林病ウイルス、呼吸器多核体ウイルスまたはHIVである。
【0015】
本開示の方法のいくつかの実施形態は、本明細書に記載のいずれかの医薬組成物を予防ワクチンまたは治療ワクチンのアジュバントとして投与することを含む。いくつかの実施形態では、この方法は、インフルエンザウイルス、C型肝炎ウイルス、・・・キャサヌール森林病ウイルスまたはHIVに対するワクチンを追加投与することによって脊椎動物にワクチン接種することを含む。
【0016】
本開示のいくつかの実施形態は、真核細胞の自然免疫応答を調節する方法を含み、この方法は、本明細書に記載のいずれかの化合物を細胞に投与することを含む。いくつかの実施形態では、細胞はin vivoである。他の実施形態では、細胞はin vitroである。」

(3)発明を実施するための形態についての記載

ア 本願明細書の段落【0018】?【0021】に、以下の記載がある。
「【発明を実施するための形態】
【0018】
(詳細な説明)
本開示は、ウイルスの治療の焦点を、ウイルスタンパク質を標的とすることから、宿主(患者)の先天性の抗ウイルス応答を標的とし増強する薬物の開発に転換する化合物および方法を提供する。このような化合物および方法は、より効果が高く、ウイルス耐性がより出現しにくく、副作用がより少なく、様々な異なるウイルスに効果を示す可能性がある。
【0019】
RIG-I経路は、RNAウイルス感染症に対する自然免疫応答の調節に深く関与している。RIG-Iは様々なRNAウイルスに対する免疫を引き起こすのに不可欠な細胞質型の病原体認識受容体である。RIG-Iは、一続きのウリジンのホモポリマーまたはU/Aポリマーのモチーフを特徴とするRNAウイルスゲノム内にあるモチーフと結合する二本鎖RNAヘリカーゼである。RNAとの結合により、自己のリプレッサードメインによるRIG-Iシグナル伝達抑制を解除するコンホメーション変化が誘導され、RIG-Iがその直列したカスパーゼ活性化および動員ドメイン(CARD)を介して下流にシグナルを伝達することが可能になる。RIG-Iシグナル伝達はそのNTPアーゼ活性に依存するものであるが、ヘリカーゼドメインは必要としない。RIG-Iシグナル伝達は休止細胞では作動せず、リプレッサードメインがウイルス感染に応答してシグナル伝達を司るオン-オフスイッチとしての役割を果たす。
【0020】
RIG-Iシグナル伝達は、ミトコンドリア外膜に局在する不可欠なアダプタータンパク質のIPS-1(Cardif、MAVおよびVISAとしても知られる)を介して行われる。IPS-1は、感染を制御するI型IFNおよびウイルス応答性遺伝子の発現を誘導する転写因子であるIRF-3の下流での活性化を刺激する巨大分子シグナル伝達複合体を動員する。RIG-Iシグナル伝達を直接的に、またはRIG-I経路のIRF-3を含む構成成分の調節を介して引き起こす化合物は、抗ウイルス剤または免疫調節剤として魅力的な治療応用となる。
【0021】
ハイスループットなスクリーニング方法を用いて、RNAウイルス感染に対する細胞性自然免疫応答の重要な調節因子であるRIG-I経路を調節する化合物を同定した。特定の実施形態では、有効性の認められたRIG-Iアゴニストリード化合物が、インターフェロン調節因子3(IRF-3)を特異的に活性化することが明らかにされた。別の実施形態では、上記化合物は次に挙げるうちの1つ以上を示す:上記化合物は、インターフェロン誘導遺伝子(ISG)の発現を誘導する、細胞ベースのアッセイにおいて細胞毒性が低い、アナログ開発およびSAR研究に適している、薬物様の生理化学的特性を有する、ならびにインフルエンザAウイルスおよび/またはHCVに対する抗ウイルス活性を有する。」

