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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 D01F 審判 全部申し立て 2項進歩性 D01F |
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管理番号 | 1343041 |
異議申立番号 | 異議2018-700365 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-05-01 |
確定日 | 2018-08-16 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6222997号発明「柔軟性に優れた熱接着性複合繊維とこれを用いた不織布」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6222997号の請求項1?10に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6222997号の請求項1?10に係る特許についての出願は、平成25年5月31日に出願され、平成29年10月13日に特許権の設定登録(公報発行は、同年11月1日)がされ、平成30年5月1日に、柏木 里美(以下「本件申立人」という。)から特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 1 特許第6222997号の請求項1?10の特許に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものである。 2 本件発明1 本件発明1は、次のとおりのものである(A?Gは、当審が付した。)。 「A ポリエステル系樹脂を含む第1成分と、前記ポリエステル系樹脂の融点より15℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂を含む第2成分で構成され、 B 繊維の長さ方向と直交する繊維断面において、前記第2成分が繊維外周の30%以上を占めるサイドバイサイド型または偏心鞘芯型の構造を有する熱接着性複合繊維であって、 C 繊維の伸度が50?120%であり、 D かつ、10?20山/2.54cmの三次元の顕在捲縮を有しており、 E 前記三次元の顕在捲縮が50%以上であり、 F 捲縮弾性率が85?100%の範囲である、 G 熱接着性複合繊維。」 第3 特許異議の申立て理由の概要 本件申立人の主張する取消理由は、次のとおりである。 1 新規性欠如 本件発明1?7、9、10は、本願出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(以下「甲1」という。)に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当するから、それらの特許は特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 2 新規性欠如 本件発明1?4、6、7、9、10は、本願出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(以下「甲2」という。)に記載された発明であり、特許法29条1項3号に該当するから、それらの特許は特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 3 進歩性欠如 本件発明1?10は、本願出願前に頒布された刊行物である、甲1、甲2及び甲第3号証(以下「甲3」という。)に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2号の規定により、特許を受けることができない発明であるから、それらの特許は特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 第4 刊行物の記載 1 甲1 甲1(特開2011-47077号公報)には、次の記載がある。 (1)段落【0001】 「本発明は、熱接着性複合繊維に関し、より具体的には熱収縮性を有した熱接着性複合繊維に関する。また、本発明は、該熱接着性複合繊維を用いて作製した耐圧縮性に優れた不織布に関する。」 (2)【発明の効果】、段落【0006】 「本発明の熱接着性複合繊維は、ウェブに加工した状態で測定する熱収縮率が所定の範囲にあって、その熱接着性複合繊維を用いて作製した不織布は、低加重下での嵩高性が高加重下でもより良く維持されて、低加重下と高加重下における嵩高性の低下する割合が抑えられている。すなわち、本発明の熱接着性複合繊維は、耐圧縮性に優れた不織布を提供することができる。本発明の熱接着性複合繊維において、さらに無機微粒子を添加することによって、嵩高性、耐圧縮性と同時に柔軟性をも併せ持つ、いっそう優れた不織布が得られる。」 (3)段落【0007】 「・・・本発明の複合繊維は熱可塑性樹脂から構成され、ポリエステル系樹脂を含む第1成分が芯を構成し、及び前記ポリエステル系樹脂の融点より15℃以上低い融点を有するポリオレフィン系樹脂を含む第2成分が鞘を構成する、偏心芯鞘構造をとっている複合繊維である。」 (4)段落【0031】 「(複合繊維の製造) 表1に示す熱可塑性樹脂を用い、第1成分を芯側、第2成分を鞘側に配し、無機微粒子としては、マスターバッチ化された二酸化チタンを第1成分及び第2成分に表1記載の量を練りこむ方法で含有させ、同様に表1に示す押出温度と、複合比(容量比)、断面形状で紡糸し、その際、アルキルフォスフェートK塩を主成分とする繊維処理剤をオイリングロールに接触させて、該処理剤を付着させた。得られた未延伸繊維を、延伸温度(熱ロールの表面温度)90℃に設定し、表1に示す条件で延伸工程-捲縮付与工程を経た後、熱風循環型乾燥機を用いて表1に示す熱処理温度で5分間熱処理工程を施して繊維を得た。捲縮付与は、スタッフィングボックス型クリンパーロールによって、ジグザグの機械捲縮を12?20山/2.54cmの捲縮数の範囲にて付与させた。 該繊維をカッターで表1中の長さ(カット長)にカットし短繊維とし、これを試料繊維として用いた。得られた試料繊維は、ローラーカード試験機にて目付200g/m^(2)のカードウェブを作成し、収縮率の測定に用いた。」 (5)段落【0036】、【表1】 「 」 (6)段落【0037】、表2 「 」 (7)段落【0038】 「本発明の複合繊維によれば、加熱処理後の収縮率が20%以上に保たれることで、不織布化時における加熱接着の際に潜在捲縮が発現し、嵩高性、耐圧縮性に優れた不織布を作製することができる。・・・」 2 甲2 甲2(特開平1-92416号公報)には、次の記載がある。 (1)2頁右下欄下2行?3頁左上欄17行 「(実施例) 実施例1,2及び比較例1,2 融点が260°と、[η](o-クロルフェノール中で測定)が0.68のポリエチレンテレフタレートを芯層とし、融点が167℃、230℃におけるメルトフローレートが17のポリプロピレンを中間層とし、最外層として融点が132℃、メルトインデックスが18、密度0.955の高密度ポリエチレンを用いて、これらを別個に各々3台の押出機に供給して溶融押出しを行い、外径0.5mmノズル孔を有する複合紡糸口金(ノズル数52)から紡糸して、複合比(断面積比)が芯層:中間層:最外層=1:1:1の第1図又は第2図に示すが如き繊維断面の3成分芯鞘型複合繊維を得た。次いで、この芯鞘型複合繊維を加熱して延伸し、スタッファ-ボックス型捲縮機によって機械捲縮を付与し、110℃で25分間リラックス熱処理したのち51mmの長さに切断してステープル繊維となした。」 (2)3頁右上欄11?16行 「これらのステーブル繊維をローラーカードに供給して得たウェブを無荷重下において熱風貫通型熱加工機により140℃で1分間加熱してポリエチレン成分を溶融し、繊維間が接着結合した不織布(目付約40g/m^(2))を得た。それらの結果は第1表の通りである。」 (3)図1 「 」 (4)図2 「 」 (5)表1 「 」 (6)4頁右下欄1?11行 「なお第1表及び第2表における「カードウエッブの厚さ」及び「不織布の厚さ」は、0.1g/cm^(2)の荷重下で測定して得られた値を40g/m^(2)の目付に換算して得られた値を示し、「除重後の厚さ」はタテ15cm×ヨコ15cmの大きさに切り取った不織布片を10枚重ね、目付40g/m^(2)に換算して不織布の厚さに相当するところの1枚当たり0.1mmの厚さまで圧縮して一週間静置後除重し、その状態で24時間放置後0.1g/cm^(2)の荷重下で測定した厚さを40g/m^(2)の目付に換算した値を示す、更に引張強力は巾5cmの短冊片の破断時引張強力を目付40g/m^(2)に換算した値示す。」 3 甲3 本願出願前に頒布された刊行物である甲3(特開2003-3334号公報)には、次の記載がある。 (1)段落【0028】 「次いで、必要に応じて繊維処理剤を付与する前または後に、スタッファボックス式捲縮機など公知の捲縮機を用いて捲縮数5個/25mm以上、25個/25mm以下の鋸歯状捲縮を付与する。鋸歯状捲縮の捲縮数が5個/25mm未満であると、カード通過性が低下し、捲縮数が25個/25mmを超えると、カード通過性が低下するだけでなく、捲縮発現後の捲縮数が多くなって嵩回復性に悪影響を及ぼす恐れがある。さらに、前記鋸歯状捲縮を付与した後、90?130℃の乾熱、湿熱、あるいは蒸熱の雰囲気下でアニーリング処理を施される。具体的には、繊維処理剤を付与した後に鋸歯状捲縮を付与し、90?130℃の乾熱雰囲気下でアニーリング処理と同時に乾燥処理を施すことが、工程を簡略化することができ、好ましい。アニーリング処理が90℃未満であると、乾熱収縮率が大きくなる傾向であり、得られる不織布の地合が乱れたり、生産性が低下したりする恐れがある。上記方法により得られた複合繊維は、主として、図4に示すような捲縮数7個/25mm以上、25個/25mm以下の鋸歯状捲縮と波線状捲縮が混在した捲縮(12)、あるいは鋸歯状捲縮と螺旋状捲縮が混在した捲縮を採ることが、後述するカード工程性を低下させることなく、嵩高な不織布を得ることができ、好ましい。そして、所望の繊維長に切断されて、第2成分の融点をTm(℃)としたときTm-3(℃)において所望の範囲を満たす波線状捲縮および/または螺旋状捲縮を有し、Tm-3(℃)における乾熱収縮率が3%以下である捲縮性複合繊維が得られる。」 (2)段落【0048】 「【発明の効果】 本発明の捲縮性複合繊維は、ポリトリメチレンテレフタレート系樹脂を第1成分とし、ポリオレフィン系樹脂を第2成分とした重心の位置をずらした複合繊維とし、第2成分の融点近傍における乾熱収縮率を低く抑えるとともに、捲縮形状を所望の範囲の波線状捲縮および螺旋状捲縮から選ばれた少なくとも一種の捲縮に調整することにより、不織布にしたとき、柔らかな風合いであり、初期嵩回復性、長期嵩回復性ともに優れた、特に頻繁に荷重のかかる用途に適した繊維が得られる。特に、第2成分を熱融着成分として用いると、繊維同士が熱融着されて、繊維間のスプリング効果が最大限発揮され、かつポリトリメチレンテレフタレート系樹脂の持つ曲げ強さが小さく、曲げ回復力が大きく、曲げ弾性が小さくて、柔軟であるという特徴が最大限に発揮される。」 第5 合議体の判断 1 捲縮弾性率(本件発明1の構成F)について 本件明細書には、次の記載がある。 (1)段落【0030】 「本発明の複合繊維の捲縮弾性率は、85?100%の範囲であり、好ましくは、90?97%の範囲である。捲縮弾性率については、JIS L 2080において「繊維の捲縮を伸ばしたときの長さと,これを緩めて所定時間放置した後の長さとの差の,伸ばしたときの長さと元の長さとの差に対する百分率」と規定されている。具体的な測定方法はJIS L 1015に規定されている。捲縮弾性率が85%以上であることによって、不織布化工程において顕在捲縮の形態安定性が維持できる。それによって、不織布に嵩高性と柔軟性を与えることができる。」 (2)段落【0058】 「(捲縮弾性率測定) 25mm(或いは20mm)の試料繊維に0.18mN/texの初荷重をかけた時の長さを測定した。次に4.41mN/texの荷重をかけた時の長さを測定した。その後全荷重を除き、2分間放置後、初荷重をかけて長さを測定し、捲縮弾性率(%)を算出した。」 2 本件発明1についての検討 (1)上記1(1)における「JIS L 2080」は、実際は、「JIS L 0208」であると、規格の周知性から当業者は読み取れると認められる。 (2)そして、職権で調査をすると、本件出願前の「L 0208-1992」においても、捲縮弾性率は、上記1(1)のように定義されていたものである。 (3)一方、甲1及び甲2のいずれにも、捲縮弾性率に関する記載も示唆もないから、甲1及び甲2のいずれにも、本件発明1の構成Fに相当する構成を有した甲1発明、甲2発明が記載されているとはいえない。 ゆえに、本件発明1と甲1発明または甲2発明とは、少なくとも、本件発明1が構成Fを有しているという点で相違するから、本件発明1は、甲1発明または甲2発明ではない。 (4)また、甲1発明または甲2発明に、上記構成Fを備えさせることは、当業者が容易になし得たことというべき根拠となる記載や示唆は、甲1?3には見当たらないし、当該根拠となるべき他の証拠も提出されていないから、本件発明1は、甲1発明または甲2発明及び甲1?3の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (5)本件申立人は、甲1の実施例や比較例4における延伸処理や熱処理条件によって、捲縮弾性率が85%以上になると主張していると解されるが、その事実を認めるに足りる証拠はない。 (6)したがって、本件発明1は特許法29条1項3号に該当せず、また、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明ともいえないから、本件発明1に係る特許は、特許法113条2号に該当せず、取り消すことはできない。 3 本件発明2?10について 本件発明2?10は、本件発明1の構成要件Fを含むものであるから、本件発明1と同様に、特許法29条1項3号に該当せず、また、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない発明ともいえないから、本件発明2?10に係る特許は特許法113条2号に該当せず、特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-08-06 |
出願番号 | 特願2013-115739(P2013-115739) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(D01F)
P 1 651・ 113- Y (D01F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 加賀 直人 |
特許庁審判長 |
渡邊 豊英 |
特許庁審判官 |
門前 浩一 西藤 直人 |
登録日 | 2017-10-13 |
登録番号 | 特許第6222997号(P6222997) |
権利者 | イーエス ファイバービジョンズ アーペーエス イーエス ファイバービジョンズ ホンコン リミテッド イーエス ファイバービジョンズ リミテッド パートナーシップ ESファイバービジョンズ株式会社 |
発明の名称 | 柔軟性に優れた熱接着性複合繊維とこれを用いた不織布 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |