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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B63B
管理番号 1343622
審判番号 不服2017-7220  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-05-19 
確定日 2018-08-30 
事件の表示 特願2015-147397号「船舶の風圧抵抗低減装置およびそれを備える船舶」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月 2日出願公開、特開2017- 24643号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願(以下「本願」という。)は、平成27年7月27日の出願であって、特許法第30条第2項新規性の喪失の例外規定の適用の申請を伴うものであり、願書に「特許法第30条第2項の適用を受けようとする特許出願」という記載がされ、同年8月10日に発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書が提出され、平成28年7月8日付けで拒絶理由が通知され、同年9月8日に意見書及び手続補正書が提出され、平成29年2月21日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成30年4月6日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という。)が通知され、同年5月23日に意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成29年5月19日に提出された手続補正書に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
船体の船首と船尾との間における甲板上に複数の荷役装置が設置されてなる船舶の風圧抵抗低減装置であって、
前記船体の側部に、その側部上縁から前記荷役装置の上方に向かう方向に延びるように傾斜する平板状の傾斜面部を有する帯板状部材よりなる防風サイドガードを前記船体の船首近傍から船尾近傍の全域に亘って配設し、かつ、前記船体の船首に、その船首上縁から該船首に最も近い位置にある荷役装置の上方に向かう方向に延びて前記船首を覆う部分楕円体状の外観を有する船首防風ドームを前記防風サイドガードと連続するように配設することを特徴とする船舶の風圧抵抗低減装置。
【請求項2】
船体の船首と船尾との間における甲板上に複数の荷役装置が設置されてなる船舶であって、
請求項1に記載の船舶の風圧抵抗低減装置を備えることを特徴とする船舶。」

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由は、概略、次のとおりのものである。
本願発明1及び2は、引用文献1又は2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
あるいは、本願発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて、又は引用文献2に記載された発明及び引用文献3に記載された技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:水谷圭介、博士論文「チップ船の風波浪中抵抗低減とレスバラ
スト化に関する研究開発」、大阪府立大学、2015年7月3
日掲載、特に第9頁、第18頁、第31頁?第46頁
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/bitstream/10466
/14536/1/2014900097.pdf
引用文献2:水谷圭介、博士論文「チップ船の風波浪中抵抗低減とレスバラ
スト化に関する研究開発」、大阪府立大学、2015年2月発
行、特に第9頁、第18頁、第31頁?第46頁
引用文献3:特開2012-71696号公報

第4 本願における新規性喪失の例外規定の適用について
上記第1のとおり、本願は、特許法第30条第2項新規性の喪失の例外規定の適用の申請を伴うものであり、願書に「特許法第30条第2項の適用を受けようとする特許出願」という記載がされ、特許出願の日から30日以内である平成27年8月10日に発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書(以下「本件証明書」という。)が提出されたものである。
そして、後記「4(1)」のとおり、請求人は、平成30年5月23日の意見書において、本願発明1及び2は、特許法第30条第2項の適用を受けるものであるため、当審拒絶理由において引用した引用文献1の存在によって新規性を否定されるものではない旨主張するので、以下、特許法第30条第2項の規定の適用について検討する。

1 本件証明書の記載事項
本件証明書には、以下の事項が記載されている。

「1.公開の事実
(1)開催日 平成27年2月27日
(2)集会名、開催場所 日本船舶海洋工学会 関西支部シンポジウム
「次世代船舶シンポジウム-省エネへの試み
-」
大阪府立大学学術交流会館多目的ホール
(大阪府堺市中区学園町1番1号)
(3)公開者 水谷圭介
(4)公開された発明の内容 水谷圭介が、平成27年日本船舶海洋工学会
関西支部シンポジウムにて、水谷圭介及び秋
山悠が発明したチップ船の風圧抵抗低減につ
いて公開した。」
(審決注:(1)?(4)は、原文では丸数字。)

2 適用法規
本件証明書の記載によれば、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して特許法第29条第1項各号のいずれかに該当するに至つた発明の特許法第29条第1項各号のいずれかに該当するに至った日は、平成27年2月27日であると解されるから、本願は、特許法第30条第2項については、不正競争防止法等の一部を改正する法律(平成30年5月30日法律第33号)による改正(以下「平成30年改正」という。)前の特許法が適用される。
平成30年改正前の特許法第30条第2項は、「特許を受ける権利を有する者の行為に起因して第29条第1項各号のいずれかに該当するに至つた発明(発明、実用新案、意匠又は商標に関する公報に掲載されたことにより同項各号のいずれかに該当するに至つたものを除く。)も、その該当するに至つた日から6月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第1項及び第2項の規定の適用については、前項と同様とする。」と規定し、同条第3項は「前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第29条第1項各号のいずれかに該当するに至つた発明が前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(次項において「証明書」という。)を特許出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない。」と規定している。

3 検討
(1)上記1のとおり、請求人が提出した本件証明書には、「1.公開の事実」として、平成27年2月27日、水谷圭介を公開者、日本船舶海洋工学会 関西支部シンポジウム「次世代船舶シンポジウム-省エネへの試み」大阪府立大学学術交流会館多目的ホール(大阪府堺市中区学園町1番1号)を集会名、開催場所とし、水谷圭介が平成27年日本船舶海洋工学会 関西支部シンポジウムにて、水谷圭介及び秋山悠が発明したチップ船の風圧抵抗低減について公開した事実が記載されている。
ここで、上記第3で示した引用文献1の公開の態様についてみると、引用文献1は、水谷圭介が作成した博士論文として大阪府立大学のホームページである http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/bitstream/10466/14536/1/2014900097.pdf に掲載されたものである。そうすると、当該公開の事実は本件証明書に記載されたものでないことが明らかである。

