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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B24B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B24B |
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管理番号 | 1342981 |
異議申立番号 | 異議2017-700853 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-07 |
確定日 | 2018-06-22 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6093170号発明「ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤及びそれを用いたラッピング方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6093170号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第6093170号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6093170号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成24年12月19日に特許出願され、平成29年2月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年9月7日に特許異議申立人西田勝一により、平成29年9月8日に特許異議申立人林ヶ谷健により、それぞれ特許異議の申立てがされ、平成29年12月14日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年2月19日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」という)があり、その訂正の請求に対して、特許異議申立人西田勝一から平成30年3月23日付けで、特許異議申立人林ヶ谷健から平成30年3月26日付けで、それぞれ意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1及び2のとおりである(下線は訂正箇所を示す)。 ア 訂正事項1 請求項1に係る「イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、ポリアミン化合物及びポリオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物との反応生成物」を「イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、ポリアミン化合物及びポリオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物とを反応させてなる化合物」に訂正する。 イ 訂正事項2 請求項3に係る「前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、有機溶媒に溶解した3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとの反応により生成した熱硬化性ポリウレタン樹脂」を「前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、有機溶媒に溶解した3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとを反応させてなる熱硬化性ポリウレタン樹脂」に訂正する。 (2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記訂正事項1は、「イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、ポリアミン化合物及びポリオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物との反応生成物」という記載を、「イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、ポリアミン化合物及びポリオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物とを反応させてなる化合物」と、より明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 上記訂正事項2は、「前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、有機溶媒に溶解した3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとの反応により生成した熱硬化性ポリウレタン樹脂」という記載を、「前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、有機溶媒に溶解した3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとを反応させてなる熱硬化性ポリウレタン樹脂」と、より明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 そして、訂正前の請求項1ないし10は、請求項2ないし10が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、上記訂正事項1及び2は、一群の請求項に対して請求されたものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正を認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件発明 本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし10に係る発明(以下「本件発明1」などという。