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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D21H
審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D21H
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D21H
管理番号 1343017
異議申立番号 異議2017-700964  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-10 
確定日 2018-07-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6115768号発明「板紙用表面紙力増強剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6115768号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 特許第6115768号の請求項2、6、7に係る特許を維持する。 特許第6115768号の請求項1、3?5に係る特許についての申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6115768号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成25年4月10日を出願日とする出願であって、平成29年3月31日にその特許権についての設定登録がされ、その後、平成29年10月10日に、その特許について、特許異議申立人星光PMC株式会社(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において平成29年11月28日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年1月25日に意見書の提出及び訂正の請求があり、平成30年2月19日に、当該訂正の請求に係る訂正請求書を補正する手続補正書(方式)が提出され、その訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)に対して申立人から平成30年3月19日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の訂正事項からなるものである。それぞれの訂正事項を訂正箇所に下線を付して示す。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3?5を削除する。

(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項2に「前記(a1)成分がα,β不飽和モノカルボン酸および/またはα,β不飽和ジカルボン酸である、請求項1の板紙用表面紙力増強剤。」とあるのを、
「カルボキシル基含有不飽和単量体(a1)35?65重量%及び(メタ)アクリルアミド(a2)65?35重量%からなるモノマー群(A)を、(A)成分の総重量に対して0.1?4重量%となる硫黄系連鎖移動剤(B)の存在下で共重合させてなる、溶解度パラメータが14?17のポリアクリルアミド系共重合体(C)を含有することを特徴とし、前記(a1)成分がα,β不飽和モノカルボン酸である、板紙用表面紙力増強剤。」と訂正する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項6に、「・・・で表される化合物である、請求項1?5のいずれかの板紙用表面紙力増強剤。」とあるのを、「・・・で表される化合物である、請求項2の板紙用表面紙力増強剤。」と訂正する。

(4)訂正事項4
本件訂正前の請求項7に「・・・かつ慣性半径が15nm?22nmである、請求項1?6のいずれかの板紙用表面紙力増強剤。」とあるのを、「・・・かつ慣性半径が15nm?22nmである、請求項2又は6の板紙用表面紙力増強剤。」と訂正する。

(5)訂正事項5
本件特許明細書の段落【0041】に「SP3=メタリルスルホン酸ナトリウムの溶解度パラメータ(0.9)」とあるのを、「SP3=メタリルスルホン酸ナトリウムの溶解度パラメータ(9.0)」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、3?5を削除する訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮に該当する。そして、訂正事項1が、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1の記載を引用する請求項2の記載を、請求項1の記載を引用しないものとし、その上で本件訂正前の「ポリアクリルアミド系共重合体(C)」の溶解度パラメータが「13?17」であったものを「14?17」と数値範囲を限定し、さらに、本件訂正前の「前記(a1)成分がα,β不飽和モノカルボン酸および/またはα,β不飽和ジカルボン酸」であったものを、「前記(a1)成分がα,β不飽和モノカルボン酸である」と(a1)成分の採り得る化合物の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同条ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものに該当する。
そして、本件特許明細書段落【0044】の【表1】に記載された「実施例」のうちで「溶解度パラメータ」の最小値は「実施例11」の「14.0」である。そして、本件訂正前の請求項2には、「前記(a1)成分がα,β不飽和モノカルボン酸および/またはα,β不飽和ジカルボン酸」との記載があったから、請求項2には、「前記(a1)成分がα,β不飽和モノカルボン酸である」ものが記載されていたといえる。よって、訂正事項2は、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(3)訂正事項3及び4について
訂正事項3は、本件訂正前は、請求項1?5のいずれかを引用する請求項であった請求項6を、訂正事項1により削除されなかった請求項2のみを引用するものとする訂正である。
訂正事項4は、本件訂正前は、請求項1?6のいずれかを引用する請求項であった請求項7を、訂正事項1により削除されなかった請求項2及び6のみを引用するものとする訂正である。
よって、訂正事項3及び4は、いずれも、訂正事項1に係る訂正により請求項1、3?5が削除されたことに伴う、請求項間の引用関係の整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。また、訂正事項3及び4が、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(4)訂正事項5について
訂正事項5は、SP3=メタリルスルホン酸ナトリウムの溶解度パラメータについて、本件訂正前の本件特許明細書の段落【0041】には「SP3=メタリルスルホン酸ナトリウムの溶解度パラメータ(0.9)」との記載があったのを、「9.0」と訂正するものである。
ここで、「SP3=メタリルスルホン酸ナトリウムの溶解度パラメータ」が、「9.0」であることは、本件特許明細書の段落【0038】に記載されているし、さらに、特許権者が平成30年1月25日に提出した意見書7ページ1行?8ページ15行において示したように、本件特許明細書段落【0044】の【表1】に記載された比較例1、4、6について、「SP3=メタリルスルホン酸ナトリウムの溶解度パラメータ」が「9.0」あるいは「0.9」のそれぞれの場合の値を計算すると、当該【表1】に記載された値と一致するのは、「9.0」の場合であるから、「SP3=メタリルスルホン酸ナトリウムの溶解度パラメータ(0.9)」の「0.9」との記載は、「9.0」と記載すべきものの誤記であることが明らかである。
よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものに該当する。そして、上記のとおり訂正事項5は、新規事項を追加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。

(5)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1?7について、請求項2?7はそれぞれ請求項1を直接又は間接に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?7は、特許法第120条の5第4項に規定に適合する一群の請求項である。
願書に添付した明細書の訂正に係る請求項について、訂正事項5は、当該一群の請求項を対象とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合する。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、特許法第120条の5第4項及び特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔1-7〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1.本件発明
(1)本件訂正請求により訂正された請求項2、6、7に係る発明(以下、「本件発明2」等という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2、6、7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項2】
カルボキシル基含有不飽和単量体(a1)35?65重量%及び(メタ)アクリルアミド(a2)65?35重量%からなるモノマー群(A)を、(A)成分の総重量に対して0.1?4重量%となる硫黄系連鎖移動剤(B)の存在下で共重合させてなる、溶解度パラメータが14?17のポリアクリルアミド系共重合体(C)を含有することを特徴とし、前記(a1)成分がα,β不飽和モノカルボン酸である、板紙用表面紙力増強剤。
【請求項6】
前記(B)成分が、一般式(1):CH_(2)=C(R)(CH_(2))_(n)SO_(3)Z(式中、Rは水素またはメチル基を、nは1?4の整数を、Zは水素又はアルカリ金属原子を表す。)および/または一般式(2):HO-CH_(2)-(CH_(2))_(n)-SZ(式中、nは1?11の整数を、Zは水素又はアルカリ金属原子を表す。)で表される化合物である、請求項2の板紙用表面紙力増強剤。
【請求項7】
前記(C)成分の重量平均分子量が150,000?450,000であり、かつ慣性半径が15nm?22nmである、請求項2又は6の板紙用表面紙力増強剤。」

