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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) E04C
管理番号 1343051
判定請求番号 判定2017-600052  
総通号数 225 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2018-09-28 
種別 判定 
判定請求日 2017-12-19 
確定日 2018-08-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第3661059号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「軸力部材」は、特許第3661059号の請求項1及び4に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯
判定請求書の「5 請求の趣旨」に加えて「6-1 判定請求の必要性」の項に記載された事項を勘案すると、本件判定請求の趣旨は、「6-4 イ号実施部材」に記載したイ号図面及びその説明書に示す「軸力部材」(以下「イ号実施部材」という。)は、特許第3661059号の請求項1及び4に係る発明の技術的範囲に属さない、との判定を求めるものである。

本件特許に係る手続の経緯は、平成14年6月28日に出願され、平成17年4月1日に特許権の設定登録がなされ、平成29年12月19日(請求書差出日)に本件判定請求がなされ、これに対して、平成30年3月7日に被請求人から判定請求答弁書が提出され、同年4月18日付けの審尋に対して、請求人より同年5月21日に回答書が提出され、同年5月29日付けの審尋に対して、被請求人より同年6月12日に回答書が提出されたものである。


第2 本件特許発明
本件特許発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、当該明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりであるところ、そのうち請求項1及び4に係る発明(以下「本件特許発明1」及び「本件特許発明4」という。)は、次のとおりである。(なお、(A)?(F)の分説は、本判定で付した。)
「【請求項1】
(A)金属部材の座屈を防止する配置に木材がアンボンド状態に合成されて成り、
(B)前記木材の端部から突き出された金属部材の両端部が軸力の入力部として構成されていることを特徴とする、
(C)木材と金属部材のアンボンド合成軸力部材。」
「【請求項4】
(D)木材に、金属管の横断面形状とほぼ同形、同大で同金属管を通すことが可能な通孔が設けられ、前記通孔へ金属管が貫通されて成り、
(E)木材の両端から突き出された金属管の両端部が軸力の入力部として構成されていることを特徴とする、
(F)木材と金属部材のアンボンド合成軸力部材。」


第3 イ号実施部材
1 判定請求書によるイ号実施部材の説明
判定請求書の「6-4 イ号実施部材」の項(7?9頁)には、イ号実施部材について、以下の記載がある。
「以下に、イ号実施部材を示す図1と図2を参照して、イ号実施部材を説明する。
【図1】 【図2】



図1、図2はイ号実施部材を示し、図1は正面図、図2は図1のA-A線視拡大断面図である。
図1、図2から理解されるように、イ号実施部材は、
部材中央部を軸方向に延びるロの字型断面を有する金属部材(1)と、該金属部材(1)を収容する溝を彫ってコの字型断面に加工した一対の集成材(2a、2a)からなる木材(2)とを有し、
断面コ字型の集成材(2a、2a)を金属部材(1)を中に挟んで対向配置し、これらの突合せ端面を接着することにより形成された開口部(4)内に金属部材(1)を収容した部材である。
前記金属部材(1)の両端部(1a、1b)は前記木材(2)から軸方向に突出するとともに、前記金属部材(1)と前記木材(2)とは、両端部付近と中央部の3か所(3)×2面の計6箇所において接着剤によって接着されている。」

2 当審によるイ号実施部材の特定
ア イ号実施部材は、その中央部に、軸方向に延びる金属部材(1)が設けられていることから、棒状の部材である。また、断面コの字型の集成材(2a、2a)を金属部材(1)を中に挟んで対向配置していることから、金属部材(1)と木材(2)(一対の集成材(2a、2a))により棒状の合成部材ということができる。

イ さらに、棒状の部材であれば、何らかの注釈がなければ、通常は、軸方向の荷重を負担する部材であって、その両端部が、該荷重を受けることとなるところ、イ号実施部材は、金属部材(1)の両端部(1a、1b)が木材(2)から軸方向に突出していることから、該両端部(1a、1b)は、軸力の入力部である。
よって、イ号実施部材は、「合成軸力部材」と呼ぶこととする。

