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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  D01D
審判 全部申し立て 2項進歩性  D01D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D01D
管理番号 1343030
異議申立番号 異議2018-700061  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-25 
確定日 2018-08-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6171072号発明「樹脂ファイバの製造方法、これに用いられるノズルヘッド及び製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6171072号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6171072号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成28年11月14日を出願日とする出願であって、平成29年7月7日にその特許権についての設定登録がされ、平成30年1月25日に、その請求項1?10について、特許異議申立人張本紘邦(以下「申立人」という。また、本件の特許異議申立書を、以下「申立書」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後、当審において、平成30年3月22日付けで、特許権者に対して取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年5月23日に、特許権者より意見書が提出された。

第2 特許異議の申立てについて
1. 本件発明
本件特許の請求項1?10に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
高圧ガス流で熱可塑性樹脂を延伸させる極細長繊維である樹脂ファイバの製造方法であって、
溶融樹脂が押し出される吐出口近傍に設けた高圧ガス噴出口からのガス流が前記吐出口に負圧を与えて前記吐出口内部の前記溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させることを特徴とする樹脂ファイバの製造方法。
【請求項2】
前記吐出口から押し出される前記溶融樹脂は押出機から供給され、前記押出機からの前記溶融樹脂の供給を停止させたときにあっても前記吐出口内部に残留する前記溶融樹脂が負圧によって外部に引き出され延伸されることを特徴とする請求項1記載の樹脂ファイバの製造方法。
【請求項3】
前記吐出口は前記ガス流による負圧によって前記溶融樹脂を引き出し得るよう前記溶融樹脂の流動抵抗を低下させる径であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂ファイバの製造方法。
【請求項4】
前記吐出口の径は0.5mm以上であることを特徴とする請求項3記載の樹脂ファイバの製造方法。
【請求項5】
高圧ガス流で熱可塑性樹脂を延伸させる極細長繊維である樹脂ファイバの製造装置であって、
バレル内のスクリューで樹脂を溶融させながら前記バレル先端のノズルから溶融樹脂を押し出す押出機と、
前記ノズルの先端に取り付けられたノズルヘッドと、を含み、
前記ノズルヘッドは、略鉛直なフェイス面に、
前記溶融樹脂を押し出す吐出口と、
前記吐出口近傍にあって略水平にガス流を形成する高圧ガス噴出口と、を一対として、複数対を与えられ、
前記吐出口内部の前記溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させるよう、前記高圧ガス噴出口を前記吐出口近傍に位置させるとともに前記吐出口の径を0.5mm以上としたことを特徴とする樹脂ファイバの製造装置。
【請求項6】
前記複数対は水平線に沿って前記フェイス面に与えられていることを特徴とする請求項5記載の樹脂ファイバの製造装置。
【請求項7】
前記複数対の前記高圧ガス噴出口はそれぞれの軸線を噴出方向に向けて互いに扇状に広がるように設けられていることを特徴とする請求項6記載の樹脂ファイバの製造装置。
【請求項8】
高圧ガス流で熱可塑性樹脂を延伸させる極細長繊維である樹脂ファイバの製造装置において、バレル内のスクリューで樹脂を溶融させながら前記バレル先端のノズルから溶融樹脂を押し出す押出機に用いられ、前記ノズルの先端に取り付けられるノズルヘッドであって、
前記製造装置に取り付けられたときに略鉛直となるフェイス面に、
前記溶融樹脂を押し出す吐出口と、
前記吐出口近傍にあって略水平にガス流を形成する高圧ガス噴出口と、を一対として、複数対を与えられ、
前記吐出口内部の前記溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させるよう、前記高圧ガス噴出口を前記吐出口近傍に位置させるとともに前記吐出口の径を0.5mm以上としたことを特徴とするノズルヘッド。
【請求項9】
前記製造装置に取り付けられたときに前記複数対が水平線に沿うように前記フェイス面に与えられていることを特徴とする請求項8記載のノズルヘッド。
【請求項10】
前記複数対の前記高圧ガス噴出口はそれぞれの軸線を噴出方向に向けて互いに扇状に広がるように設けられていることを特徴とする請求項9記載のノズルヘッド。」