(2)もっとも、特許・実用新案審査基準には、「権利者が発明を複数の異なる雑誌に掲載した場合等、権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在する場合において、第2項の規定の適用を受けるためには、原則として、それぞれの『公開された発明』について『証明する書面』が提出されていなければならない。しかし、『公開された発明』が以下の条件(i)から(iii)までの全てを満たすことが出願人によって証明された場合は、その『証明する書面』が提出されていなくても第2項の規定の適用を受けることができる。
(i)『証明する書面』に基づいて第2項の規定の適用が認められた発明(以下この節において、単に『第2項の規定の適用が認められた発明』という。)と同一であるか、又は同一とみなすことができること。
(ii)『第2項の規定の適用が認められた発明』の公開行為と密接に関連する公開行為によって公開された発明であること、又は権利者若しくは権利者が公開を依頼した者のいずれでもない者によって公開された発明であること。
(iii)『第2項の規定の適用が認められた発明』の公開以降に公開された発明であること。」(特許・実用新案審査基準 第III部第2章第5節「4.2 権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在する場合に、『証明する書面』が提出されていなくても第2項の規定の適用を受けることができる発明について」)と記載されているように、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して特許法第29条第1項各号のいずれかに該当するに至つた発明が複数存在するような場合には、証明書に記載された発明の公開行為と実質的に同一とみることができるような密接に関連する公開行為によって公開された場合については、別個の手続を要することなく同項の適用を受けることができるものとも解することができるので更に検討する。
上記(1)で述べたとおり、引用文献1は、水谷圭介の博士論文として大阪府立大学のホームページである http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/bitstream/10466/14536/1/2014900097.pdf に掲載されたものであるところ、これを掲載した大阪府立大学と、本件証明書に記載された「次世代船舶シンポジウム-省エネへの試み」を開催した日本船舶海洋工学会とは、別個の法人格を有していることが明らかである。さらに、通常、博士論文は学位請求のために大学に提出されるものであるから、大阪府立大学に提出された博士論文である引用文献1の内容と、当該大学と異なる法人であり、学位請求に関与しない日本海洋工学会が開催した上記シンポジウムにおける発表内容とは、博士論文の内容とその論文に係る公聴会における発表内容のような、同一の関係ではないと解するのが合理的である。
そうすると、本件証明書に記載されたシンポジウムにおける公開行為と、引用文献1の公開行為とが、実質的に同一とみることができるような密接に関連するものであるということはできない。
したがって、引用文献1に係る公開行為について、本件証明書に記載されたものとみることはできない。

4 請求人の主張について
(1)請求人は、平成30年5月23日付け意見書において、
「(2.1)本願発明の出願前公表から新規性喪失の例外規定適用の手続に至るまでの経緯
平成27(2015年)年2月10日 博士論文「チップ船の風波浪中抵抗低減とレスバラスト化に関する研究開発」(引用文献2)を大阪府立大学に提出
平成27年2月27日 大阪府立大学学術交流会館多目的ホールにおいて開催された日本船舶海洋工学会 関西支部シンポジウム「次世代船舶シンポジウム-省エネへの試み-」にて、本願発明に係るチップ船の風圧抵抗低減技術について公表
平成27年3月2日 大阪府立大学の公聴会にて、博士論文「チップ船の風波浪中抵抗低減とレスバラスト化に関する研究開発」(引用文献2)に関する技術内容を公表
平成27年7月3日 博士論文「チップ船の風波浪中抵抗低減とレスバラスト化に関する研究開発」(引用文献2)に関する技術内容を大阪府立大学のホームページ上に掲載(引用文献1)
平成27年7月27日 出願
平成27年7月27日 上記出願と同時に、特許法第30条第2項の規定の適用を受けようとする旨を記載した書面を特許庁長官に提出
平成27年8月7日 特許法第30条第2項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面を特許庁長官に提出

(2.2)本願発明の新規性が喪失されていないことの説明
まず、平成27年2月10日に大阪府立大学に提出されました博士論文「チップ船の風波浪中抵抗低減とレスバラスト化に関する研究開発」(引用文献2)の技術内容と、平成27年2月27日に開催されたシンポジウムにて公表された「チップ船の風圧抵抗低減」の技術内容と、平成27年7月3日に大阪府立大学のホームページ上に掲載された博士論文「チップ船の風波浪中抵抗低減とレスバラスト化に関する研究開発」(引用文献1)に関する技術内容とは、基本的に同じで、いずれも、本願発明に係る技術に関するものであります。
・・・
上記のように、本願発明は、平成27年2月27日に公表されていますが、当該公表の日から6月以内に特許出願をし、特許出願時に特許法第30条第2項の規定の適用を受けようとする旨を記載した書面を提出し、特許出願の日から30日以内に特許法第30条第3項に規定する「証明する書面」を提出いたしましたので、本願発明は、平成27年2月27日の公表によっては新規性が喪失しないものとして取り扱われるものと確信しております。
ここで、平成27年2月27日の公表と、平成27年3月2日の公表と、平成27年7月3日の公表は、密接不可分の関係にあり、かつ三者とも発明の新規性喪失の例外規定の適用対象の公表でありますので、最先(平成27年2月27日)の公表について特許法第30条第3項に規定する「証明する書面」を提出すれば、その後(平成27年3月2日、7月3日)の他の公表につきましては、特許法第30条第3項に規定する「証明する書面」の提出を省略することができるものと承知しております。(特許庁版(平成22年3月、平成26年3月改訂)「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」の「Q2-a 発明を複数回公開した場合は発明の新規性喪失の例外規定を受けることができますか?」参照)
従いまして、本願発明は、平成27年3月2日の公表及び7月3日の公表によっても新規性が喪失しないものとして取り扱われるものと確信しております。
このように本願発明は、出願人自らが公表した資料である引用文献1,2の存在によって新規性を否定されるものではなく、十分に新規性を備えた発明であると思料いたします。」
と主張するので、以下検討する。