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 熱硬化性ポリウレタン樹脂を含み、空隙率が0?20%であり、かつショアD硬度が50°以上である樹脂シートを備え、 前記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、ポリアミン化合物及びポリオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物とを反応させてなる化合物であり、 前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマのNCO当量は、190?500である、ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項2】 前記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマと3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとの反応により生成した熱硬化性ポリウレタン樹脂を含む、請求項1に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項3】 前記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、有機溶媒に溶解した3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとを反応させてなる熱硬化性ポリウレタン樹脂を含む、請求項1に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項4】 前記有機溶媒は、ジオール化合物を含む、請求項3に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項5】 前記樹脂シートは研磨面を有し、前記研磨面に溝が形成されている、請求項1?4のいずれか1項に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項6】 前記樹脂シートは研磨面を有し、前記研磨面側からダイヤモンド砥粒が前記樹脂シートに埋め込まれている、請求項1?5のいずれか1項に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項7】 ダイヤモンド砥粒の存在下、請求項1?6のいずれか1項に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤により被研磨物にラッピング加工を施す、ラッピング方法。 【請求項8】 前記被研磨物は、SiC単結晶である、請求項7に記載のラッピング方法。 【請求項9】 前記ダイヤモンド砥粒は、研磨スラリに含まれた状態で、前記ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤と前記被研磨物との間に供給される、請求項7又は8に記載のラッピング方法。 【請求項10】 前記ダイヤモンド砥粒の少なくとも一部は、前記ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤に、その研磨面側から埋め込まれている、請求項7?9のいずれか1項に記載のラッピング方法。」 (2)取消理由の概要 訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して平成29年12月14日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 「請求項1及び3は、『ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤』という物の発明であるが、当該請求項1及び3にはその物の製造方法が記載されているといえる。したがって、請求項1及び3並びに請求項1又は3を引用する請求項2、4-6に係る発明は明確でない。 よって、請求項1-6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。」 (3)判断 ア 取消理由通知に記載した取消理由(特許法第36条第6項第2号)について (ア)請求項1に対して 上記訂正後の請求項1は、「前記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、ポリアミン化合物及びポリオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物とを反応させてなる化合物であり」と記載されており、イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、ポリアミン化合物及びポリオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物とが反応した結果生じる化合物であること、すなわち熱硬化性ポリウレタン樹脂は、上記ウレタンプレポリマと上記1種以上の化合物で構成される構造であることが明確である。これは、訂正後の請求項1の上記記載が、「特許実用新案審査ハンドブック」の「2204 『物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合』に該当するか否かについての判断」に照らしても、「3.『その物の製造方法が記載されている場合』に該当しない類型・具体例」の具体例「モノマーAとモノマーBを重合させてなるポリマー」に準ずるものと判断され、「単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」に該当することからも裏付けられている。 よって、訂正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明が明確な記載である。 (イ)請求項3に対して 上記訂正後の請求項3は、「前記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、有機溶媒に溶解した3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとを反応させてなる熱硬化性ポリウレタン樹脂」と記載されており、イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、有機溶媒に溶解した3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとが反応した結果生じる化合物であること、すなわち熱硬化性ポリウレタン樹脂が、上記ウレタンプレポリマと上記3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとで構成される構造であることが明確である。