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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B64C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B64C
管理番号 1342990
異議申立番号 異議2017-700833  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-01 
確定日 2018-06-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6093192号発明「航空機の機体用パネル、航空機の翼」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6093192号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第6093192号の請求項1?3に係る特許を維持する。 特許第6093192号の請求項4に係る特許について特許異議申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6093192号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年1月25日に特許出願され、平成29年2月17日に本件特許の設定登録がされ、その後、同年9月1日に特許異議申立人 西村 竜平(以下「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年12月13日付けで取消理由が通知され、平成30年2月16日に意見書の提出及び訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)がされ、同年3月23日付けで、異議申立人に対し訂正請求があった旨の通知がされ(特許法第120条の5第5項)、同年4月19日に異議申立人より意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正請求の趣旨及び訂正内容
本件訂正請求の趣旨は、特許第6093192号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。

1 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「機体用パネル」とあるのを、「主翼」に訂正する。(なお、訂正請求書の「(2)訂正事項」のアに直接的な記載はないものの、訂正内容や「(3)訂正の理由」のアの記載からみて、請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正するものであることは明らかである。以下同様に扱う。)

2 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「スキンと、」とあるのを、「上部スキン及び下部スキンと、」に、「前記スキンの第2」とあるのを、「前記上部スキン及び前記下部スキンの第2」に、「前記スキンと一体」とあるのを、「前記上部スキン及び前記下部スキン」に訂正する。(請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)

3 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「第1の方向に沿って前記スキンに配置される複数のストリンガ」とあるのを、「前記上部スキン及び前記下部スキンの各々に設けられ、翼長方向に沿って延びる複数のストリンガ」に訂正する。(請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)

4 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「複数のストリンガと、」と「を備え」の間に「前記上部スキン及び前記下部スキンの間に設けられ、翼幅方向に沿って延びる複数のリブ」を加える。(請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)

5 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に「前記第1の方向に交差する第2の方向に沿ってリブが配置される前記スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれており」とあるのを、「前記翼長方向に交差する前記翼幅方向に沿って前記リブが配置される前記上部スキン及び前記下部スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれており」に訂正する。(請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)

6 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1の「備え、」と「前記第1の方向に交差する」の間に、「前記上部スキンと前記ストリンガ及び前記下部スキンと前記ストリンガの各々は、主翼用パネルによって構成され、前記主翼用パネルは、」を加える。(請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2、3も同様に訂正する。)

7 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項2に「機体用パネル」とあるのを、「主翼」に訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。)

8 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項3に「機体用パネル」とあるのを、「主翼」に、「前記スキンの」とあるのを、「前記上部スキン及び前記下部スキンの」に訂正する。

9 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

第3 訂正の適否についての判断
1 訂正の目的の適否について
訂正事項1は、訂正前の「機体用パネル」を「主翼」と特定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
訂正事項2は、訂正前の「スキン」を「上部スキン」及び「下部スキン」と特定するものであり、同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
訂正事項3は、訂正前の「複数のストリンガ」の配置を「前記上部スキン及び前記下部スキンの各々に設けられ」るものであることを特定し、かつ、「複数のストリンガ」の延びる方向を「翼長方向に沿って延びる」ものであることを特定するものであり、同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
訂正事項4は、訂正前の「リブ」の配置を「前記上部スキン及び前記下部スキンの間に設けられ」るものであることを特定し、「リブ」の延びる方向を「翼幅方向に沿って延びる」ものであることを特定するものであり、同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
訂正事項5は、訂正前の「第1の領域」を「前記翼長方向に交差する前記翼幅方向に沿って前記リブが配置される」ものであることを特定するものであり、同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
訂正事項6は、訂正前の「スキン」及び「ストリンガ」を「前記上部スキンと前記ストリンガ及び前記下部スキンと前記ストリンガの各々は、主翼用パネルによって構成され」るものであることを特定するものであり、同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
訂正事項7は、訂正前の「機体用パネル」を「主翼」と特定するものであり、同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
訂正事項8は、訂正前の「機体用パネル」を「主翼」と特定し、「スキン」を「上部スキン」及び「下部スキン」と特定するものであり、同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
訂正事項9は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、同項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1?7に付随する従属項の訂正についても、目的違反となるところはない。

2 新規事項の有無について
訂正事項1?8は、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。また、本件明細書に特許請求の範囲及び図面を併せたものを「本件明細書等」という。)の段落【0011】及び【図1】、【図2】、【図6】等に記載した事項より導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
訂正事項9は、訂正前の請求項4を削除するものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
したがって、訂正事項1?9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。

3 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
上記1のとおり、訂正事項1?9は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

4 一群の請求項について
訂正前の請求項1?4について、請求項2?4は請求項1を直接または間接的に引用しているものであって、訂正事項1?6によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は一群の請求項である。
したがって、本件訂正請求は、一群の請求項に対して請求されたものであるから、同法第120条の5第4項に適合するものである。

