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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63B
管理番号 1343678
審判番号 不服2017-14364  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-28 
確定日 2018-09-25 
事件の表示 特願2013- 72720「ゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月16日出願公開、特開2014-195564、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年3月29日の出願であって、平成28年12月19日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年2月23日付けで手続補正がされ、同年6月30日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がされ、平成30年5月8日付けで拒絶理由通知がされ、同年7月2日付けで手続補正がされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1乃至8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」乃至「本願発明8」という。)は、平成30年7月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至8に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層以上のカバーとを有するゴルフボールであって、
前記球状コアが、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩、架橋開始剤として(c)有機過酸化物および(d)芳香族カルボン酸および/またはその塩を含有し、前記(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸のみを含有する場合には、さらに(e)金属化合物を含有し、
前記架橋開始剤として、前記(c)有機過酸化物のみを配合し、
前記(c)有機過酸化物が、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3であるゴム組成物から形成されていることを特徴とするゴルフボール。」

なお、本願発明2乃至8の概要は以下のとおりである。
本願発明2は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明3は、本願発明1または2を減縮した発明である。
本願発明4は、本願発明1?3のいずれかを減縮した発明である。
本願発明5は、本願発明4を減縮した発明である。
本願発明6は、本願発明4または5を減縮した発明である。
本願発明7は、本願発明1?6のいずれかを減縮した発明である。
本願発明8は、本願発明1?7のいずれかを減縮した発明である。


