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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1343385
審判番号 不服2017-9612  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-30 
確定日 2018-08-16 
事件の表示 特願2016-164467「延伸フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月12日出願公開,特開2017-187731〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件査定不服審判事件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成28年8月25日(優先権主張 平成28年3月30日)の出願であって,平成28年11月1日付けで拒絶理由が通知され,平成29年1月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年3月23日付けで拒絶査定(以下,「原査定」という。)がなされたものである。
本件査定不服審判事件は,これを不服として,同年6月30日に請求されたものであって,本件の請求と同時に手続補正書が提出された。
なお,同年11月1日に上申書が提出されている。


第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成29年6月30日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 平成29年6月30日提出の手続補正書による手続補正の内容
(1)補正前後の記載
平成29年6月30日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,同年1月4日提出の手続補正書による手続補正後(以下「本件補正前」という。)の特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ,本件補正前後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
ア 本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】
幅方向における面内位相差値の平均値が5nm以下であるポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用意する第1工程と,
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾式延伸して,延伸フィルムを得る第2工程と,
を含む,延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは,幅方向における23℃での引張弾性率の変動係数が4%以下である,請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程は,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを加湿処理する工程を含む,請求項1又は2に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記加湿処理する工程は,50℃以上の温度で加湿処理する工程である,請求項3に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記加湿処理する工程においてポリビニルアルコール系樹脂フィルムは,その水分率が8重量%以上となるように加湿処理される,請求項3又は4に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の製造方法によって前記延伸フィルムを得る工程と,
前記延伸フィルムを用いて偏光フィルムを得る工程と,
を含む,偏光フィルムの製造方法。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】
幅方向における面内位相差値の平均値が5nm以下であるポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用意する第1工程と,
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾式延伸して,厚みが15μm以下である延伸フィルムを得る第2工程と,
を含む,延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムは,幅方向における23℃での引張弾性率の変動係数が4%以下である,請求項1に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程は,ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを加湿処理する工程を含む,請求項1又は2に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記加湿処理する工程は,50℃以上の温度で加湿処理する工程である,請求項3に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記加湿処理する工程においてポリビニルアルコール系樹脂フィルムは,その水分率が8重量%以上となるように加湿処理される,請求項3又は4に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1?5のいずれか1項に記載の製造方法によって前記延伸フィルムを得る工程と,
前記延伸フィルムを用いて偏光フィルムを得る工程と,
を含む,偏光フィルムの製造方法。」

(2)本件補正の内容
本件補正は,請求項1に記載された「延伸フィルムを得る第2工程」という記載を,「厚みが15μm以下である延伸フィルムを得る第2工程」という記載に補正するものである。

2 新規事項の追加の有無及び補正の目的について
本件補正は,本件補正前の請求項1ないし6に係る発明の発明特定事項である「延伸フィルム」について,補正前にはその厚みに制限がなかったものを,15μm以下のものに限定する補正であって,補正の前後で当該請求項1ないし6に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また,「延伸フィルム」の厚みが15μm以下であることは,願書に最初に添付した明細書の【0054】に記載されているから,本件補正は,同条3項の規定に適合する。

3 独立特許要件について
前記2で述べたとおり,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから,本件補正後の請求項6に係る発明が,同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するのか否か(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのか否か)について判断する。
(1)本件補正後の請求項1の記載を引用する請求項6に係る発明
請求項6に係る発明は,前記1(1)イに示した請求項6に記載された事項により特定されるものと認められるところ,当該請求項6に係る発明のうち請求項1の記載を引用するものについて,独立形式の記載に書き改めると,次のとおりである。

「幅方向における面内位相差値の平均値が5nm以下であるポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用意する第1工程と,前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾式延伸して,厚みが15μm以下である延伸フィルムを得る第2工程と,を含む,延伸フィルムの製造方法によって前記延伸フィルムを得る工程と,
前記延伸フィルムを用いて偏光フィルムを得る工程と,
を含む,偏光フィルムの製造方法。」(以下,「本件補正発明」という。)

(2)引用例
ア 特開2003-334833号公報
(ア)特開2003-334833号公報の記載
原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用された特開2003-334833号公報(以下,原査定と同様に「引用文献1」という。)は,本願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は一般的には樹脂フィルムの製造法に関し,さらに詳しくは,液晶ディスプレイ及び他の電子ディスプレイのような光学装置の電極基板,偏光子,補償板,及び保護カバーの形成に使用される光学フィルムの改良された製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】透明樹脂フィルムは各種の光学用途に使用されている。特に,樹脂フィルムは,各種電子ディスプレイの偏光子の保護カバーとして,偏光シートとして,補償板として,そして電極基板として使用されている。・・・(中略)・・・
【0004】偏光板は,典型的には樹脂フィルムの多層複合体で,2枚の保護カバーに挟まれた偏光フィルムで構成される。偏光フィルムは,一般的には透明で高均一なアモルファス樹脂フィルムから製造される。次に,これを延伸してポリマー分子を配向し,染色して二色フィルムにする。偏光フィルム形成用に適切な樹脂の例は,完全加水分解されたポリビニルアルコールである。偏光子の形成に使用される延伸ポリビニルアルコールフィルムは非常に脆く寸法安定性がないので,支持及び耐摩耗性を付与するために一般に保護カバーが必要である。偏光板の保護カバーは,良好な寸法安定性,高透明度,及び非常に低い複屈折を有することが要求される。・・・(中略)・・・
【0006】末端の用途が何であれ,前述の各種光学部品の製造に使用される前駆体の樹脂フィルムは,一般的に,高透明度,高均一性,及び低複屈折性を有することを所望される。さらに,これらのフィルムは,最終用途によって異なる範囲の厚さを求められうる。
・・・(中略)・・・
【0008】光学用樹脂フィルムはもっぱら流延法によって製造されている。・・・(中略)・・・流延法の溶解及び乾燥工程は,複雑さと費用を付け足すことになるが,溶融押出法で製造したフィルムと比べると,流延フィルムのほうが一般的により良好な光学的性質を有し,また高温処理に伴う問題も回避される。
【0009】流延法によって製造された光学フィルムの例は,1)偏光子の製造に使用されるポリビニルアルコールシート;・・・(中略)・・・などである。
・・・(中略)・・・
【0011】
【発明が解決しようとする課題】流延法の一つの欠点は,流延フィルムが相当の複屈折を有することである。流延法によって製造されたフィルムは溶融押出法によって製造されたフィルムと比べると低い複屈折を有するが,複屈折は依然として異議があるほど高い。・・・(中略)・・・Haritaによる米国特許出願番号2001/0039319 A1は,フィルム内の幅方向の位置間の位相差が元の未延伸フィルムで5nm未満であると延伸ポリビニルアルコールシートの色むらが削減されるとクレームしている。光学フィルムの多くの用途にとって平面内位相差の値は小さいのが望ましい。特に,10nm未満の平面内位相差の値が好適である。
【0012】流延フィルムの複屈折は製造作業中のポリマーの配向によって生じる。・・・(中略)・・・
【0013】流延工程中には,分子配向を起こしうるいくつかの発生源がある。例えば,ダイの中でのドープの剪断,塗布時の金属支持体によるドープの剪断,剥取り工程中の部分乾燥フィルムの剪断,そして最終乾燥工程を通過中の自立(支持体なしの)フィルムの剪断などである。これらの剪断力がポリマー分子を配向させ,結局望ましくないほど高い複屈折又は位相差を生じさせる。・・・(中略)・・・
【0015】流延法の別の欠点は,ドープの粘度に関する制約である。実際の流延におけるドープの粘度は50,000cp程度である。・・・(中略)・・・しかしながら,このような高粘度値では,流延用ドープはろ過及びガス抜きが困難になる。・・・(中略)・・・
【0016】さらに,流延法は,製品の変更に関して比較的融通性がない。流延に高粘度のドープを必要とするので,製品の配合を変更することは,送出システムを洗浄して汚染の可能性を排除するための長い手待ち時間を必要とする。・・・(中略)・・・
【0017】流延法による樹脂フィルムの製造は,剥取り及び搬送操作に伴ういくつかの問題によっても混乱をきたす。例えば,剥取り操作は,縦筋のような問題を発生させずに金属基板からフィルムを容易に剥取るために,流延用の配合物に特別の共溶媒又は添加剤のような転換補助剤をしばしば必要とする。・・・(中略)・・・剥取り時の問題のほか,流延フィルムは最終乾燥操作中,多くのローラを渡る搬送時に損傷を受ける可能性がある。・・・(中略)・・・
【0019】そこで,本発明の目的は,先行技術による流延法の制約を克服し,非常に低い平面内複屈折を有するアモルファスポリマーフィルム製造のための新規なコーティング法を提供することにある。
【0020】さらに本発明の目的は,広範囲の乾燥厚にわたって高度に均質なポリマーフィルムの新規製造法を提供することにもある。」

