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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
管理番号 1343037
異議申立番号 異議2018-700444  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-04 
確定日 2018-08-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6241574号発明「透明樹脂組成物,及び熱線遮蔽フィルム」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6241574号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6241574号(請求項の数5。以下,「本件特許」という。)は,平成28年5月10日(優先権主張:平成27年5月15日)を国際出願日とする特許出願(特願2017-519138号)に係るものであって,平成29年11月17日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は,平成29年12月6日である。)。
その後,平成30年6月4日に,本件特許の請求項1?5に係る特許に対して,特許異議申立人である鳥巣実(以下,「申立人」という。)により,特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?5に係る発明は,本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,それぞれ「本件発明1」等という。また,本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。

【請求項1】
透明樹脂形成成分及び無機粒子を含有する透明樹脂組成物であって,
前記無機粒子が,酸化インジウムスズ(ITO)を含んでなり(ただし,SbフリーFドープ酸化スズ,6ホウ化物,又はレニウムを含むものを除く),
前記無機粒子が,Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色を有し,
前記透明樹脂組成物の揮発成分を除去し,測定長を1μmとした場合の可視光透過率が80%以上であり,1,450nm?1,750nmの波長の光透過率が10%以下であることを特徴とする透明樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機粒子の比表面積が,20m^(2)/g以上50m^(2)/g以下である請求項1に記載の透明樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機粒子の分散粒子径のメディアン値d_(50)が,200nm以下である請求項1から2のいずれかに記載の透明樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機粒子の含有量が,前記透明樹脂組成物における不揮発成分量の5体積%以上40体積%以下である請求項1から3のいずれかに記載の透明樹脂組成物。
【請求項5】
透明樹脂形成成分及び無機粒子を含有する熱線遮蔽フィルムであって,
前記無機粒子が,酸化インジウムスズ(ITO)を含んでなり(ただし,SbフリーFドープ酸化スズ,6ホウ化物,又はレニウムを含むものを除く),
前記無機粒子が,Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色を有し,
可視光透過率が70%以上であり,1,450nm?1,750nmの波長の光透過率が10%以下であり,かつヘイズ値が5%以下であることを特徴とする熱線遮蔽フィルム。

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件発明1?5は,下記1?3のとおりの取消理由があるから,本件特許の請求項1?5に係る特許は,特許法113条2号及び4号に該当し,取り消されるべきものである。証拠方法として,下記4の甲第1号証?甲第3号証(以下,「甲1」等という。)を提出する。

1 取消理由1(進歩性)
本件発明1?5は,甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
2 取消理由2(実施可能要件)
本件発明1?5は,発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項1号に適合するものではない。
3 取消理由3(サポート要件)
本件発明1?5は,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するものではない。
4 証拠方法
・甲1 特許第2715859号公報
・甲2 特開2012-91953号公報
・甲3 SPECTRO COLOR METER SE 2000 取扱説明書,日本電色工業株式会社,1994年5月15日,p.25

第4 当審の判断
以下に述べるように,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

1 取消理由1(進歩性)
(1)甲1に記載された発明
甲1の記載(請求項1,2,【0026】,【0032】,【0035】,【0036】,【0058】,【0061】,図1)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「1000nm以下のある波長より長波長側の赤外線を全面的に90%以上カットオフする平均一次粒子径0.2μm以下の錫ドープ酸化インジウム粉末と,有機溶媒に可溶性または分散性の透明性に優れた有機樹脂とを,非アルコール系有機溶媒中に含有する,透明赤外線カットオフ膜形成材であって,
上記透明赤外線カットオフ膜形成材を基体に塗布した後,加熱して溶媒を除去し乾燥させることにより形成された厚さ1μmの透明赤外線カットオフ膜が,可視光に対する80%以上の透過率と,850?1500nmの範囲内にある波長より長波長側の赤外線を全面的に80%以上カットオフする赤外線カットオフ特性とを示す,
透明赤外線カットオフ膜形成材。」(以下,「甲1発明1」という。)

