• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B41N
審判 全部申し立て 2項進歩性  B41N
管理番号 1343048
異議申立番号 異議2018-700326  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-04-18 
確定日 2018-08-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6213934号発明「スクリーンメッシュ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6213934号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6213934号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成28年6月27日に特許出願され、平成29年9月29日に特許権の設定登録がされ、同年10月18日に特許掲載公報が発行され,平成30年4月18日にその特許に対し、特許異議申立人 畠 明(以下、単に、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6213934号の請求項1ないし4に係る特許発明(以下、「本件特許発明1ないし4」などという。)は、それぞれ、その願書に添付した特許請求の範囲(以下,「本件特許請求の範囲」という。)の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるつぎのとおりのものである。
【請求項1】
表面粗さRaが0.10μm以下であるタングステン線を用いて製網された、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュ。
【請求項2】
前記タングステン線の引張強度は、3700MPa以上4200MPa以下である請求項1に記載のスクリーンメッシュ。
【請求項3】
前記タングステン線の長さが1000mmである場合における垂下長さは、900mm以上である請求項1又は2に記載のスクリーンメッシュ。
【請求項4】
前記タングステン線の線径は、22μm以下である請求項1?3のいずれか1項に記載のスクリーンメッシュ。

第3 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として甲1号証(特開2012-140735号公報)、甲2号証(特開2005-15936号公報)、甲3号証(東芝マテリアル株式会社,タングステンの一般的特性について,24頁,2007年10月24日(掲載日),https://web.archive.org/web/20071024115052/http://toshiba-tmat.co.jp/product/pdf/tan01.pdf),甲4号証(日本特殊管製作所ホームページ,2006年(掲載年),http://www.nittoku.com/material/tungsten.html),及び甲5号証(ニッタン技法,第21回日本国際工作機械見本市特別号,2002年10月28日,11頁),その他甲6ないし甲22号証を提出し、本件特許発明1及び4は,甲1号証に記載された発明であるから,本件特許発明1及び4に係る特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであること(以下、「異議理由1-1」という。)、また、本件特許発明2は、甲1号証に記載された発明に甲第3ないし5号証に記載された公知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明2に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであること(以下「異議理由1-2」という。),本件特許発明3は,甲1号証に記載された発明に甲第2号証に記載された発明を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明3に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであること(以下,「異議理由1-3」という。)を主張している。
また,特許異議申立人は,本件特許発明1,3及び4は,甲2号証に記載された発明に甲1号証に記載された発明を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明1,3及び4に係る特許は,いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであること(以下,「異議理由2-1」という。),本件特許発明2は,甲2号証に記載された発明に甲1号証及び甲3号証ないし5号証に記載された公知技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許発明2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであること(以下,「異議理由2-2」という。)から,本件特許発明1ないし4に係る特許は,特許法第113条第2号に該当し,同法第114条第2項に規定により取り消すべきものである旨主張している。
さらに,特許異議申立人は,本件特許発明1ないし4によっては,発明の課題が解決できると当業者が認識できないことから,本件特許発明1ないし4は,いずれも本件特許に係る出願の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえないから,本件請求項1ないし4に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願についてされたものであること(以下「異議理由3」という。)から同法第113条4号に該当し、同法第114条第2項の規定により取り消すべきものである旨主張している。

