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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09J
管理番号 1342950
異議申立番号 異議2017-700414  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-04-24 
確定日 2018-06-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6015352号発明「ポリオレフィン系フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6015352号の明細書、及び、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第6015352号の請求項1、2、4、5に係る特許を維持する。 特許第6015352号の請求項3に係る特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6015352号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成24年10月30日になされた出願であり(優先権主張:平成23年10月31日、日本国(特願2011-238935号))、平成28年10月7日に、発明の名称を「ポリオレフィン系フィルム」、請求項の数を「5」として、特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について、平成29年4月24日に特許異議申立人、鳥居章代より特許異議の申立てがなされ、同年8月24日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月27日に特許権者より意見書及び訂正請求書の提出がなされ、これに対し、同年12月20日に特許異議申立人より意見書が提出され、平成30年2月5日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年3月23日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、同年5月9日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。
なお、平成29年10月27日に特許権者よりなされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容

上記平成30年3月23日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件明細書及び特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり一群の請求項を構成する請求項1?5について訂正を求めるものであって、その具体的訂正事項は次のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「 粘着層を構成する樹脂が、スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)と、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも含み、ポリオレフィン系樹脂の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%以下であり、離型層を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を少なくとも含み、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が離型層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%未満であり、ポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面に粘着層を、反対面に離形層を共押出により積層してなることを特徴とするポリオレフィン系フィルム。」と記載されているのを、
「 粘着層を構成する樹脂が、スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)と、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも含み、前記スチレン系エラストマーの配合量が粘着層を構成する樹脂成分中60重量%以上95重量%以下であり、ポリオレフィン系樹脂の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%以下であり、離型層を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を少なくとも含み、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が離型層を構成する樹脂成分中7重量%以上24重量%以下であり、前記離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下であり、ポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面に粘着層を、反対面に離形層を共押出により積層してなることを特徴とするポリオレフィン系フィルム。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1?3のいずれかに記載のポリオレフィン系フィルム」と記載されているのを、「請求項1又は2に記載のポリオレフィン系フィルム」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1?4のいずれかに記載のポリオレフィン系フィルム」と記載されているのを、「請求項1、2、又は4のいずれかに記載のポリオレフィン系フィルム」に訂正する。

(5)訂正事項5
本件明細書の【0008】に、「即ち、本発明は粘着層を構成する樹脂が、スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)と、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも含み、ポリオレフィン系樹脂の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%以下であり、離型層を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を少なくとも含み、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が離型層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%未満であり、ポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面に粘着層を、反対面に離形層を共押出により積層してなることを特徴とするポリオレフィン系フィルムに係るものである。」と記載されているのを、
「即ち、本発明は粘着層を構成する樹脂が、スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)と、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも含み、前記スチレン系エラストマーの配合量が粘着層を構成する樹脂成分中60重量%以上95重量%以下であり、ポリオレフィン系樹脂の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%以下であり、離型層を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を少なくとも含み、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が離型層を構成する樹脂成分中7重量%以上24重量%以下であり、前記離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下であり、ポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面に粘着層を、反対面に離形層を共押出により積層してなることを特徴とするポリオレフィン系フィルムに係るものである。」に訂正する。

(6)訂正事項6
本件明細書の【0019】に、「粘着層においてスチレン系エラストマーの量は、好ましくは45重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは98重量%以下、さらに好ましくは97重量%以下、特に好ましくは96重量%以下、最も好ましくは95重量%以下である。」と記載されているのを、
「粘着層においてスチレン系エラストマーの量は、60重量%以上、95重量%以下であり、より好ましくは70重量%以上、95重量%以下である。」に訂正する。

(7)訂正事項7
本件明細書の【0031】に、「離型層(離型層を構成する樹脂成分)中の炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量は、5重量%以上、25重量%以下の範囲である。炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が25重量%を超えると離型層をポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面にTダイ等を用いてポリプロピレン系樹脂を押出す一般的な温度で共押出製膜により積層しようとすると、離型層の製膜性が悪くなる。炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が5重量%未満であると離型層の剥離力改善に寄与しない。」と記載されているのを、
「離型層(離型層を構成する樹脂成分)中の炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量は、7重量%以上、24重量%以下の範囲である。炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が24重量%を超えると離型層をポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面にTダイ等を用いてポリプロピレン系樹脂を押出す一般的な温度で共押出製膜により積層しようとすると、離型層の製膜性が悪くなる。炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が7重量%未満であると離型層の剥離力改善に寄与しない。」に訂正する。

(8)訂正事項8
本件明細書の【0031】における「炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量は好ましくは7重量%以上、24重量%以下である。」との記載を削除する。

(9)訂正事項9
本件明細書の【0010】における「また、この場合において、離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下であることが好適である。」との記載を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の本件明細書の【0019】の「粘着層においてスチレン系エラストマーの量は、好ましくは45重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、特に好ましくは70重量%以上、好ましくは99重量%以下、より好ましくは98重量%以下、さらに好ましくは97重量%以下、特に好ましくは96重量%以下、最も好ましくは95重量%以下である。」との記載に基づいて、粘着層におけるスチレン系エラストマーの配合量を限定し、発明特定事項を追加するものであり、また、訂正前の本件明細書の【0031】の「離型層(離型層を構成する樹脂成分)中の炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量は、・・・(略)・・・好ましくは7重量%以上、24重量%以下である。」との記載に基づいて、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量を「5重量%以上25重量%未満」から「7重量%以上24重量%以下」に、数値範囲を限定するものであり、さらに、訂正前の請求項3の「前記離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下」との記載に基づいて、「前記離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下」であることとし、発明特定事項を追加するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
そして、訂正事項1は、数値範囲を限定するもの、あるいは、発明特定事項を追加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項3の削除のみであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項4において、「請求項1?3のいずれかに記載のポリオレフィン系フィルム」との記載を、請求項3の削除に合わせて「請求項1又は2に記載のポリオレフィン系フィルム」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、請求項5において、「請求項1?4のいずれかに記載のポリオレフィン系フィルム」との記載を、請求項3の削除に合わせて「請求項1、2、又は4のいずれかに記載のポリオレフィン系フィルム」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

(5)訂正事項5?9について
訂正事項5?9は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、願書に添付した明細書の【0008】、【0019】、【0031】、【0010】の記載を訂正するものであるから、訂正事項5?9は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるといえるとともに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものといえる。

3 小括
上記「2」のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項、第3項及び第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項1?5、または、願書に添付した明細書について訂正を求めるものであり、これらの訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第4項、第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?5及び願書に添付した明細書について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明

上記「第2」のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1?5に係る発明(以下、請求項1に係る発明を項番に対応して「本件発明1」などどいい、併せて「本件発明」ということがある。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
粘着層を構成する樹脂が、スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)と、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも含み、前記スチレン系エラストマーの配合量が粘着層を構成する樹脂成分中60重量%以上95重量%以下であり、ポリオレフィン系樹脂の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%以下であり、離型層を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を少なくとも含み、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が離型層を構成する樹脂成分中7重量%以上24重量%以下であり、前記離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下であり、ポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面に粘着層を、反対面に離形層を共押出により積層してなることを特徴とするポリオレフィン系フィルム。
【請求項2】
前記炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体が4-メチルペンテン-1系(共)重合体である請求項1に記載のポリオレフィン系フィルム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記基材層および離型層に使用するポリプロピレン系樹脂のMFRが(230℃、2.16Kgf)が1.0?15g/10分である請求項1又は2に記載のポリオレフィン系フィルム。
【請求項5】
前記粘着層に使用するスチレン系エラストマーのMFR(230℃、2.16Kgf)が0.5?10g/20分である請求項1、2、又は4のいずれかに記載のポリオレフィン系フィルム。」

2 取消理由の概要

訂正前の請求項1?5に係る特許に対して平成30年2月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

本件発明1、2、4、5は、いずれも、引用文献1に記載された発明、引用文献1、3に記載された事項、及び、周知技術(引用文献2、3)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
よって、本件請求項1、2、4、5に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

引用文献1:特開2010-275340号公報(甲第2号証)
引用文献2:特開2011-42757号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2009-241596号公報(甲第1号証)

3 引用文献1?3の記載事項

(1)引用文献1には、以下の記載がある(当審注:下線は当審において付したものである。以下同じ。)。

記載事項1-A
「【背景技術】
【0002】
表面保護フィルムは、主として建材用や光学用途用の樹脂製品、金属製品、ガラス製品等の被着体に貼付して使用し、これらの輸送、保管や加工時の傷付きまたは異物混入を防ぐ役割を果たしている。これらの表面保護フィルムは、一般には粘着性の無い表面層と、前記被着体と粘着させるための粘着層とからなる。表面層は通常、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンや、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリ塩化ビニルなどのビニル重合体から形成される。」

記載事項1-B
「【0005】
また、比較的粘着力の高い表面保護フィルムでは、ロール状の製品から繰出すことが困難なため、粘着層に離型フィルムを貼り合わせた状態でロール状とし、被着体への貼付の際にこの離型フィルムを剥がして使用している。このような工程を採用すると、大量の廃棄物が発生することから、離型フィルムが無くても容易にロールから繰出すことのできる表面保護フィルムが求められている。」

記載事項1-C
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光学製品、建材製品や自動車部品の保管、輸送、加工、検査時に保護するための表面保護フィルムとして要求される特性、特には、粘着特性、透明性、耐熱性、及びロールからの繰出し性に優れた表面保護フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を鑑み、鋭意検討した結果、ある特定の樹脂組成物からなる表面層を有する表面保護フィルムにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、表面層(A)及び粘着層(X)の少なくとも2層からなる表面保護フィルムであり、表面層(A)がポリオレフィン樹脂(a-1)50?99.9重量%及び、融点が150℃以上、数平均分子量(Mn)が200?10000の範囲にある、炭素数4以上のα-オレフィンを主成分とするα-オレフィン(共)重合体(a-2)0.1?50重量%((a-1)及び(a-2)の合計を100重量%とする。)からなる組成物から形成されること特徴とする表面保護フィルムからなる。
また、本発明は、上記の粘着層(X)が、オレフィン系エラストマー及び/またはスチレン系エラストマーから形成されることを特徴とする表面保護フィルムである。
更に、本発明は、上記の表面層(A)及び粘着層(X)の少なくとも2層をT-ダイから押出成形して得られる多層フィルムである表面保護フィルムである。
また、本発明は、これらの表面保護フィルムのうち、50μm厚みで測定したヘイズが10%以下であることを特徴とする表面保護フィルムである。」

記載事項1-D
「【0011】
表面層(A)は、ポリオレフィン樹脂(a?1)50?99.9重量%及び炭素数4以上のα-オレフィンを主成分とするオレフィン(共)重合体(a-2)0.1?50重量%から形成される。好ましくは、(a-1)が60?99.7重量%、及び(a-2)が0.3重量%?40重量%、より好ましくは(a-1)が70?99重量%、及び(a-2)が1重量%?30重量%((a-1)及び(a-2)の合計を100重量%とする。)である。
【0012】
ポリオレフィン樹脂(a-1)としては、ポリプロピレンやポリエチレンなどの公知のポリオレフィン樹脂を挙げることができる。ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ポリエチレンとしては、高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンを挙げることができる。これらの中で、透明性、耐熱性の観点からホモポリプロピレンやランダムポリプロピレンが好ましく利用される。
【0013】
炭素数4以上のα-オレフィンを主成分とするオレフィン(共)重合体(a-2)としては、炭素数4以上のα-オレフィンを50?100モル%、好ましくは60?100モル%、より好ましくは70?100モル%含有する。炭素数4以上のα-オレフィンとしては、1-ブテン、4-メチルペンテン-1、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン等が挙げられるが、好ましくは4-メチルペンテン-1である。
【0014】
好ましいオレフィン(共)重合体(a-2)としては、4-メチルペンテン-1単独重合体、4-メチルペンテン-1と炭素数6?20のα-オレフィン共重合体を挙げることができる。炭素数6?20のα-オレフィンとしては例えば1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセンである。」