また,甲1の記載(請求項3,4,【0026】,【0033】?【0036】,【0038】,【0056】,【0062】,図1)によれば,甲1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「溶融または軟化状態の透明性に優れた有機樹脂中に,1000nm以下のある波長より長波長側の赤外線を全面的に90%以上カットオフする平均一次粒子径0.2μm以下の錫ドープ酸化インジウム粉末が分散している赤外線カットオフ材用成形材料から形成された,赤外線カットオフ機能を持つ透明フィルムであって,
可視光に対するおよそ70%の透過率と,850?1500nmの範囲内にある波長より長波長側の赤外線を全面的に80%以上カットオフする赤外線カットオフ特性とを示す,
赤外線カットオフ機能を持つ透明フィルム。」(以下,「甲1発明2」という。)

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1における「有機溶媒に可溶性または分散性の透明性に優れた有機樹脂」,「透明赤外線カットオフ膜形成材」は,それぞれ,本件発明1における「透明樹脂形成成分」,「透明樹脂組成物」に相当する。
甲1発明1における「1000nm以下のある波長より長波長側の赤外線を全面的に90%以上カットオフする平均一次粒子径0.2μm以下の錫ドープ酸化インジウム粉末」は,本件発明1における「酸化インジウムスズ(ITO)を含」む「無機粒子」「(ただし,SbフリーFドープ酸化スズ,6ホウ化物,又はレニウムを含むものを除く)」に相当する。
甲1発明1における「上記透明赤外線カットオフ膜形成材を基体に塗布した後,加熱して溶媒を除去し乾燥させることにより形成された厚さ1μmの透明赤外線カットオフ膜が,可視光に対する80%以上の透過率」を示すことは,本件発明1における「前記透明樹脂組成物の揮発成分を除去し,測定長を1μmとした場合の可視光透過率が80%以上」であることに相当する。
そうすると,本件発明1と甲1発明1とは,
「透明樹脂形成成分及び無機粒子を含有する透明樹脂組成物であって,
前記無機粒子が,酸化インジウムスズ(ITO)を含んでなり(ただし,SbフリーFドープ酸化スズ,6ホウ化物,又はレニウムを含むものを除く),
前記透明樹脂組成物の揮発成分を除去し,測定長を1μmとした場合の可視光透過率が80%以上である,透明樹脂組成物。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1では,無機粒子が,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色を有」するものであるのに対して,甲1発明1では,錫ドープ酸化インジウム粉末が,このような色を有するものであるか不明である点。
・相違点2
本件発明1では,「前記透明樹脂組成物の揮発成分を除去し,測定長を1μmとした場合の」「1,450nm?1,750nmの波長の光透過率が10%以下である」のに対して,甲1発明1では,「上記透明赤外線カットオフ膜形成材を基体に塗布した後,加熱して溶媒を除去し乾燥させることにより形成された厚さ1μmの透明赤外線カットオフ膜が」,「850?1500nmの範囲内にある波長より長波長側の赤外線を全面的に80%以上カットオフする赤外線カットオフ特性」を示す点。

(以下,本件発明1における「酸化インジウムスズ」と,甲1発明1における「錫ドープ酸化インジウム(粉末)」のいずれについても,「ITO」という。)