2.取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?7に係る特許に対する、平成29年11月28日付け取消理由通知の要旨は、次のとおりである。なお、申立人が特許異議申立書に記載した全ての取消理由が通知された。

【理由1】(新規性) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許に係る出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

【理由2】(進歩性) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許に係る出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

【理由3】(実施可能要件) 本件特許の発明の詳細な説明の記載は、下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

【理由4】(サポート要件) 本件特許の特許請求の範囲の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

【理由5】(明確性) 本件特許の特許請求の範囲の記載は、下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

以下、引用文献1に記載された発明を、「引用発明」という。

【理由1】(新規性)
本件発明1?7は、引用発明1である。

【理由2】(進歩性)
(1)本件発明1?6について
本件発明1?6は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明7について
本件発明7は、引用発明1及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【理由3】(実施可能要件)
モノマー群(A)に、さらに(a3)?(a5)を含有させる場合、請求項3?5における(a1)、(a2)及びその他の(A)成分を含めて合計が100重量%となるということなのか、または、(a1)、(a2)のどちらかの成分に代えて含有させるという意味なのか、明細書の記載を参酌しても当業者は理解することができない。

【理由4】(サポート要件)
【理由4-1】本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、本件発明1で特定されている「溶解度パラメータ」の「13?17」との数値限定に関して、下限値(13)近傍内における優位性は示されておらず、本件発明1で特定される溶解度パラメータの範囲内であれば、本件発明1の課題を解決できると当業者が認識できない。

【理由4-2】本件発明2には、「α,β不飽和モノカルボン酸および/またはα,β不飽和ジカルボン酸」との記載があるが、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載には、本件発明2を満足し、かつα,β不飽和ジカルボン酸のみを(a1)成分に用いたものは記載されていない。 (以下、【理由4-2】という。)

【理由4-3】本件発明3?5と、これらを引用する本件発明6及び7には、(a3)成分?(a5)成分の使用できる割合について、上限も下限も限定されていない。(以下、【理由4-3】という。)

【理由5】(明確性)
(1)本件発明1で特定されるモノマー群(A)は、(a1)と(a2)の数値限定から、(a1)と(a2)のみからなるものと考えざるを得ないが、一方で、そのことを示す他の根拠はない。また、本件発明3?5の各々は、他の単量体(a3)?(a5)を含有する旨特定されているが、そうすると、(a1)と(a2)の合計100重量%を超える範囲を含むこととなり、技術的に正しくない。

(2)本件特許1?7に特定される「溶解度パラメータ」が、どのようにして算出されるものであるのかが、発明の詳細な説明を参酌しても、当業者は理解することができない。なお、関連して、本件特許明細書の段落【0038】、【0041】に示されたメタリルスルホン酸の溶解度パラメータの値が、それぞれ9.0と0.9となっており、どちらが正しいか明確ではない。さらに、比較例1においても段落【0040】に記載の溶解度パラメータが11.9とあるのに対し、段落【0044】の【表1】においては12.6と記載されている。さらに段落【0041】に基いて計算すると12.5となり、その計算・有効数値等が明確ではない。

<引 用 文 献 等 一 覧>
1.特開平9-169946号公報(申立書記載の甲第1号証)
2.特開2007-46179号公報(申立書記載の甲第2号証)

3.判断
(1)【理由1】(新規性)及び【理由2】(進歩性)について
ア.引用文献1について
引用文献1の、段落【請求項1】?【請求項3】、【0001】、【0006】、【0013】?【0017】、【0020】、【0036】、【0038】?【0049】、【0053】?【0065】の記載の、特に、段落【0038】?【0040】及び【0060】の【表1】に記載された「実施例1」に着目すると、引用文献1には、以下の引用発明が記載されている。

「イタコン酸17g及び60%アクリルアミド水溶液678gからなるモノマー混合溶液をメタリルスルホン酸ナトリウム57gの存在下で共重合させてなる25℃におけるブルックフィールド粘度46900cpsのアクリルアミド系ポリマー水溶液。」

なお、申立人は、本件特許異議申立書において、甲第1号証の請求項1を充足するアクリルアミド系ポリマーの「仮想事例」として、
「(a1)イタコン酸:20mol%(32.88重量%)
(a2)アクリルアミド:63.47mol%(57.01重量%)
(a3)メチレンビスアクリルアミド:0.03mol%(0.06重量%)
(a5)アクリロニトリル:15mol%(10.06重量%)
(B)メタリルスルホン酸ナトリウム(3.0重量%対(a1)?(a5)の合計)」
を示し、当該仮想事例について、沖津法による推算式を用いて溶解度パラメータを計算すると「15.2」となる旨主張している。(2ページ「証拠」の欄8行?4ページ同欄3行)
しかし、引用文献1には、当該「仮想事例」を想定すべき合理的な理由について記載されていないし、示唆する記載もない。また、引用文献1の段落【0060】【表1】には、実施例1?6についての「組成(mol%)」が記載されているが、イタコン酸は、全ての実施例が5mol%未満であり、アクリルアミドは、全ての実施例が76以上であり、上記仮想事例におけるそれらの数値は、当該実施例1?6の値が分布している数値範囲から外れている。

したがって、引用文献1の記載に接した当業者が、上記仮想事例に係る組成と組成割合を有し、かつ、ポリアミド系共重合体の溶解度パラメータが14?17である発明が、引用文献1に記載されていると理解できるとはいえない。よって、申立人が主張する上記仮想事例を、引用文献1の記載から認定することはできない。

イ.本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と引用発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明2の「カルボキシル基含有不飽和単量体(a1)成分」が、「α,β不飽和モノカルボン酸」であるのに対し、引用発明のカルボキシル基含有不飽和単量体が、イタコン酸であって、ジカルボン酸である点。

(イ)【理由1】についての判断
上記相違点1は、本件発明2と引用発明のそれぞれの成分であるカルボキシル基含有不飽和単量体の化合物についての相違点であるから、実質的な相違点である。
よって、本件発明2は、引用発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(ウ)【理由2】についての判断
本件発明2と引用発明とを対比すると、上記(ア)に記載した<相違点1>において相違する。
そして、引用文献1には、引用発明のジカルボン酸であるイタコン酸に代えて、α,β不飽和モノカルボン酸を用いることの記載はないし、示唆する記載もない。引用文献1に記載された「比較例4」は、不飽和モノカルボン酸であるアクリル酸をモノマー成分として使用する例であるが、得られたアクリルアミドポリマー水溶液を紙に塗工すると、紙力効果が不十分である旨、引用文献1に記載されている(段落【0060】【表1】の「比較例4」、段落【0080】【表2】の「塗工比較例3」、段落【0081】【表3】の「塗工比較例10」)から、むしろ、α,β不飽和モノカルボン酸を用いることの阻害事由の存在を示唆しているといえる。
よって、引用発明について、上記相違点1における本件発明2に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、本件発明2は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