ウ 図2を参照すると、開口部(4)の内面と金属部材(1)の外面とは、その横断面形状がほぼ同形、同大であることが看取できる。

エ 上記1の記載及び上記アないしウからみて、本件請求項1及び4の記載に沿ってイ号実施部材の構成を書き表すと、以下のとおりである。
((a)?(d)の分説は、本判定で付した。)

「(a)部材中央部を軸方向に延びるロの字型断面を有する金属部材(1)と、該金属部材(1)を収容するコの字型断面の一対の集成材(2a、2a)からなる木材(2)とを有し、金属部材(1)と木材(2)とは、両端部付近と中央部の3か所(3)×2面の計6箇所において接着剤によって接着されており、
(b)木材(2)から軸方向に突出する金属部材(1)の両端部(1a、1b)が軸力の入力部を構成し、
(c)断面コの字型の集成材(2a、2a)の突合せ端面を接着することにより開口部(4)が形成され、開口部(4)の内面と金属部材(1)の外面とは、その横断面形状がほぼ同形、同大であって、該開口部内に金属部材(1)を収容している、
(d)金属部材(1)と木材(2)からなる合成軸力部材。」

3 甲第2号証ないし甲第6号証に基づくイ号実施部材の特定について
(1)請求人の主張について
ア 判定請求書
(ア)請求人は、「6-6-1 請求項1との対比」、「6-6-2 イ号実施部材に関係する刊行物について」及び「「6-6-3 請求項4との対比」の各項において、甲第2号証ないし甲第6号証の記載を用いて、イ号実施部材の構造や機能、性状を説明している。
ここで、判定請求書の「7 証拠方法」の項によれば、甲第2号証ないし甲第6号証は、それぞれ、「鉄骨+ハイブリッド柱構造試験 試験概要と結果(速報)」、「栄光学園70周年事業校舎建替計画 構造計算書(抜粋)」、「鉄骨+木ハイブリッド柱の製作要領書の抜粋」、「新建築 第九十二巻四号」、「鉄骨+木ハイブリッド柱の製作方法を示す写真」である。

(イ)しかしながら、判定の対象であるイ号実施部材は、あくまで、上記1のとおり、判定請求書の「6-4 イ号実施部材」の項で説明されたものであって、甲第2号証ないし甲第6号証に記載された説明により、その構造、機能、性状が特定されるものではない。
つまり、一般的な用語で表現されたイ号実施部材が、実際に計画または製造されたであろう特定の構造、機能、性状である甲第2号証ないし甲第6号証に記載された部材(金属部材と木材)と同一視することはできないから、イ号実施部材を、甲第2号証ないし甲第6号証の記載に基づいて、その構造、機能、性状を備えるかのように特定することはできない。

(ウ)上記(イ)のとおりであるから、上記(ア)で挙げた項において、甲第2号証ないし甲第6号証に基づくイ号実施部材の説明は採用できず、イ号実施部材は、判定請求書の「6-4 イ号実施部材」の項に記載された事項に基づいて特定し、該特定に基づいて、属否の判断をする。

イ 回答書
(ア)また、請求人は回答書において、「しかしながら、請求人としましては、金属部材と木とが両端部付近と中央部の3か所×2面の計6か所における、接着剤による接着が「アンボンド状態に構成されて成り」という構成要件に該当するのか否かという点と、設計上木材による補剛効果を必要とせず金属部材単独で設計荷重に耐えるよう設計されている金属部材、換言すれば木材が意匠的な意味合いで用いられている金属部材が本件特許発明に言う「合成軸力部材」に該当するのかについてご判断いただきたいと考えております。この点は、被請求人においても同様に希望すると拝察しておりますので、判定制度の趣旨が、無駄な特許紛争を防止することに鑑み、ご判断いただければ幸甚です。」とも主張している。