5 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。

第4 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
特許第6093192号の請求項1?3に係る特許は、それぞれ、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1?3に係る特許発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
航空機を構成する主翼であって、
上部スキン及び下部スキンと、
前記上部スキン及び前記下部スキンの各々に設けられ、翼長方向に沿って延びる複数のストリンガと、
前記上部スキン及び前記下部スキンの間に設けられ、翼幅方向に沿って延びる複数のリブと、を備え、
前記上部スキンと前記ストリンガ及び前記下部スキンと前記ストリンガの各々は、主翼用パネルによって構成され、
前記主翼用パネルは、
前記翼長方向に交差する前記翼幅方向に沿って前記リブが配置される前記上部スキン及び前記下部スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれており、
前記リブが配置されない前記上部スキン及び前記下部スキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が段差面で繋がれており、
前記ストリンガは、前記上部スキン及び前記下部スキンと一体に成形されている、
ことを特徴とする航空機の主翼。
【請求項2】
前記段差面は、
隣接する前記ストリンガの間の中央部に配置される薄肉部と、前記薄肉部の両側に配置される前記ストリンガの根元の厚肉部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の航空機の主翼。
【請求項3】
前記第1の領域における隣接する前記ストリンガの間の前記上部スキン及び前記下部スキンの前記平坦面で繋がれる部分の厚みと、
前記第2の領域における前記段差面の前記厚肉部の厚みが等しい、ことを特徴とする請求項2に記載の航空機の主翼。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?4に係る特許に対して平成29年12月13日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

〔理由1〕本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
〔理由2〕本件特許の請求項1?4に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。


・引用文献1:J.Munroe,K.Wilkins, and M.Gruber,“Integral Airframe Structures (IAS)-Validated Feasibility Study of Integrally Stiffened Metallic Fuselage Panels for Reducing Manufacturing Costs”,NASA/CR-2000-209337, 2000年5月,p.1,8,18,64-68
<https://ntrs.nasa.gov/archive/nasa/casi.ntrs.nasa.gov/20000057339.pdf>(異議申立人が提出した甲第1号証)
・引用文献2:特許第4990177号公報(同甲第2号証)
・引用文献3:米国特許第7182293号明細書(同甲第3号証)
・引用文献4:R.J.Bucci, “Advanced Metallic & Hybrid Structural Concepts”,USAF Structural Integrity Program Conference (ASIP2006) San Antonio,Texas,2006年11月29日,p.1-45
<http://www.aspicon.com/proceedings/proceedings_2006/2006_PDFs/Wednesday/1200_Bucci.pdf>(同甲第4号証)
・引用文献5:山田毅,高橋孝幸,池田誠,杉本周造,太田高裕,「コンチネンタルビジネスジェット主翼インテグラルスキンのショットピーン成形技術開発」,三菱重工技報Vol.39 No.1,2002年1月,p.36-39(同甲第5号証)
・引用文献6:Takafumi Adachi,Shirou Kimura,Takahiro Nagayama,Hiroyuki Takehisa,and Masakazu Shimanuki,“Age Forming Technology for Aircraft Wing Skin”,Proceedings of the 9^(th) International Conference on Aluminium Alloys (2004),2004年,p.202-207(同甲第6号証)
・引用文献7:特開2008-184156号公報(同甲第7号証)

3 取消理由について
(1)引用文献の記載事項並びに引用文献に記載された発明、技術的事項及び課題
ア 引用文献1について
引用文献1の第65ページのFigure5-4に示されるものは、第64ページの5.3.1の記載からみて、胴体用パネルといえるものであり、それにより構成されるのは航空機の胴体であることは明らかである。
以上のことと、引用文献1の第1ページの1.1.1、及び、第65ページのFigure5-4の図上に異議申立人が用語等を加筆した特許異議申立書第18ページの下記に示す図面(以下「異議申立書図面」という。)の記載からみて、引用文献1には、以下の発明ないし技術的事項(以下「甲1発明」ないし「甲1技術」という。)が記載されているといえる。(なお、特許異議申立書に添付された翻訳文を参考に当審で翻訳した用語を用いた。また、引用文献1に用語の記載がない部材等については異議申立書図面に付された用語を用いた。)

〔異議申立書図面〕


「航空機を構成する胴体であって、
スキンと、
前記スキンに設けられ、第1の方向に沿って延びる複数のストリンガと、
前記スキンに設けられ、第2の方向に沿って延びる複数のシヤータイドフレームと、を備え
前記スキンと前記ストリンガは、胴体用パネルによって構成され、
前記胴体用パネルが、
前記第1の方向に交差する第2の方向に沿ってシヤータイドフレームが配置される前記スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれており、
前記シヤータイドフレームが配置されない前記スキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が段差面で繋がれており、
前記ストリンガは、前記スキンと一体に成形されている、
航空機の胴体。」