ウ.本件発明6及び7について
(ア)【理由1】についての判断
本件発明6及び7は、いずれも本件発明2を直接あるいは間接に引用するものである。そうすると、上記イ.(イ)を踏まえると、本件発明2の特定事項の全てを包含し、さらに限定された本件発明6及び7は、引用発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。

(イ)【理由2】についての判断
a.本件発明6について
上記(ア)に示したように、本件発明6は、本件発明2の特定事項の全てを包含し、さらに限定された発明であるから、上記イ.(ウ)を踏まえると、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

b.本件発明7について
上記(ア)に示したように、本件発明7は、本件発明2の特定事項の全てを包含し、さらに限定された発明である。
ここで、引用文献2には、「・・・特定の曳糸性を有する分岐型共重合ポリアクリルアミノを含有する紙用表面塗工剤を塗工することにより、圧縮強度や破裂強度、剛度等の強度を効率良く向上させたライナーの提供と、操業上の問題の発生が無い、該ライナーの製造方法の提供にある」(段落【0019】)との課題を解決しようとして、「少なくとも3層以上の湿潤紙層を抄き合わせて製造され、かつ塗工層を有するライナーであって、該ライナーの表面の少なくとも一面に、カチオン性基及び/又はアニオン性基を有し、重量平均分子量が5万以上で100万未満である、分岐型共重合ポリアクリルアミドを含有する紙用塗工剤が塗工されていることを特徴とするライナー」(【請求項1】)としたものが記載されていて、それに使用される共重合分岐型ポリアクリルアミドを製造するための「アニオン性モノマー(c)」として、「α,β-不飽和モノカルボン酸」及び「イタコン酸」が単独で使用できるものとして、他の化合物とともに列挙されている。(段落【0026】、【0029】)しかし、引用文献2には、引用発明の「イタコン酸」に代えて「α,β-不飽和モノカルボン酸」を用いることまでが記載されているものでもないし、示唆する記載もない。
よって、本件発明7は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

エ.【理由1】及び【理由2】についての小括
上記ア.?ウ.に示したとおり、本件発明2、6、7は、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとはいえない。
したがって、本件発明2、6、7に係る特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として取り消すことはできない。

(2)【理由3】(実施可能要件)について
ア.上記2.の【理由3】は、要するに、上記に示した理由によって、本件特許明細書の記載は、本件訂正前本件発明3?5を、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない、というものである。しかしながら、本件訂正によって、本件特許の請求項3?5は削除されたから、【理由3】は、理由のないものとなった。

イ.【理由3】についての小括
したがって、上記【理由3】によっては、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1項の規定に適合しないとはいえないから、本件発明2、6、7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由として取り消すことはできない。

(3)【理由4】(サポート要件)について
ア.【理由4-1】について
本件訂正によって、本件発明2の「溶解度パラメータ」の数値限定は、「14?17」と減縮された。そして、本件特許明細書段落【0044】の【表1】をみると、記載された実施例のうち、「実施例11」の「溶解度パラメータ」は、最も小さい「14.0」である。そして、同段落【表2】をみると、「澱粉糊の浸透速度」が、比較例においては、「1.6」や「2.2」のものがある一方、実施例において、全てのものが「3.0」以上である。そして、【表2】の「非圧縮強度」及び「内部強度」をみると、「実施例1」?「実施例11」は、すべての「比較例1」?「比較例7」を上回っているから、「溶解度パラメータ」が「14?17」の範囲において、「得られる板紙の圧縮強度および内部強度が十分」(本件特許明細書 段落【0015】)となり、「表面紙力増強剤の板紙への浸透性を高めることにより、表面紙力剤を紙内部に効率的に存在させ、少量の使用量で板紙の圧縮強度や内部強度の発現に優れ、段ボール加工時の貼合糊の浸透性を低下させない表面紙力増強剤を提供する」(本件特許明細書 段落【0008】)との、本件発明の課題を解決することが理解できる。
したがって、本件発明2と本件発明2を引用する本件発明6及び7は、「溶解度パラメータ」が「14?17」との数値限定された範囲において、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明2、6、7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないとはいえない。

イ.【理由4-2】について
本件訂正により、本件発明2と、本件発明2を引用する本件発明6及び7に記載された「(a1)」成分は、「α,β不飽和モノカルボン酸」に限定された。そして、本件特許明細書の段落【0037】に記載された実施例1や、段落【0044】の【表1】に記載された実施例2?10は、「α,β不飽和モノカルボン酸」である「アクリル酸」を(a1)成分として使うものである。さらに、上記ア.に示したように、実施例1?10は、本件発明の課題を解決するものである。
そうすると、この点からも、本件発明2、6、7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないとはいえない。

ウ.【理由4-3】について
本件訂正によって、本件特許の請求項3?5は削除されたから、【理由4】(3)については、対象となる請求項が存在せず、理由のないものとなった。

エ.【理由4】についての小括
上記ア.?ウ.に示したとおりであるから、上記【理由4】によっては、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないとはいえないから、本件発明2、6、7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由として取り消すことはできない。

(4)【理由5】(明確性)について
ア.【理由5】の(1)について
本件訂正によって、本件特許の請求項3?5は削除されたから、【理由5】(1)については、対象となる請求項が存在せず、理由のないものとなった。