記載事項1-E
「【0019】
本発明の表面保護フィルムの粘着層(X)としては、表面保護フィルムの粘着層として使用されている公知の粘着剤であれば使用することが可能であるが、フィッシュアイの発生による被着体損傷や、粘着剤の被着体への移行、いわゆる糊残りの観点から、オレフィン系エラストマー及び/またはスチレン系エラストマーであることが好ましい。
【0020】
オレフィン系エラストマーとしては、融点が110℃以下、好ましくは融点が100℃以下、さらに好ましくは融点が80℃以下または融点が観測されない炭素数2?20のα-オレフィン重合体または共重合体、ないしはエチレンと不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸エステルとの共重合体である。具体的には、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・4-メチルペンテン-1共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、プロピレン単独共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体、1-ブテン単独重合体、1-ブテン・エチレン共重合体、1-ブテン・プロピレン共重合体、4-メチルペンテン-1単独重合体、4-メチルペンテン-1・プロピレン共重合体、4-メチルペンテン-1・1-ブテン共重合体、4-メチルペンテン-1・プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体等を挙げることができる。粘着力の経時安定性の点から、好ましくは、プロピレン単独共重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体である。さらに好ましくはプロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体である。
【0021】
スチレン系エラストマーとしては、ポリスチレン相をハードセグメントとして有する公知のスチレン系エラストマーが使用できる。具体的には、スチレン・ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SIS)、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SEBS)、及びこれらの水素化物、スチレン・イソブチレン・スチレントリブロック共重合体(SIBS)、スチレン・イソブチレンジブロック共重合体(SIB)を挙げることができる。好ましくはスチレン・イソブチレン・スチレントリブロック共重合体(SIBS)、スチレン・イソブチレンジブロック共重合体(SIB)である。
【0022】
上記オレフィン系エラストマー及び/またはスチレン系エラストマーを、単独または各々異なる組成の成分をブレンド使用することで、本発明の表面保護フィルムにおける粘着層(X)を形成することができる。また、本発明においては、粘着力の制御を目的として、さらには本発明の特性を損なわない範囲で、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等の樹脂改質剤や、帯電防止剤、結晶核剤、酸化防止剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0023】
本発明においては、さらに表面層(A)と粘着層(X)との間に少なくとも1層の基材層(B)を設けることも可能である。フィルムの機械強度や透明性制御を目的として、また、表面層(A)及び粘着層(X)との接着力が不足する場合には、中間層としてポリオレフィン樹脂や接着性樹脂ないしは接着剤を使用しても良い。
基材層としては特に制限はないが、一般には、融点が100℃以上のポリプロピレンやポリエチレンなどの結晶性ポリオレフィンや、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン系エラストマーなどが使用できる。基材層を接着層として使用する場合には、変性ポリオレフィンや、ポリオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステルエラストマーなどが用いられる。これらの中で、生産性及び透明性の点から、ポリプロピレンやポリオレフィンエラストマーを中間層として使用するのが好ましい。」

記載事項1-F
「【0025】
表面層(A)と粘着層(X)、必要に応じて基材層(B)を積層する方法については特に制限は無いが、あらかじめT-ダイ成形またはインフレーション成形にて得られた表面層フィルム上に、押出ラミネーション、押出コーティング等の公知の積層法により積層する方法や、基材層及び粘着層を独立してフィルムとした後、各々のフィルムをドライラミネーションにより積層する方法等が挙げられるが、生産性の点から、表面層、基材層、粘着層の各成分を多層の押出機に供して成形する共押出成形が好ましい。」

記載事項1-G
「【0033】
ヘイズ:
JIS K7105に準拠し、厚み50μmのフィルムにて測定した。
メルトフローレート(MFR):
ASTM D1238に準拠して、荷重2.16kg、温度230℃で測定した。
【0034】
実施例1
表面層及び粘着層用に30mmφの単軸押出機及び中間層に40mmφ単軸押出機を兼ね備えダイ幅500mmの3種3層T-ダイ成形機に以下樹脂組成物を供給し、表面層厚みを10μm、粘着層厚み10μm、中間層厚み30μm、トータル厚み50μmの表面保護フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表-1に示す。

表面層:
PP-1:ホモポリプロピレン
(融点160℃、MFR(230℃)20g/10分) 95重量%
OL-1:4-メチルペンテン-1とデセン-1とのオリゴマー
(融点197℃、数平均分子量Mn=2300) 5重量%

基材層:
PP-2:ホモポリプロピレン
(融点160℃、MFR(230℃)7g/10分) 90重量%
EL-1:エチレン・ブテン共重合体
(商品名:タフマー、銘柄名:A-4085S、MFR=3.6g/10分 、三井化学株式会社製) 10重量%

粘着層:
PEBR:プロピレン・エチレン・1-ブテン共重合体
(エチレン含量13モル%、ブテン含量19モル%、融点は観測されない、
MFR=7g/10分) 45重量%
SIBS:スチレン-イソブチレン-スチレントリブロックコポリマー (商品名:シブスター、銘柄名:062T、MFR=8.0g/10分、
カネカ社製) 25重量%
SEBS:スチレン-ブタジエン共重合体水素添加物
(商品名:タフテック、銘柄名:H1221、MFR=4.5g/10分、
旭化成社製) 25重量%
PP-3:ホモポリプロピレン
(銘柄名:F107BV、融点=160℃、MFR=7g/10分、
プライムポリプロ社製) 5重量%
【0035】
実施例2、3及び比較例1
各種層の樹脂組成を表1記載の樹脂組成とした以外は、実施例1と同様にして表面保護フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表-1に示す。
【0036】
表-1

【0037】
発明の効果
本発明の表面保護フィルムは、粘着特性、透明性、巻き戻し力及び耐熱性に優れ、光学用途、建材用途、自動車部品用途との保護フィルムとして産業上の利用価値は極めて高い。」

(2)引用文献2には、以下の記載がある。

記載事項2-A
「【0001】
本発明は、表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
表面保護フィルムは、通常、一方の面に表面層を、もう一方の面に粘着層を有する積層フィルムであり、粘着層を被着体に貼り付けて使用する。表面保護フィルムには、建材用途、光学用途などの用途がある。例えば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイに内臓される種々の光学フィルム(例えば、拡散フィルム、偏光フィルム、位相差フィルムなど)に、表面保護フィルムを貼り付けて保存することがある。また、透明な表面保護フィルムであれば、ディスプレイの表示面に貼り付けることもある。
【0003】
一般的に、積層フィルムは、共押出し成形するか、または基材に粘着層を塗布形成することによって作製される。共押出し成形によれば、一般的に低コストで積層フィルムを作製することができる。共押出し成形により作製された積層フィルムは、ロール状に巻き取られて保存される。フィルム使用時に、フィルムを巻き取ったロールからフィルムを繰り出す。
【0004】
ところが、粘着層と表面層とを有する表面保護フィルムをロール状に巻き取ると、フィルムの表面層と粘着層とが固着して、いわゆるブロッキングが生じることがある。ブロッキング生じると、ロールからフィルムを繰り出すことができなくなったり、繰り出したフィルムの性能が劣化したりする。そのため、通常は粘着層に離型フィルムを重ねた状態で、表面保護フィルムをロール状に巻き取っている。」

記載事項2-B
「【0022】
樹脂組成物(X)にエチレン系(共)重合体(x3)を添加することで、表面層(A)の粘着材からの剥離性が高まる理由は、形成される表面層(A)の表面状態に関連があると考えられる。好ましい表面状態とは、一定の凹凸がある面を意味し、点接触により接触面積を低減させる面である。接触面積が低減すれば、粘着層との固着が抑制される。
【0023】
好ましい表面状態を示すパラメータの一つが、平均表面粗度Raである。本発明の表面層(A)の表面(露出している面)の平均表面粗度Raは、0.20?2.00μmであることが好ましい。また、好ましい表面状態を示すパラメータは平均表面粗度Raに限られず、凹凸密度や、凹部の形状、凸部の形状などがある。いずれにしても、樹脂組成物(X)にエチレン系(共)重合体(x3)を添加し、かつ好ましくは押出成形することで、表面層(A)の表面状態が好適化されて、剥離性が高まる。」

(3)引用文献3には、以下の記載がある。

記載事項3-A
「【請求項1】
プロピレン系樹脂からなる基材層の一方の面に粘着剤層が形成され、他方の面に剥離処理層が形成された表面保護用フィルムにおいて、基材層のプロピレン系樹脂がメタロセン触媒を用いて重合され、かつ下記(A1)?(A4)の特性を有するプロピレン単独重合体またはプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体であり、粘着剤層がゴム系粘着剤で形成され、剥離処理層が剥離処理層表面の中心面平均粗さ(SRa)が下記の測定条件(B1)?(B6)において0.2?1.5μmの範囲内であることを特徴とする表面保護用フィルム。
(A1)メルトフローレート(MFR:230℃、21.18N荷重)が1?50g/10分
・・・(略)・・・
【請求項3】
剥離処理層がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面保護用フィルム。」

記載事項3-B
「【0014】
本発明は、基材層と基材層の一方の面に粘着剤層が形成され、粘着剤層と他方の面に剥離処理層を有する表面保護用フィルムであって、該基材層は、メタロセン触媒を用いて重合され、特性(A1)?(A4)、必要に応じて、さらに特性(A5)を有するプロピレン単独重合体、または、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体であるプロピレン系樹脂からなり、粘着剤層は、ゴム系粘着剤からなり、剥離処理層は、剥離処理層表面の中心面平均粗さ(SRa)が測定条件(B1)?(B6)において0.2?1.5μmの範囲内で形成された層である表面保護用フィルムである。
以下、本発明の表面保護用フィルムの各層の構成成分、表面保護用フィルムの製造法について詳細に説明する。
【0015】
1.基材層
本発明の表面保護用フィルムにおける基材層は、プロピレン系樹脂から構成される。プロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、またはプロピレンとα-オレフィンとの共重合体のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体を使用することができる。ここで、共重合成分のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテンなどが挙げられる。」

記載事項3-C
「【0033】
2.粘着剤層
本発明の表面保護用フィルムは、上記プロピレン系樹脂よりなる基材層の一方の面に粘着剤層が形成される。
粘着剤としては、ゴム系粘着剤が用いられる。
粘着剤層にゴム系粘着剤を用いることにより、基材層と粘着剤層の少なくとも一方が溶融状態で積層するときは強固に接着していることから層間剥離性に優れ、被着体への耐汚染性に優れる。例えば、本発明の表面保護フィルムを被着体に貼り付けた後、再度剥がしても粘着層が被着体に残ることはなく、繰り返し貼り付けができる表面保護フィルムとしても使用できる。
ゴム系粘着剤としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されるものではないが、天然ゴム系粘着剤、または、熱可塑性スチレン-ジオレフィン共重合体水素添加物等の合成ゴム系粘着剤等があげられる。本発明の粘着剤層で用いる天然ゴムとしては、市販品の商品名:SMR(加商株式会社製)等が挙げられる。また、本発明の粘着剤層で用いる熱可塑性スチレン-ジオレフィン共重合体水素添加物は、下記(C1)の特性を有する。」

記載事項3-D
「【0035】
熱可塑性スチレン-ジオレフィン共重合体水素添加物とは、熱可塑性スチレン-ジオレフィン共重合体を水添したものである。熱可塑性スチレン-ジオレフィン共重合体水素添加物は、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよい。好ましくはブロック共重合体である。
【0036】
上記熱可塑性スチレン-ジオレフィンブロック共重合体水素添加物においては、スチレンブロックをSTY、ジオレフィンブロック水素添加物をDENと表すと、STY-DEN、STY-DEN-STY、DEN-STY-DEN-STY、STY-DEN-STY-DEN-STYなどの構造を有する共重合体が挙げられる。
【0037】
ジオレフィンの水素添加物ブロックを構成する単量体としては、ブタジエン、イソプレン、ビニル化ポリイソプレンの水素添加物等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。」