(イ)しかしながら、「金属部材」について、上記(ア)の主張のように「設計上木材による補剛効果を必要とせず金属部材単独で設計荷重に耐えるよう設計されている」ことや、「木材が意匠的な意味合いで用いられている」ことは、判定請求書の「6-4 イ号実施部材」の項では説明されておらず、また、上記アで述べたとおり、イ号実施部材と甲第2号証ないし甲第6号証に記載された部材と同一視することはできないから、イ号実施部材を上記(ア)の主張のようなものとして属否の判断はしない。

(2)被請求人の主張について
ア 判定請求答弁書
(ア)答弁の趣旨は、「第6 答弁の趣旨」の項のとおり、甲第2号証から甲第6号証に示される「鉄骨+木ハイブリッド柱」は、特許第3661059号発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものであって、判定対象物として、「第7」の「2 判定対象の被疑侵害品の特定」の項において、「被請求人は、混乱を避けるために、証拠から読み取れる判定対象の被疑侵害品を「鉄骨+木ハイブリッド柱」と表現する。では判定対象の被疑侵害品は、「イ号実施部材」とすべきか、それとも「鉄骨+木ハイブリッド柱」とすべきか、が問題となる。被請求人は、判定制度の制度趣旨が、無駄な特許紛争を防止することにあり、証拠に基づかない「イ号実施部材」では何ら特許紛争を防止できないから、実際に実施されたことが証拠上示される「鉄骨+木ハイブリッド柱」とすべきと考える。」と主張している。

(イ)しかしながら、上記(1)で検討したとおり、判定対象物は、判定請求書の「6-4 イ号実施部材」の項で説明された「イ号実施部材」とする。
なお、甲第2号証ないし甲第6号証は、被疑侵害品を特定できる程度の記載はない。

イ 回答書
回答書によって、判定請求答弁書の「第6 答弁の趣旨」の項の記載が補正されたことにより、答弁の趣旨は、イ号実施部材は、特許第3661059号発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものとなった。


第4 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、判定請求書において、以下のとおり主張している。
(1)特許請求の範囲に記載された用語の意義
ア 座屈を防止する
「防止」について、辞書には以下のように定義されている。
「ふせぎとめること。『事故防止』」(大辞林 第三版)
「望ましくないことが起こらないようにあらかじめ手を打つこと」(新明解国語辞典 第三版)
つまり、「座屈を防止する」とは、(座屈耐力を向上させることではなく)座屈をふせぎとめる、あるいは、座屈が起こらないようにすることを意味する。
本件明細書の、
「また、引張り力が作用した場合を考えると、やはり鋼板1が入力部5、5を通じて全軸力を負担する。木材2が鋼板1の弾性座屈を防止するのに必要十分な曲げ剛性を有する場合、このアンボンド合成軸力部材の圧縮耐力は引張り耐力と同等となる。」(【0020】)
との記載を見ても、圧縮耐力が引張耐力と同等になることが(弾性)座屈の防止と等価であると認識されており、座屈を防止することの意味は前記の定義と同じである。
すなわち、「防止」の意味に加えて、当該出願人の明細書において一貫して用いられている通り、「座屈を防止し」は、単に座屈耐力を向上させることではなく、「座屈させないこと」の意味と理解するのが相当である。
(4頁1?7行、4頁21行?5頁7行)

イ アンボンド状態
アンボンド状態について、明細書には以下の記載がある。
「要するに、鋼板1と二つの木材2、2及び木板3、3とは、一切接着や連結をされていない。釘4は、鋼板1の両側に重ねた二つの木材2、2と木板3とを結合することにのみ使用され、もってアンボンド状態を実現している。木材2と鋼板1は、単に重ね合わせにより接した面の摩擦力によってのみ、重力の作用や振動によって両材の相対位置が変化しない(ずれない)組み合わせ状態を保つアンボンドの構成であり、前記の摩擦力は通常問題にならない程に小さい。」(【0019】)
したがって、本件発明においてアンボンド状態とは、鋼板と木材が一切接着や連結をされずに単に重ね合わせられており、通常問題にならない程に小さい摩擦力が作用するように接している状態であり、木材と金属部材が接する面に接着剤を用いたような状態は含まれないと理解される。
(5頁9行?6頁20行)