2.取消理由の概要
本件発明1?10のそれぞれに係る特許に対して、上記平成30年3月22日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。本件取消理由の通知により、本件特許異議の申立てに係る全ての申立て理由が通知された。なお、申立人が提出した証拠である甲第1号証等を、以下「甲1」等という。甲1等に記載された発明あるいは事項を、それぞれ、「甲1発明」あるいは「甲1事項」等という。

【理由1】(進歩性) 本件特許の以下の請求項に係る発明は、本件特許に係る出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

(1)本件発明1及び2について
本件発明1及び2は、甲1発明から容易想到である。

(2)本件発明1及び2について
本件発明1及び2は、甲1発明、甲3事項及び甲4事項から容易想到である。

(3)本件発明1及び2について
本件発明1及び2は、甲2発明、甲3事項及び甲4事項から容易想到である。

(4)本件発明1及び2について
本件発明1及び2は、甲4発明から容易想到である。

(5)本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、甲1発明から容易想到である。

(6)本件発明5?10について
本件発明5?10は、甲2発明及び甲1事項から容易想到である。

【理由2】(サポート要件) 本件特許の特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本件特許明細書の段落【0026】の記載等によれば、本件特許の請求項1?4の各々に記載されている「負圧」を発生させるためには、ガス噴出口を吐出口の近傍に設置するだけでよいと解される。そうすると、そのようにして生じる「負圧」を含み得る本件特許の請求項1?4で特定される範囲にまで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

【理由3】 (明確性) 本件特許の特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(1)上記【理由2】に示した、ガス噴出口を吐出口の近傍に設置するだけで生じるような「負圧」を特定事項として包含する請求項1?4に係る発明は、明確ではない。

(2)本件特許の請求項5?10は、「近傍」を特定事項として包含するが、「近傍」という用語の意義は、明確であるとはいえない。

<刊 行 物 一 覧>
甲1:特許第5946569号公報
甲2:特開2016-23399号公報
甲3:特開平1-221521号公報
甲4:特開平1-221520号公報

3.当審の判断
3-1.【理由1】(進歩性)について
(1)刊行物に記載された発明・事項

ア.甲1
甲1の【請求項1】、【請求項6】、【0010】?【0017】、【0037】?【0040】、【図1】、【図2】、【図9】の記載及び図示から、甲1には、次の甲1発明が記載されている。

甲1発明:「熱風ガスで溶融樹脂を延伸させる極細繊維の製造方法であって、
溶融樹脂が押し出される液ノズル22、72の吐出口に近接して設けた熱風ノズル24、74の吐出口からの熱風ガスが前記溶融樹脂を延伸させる、
極細繊維の製造方法。」

イ.甲2
甲2の【請求項1】、【請求項5】、【0013】、【0035】?【0037】、【0039】?【0041】、【0043】?【0045】、【0058】、【図1】?【図5】の記載及び図示から、甲2には、次の甲2-1発明、甲2-2発明及び甲2-3発明が、それぞれ記載されている。

甲2-1発明:「エアの流れで熱可塑性樹脂を延伸させるナノファイバーの製造方法であって、
単一エア噴射口44からのエアの流れが熱可塑性樹脂噴射口42から噴射される前記溶融状態の熱可塑性樹脂を延伸させる、
ナノファイバーの製造方法。」

甲2-2発明:「エアの流れで熱可塑性樹脂を延伸させるナノファイバー製造装置10であって、
バレル内の螺旋状スクリュー30で熱可塑性樹脂を溶融させながら前記バレル先端のナノファイバー形成用噴射ノズルから溶融樹脂を押し出す熱可塑性樹脂供給部14と、
前記ナノファイバー形成用噴射ノズルの先端に取り付けられたナノファイバー形成用噴射ノズルヘッド12と、を含み、
前記ナノファイバー形成用噴射ノズルヘッド12は、略鉛直な端面54Aに、
前記溶融樹脂を押し出す熱可塑性樹脂噴射口42と、
略水平にエア流れを形成する単一エア噴射口44の末広ノズル48の最拡径開口部50とを、
熱可塑性樹脂噴射口42が、単一エア噴射口44のまわりに、単一エア噴射口44から噴射方向下流側となるように与えられ、
前記熱可塑性樹脂噴射口42の径を0.4mmとした、
ナノファーイバー製造装置10。」

