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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 発明同一  B32B
管理番号 1342976
異議申立番号 異議2016-700150  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-22 
確定日 2018-06-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5771021号発明「積層フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5771021号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第5771021号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 同請求項7に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5771021号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成23年2月16日に出願され、平成27年7月3日にその特許権の設定登録がされたものである。その後、その特許について、特許異議申立人関谷祐子、同じく澤山政子により、それぞれ特許異議の申立てがされ、当審において平成28年5月23日付けで取消理由を通知し、その指定期間内である平成28年7月22日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成28年8月30日に特許異議申立人関谷祐子より、平成28年9月1日に特許異議申立人澤山政子より、それぞれ、この訂正の請求について意見書が提出され、当審より平成28年9月15日付けで特許権者に審尋し、その指定期間内である平成28年10月24日に回答書が提出された。
その後、当審において平成28年12月22日付けで取消理由(決定の予告)を通知し、その指定期間内である平成29年2月27日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成29年4月13日に特許異議申立人関谷祐子より、平成29年4月21日に特許異議申立人澤山政子より、それぞれ、本件訂正請求について意見書が提出されたものである。
なお、平成28年7月22日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求による訂正の請求は、「特許第5771021号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正する」ことを求めるものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲を、次のように訂正するものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「熱可塑性樹脂材料がポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂のいずれかであり、」とあるのを、
「熱可塑性樹脂材料がアクリル樹脂であり、」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?6についても、同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
本件特許明細書の段落【0008】に、
「熱可塑性樹脂材料がポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂のいずれかであり、」とあるのを、
「熱可塑性樹脂材料がアクリル樹脂であり、」に訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に、
「熱可塑性エラストマー系樹脂である多層フィルム。」とあるのを、
「熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されている多層フィルム。」に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2?6についても、同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
本件特許明細書の段落【0008】に、
「熱可塑性エラストマー系樹脂である多層フィルム。」とあるのを、
「熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されている多層フィルム。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7を追加し、
「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15?100モル%を占め、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14?0.50のポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料が粘度平均分子量で表して13,000?40,000のポリカーボネート樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されており、印刷層の厚みが0.01?100μmである多層フィルム。
【化2】

」に訂正する。

(6)訂正事項6
本件特許明細書の段落【0009】の記載の末尾に、
「7.植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15?100モル%を占め、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14?0.50のポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料が粘度平均分子量で表して13,000?40,000のポリカーボネート樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されており、印刷層の厚みが0.01?100μmである多層フィルム。
【化11】

」という記載を追加する訂正をする。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1、2について
訂正前の請求項1では、熱可塑性樹脂材料について、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂のいずれかの択一であったものを、一方のアクリル樹脂のみに限定するものであるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴い、記載を整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、訂正事項1、2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

(2)訂正事項3、4について
訂正前の請求項1では、印刷層のポリカーボネート樹脂材料の層に対する積層位置について、「少なくとも一方の面」としか特定されていなかったものを、印刷層は片面に積層されていることを特定して限定するものであるから、訂正事項3は、特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4は、訂正事項3に係る訂正に伴い、記載を整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、本件特許明細書の段落【0097】には、「本発明の多層フィルムにおいては、ベースフィルムの少なくとも片面に加飾層が積層することができる。本発明に用いられる加飾層は、各種形態を取り得る。例えばベースフィルムに直接的に施される印刷層や蒸着層、ベースフィルムに積層される着色した樹脂層、および印刷や蒸着などの加飾を施したフィルムを用いた層などが加飾層として挙げられるが、特に限定されるものではない。」と記載されていることからみて、訂正事項3、4の訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(3)訂正事項5、6について
訂正前の請求項1では、熱可塑性樹脂材料について、ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂のいずれかの択一であったものを、一方のアクリル樹脂の場合と、他方のポリカーボネート樹脂の場合に分け、他方のポリカーボネート樹脂の場合を新たに請求項7としたものであって、訂正事項5は、その新たな請求項7について、訂正前の請求項1に、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が13,000?40,000であること、層(A)のポリカーボネート樹脂材料が樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14?0.50のポリカーボネートであること、さらに、印刷層は片面に積層され、その印刷層の厚みが0.01?100μmであることを、それぞれ限定するものであるから、訂正事項5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項6は、訂正事項5に係る訂正に伴い、記載を整合させるための訂正であり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
そして、本件特許明細書の段落【0039】には「本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂は、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度としては0.14?0.50のものを用いることができる。」と、同じく段落【0063】には「ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で表して13,000?40,000の範囲が好ましい。」と、同じく段落【0097】には「本発明の多層フィルムにおいては、ベースフィルムの少なくとも片面に加飾層が積層することができる。本発明に用いられる加飾層は、各種形態を取り得る。例えばベースフィルムに直接的に施される印刷層や蒸着層、ベースフィルムに積層される着色した樹脂層、および印刷や蒸着などの加飾を施したフィルムを用いた層などが加飾層として挙げられるが、特に限定されるものではない。」と、同じく段落【0101】には「加飾層として印刷層を形成した場合、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01?100μmが好ましい。」と記載されていることからみて、訂正事項5、6の訂正は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてするものであること、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。

(4)一群の請求項について
上記訂正事項1?6に係る各訂正は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.請求項1?7に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?7に係る発明(以下、「本件訂正発明1」等という。)は、それぞれ、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15?100モル%を占めるポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料がアクリル樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されている多層フィルム。
【化1】

【請求項2】
積層フィルムの25℃、24時間、水中での吸水率が3%以下である請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
積層フィルムの鉛筆硬度がB以上である請求項1または2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が上記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が30?100モル%を占めるポリカーボネートである請求項1?3のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項5】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の厚みが1μm?100μmの層が積層されてなる請求項1?4のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項6】
多層フィルムの総厚みが10μm?600μmである請求項1?5のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項7】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15?100モル%を占め、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14?0.50のポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料が粘度平均分子量で表して13,000?40,000のポリカーボネート樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されており、印刷層の厚みが0.01?100μmである多層フィルム。
【化2】



2.取消理由の概要
訂正前の請求項1?6に係る特許に対して、特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
[理由1] 本件特許の請求項1?6に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
[理由2] 本件特許の請求項1?6に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

請求項1?6に係る発明は、特許異議申立人関谷祐子が提出した甲第1号証に記載された発明と実質的に同一である。
また、請求項1?6に係る発明は、特許異議申立人澤山政子が提出した甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術的事項、及び甲第3?4号証に記載された周知の技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものである。

・特許異議申立人関谷祐子が提出した証拠
甲第1号証:特願2010-46630号の明細書及び特許請求の範囲
甲第2号証:特開2011-201304号公報(甲第1号証を優先基礎とする特願2011-45898号の公開公報)
甲第3号証:相原次郎著、「印刷インキ入門」、株式会社印刷学会出版部、増補版第4刷、1999年9月15日、p.13?17,26?45
甲第4号証:早川敦、「活躍する三洋化成グループのパフォーマンス・ケミカルス73 特殊グラビア印刷インキ用バインダー樹脂」、三洋化成ニュース、2008初夏、No.448、p.1?4
甲第5号証:藤本武彦監修、「高分子薬剤入門」、三洋化成工業株式会社、初版第2刷、1993年3月、p.431?453
甲第6号証:桜内雄二郎著、「新版プラスチック材料読本」、株式会社工業調査会、新版第4刷、1993年4月1日、p.118?119
・特許異議申立人澤山政子が提出した証拠
甲第1号証:特開2004-82565号公報
甲第2号証:特開2009-1703号公報
甲第3号証:特開2009-161746号公報
甲第4号証:特開2006-28441号公報

[理由3] 本件特許は、明細書及び特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

3.取消理由3(36条)に係る当審の判断
まず、記載不備に係る取消理由について判断する。
(1)印刷層については、本件特許明細書の段落【0098】に「加飾層の一種である印刷層のバインダー樹脂素材としては、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂等が好ましく、特に柔軟な被膜を作製することができる樹脂が好ましい。またバインダー樹脂中には、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを配合することが好ましい。」と、
同じく段落【0099】に「印刷層の積層方法は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの方法を用いることが好ましい。特に多色刷りや階調色彩を必要とする場合には、オフセット印刷法やグラビア印刷法が好ましい。また単色の場合は、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。図柄に応じて、フィルムに全面的に印刷層を積層する印刷法でも、部分的に印刷層を積層する印刷法でもよい。」と、
さらに、段落【0101】には「加飾層として印刷層を形成した場合、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01?100μmが好ましい。」と、それぞれ記載されている。
そうすると、本件特許明細書に印刷層の具体的なバインダー樹脂素材や、その積層方法が記載され、印刷層の厚さについても、0.01?100μmの範囲であれば、発明の効果を阻害しない旨記載されていることからすれば、当業者であれば、これらの記載をもとに、本件訂正発明1?7を実施することは格別困難なこととはいえない。

(2)さらに、請求項1?7には、「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルム」と、また、「印刷層は片面に積層されている」と記載されている。
これらのことからすれば、本件訂正発明1?7の多層フィルムは、
・アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂からなる「熱可塑性樹脂材料の層(B)」/「印刷層」/「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」の順で積層され、「印刷層」が樹脂層に挟まれる場合、
・「印刷層」/アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂からなる「熱可塑性樹脂材料の層(B)」 /「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」の順で積層され、「印刷層」が外側に配置される場合が、それぞれ想定され得るものといえる。
このうち、「印刷層」が樹脂層に挟まれる場合は、積層体の最外層に樹脂層が配置されることになるから、間に挟まれた「印刷層」が、薬品や水や物に、直接、接触しない。また、「印刷層」が外側に配置される場合についても、積層体として使用する際、薬品や水や物に接触することが想定される最外層を、加飾のために設けられた印刷層ではなく、積層体の樹脂層側とすることが通常といえるから、多層フィルムに「印刷層」が加わったからといって、多層フィルムとして用いる上で、耐薬品性、表面硬度及び吸水率について差違が生じるとはいえない。
さらに、熱成形性や靱性についても、請求項1?6の「印刷層」は、バインダー樹脂を含むものであり、バインダー樹脂により、印刷対象への密着性や、適度な粘度が与えられることが技術常識である(例えば、特許異議申立人関谷祐子が提出した甲第4号証(2頁「印刷インキの構成」の項)参照)ことからすれば、多層フィルムとして用いる上で、熱成形時や延伸時に、「印刷層」が加わったことにより、直ちに支障が生じるとはいえない。
したがって、印刷層の配置がいずれの場合であっても、多層フィルムとして用いる上で、その効果に顕著な差違が生じるとはいえないこと明らかであり、「印刷層」が設けられた多層フィルムについても、「印刷層」が設けられていない多層フィルムと同様に、発明の課題を解決し得ることが当業者に容易に予測できることといえる。