ウ 合成軸力部材
合成軸力部材に関して、本件明細書には以下の記載がある。
「本発明に係る木材と金属部材のアンボンド合成軸力部材の基本は、鋼材やステンレス鋼材、アルミニューム材のごとき構造用の金属部材の座屈を防止する配置に木材がアンボンド状態に合成されて成り、前記木材の端部から突き出された金属部材の両端部が軸力の入力部とした構成で好適に実施される(請求項1に記載した発明)。つまり、金属部材が全荷重を負担し、木材は純粋に座屈補剛材としてのみ働かせる考え方を実現する構成である。」(【0018】)
したがって、本件特許発明における、合成軸力部材は、金属部材が全荷重を負担し、木材は荷重を負担せずに座屈補剛材としてのみ作用して座屈を防止する部材と理解される。
(5頁下から3行?6頁8行)

エ 通孔
明細書には以下の記載がある。
「図6に示したアンボンド合成軸力部材は、所謂丸太を使用した木材12の中心部の軸方向に、例えば鋼管、アルミニューム管などの金属管11の横断面形状とほぼ同形、同大で同金属管11を通すことが可能な通孔が設けられ、前記通孔へ金属管11が貫通されて成り、木材12の両端から突き出された金属管11の両端部が軸力の入力部15として構成されていることを特徴とする(請求項4に記載した発明)。
金属管11は、丸太の木材12に対して、全長にわたり軽く接触する程度に製作すれば足りる。本実施例の場合、丸太の木材12はもともと一体構造であるから、単に金属管11を貫通させるだけで良く、製作がきわめて容易である。そして、丸太の木材12には、金属管11の座屈補剛材としての働きを十分に期待できるのである。」(【0030】)
上記明細書を参照すれば、本件特許において、通孔は、もともと一体構造の所謂丸太の軸方向に設けられた貫通孔と理解される。
(6頁14行?7頁2行)

(2)属否の判断のまとめ
イ号実施部材は、木材が金属部材の座屈を防止しない、木材と金属部材がアンボンドでない、合成軸力部材でない点で請求項1と相違する。
また、イ号実施部材は、金属管を配置する部分が通孔でなく、金属管が貫通される構成ではない、アンボンドでもなく、合成軸力部材でもない点で請求項4と相違する。
以上のおとり、イ号実施部材は、請求項1及び請求項4に係る本件特許発明と構造が悉く異なり本件特許発明の技術的範囲に属さない。
上記のように、イ号実施部材は、特許第3661059号発明の技術的範囲に属さないので、請求の趣旨どおりの判定を求める。
(17頁7?15行)

2 被請求人の主張
(1)被請求人は、判定請求書の「(2)特許請求の範囲に記載された用語の意義」に対して、判定請求答弁書において、以下のとおり主張している。
ア 「座屈を防止」に対して
特許請求の範囲の記載をみれば、「座屈を防止」を受けるのは、「木材」ではなく、「配置」であることが分かる。
そして、「金属部材の座屈を防止する配置」の解釈は、請求人主張に準じた“金属部材が決して座屈しない配置”では日本語として無理があり、“金属部材が座屈しにくい配置”と理解する方が日本語として自然である。したがって、特許請求の範囲の記載から、「座屈を防止」の意義は“座屈しにくい”であることが読み取れる。
(2頁下から5行?3頁5行)

