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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1343034 |
異議申立番号 | 異議2018-700357 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-04-27 |
確定日 | 2018-08-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6225270号発明「粒度調整された炭酸ランタン水和物からなる医薬」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6225270号の請求項1?4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6225270号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成26年11月18日(優先権主張 2014年10月2日)に特許出願され、平成29年10月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 成田隆臣により特許異議の申立てがされたものである。 2.本件特許発明 特許第6225270号の請求項1?4に係る特許(以下、請求項順にそれぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明4」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 90%積算径(D90)が70μm以下である、La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)O(式中、xは7?9の間の数字を示す。)で表される炭酸ランタン水和物からなる、高リン血症を治療するための医薬(ただし、懸濁剤を除く)。 【請求項2】 D90が2?65μmである、請求項1に記載の医薬。 【請求項3】 0.75min^(-1)以上のリン酸結合速度定数k_(1)を有する、La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)O(式中、xは7?9の間の数字を示す。)で表される炭酸ランタン水和物からなる、請求項1又は2に記載の医薬。 【請求項4】 口腔内崩壊錠、チュアブル剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤である、請求項1?3のいずれかに記載の医薬。」 3.申立理由の概要 特許異議申立人 成田隆臣は、 主たる証拠として 甲1号証:米国特許出願公開第2011/0020456号明細書 従たる証拠として 甲2号証:特許第3224544号公報 甲3号証:「高リン血症治療剤 ホスレノール(R)(原文では○の中にR ) チュアブル錠250mg、500mg」医薬品インタビュ ーフォーム、2011年1月、表紙?第11頁 甲4号証:米国特許出願公開2013/0302383号明細書 甲5号証:田中祥之(沢井製薬株式会社生物研究部生化学G)、「炭酸ラ ンタン-リン除去能に関する試験」、2016年5月27日 甲6号証:The EFSA Journal、2007、542、p.1?15 甲7号証:医療薬学、2011、37(1)、p.63?68 の写しを提出し、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである旨主張している。 4.甲1号証の記載事項及び甲1号証に記載された発明 (1)甲1号証の記載事項 甲1号証には、以下(a)?(l)の記載がある。当審による訳文で示す。なお、「ホスレノール(R)」における「(R)」は、原文では○の中にRと記載されている。 (a)「[0001]本発明は、炭酸ランタンを含有する固体経口医薬組成物及びその製造方法に関する。 [0002]経口摂取は、薬物投与に使用される主要な経路の一つである。この経路は、局所効果及び全身効果の両方を効果的に達成する便利な方法を提供する。ランタンはその特性により、リン酸塩バインダーとして優れた候補である。