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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09K 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09K |
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管理番号 | 1343043 |
異議申立番号 | 異議2018-700415 |
総通号数 | 225 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-09-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-05-22 |
確定日 | 2018-08-16 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6233818号発明「地盤注入用固結材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6233818号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6233818号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成24年3月13日に出願された特願2012-56239号の一部を平成28年3月28日に新たな特許出願としたものであって、平成29年11月2日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年5月22日に、特許異議申立人野中治美(以下、単に、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 2.本件発明 特許第6233818号の請求項1?6の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項1?6の特許に係る発明を、項番号に応じて「本件発明1」などという。)。 「【請求項1】 コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸及び/又はリン酸を含有する地盤注入用固結材の製造方法であって、 (1)前記地盤注入用固結材は、SiO_(2)濃度が10質量%超過であり、前記SiO_(2)中、前記コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下であり、 (2)施工現場において原料撹拌用の実機により、前記硫酸及び/又はリン酸に更にリン酸ナトリウム、クエン酸系化合物及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を混合した混合液を調製し、次いで前記混合液に前記珪酸ソーダ及び前記コロイダルシリカを同時又は順不同で混合することを特徴とする製造方法。 【請求項2】 既存の岸壁、護岸又は構造物の耐震補強及び/又は周囲の地盤改良に用いる地盤注入用固結材を製造する、請求項1に記載の製造方法。 【請求項3】 前記耐震補強は、レベル2地震動に対する耐震補強である、請求項2に記載の製造方法。 【請求項4】 前記地盤注入用固結材は、一軸圧縮強度(28日強度)が420kN/m2以上である、請求項1?3のいずれかに記載の製造方法。 【請求項5】 部分ゲルの発生を抑制しながら前記地盤注入用固結材を得る、請求項1?4のいずれかに記載の製造方法。 【請求項6】 前記珪酸ソーダの供給速度が2100?12000L/hであり、前記コロイダルシリカの供給速度が480L以上/hである、請求項1?5のいずれかに記載の製造方法。」 3.申立理由の概要 申立人は、証拠として、次の甲第1号証?甲第16号証(以下、申立人の提出した甲各号証を、単に「甲1」などという。)を提出し、次の(1)?(4)を根拠として、本件特許を取り消すべきものである旨主張している。 甲1:特開2012-12483号公報 甲2:安部利亮他、「初期せん断弾性係数を用いた薬液固化過程に関する検討」、第45回地盤工学研究発表会平成22年度発表講演集、社団法人地盤工学会、2010年、p653?654 甲3:特開平11-172248号公報 甲4:特開平9-3871号公報 甲5:特開2001-3047号公報 甲6:特開2001-31968号公報 甲7:特開2008-127939号公報 甲8:特開2007-182724号公報 甲9:特開平5-86370号公報 甲10:特開2008-231769号公報 甲11:特開2007-332618号公報 甲12:特開2011-241305号公報 甲13:特開平3-275793号公報 甲14:特開2010-121083号公報 甲15:特開2012-228685号公報 甲16:ASFアクターM(ラサエ業株式会社 2016/3/1)の安全データシート(SDS) (1)特許法第29条第2項(請求項1?6、同法第113条第2号)について ア 本件発明1について (ア)本件発明1は、甲1発明(甲1に記載された発明)、甲9に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イ)本件発明1は、甲1発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ 本件発明2?5について 本件発明2?5は、甲1発明、甲9に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 ウ 本件発明6について (ア)本件発明6は、甲1発明、甲9に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (イ)本件発明6は、甲1発明、甲9、12又は14に記載された発明及び周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件、請求項1?6、同法第113条第4号)について ア 本件発明1は、「SiO_(2)中、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下」であることを発明特定事項とする。 しかしながら、本件明細書においては、本件発明1に係るコロイダルシリカに由来するSiO_(2)量の範囲「40質量%以下」と、これに含まれない40質量%を超える範囲において、効果に明確な相違があることは示されていない。 よって、本件明細書の記載は、本件発明1に係る「40質量%以下」の範囲とすることで発明の効果が得られることを示しているものとはいえず、本件発明1に係る「40質量%以下」との発明特定事項は本件の発明の詳細な説明の記載により裏付けられていないので、本件発明1およびこれに従属する本件発明2?6はサポート要件を満足しない。