第4 特許異議申立理由についての検討
1 提出された証拠の記載
(1)甲1号証
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲1号証の段落【0002】,【0023】,【0032】,【0040】,【0065】の記載によれば,甲1号証には、「高密度なスクリーン印刷に用いることが可能で,継続使用によってメッシュの伸びが生じにくく,印刷精度を長期間維持でき,且つ安価で製造可能なスクリーン印刷用に利用される金属メッシュ織物であって,上記金属メッシュ織物は,中央部に母材としてオーステナイト系ステンレス鋼が未処理領域として残留したコア部と,コア部の表層側に設けられ,母材としてのオーステナイトステンレス鋼に炭素が拡散浸透した硬化層と,硬化層の表面に設けられた黒色クラッド層からなる3層構造をなす低伸度金属線材により実現されるものであり,硬化層及び黒色クラッド層の表面粗さが5nmから20nm程度である金属メッシュ織物」の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
(2)甲2号証
本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲2号証の段落【0001】,【0005】,【0011】,【0012】,【0028】ないし【0033】によれば,甲2号証には、「線径が18μmであり,真直性が1000mm長に切断したタングステン線で測定して950mmであるタングステン線を用いて織機により織られたタングステン線織物」の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
(3)甲3号証について
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲3号証には、「タングテン線は線径が細くなるにつれて引張り強さが増」すことが記載されている。
(4)甲4号証について
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲4号証には、「太さである径25μm未満のタングステン線の引張強さが3000?4500N/mm^(2)」であることが示されている。
(5)甲5号証について
本件特許出願の出願日前に頒布された刊行物である甲5号証には、「太さ0.025mm未満のタングステン線の引張り強さが3000?4500N/mm^(2)」であることが記載されている。

2 異議理由1-1(本件特許発明1及び4についての甲1号証に基づく第29条第1項第3号違反)について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「高密度なスクリーン印刷に用いることが可能で,継続使用によってメッシュの伸びが生じにくく,印刷精度を長期間維持でき,且つ安価で製造可能なスクリーン印刷用に利用される金属メッシュ織物」と本件特許発明1の「タンスグテン線を用いて製網されたスクリーン印刷用のスクリーンメッシュ」とは,「金属線を用いて製網されたスクリーン印刷用のスクリーンメッシュ」である点で共通するものといえる。
また,引用発明1の「中央部に母材としてオーステナイト系ステンレス鋼が未処理領域として残留したコア部と,コア部の表層側に設けられ,母材としてのオーステナイトステンレス鋼に炭素が拡散浸透した硬化層と,硬化層の表面に設けられた黒色クラッド層からなる3層構造をなす低伸度金属線材」の「硬化層及び黒色クラッド層の表面粗さが5nmから20nm程度である(0.005から0.02μm程度である)」ことと,本件特許発明1の「タングステン線」の「表面粗さRaが0.10μm以下である」こととは,共に「表面粗さRaが0.10μm以下の金属線」である点でも共通するものといえる。
してみると,本件特許発明1と引用発明1とは,「表面粗さRaが0.10μm以下の金属線を用いて製網されたスクリーン印刷用のスクリーンメッシュ」である点で一致し,つぎの点で相違する。
<相違点1>
金属線に関して,本件特許発明1が「タングステン線」であるのに対して,引用発明1は「中央部に母材としてオーステナイト系ステンレス鋼が未処理領域として残留したコア部と,コア部の表層側に設けられ,母材としてのオーステナイトステンレス鋼に炭素が拡散浸透した硬化層と,硬化層の表面に設けられた黒色クラッド層からなる3層構造をなす低伸度金属線材」である点
<相違点2>
表面粗さに関して,本件特許発明1が「タングステン線」の表面粗さであるのに対して,引用発明1は「硬化層及び黒色クラッド層」の表面粗さである点