b 「【0024】
【課題を解決するための手段】・・・(中略)・・・これらの特徴,目的及び利点は,ポリマー樹脂を含有する低粘度の液体を,移動する担体基板にコーティング法によって塗布することによって達成される。樹脂フィルムは,被覆されたフィルムが実質的に乾燥するまで(残留溶媒が<10重量%)担体基板と一体化しておく。実際,樹脂フィルムと担体基板の複合構造物はロールに巻いたまま必要時まで保管できる。従って,担体基板は乾燥工程を通過中,光学樹脂フィルムを支え,剪断力から保護する。その上,樹脂フィルムは最終的に担体基板から剥がされるときには乾燥し固化しているので,剥取り工程によるフィルム内でのポリマーの剪断又は配向がない。その結果,本発明によって製造されたフィルムは著しくアモルファスで,非常に低い平面内複屈折を示す。
【0025】本発明の方法を用いて,約1?500μmの厚さを有するポリマーフィルムが製造できる。40μm未満の非常に薄い樹脂フィルムも先行技術の方法では不可能なライン速度で容易に製造できる。非常に薄いフィルムの製造は,担体基板の使用によって容易になる。なぜならば,該担体基板は乾燥工程を通るウェットフィルムを支持し,先行技術に記載の流延法では必要な,最終乾燥工程の前にフィルムを金属バンド又はドラムから剥がす必要をなくすからである。反対に,フィルムは,完全でないまでも実質的に乾燥させた後,担体基板から分離される。・・・(中略)・・・
【0026】本発明の方法において,樹脂フィルムは,単層又は好ましくは多層複合体をコーティングホッパの滑り面の上に形成し(多層複合体は,低粘度の最下層,一つ以上の中間層,及び必要に応じて,界面活性剤を含有する最上層を含む),該多層複合体を,コーティングホッパのコーティングリップ上に滑り面を下って流し,そして,該多層複合体を,移動する基板に塗布することによって作り出される。特に,本発明の方法を使用すると,独特の組成を有する数種類の液層の塗布が可能になる。コーティング補助剤及び添加剤を特定の層に入れれば,フィルムの性能の改良又は製造時の堅牢性を改良することもできる。・・・(中略)・・・
【0030】本発明の実用的用途は,とりわけ,光学フィルム,積層フィルム,剥離フィルム,写真フィルム,及び包装フィルムとして使用されるポリマーフィルムの製造を含む。・・・(中略)・・・本発明の方法によって製造される低複屈折フィルムは,・・・(中略)・・・偏光子を形成するための前駆体フィルムとしても適切である。・・・(後略)・・・」