(2)上記3で述べたとおり、引用文献1は、水谷圭介が作成した博士論文として大阪府立大学のホームページに掲載されたものであるから、当該公開の事実は本件証明書に記載されたものでないことが明らかであり、本件証明書に記載されたシンポジウムにおける公開行為と、引用文献1の公開行為とは、実質的に同一とみることができるような密接に関連するものであるということもできない。
そうすると、平成27年2月27日の公表(シンポジウムにおける公開行為)と平成27年7月3日の公表(引用文献1の公開行為)が、密接不可分の関係にあるとはいえないことが明らかである。

(3)上記(1)で述べたとおり、請求人は、上記意見書において「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」の「Q2-a 発明を複数回公開した場合は発明の新規性喪失の例外規定を受けることができますか?」特許庁(平成22年3月、平成26年3月改訂)を挙げて、平成27年2月27日の公表と、平成27年3月2日の公表と、平成27年7月3日の公表は、密接不可分の関係にあり、かつ三者とも発明の新規性喪失の例外規定の適用対象の公表であるから、最先(平成27年2月27日)の公表について特許法第30条第3項に規定する「証明する書面」を提出すれば、その後(平成27年3月2日、7月3日)の他の公表については、特許法第30条第3項に規定する「証明する書面」の提出を省略することができる旨主張するので、「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」特許庁(平成22年3月、平成26年3月改訂)の記載も参照して、さらに検討する。

(4)
ア 「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」特許庁(平成22年3月、平成26年3月改訂)について
上記「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。また、以下「1A」?「1B」の記載事項は、それぞれ「記載事項(1A)」?「記載事項(1B)」という。以下同様。)。

(1A)表紙裏第1行第1行?第13行
「Q&A集の利用にあたって

『発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集』(以下、『Q&A集』といいます)は、『発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き』(以下、『手引き』といいます)に関する質問や、特許法第30条の発明の新規性喪失の例外規定の適用を受ける際の手続全般にわたってよくお寄せいただく質問をとりまとめ、それぞれの質問に対する回答を示したものです。
『Q&A集』においては、特許法第30条第1項、第3項及び第4項について、単に『第1項』、『第3項』及び『第4項』ということがあります。
なお、『Q&A集』は平成18年10月に公表された後、平成22年3月に内容を拡充すると共に、『手引き』の項目に合わせてQ&Aを整理するための改訂を行い、平成26年3月にも改訂を行っています。

発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続を行なう際には、『手引き』とともに、『Q&A集』も必要に応じて参照してください。」

(1B)第4ページ第2行?第23行
「Q2-a:(平成18年10月公表時Q&AのQ5)
発明を複数回公開した場合は発明の新規性喪失の例外規定を受けることができますか?
A2-a:
受けることができます。
複数回の公開がなされた場合であっても、発明の新規性喪失の例外規定の適用対象である公開については、それぞれ特許法第30条第4項に規定された証明がなされれば、適用を受けることができます。一方、発明の新規性喪失の例外規定の適用対象でない公開については受けることはできません。
また、一の公開と密接不可分の関係にある他の公開については、両者とも発明の新規性喪失の例外規定の適用対象の公開である限りにおいて、最先の一の公開について『証明する書面』を提出すれば、他の公開については、『証明する書面』の提出を省略することができます。ここでいう『密接不可分』であるとは、例えば次に掲げる関係を指します。
・数日にわたらざるを得ない試験
・試験とその当日配布される説明書
・刊行物の初版と再版
・予稿集と学会発表
・学会発表とその後それに基づいて発行される講演要旨集
・同一学会の巡回的講演
・博覧会出品と博覧会の出品カタログ
・出版社ホームページ上での論文の先行発表とその後発行された論文雑誌
での同一論文の発表
・大学が開催する卒業研究発表会での論文に基づく発表と卒業論文の図書
館への配架」

イ 「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」特許庁(平成23年9月、平成27年3月改訂)について
上記「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」には、以下の事項が記載されている。

(2A)第13ページ第1行?第30行
「4.公開された発明が複数存在する場合

権利者が発明を複数の異なる雑誌に掲載した場合など、権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在する場合において第2項の規定の適用を受けようとするときは、それぞれの公開された発明について第2項の規定の適用を受けるための手続([2.]の(a)?(c)、以下『手続』といいます。)をする必要があります。
ただし、上記複数存在する発明のうち、手続を行った発明の公開以降に公開された発明であって、以下の1.又は2.の条件を満たすものについては、『証明する書面』の提出を省略することができます。
【条件】
1.手続を行った発明と同一であるか又は同一とみなすことができ、かつ、
手続を行った発明の公開行為と密接に関連する公開行為によって公開され
た発明
2.手続を行った発明と同一であるか又は同一とみなすことができ、かつ、
権利者又は権利者が公開を依頼した者のいずれでもない者によって公開さ
れた発明