ランタンはリンとの結合に高い親和性を有し、炭酸塩の形態では溶解度が低く、胃腸での吸収が制限される。胃の中では、塩酸の存在下で、投与された炭酸ランタンの一部が二酸化炭素を放出して、溶解性の高い可溶性の塩化物に変換される。 [0003]商業的に利用できるランタンの組成物はチュアブル錠であり、ホスレノール(R)の商品名で、500mg、750mg及び1000mg剤が市販されている。 [0004]ホスレノール(R)は、高度に不溶性のリン酸ランタン錯体を形成することによってリン酸塩の吸収を阻害し、結果として血清リン酸及びリン酸カルシウム生成物の両方を還元する。インビトロ研究は、胃液と生理学的に関連するpH範囲3?5において、ランタンがリン酸塩に対して2倍モル過剰で存在する場合に利用可能なリン酸塩の約97%に結合することを示した。 [0005]安定な医薬組成物は、組成物の製造と患者によるその使用との間に活性医薬成分の実質的な分解を示さない。炭酸ランタン及び他の多くの薬剤は、活性医薬成分が水又は水分の存在下で急速に分解するため、不安定性の問題を抱えている。炭酸ランタン組成物は、分解して水酸化炭酸ランタンを形成する傾向がある。 [0006]味及び「口当たり」は、高用量の不溶性薬物を処方する際に、特に組成物がチュアブル製剤であることが意図される場合、非常に重要な因子である。不溶性材料は、通常、これらの材料の粉っぽさ、ざらつき、及び乾燥特性のために、不快な口当たり及び味わいづらい味の両方を有する。 [0007]錠剤配合物は、打錠前に乾式混合、乾式造粒又は湿式造粒することができることが知られている。処理手順、すなわち.(乾式混合、乾式造粒、湿式造粒)の選択は、薬剤の特性及び選択された賦形剤に依存する。一般に、乾式製造プロセスは、感湿性薬剤にとって好ましいと考えられる。」(段落[0001]?[0007]) (b)「[0021]本発明の目的は、炭酸ランタン1分子当たり6分子超、好ましくは8分子の水を有する炭酸ランタンの安定な医薬組成物、及び湿式造粒技術により調製された薬学的に許容される希釈剤/担体を提供することである。この組成物は安定剤として単糖類及び/又は二糖類を欠いている。 [0022]本発明の別の目的は、好ましくは組成物の65重量%を超える高薬物負荷量を有する8水和物形態の炭酸ランタンの安定な医薬組成物を提供することである。 [0023]本発明の別の目的は、使用される炭酸ランタンがd(0.9)が110ミクロン以下、好ましくは80ミクロン以下であるような粒径分布を有する、炭酸ランタンを含む安定な医薬組成物を提供することである。」(段落[0021]?[0023]) (c)「[0029]別の実施形態において、本発明は、本明細書中に記載される本発明に従って調製された組成物を投与することを含む、・・・慢性腎不全の患者における高リン酸塩血症を処置する方法に関する。」(段落[0029]) (d)「[0030]本発明は安定な炭酸ランタン組成物及びその製造方法を提供する。一態様では、本発明は、a)高水和状態の炭酸ランタン;b)少なくとも1種の薬学的に許容される担体又は希釈剤であって、担体又は希釈剤が単糖又は二糖類を含まず、市販のブランドのホスレノール(R)と比較して同等以上のインビトロリン酸塩結合能力を示す。 [0031]本発明の好ましい実施形態は、d(0.9)が110ミクロン未満、好ましくは80ミクロン未満であるような粒子サイズを有し、組成物の65重量%超を構成する8水和物形態の薬物を含み、担体/希釈剤が単糖類又は二糖類を含まない炭酸ランタン組成物である。好ましい実施形態のさらなる態様は、組成物を製造するための湿式造粒技術の使用を想定する。」 (e)「[0039]図3:実施例7と実施例8の組成物の比較溶解。 ・・・ [0043]得られた放出曲線は、約250ミクロンのd(0.9)を有する炭酸ランタンを含むチュアブル錠が、105ミクロン以下のd(0.9)を有する炭酸ランタンを含む錠剤より比較的ゆっくり溶解することを示す。」(段落[0039]、[0043]) (f)「[0044]ジェネリック薬品の製造業者は、イノベーター薬剤組成物のものと同様のインビトロ及びインビボプロファイルを示す組成物を作製するために絶えず努力している。