(3)特許異議申立人澤山政子は、平成29年4月21日の意見書(「(1-2)記載不備(特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号)について」)において、印刷層の材質により吸水率等に影響するから、印刷層を用いない実施例をもって、本件訂正発明1?7の効果を主張することはできない旨主張する。
しかし、本件訂正発明1?7の印刷層が、樹脂層に挟まれる場合と積層体の外側に配置される場合のいずれにおいても、多層フィルムに印刷層が加わったことにより、多層フィルムとして用いる上で吸水率に差違が生じるとはいえないことは、上記(2)で述べたとおりであり、この主張を採用することはできない。

(4)以上のことから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえない。
また、本件訂正発明1?7が、発明の詳細な説明に記載されたものでないとはいえない。

4.取消理由1(29条の2)、取消理由2(29条2項)に係る当審の判断
(1)提出された証拠に記載された発明
ア.特許異議申立人関谷祐子が提出した甲第1号証(以下、「先願明細書」という。甲第2号証は、甲第1号証を優先基礎とする特願2011-45898号の公開公報であり、本件出願後に公開されたもの。)には以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
・・・・
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、芳香族ポリカーボネート樹脂シートでは達成できない表面硬度と、アクリル樹脂又はアクリル樹脂を表層に配置してなる積層体では達成できない耐衝撃性や打ち抜き加工性とを兼備したディスプレイカバー、及び紫外線吸収機能を付与した芳香族ポリカーボネート樹脂シートでは達成できない耐黄変劣化性を有する建材などに適した積層体を提供することにある。」
「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定の脂肪族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリカーボネート樹脂とを積層してなる積層体が、総厚さが現行厚さでも薄肉化しても歩留まり良く打ち抜き加工が可能で、特定の脂肪族ポリカーボネート樹脂層が前面側になるよう配置して使用するディスプレイカバーは、製品の表面硬度と耐衝撃性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに少なくとも前面側にハードコート層を配置すると打ち抜き加工性や耐衝撃性を著しく低下させること無く表面硬度をさらに高めることも見出した。」
「【0014】
第1の発明によれば、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂層(A層)と、芳香族ポリカーボネート樹脂層(B層)とを積層してなることを特徴とする積層体が提供される。」
「【0031】
<脂肪族ポリカーボネート樹脂層(A層)>
本発明におけるA層に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂としては、構造の一部に下記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂が用いられる。
・・・・
【0034】
前記ジヒドロキシ化合物の主成分としては、分子構造の一部が前記一般式(1)で表されるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には・・・・下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、・・・・が挙げられる。・・・・具体的には、下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。・・・・
これらは単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0035】
【化4】


「【0038】
前記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物は、生物起源物質を原料として糖質から製造可能なエーテルジオールである。とりわけイソソルビドは澱粉から得られるD-グルコースを水添してから脱水することにより安価に製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能である。これら事情により、イソソルビドが最も好ましい。」
「【0043】
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂の、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合としては、好ましくは35モル%以上、より好ましくは40モル%以上であって、また、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下であればよい・・・・」
「【0054】
<芳香族ポリカーボネート樹脂層(B層)>
本発明におけるB層に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、ホモポリマー又はコポリマーのいずれであってもよい。また、芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐構造であっても、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造と直鎖構造との混合物であってもよい。
【0055】
本発明に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、ホスゲン法、エステル交換法、ピリジン法など、公知のいずれの方法を用いてもかまわない。以下一例として、エステル交換法による芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法を説明する。
【0056】
エステル交換法は、2価フェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。2価フェノールの代表例としては、ビスフェノール類が挙げられ、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられる。・・・・
【0057】
炭酸ジエステルの代表例としては、・・・・などが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0058】
本発明に用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常、8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲である。又、前記芳香族ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.60g/dlに精密に調整し、温度20.0℃±0.1℃で測定され、通常、0.23dl/g以上0.72dl/g以下で、好ましくは0.27dl/g以上0.61dl/g以下の範囲内である。」
「【0062】
<本発明の積層体の製造方法>
A層とB層とを積層してなる本発明の積層体の製造方法は特に制限されるものではないが、より好適な方法は前述の通り両者を共押出しして製膜する方法である。具体的に説明すると、B層を構成する樹脂を供給する主押出機と、A層を構成する樹脂を供給する副押出機とを備え、主押出機の温度設定は通常220℃以上、300℃以下、好ましくは220℃以上、280℃以下であり、副押出機は通常220℃以上、280℃以下、好ましくは220℃以上、250℃以下である。
・・・・
【0064】
本発明の積層体は、A層とB層を各々少なくとも一層以上積層してあれば、その構成は特に制限されるものではない。例えば、B層の両面にA層を積層し、A/B/A型2種3層の積層体としてもよい。この場合も両者を共押出しして製膜する方法で製造することが好ましい。該積層体は両面のA層厚さを揃えて中心対称構造にすると、環境反りや捻れのおそれを低減させることができるので好適である。」
「【0073】
<印刷層>
本発明の積層体には、さらに印刷層を設けることができる。印刷層は、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷他公知の印刷の方法で設けられる。・・・・
【0074】
また、印刷層は本発明の積層体におけるA層、B層のいずれの表面に印刷して設けても良く、最表面に前記のハードコート層や反射防止層、防汚層を設ける場合は、それらの層を設ける前の工程において印刷層を印刷して設けることが好ましい。・・・・
【0075】
印刷層に用いられる印刷用インクに含有される顔料や溶剤は特に限定されること無く、一般的に利用されるものを適用することができる。特に、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂を含むものは、印刷層を設けた場合においても、本発明の積層体を層間剥離等の支障なく作製することが可能となることから好適である。」
「【0080】
<本発明の積層体の用途>
本発明の積層体は、前述の製造方法によってフィルム、シート、プレートなどの形状に成形される。・・・・」

上記記載によれば、「積層体」は、「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂層(A層)と、芳香族ポリカーボネート樹脂層(B層)とを積層してなる」(段落【0014】)ものであり、「A層とB層を各々少なくとも一層以上積層してあれば、その構成は特に制限されるものではな」く(段落【0064】)、「印刷層」も「A層、B層のいずれの表面に印刷して設けても良」い(段落【0074】)ものであるから、先願明細書記載の「積層体」の態様には、「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂層(A層)」の少なくとも一方の面に、「芳香族ポリカーボネート樹脂層(B層)」と、「印刷層」とを積層した態様が含まれるものといえる。
A層に用いる脂肪族ポリカーボネート樹脂のジヒドロキシ化合物の主成分としては、「一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物」(段落【0034】)があり、そのジヒドロキシ化合物は、生物起源物質に由来するエーテルジオール(段落【0038】)である。
このジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合として、「好ましくは35モル%以上」であり、「好ましくは90モル%以下」(段落【0043】)である。
また、B層に用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、「力学特性と成形加工性のバランスから、通常、8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲」(段落【0058】)である。
さらに、印刷層に用いられる印刷用インクは、「アクリル系樹脂やウレタン系樹脂を含むもの」(段落【0073】)である。
そして、「積層体」は、「フィルム」などの形状に成形される(段落【0080】)。

以上より、先願明細書には、以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。
「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層(A層)の少なくとも一方の面に、芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)と、印刷層とを積層してなる積層体であって、
前記脂肪族ポリカーボネート樹脂のジヒドロキシ化合物の主成分は、一般式(2)で表され、生物起源物質に由来するエーテルジオールであり、このジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合として、好ましくは35モル%以上、90モル%以下であり、

前記芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常、8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲であり、
前記印刷層に用いられる印刷用インクは、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂を含んでいる、積層体からなるフィルム。」

イ.特許異議申立人澤山政子が提出した甲第1号証には、その段落【0023】?【0025】の記載からみて、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「厚さ100μmのアクリルフィルムを基体シートとし、その表面にオーバーコート層を形成し、裏面に絵柄層および接着層を形成したインサート形成用シートであって、オーバーコート層はエポキシアクリレート樹脂を含み、絵柄層はバインダーとしてアクリル樹脂を含む、インサート形成用シート」

(2)本件訂正発明1?6についての判断
ア.取消理由1(29条の2)について
本件訂正発明1の多層フィルムは、「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルム」であって、「熱可塑性樹脂材料がアクリル樹脂」であるのに対し、前記「4.(1)ア」で述べたように、先願発明の積層体は、「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層(A層)の少なくとも一方の面に、芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)と、印刷層とを積層してなる積層体」である。
そうすると、本件訂正発明1と先願発明は、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層に積層される熱可塑性樹脂について、本件訂正発明1はアクリル樹脂であるの対し、先願発明は芳香族ポリカーボネート樹脂であることで相違する。
そして、芳香族ポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂とでは、先願明細書によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂が「透明性、耐衝撃性、打ち抜き加工性、耐熱性、低比重、廉価などに優れているが、表面硬度が非常に低く、近紫外?可視光波長領域で光吸収が起こることに由来して光線透過性や反射特性が不十分とされる」(段落【0002】)のに対し、アクリル樹脂は「表面硬度が高く、芳香族ポリカーボネート樹脂の様な光吸収が無いため透明性と光線透過性に非常に優れるが、耐衝撃性が非常に低く、打ち抜き加工時の歩留まりが低くなる傾向がある。」(段落【0003】)と、それぞれ樹脂材料として特性が異なるから、本件訂正発明1と先願発明との上記相違は微差とはいえず、本件訂正発明1は先願発明と同一であるとはいえない。

また、本件訂正発明2?6は、いずれも本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件訂正発明1は上記のように先願発明と同一ではないから、本件訂正発明2?6も先願発明と同一ではない。

イ.取消理由2(29条2項)について
本件訂正発明1と引用発明を対比すると、基材について、本件訂正発明1が「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15?100モル%を占めるポリカーボネート」であるのに対し、引用発明はアクリルフィルムである点で、少なくとも相違する。
この点について、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂を基材シートとして用いることが、特許異議申立人澤山政子が提出した甲第2号証に記載されているものの、同甲第2号証には、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂を、アクリル樹脂からなる樹脂層と積層して、多層フィルムを構成することは記載されていない。また、同甲第3、4号証にも記載されていない。
そして、本件訂正発明1は、「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」、「アクリル樹脂」の層および「印刷層」を積層されてなる多層フィルムとすることにより、「耐薬品性、吸水率、成形加工性、靭性に優れた多層フィルムが得られ、さらに透明性にも優れ」たものとすることができるという効果を奏するものである(本件特許明細書の段落【0010】)。
よって、本件訂正発明1は、引用発明及び同甲第2?4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

また、本件訂正発明2?6は、いずれも本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものであるところ、本件訂正発明1は、上記のように、引用発明及び同甲第2?4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえないから、本件訂正発明2?6も、引用発明及び甲第2?4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