イ 当審の判断
(ア)上記アのとおり,本件特許発明1と引用発明1とは,上記相違点1及び2の点で相違するものであるから,本件特許発明1は,甲1号証に記載された発明に該当するものではない。
(イ)特許異議申立人は,甲1号証の段落【0083】に「スクリーン印刷用版に用いる低伸度メッシュ織物の母材として,オーステンサイト系ステンレス鋼を例示的に説明したが,オーステナイト系ステンレス鋼の代わりに,マルテンサイト系ステンレス鋼やタングステンを低伸度メッシュ織物の母材として用いて,低伸度金属線材を形成してもよい」旨記載されていることを根拠に,甲1号証には,「タングステンを用いた金属メッシュ織物において,金属メッシュ織物を構成するタングステン線の表面粗さRaを5nmから20nmとする」ものが記載されている旨主張している(異議申立書の9頁3?23行)。
しかしながら,甲1号証に具体的に示されているものは,「オーステナイト系ステンレス鋼を母材とした」もののみであって,その硬化層や黒色クラッド層の厚み等は,製造条件により異なるものであることからすれば,オーステナイト系ステンレス鋼に変えて組成が異なるタングステンを母材として用いた場合に,炭素を拡散浸透した硬化層も同様に形成されるものということはできず,さらにその表面に形成される黒色クラッド層もどのようなものとなるのかは不明であるというほかない。そして,このように母材を変更しても,硬化層や黒色クラッド層が同様に形成されることを示す証拠も見当たらない。
以上のことから,甲1号証に「タングステンを用いた金属メッシュ織物において,金属メッシュ織物を構成するタングステン線の表面粗さRaを5nmから20nmとする」ものが記載されていると認めることができない。

ウ 特許法第29条第2項違反について
さらにすすんで上記相違点1及び2の想到容易性について検討する。
甲1号証において,オーステナイト系ステンレス鋼に代えてタングステンを母材とすることが示唆されているとしても,オーステナイト系ステンレス鋼に代えて組成が異なるタングステンを母材として用いた場合に,同じ条件により同様の硬化層や黒色クラッド層が形成されるのかや,その際の表面粗さなどがどの程度となるのかは,甲1号証の記載からは不明であるから,このような示唆に基づいたとしても,上記相違点1及び2を当業者が容易に想到し得るということはできない。
また,甲2ないし5号証には,上記相違点1及び2を当業者が容易に想到し得るとする根拠となる事項は何ら記載されていない。
そして,甲6ないし23号証においてもそのような根拠となる事項を見出すことができない。
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,引用発明1に甲2ないし5号証や甲6ないし22号証に記載の事実を適用して,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件特許発明4について
本件特許発明4は,本件特許発明1を引用するものであるから,少なくとも引用発明1とは,上記相違点1及び2で相違するものである。
そして,上記相違点1及び2が容易に想到し得るものといえないことは,上記(1)ウのとおりである。
したがって,本件特許発明4は,甲1号証に記載された発明に該当するものではないし,引用発明1に甲2ないし5号証や甲6ないし22号証に記載の事実を適用して,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)小括
上記のとおり、本件特許発明1及び4は、いずれも、甲1号証に記載された発明に該当せず,また,引用発明1及び甲2ないし5号証に記載された技術並びに甲6ないし22号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、異議理由1-1の理由及び証拠によっては、本件特許発明1ないし4を取り消すことはできない。

3 異議理由1-2及び1-3(本件特許発明2及び3についての甲1号証を主引用例とする特許法第29条第2項違反について)
本件特許発明2及び3は,本件特許発明1を引用するものであるから,少なくとも引用発明1とは,上記相違点1及び2で相違するものである。
そして,上記相違点1及び2が容易に想到し得るものといえないことは,上記(1)ウのとおりである。
したがって,本件特許発明2及び3は,引用発明1に甲2ないし5号証や甲6ないし22号証に記載の事実を適用して,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

4 異議理由2-1及び2-2(本件特許発明1ないし4についての甲2号証を主引用例とする特許法第29条第2項違反)について
(1)本件特許発明1について
ア 本件特許発明1と引用発明2を対比すると,両者は,「タングステン線を用いて製網されたメッシュ」である点で一致し,次の相違点で相違する。
<相違点3>
本件特許発明1のタングステン線の「表面粗さRaが0.10μm以下」であるのに対して,引用発明2のタングステン線の表面粗さが不明である点
<相違点4>
本件特許発明1のメッシュは「スクリーン印刷用のスクリーンメッシュ」であるのに対して,引用発明2は,タングステン線織物は「スクリーン印刷用」と特定されない点