甲2-3発明:「エアの流れで熱可塑性樹脂を延伸させるナノファイバー製造装置10において、バレル内の螺旋状スクリュー30で熱可塑性樹脂を溶融させながら前記バレル先端のナノファイバー形成用噴射ノズルから溶融樹脂を押し出す熱可塑性樹脂供給部14に用いられ、前記ナノファイバー形成用噴射ノズルの先端に取り付けられるナノファイバー形成用噴射ノズルヘッド12であって、
前記ナノファイバー製造装置10に取り付けられたときに略鉛直となる端面54Aに、
前記溶融樹脂を押し出す熱可塑性樹脂噴射口42と、
略水平にエア流れを形成する単一エア噴射口44の末広ノズル48の最拡径開口部50とを、
熱可塑性樹脂噴射口42が、単一エア噴射口44のまわりに、単一エア噴射口44から噴射方向下流側となるように、与えられ、
前記熱可塑性樹脂噴射口42の径を0.4mmとした、
ナノファイバー形成用噴射ノズルヘッド12。」

ウ.甲3
甲3の1ページ左欄5?9行、2ページ左下欄13?20行、3ページ右上欄17行?左下欄最下行の記載から、甲3には、次の事項が記載されている。

「紡糸口金は、ピッチを流さずに、紡糸条件の温度圧力の気体のみを流して運転したとき、ピッチの流路に負圧を生じるようにしたピッチの紡糸方法。」

エ.甲4
甲4の1ページ左欄5?11行、同欄13?17行、2ページ右上欄19行?左下欄14行、2ページ左下欄最下行?右下欄7行、2ページ右下欄最下行?3ページ左下欄15行の記載から、甲4には、次の甲4発明が記載されている。

甲4発明:「1.5kg/cm^(2)Gの加熱空気で石油系ピッチを牽引し繊維径の85%が5?8μmの間に収まる炭素繊維の製造方法であって、
溶融ピッチが吐出されるピッチ吐出用管状ノズルの吐出口周辺から噴出する加熱空気を、ピッチ供給側での該溶融ピッチを吐出させなかったときの圧力が、水柱540mmの負圧となるものを用いて、ピッチ供給側の溶融ピッチをその外部に牽引しながら空中に放出させる、
炭素繊維の製造方法。」

(2)【理由1】(1)(本件発明1及び2は、甲1発明から容易想到である。)についての判断
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも次の相違点1において相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「溶融樹脂が押し出される吐出口近傍に設けた高圧ガス噴出口からのガス流が前記吐出口に負圧を与えて前記吐出口内部の前記溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させる」樹脂ファイバの製造方法であるのに対し、甲1発明の熱風ノズル24、74の吐出口からの熱風ガスが、溶融樹脂が押し出される液ノズル22、72に、溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させる負圧を与えるものであるか、明らかではない点。