例えば、権利者の行為に起因して公開された発明同士が、以下のような関係にあるときには、先に公開された発明について手続を行っていれば、その発明の公開以降に公開された発明については、『証明する書面』の提出を省略することができます。

・権利者が同一学会の巡回的講演で同一内容の講演を複数回行った場合にお
ける、最初の講演によって公開された発明と、2回目以降の講演によって
公開された発明
・出版社ウェブサイトに論文が先行掲載され、その後、その出版社発行の雑
誌にその論文が掲載された場合における、ウェブサイトに掲載された発明
と雑誌に掲載された発明
・学会発表によって公開された発明と、その後の、学会発表内容の概略を記
載した講演要旨集の発行によって公開された発明
・権利者が同一の取引先へ同一の商品を複数回納品した場合における、初回
の納品によって公開された発明と、2回目以降の納品によって公開された
発明
・テレビ・ラジオ等での放送によって公開された発明と、その放送の再放送
によって公開された発明
・権利者が商品を販売したことによって公開された発明と、その商品を入手
した第三者がウェブサイトにその商品を掲載したことによって公開された
発明
・権利者が記者会見したことによって公開された発明と、その記者会見内容
が新聞に掲載されたことによって公開された発明」

(5)「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」の「Q2-a 発明を複数回公開した場合は発明の新規性喪失の例外規定を受けることができますか?」の項目の「複数回の公開がなされた場合であっても、発明の新規性喪失の例外規定の適用対象である公開については、それぞれ特許法第30条第4項に規定された証明がなされれば、適用を受けることができます。・・・一の公開と密接不可分の関係にある他の公開については、両者とも発明の新規性喪失の例外規定の適用対象の公開である限りにおいて、最先の一の公開について『証明する書面』を提出すれば、他の公開については、『証明する書面』の提出を省略することができます。」という記載(記載事項(1B))を参照すると、複数回の公開についてそれぞれ特許法第30条第4項に規定された証明がなされることを原則として、一の公開と密接不可分の関係にある他の公開について「証明する書面」の提出を省略することができる旨が記載されている。
しかしながら、上記3、上記(2)で述べたとおり、本件証明書に記載されたシンポジウムにおける公開行為と、引用文献1の公開行為とが、実質的に同一とみることができるような密接に関連するものであるということはできないし、「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」の「Q2-a 発明を複数回公開した場合は発明の新規性喪失の例外規定を受けることができますか?」の項目の「『密接不可分』であるとは、例えば次に掲げる関係・・・数日にわたらざるを得ない試験・・・試験とその当日配布される説明書・・・刊行物の初版と再版・・・予稿集と学会発表・・・学会発表とその後それに基づいて発行される講演要旨集・・・同一学会の巡回的講演・・・博覧会出品と博覧会の出品カタログ・・・出版社ホームページ上での論文の先行発表とその後発行された論文雑誌での同一論文の発表・・・大学が開催する卒業研究発表会での論文に基づく発表と卒業論文の図書館への配架」という記載(記載事項(1B))を参照しても、掲げられた関係のいずれにも該当しない。

(6)さらに、「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」の表紙裏に「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続を行なう際には、『手引き』とともに、『Q&A集』も必要に応じて参照してください。」(記載事項(1A))と記載されているところ、「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」についても参照すると、「権利者が発明を複数の異なる雑誌に掲載した場合など、権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在する場合において第2項の規定の適用を受けようとするときは、それぞれの公開された発明について第2項の規定の適用を受けるための手続・・・をする必要があります。・・・ただし、上記複数存在する発明のうち、手続を行った発明の公開以降に公開された発明であって、以下の1.又は2.の条件を満たすものについては、『証明する書面』の提出を省略することができます。・・・1.手続を行った発明と同一であるか又は同一とみなすことができ、かつ、手続を行った発明の公開行為と密接に関連する公開行為によって公開された発明 2.手続を行った発明と同一であるか又は同一とみなすことができ、かつ、権利者又は権利者が公開を依頼した者のいずれでもない者によって公開された発明」(記載事項2A)と記載されており、これは「発明の新規性喪失の例外規定についてのQ&A集」における記載と同旨といえる。
そうすると、上記3、上記(2)、(5)で述べたとおり、本件証明書に記載されたシンポジウムにおける公開行為と、引用文献1の公開行為とが、実質的に同一とみることができるような密接に関連するものであるということはできないし、さらにまた、上記「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための出願人の手引き」の「例えば、権利者の行為に起因して公開された発明同士が、以下のような関係にあるときには、先に公開された発明について手続を行っていれば、その発明の公開以降に公開された発明については、『証明する書面』の提出を省略することができます。・・・権利者が同一学会の巡回的講演で同一内容の講演を複数回行った場合における、最初の講演によって公開された発明と、2回目以降の講演によって公開された発明・・・出版社ウェブサイトに論文が先行掲載され、その後、その出版社発行の雑誌にその論文が掲載された場合における、ウェブサイトに掲載された発明と雑誌に掲載された発明・・・学会発表によって公開された発明と、その後の、学会発表内容の概略を記載した講演要旨集の発行によって公開された発明・・・権利者が同一の取引先へ同一の商品を複数回納品した場合における、初回の納品によって公開された発明と、2回目以降の納品によって公開された発明・・・テレビ・ラジオ等での放送によって公開された発明と、その放送の再放送によって公開された発明・・・権利者が商品を販売したことによって公開された発明と、その商品を入手した第三者がウェブサイトにその商品を掲載したことによって公開された発明・・・権利者が記者会見したことによって公開された発明と、その記者会見内容が新聞に掲載されたことによって公開された発明」という記載(記載事項2A)を参照しても、掲げられた関係のいずれにも該当しない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