本発明者らは、高水和状態の炭酸ランタンを含むが、低水和状態の炭酸ランタンを含有する市販のブランドホスレノール(R)に匹敵するインビトロリン酸結合能力を有するランタン組成物を処方した。インビトロでのリン酸結合は、本発明の組成物がホスレノール(R)と同等又はそれ以上のリン酸結合能力を有することを示した。 [0045]本発明は、このような組成物を得るための処方物及び方法に関する。本発明の製剤中に存在するランタン化合物の水和状態は、製品の生物学的特性に関連すること、また、水酸化炭酸塩形態への分解の可能性に関連することに留意すべきである。先行技術は、最適なリン酸塩結合を得るためには、炭酸ランタンを含有する組成物は、ランタンを好ましくは低水和状態にしなければならないことを勧告する。 [0046]本発明者らは、粉っぽさ、ざらつき、及び乾燥特性に起因する不快な口当たり及び味わいにくい味を克服するために、粒度d(0.9)が110ミクロン以下、好ましくは80ミクロン以下の炭酸ランタンを採用した。炭酸ランタンの粒度分布はMalvern分析装置を用いて測定した。」(段落[0044]?[0046]) (g)「実施例5 [0095] Sr番号 単位重量(mg) 成分 1000mg 顆粒内 1 炭酸ランタン8水和物 2166.30 2 グリシン 53.00 3 アビセルCE15 71.00 4 HPC-EXF 64.00 5 スクラロース 1.53 6 アセスルファムカリウム 31.00 7 アンモニア化グリチルリチン 0.13 8 粉末セルロース 151.10 9 カルボキシメチルセルロースナトリウム 42.00 10 Prosolv SMCC 90 53.00 11 Aerosil pharma 200P 26.00 12 ステアリン酸 180.00 顆粒外 13 ステアリン酸マグネシウム 18.00 14 アビセルpH102 309.00 15 タルク 18.00 錠剤の総重量 3184.00 製造方法: [0096]1.炭酸ランタン8水和物は顆粒内賦形剤と混合し、篩♯30を備えた篩を通して篩分けした。 [0097]2.工程1の混合物をRMGに装填し、10分間混合した。 [0098]3.結合剤溶液の調製:ヒドロキシプロピルセルロースを、連続攪拌下、精製水に添加し、透明な溶液を得る。 [0099]4.工程2は、RMG中の工程3の結合剤溶液を用いて造粒し、粉末混合物の湿潤塊を得る。 [0100]5.工程4の湿潤塊を篩♯16を備えた篩を通して篩分けした。 [0101]6.湿潤顆粒を充分な時間乾燥させて、60℃で2?4%の間のLODを得る。 [0102]7.工程6の乾燥させた顆粒を篩♯20を備えた篩を通して篩分けした。 [0103]8.工程7の顆粒混合物は、ビン型ブレンダーにおいて、顆粒外成分と10分間混合した。 [01014]9.工程8の混合物を、24mmの円形のパンチ及び対応ダイを使用して圧縮する。 ・・・ 実施例7 [0114] Sr番号 成分 mg/錠 1 炭酸ランタン 2166.3 d(0.9)は105ミクロン 2 アビセルCE15 88.67 3 ヒドロキシプロピルセルロース 30.0 4 アセスルファムK 30.00 5 微結晶セルロース(パートI) 173.208 6 微結晶セルロース(パートII) 259.812 7 コロイド状二酸化ケイ素 32.01 8 ステアリン酸マグネシウム 20.0 9 精製水 適量 錠剤の重量 2800.00 製造方法: [0115]1.全ての成分を適切なメッシュサイズを備えた機械的篩を通して篩分けした。 [0116]2.炭酸ランタン、アビセルCE15、アセスルファームK、コロイド状二酸化ケイ素及び微結晶性セルロース(パートI)等の成分を、高速混合造粒機に装填し、インペラ低速及びチョッパーオフで10分間乾式混合した。 [0117]3.結合剤溶液は、連続攪拌下、精製水にHPCを溶解して透明な溶液を得ることによって調製した。 [0118]4.工程2は、工程3の結合剤溶液を用いて、インペラ低速及びチョッパー低速で高速混合造粒機で10分間造粒した。 [0119]5.湿潤顆粒を所望のLODを達成するまで乾燥させ、適当なメッシュ幅を備えたQuadra共ミルを使用して粉砕した。 [0120]6.工程5の顆粒をビン型ブレンダー中でステアリン酸マグネシウム及び微結晶性セルロース(パートII)と10分間混合した。 [0121]7.工程6の潤滑化した混合物を、適当な装置を用いて圧縮した。 実施例8 [0122] Sr番号 成分 mg/錠 1 炭酸ランタン 2140.037 d(0.9)は250ミクロン 2 アビセルCE15 88.67 3 ヒドロキシプロピルセルロース 42.0 4 アセスルファムK 30.0 5 コロイド状二酸化ケイ素 32.0 6 微結晶セルロース(パートI) 122.0 7 微結晶セルロース(パートII) 325.0 8 ステアリン酸マグネシウム 20.0 9 精製水 適量 錠剤の重量 2799.7 製造方法: [0123]1.全ての成分を適切なメッシュサイズを備えた機械的篩を通して篩分けした。 [0124]2.炭酸ランタン、アビセルCE15、アセスルファームK、コロイド状二酸化ケイ素及び微結晶性セルロース(パートI)等の成分を、高速混合造粒機に装填し、インペラ低速及びチョッパーオフで10分間乾式混合した。 [0125]3.結合剤溶液は、連続攪拌下、精製水にHPCを溶解して透明な溶液を得ることによって調製した。 [0126]4.工程2は、工程3の結合剤溶液を用いて、インペラ低速及びチョッパー低速で高速混合造粒機で10分間造粒した。 [0127]5.湿潤顆粒を所望のLODを達成するまで乾燥させ、適当なメッシュ幅を備えたQuadra共ミルを使用して粉砕した。 [0128]6.工程5の顆粒をビン型ブレンダー中でステアリン酸マグネシウム及び微結晶性セルロース(パートII)と10分間混合した。 [0129]7.工程6の潤滑化した混合物を、適当な装置を用いて圧縮した。」(5頁右欄?6頁) (h)「リン酸塩結合試験: [0147]ホスレノール錠(R) 対 炭酸ランタン8水和物チュアブル錠 [0148]リン酸塩結合試験を、室温で100mMの(PO_(4))^(-3)溶液中で行った。・・・ [0150]試料を50mlのリン酸イオン溶液に添加した後10分間振盪し、pHは所望のpHに0.1N HCl又は1N NaOHの添加により調整した。 [0151]スラリーを機械的シェーカーを用いて2時間振とうし、次いで濾過した。 [0152]次に、濾液中に存在する(PO_(4))^(-3)の量に応じて段階的な色応答を生じさせるために試薬と複合体を作製することにより、リン酸結合を推定した(試薬はリン酸アンモニウム及びアスコルビン酸を使用した。)。 [0153]リン酸結合能力(mmol/g)は、溶液中の未反応リン酸を計算することによって決定した。 表1 実施例1とホスレノール錠(R)のリン酸塩結合比較試験結果 リン酸塩結合能力(mmol/g) バッチ番号 pH3 pH4.3 pH7 ホスレノール錠(R) 7.7 7.4 8.5 実施例5 7.9 8 8 」(段落[0147]?[0153]、表1) (i)「実施例7と実施例9(審決注:「実施例8」の誤記と認められる。以下同様)の比較溶出試験: [0154]溶解試験は、改良されたUSP III装置を10DPM、900mlのpH0.25N HClを用いて、37±0.5℃で行った。 [0155]実施例7:約105ミクロンの粒径分布d(0.9)を有する炭酸ランタンを含む配合物 [0156]実施例8:約250ミクロンの粒径分布d(0.9)を有する炭酸ランタンを含む配合物 表2 実施例7と実施例8の比較溶出試験の結果 溶解した炭酸ランタンの累積% 時間 実施例7の炭酸ランタンの平均 実施例9の炭酸ランタンの平均 (分) d(0.9)は105μm d(0.9)は250μm 10 0 0 15 38 20 20 56 42 30 70 61 45 85 78 60 95 92 90 100 100 120 102 101 」(段落[0154]?[0156]、表2) (j)「炭酸ランタンチュアブル錠の粉っぽさ、ざらつき及び乾燥特性の評価 [0157]12人の健康なヒトボランティアの選択されたパネルは、崩壊するまで口内に保持することにより炭酸ランタンチュアブル錠を味わい、0-5の範囲の知覚のスケールでランク付けするよう依頼された。 [0158]実施例7:約105ミクロンの粒径分布d(0.9)を有する炭酸ランタンを含む配合物 [0159]実施例8:約250ミクロンの粒径分布d(0.9)を有する炭酸ランタンを含む配合物 [0160]実施例9:炭酸ランタンを含まない配合物 表3 炭酸ランタンチュアブル錠の粉っぽさ、ざらつき及び乾燥特性の評価結果 配合物 ボランティアコード 実施例7 実施例8 実施例9(プラセボ) A B C A B C A B C 1 2 2 2 3 3 3 1 1 1 2 1 3 2 3 3 3 1 1 1 3 2 3 2 3 2 3 1 2 1 4 2 1 2 2 1 3 2 1 1 5 2 1 1 2 2 4 1 2 2 6 3 2 1 3 2 2 1 2 1 7 1 2 1 3 3 2 1 2 1 8 2 1 1 4 3 3 1 2 2 9 2 2 3 3 3 3 2 1 1 10 2 2 2 4 3 3 1 1 2 11 1 2 2 3 4 2 1 1 1 12 2 2 1 3 3 3 2 2 2 」(段落[0157]?[0160]、表3) (k)「特許請求の範囲 ・・・ 15.a)炭酸ランタンの分子1分子あたり6超分子の水を有する炭酸ランタン;及び b)薬学的に許容される希釈剤又は担体 を含み、前記希釈剤又は担体は単糖類又は二糖類を含まない、医薬組成物。 16.前記炭酸ランタンが8水和物である、請求項1に記載の組成物。 17.前記組成物が、前記組成物の全重量に対して60重量%を超える炭酸ランタン8水和物を含む、請求項2に記載の組成物。 ・・・ 19.前記炭酸ランタン8水和物が、110ミクロン以下の直径を有するような粒度分布を有する、請求項2に記載の組成物。 20.c)60重量%以上の炭酸ランタン8水和物;及び d)薬学的に許容される希釈剤又は担体であって、前記希釈剤又は担 体は単糖類又は二糖類を含まない、 を含み、湿式造粒法により製造される炭酸ランタン組成物。 ・・・ 23.前記炭酸ランタン8水和物が、110ミクロン以下の粒径分布を有する、請求項20に記載の組成物。」(特許請求の範囲) (l)「図3:実施例7と実施例8の比較溶出試験 時間(分) (縦軸は「溶出薬物の%」) 」(図3) (2)甲1号証に記載された発明 甲1号証は、摘示(a)の段落[0001]、(b)及び(k)に記載されるとおり、炭酸ランタン1分子当たり6分子超、好ましくは8分子の水を有する炭酸ランタンを含有する医薬組成物、特に湿式造粒法により製造される固体経口医薬組成物に関する特許文献である。 摘示(f)の段落[0044]には、高水和状態の炭酸ランタン塩を含有する上記医薬組成物が、低水和状態の炭酸ランタンを含有する市販のホスレノール(R)と同等又はそれ以上のリン酸結合能力を有することが記載され、摘示(c)には、上記医薬組成物が、腎不全患者の高リン酸塩血症を治療するために用いられることが記載されている。 そして、摘示(g)の実施例7には、湿式造粒法により製造された、d(0.9)が105ミクロンである炭酸ランタン、アビセルCE15、ヒドロキシプロピルセルロース、アセスルファムK、微結晶セルロース、コロイド状二酸化ケイ素及びステアリン酸マグネシウムを含有する錠剤が記載されている。 ここで、実施例7は、上記医薬組成物の実施例として記載されていることからみれば、上記「炭酸ランタン」は、その水和物数は明らかでないものの、高水和状態である6超水和物の形態であると認められる。 したがって、甲1号証には 「d(0.9)が105ミクロンである炭酸ランタン6超水和物、アビセルCE15、ヒドロキシプロピルセルロース、アセスルファムK、微結晶セルロース、コロイド状二酸化ケイ素及びステアリン酸マグネシウムを含有する、腎不全患者の高リン酸塩血症を治療するための錠剤」 の発明(以下「甲1発明」ともいう。)が記載されているといえる。 5.対比 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「d(0.9)」は、本件特許発明1における「90%積算径(D90)」に相当し、甲1発明における「腎不全患者の高リン酸塩血症」は、本件特許発明1における「高リン血症」に該当する。 また、甲1発明における「錠剤」は、懸濁剤ではないことから、本件特許発明1における「医薬(ただし、懸濁剤を除く)」に該当する。 そうすると、両者は、 「炭酸ランタン水和物からなる、高リン血症を治療するための医薬(ただし、懸濁剤を除く)。」 である点で一致し、 以下の点で相違する。 (相違点1) 炭酸ランタン水和物La_(2)(CO_(3))_(3)・xH_(2)Oの水和物数xが、本件特許発明1においては「7?9の間の数字」を示すのに対し、甲1発明においては6超である点 (相違点2) 炭酸ランタン水和物の90%積算径(D90)が、本件特許発明1においては「70μm以下」であるのに対し、甲1発明においては105μmである点 6.判断 (1)本件特許発明1について ア 相違点1について 甲1号証の摘示(b)には、高水和状態である炭酸ランタン6超水和物について、好ましくは8水和物であることが記載され、摘示(g)の実施例5では、炭酸ランタンとして8水和物のものが用いられていることからみれば、甲1発明における炭酸ランタンの6超水和物として炭酸ランタン8水和物を選択すること、すなわち、水和物数xとして8を選択することは、当業者が容易に想到し得ることである。 イ 相違点2について (ア)甲1号証の摘示(f)の段落[0046]には、粉っぽさ、ざらつき感及び乾燥特性に起因する不快な口当たり及び味わいにくい味を克服するために、炭酸ランタン水和物のd(0.9)、すなわち90%積算径(D90)を110μm以下、好ましくは80μm以下とすることが記載されている。 ここで、実施例の記載を検討すると、摘示(j)に、炭酸ランタン水和物のD90が上記の110μmより若干低い105μmである実施例7が、250μmである実施例8と比較して、粉っぽさ、ざらつき及び乾燥特性に優れることが具体的なデータにより示されるものの、上記D90が105μmより小さい範囲においても同様に、粒径が小さくなるにつれて上記特性が改善されると認識するに足る具体的な記載は見当たらない。 また、本件特許の優先日当時、炭酸ランタン水和物について、粒径が小さくなるほど粉っぽさ、ざらつき及び乾燥特性といった口当たりや味が改善するという技術常識が存在したともいえない。 そうすると、上記の摘示(f)の段落[0046]の記載により、甲1発明における炭酸ランタン6超水和物のD90を80μm以下とすることまでは示唆されるとしても、口当たりや味の改善を期待してさらに粒径を小さくし、上記D90を「70μm以下」とすることは、当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 (イ)次に、甲1号証の他の記載を検討するに、粒径に関しては、摘示(e)、(i)及び(l)に、上記D90が105μmである実施例7が、250μmである実施例8と比較して、溶出速度に優れることが具体的に示されているが、他に、粒径や溶出速度についての記載は見当たらない。 また、摘示(f)の段落[0044]及び(d)には、炭酸ランタン6超水和物を含有する医薬組成物が、低水和状態の炭酸ランタンを含有するホスレノール(R)と同等又はそれ以上のリン酸結合能力を有することが記載されるところ、摘示(g)には、実際に、炭酸ランタン8水和物を含む実施例5が、低水和状態の炭酸ランタンを含むホスレノール(R)と同等又はより高いリン酸結合能力を達成したことも具体的に記載されている。 これらによれば、甲1発明において、溶出速度やリン酸結合能力をさらに改善するという課題を当業者が認識するものとはいえないが、仮にこれらの改善を図ることが周知の課題であるとしても、そのために炭酸ランタン6超水和物の粒径を105μmより小さくし、「70μm以下」とすることは、甲1号証に記載も示唆もされていない。 この点につき、異議申立人は、「一般に、粒子径が小さければ、全体としての表面積が大きくなり、吸着や表面での結合反応が起こりやすくなることは、広く知られて」いる旨主張している。 しかし、炭酸ランタン水和物は水に溶けにくい難溶性薬物であるところ(甲第3号証の4頁1.(2)溶解性の項)、本件特許の優先日前において、難溶性薬物を微細化すると凝集しやすく、有効表面積がかえって小さくなる結果、溶解速度が遅くなることがあることは、広く認識されていたことである(特許異議申立書24頁下から4行目?25頁2行目で引用される、審査過程における平成29年9月11日付け意見書に添付された参考文献2(「最新薬剤学」第9版、廣川書店、平成19年9月25日、100頁)及び参考文献3(「医薬品の溶出」、地人書簡、昭和52年10月30日、104?111頁))。たとえば、当該参考文献3の104?108頁では、70?1000μm程度の粒径において、粒径が小さくなるにつれて溶解速度が低下する3つの具体例も示されており、これらの例では、実際に、粒径が小さくなるにつれて有効表面積も小さくなっていることがうかがえる。 そうすると、難溶性薬物において、粒径を小さくしても有効表面積が大きくならず、かえって小さくなることがあることは、一般に当業者に認識されていたといえ、また、有効表面積が小さくなれば、表面での吸着・結合反応も起こりにくくなるといえるところ、炭酸ランタンを含む難溶性薬物については、粒径が70?1000μm程度及びそれを下回る粒径を含む範囲において、上記主張が当てはまるものとはいえない。 以上のことから、甲1発明において、溶出速度やリン酸結合能力の向上を図るために、炭酸ランタン水和物のD90を105μmより小さくし、「70μm以下」とすることも、当業者が容易に想到し得ないものである。 (ウ)また、甲4号証について検討するに、甲4号証は、炭酸ランタン水和物の新たな液体経口製剤に関するものであって、液体懸濁剤における粒子サイズを検討するものであるから(段落[0001]、[0021]、[0043]?[0044])、湿式造粒法により製造される甲1発明とは、炭酸ランタン水和物の置かれる化学的、物理的環境も、その粒子サイズを調整するための手法も異なるものである。 さらに、甲4号証の各実施例における炭酸ランタンは、その水和物数が明記されないものの、従来技術の記載(段落[0010]?[0011])や、実施例11における比較例がホスレノール(R)であることからみれば、ホスレノール(R)に配合される低水和状態の炭酸ランタンであると解するのが自然であるといえる。 そうすると、当業者が、甲1発明において、炭酸ランタン6超水和物の粒径を検討するにあたり、甲4号証の記載を参照することはできず、仮に参照したとしても、上記炭酸ランタン6超水和物のD90を「70μm以下」とすることを容易に想到し得るものとはいえない。 (エ)さらに、甲2号証、甲3号証、甲5号証?甲7号証に記載された技術的事項を検討しても、甲1発明における炭酸ランタン6超水和物のD90を「70μm以下」とすることを、当業者が容易に想到し得るものではない。 ウ 効果について 本件特許明細書の試験例1及び2によれば、炭酸ランタン7.9水和物のD90が順に64.9、29.8、5.39μmである実施例1?3が、上記D90が99.9μmである比較例1と比較して、有意に向上したリン酸除去速度を示すことが確認できる。 ここで、比較例1におけるD90である99.9μmは、甲1発明におけるD90である105μmよりも小さい値であることから、本件特許発明1は、D90を「70μm以下」としたことにより、甲1発明よりも優れたリン酸除去効果を奏するものといえる。 そして、上記イ(イ)で説示したとおり、本件特許の優先日当時、炭酸ランタン水和物を含む難溶性薬物において、粒径を小さくするほどリン酸結合能力が上がるという技術常識が存在するとはいえないから、本件特許発明1の上記効果は、当業者が予想し得ない顕著な効果であると認められる。 エ 異議申立人の主張について 異議申立人は、審査過程での意見書における特許権者の主張はいずれも妥当でなく、甲1号証の発明から本件特許発明が容易に発明できたことを否定するに足るものではない旨主張しているので、以下、順に検討する。 (ア)A.特許3224544号と関連した主張について 特許3224544号は甲2号証に該当するものであり、甲2号証を主引例とする進歩性に関する主張は、甲1号証を主引例とする進歩性を検討する、上記イ及びウで説示した判断を左右するものではない。 なお、(ii)粒子径に基づく効果について、D90が70μmの点で臨界的な変化が生じていることを確認することはできない旨主張しているが、臨界的意義が認められるか否かによらず、本件特許発明1が当業者の予想を超える顕著な効果を奏することは、上記ウで説示したとおりである。 (イ)B.引用文献1を主引例とする場合の主張について a (意見書における主張)については、「難溶性薬物」は、厳密に、日本薬局方における「ほとんど溶けない」に該当するもののみを指す用語とはいえず、水などに溶けにくい薬物を一般に意味するものであるところ、甲3号証の4頁の記載によれば、pH3を含む広い範囲で炭酸ランタン水和物が水に溶けにくいことが確認できる。 