なお、特許異議申立人澤山政子は、平成29年4月21日の意見書(「(1-1)進歩性(特許法第29条第2項)について」)において、新たな証拠を示してアクリル樹脂層とポリカーボネート樹脂層との多層フィルムは技術常識であった旨主張するが、いずれの証拠にも、本件訂正発明1?7の「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」と「アクリル樹脂」の層からなる多層フィルムについて記載されておらず、この主張を採用することはできない。

(3)本件訂正発明7についての判断
ア.本件訂正発明7と先願発明を対比する。
(ア)本件訂正発明7は、「ポリカーボネート樹脂は、表面硬度が劣るため傷つきやすいという問題を有し」ており(本件特許明細書の段落【0002】)、ポリカーボネートシートに(メタ)アクリレート重合体の層が被覆された「既存の多層フィルムにおいては、耐薬品性、成形性、衝撃強度の点で満足できるものは得られていなかった」(同段落【0003】)が、「植物由来のモノマーであるイソソルビドからなるポリカーボネート樹脂の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料を積層されてなるフィルムにすることで、耐薬品性、吸水率、成形加工性、靭性が改良されることを見出し本発明を完成するに至った」(同段落【0007】)ものである。
これに対し、先願発明は、「芳香族ポリカーボネート樹脂シートでは達成できない表面硬度と、アクリル樹脂又はアクリル樹脂を表層に配置してなる積層体では達成できない耐衝撃性や打ち抜き加工性」(先願明細書の段落【0001】)を兼備することを目的に、特定の脂肪族ポリカーボネート、すなわち、生物起源物質に由来するエーテルジオールを含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層と、芳香族ポリカーボネート樹脂の層とを積層したものである。

(イ)ここで、本件訂正発明7の「式(1)で表されるジオール残基を含んで」いる「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料」について、本件特許明細書の段落【0015】?【0017】には、
「【0015】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、下記式(a)で表されるエーテルジオールおよび炭酸ジエステルとから溶融重合法により製造することができる。
【0016】
【化3】

【0017】
エーテルジオールとしては、具体的には下記式(b)、(c)および(d)で表されるイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドなどが挙げられる。」と記載されている。
一方、先願発明の「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂」は、先願明細書によれば、「脂肪族ポリカーボネート樹脂は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、・・・・重合触媒の存在下に、構造の一部に前記一般式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物と、脂肪族及び/又は脂環式ジヒドロキシ化合物と、必要に応じて用いられるその他のジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを反応させるエステル交換法が好ましい。」(段落【0046】)とされ、このうち、ジヒドロキシ化合物として、「下記一般式(2)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール」(段落【0034】)が挙げられ、生物起源物質を原料として糖質から製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能であることから、イソソルビドが最も好ましく(段落【0038】)、

また、炭酸ジエステルとしては、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる(段落【0047】)とされている。
そうすると、本件訂正発明7の式(a)で表される植物由来のエーテルジオールは、先願発明の一般式(2)で表される生物起源物質を原料とするジヒドロキシ化合物と同じであり、このジヒドロキシ化合物に炭酸ジエステルと重合させて形成した先願発明の「脂肪族ポリカーボネート樹脂」は、エーテルジオールに炭酸ジエステルと重合させて形成した本件訂正発明7の「式(1)で表される」「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂」に相当するものといえる。

(ウ)本件訂正発明7の「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」の少なくとも一方の面に積層される「熱可塑性樹脂材料の層(B)」は、ポリカーボネート樹脂からなる。
一方、先願発明の「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層(A層)」の少なくとも一方の面に積層される「芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)」は、先願明細書の記載(段落【0062】)によれば、芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)は、A層とともに加熱して共押出しにより積層体を製造することから、熱可塑性樹脂であることが明らかであり、本件訂正発明7のポリカーボネート樹脂からなる「熱可塑性樹脂材料の層(B)」と、先願発明の「芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)」とは、ともに熱可塑性樹脂材料のポリカーボネート樹脂からなる層という限りにおいて一致する。

(エ)先願発明の「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層(A層)」の少なくとも一方の面に積層される「印刷層」は、本件訂正発明7の「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)」の少なくとも一方の面に積層される印刷層に相当する。

(オ)先願発明の「積層体」は、「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂の層(A層)」と「芳香族ポリカーボネート樹脂の層(B層)」と「印刷層」とを積層した「多層」のものであり、その「多層」の「積層体」を「フィルム」として用いることから、先願発明の「積層体からなるフィルム」は、多層フィルムともいえる。

イ.よって、本件訂正発明7と先願発明とは、
「植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料のポリカーボネート樹脂からなる層および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含む、多層フィルム

」であることで一致し、下記の点で相違する。

《相違点1》
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料について、本件訂正発明7が「全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15?100モル%を占め、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14?0.50のポリカーボネート」であるのに対し、先願発明は「ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合として、好ましくは35モル%以上、90モル%以下」のポリカーボネートであるものの、比粘度については特定されていない点。
《相違点2》
熱可塑性樹脂材料のポリカーボネート樹脂について、本件訂正発明7が「粘度平均分子量で表して13,000?40,000のポリカーボネート樹脂」であるのに対し、先願発明は粘度平均分子量が「8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲」の芳香族ポリカーボネート樹脂である点。
《相違点3》
印刷層について、本件訂正発明7が「印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり」、「印刷層の厚みが0.01?100μm」であるのに対し、先願発明は「印刷層に用いられる印刷用インクは、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂を含むものの、印刷層の厚みについては特定されていない点。

ウ.上記相違点について検討する。
(ア)相違点1
全ジオール残基中式(1)で表されるエーテルジオール残基、あるいは、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合について、先願発明が「35モル%以上、90モル%以下」の範囲であるのに対し、本件訂正発明7は「15?100モル%」であり、先願発明の範囲の上限と下限を広げるものであるが、本件特許明細書中には、「全ジオール残基中、式(1)で表されるジオール残基が好ましくは15?100モル%、より好ましくは30?100モル%、さらに好ましくは40?100モル%、特に好ましくは50?100モル%を占めるポリカーボネートである。」(段落【0021】)と記載されるものの、先願発明の範囲を超えることにより得られる効果について記載されていない。
また、比粘度についても、本件特許明細書中には、「本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂は、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度としては0.14?0.50のものを用いることができる。・・・・また比粘度が0.14より低くなると本発明のポリカーボネート樹脂より得られた積層フィルムが充分な機械強度を持たせることが困難となる。また比粘度が0.50より高くなると溶融流動性が高くなりすぎて、成形に必要な流動性を有する溶融温度が分解温度より高くなってしまう。」(段落【0039】)と記載されているものの、樹脂を成膜して積層体を形成し、フィルムとして使用する以上、求められる成形性や機械強度のためには、樹脂材料自体の比粘度は、当然、考慮されるべきものである。実際、特開2009-74029号公報(特許異議申立人関谷祐子が新たに提出した甲第10号証。特に、段落【0013】?【0036】の記載参照。)、特開2009-61762号公報(同じく甲第11号証。特に、段落【0015】?【0033】の記載参照。)、特開2008-274203号公報(同じく甲第12号証。特に、段落【0019】?【0037】の記載参照。)に記載されているように、バイオマス由来のイソソルビド等のエーテルジオールを構造単位にもつポリカーボネート樹脂として、十分な機械強度や適度な溶融流動性を得るために、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度を、0.14?0.5程度に調整するが好ましいことが記載されており、「樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14?0.50」とすることで、新たな効果を奏するものとはいえない。
よって、相違点1に係る相違は、積層体として求められる成形性や機械強度を得るための具体化手段における微差にすぎない。

(イ)相違点2
本件訂正発明7のポリカーボネート樹脂について、本件特許明細書には、「ジヒドロキシ成分の代表的な例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、・・・・等が挙げられる。これらを単独で使用したホモポリマーでも、2種類以上共重合した共重合体であっても良い。物性面、コスト面からビスフェノールAが好ましい。」(段落【0059】)と記載され、特に、ジヒドロキシ成分としてビスフェノールAを採用したポリカーボネート樹脂、すなわち、先願発明と同様に芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましいとされている。
また、粘度平均分子量についても、先願発明が「8,000以上、30,000以下、好ましくは10,000以上、25,000以下の範囲」であるのに対し、本件訂正発明7は「13,000?40,000」であり、範囲が重複している。しかも、本件特許明細書には、粘度平均分子量の範囲について、「該分子量が13,000より低いと多層フィルムとして脆くなり、また40,000より高いとその溶融粘度が高くなりすぎて溶融製膜が困難となるため好ましくない。」(段落【0063】)と記載されるのみであって、成膜してフィルムとして使用する以上、必要な成形性と機械強度のため、樹脂材料自体の分子量を考慮することは当然のことであることからすれば、分子量の範囲の上限と下限が相違することにより新たな効果を奏するものともいえない。
よって、相違点2に係る相違は、積層体として求められる成形性や機械強度を得るための具体化手段における微差にすぎない。

(ウ)相違点3
さらに、先願明細書の記載によれば、先願発明の印刷層に用いられる印刷用インクに含まれるアクリル系樹脂やウレタン系樹脂により、「印刷層を設けた場合においても、本発明の積層体を層間剥離等の支障なく作製することが可能となる」(段落【0075】)とされている。
一般に、印刷用インクは、「色料」、「バインダー樹脂」、「溶剤」等を含み、「バインダー樹脂」には、1)色料の素材への転移と固着、2)色料の湿潤と安定分散、3)印刷用インクに適度な粘度を与え素材へ転移しやすくする、4)転移した後、皮膜を形成し素材と密着する、という機能をもつことが技術常識である(例えば、特許異議申立人関谷祐子が提出した甲第4号証(2頁「印刷インキの構成」の項)、同じく甲第5号証(433頁2?10行)参照。)。また、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂は、印刷用インクのバインダー樹脂として、広く用いられる一般的な材料である(同じく甲第3号証(32頁表2・6))。
そうすると、先願発明の印刷層に用いられる印刷用インクに含まれるアクリル系樹脂やウレタン系樹脂は、バインダー樹脂の機能といえる「層間剥離等の支障なく作製すること」を可能にするものであり、印刷用インクのバインダー樹脂として、広く用いられる一般的な材料でもあるから、本件訂正発明7の印刷層のバインダー樹脂に相当するものであるといえる。
また、印刷層の厚みについても、皮膜を形成し基材に密着させるため、印刷層がある程度の厚みを有する必要があることは明らかである上、印刷層として0.01?100μmの厚みは、特開2006-82539号公報(同じく甲第7号証(段落【0017】、【0020】))、特開2002-18893号公報(同じく甲第8号証(段落【0037】))、特開2010-82872号公報(同じく甲第9号証(段落【0014】?【0015】))に記載されているように一般的なものである。しかも、本件特許明細書に、「加飾層として印刷層を形成した場合、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01?100μmが好ましい。」(段落【0101】)と記載され、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないともされるものであるから、印刷層の厚みを0.01?100μmとすることで、新たな効果を奏するものとすることはできない。
よって、相違点3に係る相違は、印刷層を形成し基材に密着させるための具体化手段における微差にすぎない。

