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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A23K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A23K |
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管理番号 | 1342839 |
審判番号 | 不服2017-213 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-01-06 |
確定日 | 2018-08-28 |
事件の表示 | 特願2015- 3914「リポ酸を含むコンパニオンアニマル用組成物およびその使用の方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 2日出願公開、特開2015-119710、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年(平成21年)12月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年12月30日 米国)を国際出願日とする特願2011?544585号の一部を、平成27年1月13日に新たな特許出願としたものであって、平成27年2月10日に手続補正書が提出され、平成28年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年4月28日付けで意見書が提出されたが、同年9月5日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対して、平成29年1月6日に拒絶査定不服審判の請求がされ、それと同時に手続補正がされ、その後当審において平成30年4月5日付けで拒絶理由が通知され、同年7月9日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし6に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明6」という。)は、平成30年7月9日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、本願発明1、4及び5は以下のとおりである。 「 【請求項1】 それを必要とするコンパニオンアニマルにおいて変性関節病を予防または処置するために有効な量のリポ酸を含むペットフード組成物を投与することを含む、コンパニオンアニマルにおいて変性関節病を予防または処置する方法であって、前記の変性関節病を予防または処置するために有効なリポ酸の量が、乾燥物質基準でペットフード組成物の100ppm?200ppmであり、投与の量は、1日あたり、5mg/動物のkg体重を超えず、 コンパニオンアニマルがイヌであり、 前記ペットフード組成物が、小麦、ミロ、トウモロコシ、挽いたニワトリ、コーングルテンミール、家禽ミール、大豆油、亜麻仁、米・醸造用(rice brewers)、大豆粕、テンサイパルプ、クエン酸塩、魚油、DL-メチオニン、L-リシン、炭酸カルシウム、コリン、L-スレオニン、ビタミンE及びL-トリプトファンを含む方法。 【請求項4】 コンパニオンアニマルにおいて体重の減少を誘導するために有効な量のリポ酸を含むペットフード組成物を投与することを含む、コンパニオンアニマルにおいて体重の減少を誘導する方法であって、前記のコンパニオンアニマルにおいて体重の減少を誘導するために有効なリポ酸の量が、乾燥物質基準でペットフード組成物の100ppm?200ppmであり、投与の量は、1日あたり、5mg/動物のkg体重を超えず、 コンパニオンアニマルがイヌであり、 前記ペットフード組成物が、小麦、ミロ、トウモロコシ、挽いたニワトリ、コーングルテンミール、家禽ミール、大豆油、亜麻仁、米・醸造用(rice brewers)、大豆粕、テンサイパルプ、クエン酸塩、魚油、DL-メチオニン、L-リシン、炭酸カルシウム、コリン、L-スレオニン、ビタミンE及びL-トリプトファンを含む方法。 