• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1343020
異議申立番号 異議2018-700254  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-03-27 
確定日 2018-07-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6201755号発明「液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6201755号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6201755号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?10に係る特許についての出願は、2012年(平成24年)12月27日を国際出願日(優先権主張 平成24年7月31日、平成23年12月28日(以下、「優先日」という。))とする出願であって、平成29年9月8日にその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年9月27日に特許掲載公報が発行され、その特許に対し、平成30年2月27日に特許異議申立人 鈴木美香(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明10」といい。総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片面に被覆層を有する偏光子保護フィルムであって、前記ポリエステルフィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有し、前記被覆層は、ポリビニルアルコール系樹脂、酸価が20KOHmg/g以下であるポリエステル系樹脂、並びに、メラミン系架橋剤及び/又はイソシアネート系架橋剤を含み、前記被覆層の表面は、ポリビニルアルコール系樹脂が凝集した相とポリエステル系樹脂が凝集した相から成るナノ相分離構造を有し、ポリビニルアルコール相の面積比率が、30%以上99%未満である、偏光子保護フィルム。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系樹脂のけん化度が95%以下である、請求項1に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項3】
前記ポリエステル系樹脂のガラス転移温度が、25℃以上である、請求項1又は2に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項4】
前記被覆層に含まれるポリビニルアルコール系樹脂(PVA)とポリエステル系樹脂(PEs)の質量比が、下記式を満足する、請求項1?3のいずれかに記載の偏光子保護フィルム。 0.2≦PVA/PEs≦1.25
【請求項5】
前記ポリエステルフィルムのリタデーションと厚さ方向リタデーションの比(Re/Rth)が0.200以上1.200以下である、請求項1?4のいずれかに記載の偏光子保護フィルム。
【請求項6】
前記ポリエステルフィルムが少なくとも3層以上からなり、
最外層以外の層は紫外線吸収剤を含有し、
380nmの光線透過率が20%以下である、請求項1?5のいずれかに記載の偏光子保護フィルム。
【請求項7】
前記ポリエステルフィルムの被覆層を有する面とは反対側の面にハードコート層、防眩層、反射防止層、低反射層、低反射防眩層、反射防止防眩層及び帯電防止層からなる群より選択される1種以上の層を有する、請求項1?6のいずれかに記載の偏光子保護フィルム。
【請求項8】
偏光子の少なくとも片面に請求項1?7のいずれかに記載の偏光子保護フィルムが積層された偏光板。
【請求項9】
バックライト光源と、2つの偏光板の間に配された液晶セルとを有する液晶表示装置であって、
前記バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する白色光源を用い、
前記2つの偏光板のうち少なくとも一つが請求項8に記載の偏光板である、液晶表示装置。
【請求項10】
射出光側に配される偏光板の射出光側の偏光子保護フィルムが、請求項1?7に記載の偏光子保護フィルムである、請求項9に記載の液晶表示装置。」

第3 申立理由の概要
異議申立人は、証拠として以下の甲第1号証?甲第7号証を提出するとともに、次の申立て理由1及び2を主張している。
1 申立て理由1(特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1?10に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。したがって、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから、取り消されるべきものである。

2 申立て理由2(特許法第36条第6項第2号)
本件特許の請求項1?10に係る発明は明確であるとはいえないから、本件特許は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものである。したがって、特許法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである。

(異議申立人提出の甲号証)
甲第1号証:特開2011-59488号公報
甲第2号証:特開2011-67952号公報
甲第3号証:特開2011-8170号公報
甲第4号証:特開2003-121818号公報
甲第5号証:特開2004-37841号公報
甲第6号証:特開平8-101307号公報
甲第7号証:特開平11-301104号公報
(以下、「甲第1号証」?「甲第7号証」を、それぞれ「引用例1」?「引用例7」という。)

第4 引用例1に記載された事項
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である引用例1には、次の事項が記載されている(下線は、当審にて付した。)。
1 「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板およびそれを用いた液晶表示装置に関する。」