(特許異議申立書41頁下から2行?42頁9行) イ 本件発明6は、「前記珪酸ソーダの供給速度が2100?12000L/hであり、前記コロイダルシリカの供給速度が480L/h以上である」ことを発明特定事項とする。 しかしながら、本件明細書においては、具体的に、珪酸ソーダの供給速度を「7300ml/h(=7.3L/h)」としたことが記載されているのみであり(段落[0035])、この供給速度は本件発明6の範囲に含まれない。 よって、本件明細書の記載は、本件発明6に係る「前記珪酸ソーダの供給速度が2100?12000L/hであり、前記コロイダルシリカの供給速度が480L/h以上である」との範囲とすることで発明の効果が得られることを示しているものとはいえず、本件発明6に係る上記発明特定事項は本件の発明の詳細な説明の記載により裏付けられていないので、本件発明6はサポート要件を満足しない。(同42頁10?22行) (3)特許法第36条第6項第2号(明確性要件、請求項1?6、同法第113条第4号)について 本件発明1は、「SiO_(2)中、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下である」ことを発明特定事項とする。 しかしながら、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下」とは、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が0質量%」の場合も含むものであり、これは本件発明1における「コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸及び/又はリン酸を含有する地盤注入用固結材」との発明特定事項と矛盾し、発明の範囲が曖昧になっているといえるから、本件発明1およびこれに従属する本件発明2?6は、明確性要件を満足しない。(同42頁23行?43頁2行) 4.判断 (1)特許法第29条第2項(請求項1?6、同法第113条第2号)について ア 甲1?甲16の記載 (ア)甲1 甲1には、次の記載が認められる。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、コロイダルシリカのシリカ粒子を含有する地盤注入用グラウト材および地盤注入工法に関するものであり、より詳しくは軟弱地盤や地盤の液状化防止、基礎地盤の補強工事等に使用される地盤改良のための地盤注入用グラウト材および地盤注入工法に関するものである。」 「【0021】 (使用材料) コロイダルシリカ;シリカドール30、日本化学工業株式会社製、シリカ濃度=30重量% 珪酸ソーダ;特殊珪酸ソーダ、日本化学工業株式会社製、シリカ濃度=26重量%、Na_(2)O=7重量%、比重1.32 燐酸;75%燐酸、日本化学工業株式会社製 硫酸:75%硫酸、日本化学工業株式会社製 シュウ酸二水和物、クエン酸一水和物、マレイン酸、DL-リンゴ酸、乳酸、酒石酸:試薬 【0022】 <実施例1> B液の材料配合を表1に、A液はシュウ酸濃度を0.1mol/Lとし、硫酸の配合量を変えた材料配合とし、A液の材料配合を表2に記載した。二液の混合は、攪拌下にA液にB液を手早く加えた。混合液(注入材)のpHとゲル化時間を測定し、結果を表3、図1および図2に記載した。pH測定にはガラス電極式pH計を使用した。 【0023】 【表1】 」 「【0032】 <実施例3> 各種有機酸と燐酸と硫酸を使用した注入材の例を示す。B液には実施例1と同じ材料を使用し、A液は有機酸と燐酸の配合量を一定とし、硫酸の配合量を変えた材料配合とし、A液の材料配合を表8-1?3に記載した。混合液(注入材)のpHとゲル化時間を測定し、結果を表9-1?3および図3および図4に記載した。」 「【0034】 【表9】 」 「【0044】 <実施例4> 有機酸と燐酸を使用した注入材の例を示す。B液の配合表を表12に示す。A液は表13に記載の配合をベースとし、各種有機酸を添加量を変えて配合し、最後に水を加えて300mlとした。混合液(注入材)のpHとゲル化時間を測定しA液の材料配合を表14-1?7に記載した。有機酸のほかA液にさらに燐酸を追加添加した配合も実施した。AB混合液(注入材)のpHとゲル化時間を測定し、その結果を図5および図6に記載した。図中pH3?4の領域において、有機酸を添加した試料では燐酸添加よりもpH変化が穏やかであり直線的な変化となっている。その中でも、シュウ酸(pKa1=1.04、pKa2=3.82)はpKaが小さいので勾配が少しきつくなっている。 【0045】 【表18】 」 「【0049】 【表22】 」 (イ)甲2 甲2には、次の記載が認められる。 「図1に本試験で使用したベンダーエレメント計測ユニットを示す.ベンダーエレメント計測ユニットは,土槽,ベンダーエレメントソケット,ファンクションジェネレータ,オシロスコープで構成されている.土槽は,塩化ビニール製で幅40mm×奥行き150mm×高さ150mmであり,土槽底面に薬液注入口が設置されている.また,土槽の側面には,底面から高さ75mmの位置にせん断波送信用のベンダーエレメント取付穴とその対面側にせん断波受信用のベンダーエレメント取付穴があり,その穴にベンダーエレメントソケットが取付けられるようになっている.表1に本試験で使用した豊浦砂の物性値を,表2にシリカ濃度6%の薬液の配合表を,表3にシリカ濃度12%の薬液の配合表をそれぞれ示す.なお,薬液は特殊シリカ系(活性シリカコロイド)であり,シリカ濃度6%の薬液はゲルタイム約12時間,シリカ濃度12%の薬液はゲルタイム約5時間となっている.表4に試験条件を示す.」(653頁本文21行目?35行目) 「 」(653頁) 「図4にCase1,2,8,9の初期せん断弾性係数と養生時間の関係を示す.初期せん断弾性係数は、シリカ濃度6%(ゲルタイム約12時間)の薬液を用いたCase1,Case2に比ベシリカ濃度12%(ゲルタイム約5時間)の薬液を用いたCase8,Case9の方が早い段階で上昇した.」(654頁26行目?30行目) (ウ)甲3 甲3には、次の記載がある。 「【0047】本発明にかかるグラウト材の配合例とその物性を本発明以外のグラウト材と比較して表1に一括して示す。」 「【0049】 【表1】 」 「【0048】表1中、SiO_(2) は各実施例あるいは比較例における活性珪酸、水ガラス、コロイダルシリカまたは酸性シリカゾル中のSiO_(2) 合計量を配合液中の%で表示した。実施例No.10?13、比較例No.7のセメントあるいはスラグ中のSiO_(2)量は算入されていない。pH値はガラス電極pH計で測定し、ゲル化時間はカップ倒立法により測定した。一軸圧縮強度は豊浦標準砂によるサンドゲルをポリ塩化ビニリデン密閉養生して、土質工学会規準の「土の一軸圧縮試験方法」により測定した。