イ 「アンボンド状態」に対して
アンボンド状態には、金属部材と木材とが接着されているか否かは直接の関係がなく、金属部材と木材とが接着してあっても、その接着力が弱い、バラつく、経年変化等の理由により、金属部材が全荷重を負担し、木材を計算上考慮するべきでない構造設計を行うべき構成であれば足りる。
また、金属部材と木材との間に耐火被覆層等の層が介在する場合であっても、基本的に金属部材が全荷重を負担し木材は純粋に座屈補剛材としてのみ働かせる考え方を実現する金属部材と木材との接合状態である限り、アンボンド状態というべきである。
(8頁18?末行)

ウ 「合成軸力部材」に対して
明細書段落【0018】の記載からならば、基本的に金属部材が全荷重を負担し木材は純粋に座屈補剛材としてのみ働かせる考え方を実現する構成を有する部材と定義されるべきである。
(9頁10?12行)

エ 「通孔」に対して
明細書段落【0030】の記載は、「本実施例の場合」であって具体例であることを無視している。請求項4において「通孔」が設けられる「木材」は、丸太に限られず、例えば集成材の場合もある。プロダクトバイプロセスクレームではないのだから「通孔」をどのような製造工程で設けようとも関係無い。
したがって、「通孔」とは、貫通孔と理解される。
(9頁22行?10頁1行)

(2)属否の判断について
被請求人は、上記(1)アないしエのとおりの用語の解釈を主張した上で、属否の判断に関し、回答書において、「イ号実施部材は、特許第3661059号発明の技術的範囲に属する、との判定を求める。」と主張している。


第5 属否の判断
1 本件特許発明1とイ号実施部材の対比・判断
(1)構成要件(A)について
ア 構成要件(A)の「木材」が「座屈を防止する配置」にある意義について
a 「座屈を防止する」ことについて、請求人は、「単に座屈耐力を向上させることではなく、『座屈させないこと』の意味と理解するのが相当」と主張(上記「第4 1(1)ア」)し、被請求人は、「『座屈を防止』を受けるのは、『木材』ではなく、『配置』であることが分かる。・・・『金属部材の座屈を防止する配置』の解釈は、・・・“金属部材が座屈しにくい配置”と理解する方が日本語として自然である」と主張(上記「第4 2(1)ア」)している。

b そこで、本件特許明細書をみると、以下の記載がある。(下線は、本判定で付与した。)
(a)「【0020】
このアンボンド合成軸力部材に圧縮力が作用して座屈による曲げ変形を起こした状態を考える。両側の木材2、2は、鋼板1の曲げ変形に追従しつつも、軸力に関しては鋼板1とはほぼ完全に縁が切れているため、鋼板1が入力部5、5を通じて全軸力を負担し、木材2は純粋に座屈補剛材としてのみ働く。・・・」
(b)「【0026】
次に、図3A、Bに示した実施形態は、図1のアンボンド合成軸力部材について、木板3の剪断破壊防止の措置を講じた実施例を示している。即ち、図1のアンボンド合成軸力部材に圧縮力が作用し、座屈による曲げ変形が発生すると、木板3は曲げに伴う剪断力を負担することになる。木板3の剪断強度は本来非常に低いため、この木板3が先行して破壊し(試験の結果、最大耐力に達して、木板3の両端中央から軸方向に割裂が入った。)アンボンド合成軸力部材の耐力低下を引き起こすことが懸念された。
【0027】
その対案として、図3の実施形態では、木板は、鋼板1の長手方向(木板の材軸直交方向)に複数個に分断(分割)した複数の木板ピース3’の集合で構成されている(請求項6に記載した発明)。
その意図するところは、図3Bに示したように、鋼板1に圧縮力が作用して曲げ座屈が発生した場合に、各木板ピース3’に大きな剪断応力を負担させることなく、鋼板の曲がりに追従させ、隣り合う木板ピース3’の接合縁の間に相応のズレを生じさせ、少なくとも木板ピース3’の剪断破壊を防止するにある。このように木板を小さく分割する構成の場合には、木板ピース3’自体が小さな寸法のもので良いことになり、小径木や半端材などの安価な木質材料を有効利用することができ、割裂による耐力低下を防止することと同時に、コストダウンを図れる利点もある。各木板ピース3’を複数の釘4にて木材2と連結することは図1の場合と同じである。
図3の実施形態の場合には、各木板ピース3’は、木材繊維の筋を鋼板1の軸方向と直交する向きに使用して、木板の強度をより有効活用することもできる。あるいは部材両端に位置する木板ピース3a’、3a’に、合板等のせん断強度が高い材料で製作したものを使用すると一層強度及び信頼性の高い合成材となる(請求項8に記載した発明)。」
(c)「【図面の簡単な説明】
【図1】A、B、Cは本発明に係るアンボンド合成軸力部材の一実施形態を示した正面図と平面図および拡大した縦断面図である。
【図2】・・・
【図3】A、Bは本発明に係るアンボンド合成軸力部材の異なる実施形態を示した正面図と、その曲げ座屈状態を概念的に示した説明図である。」