第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前の平成24年7月26日に頒布された引用文献1(特開2012-139416号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同じ。)
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーとを有するゴルフボールであって、球状コアの半径を12.5%間隔で等分した9点で測定したJIS-C硬度を、コア中心からの距離(%)に対してプロットしたときに、最小二乗法によって求めた線形近似曲線のR2が0.95以上であり、コア表面硬度とコア中心硬度との硬度差が、JIS-C硬度で15以上であることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
前記球状コアは、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩、(c)架橋開始剤、(d)カルボン酸および/またはその塩を含有し、(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸のみを含有する場合には、さらに(f)金属化合物を含有するゴム組成物から形成されている請求項1に記載のゴルフボール。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行性能に優れたゴルフボールに関するものであり、より詳細には、ゴルフボールのコアの改良に関するものである。」
(3)「【0023】
次に、上記のように測定されたJIS-C硬度を縦軸とし、コア中心からの距離(%)を横軸として、測定結果をプロットしてグラフを作成する。本発明では、このプロットから最小二乗法により求めた線形近似曲線のR2が、0.95以上である。最小二乗法によって求めた線形近似曲線のR2は、得られたプロットの直線性を指標するものである。本発明において、R2が0.95以上であれば、球状コアの硬度分布が略直線であることを意味する。硬度分布が略直線状である球状コアを用いたゴルフボールは、ドライバーショットのスピン量が低下する。その結果、ドライバーショットの飛距離が大きくなる。前記線形近似曲線のR2は、0.96以上がより好ましい。直線性が高まることによって、ドライバーショットの飛距離がより大きくなる。」
(4)「【0046】
(c)架橋開始剤は、(a)基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。(c)架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。前記有機過酸化物は、具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t?ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。」
(5)「【0049】
(d)前記カルボン酸は、炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩とカチオン成分を交換できるものであれば、脂肪族カルボン酸(本発明において、単に「脂肪酸」と称する場合がある)または芳香族カルボン酸のいずれであってもよい。前記カルボン酸としては、炭素数が4?30のカルボン酸が好ましく、炭素数が9?30のカルボン酸がより好ましく、炭素数が14?28のカルボン酸がさらに好ましい。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーとを有するゴルフボールであって、
前記球状コアは、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩、(c)架橋開始剤、(d)芳香族カルボン酸および/またはその塩を含有し、(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸のみを含有する場合には、さらに(f)金属化合物を含有するゴム組成物から形成され、
(c)架橋開始剤として、有機過酸化物である2,5-ジメチル-2,5-ジ(t?ブチルパーオキシ)ヘキサン単独を用いた、ゴルフボール。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前の2006年7月27日に頒布された引用文献2(米国特許出願公開第2006/0166761号)には、図面とともに次の事項が記載されている。(なお、括弧内の訳文は、当審が作成した。)
(1)「[0002] 1. Field of the Invention
[0003] The present invention relates generally to compositions for use in making golf ball cores. In particular, the invention relates to such golf ball cores having a difference in hardness between the core's outer surface and the core's center point. The present invention also relates to methods for manufacturing these golf ball cores.」
(1. 発明の分野
本発明は、一般にゴルフボールコアを製造するのに使用するための組成物に関する。特に、本発明は、コアの外側の表面及びコアの中心との硬度差を有するそのようなゴルフボールコアに関するものである。本発明はまた、これらのゴルフボールコアを製造するための方法に関する。)
(2)「[0058] The golf ball cores 12 of the present invention incorporate a composition that includes an unsaturated polymer and a peptizer. The golf ball composition can also include an accelerator. The core compositions can be cured by a single organic peroxide or a mixture of organic peroxides having different activation temperatures. The composition of the unsaturated polymer, with the peptizer, and with or without the accelerator, allows for the adjustment of the difference in hardness and specific gravity between the golf ball core's center point 16 and outer surface 14 during manufacturing, while providing for increased C.O.R. and compression. The present invention also resides in methods of manufacture for the golf ball cores. These golf ball cores are easy to prepare, and they can tailored to meet a wide range of specifications and preferred performance.」
(本発明のゴルフボールのコア12は、不飽和重合体およびペプタイザを含む組成物を含む。ゴルフボール組成物は、促進剤を含むことができる。コア組成物は、単一の有機過酸化物又は異なる活性化温度を有する有機過酸化物の混合物により硬化させることができる。不飽和ポリマーの組成物は、ペプタイザと、促進剤の有無にかかわらず、製造中にゴルフボールコアの中心点16と外面14との間の硬度と比重の差を、C.O.R.を増加および圧縮をしながら調整することを可能にする。本発明は、また、ゴルフボールコアを製造する方法を提供する。これらのゴルフボールコアを調製するのが容易であり、それらは仕様および好ましい性能の広い範囲に適合するようにあつらえることができる。)
(3)「[0066] Both homolytically and heterolytically decomposed peroxide can be used in the golf ball cores 12 of the present invention. Non-limiting examples of suitable peroxides include: diacetyl peroxide; di-tert-butyl peroxide; dibenzoyl peroxide; dicumyl peroxide; 2,5-dimethyl-2,5-di(benzoylperoxy)hexane; 1,4-bis-(t-butylperoxyisopropyl)benzene, t-butylperoxybenzoate; 2,5-dimethyl-2,5-di-(t-butylperoxy)hexyne-3; 1,1-bis(t-butylperoxy)-3,3,5 tri-methylcyclohexane, such as Varox 231-XL, marketed by R.T. Vanderbilt Co., Inc. of Norwalk, Conn.; di-(2,4-dichlorobenzoyl)peroxide; and mixtures thereof. The cross-linking agent can be blended in amounts greater than about 0.1 part per hundred of the cross-linking agent per 100 parts by weight of the unsaturated polymer.」
(均質分解した過酸化物及び異質分解した過酸化物の両方を本発明のゴルフボールのコア12に使用することができる。適当な過酸化物の非限定的な例としてはジアセチルペルオキシド;ジ-tert-ブチルペルオキシド;ジベンゾイルペルオキシド;ジクミルペルオキシド;2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン;1,4-ビス-(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、t-ブチルペルオキシベンゾエート;2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3;コネチカット州ノーウォークのR.T. Vanderbilt社から市場に出されているバロックス231XLのような1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5トリメチルシクロヘキサン;ジ-(2,4-ジクロロベンゾイル)ペルオキシド;及びこれらの混合物がある。架橋剤は、不飽和ポリマー100重量部当たり、架橋剤の100部当たり約0.1pph以上の量で配合することができる。)
(4)「[0116] Twelve batches of golf ball cores 12 having diameters of 1.48 inches or 1.58 inches, and suitable for use in golf balls 10 within the scope of the present invention, were prepared and tested for C.O.R.; compression (“C.C.”); and Shore D hardness and specific gravity, which were measured at the core's outer surface 14 and the core's center point 16 . The cores each incorporated 100 parts per hundred (“pph”) of BR40, which is manufactured by Enichem of Rome, Italy; either 24.3 pph or 21.8 pph of ZnO; either 33.5 pph or 34.8 pph of SR638, which is manufactured by Sartomer Company; 0.61 pph of Varox 231XL, which is manufactured by R.T. Vanderbilt Company of Norwalk, Conn.; and 0.17 pph of Trigonox 145-45B, which is manufactured by Akzr Nobel Chemicals of Arnhem, Netherlands. The core compositions also include either 1 pph or 0.8 pph of NH_(4)PCTP. Detailed composition information for the twelve cores is provided in Table 1a below.