ただし、セメント、スラグを配合した懸濁型グラウト(実施例No.10?13、比較例No.7)はホモゲルについて測定した。ホモゲルの収縮率(%)はポリプロピレン樹脂製の密閉容器中にホモゲルを20℃の温度で5日間放置して生じた離漿水の量から算出した。」 (エ)甲4 甲4には、次の記載がある。 「【0020】別途、実用に供される瞬結型地盤注入剤について測定された静的針貫入抵抗値は、この測定法によれば、25mm以下の貫入長さを示したので、この測定法により25mm以下の貫入長さを示す如き地盤注入用薬液を、実用性を有する瞬結型地盤注入剤と判定する。 実施例1 コロイダルシリカ(S1) 66ml に、75重量%硫酸 0.22ml を加えることにより(A1)液を調製した。次に硫酸マグネシウム7水塩 1.625gと重炭酸ソーダ 0.25gを水32mlに溶解することにより(B1)液を調製した。この(A1)液の全量と(B1)液の全量をそれぞれ35℃に保ちながらビーカー内で混合することにより地盤注入用薬液(G1)を調製した。この調製後も地盤注入用薬液を35℃に保ちながら、地盤注入用薬液が増粘を示すまでの時間を測定することによりゲル化時間を求めると共に、前記の方法で針貫入長さ測定したところ、第1表記載の結果が得られた。尚、上記地盤注入用薬液(G1)のpHは 8.0であった。 【0021】別途、上記同様にして調製した(A1)液と(B1)液それぞれを40℃、50℃又は25℃に保ち、上記同様ビーカー内で混合することにより地盤注入用薬液(G1)を調製し、そして40℃、50℃又は25℃に保たれた各温度におけるゲル化時間及び針貫入長さを上記同様にして測定したところ、第1表に記載の結果が得られた。尚、25℃での測定は、比較対照例であり、薬液(G1)調製後30秒経過時点において、この薬液(G1)にゲル化が起こらず、針貫入長さは測定されなかった。 【0022】実施例2 コロイダルシリカ(S1) 66ml に、75重量%硫酸 0.26ml を加えることにより、(A2)液を調製し、次に硫酸マグネシウム7水塩 1.625gと、重炭酸ソーダ 0.25gを水32mlに溶解することにより(B2)液を調製した。この(A2)液の全量と(B2)液の全量をそれぞれ50℃に保ちながらビーカー内で混合することにより地盤注入用薬液(G2)を調製した。この調製後も地盤注入用薬液を50℃に保ちながら、地盤注入用薬液が増粘を示すまでの時間を測定することによりゲル化時間を求めると共に、前記の方法で針貫入長さ測定したところ、第1表記載の結果が得られた。尚、上記地盤注入用薬液(G2)のpHは 8.1であった。 【0023】別途、比較対照例として、上記同様にして得られた地盤注入用薬液(G2)について、25℃におけるゲル化時間を上記同様にして測定したところ、第1表に記載の結果が得られた。この薬液(G2)も、25℃ではその調製後30秒経過時点において、ゲル化が起こらず、針貫入長さは測定されなかった。 実施例3 コロイダルシリカ(S2) 90ml に75重量%硫酸 0.2mlを加えることにより、(A3)液を調製し、次に硫酸マグネシウム7水塩5gを水8mlに溶解することにより、(B3)液を調製した。この(A3)液の全量と(B3)液の全量をそれぞれ50℃に保ちながらビーカー内で混合することにより地盤注入用薬液(G3)を調製した。この調製後も地盤注入用薬液を50℃に保ちながら、地盤注入用薬液が増粘を示すまでの時間を測定することによりゲル化時間を求めると共に、前記の方法で針貫入長さ測定したところ、第1表記載の結果が得られた。尚、上記地盤注入用薬液(G3)のpHは7.7 であった。 【0024】別途、比較対照例として、上記同様にして得られた地盤注入用薬液(G3)について、25℃におけるゲル化時間を上記同様にして測定したところ、第1表に記載の結果が得られた。この薬液(G3)も、25℃ではその調製後30秒経過時点において、ゲル化が起こらず、針貫入長さは測定されなかった。 比較例 コロイダルシリカ(S3) 50ml と、6gの塩化カルシウムを 47.5ml の水に溶解して得られた塩化カルシウム水溶液とを、それぞれ25℃に保った後、ビーカー内で両液全量を混合することにより、地盤注入用薬液(G4)を調製した。この薬液のpHは8.95であった。 【0025】別途、コロイダルシリカ(S3) 80ml と、6gの塩化カルシウムを 17.5ml の水に溶解して得られた塩化カルシウム水溶液とを、それぞれ25℃に保った後、ビーカー内で両液全量を混合することにより、地盤注入用薬液(G5)を調製した。この薬液のpHは8.9 であった。更に別に、コロイダルシリカ(S3) 50ml と、10gの塩化マグネシウム及び 0.2gの枸櫞酸を 198mlの水に溶解して得られた塩化マグネシウム水溶液50mlとを、それぞれ25℃に保った後、ビーカー内で両液全量を混合することにより、地盤注入用薬液(G6)を調製した。この薬液のpHは9.4 であった。 【0026】次いで、これら地盤注入用薬液(G4)、(G5)及び(G6)それぞれを、25℃に保ってゲル化を起こさせたが、不均一な凝集ゲルが生成した。 第 1 表 地 盤 注 入 用 薬 液 ゲ ル 化 針貫入 符号 pH SiO_(2)濃度(%) 温度 (℃) 時間 (秒) 長さ(mm) (G1) 8.0 21.2 35 8 23.8 (G1) 8.0 21.2 40 3 16.1 (G1) 8.0 21.2 50 1 12.3 (G1) 8.0 21.2 25 300 - (G2) 8.1 21.2 50 3 9.8 (G2) 8.1 21.2 25 570 - (G3) 7.7 13.25 50 4 13.7 (G3) 7.7 13.25 25 1020 - 実施例4 直径8cm、高さ25cmの円筒型モールドに、間隙率50%になるように粒径10?20mmの礫を充填した後、このモールド内を水で飽和させた。次いで、実施例1と同様にして(A1)液及び(B1)液を調製し、それぞれ40℃に保った。この40℃に保たれた(A1)液及び(B1)液を、前記1.5 ショット方式で薬液(G1)として上記水で飽和したモールド内に注入した。モールド内の水は完全に薬液(G1)で置換された。この注入後1分経過時点で、薬液(G1)が注入されたモールド内に逐次上昇の水圧をかけたところ、6kg/cm^(2) の水圧に到ったとき、モールド内に通水が起こった。」 (オ)甲5 甲5には、次の記載がある。 「【0046】3.アルカリ性シリカ溶液 コロイダルシリカと水ガラス、あるいはコロイダルシリカと活性珪酸と水ガラスを混合してアルカリ性シリカ溶液を得る。これらの混合割合と混合液のSiO_(2) 濃度、およびコロイダルシリカあるいはコロイダルシリカと活性珪酸に由来するSiO_(2) 量(%)と安定性を表4に示した。 【0047】 【表4】 【0058】5.アルカリ性シリカ溶液-酸性反応剤系表4の実施例2のアルカリ性シリカ溶液と酸性反応剤としてリン酸を混合して中性?酸性領域に調整した結果を一例として表5に示した。 