(エ)以上より、上記相違点1?3に係る本件訂正発明7の構成は、いずれも、それらを備えることにより新たな効果を奏するものでなく、多層フィルムとして、求められる成形性や機械強度を得るための具体化手段における微差にすぎないものであるから、本件訂正発明7は先願発明と実質的に同一である。

エ.なお、取消理由2(29条2項)については、特許異議申立人澤山政子が提出した甲第1?4号証のいずれにも、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂からなる層を、ポリカーボネート樹脂からなる層と積層して、多層フィルムを構成することは記載されておらず、本件訂正発明7は、引用発明及び同甲第2?4号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

5.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人関谷祐子は、訂正前の請求項1の「植物由来のエーテルジオール残基」との記載は、物の発明を製造方法によって特定しようとするものであり、特許法第36条第6項第2号が規定する「発明が明確であること」に反する発明である旨主張する。
しかし、「植物由来のエーテルジオール残基」との記載は、単にエーテルジオール残基の原料を特定するものであって、この記載があることをもって、「発明が明確であること」に反するとまではいえない。
よって、特許異議申立人の特許法第36条第6項第2号の規定に係る主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本件訂正発明1?6に係る特許については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件訂正発明7は、先願発明と同一であるから、本件訂正発明7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
したがって、本件訂正発明7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
積層フィルム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス資源であるデンプンなどの糖質から誘導することができる構成単位を含有するポリカーボネート樹脂を含有する耐薬品性、吸水率、成形加工性、靭性に優れた積層フィルムに関するものである。さらに、透明性を付与する光学フィルムや加飾フィルムに関係するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた透明性、耐衝撃性及び高い熱変形温度を有し、寸法安定性、加工性及び自己消火性に優れることから、窓ガラス材料や光学材料として多くの用途で使用されている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂は、表面硬度が劣るため傷つきやすいという問題を有している。また、ポリカーボネート樹脂の表面硬度を高めるために、表面にハードコート処理が行われることがあるが、ポリカーボネート層とハードコート層との密着が十分でないという問題も有していた。
【0003】
これらの問題点を改善する方法として、ポリカーボネート樹脂層を(メタ)アクリレートの重合体または共重合体からなる層で被覆する方法が知られている。
例えば、ポリカーボネ-ト樹脂と(メタ)アクリレート重合体とを共押出して得られる、ポリカーボネートシートに(メタ)アクリレート重合体の層が被覆された多層フィルムが開示されている。しかしながら、既存の多層フィルムにおいては、耐薬品性、成形性、衝撃強度の点で満足できるものは得られていなかった。(特許文献1参照)
【0004】
また、ポリカーボネート樹脂や(メタ)アクリレート重合体などは一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたプラスチック成形品の提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたプラスチックの開発が求められており、特に大型成形品の分野においてはその要求は強い。
【0005】
従来、植物由来モノマーとしてイソソルビドを使用し、脂肪族ジオールとを共重合すること炭酸ジフェニルとのエステル交換により、カーボネート重合体を得ることが提案されている。(特許文献2、3参照)
このようにイソソルビドを用いたカーボネート重合体の提案はなされているが、これらの文献で開示されているのは、ガラス転移温度や基本的な機械的特性のみで、積層フィルムに必要とされる耐薬品性、吸水率、成形加工性、靭性などの特性については十分開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55-59929号公報
【特許文献2】英国特許出願公開第1079686号明細書
【特許文献3】国際公開第2004/111106号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために、鋭意検討した結果、植物由来のモノマーであるイソソルビドからなるポリカーボネート樹脂の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料を積層されてなるフィルムにすることで、耐薬品性、吸水率、成形加工性、靭性が改良されることを見出し本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、次に挙げる手段を採用することにより達成することができる。すなわち、本発明によれば、
1.植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15?100モル%を占めるポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料がアクリル樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されている多層フィルム。
【化1】

2.積層フィルムの25℃、24時間、水中での吸水率が3%以下である前記1に記載の多層フィルム。
3.積層フィルムの鉛筆硬度がB以上である前記1または2に記載の多層フィルム。
4.植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が上記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が30?100モル%を占めるポリカーボネートである前記1?3のいずれかに記載の多層フィルム。
【0009】
5.植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の厚みが1μm?100μmの層が積層されてなる前記1?4のいずれかに記載の多層フィルム。
6.多層フィルムの総厚みが10μm?600μmである前記1?4のいずれかに記載の多層フィルム。
7.植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15?100モル%を占め、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14?0.50のポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料が粘度平均分子量で表して13,000?40,000のポリカーボネート樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されており、印刷層の厚みが0.01?100μmである多層フィルム。
【化11】

【発明の効果】
【0010】
本発明は、バイオマス資源であるデンプンなどの糖質から誘導することができる構成単位を含有するポリカーボネート樹脂からなる積層体とすることで、耐薬品性、吸水率、成形加工性、靭性に優れた多層フィルムが得られ、さらに透明性にも優れているため光学フィルム、加飾フィルムとして好適に用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例で使用した真空成形機である。
【図2】実施例で使用した金型である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の多層フィルムについて以下詳細に説明する。
本発明の多層フィルムは、ベースフィルムの少なくとも片面に熱可塑性樹脂材料の層が積層される。つまり本発明の多層フィルムの構成としては、ベースフィルム+熱可塑性樹脂材料の層、の構成や、ベースフィルム+熱可塑性樹脂材料の層+ベースフィルム、の構成や、熱可塑性樹脂材料の層+ベースフィルム+熱可塑性樹脂材料の層、の構成が挙げられる。
【0013】
<ベースフィルムについて>
そして本発明に用いるベースフィルムは、植物由来のエーテルジオール残基を含み、好ましくは下記式(1)で表される植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂である。
【0014】
【化2】

【0015】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、下記式(a)で表されるエーテルジオールおよび炭酸ジエステルとから溶融重合法により製造することができる。
【0016】
【化3】

【0017】
エーテルジオールとしては、具体的には下記式(b)、(c)および(d)で表されるイソソルビド、イソマンニド、イソイディッドなどが挙げられる。
【0018】
【化4】

【化5】

【化6】

【0019】
これら糖質由来のエーテルジオールは、自然界のバイオマスからも得られる物質で、再生可能資源と呼ばれるものの1つである。イソソルビドは、でんぷんから得られるDーグルコースに水添した後、脱水を受けさせることにより得られる。その他のエーテルジオールについても、出発物質を除いて同様の反応により得られる。
【0020】
特に、カーボネート構成単位がイソソルビド(1,4;3,6ージアンヒドローDーソルビトール)由来のカーボネート構成単位を含んでなるポリカーボネート樹脂が好ましい。イソソルビドはでんぷんなどから簡単に作ることができるエーテルジオールであり資源として豊富に入手することができる上、イソマンニドやイソイディッドと比べても製造の容易さ、性質、用途の幅広さの全てにおいて優れている。
【0021】
全ジオール残基中、式(1)で表されるジオール残基が好ましくは15?100モル%、より好ましくは30?100モル%、さらに好ましくは40?100モル%、特に好ましくは50?100モル%を占めるポリカーボネートである。
一方、本発明に用いるに適した共重合構成単位のジオール化合物としては、直鎖脂肪族ジオール化合物、脂環式ジオール化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物のいずれでも良い。
【0022】
直鎖脂肪族ジオール化合物として、例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール,水素化ジオレイルグリコールなどを挙げることができる。これらのうち、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオールが好ましい。これらの直鎖脂肪族ジオール類は単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0023】
また、本発明に使用できる脂環式ジオールとしては、例えば1,2-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、2-メチル-1,4-シクロヘキサンジオールなどのシクロヘキサンジオール類、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどのシクロヘキサンジメタノール類、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノールなどのノルボルナンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、1,3-アダマンタンジオール、2,2-アダマンタンジオール、デカリンジメタノール、及び3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどが挙げられる。これらのうち、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。これらの脂環式ジオール類は単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0024】
また本発明で使用きる芳香族ジヒドロキシ化合物としては、4,4’-ビフェノール、3,3’,5,5’-テトラフルオロ-4,4’-ビフェノール、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-o-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン(通常“ビスフェノールM”と称される)、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-トリフルオロメチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフォン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルスルホン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通常“ビスフェノールA”と称される)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(通常“ビスフェノールC”と称される)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシー3-フェニルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-イソプロピル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)デカン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-2,3-ジメチルフェニル)デカン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(通常“ビスフェノールAF”と称される)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、および2,2-ビス(3,5-ジフルオロ-4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモー4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジクロロー4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチルー4-ヒドロキシフェニル)プロパン、および2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンが挙げられる。
【0025】
上記の中でも、ビスフェノールM、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールAF、および1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカンが好ましい。これらの芳香族ジオール類は単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0026】
反応温度は、エーテルジオールの分解を抑え、着色が少なく高粘度の樹脂を得るために、できるだけ低温の条件を用いることが好ましいが、重合反応を適切に進める為には重合温度は180℃?280℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは180℃?260℃の範囲である。
【0027】
また、反応初期にはエーテルジオールと炭酸ジエステルとを常圧で加熱し、予備反応させた後、徐々に減圧にして反応後期には系を1.3×10^(-3)?1.3×10^(-5)MPa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる方法が好ましい。反応時間は通常0.5?4時間程度である。
【0028】
炭酸ジエステルとしては、水素原子が置換されていてもよい炭素数6?12のアリール基またはアラルキル基、もしくは炭素数1?4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、mークレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでも反応性、コスト面からジフェニルカーボネートが好ましい。
【0029】
炭酸ジエステルはエーテルジオールに対してモル比で1.02?0.98となるように混合することが好ましく、より好ましくは1.01?0.98であり、さらに好ましくは1.01?0.99である。炭酸ジエステルのモル比が1.02より多くなると、炭酸エステル残基が末端封止として働いてしまい充分な重合度が得られなくなってしまい好ましくない。また炭酸ジエステルのモル比が0.98より少ない場合でも、充分な重合度が得られず好ましくない。
【0030】
重合触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩またはセシウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物、などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。なかでも、含窒素塩基性化合物とアルカリ金属化合物とを併用して使用することが好ましい。これらの触媒を用いて重合したものは、5%重量減少温度が十分高く保たれるため好ましい。
【0031】
これらの重合触媒の使用量は、それぞれ炭酸ジエステル成分1モルに対し、好ましくは1×10^(-9)?1×10^(-3)当量、より好ましくは1×10^(-8)?5×10^(-4)当量の範囲で選ばれる。また反応系は窒素などの原料、反応混合物、反応生成物に対し不活性なガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。更に、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0032】
上記のごとく反応を行う事により得られるイソソルビド系ポリカーボネート樹脂は、その末端構造はヒドロキシ基または、炭酸ジエステル残基となるが、本発明のベースポリマー基材で用いるポリカーボネート樹脂は、その特性を損なわない範囲で別途末端基を導入しても良い。かかる末端基は、モノヒドロキシ化合物を重合時に添加することにより導入することができる。モノヒドロキシ化合物としては下記式(2)または(3)で表されるヒドロキシ化合物が好ましく用いられる。
【0033】
【化7】