記載事項3-E
「【0039】
スチレン-ブタジエンブロック共重合体の水素添加物は、クレイトンポリマージャパン(株)より「クレイトンG」として、また、旭化成工業(株)より「タフテック」の商品名で販売されている。スチレン-イソプレンブロック共重合体の水素添加物は、(株)クラレより「セプトン」の商品名で販売されている。スチレン-ビニル化ポリイソプレンブロック共重合体の水素添加物は、(株)クラレより「ハイブラー」の商品名で販売されている。これらの商品群より適宜選択して用いてもよい。
【0040】
上記熱可塑性スチレン-ジオレフィンランダム共重合体の水素添加物において、ジオレフィンの水素添加物ブロックを構成する単量体としては、ブタジエン、イソプレン、ビニル化ポリイソプレン等が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0041】
スチレンとジオレフィンとのランダム共重合体の水素添加物の具体例としては、スチレンブタジエンランダム共重合体の水素添加物、スチレン-イソプレンランダム共重合体の水素添加物、スチレン-ビニル化ポリイソプレンランダム共重合の水素添加物が挙げられ、これらは、単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0042】
スチレン-ブタジエンランダム共重合体の水素添加物は、JSR(株)より「ダイナロン」の商品名で販売されている。
【0043】
さらに、熱可塑性スチレン-ジオレフィンブロック共重合体の水素添加物と熱可塑性スチレン-ジオレフィンランダム共重合体の水素添加物を混合して使用することもできる。
【0044】
なお、これら粘着剤は、本目的の効果を損なわない範囲で、1種または2種以上組み合わせて使用することができる。
【0045】
また、粘着剤層は、押出機にて共押出成形して積層する場合、基材層との密着性を考慮し、本発明の基材層に用いられるプロピレン系樹脂に粘着剤を配合し粘着剤層として使用することができる。本発明に用いられるプロピレン系樹脂に上記粘着剤を配合して使用する場合、本発明に用いられるプロピレン系樹脂および粘着剤の合計を100重量%としたとき、プロピレン系樹脂の含有量が1?99重量%であり、粘着剤の含有量が99?1重量%である。好ましくはプロピレン系樹脂の含有量が5?75重量%であり、粘着剤の含有量が95?25重量%、より好ましくは、プロピレン系樹脂の含有量が10?50重量%であり、粘着剤の含有量が50?90重量%である。
【0046】
3.剥離処理層
本発明の表面保護フィルムは、上記プロピレン系樹脂よりなる基材層の一方に形成される粘着剤層の他方の面に剥離処理層が形成される。剥離処理層としては、フィルムの剥離処理層側表面を荒らして凹凸を形成し剥離性を向上させた層を挙げることができる。剥離処理層表面を荒らすことは、粘着剤層と剥離処理層の両方が固体状態で接するロール巻状態から、ロールを解くときにはスムースにはがれ、使用時には繰り出し性が向上するという特性を有する表面保護用フィルムとすることができる。
【0047】
フィルムの剥離処理層側表面を荒らして凹凸を形成し剥離性を向上させた層は、剥離処理層表面の中心面平均粗さ(SRa)が下記の測定条件(B1)?(B6)において0.2?1.5μmの範囲内であれば、使用される樹脂は特に限定されるものではなく、公知の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂、またはそれらの混合物でもよい。好ましくは、ポリオレフィン系樹脂からなる層がよい。具体的には、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体単独、あるいは、プロピレン単独重合体にプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体を配合したもの、あるいは、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体にプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体を配合したもの、あるいは、低密度ポリエチレン単独、高密度ポリエチレン単独、あるいは、低密度ポリエチレンに高密度ポリエチレンを配合したもの、あるいは、プロピレン単独重合体に低密度ポリエチレン、または高密度ポリエチレンを配合したもの、あるいは、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体に低密度ポリエチレン、または高密度ポリエチレンを配合したもの、あるいは、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体に低密度ポリエチレン、または高密度ポリエチレンを配合したもの、あるいは、これらポリオレフィン系樹脂を2種以上配合したもの、あるいはこれらポリオレフィン系樹脂に相溶性の異なる熱可塑性樹脂などを配合したものを挙げることができる。さらに好ましくは、本発明の基材層に用いられるプロピレン系樹脂にプロピレン・α-オレフィンブロック共重合体、または低密度ポリエチレン、または高密度ポリエチレンを配合したものがフィッシュアイおよび層間剥離性の観点からもよい。
(B1)触針先端曲率半径が5μm
(B2)カットオフ波長が0.80mm
(B3)カットオフ種別が2CR(位相補償)
(B4)測定速度が0.3mm/秒
(B5)測定方向がフィルムのMD方向
(B6)測定長さが2mm
【0048】
フィルム表面を荒らして凹凸を形成し剥離性を向上させるには、フィルム表面の凹凸は、中心面平均粗さ(SRa)で0.2?1.5μmである。好ましくは0.3?1.2μm、さらに好ましくは0.5?1.0μm、もっとも好ましくは0.8?1.0μmである。
ここで、中心面平均粗さ(SRa)の測定法は、測定方法や測定条件によって得られる値が異なるので、本発明では、JIS-B-0651(2001)で規定されている触針式表面粗さ測定器で測定する。測定器の測定条件は、触針先端曲率半径を5μm、カットオフ波長を0.8mm、カットオフ種別を2CR(位相補償)、測定速度を0.3mm/秒、測定方向をフィルムMD方向、測定長さを2mmとし、得られた値で表面粗度の範囲を規定した。測定方向であるMD方向とは、押出し成形するときのフィルムの送り方向、すなわちフィルムの長手方向と平行な方向をいう。
【0049】
剥離処理層に用いるポリオレフィン系樹脂としては、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体からなるプロピレン系樹脂、高密度ポリエチレン、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等の低密度ポリエチレン等からなるポリエチレン系樹脂が挙げられる。
プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体からなるプロピレン系樹脂は、一般的にチーグラー触媒、メタロセン触媒等の公知の触媒を使用して、それら触媒の存在下に、不活性溶媒を用いたスラリー法、溶液法、実質的に溶媒を用いない気相法や、あるいは重合モノマーを溶媒とするバルク重合法等の公知の重合法で製造される。また、共重合成分のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテンなどが挙げられる。α-オレフィンは単独で使用してもよいが2種類以上を併用して使用してもかまわない。
【0050】
高密度ポリエチレンは、一般的にチーグラー触媒、フィリップス触媒、メタロセン触媒等の触媒を使用して、気相法、溶液法、高圧法、スラリー法等のプロセスで、エチレンまたはエチレンと少量のプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンとを(共)重合させて製造される。
高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンは、パーオキサイドなどのラジカル発生剤を重合開始剤として、高圧ラジカル重合法等のプロセスで、エチレン又はエチレンと少量のプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンとを(共)重合させて製造される。
直鎖状低密度ポリエチレンは、一般的にチーグラー触媒、フィリップス触媒、メタロセン触媒等の触媒を使用して、気相法、溶液法、高圧法、スラリー法等のプロセスでエチレンとプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン等のα-オレフィンとを共重合させて製造される。α-オレフィンは単独で使用してもよいが2種類以上を併用して使用してもかまわない。
低密度ポリエチレンは、成形性の点から高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレンを使用することが好ましい。
【0051】
また、剥離処理層に用いられるポリオレフィン系樹脂は、単独または、ポリオレフィン系樹脂を二種以上組み合わせた樹脂組成物を用いることができる。
その配合量および樹脂の基本物性は、本発明のフィルムの剥離処理層表面の中心面平均粗さ(SRa)が0.2?1.5μmの範囲内であれば特に限定されないが、低密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンの組み合わせでは、好ましくは、低密度ポリエチレン95?50重量%、高密度ポリエチレン5?50重量%、より好ましくは、低密度ポリエチレン90?60重量%、高密度ポリエチレン10?40重量%、さらに好ましくは、低密度ポリエチレン80?70重量%、高密度ポリエチレン20?30重量%を含むポリエチレン樹脂組成物である。ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR;JIS-K6922-2:1997に準拠し、190℃、21.18N荷重で測定する値)は0.1?40g/10分であり、好ましくは0.3?25g/10分、さらに好ましくは1.0?10g/10分である。
【0052】
また、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体からなるプロピレン系樹脂と高密度ポリエチレン、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等の低密度ポリエチレンからなるポリエチレン系樹脂を混合して剥離処理層として使用する場合、好ましくは、プロピレン系樹脂99?50重量%、ポリエチレン系樹脂1?50重量%、より好ましくは、プロピレン系樹脂95?70重量%、ポリエチレン系樹脂5?30重量%を含む樹脂組成物である。
また、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体からなるプロピレン系樹脂同士の組み合わせでは、好ましくは、プロピレン単独重合体95?5重量%、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体5?95重量%、より好ましくは、プロピレン単独重合体95?50重量%、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体5?50重量%を含む樹脂組成物である。また、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体95?5重量%、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体5?95重量%、より好ましくは、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体95?50重量%、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体5?50重量%を含む樹脂組成物である。
【0053】
剥離処理層に用いられるプロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体からなるプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR;JIS K-7210-1995に準拠し、230℃、荷重21.18N荷重で測定する値)は基材層との界面荒れを抑制するため基材層に使用されるプロピレン系樹脂に近いメルトフローレート(MFR)が好ましく、メルトフローレート(MFR)は、1?50g/10分であり、好ましくは2?30g/10分であり、より好ましくは5?20g/10分であり、最も好ましくは7?15g/10分である。また、剥離処理層に用いられるプロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体からなるプロピレン系樹脂と高密度ポリエチレン、高圧ラジカル重合法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等の低密度ポリエチレンからなるポリエチレン系樹脂の組み合わせでは、プロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)とポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR;JIS-K6922-2:1997に準拠し、190℃、21.18N荷重で測定する値)はそのMFRに差がありすぎると相溶性が極端に悪くなり、フィッシュアイの原因となるため、ポリエチレン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)は、0.1?40g/10分であり、好ましくは0.3?25g/10分、さらに好ましくは1.0?10g/10分である。」

記載事項3-F
「【0098】
・・・(略)・・・粘着剤層を積層により得る方法として、押出機により、粘着剤を加熱溶融させて、Tダイよりフィルム状に押し出し、基材層の片面に積層する方法、あるいは、押出機により、基材層及び粘着剤を加熱溶融させて、基材層と共にTダイよりフィルム状に共押出しする方法などを挙げることができる。
本発明では、粘着剤層を基材層と共にTダイよりフィルム状に共押出し形成する方法を採用すると、汚染性の問題、経済上の点で有利である。
【0099】
粘着剤層の厚さは、用途により粘着強度が異なることから、特に限定されないが、後工程で粘着剤を塗布して粘着剤層を形成する方法の場合、また、押出機より加熱溶融させてなる粘着剤層を形成する方法の場合とも、通常0.1?100μm、好ましくは1?50μm、さらに好ましくは5?30μm、最も好ましくは10?20μmである。
【0100】
本発明の表面保護フィルムの粘着剤層の他方の面に設ける剥離処理層の形成手段としては、塗布、硬化、積層などの公知の方法を挙げることができる。
剥離処理層を塗布により得る方法としては、基材層の片面に対し、トルエン溶液等の有機溶剤に溶かした剥離処理剤をロールコーター等により塗布後、乾燥して剥離処理剤を硬化させて剥離処理層を形成する方法を挙げることができる。その際、基材層と剥離処理層との親和力を向上させるため、基材層の片面(剥離処理層との接着面)に、従来公知のコロナ放電処理、プラズマ放電処理、プライマー処理などが施されていてもよい。
また、剥離処理層を積層により得る方法としては、押出機により、加熱溶融させて、Tダイよりフィルム状に、基材層の片面に積層する押出ラミネート方法、あるいは、押出機により、基材層及び剥離処理層を加熱溶融させて、基材層と共にTダイよりフィルム状に共押出しする方法などを挙げることができる。
【0101】
本発明では、基材層の片面に積層する押出ラミネート方法、あるいは、剥離処理層を基材層と共にTダイよりフィルム状に共押出し形成する方法を採用すると、汚染性の問題、経済上の点で有利である。」

記載事項3-G
「【0105】
1.物性測定法、特性評価法
(1)MFR:プロピレン系樹脂は、JIS K-7210-1995に準拠し、230℃、荷重21.18N荷重で測定し、エチレン・α-オレフィン共重合体は、JIS K-6922-2:1997付属書に準拠し、190℃、荷重21.18N荷重で測定した。・・・(略)・・・」

記載事項3-H
「【0112】
(2)粘着剤層
粘着剤層として使用したゴム系粘着剤としては、天然ゴム系粘着剤として、SMR(加商株式会社製)、合成ゴム系粘着剤として、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体水素添加物であるクレイトンG1657(クレイトンポリマージャパン株式会社製、スチレン含量:13重量%)、クレイトンG1652(クレイトンポリマージャパン株式会社製、スチレン含量:29重量%)、クレイトンG1726(クレイトンポリマージャパン株式会社製、スチレン含量:30重量%)、スチレン-ブタジエンランダム共重合体の水素添加物であるダイナロン1321P(JSR株式会社製、スチレン含量:10重量%)、比較例にエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)として、高圧ラジカル重合法により得られた酢酸ビニル含有量(VAC)が10%のノバテックEVA・LV342(日本ポリエチレン株式会社製)を用いた。
【0113】
(3)剥離処理層
剥離処理層樹脂としてポリオレフィン系樹脂を使用した。プロピレン系樹脂として、プロピレン・エチレンランダム共重合体(日本ポリプロ(株)製、銘柄名;ウィンテックWFW4)、プロピレン・エチレンブロック共重合体(日本ポリプロ(株)製、銘柄名;ノバテックBC3HF)を用いた。ポリエチレン系樹脂として、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、銘柄名;ノバテックLD LC600A、MFR:7.0g/10分、密度:0.918g/cm^(3)、 Mw/Mn:7.9)、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、銘柄名;ノバテックLD LF240、MFR:0.7g/10分、密度:0.924g/cm^(3)、Mw/Mn:4.9)、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、銘柄名;ノバテックLD LF441B、MFR:2.0g/10分、密度:0.924g/cm^(3)、Mw/Mn:4.4)、高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製、銘柄名;ノバテックHD HJ560、MFR:7g/10分、密度:0.964g/cm^(3))を用いた。
【0114】
(実施例1)
基材層として、メタロセン触媒を用いて重合したプロピレン系樹脂のWFX4を、粘着剤層としてクレイトンG1657を、剥離処理層としてLC600Aを用いた。
基材層の押出機35mmφ、粘着剤層の押出機20mmφ、剥離処理層の押出機20mmφ、エアーナイフおよび冷却ロールを有する多層Tダイ成形機を使用して成形温度230℃、冷却ロール温度を30℃の条件で、基材層厚み30μm、粘着剤層厚み10μm、剥離処理層厚み10μmの共押3層Tダイフィルムからなる表面保護フィルムを作製した。得られた表面保護フィルムの評価結果を表3に示す。」

4 引用文献1、3に記載の発明

(1)引用文献1に記載の発明

上記記載事項1-Gの実施例1によれば、粘着層を構成する樹脂として、SEBS:スチレン-ブタジエン共重合体水素添加物(MFR=4.5g/10分(230℃))、SIBS:スチレン-イソブチレン-スチレントリブロックコポリマー、及び、PP-3:ホモポリプロピレンを少なくとも含んでおり、SEBS及びSIBSの配合量は、粘着層を構成する樹脂成分中50重量%であり、PP-3の配合量は、粘着層を構成する樹脂成分中、5重量%であることがわかる。
同様に、実施例1によれば、表面層を構成する樹脂として、PP-1:ホモポリプロピレン(MFR=20g/10分(230℃))、及び、OL-1:4-メチルペンテン-1とデセン-1とのオリゴマーとを少なくとも含んでおり、OL-1の配合量は、表面層を構成する樹脂成分中5重量%であることがわかる。
さらに、実施例1においては、基材層を構成する樹脂として、PP-2:ホモポリプロピレン(MFR=7g/10分(230℃))を主成分(90重量%)として用いていることがわかる。
そして、記載事項1-Fにおける「表面層、基材層、粘着層の各成分を多層の押出機に供して成形する共押出成形が好ましい」との記載、記載事項1-Eにおける「表面層(A)と粘着層(X)との間に少なくとも1層の基材層(B)を設けることも可能である」との記載もあり、実施例1においては、3種3層T-ダイ成形機により、表面層、基材層、粘着層の順に積層された表面保護フィルムを共押出成形することが記載されているといえる。