【0059】 【表5】 」 「【0061】6.アルカリ性シリカ溶液-反応剤系、脱アルカリシリカ溶液-反応剤系 表4のアルカリ性シリカ溶液は、比較例3を除いては全くゲル化することなく安定である。これに反応剤を添加してゲル化せしめることができる。また、脱アルカリシリカ溶液に反応剤を添加してゲル化を調整することもできる。アルカリ性シリカ溶液-反応剤系および脱アルカリシリカ溶液-反応剤系のゲル化時間と固結強度を表6に一括して示す。 【0062】 【表6】 」 (カ)甲6 甲6には、次の記載がある。 「【0073】(3)水ガラスとコロイダルシリカ或いは水ガラスとコロイダルシリカと上記(1)の水ガラスを脱アルカリした酸性シリカ溶液を混合してなるアルカリ性シリカ溶液。」 「【0094】(7)水ガラスとコロイダルシリカ或いは水ガラスとコロイダルシリカと水ガラスの脱アルカリシリカ液からなるアルカリ性シリカ溶液と酸性反応剤とからなる系。 【0095】表4の実施例23のアルカリ性シリカ溶液と酸性反応剤としてリン酸を混合して中性?酸性領域に調整した結果を一例として表8に示した。 【0096】 【表8】 【0097】表8から本発明固結材では、ゲル化時間、特に長時間でのゲル化時間の調整が可能なことがわかる。同じ3号水ガラスを用い、SiO_(2) 濃度、pHをほぼ同一にした実施例48,49 と比較例7(3号水ガラス-リン酸系)を比べてみると、実施例ではリン酸量は非常に少なく、約半量で足りている。また、ゲル化時間は非常に長くなっているにもかかわらず、強度的には全く遜色のない固結体が得られている。リン酸以外の酸性反応剤においても程度の差はあれこのような傾向が見られる。 【0098】(8)アルカリ性シリカ溶液-反応剤系、脱アルカリシリカ溶液-反応剤系表4のアルカリ性シリカ溶液は、比較例3を除いては全くゲル化することなく安定である。これに反応剤を添加してゲル化を調整することもできる。 【0099】アルカリ性シリカ溶液-反応剤系および脱アルカリシリカ溶液-反応剤系のゲル化時間と固結強度を表9に一括して示す。 【0100】 【表9】 」 (キ)甲7 甲7には、次の記載がある。 「【0052】 図1は、本発明の軟弱地盤の地盤強化方法を実施するに当り、現地に設置される施工システムの概念を示し、図において、符号1は地盤強化の対象とされる軟弱地盤中に可塑性グラウトを注入する注入管であり、当該注入管1には可塑性グラウトの吐出口(図省略)が注入管1の軸方向に一定間隔おきに複数形成されている。そして、当該注入管1は地盤中に一定間隔おきに複数設置されている。 【0053】 符号2は一端側が注入管1側に、他端側が可塑性グラウト製造プラント3側にそれぞれ接続され、可塑性グラウト製造プラント3で製造された可塑性グラウトを各注入管1に圧送するための圧送管であり、当該圧送管2には変形可能な可とう性の管が用いられている。 【0054】 そして、符号4は注入管1と圧送管2によって可塑性グラウトを地盤中に一定の注入圧で圧入する過程で、機械的な回転動作または往復動作によって圧送管2内を圧送される可塑性グラウトの流れを規則的に遮断することにより、可塑性グラウトの注入圧と各注入管1の周辺地盤に所定の衝撃を与える衝撃発生装置である。」 「【符号の説明】 【0069】 1 注入管 2 圧送管 3 可塑性グラウト製造プラント 4 衝撃発生装置 5 衝撃発生弁 5a 回転体 5b 押圧ローラ 5c クランク軸 5d 押圧ロッド 6 可塑状ゲル固結体 7 パッカー 8 ドレーン材」 「【図1】 」 (ク)甲8 甲8には、次の記載がある。 「【0023】 図5は本発明にかかる液状化防止装置のフローシートである。図5において、Xは液状化防止装置であって、薬液製造装置5およびこの装置5で製造された薬液を地盤6中に注入する注入装置7とを備え、これら装置の間には薬液に気泡を混入する気泡混入装置8を配置する。図5中、9は圧縮ガスボンベまたはエアコンプレッサー、10は薬液の貯蔵タンク、11は気泡の混入された薬液の貯蔵タンク、12は注入ポンプ、13は送液ポンプである。 【0024】 図5において、まず、薬液製造装置5によってシリカ系の溶液型地盤固結用薬液、具体的には、非アルカリ性シリカゾル溶液や活性シリカコロイド溶液を製造し、次いで、この薬液を一次貯蔵タンク10を経て送液ポンプ13によって気泡混入装置8に送液する。気泡混入装置8中の薬液には圧縮ガスボンベ9からの気泡を混入し、得られた気泡混入薬液を貯蔵タンク11中に貯蔵する。次いで、貯蔵タンク11中の気泡混入薬液を注入ポンプ12を介し、注入管理システム14で管理しながら地盤6中に注入する。このようにして地盤6中に気泡の混入された固結体を形成し、地盤の液状化を防止する。 【0025】 図6は本発明にかかる他の形式の液状化防止装置のフローシートである。図6において、図5と同様、Xは液状化防止装置であって、薬液製造装置5およびこの装置5で製造された薬液を地盤6中に注入する注入装置7を備え、これら装置の間には薬液に気泡を混入する気泡混入装置8を配置する。 【0026】 図6において、まず、薬液製造装置5によってシリカ系の溶液型地盤固結用薬液、例えば、酸性シリカゾルグラウトや活性シリカグラウトを製造し、次いで、この薬液を一次貯蔵タンク10を経て貯蔵タンク11に送液する。一方、水槽14に貯留された水を送液ポンプ13を経て気泡混入装置8に送液し、この水の中に圧縮ガスボンベ9からの圧縮ガスを吹き込んで気泡の混入された希釈液を製造する。次いで、貯蔵タンク11中に気泡混入装置8からの希釈液を送液して気泡混入薬液を調整し、この薬液を注入ポンプ12を介し、注入管理システム14で管理しながら地盤6中に注入する。このようにして、地盤6中に気泡の混入された固結体を形成し、地盤の液状化を防止する。」 「【符号の説明】 【0029】 A 固結体 X 液状化防止装置 Y 注入装置 1 砂粒子 2 皮膜 3 間隙水 4 気泡 5 薬液製造装置 6 地盤 7 注入装置 8 気泡混入装置 9 圧縮ガスボンベ 10 貯蔵タンク 11 貯蔵タンク 12 注入ポンプ 13 送液ポンプ 14 水槽」 「【図5】 」 「【図6】 」 (ケ)甲9 甲9には、次の記載がある。 「【0037】実施例20?28、比較例8?11 表1に示すコロイダルシリカと表2に示す珪酸カリウムの混合液(A液)に硬化剤(B液)を表9の割合で配合した地盤注入剤につき、ホモゲルを作成した。得られた評価特性をA液の組成と対比させて表10に示した。 