c 「【0033】
【発明の実施の形態】まず図1を参照すると,本発明の方法の実施に適切な例示的及び周知のコーティング及び乾燥システム10の略図が示されている。コーティング及び乾燥システム10は,典型的には,極薄フィルムを移動する基板12に塗布し,次いで乾燥機14で溶媒を除去するのに使用される。・・・(中略)・・・
【0034】コーティング及び乾燥装置10は,バックアップローラ20の周りを移動する基板12を供給する巻出ステーション18を含む。バックアップローラ20のところでコーティング装置16によってコーティングが塗布される。次に,コーティングされたウェブ22は乾燥機14を通過する。本発明の方法の実施においては,基板12上に樹脂フィルムを含む最終乾燥フィルム24は,巻取ステーション26でロールに巻き取られる。
【0035】図に描かれているように,例として4層のコーティングが移動するウェブ12に塗布される。各層のコーティング液は,それぞれのコーティング供給容器28,30,32,34に保持される。このコーティング液は,コーティング供給容器からポンプ36,38,40,42によって,コーティング装置16の導管44,46,48,50にそれぞれ送り出される。・・・(中略)・・・
【0037】移動基板12にコーティング液を供給するコーティング装置16は,・・・(中略)・・・本発明の好適な実施の形態において,塗布装置16は多層スライドビードホッパである。
【0038】前述のように,コーティング及び乾燥システム10は,典型的には溶媒を被覆フィルムから除去するための乾燥オーブンである乾燥機14を含む。本発明の方法の実施に使用される例示的な乾燥機14は,第一の乾燥セクション66と,それに続く8個の追加の乾燥セクション68?82を含む。各セクションは独自に温度と空気流を制御できる。・・・(中略)・・・
【0039】好ましくは,各乾燥セクション68?82は,それぞれ独立した温度及び空気流の制御を有する。・・・(中略)・・・本発明の好適な実施の形態において,第一の乾燥セクション66は,約25℃以上95℃未満の温度で被覆ウェブ22の湿ったコーティングに空気が直接衝突しないように運転される。本発明の方法の別の好適な実施の形態において,乾燥セクション68及び70も約25℃以上95℃未満の温度で運転される。乾燥セクション66及び68の実際の乾燥温度は,当業者によってこの範囲内で経験的に最適化されうる。
【0040】次に図3を参照すると,例示的なコーティング装置16の概要が詳細に示されている。コーティング装置16は,側断面の略図が示されているが,前面セクション92,第二セクション94,第三セクション96,第四セクション98,及びバックプレート100を含む。・・・(中略)・・・前面セクション92は,傾斜した滑り面134及びコーティングリップ136を含む。・・・(中略)・・・コーティング装置又はホッパ16に隣接して存在するのがコーティングバッキングローラ20で,その周りをウェブ12が運ばれる。コーティング層108,116,124,132は多層複合体を形成し,これがリップ136と基板12の間にコーティングビード146を形成する。典型的には,コーティングホッパ16は非コーティング位置からコーティングバッキングローラ20の方向に移動可能で,コーティング位置に入る。・・・(中略)・・・
【0041】コーティング液は主に適切な溶媒に溶解されたポリマー樹脂で構成される。適切な樹脂は,透明フィルムの形成に使用できる任意のポリマー材料を含む。現在光学フィルムの形成に使用されている樹脂の実例は,偏光子用のポリビニルアルコール類・・・(中略)・・・などである。・・・(中略)・・・
【0044】コーティング液は,コーティング後の流れに関する問題を制御するためのコーティング補助剤として界面活性剤も含んでよい。コーティング後の流れ現象によって生じる問題は,まだら,はじき,ミカン肌(Bernard cells),及びエッジ後退(edge-withdraw)などである。・・・(中略)・・・
【0045】水性溶媒に溶解するポリマー樹脂の場合,適切な界面活性剤は,多くの文献に記載されている水性コーティングに適したものなどである・・・(中略)・・・実用界面活性剤の例は,・・・(中略)・・・ポリオキシエチレン(10)イソオクチルフェニルエーテル・・・(中略)・・・などである。
・・・(中略)・・・
【0049】次に,図4?7を参照すると,本発明の方法によって製造された様々なフィルム構成を示す断面図が示されている。・・・(中略)・・・図6は,4つの組成的に別個の層,すなわち担体基板170に最も近い最下層162,2つの中間層164,166,及び最上層168で構成される多層フィルム160を示す。図6はまた,多層複合体160全体が担体基板170から剥がせることも示している。」

d 「【0056】
【実施例】実施例1
本実施例で,偏光子又は補償フィルムの形成に適した薄いポリビニルアルコール(PVA)フィルムの形成について説明する。本実施例では,ポリビニルアルコールは完全加水分解型(98.5%超の鹸化)で,重量平均分子量は98,000ドルトンであった。図1に示したコーティング装置16を用いて,未処理ポリエチレンテレフタレート(PET)の移動基板12すなわち170に4つの液層を塗布し,図6で先に示したような単層フィルムを形成した。基板の速度は25cm/sであった。すべてのコーティング液は95:5(重量比)の水:エタノールに溶解したポリビニルアルコールで構成された。最下層162は,45cpの粘度と移動基板170上での湿潤厚10μmを有していた。第二層164及び第三層166は,それぞれ620cpの粘度と移動基板170上での合計最終湿潤厚135μmを有していた。最上層168は,185cpの粘度と移動基板170上での湿潤厚10μmを有していた。最上層168はまた,0.10重量%の界面活性剤(ポリオキシエチレン(10)イソオクチルフェニルエーテル)を含有していた。コーティングは40℃で塗布した。コーティングリップ136と移動基板12との間のギャップ(図3参照)は200μmであった。コーティングビード146全体の差圧を0?10cm水に調整して均一なコーティングを確立した。乾燥セクション66,68,70の温度は25℃であった。乾燥セクション72,74の温度は50℃であった。乾燥セクション76,78,80の温度は95℃であった。乾燥セクション82の温度は25℃であった。PVAフィルムとPET基板の複合体をロールに巻き取った。未処理のPET基板から剥がすと,最終乾燥フィルムは12μmの厚さを有していた。剥がしたPVAフィルムは良好な外観を有し,平滑で透明,皺及び襞などの問題がなく,平面内位相差は1.0nm未満であった。このPVAフィルムの性質をまとめて表Iに示す。
・・・(中略)・・・
【0061】比較例1
本比較例では,先行技術の流延法によって形成されたフィルムの光学的性質について説明する。PVAフィルムを流延法によって製造する。図8に示した装置210を用いて高度に研磨した金属ドラムに単層を塗布した。金属基板の速度は7.5cm/sであった。流延用の液は水に溶解したポリビニルアルコールで構成された。PVA流延溶液は30,000cpの粘度を有していた。流延フィルムを82℃で塗布し,移動ドラム上で部分乾燥し,ドラムから剥がし,さらに乾燥させ,そしてロールに巻き取った。最終PVAフィルムは48μmの厚さを有していた。このフィルムはわずかな襞を呈し,平面内位相差は36nmであった。このPVAフィルムの性質をまとめて表Iに示す。
・・・(中略)・・・
【0091】
【表1】

・・・(中略)・・・

表1に示したフィルムの性質は以下の試験を用いて測定した。
・・・(中略)・・・
【0093】位相差:剥がしたフィルムの平面内位相差(R_(e))は,Woollam M-2000V Spectroscopic Ellipsometer(分光楕円偏光測定器)を用い,波長370?1000nmで測定し,ナノメートル(nm)で表した。表Iの平面内位相差の値は590nmで取った測定値について計算してある。平面内位相差は式:
R_(e)=|n_(x)-n_(y)|×d
によって定義される。式中,R_(e)は590nmにおける平面内位相差,n_(x)は剥がしたフィルムの遅軸方向の屈折率,n_(y)は剥がしたフィルムの速軸方向の屈折率,そしてdは剥がしたフィルムのナノメートル(nm)で表した厚さである。従って,R_(e)は,剥がしたフィルムの平面における遅軸方向と速軸方向間の複屈折の差の絶対値にフィルムの厚さを乗じたものである。」

e 「【0098】・・・(中略)・・・
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の方法の実施に使用できる例示的なコーティング及び乾燥装置を示す略図である。
・・・(中略)・・・
【図3】 本発明の方法の実施に使用できる例示的なマルチスロットコーティング装置を示す略図である。
・・・(中略)・・・
【図6】 本発明の方法によって形成され,担体基板から一部剥がされた多層樹脂フィルムの断面を示す図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図3】