(イ)相違点1についての判断
甲1には、液ノズル22、72に対して、熱風ノズル24、74の吐出口からの熱風ガスによって、溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させることを可能とするような負圧を与えることの記載はないし、示唆する記載もない。
また、熱風ガスによって、液ノズル22、72に対して上記のような負圧を生じせしめようとすれば、そのようにしない場合に比して、より多くの風量が必要となるところ、甲1の段落【0006】の「・・・本発明は、前記問題点に鑑みなされたものであり、少ない熱風ガスの量であっても溶融樹脂を安定して微細な繊維に防止することができ、かつ、小型化や軽量化が容易で製造コストを抑制できるメルトブロー用口金及び極細繊維製造装置を提供することを目的とする。」との記載から、甲1発明は、熱風ガスの量を削減しようとするものであり、液ノズル22、72に対して上記のような負圧を生じせしめることに阻害事由が存在するといえる。
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る構成を備えたことで、「・・・ガス流による負圧で溶融樹脂を引き出し極細長繊維に延伸させるが、樹脂の押し出し量に対応させてガス流を調整するだけで操業が安定し、高い操業性を得られ、押し出し量を増やすことも容易であるから、高い操業性をもって生産量をさらに大きく高めることができる。」(本件特許明細書 【0010】)との格別な作用効果を奏する。
したがって、甲1発明を、上記相違点1における本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものである。そうすると、上記ア.に示したように、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1のすべての特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明2も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小活
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(3)【理由1】(2)(本件発明1及び2は、甲1発明、甲3事項及び甲4事項から容易想到である。)について
ア.本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも上記(2)ア.(ア)に示した相違点1において相違する。
そして、上記(2)ア.(イ)に示したように、甲1には、液ノズル22、72に対して、熱風ノズル24、74の吐出口からの熱風ガスによって、負圧を与えることの記載はないし、示唆する記載もない。むしろ、液ノズル22、72に対して負圧を生じせしめることに阻害事由が存在するといえ、相違点1に係る構成を備えたことで、上記(2)ア.(イ)に示した格別な作用効果を奏する。
また、甲3及び甲4には、「加熱空気」を「ピッチ供給側での該溶融ピッチを吐出させなかったときの圧力が水柱540mmの負圧と」するものが記載されているが、当該「加熱空気」が牽引するものは、「石油系ピッチ」であって、甲3及び4に記載されたものは、「・・・ピッチをメルトブロー紡糸する際に、ショットが多発する問題点」(甲3 2ページ左下欄1?2行、甲4 2ページ右上最下行?左下欄1行)を解決しようとするものであるから、上記甲3及び甲4に記載された構成を、溶融樹脂を延伸させることによる極細繊維の製造方法である甲1発明に適用することの動機付けが存在するとはいえないし、むしろ、上記(2)ア.(イ)に示したように、そうすることの阻害事由が存在するといえる。
よって、甲1発明に甲3事項及び甲4事項を適用して、上記相違点1における本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、甲3事項及び甲4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものである。そうすると、上記ア.に示したように、本件発明1は、甲1発明、甲3事項及び甲4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1のすべての特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明2も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小活
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、甲1発明、甲3事項、及び、甲4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(4)【理由1】(3)(本件発明1及び2は、甲2発明、甲3事項及び甲4事項から容易想到である。 )について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2-1発明とを対比すると、少なくとも次の<相違点2>において相違する。

<相違点2>
本件発明1の樹脂ファイバの製造方法は、溶融樹脂が押し出される吐出口近傍に設けた高圧ガス噴出口からのガス流が前記吐出口に負圧を与えて前記吐出口内部の前記溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させる」ものであるのに対し、甲2-1発明のナノファイバーの製造方法は、単一エア噴射口44からのエアの流れが、熱可塑性樹脂噴射口42に対して負圧を与えて、前記、熱可塑性樹脂噴射口42内部の溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させるものであるか、明らかではない点。

