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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B62D
管理番号 1342770
審判番号 不服2017-4004  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-09-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-03-21 
確定日 2018-08-02 
事件の表示 特願2012-5180号「パネル部品」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 7月25日出願公開、特開2013-144483号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年1月13日の出願であって、平成27年2月5日付けで拒絶理由が通知され、同年4月8日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月25日付けで拒絶理由が通知され、同年12月4日に意見書が提出され、平成28年4月14日付けで拒絶理由が通知され、同年6月15日に意見書が提出され、同年8月29日付けで拒絶理由が通知され、同年10月6日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月14日付けで拒絶査定がされ、平成29年3月21日に拒絶査定不服審判が請求され、その後当審において、平成30年2月23日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年4月25日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成30年4月25日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「板状でかつ樹脂製とされ、板面において板厚方向一方側に凸となり他方側に開放した凹となる補強ビードにより囲まれて多角形状の平坦面が両面に形成されている、パネル部品。」

第3 当審拒絶理由
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。
この出願の請求項1?4に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特願2010-232509号(特開2012-86592号公報参照)の願書に最初に添付された明細書(以下「先願明細書」といい、特許請求の範囲及び図面を併せて「先願明細書等」という。)、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

第4 当審の判断
1 先願明細書等の記載事項(下線は当審で付した。以下同様。)
(1a)「【0001】
本発明は、自動車用パネル等に好適に適用可能なFRP構造要素(FRP:Fiber Reinforced Plastic)およびそれを用いたパネル構造体に関する。」
(1b)「【0009】
そこで本発明の課題は、FRP構造体を設計、製造するに際し、該構造体の各部を形成する構造要素という概念に着目し、該構造要素に特別の工夫を加えることで、FRP構造体全体として高い設計の自由度を持って容易に所望の形状に成形可能とし、かつ、構造要素単体としてもその集合体としてもFRPが有する優れた特性を容易に発現させることが可能な、しかも、上述したような自動車用構造体に限らず一般的な構造体にまで容易に展開可能な、FRP構造要素およびそれを用いたパネル構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るFRP構造要素は、平面形状が5角形または6角形の多角形に形成された繊維強化樹脂成形体からなり、該多角形の全辺部にスチフナが閉ループ形状に形成されて閉ループ稜構造に構成され、該閉ループ形状の内側が面構造に構成されていることを特徴とするものからなる。
【0011】
ここで、上記スチフナの横断面形状、つまり、上記稜の横断面形状としては、各種形状を採り得、例えば、ハット形、三角形、矩形、台形、6角形等の多角形、C形、I形、T形、Z形、H形、逆L形、逆U形など、さらには、単に立ち壁状のリブ形状など、各種断面形状を例示できる。また、スチフナの横断面形態としても、中実、中空、発泡材等からなるコア材を介在させたサンドイッチ構造も採用可能である。さらに、閉ループ形状の内側の面構造としては、代表的には比較的厚みの小さい繊維強化樹脂板(スキン板)構造が採用されるが、スキン板間に発泡材等からなるコア材を介在させたサンドイッチ構造、スキン板間を空間に形成した構造等も採り得る。