・・・(中略)・・・
【図6】



(イ)引用文献1に記載された発明
前記(ア)aないしeで摘記した引用文献1の記載からは,実施例1の方法により製造されたPVAフィルムを前駆体フィルム(【0030】)として,偏光子を製造する方法についての発明を把握することができる。ここで,引用文献1の前記記載からは,【0030】に記載された「偏光子を形成するための前駆体フィルム」とは,【0004】に記載された「延伸してポリマー分子を配向し,染色して二色フィルムにする」ことによって「偏光フィルム」(「偏光子」と同義である。)とされる「透明で高均一なアモルファス樹脂フィルム」のことと理解できる。また,表1からは,前記PVAフィルムの平面内位相差が0.5nmであることを把握でき,図1からは,【0056】記載の乾燥セクション66,68,70,72,74,76,78,80,82がPET基板の移動方向上流側からこの順で配置されていることを看取できる。
そうしてみると,前記偏光子の製造方法についての発明の構成は,次のとおりである。(なお,便宜上,当該偏光子の製造方法における実施例1の方法を「第1の工程」と,前駆体を用いて偏光フィルムを形成する工程を「第2の工程」と表現した。)

「移動する未処理ポリエチレンテレフタレートからなるPET基板に,多層スライドビードホッパであるコーティング装置16により,完全加水分解型(98.5%超の鹸化)で重量平均分子量が98,000ドルトンのポリビニルアルコールを水:エタノール(重量比95:5)に溶解した4層のコーティング液を用いて,最下層162,第二層164,第三層及び最上層168からなる4層の液層を塗布した後,前記PET基板の移動方向上流側から順に9個の乾燥セクション66,68,70,72,74,76,78,80,82を有する乾燥オーブンである乾燥機14により溶媒を除去してなる多層フィルム160をPET基板から剥がすことでPVAフィルムを得る第1の工程と,
当該第1の工程によって得られたPVAフィルムを前駆体として,これを延伸してポリマー分子を配向し,染色して二色フィルムにすることで,偏光フィルムを得る第2の工程と,
を有し,
前記第1の工程で,前記PET基板の速度を25cm/sとし,最下層162用のコーティング液に45cpの粘度を有するものを用い,最下層162の湿潤厚を10μmとし,第二層164及び第三層166用のコーティング液に620cpの粘度を有するものを用い,第二層164及び第三層166の合計最終湿潤厚を135μmとし,最上層168用のコーティング液に0.10重量%の界面活性剤(ポリオキシエチレン(10)イソオクチルフェニルエーテル)を含有するとともに185cpの粘度の粘度を有するものを用い,最上層168の湿潤厚を10μmとし,前記コーティング装置16による塗布時の温度を40℃とし,前記コーティング装置16のコーティングリップ136と前記PET基板との間のギャップを200μmとし,前記コーティングリップ136と前記PET基板の間に形成されるコーティングビード146全体の差圧を0?10cm水に調整し,前記乾燥セクション66,68,70の温度を25℃とし,前記乾燥セクション72,74の温度を50℃とし,前記乾燥セクション76,78,80の温度を95℃とし,前記乾燥セクション82の温度を25℃とした,
偏光フィルムの製造方法であって,
前記第1の工程によって得られるPVAフィルムは,厚さが12μmであり,良好な外観を有し,平滑で透明,皺及び襞などの問題がなく,平面内位相差が0.5nmである,
偏光フィルムの製造方法。」(以下,「引用発明」という。)

イ 特開2004-20635号公報
(ア)特開2004-20635号公報の記載
原査定の拒絶の理由において「引用文献2」として引用された特開2004-20635号公報(以下,原査定と同様に「引用文献2」という。)は,本願優先日より前に頒布された刊行物であるところ,当該引用文献2には次の記載がある。(下線は,後述する引用文献2記載事項の認定に特に関係する箇所を示す。)
a 「【0001】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,液晶ディスプレイ装置の部品として用いられる偏光板の材料として有用な光学用ポリビニルアルコールフィルムの製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
・・・(中略)・・・
【0003】
偏光板は,一般にポリビニルアルコールフィルム(以下,ポリビニルアルコールを「PVA」,ポリビニルアルコールフィルムを「PVAフィルム」と略記することがある)を一軸延伸して染色するか,または染色して一軸延伸した後,ホウ素化合物で固定処理を行うことにより(染色と固定処理が同時の場合もある)得られた偏光フィルムに,三酢酸セルロース(TAC)フィルムや酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルムなどの保護膜を貼り合わせた構成となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
偏光板には面積全体での光学性能にバラツキがあることが原因で生じる色斑が存在していることがある。この色斑の発生にはさまざまな原因があるため,保護膜などを積層した最終製品(偏光板)でないと確認しにくい。この最終製品の段階で色斑が発現すると,品質的には全く問題のない保護膜などの副資材も偏光板と共に不良品として廃棄されるので,大きな損失となる。従来色斑を減少させる方法として,特開平6-138319号公報などで提案されているように,PVAフィルムの厚み斑や複屈折斑を減少させる検討がなされてきた。PVAフィルムの厚み斑や複屈折斑を減少させるという方法により,偏光板の色斑をある程度減少させることができ,当時の要求レベルを満足させることは可能となったが,近年の性能が向上した最終製品(偏光板および液晶ディスプレイ装置)で問題となるようなレベルの色斑を減少させることは困難であることが分かってきた。
【0005】
また,液晶ディスプレイ装置の大型化に伴い大面積の偏光フィルムが要求されるようになってきた。従来の液晶ディスプレイ装置は表示面積が比較的小さいうえに偏光板が単独で用いられていたために,色斑が問題になることはほとんどなかったが,表示面積が大きくなると,表示面積全体の均一性が要求されることや,視野角を補正するフィルムなど他のフィルムと組み合わせて用いられることが多くなってきたことなどのため,色斑の問題が顕在化してきた。特にPVAフィルムをフィルムの流れ方向に一軸に延伸して製造される偏光フィルムの場合には,フィルムの流れ方向にスジ状の色斑が発生しやすい。これはフィルムが幅方向に均一に延伸されていないため,その延伸のバラツキが光学的な色斑として現れて見えるものと考えられる。従来のようにフィルム幅が2m未満のPVAフィルムの延伸を行っていた場合には,幅方向に均一に延伸させることが比較的容易であったが,近年のようにフィルム幅が2m以上のように広がるにつれて均一に延伸させることが困難となってきた。特にPVAフィルムを湿式法で一軸延伸した場合に比べて,乾式法で一軸延伸した場合には,延伸斑によって生じたと思われるスジ状の色斑が顕著である。
色斑は液晶ディスプレイ装置等に組み込んだ場合に輝度斑などの現象を引き起こすため,品質低下の原因となる問題がある。特に画面が大型化するにつれて,流れ方向にスジ状の色斑が存在した場合に,その箇所を避けて製品を採取することが困難となるため,工業的に大きな問題となる。
【0006】
そこで,本発明の目的は,色斑が少なく,高品質な液晶ディスプレイ用の偏光フィルムの製造原料として有用なポリビニルアルコールフィルムの製造法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは,上記の課題を解決するために鋭意検討した結果,幅が2m以上のポリビニルアルコールフィルムをフィルムの流れ方向に10?50N/mの張力を付与しながら,該ポリビニルアルコールフィルムに含まれる水分率を調整した後,延伸することにより,色斑の程度が著しく低減された光学用ポリビニルアルコールフィルムを製造することができることを見出し,本発明を完成するに至った。
この本発明の製造法によれば,従来技術的に困難であるとされていた2mを超える広幅のポリビニルアルコールフィルムを乾式法により容易に延伸することができ,これにより幅方向の延伸斑に起因する色斑を効果的に低減することができる。
本発明の方法にしたがう光学用ポリビニルアルコールフィルムの製造法において,ポリビニルアルコールフィルムに含まれる水分率を調整する際に,表面粗度が50?100Sの駆動ロールを用いたり,あるいはエキスパンダーロールまたはベンドロールを使用することにより,色斑をより一層効果的に低減することができる。」