これは、訂正後の請求項3の上記記載が、「特許実用新案審査ハンドブック」の「2204 『物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合』に該当するか否かについての判断」に照らしても、「3.『その物の製造方法が記載されている場合』に該当しない類型・具体例」の具体例「モノマーAとモノマーBを重合させてなるポリマー」に準ずるものと判断され、「単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合」に該当することからも裏付けられている。 よって、訂正後の請求項3の記載は、特許を受けようとする発明が明確な記載である。 (ウ)特許異議申立人の意見について a 特許異議申立人西田勝一は、意見書において以下の主張をしている。 「請求項1には、『前記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート末端ウレタンポリマと、ポリアミン化合物及びポリオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物とを反応させてなる化合物であり』(要件1)と記載されている。 ここで、ポリウレタン樹脂は、イソシアネート基含有化合物Aと、活性水素含有化合物B(水酸基含有化合物や、アミノ基含有化合物)とが交互に繰り返し結合されたポリマーである。 また、ウレタンプレポリマは、イソシアネート基含有化合物Aと、活性水素含有化合物Bとが交互に繰り返し結合されたポリマーである。 よって、イソシアネート末端ウレタンプレポリマ(例えば、ABA)を作製した後に、該イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、活性水素含有化合物Bとを反応させると、AとBとが交互に繰り返されたポリウレタン樹脂(ABABABA)となる。 一方で、ウレタンプレポリマを用いずに、イソシアネート基含有化合物Aと、活性水素含有化合物Bとを反応させても、AとBとが交互に繰り返されたポリウレタン樹脂(ABABABA)となる。 そうすると、ウレタンプレポリマの使用の有無にかかわらず、AとBとが交互に繰り返されたポリウレタン樹脂(ABABABA)となり、ウレタンプレポリマの使用の有無によって、ポリウレタン樹脂にどういった状態の違いがあるのかが、明細書、特許請求の範囲、図面の記載、及び、その発明の属する技術分野における出願時の技術常識を考慮しても不明である。 よって、上記要件1は、当業者であっても、どういった状態を示しているのかが理解できず、“単に状態を示すもの”とは言えないので、『単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合』(審査ハンドブックの『2204』の類型(2))には該当しない。」 しかし、上記(ア)で説示したとおり、訂正後の請求項1に係る熱硬化性ポリウレタン樹脂の構造は、上記ウレタンプレポリマと上記1種以上の化合物で構成されることが明らかであり、ポリウレタン樹脂に関する技術常識を踏まえれば、上記ウレタンプレポリマと上記1種以上の化合物が交互に繰り返し結合された構造であるといえる。 特許異議申立人は、ウレタンプレポリマの使用の有無による、ポリウレタン樹脂の状態の違いが不明であるなどと主張しているが、物の発明における明確性要件は、物の構造や状態を理解できる程度に明確であれば十分であって、上記のとおり、上記ウレタンプレポリマと上記1種以上の化合物が交互に繰り返し結合された構造であることが明確である以上、ウレタンプレポリマの使用の有無による構造や状態の差異についてまで明確である必要はない。 よって、上記主張を採用することはできない。 また、特許異議申立人西田勝一は、意見書において、「上記要件1は、『イソシアネート末端ウレタンポリマ(例えば、ABA)を作製する第1の工程と、該イソシアネート末端ウレタンポリマと、活性水素含有化合物Bとを反応させる第2の工程とを有する』ことを実質的に意味している」とか、「上記要件1は、イソシアネート基含有化合物Aと、活性水素含有化合物Bとを反応させる際に、前もって、イソシアネート末端ウレタンポリマを作製することを実質的に意味している」と主張している。 しかし、特許異議申立人が「実質的に意味している」としている事項が、訂正後の請求項1に明示されているわけではなく、特許異議申立人の独自の解釈にすぎないものというべきである。よって、上記主張は理由がない。 b 特許異議申立人林ヶ谷健は、意見書において、訂正後の請求項1の発明特定事項である「前記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、ポリアミン化合物及びポリオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物とを反応させてなる化合物であり、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマのNCO当量は、190?500である」について、(a)?(c)の3つの方法を想定した上で、(a)の方法で得られる熱硬化性ポリウレタン樹脂は、(b)及び(c)の方法でも作製できるとし、「本件の請求項1の熱硬化性ポリウレタン樹脂は、上記(b)、(c)の方法で作製した熱硬化性ポリウレタン樹脂のうち、どういった熱硬化性ポリウレタン樹脂を含むのかが不明である。」と主張する。 しかし、物の発明における明確性要件は、物の構造や状態を理解できる程度に明確であれば十分であって、上記のとおり、訂正後の請求項1に係る熱硬化性ポリウレタン樹脂の構造は、上記ウレタンプレポリマと上記1種以上の化合物が交互に繰り返し結合された構造であることが明確である上に、(a)ないし(c)の方法のいずれを用いたかにかかわらず、製造された物が変わらないことは特許異議申立人が自認していることからも、訂正後の請求項1に係る発明の記載が明確でないとはいえない。 イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第29条第2項)について (ア)引用文献の記載 a 引用文献1 特開2005-136400号公報(特許異議申立人西田勝一が提出した甲第1号証、以下「引用文献1」という)について、明細書の段落【0002】、【0007】、【0033】-【0035】の記載及び【表2】の試料3、試料B及び試料Cを参照すると、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「ウレタンプレポリマーとしてのイソシアネートと、4,4′-メチレン-ビス-o-クロロアニリン[MBCA]との硬化反応物を含み、気孔率が20容量%(試料3及び試料C)、0容量%(試料B)であり、硬さ(ショアD)が57(試料3)、58(試料B)、55(試料C)である樹脂シートを備え、前記ウレタンプレポリマーのNCO当量が、500(試料3)、457?472(試料B及び試料C)であり、前記樹脂シートに溝が形成されており、半導体基材を平坦化するのに砥粒含有研磨スラリーとともに用いられる、研磨パッド。」(以下「引用発明1」という) b 引用文献2 特表2004-507076号公報(特許異議申立人西田勝一が提出した甲第2号証、以下「引用文献2」という)について、明細書の段落【0001】、【0042】、【0052】、【0054】、【0076】の記載及び【表3】の実施例3Cを参照すると、引用文献2には、以下の発明が記載されていると認められる。 「イソシアネートプレポリマーと、4,4-メチレン-ビス-クロロアニリン(MBCA)との硬化反応物を含み、空隙率が小さく(非充填注型品)、硬度(ショアD)が70である樹脂シートを備え、前記ウレタンプレポリマーのNCO当量が500であり、半導体デバイスの製造において、基材を研磨及び/又は平坦化するために、研磨剤を含む研磨流体とともに使用される、研磨パッド。」(以下「引用発明2」という) c 引用文献3 特開2010-240770号公報(特許異議申立人林ヶ谷健が提出した甲第1号証、以下「引用文献3」という)について、明細書の段落【0030】、【0034】、【0041】-【0042】、【0063】-【0066】の記載及び【表1】の実施例1?4を参照すると、引用文献3には、以下の発明が記載されていると認められる。 「イソシアネート末端プレポリマーと、4,4’-メチレンビス(o-クロロアニリン)(MOCA)とから形成されたポリウレタンシートを含み、前記ポリウレタンシートの空隙率が0%(無発泡ポリウレタンシート)であり、前記ポリウレタンシートのアスカーD硬度(ショアD硬度とほぼ同じ値)が73.0(実施例1)、70.5(実施例2)、70.0(実施例3)、71.0(実施例4)であり、前記イソシアネート末端プレポリマーのNCO当量が、378(実施例1)、393(実施例2?4)であり、4,4’-メチレンビス(o-クロロアニリン)(MOCA)をエチレングリコール等のジオール化合物と混合してからポリウレタンシートが形成され、研磨面に溝が形成される、研磨パッド。」(以下「引用発明3」という) d 引用文献4 特開2007-131672号公報(特許異議申立人林ヶ谷健が提出した甲第2号証、以下「引用文献4」という)について、明細書の段落【0011】、【0021】、【0034】、【0038】、【0055】、【0074】-【0075】、【0077】の記載及び【表1】の実施例4を参照すると、引用文献4には、以下の発明が記載されていると認められる。 「イソシアネート末端プレポリマーと、鎖延長剤たる4,4’-メチレンビス(o-クロロアニリン)(MOCA)との反応硬化物であり、空隙率が20%であり、アスカーD硬度(ショアD硬度とほぼ同じ値)が56であり、前記イソシアネート末端プレポリマーのNCO当量が、492であり、4,4’-メチレンビス(o-クロロアニリン)(MOCA)をエチレングリコール等のジオール化合物と混合してから反応硬化物が形成され、研磨面に溝が形成される、研磨パッド。」(以下「引用発明4」という) (イ)本件発明1について 本件発明1と引用発明1ないし4それぞれとを対比すると、本件発明1が「ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤」であるのに対し、引用発明1ないし4は、それぞれ「研磨パッド」である点で相違している。 引用発明1の研磨パッドは、半導体ウェハのCMP研磨用のもので、アルミナ砥粒含有スラリーを研磨剤として用いる例が示されている(引用文献1の段落【0006】-【0007】、【0045】を参照)。 引用発明2の研磨パッドは、半導体デバイスのCMP研磨用のもので、シリカ、アルミナ、セリア又はそれらの組み合わせのような無機の金属酸化物粒子及び有機ポリマーの粒子を研磨剤として用いることが示されている(引用文献2の段落【0001】-【0006】、【0076】を参照)。 引用発明3及び引用発明4の研磨パッドは、レンズ、ミラー等の光学材料やシリコンウェハ、ハードディスク用のガラス基板、アルミ基板、及び一般的な金属研磨加工等の高度の表面平坦性を要求される材料の研磨を行うもので、表面をバフ処理及び溝加工して作製し、研磨剤としてシリカスラリーを用いる例が示されている(引用文献3の段落【0001】、【0046】、【0062】-【0063】や引用文献4の段落【0001】、【0058】、【0071】、【0074】を参照)。 そうすると、引用発明1ないし4はそれぞれ、本件発明1のように、ダイヤモンド砥粒を用いたラッピング加工において、ダイヤモンド砥粒を定盤に十分に埋め込むことで、被研磨面に傷等の加工変質層を形成しないようにするという顕著な効果を奏するため、金属系ラッピング定盤の代替品として弾性をより有するポリウレタン製定盤を用いるような用途には使用されるものではなく、そのような用途に使用することの動機も不明である。 特許異議申立人西田勝一及び林ヶ谷健は、それぞれ特開2012-45690号公報、特開2006-186394号公報、特開2005-7520号公報を証拠として提出し、これらの証拠に記載された事項から、引用発明1ないし4をダイヤモンドラッピング用樹脂定盤とすることは容易であると主張している。 しかし、特開2012-45690号公報に記載された研磨パッドは、極細長繊維束からなる不織布に高分子弾性体を含浸させて作成するものであり、熱硬化性ポリウレタン樹脂のシートを用いるものではない。 また、特開2006-186394号公報に記載された研磨パッドは、ラッピングに使用されることは例示されているものの、高分子マトリックス内に複数の高分子微小エレメントを含浸させた構造が特徴となるものであって、ダイヤモンド砥粒の定盤への埋め込みに効果があるものではない。 特開2005-7520号公報に記載された研磨パッドは、ポリウレタン系樹脂からなる無発泡体の内部及び表面にダイヤモンドを選択した粒子を分散して固定させたものも、多くの選択肢から選べることが示されており、ショアD硬度が50?85であって、半導体ウェハ等の表面の研磨に使用されるものである。