5 小括
以上によれば、引用文献1に係る公開行為について、本件証明書に記載されたものとみることはできないから、本願は、引用文献1に記載された発明について、特許法第30条第2項の適用を受けるものとはいえない。

第5 引用文献及び各引用文献の記載事項等
1 引用文献1に記載された事項及び発明
当審拒絶理由に引用文献1として示され、本願の出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった水谷圭介、博士論文「チップ船の風波浪中抵抗低減とレスバラスト化に関する研究開発」、大阪府立大学、2015年7月3日掲載、特に第9頁、第18頁、第31頁?第46頁<URL:http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/bitstream/10466/14536/1/2014900097.pdf>(以下、当審拒絶理由と同様に「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)第31頁第7行?第34頁
「2.5.1 船首防風カバーによる風圧抵抗低減

正面向い風での風圧抵抗を低減するべく、Fig. 2.27に示すように船首ブルワークを延長するような形で最船首部のホッパーに直接風が当たらないよう防風カバーを設置する。また、2.3節で示した通り、正面向い風を受ける場合、スポンソン部に発生するスタグネーション圧力により、抗力が増加することがわかっているので、船首カバーを設置するのに加えて、スポンソンをなくした船体形状も検討することとした。


正面向かい風を受ける場合についてFig. 2.28に示す座標系でCFD計算を行った結果得られた居住区、船首カバーを含む船体、デッキクレーン、ホッパーおよびハッチカバーそれぞれに働く抗力の成分をTable 2.6およびFig. 2.29に示す。

・・・

Table 2.6およびFig. 2.29から、船首防風カバー設置の効果により、スポンソンを有する場合でホッパーに作用する風圧抵抗が41.5%低減され、ハッチカバーに作用する風圧抵抗がほぼ消失していることが分かる。船首防風カバー自体が抵抗となり、船体に作用する風圧抵抗は約7%増加するが、Fig. 2.30に示す動圧力分布からわかるように、船首防風カバーによって風が遮蔽されて最船首部のホッパーとハッチカバーが低い圧力に覆いつくされるため、Fig. 2.31に示す静圧分布のようにそれら艤装品が受ける抵抗が低減した効果の方が大きく、全体(居住区+船体+艤装品)では約11%の風圧抵抗低減効果が得られた。
スポンソンがない場合は、Fig. 2.32に示す圧力分布からわかるように、スポンソン部の空気のよどみがないため、スポンソンを有する場合に比べて上甲板上の領域の動圧が高くなり、船首防風カバー設置によるホッパーの風圧抵抗低減効果が27.6%に目減りする。しかしながら、スポンソン部におけるスタグネーション圧力はなく、船体に作用する風圧抵抗は約2%減少するため、全体(居住区+船体+艤装品)ではスポンソンを有する場合と同様に、船首防風カバー設置により約11%の風圧抵抗低減効果が得られた。

・・・



(1b)第38頁第1行?第39頁
「2.5.2 防風サイドガードによる風圧抵抗低減

前項で示した船首防風カバーに加え、さらに風向角20°の斜め風に対する風圧抵抗を低減するべく、Fig. 2.36に示すようにカーゴホールド部のガンネル付近に横風に対する防風サイドガードを設置して上甲板上の各艤装品に働く風圧抵抗を緩和することを考える。


この防風サイドガードはFig. 2.37に示すような4種類の形状および寸法をもつものとし、4ケースそれぞれの防風サイドガードを設置したチップ船が20°の斜め風を受ける場合についてCFD計算を行った結果得られた風圧抵抗係数の比較を、横軸に防風サイドガードの高さ比h/h1をとりFig. 2.38に示す。ここにh1はFig. 2.37(b)に示すinclined plate1の高さを表し、ハッチカバーと同程度の高さである。なお、船体はいずれも船首防風カバーおよびスポンソンを有する場合で計算を実施している。
20°の斜め風に対し、船首防風カバーと丸型防風サイドガードを設置した場合、全体(居住区+船体+艤装品)で13%の風圧抵抗低減効果が得られているが、防風サイドガードのサイズを極端に大きくしなくても、その形状を平板とし、その延長線上におよそデッキクレーン頂部のある角度で斜板を設置すると風圧抵抗低減効果が22%まで増すことがFig. 2.38からわかる。これは、Fig. 2.39に示すy=0の断面における流速ベクトル分布からわかるように、防風サイドガードの形状に沿って流れる風が、丸型ガードの場合にはその一部が下方へ流れ込んでホッパーに当たることになるが、斜板型の場合には板の傾斜に沿って上方へ素直に流れる風の量が増加し、Fig. 2.40に示す静圧分布のように複数個のホッパーが受ける抵抗が減少した影響が大きいからである。