イ 本願明細書の段落【0022】?【0081】に、化合物の実施形態、構造的特徴及び非限定的な例について、以下の一般的な記載がある。なお、残りの【0082】?【0138】のうち、【0082】?【0110】には、各種用語の説明等が、【0111】?【0138】には、医薬組成物の用途及び製剤化技術についての一般的な説明が、それぞれ記載されている。
「【0022】
以下で述べるように、上記化合物は新たなクラスの潜在的な抗ウイルス治療剤となるものである。本開示は化合物のin vivoでの特定の作用機序に拘束されるものではないが、これらの化合物はRIG-I経路を調節するのに選択されるものである。ある特定の実施形態では、調節とはRIG-I経路の活性化のことである。本明細書に開示される化合物および方法には、HCVおよび/またはインフルエンザウイルスのウイルスタンパク質、ウイルスRNAおよび細胞培養モデルにおける感染性ウイルスのうちの1つ以上を減少させる機能がある。
【0023】
一実施形態では、本明細書の開示は下式:

によって表されるクラスの化合物に関するものであり、式中、破線は結合の有無を表し;R^(1)はR^(a)、OR^(2)またはNR^(2)R^(3)であってよく;各R^(a)は、それぞれ独立してH、任意に置換されたヒドロカルビル、任意に置換されたアリール、任意に置換されたヘテロアリールであってよく;R^(2)およびR^(3)は、それぞれ独立してR^(a)、COR^(a)またはSO_(2)R^(a)であってよく;Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)およびY^(4)は、それぞれ独立してCR^(4)またはNであってよく;各R^(4)は、独立してR^(2)、OR^(a)、NR^(2)R^(3)、SR^(a)、SOR^(a)、SO_(2)R^(a)、SO_(2)NHR^(a)、NCOR^(a)、ハロゲン、トリハロメチル、CN、S=Oまたはニトロであってよく;R^(5)はR^(a)、COR^(a)、SO_(2)R^(a)であり得るか、存在せず;VはCR^(2)、CR^(2)R^(3)、C=O、COCR^(2)R^(3)またはC=NR^(2)であってよく;WおよびXは、それぞれ独立してN、NR^(a)、O、S、CR^(2)R^(4)またはCR^(4)であってよい。
【0024】
式1に関して、Y^(1)はCR^(4)またはNであり得る。いくつかの実施形態では、Y^(1)はCR^(4)である。
【0025】
式1に関して、Y^(2)はCR^(4)またはNであり得る。いくつかの実施形態では、Y^(2)はCR^(4)である。
【0026】
いくつかの実施形態では、Y^(1)およびY^(2)はともにCR^(4)であり、R^(18)によって任意に置換された別の複素環を一緒に形成する。いくつかの実施形態では、Vは:

であり得る。
【0027】
式1に関して、Y^(3)はCR^(4)またはNであり得る。いくつかの実施形態では、Y^(3)はCR^(4)である。
【0028】
式1に関して、Y^(4)はCR^(4)またはNであり得る。いくつかの実施形態では、Y^(4)はCR^(4)である。
【0029】
いくつかの実施形態では、Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)およびY^(4)はCR^(4)である。いくつかの実施形態では、Y^(1)、Y^(2)、Y^(3)およびY^(4)はCHである。いくつかの実施形態では、Y^(1)およびY^(2)は

であり、Y^(3)およびY^(4)はCHである。
【0030】
いくつかの実施形態は、式2?12:

のいずれかによって表される化合物を含む。
【0031】
本明細書の任意の関連する構造的特徴に関して、各R^(a)は、独立してH;C_(1?12)またはC_(1?6)ヒドロカルビルなどの任意に置換されたヒドロカルビル;任意に置換されたフェニルを含む任意に置換されたC_(6?12)アリールなどの任意に置換されたアリール;任意に置換されたピリジニル、任意に置換されたフリル、任意に置換されたチエニルなどの任意に置換されたC_(2?12)ヘテロアリールを含む任意に置換されたヘテロアリールであり得る。いくつかの実施形態では、・・・であり得る。
【0032】
R^(a)に関して、いくつかの実施形態では、アリール基はハロゲン、トリハロメチル、アルコキシ、アルキルアミノ、OH、CN、アルキルチオ、アリールチオ、スルホキシド、アリールスルホニル、アルキルスルホニル、カルボン酸、ニトロまたはアシルアミノで置換されている。
【0033】
R^(a)に関して、いくつかの実施形態では、ヘテロアリール基は、単環であるか縮合している。いくつかの実施形態では、単環のヘテロアリール基はイミダゾールである。いくつかの実施形態では、縮合したヘテロアリール基はベンゾイミダゾールである。いくつかの実施形態では、ヘテロアリール基はハロゲン、トリハロメチル、アルコキシ、アルキルアミノ、OH、CN、アルキルチオ、アリールチオ、スルホキシド、アリールスルホニル、アルキルスルホニル、カルボン酸、ニトロまたはアシルアミノで置換されている。いくつかの実施形態では、アルキル基は分岐状、環式または多環式である。
【0034】
R^(a)に関して、ヒドロカルビルはアルキル、アルケニルまたはアルキニルであり得る。いくつかの実施形態では、アルキル基はハロゲン、トリハロメチル、アルコキシ、アルキルアミノ、OH、CN、ヘテロアリール、アルキルチオ、アリールチオ、スルホキシド、アリールスルホニル、アルキルスルホニル、カルボン酸、ニトロまたはアシルアミノで置換されている。いくつかの実施形態では、ヘテロアリール基は、単環であるか縮合している。いくつかの実施形態では、単環のヘテロアリール基はイミダゾールである。いくつかの実施形態では、縮合したヘテロアリール基はベンゾイミダゾールである。いくつかの実施形態では、アルケニル基は分岐状、環式または多環式である。いくつかの実施形態では、アルケニル基はハロゲン、トリハロメチル、アルコキシ、アルキルアミノ、OH、CN、ヘテロアリール、アルキルチオ、アリールチオ、スルホキシド、アリールスルホニル、アルキルスルホニル、カルボン酸、ニトロまたはアシルアミノである。
【0035】
本明細書の任意の関連する構造的特徴に関して、R^(b)は、HまたはCH_(3)、C_(2)H_(5)、C_(3)H_(7)、シクロプロピル、CH=CH_(2)、CH_(2)CH=CH_(2)、C≡CH、CH_(2)C≡CHなどのC_(1?3)ヒドロカルビルであり得る。
【0036】
本明細書の任意の関連する構造的特徴に関して、R^(c)は、HまたはCH_(3)、C_(2)H_(5)、C_(3)H_(7)、シクロプロピルなどのC_(1?3)アルキルであり得る。いくつかの実施形態では、R^(c)はHである。
【0037】
本明細書の式1、式2、式3または式4などの任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(1)はR^(a)、OR^(2)またはNR^(2)R3である。いくつかの実施形態では、R^(1)は任意に置換されたフェニルである。いくつかの実施形態では、R^(1)は非置換フェニルである。いくつかの実施形態では、R^(1)は任意に置換されたナフチルである。いくつかの実施形態では、R^(1)は非置換ナフチルである。
【0038】
いくつかの実施形態では、R^(1)は
・・・
【0045】
本明細書の任意の関連する構造的特徴に関して、R^(2)はR^(a)、COR^(a)またはSO_(2)R^(a)であり得る。いくつかの実施形態では、R^(2)はH、メチル、エチル、プロピル(例えば、n-プロピル、イソプロピルなど)、シクロプロピル、ブチル、シクロブチルまたはその異性体、ペンチル、シクロペンチルまたはその異性体、ヘキシル、シクロヘキシルまたはその異性体などであり得る。いくつかの実施形態では、R^(2)はHである。
【0046】
本明細書の任意の関連する構造的特徴に関して、R^(3)はR^(a)、COR^(a)またはSO_(2)R^(a)であり得る。・・・いくつかの実施形態では、R^(3)はHである。
【0047】
本明細書の任意の関連する構造的特徴に関して、各R^(4)は、独立して・・・であり得る。いくつかの実施形態では、R^(4)はHである。
【0048】
一般にR^(5)およびR^(8)?R^(32)は、Hあるいは0?6個の炭素原子と、O、N、S、F、Cl、BrおよびIから独立して選択される0?5個のヘテロ原子とを有し、かつ/または15g/mol?300g/molの分子量を有する置換基などの任意の置換基であり得る。R^(5)およびR^(8)?R^(32)はいずれも、・・・であり得る。
【0049】
本明細書の任意の関連する構造的特徴に関して、いくつかの実施形態では、R^(5)は・・・いくつかの実施形態では、R^(5)はHである。
【0050】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(8)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(8)はHである。・・・
【0051】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(9)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(9)はHである。・・・
【0052】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(10)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(10)はHである。
【0053】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(11)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(11)はHである。
【0054】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(12)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(12)はHである。