(直径が1.48インチまたは1.58インチであり、本発明の範囲内のゴルフボール10に使用するのに適したゴルフボールコア12の12バッチを調整し、、C.O.R:圧縮(“C.C.”);および、コアの外表面14とコアの中心点16で測定されたショアD硬度、および比重、について試験した。これらのコアは、イタリア、ローマのEnichem社により製造されるBR40を100pph(重量部)、ZnOを24.3pphか21.8pph;Sartomer社により製造されるSR638を33.5pphか34.8pph、コネチカット州ノーウォークのR.T. Vanderbilt社により製造されるバロックス231XLを0.61pph、オランダのアーネムのAkzr Nobel Chemicals社により製造されるTrigonox 145-45bを0.17pph、を含む。コア組成物はまたNH_(4)PCTPを1pphか0.8pph含む。12のコアの詳細な組成情報は以下の表1aに提供される。)
(5)「What is claimed is:
1 . A golf ball comprising:
a. a golf ball core including:
i. a center point having a first hardness value, and
ii. an outer surface having a second hardness value, different from the first hardness value,
iii. wherein a gradient in hardness value between the first hardness value and the second hardness value across a radius of the golf ball core occurs in discrete increments,
iv. and wherein regions of the golf ball core having discrete hardness values are arranged concentrically about the center point; and
b. one or more layers enclosing the golf ball core.

6 . The golf ball according to claim 1 , wherein the golf ball core comprises an unsaturated polymer and a peptizer.

8 . The golf ball according to claim 6 , wherein the golf ball core further comprises a cross-linking agent selected from the group consisting of diacetyl peroxide, di-tert-butyl peroxide, dibenzoyl peroxide, dicumyl peroxide, 2,5-dimethyl-2,5-di-(benzoylperoxy)hexane, 1,4-bis-(t-butylperoxyisopropyl)benzene, t-butylperoxybenzoate, 2,5-dimethyl-2,5-di-(t-butylperoxy)hexyne-3, 1,1-bis-(t-butylperoxy)-3,3,5-trimethylcyclohexane, di-(2,4-dichlorobenzoyl)peroxide, and mixtures thereof.
9 . The golf ball according to claim 8 , wherein the cross-linking agent is a mixture of organic peroxides, with each organic peroxide having a different activation temperature.」
(1. ゴルフボールであって、
a.ゴルフボールコアであって、
i. 第1の硬度値を有する中心点と、
ii. 前記第1の硬度値と異なる第2の硬度を備える外表面と、
iii. 前記ゴルフボールコアの半径にわたる前記第1の硬度値と前記第2の硬度値との間の硬度値の勾配が離散的増分で発生し、
iv. 離散的な硬度値を有するゴルフボールコアの領域が中心点の周りに同心円状に配置され、そして、
a. 1つ以上の層がゴルフボールコアを囲んでいる。