【化8】

【0034】
上記式(2),(3)中、R^(1)は炭素原子数4?30のアルキル基、炭素原子数7?30のアラルキル基、炭素原子数4?30のパーフルオロアルキル基、または下記式(4)
【化9】

であり、好ましくは炭素原子数4?20のアルキル基、炭素原子数4?20のパーフルオロアルキル基、または上記式(4)であり、特に炭素原子数8?20のアルキル基、または上記式(4)が好ましい。Xは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合が好ましいが、より好ましくは単結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合であり、なかでも単結合、エステル結合が好ましい。aは1?5の整数であり、好ましくは1?3の整数であり、特に1が好ましい。
【0035】
また、上記式(4)中、R^(2),R^(3),R^(4),R^(5)及びR^(6)は、夫々独立して炭素原子数1?10のアルキル基、炭素原子数6?20のシクロアルキル基、炭素原子数2?10のアルケニル基、炭素原子数6?10のアリール基及び炭素原子数7?20のアラルキル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、好ましくは夫々独立して炭素原子数1?10のアルキル基及び炭素原子数6?10のアリール基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であり、特に夫々独立してメチル基及びフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基が好ましい。bは0?3の整数であり、1?3の整数が好ましく、特に2?3の整数が好ましい。cは4?100の整数であり、4?50の整数が好ましく、特に8?50の整数が好ましい。
【0036】
本発明に用いるモノヒドロキシ化合物もまた植物などの再生可能資源から得られる原料であることが好ましい。植物から得られるモノヒドロキシ化合物としては、植物油から得られる炭素数14以上の長鎖アルキルアルコール類(セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール)などが挙げられる。
【0037】
本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂は、ASTM D6866に準拠して測定された生物起源物質含有率が25%?100%が好ましく、30%?100%がより好ましい。
【0038】
本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂は、250℃におけるキャピロラリーレオメータで測定した溶融粘度が、シェアレート600sec^(-1)で0.05×10^(3)?4.0×10^(3)Pa・sの範囲にあるものであり、0.1×10^(3)?3.0×10^(3)Pa・sの範囲にあることがより好ましく、0.1×10^(3)?2.0×10^(3)Pa・sの範囲にあることがさらに好ましい。溶融粘度がこの範囲であると、ポリマーの分解が抑制される良好な条件にて成形でき、各種特性に優れた成形品を得ることができる。溶融粘度が下限より小さいと成形可能であっても機械特性が不良であり、上限を超えると溶融流動性に劣り、成形加工温度を上げるとポリマーの分解が促進されてしまう。
【0039】
本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂は、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度としては0.14?0.50のものを用いることができる。比粘度の好ましい範囲は、下限は0.20以上が好ましく、0.22以上がより好ましい。また上限は0.45以下が好ましく、0.37以下がより好ましく、0.35以下が特に好ましい。また比粘度が0.14より低くなると本発明のポリカーボネート樹脂より得られた積層フィルムが充分な機械強度を持たせることが困難となる。また比粘度が0.50より高くなると溶融流動性が高くなりすぎて、成形に必要な流動性を有する溶融温度が分解温度より高くなってしまう。
【0040】
本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂は、そのガラス転移温度(Tg)の下限が80℃以上が好ましく、より好ましくは90℃以上であり、また上限は165℃以下が好ましい。Tgが80℃未満だと耐熱性に劣り、165℃を超えると本発明のポリカーボネート樹脂を用いて成形する際の溶融流動性に劣り、ポリマー分解が少ない温度範囲で射出成形ができなくなる。TgはTA Instruments社製 DSC (型式 DSC2910)により測定される。
【0041】
また、イソソルビド系ポリカーボネート樹脂は、その5%重量減少温度の下限が330℃以上が好ましく、より好ましくは340℃以上であり、さらに好ましくは350℃以上である。5%重量減少温度が上記範囲内であると、本発明のポリカーボネート樹脂を用いて成形する際の樹脂の分解がほとんど無く好ましい。5%重量減少温度を上昇させるためには、前述の通り溶融重合触媒として好ましい化合物を選択することが有効である。5%重量減少温度はTA Instruments社製 TGA (型式 TGA2950)により測定される。
【0042】
本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂においては、さらに良好な色相かつ安定した流動性を得るため、熱安定剤を含有する事が好ましい。熱安定剤としては、リン系安定剤を含有することが好ましく、殊にリン系安定剤として、下記一般式(5)に示すペンタエリスリトール型ホスファイト化合物を配合することが好ましい。
【0043】
【化10】