イ 相違点1の検討
(ア)a 本件発明1は,透明樹脂形成成分及び無機粒子を含有する透明樹脂組成物に関するものである。
本件明細書の記載(【0002】,【0003】,【0006】?【0008】,【0014】,【0034】,実施例1?12,比較例1?4,表1,図1)によれば,本件発明1は,高い可視光透過率を担保しつつ,光に照射された際に,皮膚がジリジリと焼けるように感じる生理的な不快感(ジリジリ感)を抑えるために,1,450nm?1,750nmの波長の光(赤外線)を効果的に遮蔽できる,より高い熱線遮蔽効果をもった透明樹脂組成物を提供することを課題とするものである。そして,このような課題を解決するために,本件発明1においては,無機粒子として,ITOを含むものであって,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色」を有するものを用いることを課題解決手段の一つとするものである。
b これに対して,甲1発明1は,透明性に優れた有機樹脂及びITO粉末を含有する透明赤外線カットオフ膜形成材に関するものである。
甲1の記載(【0001】,【0006】?【0008】,【0011】,【0013】,実施例1?4,比較例1,図1)によれば,甲1発明1は,実質的に無色透明で,かつ大面積の赤外線カットオフ膜やフィルムを低コストで量産可能な赤外線カットオフ材を提供することを課題とするものである。そして,このような課題を解決するために,甲1発明1においては,ITO粉末を用いることとし,そのITO粉末として,「1000nm以下のある波長より長波長側の赤外線を全面的に90%以上カットオフする平均一次粒子径0.2μm以下」のITO粉末を用いるものである。
甲1には,上記ITO粉末について,原料 (水酸化物及び/又は酸化物) を加圧不活性ガス中で焼成するか,あるいは,大気中での焼成により得られたITO粉末を加圧不活性ガス中で熱処理することにより製造することができること(【0019】),このようなITO粉末は,色調がxy色度図上でx値 0.220?0.295,y値 0.235?0.325の範囲内であり,結晶の格子定数が10.110?10.160Åの範囲内にあるという共通の特性を有すること(【0020】)が記載されている。
c 以上によれば,本件発明1と甲1発明1とは,いずれも,ITOを含む樹脂組成物であって,可視光は透過するが,赤外線は遮蔽できるという点で共通するものの,その解決しようとする課題が異なるものであり,また,その課題解決手段も異なるものである。
甲1には,1,450nm?1,750nmの波長の光を効果的に遮蔽して,ジリジリ感を抑えるために,ITO粉末として,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色」を有するものを用いることについては,何ら記載されていない。
甲1には,上記bのとおり,甲1発明1において用いるITO粉末として,所定の製造方法により得られた,所定の色調及び格子定数を有するものが記載されているが,このようなITO粉末が,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色」を有するものであるかどうかは不明であり,また,技術常識を考慮しても理解できるとはいえない。
また,甲2及び3にも,1,450nm?1,750nmの波長の光を効果的に遮蔽して,ジリジリ感を抑えるために,ITO粉末として,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色」を有するものを用いることについては,何ら記載されておらず,また,技術常識であるともいえない。
そうすると,甲1発明1において,ITO粉末として,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色」を有するものを用いることが動機付けられるとはいえない。

(イ)甲2には,熱線遮蔽用膜に使用できるインジウム錫酸化物粉末(本件発明1における「酸化インジウムスズ(ITO)」に相当する。以下,「インジウム錫酸化物」を「ITO」という。)として,Lab表色系で,L≦30,a<0,b<0である,濃青色の色調を有するものが記載されている(請求項1,2,8,【0033】)。そして,申立人が主張するように,甲2の実施例5には,ITO粉末として,Lab表色系で,L値「25.9」,a値「-3.3」,b値「-8.8」のものが記載されている(【0045】?【0048】,【0059】,表1)。
申立人は,甲2の実施例5のITO粉末は,Lab表色系で表されたものであるが,これを本件発明1のLab色空間(L^(*)a^(*)b^(*)表色系)に変換すると,L^(*)値「31.1」,b^(*)値「-11」となるから,当該ITO粉末は,本件発明1における「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色」を有するものであると主張する。
しかしながら,上記(ア)bで述べたとおり,甲1発明1は,実質的に無色透明で,かつ大面積の赤外線カットオフ膜やフィルムを低コストで量産可能な赤外線カットオフ材を提供するとの課題を解決するために,その課題解決手段として,所定の製造方法により得られた,所定の色調及び格子定数を有する,「1000nm以下のある波長より長波長側の赤外線を全面的に90%以上カットオフする平均一次粒子径0.2μm以下」のITO粉末を用いるものである。仮に,申立人が主張するように,甲2の実施例5のITO粉末が,本件発明1における「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色」を有するものであるとしても,当該ITO粉末が,甲1発明1が前提とする特定のITO粉末に該当するものであるかどうかは不明であるから,そもそも,甲1発明1において課題解決手段として用いられる特定の条件を満たすITO粉末に代えて,その特定の条件を満たすかどうか不明な甲2の実施例5のITO粉末を用いることが動機付けられるとはいえない。