イ 引用文献2について
引用文献2の段落【0001】、【0018】、【0020】、【0023】、【0024】及び【図1】?【図4】等の記載からみて、引用文献2には、以下の技術的事項(以下「甲2技術」という。)が記載されているといえる。(なお、段落【0023】、【0024】は、「前部リブ21」の固定に係る説明箇所であるが、段落【0020】に「前部リブ21および後部リブ22は、その形状が若干異なるだけで実質的な構造は同一であるため、以下前部リブ21を代表として構造を説明する。」と記載されていること、及び、【図2】?【図4】においても「前部リブ21」と「後部リブ21」は同様の固定方法であることが看取できることから、以下のように認定した。)
「アッパースキン19及びロアスキン20の各々において、翼長方向に沿って延びる複数のストリンガ19a、20aを設け、上部スキン19と下部スキン20の間において、翼幅方向に沿って延びる複数の前部リブ21、後部リブ22を設け、
前部リブ21の前端の取付部21gはフロントスパー14のウエブ14aおよび上下一対のフランジ14b,14cを接続する板状の取付部14dにリベット24…で固定され、前部リブ21の上縁の前後一対の取付部21h,21iは、アッパースキン19の下面に形成した取付部19b,19cにリベット25…で固定され、前部リブ21の後端の取付部21jはメインスパー13のウエブ13aおよび上下一対のフランジ13b,13cを接続する板状の取付部13dにリベット26…で固定され、前部リブ21の下縁の前後一対の前記取付フランジ21e,21fは、ロアスキン20にリベット27…で固定され、
後部リブ22も同様に固定される飛行機の主翼の翼構造。」

ウ 引用文献3について
引用文献3の第3欄第39?41行にエアフォイルボックス(airfoilbox)を航空機の主翼(wings of airplane)に用いる旨の記載がある。そして、第3欄第13?42行及びFIG.4、5等の記載からみて、引用文献3には、以下の技術的事項(以下「甲3技術」という。)が記載されているといえる。(なお、異議申立書に添付された翻訳文を参考に当審で翻訳した用語を用いた。
「スキン部32及びスキン部52の各々において、翼長方向に沿って延びる複数のストリンガ34、54を設け、スキン部32とスキン部52との間において、翼幅方向に沿って延びる複数のリブ部材36a、b、c、56a、b、cを設けるエアフォイルボックスを用いた航空機の主翼。」

エ 引用文献4について
引用文献4には、第15ページのタイトルに「Advanced Fuselage Design and Fabrication」(進化した胴体の設計及び製造)と記載され、同ページの「Advanced」の図面(当審が用語等を加筆した下記〔参考図1〕を参照。)の記載より、フレームが配置されるスキンの第1の領域は、隣接するストリンガの間が前記スキン上に配置される選択的補強の平坦面で繋がれていること、及び、フレームが配置されないスキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が、前記スキン並びにストリンガの基部及びスキン上に配置される選択的補強材による段差面で繋がれていることが看取できる。また、「Advanced」の図面(Integral Skin)及び第20ページの「Integral Lower Cover」の図面の記載より、ストリンガは、スキンと一体に成形されている事項が理解できる。また、当該「Advanced」の図面に記載されるものは胴体用パネルといえるものであり、それにより構成されるのは航空機の胴体であることは明らかである。

〔参考図1〕


したがって、引用文献4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。(なお、特許異議申立書に添付された翻訳文を参考に当審で翻訳した用語を用いた。)
「航空機を構成する胴体であって、
スキンと、
前記スキンに設けられ、第1の方向に沿って延びる複数のストリンガと、
前記スキンに設けられ、第2の方向に沿って延びる複数のフレームと、を備え
前記スキンと前記ストリンガは、胴体用パネルによって構成され、
前記第1の方向に交差する第2の方向に沿ってフレームが配置される前記スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が前記スキン上に配置される選択的補強材の平坦面で繋がれており、
前記フレームが配置されない前記スキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が、前記スキン並びに前記ストリンガの根元及び前記スキン上に配置される選択的補強材による段差面で繋がれており、
前記ストリンガは、前記スキンと一体に成形されている、
航空機の胴体。」

オ 引用文献5について
引用文献5の第36ページ左欄第7?16行の記載からみて、引用文献5には、以下の課題(以下「甲5課題」という。)が記載されているといえる。
「コンチネンタル主翼において、ストリンガーと外板を一体で削り出したインテグラルスキンを採用して、リベット結合作業や燃料タンクとしての液密性を確保するためのシール作業を不要とし大幅な軽量化を可能とする。」

カ 引用文献6について
引用文献6の第203ページの第1段落の第4?6行の記載からみて、引用文献6には、以下の課題(以下「甲6課題」という。)が記載されているといえる。
「航空機の翼構造において、ストリンガは厚板から機械加工され、ストリンガとスキンを一体構造として、製造コスト及び航空機の翼構造の重量を低減し燃料漏れが起こりにくくする。」

キ 引用文献7について
引用文献7の【図2A】の記載より、ほぼ接触する「第1のフランジ部231a」及び「第2のフランジ部231b」以外の箇所にも「スティフナ230」はそれらより幅が狭いフランジ(以下「幅狭フランジ」という。当審が当該【図2A】に用語等を加筆した下記〔参考図2〕を参照。)を有していることが看取できる。そして、フレーム240が配置されない外板220の領域は、隣接するスティフナ230の間が外板220及びスティフナ230の幅狭フランジによる段差面で繋がれていることが認められる。