そして、炭酸ランタン水和物について、「当業者は粒子径を小さくすると凝集が起こって、溶解速度が当然に遅くなるものと予想していた」とはいえないものの、難溶性薬物において、粒子径を小さくすると凝集しやすく、溶解速度が遅くなることがあるとの一般的な認識に照らせば、粒子径を小さくするほど溶解速度が速くなるとの技術常識が存在したとはいえないから、上記イで説示したとおり、甲1発明において、炭酸ランタン水和物のD90を「70μm以下」まで小さくすることを、当業者が容易に想起し得るものとはいえない。 また、異議申立人は、摘示(f)の段落[0046]の記載について、「仮に炭酸ランタンが凝集するのであれば、不快な口当たりや味の改善を達成できないことになってしまうから、甲1号証の記載に接した当業者は、「粒子径をさらに小さくすること」による改善を期待できると考えるのが、技術常識に基づいた、当業者の通常の解釈である」とも主張しているが、甲1号証において、D90が105μmよりも小さい範囲で、炭酸ランタン水和物が凝集しないことや、口当たりや味が改善されることが具体的に裏付けられている訳ではないから、上記イで説示したように、粒径が小さくなるほど口当たりや味が改善するという技術常識の存在が確認できない以上、D90を80μm以下とすることは示唆されているとしても、「70μm以下」まで小さくすることを当業者が容易に想到し得るとはいえない。 b (引用文献1(甲第1号証)の記載に関する主張)については、たしかに、甲1号証の実施例7、8の溶解試験の結果と、本件の実施例1?3の結果とを比較することはできないが、本件特許発明1が当業者の予想を超える顕著な効果を奏することは、上記ウで説示したとおりである。 c (引用文献2(甲第4号証)の記載に関する主張)については、甲4号証の記載を参照しても、甲1発明において、炭酸ランタン水和物のD90を「70μm以下」とすることを当業者が容易に想到し得ないことは、上記イ(ウ)で説示したとおりである。 オ 小括 したがって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲1号証?甲7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)本件特許発明2?本件特許発明4について 本件特許発明2?本件特許発明4は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、上記(1)で本件特許発明1について説示したのと同様の理由により、甲1発明及び甲1号証?甲7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおり、本件特許発明1?本件特許発明4は、甲1発明及び甲1号証?甲7号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 7.むすび したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、特許第6225270号の請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に特許第6225270号の請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-07-27 |
出願番号 | 特願2016-551468(P2016-551468) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(A61K)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 参鍋 祐子 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
穴吹 智子 榎本 佳予子 |
登録日 | 2017-10-13 |
登録番号 | 特許第6225270号(P6225270) |
権利者 | 東和薬品株式会社 |
発明の名称 | 粒度調整された炭酸ランタン水和物からなる医薬 |
代理人 | 矢田 歩 |
代理人 | 中村 敏夫 |
代理人 | 坂本 智弘 |
代理人 | 大石 敏弘 |