したがって、引用文献1には次のとおりの発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「粘着層を構成する樹脂が、SEBS:スチレン-ブタジエン共重合体水素添加物(MFR=4.5g/10分(230℃))、SIBS:スチレン-イソブチレン-スチレントリブロックコポリマー、及び、PP-3:ホモポリプロピレンとを少なくとも含み、SEBS及びSIBSの配合量が粘着層を構成する樹脂成分中50重量%であり、PP-3の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%であり、表面層を構成する樹脂がPP-1:ホモポリプロピレン(MFR=20g/10分(230℃))とOL-1:4-メチルペンテン-1とデセン-1とのオリゴマーとを少なくとも含み、OL-1の配合量が表面層を構成する樹脂成分中5重量%であり、PP-2:ホモポリプロピレン(MFR=7g/10分(230℃))を主成分とする基材層の片面に粘着層を、反対面に表面層を共押出により積層してなる表面保護フィルム。」

(2)引用文献3に記載の発明

上記記載事項3-Aには、「プロピレン系樹脂からなる基材層の一方の面に粘着剤層が形成され、他方の面に剥離処理層が形成された表面保護用フィルム」が記載され、該フィルムについて、上記記載事項3-Fには、「粘着剤層を基材層と共にTダイよりフィルム状に共押出し形成する方法」(【0098】)、「剥離処理層を基材層と共にTダイよりフィルム状に共押出し形成する方法」(【0101】)が記載されており、上記記載事項3-Hには、「多層Tダイ成形機を使用して成形温度230℃、冷却ロール温度を30℃の条件で、基材層厚み30μm、粘着剤層厚み10μm、剥離処理層厚み10μmの共押3層Tダイフィルムからなる表面保護フィルムを作製した。」(【0114】)と記載されていることから、引用文献3には、基材層の片面に粘着剤層を、反対面に剥離処理層を共押出により積層してなる表面保護フィルムが記載されているといえる。
また、記載事項3-Aには、粘着剤層がゴム系粘着剤で形成されること、基材層のプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR:230℃、21.18N荷重)が1?50g/10分であること、及び、ポリオレフィン系樹脂からなる剥離処理層の表面の中心面平均粗さ(SRa)が0.2?1.5μmの範囲内であることが記載されている。
また、上記ゴム系粘着剤について、上記記載事項3-Cには、「ゴム系粘着剤としては、本発明の効果を損なわない限り特に限定されるものではないが、天然ゴム系粘着剤、または、熱可塑性スチレン-ジオレフィン共重合体水素添加物等の合成ゴム系粘着剤等があげられる。」と記載されており、粘着剤として、熱可塑性スチレン-ジオレフィン共重合体水素添加物等の合成ゴム系粘着剤が含まれていることがわかる。
したがって、引用文献3には次のとおりの発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「粘着剤層が熱可塑性スチレン-ジオレフィン共重合体水素添加物からなる合成ゴム系粘着剤で形成され、剥離処理層を構成する樹脂がポリオレフィン系樹脂であり、前記剥離処理層の中心面表面粗さ(SRa)が0.2?1.5μmの範囲内であり、メルトフローレート(MFR:230℃、21.18N荷重)が1?50g/10分であるプロピレン系樹脂からなる基材層の片面に粘着剤層を、反対面に剥離処理層を共押出により積層してなる表面保護用フィルム。」

5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(引用文献1(甲第2号証)を引用発明とした特許法第29条第2項(進歩性)の検討)

(1)本件発明1について

ア 本件発明1と引用発明1とを対比すると、前者は粘着層、離型層及び基材層からなり、後者は粘着層、表面層及び基材層からなるから、いずれも三層からなる点で共通する。
また、上記三層の積層については、前者においては「基材層の片面に粘着層を、反対面に離型層を共押出」することが特定され、後者においては「基材層の片面に粘着層を、反対面に表面層を共押出」することが特定されているから、三層を同時に共押出する点で共通する。
さらに、引用発明1の粘着層を構成する樹脂としての「SEBS」は、スチレン系エラストマーであって、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体の水素添加物であるから、本件発明1における「スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)」に相当している。
同様に、粘着層を構成する樹脂としての「SIBS」は、スチレン系エラストマーであって、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体であるから、本件発明1における「スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)」に相当している。
そして、引用発明1の粘着層を構成する樹脂としての「PP-3」は、ホモポリプロピレンであるから、本件発明1における「ポリオレフィン系樹脂」に相当し、引用発明1の該「PP-3」について、「配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%」であることは、本件発明1における「ポリオレフィン系樹脂の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%以下」であることに相当している。
加えて、引用発明1における表面層を構成する樹脂は「PP-1」(ホモポリプロピレン)及び「OL-1」(4-メチルペンテン-1とデセン-1とのオリゴマー)であるところ、これらは本件発明1の離型層を構成する樹脂である「ポリプロピレン系樹脂」及び「炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体」にそれぞれ相当する。
さらに加えて、引用発明1における基材層を構成する樹脂としての「PP-2:ホモポリプロピレン」は、本件発明1における基材層を構成する「ポリプロピレン系樹脂」に相当する。
そして、引用発明1の「表面層」と本件発明1の「離型層」は、両者とも、基材層における粘着層が積層される面とは反対の面に積層される「表層」である点で少なくとも一致している。

イ してみると、本件発明1と引用発明1とは、

「粘着層を構成する樹脂が、スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)と、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも含み、ポリオレフィン系樹脂の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%であり、表層を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を少なくとも含み、ポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面に粘着層を、反対面に表層を共押出により積層してなることを特徴とするフィルム。」

である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点1>
表層について、本件発明1は、「離型層」であるのに対して、引用発明1は、「表面層」である点。

<相違点2>
本件発明1は、「ポリオレフィン系フィルム」であるのに対して、引用発明1は、「表面保護フィルム」である点。

<相違点3>
本件発明1は、「炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体」の配合量が「離型層を構成する樹脂成分中7重量%以上24重量%以下」であるのに対して、引用発明1の「OL-1」(本件発明1における「炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体」に相当)の配合量は「表面層を構成する樹脂成分中5重量%」である点。

<相違点4>
本件発明1は、「離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下」と特定しているのに対して、引用発明1においては特定されていない点。

<相違点5>
粘着層におけるスチレン系エラストマーの配合量に関し、本件発明1は、「粘着層を構成する樹脂成分中60重量%以上95重量%以下」であるのに対して、引用発明は「粘着層を構成する樹脂成分中50重量%」である点。
ウ 上記相違点について検討する。

<相違点1について>
本件発明の課題とその解決手段について、本件明細書の【0007】及び【0008】には、「本発明が解決しようとする課題は、被覆体に対して強い粘着力を示し様々な被覆体に使用可能でありながら、粘着フィルムをロール状態で保管し、その後フィルムを繰出す際にも、フィルムが部分的に伸長したり、変形する等の問題が起き難く、フィルムの加工適性に優れる自己粘着性表面保護フィルムを提供することにある。すなわち、本発明は、表面荒れの転写が生じず、かつ粘着性を抑制することなく、良好な剥離性及び製膜性を有するポリオレフィン系フィルムを提供することを目的とする。」、「本発明者らは、鋭意検討した結果、粘着層に使用する樹脂の配合比を所定の範囲とし、また離型層に使用する樹脂の配合比や表面粗さを所定の範囲とすることで上記の課題を解決できることを見出し、本発明に到達したものである。」と記載されていることからすれば、本件発明は、粘着フィルムをロール状態から繰り出す際の剥離性を課題の一つとして含んでいたところ、「離型層」等に工夫を施してその課題を解決したものであるといえる。
他方、引用発明1における「表面層」に関し、引用文献1には、上記記載事項1-A?1-Cによれば、粘着層に離型フィルムを貼り合わせなくても、ロール状態からの繰り出し性に優れた表面保護フィルムを提供することを課題の一つとしていたところ、特定の樹脂組成物からなる表面層等を有する表面保護フィルムとしたことにより、該課題を解決した旨記載されている。
すなわち、本件発明における「離型層」と、引用発明1における「表面層」は、ロール状態からの繰り出し性を良好にする層として同一の機能を有するものであり、しかも、既に述べたように、両者とも同一の材料から構成されている。
したがって、本件発明における「離型層」と、引用発明1における「表面層」は同一のものであって、相違点1は、実質的なものではない。

<相違点2について>
本件明細書の【0039】には、「本発明のポリオレフィン系フィルムは、上記樹脂成分を含む基材層、粘着層、離型層の各層から構成」されると記載され、また、【0041】には、製造時の自動車ボディーなどの表面を保護したり、製造工程で搬送する際の傷付きから保護する用途に用いる旨記載されているから、本件発明1の「ポリオレフィン系フィルム」は、「表面保護フィルム」として使用することができるものである。他方、引用発明1も、上記相違点1についての検討を踏まえれば、基材層、粘着層、離型層(表面層)の各層から構成された、表面保護フィルムであり、その素材からみて、「ポリオレフィン系フィルム」であることは明らかである。
そうすると、引用発明1における「表面保護フィルム」は、本件発明1における「ポリオレフィン系フィルム」の一利用形態に相当するといえ、相違点2は実質的なものではない。

<相違点3について>
引用文献1における上記記載事項1-Dによれば、「炭素数4以上のα-オレフィンを主成分とするオレフィン(共)重合体(a-2)」(本件発明1における「炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体」に相当)の配合量を1重量%?30重量%(表面層を構成する樹脂全体における配合量)とすることが記載されている。
したがって、引用発明1の「炭素数4以上のα-オレフィンを主成分とするオレフィン(共)重合体(a-2)」の配合量は、「5重量%」に限定されるものではなく、引用発明1において、「炭素数4以上のα-オレフィンを主成分とするオレフィン(共)重合体(a-2)」の配合量を「1重量%?30重量%」という示唆に基づいて、これを最適化し、「7重量%以上24重量%以下」と特定することが、当業者にとって格別困難な事項であるとまではいえない。

<相違点4について>
表面保護フィルムに関する技術分野においては、例えば引用文献2の【0004】に記載されているように、「粘着層と表面層とを有する表面保護フィルムをロール状に巻き取ると、フィルムの表面層と粘着層とが固着して、いわゆるブロッキングが生じることがある」ことは周知の課題であり、そして、同文献2の【0022】に記載されているように、表面層と粘着層の剥離性については、表面状態に関連していると考えられており、「好ましい表面状態とは、一定の凹凸がある面を意味し、・・・(略)・・・接触面積が低減すれば、粘着層との固着が抑制される」ものであり、表面状態を示すパラメータの一つが表面粗さRaであることは周知技術であるといえる。
具体的には、例えば、引用文献2には、【0023】において、「平均表面粗度Raは、0.20?2.00μmであることが好ましい」と記載されており、また、引用文献3には、表面保護フィルムに関し、フィルムの剥離性を向上させてロール状態からの繰出性能を改善するという課題(【0006】、【0046】)に対し、「フィルム表面を荒らして凹凸を形成し剥離性を向上させるには、フィルム表面の凹凸は、中心面平均粗さ(SRa)で0.2?1.5μmである」(【0048】)ことが記載されている(同様に、特開2011-126193号公報:請求項1、【0014】、特開2011-190370号公報:請求項2、国際公開第2011/096350号、請求項1、[0022]、特開2010-247513号公報:請求項1、【0011】等参照)。
なお、表面粗さについては、本件発明における三次元中心面表面粗さ(SRa)と、上記引用文献2等における、JIS-B0601-1994に準じた、算術平均表面粗さ(平均表面粗度)(Ra)が存在するが、本件明細書にはフィルム表面粗さに方向性や特定の分布があるとの記載がないこと、及び、表面粗さに方向性や特定の分布のない通常のフィルムであれば、その三次元中心面表面粗さの値と算術平均表面粗さの値とは、具体的な測定条件の違いを考慮したとしてもほぼ同様になるものと推測できる。
したがって、表面保護フィルムに関する技術分野において、フィルムを繰出す際のブロッキングを防止して、剥離性を向上させるという周知の課題に対し、表面粗さを特定することによって該課題を解決しようとする当業者からすれば、引用発明において、フィルム表面に凹凸を設け、フィルムの表面粗さを特定するという周知技術(引用文献2、3等)を採用し、最適化を行うことで、フィルム表面の中心面平均粗さ(SRa)を「0.20μ以上0.50μm」に特定することは、当業者にとって格別困難な事項であるとまではいえない。