〔参考図2〕


以上のことと、引用文献7の段落【0016】?【0019】等の記載より、引用文献7には、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されているといえる。
「航空機を構成する航空機胴体であって、
外板220と、
前記外板220に設けられ、第1の方向に沿って延びる複数のスティフナ230と、
前記外板220に設けられ、第2の方向に沿って延びる複数のフレーム240と、
前記外板220と前記スティフナ230と前記フレーム240の各々は、航空機胴体を構成するバレルセクション110によって構成され、
前記バレルセクション110は、
前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って複数のフレーム240が配置される前記外板220の第1の領域は、スティフナ230は、第1のフランジ部231aが、第2のフランジ部231bに少なくともほぼ接触するように、外板220上に位置づけられ、フランジ部231は、スティフナ230の突起234間に延在する、複数の少なくともほぼ連続的な支持面235が形成され、
前記フレーム240が配置されない前記外板220の第2の領域は、隣接する前記スティフナ230の間が前記外板220及びスティフナ230の幅狭フランジによる段差面で繋がれている、
航空機胴体。」

(2)対比・判断
ア 引用文献1を主たる引例とした場合(〔理由1〕、〔理由2〕)
(ア)本件特許発明1について
a 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
(a)後者の「航空機」は前者の「航空機」に相当し、以下同様に、「ストリンガ」は「ストリンガ」に、「シヤータイドフレーム」は「リブ」にそれぞれ相当する。

(b)後者の「胴体」と前者の「主翼」とは「機体構成部材」の限度で一致するといえ、以下同様に、「胴体用パネル」と「主翼用パネル」とは「機体構成部材用パネル」の限度で、「スキン」と「上部スキン」及び「下部スキン」とは「スキン部材」の限度で、「第1の方向」と「翼長方向」とは「第一の方向」の限度で、「第2の方向」と「翼幅方向」とは「第二の方向」の限度で一致するといえる。

(c)上記(a)、(b)を踏まえると、後者のシヤータイドフレームが配置されるところの「スキン」の「第1の領域」と、前者のリブが配置されるところの「上部スキン」及び「下部スキン」の「第1の領域」とは、「スキン部材」の「第一の領域」の限度で一致するといえ、同様に、シヤータイドフレームが配置されないところの「スキン」の「第2の領域」と、リブが配置されないところの「上部スキン」及び「下部スキン」の「第2の領域」とは、「スキン部材」の「第二の領域」の限度で一致するといえる。

(d)したがって、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点1〕
「航空機を構成する機体構成部材であって、
スキン部材と、
前記スキン部材に設けられ、第一の方向に沿って延びる複数のストリンガと、
前記スキン部材に設けられ、第二の方向に沿って延びる複数のリブと、を備え、
前記スキン部材と前記ストリンガは、機体構成部材用パネルによって構成され、
前記機体構成部材用パネルは、
前記第一の方向に交差する前記第二の方向に沿って前記リブが配置される前記スキン部材の第一の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれており、
前記リブが配置されない前記スキン部材の第二の領域は、隣接する前記ストリンガの間が段差面で繋がれており、
前記ストリンガは、前記スキン部材と一体に成形されている、
航空機の機体構成部材。」

〔相違点1〕
本件特許発明1は、「機体構成部材」が「主翼」、「機体構成部材用パネル」が「主翼用パネル」であって、「スキン部材」が「上部スキン」及び「下部スキン」であり、「複数のストリンガ」が「前記上部スキン及び前記下部スキンの各々に設けられ」るものであって、それが延びる「第一の方向」が「翼長方向」であって、「複数のリブ」が「前記上部スキン及び前記下部スキンの間に設けられ」るものであり、それが延びる「第二の方向」が「翼幅方向」であり、さらに、「第一の領域」が「上部スキン」及び「下部スキン」の「第1の領域」であり、「第二の領域」も「上部スキン」及び「下部スキン」の「第2の領域」であるのに対し、
甲1発明は、「機体構成部材」が「胴体」、「機体構成部材用パネル」が「胴体用パネル」であって、「スキン部材」が「スキン」であり、「複数のストリンガ」が「前記スキンに設けられ」るものであり、それが延びる「第一の方向」は、主翼ではないので当然「翼長方向」でなく、「複数のリブ」が「前記スキンに設けられ」るものであり、それが延びる「第二の方向」は、主翼ではないので当然「翼幅方向」ではなく、さらに、「第一の領域」が「スキン」の「第1の領域」であり、「第二の領域」も「スキン」の「第2の領域」である点。

b 判断
(a)〔理由1〕について
本件特許発明1と甲1発明との間には、上記相違点1が存在するため、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