【請求項5】 有効量のリポ酸を含むペットフード組成物を投与することを含む、コンパニオンアニマルにおける肥満を予防または処置する方法であって、前記のリポ酸の有効量が、乾燥物質基準でペットフード組成物の100ppm?200ppmであり、投与の量は、1日あたり、5mg/動物のkg体重を超えず、 コンパニオンアニマルがイヌであり、 前記ペットフード組成物が、小麦、ミロ、トウモロコシ、挽いたニワトリ、コーングルテンミール、家禽ミール、大豆油、亜麻仁、米・醸造用(rice brewers)、大豆粕、テンサイパルプ、クエン酸塩、魚油、DL-メチオニン、L-リシン、炭酸カルシウム、コリン、L-スレオニン、ビタミンE及びL-トリプトファンを含む方法。」 なお、本願発明2、3及び6の概要は以下のとおりである。 本願発明2及び3は、本願発明1を減縮した発明である。 本願発明6は、本願発明5を減縮した発明である。 第3 引用文献の記載事項、引用発明 1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(特表2008-519838号公報)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加した。)。 (引1-ア)「【0005】 発明の概要 本発明は老齢哺乳動物において遺伝子発現を調節する方法を提供する。方法は酸化防止剤含有組成物(すなわち、1以上の酸化防止剤、および場合により付加的な成分)を哺乳動物に投与することを含む。組成物中の1以上の酸化防止剤の総量は老齢哺乳動物の1以上の組織中の1以上の遺伝子の発現の調節を行うために十分である。 【0006】 種々の態様では、老齢哺乳動物は非ヒト哺乳動物、伴侶動物、イヌ、またはネコである。 ある態様では、発現が調節される1以上の遺伝子のそれぞれは独立して、シトクロムP450ファミリー遺伝子、アポリポタンパク質ファミリー遺伝子、血液動態特性を制御する1以上の産物をコードする遺伝子、熱ショックタンパク質ファミリー遺伝子、DNA損傷を表す1以上の産物をコードする遺伝子、細胞周期を制御する1以上の産物をコードする遺伝子、炎症誘発性遺伝子、クロム親和性分泌経路に関連する1以上のタンパク質をコードする遺伝子、遺伝子転写を制御する1以上の産物をコードする遺伝子、NF-KB経路遺伝子、免疫機能に関連する1以上の産物をコードする遺伝子、1以上の解糖系酵素をコードする遺伝子、1以上のミトコンドリア酸化経路タンパク質をコードする遺伝子、または1以上のリボソームタンパク質をコードする遺伝子である。」 (引1-イ)「【0008】 ある態様では、1以上の遺伝子の発現の調節は副腎、肝臓、または大脳皮質の中の1カ所以上で行われる。 ある態様では、酸化防止剤含有組成物は老齢哺乳動物に与えられる。 【0009】 ある態様では、組成物はビタミンE、ビタミンC、または両方を含有する。 ある態様では、組成物はビタミンE、ビタミンC、リポ酸、アスタキサンチン、ベータ‐カロテン、L-カルニチン、コエンザイムQ10、グルタチオン、ルテイン、リコペン、セレン、N-アセチルシステイン、大豆イソフラボン(類)、S-アデノシルメチオニン、タウリン、トコトリエノール(類)、およびその混合物から選択される1以上の酸化防止剤を含有する。 【0010】 ある態様では、組成物はホウレンソウポマス、トマトポマス、柑橘類果肉、ブドウポマス、ニンジン顆粒、ブロッコリー、緑茶、コーングルテンミール、米糠、藻類、クルクミン、セレン、およびその混合物から選択される1以上の酸化防止剤を含有する。 【0011】 ある態様では、組成物はニンジン顆粒、ブロッコリー、緑茶、コーングルテンミール、米糠、藻類、クルクミン、セレン、およびその混合物から選択される1以上の酸化防止剤を含有する。 【0012】 ある態様では、組成物はビタミンE、ビタミンC、果物(類)、野菜(類)、カロテノイド(類)、フラボノイド(類)、ポリフェノール(類)、およびその混合物から選択される1以上の酸化防止剤を含有する。」 (引1-ウ)「【0016】 本発明の方法および組成物は多様な老齢哺乳動物に有用であってもよいことが企図される。 本発明の種々の態様では、哺乳動物は非ヒト哺乳動物である。たとえば、非ヒト哺乳動物は伴侶動物(たとえば、イヌ、ネコ)、霊長類(たとえば、サル、ヒヒ)、反芻動物(たとえば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ)、または齧歯類(たとえば、マウス、ラット、モルモット)であってもよい。 