<相違点5について>
粘着層(離形層)におけるスチレン系エラストマーの配合量に関し、引用文献1には、好適な範囲が記載されているとはいえないが、粘着層(離形層)については「表面保護フィルムの粘着層として使用されている公知の粘着剤であれば使用することが可能」(【0019】)と記載されており、他方、引用文献1と同じく表面保護フィルムに関する引用文献3の【0045】には、「本発明に用いられるプロピレン系樹脂に上記粘着剤を配合して使用する場合、本発明に用いられるプロピレン系樹脂および粘着剤の合計を100重量%としたとき、プロピレン系樹脂の含有量が1?99重量%であり、粘着剤の含有量が99?1重量%である。好ましくはプロピレン系樹脂の含有量が5?75重量%であり、粘着剤の含有量が95?25重量%、より好ましくは、プロピレン系樹脂の含有量が10?50重量%であり、粘着剤の含有量が50?90重量%である。」との記載がある。
したがって、引用発明1に基づいて、粘着剤の配合量を最適化し、粘着剤の含有量を60?95重量%の範囲内とする程度のことは、当業者にとって格別困難な事項であるとまではいえない。

<本件発明1の効果について>
上記のとおり、相違点3?5についてそれぞれ検討した場合、当業者は相違点3?5に係る構成に容易に想到し得たものであるといえるが、相違点3?5に係る構成を同時に採用したときに生じる本件発明1の特有の効果については、以下に述べるとおり、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
本件発明は、「表面荒れの転写が生じず、かつ粘着性を抑制することなく、良好な剥離性及び製膜性を有するポリオレフィン系フィルムを提供すること」を課題とし、「粘着層に使用する樹脂の配合比を所定の範囲とし、また離形層に使用する樹脂の配合比や表面粗さを所定の範囲とすることで上記の課題を解決できる」(【0008】)としたものであって、つまり本件発明は、粘着層及び離形層を独立に最適化するというものではなく、両者が互いに関係していることを前提として両者のバランスをはかり、両者を特定のものにした場合に上記課題を解決したというものであるといえる。
そして、本件発明の実施例においては、粘着層が本件発明1に係る構成を満足していても離形層が本件発明1に係る構成を満足していなければ(比較例1?3)、あるいは逆に、離形層が本件発明1に係る構成を満足していても粘着層が本件発明1に係る構成を満足していなければ(比較例4)、剥離力が強すぎる(比較例1、2、4)又は製膜性が悪い(比較例3)点で上記課題を解決することができないのに対し、離形層及び粘着層の両者を共に本件発明1で特定された範囲とした場合(実施例1?6)は、剥離力及び製膜性を含むすべての課題を同時に解決できることが具体的に示されている。
他方、引用発明1は、「粘着特性、透明性、耐熱性、及びロールからの繰出し性に優れた表面保護フィルムを提供すること」(【0007】)を課題とし、「ある特定の樹脂組成物からなる表面層(本件発明の「離形層」に相当する。)を有する表面保護フィルム」(【0008】)とすることで該課題を解決するものであるところ、引用文献1には、粘着層については「表面保護フィルムの粘着層として使用されている公知の粘着剤であれば使用することが可能」(【0019】)と記載されているだけであって、粘着層に使用する樹脂の種類及び配合比を特定のものとし、これを、特定の樹脂の種類、配合比、及び、表面粗さを有する表面層と組み合わせて用いることにより、上記課題に関する効果をバランスよく改善するという技術思想までは記載されていない。
また、引用文献2、3をみても、離形層及び表面層における最適の配合成分、表面粗さ、及び、粘着層における最適の配合の組み合わせを考慮するという技術思想は記載されていないし、そのような技術思想が周知技術であるともいえない。
そうすると、離形層について、「炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が離型層を構成する樹脂成分中7重量%以上24重量%以下」とし、かつ、「離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下」と特定すると同時に、さらに粘着層にも着目し、離形層との関係を踏まえて、「粘着層を構成する樹脂成分中60重量%以上95重量%以下」とすることにより、本件発明1のように好ましい効果が得られることは、当業者であっても、容易に想到しうるものであるとはいえない。
したがって、本件発明1は、引用発明1、引用文献1?3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(2)申立人の主張について

申立人は、平成30年5月9日付け意見書において、「引用文献3(特開2009-241596号公報:甲第1号証)には、下記の通り、表面保護用フィルムの粘着層を構成する樹脂成分中の粘着剤(スチレン系エラストマー)の配合量を、50?90重量%にすることが記載されているので、粘着層を構成する樹脂成分中のスチレン系エラストマーの配合量を、60重量%以上95重量%以下とすることは、範囲がほぼ重なる引用文献3に基づき当業者が適宜選択できることである。」、「粘着層を構成する樹脂成分中のスチレン系エラストマーの配合量を追加した訂正発明は、依然として、引用発明1、引用文献1(甲第2号証)、3(甲第3号証)に記載された事項、及び、周知事項(特開2011-42757号公報)に基づいて当業者が容易に想到できる発明であるから、本件訂正後の請求項1、2、4、5に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。」と主張している。
確かに、申立人が主張するように、粘着層におけるエラストマーの配合量のみに着目した場合は、引用文献3の「50?90重量%」との記載から「60重量%以上95重量%以下」とすることは当業者にとって格別困難な事項であるとまではいえない。
しかしながら、上記「本件発明の効果について」で述べたとおり、本件発明は、粘着層におけるエラストマーの配合量のみでなく、離形層における「炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体」の配合量、及び、離型層の表面粗さ(SRa)をすべて考慮したものであって、これらを特定の範囲とすることにより好ましい効果が得られることは、当業者であっても、容易に想到しうるものであるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(3)本件発明2、4、5について

上記(1)のとおり、本件発明1は、引用発明1、引用文献1?3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2、4、5についても同じ理由により、引用発明1、引用文献1?3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について

(1)引用文献1(甲第2号証)を引用発明とした特許法第29条第1項第3号(新規性)について

上記「5 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について」において、引用文献1(甲第2号証)を引用発明とした特許法第29条第2項(進歩性)を検討したとおり、本件発明1、2、4、5は、引用発明1、引用文献1?3に記載された事項、及び、周知技術に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないのであるから、本件発明1は引用文献1(甲第2号証)に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号には該当しないのは明らかである。

(2)引用文献3(甲第1号証)を引用発明とした特許法第29条第1項第3号(新規性)及び同法第29条第2項(進歩性)について

ア 本件発明1について

(ア)本件発明1と引用発明3とを対比すると、前者は粘着層、離型層及び基材層からなり、後者は、粘着剤層、剥離処理層及び基材層からなるから、いずれも三層からなる点で共通する。
また、上記三層の積層については、前者においては「基材層の片面に粘着層を、反対面に離型層を共押出」することが特定され、後者においては「基材層の片面に粘着剤層を、反対面に剥離処理層を共押出」することが特定されているから、三層を同時に共押出する点で共通し、前者の「粘着層」は、後者の「粘着剤層」に相当している。そして、前者の「離型層」と後者の「剥離処理層」は、両者とも、基材層における粘着層が積層される面とは反対の面に積層される「表層」である点で少なくとも一致している。
粘着層(粘着剤層)を構成する樹脂について、引用発明3の「熱可塑性スチレン-ジオレフィン共重合体水素添加物」は、スチレン系エラストマーであって、スチレン系重合体とオレフィン系重合体との共重合体の水素添加物であるから、本件発明1における「スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)」に相当している。
表層(離型層、剥離処理層)を構成する樹脂について、本件発明1においては、「ポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体」を少なくとも含み、引用発明3においては、「ポリオレフィン系樹脂」を含むことから、両者は少なくとも、「ポリオレフィン系樹脂」を含むといえる。
また、上記表層について、本件発明1における「離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下」と、引用発明3における「剥離処理層の表面粗さ(SRa)が0.2?1.5μm」とを対比すると、両者は、「表層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下」という範囲で重複している。
基材層について、本件発明1の「ポリプロピレン系樹脂」は、引用発明の「プロピレン系樹脂」に相当している。

(イ)してみると、本件発明1と引用発明3とは、

「粘着層を構成する樹脂が、スチレン系エラストマー(スチレン系重合体とオレフィン系重合体との共重合体の水素添加物)であって、表層を構成する樹脂がポリオレフィン系樹脂であり、表層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下であり、ポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面に粘着層を、反対面に表層を共押出により積層してなるフィルム。」

である点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点1’>
表層について、本件発明1は、「離型層」であるのに対し、引用発明3は、「剥離処理層」である点。

<相違点2’>
本件発明1は、「ポリオレフィン系フィルム」であるのに対し、引用発明3は、「表面保護用フィルム」である点。

<相違点3’>
粘着層(粘着剤層)を構成する樹脂に関し、本件発明1は、「スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)と、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも含み、ポリオレフィン系樹脂の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%以下」(以下「構成A」という。)と特定しているのに対し、引用発明3は、「スチレン系エラストマー(スチレン系重合体とオレフィン系重合体との共重合体の水素添加物)」として特定しているのみである点。

<相違点4’>
表層(剥離処理層、離型層)を構成する樹脂に関し、本件発明1においては、「離型層を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を少なくとも含み、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が離型層を構成する樹脂成分中7重量%以上24重量%以下」(以下「構成B」という。)と特定しているのに対し、引用発明3においては、「ポリオレフィン系樹脂」として特定しているのみである点。

<相違点5’>
粘着層におけるスチレン系エラストマーの配合量に関し、本件発明1は、「粘着層を構成する樹脂成分中60重量%以上95重量%以下」であるのに対して、引用発明はその特定がない点。

(ウ)上記相違点について検討する。

<相違点1’について>
上記「5 本件発明と引用発明1との対比・検討」の「相違点1」において既に述べたとおり、本件発明は、粘着フィルムをロール状態から繰り出す際の「剥離性」を課題の一つとして含んでいたところ、離型層等に工夫を施してその課題を解決したものであるといえる。
他方、引用発明3における「剥離処理層」に関し、引用文献3には、上記記載事項3-Eの【0046】によれば、「フィルムの剥離処理層側表面を荒らして凹凸を形成し剥離性を向上させた層」であることが記載されている。
したがって、本件発明における「離型層」と、引用発明3における「剥離処理層層」は、剥離性を良好にする層として同一の機能を有するものであるから、本件発明1における「離型層」と、引用発明3における「剥離処理層」は同一のものであって、相違点1は、実質的なものではない。

<相違点2’について>
上記「5 本件発明と引用発明1との対比・検討」において既に述べたとおり、本件発明1の「ポリオレフィン系フィルム」は、「表面保護用フィルム」として使用することができるものである。他方、引用発明3も、上記相違点1’についての検討を踏まえれば、基材層、粘着層、離型層(剥離処理層)の各層から構成された、表面保護用フィルムであり、その素材からみて、「ポリオレフィン系フィルム」であることは明らかである。
そうすると、引用発明3における「表面保護用フィルム」は、本件発明1における「ポリオレフィン系フィルム」の一利用形態に相当するといえ、相違点2’は実質的なものではない。

<相違点3’について>
粘着剤層を構成する樹脂について、上記記載事項3-Eの【0045】には、プロピレン系樹脂に粘着剤を配合することができ、該プロピレン系樹脂と粘着剤の合計を100重量%としたとき、プロピレン系樹脂の含有量が5?75重量%である旨記載されている。すなわち、引用文献3には、スチレン系重合体とオレフィン系重合体との共重合体の水素添加物等の粘着剤と、プロピレン系樹脂とを、プロピレン系樹脂の含有量が5?75重量%となるように配合することができる旨記載されているといえる。
ただ、具体的に示されているのは、例えば実施例9において、粘着剤として「WFX4(プロピレン・エチレンランダム共重合体):10w%」と、「ダイナロン1321P(スチレン-ブタジエンランダム共重合体):90w%」とを配合して用いた場合が記載されているのみで、スチレン系エラストマーとして、ブロック共重合体でなくランダム共重合体を用いている点で、本件発明1における構成Aを満たすものは具体的に記載されていない。
しかしながら、上記記載事項3-Dの【0035】には、「熱可塑性スチレン-ジオレフィン共重合体水素添加物は、ブロック共重合体であっても、ランダム共重合体であってもよい。好ましくはブロック共重合体である。」と記載されており、ランダム共重合体をブロック共重合体に替える程度のことは当業者が適宜行い得ることであるといえる。また、例えば、引用文献3の実施例9において「外層-粘着層間剥離性」の評価が「○」となっていることからすれば、引用発明3をもとに、剥離性の観点から粘着剤層に用いる樹脂の配合比を調整し、構成Aを採用する程度のことは、当業者ならば適宜行い得るといえる。

<相違点4’について>
剥離処理層を構成する樹脂について、上記記載事項3-Eの【0047】及び【0052】には、「プロピレン単独重合体」に「プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体」を配合したものを用いることができること、及び、「プロピレン単独重合体」と「プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体」との配合比については、「プロピレン単独重合体」95?50重量%、「プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体」5?50重量%とすることが記載されている。
また、上記記載事項3-Eの【0049】には、「共重合成分のα-オレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテンなどが挙げられる。」と具体的に記載され、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数4以上のα-オレフィンが記載されていることから、上記「プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体」として、「プロピレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体」が包含されているといえる。
ただ、実施例には、「プロピレン単独重合体」と「プロピレン・炭素数4以上のα-オレフィン共重合体」とを共に配合したものはない。
しかしながら、「プロピレン単独重合体」と「プロピレン・α-オレフィンブロック共重合体」とを配合することは当業者にとって適宜行い得ることであるか否かについて検討すると、上記記載事項3-Eの【0047】には、「フィルムの剥離処理層側表面を荒らして凹凸を形成し剥離性を向上させた層は、剥離処理層表面の中心面平均粗さ(SRa)が下記の測定条件(B1)?(B6)において0.2?1.5μmの範囲内であれば、使用される樹脂は特に限定されるものではなく、公知の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂、またはそれらの混合物でもよい。」と記載されており、本件発明と同じく、剥離性の観点から配合を調整しているといえることからすれば、実施例において具体的に使用されていないとはいえ、上記のとおり、引用文献3において本件発明1で特定されている、離型層(剥離処理層)に用いる樹脂が示唆されている以上、引用発明3をもとに、構成Bを採用する程度のことは、当業者が適宜行い得るといえる。