(b)〔理由2〕について
上記相違点1について検討する。
甲2技術及び甲3技術は、航空機を構成する主翼において、上部スキン及び下部スキンと、前記上部スキン及び前記下部スキンの各々に設けられ、翼長方向に沿って延びる複数のストリンガと、前記上部スキン及び前記下部スキンの間に設けられ、翼幅方向に沿って延びる複数のリブと、を備え、前記上部スキンと前記ストリンガ及び前記下部スキンと前記ストリンガの各々は、主翼用パネルによって構成されているものといえ、そのようなものは航空機の主翼における周知技術といえるものである。
ここで、本件特許発明1は、本件明細書の段落【0005】の「リブ117を下部スキン113に固定しようとすると、薄肉部113aを挟んでその両側に厚肉部113bが存在する。したがって、詳しくは後述するが、下部スキン113とリブ117の間には、両側の厚肉部113bとの間で接触面c1及び接触面c3の2箇所、薄肉部113aとの間で接触面c2の1箇所、合わせて3つの面で接触する可能性を有している。ところが、下部スキン113、リブ117を製造する際の公差により、実際に接触するのは一つの面に過ぎない。そのため、接触できない他の領域には大きなギャップが生じると、シム(shim)をギャップに挿入する作業(以下、シム作業という)を行なうことになる。航空機の主翼は多数のストリンガ、リブを備えているため、このシム作業の負担は極めて大きい。」との従来技術の問題点に鑑み、シム作業の低減を図るためになされたものといえる。
しかしながら、甲1発明は「胴体」に係る発明であることから、「上部パネル」及び「下部パネル」という概念はもとより無く、基本的な構成が異なる。その上、甲1発明の「胴体用パネル」が「前記第1の方向に交差する第2の方向に沿ってシヤータイドフレームが配置される前記スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれており、前記シヤータイドフレームが配置されない前記スキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が段差面で繋がれており、前記ストリンガは、前記スキンと一体に成形されている」という事項について、「第1の領域」の「平坦面」は、具体的には「Skin pad(frame)」により構成されるものであるが(異議申立書図面参照。)、それがシム作業低減のために設けられたものであることの記載は引用文献1には見当たらない。
そして、当該「平坦面」は「Skin pad(frame)」により構成されるものであるが、「Skin pad(frame)」と「Shear tie」との接合部は、異議申立書図面から明らかなように断続的となっているので、本件でいうところのシム作業自体が不要と解される。
さらに、当該「平坦面」は「Skin pad(frame)」により構成されるものであるから、フレームの面であることは理解できるものの、全体を平坦な構成としていることの技術的意義が明らかでなく、そのような技術的意義が明らかでないものを胴体から翼に転用する際に採用し得るものではない。
したがって、シム作業低減のための構成も無い主翼に関する上記周知技術を甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえないし、作用効果の予測性があるともいえない。
以上のとおり、甲1発明及び甲2技術及び甲3技術に示される周知技術を検討しても、上記相違点1に係る本件特許発明1に係る事項を有するものとすることは、当業者にとって容易になし得たということはできない。

なお、甲1発明に甲2技術あるいは甲3技術を個別に適用することを検討しても、以下のとおり、上記相違点1に係る本件特許発明1に係る事項を有するものとすることは、当業者にとって容易になし得たということはできない。
甲2技術は、「前部リブ21の上縁の前後一対の取付部21h,21iは、アッパースキン19の下面に形成した取付部19b,19cにリベット25…で固定され」るものであるため、少なくとも「前部リブ21」の「アッパースキン19」側は、構成上、本願でいうところのシム作業自体が不要と解され、「後部リブ22」においても同様であり、「ロアスキン20」側の「ストリンガー20a」は、本願発明1の「段差面」に相当する事項を有しておらず、同様に、本願でいうところのシム作業自体が不要と解されることから、シム作業低減のための構成も無い主翼に関する甲2技術を甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえないし、作用効果の予測性があるともいえない。
また、甲3技術の「ストリンガー34、54」は、引用文献3のFIG.4、5等の記載からみて、一応本願発明1の「段差面」に相当する事項を有しているといえるが、上述したとおり、甲1発明は、「胴体」に係る発明である上、甲1発明の「平坦面」がシム作業低減のために設けられたものであるとはいえず、技術的意義も明らかでないことから、シム作業低減のための構成も無い主翼に関する甲3技術を甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえないし、作用効果の予測性があるともいえない。

よって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(イ)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、甲1発明及び周知技術(甲2技術、甲3技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件特許発明2、3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

イ 引用文献4を主たる引例とした場合(〔理由2〕)
(ア)本件特許発明1について
a 対比
本件特許発明1と甲4発明を対比する。
(a)後者の「航空機」は前者の「航空機」に相当し、以下同様に、「ストリンガ」は「ストリンガ」に、「フレーム」は「リブ」にそれぞれ相当する。

(b)後者の「胴体」と前者の「主翼」とは「機体構成部材」の限度で一致するといえ、以下同様に、「胴体用パネル」と「主翼用パネル」とは「機体構成部材用パネル」の限度で、「スキン」と「上部スキン」及び「下部スキン」とは「スキン部材」の限度で、「第1の方向」と「翼長方向」とは「第一の方向」の限度で、「第2の方向」と「翼幅方向」とは「第二の方向」の限度で一致するといえる。

(c)上記(a)、(b)を踏まえると、後者のフレームが配置されるところの「スキン」の「第1の領域」と、前者のリブが配置されるところの「上部スキン」及び「下部スキン」の「第1の領域」とは、「スキン部材」の「第一の領域」の限度で一致するといえ、同様に、フレームが配置されないところの「スキン」の「第2の領域」と、リブが配置されないところの「上部スキン」及び「下部スキン」の「第2の領域」とは、「スキン部材」の「第二の領域」の限度で一致するといえる。