【0017】 種々の態様では、非ヒト哺乳動物は伴侶動物、イヌ、またはネコである。 本明細書で使用する“老齢”哺乳動物という用語は年老いた哺乳動物を表す。たとえば、老齢犬は少なくとも7歳のイヌであり;そして老齢猫は少なくとも7歳の猫である。 【0018】 本発明の方法は哺乳動物への多様な酸化防止剤含有組成物の投与を企図する。企図された組成物には、たとえばフード、サプリメント、トリート、おもちゃ(典型的にはかみ砕け、消耗できるおもちゃ)が挙げられる。酸化防止剤含有組成物は、フード摂取量の構成要素として哺乳動物に与えることができる。哺乳動物のフード摂取量はその通常の栄養素の必要条件を満たすことができ、当業者は哺乳動物の種、年齢、性、体重、およびその他の因子に基づいてそれを決定することができる。たとえば、1?6歳のイヌの典型的なフード摂取量は約23%のタンパク質(乾物の%)、約15%の脂肪(乾物の%)、約0.6%のリン(乾物の%)、および約0.3%のナトリウム(乾物の%)を含有し;さらに老齢のイヌおよびネコの典型的なフード摂取量(乾物の%)は表1に提供される。 【0019】 【表1】 」 (引1-エ)「【0020】 種々の態様では、1以上の遺伝子の発現を調節する方法は、酸化防止剤の組み合わせまたは混合物を含む1以上の酸化防止剤を哺乳動物に投与することを含む。酸化防止剤は直接フリーラジカルを消滅させるか、または間接的にフリーラジカルの消滅を引き起こすいずれかの物質である。当業者は、多様な物質がフリーラジカルを消滅させるか、吸収する能力を有することを理解している。たとえば、以下はフリーラジカル吸収能力(“ORAC”)含有量が高い生の成分である:ホウレンソウポマス、トマトポマス、柑橘類果肉、ブドウポマス、ニンジン顆粒、ブロッコリー、緑茶、イチョウ葉エキス、コーングルテンミール、藻類、クルクミン、アスタキサンチン、ベータ‐カロテン、ニンジン、グルタチオン、緑茶、ルテイン、リコペン、N-アセチルシステイン、ポリフェノール類、大豆イソフラボン類、ホウレンソウ、S-アデノシルメチオニン、含硫アミノ酸、タウリン、トコトリエノール類、ビタミンC、およびビタミンE。たとえば、ホウレンソウポマス、トマトポマス、柑橘類果肉、ブドウポマス、およびニンジン顆粒が1%含有物(コーンのように低いORAC成分の場合、全部で5%の置換)として組成物に添加された場合、それらは組成物全体のORAC含有量と組成物を食べた動物の血漿中のORAC含有量の両方を増加させた。 【0021】 多くの態様では、酸化防止剤は、たとえばアスタキサンチン(3,3′-ジヒドロキシ-4,4′,-ジケト-ベータ-カロテン)、ベータ-カロテン、コエンザイムQ10(ユビキノン)、グルタチオン、L-カルニチン、リポ酸、ルテイン、リコペン、N-アセチルシステイン、フラボノイドのようなポリフェノール、S-アデノシルメチオニン、セレン、大豆イソフラボン、タウリン、トコトリエノール、ビタミンC、またはビタミンEであってもよい。 【0022】 別の態様では、酸化防止剤は、フードまたはフード製品、たとえば、ホウレンソウ(たとえば、ホウレンソウポマス)、トマト(トマトポマス)、柑橘類(たとえば、柑橘類果肉)、ブドウ(たとえば、ブドウポマス)、ニンジン(たとえば、ニンジン顆粒)、ブロッコリー、緑茶、イチョウ、コーングルテンミール、米糠、藻類、クルクミン、海洋性オイル、もしくは酵母(たとえば、セレン酵母)またはその混合物であってもよい。 【0023】 別の態様では、酸化防止剤は生の成分、たとえば、生のホウレンソウポマス、生のトマトポマス、生の柑橘類果肉、生のブドウポマス、生のニンジン顆粒、生のブロッコリー、生の緑茶、生のイチョウ葉エキス、生のコーングルテンミール、生の米糠、またはその混合物であってもよい。 【0024】 ある態様では、酸化防止剤含有組成物はビタミンE、ビタミンC、またはビタミンEとビタミンCの両方を含有してもよい。 別の態様では、酸化防止剤含有組成物はビタミンE、ビタミンC、L-カルニチン、およびリポ酸から選択される1以上の酸化防止剤を含有してもよい。 【0025】 ある態様では、ビタミンEはトコフェロール、トコフェロール類の混合物、および/またはエステル誘導体、たとえば、ビタミンEのアセテート、スクシネート、またはパルミテートエステルのような種々のその誘導体として投与されてもよい。