[式中R^(21)、R^(22)はそれぞれ水素原子、炭素数1?20のアルキル基、炭素数6?20のアリール基ないしアルキルアリール基、炭素数7?30のアラルキル基、炭素数4?20のシクロアルキル基、炭素数15?25の2-(4-オキシフェニル)プロピル置換アリール基を示す。なお、シクロアルキル基およびアリール基は、アルキル基で置換されていてもよい。]
【0044】
前記ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物としては、より具体的には、例えば、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジシクロヘキシルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられ、中でも好適には、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、およびビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられる。
【0045】
他のリン系安定剤としては、前記以外の各種ホスファイト化合物、ホスホナイト化合物、およびホスフェート化合物が挙げられる。
ホスファイト化合物としては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(ジエチルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-iso-プロピルフェニル)ホスファイト、トリス(ジ-n-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、およびトリス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。
【0046】
さらに他のホスファイト化合物としては二価フェノール類と反応し環状構造を有するものも使用できる。例えば、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、6-tert-ブチル-4-[3-[(2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ]プロピル]-2-メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェニル)(2-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ホスファイトなどを挙げることができる。
【0047】
ホスフェート化合物としては、トリブチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクロルフェニルホスフェート、トリエチルホスフェート、ジフェニルクレジルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェートなどを挙げることができ、好ましくはトリフェニルホスフェート、トリメチルホスフェートである。
【0048】
ホスホナイト化合物としては、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-フェニルホスホナイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3-フェニル-フェニルホスホナイト等があげられ、テトラキス(ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトが好ましく、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-ビフェニレンジホスホナイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-フェニル-フェニルホスホナイトがより好ましい。かかるホスホナイト化合物は上記アルキル基が2以上置換したアリール基を有するホスファイト化合物との併用可能であり好ましい。
【0049】
ホスホネイト化合物としては、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、およびベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。
上記のリン系安定剤は、単独でまたは2種以上を併用して使用することができ、少なくともペンタエリスリトール型ホスファイト化合物を有効量配合することが好ましい。リン系安定剤はポリカーボネート樹脂100重量部当たり、好ましくは0.001?1重量部、より好ましくは0.01?0.5重量部、さらに好ましくは0.01?0.3重量部配合される。
【0050】
本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂には各種帯電防止剤を添加、共重合することが好ましい。かかる帯電防止剤としては、アニオン系、カチオン系、非イオン系、両性の各種公知のものを用いることが可能である。中でも特に耐熱性などの点からはアニオン系帯電防止剤のアルキルスルホン酸Na、アルキルベンゼンスルホン酸Naを用いることが好まい。
【0051】
またこれらの帯電防止剤を重合時に添加する際には、併せて酸化防止剤を添加することが、取り扱い性などの点から好ましい。かかる酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などの各種公知のものを用いることができ、さらにこれらの混合の化合物なども用いることが可能である。
【0052】
本発明のイソソルビド系ポリカーボネートフィルム中には、目的や用途に応じて各種の粒子を添加することができる。添加する粒子は、本発明のイソソルビド系ポリカーボネート樹脂に不活性なものであれば特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。これらの粒子を2種以上添加しても構わない。かかる粒子の添加量は、フィルムの全重量に対して0.01?10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.05?3重量%である。
【0053】
特にフィルムに易滑性を付与し取扱性を向上させる点からは、添加する粒子の平均粒子径は好ましくは0.001?20μmであり、さらに好ましくは0.01?10μmである。平均粒子径が20μmを超えると、フィルムに欠陥が生じやすくなり、成形性の悪化などを引き起こすことがあり好ましくなく、また0.001μm未満の場合、十分な易滑性が発現しないことがあり好ましくない。
【0054】
無機粒子の種類としては、特に限定されないが、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウムなどの各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの各種硫酸塩、カオリン、タルクなどの各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムなどの各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの各種酸化物、フッ化リチウムなどの各種塩を使用することができる。
また有機粒子としては、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などが使用される。
【0055】
架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーからの単独重合体または共重合体が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子も好ましく使用される。
【0056】
<熱可塑性樹脂材料の層について>
層(B)を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂が挙げられる。また、その他の樹脂として、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等を積層することもできる。。これらの樹脂は、その一部が変性したものであってもよい。
【0057】
また、これらの樹脂に目的や用途に応じて各種の粒子やエラストマーを添加することができる。以下、層(B)を構成する熱可塑性樹脂として好適なポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂用エラストマー、アクリル樹脂を例示して説明するが、本発明では、該樹脂はポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂に限られるものではない。
【0058】
〈ポリカーボネート樹脂〉
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物が炭酸エステル結合により結ばれたポリマーであり、通常、ジヒドロキシ成分とカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融重合法で反応させて得られるものである。
【0059】
ジヒドロキシ成分の代表的な例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン、イソソルビド、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。これらを単独で使用したホモポリマーでも、2種類以上共重合した共重合体であっても良い。物性面、コスト面からビスフェノールAが好ましい。本発明ではビスフェノール成分の50モル%以上がビスフェノールAであるポリカーボネートが好ましく、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0060】
具体的なポリカーボネートとして、ビスフェノールAのホモポリマー、ビスフェノールAと1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンとの共重合体、ビスフェノールAと9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンとの共重合体等を挙げることができる。ビスフェノールAのホモポリマーが最も好ましい。
【0061】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0062】
上記二価ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体を界面重合法または溶融重合法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0063】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量で表して13,000?40,000の範囲が好ましい。該分子量が13,000より低いと多層フィルムとして脆くなり、また40,000より高いとその溶融粘度が高くなりすぎて溶融製膜が困難となるため好ましくない。ポリカーボネート樹脂が2種以上の混合物の場合は混合物全体での分子量を表す。ここで粘度平均分子量とは、塩化メチレン100mLにポリカーボネート0.7gを溶解した溶液の20℃における比粘度(η_(sp))を測定し、下記式から粘度平均分子量(M)を算出したものである。
η_(sp)/c=[η]+0.45×[η]^(2)c
[η]=1.23×10^(-4)M^(0.83)
(但しc=0.7g/dL、[η]は極限粘度)
【0064】
〈ポリエステル系熱可塑性エラストマー〉
本発明で用いるポリエステル系熱可塑性エラストマーとは、結晶性の高融点ポリエステルブロック単位からなるハードセグメントと低融点のソフトセグメントとにより構成されるマルチブロック共重合体である。
【0065】
(ハードセグメント)
ハードセグメントは、該セグメントからなるポリマーの融点が150℃以上となるポリエステルセグメントである。かかるポリエステルとして、芳香族ジカルボン酸またはその誘導体とジオール成分またはその誘導体とを重合してなるポリエステル、これらの成分を2種以上重合してなるコポリエステル、オキシ酸またはその誘導体を重合してなるポリエステル、並びに芳香族エーテルジカルボン酸またはその誘導体とジオール成分またはその誘導体とを重合してなるポリエステル等を挙げることが出来る。
【0066】
芳香族ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、ビス(4-カルボキシフェニル)メタン、ビス(4-カルボキシフェニル)スルホン等を挙げることが出来る。中でもテレフタル酸および2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
【0067】
またジオール成分としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,10-デカンジオール、p-キシリレングリコールおよびシクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。中でも炭素数2?4のジオール成分が好ましく、1,4-ブタンジオールがより好ましい。
【0068】
ハードセグメントは、ポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。ポリブチレンテレフタレートはポリカーボネート樹脂との相溶性に優れ、透明性や熱成形性の点から好ましく、また強度等の面でも良好な特性を有する。ポリブチレンテレフタレートは、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を共重合成分として含んでも良い。かかる共重合成分の割合は、ジカルボン酸成分およびジオール成分共にそれぞれの全成分100モル%中、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
【0069】
(ソフトセグメント)
ソフトセグメントとは、該セグメントから形成されたポリマーの融点が100℃以下、または100℃において液状で非晶性を示すセグメントのことを示す。
ソフトセグメントとして、ジカルボン酸成分とジオール成分とからなるポリエステルが挙げられる。
【0070】
ジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸、または芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、ビス(4-カルボキシフェニル)メタン、ビス(4-カルボキシフェニル)スルホン等を挙げることが出来る。なかでもテレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。芳香族ジカルボン酸は2種以上の成分を使用することができる。
【0071】
芳香族ジカルボン酸には、脂肪族ジカルボン酸や脂環族ジカルボン酸を共重合することができる。脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数4?12の直鎖状ジカルボン酸が挙げられ、炭素数8?12の直鎖状ジカルボン酸がより好ましく挙げられる。直鎖状ジカルボン酸の具体例としてはコハク酸、アジピン酸、およびセバチン酸が例示される。脂環族ジカルボン酸として、シクロヘキサンジカルボン酸が例示される。共重合成分の割合はジカルボン酸成分の合計100モル%中40モル%以下が適切であり、30モル%以下が好ましく、20モル%以下とすることがより好ましい。
【0072】
ジオール成分として、炭素数5?15のジオールまたはポリ(アルキレンオキサイド)グリコールが好ましい。炭素数5?15のジオールとして、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、3-メチルペンタンジオール、2-メチルオクタメチレンジオール等が好適に例示され、特にヘキサメチレングリコールが好ましい。ポリ(アルキレンオキサイド)グリコールとして、ポリ(エチレンオキサイド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコール等が挙げられる。アルキレンオキサイドの重合度は2?5が好ましい。
【0073】
ジオール成分には、エチレングリコール、テトラメチレングリコール等の炭素数2?4の直鎖状脂肪族ジオールを共重合することができる。共重合成分の割合はジオール成分の合計100モル%中40モル%以下が適切であり、30モル%以下が好ましく、20モル%以下とすることがより好ましい。
【0074】
ソフトセグメントとして、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸および炭素数5?15のジオールから構成されるポリエステルが好ましい(以下“SS-1”と称する場合がある)。SS-1は極めて良好な透明性が得られる点から好適である。
【0075】
ソフトセグメントSS-1は、より良好な透明性を得られる点からジカルボン酸成分の合計100モル%中、芳香族ジカルボン酸の含有量が60?99モル%および脂肪族ジカルボン酸の含有量が1?40モル%であることが好ましい。芳香族ジカルボン酸の含有量が70?95モル%および脂肪族ジカルボン酸の含有量が5?30モル%であることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸の含有量が85?93モル%および脂肪族ジカルボン酸の含有量が7?15モル%であることがさらに好ましい。芳香族ジカルボン酸の含有量が89?92モル%および脂肪族ジカルボン酸の含有量が8?11モル%であることが特に好ましい。
【0076】
SS-1の芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸およびイソフタル酸が好適であり、特に結晶性低下の点からイソフタル酸が好適である。SS-1の脂肪族ジカルボン酸として、コハク酸、アジピン酸、およびセバチン酸等の炭素数6?12の直鎖状脂肪族ジカルボン酸が好適であり、特にセバシン酸が好適である。
【0077】
SS-1の炭素数5?15のジオール成分としては、ヘキサメチレングリコール、デカメチレングリコール、3-メチルペンタンジオール、および2-メチルオクタメチレンジオール等の炭素数6?12の直鎖状脂肪族ジオールが好ましい。特にヘキサメチレングリコールが好ましい。
【0078】
SS-1は、ポリカーボネート樹脂との相溶性が高く従って多層フィルムにおいても透明性が高いものを得ることが出来、また熱成形後の表面性や透明性も良好であるという観点から特に好ましい。SS-1としてより具体的には、イソフタル酸およびセバシン酸成とヘキサメチレングリコールからなるポリエステルが好ましい。
【0079】
またソフトセグメントとして、芳香族ジカルボン酸およびポリ(アルキレンオキサイド)グリコールから構成されるポリエステルが挙げられる(以下“SS-2”と称する場合がある)。
【0080】
SS-2を構成する芳香族ジカルボン酸として、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、ビス(4-カルボキシフェニル)メタン、ビス(4-カルボキシフェニル)スルホン等を挙げることが出来る。中でもテレフタル酸およびイソフタル酸が好適であり、特にテレフタル酸が好適である。
【0081】
SS-2を構成する好適なポリ(アルキレンオキサイド)グリコールは、分子式HO(CH_(2)CH_(2)O)_(i)H(i=2?5)、または分子式HO(CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH_(2)O)_(i)H(i=2?3)で表わされるものであり、更に好適には分子式HO(CH_(2)CH_(2)O)_(i)H(i=2?5)で表わされるものであり、特に好ましくはトリ(エチレンオキサイド)グリコールである。
【0082】
またソフトセグメントとして、炭素数2?12の脂肪族ジカルボン酸と炭素数2?10の脂肪族グリコールから製造されるポリエステルが挙げられる。かかるポリエステルとしては、例えばポリエチレンアジペート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリエチレンセバケート、ポリネオペンチルセバケート、ポリテトラメチレンドデカネート、ポリテトラメチレンアゼレートおよびポリヘキサメチレンアゼレート等が例示される。
【0083】
またソフトセグメントとして、ポリ(アルキレンオキサイド)グリコールからなるセグメントが挙げられる。ポリ(アルキレンオキサイド)グリコールとして、ポリ(エチレンオキサイド)グリコール、ポリ(プロピレンオキサイド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキサイド)グリコール等のポリアルキレンエーテルグリコール、並びにこれらのポリエーテルグリコール成分を共重合した共重合ポリエーテルグリコール等が例示される。かかるポリ(アルキレンオキサイド)グリコールの数平均分子量は400?6,000の範囲が好ましく、500?3,000がより好ましい。
【0084】
またソフトセグメントとして、ラクトン類化合物を開環重合したポリラクトン類が挙げられ、具体的にはポリ-ε-カプロラクトンを好ましく挙げることが出来る。更に上記ポリエステルとポリエーテルを組み合わせたポリエステルポリエーテル共重合体等も挙げられる。
【0085】
(組成等)
また本発明ではポリエステル系熱可塑性エラストマーにおいてハードセグメントとソフトセグメントとの割合は、エラストマー100重量%中、ハードセグメントが20?70重量%およびソフトセグメントが80?30重量%であることが適切であり、ハードセグメントが20?40重量%およびソフトセグメントが80?60重量%であることが好ましい。ポリエステル系熱可塑性エラストマーの固有粘度(o-クロロフェノール中、35℃での測定された値)は0.6以上が好ましく、0.8?1.5の範囲がより好ましく、0.8?1.2の範囲が更に好ましい。固有粘度が上記範囲より低い場合には多層フィルムの強度が低下する恐れがあり好ましくない。
【0086】
本発明では、A層中のポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、3?50重量部であることが好ましい。3重量%より少ないと、該エラストマー添加による熱成形性向上の効果が乏しくなるため好ましくなく、また50重量%より多くなると、樹脂組成物の熱変形温度が低くなりすぎるため多層フィルムの耐熱性が不足し好ましくない。より好ましくは5?30重量部であり、さらに好ましくは8?25重量部である。
【0087】
本発明のA層には、それぞれの樹脂において一般的に用いられる各種の添加剤を含んでいてもよい。例えば熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、染料等が挙げられる。また本発明の効果を損なわない範囲で、ガラス繊維等の強化フィラーを含有していてもよい。
【0088】
(ポリエステル系熱可塑性エラストマーの製造)
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、前述したハードセグメントとソフトセグメントを溶融混練することにより反応させてマルチブロック共重合体とすることにより得ることが出来る。
【0089】
ハードセグメントとなるポリマーの固有粘度は、好ましくは0.2?2.0、より好ましくは0.5?1.5の範囲である。
ソフトセグメントとなるポリマーの固有粘度は、好ましくは0.2?2.0、より好ましくは0.5?1.5の範囲である。