【0012】
このような本発明に係るFRP構造要素においては、FRP構造要素の外郭を形成する多角形の全辺部にスチフナが閉ループ形状に形成され閉ループ稜構造に構成されているので、該閉ループ稜構造のスチフナにより構造要素全体として十分に高い強度、剛性が実現される。また、閉ループ形状の内側が面構造に構成されているので、FRP構造要素全体としてパネル要素の形態を確保しつつ、スチフナ部よりは強度、剛性の低い面構造部に、面内荷重の伝達機能やスチフナ部からの伝達荷重の吸収機能等を持たせることが可能になる。たとえば、曲げ荷重に対しては主にスチフナ部が、引張荷重に対してはスチフナ部と面構造部の両方が、圧縮荷重に対してはスチフナ部または座屈をスチフナ部で抑制される状態で面構造部が支える構造をなすことができる。したがって、一つのFRP構造要素に、材質がFRPであることによるFRP特有の高強度、高剛性特性を持たせつつ、パネル要素として必要な形態や機能を持たせることが可能になり、しかも構造要素全体としての軽量性も確保できる。そして、FRP構造要素の平面形状が5角形または6角形の多角形に形成されるので、同種の多角形同士により、あるいは5角形または6角形の多角形を組み合わせて、容易に連接することが可能になり、該連接により、必要な面積や形状のパネル構造体を作製することが可能となる。さらに、面構造部の座屈挙動を利用すれば、大きな衝撃荷重等が加わった際に、FRP構造要素全体が一気に破壊するのではなく、破壊が部分的に順次進行するような構造の実現も可能になる。」
(1c)「【0026】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係るFRP構造要素を示している。本実施態様では、FRP構造要素1は、平面形状が6角形の多角形に形成され、構造要素全体が繊維強化樹脂の成形体として、とくに炭素繊維強化樹脂の成形体として形成されている。この6角形の形状の全辺部に、スチフナ2が閉ループ形状に(折れ線状に延びる閉ループ形状に)形成されて閉ループ稜構造部3に構成され、該閉ループ形状の内側が(閉ループ稜構造部3の内側部分が)、平面状に広がる面構造部4に構成されている。閉ループ稜構造部3を構成するスチフナ2は、隣接する別のFRP構造要素(6角形または5角形のFRP構造要素)の閉ループ稜構造部を構成するスチフナと、一体に成形可能に、あるいは、一体的に接合可能に構成することが可能になっている。
・・・
【0029】
上記のようなFRP構造要素1、6は、複数連接された集合体とすることにより、例えば、図3、図4に示すような平板状のパネル構造体11、21や、後述の図9に示すような自動車の車室を構成するための車室構造体としてのパネル構造体を形成することができる。FRP構造要素1、6の連接は、互いに隣接するFRP構造要素の閉ループ稜構造部を構成するスチフナ同士を一体成形することによって、あるいは、スチフナ同士を一体的に接合(接着や融着) することによって、行うことができる。
・・・
【0031】
FRP構造要素およびパネル構造体におけるスチフナの横断面形状は、とくに限定されず、前述したような各種形状を採り得る。例えば、図4のA-A線に沿って見た断面形態にて、図5に例示するような各種形態を採り得る。図5(A)に示す形態では、横断面形状が6角形の中空のスチフナ部31に形成され、スチフナ部31間に面構造部32が形成されている。図5(B)に示す形態では、横断面形状が4角形のスチフナ部33に形成され、スチフナ部33間に面構造部34が形成されている。図5(C)に示す形態では、横断面形状が円形のスチフナ部35に形成され、スチフナ部35間に面構造部36が形成されている。図5(D)に示す形態では、横断面形状がI形のスチフナ部37に形成され、スチフナ部37間に面構造部38が形成されている。図5(E)に示す形態では、横断面形状が6角形のスチフナ部39に形成されるが、繊維強化樹脂からなる6角形のスチフナ部39内に、コア材40(例えば、発泡樹脂等からなるコア材)が充填されてスチフナ部が構成され、これらスチフナ部間に面構造部41が形成されている。図5(F)に示す形態では、横断面形状が6角形の中空のスチフナ部42に形成されるが、スチフナ部42の中空部内を面構造部43が貫通して延びる形態とされている。図5(G)に示す形態では、横断面形状が台形状の4角形の中空のスチフナ部44(上記6角形の中空のスチフナ部の半分の形態)に形成され、スチフナ部44が面構造部45の片面側のみに配置された形態とされている。図示例以外にも、各種の形態を採り得る。どのようなスチフナ断面形状を選択するかは、パネル構造体に要求される機能や機械的特性、表面形態等に応じて適宜決定すればよい。」