(イ)相違点2についての判断
甲2には、高圧ガス噴出口からのエアの流れによって、熱可塑性樹脂噴射口42に対して負圧を与えて、熱可塑性樹脂噴射口42内部の溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させることの記載はないし、示唆する記載もない。そして、当該エアの流れは、「・・・熱可塑性樹脂の流れを巻き込むように、熱可塑性樹脂の噴射速度より高い噴射速度で、熱可塑性樹脂の噴射方向と同じ向きに平行に、熱可塑性樹脂の溶融温度より高い温度に加熱したエアを噴射し、それにより、噴射方向に沿って、高速の中心流れ領域と、そのまわりの、中心流れ領域より低速の周辺流れ領域とが生じ、溶融状態に維持された糸状の熱可塑性樹脂が、周辺流れ領域の外側周辺から中心流れ領域に向かって徐々に巻き込まれることにより、延伸化され、空中で生成したナノファイバーを受け止めて捕集する。」(甲2 【0052】)、及び、「・・・このようにして、溶融状態に維持された糸状の熱可塑性樹脂の流れが徐々に段階的に延伸化されて、空中で絡み合いながら捕集部50まで進むことにより、従来のように、熱可塑性樹脂の流れが急激に延伸化されることにより、短繊維化あるいは粒子化するのを有効に防止することが可能となる。」(甲2 【0058】)との記載から、甲2発明は、熱可塑性樹脂に対して、エアの流れによる単繊維化や粒子化を防止するために、熱可塑性樹脂を加熱して噴射されたエアの周辺流れ領域から徐々に中心流れ領域に向かうようにしたものであるから、熱可塑性樹脂噴射口42に対して、溶融樹脂を外部に引き出すほどの負圧を与えることの、動機付けはないし、むしろ阻害事由が存在するというべきである。
さらに、上記(3)ア.に示したように、甲3及び甲4に記載されたものは、「ピッチ供給側での該溶融ピッチを吐出させなかったときの圧力が水柱540mmの負圧となる」ような加熱空気を噴射することが記載されているが、当該構成を、熱可塑性樹脂を延伸させるナノファイバーの製造方法である甲2発明に適用することの動機付けが存在するとはいえないし、むしろ、上記に示したように、そうすることの阻害事由が存在するといえる。
そして、本件発明1は、上記相違点2に係る構成を備えたことで、上記(2)ア.(イ)に示した格別な作用効果を奏する。
したがって、甲2発明を、上記相違点2における本件発明1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明、甲3事項及び甲4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものである。そうすると、上記ア.に示したように、本件発明1は、甲2発明、甲3事項及び甲4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1のすべての特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明2も、甲2発明、甲3事項及び甲4事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小活
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、甲2発明、甲3事項及び甲4事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(5)【理由1】(4)(本件発明1及び2は、甲4発明から容易想到である。)について
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、少なくとも次の<相違点3>において相違する。

<相違点3>
本件発明1は、樹脂ファイバの製造方法であって、高圧ガス流で熱可塑性樹脂を延伸する極細繊維である樹脂ファイバの製造方法であるのに対し、甲4発明は、炭素繊維の製造方法であって、1.5kg/cm^(2)Gの加熱空気で石油系ピッチを牽引する、炭素繊維の製造方法である点。

(イ)相違点3についての判断
上記(3)ア.に示したように、甲4に記載されたものは、「・・・ピッチをメルトブロー紡糸する際に、ショットが多発する問題点」を解決するためのものである。そして、甲4には、極細繊維である樹脂ファイバを高圧ガス流で延伸させることの記載はないし、示唆する記載もない。
そして、本件発明1は、上記相違点3に係る構成を備えたことで、上記(2)ア.(イ)に示した格別な作用効果を奏する。
そうすると、甲4の記載に接した当業者が甲4発明を、炭素繊維ではなく極細繊維である樹脂ファイバを高圧ガス流で延伸させて製造するために用いることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものである。そうすると、上記ア.に示したように、本件発明1は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1のすべての特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明2も、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.小括
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(6)【理由1】(5)(本件発明3及び4は、甲1発明から容易想到である。)について
ア.本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明1を引用するものである。そうすると、上記(2)に示したように、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1のすべての特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明3及び4も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.小括
以上のとおりであるから、本件発明3及び4は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(7)【理由1】(6)(本件発明5?10は、甲2発明及び甲1事項から容易想到である。 )
ア.本件発明5について
(ア)対比
本件発明5と甲2-2発明とを対比すると、少なくとも次の<相違点4>において相違する。

<相違点4>
本件発明5の樹脂ファイバの製造装置は、前記吐出口内部の溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させるよう、前記高圧ガス噴出口を前記吐出口近傍に位置させるものであるのに対し、甲2-2発明のナノファイバー製造装置10の、単一エア噴射口44の最拡径開口部50を設ける位置が、熱可塑性樹脂噴射口42との関係で、そのようなものであるか明らかではない点。