6. ゴルフボールのコアは、不飽和重合体およびペプタイザを含むことを特徴とする、請求項1に記載のゴルフボール。

8. ゴルフボールコアは、さらに、ジアセチルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、1,4-ビス-(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,1-ビス-(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、ジ-(2,4-ジクロロベンゾイル)ペルオキシド、およびそれらの混合物からなる群から選択される架橋剤を含むことを特徴とする、請求項6に記載のゴルフボール。
9. 架橋剤は、有機過酸化物の混合物であり、各有機過酸化物が異なる活性化温度を有することを特徴とする、請求項8に記載のゴルフボール。)

したがって、上記引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「ゴルフボールであって、
a.ゴルフボールコアであって、
i. 第1の硬度値を有する中心点と、
ii. 前記第1の硬度値と異なる第2の硬度を備える外表面と、
iii. 前記ゴルフボールコアの半径にわたる前記第1の硬度値と前記第2の硬度値との間の硬度値の勾配が離散的増分で発生し、
iv. 離散的な硬度値を有するゴルフボールコアの領域が中心点の周りに同心円状に配置され、そして、
b. 1つ以上の層がゴルフボールコアを囲んでおり、
ゴルフボールのコアは、不飽和重合体およびペプタイザを含み、
2,5-ジメチル-2,5-ジ-(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3からなる架橋剤を含み、架橋剤は、有機過酸化物の混合物である、ゴルフボール。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前の平成24年6月14日に頒布された引用文献3(特開2012-110697号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)?(E)成分、
(A)シス-1,4-結合を60質量%以上含有するポリブタジエンを含む基材ゴム、
(B)不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(C)有機硫黄化合物、
(D)パーオキシケタール及び/又はジアルキルパーオキサイドよりなる群から選択された1種又は2種以上の有機過酸化物、
(E)ハイドロパーオキサイドよりなる群から選択された1種又は2種以上の有機過酸化物
を含有するゴム組成物の架橋成形物を構成要素とし、その架橋成形物の表面硬度から中心硬度を引いた値がJIS-C硬度で20以上であることを特徴とするゴルフボール。

【請求項3】
上記(D)成分のジアルキルパーオキサイドが、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3よりなる群から選択された1種又は2種以上である請求項1又は2記載のゴルフボール。」
(2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ソリッドゴルフボールに関するものであり、更に詳述すると、ドライバー打撃時におけるスピン量を低減させ、飛距離の向上を図ったゴルフボールに関する。」
(3)「【0027】
次に、上記ジアルキルパーオキサイドとしては、例えば、ジ(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3等を挙げることができ、特にジクミルパーオキサイドを好適に用いることができる。これらは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよく、更には、上記のパーオキシケタールと組み合わせて配合することもできる。」
(4)「【0030】
(E)成分は、ハイドロパーオキサイドから選択された1種又は2種以上の有機過酸化物であり、上記(D)成分と同様に、ゴム組成物の架橋剤として配合されるものである。なお、この(E)成分は、これまでゴム用の架橋剤としては使用されていなかったものである。本発明において、この(E)成分は、上記(C)成分や(D)成分と組み合わせて配合されることにより、架橋成形物の表面硬度から中心硬度を引いた値をJIS-C硬度で20以上とする効果が得られる。」