(1c)第44頁第1行?第45頁末行
「2.5.3 風圧抵抗低減の評価

前項までに示したように、本研究にて提案した船首防風カバーおよび防風サイドガードは、正面向い風およびチップ船特有の風向角20°での風圧力低減に効果的であることがCFD計算からわかった。そこで、Fig. 2.44に示すように、防風付加物を設置して、かつ、抗力増加を招くスポンソンをなくした風圧抵抗低減型チップ船を対象とした全方位の風向きに対するCFD計算を行い、オリジナルの船型やギアレス船と比較評価することとした。
なお、防風サイドガードは、Fig. 2.37 (c)に示した斜板型(h=1.65h1)とし、計算条件をTable 2.7に示す。


CFD計算による船の前後方向の風圧抵抗係数Cxの比較をFig. 2.45に示す。比較対象の船首防風カバーのみ取り付けたチップ船とギアレス船の船首船体はスポンソンをなくした形状としている。同図から、防風付加物を設置することで上甲板上の荷役装置に働く風圧抵抗を低減したチップ船は、オリジナルの船型と比較して抵抗が小さく、逆に荷役装置を装備していることで助長される推力も小さくなっていることがわかる。その全体(居住区+船体+艤装品)の風圧抵抗係数は、正面向い風において21%、20°の斜め風においては40%低減されている。
また、風圧抵抗低減型チップ船は、荷役装置を装備しながらもCxが正面向い風においてギアレス船と比較して24%小さい。これは、2.4章で示したようにギアレス船が正面風圧抵抗の全体に比して居住区に働く風圧抵抗が占める割合が大きいのに対して、居住区に当たる風の量が少ないチップ船において支配的な最船首部の艤装品(ホッパー)に働く風圧抵抗を船首防風カバーおよび同カバーと連続して隙間なく取り付けられた防風サイドガードによって効果的に低減できているからである。
20°の斜め風においては、前節でも触れたたように、斜板型の防風サイドガードが居住区の風圧抵抗低減にも寄与することから、ギアレス船と比較してもCxが14%小さくなっており、チップ船特有のピーク値をおさえることができている。さらに言えば、斜め追い風においては、荷役装置や防風付加物からギアレス船にはない推力が得られていることがわかる。


なお、チップ船に働く風圧抵抗の全抵抗(船体が水から受ける平水中抵抗を含む)に占める割合は無風時(自走分のみ正面風圧抵抗を受ける状態)で約4%程度であるが、この風圧抵抗低減型チップ船のバラスト状態における燃費削減効果をオリジナルの船型より21%改善されたCx値から求めると、無風時(船速は14knots)において約0.9%となる。また、正面から絶対風速5m/sの風を受ける場合、約2.5%の燃費改善が見込める。」

また、上記記載事項及び図示内容によれば、以下の事項が認められる。
(1d)引用文献1には、「前項までに示したように、本研究にて提案した船首防風カバーおよび防風サイドガード・・・Fig. 2.44に示すように、防風付加物を設置し・・・た風圧抵抗低減型チップ船・・・防風サイドガードは、Fig. 2.37 (c)に示した斜板型(h=1.65h1)とし・・・防風付加物を設置することで上甲板上の荷役装置に働く風圧抵抗を低減し・・・・・・船首防風カバーおよび同カバーと連続して隙間なく取り付けられた防風サイドガード・・・」という記載とともに、「Fig. 2.44 Computaional model of low wind resistance chip carrier with windbreak bow cover, with side guards and without sponson」という表題の図が示されている(記載事項(1c))ところ、かかる記載及び図示内容より、以下の事項が認定できる。
・風圧抵抗低減型チップ船には、船体の船首と船尾との間における上甲板上に複数の荷役装置が設置され、当該チップ船に船首防風カバーおよび防風サイドガードが防風付加物として設置されていること
・船体の側部に、防風サイドガードが、船体の船首に船首防風カバーが、それぞれ設置され、かつ、防風サイドガード及び船首防風カバーは連続して隙間なく取り付けられること
・防風サイドガードは、船体の船首近傍から船尾近傍の全域に亘って配設されること

(1e)記載事項(1c)では、「防風サイドガード」について、「防風サイドガードは、Fig. 2.37 (c)に示した斜板型(h=1.65h1)とし」と記載されているので、「防風サイドガードのサイズを極端に大きくしなくても、・・・その形状を平板とし、その延長線上におよそデッキクレーン頂部のある角度で斜板を設置する」という記載及びFig. 2.37 (c)の図示内容(記載事項(1b))を併せて参照すると、上記認定事項(1d)における、「防風サイドガード」については、以下の事項が認定できる。
・防風サイドガードは、平板であり、その延長線上におよそデッキクレーン頂部のある角度で斜板として設置されること
・防風サイドガードは、船体の側部に、その側部上縁に設置されること

(1f)記載事項(1c)では、「前項までに示したように、本研究にて提案した船首防風カバーおよび防風サイドガード」と記載されているので、「正面向い風での風圧抵抗を低減するべく、Fig. 2.27に示すように船首ブルワークを延長するような形で最船首部のホッパーに直接風が当たらないよう防風カバーを設置する。・・・Fig. 2.30に示す動圧力分布からわかるように、船首防風カバーによって風が遮蔽されて最船首部のホッパーとハッチカバーが低い圧力に覆いつくされる」という記載及びFig. 2.30の図示内容(記載事項(1a))を併せて参照すると、上記認定事項(1d)における、「船首防風カバー」については、以下の事項が認定できる。
・船首防風カバーは、最船首部のホッパーに直接風が当たらないよう、船首上縁から当該ホッパーの上方に向かう方向に伸びて船首を覆う部分曲面体状の外観を有すること