2 「【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が低く、低電圧で動作し、軽量でかつ薄型の液晶表示装置が、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、およびテレビ等の情報用表示デバイスとして急速に普及している。
・・・略・・・
【0003】
一方で、液晶表示装置のさらなる薄型軽量化を望む強い市場要求を受けて、液晶表示装置を構成する液晶パネル、拡散板、バックライトユニット、および駆動IC等の薄型化や小型化が進められている。このような状況下、液晶パネルを構成する部材である偏光板も10μmの単位で薄型化することが求められている。
【0004】
同時に、液晶表示装置の普及に伴って、市場からのコストダウン要求も日増しに強くなっており、偏光板においてもさらなるコストダウンや生産性の向上が必須となっている。
【0005】
これらの要求を満足すべく、これまでに様々な提案がなされてきた。たとえば、偏光板は通常、偏光フィルムの片面または両面に透明保護フィルムが設けられた構成を有し、その透明保護フィルムとしてトリアセチルセルロースが一般的に使用されているが、特開平8-43812号公報(特許文献1)のように、その保護フィルムに位相差を持たせて光学補償機能を付与することにより、構成部材の削減と生産工程の簡便化を図る試みが広くなされている。このような構成とすることで、偏光板と位相差板との積層物である複合偏光板を薄型軽量化することができ、さらに液晶表示装置の構成部材点数が削減されることで、生産工程を簡素化し、歩留まりを向上させてコストダウンに繋げることが可能となる。
【0006】
さらには、保護フィルムをトリアセチルセルロース以外の他の樹脂で置き換える試みも積極的に進められている。たとえば、特開平7-77608号公報(特許文献2)には、トリアセチルセルロースに代えて、環状オレフィン系樹脂を使用する手段が開示されている。しかしながら、環状オレフィン系樹脂は一般的に高価であるため、現状は、より付加価値の高い位相差フィルムに用いられており、単なる保護フィルムとして使用するには、コスト削減の点から釣り合いがとれないという問題を有している。
【0007】
上記要求を満足できる技術として、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする手法が提案されている。ポリエチレンテレフタレートは機械的強度に優れることから、薄膜化に適しており、偏光板の薄型化を実現できる。さらに、トリアセチルセルロースや環状オレフィン系樹脂と比較して、一般的にコストの面からも優位性を有する。加えて、トリアセチルセルロースと比較して、低透湿性で低吸水性といった特徴を有することから、耐湿熱性や耐冷熱衝撃性にも優れ、環境変化に対して高い耐久性を持つことも期待できる。
【0008】
しかしながら、一方で、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとした偏光板を液晶表示装置に搭載した場合、トリアセチルセルロースフィルムを保護フィルムとする一般的な偏光板に比べて、その高いレタデーション値に由来する斜め方向からの色ムラ(干渉ムラ、虹ムラとも言う)が目立ち、視認性に劣るという問題を有している。この問題について、たとえば特開2009-109993号公報(特許文献3)では、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとした偏光板と、ヘイズ値を制御した防眩層を付与した偏光板とを組み合わせて液晶表示装置を構成することで、色ムラを低減する手法が開示されている。しかしながら、この手法を用いても色ムラの低減は不十分であり、より効果的な手法の確立が望まれていた。
【先行技術文献】
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明の目的は、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板であって、液晶表示装置に搭載した際の色ムラが少なく視認性に優れ、かつ薄型化を実現し、コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板を提供することにある。また、本発明のもう一つの目的は、前記の偏光板を用いた視認性に優れる液晶表示装置を提供することにある。」

3 「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記色ムラ問題を解決するべく、鋭意研究を行なってきた。その結果、ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとする偏光板において、面内の遅相軸方向の屈折率をn_(x)、面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をn_(y)、厚み方向の屈折率をn_(z)としたときに、(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y))で表されるNz係数が2.0未満の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとして用いることで、液晶表示装置の色ムラを効果的に低減でき、高い視認性と薄型化、低コスト化との両立が実現できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明によれば、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと、該偏光フィルムの片面に、第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと、を備え、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、面内の遅相軸方向の屈折率をnx、面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnzとしたときに、(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y))で表されるNz係数が2.0未満であることを特徴とする偏光板が提供される。
【0013】
本発明の偏光板において、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、面内の位相差値が200?1200nmもしくは2000?7000nmの値であることが好ましい。
【0014】
上記第一の接着剤層は、脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物の硬化物層からなることが好ましい。
【0015】
・・・略・・・
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、Nz係数が2.0未満の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを保護フィルムとして用いることで、液晶表示装置の表示時における色ムラが少なく優れた視認性を示し、かつ薄型化を実現し、コストパフォーマンスや生産性にも優れる偏光板を提供することができる。また、本発明によれば、前記の偏光板を用いた視認性に優れる液晶表示装置を提供することができる。」