イ.【理由5】の(2)について
(ア)「溶解度パラメータ」について本件特許明細書には、次の記載がある。
「【0027】
こうして得られる(C)成分(当審注:ポリアクリルアミド系共重合体(C))は、その溶解度パラメータが13?17の範囲であることを特徴とする。この数値範囲は、板紙を構成するパルプ繊維の主成分であるセルロースについて、沖津法による推算式を用いて算出した溶解度パラメータ(例:沖津俊直、接着、246 Vol.38(6)(1994)を参照。(当審注:申立人が特許異議申立書に添付して提出した参考資料1))が15.6であり、本発明では板紙に塗工する(C)成分の溶解度パラメータをパルプ繊維のそれに接近させることにより、発明の課題を達成せんとするものである。かかる観点より、(C)成分の溶解度パラメータは、好ましくは15?16である。なお、ここでいう溶解度パラメータは、(C)成分を構成する各種の共重合性単量体成分の既知の溶解度パラメータ(例:沖津俊直、接着、246 Vol.38(6)(1994)を参照。)より、沖津法による推算式を用いて算出した値である。」
そうすると、本件発明の「溶解度パラメータ」とは、本件特許明細書において定義されるものであって、「(C)成分を構成する各種の共重合性単量体成分の既知の溶解度パラメータ(例:沖津俊直、接着、246 Vol.38(6)(1994)を参照。)より、沖津法による推算式を用いて算出した値である。」とされている。そして、当該定義によれば、「溶解度パラメータ」を「沖津法による推算式を用いて算出」するためには、(C)成分を構成する「各種の共重合性単量体成分」の「既知の溶解度パラメータ」を用いなければならないところ、当該「既知の溶解度パラメータ」は、例えば上記沖津著の刊行物(参考資料1)を参照することで知ることができる。
参考資料1の10ページの表6をみると、いくつかの共重合性成分について、溶解度パラメータを知るための「△F」や「△v」の値が、例えば>CH-には、ポリマーの値である「>CH(Poly)-」と単量体としての値である「>CH-」について、それぞれ記載されている。本件特許明細書に記載された上記定義によれば、「各種の共重合性単量体成分の既知の溶解度パラメータ」(下線は当審で付した。)から算出するのであるから、両者のうち用いる値は、「>CH-」についてのものであり、本件特許明細書に記載された計算例とも整合する。
申立人は、「参考資料1・・・や、参考資料2・・・に記載の沖津法によれば、ポリマーとしての溶解度パラメータを用いる場合、例えばアクリルアミドなどの主鎖のエチレン差に係る原子団として「>CH(Poly)-」の値(ΔF:28.6、Δv:1.9)を用いて計算すると読めるところ、本特許では「>CH-」の値(ΔF:28.6、Δv:-1.0)を用いている」(特許異議申立書 25ページ22?30行)と主張するけれども、上記のとおり、本件特許明細書に定義されたポリアクリルアミド系共重合体(C)の「溶解度パラメータ」を算出するにあたっては、単量体の値である「>CH-」を用いることw定義しているのであるから、当該主張を採用することはできない。

(イ)上記に示したように、本件発明の「ポリアクリルアミド系共重合体(C)」の「溶解度パラメータ」は、本件特許明細書の段落【0027】に定義されており、当該定義から、参考資料1の10ページの「表6」に示された「単量体成分」の数値や、本件特許明細書の段落【0038】に示された「メタリルスルホン酸ナトリウムの溶解度パラメータ(9.0)」の数値を用いて、段落【0038】の1行目に記載された式で計算することで、「ポリアクリルアミド系共重合体(C)」の「溶解度パラメータ」が算出できると当業者には理解できるから、「溶解度パラメータ」が、どのようにして算出されるものであるのかが、発明の詳細な説明を参酌しても、当業者は理解することができないとまではいえない。

(ウ)本件訂正によって、本件訂正明細書の段落【0041】に記載されたメタリルスルホン酸の溶解度パラメータの値は、「9.0」と訂正された。さらに、当該訂正に基づいて、上記段落【0041】を計算すると、12.5838となり、段落【0044】の【表1】の「溶解度パラメータ」の数値にあわせて、小数第1位までとると、「12.6」であり、この点、当該【表1】の「比較例1」の値と一致する。

上記(ア)?(ウ)から、【理由5】の(2)について、本件発明2、6、7が明確ではないとはいえないから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないとまではいえない。

ウ.【理由5】についての小括
以上のとおりであるから、上記【理由5】によっては、本件特許の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2項の規定に適合しないとはいえないから、本件発明2、6、7に係る特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由として取り消すことはできない。

第4 申立人の主張について
平成30年3月19日付け意見書において異議申立人は、次の1.?3.のとおり主張しているから、それについて検討する。
1.申立人は、本件訂正により請求項3?5を削除したとしても、本件発明2には、本件訂正前の請求項3?5の実施態様が含まれるから、(a1)成分、(a2)成分、(B)成分以外にも他の成分を使用しないことを明記していない以上、依然として他の成分の扱いが不明確であり、取消理由3?5は解消していない旨、主張している。(2ページ10?17行)
本件発明は、モノマー群(A)について、「カルボキシル基含有不飽和単量体(a1)35?65重量%及び(メタ)アクリルアミド(a2)65?35重量%からなるモノマー群(A)」と特定しているのみであり、(a1)成分及び(a2)成分の二成分の合計が、100重量%とならなければならない旨、特定していない。そして、本件特許明細書の段落【0044】【表1】に記載された実施例7、8、9のそれぞれをみると、(a1)成分及び(a2)成分が、上記特定された範囲内のものであって、さらに、(a3)、(a4)、(a5)成分が加えられている。そして、それら実施例7、8、9のそれぞれの(a1)、(a2)成分に加えて、(a3)?(a5)の成分を加えたものが、100重量%となることが記載されている。
そうすると、本件発明に特定されたモノマー群(A)は、(a1)成分及び(a2)成分それぞれの重量割合が(a1)成分:35?65重量%、及び、(a2)成分:65?35重量%でありさえすれば、必ずしも、両成分の合計値が100重量%となることまでは必須ではなく、他の(a3)?(a5)の成分の含有したもの全体が100%となるものであることが理解できる。そしてそのような理解は、上記本件特許明細書の上記記載と整合する。よって、上記「他の成分」を使用しないことを明記しないことをもって、取消理由3?5は解消していない旨の申立人の主張は失当である。

2.申立人は、本件発明2の溶解度パラメータの下限値を「14」と訂正することの根拠として、段落【0044】【表1】に記載された「実施例11」を根拠としているようであるが、【表1】には、「14.0」と有効数字が小数点1ケタで記載されていて、「14」ではない旨、主張している。
また、「14」の有効数字をどのように考えるのか不明確であり、13.8のような場合を包含する場合は明らかな拡張となるため、新規事項の追加に相当する旨、主張している。(2ページ18?22行)
そこで検討するに、本件訂正前の本件特許明細書には、溶解度パラメータが「12.8」のものが「比較例1」として記載されていて(段落【0044】【表1】)、「こうして得られる(C)成分は、その溶解度パラメータが13?17の範囲であることを特徴とする。この数値範囲は、板紙を構成するパルプ繊維の主成分であるセルロースについて、沖津法による推算式を用いて算出した溶解度パラメータ・・・が15.6であり、本発明では板紙に塗工する(C)成分の溶解度パラメータをパルプ繊維のそれに接近させることにより、発明の課題を達成せんとするものである。」(段落【0027】)との記載がある。そうすると、「12.8」という小数点第1位を四捨五入すると「13」となる「溶解度パラメータ」を有する例を、「比較例」とするのであるから、本件発明の「溶解度パラメータ」の数値範囲である「14?17」への属否の判断は、具体的な値と、当該数値範囲の上限値及び下限値である「17」及び「14」との算術的な大小関係により判断するものであることが、上記本件特許明細書の記載から理解できる。
よって、当該【表1】には、「溶解度パラメータ」が「14.0」である「実施例11」が記載されていて、その値は、他の実施例1?10の比較しても小さいから、上記算術的な大小関係により、当該実施例1?11が包含し得るように、「溶解度パラメータ」の下限値を決定しようとして、当該下限値を「14」とすることは、本件特許明細書に記載された事項の範囲内であるといえる。
また、上記算術的な大小関係により包含するか否かを決定するのであるから、13.8は、14より小さいから包含されるとはいえない。したがって、本件訂正は、新規事項の追加に相当するとの上記申立人の主張は、採用することはできない。