(d)上記(a)?(c)を踏まえると、後者の「前記第1の方向に交差する第2の方向に沿ってフレームが配置される前記スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が前記スキン上に配置される選択的補強材の平坦面で繋がれており」と、前者の「前記翼長方向に交差する前記翼幅方向に沿って前記リブが配置される前記上部スキン及び前記下部スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれており」とは、「前記第一の方向に交差する前記第二の方向に沿って前記リブが配置される前記スキン部材の第一の領域は、隣接する前記ストリンガの間に設けられた平坦面で繋がれており」の限度で一致するといえる。

(e)上記(a)?(c)を踏まえると、後者の「前記フレームが配置されない前記スキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が、前記スキン並びに前記ストリンガの根元及び前記スキン上に配置される選択的補強材による段差面で繋がれており」と、前者の「前記リブが配置されない前記上部スキン及び前記下部スキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が段差面で繋がれており」とは、「前記リブが配置されない前記スキン部材の第二の領域は、隣接する前記ストリンガの間に設けられた段差面で繋がれており」の限度で一致するといえる。

(f)したがって、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点2〕
「航空機を構成する機体構成部材であって、
スキン部材と、
前記スキン部材に設けられ、第一の方向に沿って延びる複数のストリンガと、
前記スキン部材に設けられ、第二の方向に沿って延びる複数のリブと、を備え、
前記スキン部材と前記ストリンガは、機体構成部材用パネルによって構成され、
前記機体構成部材用パネルは、
前記第一の方向に交差する前記第二の方向に沿って前記リブが配置される前記スキン部材の第一の領域は、隣接する前記ストリンガの間に設けられた平坦面で繋がれており、
前記リブが配置されない前記スキン部材の第二の領域は、隣接する前記ストリンガの間に設けられた段差面で繋がれており、
前記ストリンガは、前記スキン部材と一体に成形されている、
航空機の機体構成部材。」

〔相違点2〕
本件特許発明1は、「機体構成部材」が「主翼」、「機体構成部材用パネル」が「主翼用パネル」であって、「スキン部材」が「上部スキン」及び「下部スキン」であり、「複数のストリンガ」が「前記上部スキン及び前記下部スキンの各々に設けられ」るものであって、それが延びる「第一の方向」が「翼長方向」であって、「複数のリブ」が「前記上部スキン及び前記下部スキンの間に設けられ」るものであり、それが延びる「第二の方向」が「翼幅方向」であり、さらに、「第一の領域」が「上部スキン」及び「下部スキン」の「第1の領域」であり、「第二の領域」も「上部スキン」及び「下部スキン」の「第2の領域」であるのに対し、
甲4発明は、「機体構成部材」が「胴体」、「機体構成部材用パネル」が「胴体用パネル」であって、「スキン部材」が「スキン」であり、「複数のストリンガ」が「前記スキンに設けられ」るものであり、それが延びる「第一の方向」は、主翼ではないので当然「翼長方向」でなく、「複数のリブ」が「前記スキンに設けられ」るものであり、それが延びる「第二の方向」は、主翼ではないので当然「翼幅方向」ではなく、さらに、「第一の領域」が「スキン」の「第1の領域」であり、「第二の領域」も「スキン」の「第2の領域」である点。

〔相違点3〕
「第一の領域」の「平坦面」に関し、本件特許発明1では、「前記上部スキン及び前記下部スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれており」という文脈から、「上部スキン」及び「下部スキン」自体の「平坦面」であるのに対し、甲4発明では、「スキン上に配置される選択的補強材の平坦面」である点。

〔相違点4〕
「第二の領域」の「段差面」に関し、本件特許発明1では、「前記上部スキン及び前記下部スキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が段差面で繋がれており」という文脈から、「上部スキン」及び「下部スキン」自体の「段差面」であるのに対し、甲4発明では、「前記スキン並びに前記ストリンガの基部及び前記スキン上に配置される選択的補強材による段差面」である点。

b 判断
上記相違点2について検討する。
上記相違点2は上記相違点1と実質的に同様内容であり、上記相違点1について検討したのと同様に、甲4発明に周知技術(甲2技術、甲3技術)を適用する動機付けがあるとはいえない。
なお、取消理由通知において、「平坦面」及び「段差面」(上記相違点3及び4に関連)に対し引用した甲1技術について検討しても、主翼に係るものではないことから、上記相違点1について検討したのと同様に、上記相違点2に係る本件特許発明1に係る事項を容易想到とする根拠にはならない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲4発明、甲1技術、周知の課題(甲5課題、甲6課題)及び周知技術(甲2技術、甲3技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(イ)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、甲4発明、甲1技術、周知の課題(甲5課題、甲6課題)及び周知技術(甲2技術、甲3技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件特許発明2、3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

ウ 引用文献7を主たる引例とした場合(〔理由2〕)
(ア)本件特許発明1について
a 対比
本件特許発明1と甲7発明を対比する。
(a)後者の「航空機」は前者の「航空機」に相当し、以下同様に、「スティフナ230」は「ストリンガ」に、「フレーム240」は「リブ」にそれぞれ相当する。