イ 当審の判断
(ア)相違点3について検討する
上記2(1)イ(イ)で検討したように,そもそも甲1号証には,「タングステンを用いた金属メッシュ織物において,金属メッシュ織物を構成するタングステン線の表面粗さRaを5nmから20nmとする」ものが記載されていると認めることができないから,引用発明2に甲1号証の記載事項を適用したとしても,相違点3に係る本件特許発明1の構成に想到し得るものではない。
また,甲3ないし5及び甲6ないし22号証においても,「タングステン線を用いた金属メッシュ織物において,タングステン線の表面粗さRaが0.10μm以下」とすることについて記載されていないから,これらの証拠を考慮したとしても,相違点3につき,当業者が容易に想到し得るものとすることはできない。
(イ)特許異議申立人が異議申立書の28頁13行?33頁19行目において主張するように,本件特許に係る出願の出願日前において,金属ワイヤの製織工程において,製織機部品と金属ワイヤ表面間の摩擦による断線を原因とした織機の停止などの問題解消のため,金属ワイヤの表面をなめらかにすることが周知技術ないし技術常識であったことを考慮したとしても,タングステン線の表面をなめらかにすることが好ましいことは当業者が容易に想起し得るとしても,その根拠として異議申立人が提出した甲6ないし甲22号証には,タングステン線を用いて製網するにあたって,その表面粗さRaを0.10μm以下とすることにつき具体的に明示していない以上,タングステン線の表面をどの程度の表面粗さとすべきかまでが容易に想到し得るものとはいえない。
そして,本件特許明細書の段落【0046】及び図7においては,表面粗さRaが0.10μm以下のスクリーン印刷用のスクリーンメッシュが,製網中に断線がなく,設備摩耗もないものであることが示されていることに鑑みれば,引用発明2のタングステン線の表面粗さRaを0.10μm以下とすることを当業者が容易に想到し得るものということはできない。
(ウ)相違点4について検討する。
引用発明2のタングステン線織物は,電磁波シールドフィルタに用いるものであることが記載されているものの,スクリーン印刷用に用いることについては記載も示唆もされていない。
そして,電磁波シールドフィルタに用いるタングステン線織物が,スクリーン印刷用のスクリーンメッシュとして利用可能であることが,技術常識であるとする根拠もない。
(エ)以上のとおりであるから,本件特許発明1は,引用発明2に甲1,甲3ないし5号証や甲6ないし22号証に記載の事実を適用して,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(2)本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4は,いずれも本件特許発明1を引用するものであるから,少なくとも引用発明1とは,上記相違点3及び4で相違するものである。
そして,上記相違点3及び4が容易に想到し得るものといえないことは,上記(1)イのとおりである。
したがって,本件特許発明2ないし4は,引用発明1に甲2ないし5号証や甲6ないし22号証に記載の事実を適用して,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)小括
上記のとおり、本件特許発明1ないし4は、いずれも、引用発明2及び甲1,3ないし5号証に記載された技術並びに甲6ないし22号証記載の事実に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、異議理由2-1及び2-2の理由及び証拠によっては、本件特許発明1ないし4を取り消すことはできない。

5 異議理由3(特許法第36条第6項第1号違反)について
(1)異議申立人が主張する理由の概要
金属ワイヤの製織時の断線が生じるか否かは,金属ワイヤの表面粗さRa以外にも,その他の種々の製織条件,例えば金属ワイヤの線径や強力のばらつき,整経,準備工程の良否,整織時の金属ワイヤの張力変化等に影響されることが自明である。しかしながら,本件特許明細書には,図7に示される,表面粗さRaと設備の摩耗の発生の評価において,タングステン線の表面粗さRa以外の製網条件についての記載がない。そうすると,本件明細書の図7の評価結果の記載に接した当業者は,図7における断線の発生が,タングステン線の表面粗さRaに起因するものか,その他の製織条件によるものなのかを理解することができないことから,本件特許発明1ないし4に係る発明が本件特許明細書の発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲であるといえない。(異議申立書39頁7行?40頁10行)