本明細書で使用するビタミンEは、哺乳動物による摂取後にビタミンE様の活性を提供する形状および誘導体を包含する。ビタミンEはアルファ、ベータ、ガンマ、またはデルタ配置の状態であってもよい。さらに、ビタミンEはそのd-立体異性体配置、またはラセミ混合物としてのいずれかの状態であってもよい。 【0026】 ビタミンCは、アスコルビン酸、またはその種々の誘導体、たとえばアスコルビン酸のカルシウムリン酸塩、アスコルビン酸のコレステリル塩、またはアスコルベート-2-モノホスフェートとして哺乳動物に投与してもよい。ビタミンCまたはその誘導体は、いずれかの物理的形状、たとえば、液体、半固体、固体または熱安定性の形状であってもよい。 【0027】 リポ酸はアルファ‐リポ酸またはリポエート塩もしくはエステル、たとえば、米国特許第5,621,117号に記載のリポ酸の異性体であってもよい。本明細書で使用する“アルファ‐リポ酸”は“リポ酸”と同義語である。リポ酸は種々の形状、たとえば、ラセミ混合物、塩(類)、エステル(類)、および/またはアミド(類)で投与されてもよい。 【0028】 L-カルニチンは誘導体の形状、たとえば塩(たとえば、塩酸塩)、エステル(たとえば、フマレートエステルまたはスクシネートエステル)、またはアセチル化L-カルニチンの 状態であってもよい。」 (引1-オ)「【0029】 ある態様では、酸化防止剤または酸化防止剤の混合物は、哺乳動物にフードの構成要素またはフードサプリメントとして与えられてもよい。フード中に投与される量はすべてフードのwt%(乾物基準)であり、本来遊離物質として測定される活性物質として計算される。最大酸化防止剤量は毒性を示すべきではない。好ましくは、酸化防止剤、またはその混合物はそれらが与えられた哺乳動物の1以上の遺伝子を調節するために有効な量で哺乳動物に与えられる。かかる量は哺乳動物の種および酸化防止剤(複数の酸化防止剤)の型に依存して変化することになる。 【0030】 ある態様では、組成物のビタミンE含有量は少なくとも約250ppm、少なくとも約500ppm、または少なくとも約1,000ppmからである。必要ではないが、一般に約2,000ppm、または約1,500ppmの最大量を超えない。 【0031】 ある態様では、組成物のビタミンC含有量は少なくとも約50ppm、少なくとも約75ppm、または少なくとも約100ppmから、約1,000ppmまで、約5,000ppmまで、または約10,000ppmまでである。 【0032】 ある態様では、組成物のリポ酸含有量は少なくとも約25ppm、少なくとも約50ppm、または少なくとも約100ppmから、約100ppm、もしくは約600ppmまで、または哺乳動物に毒性でない量までである。 【0033】 別の態様では、リポ酸含有量の範囲は約100ppmから約200ppmまでであってもよい。 ある態様では、イヌの場合のL-カルニチン含有量は最少で約50ppm、約200ppm、または約300ppmであってもよい。ネコの場合わずかに高いL-カルニチンの最少値、たとえば約100ppm、約200ppm、または約500ppmが使用されてもよい。非毒性最大量、たとえば約5,000ppm未満を使用してもよい。イヌの場合、より少ない量、たとえば約5,000ppm未満が使用されてもよい。イヌの場合、範囲は約200ppmから約400ppmまでであってもよい。ネコの場合範囲は約400ppmから約600ppmであってもよい。 【0034】 種々の態様では、約1ppmから約15ppmまでのベータ-カロテン、約0.1から約5ppmまでのセレン、少なくとも約5ppmのルテイン、少なくとも約25ppmのトコトリエノール(類)、少なくとも約25ppmのコエンザイムQ10、少なくとも約50ppmのS-アデノシルメチオニン、少なくとも約500ppmのタウリン、少なくとも約25ppmのダイズイソフラボン(類)、少なくとも約50ppmのN-アセチルシステイン、少なくとも約50ppmのグルタチオン、少なくとも50ppmのイチョウ葉エキスが独立して、または種々の組み合わせにおいて使用されてもよい。」 (引1-カ)「【0043】 ある態様では、炎症誘発性遺伝子は、たとえば、ヒスチジンデカルボキシラーゼ(Hdc)、活性化白血球接着分子(Alcam)、プロトカドヘリンアルファ4(Pcdha4)、好中球サイトゾル因子4(Ncf4)、肥満細胞プロテアーゼ5(Mcpt5)、カテプシンS(Ctss)、カドヘリン2(Cdh2)、接合部細胞接着分子3(Jcam3)、マクロファージ発現遺伝子1(Mpeg1)、カテプシンB(Ctsb)、カルサイクリン結合タンパク質(Cacybp)、パラオキソナーゼ2(Pon2)、Pリゾチーム構造(Lzp-s)、ロイコトリエンB412-ヒドロキシデヒドロゲナーゼ(Ltb4dh)、リソソーム酸リパーゼ1(Lip1)、リゾチーム(Lyzs)、またはヒスチジンアンモニアリアーゼ(Hal)をコードする遺伝子であってもよい。」 (引1-キ)「【0050】 種々の態様では、本発明はシトクロムP450ファミリー遺伝子の発現を増加させること、アポリポタンパク質ファミリー遺伝子の発現を増加させること、血液動態特性を制御する産物(複数の産物)をコードする遺伝子の発現を増加させること、熱ショックタンパク質ファミリー遺伝子の発現を減少させること、DNA損傷を表す遺伝子産物の発現を減少させること、産物(複数の産物)が細胞周期を制御する遺伝子の発現を減少させること、炎症誘発性遺伝子の発現を減少させること、クロム親和性分泌経路に関連するタンパク質をコードする遺伝子の発現を減少させること、発現産物(複数の産物)が遺伝子転写を制御する遺伝子の発現を減少させること、NF-KB経路遺伝子の発現を減少させること、免疫機能に関連する産物(複数の産物)をコードする遺伝子の発現を減少させること、解糖系酵素(複数の酵素)をコードする遺伝子の発現を減少させること、ミトコンドリア酸化経路タンパク質(複数のタンパク質)をコードする遺伝子の発現を減少させること、またはリボソームタンパク質(複数のタンパク質)をコードする遺伝子の発現を減少させることを企図する。」 (引1-ク)「【0052】 ある態様では、本発明は1以上の酸化防止剤を哺乳動物に投与することを含む、加齢に伴う哺乳動物の認知および/または身体機能の劣化を治療、予防、阻止、または覆すための方法を提供し、そのような酸化防止剤の総量は1以上の遺伝子の発現を調節するために有効である。ある態様では、それらの方法は哺乳動物の酸化状態を改善する。 【0053】 加齢に関連した認知機能は、精神的劣化、たとえば記憶喪失または障害、学習障害、見当識障害、および精神覚醒の低下の症状を指すことができる。 加齢に伴う身体機能には、たとえば、筋肉機能の劣化または障害、血管機能の劣化または障害、視覚の劣化または障害、聴覚の劣化または障害、嗅覚の劣化または障害、皮膚または外被特性の劣化または障害、骨および関節健康状態の劣化、腎臓健康状態の劣化、腸機能の劣化または障害、免疫機能の劣化または障害、インスリン感受性の劣化または障害、および/または炎症反応の劣化または障害の徴候を挙げることができる。 【0054】 ある態様では、本発明は哺乳動物の酸化状態を評価するための方法を提供する。これらの方法は、1以上の遺伝子、たとえば本明細書に記載の遺伝子の発現レベルを測定することを含んでいてもよい。種々の態様では、それらの方法はさらに、1以上の組織、たとえば副腎、肝臓、または大脳皮質におけるそれらの遺伝子の少なくとも1種の発現レベルを測定することを含んでいてもよい。 【0055】 ある態様では、本発明は哺乳動物の遺伝子発現に対するカロリー制限の効果を模倣する方法を提供する。ある側面では、カロリー制限は化学的代謝過程に由来する損傷、とりわけ酸化的損傷を軽減させる。別の側面では、カロリー制限は体重管理に有用である。これらの方法は、ミトコンドリア酸化経路に関連する解糖系酵素(複数の酵素)またはタンパク質(複数のタンパク質)をコードする1以上の遺伝子を調節するために有効な量において1以上の酸化防止剤を哺乳動物に投与することを含んでいてもよい。したがって、本発明の方法は、哺乳動物の体重を管理することにおいても有用である。本明細書で使用する体重の“管理”とは、体重減少、体重増加、または現在の体重の維持を含んでいてもよい。」 2 引用文献1に記載された発明の認定 (引1-ア)ないし(引1-ク)の記載から、引用文献1には、 「 老齢哺乳動物において遺伝子発現を調節する方法であって、 酸化防止剤含有組成物を老齢哺乳動物に投与することを含み、 酸化防止剤又は酸化防止剤の混合物は、老齢哺乳動物にフードの構成要素として与えられ、 酸化防止剤又はその混合物はそれらが与えられた老齢哺乳動物の1以上の遺伝子を調節するために有効な量で老齢哺乳動物に与えられ、 老齢哺乳動物は伴侶動物、イヌを含む、方法。」