4 「【発明を実施するための形態】
【0022】
<偏光板>
本発明の偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムと、該偏光フィルムの片面に、第一の接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムと、を備えるものである。
・・・略・・・
【0023】
(偏光フィルム)
本発明に用いる偏光フィルムは、通常、公知の方法によってポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色することにより、二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程、およびホウ酸水溶液による処理後に水洗する工程を経て製造されるものである。
【0024】
・・・略・・・
【0038】
(延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム)
本発明に用いる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとは、一種以上のポリエチレンテレフタレート系樹脂を溶融押出によって製膜し、横延伸してなる一層以上の一軸延伸フィルム、または、製膜後引き続いて縦延伸し、次いで横延伸してなる一層以上の二軸延伸フィルムである。ポリエチレンテレフタレートは、延伸により屈折率の異方性および、それらで規定される位相差値、Nz値、光軸を任意に制御することができ、本発明においては、必要な光学性能を効率よく付与できることから一軸延伸品が好ましく用いられる。
【0039】
・・・略・・・
【0072】
本発明の偏光板においては、かかる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとして、Nz係数が2.0未満であるものを用いる。このため、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、一軸延伸にて作製することが好ましい。このような光学性能の延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを採用することで、かかる偏光板を搭載した液晶表示装置における色ムラを効果的に低減することが可能となる。Nz係数は、2.0未満であれば小さいほど色ムラ低減の効果を発揮し、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下である。Nz係数が2.0以上の場合は、かかる偏光板を搭載した液晶表示装置において強い色ムラが発生し、視認性に劣るものとなる。Nz係数が2.0以上4未満である場合、色ムラ低減効果を得ることができない。なお、Nz係数が4以上である場合であっても色ムラ低減効果を得ることができ、この場合、Nz係数の値が高いほど、色ムラ低減に有利である。
【0073】
また、本発明の偏光板における延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、膜厚をdとしたときに、(n_(x)-n_(y))×dで定義される面内位相差値R_(0)が200?1200nmもしくは2000?7000nmのものが好適に採用できる。R_(0)がかかる範囲外、すなわちR_(0)が1200を超え、2000nm未満の範囲にある場合は、比較的目立つ色ムラが発生する傾向にある。したがって、より効果的に色ムラを低減する観点から、面内位相差値R_(0)は、1200nm以下もしくは2000nm以上であることが好ましい。また、R_(0)が200nm未満と小さい場合は、安定的にNz係数を2.0未満に制御することが困難であり、生産性やコストの面に問題を有する。一方で、R_(0)が7000nmを超える場合は、Nz係数は低減させやすいものの、機械的強度に劣るフィルムとなる傾向にある。
【0074】
・・・略・・・
【0081】
(機能層)
本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには、そのフィルムが偏光板の視認側に用いられる場合、偏光フィルムが積層されている面とは反対側の面に、防眩層、ハードコート層、反射防止層、および帯電防止層から選ばれる少なくとも1つの機能層を設けることが好ましい。
【0082】
・・・略・・・
【0084】
さらに、本発明に用いられる延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムには、本発明の効果を妨げない限り、上記以外にも様々な機能層を片面または両面に積層することができる。積層される上記以外の機能層としては、たとえば、導電層、平滑化層、易滑化層、ブロッキング防止層、および易接着層等が挙げられる。中でも、この延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、偏光フィルムと接着剤層を介して積層されることから易接着層が積層されていることが好ましい。
【0085】
易接着層を構成する成分は、特に限定されるものではないが、たとえば、極性基を骨格に有し比較的低分子量で低ガラス転移温度である、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、またはアクリル系樹脂等が挙げられる。また、必要に応じて架橋剤、有機または無機フィラー、界面活性剤、および滑剤等を含有することができる。
【0086】
・・・略・・・
【0087】
(第一の接着剤層)
本発明の偏光板において、偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとは、通常、透明で光学的に等方性の接着剤を介して貼着される。これらの接着には、それぞれのフィルムに対する接着性を考慮して任意のものを用いることができる。たとえば、ポリビニルアルコール系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤などが挙げられるが、本発明においては、脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を採用することが好ましく、脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性組成物を採用することがより好ましい。かかる接着剤を採用することにより、過酷な環境下における偏光板の耐久性を向上させることが可能になるとともに、無溶剤のものを用いた場合には、接着剤を乾燥させる工程が不要になるため、生産性を向上させることができる。」