【0055】
いくつかの実施形態では、R^(11)およびR^(12)は一緒になって・・・になる。
【0056】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(13)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(11)およびR^(13)はClである。
【0057】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(14)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(14)はHである。
【0058】
いくつかの実施形態では、R^(10)およびR^(14)はHである。・・・いくつかの実施形態では、R^(10)、R^(11)、R^(12)、R^(13)およびR^(14)はHである。
【0059】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(16)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(16)はHである。
【0060】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(17)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(17)はHである。
【0061】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(18)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(18)はHである。
【0062】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(19)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(19)はHである。
【0063】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(20)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(20)はHである。
【0064】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(21)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(21)はHである。
【0065】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(22)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(22)はHである。
【0066】
いくつかの実施形態では、R^(19)、R^(20)、R^(21)およびR^(22)はHである。
【0067】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(23)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(23)はSO_(2)NH_(2)である。
【0068】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(24)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(24)はHであり得る。
【0069】
いくつかの実施形態では、R^(23)およびR^(24)はHである。
【0070】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(25)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(25)はHである。
【0071】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(26)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(26)はHである。
【0072】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(27)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(27)はCH_(2)CH_(2)SCH_(3)である。
【0073】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(28)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(28)はSCH_(3)である。
【0074】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(29)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(29)はHである。
【0075】
いくつかの実施形態では、R^(8)およびR^(29)はHである。
【0076】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(30)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(30)はHである。
【0077】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(31)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(31)はHである。
【0078】
上記の任意の関連する式または構造の記述に関して、R^(32)のいくつかの非限定的な例としては、・・・いくつかの実施形態では、R^(32)はNO_(2)である。
【0079】
いくつかの実施形態では、R^(30)、R^(31)およびR^(32)はHである。いくつかの実施形態では、R^(31)およびR^(32)はHである。
【0080】
NHCH_(3)、N(CH_(3))_(2)、SO_(2)NH_(2)、モルホリノ、CH_(2)C≡CHまたはNO_(2)。いくつかの実施形態では、R^(33)はHである。
【0081】
本明細書に開示される別の実施形態では、化合物は