しかし、当該研磨パッドは、樹脂溶液と砥粒と硬化剤とを混合した砥粒分散液を硬化して、内部及び表面に砥粒が固定された無発泡体のブロックを成形したものから製造されるものであって、ダイヤモンド砥粒の定盤への埋め込みに効果があるものではない。 そうすると、上記いずれの証拠からも、引用発明1ないし4の研磨パッドを、ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤とすることの動機付けは得られないから、上記主張は失当である。 さらに、特許異議申立人西田勝一が証拠として提出した特開2012-223833号公報、特許異議申立人林ヶ谷健が証拠として提出した特開2012-223835号公報からも、引用発明1ないし4の研磨パッドを、ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤とすることの動機は不明である。 よって、本件発明1は、引用発明1ないし4並びに上記特許異議申立人が提出した証拠から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (ウ)本件発明2ないし10について 本件発明2ないし6は、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の特定事項を全て含み、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由により、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件発明7ないし10は、本件発明1のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤によりラッピング加工を施すラッピング方法に係る発明であるから、本件発明1と同様の理由により、引用発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 熱硬化性ポリウレタン樹脂を含み、空隙率が0?20%であり、かつショアD硬度が50°以上である樹脂シートを備え、 前記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、ポリアミン化合物及びポリオール化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物とを反応させてなる化合物であり、 前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマのNCO当量は、190?500である、ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項2】 前記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマと3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとの反応により生成した熱硬化性ポリウレタン樹脂を含む、請求項1に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項3】 前記熱硬化性ポリウレタン樹脂は、前記イソシアネート末端ウレタンプレポリマと、有機溶媒に溶解した3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタンとを反応させてなる熱硬化性ポリウレタン樹脂を含む、請求項1に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項4】 前記有機溶媒は、ジオール化合物を含む、請求項3に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項5】 前記樹脂シートは研磨面を有し、前記研磨面に溝が形成されている、請求項1?4のいずれか1項に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項6】 前記樹脂シートは研磨面を有し、前記研磨面側からダイヤモンド砥粒が前記樹脂シートに埋め込まれている、請求項1?5のいずれか1項に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤。 【請求項7】 ダイヤモンド砥粒の存在下、請求項1?6のいずれか1項に記載のダイヤモンドラッピング用樹脂定盤により被研磨物にラッピング加工を施す、ラッピング方法。 【請求項8】 前記被研磨物は、SiC単結晶である、請求項7に記載のラッピング方法。 【請求項9】 前記ダイヤモンド砥粒は、研磨スラリに含まれた状態で、前記ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤と前記被研磨物との間に供給される、請求項7又は8に記載のラッピング方法。 【請求項10】 前記ダイヤモンド砥粒の少なくとも一部は、前記ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤に、その研磨面側から埋め込まれている、請求項7?9のいずれか1項に記載のラッピング方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-06-14 |
出願番号 | 特願2012-277420(P2012-277420) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B24B)
P 1 651・ 121- YAA (B24B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 亀田 貴志 |
特許庁審判長 |
刈間 宏信 |
特許庁審判官 |
西村 泰英 栗田 雅弘 |
登録日 | 2017-02-17 |
登録番号 | 特許第6093170号(P6093170) |
権利者 | 富士紡ホールディングス株式会社 |
発明の名称 | ダイヤモンドラッピング用樹脂定盤及びそれを用いたラッピング方法 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
復代理人 | 赤堀 龍吾 |
代理人 | 大貫 敏史 |
復代理人 | 赤堀 龍吾 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 内藤 和彦 |
代理人 | 大貫 敏史 |
代理人 | 稲葉 良幸 |
代理人 | 江口 昭彦 |
代理人 | 内藤 和彦 |