したがって、上記引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。


「下記(A)?(E)成分、
(A)シス-1,4-結合を60質量%以上含有するポリブタジエンを含む基材ゴム、
(B)不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩、
(C)有機硫黄化合物、
(D)パーオキシケタール及び/又はジアルキルパーオキサイドよりなる群から選択された1種又は2種以上の有機過酸化物、
(E)ハイドロパーオキサイドよりなる群から選択された1種又は2種以上の有機過酸化物を含有するゴム組成物の架橋成形物を構成要素とし、その架橋成形物の表面硬度から中心硬度を引いた値がJIS-C硬度で20以上であるゴルフボールであって、
上記(D)成分のジアルキルパーオキサイドが、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3であるゴルフボール。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願日前の平成16年12月16日に頒布された引用文献4(特開2004-350953号公報)には、次の事項が記載されている。
(1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆するカバーとを有するゴルフボールにおいて、
前記ソリッドコアは、有機過酸化物を熱可塑性樹脂で被覆したマイクロカプセルとして配合されたゴム組成物であることを特徴とするゴルフボール。」
(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はソリッドゴルフボール、特に均一性、反発性能および耐久性に優れたソリッドゴルフボール、さらにその製造方法に関する。」
(3)「【0056】
【実施例】
(1) マイクロカプセルの製造
ポリプロピレン(軟化点160℃)5gをトリクロロベンゼン50mlに溶解した溶液に、表2に示す有機過酸化物の20wt%水溶液を100g加え、30分間攪拌し乳化を行
なった。乳化状態は(W/O)型エマルジョンであった。得られたエマルジョンを、PVAの4wt%水溶液の1リットル中に攪拌しながら添加し、〔(W/O)/W〕型複合エマルジョンとした。系の温度を40℃まで徐々に昇温させ、トリクロロベンゼンを蒸発させた後、55℃で1時間攪拌し、膜材を硬化させてマイクロカプセルを得た。マイクロカプセル中の有機過酸化物の含有量は80質量%であった。
【0057】
【表2】

【0058】
注1:「パークミルD」は、日本油脂社製のジクミルパーオキサイドである。
注2:「パーヘキサ3M」は、日本油脂社製の1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンである。
注3:「パーヘキシン25B」は、日本油脂社製の2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)へキシン-3である。
【0059】
(2) ソリッドコアの作製
表3に示すゴム組成物をニーダーおよびロールを用いて混練し、160℃で20分間、加熱加圧成形し、表3に示すコア径のソリッドコアを作製した。混練時はゴム組成物の温度が100℃を超えないように温度を制御した。
【0060】
【表3】

【0061】
注4:「BR-11」は、JSR社製のポリブタジエンゴムであり、シス-1,4結合の含有量は96%である。
注5:アクリル酸亜鉛は、日本触媒社製の「ZNDA-90S」である。
注6:酸化亜鉛は、東邦亜鉛社製である。
注7:硫酸バリウムは、堺化学工業社製の「バリコ♯100」である。」
(4)上記(3)より、実施例3のコアは、シス-1,4結合の含有量は96%であるポリブタジエンゴム、アクリル酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸バリウム、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)へキシン-3、ジクミルパーオキサイド、カプセル化有機過酸化物からなるものである。

したがって、上記引用文献4には次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「ソリッドコアと、該ソリッドコアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、
コアは、シス-1,4結合の含有量は96%であるポリブタジエンゴム、アクリル酸亜鉛、酸化亜鉛、硫酸バリウム、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)へキシン-3、ジクミルパーオキサイド、カプセル化有機過酸化物からなるものである、ゴルフボール。」


第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、
後者の「球状コア」、「球状コアを被覆する少なくとも一層のカバー」、「ゴルフボール」、「(a)基材ゴム」、「(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩」、「(c)架橋開始剤として、有機過酸化物」、「(d)芳香族カルボン酸および/またはその塩」は、それぞれ、前者の「球状コア」、「球状コアを被覆する少なくとも一層以上のカバー」、「ゴルフボール」、「(a)基材ゴム」、「(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩」、「架橋開始剤として(c)有機過酸化物」、「(d)芳香族カルボン酸および/またはその塩」に相当する。
後者の「(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸のみを含有する場合には、さらに(f)金属化合物を含有する」は、前者の「(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸のみを含有する場合には、さらに(e)金属化合物を含有し」に相当する。
後者の「(c)架橋開始剤」として、「有機過酸化物である2,5-ジメチル-2,5-ジ(t?ブチルパーオキシ)ヘキサン単独を用いた」ものは、前者の「架橋開始剤として、前記(c)有機過酸化物のみを配合し」たものに相当する。