(「KIN1000」化合物)である。」

(4)実施例及び図面の簡単な説明の記載
本願明細書の段落【0017】、【0139】?【0203】には、実施例4、6、11、12として、抗ウイルス活性、並びに前臨床動物モデルにおけるin vivo薬物動態特性、毒性学的特性及び抗ウイルス特性についての試験方法のみが、実施例1?3、5、8?10、13として、KIN1000又はKIN1148の、生物活性、インフルエンザウイルス、デングウイルス、B型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス活性、免疫刺激活性、遺伝子発現活性化作用及びアジュバンド活性についての試験方法並びにその試験結果が、それぞれ記載されており、化合物に関する記載としては、【0167】?【0173】の実施例7に以下の記載がある。
「[実施例7]
KIN1000および誘導体化合物の呼吸器多核体ウイルスに対する活性
【0168】
前日に、HeLa細胞を6ウェルプレートに1ウェル当たりの細胞数4×10^(5)個で播いた。その翌日、培地をMOIが0.1のFBSを含まない培地中のRSVに交換した。37℃で2時間、ウイルスを結合させた。2時間後、細胞を温かい完全培地で洗浄し、異なる濃度10μM、5μM、1μMの薬物を含有する培地またはDMSO対照を含有する培地に交換した。細胞を37℃の恒温器内に48時間置いた。
【0169】
ウイルスの検出および力価測定には、ウイルス上清回収の24時間前にHeLa細胞を96ウェルプレートに1ウェル当たりの細胞数8×10^(3)個で播いた。48時間のインキュベーションの後、感染プレートのウイルス上清を回収し、これを用いて上記細胞に1/10の最終希釈で感染させた。細胞を37℃の恒温器内に24時間置いた。
【0170】
感染の24時間後、細胞をPBSで2回洗浄し、メタノール/アセトン溶液で固定した。固定後、細胞をPBSで2回洗浄し、ブロッキング緩衝液(PBS中10%ウマ血清、1g/mL BSAおよび0.1% Triton-100X)に交換し1時間経過させた。ブロッキング緩衝液を1/2000希釈の一次抗体を含有する結合緩衝液に交換し、室温で2時間経過させる。一次抗体はRSVに対するマウスモノクローナル抗体であった。細胞をPBSで2回洗浄し、1/3000希釈のAlexa Fluor-488ヤギ抗マウス二次抗体とヘキスト核染色剤とを含有する結合緩衝液に交換し、室温で1時間経過させた。細胞をPBSで2回洗浄し、全ウェルにPBSを加える。96ウェルプレートを密封し、ArrayScan機器(Thermo-Fischer)を用いた免疫蛍光アッセイにより、ウイルス感染力に関わる蛍光活性を測定した。
【0171】
図6は実施例のプロトコルを用いて実施した実験を示したものであり、KIN1000およびKIN1148に呼吸器多核体ウイルスに対する抗ウイルス活性がみられることがわかる。図6Aは、KIN1000およびKIN1148の量を漸増させて処理したHeLa細胞にRSVによる感染の用量依存的な減少がみられることを示している。図6Bは、感染の最大24時間前に薬物を添加した場合にKIN1148がRSVに対する抗ウイルス活性を示したことを示している。
【0172】
感染の前の化合物による処理
この方法の変法では、ウイルスによる感染前の様々な時点で化合物を加える。ウイルスの検出および力価測定は記載した通りに実施する。
【0173】
アナログの試験およびSAR試験
KIN1000の構造誘導体の活性を測定する基準として、RSVに対する抗ウイルス活性を用いた。RSVに対する抗ウイルス活性を示すものとして選択されたKIN1000の構造誘導体を表3に示す。親化合物KIN1000に比べ、ここに挙げたアナログにはRSVに対する抗ウイルス活性のレベルに差がみられた。+++=70%超の感染阻害、++=50%超の阻害、+=30%超の阻害、-=30%未満の阻害。
【表3】



2 判断

(1)はじめに

ア 判断の前提
特許制度は、発明を公開する代償として、一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから、明細書には、当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法第36条第4項第1号実施可能要件を定める趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に、当業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして、物の発明における実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには、明細書にその物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば、上記の実施可能要件を満たすということができる。

イ 化合物発明における実施可能要件について
本願発明は、化合物の発明であるところ、化合物に関する技術分野のように、一般に物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように適用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明の場合に、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要であるといえる。

以上のことを前提として、以下判断する。

(2)検討

ア 本願明細書の発明の詳細な説明の検討
本願発明は、式1:

で表される化合物に包含され、上記第2で示した化学構造を有するKIN1148と称される化合物に相当するものである。
本願明細書の発明の詳細な説明には、上記1(4)で示したとおり、式1で表される化合物のうち、KIN1148及びKIN1000をはじめとする特定の10種の化合物について、化学構造及びその薬理試験結果が具体的に記載されるものの、式1で表される化合物のいずれについても、製造例及び実際に目的とする化合物が得られたことを確認するに足る同定データといった、製造方法に関する実施例等の具体的な記載は存在しない。
また、実施例以外の発明の詳細な説明の記載を検討しても、上記1(1)?(3)で示したとおり、KIN1148又は式1で表される化合物を製造する方法や合成スキームについての一般的な記載すらなく、さらに本願の図面を検討しても、KIN1148又は式1で表される化合物を製造するための手がかりを見いだすことはできない。
そして、この出願の出願当時において、KIN1148の化学構造から、製造するための方法や条件を当業者が理解するに足る技術常識が存在していたことも確認できない。
そうすると、本願の発明の詳細な説明及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づいて、当業者がKIN1148、すなわち本願発明を過度の負担なく製造することができるものとはいえないから、本願の発明の詳細な説明の記載は、上記の実施可能要件を満たすということはできない。