【0090】
反応は、好ましくは200?300℃、より好ましくは220?260℃の範囲で、行なうことが好ましい。
かくしてマルチブロック化した上記ハードセグメントとソフトセグメントの数平均分子量は各々、500?7,000の範囲が好ましく、800?5,000の範囲がより好ましい。
【0091】
〈アクリル樹脂〉
アクリル系樹脂フィルムとは、各種アクリル酸エステル系モノマーの重合体から作られる熱可塑性樹脂をその構造中に含むアクリル系ポリマーからなるフィルムである。
本発明で使用できるモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアマイド、スチレンやα-メチルスチレン等のスチレン系モノマー、アクリロニトリル、無水マレイン酸などをあげることができる。
【0092】
次に、本発明の多層フィルムの製造方法について説明する。
〈多層フィルムの製造〉
本発明の多層フィルムは、従来公知の方法により製造することが出来る。例えば各層を予め別々に製膜しておきラミネートする、あるいは熱圧着プレスする方法、予め製膜した一方の層のフィルムを基材として、その片面あるいは両面にコーティングしてもう一方の層を形成させる方法、それぞれの樹脂層を共押出法により積層製膜する方法等が挙げられる。中でも経済性、生産安定性等から共押出法による製造がもっとも好ましい。
即ち、本発明の多層フィルムは、A層用の成形材料Aと、B層用の成形材料Bとを共押出して製造することができる。
【0093】
共押出法は、成形材料AおよびBを別々の押出機を用いて溶融押出しし、フィードブロックまたはマルチマニホールドダイを用いて積層することにより多層フィルムを得る方法であり、各押出機の押出量や製膜速度、ダイスリップ間隔等を調整することにより、得られる多層フィルムの総厚みおよび厚み組成をコントロールすることが可能である。
【0094】
共押出法の場合、一般にダイスから出た溶融樹脂の片面を冷却ロールで冷却しても良いが、金属ロールや弾性ロールあるいは金属スリーブに両面を密着させて、フィルム表面の面精度を高める方法がより好適である。
得られた多層フィルムを延伸して使用することもできる。
【0095】
延伸方法はロール間で延伸する縦一軸延伸、テンターを用いる横一軸延伸、あるいはそれらを組み合わせた同時ニ軸延伸、逐次ニ軸延伸など公知の方法を用いることが出来、目的に応じて最適の延伸方法を選択すれば良い。また連続で行うことが生産性の点で好ましいが、バッチ式で行ってもよく特に制限はない。
【0096】
本発明の多層フィルムの表面は、加飾層やハードコート層、接着層を形成した場合に各層との密着性を向上させる目的で、フィルムの表面をあらかじめコロナ放電処理、UV処理やアンカーコート剤を塗布するなどの方法によって、前処理を施すことができる。アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アクリル変性ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリシロキサンおよびエポキシ樹脂よりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が好ましく用いられる。
【0097】
本発明の多層フィルムにおいては、ベースフィルムの少なくとも片面に加飾層が積層することができる。本発明に用いられる加飾層は、各種形態を取り得る。例えばベースフィルムに直接的に施される印刷層や蒸着層、ベースフィルムに積層される着色した樹脂層、および印刷や蒸着などの加飾を施したフィルムを用いた層などが加飾層として挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0098】
加飾層の一種である印刷層のバインダー樹脂素材としては、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂、熱可塑性エラストマー系樹脂等が好ましく、特に柔軟な被膜を作製することができる樹脂が好ましい。またバインダー樹脂中には、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを配合することが好ましい。
【0099】
印刷層の積層方法は、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの方法を用いることが好ましい。特に多色刷りや階調色彩を必要とする場合には、オフセット印刷法やグラビア印刷法が好ましい。また単色の場合は、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。図柄に応じて、フィルムに全面的に印刷層を積層する印刷法でも、部分的に印刷層を積層する印刷法でもよい。
【0100】
加飾層の一種である蒸着層を構成する材質としては、アルミニウム、珪素、亜鉛、マグネシウム、銅、クロム、ニッケルクロムなどの金属が好ましい。意匠性とコストの面からアルミニウム金属がより好ましいが、2種以上の金属成分からなる合金であってもよい。蒸着によりこれら金属薄膜層を積層する方法としては、通常の真空蒸着法を用いることができるが、イオンプレーティングやスパッタリング、プラズマで蒸発物を活性化する方法なども用いることができる。また化学気相蒸着法(いわゆるCVD法)も、広い意味での蒸着法として用いることができる。これらのための蒸発源としては、抵抗加熱方式のボード形式や、輻射または高周波加熱によるルツボ形式や、電子ビーム加熱による方式などがあるが、これらに特に限定さることはない。
【0101】
加飾層の一種として、ベースフィルム上に着色した樹脂層を形成する方法を用いる場合、着色剤としては染料、有機顔料および無機顔料により着色した樹脂を、コーティング法や押出ラミネート法により積層する方式があげられるが、これらに限定されない。
加飾層として印刷層を形成した場合、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01?100μmが好ましい。
また印刷層や蒸着層、樹脂層以外を加飾層として用いた場合でも、加飾層の厚みの範囲は、本発明の効果を阻害しない限り限定されないが、成形性の観点から0.01?100μmであることが好ましい。
【0102】
本発明の多層フィルムにおいては、最表面にハードコート層が積層することができる。このハードコート層は、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、有機シリケート化合物、シリコーン系樹脂または金属酸化物などで構成することができる。特に、硬度と耐久性などの点で、シリコーン系樹脂とアクリル系樹脂が好ましく、更に、硬化性、可撓性および生産性の点で、アクリル系樹脂、特に、活性線硬化型のアクリル系樹脂、または熱硬化型のアクリル系樹脂からなるものが好ましい。
【0103】
本発明に用いられるハードコート層中には、本発明の効果が損なわれない範囲で、さらに各種の添加剤を必要に応じて配合することができる。例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、界面活性剤、レベリング剤および帯電防止剤などを用いることができる。
【0104】
ハードコート層を積層するプロセスとしては、オフラインコーティングと、インラインコーティングの2種に大別することができる。
オフラインコーティングは、ベースフィルムに、熱硬化型樹脂または活性線硬化型樹脂を主成分とするコーティング層の塗材を塗布する。一方、インラインコーティングは、ベースフィルムの製膜工程においてハードコート層の塗材を塗布する。
【0105】
ハードコート層を積層するための組成物を含有する塗材の塗布手段としては、各種の塗布方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法またはスプレーコート法などを用いることができる。
【0106】
本発明に用いられる活性線としては、紫外線(UV)、電子線および放射線(α線、β線、γ線など)などアクリル系のビニル基を重合させる電磁波が挙げられ、実用的には、UVが簡便であり好ましい。UV線源としては、紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノン灯または炭素アーク灯などを用いることができる。また、活性線を照射するときに、低酸素濃度下で照射を行なうと、効率よく硬化させることができる。また更に、電子線方式は、装置が高価で不活性気体下での操作が必要ではあるが、塗布層中に光重合開始剤や光増感剤などを含有させなくてもよい点で有利である。
【0107】
本発明に用いられる熱硬化に必要な熱としては、スチームヒーター、電気ヒーター、赤外線ヒーターあるいは遠赤外線ヒーターなどを用いて少なくとも140℃以上に加温された空気、不活性ガスを、スリットノズルを用いて基材、塗膜に吹きあてることにより与える熱が挙げられる。また200℃以上に加温された空気による熱が好ましく、更には200℃以上に加温された窒素による熱であることが、硬化速度が早くなることからより好ましい。
【0108】
ハードコート層の厚さは、用途に応じて決定すればよいが、通常0.1?30μmが好ましく、より好ましくは1?15μmである。ハードコート層の厚さが0.1μm未満の場合には十分硬化していても薄すぎるために表面硬度が十分でなく傷が付きやすくなる傾向にあり、一方、厚さが30μmを超える場合には、折り曲げなどの応力により硬化膜にクラックが入りやすくなる傾向にある。
【0109】
本発明に用いる多層フィルムの全厚みは、好ましくは10?600μmの範囲であり、より好ましくは20?400μm、特に好ましくは40?300μmである。多層フィルムの全厚みが10μm未満の場合、フィルムの剛性、製膜安定性および平面性が悪化し、さらには成形時にしわなどが入りやすくなり好ましくない。また600μmを超えると、取り扱い性悪く、場合によっては成形性の悪化を引き起こすことがあるために好ましくない。
【0110】
本発明の多層フィルムは、ヘイズが0%以上5%以下であることが好ましい。多層フィルムのヘイズは、さらに好ましくは0%以上3%以下、特に好ましくは0%以上2%以下である。多層フィルムのヘイズが5%より大きい場合に、多層フィルムを光学用途として用いた際、視認性が悪くなることがあり好ましくない。またヘイズは小さければ小さい程良いが、現実的には0.1%未満にすることは困難である。
【0111】
本発明の多層フィルムは、鉛筆硬度がB以上であることが好ましい。多層フィルムの鉛筆硬度は、さらに好ましくはHB以下、特に好ましくはF以上である。多層フィルムの鉛筆硬度がBより大きい場合に、多層フィルムを加飾フィルム用途として用いた際、傷がつきやすく好ましくない。また鉛筆硬度は硬ければ硬い程良いが、現実的には4H以上にすることは困難である。
【0112】
また本発明の多層フィルムは、全光線透過率が85%以上100%以下であることが好ましい。全光線透過率は、より好ましくは90%以上、特に好ましくは92%以上である。全光線透過率が85%より小さい場合、多層フィルムを光学用途として用いた際に、視認性が悪くなることがある。
【0113】
また本発明の多層フィルムは、23℃、24時間、水中での吸水率が3%以下であることが好ましい。吸水率はより好ましくは2.5%以下、特に好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。吸水率が3%より大きい場合、多層フィルムが膨張し多層フィルムを光学用途として用いた際に、視認性が悪くなることがある。
【実施例】
【0114】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお参考例、実施例および比較例中の物性測定は以下のようにして行ったものである。
【0115】
(1)比粘度
ペレットを塩化メチレンに溶解、濃度を約0.7g/dLとして、温度20℃にて、オストワルド粘度計(装置名:RIGO AUTO VISCOSIMETER TYPE VMR-0525・PC)を使用して測定した。なお、比粘度η_(sp)は下記式から求められる。
η_(sp)=t/to-1
t :試料溶液のフロータイム
t_(o) :溶媒のみのフロータイム
【0116】
(2)厚みおよび層厚み
フィルム全体の厚みを測定する際は、ダイヤルゲージを用いて、フィルムから切り出した各々の試料の任意の場所5ヶ所の厚みを測定し、平均値として求めた。
【0117】
(3)全光線透過率およびヘイズ
日本電色工業(株)製 NDH-2000(D65光源)を用いて測定した。なお測定は5回行い、その平均値を測定値として採用した。
【0118】
(4)フィルムの耐薬品性
フィルムのヘイズ測定部分上にメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエンを各々3ml滴下させて6時間放置した後、溶剤をきれいに拭き取って、溶剤滴下前後における変化を目視で判定した。
○:すべての溶剤に対して変化なし、△:溶剤に対して若干膨潤、×:いずれの溶剤に対しても白化、溶解がみられた。
【0119】
(5)フィルムの鉛筆硬度
JIS K-5400に従って測定した。測定は5回行い、平均値を求めて測定結果とした。HB以上を合格とした。
【0120】
(6)フィルムの吸水率
フィルムを90℃、24時間乾燥させた後、これを23℃、水中で24時間浸漬し、測定した。
吸水率=(浸漬後の重量-浸漬前の重量)/浸漬前の重量×100(%)
【0121】
(7)熱成形性
図1に示す真空成形機および図2に示す金型を用いて評価した。
図1に示す装置は、A4サイズのフィルム(番号1)をセットしてその周囲を固定し、フィルム上部を赤外線ヒーター(番号2)で一定時間加熱した後、フィルムの下部の密封ボックス内の台に予め設置した金型(番号3)を上昇させてフィルム(番号1)を変形させ、同時にフィルム下部のボックス空間(番号4)を真空引きしてフィルムを金型表面に貼合させる装置である。金型(番号3)の形状は、60mm×60mm×高さ30mmの直方体であり、その上面に幅10mm、深さ3mmの溝(番号5)を有し、溝(番号5)のコーナーエッジ(番号6)の曲率半径(R)は、0.5mmである。
【0122】
(8)靭性
真空成形機による熱成形性評価において、金型形状にフィルムが延伸される際および金型からフィルムを離型する際にフィルムにヒビや割れが生じないかどうか以下の基準で判断した。
良好:離型する際にフィルムにヒビや割れが生じない
割れあり:離型する際にフィルムにヒビや割れが生じた。
【0123】
[製造例1]
イソソルビド1461重量部(10モル)とジフェニルカーボネート2142重量部(10モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10^(-4)モル)、および水酸化ナトリウムを1.1×10^(-3)重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10^(-6)モル)仕込んで窒素雰囲気下常圧で180℃に加熱し溶融させた。
撹拌下、反応槽内を30分かけて徐々に減圧し、生成するフェノールを留去しながら13.3×10^(-3)MPaまで減圧した。この状態で20分反応させた後に200℃に昇温した後、20分かけて徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10^(-3)MPaで20分間反応させ、さらに、220℃に昇温し30分間、250℃に昇温し30分間反応させた。
次いで、徐々に減圧し、2.67×10^(-3)MPaで10分間、1.33×10^(-3)MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10^(-4)MPaに到達したら、徐々に260℃まで昇温し、最終的に260℃、6.66×10^(-5)MPaで1時間反応せしめた。反応後のポリマーをペレット化した。得られたポリマーの比粘度、ガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示した。
【0124】
[製造例2]
イソソルビド1169重量部(8モル)とジフェニルカーボネート2142重量部(10モル)、ヘキサンジオール236重量部(2モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10^(-4)モル)、および水酸化ナトリウムを1.1×10^(-3)重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10^(-6)モル)とを用いた以外は実施例1と同様にしてポリカーボネートの溶融重合を行った。得られたポリマーの比粘度、ガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示した。
【0125】
[製造例3]
イソソルビド1023重量部(7.0モル)、1,4-シクロヘキサンジメタノール432重量部(3.0モル)とジフェニルカーボネート2142重量部(10モル)、ステアリルアルコール54重量部(0.20モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10^(-4)モル)、および水酸化ナトリウムを1.1×10^(-3)重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.25×10^(-6)モル)とを用いた以外は実施例1と同様にしてポリカーボネートの溶融重合を行った。得られたポリマーの比粘度、ガラス転移温度を測定し、その結果を表1に示した。
【0126】
〔実施例1〕
製造例1で得られた樹脂(A層)とポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成(株)製パンライトL-1250、粘度平均分子量23,700)(B層)を、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度250?270℃(A層)、250?270℃(B層)の条件で、フィードブロック方式にて300mm幅のTダイから押出し、冷却ロールに溶融樹脂の一方の面をタッチさせて冷却した後、A層/B層/A層の3層構造を有するフィルム幅200mmの多層フィルムを作成した。該フィルムの全光線透過率、ヘイズ、耐溶剤性、鉛筆硬度、吸水率を評価し、その結果を表2に示した。
【0127】
〔実施例2〕
アクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製アクリペットVH001;標準グレード)(A層)と製造例2で得られた樹脂(B層)を、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度230?250℃(A層)、240?270℃(B層)の条件で、フィードブロック方式にて300mm幅のTダイから押出し、冷却ロールに溶融樹脂の一方の面をタッチさせて冷却した後、A層/B層/A層の3層構造を有するフィルム幅200mmの多層フィルムを作成した。該フィルムの全光線透過率、ヘイズ、耐溶剤性、鉛筆硬度、吸水率を評価し、その結果を表2に示した。
【0128】
〔実施例3〕
ポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成(株)製パンライトL-1250、粘度平均分子量23,700)およびポリエステル系熱可塑性エラストマーとして、ハードセグメントがPBT、ソフトセグメントがポリ-ε-カプロラクトンで構成される東洋紡績(株)製の熱可塑性エラストマー(商品名ペルプレン;グレードS-1002)を用い、それぞれ事前に予備乾燥し、ポリカーボネート樹脂/ポリエステル系熱可塑性エラストマー=90/10(100/11.1)(重量部)となるようにV型ブレンダーで混合した後、2軸押出機を用いてシリンダー温度260℃で押出してペレット化し、B層用の成形材料を得た。成形材料のガラス転移温度は111℃であった。
製造例2で得られた樹脂(A層)および上記成型材料(B層)を、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度230?250℃(A層)、240?270℃(B層)の条件で、フィードブロック方式にて300mm幅のTダイから押出し、冷却ロールに溶融樹脂の一方の面をタッチさせて冷却した後、A層/B層/A層の3層構造を有するフィルム幅200mmの多層フィルムを作成した。該フィルムの面配向係数、全光線透過率、ヘイズ、耐溶剤性、鉛筆硬度、吸水率を評価し、その結果を表2に示した。
【0129】
〔実施例4〕
製造例3で得られた樹脂(A層)および実施例3で製造したポリカーボネート樹脂/ポリエステル系熱可塑性エラストマー=90/10(100/11.1)(B層)を、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度230?250℃(A層)、240?270℃(B層)の条件で、フィードブロック方式にて300mm幅のTダイから押出し、冷却ロールに溶融樹脂の一方の面をタッチさせて冷却した後、A層/B層/A層の3層構造を有するフィルム幅200mmの多層フィルムを作成した。該フィルムの全光線透過率、ヘイズ、耐溶剤性、鉛筆硬度、吸水率を評価し、その結果を表2に示した。
【0130】
〔比較例1〕
実施例1で得られた樹脂を乾燥後、単軸φ40mm押出製膜機を用いて溶融製膜フィルムを得た。押出し機シリンダー温度は220℃?260℃の範囲内に保持し、スリット状のダイからシート状に押出されたシートの両端部に針状エッジピニング装置を用いて静電印加を行い、キャスティングドラム(表面温度を150℃に調整)に密着させて溶融状態から冷却固化し、厚み100μmの本発明のベースフィルムを得た。該フィルムの全光線透過率、ヘイズ、耐溶剤性、鉛筆硬度、吸水率を評価し、その結果を表2に示した。
【0131】
〔比較例2〕
ポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成(株)製パンライトL-1250、粘度平均分子量23,700)を用いて比較例1と同様の方法で製膜し、ベースフィルムを作成した。
該フィルムの全光線透過率、ヘイズ、耐溶剤性、鉛筆硬度、吸水率を評価し、その結果を表2に示した。
【0132】
〔比較例3〕
アクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製アクリペットVH001;標準グレード)を用いて比較例1と同様の方法で製膜し、ベースフィルムを作成した。
該フィルムの全光線透過率、ヘイズ、耐溶剤性、鉛筆硬度、吸水率を評価し、その結果を表2に示した。
【0133】
〔比較例4〕
アクリル樹脂(三菱レーヨン(株)製アクリペットVH001;標準グレード)(A層)および実施例3で製造したポリカーボネート樹脂/ポリエステル系熱可塑性エラストマー=90/10(100/11.1)(B層)を、それぞれスクリュー径40mmの単軸押出機を用いて、シリンダー温度230?250℃(A層)、240?270℃(B層)の条件で、フィードブロック方式にて300mm幅のTダイから押出し、冷却ロールに溶融樹脂の一方の面をタッチさせて冷却した後、A層/B層/A層の3層構造を有するフィルム幅200mmの多層フィルムを作成した。該フィルムの全光線透過率、ヘイズ、耐溶剤性、鉛筆硬度、吸水率を評価し、その結果を表2に示した。
【0134】
〔比較例5〕
実施例3で製造したポリカーボネート樹脂/ポリエステル系熱可塑性エラストマー=90/10(100/11.1)を用いて比較例1と同様の方法で製膜し、ベースフィルムを作成した。
該フィルムの全光線透過率、ヘイズ、耐溶剤性、鉛筆硬度、吸水率を評価し、その結果を表2に示した。
【0135】
【表1】