5 「【0217】
<液晶表示装置>
以上のようにしてなる偏光板、すなわち、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム/第一の接着剤層/偏光フィルム/第二の接着剤層/[保護フィルムまたは光学補償フィルム]/粘着剤層/剥離フィルムとの層構造を有する偏光板は、粘着剤層から剥離フィルムを剥離して、液晶セルの片面または両面に貼合し、液晶パネルとすることができる。この液晶パネルは、液晶表示装置に適用することができる。
【0218】
・・・略・・・
【0222】
液晶表示装置を構成するバックライトも、一般の液晶表示装置に広く使用されているものでよい。たとえば、拡散板とその背後に配置された光源で構成され、光源からの光を拡散板で均一に拡散させたうえで前面側に出射するように構成されている直下型のバックライトや、導光板とその側方に配置された光源で構成され、光源からの光を一旦導光板の中に取り込んだうえで、その光を前面側に均一に出射するように構成されているサイドライト型のバックライトなどを挙げることができる。バックライトにおける光源としては、蛍光管を使って白色光を発光する冷陰極蛍光ランプや、発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)などを採用することができる。
【実施例】
【0223】
・・・略・・・
【0225】
<実施例1>
(a)偏光フィルムの作製
平均重合度約2400、ケン化度99.9モル%以上で厚み75μmのポリビニルアルコールフィルムを、30℃の純水に浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.02/2/100の水溶液に30℃で浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が12/5/100の水溶液に56.5℃で浸漬した。引き続き8℃の純水で洗浄した後、65℃で乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された偏光フィルムを得た。延伸は、主に、ヨウ素染色およびホウ酸処理の工程で行ない、トータル延伸倍率は5.3倍であった。
【0226】
(b)粘着剤付き偏光板の作製
厚み38μmの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(Nz係数:1.0、R_(0):2160nm)の貼合面に、コロナ処理を施した後、脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性接着剤組成物を、チャンバードクターを備える塗工装置によって厚さ2μmで塗工した。
・・・略・・・
【0227】
次いで、直ちに上記(a)にて得られた偏光フィルムの片面に上記延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、もう一方の面に上記光学補償フィルムを、各々接着剤組成物の塗工面を介して貼合ロールによって貼合した。」

6 上記3の段落【0011】?【0013】の記載及び上記4の段落【0084】の記載によれば、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの片面に、接着剤層を介して積層された延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムであって、
延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムは、
面内の遅相軸方向の屈折率をn_(x)、面内で遅相軸と直交する方向の屈折率をn_(y)、厚み方向の屈折率をn_(z)としたときに、(n_(x)-n_(z))/(n_(x)-n_(y))で表されるNz係数が2.0未満であり、
面内の位相差値が200?1200nmもしくは2000?7000nmの値であり、
偏光フィルムと接着剤層を介して積層されることから、易接着層が積層されている、
延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム。」(以下、「引用発明」という。)

第5 申立て理由について
1 申立て理由1(特許法第29条第2項)について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。
(ア) 引用発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、「ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの片面に、接着剤層を介して積層され」るものである。
そうしてみると、引用発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、「偏光フィルム」を保護する機能を有するといえる(引用例1の段落【0011】の記載からも確認できる事項である。)。また、引用発明の「偏光フィルム」は、その文言が意味するとおり、「偏光子」としての機能を有する「フィルム」である。
したがって、引用発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、本件発明1の「偏光子保護フィルム」に相当する。