<本件発明1の効果について>
上記のとおり、粘着層(粘着剤層)に関する相違点3’、及び、離型層(剥離処理層)に関する相違点4’について、それぞれ当業者が適宜行い得ることであるといえるとしても、相違点3’及び相違点4’の両者を合わせて考慮すると、本件発明1は、引用発明3、及び、引用文献3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
すなわち、本件発明1の効果について検討するに、本件明細書に記載された「比較例」をみると(【表3】)、粘着層について構成Aは満たすが構成Bは満たさないもの(比較例1?3)、構成Bは満たすが構成Aは満たさないもの(比較例4)が共に記載されており、構成A及び構成Bが揃って初めて、良好な剥離性と製膜性に加え、粘着力にも優れるという有利な効果を奏することが記載されているといえる(実施例1?6)。
他方、引用文献3においては、構成A及び構成Bをそれぞれ剥離性の観点から検討しうることが記載されているとしても、構成A及び構成Bを共に有することで良好な剥離性と製膜性に加え、粘着力にも優れた粘着フィルムが得られることは、記載も示唆もされていない。
したがって、相違点3’及び相違点4’に係る構成の組み合わせを有する本件発明1は、引用発明3、及び、引用文献3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

(エ)小括
上記(ア)?(ウ)のとおりであるから、相違点5’については検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明3と同一ではなく、また、引用発明3、及び、引用文献3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるともいえない。

イ 本件発明2、4、5について

上記アのとおり、本件発明1は、引用発明3と同一ではなく、また、引用発明3、及び、引用文献3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到し得るものであるともいえないのであるから、本件発明1を引用する本件発明2、4、5についても同じ理由により、引用発明3と同一ではなく、また、当業者が容易に想到し得るものであるともいえない。