【0038】 【表9】 ┌────┬────────────┬──────────────┐ │ │ A液(100ml) │ B液(100ml) │ │ ├─────┬───┬──┼──┬───┬────┬──┤ │ 例No. │コロイダル│A珪酸│水 │75%│MgSO_(4) │Na_(5)P_(3)O_(18)│水 │ │ │シリカ │カリ │ │燐酸│・7H_(2)O│ (g)│ │ │ │A-1(ml)│ (ml)│(ml)│(ml)│ (g) │ │(ml)│ ├────┼─────┼───┼──┼──┼───┼────┼──┤ │比較例8│ 90 │ 10 │ 0 │ 3.0│ 3.0 │ 3.0 │ 96 │ │実施例20│ 70 │ 30 │ 0 │ 3.0│ 3.0 │ 3.0 │ 96 │ │ 〃 21│ 50 │ 50 │ 0 │ 3.0│ 3.0 │ 3.0 │ 96 │ │ 〃 22│ 40 │ 60 │ 0 │ 3.0│ 3.0 │ 3.0 │ 96 │ │比較例9│ 30 │ 70 │ 0 │ 3.0│ 3.0 │ 3.0 │ 96 │ │実施例23│ 50 │ 30 │ 20 │ 3.0│ 3.0 │ 3.0 │ 96 │ │ 〃 24│ 40 │ 20 │ 40 │ 3.0│ 3.0 │ 3.0 │ 96 │ │ 〃 25│ 50 │ 30 │ 20 │ 4.5│ 3.0 │ 3.0 │ 95 │ │ 〃 26│ 50 │ 30 │ 20 │ 3.6│ 2.4 │ 2.4 │ 96 │ │ 〃 27│ 50 │ 30 │ 20 │ 2.1│ 2.1 │ 2.1 │ 97 │ │ 〃 28│ 50 │ 30 │ 20 │ 3.3│ 3.3 │ 3.3 │ 96 │ │比較例10│ 25 │ 20 │ 55 │ 3.0│ 3.0 │ 3.0 │ 96 │ │ 〃 11│ 100 │ 0 │ 0 │ 3.0│ 3.0 │ 3.0 │ 96 │ └────┴─────┴───┴──┴──┴───┴────┴──┘ 【0039】 【表10】 ┌────┬───────────┬─────┬─────────┐ │ │ A液の組成 │ゲルタイム│圧縮強度(kg/cm^(2)) │ │ 例No.├───┬───────┤(分一秒)├────┬────┤ │ │モル比│SiO_(2)濃度(wt%) │ │ 1日 │ 3日 │ ├────┼───┼───────┼─────┼────┼────┤ │比較例8│ 23 │ 33 │ 1-30 │ 0.25 │ 0.25 │ │実施例20│ 10 │ 29 │ 0-03 │ 0.87 │ 0.98 │ │ 〃 21│ 6 │ 28 │ 0-05 │ 1.21 │ 1.23 │ │ 〃 22│ 5 │ 28 │ 0-06 │ 1.12 │ 1.12 │ │比較例9│ 4 │ - │A液調製時にゲルが発生した │ │実施例23│ 8 │ 24 │ 0-03 │ 0.61 │ 0.63 │ │ 〃 24│ 9 │ 19 │ 0-05 │ 0.40 │ 0.40 │ │ 〃 25│ 8 │ 24 │ 0-04 │ 0.62 │ 0.63 │ │ 〃 26│ 8 │ 24 │ 0-10 │ 0.52 │ 0.54 │ │ 〃 27│ 8 │ 24 │ 0-32 │ 0.41 │ 0.41 │ │ 〃 28│ 8 │ 24 │ 0-03 │ 0.62 │ 0.63 │ │比較例10│ 7 │ 14 │ 0-07 │ 0.20 │ 0.20 │ │ 〃 11│ 77 │ 30 │ 3時間後でもゲル化せず │ └────┴───┴───────┴─────┴────┴────┘ 」 (コ)甲10 甲10には、次の記載がある。 「【0001】 本発明はゲルを破砕して得られたゾルを地盤中に注入し、ゲル化することにより地盤を固結させる地盤改良工法である。更に得られたゲルを破砕して得られたゾルに糖を加え、再ゲル化を遅らせ、微生物の代謝作用によりこれを地盤中で固結させる地盤改良工法に係り、粒径の異なるゾルを使用することにより、大掛かりな装置や有害な薬品を必要とせず、液状化対策工事、構造物基礎下の耐震補強等に適した地盤改良工法に関する。」 (サ)甲11 甲11には、次の記載がある。 「【0001】 本発明は地盤中でシリカ化合物とアルコールとを反応して地盤を固結する地盤改良方法に係り、特に、地盤の固結に際して有害物質を発生せず、このため環境への悪影響を与えることがなく、しかも、大掛りな装置や有害な薬品を必要とせず、液状化対策工事、構造物基礎下の耐震補強等に適した地盤改良方法に関する。」 (シ)甲12 甲12には、次の記載がある。 「【0004】 しかしながら、特許文献1のように、アルカリ性シリカ溶液を調製後に酸等の反応剤を添加する場合には、得られる地盤注入用固結材が白濁し易く、また部分ゲルと称呼される副生物が生じ易いという問題がある。得られる地盤注入用固結材が白濁したり部分ゲルが生じたりする場合には、地盤注入用固結材の均質性が十分ではなく、液状化防止注入工事に適用した際に注入全領域において十分な効果が得られない場合がある。また、従来の製造方法では水を単独成分として取扱っておらず、コロイダルシリカ、水ガラス及び酸の希釈に予め使われており、有効成分を精度良く計量することが困難な場合がある。特に酸の計量精度が悪い場合には、得られる地盤注入用固結材のpHを所望の範囲に調整し難く、所望のゲルタイムに調整することが困難となる。 【0005】 従って、白濁や部分ゲルの発生が抑制され、所望のpHを有する均質な地盤注入用固結材を精度良く調製するための製造方法の開発が望まれている。」 「【0029】 コロイダルシリカの供給速度は限定されないが、例えば、地盤注入用固結材を1000L調製する場合は、50?1500L/min程度が好ましく、100?1000L/min程度がより好ましい。 【0030】 珪酸ソーダの供給速度は限定されないが、例えば、地盤注入用固結材を1000L調製する場合は、50?1500L/min程度が好ましく、100?1000L/min程度がより好ましい。 【0031】 上記供給速度で各成分を供給することにより、更に白濁及び部分ゲルの発生を抑制することができる。」 (ス)甲13 甲13には、次の記載がある。 「酸性反応剤と水ガラスからなる非アルカリ性シリカゾルグラウトは、酸性から中性領域でゲル化せしめ、アルカリの溶脱がなく、珪酸含有量が少ない割には優れた固結強度が得られる点から最近広く実用に供されている。しかし、次に示すような欠点を有する。 (1)高濃度水ガラスの非アルカリ性シリカゾルの製造には高度の製造技術が必要である。 水ガラス濃度がうすい場合の非アルカリ性シリカゾルの製造は比較的容易であるが、水ガラス濃度が濃厚になると部分ゲル化を起こして不均一状態になり易く、ゲル化時間が短いため、ミキサー中でゲル化してしまう。 したがって、高強度を得んがために高濃度水ガラスの非アルカリ性シリカゾルを製造するには水ガラスの濃度に限度がある。」(1頁右下欄6行?2頁左上欄1行) (セ)甲14 甲14には、次の記載がある。 「【0022】 コロイダルシリカの供給速度は限定されないが、例えば、地盤注入用固結材を1000L調製する場合は、20?200L/min程度が好ましく、50?100L/min程度がより好ましい。 