(イ)相違点4についての判断
甲2及び甲1には、エアが熱可塑性樹脂噴射口4内部の溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させるよう、熱可塑性樹脂噴射口4を最拡径開口部50近傍に位置させることの記載はないし、示唆する記載もない。上記(4)ア.(イ)に示したように、甲2発明には、熱可塑性樹脂噴射口42に対して、溶融樹脂を外部に引き出すほどの負圧を与えることの動機付けはないし、むしろ阻害事由が存在するというべきである。
そして、本件発明5は、上記相違点4に係る構成を備えたことで、上記(2)ア.(イ)に示した格別な作用効果を奏する。
したがって甲2発明を、上記相違点4における本件発明5に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明5は、甲2発明、甲1事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ.本件発明6及び7について
本件発明6及び7は、本件発明5を引用するものである。そうすると、上記ア.に示したように、本件発明5は、甲2発明及び甲1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明5のすべての特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明6及び7も、甲2発明及び甲1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明8について
(ア)対比
本件発明8と甲2-3発明とを対比すると、少なくとも次の<相違点5>において相違する。

<相違点5>
本件発明8のノズルヘッドは、前記吐出口内部の溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させるよう、前記高圧ガス噴出口を前記吐出口近傍に位置させるものであるのに対し、甲2-3発明のナノファイバー形成噴射ノズルヘッド12の、単一エア噴射口44の最拡径開口部50を設ける位置が、熱可塑性樹脂噴射口42との関係で、そのようなものであるか明らかではない点。

(イ)相違点5についての判断
上記相違点4と相違点5とは、それぞれ樹脂ファイバの製造装置及びノズルヘッドについての同じ技術的事項に関する相違点である。
そうすると、相違点4は、上記ア.に示したように、甲2発明、甲1事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、相違点5についても、同様に、甲2発明、甲1事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
以上のとおりであるから、本件発明8は、甲2発明、甲1事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.本件発明9及び10について
本件発明9及び10は、本件発明8を引用するものである。そうすると、上記ウ.に示したように、本件発明8は、甲2発明及び甲1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明8のすべての特定事項を備え、さらに別の発明特定事項が付加されて技術的に限定された本件発明9及び10も、甲2発明及び甲1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ.小括
以上のとおりであるから、本件発明5?10は、甲2発明及び甲1事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

(8)【理由1】についてのむすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、甲1発明から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲1発明、甲3事項及び甲4事項から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲2発明、甲3事項及び甲4事項から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲4発明から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。また、本件発明3及び4は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。さらに、本件発明5?10は、甲2発明及び甲1事項から当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件発明1?10のそれぞれに係る特許は、特許法第113条第2号に該当することを理由として取り消すことはできない。

3-2.【理由2】(サポート要件)
(1)本件特許明細書の記載から、熱可塑性樹脂を延伸させる極細長繊維の製造方法では、樹脂を延伸することでその径を小さくしているところ、かかる樹脂の延伸工程を安定制御することで高い操業性をもって生産量を高めることができるが、本件発明は、高い操業性をもって生産量を更に大きく高めることができる樹脂ファイバの製造方法、これに用いられるノズルヘッド及び製造装置を提供することを、課題とするものである。(【0007】及び【0008】)

(2)そして、本件発明1は、「溶融樹脂が押し出される吐出口近傍に設けた高圧ガス噴出口」からの「ガス流」が「吐出口」に「負圧」を与えるものであり、当該「負圧」は、本件発明1に特定された「吐出口内部の前記溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させる」ことが可能な程度のものである。そして、そのような「負圧」を与えることで、「・・・ガス流による負圧で溶融樹脂を引き出し極細長繊維に延伸させるが、樹脂の押し出し量に対応させてガス流を調整するだけで操業が安定し、高い操業性を得られ、押し出し量を増やすことも容易であるから、高い操業性をもって生産量をさらに大きく高めることができる。」(本件特許明細書 【0010】)との格別な作用効果を奏し、ひいては上記(1)の本件発明の課題を解決することが理解できる。
そうすると、本件発明1は、当業者が上記本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明1及び当該本件発明1を引用する本件発明2?4は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の範囲に記載された発明であるといえる。