第4 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1、2、4、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件訂正により、請求項3は削除されたのであるから、請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリオレフィン系フィルム
【技術分野】
【0001】
本発明はポリオレフィン系フィルムに関する。本発明のポリオレフィン系フィルムは、光学用途に用いられているプリズムシート等の部材、合成樹脂板(例えば、建築資材用)、ステンレス板(例えば、建築資材用)、アルミ板、化粧合板、鋼板、ガラス板、家電製品、精密機械等に使用することができる。また、前記ポリオレフィン系フィルムは、製造時の自動車ボディーの表面を保護するため、物品を積み重ねたり、保管したり、輸送したり、製造工程で搬送する際の傷付きから保護するため、ならびに、物品を二次加工する(例えば、曲げ加工やプレス加工)際の傷付きから保護するために好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来から、被覆体の表面保護を目的とした粘着フィルムは、建築資材や電気、電子製品、自動車等の加工、保管、輸送時に用いられており、このような粘着フィルムは、良好な粘着性を有するとともに、使用後は、各表面を粘着剤で汚染することなく容易に引き剥がすことができなければならない。
【0003】
上記した被覆体は近年、その多様化が進み、被覆面が平滑なものだけでなく表面凹凸を有するものも多数見受けられる。表面凹凸を有する被覆体としては、例えば光学部材に用いられているプリズムシートのプリズム型のレンズ部等が挙げられる。プリズムシートのような表面凹凸を有する被覆体に対して、使用上充分な粘着力を発現させるためには、接触面積が小さくても粘着力が得られるように粘着層の粘着力を高くする等が考えられる。
【0004】
粘着層の粘着力を高くするには、樹脂として高い粘着力を示すスチレン系エラストマー等を主成分として使用することで可能であるが、粘着層の粘着力を高くすると、フィルムをロール状態で保管し、その後フィルムを繰出す際に、ブロッキングが生じ、フィルムが部分的に伸長したり、変形する等の問題が生じる。
【0005】
上記の対策として、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を離型層に使用することでフィルムを繰出す際のブロッキングの改善が試みられている(例えば、特許文献1等参照。)。しかし、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を50重量%以上含む離型層をポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面にTダイ等を用いてポリプロピレン系樹脂を押出す一般的な温度で共押出製膜により積層しようとすると、離型層の製膜性が悪くなるといった不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-42757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、被覆体に対して強い粘着力を示し様々な被覆体に使用可能でありながら、粘着フィルムをロール状態で保管し、その後フィルムを繰出す際にも、フィルムが部分的に伸長したり、変形する等の問題が起き難く、フィルムの加工適性に優れる自己粘着性表面保護フィルムを提供することにある。すなわち、本発明は、表面荒れの転写が生じず、かつ粘着性を抑制することなく、良好な剥離性及び製膜性を有するポリオレフィン系フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、粘着層に使用する樹脂の配合比を所定の範囲とし、また離型層に使用する樹脂の配合比や表面粗さを所定の範囲とすることで上記の課題を解決できることを見出し、本発明に到達したものである。
即ち、本発明は粘着層を構成する樹脂が、スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)と、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも含み、前記スチレン系エラストマーの配合量が粘着層を構成する樹脂成分中60重量%以上95重量%以下であり、ポリオレフィン系樹脂の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%以下であり、離型層を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を少なくとも含み、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が離型層を構成する樹脂成分中7重量%以上24重量%以下であり、前記離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下であり、
ポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面に粘着層を、反対面に離形層を共押出により積層してなることを特徴とするポリオレフィン系フィルムに係るものである。
【0009】
この場合において、前記炭素数4以上のα-オレフィン共重合体が4-メチルペンテン-1系(共)重合体であることが好適である。
【0010】
(削除)
【0011】
また、この場合において、前記基材層および離型層に使用するポリプロピレン系樹脂のMFRが(230℃、2.16Kgf)が1.0?15g/10分であることが好適である。
【0012】
さらにまた、この場合において前記粘着層に使用するスチレン系エラストマーのMFR(230℃、2.16Kgf)が0.5?20g/10分であることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるポリオレフィン系フィルムは、被覆体に対して強い粘着力を示し様々な被覆体に使用可能でありながら、粘着フィルムをロール状態で保管し、その後フィルムを繰出す際にも、フィルムが部分的に伸長したり、変形する等の問題が起き難く、フィルムの加工適性に優れるという利点を有する。すなわち、本発明によれば、表面荒れの転写が生じず、かつ粘着性を抑制することなく、良好な剥離性及び製膜性を有するポリオレフィン系フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のポリオレフィン系フィルム(粘着フィルム)の実施の形態を説明する。
【0015】
(基材層)
本発明のポリオレフィン系フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分とする基材層を必要とし、ここで用いるポリプロピレン系樹脂としては、結晶性ポリプロピレン、プロピレンと少量のα-オレフィンとのランダム共重合、ブロック共重合体等を挙げることができ、さらに詳しくは、結晶性ポリプロピレン樹脂として、通常の押出成形などで使用するn-ヘプタン不溶性のアイソタクチックのプロピレン単独重合体又はプロピレンを60重量%以上含有するプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体を挙げることができ、このプロピレン単独重合体あるいはプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体を、単独又は混合して使用することができる。基材層にはプロピレン単位が50重量%以上含まれていることが好ましく、さらには60重量%以上含まれていることが好ましい。プロピレンが50重量%未満であると、フィルムに腰感がなくなり、取り扱いが困難になることがある。
ここで、n-ヘプタン不溶性とは、ポリプロピレンの結晶性を指標すると同時に安全性を示すものであり、本発明では、昭和57年2月厚生省告示第20号によるn-ヘプタン不溶性(25℃、60分抽出した際の溶出分が150ppm以下〔使用温度が100℃を超えるものは30ppm以下〕)に適合するものを使用することが好ましい態様である。
【0016】
プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体のα-オレフィン共重合成分としては、炭素数が2?8のα-オレフィン、例えば、エチレンあるいは1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンなどのC4以上のα-オレフィンが好ましい。ここで共重合体とは、プロピレンに上記に例示されるα-オレフィンを1種又は2種以上重合して得られたランダム又はブロック共重合体であることが好ましい。使用するポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR:230℃、2.16Kgf)は、1.0?15g/10minの範囲が好ましく、2.0?10.0g/10minの範囲がより好ましい。また、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体を2種以上混合して使用することもできる。
またさらに、本発明で得られたフィルムを製品加工する際に出た屑フィルムを回収原料として再造粒し、基材層に添加することもできる。回収原料を使用することにより、生産コストを抑えることが可能である。
【0017】
(粘着層)
本発明における粘着層は、スチレン系エラストマー及びポリオレフィン系樹脂を必須とし、高い粘着力を発現させるためにスチレン系エラストマーを用いることが必要である。また、粘着力とロール状態からのフィルムの繰出し性を考慮しポリオレフィン系樹脂を5重量%以上25重量%以下含む。ポリオレフィン系樹脂を添加することにより、粘着面側からも離型面に対する剥離力を低くすることができる。また、粘着力のコントロールのために必要に応じ粘着付与樹脂、軟化剤を混合することもできる。
【0018】
スチレン系エラストマーは、スチレン-ブタジエン-スチレン、スチレン-イソプレン-スチレン、スチレン-エチレン/ブチレン共重合体-スチレン、スチレン-エチレン/プロピレン共重合体-スチレン等のA-B-A型ブロックポリマー、スチレン-ブタジエン、スチレン-イソプレン、スチレン-エチレン/ブチレン共重合体、スチレン-エチレン/プロピレン共重合体等のA-B型ブロックポリマー、スチレン-ブタジエンラバー等のスチレン系ランダム共重合体およびそれらの水素添加物を挙げることができる。
使用するスチレン系エラストマーのメルトフローレート(MFR:230℃、2.16Kgf)は、0.5?20g/10分の範囲が好ましく、2.0?10.0g/10分の範囲がより好ましく、3?10g/10分の範囲がさらに好ましく、4?7g/10分の範囲が特に好ましい。
【0019】
粘着層においてスチレン系エラストマーの量は、60重量%以上、95重量%以下であり、より好ましくは70重量%以上、95重量%以下である。
【0020】
スチレン系エラストマー中のスチレン成分は5重量%以上、30重量%以下であることが望ましい。5重量%未満であるとレジン作製時の造粒が困難となり、25重量%を超えストマー中のスチレン成分が好ましくは10重量%以上、20重量%以下、より好ましくは10重量%以上、15重量%以下である。また、スチレン系エラストマー中のスチレン成分以外の成分は、エチレン、ブチレン等の成分から構成されることが好ましく、スチレン成分以外の成分量は、スチレン系エラストマー中好ましくは70?95重量%、より好ましくは75?90重量%、さらに好ましくは80?90重量%、さらにより好ましくは85?90重量%である。
【0021】
ポリオレフィン系樹脂は特に限定されず、結晶性ポリプロピレン、プロピレンと少量のα-オレフィンとの共重合体、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンと少量のα-オレフィンとの共重合体、エチレンと不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、ポリスチレン等が挙げられる。中でもポリプロピレン系樹脂は基材層がポリプロピレン系樹脂で構成されるため、溶融粘度等の関係からも好適に用いることができる。使用するポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR:230℃、2.16Kgf)は、1.0?100.0g/10minの範囲が好ましく、2.0?30.0g/10minの範囲がより好ましく、2?10g/10minの範囲がさらに好ましく、2?7g/10minの範囲が特に好ましい。
【0022】
粘着層(粘着層を構成する樹脂成分)中のポリオレフィン系樹脂の配合量は、5重量%以上、25重量%以下の範囲である。ポリオレフィン系樹脂の配合量が25重量%を超えると使用する樹脂によっては粘着力が低下し充分な粘着力が得られない。ポリオレフィン系樹脂の配合量が5重量%未満であると粘着層の粘着力変化に寄与しない。また、フィルム粘着層の離型層に対する剥離力にも寄与しない。ポリオレフィン系樹脂の配合量は好ましくは6重量%以上、18重量%以下であり、より好ましくは6重量%以上、15重量%以下である。
粘着層におけるスチレン系エラストマーとポリオレフィン系樹脂との重量比(スチレン系エラストマー/ポリオレフィン系樹脂)は、好ましくは75/25?95/5、より好ましくは82/18?94/6、さらに好ましくは85/15?94/6である。
粘着付与樹脂は、例えば脂肪族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、脂環族炭化水素樹脂、テルペン樹脂、クマロン・インデン樹脂、スチレン系樹脂、ロジン樹脂等を挙げることができ、中でも脂環族炭化水素樹脂(例えば石油樹脂)が好ましい。粘着付与樹脂の分子量は特に制限されず適宣に設定できるが、分子量が小さくなると粘着層からの被着体への物質移行や重剥離化等の原因となるおそれがあり、一方、分子量が大きくなると接着力の向上効果に乏しくなる傾向があることから、粘着付与樹脂の数平均分子量は1000?10万程度が好ましい。粘着層中の粘着付与樹脂の配合量は好ましくは5重量%以上、30重量%以下の範囲である。粘着付与樹脂の配合量が30重量%を超えると、粘着付与樹脂の分子量が低いため溶融粘度が極端に低くなり、Tダイ等を用いた共押出製膜を行う際にポリプロピレン系樹脂を主成分とした基材層との積層が困難となることがある。また、粘着層中の粘着付与樹脂の配合量が5重量%未満であると粘着層の粘着力変化に寄与しない虞がある。粘着付与樹脂の配合量はより好ましくは6重量%以上、25重量%以下であり、さらに好ましくは6重量%以上、20重量%以下、さらにより好ましくは6重量%以上、15重量%以下、特に好ましくは6重量%以上、10重量%以下である。
【0023】
軟化剤としては、例えば、低分子量のジエン系ポリマー、ポリイソブチレン、水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエンやそれらの誘導体、ポリブテン等を挙げることができる。軟化剤の分子量は特に制限されず適宣に設定できるが、分子量が小さくなると粘着層からの被着体への物質移行や重剥離化等の原因となるおそれがあり、一方、分子量が大きくなると接着力の向上効果に乏しくなる傾向があることから、軟化剤の数平均分子量は1000?10万程度が好ましい。
【0024】
また、粘着層に使用する粘着付与樹脂や軟化剤は、種類によっては液体や粉体であり、押出時に押出機を汚す物もある。このような問題は粘着付与樹脂や軟化剤をポリオレフィン系樹脂とマスターバッチ化して使用することで改善されるため、粘着付与樹脂や軟化剤をポリオレフィン系樹脂とマスターバッチ化して使用するほうが好ましい。
【0025】
粘着層におけるスチレン系エラストマーと粘着付与樹脂とポリオレフィン系樹脂との重量比(スチレン系エラストマー/粘着付与樹脂/ポリオレフィン系樹脂)は、好ましくは45/25/30?90/5/5、より好ましくは60/20/20?90/5/5、さらに好ましくは70/15/15?90/5/5である。
【0026】
本発明のポリオレフィン系フィルムの粘着力は23℃において、アクリル板に対し200?900cN/25mmの範囲であることが、様々な被覆体に使用することを考慮すると好ましい。粘着力が200cN/25mm未満であると被覆体によっては保護する際にめくれ等が生じ、保護フィルムとしての機能を担えない。一方、粘着力が900cN/25mmを超えると被覆体からフィルムを剥離する際にスムーズに剥離できない恐れがある。粘着力は粘着層の樹脂組成や厚みなどを変更することにより、適宜設定することが可能である。粘着力は、より好ましくは300cN/25mm以上、900cN/25mm以下、さら好ましくは400cN/25mm以上、800cN/25mm以下である。
【0027】
本発明のポリオレフィン系フィルムは、公知の添加剤を必要に応じて含有させたりすることができる。例えば、滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃改良剤などを含有させたりしても良い。但し、粘着層表面の低分子量物質を1mg/m2未満にすることが好ましい。
ここで、粘着層表面の低分子量物質の測定は、次の手順にて実施した。粘着層表面をエタノール等の粘着層を構成する樹脂を侵食しない有機溶剤を用いて洗浄後、その洗浄液から有機溶剤をエバポレーター等で除去した後、その残渣を秤量して求めた数値を洗浄した粘着層表面の表面積で割り、求めた。ここで、残渣が1mg/m2以上存在すると粘着層表面と被着体表面の間に異物が存在する事となり、接触面積を減らし、ファンデルワールス力を低下させる原因となる為、粘着力が低下し好ましくない。添加剤を添加する場合は、高分子型等の添加剤を選択したり、添加量及び添加方法を検討するなどして、粘着層への移行、転写がない様にすることが必要である。
【0028】
(離型層)
本発明のポリオレフィン系フィルムは、基材層の片面に積層された粘着層とは反対面に離型層を形成するが、そうすることよって粘着フィルム同士を重ねても粘着フィルム同士のブロッキングが少なく、特に粘着フィルムをロール状態で保管し、その後フィルムを繰出す際にも、フィルムが部分的に伸長したり、変形する等の問題が起き難く、フィルムの加工適性に優れる。粘着フィルム同士を重ねても粘着フィルム同士のブロッキングが発生しないようにするには、離型層に表面凹凸を形成させ、粘着層との接触面積を小さくすることが有効である。
【0029】
上記のような表面凹凸を形成するには、ポリプロピレン系樹脂に非相溶な樹脂を混合することが有効である。そうすることによって、マット状に表面が荒れた層を形成することができる。なお、ポリプロピレン系樹脂としてプロピレン-エチレンブロック共重合体を使用することによって、非相溶な樹脂を用いることなく同様の効果が期待できる。なお、当然プロピレン-エチレンブロック共重合体にさらに非相溶な樹脂を添加することも可能である。
【0030】
ポリプロピレン系樹脂に非相溶な樹脂としては4-メチルペンテン-1系(共)重合体等の炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を好適に用いることができる。その他にも低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンと少量のα-オレフィンとの共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、ポリスチレン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。特に4-メチルペンテン-1系(共)重合体はマット状に表面を荒らすだけでなく、フィルム表面の表面自由エネルギーが下がることでさらに剥離性の向上が見込める。本発明において、離型層としては、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体とポリプロピレン系樹脂(例えばプロピレン-エチレンブロック共重合体又はホモポリプロピレン)、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体とポリプロピレン系樹脂(例えばプロピレン-エチレンブロック共重合体又はホモポリプロピレン)と低密度ポリエチレン等の組み合わせが挙げられる。
【0031】
離型層(離型層を構成する樹脂成分)中の炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量は、7重量%以上、24重量%以下の範囲である。炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が24重量%を超えると離型層をポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面にTダイ等を用いてポリプロピレン系樹脂を押出す一般的な温度で共押出製膜により積層しようとすると、離型層の製膜性が悪くなる。炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が7重量%未満であると離型層の剥離力改善に寄与しない。また、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の分子量は、分子量が小さくなると離型層から粘着層への物質移行等の原因となるおそれがあることから、粘着付与樹脂の数平均分子量は1万?100万程度が好ましい。
【0032】