【0023】 珪酸ソーダの供給速度は限定されないが、例えば、地盤注入用固結材を1000L調製する場合は、20?200L/min程度が好ましく、50?100L/min程度がより好ましい。」 (ソ)甲15 甲15には、次の記載がある。 「【0027】 本発明の非アルカリシリカゾルは、コロイダルシリカであり、SiO_(2)又はその水和物が水中に分散したものである。その化学式は、一般にSiO_(2)・xH_(2)O(x:5.0?200.0、好ましくは5.0?163.6)で表される。その濃度は一般に2?40質量%(好ましくは4?30質量%)であり、コロイド粒子の粒径は一般に2?200nm(好ましくは10?100nm)であり、そのpHは7?12(好ましくは8?11)である。このような非アルカリシリカゾルは、例えば、ASFシリカ-30、-20、-6、-4の商品名(強化土エンジニヤリング(株)製)で市販されており、好ましく使用することができる。」 「【0029】 本発明のヒ素拡散防止用注入薬液は、さらに珪酸ナトリウム(水ガラス)を含むことができる。珪酸ナトリウムは、成分としてはNa_(2)O・nSiO_(2)(n:2.0?5.0,好ましくは2.1?3.7)で表され、その化学式は、一般にNa_(2)O・nSiO_(2)・xH_(2)O(n:2.0?5.0,好ましくは2.1?3.7、x:8.0?50.0,好ましくは8.7?32.6)で表される。例えば、PRシリカの商品名(強化土エンジニヤリング(株)製)で市販されており、好ましく使用することができる。成分Na2O・nSiO_(2)の濃度は一般に7?55質量%である。」 (タ)甲16 甲16には、次の記載がある。 「3 組成、成分情報 単一の化学物質・混合物の区別:単一化学物質 化学名又は一般名:オルソリン酸(Orthophosphoric acid) 正リン酸 化学式又は構造式:H_(3)PO_(4) CAS番号:7664-38-2 成分:リン酸 75% 水 25% 官報公示整理番号(化審法):(1)-422」(「頁3/8」の10?17行) イ 甲1に記載された発明の認定(甲1発明) 甲1には、「地盤注入用グラウト材」(【0001】)が記載され、同【0022】に、「実施例1」について、「B液の材料配合を表1に、A液はシュウ酸濃度を0.1mol/Lとし、硫酸の配合量を変えた材料配合とし、A液の材料配合を表2に記載した。二液の混合は、攪拌下にA液にB液を手早く加えた。混合液(注入材)のpHとゲル化時間を測定し、結果を表3、図1および図2に記載した。」と記載されており、「表1」及び「表2」を参照すれば、実施例1の「地盤注入用グラウト材」(混合液(注入材))は、A液[コロイダルシリカ、硫酸、シュウ酸2水和物(シュウ酸)及び水]と、B液[珪酸ソーダ及び水]とを含むものであるといえる。 また、同【0032】に、「実施例3」について、「各種有機酸と燐酸と硫酸を使用した注入材の例を示す。B液には実施例1と同じ材料を使用し、A液は有機酸と燐酸の配合量を一定とし、硫酸の配合量を変えた材料配合とし、A液の材料配合を表8-1?3に記載した。混合液(注入材)のpHとゲル化時間を測定し、結果を表9-1?3および図3および図4に記載した。」と記載されており、上記【0022】の記載、「表1」及び「表8-2」を参照すれば、実施例3の「地盤注入用グラウト材」は、「コロイダルシリカ、硫酸、燐酸、クエン酸1水和物及び珪酸ソーダを混合した地盤注入用グラウト材」であって、A液[コロイダルシリカ、燐酸、硫酸、クエン酸1水和物(クエン酸)及び水]に、B液[珪酸ソーダ及び水]を手早く加えることによって製造されるものであるといえる。 そうすると、甲1の実施例3には以下の発明が記載されていると認められる。 「コロイダルシリカ、硫酸、燐酸、クエン酸1水和物及び珪酸ソーダを混合した地盤注入用グラウト材の製造方法であって、 A液[コロイダルシリカ、燐酸、硫酸、クエン酸1水和物(クエン酸)及び水]に、B液[珪酸ソーダ及び水]を手早く加えることによって製造する地盤注入用グラウト材の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 ウ 対比・判断 まず、本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明1の「地盤注入用グラウト材」、「コロイダルシリカ」、「硫酸」、「燐酸」及び「珪酸ソーダ」は、本件発明1の「地盤注入用固結材」、「コロイダルシリカ」、「硫酸」及び「リン酸」及び「珪酸ソーダ」に、それぞれ相当する。 また、甲1発明の「クエン酸1水和物」は、本件発明1の「クエン酸化合物」に相当し、該「クエン酸1水和物」は、「地盤注入用グラウト材」に添加されたものであるから、本件発明1の「添加剤」といえるものである。 そして、本件発明1と甲1発明とは、「地盤注入用固結材の製造方法」である点で共通する。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸及び/又はリン酸を含有する地盤注入用固結材であって、リン酸ナトリウム、クエン酸系化合物及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を混合した地盤注入用固結材の製造方法。」である点で一致し、次の相違点で相違が認められる。 (相違点1) 地盤注入用固結材における「SiO_(2)濃度」及び「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量」について、本件発明1は、「SiO_(2)濃度が10質量%超過であり、前記SiO_(2)中、前記コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下であ」る点が特定されているのに対し、甲1発明における「地盤注入用グラウト材」の「SiO_(2)濃度」及び「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量」は不明な点。 (相違点2) 本件発明1は、「施工現場において原料撹拌用の実機により、前記硫酸及び/又はリン酸に更にリン酸ナトリウム、クエン酸系化合物及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を混合した混合液を調製し、次いで前記混合液に前記珪酸ソーダ及び前記コロイダルシリカを同時又は順不同で混合する」点が特定されているのに対し、甲1発明はこのような規定はない点。 ここで、相違点について検討する。 事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。 甲1には、「燐酸、硫酸及びクエン酸1水和物(クエン酸)」を混合した混合液に対して、「コロイダルシリカ」又は「珪酸ソーダ」を混合することは、記載も示唆もされていない。また、甲1には、A液[コロイダルシリカ、燐酸、硫酸、クエン酸1水和物(クエン酸)及び水]の製造に際して、「コロイダルシリカ、燐酸、硫酸、クエン酸1水和物(クエン酸)及び水」のそれぞれを、どのような順序で混合してA液を得ているのかについては記載されていない。 