(イ) 引用発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、その素材からみて、本件発明1の「ポリエステルフィルム」に相当する。

(ウ) 引用発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、「偏光フィルムと接着剤層を介して積層されることから、易接着層が積層されている」。また、本件特許の明細書の段落【0041】には、「本発明の偏光子保護フィルムは、偏光子或いはその片面又は両面に設けられる水系接着剤等のポリビニルアルコール系樹脂層との接着性を向上させるために、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ポリエステル系樹脂(A)とポリビニルアルコール系樹脂(B)を含有する樹脂組成物からなる易接着層(被覆層)が積層されている。」と記載されている。
そうしてみると、引用発明の「易接着層」は、本件発明1の「被覆層」に相当する。また、引用発明の「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、本件発明1の「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に被覆層を有する」という要件を満たすものである。

(エ) 上記(ア)?(ウ)より、本件発明1と引用発明とは、
「ポリエステルフィルムの少なくとも片面に被覆層を有する偏光子保護フィルム」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
本件発明1の「前記被覆層」は、「ポリビニルアルコール系樹脂、酸価が20KOHmg/g以下であるポリエステル系樹脂、並びに、メラミン系架橋剤及び/又はイソシアネート系架橋剤を含み、前記被覆層の表面は、ポリビニルアルコール系樹脂が凝集した相とポリエステル系樹脂が凝集した相から成るナノ相分離構造を有し、ポリビニルアルコール相の面積比率が、30%以上99%未満である」のに対して、
引用発明の「易接着層」は、そのような構成となっていない点。

(相違点2)
本件発明1においては、「前記ポリエステルフィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有し」ているのに対して、
引用発明においては、「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、「200?1200nmもしくは2000?7000nm」の「面内の位相差値」を有している点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア) 引用発明の「易接着層」の組成に関して、引用例1には、「易接着層を構成する成分は、特に限定されるものではないが、たとえば、極性基を骨格に有し比較的低分子量で低ガラス転移温度である、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、またはアクリル系樹脂等が挙げられる。また、必要に応じて架橋剤、有機または無機フィラー、界面活性剤、および滑剤等を含有することができる。」(段落【0085】)と記載されているにとどまる。また、引用例1には、「易接着層」を具備する「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」の具体的実施例は示されていない。かえって、引用例1に記載された実施例(段落【0226】)における「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」は、コロナ処理により接着性が確保されるものである。
そうしてみると、引用例1は、引用発明の易接着層中に「ポリビニルアルコール系樹脂」を含めることや、「ポリビニルアルコール系樹脂が凝集した相とポリエステル系樹脂が凝集した相から成るナノ相分離構造を有し、ポリビニルアルコール相の面積比率が、30%以上99%未満である」「被覆層の表面」の構成を開示ないし示唆するものではない。

(イ) ところで、「易接着層」の組成は、「延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム」及び「接着剤」の組成を勘案して決定されるべきものである。ここで、引用例1の段落【0087】には、接着剤として、「ポリビニルアルコール系樹脂」が、一応、例示されている。また、接着剤が「ポリビニルアルコール系樹脂」ならば、易接着層に「ポリビニルアルコール系樹脂」を含めても良いように考えられる。
しかしながら、「易接着層」に関する引用例1の記載は、前記(ア)のとおりである。また、引用例1の段落【0087】全体の記載は、「本発明の偏光板において、偏光フィルムと延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとは、通常、透明で光学的に等方性の接着剤を介して貼着される。これらの接着には、それぞれのフィルムに対する接着性を考慮して任意のものを用いることができる。たとえば、ポリビニルアルコール系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、エポキシ系接着剤などが挙げられるが、本発明においては、脂環式エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を採用することが好ましく、脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性組成物を採用することがより好ましい。かかる接着剤を採用することにより、過酷な環境下における偏光板の耐久性を向上させることが可能になるとともに、無溶剤のものを用いた場合には、接着剤を乾燥させる工程が不要になるため、生産性を向上させることができる。」というものである。加えて、引用例1の実施例(段落【0226】)の接着剤も、「脂環式エポキシ化合物を含有する無溶剤の活性エネルギー線硬化性」のものである。
そうしてみると、引用例1の記載に基づいて引用発明を具体化する当業者が、引用発明の易接着層中に「ポリビニルアルコール系樹脂」を含める構成を思い至るとはいえない。少なくとも、引用例1の記載に基づいて引用発明を具体化する当業者が、「ポリビニルアルコール系樹脂、酸価が20KOHmg/g以下であるポリエステル系樹脂、並びに、メラミン系架橋剤及び/又はイソシアネート系架橋剤を含み」、「表面は、ポリビニルアルコール系樹脂が凝集した相とポリエステル系樹脂が凝集した相から成るナノ相分離構造を有し、ポリビニルアルコール相の面積比率が、30%以上99%未満である」という具体的な易接着層の構成に思い至ることが容易であるとはいえない。

(ウ) 相違点1に係る本件発明1の構成に関して、異議申立人は、概略、引用例2?引用例4に、「ポリビニルアルコール系樹脂、酸価が20KOHmg/g以下であるポリエステル系樹脂を含み、表面は、ポリビニルアルコール系樹脂が凝集した相とポリエステル系樹脂が凝集した相から成るナノ相分離構造を有し、ポリビニルアルコール相の面積比率が、30%以上99%未満である」易接着層(被覆層)が記載されている旨主張する(特許異議申立書24頁下から6行?30頁1行、38頁1行?42頁下から5行、50頁下から4行?55頁14行、59頁下から3行?60頁6行)。
しかしながら、引用例2?引用例4の記載を最大限考慮したとしても、引用例2?引用例4には、「ポリビニルアルコール系樹脂、酸価が20KOHmg/g以下であるポリエステル系樹脂、並びに、メラミン系架橋剤及び/又はイソシアネート系架橋剤を含み」、「表面は、ポリビニルアルコール系樹脂が凝集した相とポリエステル系樹脂が凝集した相から成るナノ相分離構造を有し、ポリビニルアルコール相の面積比率が、30%以上99%未満である」易接着層(被覆層)の構成が記載されているとはいえない。また、引用例2?引用例4には、引用発明の構成や引用例1に記載された事項を前提として、相違点1に係る本件発明1の構成を採用する動機づけとなる記載も見当たらない。

加えて、仮に、引用発明と、引用例2?引用例4に記載された易接着層を組み合わせたとしても、「メラミン系架橋剤及び/又はイソシアネート系架橋剤を含み」の構成に至らない。ここで、本件特許の明細書の段落【0068】には、「架橋剤はポリビニルアルコール系樹脂の水酸基と好適に架橋反応をするメラミン系化合物もしくはイソシアネート系化合物ものが好ましい。これは、カルボジイミド系架橋剤はカルボキシル基と反応するのに対し、メラミン系化合物もしくはイソシアネート系化合物は水酸基と反応するため、官能基として水酸基を有するポリビニルアルコール系樹脂とより好適に架橋構造を形成するためであると考えられる。さらに、メラミン系化合物もしくはイソシアネート化合物を用いた場合には、塗布層中のポリビニルアルコールが好適に架橋構造を形成し、ポリエステルフィルムとは反対側の面に移動しやすくなり、PVAの表面分率をより高くし、好適な海島構造を形成することが可能となる。」と記載されている。また、特許権者も、平成29年2月27日提出の意見書において、「メラミン系架橋剤及びイソシアネート系架橋剤は、いずれも水酸基と反応するため、塗布層中のポリエステル系樹脂よりもポリビニルアルコール系樹脂と架橋構造を形成し、ポリエステルフィルムと接している面とは反対の面に移行し易くなります。その結果、偏光子と接する側の塗布層表面にポリビニルアルコール系樹脂がより多く分布し、結果として偏光子保護フィルムと偏光子の接着性を向上させます。」と主張したところである。そして、引用例1?引用例4には、このような技術思想は、記載も示唆もされていない。
この点は、異議申立人が証拠として提出した引用例5?引用例7の記載を考慮しても、同様である。

ウ 以上のとおりであるから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用例1?引用例7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 本件発明2?10について
本件発明2?10は、いずれも前記相違点1に係る本件発明1の構成を具備する発明である。
したがって、本件発明1と同様の理由により、本件発明2?10は、引用例1?引用例7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 以上のとおり、本件発明1?10は、引用例1?引用例7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることできたものとはいえない。