3.申立人は、本件特許明細書の段落【0027】に記載された沖津法からは依然として、「メタリルスルホン酸ナトリウム」の溶解度パラメータを算出することができないから、【理由5】(明確性)は解消していない旨、主張している。
しかしながら、本件発明の「溶解度パラメータ」は、上記3.(1)に示したとおり、本件特許明細書に定義されたものであるところ、当該定義によれば、「メタリルスルホン酸ナトリウム」のようなポリアクリルアミド系共重合体(C)成分を構成する共重合性単量体成分の溶解度パラメータは、「各種の共重合性単量体成分の既知の溶解度パラメータ(例:沖津俊直、接着、246 Vol.38(6)(1994)を参照。)」と記載されている。そうすると、当該沖津著の刊行物は、「既知の溶解度パラメータ」を知る際に参照するものの例示であるに過ぎず、他の方法により知ることを排除する記載は本件特許明細書にはみあたらない。そして、本件特許明細書段落【0038】には「メタリルスルホン酸ナトリウム」の「溶解度パラメータ」が「9.0」と記載されている。
そうすると、上記本件特許明細書に定義された「溶解度パラメータ」自体は明確であるから、他のモノマーについて計算できる資料がないからといって、直ちに本件発明が明確ではないとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用することができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明2、6、7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明2、6、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項1、3?5に係る特許は、本件訂正請求により削除されたため、本件特許の請求項1、3?5についての特許異議の申立ては、その対象となる請求項が存在しないものとなった。よって、本件特許の請求項1、3?5に係る特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであることから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
板紙用表面紙力増強剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、板紙用の表面紙力増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料品や野菜などの重量の重い内容部を梱包した段ボールを積み重ねた場合、段ボールの側面が屈折し、荷崩れを起こすといった問題がある。また、近年、環境意識の高まりにより、天然資源であるパルプ原料の削減、ならびにトラック輸送時のCO_(2)削減を目的に、板紙の軽量化が進んでおり、段ボールの強度の維持が難しい状況になっている。
【0003】
斯界では通常、段ボールを構成する板紙の強度を付与するために紙力増強剤が使用されている。一般的に板紙の強度を向上させたい場合は、パルプ繊維同士が重なる交点に紙力増強剤を効率的に定着させれば良いと考えられる。また、紙力増強剤には、パルプスラリーに添加する内添紙力増強剤とサイズプレスパートで紙に塗布する表面紙力増強剤に大別される。
【0004】
内添紙力増強剤は紙内部に存在するため、板紙の圧縮強度や内部強度を上げるという目的の達成に効果的である。しかしその一方で、パルプへの歩留りは完全ではなく、軽量化した板紙に対して高強度を付与するために添加量を増加するとさらに歩留まりが低下して、紙力の発現に非効率であるという問題がある。
【0005】
一方、表面紙力増強剤は、紙への歩留まりが100%であるため、効率よく紙力を発現することができる。しかしながら、軽量化した板紙に対して高強度を付与するためには、表面紙力増強剤の濃度を高めて塗布する必要があり、塗布時の粘度が高くなるため、サイズプレスでの塗布適性が悪化する上に、表面紙力増強剤が紙の表層に多く留まり、貼合糊の浸透が不充分となり、例えば、ライナー原紙と中芯原紙の接着不良が発生し易くなるなど、段ボールの加工適性が悪化するといった問題がある。
【0006】
表面紙力増強剤を用いて、板紙の圧縮強度を向上させる手段としては、少なくとも表層及び裏層を備える板紙の表層及び裏層の外面に少なくともポリビニルアルコール、澱粉及び架橋剤を含有する水性組成物を塗工する技術(特許文献1)が知られている。また、無機酸と尿素を添加した澱粉の水性懸濁液を連続糊化装置に通して熱化学変性により低粘度化した澱粉糊液を、中芯原紙の表面に塗布する技術(特許文献2)が知られている。また、古紙パルプを含有する原料パルプを用いて形成された原紙の表裏面に澱粉を主体とする水溶性高分子の塗工液を塗布・乾燥する技術(特許文献3)が知られている。また、ワイヤーパートにおいて湿紙間に澱粉の水溶液が設けられた積層体が形成され、更にコーターパートにおいて当該積層体の両面に澱粉の水溶液を塗布する技術(特許文献4)が知られている。さらに、酸化度が3?10mol%である酸化澱粉および網目状の水溶性高分子が表面に塗布する技術(特許文献5)が知られている。しかし、これら表面紙力増強剤を用いる技術は、表面視力増強剤の濃度を下げて塗布した場合には、軽量化した板紙の圧縮強度を高めるという点で不十分であり、表面紙力増強剤の濃度を高めて塗布した場合には、段ボール加工時の貼合糊の浸透性が低下して、ライナー原紙と中芯原紙の接着性が悪化する。
【先行技術文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2011-236516号公報
【特許文献2】 特開平07-26494号公報
【特許文献3】 特開2008-190064号公報
【特許文献4】 特開2009-114572号公報
【特許文献5】 特開2012-219424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、板紙、特に軽量化された板紙において、表面紙力増強剤の板紙への浸透性を高めることにより、表面紙力剤を紙内部に効率的に存在させ、少量の使用量で板紙の圧縮強度や内部強度の発現に優れ、段ボール加工時の貼合糊の浸透性を低下させない表面紙力増強剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記の諸特性に鑑み、不飽和単量体の種類、その使用割合、共重合体の溶解度パラメータなどに着目して鋭意検討を重ねた結果、所定条件下に得られるポリアクリルアミド系共重合体を板紙用表面紙力増強剤として使用することで、段ボール加工時の貼合糊の浸透性を低下させずに板紙の圧縮強度や内部強度の発現が高まることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、カルボキシル基含有不飽和単量体(a1)35?65重量%及び(メタ)アクリルアミド(a2)65?35重量%からなるモノマー群(A)を、(A)成分の総重量に対して0.1?4重量%となる硫黄系連鎖移動剤(B)の存在下で共重合させてなる、溶解度パラメータが13?17のポリアクリルアミド系共重合体(C)を含有することを特徴とする、板紙用表面紙力増強剤、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面紙力増強剤は、所定の原料からなりかつ特定のパラメータを備えるポリアクリルアミド系共重合体を主成分としており、板紙、特に軽量化された板紙の内部への浸透性に優れることから、少量の使用量で板紙の圧縮強度や内部強度を高め、段ボール加工時の貼合糊の浸透性の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の板紙用表面紙力増強剤は、カルボキシル基含有不飽和単量体(a1)(以下、(a1)成分という。)35?65重量%及びアクリルアミド系単量体(a2)(以下、(a2)成分という。)65?35重量%を含むモノマー群(A)(以下、(A)成分という。)を、(A)成分の総重量に対して0.1?4重量%となる硫黄含有連鎖移動剤(B)(以下、(B)成分という。)の存在下で共重合させてなる、溶解度パラメータが13?17のポリアクリルアミド系共重合体(C)(以下、(C)成分という。)を必須成分とする。