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 第4 対比・判断 1 本願発明1について (1)本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア 引用発明の「伴侶動物」及び「イヌ」は、それぞれ本願発明1の「コンパニオンアニマル」及び「イヌ」に相当する。 イ 引用発明の「遺伝子発現を調節する」ことと、本願発明1の「変性関節病を予防または処置する」こととは、「処置する」ことである点において共通する。 ウ 引用発明の「酸化防止剤又は酸化防止剤の混合物」と、本願発明1の「リポ酸」とは、「有効成分」である点において共通する。 エ 引用発明の「フード」は、酸化防止剤含有組成物であって、伴侶動物であるイヌに与えられるものであるから、本願発明1の「ペットフード組成物」に相当する。 オ 引用発明は「老齢哺乳動物において遺伝子発現を調節する方法」であるところ、酸化防止剤含有組成物が投与される老齢哺乳動物である伴侶動物が、遺伝子発現の調節を必要としていることは明らかである。 カ 引用発明は「酸化防止剤又はその混合物はそれらが与えられた老齢哺乳動物の1以上の遺伝子を調節するために有効な量で老齢哺乳動物に与えられ」るものである。 キ 上記オ及びカを踏まえると、引用発明は、本願発明1の「それを必要とするコンパニオンアニマルにおいて変性関節病を予防または処置するために有効な量のリポ酸を含むペットフード組成物を投与すること」と、「それを必要とするコンパニオンアニマルにおいて処置するために有効な量の有効成分を含むペットフード組成物を投与すること」である点において共通する構成を備えているといえる。 (2)よって、本願発明1と引用発明とは、 「 それを必要とするコンパニオンアニマルにおいて処置するために有効な量の有効成分を含むペットフード組成物を投与することを含む、コンパニオンアニマルにおいて処置する方法であって、 コンパニオンアニマルがイヌである、方法。」 の発明である点で一致し、次の2点で相違する。 (相違点1) 処置する方法が、本願発明1においては、「変性関節病を予防または処置する方法」であって、有効成分が「リポ酸」であり、「変性関節病を予防または処置するために有効なリポ酸の量が、乾燥物質基準でペットフード組成物の100ppm?200ppmであり、投与の量は、1日あたり、5mg/動物のkg体重を超え」ないのに対し、引用発明においては、「遺伝子発現を調節する方法」であって、有効成分が「酸化防止剤又は酸化防止剤の混合物」であり、フードに含まれる酸化防止剤又は酸化防止剤の混合物の具体的な量、及び1日あたりの投与の量は特定されていない点。 (相違点2) ペットフード組成物が、本願発明1においては、「小麦、ミロ、トウモロコシ、挽いたニワトリ、コーングルテンミール、家禽ミール、大豆油、亜麻仁、米・醸造用(rice brewers)、大豆粕、テンサイパルプ、クエン酸塩、魚油、DL-メチオニン、L-リシン、炭酸カルシウム、コリン、L-スレオニン、ビタミンE及びL-トリプトファンを含む」のに対し、引用発明においては、そのような特定はされていない点。 (3)相違点についての判断 ア 上記相違点1について検討する。 (引1-オ)の段落【0033】には、多数ある酸化防止剤のうちの一種類としてリポ酸が記載されており、そのフード中の含有量として約100ppmから約200ppmまでであることも記載されているが、それは遺伝子発現の調節のために用いる酸化防止剤としての一例であり、本願発明1のような「変性関節病を予防または処置」する「方法」に用いられることは、何ら記載も示唆もされていない。 してみれば、引用発明において酸化防止剤としてリポ酸を選択し、「遺伝子発現の調節」の「方法」に代えて「変性関節病を予防または処置」する「方法」に用いることは、引用文献1に接した当業者といえども容易になし得たこととはいえない。 したがって、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項は、当業者が容易になし得たものではない。 