b 「【0008】
【発明の実施の形態】
本発明において,PVAフィルムは,フィルムの流れ方向に10?50N/mの張力を付与しながら調湿される。PVAフィルムを調湿する際に,フィルムの張力が10N/mより小さいと,フィルムにタルミが発生して端部が折れ曲がったり,ロールに巻き付くなどの問題が発生しやすくなる。また,フィルムの張力が50N/mを超えると,張力によりフィルムが一部延伸されて,PVAフィルムの延伸工程において,幅方向における均一な延伸が阻害される原因となりやすくなるため好ましくない。
PVAフィルムを調湿する際に付与する張力は,15?45N/mが好ましく,20?40N/mがより好ましい。
【0009】
本発明において,PVAフィルムに含まれる水分率を調整するに際して好ましい態様は,表面粗度が50?100Sの駆動ロールを用いるか,あるいはエキスパンダーロールまたはベンドロールを使用することである。
上記の表面粗度が50?100Sの駆動ロールを用いるという態様において,駆動ロールの表面粗度のさらに好ましい範囲は60?90Sである。駆動ロールの表面粗度が50Sより小さいと,フィルムが駆動ロールに密着しやすくなり,該ロールから引き剥がされる状態で一部延伸されるため,PVAフィルムの延伸工程において,幅方向における均一な延伸が阻害される原因となりやすくなる。ロールの表面粗度が100Sより大きいと,フィルムと駆動ロールとの密着性が低すぎて,ロールの駆動力がフィルムに伝達されにくくなる傾向がある。
【0010】
本発明の製造法において採用されているように,PVAフィルムに低い張力を付与しながら調湿を行うと,フィルムにタルミが発生して端部が折れ曲がったり,フィルムがロールに巻き付いたりするなどの問題が発生しやすくなるが,上記したように,PVAフィルムに含まれる水分率を調整するに際して,エキスパンダーロールまたはベンドロールを使用することにより,このような問題の発生を防止することができる。・・・(中略)・・・
【0026】
本発明において,PVAフィルムに含まれる水分率を調整する方法について,特に制限はなく,例えば,PVAフィルムがスチームなどから発生した微細な水滴と接触するようにした吸湿ゾーンや,温風が流れる放湿ゾーンなどを設け,該PVAフィルムにこれらのゾーンを通過させることで,PVAフィルムに含まれる水分率,特に幅方向における水分率を一定に制御することができる。
【0027】
本発明の方法は偏光フィルムの製造に好ましく適用することができ,この場合,水分率を調整した後のPVAフィルムを乾式法により一軸延伸するのが良い。その具体的な方法としては,例えば本発明の方法したがって水分率を調整したPVAフィルムを乾式法による一軸延伸,染色,必要に応じて乾式法または湿式法による二段目の一軸延伸,固定処理,乾燥処理,さらに必要に応じて熱処理を行えばよく,染色,乾式法または湿式法による二段目の一軸延伸,固定処理の操作の順番に特に制限はない。・・・(中略)・・・
【0028】
PVAフィルムの染色は,一軸延伸の前,一軸延伸時,一軸延伸後のいずれの段階で行っても良い。・・・(中略)・・・PVAフィルムの染色は,PVAフィルムを上記染料を含有する溶液中に浸漬させることにより行われるのが一般的であるが,染料をPVAフィルムに混ぜて製膜するなど,その処理方法や処理条件は特に制限されるものではない。
【0029】
二段目の一軸延伸には,PVAフィルムをホウ酸水溶液などの温水溶液中(前記染料を含有する溶液中や後述する固定処理浴中でもよい)で延伸する湿式延伸法,含水後のPVAフィルムを空気中で延伸する乾式延伸法を使用することができる。延伸温度は特に限定されないが,PVAフィルムを温水溶液中などで延伸する場合は30?90℃が,また空気中で延伸する場合は50?180℃が好適である。
また一軸延伸の延伸倍率(一軸延伸を多段で行う場合には,合計の延伸倍率)は,偏光性能の点から4倍以上が好ましく,5倍以上が特に好ましい。延伸倍率の上限について特に制限はないが,8倍以下であると均一な延伸が得られやすいので好ましい。特に幅方向に均一な延伸を行うためには,一段目の延伸が4倍を超えることが好ましく,4.2倍以上がさらに好ましく,4.5倍以上が特に好ましい。延伸後のフィルムの厚さは,3?45μmが好ましく,5?30μmがより好ましい。
【0030】
PVAフィルムへの上記染料の吸着を強固にすることを目的にして,固定処理を行うことが多い。固定処理に使用する処理浴には,通常,ホウ酸および/またはホウ素化合物が添加される。また,必要に応じて処理浴中にヨウ素化合物を添加してもよい。
【0031】
得られた偏光フィルムの乾燥処理(熱処理)は,30?150℃で行うのが好ましく,50?150℃で行うのがより好ましい。
【0032】
以上のようにして得られた偏光フィルムは,通常,その両面または片面に,光学的に透明で,かつ機械的強度を有した保護膜を貼り合わせて偏光板として使用される。」