2 申立て理由2(特許法第36条第6項第2号)について
(1)異議申立人の主張
異議申立人は、リタデーションの値が波長によって変動することは、光学の一般技術常識として知られているところ、本件発明1には、リタデーションを如何なる波長で測定したかについて何ら記載されていないのであるから、本件発明1?10のリタデーションが如何なる波長のリタデーションを意味するのか不明であり、発明の範囲が不明確であるため、特許法第36条第6項第2号の要件を満たさず、特許を受けることができない旨主張している。

(2) 判断
ア リタデーションに波長依存性があることは技術常識であるところ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1には、「リタデーション」に関し、如何なる波長で測定されたものであるかについて記載されていない。

イ そこで、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、「リタデーション」の測定に関し、段落【0027】には、「本発明のリタデーションは、2軸方向の屈折率と厚みを測定して求めることもできるし、KOBRA-21ADH(王子計測機器株式会社)といった市販の自動複屈折測定装置を用いて求めることもできる。本書において、リタデーションとは面内のリタデーションを意味する。」との記載がある。
また、本件発明の「実施例における物性の評価方法」について、段落【0120】には、「(9)リタデーション(Re)
フィルム上の直交する二軸の屈折率の異方性(△Nxy=|Nx-Ny|)とフィルム厚みd(nm)との積(△Nxy×d)で定義されるパラメーターであり、光学的等方性、異方性を示す尺度である。二軸の屈折率の異方性(△Nxy)は、以下の方法により求める。二枚の偏光板を用いて、フィルムの配向軸方向を求め、配向軸方向が直交するように4cm×2cmの長方形を切り出し、測定用サンプルとした。このサンプルについて、直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)、及び厚さ方向の屈折率(Nz)をアッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T)によって求め、前記二軸の屈折率差の絶対値(|Nx-Ny|)を屈折率の異方性(△Nxy)とした。フィルムの厚みd(nm)は電気マイクロメータ(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定し、単位をnmに換算した。屈折率の異方性(△Nxy)とフィルムの厚みd(nm)の積(△Nxy×d)より、リタデーション(Re)を求めた。」との記載がある。

ウ ここで、上記イの段落【0120】の「(9)リタデーション(Re)」の評価方法における「直交する二軸の屈折率(Nx,Ny)、及び厚さ方向の屈折率(Nz)」を求める際に用いられている「アッベ屈折率計(アタゴ社製、NAR-4T)」で使用されている光源は、「D線波長近似」の「LED」である(<URL:http://www.atago.net/product/?l=ja&f=products_abbe.html>「アッベ屈折計 NAR-4T」の「仕様」の「光源」の欄参照。)。
そして、「D線」が「ナトリウムD線」を意味すること、また、「ナトリウムD線」の波長が「589nm」であることは、当業者の技術常識である。
そうすると、本件発明における「リタデーション(Re)」は、「ナトリウムD線」、すなわち波長「589nm」で求めた直交する二軸の屈折率「Nx」,「Ny」の差の絶対値(|Nx-Ny|)と、「フィルムの厚み」「d(nm)」との積によって求められたものであると理解することができる。このことは、上記イの段落【0027】において、「リタデーション」を求める際に用いることができるものと挙げられている「KOBRA-21ADH(王子計測機器株式会社)」によっても、波長「589nm」において3次元屈折率測定を行うことにより、nx、ny、nzを求めることができる(例えば、特開2006-221134号公報の段落【0055】を参照。)ことからも裏付けられる。

エ よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本件発明1の構成要件である「リタデーション」が、「ナトリウムD線」、すなわち波長「589nm」で測定されたものと理解することができるから、本件発明1は明確である。本件発明1を引用する本件発明2?10も明確である。

第6 むすび
したがって、異議申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-17 
出願番号 特願2013-551786(P2013-551786)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G02B)
P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 横川 美穂  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
川村 大輔
登録日 2017-09-08 
登録番号 特許第6201755号(P6201755)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 液晶表示装置、偏光板および偏光子保護フィルム  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