(3)なお、申立人は、「本件特許明細書の段落【0026】に記載等によれば、本件特許の請求項1?4の各々に特定されている「負圧」を発生させるためには、ガス噴出口を吐出口の近傍に設置するだけでよいと解される」(申立書 17ページのエ)旨主張している。しかし、本件特許明細書の段落【0026】の「ガス噴出口13は、上記したように吐出口12の近傍に配置される。特に、ガス噴出口13は、形成されるガス流の生じる負圧によって吐出口12の内部から溶融した樹脂を外部に引き出し、延伸させながら空中に放出させることのできるように吐出口12に近接して配置される。また、吐出口12は、溶融した樹脂の流動抵抗を低下させて、ガス流による負圧によって内部から樹脂を引き出されるよう、その内径を定められる。溶融した樹脂の流動抵抗は内径を大とするほど低下する。例えば、吐出口12の出口部分(フェイス部11の表面近傍)の内径は0.5mm以上であることが好ましい。本実施例においては、吐出口12の内径を1.0mm、ガス噴出口13の内径を1.5mm、互いの中心の距離を1.75mmとしている。」との記載から、「ガス噴出口」を単に「吐出口」の近傍に配置するだけで、上記の「吐出口12の内部から溶融した樹脂を外部に引き出し、延伸させながら空中に放出させることのできる」ような「負圧」が発生すると解することはできず、むしろ、溶融した樹脂の流動抵抗を勘案しつつ吐出口の内径、ガス噴出口の内径及び両口の中心の距離を定めなければならない旨の技術的思想が記載されていると理解できる。

(4)【理由2】についてのむすび
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合しないとはいえないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由として取り消すことはできない。

3-3.【理由3】(明確性)
(1)【理由3】(1)
上記3-2(2)に示したように、本件特許の請求項1に記載された「負圧」は、上記【理由2】の「ガス噴出口を吐出口の近傍に設置するだけでよい」ものではない。そして、本件特許の請求項1に記載された「負圧」は、「吐出口内部の前記溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させる」ものであって、上記3-2(2)に示したように、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件特許の請求項1及び請求項1を引用する請求項2?4の記載は第三者の利益を不当に害するほどに不明確であるとはいえない。

(2)【理由3】(2)
本件特許の請求項5及び8には、いずれも以下の事項が記載されている。
「前記吐出口内部の前記溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させるよう、前記高圧ガス噴出口を前記吐出口近傍に位置させるとともに」
ここで、気体が噴出する口部から近くの領域、すなわち、近傍において、負圧が生じることは技術常識であるところ、上記請求項5及び8の記載は、そのように生じた負圧が、「前記吐出口内部の前記溶融樹脂をその外部に引き出し延伸させながら空中に放出させる」程度のものとなるような、「近傍」であることが理解できる。
そして、上記点は、本件特許明細書の「ガス噴出口13は、上記したように吐出口12の近傍に配置される。特に、ガス噴出口13は、形成されるガス流の生じる負圧によって吐出口12の内部から溶融した樹脂を外部に引き出し、延伸させながら空中に放出させることのできるように吐出口12に近接して配置される」(【0026】)との記載とも整合する。
よって、本件特許の請求項5及び請求項5を引用する請求項6及び7、並びに、請求項8及び請求項8を引用する請求項9及び10の記載は、第三者の利益を不当に害するほど不明確であるとはいえない。

(3)【理由3】についてのむすび
以上のとおりであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?10の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないとはいえないから、本件発明1?10に係る特許は、特許法第113条第4号に該当することを理由として取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1?10に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件発明1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-31 
出願番号 特願2016-221401(P2016-221401)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D01D)
P 1 651・ 537- Y (D01D)
P 1 651・ 536- Y (D01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 阪▲崎▼ 裕美平井 裕彰  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 久保 克彦
竹下 晋司
登録日 2017-07-07 
登録番号 特許第6171072号(P6171072)
権利者 関西電子株式会社
発明の名称 樹脂ファイバの製造方法、これに用いられるノズルヘッド及び製造装置  
代理人 特許業務法人むつきパートナーズ  
代理人 入澤 直志  
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