(b)後者の「航空機胴体」と前者の「主翼」とは「機体構成部材」の限度で一致するといえ、以下同様に、「航空機胴体を構成するバレルセクション110」と「主翼用パネル」とは「機体構成部材用パネル」の限度で、「外板220」と「上部スキン」及び「下部スキン」とは「スキン部材」の限度で、「第1の方向」と「翼長方向」とは「第一の方向」の限度で、「第2の方向」と「翼幅方向」とは「第二の方向」の限度で一致するといえる。

(c)上記(a)、(b)を踏まえると、後者の複数のフレーム240が配置されるところの「外板220」の「第1の領域」と、前者のリブが配置されるところの「上部スキン」及び「下部スキン」の「第1の領域」とは、「スキン部材」の「第一の領域」の限度で一致するといえ、同様に、フレーム240が配置されないところの「外板220」の「第2の領域」と、リブが配置されないところの「上部スキン」及び「下部スキン」の「第2の領域」とは、「スキン部材」の「第二の領域」の限度で一致するといえる。

(d)上記(a)?(c)を踏まえると、後者の「前記第1の方向に交差する第2の方向に沿って複数のフレーム240が配置される前記外板220の第1の領域は、スティフナ230は、第1のフランジ部231aが、第2のフランジ部231bに少なくともほぼ接触するように、外板220上に位置づけられ、フランジ部231は、スティフナ230の突起234間に延在する、複数の少なくともほぼ連続的な支持面235が形成され」ていることと、前者の「前記翼長方向に交差する前記翼幅方向に沿って前記リブが配置される前記上部スキン及び前記下部スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれて」いることとは、「前記第一の方向に交差する第二の方向に沿ってリブが配置される前記スキン部材の第一の領域は、隣接する前記ストリンガの間に設けられた面を有して」いることの限度で一致するといえる。

(d)上記(a)?(c)を踏まえると、後者の「前記フレーム240が配置されない前記外板220の第2の領域は、隣接する前記スティフナ230の間が前記外板220及びスティフナ230のフランジによる段差面で繋がれている」ことと、前者の「前記リブが配置されない前記スキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が段差面で繋がれて」いることとは、「前記リブが配置されない前記スキン部材の第二の領域は、隣接する前記ストリンガの間に設けられた段差面で繋がれて」いることの限度で一致するといえる。

(e)したがって、両者の一致点、相違点は次のとおりである。
〔一致点3〕
「航空機を構成する機体構成部材であって、
スキン部材と、
前記スキン部材に設けられ、第一の方向に沿って延びる複数のストリンガと、
前記スキン部材に設けられ、第二の方向に沿って延びる複数のリブと、を備え、
前記スキン部材と前記ストリンガは、機体構成部材用パネルによって構成され、
前記機体構成部材用パネルは、
前記第一の方向に交差する前記第二の方向に沿って前記リブが配置される前記スキン部材の第一の領域は、隣接する前記ストリンガの間に設けられた面を有しており、
前記リブが配置されない前記スキン部材の第二の領域は、隣接する前記ストリンガの間に設けられた段差面で繋がれている、
航空機の機体構成部材。」

〔相違点5〕
本件特許発明1は、「機体構成部材」が「主翼」、「機体構成部材用パネル」が「主翼用パネル」であって、「スキン部材」が「上部スキン」及び「下部スキン」であり、「複数のストリンガ」が「前記上部スキン及び前記下部スキンの各々に設けられ」るものであって、それが延びる「第一の方向」が「翼長方向」であって、「複数のリブ」が「前記上部スキン及び前記下部スキンの間に設けられ」るものであり、それが延びる「第二の方向」が「翼幅方向」であり、さらに、「第一の領域」が「上部スキン」及び「下部スキン」の「第1の領域」であり、「第二の領域」も「上部スキン」及び「下部スキン」の「第2の領域」であるのに対し
甲7発明は、「機体構成部材」が「航空機胴体」、「機体構成部材用パネル」が「航空機胴体を構成するバレルセクション110」であって、「スキン部材」が「外板220」であり、「複数のスティフナ230」が「前記外板220に設けられ」るものであり、それが延びる「第一の方向」は、主翼ではないので当然「翼長方向」でなく、「複数のフレーム240」が「前記外板220に設けられ」るものであり、それが延びる「第二の方向」は、主翼ではないので当然「翼幅方向」ではなく、さらに、「第一の領域」が「外板220」の「第1の領域」であり、「第二の領域」も「外板220」の「第2の領域」である点。

〔相違点6〕
「第一領域」の「面」に関し、本件特許発明1では、「前記上部スキン及び前記下部スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれており」という文脈から、「上部スキン」及び「下部スキン」自体の「平坦面」であるのに対し、甲7発明では、「スティフナ230は、第1のフランジ部231aが、第2のフランジ部231bに少なくともほぼ接触するように、外板220上に位置づけられ、フランジ部231は、スティフナ230の突起234間に延在する、複数の少なくともほぼ連続的な支持面235が形成され」るものである点。