【0136】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の多層フィルムを用いて得られる多層フィルム成形品は、耐薬品性、吸水率、成形加工性、靭性に優れるため、食品や医療品等の包装用フィルムとして好適である。さらに透明性にも優れるため、各種光学用途として使用され有用である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15?100モル%を占めるポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料がアクリル樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されている多層フィルム。
【化1】

【請求項2】
積層フィルムの25℃、24時間、水中での吸水率が3%以下である請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
積層フィルムの鉛筆硬度がB以上である請求項1または2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が上記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が30?100モル%を占めるポリカーボネートである請求項1?3のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項5】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の厚みが1μm?100μmの層が積層されてなる請求項1?4のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項6】
多層フィルムの総厚みが10μm?600μmである請求項1?5のいずれか1項に記載の多層フィルム。
【請求項7】
植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂材料の層(A)の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂材料の層(B)および印刷層を積層されてなる多層フィルムであって、植物由来のエーテルジオール残基を含んでなるポリカーボネート樹脂が下記式(1)で表されるジオール残基を含んでなり、全ジオール残基中式(1)で表されるジオール残基が15?100モル%を占め、樹脂0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.14?0.50のポリカーボネートであり、熱可塑性樹脂材料が粘度平均分子量で表して13,000?40,000のポリカーボネート樹脂であり、印刷層のバインダー樹脂がポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド系樹脂または熱可塑性エラストマー系樹脂であり、印刷層は片面に積層されており、印刷層の厚みが0.01?100μmである多層フィルム。
【化2】

 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-07-12 
出願番号 特願2011-30841(P2011-30841)
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (B32B)
P 1 651・ 537- ZDA (B32B)
P 1 651・ 161- ZDA (B32B)
P 1 651・ 536- ZDA (B32B)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 岸 進  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 谿花 正由輝
井上 茂夫
登録日 2015-07-03 
登録番号 特許第5771021号(P5771021)
権利者 帝人株式会社
発明の名称 積層フィルム  
代理人 為山 太郎  
代理人 為山 太郎  

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