そして、申立人が提示した、他の証拠(甲2?16)にも、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項については、記載も示唆もされておらず、しかも、当該発明特定事項が、本件の出願前に当業者にとって技術常識であるとする根拠は見当たらない。 そうすると、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用する動機付けは見出すことができない。 一方、本件明細書には、次の記載がある。 「【発明を実施するための形態】 【0031】 以下に調製例及び試験例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は調製例に限定されない。 【0032】 調製例1?9(地盤注入用固結材の調製) ≪使用材料≫ 以下の調製例では下記の材料を用いた。 1)5号珪酸ソーダ (SiO_(2):25.6質量%, Na_(2)O:7.1質量%, モル比:3.7, 富士化学(株)製) 2)コロイダルシリカ (SiO_(2):40.0質量%, Na_(2)O:0.6質量%, 日産化学工業(株)製) 3)酸 ・78%工業用硫酸 ・75%工業用リン酸 4)添加剤 ・75%工業用リン酸 ・リン酸二水素ナトリウム(和光純薬工業(株)製) ・クエン酸(和光純薬工業(株)製) ・硫酸アルミニウム((株)北陸化成工業所製, 14から25水和物) ≪地盤注入用固結材の調製≫ A液:コロイダルシリカを水で希釈したもの B液:5号珪酸ソーダを水で希釈したもの C液:酸及び添加剤を水で希釈したもの 目標とする地盤注入用固結材のSiO_(2)濃度(質量%)と、それを調製するためのA液、B液及びC液の配合条件を下記表1及び表2に示す。 【0033】 【表1】 【0034】 【表2】 【0035】 C液を混合容器に入れ、270rpmで撹拌した。B液を7300ml/hで全量滴下し、その後A液を一気に添加した。これにより、地盤注入用固結材を得た。各調製例における作液状況(部分ゲルの有無)を下記表3に示す。 【0036】 【表3】 【0037】 SiO_(2)濃度が10質量%を超える地盤注入用固結剤は、従来は調製が困難であったが、本発明の実施態様(調製例1?9)によれば、特定の添加剤を併用することにより、高速撹拌に頼ることなく調製することが可能である。」 「【0046】 試験例2(原料の添加順序と作液状況との関連性) (調製例10) A液(コロイダルシリカ)とB液(珪酸ソーダ)の混合順序を逆にした以外は、調製例5と同様にして地盤注入用固結材を調製した。即ち、C液(硫酸+添加剤)にA液を混合後、B液を混合する順序とした。 (調製例11) A液(コロイダルシリカ)とB液(珪酸ソーダ)を同時に混合した以外は、調製例5と同様にして地盤注入用固結材を調製した。即ち、C液(硫酸+添加剤)に対してA液及びB液を同時に混合する順序とした。 (比較調製例12) A液(コロイダルシリカ)にC液(硫酸+添加剤)を混合後、B液(珪酸ソーダ)を混合する順序とした以外は、調製例5と同様にして地盤注入用固結材を調製した。 (比較調製例13) 添加剤をC液ではなくA液に配合し、且つ、A液(コロイダルシリカ+添加剤)にB液(珪酸ソーダ)を混合後、C液(硫酸)を混合する順序とした以外は、調製例5と同様にして地盤注入用固結材を調製した。 (比較調整例14) A液(コロイダルシリカ)にB液(珪酸ソーダ)を混合後、C液(硫酸+添加剤)を混合する順序とした以外は、調製例5と同様にして地盤注入用固結材を調製した。 【0047】 各調製例10?14における作液状態は下記の通りである。 【0048】 【表6】 【0049】 表6の結果より、本発明では酸に添加剤を混合した混合液を調製し、次いで前記混合液に前記珪酸ソーダ及び前記コロイダルシリカを同時又は順不同で混合する順序で地盤注入用固結材を調製することが適切であることが分かる。」 この記載によれば、「酸に添加剤を混合した混合液を調製し、次いで前記混合液に前記珪酸ソーダ及び前記コロイダルシリカを同時又は順不同で混合する順序で地盤注入用固結材を調製する」ものについては、作液状態は良好であり、「(比較調製例12)」のように、「A液(コロイダルシリカ)にC液(硫酸+添加剤)を混合」したものに対して、「B液(珪酸ソーダ)を混合する」ものは、部分ゲル発生が確認されることが理解できる。 そうすると、上記「(比較調製例12)」からみて、甲1発明のように「A液[コロイダルシリカ、燐酸、硫酸、クエン酸1水和物(クエン酸)及び水]に、B液[珪酸ソーダ及び水]を手早く加えることによって製造する」ものは、「地盤注入用グラウト材」の製造過程において「部分ゲル発生」が生じることがないとはいえない。 これに対し、上記相違点2に係る発明特定事項を備えた本件発明1は、部分ゲル発生が伴わない作液状態が良好な地盤注入用固結材の製造方法といえるものであるから、製造過程における「部分ゲル発生」が生じない点について、甲1発明、申立人が提示した証拠(甲1?16)、及び、当業者の技術常識からは予測し得ない作用効果を奏するものというべきである。 したがって、本件発明1は、甲1発明、甲1?16及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。 (申立人の主張について) 申立人は、上記相違点2について、甲9を引用して、次のように主張している。 「甲第9号証には、『コロイダルシリカを含むA液と、燐酸および燐酸ナトリウムを含むB液とを配合した地盤注入剤』が開示されている。甲第9号証には、珪酸ソーダを配合することについては開示されていないが、『酸成分である燐酸と添加剤である燐酸ナトリウムとを混合した混合液(B液)を調製した後、シリカ成分であるコロイダルシリカ(A液)を混合する』との技術思想については開示されているから、『コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸及び/又はリン酸に加えて、更にリン酸ナトリウム、クエン酸系化合物及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤」を含む地盤注入用固結材を製造するにあたり、甲第9号証に記載された上記技術思想に基づき、『前記硫酸及び/又はリン酸に更にリン酸ナトリウム、クエン酸系化合物及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を混合した混合液を調製し、次いで前記混合液に前記珪酸ソーダ及び前記コロイダルシリカを同時又は順不同で混合する』ものとすることは、当業者であれば容易になし得るものである。」