したがって、両者は、
「球状コアと前記球状コアを被覆する少なくとも一層以上のカバーとを有するゴルフボールであって、
前記球状コアが、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸および/またはその金属塩、架橋開始剤として(c)有機過酸化物および(d)芳香族カルボン酸および/またはその塩を含有し、前記(b)共架橋剤として炭素数が3?8個のα,β-不飽和カルボン酸のみを含有する場合には、さらに(e)金属化合物を含有し、
前記架橋開始剤として、前記(c)有機過酸化物のみを配合した、ゴルフボール。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
本願発明1が、(c)有機過酸化物が、「2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3であるゴム組成物から形成されている」ものであるのに対し、引用発明1は、有機過酸化物である2,5-ジメチル-2,5-ジ(t?ブチルパーオキシ)ヘキサンである点。

(2)判断
1.本願発明1について
上記相違点について検討する。
引用発明2乃至4にはいずれにも、ゴルフボールのコアに含有される2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3が記載されている。
しかしながら、引用発明1は、JIS-C硬度を縦軸とし、コア中心からの距離(%)を横軸として、測定結果をプロットして作成したグラフにおいて、プロットから最小二乗法により求めた線形近似曲線のR^(2)が、0.95以上とすることにより、直線性が高まり、ドライバーショットの飛距離がより大きくなることを特徴とするものである(【0023】参照。)。
他方、本願明細書には、架橋開始剤として、ジクミルパーオキサイドまたは2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3を用いた場合の球状コアの硬度分布について記載され、(d)成分として安息香酸、二安息香酸亜鉛、4-ジメチルアミノ安息香酸を含有し、架橋開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3を含有するゴルフボールNo.1?4は、線形近似曲線のR^(2)がそれぞれ0.92、0.87、0.90、0.93であって、いずれも0.95未満となっている。
そうすると、引用発明1において、架橋開始剤として2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3を使用した場合、球状コアの硬度分布は、線形近似曲線のR^(2)が0.95未満になる蓋然性が高く、球状コアの硬度分布の直線性を高めることを目的とする引用発明1に、引用発明2乃至4を組み合わせる動機付けはなく、むしろ、阻害要因があるといえる。

そして、本願発明1は、上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項により、「飛行性能に優れたゴルフボールを提供することができる。」(【0014】参照。)という作用効果を奏するものである。

したがって、本願発明1は、引用発明1乃至4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2.本願発明2乃至8について
本願発明2乃至8は、本願発明1の発明特定事項にさらなる発明特定事項を追加して限定を付したものであるから、上記「1. (2)」と同様の理由により、本願発明2乃至8が、引用発明1乃至4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、
「(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-10
・引用文献 1-4

<引用文献等一覧>
1.特開2012-139416号公報
2.米国特許出願公開第2006/0166761号明細書(周知技術を示す文
献)
3.特開2012-110697号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2004-350953号公報(周知技術を示す文献)」
というものである。

しかしながら、平成30年7月2日付け手続補正により、請求項1乃至8は、それぞれ「前記ゴム組成物が、前記架橋開始剤として、前記(c)有機過酸化物のみを配合し、」が「前記架橋開始剤として、前記(c)有機過酸化物のみを配合し、」という具合に、不明瞭な記載が削除されたものであって、平成30年7月2日付け手続補正は、実質的に請求項1乃至8の進歩性を左右する内容のものではない。
そうすると、上記第4のとおり、本願発明1乃至8は、上記引用発明1乃至4に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。


第6 当審拒絶理由について
当審では、
「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


請求項1の「前記ゴム組成物」に対応する事項が、請求項1に記載されていない。 」
との拒絶の理由を通知しているが、平成30年7月2日付けの補正において、上記指摘に対して、請求項1乃至8は、「前記架橋開始剤として、前記(c)有機過酸化物のみを配合し、」との補正がなされた結果、この拒絶の理由は解消した。


第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-10 
出願番号 特願2013-72720(P2013-72720)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A63B)
P 1 8・ 121- WY (A63B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大澤 元成  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 森次 顕
藤本 義仁
発明の名称 ゴルフボール  
代理人 二口 治  

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