(1d)先願明細書等の図面には、以下の図1、3、5が示されている。


2 先願明細書等に記載された発明
(1)先願明細書等には、「自動車用パネル等に好適に適用可能なFRP構造要素(FRP:Fiber Reinforced Plastic)およびそれを用いたパネル構造体」について(摘示(1a))、
ア 平板状のパネル構造体11は、FRP構造要素1を複数連接した集合体とすることにより形成されること(摘示(1c)【0029】)、及び、
イ 前記FRP構造要素1は、平面形状が6角形の多角形に形成され、構造要素全体が繊維強化樹脂の成形体として形成されていること、
前記6角形の形状の全辺部に、スチフナ2が閉ループ形状に形成されて閉ループ稜構造部3に構成されていること、
前記閉ループ稜構造部3の内側部分が、平面状に広がる面構造部4に構成されていること、
前記閉ループ稜構造部3を構成するスチフナ2は、隣接する別のFRP構造要素1の閉ループ稜構造部3を構成するスチフナ2と、一体に成形可能に構成されていること(摘示(1b)【0026】)、が記載されている。

(2)以上によれば、先願明細書には、
「平板状のパネル構造体11であって、
前記平板状のパネル構造体11は、FRP構造要素1を複数連接した集合体とすることにより形成され、
前記FRP構造要素1は、平面形状が6角形の多角形に形成され、構造要素全体が繊維強化樹脂の成形体として形成され、
前記6角形の形状の全辺部に、スチフナ2が閉ループ形状に形成されて閉ループ稜構造部3に構成され、
前記閉ループ稜構造部3の内側部分が、平面状に広がる面構造部4に構成され、
前記閉ループ稜構造部3を構成するスチフナ2は、隣接する別のFRP構造要素1の閉ループ稜構造部3を構成するスチフナ2と、一体に成形可能に構成されている、平板状のパネル構造体11。」の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているといえる。

3 対比・判断
(1)対比
本願発明と先願発明とを対比する。
ア 先願発明の「パネル構造体11」は、本願発明の「パネル部品」に相当する。
イ 先願発明の「パネル構造体11」は、「平板状」をなし、「FRP構造要素1を複数連接した集合体とすることにより形成され」るものであるところ、かかる「FRP構造要素1」は、「構造要素全体が繊維強化樹脂の成形体として形成され」るものであるから、上記「パネル構造体11」の構成は、本願発明の「パネル部品」における「板状でかつ樹脂製とされ」という構成に相当するものといえる。
ウ 本願明細書の「したがって、補強ビード12を形成することにより、樹脂ルーフパネル10の全体の伸び量が少なくなり、熱歪みによる変形を抑制することができる。」(【0027】)及び「また、本実施形態の樹脂ルーフパネル10によれば、補強ビード12が形成されることにより、樹脂ルーフパネル10の剛性も向上させることができる。」(【0028】)との記載によれば、本願発明の「補強ビード」は、パネル部品の変形を抑制し、その剛性を向上させる補強部として機能するものと理解することができる。
他方、先願明細書の「・・・該閉ループ稜構造のスチフナにより構造要素全体として十分に高い強度、剛性が実現される。また、閉ループ形状の内側が面構造に構成されているので、FRP構造要素全体としてパネル要素の形態を確保しつつ、スチフナ部よりは強度、剛性の低い面構造部に、面内荷重の伝達機能やスチフナ部からの伝達荷重の吸収機能等を持たせることが可能になる。たとえば、曲げ荷重に対しては主にスチフナ部が、引張荷重に対してはスチフナ部と面構造部の両方が、圧縮荷重に対してはスチフナ部または座屈をスチフナ部で抑制される状態で面構造部が支える構造をなすことができる。」(摘示(1b)【0012】)との記載によれば、先願発明の「スチフナ2」は、パネル構造体11の変形を抑制し、その剛性を向上させる補強部として機能するものと解される。
してみると、本願発明の「板面において板厚方向一方側に凸となり他方側に開放した凹となる補強ビード」と先願発明の「スチフナ2」とは、その機能に照らして「補強部」の限度で共通するものといえる。
エ 先願発明の「パネル構造体11」は、「FRP構造要素1を複数連接した集合体とすることにより形成され、前記FRP構造要素1は、平面形状が6角形の多角形に形成され」、「前記6角形の形状の全辺部に、スチフナ2が閉ループ形状に形成されて閉ループ稜構造部3に構成され」るものであるから、先願発明の「閉ループ稜構造部3の内側部分」をなす「平面状に広がる面構造部4」が、スチフナ2により囲まれるものであって、その平面形状が「6角形の多角形」をなし、さらにその両面が平坦面をなすことは技術的に明らかである。