c 「【0034】
【実施例】
以下,実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが,本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお,実施例および比較例において,偏光フィルム光学性能,および偏光歌の色斑は以下の方法により評価した。
【0035】
偏光フィルムの光学性能:
約4cm×4cmの偏光膜のサンプルを島津製作所製の分光光度計UV-2200(積分球付属)を用い,日本電子機械工業会規格(EIAJ)LD-201-1983に準拠して,C光源,2度視野の可視光領域の視感度補正したY値を測定し,偏光膜の延伸軸方向に対して45度と-45度方向の平均値から透過率を求めた。これと同様の方法でパラレルニコルとクロスニコルのY値を測定し,偏光度を求めた。
【0036】
偏光板の色斑:
全巾の偏光板を観察用偏光板(平行に2枚重ねたもの,偏光度99.99%以上)の間に直交方向に置き,色斑の程度を目視観察で判定した。
【0037】
実施例1
けん化度99.95モル%,重合度2400のPVA100重量部に,グリセリン10重量部および水170重量部を含浸させたものを溶融混練し,脱泡後,Tダイから金属ロールに溶融押出し,製膜した。その後,乾燥・熱処理することにより,フィルム幅が3m,平均厚みが50μmのPVAフィルムを得た。
このPVAフィルムを調湿装置に通し,フィルムに含まれる水分率を6重量%に調整した。PVAフィルムを調湿した際に,表面粗度が80Sの駆動ロールを用い,フィルムに20N/mの張力を付与した。そして,調湿装置に組み込まれたフリーロールのうち,調湿装置の中間部付近の1本をエキスパンダーロールとし,調湿装置の出口付近の1本をベンドロールとした。PVAフィルムを調湿する工程において,フィルム端部の折れ曲がりは発生しておらず,フィルムにはシワも認められなかった。
上記の水分率を調整したPVAフィルムを,乾式法による一軸延伸,予備膨潤,染色,湿式法による一軸延伸,固定処理,乾燥,熱処理の順番で連続的に処理して偏光フィルムを作製した。PVAフィルムを80℃の金属製の駆動ロール上で流れ方向に4.1倍に乾式法による延伸を行い,30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し,ヨウ素濃度0.6g/リットル,ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの35℃の水溶液中に3分間浸した。続いて,ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中で1.5倍に一軸延伸を行い,ヨウ化カリウム濃度60g/リットル,ホウ酸濃度40g/リットル,塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行った。その後,PVAフィルムを取り出し,40℃で熱風乾燥し,さらに100℃で5分間熱処理を行った。得られた偏光フィルムの偏光性能は透過率44.00%,偏光度99.72%,2色性比51.84であった。
得られた偏光フィルムを10%のPVA水溶液の接着剤を用いて,トリアセテートフィルムと貼り合わせ,偏光板を得た。偏光板の色斑を観察したところ,偏光板の全面にわたって色斑はなく良好であった。この偏光板を液晶ディスプレイ装置に組み込んだところ,色斑はなく良好であった。
【0038】
実施例2
実施例1と同様にして得られたPVAフィルムを調湿装置に通し,フィルムの水分率を8重量%に調整した。なお,PVAフィルムを調湿した際に,表面粗度が70Sの駆動ロールを用い,フィルムに30N/mの張力を付与した。また,調湿装置に組み込まれたフリーロールのうち,調湿装置の出口付近の1本をベンドロールとした。PVAフィルムを調湿する工程において,フィルム端部の折れ曲がりは発生しておらず,フィルムにはシワも認められなかった。
上記の水分率を調整したPVAフィルムを実施例1と同様に処理して偏光フィルムを作製した。得られた偏光フィルムを10%のPVA水溶液の接着剤を用いて,トリアセテートフィルムと貼り合わせ,偏光板を得た。偏光板の色斑を観察したところ,偏光板の全面にわたって色斑はなく良好であった。この偏光板を液晶ディスプレイ装置に組み込んだところ,色斑はなく良好であった。
・・・(中略)・・・
【0040】
比較例1
実施例1と同様にして得られたPVAフィルムを調湿装置に通し,フィルムの水分率を6重量%に調整した。なお,PVAフィルムを調湿した際に,表面粗度が70Sの駆動ロールを用い,フィルムに60N/mの張力を付与した。調湿装置にエキスパンダーロールやベンドロールを組み込むことはしなかった。PVAフィルムを調湿した際にフィルムに付与した張力が高かったこともあり,フィルムの端部の折れ曲がりは発生しなかったが,フィルムの幅方向に数本のシワが観察され,その部分はフィルムが少し伸びているようであった。
上記の水分率を調整したPVAフィルムを実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。なお,偏光フィルムを作製するに際し,乾式法による一軸延伸時にフィルムの異常は何ら認められなかった。
得られた偏光フィルムを10%のPVA水溶液の接着剤を用いて,トリアセテートフィルムと貼り合わせ,偏光板を得た。偏光板の色斑を観察したところ,前記したPVAフィルムの調湿時にシワが認められた部分で色斑が認められた。この偏光板を液晶ディスプレイ装置に組み込み,偏光板に色斑が認められた部分を観察すると,液晶ディスプレイ装置にも色斑が認められ,偏光板として不適と判断された。
【0041】
比較例2
実施例1と同様にして得られたPVAフィルムを調湿装置に通し,フィルムの水分率を6重量%に調整した。なお,PVAフィルムを調湿した際に,表面粗度が70Sの駆動ロールを用い,フィルムに5N/mの張力を付与した。調湿装置にエキスパンダーロールやベンドロールを組み込むことはしなかった。PVAフィルムを調湿した際にフィルムに付与した張力が低かったこともあり,フィルムの端部の折れ曲がり発生し,フィルムの幅方向に数本のシワが観察された。
上記の水分率を調整したPVAフィルムを実施例1と同様にして偏光フィルムを作製した。なお,偏光フィルムを作製するに際し,乾式法による一軸延伸時にフィルムの異常は何ら認められなかった。
得られた偏光フィルムを10%のPVA水溶液の接着剤を用いて,トリアセテートフィルムと貼り合わせ,偏光板を得た。偏光板の色斑を観察したところ,前記したPVAフィルムの端部に折れ曲がりが認められた付近において,幅方向中心部に向かって色斑が認められた。また,シワが認められた部分でも色斑が認められた。色斑の原因は不明であるが,何らかの染色斑が起こったものと考えられる。この偏光板を液晶ディスプレイ装置に組み込み,偏光板に色斑が認められた部分を観察すると,液晶ディスプレイ装置にも色斑が認められ,偏光板として不適と判断された。」

d 「【0042】
【発明の効果】
本発明によれば,従来技術的に困難であるとされていた2mを超える広幅のポリビニルアルコールフィルムを容易に延伸することができ,これにより幅方向の延伸斑に起因する色斑を効果的に低減して,色斑の少ない光学用ポリビニルアルコールフィルムを製造することができる。本発明の方法は,特に偏光フィルムの製造に好ましく適用することができ,この偏光フィルムからは液晶ディスプレイ装置に組み込まれた際に色斑を低減することが可能な偏光板を製造することができる。」

(イ)引用文献2に記載された技術事項
引用文献2の【0005】に記載された「乾式法で一軸延伸した場合」の「延伸斑によって生じたと思われるスジ状の色斑」が,その直前に記載された「PVAフィルムをフィルムの流れ方向に一軸に延伸して製造される偏光フィルムの場合」のフィルムの流れ方向に発生しやすい「スジ状の色斑」であって,フィルムが幅方向に均一に延伸されていないため,その延伸のバラツキが光学的な色斑として現れて見えるものと考えられる「スジ状の色斑」のことを指していることは,文脈上明らかである。そうしてみると,前記(ア)aないしdで摘記した引用文献2の記載から,引用文献2に,実施例2に関して次の技術事項が記載されていると認められる。