c 上記b(a)の「木材2は純粋に座屈補剛材としてのみ働く」との記載の「座屈補剛材」は、乙第1号証によれば、「座屈防止のために設ける補強材」の意味であるが、上記b(b)には、図1の実施形態において「座屈による曲げ変形が発生する」場合と、図3の実施形態において「曲げ座屈が発生した場合」について記載されているところ、「図3A、Bに示した実施形態は、図1のアンボンド合成軸力部材について、木板3の剪断破壊防止の措置を講じた実施例を示して」おり、「木板3が先行して破壊し・・・アンボンド合成軸力部材の耐力低下を引き起こすことが懸念され」るので、「鋼板の曲がりに追従させ、隣り合う木板ピース3’の接合縁の間に相応のズレを生じさせ、少なくとも木板ピース3’の剪断破壊を防止するにある」ことを意図しており、さらに、「部材両端に位置する木板ピース3a’、3a’に、合板等の剪断強度が高い材料で製作したものを使用すると一層強度及び信頼性の高い合成材となる」と記載されていることからみて、本件特許公報に記載された各実施例において、座屈を完全に防ぐことができるものを想定しているのではなく、材料等を適宜選択することによって、座屈に対する耐力を適宜向上させていることが理解できる。

d 以上のことから、本件発明における「座屈を防止する」の意義は、本件特許明細書の記載からみて、請求人が主張するような「座屈させない」ことではなく、「座屈耐力を向上させる」ことと解することが自然である。

イ 充足性の判断
a 上記アで検討したとおり、「座屈を防止する」は、「座屈させない」ことではなく、「座屈耐力を向上させる」意義であるところ、イ号実施部材の構成(a)は、「金属部材(1)と、該金属部材(1)を収容するコの字型断面の一対の集成材(2a、2a)からなる木材(2)とを有し、金属部材(1)と木材(2)とは、」「接着剤によって接着されて」いることからみて、この木材(2)の当該配置とすることは、多少なりとも、金属部材(1)の座屈が起こることを軽減することは明らかである。
よって、構成(a)の当該配置とすることは、本件特許発明1の「金属部材の座屈を防止する配置に木材が」「合成されてなる」ことに該当する。

b しかしながら、金属部材と木材とがアンボンド状態に合成されて成ることとは、本件明細書の段落【0019】の記載によれば、「鋼板1と二つの木材2、2及び木板3、3とは、一切接着や連結をされて」おらず、「木材2と鋼板1は、単に重ね合わせにより接した面の摩擦力によってのみ、重力の作用や振動によって両材の相対位置が変化しない(ずれない)組み合わせ状態を保つアンボンドの構成であ」るから、構成(a)の「接着剤によって接着されて」いる「金属部材(1)」と「木材(2)」とは、本件特許発明1の「アンボンド状態」に該当しない。