してみると、先願発明の「平面状に広がる面構造部4」は、本願発明の「多角形状の平坦面」に相当するものといえ、また、先願発明の「パネル構造体11」と本願発明の「パネル部品」は、上記ウをも踏まえると、「補強部により囲まれて多角形状の平坦面が両面に形成されている」という構成を具備する点で共通するものといえる。

以上によれば、本願発明と先願発明とは、
「板状でかつ樹脂製とされ、補強部により囲まれて多角形状の平坦面が両面に形成されている、パネル部品。」の点で一致し、次の点で一応相違する。
<相違点>
「補強部」について、本願発明は、「板面において板厚方向一方側に凸となり他方側に開放した凹となる補強ビード」であるのに対し、先願発明は、「閉ループ形状に形成されて閉ループ稜構造部3に構成され」る「スチフナ2」であり、スチフナ2の横断面形状は特定されていない点。

(2)判断
ア 先願明細書の「どのようなスチフナ断面形状を選択するかは、パネル構造体に要求される機能や機械的特性、表面形態等に応じて適宜決定すればよい。」(摘示(1c)【0031】)、及び「このような本発明に係るFRP構造要素においては、FRP構造要素の外郭を形成する多角形の全辺部にスチフナが閉ループ形状に形成され閉ループ稜構造に構成されているので、該閉ループ稜構造のスチフナにより構造要素全体として十分に高い強度、剛性が実現される。」(摘示(1b)【0012】)との記載によれば、先願発明の「スチフナ2」の横断面形状は、パネル構造体に要求される機能や機械的特性、表面形態等に応じて適宜決定されるものであって、その結果、要求される機能や機械的特性、表面形態等に応じた構造要素全体として十分に高い強度及び剛性が実現されることが明らかである。
イ また、先願明細書の「ここで、上記スチフナの横断面形状、つまり、上記稜の横断面形状としては、各種形状を採り得、例えば、ハット形、三角形、矩形、台形、6角形等の多角形、C形、I形、T形、Z形、H形、逆L形、逆U形など、さらには、単に立ち壁状のリブ形状など、各種断面形状を例示できる。」(摘示(1b)【0011】)との記載によれば、先願発明の「スチフナ2」は、例えば、ハット形、三角形、矩形、台形、6角形等の多角形、C形、I形、T形、Z形、H形、逆L形、逆U形など、各種形状を採り得ることも明らかである。
ウ さらに、先願明細書等には、「スチフナ2」の実施形態として、例えば、図5(G)(摘示(1d))に示される、「横断面形状が台形状の4角形の中空のスチフナ部44(上記6角形の中空のスチフナ部の半分の形態)に形成され、スチフナ部44が面構造部45の片面側のみに配置された形態」も記載されているから(摘示(1c)【0031】)、面構造部の片面側にのみ補強部を配設することも予定されるものである。
エ 以上を踏まえて検討すると、先願発明の「スチフナ2」の横断面形状は、パネル構造体に要求される機能や機械的特性、表面形態等に応じて適宜決定されるものであるところ(上記ア)、例えば「ハット形」や「逆U形」に構成することも予定されている(上記イ)。ここで、「ハット形」の横断面形状とは、かかる技術分野の技術常識に照らせば、一方側に凸となり他方側に開放した凹となる形状を意味するものと理解することができるから(必要ならば、特開2010-95218号公報:【0023】、図3、特開2011-148413号公報:【0022】、図3、など参照。)、先願発明の「スチフナ2」の横断面形状を「ハット形」とするならば、先願発明の「パネル構造体11」は、板面において板厚方向一方側に凸となり他方側に開放した凹となる補強ビードを想定するのが自然かつ合理的である。これは、「逆U形」についても同様である。
また、そのような構成は、上記ウで述べた先願明細書等の図5(G)に示される「スチフナ2」の実施形態において、「台形状」のスチフナ部を、「ハット形」や「逆U形」に置換した構成ということもできるし、そもそもそのような構成は、かかる技術分野の周知技術あるいは慣用技術ということもできる(必要ならば、特開2011-121549号公報に記載された「ビード23」:【0017】、【0030】、図3?5など参照)。
してみると、上記相違点に係る本願発明の構成は、そもそも先願発明として予定されている構成というべきものであって、周知技術あるいは慣用技術の転換にすぎず、新たな効果を奏するものということもできないから、上記相違点は、課題解決のための具体化手段における微差にすぎない。
オ ところで、 請求人は、平成30年4月25日付けの意見書((5)の項)で、「本願請求項1の補強ビードの特徴である『板厚方向一方側に凸となり他方側に開放した凹となる形状』は、先願明細書で想定している『構造要素全体として十分に高い強度、剛性を実現する』形状であるとは限りません。先願明細書で例示されている横断面形状は、片側に凹が形成されておらず、板厚保方向の一方側が凸で、他方側は凸または平坦状です。『板厚方向一方側に凸となり他方側に開放した凹となる形状』の補強ビードを有するパネル部品は、『板厚方向の一方側が凸で、他方側は凸または平坦状』のスチフナを有するパネル構造体よりも剛性は低くなります。『構造要素全体として十分に高い強度、剛性を実現する』補強部として構成されることを前提として『各種形状を採り得る』先願発明のスチフナについて、例示されている横断面形状よりも剛性が低くなる断面形状を採用することは、通常ありません。」と主張する。