「PVAフィルムをフィルムの流れ方向に一軸に延伸して製造される偏光フィルムでは,フィルムの流れ方向にスジ状の色斑が発生しやすく,特にPVAフィルムを乾式法で一軸延伸した場合,湿式法で一軸延伸した場合に比べて前記スジ状の色斑が顕著であるという問題があるが,
次の偏光フィルムの製造方法によって製造した偏光フィルムには,前記スジ状の色斑が発生しないこと。

[偏光フィルムの製造方法]
PVAフィルムを,組み込まれたフリーロールのうち出口付近の1本をベンドロールとした調湿装置に通し,表面粗度が70Sの駆動ロールを用いて,フィルムの流れ方向に30N/mの張力を付与しながら,当該PVAフィルムに含まれる水分率を8重量%に調整し,
その後,80℃の金属製の駆動ロール上で流れ方向に4.1倍に乾式法による一軸延伸を行い,
30℃の水中に30秒間浸して予備膨潤し,
ヨウ素濃度0.6g/リットル,ヨウ化カリウム濃度40g/リットルの35℃の水溶液中に3分間浸して染色し,
続いて,ホウ酸濃度4%の50℃の水溶液中で1.5倍に一軸延伸を行い,
ヨウ化カリウム濃度60g/リットル,ホウ酸濃度40g/リットル,塩化亜鉛濃度10g/リットルの30℃の水溶液中に5分間浸漬して固定処理を行い,
その後,PVAフィルムを取り出し,40℃で熱風乾燥し,さらに100℃で5分間熱処理を行う。」(以下,「引用文献2記載事項」という。)

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「平面内位相差」,「PVAフィルム」,「偏光フィルム」及び「偏光フィルムの製造方法」は,技術的にみて,本件補正発明の「面内位相差値」,「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」,「偏光フィルム」及び「偏光フィルムの製造方法」にそれぞれ対応する。

イ 引用発明の「第1の工程」は,「PVAフィルム」(本件補正発明の「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」に対応する。以下,「(3)対比」欄において,引用発明の構成を囲む「」に続く()中の文言は,当該引用発明の構成に対応する本件補正発明の発明特定事項を表す。)を得る工程であるから,当該工程は「PVAフィルム」を用意する工程といえる。
また,前記「PVAフィルム」の「平面内位相差」(面内位相差)が0.5nmであるところ,当該「PVAフィルム」と本件補正発明の「幅方向における面内位相差値の平均値が5nm以下であるポリビニルアルコール系樹脂フィルム」は,「面内位相差が小さいポリビニルアルコール系樹脂フィルム」である点で共通する(当合議体注:「0.5nm」,「5nm」という値は,ポリビニルアルコール系フィルムの面内位相差としては,非常に小さなものである。)。
したがって,引用発明の「第1の工程」は,本件補正発明の「第1工程」と,「面内位相差が小さいポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用意する第1工程」である点で共通する。

ウ 引用発明において,「第1の工程」によって得られる「PVAフィルム」(ポリビニルアルコール系樹脂フィルム)の厚さは12μmであるから,「第2の工程」における延伸後の厚さが15μm以下であることは明らかである。そうすると,引用発明の「第2の工程」中の「PVAフィルムを前駆体として,これを延伸してポリマー分子を配向」させる工程と,本件補正発明の「ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾式延伸して,厚みが15μm以下である延伸フィルムを得る第2工程」は,「ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸して,厚みが15μm以下である延伸フィルムを得る第2工程」である点で共通する。

エ 前記アないしウによれば,本件補正発明と引用発明とは,
「面内位相差が小さいポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用意する第1工程と,
前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを延伸して,厚みが15μm以下である延伸フィルムを得る第2工程と,
を含む,偏光フィルムの製造方法。」
である点で一致し,次の点で一応相違する,又は相違する。

相違点1:
本件補正発明の「第1工程」によって用意される「ポリビニルアルコール系樹脂フィルム」は,「幅方向における面内位相差値の平均値」が5nm以下であるのに対して,
引用発明の「第1の工程」によって得られる「PVAフィルム」は,「平面内位相差」が0.5nmであるものの,「幅方向における面内位相差値の平均値」は定かでない点。

相違点2:
本件補正発明では,「第2工程」中の延伸が「乾式延伸」であるのに対して,
引用発明では,「第2の工程」中の延伸が「乾式延伸」に特定されてはいない点。

相違点3:
本件補正発明では,「第1工程」と「第2工程」とを含む「延伸フィルムの製造方法」によって「延伸フィルムを得る工程」が構成され,さらに,当該工程によって得られた「延伸フィルム」を用いて「偏光フィルムを得る工程」を有しているのに対して,
引用発明では,第2の工程において,延伸する工程と染色する工程の時系列が特定されておらず,染色する工程が延伸する工程より前に行われる場合や両工程が同時に行われる場合には,延伸する工程自体が「偏光フィルムを得る工程」となることから,本件補正発明のような構成のものに特定されているとはいえない点。

(4)相違点1について
引用文献1の【0020】に記載されているように,引用発明は,広範囲の乾燥厚にわたって高度に均質な偏光フィルムの製造方法を提供することを目的の一つとするものであるから,引用発明の第1の工程によって得られたPVAフィルムの「0.5nm」という「平面内位相差」の値が,「幅方向における面内位相差値の平均値」が「5nm」を超えることとなるほどに,幅方向において大きく変化するとは,およそ考えられない。あるいは,仮に,引用発明のPVAフィルムの端部近傍などに「平面内位相差」が「0.5nm」から大きく外れる領域ができるとしても,引用発明の前記目的等を勘案すると,そのような領域は使用しない(カットされる)と考えるのが相当である。
以上によれば,相違点1は実質的な相違点でない(少なくとも,引用発明を,相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項を具備したものとすることは,当業者が適宜なし得たことである。)。

(5)相違点2及び相違点3の容易想到性について
ア 引用文献1には,引用発明の第2の工程(延伸や染色)を具体的にどのようなものとするのかについては明記されていないものの,当該第2の工程として,引用文献2記載事項における[偏光フィルムの製造方法]における,「流れ方向」への「乾式法による一軸延伸」,「予備膨潤」,「染色」,「ホウ酸水溶液中での一軸延伸」,「固定処理」,「乾燥」,「熱処理」を連続して行う工程を採用することは,当業者が容易になし得たことである。また,その際に,フィルムの流れ方向にスジ状の色斑が発生することを防止するために,引用文献2記載事項の[偏光フィルムの製造方法]における「水分率」を「調整」する工程を,第2の工程における前記「流れ方向」への「乾式法による一軸延伸」の前,すなわち,「第1の工程」における「PVAフィルムを得る」工程の後に行うことは,引用文献2の記載に接した当業者が当然に行うことである。