イ 請求人の主張についての検討
請求人は、平成29年12月8日付けの上申書中で、平成29年8月3日付けの手続補正書(方式)に示した以下の合成スキーム(以下「合成スキーム1」という。)

において、最終段階である「Step5」により、KIN1148が、KIN1148-3と2-ナフトイルクロリドから合成できること、及び、その前段階の「Step4」により、KIN1148-3が、KIN1148-2から合成できること、並びに、以下の合成スキーム2

によっても、KIN1148が合成できることがいずれも、本願出願時の技術常識であることなどから、KIN1148は、本願明細書及び本願出願時の技術常識に基づいて、合成スキーム1又は2により当業者が合成できる化合物である旨主張している。
しかし、本願明細書には、KIN1148を包含する式1で表される化合物のいずれについても、製造方法に関する実施例等の具体的な記載はもとより、製造方法や合成スキームに関する一般的な記載すら存在しないことは、上記アのとおりであるところ、合成スキーム1及び2のいずれも記載がないし、上記手続補正書(方式)及び上記上申書において提出されたいずれの参考資料をみても、合成スキーム1及び2が技術常識となっていたことを示すものはない。
また、本願明細書には、合成スキーム1中のKIN1148-2及びKIN1148-3や、合成スキーム2中のInt3及びInt4をはじめとする上記合成スキーム1及び2中の原料化合物のいずれかを用いることについても一切記載がなく、他に、これらの合成スキーム又は原料化合物を用いるための手がかりとなる記載も見いだせない。
したがって、本願明細書に根拠のない、請求人の主張する合成スキーム1及び2の技術的事項を参酌することはできず、請求人の主張は採用できない。

そして、合成スキーム1及び2の各工程をみても、たとえば、合成スキーム1の「Step4」の環化反応については、参考資料6?10等により、KIN1148-2及びKIN1148-3とは環構造等の異なる化合物の、様々な反応条件下における反応例が示されるにとどまり、合成スキーム1の「Step4」の反応試薬を用いるのは参考資料9のみであることからすると、当該「Step4」の環化反応は、KIN1148-2及びKIN1148-3とは別の化合物に関して公知技術であるとしても、化合物に依らず適用できる周知の反応であるとは到底認められない。
さらに、参考資料2のREF2の表1には、
「表1・・・
チオシアネート 酸化剤 溶媒 粗収率(2-2b又は8-8bの比)
KSCN Br_(2) AcOH トレース
KSCN CuCl_(2) MeOH 20%(2:1)
KSCN CuSO_(4) MeOH 20%(2:1)
NH_(4)SCN N-ブロモスクシンイミド MeCN トレース
PhCONCS N-ブロモスクシンイミド CH_(2)Cl_(2)/TFA 56%(2.7:1) 」
(訳文で示す。)が示され、この表1の1及び4行目の例によれば、ベンゾアゼパン構造を有する化合物について、KSCN、AcOH及びBr_(2)、又はNH_(4)SCN、MeCN及びN-ブロモスクシンイミドを用いた反応条件で上記環化反応を行うと、トレース量の生成物しか得られない例も知られているのであるから、化合物によっては反応が進行しない例が少なくとも存在し、上記環化反応において、環構造や反応条件によらず反応が進行するなどという技術常識が存在したともいえない。
また、合成スキーム2についても、KIN1148とは環構造等の異なる特定の化合物の製造方法が開示される参考資料11及び12が提示されるのみである。
このように、上記手続補正書(方式)及び上記上申書において提出されたいずれの参考資料をみても、合成スキーム1及び2の各工程の反応が、本願出願時の技術常識であることは確認できない。
そうすると、請求人の技術常識に関する主張を仮に参酌したとしても、当業者は、KIN1148を製造するにあたり、各工程の反応条件等について過度の試行錯誤を要するものといわざるを得ないから、上記請求人の主張を採用することはできない。

3 まとめ
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえず、特許法第36条第4項1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていない。

第5 むすび
したがって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしておらず、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-02-05 
結審通知日 2018-02-06 
審決日 2018-02-23 
出願番号 特願2014-533336(P2014-533336)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新留 素子石井 徹吉海 周  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 榎本 佳予子
守安 智
発明の名称 抗ウイルス化合物  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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