しかし、上記アで述べたとおり、先願発明の「スチフナ2」の横断面形状は、パネル構造体に要求される機能や機械的特性、表面形態等に応じて適宜決定されるものであるから、当然のことながら、パネル構造体の剛性も、要求される機能や機械的特性、表面形態等に応じて適宜決定されることも技術的に明らかである。
さらに、先願発明は、「FRP構造体全体として高い設計の自由度を持って容易に所望の形状に成形可能とし・・・たパネル構造体を提供すること」(摘示(1b)【0009】)を技術課題とするものであるから、先願明細書等に、「片側に凹が形成されておらず、板厚保方向の一方側が凸で、他方側は凸または平坦状」の構成が例示されているからといって、それよりも剛性が低くなる断面形状を採用することが妨げられるものではない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
カ また、請求人は、同意見書((5)の項)で、「審判官殿は、『上記相違点に係る本願発明1の構成は、周知技術あるいは慣用技術の転換であって、新たな効果を奏するものということもできないから、上記相違点は課題解決のための具体的手段における微差にすぎない』と判断されていますが、『板厚方向一方側に凸となり他方側に開放した凹となる補強ビードが形成されていることにより、樹脂製のパネル部品の熱による膨張を、補強ビードの凸側だけでなく凹側でも吸収することができる』という効果を奏することができます。これにより、熱歪みによるパネルの変形を効果的に抑制することができ、この点は、先願明細書において、何ら想定されていない新たな効果です。また、板厚方向一方側に凸となり他方側に開放した凹となる補強ビードは、プレス加工等により、簡単に成形することができます。先願明細書に例示されているスチフナを形成するよりも格段に簡単に形成することができることは明白です。したがって、上記相違点は課題解決のための具体的手段における微差にすぎないものではありません。」とも主張する。
しかし、先願明細書には、「閉ループ形状の内側が面構造に構成されているので、FRP構造要素全体としてパネル要素の形態を確保しつつ、スチフナ部よりは強度、剛性の低い面構造部に、面内荷重の伝達機能やスチフナ部からの伝達荷重の吸収機能等を持たせることが可能になる。たとえば、曲げ荷重に対しては主にスチフナ部が、引張荷重に対してはスチフナ部と面構造部の両方が、圧縮荷重に対してはスチフナ部または座屈をスチフナ部で抑制される状態で面構造部が支える構造をなすことができる。」(摘示(1b)【0012】)と記載され、そもそもスチフナ部は、引張荷重や圧縮荷重といった伝達荷重の吸収機能等を有するものとされているから、例えば、「ハット形」や「逆U形」といった板厚方向一方側に凸となり他方側に開放した凹となる横断面形状のスチフナ部で熱による膨張が吸収されることも自明である。さらに、そのような横断面形状が、プレス加工等により、簡単に成形し得ることも、当業者の技術常識である(必要ならば、上記エで例示した特開2011-148413号公報:【0032】など参照。)。
したがって、請求人が主張する上記効果は、新たな効果というべきものではない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、先願発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が先願発明を発明した者と同一ではなく、また本件出願の出願時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-05-31 
結審通知日 2018-06-05 
審決日 2018-06-18 
出願番号 特願2012-5180(P2012-5180)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田合 弘幸三宅 達  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 氏原 康宏
中田 善邦
発明の名称 パネル部品  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  

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