イ 前記アで述べた構成の変更を行った引用発明において,第2の工程における「延伸」は,「流れ方向に」行う「乾式法による一軸延伸」であるから,相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項を具備している。
また,前記アで述べた構成の変更を行った引用発明においては,「第1の工程」と,「水分率」を「調整」する工程と,「流れ方向」への「乾式法による一軸延伸」とを有する「延伸フィルムの製造方法」によって「延伸フィルムを得る工程」が構成され,「予備膨潤」,「染色」,「ホウ酸水溶液中での一軸延伸」,「固定処理」,「乾燥」及び「熱処理」によって,前記「延伸フィルムを得る工程」で得られた「延伸フィルム」を用いて「偏光フィルムを得る工程」が構成されているといえるから,相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項をも具備している。

ウ 以上のとおりであるから,引用発明を,相違点2及び相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項を具備したものとすることは,引用文献2記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)効果について
本件補正発明が有する効果は,引用文献1及び引用文献2の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

なお,請求人は,平成29年1月4日提出の意見書において,
「引用文献2には,「色斑」と呼ばれる欠陥を低減し得ることが記載されています。引用文献2でいうところの「色斑」について,引用文献2には,その原因は不明であることが記載されていますが(段落[0041]),それが意味するところは,偏光フィルムに保護フィルムを貼合して偏光板とし,かつ,平行に2枚重ねた観察用偏光板の間に,対象の偏光板を直交方向に置いたときに観察されるものであると認められます(段落[0004],[0036])。また,引用文献2のいずれの比較例においても,PVAフィルムにシワ又は折れ曲がりが認められた部分で色斑が認められていることから(段落[0040],[0041]),詳細な原因は不明であるとはいえ,引用文献2でいうところの「色斑」は,フィルムのシワや折れ曲がりに直接的又は間接的に起因しているものと考えられます。
これに対して,本願明細書の実施例及び比較例から明らかなように,本願でいうところの「スジ状欠陥」は,延伸処理に供されるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの幅方向における面内位相差値の平均値に依存するものであって,フィルムのシワや折れ曲がりに起因するものではありません(本願明細書の比較例において,フィルムにシワや折れ曲がりがあった旨の記載はありません。)。」
などと主張し,平成29年11月1日提出の上申書においても,同様の主張をしている。
当該主張について判断する。
引用文献2の【0040】及び【0041】の記載((2)イ(ア)cを参照。)からみて,比較例1及び2において発生した「色斑」は,PVAフィルムの調湿後(乾式法による一軸延伸前)に,PVAフィルムに観察された,幅方向の「数本のシワ」や「フィルムの端部の折れ曲がり」(請求人のいう「フィルムのシワや折れ曲がり」)に起因して生じたものと推察される。そして,前記「幅方向の数本のシワ」や「フィルムの端部の折れ曲がり」は,調湿時におけるPVAフィルムに対する過剰な張力(比較例1の「60N/m」)や過小な張力(比較例2の「5N/m」)によって発生したものであることは,前記【0040】及び【0041】の記載から明らかである。そうすると,比較例1及び2において発生した「色斑」は,延伸工程において,前記「数本のシワ」や「フィルムの端部の折れ曲がり」によって幅方向の均一な延伸が阻害されることによって現れたものと考えられる(【0008】の記載についても参照。)。
一方,引用文献2の【0005】の記載によれば,引用文献2記載事項において問題とされ解決しようとする「スジ状の色斑」とは,PVAフィルムをフィルムの流れ方向に一軸に延伸して製造する際に発生しやすく,特に乾式法で一軸延伸した場合に顕著なものであり,当該「スジ状の色斑」は,幅方向に均一に延伸できないことによって発生するものと考えられる。しかるに,引用文献2記載事項において問題とされ解決しようとする「スジ状の色斑」の前提となる製造方法では,PVAフィルムの調湿はされていないのであるから,調湿時におけるPVAフィルムに対する張力の過不足に起因したものではない。
要するに,引用文献2記載事項における[偏光フィルムの製造方法]では,フィルムの流れ方向に一軸に延伸して製造する際に,幅方向の不均一な延伸に起因して発生する「スジ状の色斑」を低減するために,乾式法による一軸延伸の前に,「PVAフィルムの水分率を8重量%に調整する」という手段を採用したものであるが,当該調湿時に張力の過不足があると,幅方向の不均一な延伸に起因して「色斑」が発生してしまうことから,その張力を「30N/m」にしたものである。このことは,引用文献2の記載に接した当業者が容易に理解することである。
しかるに,当業者は,引用文献2記載事項における[偏光フィルムの製造方法]によれば,調湿時の張力の過不足によって発生した「幅方向の数本のシワ」や「フィルムの端部の折れ曲がり」に起因する「色斑」ばかりでなく,フィルムの流れ方向に乾式一軸延伸する方法を採用した場合に発生する「スジ状の色斑」全般を低減できると期待するものと認められる。
したがって,引用文献2記載事項の[偏光フィルムの製造方法]が防止できる「スジ状の色斑」が,調湿時の張力の過不足によって発生した「幅方向の数本のシワ」や「フィルムの端部の折れ曲がり」に起因する「色斑」のみであることを前提として,本件補正発明が防止できる「スジ状欠陥」と異なる旨主張する前記請求人の主張は,採用できない。

(7)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本件補正発明は,引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願の請求項6に係る発明について
1 請求項1の記載を引用する請求項6に係る発明
本件補正は前記のとおり却下されたので,本願の請求項6に係る発明は,前記第2〔理由〕1(1)アに示した請求項6に記載された事項により特定されるものと認められるところ,当該請求項6に係る発明のうち請求項1の記載を引用するものについて,独立形式の記載に書き改めると,次のとおりである。

「幅方向における面内位相差値の平均値が5nm以下であるポリビニルアルコール系樹脂フィルムを用意する第1工程と,前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを乾式延伸して,延伸フィルムを得る第2工程と,を含む,延伸フィルムの製造方法によって前記延伸フィルムを得る工程と,
前記延伸フィルムを用いて偏光フィルムを得る工程と,
を含む,偏光フィルムの製造方法。」(以下,「本件発明」という。)


2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載及び引用発明,並びに引用文献2の記載及び引用文献2記載事項については,前記第2〔理由〕3(2)ア及びイのとおりである。

3 対比・判断
本件補正発明は,上記第2〔理由〕2のとおり,本件発明の発明特定事項を限定したものである。
そうすると,本件発明の発明特定事項をすべて含み,さらに限定を付加したものに相当する本件補正発明が,上記第2〔理由〕3(7)に記載したとおり,引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明も同様の理由により,引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
前記第3のとおり,本件発明は,引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,請求項1以外の請求項の記載を引用する請求項6に係る発明及び他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-13 
結審通知日 2018-06-19 
審決日 2018-07-03 
出願番号 特願2016-164467(P2016-164467)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾廣田 健介菅原 奈津子  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 河原 正
清水 康司
発明の名称 延伸フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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