(2)当審の判断
ア 本件特許明細書にはつぎの事項が記載されている。(下線は強調のために当審で付与したもの。)
(ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のスクリーンメッシュは、ステンレス製の金属線を用いて構成されている。ステンレス製の金属線は、強度が十分ではないため、使用時の伸び、短寿命などが発生する。このため、ステンレスよりも強度が強い材料を用いたスクリーンメッシュが求められる。
【0005】
そこで、本発明は、スクリーンメッシュなどに利用可能な高性能なタングステン線及びタングステン繊維、並びに、当該タングステン線又はタングステン繊維を用いたスクリーンメッシュなどを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係るタングステン線は、金属メッシュに用いられる、表面粗さRaが0.10μm以下であるタングステン線である。
【0007】
また、本発明の一態様に係るスクリーンメッシュは、前記タングステン線を用いて製網された、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュである。」
(イ)「【0025】
[タングステン線]
続いて、スクリーンメッシュ10及び10aに用いられるタングステン線100について説明する。上述したスクリーンメッシュ10及び10aは、以下に示す特徴を有するタングステン線100を用いて製網されたものである。
【0026】
タングステン線100は、極細の金属細線(金属繊維)であり、タングステン線100の線径(直径)(図1及び図2に示す線径d)は、例えば、22μm以下である。例えば、タングステン線100の線径は、18μm、16μm、13μm、9μm又は5μm以下などでもよい。
【0027】
本実施の形態では、タングステン線100の表面粗さRaは、0.10μm以下である。例えば、表面粗さRaは、0.07μm又は0.04μm以下でもよい。このように、タングステン線100の表面が滑らかであるので、タングステン線100を用いた製網の際の設備摩耗、及び、圧延時の断線などを抑制することができる。なお、製網後のタングステン線100(すなわち、タテ糸11及びヨコ糸12)の表面粗さRaは、0.10μmより大きくなっていてもよい。 」
(ウ)「【0030】
また、タングステン線100は、例えば、純タングステンによって構成されている。純タングステンは、純度99.9%以上のタングステンである。タングステン線100の純度は、例えば、95%以上でもよいが、これらに限定されない。本実施の形態では、タングステン線100の純度は、略100%である。
【0031】
タングステン線100は、例えば、次のような方法で製造することができる。まず、粒径5μmのタングステン粉末をプレス成型して焼結してインゴット化する。次に、インゴット化したタングステン塊に対して、周囲から鍛造圧縮して伸展するスエージング加工を施すことによりワイヤ状にする。その後、孔径を漸次小さくした複数の伸線ダイスを用いた線引き(伸線)を繰り返し行う。このとき、例えば、50MG時点での酸化物量の重量比を0.2%以上0.5%以下として、線引きを孔径200μmの単結晶ダイヤモンドダイスから始める。これにより、表面粗さRaが0.10μm以下のタングステン線100を製造することができる。なお、「MG」とは、長さ200mmの線の質量をミリグラムで表した数値を示す単位である。
【0032】
なお、スエージング加工後に熱処理、及び、線引き後に電解研磨などを適宜行ってもよい。これにより、タングステン線100の表面性を一層高めることができる。すなわち、タングステン線100の表面粗さRaを一層小さくすることができる。 」
(エ)「【0041】
[効果など]
以下では、スクリーンメッシュ10及びタングステン線100の効果について、本発明に至った経緯も含めて説明する。
【0042】
従来、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュは、ステンレス線(SUS線)を用いて製造されていた。しかしながら、ステンレス線は強度が十分ではないために、ステンレス線を用いて製網されたスクリーンメッシュでは、スキージに押し込まれた時に伸びてしまい、網目(開口)の形状が変形するという問題がある。
【0043】
そこで、本発明者らは、強度がより強い材料を用いてスクリーンメッシュを製造することを検討した。具体的には、本発明者らは、強度が強い材料としてタングステンに着目し、スクリーンメッシュを製造することを検討した。タングステン線は、硬度はステンレス線の4倍程度であり、引張強度はステンレス線の1.3倍程度である。このように、タングステン線はステンレス線よりも強くて伸びにくいので、タングステン線を用いて製網されたスクリーンメッシュは、スキージに押し込まれた時の網目の変形が抑制される。したがって、スクリーン印刷を精度良く行うことができる。
【0044】
しかしながら、タングステン線には、表面が粗いという問題がある。表面が粗いタングステン線を用いて製網を行った場合、製網装置(織機)などの設備の摩耗が激しい。具体的には、製網装置が備える部品(具体的には、タングステン線を押さえる筬)が摩耗により消耗し、交換頻度が増加する。また、製網時の設備の摩耗だけでなく、製網後に圧延したときにタングステン線に割れが発生する。このため、一般的なタングステン線を製網しただけでは、スクリーン印刷に利用可能なスクリーンメッシュを製造することが難しいことが判明した。
【0045】
そこで、発明者らは鋭意検討を重ねた結果、タングステン線の表面性を十分に高めることで、上記の問題を解決することができた。
【0046】
以下では、表面粗さRaが異なる複数のタングステン線に対して、製網中の断線の発生、及び、製網装置の筬などの設備の摩耗について評価した結果について説明する。ここでは、表面粗さRaが0.04μm、0.07μm、0.10μm、0.12μm、0.15μmの5種類のタングステン線について評価した。図7は、本実施の形態に係るタングステン線100の評価結果を示す図である。
【0047】
図7に示すように、表面粗さRaが0.10μm以下のタングステン線を用いて製網した場合、断線及び設備の摩耗はほとんど発生しなかった。一方で、表面粗さRaが0.12μm及び0.15μmのタングステン線を用いて製網した場合、断線及び設備の摩耗の発生が確認された。具体的には、表面粗さRaが0.15μmのタングステン線を用いて製網した場合には、タテ糸の約20%に断線が発生した。また、表面粗さRaが0.15μmのタングステン線を用いて製網した場合には、タテ糸を押さえる筬が激しく摩耗した。
【0048】
以上のことから、本実施の形態に係るタングステン線100は、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュ10に用いられる、表面粗さRaが0.10μm以下であるタングステン線である。また、本実施の形態に係るスクリーンメッシュ10は、タングステン線100を用いて製網された、スクリーン印刷用のスクリーンメッシュである。
【0049】
これにより、表面粗さRaが0.10μm以下になるまでタングステン線100の表面性を高めることで、製網装置の摩耗を抑制することができる。また、タングステン線100の滑りが良くなるので、製網の加工性も向上する。具体的には、タテ糸11及びヨコ糸12の歪み及び位置ずれなどが抑制されて、面内で均一な形状の複数の開口13を有するスクリーンメッシュ10を製網することができる。
【0050】
さらに、タングステン線100の表面の凹凸(亀裂)が少なくなるので、製網後の圧延時に、タングステン線100に割れが発生するのを抑制することができる。このため、タングステン線100の断線の発生が少なくなるので、スクリーンメッシュ10の歩留まりの低下を抑制することができる。」