(特許異議申立書35頁20行?36頁4行) しかしながら、申立人が主張するように、甲9に、「酸成分である燐酸と添加剤である燐酸ナトリウムとを混合した混合液(B液)を調製した後、シリカ成分であるコロイダルシリカ(A液)を混合する」との技術思想については開示されているとしても、甲1発明は、さらに「硫酸」(A液)や「珪酸ソーダ」(B液)を含むものであり、甲1発明において、甲9記載の技術思想を単に適用した場合、「硫酸」や「珪酸ソーダ」の混合が、どの時点で、どのような混合物に対して行えばいいのかは不明とならざるを得ないことから、甲1発明において、甲9記載の技術思想を直ちには適用することはできないものというべきであって、甲9記載の技術思想に基いて、上記相違点2係る本件発明1の発明特定事項は当業者が容易に想到し得るとすることはできないものであり、申立人の上記主張は採用することができない。 (まとめ) 以上のとおり、甲1発明において、上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到するということはできないから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲2?甲16の記載及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 また、本件発明2?6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2?6は、甲1発明、甲2?甲16の記載及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 よって、申立人の上記「3.(1)」の主張はいずれも採用することができない。 (2)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について ア 本件明細書の【0020】には、「上記コロイダルシリカと珪酸ソーダの割合(混合割合)に関しては、地盤注入用固結材中のSiO_(2)(換算値)において、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下(好ましくは15?40質量%)となるように割合を調整する。コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%を超えると固結強度が十分に得られなくなるおそれがある。また、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が15質量%未満となると地盤注入用固結材に収縮低減効果を十分に与えられないおそれがある。」と記載され、【0045】には、「表5の結果より、SiO_(2)中のコロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が増えるにつれて一軸圧縮強さが低下することが分かる。なお、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が90質量%になると地盤注入用固結材はゲル化しないことも分かった。一軸圧縮強さの点からはコロイダルシリカに由来するSiO_(2)量は40質量%以下とすることが望ましい。」と記載されており、「SiO_(2)中、コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下である」点について、本件発明の課題を解決するための発明特定事項として記載されていると認められる。 そうすると、本件発明1に係る「40質量%以下」との発明特定事項は本件の発明の詳細な説明の記載により裏付けられているといえる。 したがって、本件発明1及びこれに従属する本件発明2?6はサポート要件を満足しないという、申立人の上記「3.(2)ア」の主張は採用することができない。 イ 本件明細書の【0028】には、「酸及び添加剤の混合物(水希釈物を含む)へのコロイダルシリカの供給速度は限定されないが、地盤注入用固結材を1000L調製する場合は、480L以上/h程度が好ましく、960L以上/h程度がより好ましい。また、同様に、珪酸ソーダの供給速度も限定されないが、地盤注入用固結材を1000L調製する場合は、2100?12000L/h程度が好ましく、4200?9000L/h程度がより好ましい。」と記載されている。 そうすると、本件発明6の「前記珪酸ソーダの供給速度が2100?12000L/hであり、前記コロイダルシリカの供給速度が480L/h以上である」という発明特定事項は、「地盤注入用固結材を1000L調製する場合」における「珪酸ソーダの供給速度」及び「コロイダルシリカの供給速度」を規定したものといえ、本件発明6に係る上記発明特定事項は本件の発明の詳細な説明の記載により裏付けられているものであるといえる。 したがって、本件発明6はサポート要件を満足しないという、申立人の上記「3.(2)イ」の主張は採用することができない。 (2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)について 申立人は、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下」とは、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が0質量%」の場合も含まれると主張しているものの、本件発明は、コロイダルシリカを含有するものであるから、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が0質量%」となる場合は明らかに含まれない。 そうすると、「コロイダルシリカに由来するSiO_(2)量が40質量%以下」という記載は、「コロイダルシリカ、珪酸ソーダ、並びに、硫酸を含有する地盤注入用固結材」との発明特定事項と矛盾するものではなく、不明確とはいえない。 したがって、本件発明1およびこれに従属する本件発明2?6は、明確性要件を満足しないという、申立人の上記「3.(3)」の主張は採用することができない。 6.むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-08-07 |
出願番号 | 特願2016-63439(P2016-63439) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C09K)
P 1 651・ 537- Y (C09K) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小久保 敦規 |
特許庁審判長 |
冨士 良宏 |
特許庁審判官 |
川端 修 日比野 隆治 |
登録日 | 2017-11-02 |
登録番号 | 特許第6233818号(P6233818) |
権利者 | 富士化学株式会社 |
発明の名称 | 地盤注入用固結材の製造方法 |
代理人 | 特許業務法人三枝国際特許事務所 |