(ウ)以上のとおりであるから,甲1発明1において,ITO粉末として,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色を有」するものを用いることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

ウ 小括
したがって,相違点2について検討するまでもなく,本件発明1は,甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2?4について
本件発明2?4は,本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが,上記(2)で述べたとおり,本件発明1が,甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない以上,本件発明2?4についても同様に,甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲1発明2とを対比すると,上記(2)アと同様,両者は,
「透明樹脂形成成分及び無機粒子を含有する熱線遮蔽フィルムであって,
前記無機粒子が,酸化インジウムスズ(ITO)を含んでなり(ただし,SbフリーFドープ酸化スズ,6ホウ化物,又はレニウムを含むものを除く),
可視光透過率が70%以上である,熱線遮蔽フィルム。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
・相違点1’
本件発明5では,無機粒子が,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色を有」するものであるのに対して,甲1発明2では,錫ドープ酸化インジウム粉末が,このような色を有するものであるか不明である点。
・相違点2’
本件発明5では,「1,450nm?1,750nmの波長の光透過率が10%以下であり,かつヘイズ値が5%以下である」のに対して,甲1発明2では,「850?1500nmの範囲内にある波長より長波長側の赤外線を全面的に80%以上カットオフする赤外線カットオフ特性」を示す点。

イ 相違点1’の検討
相違点1’は,上記(2)アで認定した相違点1と同様のものであるから,上記(2)イで本件発明1について述べたのと同様の理由により,甲1発明2において,ITO粉末として,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色を有」するものを用いることが,当業者が容易に想到することができたということはできない。

ウ 小括
したがって,相違点2’について検討するまでもなく,本件発明5は,甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)まとめ
以上のとおり,本件発明1?5は,いずれも,甲1に記載された発明並びに甲2及び3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,申立人が主張する取消理由1(進歩性)は理由がない。
したがって,取消理由1(進歩性)によっては,本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2(実施可能要件)
申立人は,本件発明1は,「1,450nm?1,750nmの波長の光透過率が10%以下」であるところ,本件明細書の実施例9?11(表1)には,「1,450nm光透過率」が,それぞれ,21.0%,19.9%,11.9%であることが記載されており,「10%以下」ではない例が「実施例」として記載されているから,本件発明1は,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するものではないと主張する。また,本件発明2?5についても同様に主張する。
しかしながら,実施例9?11が,本件発明1との関係で「実施例」でないことは,当業者にとって明らかである。これらの例(実施例9?11)が「実施例」と表記されているからといって,本件発明1を実施することができないとはいえず,そのことのみで,本件発明1について,発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するものではないということはできない。また,本件発明2?5についても同様である。
したがって,取消理由2(実施可能要件)によっては,本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由3(サポート要件)
(1)本件発明1?4について
本件明細書の記載(【0002】,【0003】,【0006】)によれば,本件発明1の課題は,高い可視光透過率を担保しつつ,光に照射された際に,皮膚がジリジリと焼けるように感じる生理的な不快感(ジリジリ感)を抑えるために,1,450nm?1,750nmの波長の光(赤外線)を効果的に遮蔽できる,より高い熱線遮蔽効果をもった透明樹脂組成物を提供することであると認められる。
本件明細書の記載(【0007】,【0008】,【0014】,【0034】)によれば,本件発明1の課題は,無機粒子として,「酸化インジウムスズ(ITO)」を含むものであって,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色」を有するものを用いるとともに,「前記透明樹脂組成物の揮発成分を除去し,測定長を1μmとした場合の可視光透過率が80%以上であり,1,450nm?1,750nmの波長の光透過率が10%以下である」ものとすることによって解決できるとされている。
そして,本件明細書には,本件発明1を具体的に実施した実施例及び比較例が記載されており(実施例1?12,比較例1?4,表1,図1),これらの実施例及び比較例によれば,実施例1?8及び12(L^(*)値が36.4以上43.1以下,b^(*)値が-16.8以上かつ-10.0以下,可視光透過率が84.3%以上)において,透明樹脂組成物が,実際に高い可視光透過率を担保しつつ,1,450nm?1,750nmの波長の光(赤外線)を効果的に遮蔽できることが示されているといえる。
そうすると,上記のとおり,実施例1?8及び12が,本件発明1における「L^(*)値が30以上かつ50以下」,「b^(*)値が-18以上かつ-10以下」及び「可視光透過率が80%以上」の各範囲を概ねカバーするものであり,また,本件発明1が,「前記透明樹脂組成物の揮発成分を除去し,測定長を1μmとした場合の可視光透過率が80%以上であり,1,450nm?1,750nmの波長の光透過率が10%以下である」ものに特定されている以上,当業者であれば,上記実施例1?8及び12以外の場合であっても,本件発明1の構成を備える透明樹脂組成物となるように調整することにより,同実施例と同様に,透明樹脂組成物が,高い可視光透過率を担保しつつ,1,450nm?1,750nmの波長の光(赤外線)を効果的に遮蔽できることが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明1は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。
また,本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2?4についても同様であり,本件発明2?4は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(2)本件発明5について
本件明細書の記載(【0002】,【0003】,【0006】)によれば,本件発明5の課題は,高い可視光透過率を担保しつつ,光に照射された際に,皮膚がジリジリと焼けるように感じる生理的な不快感(ジリジリ感)を抑えるために,1,450nm?1,750nmの波長の光(赤外線)を効果的に遮蔽できる,より高い熱線遮蔽効果をもった熱線遮蔽フィルムを提供することであると認められる。
本件明細書の記載(【0007】,【0008】,【0014】,【0034】,【0046】,【0047】)によれば,本件発明5の課題は,無機粒子として,「酸化インジウムスズ(ITO)」を含むものであって,「Lab色空間における,L^(*)値が30以上かつ50以下であり,かつb^(*)値が-18以上かつ-10以下である色」を有するものを用いるとともに,「可視光透過率が70%以上であり,1,450nm?1,750nmの波長の光透過率が10%以下であり,かつヘイズ値が5%以下である」ものとすることによって解決できるとされている。
そして,本件明細書には,本件発明5を具体的に実施した実施例及び比較例が記載されており(実施例1?12,比較例1?4,表1,図1),これらの実施例及び比較例によれば,実施例1?8及び12(L^(*)値が36.4以上43.1以下,b^(*)値が-16.8以上かつ-10.0以下,可視光透過率が84.6%以上,ヘイズ値が1.0%以下)において,熱線遮蔽フィルムが,実際に高い可視光透過率を担保しつつ,1,450nm?1,750nmの波長の光(赤外線)を効果的に遮蔽できることが示されているといえる。
そうすると,上記のとおり,実施例1?8及び12が,本件発明5における「L^(*)値が30以上かつ50以下」,「b^(*)値が-18以上かつ-10以下」,「可視光透過率が70%以上」及び「ヘイズ値が5%以下」の各範囲を概ねカバーするものであり,また,本件発明5が,「可視光透過率が70%以上であり,1,450nm?1,750nmの波長の光透過率が10%以下であり,かつヘイズ値が5%以下である」ものに特定されている以上,当業者であれば,上記実施例1?8及び12以外の場合であっても,本件発明5の構成を備える透明樹脂組成物となるように調整することにより,同実施例と同様に,熱線遮蔽フィルムが,高い可視光透過率を担保しつつ,1,450nm?1,750nmの波長の光(赤外線)を効果的に遮蔽できることが理解できるといえる。
以上のとおり,本件明細書の記載を総合すれば,本件発明5は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件発明5の課題を解決できると認識できる範囲のものということができる。
したがって,本件発明5は,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するものである。

(3)まとめ
したがって,取消理由3(サポート要件)によっては,本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり,特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては,本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件特許の請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-31 
出願番号 特願2017-519138(P2017-519138)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 海老原 えい子  
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 岡崎 美穂
井上 猛
登録日 2017-11-17 
登録番号 特許第6241574号(P6241574)
権利者 住友大阪セメント株式会社
発明の名称 透明樹脂組成物、及び熱線遮蔽フィルム  
代理人 山下 武志  
代理人 廣田 浩一  
代理人 流 良広  
代理人 松田 奈緒子  
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