〔相違点7〕
「第二領域」の「段差面」に関し、本件特許発明1では「前記上部スキン及び前記下部スキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が段差面で繋がれており」という文脈から、「上部スキン」及び「下部スキン」自体の「段差面」であるのに対し、甲7発明では、「前記外板220及びスティフナ230のフランジによる段差面」である点。

〔相違点8〕
本件特許発明1では、「前記ストリンガは、前記上部スキン及び前記下部スキンと一体に成形されている」のに対し、甲7発明では、「スティフナ230」は、「外板220」と別体である点。

b 判断
上記相違点5について検討する。
上記相違点5は上記相違点1と実質的に同様内容であり、上記相違点1について検討したのと同様に、甲7発明に周知技術(甲2技術、甲3技術)を適用する動機付けがあるとはいえない。
なお、取消理由通知において、「平坦面」、「段差面」及び「一体に成形」ということ(上記相違点6?8に関連)に対し引用した甲1技術について検討しても、主翼に係るものではないことから、上記相違点1について検討したのと同様に、上記相違点5に係る本件特許発明1に係る事項を容易想到とする根拠にはならない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲7発明、甲1技術、周知の課題(甲5課題及び甲6課題)及び周知技術(甲2技術及び甲3技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(イ)本件特許発明2、3について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定を加えたものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、甲7発明、甲1技術、周知の課題(甲5課題及び甲6課題)及び周知技術(甲2技術及び甲3技術)に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、本件特許発明2、3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるから、取消理由で通知した理由1、2によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)異議申立人は、特許異議申立書の第20ページの下から5行?第21ページ第6行において、甲4発明は、訂正前の請求項1に係る発明の「平坦面」、「段差面」に係る事項を有している旨主張し、訂正前の請求項1に係る発明が新規性を有さない旨主張している。
しかしながら、「平坦面」、「段差面」については、取消理由通知で指摘したように、訂正前においてもスキン自体の平坦面、段差面である上、訂正によって「上部スキン」及び「下部スキン」に設けられている事項が特定されたことにより、本件特許発明1とは更なる相違(上記相違点3及び4参照。)も生じているので、上記主張は採用できない。

(2)異議申立人は、特許異議申立書の第17ページのイ(h)において、甲第8号証(米国特許出願公開第2006/0226287号明細書)を示して「航空機の機体用パネルにおいて作業性を高めて製造コストを低減するために段差(steps or joggles)を無くすとの目的課題が開示されている。」とし、同第17?18ページのイ(i)において、甲第9号証(特許第4657194号公報)を示して「航空機の機体用パネルにおいて作業性を高めて製造コストを低減するために段差を無くすとの目的課題が開示されている。」とし、引用文献7(甲第7号証)を主たる引例とする同第25ページの第3?5行において、「更に、甲1発明のように作業性を高めて製造コストを低減するために段差(steps or joggles)を無くすことは、上記イ(h)(i)で述べたように、航空機の機体用パネルにおいて周知の課題であり、」と主張しているが、甲第8、9号証に記載される課題は、本異議の決定における引用文献7を主たる引例とした場合の相違点5についての判断(3(2)ウ(ア)b)とは直接関係するものではなく、上記主張は採用できない。

第5 むすび
以上検討したとおり、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項4に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項4に対して異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機を構成する主翼であって、
上部スキン及び下部スキンと、
前記上部スキン及び前記下部スキンの各々に設けられ、翼長方向に沿って延びる複数のストリンガと、
前記上部スキン及び前記下部スキンの間に設けられ、翼幅方向に沿って延びる複数のリブと、を備え、
前記上部スキンと前記ストリンガ及び前記下部スキンと前記ストリンガの各々は、主翼用パネルによって構成され、
前記主翼用パネルは、
前記翼長方向に交差する前記翼幅方向に沿って前記リブが配置される前記上部スキン及び前記下部スキンの第1の領域は、隣接する前記ストリンガの間が平坦面で繋がれており、
前記リブが配置されない前記上部スキン及び前記下部スキンの第2の領域は、隣接する前記ストリンガの間が段差面で繋がれており、
前記ストリンガは、前記上部スキン及び前記下部スキンと一体に成形されている、
ことを特徴とする航空機の主翼。
【請求項2】
前記段差面は、
隣接する前記ストリンガの間の中央部に配置される薄肉部と、前記薄肉部の両側に配置される前記ストリンガの根元の厚肉部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の航空機の主翼。
【請求項3】
前記第1の領域における隣接する前記ストリンガの間の前記上部スキン及び前記下部スキンの前記平坦面で繋がれる部分の厚みと、
前記第2の領域における前記段差面の前記厚肉部の厚みが等しい、ことを特徴とする請求項2に記載の航空機の主翼。
【請求項4】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-11 
出願番号 特願2013-11748(P2013-11748)
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (B64C)
P 1 651・ 121- YAA (B64C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 畔津 圭介  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 出口 昌哉
一ノ瀬 覚
登録日 2017-02-17 
登録番号 特許第6093192号(P6093192)
権利者 三菱航空機株式会社
発明の名称 航空機の機体用パネル、航空機の翼  
代理人 堀川 美夕紀  
代理人 大場 充  
代理人 堀川 美夕紀  
代理人 大場 充  

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