以上の記載事項(1a)?(1c)及び認定事項(1d)?(1f)を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明>
「船体の船首と船尾との間における上甲板上に複数の荷役装置が設置された風圧抵抗低減型チップ船の防風付加物であって、
防風付加物は、船首防風カバーおよび防風サイドガードであり、
船体の側部に、防風サイドガードが、船体の船首に船首防風カバーが、それぞれ設置され、かつ、防風サイドガード及び船首防風カバーは連続して隙間なく取り付けられ、
防風サイドガードは、船体の船首近傍から船尾近傍の全域に亘って配設され、
防風サイドガードは、平板であり、その延長線上におよそデッキクレーン頂部のある角度で斜板として設置され、
防風サイドガードは、船体の側部に、その側部上縁に設置され、
船首防風カバーは、最船首部のホッパーに直接風が当たらないよう、船首上縁から当該ホッパーの上方に向かう方向に伸びて船首を覆う部分曲面体状の外観を有する
防風付加物。」

2 引用文献3に記載された事項
当審拒絶理由に引用文献3として示され、本願の出願日前に頒布された特開2012-71696号公報(以下、当審拒絶理由と同様に「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(3a)「【0028】
最初に、第1の実施の形態の船舶と船舶の風圧抵抗減少方法について説明する。図1に示すように、本発明に係る第1の実施の形態の船舶1は、下部ポスト11、回転ポスト12、ジブ13、運転席14を有する、荷役クレーン10を備えている。この荷役クレーン10は、カーゴギアやデッキクレーンやジブクレーン等と呼ばれる。この荷役クレーン10は、図18?図20に示す荷役クレーン10Xと同様に、船体の甲板上に固定された下部ポスト11の上に回転ポスト12を搭載し、この回転ポスト12にジブ13と運転席14とワイヤ15を備えている。
【0029】
この荷役クレーン10の回転ポスト12は、その水平断面が四角形や八角形等の多角形(図1及び図2では八角形)に形成された角錐台形状に形成され、船体に固定されている下部ポスト11の上に回転可能に設置されている。この下部ポストには、メンテンスステージ11aが設けられている。また、回転ポスト12の側に設けたヒンジ部13aによりジブ13が取り付けられ、回転ポスト12のジブ13が取り付けられている側に、運転席(キャビン)14が設けられている。
【0030】
そして、ジブ13の先端を吊っているワイヤ(図1では図示せず)の繰り出しと繰りこみにより、ジブ13の迎角及び俯角を変化させると共に、吊りフック(図1では図示せず)を吊っているワイヤ(図1では図示せず)の繰り出しと繰りこみにより、この吊りフックを上下して荷役することができる。
【0031】
図1及び図2に示すように、船舶1の航行中に風上側、即ち、船首側となる側に、水平断面形状が円弧形状又は楕円弧形状又は流線形状である単数または複数で構成される風圧低減カバー20を付ける。
【0032】
この風圧低減カバー20は、回転ポスト12の高さ方向の範囲の30%以上100%以下の範囲を覆うことが好ましく、30%以下では風圧低減カバー20を付けることによる重量増加や工事費用などに比較して風圧抵抗低減効果が低い。なお、100%より小さい場合は、回転ポスト12の下方は風速は船体の甲板上の境界層の影響で小さくなり、風圧抵抗低減効果が少なくなるので、回転ポスト12の上端側をカバーする方が好ましい。また、下部ポスト11にも回転ポスト12と同様に風圧低減カバー20を付けてもよい。
【0033】
この風圧低減カバー20により、風の流れが滑らかになり、回転ポスト12の角部で発生する渦流が減少し、回転ポスト12の風圧抵抗が著しく減少するので、船舶1の全体としての抵抗を低減でき、燃費を改善できる。また、この単数または複数で構成される風圧低減カバー20は、メンテナンスステージ11aと干渉しないように配置されるので、荷役クレーン10の荷役作業の作業性を低下させることがない。」

第6 対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

1 引用発明の「船体」、「船首」、「船尾」及び「荷役装置」は、その意味、機能または構造からみて、本願発明1の「船体」、「船首」、「船尾」及び「荷役装置」にそれぞれ相当する。

2 引用発明の「荷役装置」は「風圧抵抗低減型チップ船」の「上甲板上」に設置されたものである。したがって、上記1を踏まえると、引用発明の「船体の船首と船尾との間における上甲板上に複数の荷役装置が設置された風圧抵抗低減型チップ船」は、本願発明1の「船体の船首と船尾との間における甲板上に複数の荷役装置が設置されてなる船舶」に相当する。