【0013】
(A)成分をなす(a1)成分としては、分子内にカルボキシル基を少なくとも1つ有し、かつラジカル重合性官能基を1つ有するものであれば特に限定されず、各種公知のものを使用することができる。具体的には、アクリル酸およびメタクリル酸等のα,β不飽和モノカルボン酸、ならびに/または、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸および無水シトラコン酸等の酸等のα,β不飽和ジカルボン酸が挙げられる。なお、これらはアルカリ金属類やアミン等の塩になっていてもよい。また、これらは、1種を単独で使用しても2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、板紙の圧縮強度や内部強度を効率よく発現させることが出来る点でα,β不飽和モノカルボン酸が、特にアクリル酸が好ましい。
【0014】
(a2)成分としては、例えばアクリルアミドやメタクリルアミドが挙げられる。
【0015】
(a1)成分と(a2)成分の使用量は、順に35?65重量%および65?35重量%であり、好ましくは、45?60重量%および55?40重量%である。(a1)成分と(a2)成分の使用量を限定することにより、本発明の表面紙力増強剤の板紙への浸透性が高まり、得られる板紙の圧縮強度および内部強度が十分となる。
【0016】
なお、(A)成分には必要に応じて架橋性単量体(a3)(以下、(a3)成分という)を含めることができる。(a3)成分は、分子内にラジカル重合性官能基を少なくとも2つ有するものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、メチレンビスアクリルアミド等の多官能(メタ)アクリルアミド類、ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ヘキサエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート等のジアクリレート類、3つ以上のビニル基を有する多官能ビニルモノマーとしてはトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルアミン、テトラメチロールメタンテトラアクリレート等、ジビニルベンゼン等の芳香族ポリビニル化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても2種以上を混合して用いてもよい。これらの中では、メチレンビスアクリルアミドが(a1)成分および(a2)成分との共重合性が高く、後述する(C)成分の重量平均分子量や慣性半径を制御し易くなる点で好ましい。また、該(a3)成分の使用割合は特に限定されないが、(A)成分中、通常1重量%未満、好ましくは0.3重量%未満である。また、使用量の下限値は通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上である。
【0017】
また、(A)成分には本発明の目的を損なわない範囲で、さらにカチオン性不飽和単量体(a4)(以下、(a4)成分という。)を含めることができる。(a4)成分としては、アミノ基や第4級アンモニウム基などのカチオン性官能基を少なくとも1つ有し、かつラジカル重合性官能基を1つ有するものであれば特に限定されず、各種公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の第3級アミノ基含有(メタ)アクリル系モノマー、前記第3級アミノ基含有(メタ)アクリル系モノマーの塩、および前記第3級アミノ基含有(メタ)アクリル系モノマーと四級化剤を反応させて得られる第4級アンモニウム塩含有(メタ)アクリル系モノマーなどが挙げられる。塩は、塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩であっても、酢酸塩等の有機酸塩であってもよい。また、4級化剤としては、メチルクロライド、ベンジルクロライド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリン等が挙げられる。これら(a4)成分は、1種を単独で使用しても2種以上を混合して用いてもよい。また、該不飽和単量体の使用割合は特に限定されないが、(A)成分中、通常2重量%未満、好ましくは0.5重量%未満である。また、使用量の下限値は通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上である。
【0018】
また、(A)成分には本発明の目的を損なわない範囲で、さらにニトリル系不飽和単量体(a5)(以下、(a5)成分という。)として、例えばアクリロニトリルやメタクリロニトリル等を含めることができる。その使用割合は特に限定されないが、(A)成分中、通常2重量%未満、好ましくは0.5重量%未満である。また、使用量の下限値は通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上である。
【0019】
また、(A)成分には、本発明の目的を損なわない範囲で、(a1)成分?(a5)成分以外のラジカル重合性単量体(以下、(a6)成分という。)をさらに含めることができる。(a6)成分としては、具体的には、N-置換アクリルアミド類、芳香族ビニルモノマー、アルキル(メタ)アクリレート類、カルボン酸ビニルエステル類、ビニルアルコールなどが挙げられる。N-置換アクリルアミド類としては、特に限定されず公知のものを用いることができる。N-置換アクリルアミド類としては、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミドなどの単官能N-置換アクリルアミド類が挙げられる。芳香族ビニルモノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエンなどの分子中に芳香環を有する単官能モノマー類が挙げられる。また、アルキル(メタ)アクリレート類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの単官能モノマー類が挙げられる。カルボン酸ビニルエステル類としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等などが挙げられる。これらは、1種を単独で使用しても2種以上を混合して用いてもよい。また、該不飽和単量体の使用割合は、(A)成分中、通常2重量%未満、好ましくは0.5重量%未満である。
【0020】
(B)成分としては、分子内に硫黄原子を有する連鎖移動剤であれば各種公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、一般式(1):CH_(2)=C(R)(CH_(2))_(n)SO_(3)Z(式中、Rは水素またはメチル基を、nは1?4の整数を、Zは水素又はアルカリ金属原子を表す。)および/または一般式(2):HO-CH_(2)-(CH_(2))_(n)-SZ(式中、nは1?11の整数を、Zは水素又はアルカリ金属原子を表す。)で表される化合物が、後述する(C)成分の重量平均分子量や慣性半径を制御し易くなる点で好ましい。
【0021】
前記一般式(1)で表される硫黄系連鎖移動剤としては、具体的には、例えば、アリルスルホン酸、アリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸、メタリルスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0022】