イ よって、上記相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び引用文献1に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 2 本願発明2及び3について 本願発明2及び3も、本願発明1の「変性関節病を予防または処置する方法」において「リポ酸」を投与するとの構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明及び引用文献1に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 3 本願発明4について (1)本願発明4は、コンパニオンアニマルにおいて体重の減少を誘導する方法に係る発明であるところ、上記1(1)の本願発明1と引用発明との対比に倣って本願発明4と引用発明とを対比すると、両者は、 「 コンパニオンアニマルにおいて処置するために有効な量の有効成分を含むペットフード組成物を投与することを含む、コンパニオンアニマルにおいて処置する方法であって、 コンパニオンアニマルがイヌである、方法。」 の発明である点で一致し、次の2点で相違する。 (相違点3) 処置する方法が、本願発明4においては、「体重の減少を誘導する方法」であって、有効成分が「リポ酸」であり、「体重の減少を誘導するために有効なリポ酸の量が、乾燥物質基準でペットフード組成物の100ppm?200ppmであり、投与の量は、1日あたり、5mg/動物のkg体重を超え」ないのに対し、引用発明においては、「遺伝子発現を調節する方法」であって、有効成分が「酸化防止剤又は酸化防止剤の混合物」であり、フードに含まれる酸化防止剤又は酸化防止剤の混合物の具体的な量、及び1日あたりの投与の量は特定されていない点。 (相違点4) ペットフード組成物が、本願発明4においては、「小麦、ミロ、トウモロコシ、挽いたニワトリ、コーングルテンミール、家禽ミール、大豆油、亜麻仁、米・醸造用(rice brewers)、大豆粕、テンサイパルプ、クエン酸塩、魚油、DL-メチオニン、L-リシン、炭酸カルシウム、コリン、L-スレオニン、ビタミンE及びL-トリプトファンを含む」のに対し、引用発明においては、そのような特定はされていない点。 (2)相違点についての判断 ア 上記相違点3について検討する。 (引1-オ)の段落【0033】には、多数ある酸化防止剤のうちの一種類としてリポ酸が記載されており、そのフード中の含有量として約100ppmから約200ppmまでであることも記載されているが、それは遺伝子発現の調節のために用いる酸化防止剤としての一例であり、本願発明4のような「体重の減少を誘導」する「方法」に用いられることは、何ら記載も示唆もされていない。 してみれば、引用発明において酸化防止剤としてリポ酸を選択し、「遺伝子発現の調節」の「方法」に代えて「体重の減少を誘導」する「方法」に用いることは、引用文献1に接した当業者といえども容易になし得たこととはいえない。 したがって、上記相違点3に係る本願発明4の発明特定事項は、当業者が容易になし得たものではない。 イ よって、上記相違点4について判断するまでもなく、本願発明4は、引用発明及び引用文献1に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 4 本願発明5について (1)本願発明5は、コンパニオンアニマルにおける肥満を予防または処置する方法に係る発明であるところ、上記1(1)の本願発明1と引用発明との対比に倣って本願発明5と引用発明とを対比すると、両者は、 「 有効量の有効成分を含むペットフード組成物を投与することを含む、コンパニオンアニマルにおける処置する方法であって、 コンパニオンアニマルがイヌである、方法。」 の発明である点で一致し、次の2点で相違する。 (相違点5) 処置する方法が、本願発明5においては、「肥満を予防または処置する方法」であって、有効成分が「リポ酸」であり、「リポ酸の有効量が、乾燥物質基準でペットフード組成物の100ppm?200ppmであり、投与の量は、1日あたり、5mg/動物のkg体重を超え」ないのに対し、引用発明においては、「遺伝子発現を調節する方法」であって、有効成分が「酸化防止剤又は酸化防止剤の混合物」であり、フードに含まれる酸化防止剤又は酸化防止剤の混合物の具体的な量、及び1日あたりの投与の量は特定されていない点。 (相違点6) ペットフード組成物が、本願発明5においては、「小麦、ミロ、トウモロコシ、挽いたニワトリ、コーングルテンミール、家禽ミール、大豆油、亜麻仁、米・醸造用(rice brewers)、大豆粕、テンサイパルプ、クエン酸塩、魚油、DL-メチオニン、L-リシン、炭酸カルシウム、コリン、L-スレオニン、ビタミンE及びL-トリプトファンを含む」のに対し、引用発明においては、そのような特定はされていない点。 (2)相違点についての判断 ア 上記相違点5について検討する。 (引1-オ)の段落【0033】には、多数ある酸化防止剤のうちの一種類としてリポ酸が記載されており、そのフード中の含有量として約100ppmから約200ppmまでであることも記載されているが、それは遺伝子発現の調節のために用いる酸化防止剤としての一例であり、本願発明1のような「肥満を予防または処置」する「方法」に用いられることは、何ら記載も示唆もされていない。 してみれば、引用発明において酸化防止剤としてリポ酸を選択し、「遺伝子発現の調節」の「方法」に代えて「肥満を予防または処置」する「方法」に用いることは、引用文献1に接した当業者といえども容易になし得たこととはいえない。 したがって、上記相違点5に係る本願発明5の発明特定事項は、当業者が容易になし得たものではない。 イ よって、上記相違点6について判断するまでもなく、本願発明5は、引用発明及び引用文献1に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 5 本願発明6について 本願発明6も、本願発明5の「肥満を予防または処置する方法」において「リポ酸」を投与するとの構成を備えるものであるから、本願発明5と同じ理由により、引用発明及び引用文献1に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 原査定の概要及び原査定についての判断 原査定の概要は、本願の請求項1ないし31に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1:特表2008-519838号公報に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 しかしながら、平成29年1月6日になされた手続補正により補正された請求項1、5及び6は、それぞれ「変性関節病を予防または処置する方法」、「体重の減少を誘導する方法」及び「肥満を予防または処置する方法」において「リポ酸」を投与するという構成を有するものとなっており、上記のとおり、それらの構成を有する本願発明1ないし6は、上記引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定を維持することはできない。 第6 当審拒絶理由について 1 当審では、請求項1、5及び6に記載された「100ppm?200ppm」が、何におけるリポ酸の濃度を表すのかが不明瞭であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成30年7月9日になされた手続補正により、補正前の請求項1、5及び6に対応する請求項1、4及び5において「乾燥物質基準でペットフード組成物の100ppm?200ppm」と補正された結果、この拒絶理由は解消した。 2 当審では、請求項4に係る発明は明確でないとの拒絶の理由を通知しているが、平成30年7月9日になされた手続補正により、補正前の請求項4は削除された結果、この拒絶理由は解消した。 第7 むすび 以上のとおり、本願発明1ないし6は、引用発明及び引用文献1に記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、当審拒絶理由によっても、本願を拒絶することはできない。 そして、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-08-15 |
出願番号 | 特願2015-3914(P2015-3914) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(A23K)
P 1 8・ 537- WY (A23K) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 木村 隆一 |
特許庁審判長 |
三崎 仁 |
特許庁審判官 |
渡戸 正義 東松 修太郎 |
発明の名称 | リポ酸を含むコンパニオンアニマル用組成物およびその使用の方法 |
代理人 | 村井 康司 |