(オ)


イ 上記ア(ア)によれば,本件特許発明の課題が「本スクリーンメッシュなどに利用可能な高性能なタングステン線及びタングステン繊維、並びに、当該タングステン線又はタングステン繊維を用いたスクリーンメッシュなどを提供すること」にあり,当該課題を解決する手段として,「表面粗さRaが0.10μm以下であるタングステン線」を用いた「金属メッシュ」であることが記載されている。
さらに,上記ア(イ)においても「タングステン線の表面粗さRaが0.10μm以下である」こと,すなわち,「タングステン線100の表面が滑らかである」ことにより「タングステン線100を用いた製網の際の設備摩耗、及び、圧延時の断線などを抑制することができる」ことが記載されている。
そして,上記ア(エ)には「表面が粗いタングステン線を用いて製網を行った場合、製網装置のタングステン線を押さえる筬が摩耗により消耗し、交換頻度が増加する」こと,「製網後に圧延したときにタングステン線に割れが発生する」ことが課題として示されており,当該課題を解決するためには「タングステン線の表面性を十分に高めること」が必要であることが記載されているとともに,「表面粗さRaが異なる複数のタングステン線に対して、製網中の断線の発生、及び、製網装置の筬などの設備の摩耗について評価した結果」として,図7が示されており,当該図7によれば,表面粗さRaが0.10μm以下になるまでタングステン線100の表面性を高めることで、製網装置の摩耗を抑制することが示されているといえる。