前記一般式(2)で表される硫黄系連鎖移動剤としては、具体的には、例えば、メルカプトエタノールやメルカプトプロパノール等が挙げられ、
【0023】
なお、前記一般式(1)および(2)で表されない硫黄系連鎖移動剤としては、例えば、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸および/またはその塩、チオリンゴ酸および/またはその塩、3-メルカプトプロピオン酸および/またはその塩が挙げられ、本発明においてはそれらを必要に応じて併用できる。
【0024】
本発明において(B)成分の使用量は、(A)成分の総重量に対して0.1?4重量%である。(B)成分の使用量をこの範囲とすることにより、(C)成分の過度の高分子化を抑制しつつ、本発明の表面紙力増強剤の板紙への浸透性を高め、得られる板紙の圧縮強度および内部強度を十分ならしめることができる。
【0025】
(C)成分は、(A)成分を(B)の存在下で共重合させたものであり、各種公知の方法で製造できる。具体的には、例えば、適当な加熱装置と攪拌機を備えた反応容器に(A)成分を仕込んだ後、所定量の(B)成分、水および必要に応じて重合開始剤、ならびに必要に応じてその他添加剤を仕込み、撹拌下に通常30?100℃程度、1?12時間程度、溶液重合反応を行うことにより、目的とする(C)成分を得ることができる。また、(A)成分の仕込み方法も特に限定されず、一括仕込み、分割滴下のいずれの方法でもよく、また、(A)成分と(B)成分の滴下順序も特に限定されず、同時または連続であってよい。
【0026】
前記重合開始剤としては、具体的には、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の無機過酸化物、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレイト等)が挙げられる。なお、必要に応じて亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤を併用して反応系をレドックス系としてもよい。
【0027】
こうして得られる(C)成分は、その溶解度パラメータが13?17の範囲であることを特徴とする。この数値範囲は、板紙を構成するパルプ繊維の主成分であるセルロースについて、沖津法による推算式を用いて算出した溶解度パラメータ(例:沖津俊直、接着、246 Vol.38(6)(1994)を参照。)が15.6であり、本発明では板紙に塗工する(C)成分の溶解度パラメータをパルプ繊維のそれに接近させることにより、発明の課題を達成せんとするものである。かかる観点より、(C)成分の溶解度パラメータは、好ましくは15?16である。なお、ここでいう溶解度パラメータは、(C)成分を構成する各種の共重合性単量体成分の既知の溶解度パラメータ(例:沖津俊直、接着、246 Vol.38(6)(1994)を参照。)より、沖津法による推算式を用いて算出した値である。
【0028】
(C)成分の他の物性は特に限定されないが、例えば重量平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリエチレンオキシド換算値をいう。以下、同様。)が通常、150,000?45,000程度、好ましくは200,000?350,000であり、慣性半径(多角度光散乱検出器による測定値をいう。以下、同様。)が15nm?22nm程度、好ましくは17nm?20nmである。重量平均分子量および慣性半径を上記それぞれの数値範囲に設定することにより、(C)が板紙内部へいっそう浸透しやすくなり、得られる板紙の圧縮強度および内部強度が良好になる。
【0029】
本発明の板紙用表面紙力増強剤には、必要に応じて、各種添加剤を配合できる。該添加剤としては、例えば、消泡剤、防腐剤、キレート剤、水溶性アルミニウム系化合物、尿素等が挙げられる。
【0030】
本発明の板紙用表面紙力増強剤は、各種公知の手段により、原紙に塗工して使用する。板紙用表面紙力増強剤を含有する塗工液としては、板紙用表面紙力増強剤をそのまま、又は希釈して使用してもよいが、必要に応じて、各種添加剤を配合できる。該添加剤としては、例えば、酸化澱粉、リン酸エステル化澱粉、自家変性澱粉、カチオン化澱粉、両性澱粉などの澱粉類、カルボキシメチルセルロース等のセルロース類、ポリビニルアルコール類、アルギン酸ソーダ等の水溶性高分子等の紙力増強剤や、サイズ剤、防滑剤、防腐剤、防錆剤、pH調整剤、消泡剤、増粘剤、充填剤、酸化防止剤、耐水化剤、造膜助剤、顔料、染料等が挙げられる。
【0031】
本発明の板紙用表面紙力増強剤は、塗工液中の固形分濃度として通常0.001?10重量%程度、好ましくは1?7重量%の範囲において実用に供される。
【0032】
板紙の種類としては、ライナーや中芯があげられる。
【0033】
当該板紙は、抄紙用パルプから得られるものであり、該抄紙用パルプとしてはLBKP、NBKP等の化学パルプや、GP、TMP等の機械パルプ、古紙パルプ等が挙げられる。また、当該原紙中に内添する填料やサイズ剤、紙力増強剤等の各種内添薬品についても特に限定されない。
【0034】
また、本発明の板紙用表面紙力増強剤は、前記各種の板紙原紙に対して従来公知の塗布方法、例えば含浸法、サイズプレス法、ゲートロール法、バーコーター法、カレンダー法、スプレー法等を、格別限定なく適用することができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例および比較例をあげて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、部および%は特記しない限り重量基準である。
【0036】
また、各例中、ブルックフィールド粘度はサンプルを25℃に調整した後の液のB型粘度計(東機産業(株)製)による測定値を、また、分子量、慣性半径はゲルパーメーションクロマトグラフィー(GPC)法(HLC8020GPC(東ソー製)、使用カラムTSKgel GMPW_(XL)(東ソー製)、検出器Triple Detecteor Aray Model 301(Viscotec製) 展開溶媒 リン酸0.3M水溶液、pH8.0)によるポリエチレンオキシド換算値で得られた重量平均分子量から測定した値による測定値を意味する。
【0037】
実施例1(ポリアクリルアミド共重合体(C)の合成)
撹拌機、冷却管、窒素導入管、および温度計を備えた反応容器に、80%アクリル酸43.75部、アクリルアミド65部、イオン交換水300部、メタリルスルホン酸ナトリウム2部を仕込み、反応容器内の酸素を窒素で充分に置換した後、撹拌しながら系内を35℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム0.2部、ピロ亜硫酸ナトリウム0.05部系内に添加し同時重合を開始させ、自己発熱で80℃まで温度上昇させた後、80℃で更に1時間保温して反応を完結させた。その後、48%水酸化ナトリウムを用いてpH調整した後に、イオン交換水で希釈することで、不揮発分22%、25℃のブルックフィールド粘度が1,550mPa・s、pH3.5、重量平均分子量が260,000、慣性半径が18nm、溶解度パラメータ15.7であるポリアクリルアミド系共重合体(C-1)の水溶液を得た。なお、溶解度パラメーターは以下の計算方法で算出した(以下、同様。)。
【0038】
溶解度パラメーター=(SP1×M1)+(SP2×M2)+(SP3×M3)
SP1=アクリル酸の溶解度パラメーター(13.4)
M1=(C-1)中のアクリル酸のモル比(0.344)
SP2=アクリルアミドの溶解度パラメーター(17.1)
M2=(C-1)中のアクリルアミドのモル比(0.647)