c 「アンボンド状態」について、被請求人は、「アンボンド状態には、金属部材と木材とが接着されているか否かは直接の関係がなく、金属部材と木材とが接着してあっても、その接着力が弱い、バラつく、経年変化等の理由により、金属部材が全荷重を負担し、木材を計算上考慮するべきでない構造設計を行うべき構成であれば足りる。」と主張(上記「第4 2(1)イ」)するが、上記bのとおりであるから、被請求人の主張は採用できない。

d 以上のことから、イ号実施部材の構成(a)は、本件特許発明1の構成要件(A)を充足しない。

(2)構成要件(B)について
イ号実施部材の構成(b)の「木材(2)から軸方向に突出する金属部材(1)の両端部(1a、1b)が軸力の入力部を構成」することは、本件特許発明1の構成要件(B)の「前記木材の端部から突き出された金属部材の両端部が軸力の入力部として構成されていること」に該当する。
よって、イ号実施部材の構成(b)は、本件特許発明1の構成要件(B)を充足する。

(3)構成要件(C)について
イ号実施部材の構成(d)の「金属部材(1)」、「木材(2)」、「合成軸力部材」は、それぞれ本件特許発明1の構成要件(C)の「金属部材」、「木材」、「合成軸力部材」に相当する。
しかし、構成(d)の金属部材(1)と木材(2)は、上記(1)イで説示したとおり、アンボンド状態ではないから、イ号実施部材の構成(d)の「金属部材(1)と木材(2)からなる合成軸力部材」は、本件特許発明1の構成要件(C)の「木材と金属部材のアンボンド合成軸力部材」に該当しない。
よって、イ号実施部材の構成(d)は、本件特許発明1の構成要件(C)を充足しない。

(4)小括
したがって、イ号実施部材は、本件特許発明1の構成要件(A)、(C)を充足しない。

2 本件特許発明4とイ号実施部材の対比・判断
(1)構成要件(D)について
イ号実施部材の構成(a)において、「金属部材(1)」は「ロの字型断面」であるから、構成(c)の「金属部材(1)」は金属管といえる。
イ号実施部材の構成(c)の「開口部(4)」は、「断面コの字型の集成材(2a、2a)の突合せ端面を接着することにより」「形成され」たものであるから、本件特許発明4の構成要件(D)の「通孔」に相当する。
よって、構成(c)の「開口部(4)と金属部材(1)とは、その横断面形状がほぼ同形、同大であって、該開口部(4)内に金属部材(1)を収容している」ことは、構成要件(D)の「木材に、金属管の横断面形状ほぼ同形、同大で同金属管を通すことが可能な通孔が設けられ」ていることに該当する。
よって、イ号実施部材の構成(c)は、本件特許発明4の構成要件(D)を充足する。

(2)構成要件(E)について
イ号実施部材の構成(b)の「木材(2)から軸方向に突出する金属部材(1)の両端部(1a、1b)が軸力の入力部を構成」することは、本件特許発明4の構成(E)の「木材の両端から突き出された金属管の両端部が軸力の入力部として構成されていること」に該当する。
よって、イ号実施部材の構成(b)は、本件特許発明4の構成要件(E)を充足する。

(3)構成要件(F)について
構成要件(F)は、構成要件(C)と同じであるから、上記1(3)で説示した理由と同じ理由により、イ号実施部材の構成(c)は、本件特許発明4の構成要件(F)を充足しない。

(4)小括
したがって、イ号実施部材は、本件特許発明4の構成要件(F)を充足しない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、イ号実施部材は、本件特許発明1及び4の技術的範囲に属しない。

よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2018-08-06 
出願番号 特願2002-189906(P2002-189906)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (E04C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 深田 高義  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 住田 秀弘
西田 秀彦
登録日 2005-04-01 
登録番号 特許第3661059号(P3661059)
発明の名称 木材と金属部材のアンボンド合成軸力部材  
代理人 園田・小林特許業務法人  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  

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