離型層におけるポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の重量比(ポリプロピレン系樹脂/炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体)は、好ましくは95/5?75/25、より好ましくは93/7?76/24である。
【0033】
低密度ポリエチレンが離型層に使用される場合、低密度ポリエチレンの配合量は、離型層を構成する樹脂成分100重量%中、好ましくは10?40重量%、より好ましくは15?35重量%である。
【0034】
本発明における粘着層の樹脂組成を鑑みると、離型層表面の平均表面粗さSRaを0.20μm以上、0.50μm以下とするのが好ましい。そうすることで耐ブロッキング性と被着体の保護性能を向上させることができる。離形層の表面粗さを0.20μmより低くするとフィルムをロール形態とした際のフィルムの繰出し性が悪くなる。離形層の表面粗さを0.50μmよりも高くすると、離形層の表面凹凸が粘着層の表面に転写し、粘着力が著しく低下する場合がある。
このとき、離形層の表面凹凸は、表面の平均表面粗さSRaで0.25μm以上、0.45μm以下となる様な表面にすることがより好ましい。
【0035】
本発明のポリオレフィン系フィルムの粘着面の離型面に対する剥離力は23℃において、200cN/25mm以下の範囲であることが、粘着フィルムをロール形態とした際のフィルムの繰出し性の点から好ましい。剥離力が200cN/25mmを超えると粘着フィルムをロール形態とした際のフィルムの繰出しにフィルムが部分的に伸長したり、変形する等の問題が生じる。剥離力は離型層中の炭素数4以上のα-オレフィン共重合体の添加量や表面粗さを変更することで、適宜設定することができる。
なお、粘着フィルムの粘着面の離型面に対する剥離力の下限は現実的な値として1cN/25mm程度、さらには5cN/25mm程度である。
【0036】
本発明におけるポリオレフィン系フィルムの粘着層の厚さは、1μm以上、30μm未満であることが好ましい。粘着層の厚さが1μm未満であると、共押出による安定製膜が困難となり、30μm以上であると、コストの面で不利なフィルムとなる。
このとき、粘着力を大きくする場合は、その粘性を考慮し、厚みを大きくするのが好ましい。粘着層の厚みを大きくすることにより、被着体との接触面積が大きくなりやすい。粘着層の厚さは、2μm以上、20μm以下であることが好ましく、さらに3μm以上、15μm以下が好ましく、特に4μm以上、8μm以下が好ましい。
【0037】
本発明のポリオレフィン系フィルムの基材層の厚さは、5μm以上、100μm未満であることが好ましく、10μm以上、75μm未満であることがより好ましく、15μm以上、40μm未満であることがさらに好ましい。基材層の厚さが5μm未満であると、腰感が弱くなり、保護フィルムとして被覆体に貼り付けた際にシワ等が入りやすく、粘着力が十分に得られないという問題があり、100μm以上であるとコストの面で不利なフィルムとなる。
【0038】
本発明のポリオレフィン系フィルムの離型層の厚さは、1μm以上、30μm未満であることが好ましい。離型層の厚さが1μm未満であると、共押出による安定製膜が困難となり、30μm以上であると、コストの面で不利なフィルムとなる。離型層の厚さは、2μm以上、20μm以下であることが好ましく、さらに3μm以上、15μm以下が好ましく、特に4μm以上、8μm以下が好ましい。
【0039】
本発明のポリオレフィン系フィルムは、上記樹脂成分を含む基材層、粘着層、離型層の各層から構成され、各層は、本発明の効果を奏する限り、1層または2層以上であってもよい。各層を構成する樹脂は、例えば単軸、二軸の押出し機等を用いて溶融状態のまま、フィードブロック型のTダイに送出され、積層押出しされて少なくとも3層のポリオレフィン系フィルムとしてもよい。各層の押出し機の温度は、各層を溶融状態にするために、適宜各層に使用される成分の成形温度を考慮して適宜調節してもよく、例えば200℃?260℃の範囲で調節してもよい。Tダイの温度は、上記温度と同様であってもよい。Tダイからキャスティングロールへの引き取り速度は、各層が好適な厚みとなるような速度であればよく、例えば10m/min?50m/min、好ましくは10m/min?30m/minである。
【0040】
本発明のポリオレフィン系フィルムはロールの形態とするのが取り扱いの上で好適である。フィルムロールの幅および巻長の上限は特に制限されるものではないが、取扱いのしやすさから、一般的には幅1.5m以下、巻長はフィルム厚み30μmの場合に6000m以下が好ましい。また、巻取りコアとしては、通常、3インチ、6インチ、8インチ等のプラスチックコアや金属製コアを使用することができる。また、加工の適性から長さ200m以上、幅450mm以上の寸法で巻き取ったフィルムロールであることが好ましい。
【0041】
本発明の粘着フィルムは、光学用途に用いられているプリズムシート等の部材、合成樹脂板(例えば、建築資材用)、ステンレス鋼板(例えば、建築資材用)、アルミ板、化粧合板、鋼板、ガラス板、家電製品、精密機械等に使用することができる。また、本発明のポリオレフィン系フィルムは製造時の自動車ボディーの表面を保護するため、物品を積み重ねたり、保管したり、輸送したり、製造工程で搬送する際の傷付きから保護するため、ならびに、物品を二次加工する(例えば、曲げ加工やプレス加工)際の傷付きから保護するために用いることができる。
【0042】
本願は、2011年10月31日に出願された日本国特許出願第2011-238935号に基づく優先権の利益を主張するものである。2011年10月31日に出願された日本国特許出願第2011-238935号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0043】
次に実施例をあげて本発明をさらに説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない限り下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例、比較例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0044】
(1)粘着性の評価
JIS-Z-0237(2000)粘着テープ・粘着シート試験方法に準拠して下記の方法にて測定した。
被着体として、アクリル板(三菱レイヨン(株)製:アクリライト(登録商標)3mm厚)50mm×150mmを準備し、試験片として、フィルム製造時の巻き取り方向に150mm、それとは直交する方向に25mmの試験片を切り出し、質量2000gのゴムロール(ローラ表面のスプリング硬さ80Hs、厚さ6mmのゴム層で被覆された、幅45mm、直径(ゴム層を含む)95mmのもの)を用いて、被着体と試験片を5mm/秒の速さで、1往復させて圧着した。圧着後、温度23℃、相対湿度65%の環境下で30分放置したものを(株)島津製作所製「オートグラフ(登録商標)」(AGS-J)を用いて、300mm/分の速度で180度剥離した際の抵抗値を粘着力[cN/25mm]とした。180度剥離とは、剥離時の抵抗値を測定する際のアクリル板とフィルムの剥離角度を180度に保持することを意味する。
測定の際は測定試料のつかみ代として厚み190μm、サイズ25mm×170mmのポリエステルシートを準備し、粘着フィルムとアクリル板を圧着した測定試料の粘着フィルム側の端に、のり代15mmの幅でセロハンテープにて貼り付けて、測定の際のつかみ代とした。測定試料の模式図を図1に示す。測定は一つのサンプルに関して3回実施し、その平均値をそのサンプルの粘着力とした。
【0045】
(2)耐ブロッキング性の評価
アクリル板(三菱レイヨン(株)製:アクリライト(登録商標)3mm厚)50mm×150mm全面に両面接着テープ(日東電工(株)製:No.535A)を貼付け、両面接着テープの他面に試験片の粘着面が来るように150mm(フィルム製造時の巻き取り方向)×50mm(フィルム製造時の巻き取り方向とは直交方向)の試験片を貼付けた。
新たに試験片として、フィルム製造時の巻き取り方向に150mm、それとは直交する方向に25mmの試験片を切り出し、その粘着面とアクリル板に両面接着テープを介し貼付けた試験片の離型面を重ね合わせた後、質量2000gのゴムロール(ローラ表面のスプリング硬さ80Hs、厚さ6mmのゴム層で被覆された、幅45mm、直径(ゴム層を含む)95mmのもの)を用いて、離型面と試験片を5mm/秒の速さで、1往復させて圧着した。圧着後、温度23℃、相対湿度65%の環境下で30分放置したものを(株)島津製作所製「オートグラフ(登録商標)」(AGS-J)を用いて、300mm/分の速度で180度剥離した際の抵抗値を剥離力[cN/25mm]とした。
測定の際は測定試料のつかみ代として厚み190μm、サイズ25mm×170mmのポリエステルシートを準備し、150mm×25mmの試験片の端に、のり代15mmの幅でセロハンテープにて貼り付けて、測定の際のつかみ代とした。測定は一つのサンプルに関して3回実施し、その平均値をそのサンプルの剥離力とした。
【0046】
(3)平均表面粗さの測定
(株)小坂研究所製の接触式三次元中心面表面粗計(型式ET-30HK)を用いて、離型層の表面の中心面平均粗さ(SRa)を次の条件で触針法により測定した。条件は下記の通りであり、3回の測定の平均値をもって値とした。
触針先端半径:0.5μm
触針圧:20mgf
カットオフ値:80μm
測定長:1000μm
測定速度:100μm/秒
測定間隔:2μm
【0047】
(4)粘着層への離型層表面荒れの転写
KEYENCE製のデジタルマイクロスコープ(VHX-200F)を用いて倍率100倍でフィルム粘着面のデジタル画像を撮影した。離型層からの転写がそれほど起きていないものを○、ひどいものを×とした。
【0048】
(5)製膜性
フィルムを製膜する際に均一な厚みで製膜できているものを○、できていないものを×とした。
【0049】
[実施例1]
(基材層の作製)
ホモポリプロピレン樹脂(住友化学製:FLX80E4、MFR:7.5g/10min)100wt%を120mmφ単軸押出し機にて240℃で溶融押出しして基材層とした。
(粘着層の作製)
スチレン系エラストマー(旭化成ケミカルズ製:タフテック(登録商標)H1221、スチレン共重合比12wt%、MFR:4.5g/10min)85wt%とホモポリプロピレン樹脂(住友化学製:FS2011DG3、MFR:2.5g/10min)7.5wt%と石油樹脂(荒川化学工業製:アルコン(登録商標)P125)7.5wt%を90mmφ単軸押出し機にて220℃で溶融押出しして粘着層とした。
(離型層の作製)
ホモポリプロピレン樹脂(住友化学製:FLX80E4、MFR:7.5g/10min)62wt%と低密度ポリエチレン樹脂(宇部興産製:R300)30wt%とポリメチルペンテン(三井化学製:RT31)8wt%を90mmφ単軸押出し機にて250℃で溶融押出しして離型層とした。
(フィルムの作製)
基材層、粘着層、離型層それぞれが各押出し機にて溶融された状態のまま、245℃の3層Tダイ(フィードブロック型、リップ幅850mm、リップギャップ1mm)内で積層押出しを行った。押出したフィルムを温度30℃のキャスティングロールへ20m/min速度で引取り、冷却固化して基材層厚みが28μm、粘着層厚みが6μm、離型層厚みが6μmの3種3層未延伸フィルムを得た。
【0050】
[実施例2]
粘着層、基材層は実施例1のまま、離型層を下記の内容に変更して、実施例1と同様の製法で3種3層の未延伸フィルムを得た。
(離型層の作製)
プロピレン-エチレンブロックコポリマー(日本ポリプロピレン製:BC3HF)56wt%と低密度ポリエチレン樹脂(宇部興産製:R300)20wt%とポリメチルペンテン(三井化学製:RT31)24wt%を90mmφ単軸押出し機にて250℃で溶融押出しして離型層とした。
【0051】
[実施例3]
基材層は実施例1のまま、粘着層、離型層を下記の内容に変更して、実施例1と同様の製法で3種3層の未延伸フィルムを得た。
(粘着層の作製)
スチレン系エラストマー(旭化成ケミカルズ製:タフテック(登録商標)H1221、スチレン共重合比12wt%、MFR:4.5g/10min)と石油樹脂(荒川化学工業製:アルコン(登録商標)P125)とホモポリプロピレン樹脂(住友化学製:FS2011DG3、MFR:2.5g/10min)を80/7.5/12.5wt%の比率で混合したものを、90mmφ単軸押出し機にて220℃で溶融押出しして粘着層とした。
(離型層の作製)
プロピレン-エチレンブロックコポリマー(日本ポリプロピレン製:BC3HF)72wt%と低密度ポリエチレン樹脂(宇部興産製:R300)20wt%とポリメチルペンテン(三井化学製:RT31)8wt%を90mmφ単軸押出し機にて250℃で溶融押出しして離型層とした。
【0052】
[実施例4]
基材層は実施例1のまま、粘着層、離型層を下記の内容に変更して、実施例1と同様の製法で3種3層の未延伸フィルムを得た。
(粘着層の作製)
スチレン系エラストマー(旭化成ケミカルズ製:タフテック(登録商標)H1221、スチレン共重合比12wt%、MFR:4.5g/10min)とホモポリプロピレン樹脂(住友化学製:FS2011DG3、MFR:2.5g/10min)を90/10wt%の比率で混合したものを、90mmφ単軸押出し機にて240℃で溶融押出しして粘着層とした。
(離型層の作製)
プロピレン-エチレンブロックコポリマー(日本ポリプロピレン製:BC3HF)72wt%と低密度ポリエチレン樹脂(宇部興産製:R300)20wt%とポリメチルペンテン(三井化学製:RT31)8wt%を90mmφ単軸押出し機にて250℃で溶融押出しして離型層とした。
【0053】
[実施例5]
基材層は実施例1のまま、粘着層、離型層を下記の内容に変更して、実施例1と同様の製法で3種3層の未延伸フィルムを得た。
(粘着層の作製)
スチレン系エラストマー(旭化成ケミカルズ製:タフテック(登録商標)H1221、スチレン共重合比12wt%、MFR:4.5g/10min)とホモポリプロピレン樹脂(住友化学製:FS2011DG3、MFR:2.5g/10min)を90/10wt%の比率で混合したものを、90mmφ単軸押出し機にて240℃で溶融押出しして粘着層とした。
(離型層の作製)
プロピレン-エチレンブロックコポリマー(日本ポリプロピレン製:BC3HF)92wt%とポリメチルペンテン(三井化学製:RT31)8wt%と低密度ポリエチレン樹脂(宇部興産製:R300)20wt%を90mmφ単軸押出し機にて250℃で溶融押出しして離型層とした。
【0054】
[実施例6]
基材層は実施例1のまま、粘着層、離型層を下記の内容に変更して、実施例1と同様の製法で3種3層の未延伸フィルムを得た。
(粘着層の作製)
スチレン系エラストマー(旭化成ケミカルズ製:タフテック(登録商標)H1221、スチレン共重合比12wt%、MFR:4.5g/10min)とホモポリプロピレン樹脂(住友化学製:FS2011DG3、MFR:2.5g/10min)を90/10wt%の比率で混合したものを、90mmφ単軸押出し機にて240℃で溶融押出しして粘着層とした。
(離型層の作製)
ホモポリプロピレン樹脂(住友化学製:FLX80E4、MFR:7.5g/10min)88wt%とポリメチルペンテン(三井化学製:RT31)12wt%を90mmφ単軸押出し機にて250℃で溶融押出しして離型層とした。
【0055】
[比較例1]
基材層、粘着層は実施例1のまま、離型層を下記の内容に変更して、実施例1と同様の製法で3種3層の未延伸フィルムを得た。
(離型層の作製)
プロピレン-エチレンブロックコポリマー(日本ポリプロピレン製:BC4FC)100wt%を90mmφ単軸押出し機にて250℃で溶融押出しして離型層とした。
【0056】
[比較例2]
基材層、粘着層は実施例1のまま、離型層を下記の内容に変更して、実施例1と同様の製法で3種3層の未延伸フィルムを得た。
(離型層の作製)
ホモポリプロピレン樹脂(住友化学製:FLX80E4、MFR:7.5g/10min)66wt%と低密度ポリエチレン樹脂(宇部興産製:R300)30wt%とポリメチルペンテン(三井化学製:RT31)4wt%を90mmφ単軸押出し機にて250℃で溶融押出しして離型層とした。
【0057】
[比較例3]
基材層、粘着層は実施例1のまま、離型層を下記の内容に変更して、実施例1と同様の製法で3種3層の未延伸フィルムを得ようとしたが、厚み精度が悪く評価に耐えうるようなフィルムを得ることができなかった。
(離型層の作製)
ホモポリプロピレン樹脂(住友化学製:FLX80E4、MFR:7.5g/10min)50wt%とポリメチルペンテン(三井化学製:RT31)50wt%を90mmφ単軸押出し機にて250℃で溶融押出しして離型層とした。
【0058】
[比較例4]
基材層は実施例1のまま、粘着層、離型層を下記の内容に変更して、実施例1と同様の製法で3種3層の未延伸フィルムを得た。
(粘着層の作製)
スチレン系エラストマー(旭化成ケミカルズ製:タフテック(登録商標)H1221、スチレン共重合比12wt%、MFR:4.5g/10min)100wt%を90mmφ単軸押出し機にて溶融押出しして粘着層とした。
(離型層の作製)
プロピレン-エチレンブロックコポリマー(日本ポリプロピレン製:BC3HF)84wt%とポリメチルペンテン(三井化学製:RT31)16wt%を90mmφ単軸押出し機にて250℃で溶融押出しして離型層とした。
【0059】
上記結果を表1、2、3に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
表1?3から明らかなように実施例1?6で得られたフィルムは保護フィルムとして使用した際に実用上充分な粘着力を有し、表面荒れの転写もなくフィルムをロールとして繰り出した際の剥離性も良好で、製膜性も良好であった。
【0064】
一方、比較例1及び2及び4で得られたフィルムは、フィルムをロールとして繰り出した際の剥離性が必ずしも良好とは言えなかった。比較例3の製法では、製膜性が悪く評価に耐えうるフィルムを得ることができなかった。このように比較例で得られたフィルムはいずれも品質が劣り、実用性が低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のポリオレフィン系フィルムは、合成樹脂板(例えば、建築資材用)、ステンレス板(例えば、建築資材用)、アルミ板、化粧合板、鋼板、ガラス板、家電製品、精密機械等に使用することができる。また、本発明のポリオレフィン系フィルムは、製造時の自動車ボディーの表面を保護するため、物品を積み重ねたり、保管したり、輸送したり、製造工程で搬送する際の傷付きから保護するため、ならびに、物品を二次加工する(例えば、曲げ加工やプレス加工)際の傷付きから保護するためにも好適に用いることができ、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】図1は測定試料の模式図である。
【符号の説明】
【0067】
1:上部チャック
2:ポリエステルシート
3:アクリル板
4:セロハンテープ
5:粘着フィルム
6:下部チャック
7:引っ張る方向
【図1】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着層を構成する樹脂が、スチレン系エラストマー(但し、スチレン系重合体ブロックとオレフィン系重合体ブロックとのブロック共重合体、スチレン系重合体ブロックとスチレンとオレフィンとのランダム共重合体ブロックとのブロック共重合体、及び/又はこれらの水素添加物を主成分としてなる)と、ポリオレフィン系樹脂を少なくとも含み、前記スチレン系エラストマーの配合量が粘着層を構成する樹脂成分中60重量%以上95重量%以下であり、ポリオレフィン系樹脂の配合量が粘着層を構成する樹脂成分中5重量%以上25重量%以下であり、離型層を構成する樹脂がポリプロピレン系樹脂と炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体を少なくとも含み、炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体の配合量が離型層を構成する樹脂成分中7重量%以上24重量%以下であり、前記離型層の表面粗さ(SRa)が0.20μm以上0.50μm以下であり、ポリプロピレン系樹脂からなる基材層の片面に粘着層を、反対面に離形層を共押出により積層してなることを特徴とする
ポリオレフィン系フィルム。
【請求項2】
前記炭素数4以上のα-オレフィン(共)重合体が4-メチルペンテンー1系(共)重合体である請求項1に記載のポリオレフィン系フィルム。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
前記基材層および離型層に使用するポリプロピレン系樹脂のMFRが(230℃、2.16Kgf)が1.0?15g/10分である請求項1又は2に記載のポリオレフィン系フィルム。
【請求項5】
前記粘着層に使用するスチレン系エラストマーのMFR(230℃、2.16Kgf)が30.5?10g/20分である請求項1、2、又は4のいずれかに記載のポリオレフィン系フィルム。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-04 
出願番号 特願2012-239506(P2012-239506)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 井上 能宏
天野 宏樹
登録日 2016-10-07 
登録番号 特許第6015352号(P6015352)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 ポリオレフィン系フィルム  

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