SP3=メタリルスルホン酸ナトリウムの溶解度パラメーター(9.0)
M3=(C-1)中のメタリルスルホン酸ナトリウムのモル比(0.009)
【0039】
実施例2?11
(A)成分および(B)成分の種類と使用量を表1で示すように変更した他は実施例1と同様にして、各種板紙用表面紙力増強剤を得た。得られた各板紙用表面紙力増強剤の物性(不揮発分、粘度、pH、重量平均分子量、慣性半径、溶解度パラメータ)を表1に示す。
【0040】
比較例1
撹拌機、冷却管、窒素導入管、および温度計を備えた反応容器に、80%メタクリル酸43.75部、アクリルアミド65部、イオン交換水300部、メタリルスルホン酸ナトリウム2部を仕込み、反応容器内の酸素を窒素で充分に置換した後、撹拌しながら系内を35℃まで昇温した。次いで、過硫酸アンモニウム0.2部、ピロ亜硫酸ナトリウム0.05部系内に添加し同時重合を開始させ、自己発熱で80℃まで温度上昇させた後、80℃で更に1時間保温して反応を完結させた。その後、48%水酸化ナトリウムを用いてpH調整した後に、イオン交換水で希釈することで、不揮発分22%、25℃のブルックフィールド粘度が2,800mPa・s、pH3.5、重量平均分子量が300,000、慣性半径が19nm、溶解度パラメータ11.9であるポリアクリルアミド系共重合体(C-12)の水溶液を得た。なお、溶解度パラメーターは以下の計算方法で算出した。
【0041】
溶解度パラメーター=(SP4×M4)+(SP2×M5)+(SP3×M6)
SP4=メタクリル酸の溶解度パラメーター(7.2)
M4=(C-1)中のメタクリル酸のモル比(0.448)
SP2=アクリルアミドの溶解度パラメーター(17.1)
M5=(C-1)中のアクリルアミドのモル比(0.542)
SP3=メタリルスルホン酸ナトリウムの溶解度パラメーター(9.0)
M6=(C-1)中のメタリルスルホン酸ナトリウムのモル比(0.010)
【0042】
比較例2?6
(A)成分および(B)成分の種類と使用量を表1で示すように変更した他は実施例1と同様にして、各種板紙用表面紙力増強剤を得た。得られた各板紙用表面紙力増強剤の物性(不揮発分、粘度、pH、重量平均分子量、慣性半径、溶解度パラメータ)を表1に示す。
【0043】
比較例7
撹拌機、冷却管、窒素導入管、および温度計を備えた反応容器に、固形分濃度88%の酸化澱粉(製品名「王子エースA」、王子コンスターチ(株)製)113.6部、イオン交換水666.7部を仕込み、撹拌しながら系内を80℃まで加熱して、さらに1時間保温した。その後イオン交換水で希釈することで不揮発分10%、25℃のブルックフィールド粘度が80mPa・s、pH6.5である澱粉水溶液を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
表1中、AMはアクリルアミドを、AAはアクリル酸を、MAAはメタクリル酸を、MBAAはメチレンビスアクリルアミドを、DMはジメチルアミノエチルメタクリレートを、ANはアクリロニトリルを、IAはイタコン酸を、SMASはメタリルスルホン酸ナトリウムを、2METを2-メルカプトエタノールをそれぞれ表す。
【0046】
<塗工液の調製>
(C-1)成分?(C-18)成分、ならびに澱粉水溶液をそれぞれ水で固形分濃度5重量%に希釈したものを、塗工液として用いた。
【0047】
<試験用紙の作成>
針葉樹の晒クラフトパルプを用いて抄紙して得られた板紙(坪量140g/m^(2))に、前記の塗工液を、バーコーターを用いて両面に塗工した後、105℃の回転式ドラムドライヤーに1分間通して乾燥させて塗工紙を得た。なお、板紙用表面紙力増強剤の固形付着量は、塗工前後の板紙の重量より計算した値である。
【0048】
<圧縮強度の測定>
前記方法で得られた各試験用紙を用い、JIS P 8126に準拠して測定し、
比圧縮強度(N・m^(2)/g)で示した。結果を表2に示す。
【0049】
<内部強度の測定>
前記方法で得られた各塗工紙を用い、J.Tappi No.18-2に準拠して、内部強度(N/m)を測定した。結果を表2に示す。
【0050】
<貼合糊の浸透速度の測定>
前記方法で得られた各塗工紙を用い、貼合糊の板紙への浸透速度を動的浸透性テスター(製品名「DPM30」、Emco(株)製))により測定した。貼合糊は後述のものを用いた。動的浸透性テスター(製品名「DPM30」、Emco(株)製))は紙又は板紙を液体と接触させ、板紙に超音波を透過させた際の超音波透過量を測定することで、板紙の液体の浸透挙動を測定する装置である。板紙に液体が浸透すると、板紙が柔軟となり超音波が透過し難くなる。そのため、単位時間あたりの超音波透過量の減少率を読み取ることで板紙への液体の浸透抄速度を測定することができる。今回の測定では、塗工紙と貼合糊が接触してから5秒後の浸透速度を読み取り、測定値(%r/s)とした。測定値が大きいほど貼合糊の浸透性が優れることを意味する。
【0051】
<貼合糊の調製>
撹拌機、冷却管、および温度計を備えた反応容器に、コンスターチ(製品名「コンスターチ」、王子コンスターチ(株)製)40重量部、イオン交換水200部、48%水酸化ナトリウム14部を仕込み、撹拌しながら系内を70℃まで加熱して、さらに15分間保温した。その後イオン交換水で希釈することで不揮発分8.0%、25℃のブルックフィールド粘度が600mPa・s、pH13.5である貼合糊を得た。
【0052】
【表2】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
カルボキシル基含有不飽和単量体(a1)35?65重量%及び(メタ)アクリルアミド(a2)65?35重量%からなるモノマー群(A)を、(A)成分の総重量に対して0.1?4重量%となる硫黄系連鎖移動剤(B)の存在下で共重合させてなる、溶解度パラメータが14?17のポリアクリルアミド系共重合体(C)を含有することを特徴とし、前記(a1)成分がα,β不飽和モノカルボン酸である、板紙用表面紙力増強剤。
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
(削除)
【請求項6】
前記(B)成分が、一般式(1):CH_(2)=C(R)(CH_(2))_(n)SO_(3)Z(式中、Rは水素またはメチル基を、nは1?4の整数を、Zは水素又はアルカリ金属原子を表す。)および/または一般式(2):HO-CH_(2)-(CH_(2))_(n)-SZ(式中、nは1?11の整数を、Zは水素又はアルカリ金属原子を表す。)で表される化合物である、請求項2の板紙用表面紙力増強剤。
【請求項7】
前記(C)成分の重量平均分子量が150,000?450,000であり、かつ慣性半径が15nm?22nmである、請求項2又は6の板紙用表面紙力増強剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-06-29 
出願番号 特願2013-94583(P2013-94583)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D21H)
P 1 651・ 536- YAA (D21H)
P 1 651・ 537- YAA (D21H)
P 1 651・ 113- YAA (D21H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 大輔  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 渡邊 豊英
久保 克彦
登録日 2017-03-31 
登録番号 特許第6115768号(P6115768)
権利者 荒川化学工業株式会社
発明の名称 板紙用表面紙力増強剤  
代理人 蔦 康宏  

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