3 引用発明の「防風付加物」は、「チップ船」に設置することで「風圧抵抗低減」をするものであるから、本願発明1の「風圧抵抗低減装置」に相当する。

4 引用発明の「防風サイドガード」は、「船体の側部」の「上縁に」「設置され」ており、「その延長線上におよそデッキクレーン頂部のある角度」で「斜板」となっている「平板」よりなるものである。また、「船体の船首近傍から船尾近傍の全域に亘って配設され」るものである。
ここで、引用発明の「デッキクレーン」が「荷役装置」の一部をなすことは明らかであるから、引用発明の「防風サイドガード」が「その延長線上におよそデッキクレーン頂部のある角度」であることは、本願発明1の「前記荷役装置の上方に向かう方向に延びるように傾斜する」ことに相当する。
そうすると、引用発明の「船体の側部に、防風サイドガードが、船体の船首に船首防風カバーが、それぞれ設置され」、「防風サイドガードは、船体の船首近傍から船尾近傍の全域に亘って配設され、防風サイドガードは、平板であり、その延長線上におよそデッキクレーン頂部のある角度で斜板として設置され、防風サイドガードは、船体の側部に、その側部上縁に設置され」ることは、本願発明1の「前記船体の側部に、その側部上縁から前記荷役装置の上方に向かう方向に延びるように傾斜する平板状の傾斜面部を有する帯板状部材よりなる防風サイドガードを前記船体の船首近傍から船尾近傍の全域に亘って配設」することに相当する。

5 引用発明の「船首防風カバー」は、「最船首部のホッパーに直接風が当たらないよう、船首上縁から当該ホッパーの上方に向かう方向に伸びて船首を覆う部分曲面体状の外観を有する」ものであるが、「最船首部のホッパー」が荷役装置の一部をなすことは明らかである。
そうすると、引用発明の「最船首部のホッパーに直接風が当たらないよう、船首上縁から当該ホッパーの上方に向かう方向に伸びて船首を覆う部分曲面体状の外観を有する」「船首防風カバー」は、本願発明1の「その船首上縁から該船首に最も近い位置にある荷役装置の上方に向かう方向に延びて前記船首を覆う部分楕円体状の外観を有する船首防風ドーム」と、「その船首上縁から該船首に最も近い位置にある荷役装置の上方に向かう方向に延びて前記船首を覆う部分曲面体状の外観を有する船首防風ドーム」である限度で一致する。

6 上記4、5を踏まえると、引用発明の「防風サイドガード及び船首防風カバーは連続して隙間なく取り付けられ」ていることは、本願発明1の「船首防風ドームを前記防風サイドガードと連続するように配設すること」に相当する。

以上のことから、本願発明1と引用発明とは以下の点で一致し、また、以下の点で一応相違する。

<一致点>
「船体の船首と船尾との間における甲板上に複数の荷役装置が設置されてなる船舶の風圧抵抗低減装置であって、
前記船体の側部に、その側部上縁から前記荷役装置の上方に向かう方向に延びるように傾斜する平板状の傾斜面部を有する帯板状部材よりなる防風サイドガードを前記船体の船首近傍から船尾近傍の全域に亘って配設し、かつ、前記船体の船首に、その船首上縁から該船首に最も近い位置にある荷役装置の上方に向かう方向に延びて前記船首を覆う部分曲面体状の外観を有する船首防風ドームを前記防風サイドガードと連続するように配設する船舶の風圧抵抗低減装置。」

<相違点>
「船首防風カバー」の有する「部分曲面体」の外観に関し、
本願発明1は、「部分楕円体状」であるのに対し、
引用発明は、そのように特定されていない点。

第7 判断
以下、相違点について検討する。

引用文献1には「船首防風カバー」の曲面がどのような形状であるのか記載されていないが、Fig. 2.27、Fig. 2.31(記載事項(1a))、Fig. 2.44(記載事項(1c))の図示内容等から、「船首防風カバー」が略楕円体状の外観を呈することが読み取れる。そうすると、引用発明における「船首防風カバー」は「部分楕円体状」の外観とも理解し得るから、「船首防風カバー」の外観が「部分楕円体状」である点は実質的な相違点とはいえない。
また、仮に上記相違点が実質的な相違点であるとしても、引用文献3の段落【0031】?【0033】に「船舶1の航行中に風上側、即ち、船首側となる側に、水平断面形状が円弧形状又は楕円弧形状又は流線形状である単数または複数で構成される風圧低減カバー20を付ける。・・・この風圧低減カバー20により、風の流れが滑らかになり、・・・回転ポスト12の風圧抵抗が著しく減少する」(記載事項(3a))と記載されているように、風圧抵抗を低減するために外観の水平断面を楕円形状とすることは、周知の技術的事項であるといえるから、「船首防風カバー」の曲面の形状が具体的に特定されていない引用発明において、船舶の技術分野における風圧抵抗を低減するカバーを設ける点で軌を一にする引用文献3の記載を参考とし、「船首防風カバー」を「部分楕円体状」の外観とすることは、当業者にとって格別困難なこととはいえない。

以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明、すなわち、引用文献1に記載された発明であるといえ、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
あるいは、本願発明1は、引用文献1に記載された発明(引用発明)及び引用文献3に記載された技術的事項(周知の技術的事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明、すなわち、引用文献1に記載された発明であるといえ、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
あるいは、本願発明1は、引用文献1に記載された発明(引用発明)及び引用文献3に記載された技術的事項(周知慣用の技術的事項)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-06-25 
結審通知日 2018-06-26 
審決日 2018-07-09 
出願番号 特願2015-147397(P2015-147397)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (B63B)
P 1 8・ 121- WZ (B63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畔津 圭介前原 義明杉田 隼一  
特許庁審判長 氏原 康宏
特許庁審判官 中田 善邦
出口 昌哉
発明の名称 船舶の風圧抵抗低減装置およびそれを備える船舶  
代理人 井上 勉  
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