ウ 以上の記載によれば,本件特許発明の課題である「タングステン線を用いたスクリーンメッシュを提供する」にあたっては,「タングステン線の表面が粗いため製網装置のタングステン線を押さえる筬が摩耗により消耗する」ことを解決するための課題とし,当該課題解決手段が「タングステン線の表面性を表面粗さRaが0.10μm以下になるまで高めること」であると理解することができる。
そして,本件特許発明1が「表面粗さRaが0.10μm以下であるタングステン線」を用いるものであると特定されている以上,本件特許発明1は,発明の詳細な説明の記載において,当業者が課題を解決できると認識し得る範囲のものであるといえる。
また,本件特許発明1の発明特定事項を備える本件特許発明2ないし4も同様に,当業者が課題を解決できると認識し得る範囲のものである。
以上のとおりであるから,本件特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,特許法第36条6項1号に規定する要件を充足するものである。

エ 特許異議申立人は,「金属ワイヤの製織時の断線が生じるか否かは,金属ワイヤの表面粗さRa以外にも,その他の種々の製織条件,例えば金属ワイヤの線径や強力のばらつき,整経,準備工程の良否,整織時の金属ワイヤの張力変化等に影響されることが自明」であるのに対して,図7等には,そのような条件が考慮されていないことから,本件明細書の図7の評価結果の記載に接した当業者は,図7における断線の発生が,タングステン線の表面粗さRaに起因するものか,その他の製織条件によるものなのかを理解することができない」旨主張している。
しかしながら,図7は,「表面粗さRaが0.04μm、0.07μm、0.10μm、0.12μm、0.15μmの5種類のタングステン線について評価した」比較実験に関するものであるところ,このような表面粗さの異なるタンスグテン線の評価を目的とする比較実験では,その目的の性質上,評価するパラメータである「タングステン線の表面粗さ」以外の「製織条件」などは同じ条件で実験したものであることは自明であるし,少なくとも「タングステン線の表面粗さ」以外は影響しないように実験することは当然のことであるから,当業者は,図7の結果から「断線の発生」がタングステン線の表面粗さ以外を原因とするものと認識することはないというべきである。
また,上記ウのとおり,本件特許発明の解決する課題として「タングステン線の表面が粗いため製網装置のタングステン線を押さえる筬が摩耗により消耗する」ことが読み取れ,「断線の発生」よりも当該「筬」の「摩耗」において,タングステン線の表面粗さ以外の製網条件等の影響がより少ないことからすれば,図7の結果において「表面粗さRaが0.10μm以下」で「摩耗なし」との結果が示されている以上,これらの記載から当業者は,本件特許発明1が課題を解決し得るものと認識できるものというべきである。

(3)小括
本件特許発明1ないし4は,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって,本件特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足するものであるから,異議理由3によっては、本件特許発明1ないし4を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上検討したとおり、本件特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-07-31 
出願番号 特願2016-126984(P2016-126984)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B41N)
P 1 651・ 113- Y (B41N)
P 1 651・ 121- Y (B41N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村田 顕一郎  
特許庁審判長 吉村 尚
特許庁審判官 荒井 隆一
尾崎 淳史
登録日 2017-09-29 
登録番号 特許第6213934号(P6213934)
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 スクリーンメッシュ  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